JP2023181676A - 建築用材料 - Google Patents

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Tomoya Nishiwaki
大樹 三浦
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Takeshi Nakatani
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Abstract

【課題】高い圧縮強度と高い単繊維引抜強度を発現する建築用材料を提供する。【解決手段】セメントとセルロースナノファイバーとを含む建築用材料であって、セルロースナノファイバーの平均繊維径が1~500nmであり、平均繊維長が0.1~1μmである建築用材料。【選択図】図6

Description

特許法第30条第2項適用申請有り (1)発行者名:一般社団法人 日本建築学会 刊行物名:2021年度大会(東海) 学術講演梗概集・建築デザイン発表梗概集を収録したDVDのラベル、及び、当該DVDに収録された、日本建築学会大会学術講演梗概集(東海)2021年9月の講演番号1183 第365~366頁のコピー 発行年月日:2021年7月20日 (2)配信期間:令和3年8月31日~9月15日 配信アドレス:http://taikai.aij.or.jp/2021/index.html https://www.aij.or.jp/jpn/taikai2021/ 集会名:2021年度日本建築学会大会[東海] 主催者名:一般社団法人 日本建築学会 (3)開催年月日:令和3年9月10日 集会名:2021年度日本建築学会大会[東海] 開催場所:オンライン 掲載アドレス:http://taikai.aij.or.jp/2021/index.html https://www.gakkai-web.net/gakkai/aij/session21/ 主催者名:一般社団法人 日本建築学会
本発明は、建築用材料に関する。
セメント材料等の建築用材料は、圧縮強度、耐火性及び耐久性に優れるとともに、型枠によって自由な寸法、形状に加工できるため、建設基盤材料として、鉄道高架橋や道路橋における橋梁床版、トンネル内部を構成するトンネル覆工コンクリート等の建築構造物や土木構造物に用いられている。このような建築用材料においては、引張強度等の力学特性を付与するために、ミリメートルオーダーの短繊維、マイクロメートルオーダーの微細繊維、更にはナノオーダーのナノ繊維等を分散混入させた繊維補強セメント系複合材料(FRCC:Fiber Reinforced Cementitious Composites)が、これまで数多く検討されてきた。例えば、ナノ繊維を分散混入させた繊維補強セメント系複合材料として、特許文献1には、「セメントとセルロースナノファイバー水分散体とを含む建築用材料であって、上記セルロースナノファイバー水分散体が、セルロースナノファイバーを水中に分散させてなるセルロースナノファイバーの分散液である建築用材料」が記載されている。
特開2017-024938号公報
本発明は、高い圧縮強度と高い単繊維引抜強度を発現する建築用材料を提供することを課題とする。
本発明の課題は以下の手段によって達成された。
<1>セメントとセルロースナノファイバーとを含む建築用材料であって、
前記セルロースナノファイバーの平均繊維径が1~500nmであり、平均繊維長が0.1~1μmである、建築用材料。
<2>前記セルロースナノファイバーがアニオン変性セルロースナノファイバーである、<1>に記載の建築用材料。
<3>前記セルロースナノファイバーの含有量が、前記セメント100質量部に対して、0.0001~0.03質量部である、<1>又は<2>に記載の建築用材料。
本発明の建築用材料は、養生後に、高い圧縮強度と高い単繊維引抜強度とを発現する。
図1は、実施例における圧縮強度の測定結果を示す図である。 図2は、実施例における単繊維引抜強度の測定に用いるフック型鋼繊維の端部を示す概略上面図である。 図3は、実施例における単繊維引抜強度の測定において、フック型鋼繊維を試験体に埋め込んだ状態を説明する概略図であり、図3(A)はフック型鋼繊維を埋込角度0°で埋め込んだ試験体を示す概略上面図、図3(B)はフック型鋼繊維を埋込角度0°で埋め込んだ試験体を示す概略正面図、図3(C)はフック型鋼繊維を埋込角度45°で埋め込んだ試験体を示す概略上面図、及び図3(D)はフック型鋼繊維を埋込角度45°で埋め込んだ試験体を示す概略正面図である。 図4は、実施例における単繊維引抜強度の測定において、試験体に発生しうる剥離領域を説明する概略断面図である。 図5は、埋込角度0°における単繊維引抜強度の測定における、引抜変位量(変位)(mm)と荷重(N)との関係をまとめて説明する図である。 図6は、埋込角度45°における単繊維引抜強度の測定における、引抜変位量(mm)と荷重(N)との関係をまとめて説明する図である。 図7は、実施例における、埋込角度0°及び45°における単繊維引抜強度の測定での最大引抜荷重(平均値)をまとめて示す図である。 図8は、実施例1及び2における、埋込角度0°及び45°における単繊維引抜強度の測定での(平均)最大引抜荷重の、比較例1の(平均)最大引抜荷重に対する割合を示す図である。 図9は、埋込角度45°における単繊維引抜強度の測定によって生じた剥離領域の表面積を示す図である。
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。なお、本発明において、成分の含有量、物性等について数値範囲を段階的に複数設定して説明する場合、数値範囲を形成する上限値及び下限値は、「~」の前後に記載された特定の組み合わせに限定されず、各数値範囲を形成する上限値及び下限値の数値を適宜に組み合わせることができる。
また、本発明において、「建築用材料」というときは、セメントと特定の平均サイズを持つセルロースナノファイバーとを含む材料であればよく、特に断らない限り、養生前の材料と、養生中の材料、更に養生後の材料とを含む意味で用いる。
[建築用材料]
本発明の建築用材料(単に、建築材料ともいう。)は、セメントと、後述する特定の平均繊維径及び平均繊維長を有するセルロースナノファイバーとを含む。この組成を有する本発明の建築用材料は、養生後に高い圧縮強度と高い単繊維引抜強度とを発現する。
<セルロースナノファイバー>
本発明において、セルロースナノファイバー(CNF)は、セルロース原料であるパルプ等がナノメートルレベルまで微細化されたものであって、平均繊維径が1~500nmかつ平均繊維長が0.1~1μmの微細繊維である。
