JP2023545998A - 疎水性相互作用クロマトグラフィーによるdnaプラスミド調製物からのrna及び不純物の改善された除去 - Google Patents

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Abstract

pDNAと不純物とを含むサンプルから精製されたpDNA調製物を作製する方法が開示される。前記方法は、pDNA及び不純物を疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)材料に吸着させる濃度のコスモトロピック塩を含有する溶液中で、サンプルをHIC材料と接触させる工程、HIC材料へのpDNAの吸着に続いて中性塩の存在下でコスモトロピック塩の濃度を希釈する工程、それにより、不純物を中性塩の継続的な存在下で吸着させつつ、HIC材料からpDNAを脱離させる工程、並びに、pDNA調製物を得る工程を含む。さらに、本発明の方法又は他の精製方法(特に、HIC材料の存在下でサンプルを中性塩に曝すことによる陰イオン交換クロマトグラフィー)に供されるサンプルを調製する方法が開示される。

Description

本発明は、pDNAと不純物とを含むサンプルから、精製されたpDNA調製物を作製する方法に関する。
プロデューサー細胞の溶解(lysis)により得られるDNAプラスミドは、タンパク質、RNA、RNA-タンパク質凝集体、及びDNA-タンパク質-RNA凝集体によって一般に夾雑されている。疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)は、プラスミドDNA(pDNA)の精製法として知られるツールの1つである[1]。高濃度の沈殿塩を含有する溶液中のHICカラムにサンプルが付与される。pDNAが結合し、不純物も結合する。カラムでは、塩濃度を低下させるグラジエントで溶出が行われる。スーパーコイル(sc)、オープンサーキュラー(oc)、リニアpDNA等のプラスミドアイソフォーム同士では良好な分離を行うことができるが、RNAが所望のscDNAとかなりの程度共溶出する。宿主細胞タンパク質、RNA-タンパク質凝集体、及びDNA-タンパク質-RNA凝集体からのpDNAの良好な分離も達成される。残る不純物をHICによって完全に除去できないことは、ほとんどの場合、HICと陰イオン交換クロマトグラフィー(AEC)とを組み合わせることで補っている。
驚くべきことに、HICによるpDNA調製物からの不純物の除去は、カラム溶出時にコスモトロピック塩(第1の塩)の濃度を中性塩(第2の塩)の存在下で低下させることで増進できることがわかった。pDNAは、中性塩の継続的な存在下でコスモトロピック塩の濃度を低下させることにより回収される。RNA、タンパク質、RNA-タンパク質凝集体、及びDNA-タンパク質-RNA凝集体は、第2の塩の継続的な存在下でカラムに結合したままである。中性塩が不純物を疎水性カラムに強く結合したままにさせると考えられる。これは、中性塩の非存在下でコスモトロピック塩濃度を下げることにより生じる単純なグラジエントで各種不純物をpDNAと共溶出させる従来の溶出アプローチとは対照的である。このアプローチは、pDNA画分中の不純物の量を減少させ、pDNA画分中に残存する不純物の範囲(spectrum)を変化させる。よって、本発明の方法及び別のクロマトグラフィー法の組み合わせにより、通常行われているHIC及び別のクロマトグラフィー法の組み合わせと比較して、より高度に精製されたpDNAが生成される。
本発明の主題は、pDNAと不純物とを含むサンプルから精製されたpDNA調製物を作製する方法であり、前記方法は、
pDNA及び不純物を疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)材料に吸着させる濃度のコスモトロピック塩を含有する溶液中で、サンプルをHIC材料と接触させる工程、
HIC材料へのpDNAの吸着に続いて中性塩の存在下でコスモトロピック塩の濃度を希釈する工程、
