JP2023549218A - MiR-375-およびmiR-1制御コクサッキーウイルスB3は膵毒性および心毒性を持たないが、結腸直腸癌において強い抗腫瘍効率を有する - Google Patents

MiR-375-およびmiR-1制御コクサッキーウイルスB3は膵毒性および心毒性を持たないが、結腸直腸癌において強い抗腫瘍効率を有する Download PDF

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Abstract

本発明は、コクサッキーウイルスB3(CVB3)のCVB3ゲノムRNA配列のcDNAと、組織特異的発現パターンを有する1つまたは複数のマイクロRNAに相補的な少なくとも1つまたは複数のマイクロRNA標的配列(miR-TS)とを含む、感染性相補的DNA(cDNA)構築物であって、少なくとも1つまたは複数のmiR-TSが、CVB3タンパク質コード配列の5’UTRおよび/または3’UTRに直接隣接して組み込まれていることを特徴とする、感染性cDNA構築物に関する。

Description

本発明は、医薬用途のための、コクサッキーウイルスB3(CVB3)Nancy株に由来する新規のmiR-375-およびmiR-1制御CVB3株に関する。
腫瘍溶解性ウイルス(OV)は、多くの異なるタイプのがんに対する新規の有効な治療法である。腫瘍溶解性ウイルスの抗腫瘍有効性は、2つの異なる密接に関連した機序、腫瘍細胞におけるウイルス複製の結果としての腫瘍細胞溶解の誘導、およびその後の段階の免疫原性腫瘍細胞死をもたらす細胞傷害性抗腫瘍免疫応答の誘導に起因する。腫瘍溶解活性はいくつかのDNAおよびRNAウイルスについて示されており、それらのうちの3つ、Rigvir(Donina et al. 2015)、Oncorine(Garber 2006)およびT-Vec(Andtbacka et al. 2015)異なる国で承認され、異なる種類のがんの腫瘍溶解治療として商業的に利用可能である。これら以外に、いくつかの他の科のウイルスが既に治験で調べられており、それらのいくつかは近い将来、臨床用途で承認される見込みである。
ピコルナウイルスは、哺乳動物の様々な疾患におけるその重要性により最もよく調べられているウイルスの一つである。腫瘍溶解性ウイルス療法の近年の発達のため、これらのウイルスはがん治療の強力なツールとして利用されている。ピコルナウイルス科(Picornaviridae)のいくつかのメンバーは、前臨床試験および臨床試験で腫瘍溶解活性について評価が行われてきた。それらのうち、セネカバレーウイルス(Seneca Valley virus)、タイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(Theiler's murine encephalomyelitis virus)およびメンゴウイルスは前臨床試験で分析されている。改変された腫瘍溶解性ポリオウイルスPVSRIPOおよびコクサッキーウイルス(CV)A21は、治験で広範にテストされている。ピコルナウイルスは、がん療法での使用にいくつかの利点を有する。特に、その小さなサイズ、急速な複製(6~8時間以内)、多数の子孫、および強い免疫応答の誘導は全てがん療法に有益である。さらに、ピコルナウイルスは、<10kbの比較的小さなRNAゲノムを有し、インビトロで転写し、改変しやすい感染性cDNAクローンの生成に使用することができる。一本鎖RNAウイルスであるコクサッキーウイルスグループB血清型3型(CVB3)はピコルナウイルス科のメンバーであり、いくつかのマウス腫瘍モデルにおいてインビボでヒト肺、子宮内膜および結腸直腸癌の強力な腫瘍溶解活性を有することが近年示されている(例えば(Miyamoto et al. 2012;Hazini et al. 2018)。したがって、CVB3は、多くの異なるタイプのがんに対する可能性のある新規の有効な治療法の有望な候補となる。CVB3は、5’非翻訳領域(UTR)とそれに続く単シストロン性ポリタンパク質および3’UTRをコードする領域からなる、一本鎖ポジティブセンス7.4kb長のRNAゲノムを有する(Fechner et al. 2011)。
CVB3のような腫瘍溶解性ウイルス(OV)は、正常な細胞を傷つけることなく腫瘍細胞で選択的に複製する、天然に存在するまたは改変されたウイルスと古典的に定義される。OVの上述の定義は理論的な理想的状況を反映している。しかし、それとは全く対照的に、実際には、腫瘍溶解性CVB3株の大部分が、それらのウイルスに感染した動物またはヒト対象においてインビボで副作用を誘発することが従来技術のいくつかの試験で見出されている。これは主に、非腫瘍細胞および天然の組織のようなオフターゲット部位のウイルスによる漏出感染(leaky infection)に起因すると思われる。
その結果、ウイルス感染によって引き起こされるウイルス-宿主相互作用および発病をよりよく理解するために、いくつかのCVB3株がそれらの組織向性および臓器毒性によって特徴付けられた。これらのCVB3株の中には、非常に心臓作用性の株、例えばCVB3 H3、31-1-31、M2、HAまたはH310A1があるのに対し、いくつかの他の株、例えば、Nancyは、低心臓作用性であることが見出されている。肝臓に優先的に感染するCVB3株もある。さらに、ほとんど全ての既知のCVB3株は膵臓に感染することができる。有望なことには、本発明の発明者らのグループはごく最近、Nancy株に由来する実験室株CVB3変異株PDは、マウス試験においてインビボで膵臓または心臓に感染しないことが示されたものの、有望なことには確かな抗腫瘍活性を依然として示すことを実証した。しかし、異なる科学者の様々な異なる試験によって示されるように-CVB3 PDを例外として-CVB3変異株は全て、マウスにおいてインビボでオフターゲット部位にある程度の副作用を引き起こした。これには特に、これらの天然の個々の非腫瘍臓器における軽度の複製および組織損傷から、膵臓および心臓の重度の炎症ならびに致命的疾患に及ぶ膵臓および心臓の感染が含まれた(Miyamoto et al. 2012;Hazini et al. 2018)。これらの観察は、マウスにおいて膵臓はCVB3に最も感受性の高い臓器であり、ウイルスが他の臓器、例えば心臓に広がっていくCVB3感染の原発部位であるという知見と一致する。CVB3はヒト膵臓(膵炎および糖尿病様症状をもたらす)、および心臓(心筋炎および心筋症をもたらす)にも感染し得ることから、両臓器(膵臓および心臓)の感染は動物に限定されない。
CVB3は、インビトロまたは前臨床実験セットアップで広く使用されている。ある特定のCVB3変異株(PD変異株はまだテストされなかった)に感染したヒト患者では、これらがインフルエンザ様症状を伴う軽度の疾患を発症することが報告されている。しかし、不幸なことに、ある特定の状況下では全身感染が生じ、心筋炎、膵炎および無菌性髄膜脳炎をもたらし得る。さらに、いくつかのCVB3は、ヒトにおける炎症性および拡張型心筋症の発症と関連している(Andreoletti et al. 2009)か、またはCVB3は子どもの重度の感染との関連で記載されている。したがって、CVB3株が実際にどの程度安全なOVとみなされ得るのかは疑わしいように思われる。一般的に、異なるCVB3変異株を用いたこれら全ての異なるインビボ試験では、膵臓および心臓はオフターゲット部位として該ウイルスによって最も強く悪影響を受ける臓器である。したがって、選択性を改善し、それによって、それを必要とする対象を治療する医学的利用のためのそのようなOVの安全性も改善する大きな関心および必要性がある。
CVB3のようなRNAウイルスに関して、「miR媒介ウイルス脱標的化(miR-mediated virus detargeting)」は非常に有効な技術であり、主としてウイルス複製を極めて特異的に腫瘍に限定することができ、したがって腫瘍溶解性ウイルスの腫瘍選択性を増大する(Kelly et al. 2008)。この方法は、マイクロRNA誘導ウイルスゲノムサイレンシングに基づく。MiRNA(以下では「miR」と略す)は、不完全な約70~80ヌクレオチド(nt)ステムループ前駆体からプロセシングされる非コード、約22nt二本鎖RNA分子である。成熟miRNAおよびその標的の多くの配列は、植物または動物の間で(進化的)保存されている。それらはいわゆる「種間保存」、例えばmiR-1およびmiR-375を示す。多くのmiRは、組織または臓器特異的に発現される。これらの成熟miRの一方の鎖、いわゆる「ガイド鎖」は、そのmiR-TSを搭載するように遺伝子組換えされたウイルスのゲノム配列の骨格領域中で相補的塩基対合を通じて相補的な同族miR標的配列(miR-TS)に結合する。配列相補性の程度、すなわち、miRとその標的miR-TSとの間でマッチする完全な塩基対(bp)の程度に応じて、ガイド鎖は、結合標的配列のタンパク質合成の転写後抑制(低いbpマッチ)かまたはその触媒分解(高いbpマッチ)のいずれかを誘導する。これは、相補的なマッチするウイルスRNA標的部位(miR-TS)に対するmiRのガイド鎖を組み込むRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)をウイルスゲノムにガイドすることによって可能になる。この方法では、腫瘍では生じないかまたは腫瘍では不十分にしか発現されない/持続しない組織特異的発現マイクロRNA(miR)の標的配列がウイルスゲノムに挿入される。多くのmiRは細胞特異的に発現および組織特異的に発現され、これによりmiRはそのようなゲノムサイレンシングアプローチの有望な候補となる。健康な組織では豊富に発現されるが、がん細胞では非存在であるかまたはあまり発現されない組織特異的発現miRに対して相補的なmiR-TSの挿入は、インビトロでおよび少数の既存の前臨床試験において正常な細胞/組織でのOVの望まれない複製を防ぐための強力なアプローチとして示されている。これらの試験ではmiRをmiR-TSに結合することによって、ウイルスゲノムは、miRが発現され、したがってウイルス複製が停止される臓器でもっぱら分解された(高いbpマッチ)。CVB3のようなプラスセンス一本鎖RNAウイルスにとって、この技術は特にうまく機能するように思われる。これは、対応するmiR-TSがウイルスRNAゲノムに挿入された後、ウイルスRNAゲノムはmiR標的として直接使用されるという事実に基づき得る。
そのようなアプローチの有効性は、異なるウイルスに関する多くの試験によって報告されているとしても、CVB3についてはこれまでに、例えば肺がん実体治療で、ウイルス安全性の向上のためにmiR-TS を使用するわずかな報告が知られているのみである。これらの試験は、CVB3 Kandolf(Nancy株クローン)ゲノムの5’非翻訳領域(UTR)へのmiR-143TSおよびmiR-145TSの挿入(Liu et al. 2020)、またはCVB3 Nancyゲノムの5’もしくは3’UTRどちらかへのmiR-34a/c TSの挿入(Jia et al. 2019)が、インビボマウス試験でウイルスの安全性の向上をもたらす一方、ウイルスは肺癌に対するその腫瘍溶解活性を保持することを示した。テストされたそれらのmiR(miR-143、miR-145、miR-34a/c)は、正常な細胞または少なくとも天然の肺組織では、非組織特異的様式で優先的に豊富に発現され、使用された肺腫瘍細胞株の標的化細胞では不十分にしか発現されない。心筋特異的miR-206およびmiR-133標的配列を挿入して、心臓での望ましくないCVB3複製を防止する取り組みが行われ、ある程度成功している(He et al. 2015)。
miR-TSの安定性は、miR制御腫瘍溶解性ウイルスの安全性に寄与する重要な要因である(Kelly et al. 2008)。
さらに、以前に報告されているように、インビボでは感染後、ウイルス感染腫瘍から単離された個々のウイルスクローンがウイルス複製中にヌクレオチド置換を獲得する可能性がある。したがって、miR-TSにおける変異の発生は、実際にはウイルス安全性の潜在的リスクを示す。さらに、例えば、miR-TS挿入のループ構造の起こり得る形成のため、miR-TSの部分的または完全な欠失が複製中に起きる可能性があり、したがって、複製中にmiR-TSの領域をスキップすることよりウイルス複製中に失われる可能性がある。複数の同一のまたは高度に同一のmiR-TSコピー(タンデムリピート)を組み込む場合、miR-TS挿入のそのような二次ループ構造の形成確率が増加することになる。今度は、タンデムリピートの単一の組み込まれたmiR-TSコピーから最大でmiR-TSコピー全体のそのようなスキップ作用の確率は、不利には増加することになる。有害には、miR-TS内の変異が別のmiRの結合部位を作り出す可能性があり、不要なおよびおそらく深刻な副作用をもたらし得ることも言及されるべきである。そのような事象はこれまで観察されていないにもかかわらず、さらなる調査および改善にはこのことが考慮されなければならない。そのようなリスクを低減するために可能性のある戦略は、ウイルス骨格中のmiR-TSのコピー数を増やすことである。その理由は、これが、一部のコピー数をインタクトに発現させる確率を統計的に増加させるためである。一方、追加のmiR-TSコピーはゲノムサイズを増やし、ウイルスパッケージングとそれによってウイルス複製を損ない、したがって最終的にはその腫瘍溶解活性、すなわちウイルスの抗腫瘍効力を損なう可能性がある。したがって、miR-TSコピー数は、ゲノムサイズの増加と十分にバランスが取られなければならない。
これに関して、それらの腫瘍溶解性CVB3の副作用の問題を解決しようとして、(Jia et al. 2019)はmiR-34aの標的配列(miR-34aTS)の4つのタンデムコピーをCVB3ゲノムの5’または3’UTRに挿入した。この修飾の結果、ウイルスは、低下してはいるが依然として検出可能な毒性をマウスで示したが、ウイルス構築物の抗腫瘍有効性は依然として保持された。彼らはまた、miR-34aのそれぞれ4つのタンデムコピーを5’UTRおよび3’UTRに挿入した。この場合、ウイルス誘導毒性の低下が観察された。(Liu et al. 2020)による別の試験では、腫瘍抑制因子miR-145のmiR-TSのコピー、および腫瘍抑制因子miR-143のコピーが別のCVB3変異株の5’UTRに挿入された。ウイルスは腫瘍増殖を低減することができたが、ウイルスの毒性は低下した。しかし、ウイルスは、有害には膵臓および心臓で依然として検出可能であり、すなわち、複製および持続していた。本発明の発明者らは、知る限りでは-その理論に束縛されるものではないが-その結果の根底にある理由として、全てのそれらのテストされたマイクロRNAは腫瘍抑制因子マイクロRNAであり、腫瘍抑制因子マイクロRNAはより一般的には、それぞれのmiR-TSと融合したウイルス構築物を排除するのに膵臓および心臓のような特定の組織では十分高度に発現されないようであるという事実に少なくとも一部分は基づき得ると考える。したがって、CVB3変異株構築物中のそれらの腫瘍抑制因子マイクロRNAのコピー数を拡張することなくウイルス複製を完全に阻害することは、それらの先行技術のアプローチでは実現不可能であるように思われる。コピー数の増加は今度はウイルス構築物の全体的な複製障害を引き起こし、したがって、不利なことに、それらのCVB3-miR-TS融合構築物の抗腫瘍有効性を損なう原因となる。