本発明において、セルロースナノファイバーの繊維径とは、セルロースナノファイバーの軸線に垂直な平面での切断面に開口する開口部の円相当径を意味し、平均繊維径とは複数の繊維径の算術平均値を意味する。また、セルロースナノファイバーの繊維長とは、セルロースナノファイバーの軸線に沿った端部間長さを意味し、平均繊維長とは複数の繊維長の算術平均値を意味する。セルロースナノファイバーの平均繊維径及び平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各繊維を観察した結果から得られる繊維径及び繊維長を平均することによって得ることができる。詳細は実施例にて説明する。
セルロースナノファイバーは、パルプに機械的な力を加えて微細化することで得られ、あるいは、カルボキシル化したセルロース(酸化セルロースとも呼ぶ)、カルボキシメチル化したセルロース、リン酸エステル基を導入したセルロース、カチオン化したセルロース等の化学変性により得られた変性セルロースを解繊することによって得ることができる。微細繊維の平均繊維長と平均繊維径は、化学変性処理、解繊処理によっても調整することができる。
セルロースナノファイバーの平均繊維径は、1~500nmであり、好ましくは3~150nmであり、より好ましくは3~20nmである。セルロースナノファイバーの平均繊維長は、0.1~1μmであり、好ましくは0.3~1μmであり、より好ましくは0.5~1μmである。本発明の建築用材料が含有するセルロースナノファイバーの平均繊維径及び/又は平均繊維長が上記範囲内にあると、圧縮強度と単繊維引抜強度を向上させることができる。
セルロースナノファイバーの平均繊維径及び平均繊維長は、機械的処理を行う解繊装置の処理条件を調整することにより、上記範囲内に調整できる。
機械的処理に用いることができる装置としては、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、トップファイナーなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものを使用することができる。
本発明に用いるセルロースナノファイバーの平均アスペクト比は、通常50以上である。上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出することができる。

アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
(セルロース原料)
セルロース原料としては、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするものが知られており、本発明ではそのいずれも使用できる。植物又は微生物由来のセルロース繊維が好ましく、植物由来のセルロース繊維がより好ましい。
(アニオン変性)
本発明に用いるセルロースナノファイバーは、未変性のセルロースナノファイバーでもよいが、圧縮強度及び単繊維引抜強度の改善の点で、アニオン変性セルロースナノファイバーであることが好ましく、アニオン変性したセルロース原料を解繊することにより得ることができる。アニオン変性とは、セルロースにアニオン基を導入することであり、具体的に酸化又は置換反応によってピラノース環にアニオン性基を導入することである。本発明において前記酸化反応とはピラノース環の水酸基を直接カルボキシル基に酸化する反応をいう。また、本発明において置換反応とは、当該酸化以外の置換反応によってピラノース環にアニオン性基を導入する反応をいう。
アニオン変性セルロースナノファイバーの原料となるアニオン変性セルロースとしては、水や水溶性有機溶媒に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものを用いる。繊維状の形状が維持されないもの(すなわち、分散媒に溶解するもの)を用いると、ナノファイバーを得ることができない。分散した際に繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるとは、アニオン変性セルロースの分散体を電子顕微鏡で観察したときに、繊維状の物質を観察することができることを意味する。アニオン変性セルロースの中でも、X線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるアニオン変性セルロースが好ましい。
原料のアニオン変性セルロースにおけるセルロースの結晶化度は、結晶I型が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。結晶性を上記範囲に調整することにより、解繊により繊維を微細化した後も溶解することのない結晶性セルロース繊維を充分に得ることができる。アニオン変性セルロースナノファイバーのセルロースI型の結晶化度は、50~90%であることが好ましく、60~80%であることがより好ましく、65~75%が特に好ましい。結晶化度が50%未満では分散効果が低下する。
セルロースの結晶性は、原料であるセルロースの結晶化度、及びアニオン変性の度合によって制御できる。アニオン変性セルロース及びアニオン変性CNFの結晶化度の測定方法は、以下の通りである。
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、株式会社島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10゜~30゜の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6゜の002面の回折強度と2θ=18.5゜のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。

Xc=(I002c-Ia)/I002c×100

ここで、
Xc:セルロースのI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6゜、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5゜、アモルファス部分の回折強度
を示す。
- カルボキシル化 -