それにより、不純物を中性塩の継続的な存在下で吸着させつつ、HIC材料からpDNAを脱離させる工程、並びに、
pDNA調製物を得る工程、
を含む。
用語「沈殿塩」は、タンパク質化学の分野においてキャリーオーバーを表し、特定の塩がタンパク質の沈殿に有効であることが知られている。硫酸アンモニウムはその一例である。塩酸グアニジニウム(guanidinium hydrochloride)等の他の種は沈殿を防ぐ強力な可溶化剤である。塩化ナトリウム等の一部のアルト(alts)はタンパク質の沈殿を促進する能力が劇的に低い。タンパク質の溶解性に対する各種塩の影響は、ホフマイスターシリーズにおける各々の序列と相関することが知られている[2]。
沈殿を促進する塩は一般にコスモトロピック塩又はリオトロピック塩に分類される。溶解を促進する塩は一般にカオトロピック塩に分類される。塩化ナトリウム等の中間的な性質の塩は一般に中性塩に分類される。
この文脈における用語「中性塩」は、塩が溶解している水溶液のpHを指すものではないと理解される。そうではなく、用語「中性塩」は、陽イオンと陰イオンの組み合わせと平均化による寄与が、カオトロピックでもなくコスモトロピックでもない、すなわち中性的な効果を生じる任意の塩として理解される。典型的には、1価の金属ハロゲン塩及び1価の金属アセテート塩が中性塩として認識されている。
本発明の方法の実施形態では、コスモトロピック塩は、コスモトロピック陰イオン、コスモトロピック陽イオン、又はその両方を含有する塩であり得、特に、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、及びこれらの組み合わせからなる群より選択され得る。典型的には、コスモトロピック塩の濃度は、1.0M~2.5M、又は1.25M~2.25M、又は1.5M~2.0、又は1.7M~1.9Mの範囲であってもよい。多くのコスモトロピック塩は、水への溶解度が低いためその使用は制限されている。リン酸ナトリウムはその一例である。リン酸ナトリウムは約0.8Mで飽和するが、この濃度は本発明の方法又は任意の沈殿ベースの技術に利用するには低すぎる。リン酸カリウムはこれよりずっと高い濃度で溶解性を維持することから有用性がある。
本発明の方法の別の実施形態では、中性塩は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸アンモニウム、及びこれらの組み合わせからなる群より選択されてもよい。典型的には、中性塩の濃度は、0.5M~5.0M、又は0.75M~4.0M、又は1.0M~3.0M、又は1.25M~2.5M、又は1.5M~2.0Mの範囲であり得る。
本発明の方法のさらに別の実施形態では、サンプルはプラスミドDNAを含有する原核細胞の溶解物(lysate)であり得る。
本発明の方法のさらなる実施形態では、不純物は、タンパク質、RNA、RNA-タンパク質凝集体、DNA-タンパク質凝集体、及びDNA-タンパク質-RNA凝集体からなる群より選択され得る。
本発明の方法のさらに別の実施形態では、HIC材料は、疎水性リガンドを有するポリマーであり得る。
本発明の方法のさらなる実施形態では、疎水性リガンドは、フェニル及び/又はベンジルリガンド等の芳香族性、又はブチル、ヘキシル、及び/又はオクチルリガンド等のアルキル性、又はこれらの組み合わせであり得る。
本発明の方法の別の実施形態では、HIC材料はクロマトグラフィーカラムに配置され得る。
一実施形態では、本発明の方法は、pDNAから不純物を除去する単一の方法である。本発明のさらなる実施形態は、他の精製方法(特に、陰イオン交換クロマトグラフィー)に供するサンプルを調製するための前精製方法である。特に、前精製方法が採用される場合、中性塩は塩化リチウム又は塩化カルシウムであり得る。別の実施形態では、本発明の方法は、別の方法(特に、陰イオン交換クロマトグラフィー)によって調製されたpDNAの純度を高めるための後精製方法である。
本発明の前精製方法の実施形態では、HIC材料は、疎水性深層濾過(hydrophobic depth filtration)材料、又は多孔質疎水性粒子若しくはナノファイバーで充填されたカラムであり得る。
