JP2023171336A - 電縫鋼管、及び、電縫鋼管の素材となる鋼板 - Google Patents

電縫鋼管、及び、電縫鋼管の素材となる鋼板 Download PDF

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泰志 藤城
Yasushi Fujishiro
健三 田島
Kenzo Tajima
健介 長井
Kensuke Nagai
俊一 小林
Shunichi Kobayashi
孝聡 福士
Takasato Fukushi
悠索 富尾
Yusaku Tomio
孝彦 神武
Takahiko Kamitake
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Abstract

【課題】高い強度、優れた変形能及び耐HIC性を有する電縫鋼管を提供する。【解決手段】電縫鋼管の母材部は、質量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.03~0.60%、Mn:0.30~1.60%、P:0~0.030%、S:0~0.0005%、Al:0.005~0.500%、N:0.0005~0.0100%、Nb:0.005~0.080%、Ti:0.005~0.080%、Ca:0.0001~0.0100%、O:0~0.005%を含有し、実施形態で規定する式(1)~(3)で定義されるF1が0.15~0.50であり、F2が2.0以上であり、F3が1.0以上である。肉厚中央部のフェライトの面積率は60~90%であり、硬質組織の面積率は10~40%である。硬質組織のビッカース硬さは300Hv以下であり、硬質組織の集合粒の長径が100μm以下である。肉厚中央部の介在物の長径は100μm以下である。【選択図】図2

Description

本開示は、電縫鋼管、及び、鋼板に関し、さらに詳しくは、パイプラインに用いられる電縫鋼管、及び、その電縫鋼管の素材となる鋼板に関する。
海底に敷設されるパイプラインは、複数の鋼管(ラインパイプ)で構成される。ラインパイプは、内部を通る天然ガスや原油等の生産流体から、高い圧力を受ける。そのため、ラインパイプには高い強度が求められる。したがって、ラインパイプとして電縫鋼管が用いられる場合、電縫鋼管には、高い強度が求められる。
さらに、ラインパイプ内部を流れる生産流体は、二酸化炭素及び/又は硫化水素等の腐食性ガスを含有する場合がある。したがって、ラインパイプ用途の電縫鋼管には、高い強度とともに、優れた耐HIC性も求められる。
電縫鋼管の強度及び耐HIC性を高める技術が、特許第6575734号公報(特許文献1)、国際公開第2020/170333号(特許文献2)、特開2020-128577号公報(特許文献3)、国際公開第2014/115549号(特許文献4)、特開2007-138290号公報(特許文献5)、及び、特開2020-200498号公報(特許文献6)に提案されている。
特許文献1に開示されたラインパイプ用電縫鋼管は、質量%で、C:0.03~0.10%、Si:0.03~0.60%、Mn:0.30~1.60%、P:0~0.030%、S:0~0.0015%、Ti:0.010~0.200、Al:0.005~0.500、Nb:0.010~0.050%、N:0~0.006%、O:0~0.004%、Ca:0.0001~0.0200%、Cu:0~1.000%、Ni:0~1.000%、Cr:0~1.00%、Mo:0~0.50%、V:0~0.200%、W:0~0.100%、B:0~0.0050%、Mg:0~0.0200%、Zr:0~0.0200%、REM::0~0.0200%、並びに、残部:Fe及び不純物からなり、式(1)で表されるCeqが0.10~0.50であり、式(2)で表されるESSPが0~10.00である。母材部の肉厚中央部の金属組織において、フェライトの面積率が60~90%であり、残部が、焼戻しベイナイト及びパーライトからなる群から選択される少なくとも1種を含み、かつ、残部におけるマルテンサイト及び焼戻しマルテンサイトの合計面積率が残部全体に対して1%未満である。さらに、母材部の肉厚中央部の金属組織において、平均フェライト粒径が10μm以下であり、平均フェライト粒径に対する最大フェライト粒径の比が3.0以下である。さらに、管軸方向の引張強度が400~700MPaであり、管軸方向の降伏強度が300~650MPaであり、管軸方向の降伏比が95%以下であり、管軸方向引張試験を行った場合に降伏伸びが観測される。ここで、式(1)で表されるCeq=C+Mn/6+Cr/5+(Ni+Cu)/15+Nb+Mo+Vであり、式(2)で表されるESSP=Ca×(1-124O)/1.25Sである。
このラインパイプ用電縫鋼管では、熱間圧延により製造した熱延鋼板を管状に成形し、その後焼戻し処理を施す。これにより、鋼の金属組織を軟質なフェライトと硬質な焼戻しベイナイト及びパーライトの複合組織とし、降伏比が低減し、耐HIC性が高まる。電縫鋼管の製造工程において、500~700℃の焼戻し温度、及び、1~120分の焼戻し時間で焼戻しを実施する、と特許文献1には記載されている。
特許文献2に開示されたラインパイプ用電縫鋼管は、母材部の化学組成が、質量%で、C:0.04~0.12%、Si:0.01~0.50%、Mn:0.5~2.0%、P:0~0.020%、S:0~0.0030%、Al:0~0.080%、Ti:0.005~0.030%、Nb:0.005~0.050%、N:0.001~0.008%、O:0~0.003%、Cu:0~0.5%、Ni:0~0.5%、Cr:0~0.50%、Mo:0~0.5%、V:0~0.10%、B:0~0.0020%、W:0~0.500%、Zr:0~0.0500%、Ta:0~0.0500%、Mg:0~0.005%、Ca:0~0.0050%、REM:0~0.0050%、Y:0~0.0050%、Hf:0~0.0050%、Re:0~0.0050%を含有し、残部がFe及び不純物を含有し、さらに、母材部の肉厚をtとし、電縫溶接部の肉厚をtとした場合に、母材部の外表面から深さ1mmの位置である外表層部Bの硬さから1/2t部の硬さを差し引いた値が0HV10以上30HV10以下であり、電縫溶接部の外表面から深さ1mmの位置である外表層部Sの硬さから1/2t部の硬さを差し引いた値が0HV10以上30HV10以下であり、t及びtが、それぞれ15mm以上である。ここで、外表層部B、1/4t部、及び、1/2t部の各々の金属組織では、ポリゴナルフェライト分率が0~50%であり、平均結晶粒径が20μm以下である。外表面から深さ1mmの位置である外表層部Sの金属組織では、ポリゴナルフェライト分率が0~30%であり、平均結晶粒径が20μm以下であり、1/4t部の金属組織はポリゴナルフェライト分率が0~40%であり、平均結晶粒径が20μm以下であり、1/2t部の金属組織は、ポリゴナルフェライト分率が0~50%であり、平均結晶粒径が20μm以下である。
このラインパイプ用電縫鋼管では、硬さのばらつきが抑えられ、低温靱性が高まる。と特許文献2には記載されている。
特許文献3に開示されたラインパイプ用電縫鋼管は、母材部の化学組成が、質量%で、C:0.030~0.100%、Si:0.01~0.50%、Mn:0.50~2.50%、P:0.050%以下、S:0.0050%以下、Al:0.040%以下、Ti:0.003~0.030%、Nb:0.003~0.200%、N:0.0080%以下、O:0.0050%以下、Cu:0~1.00%、Ni:0~1.00%、Cr:0~1.00%、Mo:0~1.00%、V:0~0.10%、B:0~0.0050%、Ca:0~0.0008%、及び、希土類元素(REM):0~0.0050%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、式(1)及び式(2)を満たす化学組成を有する。さらに、シーム熱処理の熱影響部のうち、電縫溶接部から母材の周方向200~600μm位置であって、電縫溶接部の管軸方向に垂直な断面での外表面から3~5mm深さ位置である特定領域において、平均ビッカース硬さが200~240であり、特定領域の金属組織において、Ca、Al、O及びTiからなる群から選択される1種又は2種以上を含有する介在物の数密度が12.0個/mm以下である。さらに、シーム熱処理の熱影響部の肉厚をtとしたときに、シーム熱処理の熱影響部のt/4部の金属組織において、フェライトの面積率が0~40%、残部が焼戻しベイナイトであり、平均結晶粒径が15μm以下である。さらに、シーム熱処理の熱影響部のt/2部の金属組織において、フェライトの面積率が0~50%、残部が焼戻しベイナイトであり、平均結晶粒径が15μm以下である。さらに、母材の肉厚をtとしたときに、母材の、t/4部及びt/2部の金属組織において、フェライトの面積率が0~50%、残部がベイナイトであり、平均結晶粒径が15μm以下である。
このラインパイプ用電縫鋼管では、より厳しい条件での評価試験であるCTOD(Crack Tip Opening Displacement:亀裂先端開口変位)試験においても、優れた低温靱性が得られる、と特許文献3には記載されている。
特許文献4に開示された高強度ラインパイプ用熱延鋼板は、化学組成が、質量%で、C:0.02~0.06%、Si:0.05~0.25%、Mn:0.60~1.10%、P:0.008%以下、S:0.0010%以下、Nb:0.010~0.060%、Ti:0.001~0.020%、Mo:0.05%以下、Cr:0.05~0.50%、Al:0.01~0.08%、Ca:0.0005~0.0050%、O:0.005%以下を含有し、さらに、Cu:0.50%以下、Ni:0.50%以下、V:0.10%以下の中から選ばれる1種以上を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、式(1)を満たす。さらに、金属組織がベイニティックフェライトであって、中心偏析部の硬度と非偏析部の硬度との比が1.20未満である。ここで、式(1)はSP≦1.90であり、SPは、SP=Mn+Mo+11.3×C+0.29×(Cu+Ni)+0.60×Cr+0.88×Vから求められ、式中の元素記号は各元素の質量%を意味する。
このラインパイプ用熱延鋼板では、中心偏析部の硬度を低減し、成形時に大きな塑性が付与される電縫鋼管においても十分な耐HIC性を示す、と特許文献4には記載されている。
特許文献5に開示された厚手高強度熱延鋼板は、化学組成が、質量%で、C:0.01~0.05%、Si:1.0%以下、Mn:0.3~1.5%、P:0.025%以下、S:0.001%以下、Al:0.005~0.10%、N:0.0050%以下、B:0.0001~0.0020%、Ti:0.005~0.03%、Nb:0.030~0.10%、Ca:0.001~0.005%、O:0.003%以下を含み、かつ、Si、Mnが式(1)を、Ti、Nb、Cが式(2)を、Ca、O、Sが式(3)をそれぞれ満足するように含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなる鋼組成と、さらにベイニティックフェライト及び/又はフェライトからなる金属組織とを有し、板厚18mm以上である。ここで、式(1)は0.8Si≦Mn≦Si+1.2、式(2)は0.5<(Ti+Nb/2)/C<4.0、式(3)は1.2≦{Ca-(130×Ca+0.18)×O}/(1.25×S)≦3.6であり、式中の元素記号は各元素の質量%での含有量を意味する。
この熱延鋼板は、低温靭性及び耐HIC性に優れる、と特許文献5には記載されている。
特許文献6に開示されたラインパイプ用鋼板及び鋼管は、鋼板及び鋼管の母材部の化学組成が、質量%で、C:0.02~0.08%、Si:0.01~0.50%、Mn:0.5~1.7%、Nb:0.001~0.100%、N:0.0010~0.0060%、Ca:0.0001~0.0050%、P:0.03%以下、S:0.0025%以下、Ti:0.005~0.030%、Al:0.01~0.04%、O:0.004%以下、Mo:0~2.0%、Cr:0~2.0%、Cu:0~2.0%、Ni:0~2.0%、W:0~1.0%、V:0~0.20%、Zr:0~0.050%、Ta:0~0.050%、B:0~0.0020%、REM:0~0.01%、Mg:0~0.01%、Hf:0~0.005%、Re:0~0.005%、残部:Fe及び不純物であり、(i)式を満足し、(ii)式で表わされるCeqが0.30~0.50である。さらに、板厚中心部における金属組織が、アシキュラーフェライト及びベイナイトから選択される1種又は2種を含み、残部がフェライト、M-A相、及び疑似パーライトから選択される1種以上である。さらに、表層における金属組織が、粒径100nm以上のセメンタイトを含む焼戻しマルテンサイト及び再結晶フェライトを含み、残部がベイナイトであり、表層における最高硬さが250HV0.1以下であり、引張強さが480~650MPaである。ここで、(i)式はMo+Cr+Ti+Nb+V+W+Ta≦2.0、(ii)式はCeq=C+Mn/6+(Ni+Cu)/15+(Cr+Mo+V)/5であり、式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表す。
このラインパイプ用鋼板及び鋼管では、熱間圧延及び加速冷却後に、焼戻し処理を施すことにより、鋼の表層における最高硬さを低減させ、耐SSC(Sulfide Stress Cracking)性を高めることができる、と特許文献6には記載されている。
特許第6575734号公報 国際公開第2020/170333号 特開2020-128577号公報 国際公開第2014/115549号 特開2007-138290号公報 特開2020-200498号公報
日本鉄鋼協会基礎研究会ベイナイト調査研究部会編、「鋼のベイナイト写真集1」、日本鉄鋼協会、1992年6月出版
ところで、パイプラインの海底への敷設方法として、リーリング工法がある。リーリング工法では、複数の鋼管(ラインパイプ)が連結された長尺のパイプラインを陸上で予め製造する。そして、製造されたパイプラインをリールバージ船のスプールに巻き取る。巻き取られたパイプラインを、海上でスプールから巻き戻して、海底に敷設する。
上述のリーリング工法において、パイプラインに用いられる電縫鋼管には、巻き取り及び巻き戻しによる引張応力及び圧縮応力が作用する。このとき、電縫鋼管の変形能が低ければ、局部座屈が発生する場合がある。局部座屈は電縫鋼管の破断の起点となり得る。そのため、局部座屈の発生が抑制されることが好ましい。したがって、パイプライン用途の電縫鋼管には、高い強度及び優れた耐HIC性だけでなく、優れた変形能が求められる。