アニオン変性セルロースとしてカルボキシル化(酸化)したセルロースを用いることができる。本発明におけるカルボキシ基とは、-COOH(酸型)又は-COOM(塩型)をいう。ここで、Mは金属イオンであり、ナトリウムやカリウムが挙げられる。カルボキシル化セルロース(「酸化セルロース」とも呼ぶ)は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシル化(酸化)することにより得ることができる。特に限定されないが、カルボキシル基の量はアニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、0.6~3.0mmol/gが好ましく、1.0~2.0mmol/gが更に好ましい。カルボキシル化(酸化)方法の一例として、セルロース原料を、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物、及びこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(-COOH)又はカルボキシレート基(-COO-)とを有するセルロース繊維を得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であればいずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)及びその誘導体(例えば4-ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。N-オキシル化合物の使用量は、セルロース原料を酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.01~0.5mmolが更に好ましい。また、反応系に対し0.1~4mmol/L程度がよい。
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物又はヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物及びヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolが更に好ましい。当該変性は酸化反応による変性である。
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物等を使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。酸化剤の適切な使用量は、例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、2.5~25mmolが更に好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
セルロース原料の酸化工程は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は4~40℃が好ましく、また15~30℃程度であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHが低下する。酸化反応を効率よく進行させるために、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性溶液を随時反応系中に添加して、反応液のpHを9~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5~6時間、例えば、0.5~4時間程度である。
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後にろ別して得られた酸化セルロースを、再度、同一又は異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する塩による反応阻害を受けることなく、セルロース原料に効率よくカルボキシル基を導入することができる。
酸化セルロースのカルボキシル基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。アニオン変性セルロースナノファイバーにおけるカルボキシル基量とセルロースナノファイバーとしたときのカルボキシル基量は同じであることが好ましい。
上記の工程で得られる酸化セルロースにおいて、セルロース原料に導入したカルボキシル基は、通常、塩型であり、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩である。解繊工程の前に、酸化セルロースのアルカリ金属塩を、ホスホニウム塩、イミダゾリニウム塩、アンモニウム塩、スルホニウム塩等の他のカチオン塩に置換してもよい。置換は、公知の方法で行うことができる。
- カルボキシアルキル化 -
好ましいアニオン基としては、カルボキシメチル基等のカルボキシアルキル基が挙げられる。本発明におけるカルボキシアルキル基とは、-RCOOH(酸型)又は-RCOOM(塩型)をいう。ここでRはメチレン基、エチレン基等のアルキレン基、Mは金属イオンである。カルボキシアルキル化セルロースは公知の方法で得てもよく、また市販品を用いてもよい。セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシアルキル置換度は0.50以下であることが好ましい。更にアニオン基がカルボキシメチル基である場合、カルボキシメチル置換度は0.50以下であることが好ましい。当該置換度が0.50より大きいと結晶性が低下し、溶解成分の割合が増加するため、ナノファイバーとしての機能が失われる。またカルボキシアルキル置換度の下限値は0.01以上が好ましい。操業性を考慮すると当該置換度は0.02~0.50であることが特に好ましく、0.10~0.30であることが更に好ましい。このようなカルボキシアルキル化セルロースを製造する方法の一例として、以下の工程を含む方法が挙げられる。当該変性は置換反応による変性である。カルボキシメチル化セルロースを例にして説明する。

i)発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0~70℃、好ましくは10~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、マーセル化処理する工程、
ii)次いで、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05~10.0倍モル添加し、反応温度30~90℃、好ましくは40~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行う工程。