本発明の前精製方法の別の実施形態では、コスモトロピック塩がサンプルに添加されてもよい。密接に関連した変形例では、コスモトロピック塩が液体濃縮物として添加されてもよい。斯かる一実施形態では、添加は、均質な混合を迅速に達成するために混合装置によって行ってもよい。斯かる一実施形態では、混合は、サンプルがカラムに接触する前に沈殿物が形成するのを最小限にするために、混合物をHICカラムと接触させる直前に行ってもよい。
本発明の前精製方法の別の実施形態では、サンプルは、陰イオン交換クロマトグラフィー用のサンプルを調製するために水又は低導電率バッファーで希釈され得る。
本発明の後精製方法の実施形態では、陰イオン交換体から溶出されたpDNAであって、陰イオン交換体から溶出させるのに使用された中性塩を含有したままのpDNAをコスモトロピック塩と組み合わせて、HICカラムへのpDNAの結合を媒介してもよい。一般事項として、このアプローチは本発明の前精製方法に比べて複雑でなく、より円滑な包括的プロセスフローをサポートする。
図1は、本発明の方法の各段階を示す。 図2は、コスモトロピック塩のグラジエントにおけるDNAの溶出を示す。 図3は、中性塩の濃度が一定に保持された状態でのコスモトロピック塩のグラジエントにおけるプラスミドDNAの溶出を示す。 図4は、RNAの溶出挙動を示し、RNAはコスモトロピック塩の濃度が低下されつつ中性塩の濃度が一定に保持されている間は結合したままであり、中性塩の濃度が低下されると溶出する。 図5は、プラスミドDNAとRNAの各々の溶出挙動を示し、pDNAは中性塩の濃度が一定に保持されつつコスモトロピック塩の下降するグラジエントで溶出し、中性塩の濃度が低下されるとRNAが溶出する。
一部の実施形態では、本発明の方法によって処理されるサンプルは、プラスミドDNA(pDNA)を含有する濾過された細菌溶解物である。斯かる一部の実施形態では、細菌宿主は大腸菌(Escherichia coli.)である。他の実施形態では、本発明の方法によって処理されるサンプルは、塩化カルシウムで処理されてRNAの一部を沈殿させた、濾過されたpDNA含有細菌溶解物である。他の実施形態では、本発明の方法によって処理されるサンプルは、別の方法によるクロマトグラフィー用に調製される。他の実施形態では、本発明の方法によって処理されるサンプルは部分的に精製される。他の実施形態では、サンプルは、だいたい精製されているが任意の量又は相対割合のタンパク質、RNA、及び/又はDNA-タンパク質-RNA凝集体で依然夾雑されているスーパーコイルプラスミドDNAである。他の実施形態では、本発明の方法によって処理される部分的に精製されたpDNAは、陰イオン交換クロマトグラフィーで部分的に精製された。
一部の実施形態では、本発明の方法を実施するために使用されるHIC材料は疎水性リガンドを有するポリマーである。HICリガンドは、芳香族性でもアルキル性でも混合性(mixed character)でもよい。芳香族HIC媒体としてはフェニル及びベンジル媒体が挙げられる。アルキルHIC媒体としては、ブチル、ヘキシル、及びオクチル媒体が挙げられる。いずれのタイプもpDNAの精製に使用され、またいずれも各種物理的形態で世界中で広く市販されている。斯かる形態には、多孔質粒子、モノリス、メンブレン、及びナノファイバーで充填されたカラムが含まれ、中でも、クロマトグラフィーの実施を容易にするためにクロマトグラフィー装置において採用され通常はカラムと呼ばれるものが含まれる。
一部の実施形態では、コスモトロピック塩は、硫酸アンモニウム、又は硫酸ナトリウム、又はリン酸カリウム、又はクエン酸ナトリウム、又はクエン酸カリウム、又は他のコスモトロピック塩である。コスモトロピック塩が硫酸アンモニウムである斯かる一実施形態では、DNAをHICカラムに結合させるために使用される硫酸アンモニウムの濃度は、HICカラムの疎水性に応じて、1.0M~2.5M、又は1.25M~2.25M、又は1.5M~2.0、又は1.7M~1.9Mの範囲であってもよい。HICカラムにpDNAを結合させるためのコスモトロピック塩濃度の決定方法は当業界で周知である。一般事項として、カラムの疎水性が高いほど所望の効果を得るのに必要な塩の濃度は低くなる。