しかし、Liu et al., 2020のこれらの腫瘍試験において、ウイルス複製の阻害は膵臓および心臓では不完全でしかないことが見出された。さらに、miR-143TSおよびmiR-145TSは不安定であることが見出された。すなわち、それらは、ウイルス治療の過程でmiR-TSで起こった欠失により、ウイルス治療経過中に失われた。したがって、CVB3を含有するmiR-143/miR-145TSを用いた治療後35日および56日目に死んだマウスの心臓および膵臓における心毒性および膵毒性ならびにポジティブVP1染色のような重度の副作用が該試験で生じた。同様に、Jia et al., 2019の試験では、腫瘍抑制因子miR-34aまたはmiR-34c TSのそれぞれ膵臓および心臓への挿入後に特定の毒性が生じた。8コピーのmiR-34aTSが5’UTR(4コピー)および3’UTR(4コピー)に挿入された場合、毒性は低かった。遺伝的ウイルス構築物中のmiR-TSコピー数を増やすデメリットは、これが徐々にウイルス複製の妨害につながることのように思われる。(Jia et al. 2019)では、野生型ウイルスまたは4 miR-TSを有するCVB3と比べて、miR-TSコピー数を最大8個に増やすと、これはウイルス複製を妨害することが例えば示された(例えば、(Jia et al. 2019)の図4C)。したがって、それを必要とする対象の腫瘍の治療に適用される場合、miR-TSコピー数を徐々に増やすことはウイルス複製にマイナスの影響を与え得るという推測が生じ、したがって、それらのCVB3-miR-TS融合構築物の抗腫瘍有効性に対して有害な結果を招くことにもなる。さらに、組み込まれたmiR-TSのスキップ事象は、組み込まれた同一のmiR-TS配列(タンデムリピート)数の増加により統計的に増加し得る。したがって、がんの治療における先行技術のOVの、特に使用されるOVの効率および安全性に関する記載された短所を克服することが本発明の目的である。さらに、例えばCVB3株Nancyなどの既知の株と比べて、腫瘍溶解効率が実質的に保持された、またはさらには腫瘍溶解効率が改善された、および安全性が改善されたCVB3の新規の変異株を提供することが本発明の目標である。
この目的は、請求項1に記載の感染性cDNA構築物によって解決された。さらなる実施形態は、この新規に開発された感染性cDNA構築物の変形形態、およびその感染性cDNA構築物を含むウイルスベクター粒子に関する。さらに、前記感染性cDNA構築物または前記ウイルス粒子を含む医薬組成物、ならびにそれを必要とする対象におけるがんおよび/または転移性がんの治療で使用するための、前記感染性cDNA構築物または前記ウイルス粒子または前記医薬組成物の使用が提供される。
特に、述べられた目標を達成するために、本発明は:
- コクサッキーウイルスB3(CVB3)のCVB3ゲノム配列と;
- 組織特異的発現パターンを有する1つまたは複数のマイクロRNAに相補的な少なくとも1つまたは複数のマイクロRNA標的配列(miR-TS)と
を含む、感染性相補的DNA(cDNA)構築物であって、
少なくとも1つまたは複数のmiR-TSが、CVB3タンパク質コード配列の5’UTRおよび/または3’UTRに直接隣接して組み込まれていることを特徴とする、感染性cDNA構築物を提供する。
本発明の意味において「感染性cDNA構築物」は、任意の逆転写ウイルス核酸(例えば、逆転写ウイルスRNAゲノム)の完全な相補的DNA(cDNA)か、または前記構築物に感染したがん細胞での溶解反応の生成を可能にする、および/もしくは新たなウイルスの生成を可能にし、次いで細胞で溶解反応を引き起こし、さらに-時として-隣接細胞の感染に向けて放出できる状態にするのに十分なその部分を含むと理解することができる。
CVB3のゲノムRNAはプラス鎖RNAである。本発明の意味において用語「プラス鎖」は、ゲノム配列がコード配列の翻訳開始点に対して順向きに配置されることを意味する。したがって、感染性cDNA構築物の構築のために、この配列が逆転写され、PCRによって増幅されてDNA二本鎖を生成した。好ましくは、この二本鎖cDNAは、感染性cDNA構築物においてcDNAバージョンのプラス鎖配列を受け取るようにプラスミドにクローニングされた。
本発明の意味において「miR配列に相補的な少なくとも1つまたは複数のマイクロRNA標的配列(miR-TS)」は、少なくとも1つのまたはいくつかの異なるmiR鎖に相補的な同一の(100%相補的)配列と理解されるべきであり、該配列は-それぞれの標的化組織特異的miRが宿主組織細胞中の感染したオフターゲット部位で発現されるならば-宿主細胞のそれぞれの相補的miRガイド鎖がmiR-TSに結合し、したがって、RNA干渉/RNAサイレンシング機構が作用し、したがって、ウイルス複製を妨げ得ることを可能にする。
本発明の代替の実施形態では、少なくとも1つまたは複数のマイクロRNA標的配列(miR-TS)はmiR配列に「実質的に」相補的である。本発明の意味において「miR配列に実質的に相補的な」は、それぞれのヌクレオチド配列が、標的miR配列に少なくとも70%または75%相補的、80%相補的、より好ましくは少なくとも90%相補的、および最も好ましくは少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%相補的であり、両方ともワトソン&クリック塩基対合によって互いに結合していると理解されるべきである。
本発明の意味において3’非翻訳領域(3’-UTR)は、翻訳停止コドンのすぐ下流(5’から3’)に続くメッセンジャーRNA(mRNA)またはmRNAのcDNAのセクションであり、5’非翻訳領域(5’-UTR)は、メッセンジャーRNA(mRNA)またはcDNA配列の開始コドンのすぐ上流(5’から3’)に続くメッセンジャーRNA(mRNA)またはmRNAのcDNAのセクションである。
本発明の感染性cDNA構築物の実施形態によれば、感染性cDNA構築物は二本鎖環状分子の形態、好ましくはプラスミドの形態にある。プラスミドは有利には、感染性cDNA構築物の安定な複製可能なビヒクルを可能にする。
意図された目的、例えば、それを必要とする対象の腫瘍溶解性がん治療のために、典型的には腫瘍溶解性ウイルスのある特定の量が必要である。本発明とは対照的に先行技術は、治療目的のウイルスRNA/DNAを搭載したウイルス粒子を使用する。OVを作製するための従来技術手順によれば、そのようなCVB3は、ある特定の修飾されたまたは天然に存在する核酸構築物を有している。該核酸構築物は1個のウイルスクローンに起源を持ち、例えば医療用に十分なCVB3粒子をインビトロで受け取るために標準的な手順によって増殖される。
一般に、CVB3は高い変異率で複製し、最終的に十分なウイルス粒子をもたらすのに必要な複数の細胞感染事象としたがって、複製ラウンドがある。その結果、元々の出発ウイルスcDNAのコピーを有する主要なウイルスクローン変異株の隣に、同時に存在し増殖する個々のウイルス変異体が高い統計的確率で常にある。これは、治療処置を意図した回収されたCVB3ウイルス溶液が、意図する増殖した元々のウイルスクローンのコピーのみを含有する均一な溶液ではなく、むしろ、意図するクローンの隣に、増殖した遺伝的ウイルスクローン変異体のサブセットも含有する、おそらく非常に異なる遺伝的サブセットを有する不均一な混合物であるという有害な状況をもたらす。これらのウイルス変異体を注射することは、そのような不均一なウイルス溶液で治療される対象に、変異に応じて軽度から重度の有害作用を引き起こす可能性がある。さらに、複製全体はランダムに進むため、異なるウイルス溶液バッチは、主要なウイルス変異株に加えてウイルス粒子変異体の非常に異なる混合物を含有する可能性がある。これはさらに不利なことに、そのようなバッチを使用するそのような治療試験の有意性を下げる可能性がある。その理由は、対象の一部は、他の対象とは異なるバッチのウイルス溶液で治療される可能性が最も高くなる、すなわち、同じではない感染性出発物質を受け取る可能性があり、ウイルス溶液バッチが異なると意図する主要なウイルスのコピー量も関連して異なる可能性が最も高いためである。さらに、適用される治療レジメンに応じて、それを必要とする全く同一の対象が1回より多く治療されなければならないか、またはCVB3ウイルス溶液の複数回投与を受けなければならない必要があり得、ひいては全く同一のバッチからのウイルス溶液を受け取らない可能性があることを意味する。したがって、治療される対象は、言ってみれば極めて異なるウイルス集団の混合物を含む溶液を受け取ることになる。これはまた、それらの不均一なウイルスバッチ溶液を注射された対象において軽度から重度の有害な副作用を引き起こし、そのような臨床治療データの有意性を下げる可能性があるウイルスサブセットを受け取る確率も高める。
感染性cDNA構築物を有するウイルス粒子の利用およびエラーを起こしやすい増殖とは対照的に、本発明の発明者らは異なるアプローチを提供し、感染性cDNA構築物それ自体を利用する。
これは複数の利点をもたらす:古典的CVB3ウイルスは通常、プラスの極性を有する単一プラスセンスRNA鎖を有する。すなわち、読み取り方向は細胞のmRNAの読み取り方向に対応する。核酸は、遺伝記憶としても翻訳の鋳型としても使用することができる。感染後、CVB3はマイナス鎖RNA中間体を生成し、該中間体から、宿主細胞での古典的ウイルス複製に必要とされるRNA依存性RNAポリメラーゼによって触媒されて、ウイルスプラス鎖RNAコピーの複数コピーが転写される。RNA依存性RNAポリメラーゼはRNAプルーフリーディング活性を欠き、したがって、コピーされたポリヌクレオチドに導入された誤りは修正されない。エラーの頻度は、10000ヌクレオチドごとにおよそ単一ヌクレオチド挿入エラー(1×10-4)であり、CVB3 vRNAのおよその長さより少し少ない。したがって、新しく産生されたCVB3粒子のほぼ一つ一つが他のCVB3ウイルス粒子と異なるvRNA配列を有する。古典的先行技術では、OVを増殖するアプローチは、これらのウイルスマイナス鎖抗ゲノムcDNAを有するウイルス粒子を利用する。CVB3が宿主細胞に感染した後、cDNAは、宿主細胞DNA依存性RNAポリメラーゼ(RNAポリメラーゼ)によって触媒されるウイルスのプラス鎖RNAの複数のコピーに転写される。これは、それぞれのデータソースにより約1×10-8~10-9から約1×10-10~10-12までの転写エラー率を有する。
対照的に、本発明によるcDNAクローンを注射するのに利用する場合:ここで、目的のcDNAクローンの必要な増殖は、当業者に周知の十分に確立された先行技術の方法を使用して高品質な基準下で容易に行うことができる。例えば、cDNA転写物は、例えば高忠実度DNAポリメラーゼを使用して古典的PCRによって増幅させることができる。高忠実度DNAポリメラーゼは、宿主細胞でのウイルス複製に必要とされる古典的な複製酵素と比べて非常に正確なプルーフリーディング機能を含有し、したがって、生じる複製エラーが明らかに少なく、したがって、正確に増殖された均一な感染性ウイルスのcDNAプールを保証する。
さらに、この手法は、インビトロで極めて複雑な、時間および試薬を費やすウイルス粒子ベースのOVの生成方法も簡略化する。これはまた、本発明の感染性cDNAクローンが腫瘍細胞に腫瘍内注射され得るか、または既知のベクターウイルスによって腫瘍細胞に輸送され得る場合、医薬品の製造管理及び品質管理基準(Good Manufacturing Practice(GMP)standards)の遵守も簡略化する。さらに、感染性cDNA構築物を含むウイルス粒子を、感染した宿主腫瘍細胞で生成することによって、ウイルス粒子が宿主腫瘍細胞から放出されると、今度は他の腫瘍細胞、例えば直接隣接する腫瘍細胞を感染させることができる。別の利点は、前記古典的な従来技術方法と比べた場合、高価でない実験用試薬および材料が必要となることから、感染性cDNAクローンの作製および使用はまたかなり安く、より環境に優しくなることである。
(He et al. 2015)は、CVB3ゲノムへのmiR-TSの挿入部位に関連するいくつかの重要な限界を同定した。実際、miR-TSが翻訳開始のコドンに近い5’-UTRに挿入された場合、ウイルスは感染性cDNAクローンからしか伝播することができなかった。IRESのコア配列の上流の5’-UTR(ヌクレオチド249位)へのmiR-TSの挿入、およびヌクレオチド7387位または7359~7360位の3’-UTRへのmiR-TSの挿入は、ウイルスに許容されなかった。これらの観察に対する考えられる理由として(He et al. 2015)は、miR-TSがウイルスゲノムの高次(二次)RNA構造をおそらく妨害したことを示唆した(He et al. 2015)。少なくとも1つまたは複数のmiR-TSは、CVB3ポリタンパク質開始コドンのすぐ下流[(5+)]か、またはCVB3ポリタンパク質の終止コドンのすぐ下流の3’UTRのどちらかに挿入される。あるいは、それらはポリタンパク質コード配列の開始コドンの前、すなわち5’UTRに挿入される。