本開示の目的は、高い強度、優れた変形能及び耐HIC性を有する電縫鋼管、及び、その電縫鋼管の素材となる鋼板を提供することである。
本開示による電縫鋼管は、
母材部と、電縫溶接部とを含み、
前記母材部は、質量%で、
C:0.06~0.12%、
Si:0.03~0.60%、
Mn:0.30~1.60%、
P:0~0.030%、
S:0~0.0005%、
Al:0.005~0.500%、
N:0.0005~0.0100%、
Nb:0.005~0.080%、
Ti:0.005~0.080%、
Ca:0.0001~0.0100%、
O:0~0.005%、
Ni:0~1.00%、
Mo:0~0.50%、
V:0~0.20%、
Cr:0~1.00%、
Cu:0~1.00%、
Mg:0~0.002%、及び、
希土類元素:0~0.0200%を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
式(1)で定義されるF1が0.15~0.50であり、
式(2)で定義されるF2が2.0以上であり、
式(3)で定義されるF3が1.0以上であり、
前記母材部の肉厚中央部の金属組織において、
フェライトの面積率が60~90%であり、
パーライト、ベイナイト、及びマルテンサイトの少なくとも1種以上を含む硬質組織の面積率が10~40%であり、
前記硬質組織のビッカース硬さが300Hv以下であり、
前記硬質組織の集合粒の長径が100μm以下であり、
前記母材部の肉厚中央部の介在物の長径が100μm以下である。
F1=[C]+[Mn]/6+([Ni]+[Cu])/15+([Cr]+[Mo]+[V])/5 (1)
F2=[Ca]/[S] (2)
F3=[Ca]×(1-124[O])/1.25[S] (3)
ここで、式(1)~式(3)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
本開示による鋼板は、
質量%で、
C:0.06~0.12%、
Si:0.03~0.60%、
Mn:0.30~1.60%、
P:0~0.030%、
S:0~0.0005%、
Al:0.005~0.500%、
N:0.0005~0.0100%、
Nb:0.005~0.080%、
Ti:0.005~0.080%、
Ca:0.0001~0.0100%、
O:0~0.005%、
Ni:0~1.00%、
Mo:0~0.50%、
V:0~0.20%、
Cr:0~1.00%、
Cu:0~1.00%、
Mg:0~0.002%、及び、
希土類元素:0~0.0200%を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
式(1)で定義されるF1が0.15~0.50であり、
式(2)で定義されるF2が2.0以上であり、
式(3)で定義されるF3が1.0以上であり、
前記鋼板の板厚中央部の金属組織において、
フェライトの面積率が60~90%であり、
パーライト、ベイナイト、及びマルテンサイトの少なくとも1種以上を含む硬質組織の面積率が10~40%であり、
前記硬質組織のビッカース硬さが300Hv以下であり、
前記硬質組織の集合粒の長径が100μm以下であり、
前記鋼板の板厚中央部の介在物の長径が100μm以下である。
F1=[C]+[Mn]/6+([Ni]+[Cu])/15+([Cr]+[Mo]+[V])/5 (1)
F2=[Ca]/[S] (2)
F3=[Ca]×(1-124[O])/1.25[S] (3)
ここで、式(1)~式(3)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
本開示による電縫鋼管は、高い強度、優れた変形能及び耐HIC性を有する。本開示による鋼板は、上述の電縫鋼管の素材に適する。
図1は、本実施形態による電縫鋼管と同じ化学組成を有し、化学組成中の各元素含有量のF1~F3が適切であるものの、金属組織が異なる電縫鋼管の金属組織の模式図である。 図2は、本実施形態による電縫鋼管の金属組織の模式図である。 図3は、本実施形態による電縫鋼管の母材部となる鋼板の連続冷却変態曲線図である。
本発明者らは、パイプライン用途の電縫鋼管の強度、変形能、及び、耐HIC性について調査及び検討を行った。
初めに、本発明者らは、高い強度、優れた変形能及び優れた耐HIC性を有する電縫鋼管について、化学組成の観点から検討を行った。その結果、電縫鋼管の母材部の化学組成が、以下の特徴1を満たせば、電縫鋼管において、高い強度、十分な変形能、及び、十分な耐HIC性が得られると考えた。
(特徴1)
化学組成が、質量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.03~0.60%、Mn:0.30~1.60%、P:0~0.030%、S:0~0.0005%、Al:0.005~0.500%、N:0.0005~0.0100%、Nb:0.005~0.080%、Ti:0.005~0.080%、Ca:0.0001~0.0100%、O:0~0.005%、Ni:0~1.00%、Mo:0~0.50%、V:0~0.20%、Cr:0~1.00%、Cu:0~1.00%、Mg:0~0.002%、及び、希土類元素:0~0.0200%を含有し、残部がFe及び不純物からなる。
しかしながら、母材部が特徴1を満たしても、必ずしも、電縫鋼管の強度、変形能、及び、耐HIC性が十分に得られない場合があることが判明した。そこで、本発明者らはさらに検討を行った。その結果、母材部が特徴1を満たすことを前提として、さらに、以下の特徴2を満たすことにより、電縫鋼管の強度、変形能、及び、耐HIC性がさらに高まることを見出した。
(特徴2)
式(1)で定義されるF1が0.15~0.50であり、
式(2)で定義されるF2が2.0以上であり、
式(3)で定義されるF3が1.0以上である。
F1=[C]+[Mn]/6+([Ni]+[Cu])/15+([Cr]+[Mo]+[V])/5 (1)
F2=[Ca]/[S] (2)
F3=[Ca]×(1-124[O])/1.25[S] (3)
ここで、式(1)~式(3)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
F1は、電縫鋼管の母材部の焼入れ性に関する指標である。F1が0.15~0.50であれば、母材部が特徴1を満たし、F2及びF3が上述の数値範囲を満たすことを前提として、電縫鋼管の母材部において、変形能を得るために適切な軟質組織の面積率(フェライトの面積率)と、硬質組織(パーライト、ベイナイト及びマルテンサイトの少なくとも1種以上)の面積率とを適正な範囲に調整できる。その結果、高い強度及び優れた変形能を得ることができる。この場合さらに、耐HIC性が高まる。
F2はMnS量の低減に寄与するCa含有量とS含有量との関係を示す、耐HIC性の指標である。化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内である母材部において、F2が2.0以上であれば、F1が0.15~0.50であり、F3が上述の数値範囲を満たすことを前提として、母材部でのMnSの生成が十分に抑制される。そのため、電縫鋼管の耐HIC性が高まる。
F3は、CaOの生成も考慮した、CaSに利用可能なCa量に関する指標である。化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内である母材部において、F3が1.0以上であれば、F1が0.15~0.50、F2が2.0以上であることを前提として、母材部でのMnSの生成が十分に抑制される。そのため、電縫鋼管の耐HIC性が高まる。
以上のとおり、母材部が特徴1及び特徴2を満たせば、電縫鋼管の強度、変形能、及び、耐HIC性をある程度高めることができる。しかしながら、このような電縫鋼管であっても、依然として十分な耐HIC性が得られない場合があることが判明した。そこで、本発明者らは、上述の構成を有する電縫鋼管において耐HIC性が十分に高まらなかった原因を調査した。その結果、本発明者らは、次の知見を得た。
電縫鋼管において、変形能を高めるためには、特徴1及び特徴2を満たす母材部の金属組織を、特徴3を満たす組織とする。
(特徴3)
母材部の肉厚中央部の金属組織において、フェライトの面積率が60~90%であり、パーライト、ベイナイト、及びマルテンサイトの少なくとも1種以上を含む硬質組織の面積率が10~40%である。
上述の金属組織において、フェライトはポリゴナルフェライト及び擬ポリゴナルフェライトからなる。フェライトは硬質組織よりも軟質な組織(軟質組織)である。母材部の金属組織において、軟質組織の面積率と硬質組織の面積率とが特徴3を満たすように調整することにより、電縫鋼管の変形能が高まる。
図1は、特徴1~特徴3を満たす電縫鋼管の母材部の肉厚中央部の肉厚方向(T方向)及び管軸方向(L方向)を含む断面での金属組織の模式図である。図1を参照して、母材部の肉厚中央部の金属組織は、フェライトFと硬質組織Eとを含有する。金属組織はさらに、介在物Gを含有する場合がある。本実施形態において、介在物Gは、酸化物、硫化物、窒化物、及び、炭窒化物からなる群から選択される1種以上からなる。本実施形態において、介在物Gは、析出物も含む概念とする。介在物Gは、Mn、Si、Al、Nb、Ti、Ca、Mg、N、C、S、及び、Oからなる群から選択される1種以上を含有する。介在物Gは、フェライトF及び硬質組織Eとは異なる相である。介在物Gは、介在物単体であってもよいし、複数種類の介在物からなる複合介在物であってもよいし、析出物単体であってもよいし、複数種類の析出物からなる複合析出物であってもよいし、介在物及び析出物からなる複合粒子であってもよい。
複数の介在物が繋がっている場合、繋がった複数の介在物を、1つの介在物Gとみなす。複数の析出物が繋がっている場合、1つの介在物Gとみなす。1以上の介在物と1以上の析出物とが繋がっている場合、1つの介在物Gとみなす。
介在物GはHICの発生起点となりやすい。さらに、管軸方向に延在している介在物GはHICの伝播経路になりやすい。さらに、硬質組織Eも管軸方向にバンド状に延在している。そのため、硬質組織Eの集合粒は、HICの伝播経路になりやすい。したがって、介在物Gの長径、及び、硬質組織Eの集合粒の長径が長いほど、電縫鋼管の耐HIC性が低下する。
以上の知見から、本発明者らは、金属組織中の介在物Gの形状、及び、硬質組織Eの形状に注目した。そして、検討の結果、次の知見を得た。
図2は、図1と異なる、特徴1~特徴3を満たす電縫鋼管の母材部の肉厚中央部の肉厚方向(T方向)及び管軸方向(L方向)を含む断面での金属組織の模式図である。図2では、図1と比較して、介在物Gの長径、及び、硬質組織の集合粒の長径が短い。そのため、HICの伝播も抑制される。その結果、電縫鋼管の耐HIC性が高まる。
さらに、本発明者らは、金属組織中の硬質組織の硬さに注目した。そして、検討の結果、次の知見を得た。図2を参照して、特徴1~特徴3を満たす電縫鋼管の、T方向及びL方向を含む断面での金属組織において、硬質組織のビッカース硬さが低減されれば、HICの発生は抑制され、HICの伝播も抑制される。そのため、耐HIC性が高まる。
以上の知見に基づいて、本発明者らは、母材部の金属組織内の介在物の長径、及び、硬質組織の集合粒の長径と、ビッカース硬さ、及び、耐HIC性との関係について、さらに検討を行った。その結果、電縫鋼管がさらに、以下の特徴4~特徴6を満たせば、高い強度、優れた変形能、及び、優れた耐HIC性が得られることを、本発明者らは見出した。
(特徴4)
硬質組織のビッカース硬さが300Hv以下である。
(特徴5)
硬質組織の集合粒の長径が100μm以下である。
(特徴6)
母材部の肉厚中央部の介在物の長径が100μm以下である。
さらに、本発明者らが調査及び検討を継続した結果、電縫鋼管が特徴1~特徴6を満たす場合はさらに、高圧水素環境下において破壊靱性が高まることも、本発明者らは見出した。
以上の技術思想に基づいて、本実施形態による電縫鋼管、及び、電縫鋼管の素材となる鋼板は完成した。本実施形態による電縫鋼管、及び、鋼板は、次の構成を有する。
[1]
電縫鋼管であって、
母材部と、電縫溶接部とを含み、
前記母材部は、質量%で、
C:0.06~0.12%、
Si:0.03~0.60%、
Mn:0.30~1.60%、
P:0~0.030%、
S:0~0.0005%、
Al:0.005~0.500%、
N:0.0005~0.0100%、
Nb:0.005~0.080%、
Ti:0.005~0.080%、
Ca:0.0001~0.0100%、
O:0~0.005%、
Ni:0~1.00%、
Mo:0~0.50%、
V:0~0.20%、
Cr:0~1.00%、
Cu:0~1.00%、
Mg:0~0.002%、及び、
希土類元素:0~0.0200%を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
式(1)で定義されるF1が0.15~0.50であり、
式(2)で定義されるF2が2.0以上であり、
式(3)で定義されるF3が1.0以上であり、
前記母材部の肉厚中央部の金属組織において、
フェライトの面積率が60~90%であり、
パーライト、ベイナイト、及びマルテンサイトの少なくとも1種以上を含む硬質組織の面積率が10~40%であり、
前記硬質組織のビッカース硬さが300Hv以下であり、
前記硬質組織の集合粒の長径が100μm以下であり、
前記母材部の肉厚中央部の介在物の長径が100μm以下である、
電縫鋼管。
F1=[C]+[Mn]/6+([Ni]+[Cu])/15+([Cr]+[Mo]+[V])/5 (1)
F2=[Ca]/[S] (2)
F3=[Ca]×(1-124[O])/1.25[S] (3)
ここで、式(1)~式(3)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
[2]
[1]に記載の電縫鋼管であって、
Ni:0.01~1.00%、
Mo:0.01~0.50%、
V:0.01~0.20%、
Cr:0.01~1.00%、
Cu:0.01~1.00%、
Mg:0.001~0.002%、及び、
希土類元素:0.0001~0.0200%、
からなる群から選択される1種以上を含有する、
電縫鋼管。
[3]
[1]又は[2]に記載の電縫鋼管であって、
降伏応力YSが415~650MPaであり、
降伏比YRが93%以下であり、
二酸化炭素分圧0.9気圧、硫化水素分圧0.1気圧、pH3.5の湿潤硫化水素環境で336時間浸漬した後の水素誘起割れによる割れ長さ率CLRが15.0%以下である、
電縫鋼管。