一部の実施形態では、中性塩は、塩化ナトリウム、又は塩化カリウム、又は塩化リチウム、又は塩化アンモニウム、又は酢酸ナトリウム、又は酢酸カリウム、又は酢酸リチウム、又は酢酸アンモニウム、又は他の中性塩である。中性塩が塩化ナトリウムである斯かる一実施形態では、HICカラムへのRNA及び宿主細胞DNA-タンパク質-RNA凝集体の結合を維持するために使用される塩化ナトリウムの濃度は、HICカラムの疎水性に応じて、0.5M~5.0M、又は0.75M~4.0M、又は1.0M~3.0M、又は1.25M~2.5M、又は1.5M~2.0Mの範囲であってもよい。コスモトロピック塩と同様に、適切な塩濃度の決定方法は当業界で周知である。
当業界の経験者は、組み合わせによって溶解度積定数が小さいゆえに塩が自発的に沈殿するのを回避するために、塩含有バッファー間でイオン連続性(ionic continuity)を維持することの利点を認識するであろう。例えばリン酸カリウムを塩化ナトリウムと混合すると、リン酸カリウム塩よりも大幅に溶解度が小さいリン酸ナトリウム塩が沈殿するリスクがある。リン酸カリウムと塩化カリウムを混合することでこのリスクを抑える。同様の例で、高濃度の硫酸アンモニウムと塩化ナトリウムを混合すると、溶解度が小さい硫酸ナトリウムが沈殿するリスクがある。硫酸アンモニウムが塩化アンモニウムと混合された場合、あるいは硫酸ナトリウムが塩化ナトリウムと混合された場合、この問題は発生しない。この留意事項は、塩の溶解性の問題を生じ得るあらゆる組み合わせを阻止するものではない。そうではなく、問題が生じ得ることが判明した場合に、その問題を扱う意識の必要性への注意が求められる。
一部の実施形態では、本発明の方法は概ね中性のpHで実施されてもよい。「概ね中性のpH」とは約pH6.5~約pH7.5の範囲内を意味すると理解される。他の実施形態では、方法全体、あるいは異なるセグメント若しくはバッファーの方法は、より広い範囲、例えばpH6.0~pH8.0、又はpH5.5~pH8.5、又はpH5.0~pH9.0、又はpH4.0~pH9.0のpH値で実施されてもよい。当業界の経験者は、pHが7.0を超えるアンモニウム塩の使用は推奨されないことを認識するであろう。なぜなら、アンモニウムイオンが自発的にアンモニアガスに変換され、このアンモニアガスがバッファーを不安定にし、安全上の問題を生じ、所望のDNAプラスミドを損傷する可能性があるためである。
一部の実施形態では、HICカラムへのpDNAの最初の(original)結合の際に中性塩が存在しなくてもよい。重要な要件は、DNAの溶出中に中性塩がコスモトロピック塩と共に存在することである。一実施形態では、pDNAは、第1のコスモトロピック塩のみに結合してもよく、中性塩は、DNAプラスミドの溶出中に存在するように後続の工程で導入されてもよい。
一部の実施形態では、コスモトロピック塩の濃度は、中性塩の濃度を一定に維持しながら漸減させられる。第1の塩の漸減は、いわゆるリニアグラジエント、より具体的には下降するリニアグラジエントの形成をもたらす。一部の実施形態では、コスモトロピック塩の濃度は、中性塩の濃度を一定に維持しながら段階的に減少させられる。段階的な減少は、いわゆるステップグラジエント、より具体的には下降するステップグラジエントの形成をもたらす。一部の実施形態では、溶出グラジエントは、ステップセグメント及びリニアセグメントを含んでいてもよい。
一部の実施形態では、中性塩の濃度を本方法の実施中に変化させてもよい。