本発明の感染性cDNA構築物の実施形態によれば、少なくとも1つまたは複数のmiR-TSは、3Dポリメラーゼのコード配列の終止コドンとCVB3タンパク質コード配列の3’UTRとの間に組み込まれている。少なくとも1つまたは複数のmiR-TSは、CVB3タンパク質コード配列の3Dポリメラーゼのコード配列の終止コドンのすぐ下流、およびCVB3タンパク質コード配列の3’UTRの前に組み込まれていてもよい。さらに、またはあるいは、少なくとも1つまたは複数のmiR-TSは、CVB3ポリタンパク質開始コドンの直前(5’から3’の上流)の5’UTRに挿入される。好ましくは、少なくとも1つまたは複数のmiR-TSは、ウイルスコード配列の3’UTR、好ましくはCVB3コード配列の終止コドンのすぐ下流(5’から3’)およびCVB3コード配列の3’UTRの直前に組み込まれている。場合により、少なくとも1つまたは複数のmiR-TSは、それぞれが少なくとも5~30bp、少なくとも8~30bp、または少なくとも10~30bpからなる少なくとも1つのスタッファー配列と隣接していてもよい。少なくとも1つまたは複数のmiR-TSは、スタッファー配列と単一方向または両方向に隣接していてもよい。本発明の発明者らは、少なくとも1つまたは複数のmiR-TSが少なくとも1つのスタッファー配列と隣接しており、miR-TS+スタッファー配列のこの融合配列が次いでウイルスコード配列の3’UTRの前、好ましくはCVB3コード配列の終止コドンのすぐ下流(5’から3’)およびCVB3コード配列の3’UTRの直前に組み込まれる場合、これがウイルス複製および再生にプラスの影響を与えるように思われることを確かに見出した。これは、例えばPD-0およびrPDのような、野生型と比べてより低い基本複製効率を示すCVB3ウイルス株に特に当てはまるように思われる。したがって、今度は、スタッファー配列の欠如がウイルス複製および再生にマイナスに影響し得ると推測することができる。
本発明の感染性cDNA構築物の実施形態によれば、少なくとも1つまたは複数のmiR-TSは、ヒト膵臓組織で特異的に発現されるmiR配列に相補的であり、および/またはヒト心臓組織で特異的に発現されるmiR配列に相補的である。
本発明の感染性cDNA構築物の実施形態によれば、少なくとも1つまたは複数のmiR-TSは、ヒト膵臓組織特異的発現miR:miR-375、miR-690、miR-375、miR-217、miR-216a、miR-216b、miR-200a、miR-200b、miR-200c、miR-429、miR-141、および/またはヒト心臓組織特異的発現miR:miR-1、mriR-133、miR-206からなる群から選択されるmiR配列に相補的である。
本発明の感染性cDNA構築物の実施形態によれば、少なくとも1つまたは複数のmiR-TSは、ヒト膵臓組織特異的発現miR-375およびヒト心臓組織特異的発現miR-1からなる群から選択されるmiR配列に相補的である。miR-375TSの核酸配列は、5’-TCACGCGAGCCGAACGAACAAA-3’(配列番号1)を含むまたはそれからなる。miR-1TSの核酸配列は、5’-ATACATACTTCTTTACATTCCA-3’(配列番号2)を含むまたはそれからなる。
好ましくは少なくとも1つまたは複数のmiR-TSは、ウイルスコード配列の3’UTR、好ましくは3’UTRの終止コドンのすぐ下流(5’から3’)に組み込まれている。本発明の発明者らは、ウイルスのポリタンパク質をコードする感染性cDNA構築物のcDNA領域の3’UTRにmiR-TSの挿入を有する該構築物を有するウイルスを腫瘍内に注射すると、全体的なCVB複製またはCVB3ウイルス増殖を著しく損なうことはないが、cDNA構築物に感染した腫瘍細胞増殖の抑制を可能にし、一方で膵臓または心臓組織細胞に影響を与えない(感染性cDNA構築物はごくわずかに測定されるかまたは測定できなかった)ことを見出した(図4参照)。
ウイルス粒子にパッキングされた、ヒト膵臓組織で特異的に発現されるmiRに相補的なmiR-TS(miR-375TS)を含む感染性cDNA構築物を使用すると、本発明の発明者らは、結腸直腸腫瘍皮下移植マウスの天然の非腫瘍膵臓組織および心臓組織において、ウイルスがインビボで効率的に複製できないことを、それらの感染性cDNA構築物が有利には確保することを明白に示すことができた(例えば、図5C、E、K参照)。これらの観察は、マウスにおいて膵臓はCVB3に最も感受性の高い臓器であり、ウイルスが他の臓器、例えば心臓に広がっていくCVB3感染の原発部位であるという知見と一致する。したがって、ヒト膵臓組織で特異的に発現されるmiRに相補的なmiR-TSを含む本発明のcDNA構築物を利用することによって、心臓組織もまたCVB3ウイルス複製から有益なことに保護され得る。
注目すべきことに、ウイルス複製から心臓組織を保護するこの効果は、ヒト膵臓組織で特異的に発現されるmiR配列に相補的な少なくとも1つまたは複数のmiR-TS、さらに、ヒト心臓組織で特異的に発現されるmiR配列に相補的な少なくとも1つまたは複数のmiR-TSと同時に使用する場合に、さらにより顕著であることが有利には見出された(例えば、図5E、H参照)。
さらに、本発明者らは、ヒト膵臓組織で特異的に発現されるmiRに相補的なmiR-TS、および/またはこれらのmiRの低発現状態を示す、もしくはこれらのmiRが欠けている宿主細胞のヒト心臓組織で特異的に発現されるmiR配列に相補的なmiR-TSを含む前記記載の裸の感染性cDNA構築物(ウイルスカプシドがない)を注射すると、これらはそれらの宿主細胞で複製し、前記感染性cDNA構築物を含む感染性ウイルス粒子を生成できることを示すことができた(図2参照、およびデータ未掲載)。
本発明の感染性cDNA構築物の実施形態によれば、少なくとも1つまたは複数のmiR-TSは、二重、三重、四重、五重もしくはより多重の反復または反復カセットとして存在している。反復は「タンデムリピート」の形態であってもよい。タンデムリピートは、反復される単一反復単位を示す比較的短いヌクレオチド配列と理解されるべきであり、該反復単位は互いに直接隣接しているか、またはそれらを隔てる短いヌクレオチドスペーサー配列とのみ連結される。
本発明による「miR-TSの反復カセット」は、1つのmiR-TSの後に、別のmiRに向けられる別の異なるmiR-TSが続くことを意味する。本発明の意味において「続く(followed)」は、両方のmiR-TSが互いに直接隣接して連結されるか、またはそれらを隔てる短いヌクレオチドスペーサー配列とのみ連結されることを本明細書では意味する。両方のmiR-TSおよび結局は存在するスペーサー配列は、反復カセットの単位を共に構築する。本発明の感染性cDNA構築物の好ましい実施形態によれば、反復カセットは、ヒト膵臓組織特異的発現miR-TSからなる群から選択されるmiR配列(例えば、miR-375)に相補的なmiR-TSと、それに続く、ヒト心臓組織特異的発現miR-TSからなる群から選択されるmiR配列(例えば、miR-1)に相補的なmiR-TSによって構築される。本発明の感染性cDNA構築物の代替の好ましい実施形態によれば、反復カセットは、ヒト膵臓組織特異的発現miR-TSからなる群から選択されるmiR配列(例えば、miR-375)に相補的なmiR-TSの二重反復と、それに続く、ヒト心臓組織特異的発現miR-TSからなる群から選択されるmiR配列(例えば、miR-1)の単一または二重反復によって構成される。
本発明によるスペーサー配列は、例えば1~16nt、3~10nt、3~16nt、3~15nt、4~8nt、4~6ntまたは4~5ntの短いヌクレオチド(nt)配列からなり得る(例えば、それぞれの図のキャプションと一緒に図1Bまたは図6Bを参照のこと)。各miR-TS間に挿入されたスペーサー配列は同族成熟miR結合を改善し、したがってRNAサイレンシング効率を改善する可能性がある。
本発明の感染性cDNA構築物の実施形態によれば、少なくとも1つまたは複数のmiR-TSは、少なくとも一重から最大四重、少なくとも二重から最大四重、または好ましくは少なくとも一重から最大三重として存在している。本発明の感染性cDNA構築物の好ましい実施形態によれば、少なくとも1つまたは複数のmiR-TSは、少なくとも二重から最大三重の反復または反復カセットとして存在している。
上述のように、miR-TSの安定性は、miR制御腫瘍溶解性ウイルスの安全性に寄与する重要な要素である。しかし、miR-TSにおける変異の発生は、実際にはウイルス安全性の潜在的リスクとなる。本発明の発明者らは、長期感染後(初感染の32日後)に、miR-375TSの3つのコピーを含むH3N-375感染腫瘍、ならびにmiR-375TSの2つのコピーおよびmiR-1TSの2つのコピーを含むH3N-375/1感染腫瘍から単離された個々のウイルスクローンが、マウスのOV治療中にインビボでヌクレオチド置換を獲得し得ることを見出した。しかし、miR-TS変異を有するそのような各ウイルスでは、1つのmiR-TSおよびその1つのコピーしかこの種の変異によって影響を受けず、その結果、H3N-375TSでは少なくとも2つのmiR-375TS、ならびにH3N-375/1TSでは少なくとも1つのmiR-375TSおよび少なくとも1つのmiR-1TSがインタクトなままであることが見出された。したがって、興味深いことに、miR-TSの少なくとも二重反復は、膵臓および心臓におけるウイルス複製の防止をそれぞれ維持するのに明らかに十分であり、これは長期OV治療下でさえ十分であることを示している。すなわち、感染性cDNA構築物のmiR-TSの遺伝的安定性を保証し、それによってウイルスの安全性を高め、一方で同時にウイルス粒子の遺伝子配列長を増やさず、したがってウイルス粒子複製に著しい影響を与えない。
本発明の感染性cDNA構築物の実施形態によれば、ウイルスコード配列をコードするcDNAの骨格の発現は:ヒトテロメラーゼ逆転写酵素プロモーター(hTERTp);癌胎児性抗原抗原(CEA)およびチロシナーゼ、アルファフェトプロテイン(AFP)プロモーター、前立腺特異的抗原プロモーター(PSA)、DF3/MUC1プロモーター、Tcf反応性プロモーター、チロシナーゼプロモーター、ラットプロバシンプロモーター、IAI.3Bプロモーター、オステオカルシンプロモーター、L-プラスチンプロモーター、癌胎児性抗原(CEA)プロモーター、ミッドカインプロモーター、E2F-1プロモーター、HIF-1反応性プロモーター、エストロゲン-低酸素二重プロモーター(estrogen-hypoxia dual promoter)等からなる群から選択される腫瘍特異的プロモーターの制御下にある。これによって、感染性cDNA構築物の複製は、そのプロモーター利用のための転写因子を発現する腫瘍細胞にさらにより選択的に限定され、したがって、OVの治療的安全性をさらに高めるであろう。
本発明の実施形態によれば、cDNA構築物は:多重クローニング部位、複製起源、および導入遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つまたは複数の配列エレメントをさらに含み、これらのさらなる配列はcDNA構築物の骨格に組み込まれている。導入遺伝子は、選択遺伝子または治療上興味深いcDNAまたは他の小さなRNA、例えば、マイクロRNA、shRNA、siRNAのRNA転写物を含んでもよく、それらは全て当業者に周知である。そのような導入遺伝子の例は、インターロイキン2(IL-2)、IL-4、IL-6、IL-12、IL-18、IL-24、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)のような免疫系刺激導入遺伝子または腫瘍毒性遺伝子である。
腫瘍毒性遺伝子は、腫瘍細胞で発現されるものの毒性を明らかにすると理解されるべきであり、p53、大腸腺腫症腫瘍抑制遺伝子およびBRCA1のような腫瘍抑制遺伝子、シトシンデアミナーゼ(CD)および単純ヘルペスウイルス1型チミジンキナーゼ(HSV1-TK)のような自殺遺伝子、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)およびFasリガンド(FasL)のようなアポトーシス誘導遺伝子、腫瘍関連抗原(TAA)およびネオ抗原および血管新生阻害剤、例えばアンジオスタチン、トロンボスポンジン、血小板第4因子、ならびに肝細胞増殖因子アンタゴニストNK4からなる群から選択される。別の実施形態によれば、本発明の感染性cDNA構築物および/またはCVB3群ウイルスのゲノム配列は、複製コンピテントCVB3ウイルスおよび/またはベクター由来ウイルス粒子をコードする。
主として、本発明による「コクサッキーウイルスB3群(CVB3)」は、既知のおよび分類されたCVB3ウイルスならびにまだ分類されていないCVB3ウイルスを含む任意のコクサッキーウイルスB3群ウイルスであってもよい。CVB3は、両方のプロトタイプおよび臨床的に単離されたウイルスの両方からなる群から選択されてもよい。CVB3は天然に存在していてもよく、または「その修飾形態」であってもよい。天然の供給源から単離することができ、実験室で意図的に修飾(「修飾形態」)されていない場合、コクサッキーB3群ウイルスは「天然に存在する」-例えば、CVB3はヒト患者から得られてもよい。
国際公開第2019/063838号パンフレットでは本発明の発明者らは、CVB3株PD-0がインビボでマウスに投与される場合、その抗腫瘍効率に関連しながら、心臓および膵臓を含むいずれのオフターゲット部位でも複製しないことから、CVB3株PD-0を有望なOVと同定した。したがって、本発明の感染性cDNA構築物の好ましい実施形態によれば、CVB3のゲノム配列は、公開されている参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2019/063838号パンフレットに詳細に-例えばゲノム配列-記載されているNancy株、PD、例えば、rPD(組換えPD-0 cDNAクローン)またはその修飾形態に由来する弱毒化CVB3群ウイルス株から選択される。CVB PD-0は、ウイルスカプシドタンパク質1(VP1)のアミノ酸残基K78、A80、A91、およびI92、ならびにウイルスカプシドタンパク質3(VP3)のアミノ酸残基M34およびY237の両方からなるアミノ酸残基の交換を含む。
本発明の感染性cDNA構築物の好ましい実施形態によれば、修飾CVB3 PD-0形態のゲノム配列は、国際公開第2019/063838号パンフレットに詳細に記載されているrPDHiFiおよびrPD-eGFPから選択される組換えcDNAクローンである。