発底原料としては前述のセルロース原料を使用できる。溶媒としては、3~20質量倍の水又は低級アルコール、具体的には水、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合媒体を使用できる。低級アルコールを混合する場合、その混合割合は60~95質量%である。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用できる。カルボキシメチル化剤としては公知の化合物を用いることができる。
前述のとおり、セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は0.04未満であり、0.01以上0.60未満であることが好ましい。セルロースにカルボキシメチル置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カルボキシメチル置換基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。なお、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換基が0.02より小さいと、ナノ解繊が十分でない場合がある。アニオン変性セルロースナノファイバーにおける置換度とセルロースナノファイバーとしたときの置換度は通常、同じである。
上記の工程で得られるカルボキシアルキル化セルロースにおいて、セルロース原料に導入したカルボキシアルキル基は、通常、塩型であり、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩である。解繊工程の前に、カルボキシアルキル化セルロースのアルカリ金属塩を、ホスホニウム塩、イミダゾリニウム塩、アンモニウム塩、スルホニウム塩等の他のカチオン塩に置換してもよい。置換は、公知の方法で行うことができる。
なお、本発明において、セルロースナノファイバーの調製に用いるアニオン変性セルロースの一種である「カルボキシメチル化したセルロース」は、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものをいう。したがって、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースとは区別される。「カルボキシメチル化したセルロース」の水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。一方、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースの水分散液を観察しても、繊維状の物質は観察されない。また、「カルボキシメチル化したセルロース」はX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるが、水溶性高分子のカルボキシメチルセルロースではセルロースI型結晶はみられない。
- エステル化 -
アニオン変性セルロースとしてエステル化したセルロースを用いることもできる。セルロース原料にリン酸系化合物Aの粉末や水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーにリン酸系化合物Aの水溶液を添加する方法等が挙げられる。リン酸系化合物Aはリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらのエステルが挙げられる。これらは塩の形態であってもよい。上記の中でも、低コストであり、扱いやすく、またパルプ繊維のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れる等の理由からリン酸基を有する化合物が好ましい。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらは1種、あるいは2種以上を併用してリン酸基を導入することができる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。特にリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。また、反応を均一に進行できかつリン酸基導入の効率が高くなることから前記リン酸系化合物Aは水溶液として用いることが望ましい。リン酸系化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましいが、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3~7が好ましい。
リン酸エステル化セルロースの製造方法の例として、以下の方法を挙げることができる。固形分濃度0.1~10質量%のセルロース原料の懸濁液に、リン酸系化合物Aを撹拌しながら添加してセルロースにリン酸基を導入する。セルロース原料を100質量部とした際に、リン酸系化合物Aの添加量はリン元素量として、0.2~500質量部であることが好ましく、1~400質量部であることがより好ましい。リン酸系化合物Aの割合が前記下限値以上であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。しかし、前記上限値を超えると収率向上の効果は頭打ちとなるので、コスト面から好ましくない。
リン酸系化合物Aの他に化合物Bの粉末や水溶液を混合してもよい。化合物Bは特に限定されないが、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましい。ここでの「塩基性」は、フェノールフタレイン指示薬の存在下で水溶液が桃~赤色を呈すること、又は水溶液のpHが7より大きいことと定義される。本発明で用いる塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。中でも低コストで扱いやすい尿素が好ましい。化合物Bの添加量はセルロース原料の固形分100質量部に対して、2~1000質量部が好ましく、100~700質量部がより好ましい。反応温度は0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、1~600分程度であり、30~480分がより好ましい。エステル化反応の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを防ぐことができ、リン酸エステル化セルロースの収率が良好となる。得られたリン酸エステル化セルロース懸濁液を脱水した後、セルロースの加水分解を抑える観点から、100~170℃で加熱処理することが好ましい。更に、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下、好ましくは110℃以下で加熱し、水を除いた後、100~170℃で加熱処理することが好ましい。