[4]
[1]又は[2]に記載の電縫鋼管であって、
降伏応力YSが415~650MPaであり、
降伏比YRが93%以下であり、
水素圧200気圧の高圧水素環境で1000時間保持した後の破壊靭性値が55MPa√m以上である、
電縫鋼管。
[5]
[1]~[4]のいずれか1項に記載の電縫鋼管であって、
前記母材部の肉厚が12.0~25.4mmである、
電縫鋼管。
[6]
鋼板であって、
質量%で、
C:0.06~0.12%、
Si:0.03~0.60%、
Mn:0.30~1.60%、
P:0~0.030%、
S:0~0.0005%、
Al:0.005~0.500%、
N:0.0005~0.0100%、
Nb:0.005~0.080%、
Ti:0.005~0.080%、
Ca:0.0001~0.0100%、
O:0~0.005%、
Ni:0~1.00%、
Mo:0~0.50%、
V:0~0.20%、
Cr:0~1.00%、
Cu:0~1.00%、
Mg:0~0.002%、及び、
希土類元素:0~0.0200%を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
式(1)で定義されるF1が0.15~0.50であり、
式(2)で定義されるF2が2.0以上であり、
式(3)で定義されるF3が1.0以上であり、
前記鋼板の板厚中央部の金属組織において、
フェライトの面積率が60~90%であり、
パーライト、ベイナイト、及びマルテンサイトの少なくとも1種以上を含む硬質組織の面積率が10~40%であり、
前記硬質組織のビッカース硬さが300Hv以下であり、
前記硬質組織の集合粒の長径が100μm以下であり、
前記鋼板の板厚中央部の介在物の長径が100μm以下である、
鋼板。
F1=[C]+[Mn]/6+([Ni]+[Cu])/15+([Cr]+[Mo]+[V])/5 (1)
F2=[Ca]/[S] (2)
F3=[Ca]×(1-124[O])/1.25[S] (3)
ここで、式(1)~式(3)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
以下、本実施形態による電縫鋼管及び鋼板について詳述する。ここで、鋼板とは、電縫鋼管の製造に用いられるのに適する鋼板であり、電縫鋼管の素材に相当する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
[電縫鋼管の構成]
本実施形態による電縫鋼管は、母材部と、電縫溶接部とを有する。母材部は円筒状である。電縫溶接部は電縫鋼管の管軸方向(長手方向)に延在している。
[電縫鋼管の特徴]
本実施形態の電縫鋼管は、次の特徴1~特徴6を満たす。
(特徴1)
母材部の化学組成は、質量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.03~0.60%、Mn:0.30~1.60%、P:0~0.030%、S:0~0.0005%、Al:0.005~0.500%、N:0.0005~0.0100%、Nb:0.005~0.080%、Ti:0.005~0.080%、Ca:0.0001~0.0100%、O:0~0.005%、Ni:0~1.00%、Mo:0~0.50%、V:0~0.20%、Cr:0~1.00%、Cu:0~1.00%、Mg:0~0.002%、及び、希土類元素:0~0.0200%を含有し、残部がFe及び不純物からなる。
(特徴2)
式(1)で定義されるF1が0.15~0.50であり、
式(2)で定義されるF2が2.0以上であり、
式(3)で定義されるF3が1.0以上である。
F1=[C]+[Mn]/6+([Ni]+[Cu])/15+([Cr]+[Mo]+[V])/5 (1)
F2=[Ca]/[S] (2)
F3=[Ca]×(1-124[O])/1.25[S] (3)
ここで、式(1)~式(3)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
(特徴3)
母材部の肉厚中央部の金属組織において、フェライトの面積率が60~90%であり、パーライト、ベイナイト、及びマルテンサイトの少なくとも1種以上を含む硬質組織の面積率が10~40%である。
(特徴4)
硬質組織のビッカース硬さが300Hv以下である。
(特徴5)
硬質組織の集合粒の長径が100μm以下である。
(特徴6)
母材部の肉厚中央部の介在物の長径が100μm以下である。
[鋼板の特徴]
本実施形態の鋼板は、上述の特徴1~特徴6と実質的に同じ特徴を満たす。具体的には、本実施形態の鋼板は、特徴7~特徴12を満たす。
(特徴7)
鋼板の化学組成は、質量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.03~0.60%、Mn:0.30~1.60%、P:0~0.030%、S:0~0.0005%、Al:0.005~0.500%、N:0.0005~0.0100%、Nb:0.005~0.080%、Ti:0.005~0.080%、Ca:0.0001~0.0100%、O:0~0.005%、Ni:0~1.00%、Mo:0~0.50%、V:0~0.20%、Cr:0~1.00%、Cu:0~1.00%、Mg:0~0.002%、及び、希土類元素:0~0.0200%を含有し、残部がFe及び不純物からなる。
(特徴8)
式(1)で定義されるF1が0.15~0.50であり、
式(2)で定義されるF2が2.0以上であり、
式(3)で定義されるF3が1.0以上である。
F1=[C]+[Mn]/6+([Ni]+[Cu])/15+([Cr]+[Mo]+[V])/5 (1)
F2=[Ca]/[S] (2)
F3=[Ca]×(1-124[O])/1.25[S] (3)
ここで、式(1)~式(3)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
(特徴9)
鋼板の板厚中央部の金属組織において、フェライトの面積率が60~90%であり、パーライト、ベイナイト、及びマルテンサイトの少なくとも1種以上を含む硬質組織の面積率が10~40%である。
(特徴10)
硬質組織のビッカース硬さが300Hv以下である。
(特徴11)
硬質組織の集合粒の長径が100μm以下である。
(特徴12)
鋼板の板厚中央部の介在物の長径が100μm以下である。
以下、各特徴について説明する。
[(特徴1及び特徴7)化学組成について]
本実施形態による電縫鋼管の母材部の化学組成、及び、鋼板の化学組成は、次の元素を含有する。以下の化学組成の元素に関する説明において、「鋼材」は電縫鋼管及び鋼板を意味する。
C:0.06~0.12%
炭素(C)は、鋼材の強度及び変形能を高める。C含有量が0.06%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られず、強度又は変形能が低くなる。
一方、C含有量が0.12%を超えれば、Cは炭化物及び炭窒化物を過剰に形成する。過剰な炭化物及び炭窒化物はHICの起点となり得る。したがってこの場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐HIC性が低下する。また、C含有量が0.12%以下であれば、鋼材の硬さの増加が抑制され、高圧水素環境下での破壊靭性値を確保することができる。
したがって、C含有量は0.06~0.12%である。
C含有量の好ましい下限は0.07%であり、さらに好ましくは0.08%である。
C含有量の好ましい上限は0.11%であり、さらに好ましくは0.10%である。
Si:0.03~0.60%
シリコン(Si)は、鋼を脱酸する。Si含有量が0.03%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Si含有量が0.60%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が過剰に高まる。その結果、鋼材の耐HIC性が低下する。Si含有量が0.60%を超えればさらに、低温靱性及び溶接性が低下する。また、Si含有量が0.60%以下であれば、鋼材の強度の上昇が抑制され、高圧水素環境下での破壊靭性値を確保することができる。
したがって、Si含有量は0.03~0.60%である。
Si含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。
Si含有量の好ましい上限は0.50%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%であり、さらに好ましくは0.30%である。
Mn:0.30~1.60%
マンガン(Mn)は、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。Mn含有量が0.30%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Mn含有量が1.60%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の耐HIC性が低下する。
したがって、Mn含有量は0.30~1.60%である。
Mn含有量の好ましい下限は0.40%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.85%である。
Mn含有量の好ましい上限は1.50%であり、さらに好ましくは1.40%であり、さらに好ましくは1.35%であり、さらに好ましくは1.30%であり、さらに好ましくは1.25%である。
P:0~0.030%
りん(P)は不純物である。Pは粒界に偏析して、鋼材の耐HIC性を低下させる。P含有量が0.030%を超えればさらに、低温靱性が低下する場合がある。また、P含有量が0.030%以下であれば、高圧水素環境下での破壊靭性値を確保することができる。
したがって、P含有量は0~0.030%である。
P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は製造コストを高める。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、P含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
P含有量の好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.015%であり、さらに好ましくは0.010%である。
S:0~0.0005%
硫黄(S)は不純物である。SはMnと結合してMnSを形成する。MnSは、鋼材の耐HIC性を低下する。
したがって、S含有量は0~0.0005%である。
S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の過剰な低減は製造コストを高める。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、S含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%である。
S含有量の好ましい上限は0.0004%であり、さらに好ましくは0.0003%である。
Al:0.005~0.500%
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸する。Al含有量が0.005%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Al含有量が0.500%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Al窒化物が粗大化する。その結果、鋼材の耐HIC性が低下する。Al含有量が0.500%を超えればさらに、低温靱性が低下する場合がある。また、Al含有量が0.500%以下であれば、高圧水素環境下での破壊靭性値を確保することができる。
したがって、Al含有量は0.005~0.500%である。
Al含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.012%であり、さらに好ましくは0.015%である。
Al含有量の好ましい上限は0.400%であり、さらに好ましくは0.300%であり、さらに好ましくは0.200%であり、さらに好ましくは0.100%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.050%であり、さらに好ましくは0.030%である。
N:0.0005~0.0100%
窒素(N)は、固溶強化及び析出強化により鋼材の強度を高める。Nはさらに、窒化物及び炭窒化物を形成する。これらの窒化物及び炭窒化物は、加熱工程中のオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する。そのため、金属組織が微細化する。その結果、鋼材の耐HIC性が高まる。N含有量が0.0005%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、N含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、窒化物及び炭窒化物が粗大化する。この場合、鋼材の耐HIC性が低下する。
また、N含有量が0.0005~0.0100%であれば、高圧水素環境下での破壊靭性値を確保することができる。
したがって、N含有量は0.0005~0.0100%である。
N含有量の好ましい下限は0.0010%であり、さらに好ましくは0.0015%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
N含有量の好ましい上限は0.0090%であり、さらに好ましくは0.0080%であり、さらに好ましくは0.0070%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0050%である。
Nb:0.005~0.080%
ニオブ(Nb)は、鋼材中のC及び/又はNと結合して微細なNbの炭化物等を形成する。微細なNb炭化物等は、オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する。そのため、金属組織が微細化する。その結果、鋼材の耐HIC性が高まる。微細なNb炭化物等はさらに、析出強化により鋼材の強度を高める。Nb含有量が0.005%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Nb含有量が0.080%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Nb炭化物等が粗大化する。その結果、鋼材の耐HIC性が低下する。また、Nb含有量が0.005~0.080%であれば、高圧水素環境下での破壊靭性値を確保することができる。
