JP2023152097A - モータ制御システムおよびその制御方法 - Google Patents

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Abstract

Figure 2023152097000001
【課題】複数のモータを同期制御するシステムにおいて異常が発生した場合に安全かつ安定した状態を維持したまま制動するための技術を提供する。
【解決手段】第1及び第2のモータが正常に駆動されているときに得られた情報に基づいて、前記第1及び第2のモータの制御特性に関わるパラメータに相当する駆動情報を記憶装置に保存する。そして、第1のドライバに異常が発生しドライバがダイナミックブレーキを作動した場合に、前記駆動情報を用いて、第1のモータと同じように速度が低下するように第2のドライバによる第2のモータの減速制御を実行する。
【選択図】図1

Description

本発明は、複数のモータを同期制御するシステムに関する。
近年、製造や物流の現場において自走式搬送装置の利用が拡大している。自走式搬送装置の主なものとして、AGV(Automatic Guided Vehicle)とAMR(Autonomous Mobile Robot)が知られている。AGVは、無人搬送車や無人搬送ロボットとも呼ばれ、床に
敷設した磁気テープや壁に取り付けたビーコンなどのガイドに従い、あらかじめ決められた経路を走行する搬送装置である。他方、AMRは、自律走行搬送ロボットやモバイルロボットとも呼ばれるもので、センサによって常に自分自身の位置や障害物の有無を認識しながら、適切な走行経路を自律的に選択する搬送装置である。
この種の自走式搬送装置は、左右の車輪を個別のモータで駆動する方式を採用するものが多い。すなわち、左車輪用のモータ及びドライバと右車輪用のモータ及びドライバを設け、上位のコントローラなどにより2つのモータを同期制御して、加減速や右左折などを実現する仕組みである。このようなモータ駆動系においては、ドライバに異常が発生しモータの制御が不能に陥った場合の安全策として、ダイナミックブレーキ回路(以下「DB回路」とも称する。)が設けられている。DB回路は、モータの端子間を抵抗器で短絡し、モータに蓄積された回転エネルギーを抵抗器にて熱エネルギーとして消費することにより、モータを速やかに減速させる装置である。
特開2012-186929号公報
従来の自走式搬送装置は、いずれかのドライバで故障が検知されると、すべてのモータのDB回路を動作させて緊急停止するものが一般的である。しかし左右のモータのDB回路を同時に動作させたとしても、左右の車輪が同じように減速していくとは限らない。自走式搬送装置に積載された搬送物が偏っていたり、自走式搬送装置自体の重心が偏っていたりすると、左右の車輪にかかる荷重がアンバランスとなり、左右のモータの間で負荷イナーシャが異なる事になる。また、モータや車輪の物理的特性のばらつき(モータイナーシャ、車輪の摩耗など)、モータやDB回路の電気的特性のばらつきなども、左右の制動効力(減速の程度)に差を生じさせる。DB回路動作時に左右の車輪の制動効力に差があると、自走式搬送装置が予定経路から外れ、又は、回転するおそれがあり、安全性の観点からは好ましくない。
特許文献1(特開2012-186929号公報)は、インホイールモータ駆動の電気自動車において、片側の車輪のモータドライバの異常を検出した場合に、他方の車輪のモータを異常側のモータの動作状態と同じ動作状態に近づくように制御することにより車両姿勢の安定化を図る、というアイデアを開示している。しかしながら、同文献では、片側のモータにブレーキ力が発生した場合に、他方のモータのトルクを強制的に減じる制御、回生ブレーキとして作用させる制御、および他方のモータで駆動される車輪に対するブレーキを作動させる制御のいずれかを行ってもよいということが開示されているにとどまり、正常側の動作状態を異常側の動作状態に近づけるための具体的な制御方法はなんら開示されていない。したがって、本発明者らが課題とする、負荷イナーシャの違い、物理的特
性や電気的特性の差異などに起因する、モータ間の制動効力の差を解決するためのヒントを、特許文献1のなかに見出すことはできない。
なお、ここまでは自走式搬送装置を例に挙げて課題の説明を行ったが、複数のモータを同期制御するシステムであれば同様の課題が起こり得る。例えば、X軸のモータとY軸のモータとを同期制御してワークのXY座標の位置決めを行うシステムにおいては、両方のモータをDB回路で緊急制動したときに、ワークが予定のパスから外れた位置に移動し、周囲物体との衝突などを引き起こすおそれがある。あるいは、上流側のベルトコンベアを駆動するモータと下流側のベルトコンベアを駆動するモータとを同期制御するシステムにおいて、両方のモータをDB回路で緊急制動したときに、2つのベルトコンベアの搬送速度に差が生まれ、上流側から下流側への搬送物の受け渡しに失敗し、搬送物の滞留、落下、破損などを招くおそれがある。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、複数のモータを同期制御するシステムにおいて異常が発生した場合に安全かつ安定した状態を維持したまま制動するための技術を提供することにある。
本開示は、第1のモータを駆動する第1のドライバと、前記第1のモータを制動するための第1のダイナミックブレーキ回路と、第2のモータを駆動する第2のドライバと、前記第2のモータを制動するための第2のダイナミックブレーキ回路と、前記第1及び第2のモータが正常に駆動されているときに得られた情報に基づいて、前記第1及び第2のモータの制御特性に関わるパラメータに相当する駆動情報を記憶する記憶装置と、前記第1のドライバに異常が発生し前記第1のドライバが前記第1のダイナミックブレーキ回路を作動した場合に、前記駆動情報を用いて、前記第1のモータと同じように速度が低下するように前記第2のドライバによる前記第2のモータの減速制御を実行する処理装置と、を有するモータ制御システムを含む。