一部の実施形態では、本方法は、コスモトロピック塩のみを含むバッファーの存在下でpDNAが結合し、グラジエント終点バッファーが中性塩のみを含むように構成されてもよい。斯かる構成では、グラジエント終点バッファー中の第2の塩の濃度は、pDNAが溶出するにつれてRNA、タンパク質、及びDNA-タンパク質-RNA凝集体の結合を維持するために必要な第2の塩の閾値濃度に達するように十分に高くなければならないことが簡単な計算から明らかである。斯かる一実施形態では、pDNA結合バッファー中の第1の塩の濃度が2Mであり、グラジエント終点バッファー中の第2の塩の濃度が4Mである場合、第1の塩が1Mの濃度まで低下するにつれて、第2の塩の濃度は2Mの濃度へと上昇する。1つの成分が開始バッファー中に集中し、別の成分が終点バッファー中に集中するグラジエントを形成するこのアプローチは、当業界では交差(crossed)グラジエントとして知られる。
交差グラジエントアプローチを用いる関連した実施形態では、コスモトロピック塩を含有する結合バッファーは中性塩を含んでいてもよく、ここで、結合バッファー中の中性塩の濃度は、グラジエント終点バッファー中の中性塩の濃度とは異なる。斯かる一実施形態では、グラジエント開始バッファー中の第2の塩の濃度は、グラジエント終点バッファー中の第2の塩の濃度よりも低い。他の実施形態では、グラジエント終点バッファーは、グラジエント開始バッファー中のコスモトロピック塩の濃度よりも低い濃度のコスモトロピック塩を含有していてもよい。
一部の実施形態では、カラムは、所望のpDNAの溶出後すぐに洗浄工程によって再生されてもよい。斯かる一部の実施形態では、洗浄工程の配合は、1MのNaOH、又はより低い濃度のNaOH、又はより高い濃度のNaOH、又は1MのNaOHと2MのNaCl、又は500mMのNaOHと3MのNaCl、又はNaOHとNaClの任意の他の組み合わせ、又はKOHとKClの任意の組み合わせであってよい。洗浄溶液はまた、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤を1mM~100mMの範囲の濃度で含んでいてもよい。
一部の実施形態では、DNAプラスミドの溶出後、不純物を回収するために中性塩の濃度を低下させた第2の溶出が行われてもよい。斯かる一実施形態では、第2の溶出は、不純物の分析を容易にするために不純物が集中するように単一の工程で行われてもよい。別の斯かる実施形態では、第2の溶出は、各種不純物の相対的なリテンションを評価するためにマルチステップグラジエント又はリニアグラジエントとして実施されてもよい。
低分子不純物、RNA、宿主細胞DNA-タンパク質-RNA、及びタンパク質不純物を除去しつつpDNAを濃縮し、オープンサーキュラーpDNAからスーパーコイルpDNAを分画するために第1の塩の能力を意図的に犠牲にすることを目的とする一部の実施形態では、中性塩の存在を維持しつつコスモトロピック塩を低減又は排除する工程でpDNAを溶出させてもよい。
一部の実施形態では、サンプルは、不純物の一部を沈殿させる目的で、最初に中性塩に曝すことによってHICカラムへの付与のために調製されてもよい。斯かる沈殿物が形成される限りにおいて、サンプルをHICカラムに結合させる前に第1のコスモトロピック塩をサンプルに添加する前に、不純物を除去することができる。
一部の実施形態では、サンプルは、疎水性粒子の存在下で最初に中性塩に曝すことによってHICカラムへの付与のために調製されてもよく、これによりタンパク質、RNA、及びDNA-タンパク質-RNA不純物が粒子に結合してそれらの沈降を助ける。斯かる一実施形態では、中性塩は、塩化リチウムであってもよいし、塩化カルシウムであってもよい。プラスミドDNA精製の分野の知識がある者には、このことが、最初のクロマトグラフィー精製工程前に、RNAの夾雑を減らすために塩化カルシウムで沈殿を行う一般的作業に取って代わることができるか、タンパク質、RNA、及びDNA-タンパク質-RNA凝集体をより効果的に除去するためにカルシウム沈殿と組み合わせて使用できることが認識されよう。