したがって、Nb含有量は0.005~0.080%である。
Nb含有量の好ましい下限は0.008%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.013%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.025%である。
Nb含有量の好ましい上限は0.075%であり、さらに好ましくは0.070%であり、さらに好ましくは0.065%であり、さらに好ましくは0.060%であり、さらに好ましくは0.055%であり、さらに好ましくは0.050%である。
Ti:0.005~0.080%
チタン(Ti)は、鋼材中のC及び/又はNと結合して微細なTiの炭化物等を形成する。微細なTi炭化物等は、オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する。そのため、金属組織が微細化する。その結果、鋼材の耐HIC性が高まる。微細なTi炭化物等はさらに、析出強化により鋼材の強度を高める。Ti含有量が0.005%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Ti含有量が0.080%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Ti炭化物等が粗大化する。その結果、鋼材の耐HIC性が低下する。また、Ti含有量が0.005~0.080%であれば、高圧水素環境下での破壊靭性値を確保することができる。
したがって、Ti含有量は0.005~0.080%である。
Ti含有量の好ましい下限は0.007%であり、さらに好ましくは0.009%であり、さらに好ましくは0.010%である。
Ti含有量の好ましい上限は0.075%であり、さらに好ましくは0.070%であり、さらに好ましくは0.065%であり、さらに好ましくは0.060%であり、さらに好ましくは0.055%であり、さらに好ましくは0.050%であり、さらに好ましくは0.040%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.020%である。
Ca:0.0001~0.0100%
カルシウム(Ca)は、MnS等の硫化物の形態を制御して、硫化物を球状化する。その結果、鋼材の耐HIC性が高まる。Ca含有量が0.0001%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Ca含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なCa酸化物が形成される。その結果、鋼材の耐HIC性が低下する。Ca含有量が0.0100%を超えればさらに、低温靱性が低下する場合がある。また、Ca含有量が0.0100%以下であれば、高圧水素環境下での破壊靭性値を確保することができる。
したがって、Ca含有量は0.0001~0.0100%である。
Ca含有量の好ましい下限は0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0015%である。
Ca含有量の好ましい上限は0.0080%であり、さらに好ましくは0.0070%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0040%である。
O:0~0.005%
酸素(O)は不純物である。Oは酸化物を形成して、鋼材の耐HIC性を低下させる。O含有量が0.005%を超えればさらに、低温靱性及び溶接性が低下する場合がある。また、O含有量が0.005%以下であれば、高圧水素環境下での破壊靭性値を確保することができる。
したがって、O含有量は0~0.005%である。
O含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、O含有量の過剰な低減は製造コストを高める。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、O含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
O含有量の好ましい上限は0.004%であり、さらに好ましくは0.003%である。
本実施形態による電縫鋼管の母材部の化学組成、及び、本実施形態の鋼板の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、電縫鋼管及び鋼板を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、意図的に含有されるものではなく、本実施形態による電縫鋼管及び鋼板に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素(Optional Elements)について]
本実施形態による電縫鋼管の母材部、及び、本実施形態の鋼板はさらに、Feの一部に代えて、
Ni:0~1.00%、
Mo:0~0.50%、
V:0~0.20%、
Cr:0~1.00%、
Cu:0~1.00%、
Mg:0~0.002%、及び、
希土類元素(REM):0~0.0200%、
からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、これらの元素含有量は0%であってもよい。以下、これらの任意元素について説明する。
[(第1群)Ni、Mo、V、Cr及びCu]
本実施形態の電縫鋼管の母材部、及び、本実施形態の鋼板はさらに、Feの一部に代えて、Ni、Mo、V、Cr及びCuからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼材の強度を高める。
Ni:0~1.00%
ニッケル(Ni)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ni含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Ni含有量が0%超である場合、Niは鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。Niが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ni含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が過剰に高まる。その結果、鋼材の耐HIC性及び変形能が低下する。
したがって、Ni含有量は0~1.00%である。
Ni含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.10%である。
Ni含有量の好ましい上限は0.80%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.20%である。
Mo:0~0.50%
モリブデン(Mo)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Mo含有量が0%超である場合、Moは鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。Moはさらに、鋼材中のC及び/又はNと結合して微細なMoの炭化物等を形成する。微細なMo炭化物等は、析出強化により、鋼材の強度を高める。微細なMo炭化物等はさらに、オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する。そのため、金属組織が微細化する。その結果、鋼材の耐HIC性及び変形能が高まる。Moが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Mo含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が過剰に高くなったり、Mo炭化物等が粗大化したりする。その結果、鋼材の耐HIC性及び変形能が低下する。また、Mo含有量が0.50%以下であれば、高圧水素環境下での破壊靭性値を確保することができる。
したがって、Mo含有量は0~0.50%である。
Mo含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Mo含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.10%である。
V:0~0.20%
バナジウム(V)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、V含有量が0%超である場合、Vは鋼材中のC及び/又はNと結合して微細なVの炭化物等を形成する。微細なV炭化物等は、析出強化により、鋼材の強度を高める。微細なV炭化物等はさらに、オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する。そのため、金属組織が微細化する。その結果、鋼材の耐HIC性及び変形能が高まる。Vが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、V含有量が0.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、V炭化物等が粗大化する。その結果、鋼材の耐HIC性及び変形能が低下する。また、V含有量が0.20%以下であれば、高圧水素環境下での破壊靭性値を確保することができる。
したがって、V含有量は0~0.20%である。
V含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。
V含有量の好ましい上限は0.18%であり、さらに好ましくは0.15%であり、さらに好ましくは0.13%であり、さらに好ましくは0.10%である。
Cr:0~1.00%
クロム(Cr)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cr含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Cr含有量が0%超である場合、Crは鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。Crが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Cr含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が過剰に高まる。その結果、鋼材の耐HIC性及び変形能が低下する。
したがって、Cr含有量は0~1.00%である。
Cr含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。
Cr含有量の好ましい上限は0.80%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.25%である。
Cu:0~1.00%
銅(Cu)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Cu含有量が0%超である場合、Cuは鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Cu含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が過剰に高まる。その結果、鋼材の耐HIC性及び変形能が低下する。
したがって、Cu含有量は0~1.00%である。
Cu含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。
Cu含有量の好ましい上限は0.80%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.25%である。
[第2群:Mg及び希土類元素(REM)]
本実施形態による電縫鋼管の母材部、及び、本実施形態の鋼板はさらに、Feの一部に代えて、Mg及び希土類元素(REM)からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼を脱酸及び脱硫する。
Mg:0~0.002%
マグネシウム(Mg)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Mg含有量が0%超である場合、Mgは鋼を脱酸及び脱硫する。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Mg含有量が0.002%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、酸化物が凝集又は粗大化する。その結果、鋼材の耐HIC性及び変形能が低下する。
したがって、Mg含有量は0~0.002%である。
Mg含有量の好ましい下限は0.001%である。
希土類元素:0~0.0200%
希土類元素(REM)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、REM含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、REM含有量が0%超である場合、REMは鋼を脱酸及び脱硫する。REMが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、REM含有量が0.0200%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な酸化物が形成される。その結果、鋼材の耐HIC性及び変形能が低下する。
したがって、REM含有量は0~0.0200%である。
REM含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0007%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
REM含有量の好ましい上限は0.0180%であり、さらに好ましくは0.0150%であり、さらに好ましくは0.0130%であり、さらに好ましくは0.0100%であり、さらに好ましくは0.0080%であり、さらに好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