リン酸エステル化されたセルロースのグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001以上0.40未満であることが好ましい。セルロースにリン酸基置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、リン酸基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.001より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.40より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、ナノファイバーとして得られなくなる場合がある。解繊を効率よく行なうために、上記で得たリン酸エステル化されたセルロース原料は煮沸した後、冷水で洗浄することで洗浄されることが好ましい。これらのエステル化による変性は置換反応による変性である。アニオン変性セルロースナノファイバーにおける置換度とセルロースナノファイバーとしたときの置換度は同じであることが好ましい。
上記の工程で得られるリン酸エステル化セルロースにおいて、セルロース原料に導入したリン酸基は、通常、塩型であり、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩である。解繊工程の前に、リン酸エステル化セルロースのアルカリ金属塩を、ホスホニウム塩、イミダゾリニウム塩、アンモニウム塩、スルホニウム塩等の他のカチオン塩に置換してもよい。置換は、公知の方法で行うことができる。
(解繊)
本発明において、アニオン変性セルロースを解繊する装置は特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式等の装置を用いてアニオン変性セルロースの水分散体に強力なせん断力を印加することが好ましい。特に、効率よく解繊するには、前記水分散体に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、更に好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊・分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサー等の公知の混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて、上記のCNFに予備処理を施すことも可能である。解繊装置での処理(パス)回数は、1回でもよいし2回以上でもよく、2回以上が好ましい。
分散処理においては通常、溶媒にアニオン変性セルロースを分散する。溶媒は、アニオン変性セルロースを分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒(例えば、メタノール等の親水性の有機溶媒)、それらの混合溶媒が挙げられる。セルロース原料が親水性であることから、溶媒は水であることが好ましい。
分散体中のアニオン変性セルロースの固形分濃度は、通常は0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。これにより、セルロース繊維原料の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は、通常10質量%以下、好ましくは6質量%以下である。これにより流動性を保持することができる。
解繊処理又は分散処理に先立ち、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理は、高速せん断ミキサー等の混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて行えばよい。
解繊処理を経て得られたアニオン変性セルロースナノファイバーが塩型の場合は、そのまま用いてもよいし、鉱酸を用いた酸処理や、陽イオン交換樹脂を用いた方法等により酸型として用いてもよい。また、カチオン性添加剤を用いた方法により疎水性を付与して用いてもよい。
なお、本発明に用いるセルロースナノファイバーとしては、上記の解繊処理を経て得られたアニオン変性セルロースナノファイバーの水分散液をそのまま用いてもよいし、乾燥・粉砕して得られた粉末状のものを用いてもよいし、水等の水系溶媒に再分散させたものを用いてもよい。
本発明の建築用材料は、セルロースナノファイバーを1種又は2種以上含有していてもよい。本発明の建築用材料において、養生の前後に関わらず、セルロースナノファイバーは、単独で存在していてもよく、また水を含有する場合、水中に分散状態で存在していてもよい。
セルロースナノファイバーは、粉体で用いることもできるが、建築用材料、特にセメントへの分散性の点で、ゲル状物、水分散物等として用いることができる。水分散物におけるセルロースナノファイバーの含有量(分散濃度)は、特に制限されないが、例えば、0.1~10質量%とすることができる。
従来の建築用材料においては、補強効果を得るため、通常、建築用材料中の補強繊維の含有量を、建築用材料中のセメント100質量部に対して、0.05~10質量部程度に設定している(例えば特許文献1参照。)。しかし、本願発明者らは、建築用材料中に混入(含有)させたセルロースナノファイバーは、一定の補強効果を示すものの、従来の含有量で含有させると、凝集しやすく、かえって補強効果を低下させることを見出し、更に検討を進めたところ、建築用材料におけるセルロースナノファイバーの含有量を、従来の含有量よりもはるかに低含有量に設定することにより、セルロースナノファイバーの凝集を効果的に抑制してセメント中に高度に分散させることができ、その結果、圧縮強度及び単繊維引抜強度、特に単繊維引抜強度(引抜角度45°)を大幅に増強させることができることを見出した。この知見に基づいて、本発明においては、セルロースナノファイバーの含有量を、建築用材料中のセメント100質量部に対して、0.0001~0.03質量部とすることが好ましい。本発明におけるセルロースナノファイバーの含有量は、圧縮強度及び単繊維引抜強度の高い増強効果を示す点で、建築用材料中のセメント100質量部に対して、0.015質量部以下であることがより好ましく、0.005質量部以下であることが更に好ましい。