一実施形態では、サンプル調製方法は遊離粒子(loose particles)以外の疎水性表面で実施される。斯かる一実施形態では、サンプル調製方法は、多孔質疎水性粒子又はナノファイバーで充填されたカラムを有し得る疎水性深層濾過装置又は疎水性表面(複数可)を収容する別の装置を用いて実施される。一実施形態では、疎水性表面の存在下で中性塩で処理することによるサンプル調製に続いて、本発明の方法を実施するための調製物として処理されたサンプルにコスモトロピック塩を引き続き添加してもよい。別の実施形態では、疎水性表面の存在下で中性塩で処理することによるサンプル調製に続いて、サンプルを水又は低導電率バッファーで希釈して陰イオン交換クロマトグラフィー用のサンプルを調製してもよい。別の実施形態では、疎水性表面の存在下で中性塩で処理することによるサンプル調製に続いて、サンプルを別のタイプの処理のために平衡化してもよい。
一部の実施形態では、本発明の方法は、プラスミドDNAの精製プロセスにおける第1のクロマトグラフィー工程として実施される。他の実施形態では、本発明の方法は、プラスミドDNAの精製プロセスにおける第2のクロマトグラフィー工程又はそれ以降のクロマトグラフィー工程として実施される。
一部の実施形態では、本発明の方法の後に、陰イオン交換クロマトグラフィー工程が実施される。他の実施形態では、本発明の方法の前に、陰イオン交換クロマトグラフィー工程が実施される。別の実施形態では、本発明の方法は、金属アフィニティークロマトグラフィー工程と組み合わされる。別の実施形態では、本発明の方法は、別のクロマトグラフィー工程と組み合わされる。別の実施形態では、本発明の方法は、複数の追加のクロマトグラフィー工程と組み合わされる。斯かる一実施形態では、本発明の方法は、陰イオン交換クロマトグラフィー工程及び金属アフィニティークロマトグラフィー工程と組み合わされる。別の斯かる実施形態では、本発明の方法は、陰イオン交換若しくは金属アフィニティークロマトグラフィー工程、及び、別のクロマトグラフィー工程と組み合わされる。上記いずれの実施形態においても、追加のクロマトグラフィー工程は、サイズ排除クロマトグラフィー工程であってもよい。他の実施形態では、本発明の方法は、本クロマトグラフィー工程のみであってもよい。
pDNA調製物のRNA夾雑が多様であることは当業者によって認識されよう。広範なサイズのRNAが含まれている可能性があり、RNAは通常タンパク質と強く結合し(associated)、精製されたRNAとは異なるクロマトグラフィー挙動を示す複合体を生成する。本発明の方法は、特に、大きなRNA、RNA-タンパク質複合体、及びRNA-タンパク質-DNA複合体の除去を増進するであろう。極めて小さいRNAの集団が、DNAを溶出させるためのコスモトロピック塩の減少中に溶出することもあるが、このRNAの集団は、単純なコスモトロピック塩グラジエントで溶出させる通常の従来の条件下でHICが行われた場合、pDNAを夾雑するRNAよりも陰イオン交換クロマトグラフィーによってより効果的に減少するだろう。
参考文献
本明細書中で引用された全ての参考文献は、本明細書中の明示的な教示と矛盾しない範囲においてその全文が参照により本明細書に組み込まれる。
[1] C Schafer-Nielsen, C Rose, Separation of nucleic acids and chromatin proteins by hydrophobic interaction chromatography, Biochim Biophys Acta 696 (1982) 323-331
[2] W Melander, C Horvath, Salt effects on hydrophobic interactions in precipitation and chromatography of proteins: an interpretation of the lyotropic series, Arch Biochem Biophys 183 (1977) 200-215
本発明を以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
実施例1
プラスミドDNA調製物からのタンパク質、RNA、DNA-タンパク質-RNA凝集体、及び低分子量不純物の除去