本実施形態において、REMとは、周期律表中の原子番号57のランタン(La)から原子番号71のルテチウム(Lu)に、イットリウム(Y)、及びスカンジウム(Sc)を加えた17種の元素の総称である。REMの含有量は、これらの元素の1種以上の総含有量を意味する。
[(特徴2及び特徴8)F1~F3について]
本実施形態の電縫鋼管の母材部、及び、本実施形態の鋼板ではさらに、式(1)で定義されるF1が0.15~0.50であり、式(2)で定義されるF2が2.0以上であり、式(3)で定義されるF3が1.0以上である。
F1=[C]+[Mn]/6+([Ni]+[Cu])/15+([Cr]+[Mo]+[V])/5 (1)
F2=[Ca]/[S] (2)
F3=[Ca]×(1-124[O])/1.25[S] (3)
ここで、式(1)~式(3)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
[F1について]
F1は、電縫鋼管の母材部、及び、鋼板の焼入れ性に関する指標である。電縫鋼管の母材部及び鋼板の化学組成中の元素のうち、C、Mn、Ni、Cu、Cr、Mo、Vはいずれも、上述の化学組成の鋼材の連続冷却変態曲線図(Continuous Cooling Transformation Diagram:CCT線図)のC曲線(フェライト領域、パーライト領域、及び、ベイナイト領域)に影響を与える。
図3は、特徴1及び特徴7を満たす鋼材のCCT線図である。図3中、「Ferrite」領域は、フェライトが生成する領域である。「Pearlite」領域は、パーライトが生成する領域である。「Bainite」領域は、ベイナイトが生成する領域である。「Martensite」領域は、マルテンサイトが生成する領域である。
図3を参照して、F1が0.50を超えれば、母材部及び鋼板の化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、F2及びF3が上述の数値範囲を満たしても、図3中のC曲線(フェライト領域、パーライト領域、及び、ベイナイト領域)は長時間側に過度にシフトする。この場合、変形能が低下する。この理由は次のとおりである。
電縫鋼管の製造工程の熱延工程中の冷却時において、図3中の冷却曲線C~Cに示す冷却速度で、電縫鋼管の素材となる鋼板を冷却すると仮定する。F1が高すぎて、C曲線が長時間側に過度にシフトした場合、冷却曲線C~Cがフェライト生成領域を通過する時間が短くなる。一方で、冷却曲線C~Cが硬質組織生成領域(パーライト領域、ベイナイト領域、及び、マルテンサイト領域)を通過する時間が長くなる。そのため、電縫鋼管の母材部及び鋼板の金属組織において、フェライトの面積率が低くなり、硬質組織の面積率が高くなる。その結果、電縫鋼管及び鋼板の変形能が低下する。
一方、F1が0.15未満であれば、母材部及び鋼板の化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、F2及びF3が後述の数値範囲を満たしても、図3中のC曲線(フェライト領域、パーライト領域、及び、ベイナイト領域)は短時間側に過度にシフトする。この場合、冷却曲線C及びCがフェライト生成領域を通過する時間が長くなる。そのため、電縫鋼管の母材部及び鋼板の金属組織において、フェライトの面積率が高くなり、硬質組織の面積率が低くなる。その結果、電縫鋼管及び鋼板の強度が低下する。さらに、硬質組織の面積率の低下に伴って硬質組織のビッカース硬さが上昇し、電縫鋼管及び鋼板の耐HIC性が低下する場合がある。
F1が0.15~0.50であれば、母材部及び鋼板の化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、F2及びF3が上述の数値範囲を満たすことを前提として、図3中の各相のC曲線(フェライト領域、パーライト領域、及び、ベイナイト領域)がCCT線図において適切な位置に配置される。この場合、冷却曲線C及びCが適切な温度でフェライト領域に侵入し、フェライト領域、パーライト領域、及び、ベイナイト領域のそれぞれを適切な時間で通過して、鋼板を冷却することができる。そのため、製造後の電縫鋼管の母材部及び鋼板において、変形能を得るために適切な軟質組織(フェライト)の面積率と、硬質組織(パーライト、ベイナイト及びマルテンサイトの少なくとも1種以上)の面積率とを調整できる。その結果、高い強度、優れた変形能、及び、優れたHIC性を得ることができる。F1が0.15~0.50であればさらに、高圧水素環境下において優れた破壊靭性値を得ることができる。
F1の好ましい下限は0.18であり、さらに好ましくは0.20である。
F1の好ましい上限は0.45であり、さらに好ましくは0.40である。
[F2について]
電縫鋼管の母材部及び鋼板のMnSは、製造工程中の熱延工程で延伸する。延伸されたMnSはHICの起点となる。したがって、電縫鋼管及び鋼板の耐HIC性を高めるためには、MnSの生成を抑制することが有効である。そこで、母材部及び鋼板の化学組成において、Mn含有量及びS含有量を低減する。さらに、母材部及び鋼板の化学組成において、Caを含有して、母材部及び鋼板にCaSを生成してMnSの生成を抑制する。
F2はMnSに起因した耐HIC性の指標である。化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内である母材部及び鋼板において、F2が2.0以上であれば、F1が0.15~0.50であり、F3が1.0以上であることを前提として、母材部及び鋼板でのMnSの生成を十分に抑制する。その結果、電縫鋼管及び鋼板の耐HIC性が高まる。
F2の好ましい下限は2.2であり、さらに好ましくは2.4であり、さらに好ましくは2.6である。
F2の上限は特に限定されない。F2の好ましい上限は50.0であり、さらに好ましくは40.0であり、さらに好ましくは30.0であり、さらに好ましくは20.0であり、さらに好ましくは15.0である。
[F3について]
F3は、CaSの生成に寄与するCa含有量に関する指標であり、F2とともに、MnSに起因した耐HIC性の指標である。
電縫鋼管及び鋼板の耐HIC性を高めるためには、母材部中及び鋼板中のMnS量の低減が有効である。MnS量を低減するためには、母材部及び鋼板の化学組成でのMn含有量及びS含有量を低減するとともに、母材部及び鋼板にCaを含有してCaSとしてSを固定することにより、MnSの生成を低減することが有効である。
しかしながら、CaはSだけでなく、O(酸素)とも結合して酸化物も生成する。そのため、Caが全てCaSの形成に使用されるわけではない。MnS量を十分低減するためには、Ca含有量とS含有量との関係を考慮するだけでなく、Ca含有量、S含有量、及び、O含有量の関係も考慮する必要がある。
F3は、CaOの生成も考慮した、CaSに利用可能なCa量に関する指標である。化学組成が特徴1を満たす母材部及び鋼板において、F3が1.0以上であれば、F1が0.15~0.50であり、F2が2.0以上であることを前提として、母材部及び鋼板でのMnSの生成を十分に抑制できる。その結果、電縫鋼管及び鋼板の耐HIC性が高まる。
F3の好ましい下限は1.2であり、さらに好ましくは1.4であり、さらに好ましくは1.6であり、さらに好ましくは1.8である。
F3の上限は特に限定されない。F3の好ましい上限は40.0であり、さらに好ましくは30.0であり、さらに好ましくは20.0であり、さらに好ましくは12.0であり、さらに好ましくは10.0である。
[(特徴3及び特徴9)母材部及び鋼板の金属組織について]
本実施形態による電縫鋼管の母材部の肉厚中央部、及び、鋼板の板厚中央部の金属組織において、フェライトの面積率が60~90%であり、パーライト、ベイナイト、及びマルテンサイトの少なくとも1種以上を含む硬質組織の面積率が10~40%である。ここで規定する母材部の肉厚中央部の金属組織は、母材部のうち、熱影響部を除く部分での肉厚中央部の金属組織を意味する。
[フェライト、パーライト、ベイナイト、及び、マルテンサイトについて]
ここで、フェライトは、非特許文献1で定義されるように、ポリゴナルフェライト及び擬ポリゴナルフェライトを意味する。
パーライトは、ラメラ状のセメンタイトとフェライトとからなるパーライト及び疑似パーライトを意味する。
ベイナイトは、M-A相(Martensite-Austenite constituent)やセメンタイト、さらにベイニティックフェライトからなる金属組織を意味する。ベイナイトは焼戻しベイナイトも含む。
マルテンサイトは、炭素が過飽和したbct(体心正方構造)を有する金属組織を意味する。マルテンサイトは焼戻しマルテンサイトも含む。焼戻しマルテンサイトは焼戻しによってセメンタイトがマルテンサイトラス内又はラス間に析出した金属組織である。
[軟質組織及び硬質組織について]
本明細書において、軟質組織はフェライトを意味する。硬質組織は、パーライト、ベイナイト及びマルテンサイトの少なくとも1種以上を含有する組織を意味する。なお、本実施形態において、パーライトは疑似パーライトを含み、ベイナイトは焼戻しベイナイトを含み、マルテンサイトは焼戻しマルテンサイト及び自己焼戻しマルテンサイトを含む。
上述のフェライト(軟質組織)と硬質組織との区別は容易である。フェライト(ポリゴナルフェライト及び擬ポリゴナルフェライト)は、パーライトに特徴的なコロニーや、ベイナイト及びマルテンサイトに特徴的なブロック、パケット、ラスといった下部組織を持たない。さらに、フェライト(ポリゴナルフェライトと擬ポリゴナルフェライト)は、結晶粒内にセメンタイトやM-A相を含まない。そのため、ナイタールエッチング後の金属組織観察において、コントラストにより、フェライトと硬質組織とは容易に区別できる。
[フェライトの面積率及び硬質組織の面積率について]
上述のとおり、電縫鋼管の母材部及び鋼板でのフェライトの面積率は60~90%であり、硬質組織の面積率は10~40%である。
フェライトの面積率が60%未満であれば、電縫鋼管及び鋼板の変形能が低下する。一方、フェライトの面積率が90%を超えれば、オーステナイトからフェライトに相変態する際に、フェライトからオーステナイトへ炭素が拡散する。その結果、オーステナイトに炭素が濃化する。硬質組織は炭素が濃化したオーステナイトから変態して形成される。そのため、硬質組織の炭素の濃化が過剰となり、硬質組織のビッカース硬さが過度に高まる。その結果、電縫鋼管及び鋼板の耐HIC性が低下する。したがって、母材部及び鋼板のフェライトの面積率は60~90%である。
フェライトの面積率の好ましい下限は63%であり、さらに好ましくは65%であり、さらに好ましくは70%である。
フェライトの面積率の好ましい上限は87%であり、さらに好ましくは85%であり、さらに好ましくは80%である。
母材部及び鋼板の硬質組織の面積率が10%未満であれば、フェライト生成に起因するオーステナイトへの炭素濃化により、硬質組織のビッカース硬さが過剰に高まる。そのため、電縫鋼管及び鋼板の耐HIC性が低下する。一方、硬質組織の面積率が40%を超えれば、電縫鋼管及び鋼板の変形能が低下する。したがって、母材部及び鋼板の硬質組織の面積率は10~40%である。
なお、硬質組織がパーライト、疑似パーライト、ベイナイト及びマルテンサイトのうちの複数の相を含む場合、硬質組織の面積率はそれらの相の総面積率(%)である。
硬質組織の面積率の好ましい下限は13%であり、さらに好ましくは15%であり、さらに好ましくは20%である。
硬質組織の面積率の好ましい上限は37%であり、さらに好ましくは35%であり、さらに好ましくは30%である。
[フェライトの面積率及び硬質組織の面積率の測定方法]
フェライトの面積率及び硬質組織の面積率は、次の方法で測定できる。
電縫鋼管の場合、電縫鋼管の母材部のうち、電縫溶接部から周方向に90°ずれた位置の肉厚中央部(つまり、熱影響部を除く母材部分)から、試験片を採取する。試験片の表面のうち、肉厚方向(T方向)及び管軸方向(L方向)を含む表面を、観察面と定義する。
鋼板の場合、板厚中央部から、試験片を採取する。試験片の表面のうち、板厚方向(T方向)及び圧延方向(L方向)を含む表面を、観察面と定義する。
観察面を鏡面研磨する。その後、観察面をナイタールでエッチングする。エッチングされた観察面のうち、電縫鋼管の場合は母材部の肉厚中央部を含み、T方向に500μm、L方向に500μmの矩形領域を観察領域とする。エッチングされた観察面のうち、鋼板の場合は板厚中央部を含み、T方向に500μm、L方向に500μmの矩形領域を観察領域とする。
観察領域を、光学顕微鏡を用いて500倍で観察し、観察領域の金属組織写真画像を生成する。上述のとおり、金属組織写真画像において、フェライトと、硬質組織とは、コントラストに基づいて区別可能である。そこで、コントラストに基づいて、観察領域中のフェライトの面積と、硬質組織の面積とを求める。観察領域の面積、フェライトの面積、及び、硬質組織の面積に基づいて、フェライトの面積率(%)及び硬質組織の面積率(%)を求める。
特定されたフェライト中に介在物が含まれている場合、それらの介在物の面積を含めて、フェライトの面積とする。同様に、特定された硬質組織中に介在物が含まれる場合、それらの介在物の面積を含めて、硬質組織の面積とする。
なお、フェライト及び硬質組織の特定、及び、フェライトの面積及び硬質組織の面積の測定、及び、フェライトの面積率及び硬質組織の面積率については、周知の画像処理ソフトウェアで解析可能である。画像処理ソフトウェアとして例えば、(株)ニレコ製の小型汎用画像解析装置(商品名:LUAEX AP)を用いる。
[(特徴4及び特徴10)硬質組織のビッカース硬さについて]
本実施形態の電縫鋼管の母材部及び鋼板において、硬質組織のビッカース硬さが300Hvを超える場合、電縫鋼管の耐HIC性が低下する。したがって、母材部及び鋼板での硬質組織のビッカース硬さは300Hv以下である。
母材部及び鋼板での硬質組織のビッカース硬さの好ましい上限は295Hvであり、さらに好ましくは290Hvであり、さらに好ましくは285Hvである。
母材部及び鋼板での硬質組織のビッカース硬さの下限は特に限定されないが、例えば、205Hvである。電縫鋼管及び鋼板の変形能を高めるためにより好ましくは210Hvであり、さらに好ましくは220Hvである。
[硬質組織のビッカース硬さの測定方法]
母材部及び鋼板の硬質組織のビッカース硬さは、次の方法で測定できる。
電縫鋼管の場合、電縫鋼管の母材部のうち、電縫溶接部から周方向に90°ずれた位置の肉厚中央部(つまり、熱影響部を除く母材部分)から、試験片を採取する。試験片の表面のうち、肉厚方向(T方向)及び管軸方向(L方向)を含む表面を、観察面と定義する。