<セメント>
本発明の建築用材料が含有するセメントとしては、一般に建築分野において用いられるセメント質材料を特に制限なく用いることができる。具体的には、アルミナセメント、高炉セメント、アルミン酸カルシウムセメント、ポルトランドセメント、水硬性セメント、グレイセメント、混合水硬性セメント、耐硫酸塩セメント、熱水和セメント、膨張セメント等が挙げられる。ポルトランドセメント(JIS R 5210)としては、低熱ポルトランドセメント(シリカヒューム混合セメント)等が挙げられ、他にも例えば、高炉セメント(JIS R 5211)、シリカセメント(JIS R 5212)、フライアッシュセメント(JIS R 5213)、エコセメント(JIS R 5214)が挙げられる。
セメントは、単独で用いることもでき、セメント以外の成分との混合物として用いることもできる。セメント以外の成分としては、建築用材料においてセメントに通常混合される成分が挙げられ、例えば、シリカフューム、フライアッシュ、高炉スラグ、石灰石微粉末等が挙げられる。このときの、セメント以外の成分の混合量は、通常設定される混合量であれば特に制限されず、例えば、セメントとセメント以外の成分との合計質量中、5~50質量%とすることができる。
本発明の建築用材料は、セメントを1種又は2種以上含有していてもよい。
本発明の建築用材料におけるセメントの含有量は、特に限定されず、適宜に設定される。緻密な微細構造を持つ高強度コンクリートとなる点で、水結合材比[(水の含有量)/(セメントの含有量+混和剤の含有量)]が10~30質量%となることが好ましい。なお、上記各成分の含有量は、本発明の建築用材料全質量中の含有量(質量%)を意味する。
<他の成分>
本発明の建築用材料は、用途、特性等に応じて、セメント及びセルロースナノファイバーに加えて、通常セメントを含有する建築用材料に用いられる他の成分を適宜に含有していてもよい。他の成分としては、特に制限されないが、例えば、水、骨材、石灰、消泡剤、混和剤等が挙げられる。これらの各成分は、建築用材料に用いられるものを特に制限されることなく用いることができる。
例えば、骨材としては、細骨材、粗骨材等が挙げられる。細骨材、粗骨材としては、例えば、珪砂、川砂、海砂、浜砂、砕石等が挙げられるほか、高炉スラグ、フェロニッケルスラグ、銅スラグ、電気炉酸化スラグといった各種スラグ等を用いることができ、この中から建築用材料の用途に応じて、骨材の粒子径を選択して、細骨材又は粗骨材として用いることができる。なお、細骨材としては、通常、5mm以下の平均粒径のものを言うが、本発明においては0.2mm程度の平均粒径のものが好ましい。
混和剤としては、AE剤、AE減水剤、高機能AE減水剤、流動化剤、硬化促進剤、防錆剤、凝結遅延剤、急結剤、収縮低減剤等が挙げられる。
本発明の建築用材料は、他の成分として、ミクロフィブルセルロースを含有していてもよいが、含有していない(例えば、建築用材料中のセメントに対して0.0001質量部未満)ことが好ましい。ミクロフィブルセルロースとは、セルロース原料をフィブリル化して得られる0.5μm以上(通常0.5~20μm)の平均繊維径を有する繊維をいう。
本発明の建築用材料が他の成分を含有する場合、建築用材料中の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜に設定できる。
本発明の建築用材料が水を含有する場合、建築用材料中の水の含有量は、セメント100質量部に対して、8~30質量部とすることができ、12~18質量部であることが好ましい。水の含有量は、上記範囲内であって、更に上記水結合材比を満たす範囲内に設定されることがより好ましい。
本発明の建築用材料が骨材を含有する場合、セメント100質量部に対する骨材の含有量は、骨材が砂であれば10~500質量部とすることができ、30~100質量部が好ましい。
本発明の建築用材料が混和剤を含有する場合、セメント100質量部に対して、0.1~5質量部とすることができ、1~3質量部であることが好ましい。混和剤の含有量は、上記範囲内であって、更に上記水結合材比を満たす範囲内に設定されることがより好ましい。
<本発明の建築用材料の製造方法>
本発明の建築用材料は、セメント、セルロースナノファイバー、通常、水、更に適宜に骨材、石灰、消泡剤、混和剤等を、各種の混合機を用いて、混合することにより、製造することができる。混合条件は、各成分の含有量、混合状態等に応じて一義的に決定されない。その一例を挙げると、混合温度としては5~30℃とすることができ、混合時間としては8~15分とすることができる。
本発明においては、下記工程(1)~(3)をこの順に行う方法が、建築用材料中にセルロースナノファイバーを高度に分散させることができ、養生後の各強度を増強できる点で、好ましい。

工程(1):セメントと骨材とを混合して、セメント混合物を調製する工程
工程(2):セルロースナノファイバーと水とを予め混合してセルロースナノファイバーの水分散液を調製する工程
工程(3):工程(1)で調製したセメント混合物と、工程(2)で調製した水分散液とを混合する工程
各工程における混合は、適宜に公知の混合機を用いて、又は手動にて、行うことができる。工程(2)における混合は、セルロースナノファイバーを高度に分散させることができる点で、ジューサーミキサー、(超音波)ホモジナイザー等を用いて行うことが好ましい。各工程における混合は、複数回行うこともできる。
各工程における混合条件は、各成分の含有量、混合状態等に応じて一義的ではなく、適宜に決定できる。
例えば、工程(1)における混合温度としては、5~30℃とすることができ、混合時間としては、例えば、30秒~2分程度とすることができる。
工程(2)における混合温度としては、特に制限されず、適宜に設定することができる。例えば、工程(1)における混合温度と同じ範囲内で設定できる。混合時間としては、例えば、1~60分とすることができる。ジューサーミキサーを用いる場合、その回転数としては、例えば、18000~23000rpmとすることができる。
工程(3)における混合温度としては、例えば、5~30℃とすることができ、混合時間としては、例えば、3~9分とすることができる。
工程(2)において、セルロースナノファイバーは、粉末状で用いることもでき、ゲル状物として用いることもでき、また予め水に分散された分散物として用いることもできる。なお、セルロースナノファイバーを分散物として用いる場合、セルロースナノファイバー及び水の含有量を調整する必要がなければ、工程(2)を省略することができる。