HIC用のブチルモノリスを50mMのHepes、1.8Mの硫酸アンモニウム、1.8MのNaCl、10mMのEDTA、pH7.0の組み合わせに平衡化させる。塩化カルシウム沈殿と上清の濾過によって処理された大腸菌溶解物(E. coli lysate)を含有するサンプルをpH7.0に滴定し、硫酸アンモニウムを最終濃度である1.8Mまで添加する。サンプルをカラムに付与し、カラムを平衡化バッファーで洗浄し、結合していない低分子量不純物を除去する。次いで、塩化ナトリウムの濃度を一定に保ちながら、硫酸アンモニウムの濃度を下げるリニアグラジエントでプラスミドDNAを溶出させる。図1を参照されたい(ft:フロースルー、sc:スーパーコイル、oc:オープンサーキュラー)。
実施例2
二本鎖DNAの結合と溶出
80個の塩基対~10,000個の塩基10,000個の塩基対(10,000 base 10,000 base pairs)の範囲の異なるサイズの二本鎖DNAを含有するサンプルを50mMのTris pH、10mMのEDTA、2.5Mの硫酸アンモニウム、pH7.2の高密度ブチル(HIC)モノリスに付与した。ロードされたカラムを50mMのTris、10mMのEDTA、2.5Mの硫酸アンモニウム、1.2Mの塩化ナトリウム、pH7.2に再平衡化した。次いで、50mMのTris pH、10mMのEDTA、1.2Mの塩化ナトリウム、pH7.2のリニアグラジエントでカラムから溶出させた。二本鎖DNAを当該グラジエントで溶出させた。図2を参照されたい。
実施例3
一本鎖RNAの結合と非溶出
200個の塩基~6,000個の塩基の範囲の異なるサイズの一本鎖RNAを含有するサンプルを使用したことを除いて実施例1の条件を繰り返した。RNAは硫酸アンモニウムを低減させるグラジエントでは溶出せず、NaCl中のカラムに結合したままであった。
実施例4
中性塩の濃度を一定に保持しつつコスモトロピック塩の濃度を低下させることによるHICカラムからのpDNAの溶出
50mMのHepes、1.25Mの硫酸ナトリウム、3.0Mの塩化ナトリウムを含有し、pH7.2の結合バッファー濃縮物(バッファーA)を調製した。50mMのHepes、3.0Mの塩化ナトリウムを含有し、pH7.2のpDNA溶出バッファー(バッファーB)を調製した。50mMのHepesを含有し、pH7.2のRNA溶出バッファー(バッファーC)を調製した。100μLのブチルモノリスを、90%のバッファーAと10%のバッファーBの混合物を用いて0.5mL/minの流速で平衡化した。約4.7kbpの精製されたDNAプラスミドをカラムにロードし、次いで平衡化バッファーで10分間洗浄した。次に、pDNAを4分間のバッファーBのリニアグラジエントで溶出させた。バッファーBをもう4分間カラムに流した。バッファー組成物をバッファーCに変更し、もう7分間継続した。結果を図3に示す。pDNAは平衡化条件下でカラムに結合し、洗浄中も結合したままであった。pDNAはバッファーBのグラジエントで溶出した。細い実線はバッファーのベースラインを表す。
実施例5
コスモトロピック塩の濃度を低下させ中性塩の濃度を一定に保持する間のHICカラムによるRNAの保持と、後続の中性塩の濃度を低下させることによるRNAの溶出。4400ヌクレオチドの長さを有するmRNAからなるサンプルを用いたことを除いて実施例4の条件を再現した。結果を図4に示す。mRNAは平衡化条件下でカラムに結合し、洗浄中も結合したままであった。mRNAはバッファーBのグラジエント及び後続のバッファーB中の洗浄において結合したままであった。mRNAはバッファーCの工程中に溶出した。細い実線はバッファーのベースラインを表す。
実施例6
中性塩の濃度を一定に保持しつつコスモトロピック塩の濃度を低下させることによるHICカラムからのpDNAの溶出と、後続の中性塩の濃度を低下させることによるRNAの溶出。4400ヌクレオチドの長さを有するmRNAと混合した4.7kbpの長さを有するpDNAからなるサンプルを用いたことを除いて実施例3の条件を再現した。結果を図5に示す。実施例4と同様にpDNAを溶出した。実施例5と同様にmRNAを溶出した。細い実線はバッファーのベースラインを表す。