鋼板の場合、板厚中央部から、試験片を採取する。試験片の表面のうち、板厚方向(T方向)及び圧延方向(L方向)を含む表面を、観察面と定義する。
観察面を鏡面研磨する。鏡面研磨後の観察面のうち、肉厚中央部(又は板厚中央部)を含み、T方向に500μm、L方向に500μmの矩形領域を観察領域とする。観察領域において、JIS Z2244:2020に準拠したビッカース硬さ試験を実施する。具体的には、観察領域内で、T方向に50μmピッチで配置され、L方向に50μmピッチで配置される10×10=100個の格子点を測定点と定義する。各測定点で、ビッカース硬さを測定する。このとき、試験力(ビッカース荷重)を25gfとする。各測定点は、結晶粒界を跨いでいてもよい。なお、ビッカース硬さの測定点数は100以上でも良い。一方、測定点数が100未満であれば、硬質組織を代表する硬さを得るための十分なデータ数が得られない。また、測定間隔を十分に狭い50μmとし、試験力を25gfとすることで、数μm~数十μmの圧痕が緻密に並ぶ。これにより、本測定における最大値が、肉厚中央部又は板厚中央部(中心偏析部)における硬質組織の硬さに相当する値となる。
得られた100点のビッカース硬さの測定値から、ビッカース硬さが350Hvを超える測定値を異常値として除外する。異常値を除いた測定値のうち、最大値を、硬質組織のビッカース硬さ(Hv)とする。
[(特徴5及び特徴11)硬質組織の集合粒の長径について]
本実施形態の電縫鋼管の母材部及び鋼板において、硬質組織の集合粒の長径は100μm以下である。
ここで、「硬質組織の集合粒」とは、母材部の肉厚中央部のL方向及びT方向を含む断面において、又は、鋼板の板厚中央部のL方向及びT方向を含む断面において、硬質組織を構成する組織が、硬質組織を構成する他の組織と離れて存在する場合、当該硬質組織を構成する組織を「硬質組織の集合粒」と定義する。また、硬質組織を構成する組織が、硬質組織を構成する他の組織と接触して繋がっている場合、当該繋がっている複数の組織の一群を、「硬質組織の集合粒」と定義する。硬質組織を構成する3以上の組織が繋がっている場合、当該3以上の組織の一群を、「硬質組織の集合粒」と定義する。
また、硬質組織の集合粒の長径とは、母材部の肉厚中央部のL方向及びT方向を含む断面において、又は、鋼板の板厚中央部のL方向及びT方向を含む断面において、硬質組織の集合粒のL方向長さを意味する。
硬質組織の集合粒の長径が長いほど、HICが伝播しやすくなる。そのため、電縫鋼管及び鋼板の耐HIC性が低下する。硬質組織の集合粒の長径が100μm以下であれば、L方向に延びる硬質組織が十分に短い。そのため、HICが伝播しにくくなる。その結果、電縫鋼管及び鋼板の耐HIC性が高まる。
硬質組織の集合粒の長径の好ましい下限は10μmであり、さらに好ましくは15μmであり、さらに好ましくは20μmである。
硬質組織の集合粒の長径の好ましい上限は95μmであり、さらに好ましくは90μmであり、さらに好ましくは85μmであり、さらに好ましくは80μmであり、さらに好ましくは75μmであり、さらに好ましくは70μmである。
[硬質組織の集合粒の長径の測定方法]
硬質組織の集合粒の長径は、次の方法で測定できる。上述の[フェライトの面積率及び硬質組織の面積率の測定方法]で得られた観察領域の金属組織写真画像を用いて、硬質組織の集合粒の長径を求める。
具体的には、金属組織写真画像において、上述の定義を満たす硬質組織の集合粒を特定する。特定された全ての硬質組織の集合粒のL方向長さを測定する。得られたL方向長さのうち、L方向長さの最大値を、硬質組織の集合粒の長径(μm)とする。
[(特徴6及び特徴12)介在物の長径について]
本実施形態の電縫鋼管の母材部の肉厚中央部及び鋼板の板厚中央部において、介在物の長径は100μm以下である。
ここで、「介在物の長径」を次のとおり定義する。母材部の肉厚中央部のL方向及びT方向を含む断面において、又は、鋼板の板厚中央部のL方向及びT方向を含む断面において、当該介在物が他の介在物と離れて存在する場合、当該介在物のL方向長さを、「介在物の長径」とする。また、介在物が他の介在物と繋がっている場合、繋がっている介在物の一群を1つの介在物とみなし、繋がっている介在物の一群のL方向長さを、「介在物の長径」とする。
介在物の長径が長いほど、HICが発生しやすくなる。そのため、電縫鋼管及び鋼板の耐HIC性が低下する。介在物の長径が100μm以下であれば、L方向に延びる介在物が十分に短い。そのため、HICが発生しにくくなる。その結果、電縫鋼管及び鋼板の耐HIC性が高まる。
介在物の長径の好ましい上限は90μmであり、さらに好ましくは80μmであり、さらに好ましくは70μmであり、さらに好ましくは60μmであり、さらに好ましくは55μmである。
なお、介在物の長径の測定は、10μm以上の介在物を対象とする。
[介在物の長径の測定方法]
介在物の長径は次の方法で測定できる。
介在物の長径は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定する。電縫鋼管の肉厚中央部、及び、鋼板の板厚中央部は、表面付近に比べて、冷却速度が遅い部分である。そのため、肉厚中央部及び板厚中央部は、最後に凝固する部分であり、元素が偏析する部分である。そのため、粗大な介在物は、肉厚中央部及び板厚中央部に集中しやすい。介在物は製造工程中の熱間圧延によってL方向に延ばされる、又は、熱間圧延によって粉砕されてL方向に連続して並ぶ。そのため、介在物の長径はL方向の長さを測定する。
具体的には、電縫鋼管の場合、電縫鋼管の母材部のうち、電縫溶接部から周方向に90°ずれた位置の肉厚中央部(つまり、熱影響部を除く母材部分)から、試験片を採取する。試験片の表面のうち、肉厚方向(T方向)及び管軸方向(L方向)を含む表面を、観察面と定義する。観察面のうち、母材部の肉厚中央部を含み、T方向に1mm、L方向に5mmの矩形領域を観察領域とする。
鋼板の場合、鋼板の板厚中央部から、試験片を採取する。試験片の表面のうち、板厚方向(T方向)及び圧延方向(L方向)を含む表面を、観察面と定義する。観察面のうち、鋼板の板厚中央部を含み、T方向に1mm、L方向に5mmの矩形領域を観察領域とする。
観察面を鏡面研磨する。観察領域を、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDS)が付属したSEMを用いて、500倍で観察し、EDSによる元素分析を行う。なお、対象元素は介在物に含まれるMn、Si、Al、Nb、Ti、Ca、Mg、N、C、S、及び、Oとする。EDSによる元素分析の結果、対象元素の総含有量が10質量%以上となる粒子を、「介在物」と認定する。認定された介在物のL方向長さを測定する。L方向長さが10μm未満の介在物は、測定対象から除外する。測定されたL方向長さの最大値を、介在物の長径(μm)とする。
[本実施形態の電縫鋼管及び鋼板の効果]
以上のとおり、本実施形態の電縫鋼管は特徴1~特徴6を満たし、本実施形態の鋼板は特徴7~特徴12を満たす。そのため、本実施形態の電縫鋼管及び鋼板では、高い強度及び優れた変形能が得られる。さらに、本実施形態の鋼板を素材として製造された本実施形態の電縫鋼管では、優れた耐HIC性が得られる。本実施形態の鋼板を素材として製造された本実施形態の電縫鋼管ではさらに、高圧水素環境下で優れた破壊靭性が得られる。以下、これらの効果について説明する。
[電縫鋼管及び鋼板の強度について]
本実施形態による電縫鋼管及び鋼板では、高い強度が得られる。具体的には、本実施形態の電縫鋼管及び鋼板の降伏応力YSは、415~650MPaである。
降伏応力YSの好ましい下限は430MPaであり、さらに好ましくは450MPaであり、さらに好ましくは480MPaである。
降伏応力YSの好ましい上限は625MPaであり、さらに好ましくは600MPaであり、さらに好ましくは580MPaである。
[降伏応力YSの測定方法]
本実施形態による電縫鋼管及び鋼板の降伏応力YSは、次の方法で求めることができる。
電縫鋼管の場合、電縫鋼管から試験片(引張試験片)を採取する。具体的には、本実施形態による電縫鋼管の母材部のうち、電縫溶接部から周方向に90°ずれた位置の肉厚中央部(つまり、熱影響部を除く母材部分)から引張試験片を採取する。
引張試験片の厚さは、電縫鋼管の肉厚に相当する。引張試験片の横断面は弧状であり、引張試験片の長手方向は、電縫鋼管の管軸方向と平行である。引張試験片のサイズは特に限定されない。
鋼板の場合、鋼板の板厚中央部から引張試験片を採取する。引張試験片の厚さは、板厚に相当する。引張試験片の横断面は矩形状であり、引張試験片の長手方向は、鋼板の圧延方向と平行である。引張試験片のサイズは特に限定されない。
採取した引張試験片を用いて、API規格の5CTの規定に準拠して、常温(24℃)、大気中にて引張試験を実施する。試験結果に基づいて、電縫鋼管又は鋼板の降伏応力YS(MPa)を求める。なお、降伏応力は0.2%耐力、及び、0.5%応力を測定し、高い方の値を、降伏応力(MPa)として採用する。
[電縫鋼管及び鋼板の変形能について]
本実施形態による電縫鋼管及び鋼板では、優れた変形能が得られる。具体的には、本実施形態の電縫鋼管及び鋼板の降伏比YRは93%以下である。
降伏比YRの好ましい上限は90%であり、さらに好ましくは88%であり、さらに好ましくは86%である。
降伏比YRの下限は特に限定されないが、例えば、70%であり、好ましくは75%であり、さらに好ましくは78%である。
[降伏比YRの測定方法]
本実施形態の電縫鋼管及び鋼板の降伏比YRは、次の方法で求めることができる。
上述の[降伏応力YSの測定方法]で実施した引張試験において、上述の降伏応力YS(MPa)と、引張強さTS(MPa)とを測定する。得られた降伏応力YS及び引張強さTSを用いて、次式により降伏比YR(%)を求める。
YR(%)=(YS/TS)×100
[耐HIC性について]
本実施形態による電縫鋼管では、優れた耐HIC性が得られる。具体的には、本実施形態の電縫鋼管では、後述する耐HIC性評価試験を実施したときの割れ長さ率CLR(Crack Length Ratio)が15.0%以下である。
割れ長さ率CLRの好ましい上限は13.0%であり、さらに好ましくは10.0%であり、さらに好ましくは8.0%であり、さらに好ましくは6.0%である。
[耐HIC性評価試験]
本実施形態による電縫鋼管の割れ長さ率CLRは、次の方法で求めることができる。
電縫鋼管の場合、電縫鋼管の電縫溶接部から周方向に90°ずれた位置での母材部から、HIC試験片を採取する。HIC試験片のサイズは幅20mm×長さ100mm×肉厚(mm)である。HIC試験片の長さ方向は、電縫鋼管の管軸方向と平行とする。
採取したHIC試験片を用いて、NACE-TM0284に準拠したHIC試験を実施する。具体的には、pHを3.5に調整したHLP溶液(5mass%NaCl+0.93規定(酢酸+酢酸ナトリウム)水溶液)に0.9気圧COガス+0.1気圧HSガス(全圧1気圧)の混合ガスを飽和させた試験液中に、HIC試験片を336時間浸漬する。本明細書において、pHを3.5に調整したHLP溶液に0.9気圧COガス+0.1気圧HSガス(全圧1気圧)の混合ガスを飽和させた試験液を、「二酸化炭素分圧0.9気圧、硫化水素分圧0.1気圧、pH3.5の湿潤硫化水素環境」と称する。
336時間浸漬後の試験片について、超音波探傷機にてHICの発生の有無を測定する。さらに、HIC試験片のL方向の1/4位置、1/2位置、3/4位置において、3ヶ所の幅20mmの範囲(計60mmの範囲)に生じたHICの合計長さ(mm)を求める。HICの合計長さ(mm)を用いて、次式により割れ長さ率CLR(%)を求める。
CLR(%)=(HICの合計長さ/60)×100(%)
[高圧水素環境下における破壊靭性]
本実施形態による電縫鋼管ではさらに、高圧水素環境で優れた破壊靭性が得られる。具体的には、本実施形態の電縫鋼管では、後述する破壊靭性値評価試験を実施して得られた破壊靭性値KIHが55MPa√m以上である。
破壊靭性値KIHの好ましい下限は56MPa√mであり、さらに好ましくは57MPa√mである。
破壊靭性値KIHの上限は特に限定されないが、例えば、198MPa√mである。
[高圧水素環境下での破壊靭性値評価試験]
本実施形態による破壊靭性値KIHは、ASME B31.12:2019の規定に準拠した、次の方法で求めることができる。
電縫鋼管の電縫溶接部と、電縫溶接部から周方向に90°ずれた位置での母材部とから、ASTM E1681:2020に準拠したボルトロード試験片1つずつを採取する。各ボルトロード試験片の厚さは、電縫鋼管の肉厚の85%以上の厚さとする。
採取した各ボルトロード試験片の表面のうち、ボルトロード試験片の幅方向に平行な1つの表面の中央位置に、大気中で、機械加工ノッチを形成し、さらに、疲労予き裂を導入する。ボルトロード試験片の厚さB(m)、幅W(m)、初期き裂長さa(m)と定義する。ボルトロード試験片の幅Wと厚さBとの比は、W:B=2:1とする。初期き裂長さaに対するボルトロード試験片の幅Wの比は、a/W=0.5とする。この場合、疲労予き裂導入前の機械加工ノッチは、初期き裂長さa(m)-0.003(m)とし、疲労予き裂の深さ(幅方向の長さ)は3mmとする。すなわち、初期き裂長さa(m)は、機械加工ノッチと疲労予き裂の深さとの合計である。
疲労予き裂を導入した各ボルトロード試験片を用いて、ASME B31.12:2019、及び、ASME BPVC.VIII.3:2021に準拠した破壊靭性試験を実施する。具体的には、グローブボックス内を窒素ガス置換により十分に脱気して、グローブボックス内の酸素濃度を5ppm未満に低減する。グローブボックス内でボルトロード試験片のボルトを回転させて疲労予き裂を開口させ、110~130MPa√mの初期K値(KIAPP)を与える。初期K値を与えることにより、疲労予き裂の先端で微小き裂が進展し、表面酸化皮膜のない新生面が得られる。得られた新生面から水素が侵入するため、グローブボックスからオートクレーブにボルトロード試験片を移動する際に開口させたき裂先端の酸化を抑制する必要がある。
開口させたき裂先端を酸化させないように、ボルトロード試験片を窒素ガス置換又は真空にしたオートクレーブに移動させる。その後、オートクレーブ内を高圧水素環境とする。具体的には、オートクレーブ内を水素ガスで置換し、さらに、水素ガス圧を200気圧まで昇圧する。その後、200気圧の常温の水素ガス中で、初期K値が負荷されたボルトロード試験片を1000時間暴露する。高圧水素環境中での水素の暴露によって鋼材が水素脆化すると、ボルトロード試験片においてき裂が進展する。一方、高圧水素環境中における鋼材の破壊靭性値が著しく高い場合は、き裂が進展しにくい。