工程(2)においては、水を用いるが、水に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で種々溶剤を用いることができる。
上記工程(1)~(3)を行う好ましい製造方法において、本発明の建築用材料に用いる残余の成分、例えば混和剤、消泡剤等は、工程(1)~(3)のいずれの工程で混合してもよいが、工程(2)で混合することが好ましく、工程(2)において、水とセルロースナノファイバーとを混合後に、残余の成分を添加して混合することがより好ましい。
上述のようにして調製した養生前の本発明の建築用材料は、養生して、適宜の用途に用いることができる。養生の条件としては、通常の建築用材料に適用される条件を特に制限されることなく適用できる。養生の条件としては、例えば、水蒸気環境(相対湿度80~100%)下において、温度10~95℃で、6~72時間静置する条件等が挙げられる。
<用途等>
本発明の建築用材料は、養生して各種の建築構造物、土木構造物の建築、補修等に用いられる。具体的には、鉄道高架橋や道路橋における橋梁床版、トンネル内部を構成するトンネル覆工コンクリート等の土木構造物、住宅やビル等の建築構造、外壁若しくは目地等が挙げられる。
本発明の建築用材料としては、セメント、上記セルロースナノファイバー、更に水及び細骨材(砂)を含有するモルタル組成物、セメント、上記セルロースナノファイバー、更に水、細骨材(砂)及び粗骨材(砂利)を含有するコンクリート組成物等が挙げられる。
以下に、実施例に基づき本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
実施例及び比較例に用いる材料を以下に示す。
CNF:カルボキシ変性セルロースナノファイバー、具体的には、木質繊維(パルプ)にTEMPO触媒を作用させて、セルロースの1級水酸基(グルコピラノース環のC6位の水酸基)のみを選択的に酸化した後に、機械的に解織して得たTEMPO酸化セルロースナノファイバー、平均繊維長1μm以下、平均繊維径(幅)3nm、平均アスペクト比252、密度1.5g/cm、カルボキシ基量1.42mmol/g、日本製紙株式会社製
セメント:シリカフューム混合セメント(低熱ポルトランドセメント:82質量%及びシリカフューム18質量%)、密度3.01g/cm、宇部三菱セメント社製
細骨材:珪砂6号、密度2.61g/cm、最大粒径:0.212mm、ショーボンド建設社製
高性能減水剤:ポリカルボン酸ポリマー、密度1.05g/cm、竹本油脂社製
消泡剤:ポリエーテル系、密度:1.00g/cm、竹本油脂社製
水:水道水
<平均繊維径及び平均繊維長の測定>
上記カルボキシ変性セルロースナノファイバーの平均繊維径及び平均繊維長は、以下のようにして、測定した。
<平均繊維長(nm)>
セルロースナノファイバーをマイカ切片上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて200本の繊維の繊維長を測定し、平均繊維長を算出した。なお、繊維長の測定は、画像解析ソフトWinROOF(三谷商事社製)を用いて行った。
<平均繊維径(nm)>
セルロースナノファイバーの濃度が0.001質量%となるように希釈したセルロースナノファイバー水分散液を調製した。この希釈分散液をマイカ製試料台に薄く延ばし、50℃で加熱乾燥させて観察用試料を作製した。原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した形状像の断面高さを計測し、平均繊維径を算出した。
[実施例1]
下記方法により、室温環境下で、実施例1の建築用材料(モルタル組成物)を調製した。なお、各工程に用いる成分の混合量(含有量)は、セメント100質量部に対する質量割合である。
5Lのオムニミキサー(型番:OM-5、チヨダマシナリー社製)に、上記セメント100質量部と上記細骨材35質量部を投入して、回転数100~480rpmの回転数で、90秒間混合(空練)して、セメント混合物を調製した(工程(1))。
一方、ジューサーミキサー(型番:HBF400、ハミルトンビーチ社製)に、上記セルロースナノファイバー0.005質量部と水14.8質量部とを投入して、回転数18,000~23,000rpmで3分間混合した。次いで、得られた混合物に、上記高性能減水剤1.2質量部及び上記消泡剤0.02質量部を加えて、3分間混合して、セルロースナノファイバーの水分散液を調製した(工程(2))。
次いで、工程(1)で調製したセメント混合物全量と、工程(2)で調製した水分散液全量とを、5Lのオムニミキサーに投入して、6分間混合した(工程(3))。
こうして、実施例1の建築用材料(未養生)を調製した。
[実施例2]
実施例1において、セルロースナノファイバーの混合量(含有量)を0.015質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の建築用材料を調製した。
[比較例1]
実施例1において、セルロースナノファイバーを用いないこと(無含有)以外は、実施例1と同様にして、比較例1の建築用材料を調製した。
[圧縮強度の測定]
各実施例及び比較例で調製した建築用材料を用いて、直径50mm及び高さ100mmの円柱試験体を3検体ずつ作製した。なお、各建築用材料は、相対湿度95%、90℃の環境下で48時間蒸気養生した。
各建築用材料について、3検体の試験体の圧縮強度を、日本産業規格(JIS) A 1108:2018及びJIS A 1149:2017の記載を参考にして、それぞれ、測定した。各建築用材料における3検体の圧縮強度の算術平均値を、各建築用材料の圧縮強度とした。その結果を図1に示す。なお、図1において、「CNF5」は実施例1の結果を、「CNF15」は実施例2の結果を、「Control」は比較例1の結果を示す(図5~図9において同じ。)。
[単繊維引抜強度の測定]
<試験体の作製>
各実施例及び比較例で調製した建築用材料を用いて、縦30mm、横30mm及び高さ15mmの直方体形状の試験体1A及び1Bを作製した。
具体的には、上記サイズのキャビティーを有する型枠(アクリル製)に、各建築用材料を2層で流し入れて、層ごとに金属棒を用いて締固め及び空隙除去を行い、20℃で打ち込みから2日間静置(硬化)した。その後、打ち込みから材齢2日で脱型し、相対湿度95%、90℃の環境下で48時間蒸気養生した。