抗腫瘍活性に関する異なるCVB3ウイルス株の不均一性を考慮すると、例えば、miR-375またはmiR-375/miR-1を搭載したrPDは、H3ウイルスを使用する各miR-TSを搭載したアプローチと比べて、腫瘍細胞傷害性を可能にすることに関して同等またはさらにより有効であることが驚くべきことに見出された。また、正常な組織において他の受容体指向性を有し、PDより傷害性であるCVB3変異株もOVの潜在的候補であり、興味深い焦点となり得る。しかし、それらの複製能力は、膵炎および心筋炎および全体的なオフターゲット部位細胞感染ならびに溶解事象のリスクのため、本発明のmiR-TS戦略、例えばmiR-375TSおよびmiR-1TS脱標的化を利用する例えばmiR脱標的化によって大幅に低減されなければならない。最近、本出願者の研究グループはその概念を証明することができた。さらに、本出願者の研究グループは、後者のコード配列がmiR-375TSと融合される場合、PD-0(例えばrPD)は攻撃型H3 CVB3変異株と同等の抗腫瘍効率を有し、膵臓におけるH3ウイルスの複製を停止し、したがって、腫瘍組織へのウイルスのさらなる余分な分布を停止することを発見した((Hazini et al. 2021)参照)。したがって、本発明の感染性cDNA構築物の実施形態によれば、CVB3のゲノム配列は、攻撃型CVB3群ウイルス株PD、rPD、Nancy、H3、31-1-93、RD、P 2035A、28、HAおよびGAから選択され、CVB3のゲノム配列は、それらの株のうちの1つのヌクレオチド配列、またはそれらのCVB3株のうちの1つのゲノム配列を含むヌクレオチド配列によって定義される。
非常に有望なことに本発明の発明者らは、ヒト結腸直腸癌のヌードマウスモデルにおいて膵臓特異的発現miR-375(3つのコピー-H3N-375TS)または別のアプローチでは膵臓特異的発現miR-375(2つのコピー)および心臓特異的発現miR-1(2つのコピー)(H3N-375TS/1TS)のmiR-TSコピーをウイルスに搭載することによって、非常に毒性のCVB3株の病原性が予防され得ることを示すことができた。さらに、H3N-375TS/1TSアプローチの4匹のテスト腫瘍担持動物のうち3匹が、有望なことにウイルス血症を示し、1匹は血中ウイルス力価を全く示さなかった(図5I参照)。さらに、特に、3つのウイルス感染腫瘍の完全寛解のため、H3N-375TS担持ウイルス粒子(miR-375TSの3つのコピーを有する)で治療された4匹全ての試験動物のH3N-375TS力価は1つの腫瘍でのみ決定された。これは明らかに、意図された標的部位(腫瘍)でのこれらのmiR-TS担持組換えH3変異株のインビトロでの有望な強い選択的抗腫瘍活性を示すものであるが、同時にそれらは、全てのテスト非腫瘍組織がウイルスに著しく影響を受けない(ウイルス複製が検出されない、ウイルス媒介細胞傷害性が検出されない)ままであったことから、オフターゲット部位に影響しないかまたは著しくは影響しない。これらの知見とは著しく対照的に、親CVB3株H3の単回投与は腫瘍内ウイルス投与の4日後にマウスが瀕死の状態になる原因となり、miR-TS搭載ウイルスH3N-375TSおよびH3N-375/1TSの3回注射はウイルス誘発疾病を引き起こさなかった。重要なことには、ウイルスは長期治療後にインビボでのその腫瘍溶解性活性を保持し、予め移植された結腸直腸癌の増殖を効率的に低減した。
さらに、本発明の別の目的は、本発明によるcDNA構築物を含む感染性ウイルス粒子の提供である。このウイルス粒子は、コクサッキーウイルス、特にCVB3ウイルスに由来してもよいが、任意の他の適切なベクターまたは担体ウイルスでもあってもよい。
本発明の意味において「感染性ウイルス粒子」またはウイルスは、ウイルス感染がん細胞での溶解反応の生成を可能にする、および/または新たな感染性ウイルスもしくはウイルス粒子の生成を可能にし、次いで細胞で溶解反応を引き起こし、放出されるとさらに-時として-隣接細胞を感染させることになる本発明に記載の感染性cDNA構築物を含むと理解されるべきである。
さらなる別の態様によれば本発明は、本発明による感染性cDNAおよび/または本発明によるウイルス粒子ならびに薬学的に許容される担体または希釈剤を含む医薬組成物に関する。
本発明の薬理学的組成物による適切な薬学的に許容される賦形剤、希釈剤および担体は、当業者に周知である。簡単には、薬学的に許容される担体または希釈剤の例は、脱塩水または蒸留水;生理食塩水;植物ベースの油、例えば、ピーナッツ油、ベニバナ油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油(sesame oils)、ラッカセイ油、またはヤシ油;ポリシロキサン、例えばメチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサンおよびメチルフェニルポリシロキサンを含むシリコーン油;揮発性シリコーン;鉱油、例えば流動パラフィン、軟パラフィンまたはスクアラン;セルロース誘導体、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース;低級アルカノール、例えばエタノールまたはイソプロパノール;低級アラルカノール(lower aralkanol);低級ポリアルキレングリコールまたは低級アルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3ブチレングリコールまたはグリセリン;脂肪酸エステル類、例えばパルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピルまたはオレイン酸エチル;ポリビニルピロリドン;寒天;トラガカントゴムまたはアカシアゴム、およびワセリンである。典型的には、担体は、薬理学的組成物の10~99.9重量%を形成するであろう。
非経口投与可能な組成物を調製するための方法は当業者に明らかであり、例えば、参照により本明細書に組み込まれるRemington's Pharmaceutical Science, 15th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa.により詳細に記載されている。
経口使用のための適切な担体、希釈剤、賦形剤および補助剤のいくつかの例としては、ピーナッツ油、流動パラフィン、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アカシアゴム、トラガカントゴム、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、ゼラチンおよびレシチンが挙げられる。さらに、これらの経口製剤は、適切な香味剤および着色剤を含有してもよい。カプセル形態で使用される場合、カプセルは、分解を遅らせる化合物、例えばモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルで被覆されてもよい。
薬理学的組成物は、任意の適切な界面活性剤、例えばアニオン、カチオンまたは非イオン界面活性剤、例えばソルビタンエステルもしくはそのポリオキシエチレン誘導体を包含してもよい。懸濁剤、例えば天然ゴム、セルロース誘導体または無機材料、例えば珪質シリカ(silicaceous silica)、および他の成分、例えばラノリンも含まれ得る。
本発明はさらに、少なくとも1つまたは複数のmiR-TSに相補的な組織特異的発現を含むmiR配列が、発現状態が低いかまたはないがんおよび/または転移性がんにおけるそれぞれの発現状態と比べて、前記組織でそれぞれ高度に発現される、がんおよび/または転移性がんの治療で使用するための、本発明の感染性cDNA構築物、本発明の感染性ウイルス粒子または本発明の医薬組成物を包含する。
がんおよび/または転移性がんの治療で使用するための前記感染性cDNA構築物、感染性ウイルス粒子または医薬組成物の実施形態によれば、がんは、結腸直腸がん(大腸がん)、乳がん、肺がん、肝臓がんおよび/または上述のがんの対応する転移からなる群から選択される。
がんおよび/または転移性がんの治療で使用するための前記感染性cDNA構築物、感染性ウイルス粒子または医薬組成物の好ましい実施形態によれば、がんは、結腸直腸がんおよび対応する転移または肺がんおよび対応する転移からなる群から選択される。
本発明の別の実施形態によれば、ウイルス用量の範囲は、約5×10~約1×10プラーク形成単位(PFU)、好ましくは約10~約1×10PFU、および最も好ましくは約3×10~約1×10PFUである。腫瘍のサイズ、患者の応答、腫瘍退縮率およびまた患者の体重に応じて、ウイルス用量の適用が2回、3回、または4回投与されることも提供される。典型的には、70kgの患者に対して約4.5×10PFU/kgの用量が検討されるべきである。
本発明による治療目的のため、前記感染性cDNA構築物、前記感染性ウイルス粒子または前記医薬組成物および上述の組合せは、単回投与かまたは複数回投与のどちらかでそれを必要とする対象に投与され得る。複数回投与は、同時にまたは連続的に投与されてもよい(例えば、数日間または数週間にわたって)。典型的には、治療的適用では、治療は疾患状態の継続期間中、例えば、少なくともそれぞれのがんが従来の手段によってもはや検出できなくなるまでとなろう。典型的な治療レジメンは先行技術で公知である。
本発明によれば「必要とする対象(subject in need)」は、本発明による治療を必要とする任意の哺乳動物であってもよい。対象は、限定されないが、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ブタ、非ヒト霊長類、およびヒトを含む、社会的、経済的または研究上重要なヒトまたは任意の種の個体であってもよい。本発明の好ましい実施形態では、必要とする対象はヒトである。
それを必要とする前記対象への投与の様式は、経口、腫瘍内、腫瘍周辺、静脈内、腹腔内および/または筋肉内投与であってもよい。
本発明によれば、前記感染性cDNA構築物、前記感染性ウイルス粒子または前記医薬組成物および上述の組合せは、それを必要とする個々の対象のそれぞれのがんに投与され得る。異なる血清型および/または異なる株および/または異なる種および/または異なるCVB3ウイルスの属、例えば異なる種の動物由来のCVB3ウイルスの組合せも、代替的に使用され得る。所望であれば、CVB3は、例えば、新生物への投与前のプロテアーゼ、例えばキモトリプシンまたはトリプシンによる処理によって、化学的または生化学的に前処理されてもよい。そのような前処理はウイルスの外皮の除去につながり、したがって、ウイルスの感染力の改善をもたらし得る。少なくとも2つの異なるウイルス粒子の組合せ、および少なくとも2つの異なる感染性cDNA構築物の組合せも投与することができる。また、少なくとも1つのウイルス粒子と前記少なくとも2つの異なる感染性cDNA構築物の組合せが投与されてもよい。そして、前記少なくとも2つの異なるウイルス粒子と、少なくとも1つの感染性cDNA構築物との組合せが投与されてもよい。感染性CVB3 cDNA構築物および/またはCVB3ウイルス粒子は、他の追加のCVBもしくはベクターウイルス、または異なる修飾CVBウイルスをコードする追加の感染性cDNA構築物と組合せて投与または適用されてもよい。
参考文献
結腸直腸がん細胞におけるmiR-375およびmiR-1発現ならびにmiR-34a発現、ならびにmiR-TSウイルスの構造およびHeLa細胞におけるそれらの複製を示す図である。 A.結腸直腸癌細胞におけるmiR-375およびmiR-1の発現。示された結腸直腸癌細胞株、HeLa細胞、HEK293T細胞、膵臓EndoC-βH1細胞および胚性マウス心筋細胞(EMCM)、ならびにマウス臓器におけるmiR-375およびmiR-1の相対的発現レベル。発現レベルは定量RT-PCRによって決定した。各miR発現レベルは、内因性U6 snRNA発現のレベルに対して正規化し、1に設定された膵臓のmiR-375レベル(左の図)および心臓のmiR-1発現レベル(右の図)と比べて示されている。データは、それぞれが3連の3つの独立した実験の平均±SEMを表す。 B.本発明のCVB3変異株H3、miR-TS担持CVB3-H3変異株およびmiR-TS構築物配列の構造(それぞれの成熟同族miRとの完全な塩基対合を示すRNAコードで表された(図1C参照);感染性cDNA構築物ではU(ウラシル)がT(チミン)によって置き換えられている)。上のパネル:miR-375番号(1および2)黒)、miR-1(番号(2)ライトグレー)およびmiR-39((3)白抜きのバー)の標的部位(TS)、ウイルス名ならびにウイルス用途の図。miR-TS配列は、3Dポリメラーゼの終止コドンのすぐ後、CVB3変異株H3のウイルスゲノムの3’UTR領域に挿入した。3つの異なるmiR-TS担持CVB3変異株を作製した;miR-375の標的部位の3つのコピーを含有するH3N-375TS、miR-375の標的部位の2つのコピーおよびmiR-1の標的部位の2つのコピーを含有するH3N-375/1TS、ならびに哺乳動物細胞では発現されないmiR-39の標的部位の3つのコピーを含有する対照ウイルスH3N-39TS。下のパネル:それぞれのmiR-TSの配列。各miR-TSは下線が引かれ、大文字で書かれている。4~8個のヌクレオチドのスペーサー配列(イタリック体および小文字で示された)を各miR-TS間に挿入して、miR結合を改善した。各miR-TSコピーの配列は、同族成熟miRの完全長配列に対する100%相同体を有する。下のパネル(ヌクレオチド配列):(1)-配列番号3;(2)-配列番号4;(3)-配列番号5。 本発明の感染性cDNA構築物の核酸配列は:5’-AAGCGATCGCTCGAGGATAGGCACCTCACGCGAGCCGAACGAACAAAtataTCACGCGAGCCGAACGAACAAAgcgcTCACGCGAGCCGAACGAACAAAAATGACCGTGGTTTAAA-3’(配列番号6、miR-375TS構築物)を含む核酸配列、または:5’-TCACGCGAGCCGAACGAACAAAtataTCACGCGAGCCGAACGAACAAAgcgcTCACGCGAGCCGAACGAACAAA-3’(配列番号7、スタッファー配列がないmiR-375TS構築物)を含む核酸配列、または:5’-AGCGATCGCTCGAGGATAGGCACCTCACGCGAGCCGAACGAACAAAtataTCACGCGAGCCGAACGAACAAAgcgcATACATACTTCTTTACATTCCAaggcctatATACATACTTCTTTACATTCCA-3’(配列番号8;miR-375TS/miR-1TS構築物)を含む核酸配列、または:5’-TCACGCGAGCCGAACGAACAAAtataTCACGCGAGCCGAACGAACAAAgcgcATACATACTTCTTTACATTCCAaggcctatATACATACTTCTTTACATTCCA-3’(配列番号9;スタッファー配列がないmiR-375TS/miR-1TS構築物)を含む核酸配列によって定義される。 配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9に関して:存在するとすればスタッファー配列はイタリック体で書かれる大文字を有する。各miR-TSは下線が引かれ、大文字で書かれている。4~8個のヌクレオチドのスペーサー配列(イタリック体および小文字で示された)。配列番号8および配列番号9の最後のスペーサー配列(aggcctat)は、aggcatによって置き換えることもできる。配列番号6および配列番号7の最後のスペーサー配列(gcgc)は、(gcgt)によって置き換えることもできる。 本発明の感染性cDNA構築物のコクサッキーウイルスB3(CVB3)のゲノム配列は:
を含むCVB3 H3の核酸配列によって定義される。
あるいは、本発明の感染性cDNA構築物のコクサッキーウイルスB3(CVB3)のゲノム配列は、CVB3 PD-0、例えば:
を含むCVB3 rPDの核酸配列によって定義される。
C.miR-375とmiR-375TSとの間、およびmiR-1とmiR-1TSとの間の配列比較。ヌクレオチド配列:成熟hsa-miR-375 - 配列番号12;miR-375TS - 配列番号13;成熟hsa-miR-1 - 配列番号14;miR-1TS - 配列番号15。
D.HeLa細胞におけるmiR-TS搭載ウイルスの複製動態。HeLa細胞をそれぞれのウイルスのMOI 0.1で感染させ、感染後(p.i.)4、24、48および72時間で採取した細胞ライセートでプラークアッセイを行って、ウイルスの力価を決定した。データは、それぞれが3連の3つの独立した実験の平均±SEMを表す。
E.HeLa細胞におけるmiR-TSウイルスおよび親CVB3-H3変異株のプラーク形態。全てのウイルスが類似したプラークサイズを示した。
F.miR-34aの発現レベル。様々なヒト結腸直腸癌細胞株(Colon-26、Caco-2、LS174T、Colo320、Colo680h、DLD1、Colo205)、マウス膵臓および心臓におけるmiR-34aの相対的発現レベル。定量化はqRT-PCRによって決定した。各miR発現レベルを、同じ試料中のU6 RNAの発現レベルに対して正規化した。膵臓のmiR発現レベルを1に設定した。注記:心臓のmiR-1発現レベルおよび膵臓のmiR-375発現レベルと比べて、miR-34aの発現は両方の臓器でそれぞれ約100分の1および30分の1であった(結果未掲載)。
インビトロでのmiR-375およびmiR-1によるH3N-375TSおよびH3N-375/1TSの阻害を示す図である。 A.miR-375またはmiR-1を一過性にトランスフェクトしたHEK-293T細胞におけるmiR-TS複製の阻害。HEK293T細胞は、miR-1もしくはmiR-375発現プラスミドまたはGFPを発現する対照プラスミドをトランスフェクトした。24時間後、細胞を0.1のMOIでH3N-375/1TS、H3N-375TSまたはH3N-39TSに感染させた。24時間後、細胞培養物の凍結および解凍によってウイルスを放出し、ウイルス子孫の生成をプラークアッセイによって決定した。 B.miR-375を内因的に発現するEndoC-βH1細胞におけるmiR-TS複製の阻害。ヒト膵臓EndoC-βH1細胞を1のMOIでH3N-39TS、H3N-375TSまたはH3N-375/1TSに24時間感染させ、Aに記載したようにウイルスを放出し、プラークアッセイを実行した。 ヒト結腸直腸癌細胞株DLD-1におけるH3N-375TSおよびH3N-375/1TSの複製および細胞傷害性を示す図である。 A.増殖動態。示されたウイルスのMOI 1(上の図)または0.01(下の図)でDLD-1細胞を感染させ、試料をp.i.4時間、24時間、48時間および72時間で採取し、ウイルス子孫の生成をプラークアッセイによって測定した。 B.感染後のCVB3 VP1および細胞CVB3標的遺伝子の発現。左のパネル:DLD-1細胞に示されたウイルスをMOI 10で接種した。24時間後、CVB3 VP1ならびに細胞タンパク質eIF4G、切断型eIF4G、カスパーゼ3、切断型カスパーゼ3、PARPおよび切断型PARPについてウエスタンブロッティングによって細胞を分析した。内部ローディング対照はγ-チューブリンであった。モック(Mock):未処理細胞。右の図:示された遺伝子の発現の定量化は、ImageJデンシトメトリーソフトウェア(http://imagej.nih.gov/ij)を使用するデンシトメトリー分析によってγ-チューブリンの発現と比べて実行した。aU、任意単位。 C.細胞傷害性。細胞を1、10および100のMOIで示されたウイルスに感染させ、24時間、48時間および72時間後、細胞生存率をXTTアッセイで決定した。モック:未処理細胞。 A.~C.:データは、3連(AおよびC)または2連の(B)のどちらかの2つの独立した実験の平均±SEMを表す。 A.、C.:有意性:CVB3-H3で処理した細胞と比べたP<0.05;**P<0.01。n.s.、非有意。 皮下DLD-1細胞腫瘍を有するマウスにおけるH3N-375TSおよびH3N-375/1TSの生体内分布および複製を示す図である。 A.異なるマウス組織およびDLD-1細胞腫瘍におけるmiR-TSウイルスの複製。DLD-1細胞腫瘍をBalb/Cヌードマウス(各群n=4)の両側腹部で確立し、腫瘍が直径約0.5cmに達したとき、示されたmiR-TSウイルス3×10pfuを腫瘍内注射した。感染後4日目で動物を屠殺した。ウイルス量を心臓、脾臓、肝臓、および脳ならびに注射腫瘍および非注射対側腫瘍のプラークアッセイによって決定した(左の図)。膵臓では、qRT-PCRによってウイルスコピー数を決定した(右の図)。注記、分析の時点で、H3N-39TS対照ウイルスに感染した動物全てが瀕死の状態であったのに対し、H3N-375TS-およびH3N-375/1TS感染マウスで見られた有害作用はなかった。1匹の動物(H3N-375TSまたはH3N-375/1TS治療群の各々)の対側非注射腫瘍は発生しなかった。データは、動物ごとにおよび各群の中央値として示されている。 B.膵臓および心臓の組織学的検査。屠殺した動物の膵臓および心臓の組織試料をホルマリンで固定し、H&Eで染色した。画像:示されているのは、各ウイルス感染群からの動物の代表的なスライドである。対照:未治療動物。トップが開いている矢印:ランゲルハンス島;トップが塗りつぶされた矢印:膵管;膵外分泌部の壊死断面;黒星、膵外分泌部インタクトな腺房細胞。図。膵臓および心臓の病理学的変化の程度は、0(なし)~5(高い)の範囲の採点システムによって決定した。データは動物ごとにおよび各群の平均値として示されている。膵臓の完全な破壊を示したH3N-39TS治療マウスに関して、ウイルス感染マウスの膵臓の病理学的変化は検出されなかった。1匹のH3N-375TS感染マウスの心臓でのみ組織損傷の辺縁徴候を有する組織が検出された。 DLD-1細胞腫瘍を有するマウスの長期治療後のH3N-375TSおよびH3N-375/1TSの安全性および腫瘍溶解効率を示す図である。DLD-1細胞腫瘍をBalb/Cヌードマウスの両側腹部で確立した。腫瘍サイズが直径約0.5cmに達したとき、腫瘍の1つに3×10pfu H3N-375TS(n=4)またはH3N-375/1TS(n=4)を注射した。注射の2日後および4日後、3×10pfuの同じウイルス用量を使用してウイルス注射を繰り返した。最初のウイルス注射の35日後に動物を屠殺した。 A.H3N-375TS感染マウスの腫瘍増殖。対照:PBS注射腫瘍;治療群:ウイルス注射腫瘍;未治療群、対側非注射腫瘍。データは、各群の平均値±SEMとして示されている。有意性:**P<0.01。 B.動物ごとに示されたA.のデータ。 C.H3N-375TSの生体内分布およびウイルス量。ウイルス量は心臓、脾臓、肝臓、および脳ならびに注射腫瘍および非注射対側腫瘍のプラークアッセイによって決定した(左の図)。膵臓では、qRT-PCRによってウイルスコピー数を決定した(右の図)。データは、動物ごとにおよび各群の中央値として示されている。注記、3つのウイルス感染腫瘍の完全寛解のため、H3N-375TS力価は1つの腫瘍でのみ決定した。 D.H3N-375TS感染マウスの血中H3N-375TS力価。注記:M1(マウス#1)、M2(マウス#2)、M3(マウス#3)、M4(マウス#4)。ウイルスはM3およびM4の血中では検出されなかった。 E.H3N-375TSおよびH3N-375/1TS感染マウスの膵臓および心臓の組織学的検査。組織試料は図4Bのように調製した。示された画像は、示された群からの動物の代表的な画像である。対照:未治療動物。ウイルス感染動物の膵臓または心臓のどちらでも検出された病理学的変化はなかった。 F.H3N-375/1TS感染マウスの腫瘍増殖。対照:PBS注射腫瘍;治療群:ウイルス注射腫瘍;未治療群、対側非注射腫瘍。データは、各群の平均値±SEMとして示されている。有意性:P<0.1、**P<0.01。 G.動物ごとに示されたEのデータ。 H.H3N-375/1TSの生体内分布およびウイルス量。ウイルス量をCのように決定し、示す。 I.H3N-375/1TS感染マウスの血中H3N-375/1TS力価。M1(マウス#1)、M2(マウス#2)、M3(マウス#3)、M4(マウス#4)。ウイルスはM4の血中では検出されなかった。 J.カプラン・マイヤー生存曲線。有意性:P=0.0041。注記:H3N-39TS感染マウスはウイルス注射後4日目で瀕死の状態であり、動物福祉ガイドラインに従って屠殺した。 K.H3N-375TS治療DLD-1腫瘍マウスの画像。H3N-375TS治療マウス:トップが塗りつぶされた矢印(写真の左側)は非注射腫瘍を示し、トップが開いている矢印(写真の右側)はウイルス注射腫瘍の部位を示す(注記:有望なことにこのマウスで検出された腫瘍はなかった);未治療対照マウス:トップが塗りつぶされた矢印(写真の左側)は非注射腫瘍を示し、トップが開いている矢印(写真の右側)はPBSを注射された腫瘍を示す。画像は、腫瘍細胞注射後29日目に撮影された。 回収した腫瘍におけるMiR-375およびmiR-1発現レベルならびにH3N-375TSおよびH3N-375/1TSの遺伝的安定性。 A.腫瘍接種後35日目のH3N-375TS-およびH3N-375/1TS注射DLD-1腫瘍におけるmiR-375およびmiR-1の発現レベル。 miR-1およびmiR-375の発現レベルは定量RT-PCRによって決定した。発現レベルをU6 snRNA発現レベルに対して正規化した。データは、インビトロ培養DLD-1細胞で決定した発現レベルと比べて示されている(設定=1)。膵臓および心臓組織をPBS治療対照マウスから回収した。注記:調べた試料は、図4に記載された実験で使用した動物および図5に記載された実験で使用した動物由来である。 B.H3N-375TSおよびH3N-375/1TSにおけるmiR-TSの遺伝子解析。ウイルスRNAを回収した腫瘍ホモジネートから単離し、miR-TSを含有する領域をRT-PCRによって増幅し、クローニングした。3つのクローンのMiR-TSを配列決定し、H3N-375TSおよびH3N-375/1TSを最初に挿入したmiR-TSの配列(本明細書ではコンセンサスと呼ばれる)と比較した。miR-TSは太字+大文字で示され、miR-TS間のスペーサー配列はイタリック体および小文字で示されている。ヌクレオチド置換に下線が引かれている。5’miR-TSコピーの上流のスタッファー配列はイタリック体および小文字(「スタッファー」によって示された)で示されている。配列の5’末端の第1の3個のヌクレオチドは、ウイルスのポリタンパク質コード配列のオープンリーディングフレームの終止コドンを表す。注記:調べた試料は、図5に記載された実験で使用した動物由来である。上のパネル(ヌクレオチド配列):コンセンサスmiR-375TS構築物-配列番号16;H3N-375TS、腫瘍pi(の移植後(post implantation of))32日:1.-配列番号17;2.-配列番号18;3.-配列番号19。下のパネル(ヌクレオチド配列):コンセンサスmiR-375TS/miR-1TS構築物-配列番号20;H3N-375TS/1TS、腫瘍pi(の移植後)32日:1.-配列番号21;2.-配列番号22;3.-配列番号23。 H3N-375TSおよびH3N-375/1TSの組織分布を示す図である。 DLD1細胞腫瘍をBalb/cヌードマウスの両側腹部で確立した。腫瘍サイズが直径約0.5cmに達したとき、腫瘍の1つに3×10pfu H3N-375TS(n=6)またはH3N-375/1TS(n=6)の単回投与を注射した。ウイルス注射の10日後(H3N-375TS)および20日後(H3N-375/1TS)に動物を屠殺した。 A.ウイルス生体内分布。ウイルス量を心臓、脾臓、肝臓、および脳ならびに注射腫瘍および非注射対側腫瘍のプラークアッセイによって決定した。膵臓では、qRT-PCRによってウイルスコピー数を決定した。データは、動物ごとにおよび各群の中央値として示されている。 B.膵臓および心臓の組織学的検査。画像:屠殺した動物の膵臓および心臓の組織試料をホルマリンで固定し、H&Eで染色した。示されているのは、両方のウイルス感染群からの動物の代表的なスライドである。注記:心臓および膵臓からの上の画像は、病理学的変化のないインタクトな組織を示している。下の画像は、心臓に炎症性細胞(矢印)の浸潤を有する動物からのものである。図:膵臓および心臓の病理学的変化の程度は0(なし)~5(高い)の範囲の採点システムによって決定した。データは動物ごとにおよび各群の平均値として示されている。
以下の実施例は、前記実施例に本発明を限定することを意図することなく、意図したように本発明を実行する実行可能な方法を例示する。
細胞株
HeLa細胞を、5%ウシ胎仔血清(FCS)および1%ペニシリン-ストレプトマイシンを補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Gibco、カールスルーエ、ドイツ)で培養した。HEK293T細胞株を、10% FCS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン、1%L-グルタミンおよび1mMピルビン酸Naを補充したDMEM高グルコース(Biowest、ダルムシュタット、ドイツ)で培養した。結腸直腸癌細胞株DLD-1を、10%FCS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン、1%L-グルタミンおよび1mMピルビン酸Naを補充したRPMI 1640で増殖させた(Invitrogen、カールスルーエ、ドイツ)。ヒトインスリノーマEndoc-βH1細胞を、以前に記載されているように培養した(Scharfmann et al. 2014)。胚性マウス心筋細胞(EMCM)を胎生14日目にC57BL/6マウスから得、以前に記載されているように培養した(Spur et al. 2016)。
ウイルス