1000時間暴露後、き裂長さa(m)の測定を行い、ボルトロード試験片を300~400℃に加熱し、300~400℃で30分~1時間保持する。これにより、ボルトロード試験片のき裂が進展した部分に着色を施す。き裂長さa(m)の測定は、着色後に行ってもよい。き裂の着色後、破面を強制的に開口させる。強制的に開口させる方法は、疲労破壊させてもよいし、液体窒素に浸漬して冷却後に脆性破壊させてもよい。高圧水素処理によって進展したき裂は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、0.25mmを超えるき裂が進展したか否かを判定する。
SEMによる観察で測定されたき裂進展の長さが0.25mm以上である場合、ASME BPVC.VIII.3 KD-10、及び、ASTM E1681:2020に準拠して、き裂長さ、及び、ボルトロード試験片の形状に基づいて、電縫溶接部、及び、母材部での破壊靭性値KIH(MPa√m)を求める。具体的には、クリップゲージの開口変位をV(m)、ヤング率E(MPa)、き裂長さa(m)、及び、ボルトロード試験片の幅W(m)を次式に代入して、破壊靭性値KIH(MPa√m)を求める。
IH={V×(E/W1/2)}×f(a/W)
f(a/W)=(1-a/W)1/2×{0.654-1.88×(a/W)+2.66×(a/W)-1.233×(a/W)
SEMによる観察で測定されたき裂進展の長さが0.25mmを超えない場合、破壊靭性値KIHは、初期K値(KIAPP)の0.5倍の値とする。
[電縫鋼管の用途について]
本実施形態による電縫鋼管はパイプライン用途に利用可能であり、特に、硫化水素等の腐食性ガスに曝されるサワー環境のパイプラインがリーリング工法によって敷設される場合に好適である。また、二酸化炭素ガスに不純物として硫化水素が含まれる場合、二酸化炭素を回収・貯留(Carbon capture and Strage、以下「CCS」ともいう)する際に用いられるCCS用パイプラインにも適用できる。二酸化炭素は分離される際、硫化水素を十分に分離できず、硫化水素が二酸化炭素中に不純物として残存する場合があるからである。本実施形態による電縫鋼管はさらに、高圧水素ガスに曝される環境での使用にも好適である。
[電縫鋼管の外径について]
本実施形態による電縫鋼管の外径は特に限定されない。本実施形態による電縫鋼管の外径の下限はたとえば、100mmであってもよく、110mmであってもよく、114mmであってもよい。本実施形態による電縫鋼管の外径の上限はたとえば、800mmであってもよく、700mmであってもよく、660mmであってもよい。
[電縫鋼管の肉厚及び鋼板の板厚について]
本実施形態による電縫鋼管の好ましい肉厚は12.0~25.4mmである。電縫鋼管の素材となる本実施形態の鋼板の好ましい板厚は12.0~25.4mmである。
本実施形態の電縫鋼管の肉厚のさらに好ましい下限は13.0mmであり、さらに好ましくは14.0mmであり、さらに好ましくは15.0mmである。本実施形態の電縫鋼管の肉厚のさらに好ましい上限は25.0mmであり、さらに好ましくは24.0mmであり、さらに好ましくは23.0mmである。
本実施形態の鋼板の板厚のさらに好ましい下限は13.0mmであり、さらに好ましくは14.0mmであり、さらに好ましくは15.0mmである。本実施形態の鋼板の板厚のさらに好ましい上限は25.0mmであり、さらに好ましくは24.0mmであり、さらに好ましくは23.0mmである。
[製造方法]
本実施形態による電縫鋼管及び鋼板の製造方法について説明する。なお、以下に説明する製造方法は一例であって、本実施形態による電縫鋼管及び鋼板の製造方法はこれに限定されない。つまり、上述の構成を有する電縫鋼管及び鋼板が製造できれば、以下に説明する製造方法に限定されない。ただし、以下に説明する製造方法は、本実施形態による電縫鋼管及び鋼板の好適な製造方法である。
本実施形態の電縫鋼管及び鋼板の製造方法の一例は、次の工程を含む。
(工程1)スラブ準備工程
(工程2)熱延工程
(工程3)冷却工程
(工程4)製管工程
以下、各工程について説明する。
[(工程1)スラブ準備工程]
上述の化学組成を有する素材を準備する。具体的には、上述の化学組成を有する溶鋼を製造する。溶鋼を用いて、素材(スラブ)を製造する。連続鋳造法により鋳片を製造してもよい。溶鋼を用いてインゴットを製造し、インゴットを分塊圧延して素材(スラブ)を製造してもよい。
[(工程2)熱延工程]
熱延工程は、上記で準備したスラブを、1100℃~1350℃のスラブ加熱温度まで加熱する。加熱されたスラブに対して粗圧延を実施して、粗バーを製造する。
製造された粗バーに対して、仕上げ圧延機を用いて仕上げ圧延を実施して、熱延鋼板を製造する。このとき、仕上げ圧延開始温度を950℃以下とし、仕上げ圧延終了温度を850℃以下とする。さらに、仕上げ圧延での累積圧下比を2.5以上とする。なお、仕上げ圧延終了温度の下限は780℃である。仕上げ圧延での累積圧下比は、熱延鋼板の板厚に対する粗バーの板厚の比であり、上限は特に限定されない。仕上げ圧延での累積圧下比は、5.0以下であってもよい。
スラブ加熱温度が1100℃以上であれば、電縫鋼管及び鋼板において、未固溶のNb炭化物の生成が抑制される。そのため、耐HIC性の低下が抑制される。スラブ加熱温度が1350℃以下であれば、鋼板中の結晶粒の粗大化が抑制され、焼入れ性が適切に調整される。そのため、電縫鋼管及び鋼板において、変形能及び耐HIC性の低下が抑制される。また、スラブ加熱温度が1350℃以下であれば、高圧水素環境下での破壊靭性値を確保することができる。仕上げ圧延開始温度が950℃以下、仕上げ圧延終了温度が850℃以下、及び、累積圧下比が2.5以上であれば、鋼板中のオーステナイト結晶粒へひずみが導入され、焼入れ性が適切に調整される。その結果、電縫鋼管及び鋼板において、変形能及び耐HIC性の低下が抑制される。また、仕上げ圧延開始温度が950℃以下、仕上げ圧延終了温度が850℃以下、及び、累積圧下比が2.5以上であれば、高圧水素環境下での破壊靭性値を確保することができる。
[(工程3)冷却工程]
冷却工程では、熱延工程の仕上げ圧延終了直後の熱延鋼板に対して、図3に示す3段階の冷却(第1冷却段階C、第2冷却段階C、第3冷却段階C)を実施して、鋼板を製造する。冷却後、鋼板はコイル状に巻き取られる。以下、第1冷却段階C、第2冷却段階C、及び、第3冷却段階Cについて説明する。
第1冷却段階C、第2冷却段階C、及び、第3冷却段階Cでの製造条件は、次の条件1~条件4である。
(条件1)
第1冷却段階Cでの平均冷却速度CR1 :15℃/秒以上
(条件2)
第2冷却段階Cでの平均冷却速度CR2 :1.0~10.0℃/秒
(条件3)
第3冷却段階Cでの平均冷却速度CR3 :0.5℃/分以下
(条件4)
第3冷却段階Cの開始温度T3 :450~650℃
以下、第1冷却段階C、第2冷却段階C、第3冷却段階C及び条件1~条件4について説明する。
[第1冷却段階C
仕上げ圧延終了直後の熱延鋼板の表面温度から、表面温度が700℃になるまでの期間での冷却を、第1冷却段階Cと称する。
第1冷却段階Cでの平均冷却速度CR1を15℃/秒以上とする(条件1)。
第1冷却工程の冷却方法は例えば、水冷装置による水冷である。平均冷却速度CR1を速くすれば、オーステナイトからフェライト変態する際の駆動力が高まる。そのため、フェライトの核生成頻度が増加する。そのため、熱延鋼板中の様々な位置でフェライト核が生成する。その結果、熱延鋼板中の硬質組織が分断されて、硬質組織の集合粒の長径が100μm以下となる。
平均冷却速度CR1が遅すぎれば、フェライト変態する際の駆動力が低い。そのため、フェライトの核生成頻度が低くなる。そのため、フェライトの核生成位置は旧オーステナイト結晶粒界などに多く偏る。その結果、硬質組織を十分に分断することができなくなる場合がある。
なお、700℃未満まで15℃/秒以上で冷却すれば、製造された鋼板において、フェライトの面積率が低下し、硬質組織の面積率が増加する。そのため、第1冷却段階Cでは、鋼材の表面温度が700℃になるまで15℃/秒以上の平均冷却速度CR1で加速冷却を実施する。平均冷却速度CR1は速いほど好ましいが、冷却装置の性能などの観点から、50℃/秒以下であってもよい。
なお、仕上げ圧延終了直後の熱延鋼板の表面温度から700℃を差し引いた値と、第1冷却段階Cの期間(秒)とに基づいて、平均冷却速度CR1(℃/秒)を求める。
[第2冷却段階C
第2冷却段階Cは、第1冷却段階C後に実施する。700℃から第3冷却段階Cの開始温度T3に至るまでの期間の冷却を、第2冷却段階Cと称する。
第2冷却段階Cでの平均冷却速度CR2を1.0~10.0℃/秒以上とする(条件2)。
平均冷却速度CR2が1.0℃/秒未満であれば、図3に示すCCT線図において、冷却曲線C(熱延鋼板の温度)がフェライト生成領域に長時間停滞する。この場合、フェライトの面積率が過剰に増加する。そのため、硬質組織への炭素濃化が生じて、硬質組織の硬さが高まる。その結果、電縫鋼管及び鋼板の耐HIC性が低下する。
一方、平均冷却速度CR2が10.0℃/秒を超えれば、図3のCCT線図において、冷却曲線Cがフェライト生成領域を短時間で通過する。この場合、十分なフェライトの面積率が得られず、硬質組織の面積率が過剰に高くなる。その結果、電縫鋼管及び鋼板において、十分な変形能が得られない。
平均冷却速度CR2が1.0~10.0℃/秒であれば、図3のCCT線図において、冷却曲線C(熱延鋼板の温度)が、フェライト領域を、フェライトの面積率が60~90%になる適切な時間で通過する。そのため、電縫鋼管及び鋼板において、十分な変形能が得られる。さらに、耐HIC性を低下させる硬質組織への炭素濃化を抑制することができる。第2冷却段階Cでの冷却は、水冷であっても空冷であってもよい。
なお、700℃から開始温度T3(℃)を差し引いた値と、第2冷却段階Cの期間(秒)とに基づいて、平均冷却速度CR2(℃/秒)を求める。
[第3冷却段階C
第3冷却段階Cは、第2冷却段階C後に実施する。第3冷却段階の開始温度T3から200℃に至るまでの期間の冷却を、第3冷却段階Cと称する。
第3冷却段階Cでの平均冷却速度CR3を0.5℃/分以下とする(条件3)。さらに、第3冷却段階Cの開始温度T3を450~650℃とする(条件4)。また、第3冷却段階Cの開始温度T3とは、平均冷却速度CR2から平均冷却速度CR3に切り替える温度(℃)を意味する。
平均冷却速度CR3が0.5℃/分以下であれば、第1冷却段階C及び第2冷却段階Cの冷却により生成した金属組織が、自己焼戻し効果によって焼戻される。そのため、電縫鋼管及び鋼板の硬質組織のビッカース硬さを300Hv以下に低減できる。平均冷却速度CR3は0.1℃/分以上であってもよい。ここで、第3冷却段階Cの冷却(徐冷)は、鋼板のまま行ってもよいし、鋼板を巻取り、コイル状にした後、行ってもよい。
なお、開始温度T3から200℃を差し引いた値と、第3冷却段階Cの期間(分)とに基づいて、平均冷却速度CR3(℃/分)を求める。
開始温度T3が450℃未満であれば、0.5℃/分以下の平均冷却速度CR3で徐冷しても、十分な自己焼戻し効果が得られない。そのため、硬質組織の硬さが過剰に高く、その結果、耐HIC性が低下する場合がある。一方、開始温度T3が650℃を超えれば、フェライト生成領域で0.5℃/分以下の平均冷却速度CR3で徐冷することになる。この場合、第3冷却段階Cでもフェライトの面積率を増加させてしまう。その結果、フェライトの面積率が過剰に増加して、電縫鋼管及び鋼板の耐HIC性が低下する。さらに、硬質組織の面積率の低下に伴ってビッカース硬さが上昇し、電縫鋼管及び鋼板の耐HIC性が低下する場合がある。さらに、フェライトの面積率が過剰に増加して、硬質組織の面積率が過剰に低下すれば、電縫鋼管及び鋼管の変形能が低下する場合がある。
開始温度T3が450~650℃であれば、電縫鋼管及び鋼板のフェライトの面積率及び硬質組織の面積率が適切な範囲に調整される。そのため、電縫鋼管及び鋼板において、十分な変形能及び耐HIC性が得られる。また、開始温度T3が450~650℃であれば、高圧水素環境下での破壊靭性値を確保することができる。
以上の製造工程により製造された鋼板は、特徴7~特徴12を満たす。そのため、本実施形態による鋼板では、高い強度、優れた変形能及び優れた耐HIC性が得られる。また、本実施形態による鋼板では、高圧水素環境下での破壊靭性値を確保することができる。
[(工程4)製管工程]
製管工程では、コイル状の鋼板を巻き戻しながら、電縫鋼管を製造する。具体的には、鋼板を連続した成形ロールによる曲げ加工により筒状(オープンパイプ)にする。続いて、オープンパイプの幅方向端部同士(突合せ部)を接触させ、加圧しながら、高周波誘導加熱による電縫溶接を実施する(溶接工程)。溶接工程後の鋼管を用いて、必要に応じて、電縫溶接部に対して周知のシーム熱処理を実施する。
以上の製造工程により製造された電縫鋼管は、特徴1~特徴6を満たす。そのため、本実施形態による電縫鋼管では、高い強度、優れた変形能及び優れた耐HIC性が得られる。また、本実施形態による電縫鋼管では、高圧水素環境下での破壊靭性値を確保することができる。
表1-1及び表1-2に示す鋼番号A~Sのスラブを製造した。
Figure 2023171336000002
Figure 2023171336000003
表1-2中の空白は、対応する元素含有量が、不純物レベルであったことを意味する。
鋼番号A~Sの複数のスラブを用いて、表2に示す試験番号1~28の鋼板を製造した。
Figure 2023171336000004
具体的には、表1-1、表1-2に示す化学成分を有するスラブを、表2に示すスラブ加熱温度(℃)まで、加熱炉で加熱した。加熱したスラブを加熱炉から抽出して、粗圧延を実施して、粗バーを製造した。粗バーに対して、仕上げ圧延を実施した。仕上げ圧延時の仕上げ圧延開始温度(℃)、及び、仕上げ圧延終了温度(℃)は表2に示すとおりであった。さらに、仕上げ圧延での累積圧下比は、表2に示すとおりであった。
さらに、仕上げ圧延終了直後の熱延鋼板に対して、冷却工程(第1冷却段階C~第3冷却段階C)を実施した。冷却工程での第1冷却段階Cでの平均冷却速度CR1(℃/秒)、第2冷却段階Cでの平均冷却速度CR2(℃/秒)、第3冷却段階Cでの平均冷却速度CR3(℃/分)、及び、第3冷却段階Cの開始温度T3(℃)は表2に示すとおりであった。以上の工程により、各試験番号ごとに複数の鋼板を製造した。
製造された鋼板を素材として、上述の製管工程を実施し、母材部の肉厚が12.0~25.4mm、外径が100~800mmの電縫鋼管を製造した。