各試験体1A及び1Bには、蒸気養生前(打ち込み後)に、図2に示す端部フック形状を有するフックエンド型鋼繊維(両端フック形状、密度:7.85g/cm、長さ30mm、直径0.38mm、アスペクト比78.9、フック部の曲げ角度40~50°程度、ベカルトジャパン社製)Fの一方の端部を、試験体の上面略中央に、図3(A)及び(B)に示されるように0°(垂直)の埋込角度で10mmまで埋め込んだ(試験体1A)。また、同様に、フックエンド型鋼繊維Fの一方の端部を、試験体の上面略中央から、図3(C)及び(D)に示されるように45°の埋込角度で10mmまで埋め込んだ(試験体1B)。試験体に埋め込んでいない他方の端部は切り落として直線状にした。
上記のようにして、各実施例及び比較例について、下記表1に示す試験体数の試験体をそれぞれ作製した。
Figure 2023181676000002
<単繊維引抜強度の測定>
作製した各試験体について、万能試験機(型番:5567、製造番号:C1842、インストロンジャパン社製)を用いて、試験体に埋め込んだフックエンド型鋼繊維(単に、フック型鋼繊維ともいう。)の他方の端部を、繊維固定金属板及び万力で固定し、試験体のモルタルマトリックス部分(建築用材料の養生体)を試験体の上部に設置された金属板に押し当てて水平を取り、フック型鋼繊維を鉛直方向に引き抜いた。試験機クロスヘッド変位量(mm)をフック型鋼繊維の引抜量(引抜変位量ともいう。)(mm)とし、引抜速度を1.0mm/minとした。
なお、埋込角度45°でフック型鋼繊維を埋め込んだ試験体1Bは、図4に示すように、埋設したフック型鋼繊維Fの上方部分(図4中の剥離領域1B)が剥離したため、この剥離領域1Bについても破壊靭性の指標として考察した。
各実施例及び比較例について、埋込角度0°における単繊維引抜強度の測定における、引抜変位量(単に「変位」ともいう。)(mm)と引抜荷重(単に「荷重」ともいう。)(N)との関係(各試験体の平均曲線)を、まとめて、図5に示す。また、各実施例及び比較例について、埋込角度45°における単繊維引抜強度の測定における、引抜変位量(mm)と荷重(N)との関係(各試験体の平均曲線)を、まとめて、図6に示す。
また、埋込角度0°及び45°における単繊維引抜強度の測定での最大引抜荷重(平均値)(N)をまとめて図7に、更に、比較例1の最大引抜荷重値(N)に対する実施例1及び2の最大引抜荷重値(N)の割合(引張荷重のContorol比)を図8に、それぞれ、示す。
更に、実施例及び比較例における埋込角度45°における単繊維引抜強度の測定によって生じた剥離領域の表面積(試験体破壊面積ともいう。)(mm)を、図9に示す。
<考察>
上記実施例及び比較例の結果から以下のことが分かる。
(圧縮強度)
図1に示されるように、比較例1の圧縮強度は204.1MPaであるのに対して、実施例1及び実施例2の圧縮強度は、それぞれ、219.3MPa及び217.4MPaであり、増強されていることが分かる。このような圧縮強度の増強は、セルロースナノファイバーが試験体のモルタルマトリックス中に適切に分散していることによって、モルタルマトリックス中の水和度が高まったことによる効果であると考えられる。
(埋込角度0°における単繊維引抜強度)
図5、図7及び図8に示されるように、実施例1の埋込角度0°における単繊維引抜強度は、比較例1の埋込角度0°における単繊維引抜強度に対して、引抜荷重が増大していることから、増強されていることが分かる。これは、特定サイズのセルロースナノファイバーを混入したことによって、補強効果が埋め込んだフック型鋼繊維とモルタルマトリックスの界面で発揮されたためと考えられる。
実施例1の荷重は実施例2の荷重よりも大きく、埋込角度0°における単繊維引抜強度の増強効果が強いことが分かる。その理由は、下記の埋込角度45°において実施例1が実施例2よりも単繊維引抜強度の増強効果が強い理由と同じであると考えられる。
(埋込角度45°における単繊維引抜強度)
図6~図8に示されるように、実施例1及び2の埋込角度45°における単繊維引抜強度は、いずれも、比較例1の埋込角度45°における単繊維引抜強度に対して、荷重が増大していることから、増強されていることが分かる。特に実施例1は荷重値、特に最大荷重値が大きくなる傾向を示す。これは、特定サイズのセルロースナノファイバーを低含有量で混入したことによって引抜抵抗の向上、セルロースナノファイバーの配向によるスナビング効果の影響であると考えられる。実施例1の荷重は実施例2の荷重よりも大きく、埋込角度45°における単繊維引抜強度の増強効果が強いことが分かる。これは、特定サイズのセルロースナノファイバーの含有量が少なく、モルタルマトリックス中でセルロースナノファイバーが高度に分散して、凝集物の発生、残存がより効果的に抑制されるためと考えられる。
(単繊維引抜強度試験における剥離領域)
埋込角度0°でフック型鋼繊維を埋め込んだ試験体においては、実施例及び比較例ともに、フック型鋼繊維が埋め込まれていた部分に穴が残っているのみで、引き抜き後のモルタルマトリックスに損傷(剥離領域)は確認できない。
埋込角度45°でフック型鋼繊維を埋め込んだ試験体においては、実施例及び比較例ともに、フック型鋼繊維を引き抜いた後のモルタルマトリックスに損傷(剥離領域)が確認された。図9に示されるように、比較例1では、単繊維引抜強度試験における荷重が小さいにもかかわらず、破壊面積(実表面積ではなく投影面積)は比較的大きい。これに対して、実施例1は、単繊維引抜強度試験における荷重が大きいため、破壊面積が大きくなっており、セルロースナノファイバーの大きいレベルにおける破壊抵抗性への影響は小さいと考えられる。実施例2は、単繊維引抜強度試験における荷重が実施例1より小さいため、破壊面積は非常に小さくなっている。
以上の結果から、平均繊維径が1~500nmであり、平均繊維長が0.1~1μmであるセルロースナノファイバーとセメントとを含有する本発明の建築用材料は、養生後に高い圧縮強度と高い単繊維引抜強度とを発現することが分かる。

Claims (3)

  1. セメントとセルロースナノファイバーとを含む建築用材料であって、
    前記セルロースナノファイバーの平均繊維径が1~500nmであり、平均繊維長が0.1~1μmである、建築用材料。
  2. 前記セルロースナノファイバーがアニオン変性セルロースナノファイバーである、請求項1に記載の建築用材料。
  3. 前記セルロースナノファイバーの含有量が、前記セメント100質量部に対して、0.0001~0.03質量部である、請求項1又は2に記載の建築用材料。
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