CVB3株H3は、Polyethylenimine Max(Polysciences,Inc.、ウォリントン、PA)を使用して、プラスミドpBK-CMV-H3を含有するcDNA(Andreas Henke、Institute of Virology and Antiviral Therapy、University of Jena、イェーナ、ドイツによる好意により供給された)のHEK293T細胞へのトランスフェクションによって生成した。H3N-375TSおよびH3N-39TSの生成および作製は、以前に記載されている(Pinkert et al. 2020);方法、2.1ならびに図2ならびにmiR-375TS構築物3’UTRおよび5’UTR参照。さらに(Pryshliak et al. 2020)、材料および方法、プラスミドおよびウイルスパート参照)。それぞれmiR-375TS(5’-TCACGCGAGCCGAACGAACAAA-3’、配列番号1)およびmiR-1TS(5’-ATACATACTTCTTTACATTCCA-3’、配列番号2)の2つのコピーをコードするH3N-375/1TSを、miR-375TSの最後のコピーの代わりにmiR-1TSの2つのコピーをH3N-375TSゲノムの3’UTRに挿入して構築した。miR-1TSセンスプライマー
(5’-TCCAAGGCCTATATACATACTTCTTTACATTCCATTAGAGACAATTTGATCTGATTTGA-3’、配列番号24;下線はmiR-1TSセンスを示す)およびアンチセンスプライマー
(5'-TATATAGGCCTTGGAATGTAAAGAAGTATGTATGCGCTTTGTTCGTTCGGCT-3'、配列番号25;下線はmiR-1TSアンチセンスを示す)を、オンラインInfusionプライマー設計ツール(タカラバイオ株式会社、日本)を使用して設計し、H3N-375TSのcDNAを含有するプラスミドpMKS1-H3N-375TS((Pinkert et al. 2020);方法、2.1および図2参照)を使用して、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ株式会社)により製造者の説明書に従ってクローニングを行った。得られたプラスミドをpMKS1-H3N-375/1TSと名付けた。インビトロT7転写キット(Roboklon GmbH、ベルリン、ドイツ)を使用して、pMKS1-H3N-375TSおよびpMKS1-H3N-375/1TSからウイルスRNAを得た。2μgのウイルスRNAをHEK293T細胞にトランスフェクトし、完全な細胞溶解が観察されたら細胞プレートを-80℃で保管した。3回の凍結解凍サイクル後、細胞残屑を遠心分離によって清澄化した。より高い力価を得るために、全てのウイルスをHeLa細胞で増幅した。インビボ実験用にウイルスを精製し、以前に記載されているようにスクロース勾配で濃縮した(Pinkert et al. 2020)。
ウイルスプラークアッセイ
ウイルスプラークアッセイは、以前に記載されているように実行し(Fechner et al. 2008)。簡単には、HeLa細胞をコンフルエントな単層として24ウェル培養プレートで培養した。24時間後、培地を除去し、ホモジナイズしたマウス臓器から回収した連続10倍(-2~-8)希釈上清で細胞を覆い、その後3回の凍結/解凍サイクルを行い、次いで37℃で30分間インキュベートし、上清の除去後、イーグル最小必須培地(MEM)を含有する寒天で覆った。3日後、1×3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミドヨードテトラゾリウムクロライド(MTT/INT)溶液で細胞を染色した。染色1時間後にプラークを計数してウイルス力価を決定した。
増殖曲線
HeLa(1×10)およびDLD-1(1×10)を6ウェルプレートに完全コンフルエントに播種し、24時間後、細胞を0.1(HeLa細胞)のMOI(感染多重度)または1もしくは0.01(DLD-1細胞)のMOIでそれぞれ1時間感染させた。その後、ウイルス溶液を除去し、細胞をPBSで洗浄した。2ml新鮮培地を添加し、細胞プレートを37℃および5%CO2でインキュベートした。感染後(p.i.)4時間、24時間、48時間および72時間に100μl上清を採取して、ウイルス滴定のためにプラークアッセイを行った。
MiR発現解析
細胞またはマウス組織からの全RNAを、Life Technologies TRIZOL試薬を使用して製造者の説明書に従って単離した。全RNAをDNAse I(Peqlab、エルランゲン、ドイツ)で消化し、高容量cDNA逆転写キット(Applied Biosystems、フォスターシティ、CA、米国)を使用して逆転写した。miR-375(アッセイ ID;000564)、miR-1(アッセイID;002222)、miR-34(アッセイID;000426)およびmiR-16(アッセイID;000391)の発現レベルを、Life Technologies製のTaqMan遺伝子発現マスターミックスおよび特異的TaqMan遺伝子発現アッセイを利用して製造者の説明書に従って決定した。リアルタイムPCRを、C1000 Thermal Cyclerと組み合わされたCFX96 Real-Time System(Bio-Rad)を使用して行った。ΔΔCT方法を使用してデータを解析し、結果を細胞株および組織のU6 snRNA(アッセイID;001973)レベルに対して正規化した。
MiR-TSの遺伝的安定性
ウイルスRNAを、回収した腫瘍または組織ホモジネートから高いPureウイルス核酸キット(Roche、マンハイム、ドイツ)を用いて製造者のプロトコールに従って単離した。DNase I消化(Peqlab、エルランゲン、ドイツ)後、アンチセンスプライマー(5’-CTACTGCACCGTTGTCTAG-3’、配列番号26)を用いる高容量cDNA逆転写キット(Applied Biosystems Inc.、フォスターシティ、CA)を使用してウイルスRNAを逆転写した。その後、センス(5’-CCATAGATGCGTCTTTGCT-3’、配列番号27)およびアンチセンスプライマー(5’-CCGTTGTCTAGTTCGGTT-3’、配列番号28)を用いてPCRを行って、miR-TSを含有するウイルスゲノムのヌクレオチド6923~7374の領域を増幅した。CloneJET PCR Cloning Kit(Thermo Fisher Scientific)を使用して製造者のプロトコールに従ってPCR断片をプラスミドにサブクローニングした。配列決定は、プライマー:5’-CAGGAGCGTCCCAGTTGG-3’(配列番号29)を利用した。
ウエスタンブロット
ウエスタンブロットは、以前に記載されているように(Pryshliak et al. 2020)実行した。簡単には、20mM TRIS/HCl、pH8.0、140mM NaCl、1mM EDTA、1% Triton X-100、1%プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma-Aldrich、タウフキルヘン、ドイツ)および1%ホスファターゼ阻害剤カクテル(Calbiochem、サンディエゴ、CA、米国)を含有する緩衝液で細胞を溶解し、タンパク質濃度をBCAアッセイ(Thermo Fisher Scientific)によりを測定し、細胞抽出物をSDS-PAGEによって分離した。免疫ブロットを、Sigma-Aldrich製の一次抗ガンマチューブリン抗体および抗eIF4G、切断型カスパーゼ3およびCell Signaling Technology(ダンバーズ、MA、米国)製の抗PARB抗体を用いて実行した。CVB5株Faulkner由来のVP1に対するモノクローナル抗VP1抗体を生成した。遺伝子発現の相対的定量化を、ImageJデンシトメトリーソフトウェア(http://imagej.nih.gov/ij)を使用するデンシトメトリー分析によって実行した。
miRをトランスフェクトしたHEK293T細胞におけるウイルスサイレンシング
60%コンフルエントなHEK293T細胞に、PEI Maxトランスフェクション試薬を用いて800ng miR発現プラスミド;miR-1を発現するpCMV-miR-1、miR-375を発現するpCMV-miR-375、および対照としてGFPのみを発現するpCMV-miR(Origene Technologies、ロックビル、MD、米国)をトランスフェクトした。GFPシグナルを蛍光顕微鏡でトランスフェクション効率について監視した。トランスフェクション24時間後に培地を捨て、細胞に37℃で30分間ウイルスを接種した(MOI 0.1)。ウイルス溶液の除去後、新鮮培地を添加した。ウイルス感染24時間後に細胞を3回の凍結/解凍サイクルに供し、細胞ライセートを遠心分離して細胞残屑を除去した。上清をプラークアッセイによるウイルス力価の決定に使用した。
細胞生存率
細胞生存率は、Cell増殖Kit(XTT)(Promega GmbH、ヴァルドルフ、ドイツ)を使用して製造者の説明書に従って評価した。簡単には、細胞を96ウェルプレート上に播種し、1、10または100のMOIで感染させた。示された時点で、V-650 Spectrophotometer(Jason Inc.ミルウォーキー、WI、米国)を使用して吸光度レベルを測定した。陰性対照として、細胞を5% Triton X-100溶液で処理した。
組織病理学的分析
マウス組織および移植したヒト腫瘍を4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋した。5μm厚組織切片を切断し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色して可視化し、細胞破壊および炎症を定量化した。膵臓および心臓の損傷を、以前に記載されているように(Wang et al. 2019)、臓器における免疫細胞による浸潤、壊死、病変領域、細胞空胞化および石灰化を含む採点システム(0-検出可能な病理学的変化なし~5-組織全体の広範囲の病理学的変化)によって決定した。
インビボ実験
動物実験は、実験用動物管理の指針および動物保護に関する全てのドイツの法律に従って行った。ヒト結腸直腸DLD-1細胞(5×10個細胞)を、6週齢メスBALB/cヌードマウスの右および左側腹部に皮下異種移植した。腫瘍量をハンドキャリパーで毎日測定した。腫瘍サイズが直径0.4~0.5cmに達したとき、腫瘍の1つに3×10pfuのウイルスを腫瘍内注射した。短期研究に関して動物はウイルスの単回投与を受け、p.i.4日、10日または20日に屠殺された。長期試験に関して、動物に0、2および4日目に3回注射し、最初のウイルス注射の32日後に調べた。対照マウスにはPBSを腫瘍内注射した。
統計解析
統計解析は、Graph-Pad Prism 8.2(GraphPad Software,Inc.、ラホヤ、CA、米国)を用いて行った。結果は各群の平均値±SEMとして表す。細胞培養研究については対応のない両側スチューデントt検定を使用して、インビボ研究についてはマン・ホイットニーU検定を使用して統計的有意性を決定した。生存曲線を、カプラン・マイヤー法および(ログランク検定)によって決定した統計的有意性に従ってプロットした。差はp<0.05で有意とみなした。
実験の説明
適切なmiRの決定は、適切なmiR脱標的化を達成するための極めて重要なステップである。最も重要なことに、miRは、腫瘍では弱く発現されるかまたは欠けているが、望ましくないウイルス複製が起こる健康な臓器では豊富に発現されるはずである。最近、腫瘍抑制因子miRであるmiR-34aはこの要件を満たし、対応するmiR-34aTSを有する改変CVB3が、肺がんのマウスモデルで膵臓および心臓からうまく脱標的化されたことが示された(Jia et al., 2019)。しかし、がんの不均一性は、腫瘍抑制因子miRの可変発現を引き起こす可能性がある。本発明の発明者らは、結腸直腸がんでのmiR-34aの高発現を見出した。さらに、miR-34aの発現レベルは、膵臓および心臓での発現レベルと類似しており(図1F)、膵臓および心臓だけでなく結腸直腸がん細胞でも脱標的化されることから、miR-34a脱標的化戦略は結腸直腸がんに適さないものになる可能性が高い。したがって、本発明の発明者らは、膵臓および心臓からCVB3を脱標的化する別のアプローチを発見することを目標にした。本発明者らの以前の研究では、本発明者らは、miR-375に相補的なmiR-TSを搭載されたCVB3に感染した結腸直腸がん細胞培養株がインビトロで高い複製を示し、腫瘍細胞傷害性を誘導したことを示すことができた。その程度は、miR-TSがCVB3転写物のポリタンパク質コード領域の3’UTRで挿入された場合に5’UTRと比べてより顕著であり、MiR-375は、ヒト膵臓組織で最も豊富に発現されるmiRであるが、結腸直腸癌細胞株では弱く発現されることが見出された。(Pinkert et al. 2020)では、本発明者らは、miR-375に相補的なmiR-TSを搭載されたCVB3がNMRIマウス(腫瘍移植関係が全くない)に腹腔内投与した場合、これらのマウスは膵臓感染をきたさないことを示すことができた。しかし、治療様式によっては、マウスは心臓CVB3感染を発症し得た。これは、CVB3を静脈内投与した場合に当てはまった:それぞれの動物は、心臓のウイルス感染に起因する中程度の心筋炎を発症した。心臓のウイルス力価は2.6×10pfu/gに達した。さらに、NMRIマウスへのH3N-375TSの静脈内適用は、心筋線維症および、miR-375TSを有するCVB3 RNAゲノムの持続を特徴とする慢性心筋炎ももたらしたが、複製ウイルスの欠如は非常に有望であった。ウイルスを腹腔内投与した場合、さらにより有望なことに心筋炎は検出することができなかった。この仮説に束縛されるものではないが、この理由には以下が考えられる:マウスにおいて膵臓はCVB3に最も感受性の高い臓器であり、ウイルスが他の臓器に広がっていくCVB3感染の原発部位である。したがって、これらの以前の観察は、膵臓におけるウイルス複製のブロック(CVB適用様式が腹腔内の場合)が心臓のような他の臓器の感染を防止し、治療用CVB3の安全性を高める主な原因となることを示している。したがって、標的化される腫瘍細胞に特異的複製を限定するための追加の修飾を導入することによって、治療用CVB3の安全性をさらに高める大きな関心がある。この戦略は理想的には、膵臓に加えて特に心臓のウイルス感染および心筋炎も特に予防するために、投与様式と無関係であるべきである。
[実施例1]
膵臓特異的miR-375および心臓特異的miR-1は結腸直腸がん細胞株で下方制御される