本発明の方法の目的がより高度に精製されたpDNA画分を形成することであることを踏まえると、中性塩濃度を低下させる第2の溶出工程が上記の実施例に含まれているのは、主に、異なるタイプの核酸及びその誘導体を制御するためにコスモトロピック塩及び中性塩の濃度を個別に操作できる点を説明するためであることが理解されよう。作製環境において、中性塩の濃度を下げることによって溶出させた不純物を得ることは殆ど若しくは全く意味がない。水酸化ナトリウムによる洗浄工程に直接進むことでプロセスを短縮及び簡素化する。

Claims (13)

  1. pDNAと不純物とを含むサンプルから精製されたpDNA調製物を作製する方法であって、
    pDNA及び不純物を疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)材料に吸着させる濃度の中性塩及びコスモトロピック塩を含有する溶液中で、サンプルをHIC材料と接触させる工程、
    HIC材料へのpDNAの吸着に続いて中性塩の存在下でコスモトロピック塩の濃度を低下させる工程、
    それにより、不純物を中性塩の継続的な存在下で吸着させつつ、HIC材料からpDNAを脱離させる工程、並びに、
    pDNA調製物を得る工程
    を含む、精製されたpDNA調製物を作製する方法。
  2. 前記コスモトロピックが、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される塩である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記コスモトロピック塩の濃度が、1.0M~2.5M、又は1.25M~2.25M、又は1.5M~2.0、又は1.7M~1.9Mである、請求項1又は請求項2に記載の方法。
  4. 中性塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸アンモニウム、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記中性塩の濃度が、0.5M~5.0M、又は0.75M~4.0M、又は1.0M~3.0M、又は1.25M~2.5M、又は1.5M~2.0Mの範囲である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 前記サンプルがプラスミドDNAを含有する原核細胞の溶解物(lysate)である、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 前記不純物が、タンパク質、RNA、RNA-タンパク質凝集体、DNA-タンパク質凝集体、及びDNA-タンパク質-RNA凝集体からなる群より選択される、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 前記HIC材料が疎水性リガンドを有するポリマーである、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 前記疎水性リガンドは、フェニル及び/又はベンジルリガンド等の芳香族性、又はブチル、ヘキシル、及び/又はオクチルリガンド等のアルキル性、又はこれらの組み合わせである、請求項8に記載の方法。
  10. 前記HIC材料がクロマトグラフィーカラムに配置されている、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の方法。
  11. 前記中性塩の濃度は、前記接触工程及び前記希釈工程の間変化しない、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の方法。
  12. さらなるクロマトグラフィー工程が前記疎水性相互作用クロマトグラフィーの前又は後に使用される、請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の方法。
  13. 前記さらなるクロマトグラフィー工程が陰イオン交換クロマトグラフィーである、請求項12に記載の方法。
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