[評価試験]
製造された各試験番号の鋼板、及び各試験番号の電縫鋼管に対して、次の評価試験を実施した。
(試験1)フェライトの面積率及び硬質組織の面積率測定試験
(試験2)硬質組織のビッカース硬さ測定試験
(試験3)硬質組織の集合粒の長径測定試験
(試験4)介在物の長径測定試験
(試験5)降伏応力YS及び降伏比YR測定試験
(試験6)耐HIC性評価試験
以下、試験1~試験6について説明する。
[(試験1)フェライトの面積率及び硬質組織の面積率測定試験]
上述の[フェライトの面積率及び硬質組織の面積率の測定方法]に記載の方法により、各試験番号の鋼板の板厚中央部でのフェライトの面積率及び硬質組織の面積率を測定した。なお、電縫鋼管の母材部の肉厚中央部でのフェライトの面積率及び硬質組織の面積率は、鋼板の板厚中央部でのフェライトの面積率及び硬質組織の面積率と同じとみなした。各試験番号のフェライトの面積率(%)及び硬質組織の面積率(%)を表3の「フェライト面積率(%)」欄及び「硬質組織面積率(%)」欄に示す。
Figure 2023171336000005
[(試験2)硬質組織のビッカース硬さ測定試験]
上述の[硬質組織のビッカース硬さの測定方法]に記載の方法により、各試験番号の硬質組織のビッカース硬さ(Hv)を求めた。得られたビッカース硬さを表3の「硬質組織ビッカース硬さ(Hv)」欄に示す。
[(試験3)硬質組織の集合粒の長径測定試験]
上述の[硬質組織の集合粒の長径の測定方法]に記載の方法により、各試験番号の硬質組織の集合粒の長径(μm)を求めた。得られた硬質組織の集合粒の長径を表3の「硬質組織集合粒長径(μm)」欄に示す。
[(試験4)介在物の長径測定試験]
上述の[介在物の長径の測定方法]に記載の方法により、各試験番号の介在物の長径(μm)を求めた。得られた介在物の長径を表3の「介在物長径(μm)」欄に示す。
[(試験5)降伏応力YS及び降伏比YR測定試験]
上述の[降伏応力YSの測定方法]及び[降伏比YRの測定方法]に記載の方法に基づいて、鋼板及び電縫鋼管の降伏応力YS(MPa)及び引張強さTS(MPa)を求めた。得られた降伏応力YS及び引張強さTSに基づいて、降伏比YR(%)を求めた。得られた鋼板の降伏応力YS(MPa)、引張強さTS(MPa)及び降伏比YR(%)を表3の「鋼板」の「YS(MPa)」欄、「TS(MPa)」欄、及び、「YR(%)」欄に示す。得られた電縫鋼管の降伏応力YS(MPa)、引張強さTS(MPa)及び降伏比YR(%)を表3の「電縫鋼管」の「YS(MPa)」欄、「TS(MPa)」欄、及び、「YR(%)」欄に示す。
[(試験6)耐HIC性評価試験]
上述の[耐HIC性評価試験]に記載の方法に基づいて、電縫鋼管の割れ長さ率CLR(%)を求めた。得られた電縫鋼管の割れ長さ率CLRを表3の「CLR(%)」欄に示す。
[評価結果]
表1-1、表1-2、表2及び表3を参照して、試験番号1~12の電縫鋼管は特徴1~特徴6を満たし、鋼板は特徴7~特徴12を満たした。そのため、本実施形態による電縫鋼管及び鋼板では、十分な強度と、十分な変形能とが得られた。さらに、電縫鋼管では、十分な耐HIC性が得られた。
一方、試験番号13では、F1が0.15未満であった。そのため、鋼板及び電縫鋼管の降伏応力YSが415MPa未満となった。さらに、フェライトの面積率が90%を超え、硬質組織の面積率が10%未満であり、硬質組織のビッカース硬さが300Hvを超えた。その結果、電縫鋼管のCLRが15.0%を超え、十分な耐HIC性が得られなかった。
試験番号14では、F1が0.50超であった。そのため、フェライトの面積率が60%未満となり、硬質組織の面積率が40%を超えた。その結果、鋼板及び電縫鋼管の降伏比YRが93%を超え、変形能が低かった。
試験番号15では、化学組成が特許文献4及び5の範囲内であるが、C含有量が低すぎた。そのため、鋼板及び電縫鋼管の降伏比YRが93%を超え、変形能が低かった。
試験番号16では、特許文献2の範囲内であるが、F2が2.0未満であった。そのため、介在物の長径が100μmを超えた。その結果、電縫鋼管においてCLRが15.0%を超え、十分な耐HIC性が得られなかった。
試験番号17では、特許文献2の範囲内であるが、F3が1.0未満であった。そのため、介在物の長径が100μmを超えた。その結果、電縫鋼管においてCLRが15.0%を超え、十分な耐HIC性が得られなかった。
試験番号18では、第1冷却段階Cでの平均冷却速度CR1が15℃/秒未満であった。そのため、硬質組織の集合粒の長径が100μmを超えた。その結果、電縫鋼管においてCLRが15.0%を超え、十分な耐HIC性が得られなかった。
試験番号19では、第2冷却段階Cにおける平均冷却速度CR2が10.0℃/秒を超えた。そのため、フェライトの面積率が60%未満であり、硬質組織の面積率が40%を超えた。そのため、鋼板及び電縫鋼管の降伏比YRが93%を超え、変形能が低かった。
試験番号20では、第2冷却段階Cにおける平均冷却速度CR2が1.0℃/秒未満であった。そのため、フェライトの面積率が90%を超え、硬質組織の面積率が10%未満であった。さらに、硬質組織のビッカース硬さが300Hvを超えた。その結果、電縫鋼管においてCLRが15.0%を超え、十分な耐HIC性が得られなかった。
試験番号21及び22では、第3冷却段階Cにおける冷却速度CR3が0.5℃/分を超えた。そのため、硬質組織のビッカース硬さが300Hvを超えた。その結果、電縫鋼管においてCLRが15.0%を超え、十分な耐HIC性が得られなかった。
試験番号23では、第3冷却段階Cの開始温度T3が450℃未満であった。そのため、硬質組織のビッカース硬さが300Hvを超えた。その結果、電縫鋼管においてCLRが15.0%を超え、十分な耐HIC性が得られなかった。
試験番号24では、第3冷却段階Cの開始温度T3が650℃を超えた。そのため、フェライトの面積率が90%を超え、硬質組織の面積率が10%未満であった。つまり、十分な硬質組織の面積率を確保できなかった。そのため、降伏比YRが93%を超え、十分な変形能が得られなかった。さらに、硬質組織の面積率が10%未満であり、硬質組織のビッカース硬さが300Hvを超えた結果、電縫鋼管においてCLRが15.0%を超え、十分な耐HIC性が得られなかった。
試験番号26では、F2が2.0未満でありF3が1.0未満であった。そのため、介在物の長径が100μmを超えた。その結果、電縫鋼管においてCLRが15.0%を超え、十分な耐HIC性が得られなかった。
試験番号27では、F2が2.0以上を満足したがF3は1.0未満であった。そのため、介在物の長径が100μmを超えた。その結果、電縫鋼管においてCLRが15.0%を超え、十分な耐HIC性が得られなかった。
試験番号28では、特許文献3の範囲内であるが、F2が2.0未満であった。さらに、第2冷却段階Cにおける平均冷却速度CR2が速すぎた。そのため、フェライトの面積率が低く、硬質組織の集合粒の長径が100μmを超えた。さらに、介在物の長径が100μmを超えた。その結果、鋼板及び電縫鋼管の降伏比YRが93%を超え、変形能が低かった。さらに、電縫鋼管においてCLRが15.0%を超え、十分な耐HIC性が得られなかった。
本発明例である試験番号2~4(表1-1及び表1-2に示す鋼番号B~D)、及び、試験番号6~8(表1-1及び表1-2に示す鋼番号F~H)の電縫鋼管に対して、上述の[高圧水素環境下での破壊靭性値評価試験]に記載の方法に基づいて、破壊靭性値評価試験を実施した。き裂長さaを測定し、SEMによる観察で測定されたき裂進展の長さが0.25mmを超えるか否かを判定し、判定結果に応じて、破壊靭性値KIH(MPa√m)を求めた。得られた破壊靭性値KIH(MPa√m)を、表4中の「破壊靭性値KIH(MPa√m)」欄に示す。
Figure 2023171336000006
[試験結果]
表4を参照して、本発明例である試験番号2~4、及び、試験番号6~8ではさらに、高圧水素環境下で破壊靭性値評価試験を実施した場合、電縫鋼管の電縫溶接部及び母材部の破壊靭性値KIHは十分に高かった。
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
本開示による電縫鋼管は、海底に敷設されるパイプラインを構成するラインパイプ、特に敷設時に外力を受けるラインパイプに利用可能であり、さらに、高圧水素ガス用のラインパイプとしても利用可能である。

Claims (8)

  1. 電縫鋼管であって、
    母材部と、電縫溶接部とを含み、
    前記母材部は、質量%で、
    C:0.06~0.12%、
    Si:0.03~0.60%、
    Mn:0.30~1.60%、
    P:0~0.030%、
    S:0~0.0005%、
    Al:0.005~0.500%、
    N:0.0005~0.0100%、
    Nb:0.005~0.080%、
    Ti:0.005~0.080%、
    Ca:0.0001~0.0100%、
    O:0~0.005%、
    Ni:0~1.00%、
    Mo:0~0.50%、
    V:0~0.20%、
    Cr:0~1.00%、
    Cu:0~1.00%、
    Mg:0~0.002%、及び、
    希土類元素:0~0.0200%を含有し、
    残部がFe及び不純物からなり、
    式(1)で定義されるF1が0.15~0.50であり、
    式(2)で定義されるF2が2.0以上であり、
    式(3)で定義されるF3が1.0以上であり、
    前記母材部の肉厚中央部の金属組織において、
    フェライトの面積率が60~90%であり、
    パーライト、ベイナイト、及びマルテンサイトの少なくとも1種以上を含む硬質組織の面積率が10~40%であり、
    前記硬質組織のビッカース硬さが300Hv以下であり、
    前記硬質組織の集合粒の長径が100μm以下であり、
    前記母材部の肉厚中央部の介在物の長径が100μm以下である、
    電縫鋼管。
    F1=[C]+[Mn]/6+([Ni]+[Cu])/15+([Cr]+[Mo]+[V])/5 (1)
    F2=[Ca]/[S] (2)
    F3=[Ca]×(1-124[O])/1.25[S] (3)
    ここで、式(1)~式(3)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
  2. 請求項1に記載の電縫鋼管であって、
    Ni:0.01~1.00%、
    Mo:0.01~0.50%、
    V:0.01~0.20%、
    Cr:0.01~1.00%、
    Cu:0.01~1.00%、
    Mg:0.001~0.002%、及び、
    希土類元素:0.0001~0.0200%、
    からなる群から選択される1種以上を含有する、
    電縫鋼管。
  3. 請求項1に記載の電縫鋼管であって、
    降伏応力YSが415~650MPaであり、
    降伏比YRが93%以下であり、
    二酸化炭素分圧0.9気圧、硫化水素分圧0.1気圧、pH3.5の湿潤硫化水素環境で336時間浸漬した後の水素誘起割れによる割れ長さ率CLRが15.0%以下である、
    電縫鋼管。
  4. 請求項2に記載の電縫鋼管であって、
    降伏応力YSが415~650MPaであり、
    降伏比YRが93%以下であり、
    二酸化炭素分圧0.9気圧、硫化水素分圧0.1気圧、pH3.5の湿潤硫化水素環境で336時間浸漬した後の水素誘起割れによる割れ長さ率CLRが15.0%以下である、
    電縫鋼管。
  5. 請求項1に記載の電縫鋼管であって、
    降伏応力YSが415~650MPaであり、
    降伏比YRが93%以下であり、
    水素圧200気圧の高圧水素環境で1000時間保持した後の破壊靭性値が55MPa√m以上である、
    電縫鋼管。
  6. 請求項2に記載の電縫鋼管であって、
    降伏応力YSが415~650MPaであり、
    降伏比YRが93%以下であり、
    水素圧200気圧の高圧水素環境で1000時間保持した後の破壊靭性値が55MPa√m以上である、
    電縫鋼管。
  7. 請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の電縫鋼管であって、
    前記母材部の肉厚が12.0~25.4mmである、
    電縫鋼管。
  8. 鋼板であって、
    質量%で、
    C:0.06~0.12%、
    Si:0.03~0.60%、
    Mn:0.30~1.60%、
    P:0~0.030%、
    S:0~0.0005%、
    Al:0.005~0.500%、
    N:0.0005~0.0100%、
    Nb:0.005~0.080%、
    Ti:0.005~0.080%、
    Ca:0.0001~0.0100%、
    O:0~0.005%、
    Ni:0~1.00%、
    Mo:0~0.50%、
    V:0~0.20%、
    Cr:0~1.00%、
    Cu:0~1.00%、
    Mg:0~0.002%、及び、
    希土類元素:0~0.0200%を含有し、
    残部がFe及び不純物からなり、
    式(1)で定義されるF1が0.15~0.50であり、
    式(2)で定義されるF2が2.0以上であり、
    式(3)で定義されるF3が1.0以上であり、
    前記鋼板の板厚中央部の金属組織において、
    フェライトの面積率が60~90%であり、
    パーライト、ベイナイト、及びマルテンサイトの少なくとも1種以上を含む硬質組織の面積率が10~40%であり、
    前記硬質組織のビッカース硬さが300Hv以下であり、
    前記硬質組織の集合粒の長径が100μm以下であり、
    前記鋼板の板厚中央部の介在物の長径が100μm以下である、
    鋼板。
    F1=[C]+[Mn]/6+([Ni]+[Cu])/15+([Cr]+[Mo]+[V])/5 (1)
    F2=[Ca]/[S] (2)
    F3=[Ca]×(1-124[O])/1.25[S] (3)
    ここで、式(1)~式(3)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
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