miR-TS搭載腫瘍溶解性ウイルスの選択的サイレンシングのために、対応するmiRは、ウイルス複製が抑制されなければならない組織では高度に発現されるべきであるのに対し、標的化された腫瘍/がん細胞ではその発現は低いかまたは欠如しているべきである。ここで本発明者らは、膵臓特異的発現miR-375に注目した。安全対策をさらに強化し、感染性構築物が心臓組織を感染させないことを保証するために、心臓特異的発現miR-1発現もテストした。まず、両方のmiRの膵臓および心臓発現を結腸直腸癌での発現レベルと比較するために、7つの結腸直腸癌細胞株、マウス膵臓および心臓組織、ならびに膵臓細胞株EndoC-βH1および胚性マウス心筋細胞(EMCM)をmiR-375およびmiR-1の発現について調べた。定量RT-PCRを使用して、本発明者らは、miR-375が膵臓およびEndoC-βH1細胞で高度に発現され、結腸直腸癌細胞株、マウス心臓およびEMCMで弱く発現される(膵臓と比べて少なくとも200分の1)ことを見出した。MiR-1は、心臓で強く発現され、心臓と比べてEMCMで約40倍弱く発現され、膵臓および結腸直腸癌細胞株で少なくとも400倍より弱く発現された。本発明者らは、両方のmiRがマウス脾臓、肝臓および脳で弱く発現されることも見出した。CVB3はこれらの組織も感染させることができるため、これは重要である。さらに、ウイルス作製に使用されるHeLaおよびHEK293T細胞は、miR-375およびmiR-1を非常に低レベルで発現した(図1A)。したがって、miRは両方とも、生物工学により作られた腫瘍溶解性CVB3のサイレンサーとして使用するために不可欠な要件を満たした。マウス膵臓および心臓におけるmiR-375およびmiR-1それぞれの高発現、ならびに結腸直腸癌細胞におけるこれらのmiRの低発現または欠如をこの試験で確認した。したがって、miRは両方ともCVB3複製の阻害剤として使用するために最も不可欠な要件を満たした。
[実施例2]
miR-TSのCVB3ゲノムへの挿入はHeLa細胞でのウイルス複製に影響を与えない
この理論に束縛されるものではないが、マウスにおける以前の観察は、膵臓が、血流を介したウイルスの分布およびその後の心臓CVB3感染に不可欠なCVB3複製の原発部位であることを示唆している。したがって、本発明者らは、膵臓でのウイルス複製が膵臓特異的miRによって抑制される場合、膵臓、および心臓はCVB3感染から保護され得ると仮定した。これを証明するために本発明者らは、本発明者らのグループによって最近改変されたmiR-375TSの3つのコピーを含有するCVB3株H3の変異株である、(Pinkert et al. 2020)に記載のH3N-375TSを使用した。さらに、本発明者らは、miR-375TSの2つのコピーおよびmiR-1TSの2つのコピーをH3骨格に含有するH3N-375/1TSを新たに開発した。本発明者らは、miR-1TSの追加の挿入により、ある特定の状況では心臓でのウイルス複製が、H3N-375TSの複製より強く阻害されると予想した。本発明者らおよび他の研究者はこの領域がmiR-TSもよく許容することを見出したため、両ウイルスではCVB3ポリタンパク質コード配列の終止コドンのすぐ下流、ウイルスゲノムの3’UTRにmiR-TSを挿入した(図1B)。miR-375TSおよびmiR-1TSは両方とも、それぞれ仮説上のヌクレオチド塩基対合に関して、その対応するmiR-375およびmiR-1に100%相補的であった(図1C参照)。
miR-TS挿入が、改変されたウイルスの増殖それ自体に影響を与えるか評価するために、本発明者らは、高感受性のHeLa細胞におけるその増殖動態を72時間にわたって決定し、それらをCVB3-H3および、哺乳動物細胞では発現されないcel-miR-39のmiR-TSを有する対照ウイルスH3N-39TSの増殖動態と比較した。図1Dに示すように、有益なことにウイルス増殖に差はない。全てのウイルスは急速に増殖し、感染後24時間までには既にプラトーに達した。さらに、ウイルスプラークサイズは全てのウイルスで類似していた(図1E)。これは、miR-TSの挿入にもかかわらず、ウイルス複製がこの細胞株では影響を受けなかったことを明確に示すものである。
[実施例3]
H3N-375TSおよびH3N-375/1TSは同族miRに感受性である
H3N-375TSおよびH3N-375/1TSの複製が同族miRによって阻害され得るか調べるために、本発明者らはまず、HEK293T細胞にmiR-375発現対照プラスミド、miR-1発現対照プラスミドまたはGFP発現対照プラスミドをトランスフェクトし、24時間後、細胞を0.01 MOIのH3N-375TS、H3N-375/1TSまたは対照ウイルスH3N-39TSに24時間感染させた。H3N-375TSは、miR-375をトランスフェクトした細胞で8.4倍阻害されたが、miR-1トランスフェクト細胞では影響を受けないままであったのに対し、H3N-375/1TSは、miR-375およびmiR-1トランスフェクト細胞の両方でそれぞれ17.7倍および11.3倍阻害された。H3N-39TS複製は、miR-375トランスフェクト細胞でもmiR-1トランスフェクト細胞でも抑制されなかった(図2A)。
一過性発現miR-375およびmiR-1が、それぞれH3N-375TSおよびH3N-375/1TSを特異的に阻害することを実証したことから、本発明者らは次に、miR-375およびmiR-1を内因的に発現する細胞ではウイルス複製も抑制されるかを調べた(図1A)。したがって、EndoC-βH1細胞を、H3N-375TS、H3N-375/1TSまたはH3N-39TSのMOI 1で、およびEMCMをMOI 0.01で感染させた。24時間後、ウイルス力価をプラークアッセイによって測定した。EndoC-βH1細胞では、H3N-39TSは強く伝播し、約10pfu/mlのウイルス力価の生成をもたらしたのに対し、H3N-375TSおよびH3N-375/1TSの複製は有意により低く、約10pfu/mlにしか達しなかった(図2B)。EMCMでは、H3N-375TS力価はH3N-39TSと比べて変わらなかった(約4.3×10pfu/ml)のに対し、H3N-375/1TSの力価はほぼ2桁低かった(約6×10pfu/ml)(図2C)。miR-375トランスフェクトHEK293T細胞と比べて、EndoC-βH1細胞におけるH3N-375TSおよびH3N-375/1TSの明らかに高い阻害は、前者では細胞の60%のみが、それぞれmiR-375発現プラスミドをトランスフェクトされた(GFPレポーターによる決定)のに対し、EndoC-βH1では全ての細胞がmiR-375を内因的に発現するという事実によって説明することができる。したがって、HEK293T細胞の一部のみがウイルスに対して保護されたのに対し、非トランスフェクト細胞ではウイルスは自由に複製した。これは、EndoC-βH1細胞と比べて、miR-375トランスフェクトHEK293T細胞におけるより高いウイルス力価およびウイルス複製のより低い阻害をもたらした。しかし、miR-1を内因的に発現するEMCMでのH3N-375/1TSの同程度の低い阻害によって示されるように、細胞タイプ特異的差異も、miR誘導ウイルス阻害の強度の差を説明する上で役割を果たしている可能性がある。
まとめると、これらの結果は、H3N-375TSおよびH3N-375/1TSが、同族miR-375およびmiR-1を発現する細胞で効率的および特異的に抑制されることを明らかに実証している。
[実施例4]
miR-TSの挿入は、結腸直腸癌細胞株DLD-1におけるH3N-375TSおよびH3N-375/1TSの増殖および細胞傷害性をわずかに低減する
ヒト結腸直腸癌細胞株DLD-1はCVB3-H3 18に非常に感受性であり、miR-375およびmiR-1を低レベルで発現する(図1A)。これは、この細胞株を、H3N-375TSおよびH3N-375/1TSの腫瘍溶解性能力を実証するのに適したものにする。第一に、本発明者らは、これらの細胞で両ウイルスの増殖動態を決定し、それらをH3N-39TSおよびCVB3-H3対照ウイルスの増殖動態と比較した。図3A(上の図)に示したように、高いMOI 1では、全てのウイルスが急速に増殖し、48~72時間後にプラトー達し、類似した増殖曲線を示した。しかし、ウイルス用量がMOI 0.01に低下すると(図3A、下の図)、ウイルス複製動態の差は明白になった。実際、3つのH3N-TSウイルスはCVB3-H3より低い増殖率を示した。DLD-1細胞におけるH3N-375TSおよびH3N-375/1TSの複製活性を、ウエスタンブロッティングによりCVB3 VP1およびCVB3標的遺伝子発現を調べて確認した。図3Bに示したように、VP1、切断型eIFG4、カスパーゼ3およびPARPは、H3N-375TS、H3N-375/1TS、H3N-39TSおよびCVB3-H3感染細胞で上方制御されたが、これらのタンパク質に関してウイルス間に有意差は認められなかった(図3B)。
細胞傷害性活性は、腫瘍溶解性ウイルスの第2の重要な特徴である。したがって、本発明者らは次に、DLD-1細胞におけるH3N-375TSおよびH3N-375/1TS誘導細胞殺傷活性を調べた。DLD-1細胞を1~100 MOIのどちらかのウイルス、またはH3N-39TSおよびCVB3-H3に感染させ、XTTアッセイによって細胞生存率を72時間にわたって決定した。各適用用量で感染後24時間および48時間、ならびに1 MOIのウイルス用量で感染後72時間のウイルス誘発細胞傷害性に差は認められなかった。しかし、細胞をMOI 10で感染させた場合、CVB3-H3と比べて全てのmiR-TSウイルスの有意により低い細胞傷害性が72時間で明白になった。細胞生存率は、親CVB3-H3については11%に達したのみであったのに対し、H3N-375TSでは42%、H3N-375/1TSでは39%、およびH3N-39TSでは29%に達した(図3C)。
まとめると、CVB3-H3のようなCVB3ウイルスのゲノムへのmiR-375TSおよびmiR-1TSの挿入は、有益なことに、DLD-1結腸直腸癌細胞におけるウイルス複製、ウイルスと細胞標的との相互作用、およびウイルス誘発細胞傷害性をわずかに損なうにすぎないことを結果は示している。
さらに、H3N-375TSおよびH3N-375/1TSの本発明者らのインビトロ研究は、miR-TS同族miRに対する両ウイルスの感受性を確認した。しかし、親CVB3-H3株と比べて両ウイルスは、結腸直腸DLD-1がん細胞においてわずかにより低い複製および細胞傷害性を示した。複製および細胞傷害性の低下はmiR-TS対照ウイルスを用いても見られたことから、本発明者らは、この細胞株において非常に低レベルで発現されるmiR-1および/またはmiR-37によって誘導される特異的サイレンシング効果の結果というよりむしろ、ウイルスゲノムへのmiR-TSの挿入それ自体がこれに関与していると仮定する。
[実施例5]
インビボでH3N-375TSおよびH3N-375/1TSは、同族miRを発現するマウス組織から脱標的化される
H3N-375TSおよびH3N-375/1TSのインビボでの安全性および腫瘍溶解活性を調べるために、本発明者らはヌードマウスの両側腹部で皮下DLD-1細胞腫瘍を確立し、腫瘍が約0.5cmのサイズに達したとき、一方の腫瘍に3×10pfu H3N-375TS、H3N-375/1TSまたは対照ウイルスH3N-39TSを注射した。動物が瀕死の状態になったウイルス注射4日後に、H3N-39TS感染マウスを屠殺した。予想した通り、マウスは心臓および膵臓、ならびに注射腫瘍および対側腫瘍に高量のウイルスを有した。さらに、中程度のH3N-39TSレベルが脾臓、肝臓および脳で見出された(図4A)。組織学的検査は膵臓の完全な損傷を確認したのに対し、心臓(図4B)または他の臓器(結果未掲載)では病理学的変化を検出することができなかった。H3N-375TS感染動物では、注射腫瘍および対側腫瘍のみが高いウイルス力価を示したが、これは、有望なことにH3N-39TS感染マウスの約10分の1~30分の1であった。重要なことには、動物の膵臓はウイルスを含まず、心臓のウイルス力価はH3N-39TS感染マウスの心臓よりはるかに低かった(約2,000倍)。さらに、注目すべきことに、H3N-375TSアプローチでは脾臓および肝臓もウイルスを含まず、4匹のうち1匹のみが脳で検出可能なウイルスを示した(図4A)。H3N-375/1TS感染マウスのウイルス分布および力価は、非常に有利には膵臓に次いで心臓もウイルスを含まない点を除いてH3N-375TS感染マウスでのものと類似していた(図4A)。したがって、非常に弱い心臓の炎症を示した1匹のH3N-375TS感染マウスを除いて(結果未掲載)、H3N-375TS-およびH3N-375/1TS感染マウスの心臓および膵臓、同様にこれらのマウスの他の臓器(結果未掲載)は、組織学的検査下でいずれの病理学的変化も示さなかった(図4B)。
したがって、これらのデータは、H3N-375TSが腫瘍感染マウスの膵臓で、ならびにH3N-375/1TSは膵臓および心臓で特異的に抑制されることを実証するものである。さらに、H3N-375TSおよびH3N-375/1TS複製の組織特異的miR-375およびmiR-1媒介阻害は、非常に有望なことには、miR-375またはmiR-1を発現しない組織のウイルス量も低減した(図4A参照)。
[実施例6]
インビボでH3N-375TSおよびH3N-375/1TSは、副作用を誘発することなくマウスにおける結腸直腸癌の増殖を効率的に阻害する
感染の直後のDLD-1腫瘍担持マウスの膵臓および心臓におけるH3N-375TSおよびH3N-375/1TS複製の阻害を示したことから、本発明者らは次に、長期治療アプローチでの両ウイルスの腫瘍溶解活性および安全性を調べた。腫瘍が約0.5cmのサイズに達したとき、腫瘍担持マウスは腫瘍内ウイルス投与(1回投与あたり3×10pfu)を受け、最初の注射の2日後および4日後に再び投与を受けた。初回注射後32日目に動物を屠殺した。H3N-375TSによる治療は、4匹中3匹のマウスで注射腫瘍の完全な退縮をもたらし、残りの動物では部分退縮をもたらした(図5A、K)。未治療対照動物の腫瘍と比べた場合、非注射対側腫瘍の増殖の有意な阻害も観察されたが、腫瘍増殖の阻害は感染腫瘍のものよりあまり顕著でなかった(図5B、K)。ウイルス量の分析は、4つの非注射対側腫瘍のうち3つで低いH3N-375TS力価を示したのに対し、1つのみは、注射腫瘍を増殖させ、正常な臓器はウイルスを含まなかった(図5C)。4匹中2匹はウイルス血症であった。ウイルス血症は、ウイルスが血流に入り、したがって身体の他の部分に到達する医学的状態である。しかし、前記2匹の血清力価は低かった(図5D)。興味深いおよび注目すべきことに:観察期間中、ウイルス関連有害作用は動物で観察されず、組織学的検査は心臓および膵臓の損傷および炎症をそれぞれ排除した(図5E)。
H3N-375/1TS感染マウスは、注射腫瘍および対側非注射腫瘍の増殖の有意な阻害も示した。しかし、増殖阻害は、H3N-375TS感染マウスよりわずかに弱く、完全な腫瘍退縮は認められなかった(図5F、G)。注射腫瘍の全て、およびまた4つの非注射対側腫瘍のうちの2つはウイルス力価が低かった(図5H)。ウイルス血症は、4匹のうち3匹で検出された(図5I)が、力価はH3N-375TS感染マウスにおけるよりわずかに高かった。H3N-375TS感染マウスで観察されたように、H3N-375/1TS注射マウスもウイルス関連有害作用を示さず、膵臓および心臓は病理学的変化がなかった(図5E)。重要および有望なことに、H3N-375TSおよびH3N-375/1TSに感染したマウスで死亡は認められず、その結果、対照ウイルスH3N-39TSのみを受け取ったマウスと比べて全生存期間は有意に延びた(図5J)。本発明者らはまた、それぞれ感染後(p.i.)10日および20日に分析したH3N-375TSおよびH3N-375/1TS感染動物も調べた。感染後32日で得られたデータと一致して、H3N-375TS感染マウスは膵臓にウイルスが認められず、心臓での力価が低かったのに対し、H3N-375/1TS感染マウスでは膵臓および心臓のウイルス力価は検出できなかった(図7)。
全てのインビボ治療動物は、有益なことに腫瘍内ウイルス注射後32日目の予定された実験終了まで生存し、ウイルス誘発疾病はこの期間中全く検出されなかった。miR-TS対照ウイルスは4日以内に動物を死滅させたことから、動物の生存の劇的な差は明白である。H3N-375TSおよびH3N-375/1TSの安全性は、明らかに膵臓および心臓でのウイルス複製を防いだことに起因した。実際、H3N-375/1TSは両方の臓器で検出されず、H3N-375/1TSの膵臓および心臓複製がmiR-375およびmiR-1によってうまく阻害されたことを裏付けた。H3N-375TSも膵臓から除去されたが、興味深いことに、ウイルスがmiR-1に感受性でなくてもH3N-375TS力価は心臓でも低下した。同様に、H3N-375TS-およびH3N-375/1TS感染動物の脾臓、肝臓および脳は(ごくわずかな例外を除き)ウイルスを含まなかったのに対し、miR-TS対照ウイルスに感染した動物では高い力価が検出された。これらの臓器での低いmiR-375およびmiR-1発現レベルに基づき、本発明者らは阻害の原因としてのmiR誘導阻害を排除した。両ウイルスはインビボでの有意な腫瘍溶解活性を示した。しかし、4つのH3N-375TS注射DLD-1細胞腫瘍中3つは完全な退縮を示したのに対し、H3N-375/1TS注射動物では腫瘍クリアランスが見られなかった。これは、後者のより低い腫瘍溶解活性を示すものである。
[実施例7]
MiR-1発現は、DLD-1単層と比べてDLD-1腫瘍バルクで強く増加する
H3N-375TSとH3N-375/1TSとの間に、インビトロでのDLD-1細胞における増殖動態および細胞傷害性の差は認められなかった。これは、H3N-375/1TSの内因活性がH3N-375TSのものより低いことを除外するものである。上に示したようにDLD-1腫瘍破壊は、H3N-375TS感染マウスにおけるよりH3N-375/1TS感染マウスで低かった。これが、増殖している腫瘍のmiR-1レベルの増加と関連し得るかを解明するために、本発明者らは、最初のウイルス注射後32日目に回収したDLD-1腫瘍バルクでのmiR-1発現を決定し、それをDLD-1細胞単層および心臓でのmiR-1発現と比較した。図6Aに示したように、明らかにDLD-1単層より多いmiR-1がDLD-1腫瘍バルクで実際に発現され、未治療腫瘍での125倍から、H3N-375TSおよびH3N-375/1TS注射腫瘍でのそれぞれ675倍および540倍に及んだ。しかし、最も高いmiR-1レベルでさえ、心臓で測定されたレベルより3桁をさらに超えて低かった。本発明者らは、DLD-1腫瘍およびDLD-1単層でのmiR-375発現も調べた。3~5倍のごくわずかな増加が腫瘍で検出され、絶対miR-375レベルはマウス膵臓でのレベルより100倍超低いままであった(図6A)。したがって、他の可能性のある阻害因子を考慮して、本発明者らは、miR-1がDLD-1細胞培養物と比べてDLD-1細胞腫瘍で125倍強く誘導されたことを見出した。さらに、ウイルス感染DLD-1腫瘍塊では、miR-1レベルは500倍超上昇した。
これらのデータは、確立された腫瘍においてmiR-1は強く上方制御されたが、心臓でのその発現と比べて発現は低いままであったことを実証するものである。したがって、DLD-1細胞腫瘍で内因的に上方制御されたmiR-1によるH3N-375/1TSの選択的阻害が、H3N-375TSと比べたH3N-375/1TSのインビボでの低い腫瘍溶解効力に対する最ももっともらしい説明であるように思われる。
[実施例8]
H3N-375TSおよびH3N-375/1TSは、搭載されたCVB3 cDNA構築物において両miR-TS配列の高い遺伝的安定性を示す
膵臓におけるH3N-375TS、ならびに膵臓および心臓におけるH3N-375/1TSの有害作用の欠如および複製の欠如は、両miR-TSウイルスの高い安定性を示唆している。このことを証明するために、本発明者らは、最初のウイルス注射後32日目の注射腫瘍から単離したH3N-375TSおよびH3N-375/1TSの各3つのクローンのmiR-TSボックスをクローニングし、配列決定した。1つのH3N-375TSクローンでは、miR-375TSボックスは完全にインタクトであったのに対し、他の2つのクローンではそれぞれ4個および2個のヌクレオチドが、3つのmiR-TSコピーのうちそれぞれ1つで変異していた。最も有望なことに、H3N-375/1TSでは、1つのクローンの1つのmiR-1TSに1個のヌクレオチド置換のみが検出されたのに対し、他のmiR-375TSおよびmiR-1TSコピーはインタクトであり(図6B)、高い遺伝的安定性を示した。
驚くべきことに、本発明の文脈においてこれらのデータは、H3N-375TSおよびH3N-375/1TSが、搭載されたCVB3 cDNA構築物における両方の各miR-TS配列の高い遺伝的安定性を示し、H3N-375/1TSはさらにより顕著なものであることを示している。
[実施例9]
インビトロおよびインビボデータ
マイクロRNAの重要性を調べるために、2つのウイルス、miR-375TSのみを含有するH3N-375TS、ならびにmiR-375TSおよびmiR-1TSを含有するH3N-375/1TSを上記のように改変した。インビトロでは、両ウイルスは、非標的化対照ウイルスH3N-39TSと同様に結腸直腸癌細胞で複製し、結腸直腸癌細胞を溶解したのに対し、対応するマイクロRNAを一過性または内因的に発現する細胞株では強く減弱された。
インビボでは、対照ウイルスH3N-39TSは膵臓および心臓の強い感染を誘導し、単回腫瘍内ウイルス注射後4日以内に、結腸直腸DLD-1細胞腫瘍を異種移植したマウスに致命的疾患をもたらした。対照的に、H3N-375TSまたはH3N-375/1TSの3回の腫瘍内注射は、ウイルス誘発疾病を誘導しなかった。該動物において、両ウイルスは膵臓から完全に除去され、H3N-375/1TSは心臓からも除去されたのに対し、H3N-375TSの心臓力価は強く低下した。DLD-1腫瘍モデルの長期研究は、H3N-375TSおよびH3N-375/1TS治療マウスにウイルス誘発有害作用がないことを確認した。死亡は認められず、膵臓および心臓に病理学的変化はなかった。治療効率に関して治療動物は、腫瘍における高い長期H3N-375TSおよびH3N-375/1TS持続性ならびに有意により遅い腫瘍増殖を示した。全体的な結論として、これらのデータは、インビボでのH3N-375/1TSおよびH3N-375TSの顕著な安全性を裏付けるものである。
重要なことには、搭載ウイルスは両方とも高い腫瘍溶解活性を示したが、H3N-375/1TSよりH3N-375TSのほうが、わずかに高かった。これらのデータは、ヒトでの抗腫瘍療法に適用するためのmiR-375TSおよびmiR-1TSを搭載されたCVB3の安全特性の改善を明らかに示している。さらに、これらのデータは、それぞれmiR-375およびmiR-1のような膵臓および心臓特異的miR-TSの使用による組織脱標的化が、腫瘍溶解性CVB3の部位外の毒性を防ぎ、腫瘍溶解性CVB3の腫瘍選択性を増大する非常に有効な戦略であり、他の腫瘍溶解性CVB3株での使用に適している可能性があることを有利に実証するものである。

Claims (15)

  1. コクサッキーウイルスB3(CVB3)のゲノム配列と;
    組織特異的発現パターンを有する1つまたは複数のマイクロRNAに相補的な少なくとも1つまたは複数のマイクロRNA標的配列(miR-TS)と
    を含む、感染性相補的DNA(cDNA)構築物であって、
    前記少なくとも1つまたは複数のmiR-TSが、CVB3タンパク質コード配列の5’UTRおよび/または3’UTRの隣に組み込まれていることを特徴とする、前記感染性cDNA構築物。
  2. プラスミドの形態であることを特徴とする、請求項1に記載の感染性cDNA構築物。
  3. 前記少なくとも1つまたは複数のmiR-TSが、3Dポリメラーゼのコード配列の終止コドンとCVB3タンパク質コード配列の3’UTRとの間に組み込まれ、
    場合により前記少なくとも1つまたは複数のmiR-TSがスタッファー配列と隣接していることを特徴とする、請求項1または2に記載の感染性cDNA構築物。
  4. 前記少なくとも1つまたは複数のmiR-TSが、ヒト膵臓組織で特異的に発現されるmiR配列に相補的であり、および/またはヒト心臓組織で特異的に発現されるmiR配列に相補的であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の感染性cDNA構築物。
  5. 前記少なくとも1つまたは複数のmiR-TSが、ヒト膵臓組織で特異的に発現されるmiR配列に相補的な第1のmiR-TS、およびヒト心臓組織で特異的に発現される第2のmiR配列を含むまたはそれらからなることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の感染性cDNA構築物。
  6. 前記少なくとも1つまたは複数のmiR-TSが、ヒト膵臓組織特異的発現miR:miR-375、miR-690、miR-375、miR-217、miR-216a、miR-216b、miR-200a、miR-200b、miR-200c、miR-429、miR-141および/またはヒト心臓組織特異的発現miR:miR-1、mriR-133、miR-206からなる群から選択されるmiR配列に相補的であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の感染性cDNA構築物。
  7. 前記少なくとも1つまたは複数のmiR-TSが、ヒト膵臓組織特異的発現miR-375およびヒト心臓組織特異的発現miR-1からなる群から選択されるmiR配列に相補的であることを特徴とする、請求項5に記載の感染性cDNA構築物。
  8. 前記少なくとも1つまたは複数のmiR-TSが、二重、三重、四重、五重もしくはより多重の反復または反復カセット、好ましくは少なくとも二重から最大三重の反復または反復カセットとして存在していることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の感染性cDNA構築物。
  9. 多重クローニング部位、複製起源、選択遺伝子、ショートヘアピンRNA(shRNA)および導入遺伝子(例えば、インターロイキン2(IL-2)、IL-6、IL-12または顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)のような免疫系刺激導入遺伝子)または腫瘍毒性遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つまたは複数の配列エレメントをさらに含み、これらのさらなる配列が前記cDNA構築物の骨格に組み込まれていることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の感染性cDNA構築物。
  10. CVB3群ウイルスのゲノム配列が、複製コンピテントウイルス、ベクターウイルスおよび/またはウイルス粒子をコードすることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の感染性cDNA構築物。
  11. 前記CVB3のゲノム配列が、弱毒化または攻撃型CVB3群ウイルス株から選択され、好ましくは株、例えば、PD、rPD、Nancy、H3、31-1-93、RD、P 2035A、28、HAおよびGAからなる群から選択され、前記CVB3のゲノム配列が、それらの株のうちの1つのヌクレオチド配列によって定義されることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の感染性cDNA構築物。
  12. 請求項1から11のいずれか一項に記載のcDNA構築物を含むウイルス粒子またはベクターウイルス。
  13. 請求項1から11のいずれか一項に記載の感染性cDNAおよび/または請求項12のベクターウイルスもしくはウイルス粒子ならびに薬学的に許容される担体または希釈剤を含む医薬組成物。
  14. 前記少なくとも1つまたは複数のmiR-TSに相補的な組織特異的発現を含む前記miR配列が、発現状態が低いかまたはないがんおよび/または転移性がんにおけるそれぞれの発現状態と比べて、前記組織でそれぞれ高度に発現される、
    がんおよび/または転移性がんの治療で使用するための、請求項1から11のいずれか一項に記載の感染性cDNA構築物、請求項12に記載の感染性ウイルス粒子もしくはベクターウイルス、または請求項13に記載の医薬組成物。
  15. 前記がんが、結腸直腸がん(大腸がん)、乳がん、肺がん、肝臓がんおよび/または上述のがんの対応する転移からなる群から選択される、請求項14に記載のがんおよび/または転移性がんの治療で使用するための感染性cDNA構築物、ウイルス粒子または医薬組成物。
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