前記第1のモータはエンコーダを有しており、前記第1のドライバに異常が発生した場合に、前記処理装置は、前記第1のモータのエンコーダの情報と前記駆動情報とを用いて前記第2のドライバによる前記第2のモータの減速制御を実行してもよい。
前記第1のモータはエンコーダを有しており、前記第1のドライバに異常が発生した場合に、前記処理装置は、前記第1のモータのエンコーダが正常か否かを判定し、前記第1のモータのエンコーダが正常な場合には、前記第1のモータのエンコーダの出力から前記第1のモータの速度を計算し、前記第1のモータのエンコーダが正常でない場合には、前記第1のモータに対応する前記第1のダイナミックブレーキ回路の制動特性に基づいて前記第1のモータの速度を推定し、計算又は推定した前記第1のモータの速度と前記駆動情報とを用いて前記第2のドライバによる前記第2のモータの減速制御を実行してもよい。
前記処理装置は、前記第1のドライバに異常が発生し前記第1のドライバが前記第1のダイナミックブレーキ回路を作動した場合に、前記駆動情報を用いて前記第2のドライバによる前記第2のモータの減速制御を実行する第1のモードと、前記第1のドライバに異常が発生し前記第1のドライバが前記第1のダイナミックブレーキ回路を作動させずに前記第1のモータが自然減速した場合に、前記駆動情報を用いて前記第2のドライバによる前記第2のモータの減速制御を実行する第2のモードと、を選択的に実行可能であるとよい。
前記モータ制御システムは、搬送物を積載して搬送する自走式搬送装置の車輪を駆動するためのモータを制御するためのシステムであってもよい。
前記処理装置は、前記自走式搬送装置に積載されている前記搬送物の重量、偏り、及び種類のうち少なくともいずれかの情報、又は、前記搬送物の有無に基づいて、前記第1のモードと前記第2のモードのいずれを選択するかを決定してもよい。
本開示は、第1のモータを駆動する第1のドライバと、前記第1のモータを制動するための第1のダイナミックブレーキ回路と、第2のモータを駆動する第2のドライバと、前記第2のモータを制動するための第2のダイナミックブレーキ回路と、を備えるモータ制御システムの制御方法であって、前記第1及び第2のモータが正常に駆動されているときに得られた情報に基づいて、前記第1及び第2のモータの制御特性に関わるパラメータに相当する駆動情報を記憶装置に保存するステップと、前記第1のドライバに異常が発生し前記第1のドライバが前記第1のダイナミックブレーキ回路を作動した場合に、前記駆動情報を用いて、前記第1のモータと同じように速度が低下するように前記第2のドライバによる前記第2のモータの減速制御を実行するステップと、を有するモータ制御システムの制御方法を含む。
本発明は、上記手段ないし機能の少なくとも一部を有するモータ制御システムとして捉えてもよいし、モータシステムやサーボシステムや自走式搬送装置やXY軸位置決め装置やコンベアシステムとして捉えてもよい。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含むモータ制御システムの制御方法やモータ制御方法やモータ制動方法として捉えてもよい。さらに、本発明は、かかる方法を実現するためのプログラムやそのプログラムを非一時的に記録したコンピュータ読取可能な記録媒体として捉えることもできる。なお、上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
本発明によれば、複数のモータを同期制御するシステムにおいて異常が発生した場合に安全かつ安定した状態を維持したまま制動することが可能である。
図1は、本発明に係るモータ制御システムを適用した搬送装置の動作例を示す図である。 図2は、従来の搬送装置の動作例を示す図である。 図3は、搬送装置の構成を示す図である。 図4は、モータ制御システムに係る構成を示す図である。 図5は、サーボシステムの構成例を示す図である。 図6は、サーボシステムの変形例を示す図である。 図7は、DB回路の制動特性を示す図である。 図8は、異常発生時の動作フローを示す図である。 図9は、異常発生時の動作フローの変形例を示す図である。
<適用例>
図1と図2を参照して、本発明の適用例の一つについて説明する。図1は本発明に係るモータ制御システムを適用した搬送装置の動作例を示す図であり、図2は従来の搬送装置の動作例を示す図である。なお、図1、図2はともに、搬送装置が図の左から右へと直線移動する様子を上方から視た図である。
最初に、従来の搬送装置で異常が発生した場合の挙動を説明する。図2に示すように、搬送装置100は、左右の車輪101L,101Rを個別のモータ102L,102Rで駆動する、2輪駆動方式の自走式搬送装置である。モータ102L,102Rそれぞれに
ドライバ103L,103Rが設けられ、これらがコントローラ105によって同期制御される。ドライバ103L,103RにはそれぞれDB回路104L,104Rが設けられている。符号Cは、搬送装置100上に積載された搬送物(積荷)である。
従来の搬送装置100は、走行中にいずれかのドライバ(例えば右側ドライバ103R)で異常が検知されると、コントローラ105が両方のDB回路104L,104Rを動作させ、左右2つのモータ102L,102Rを緊急制動する。このとき、図2に示すように、搬送物Cが左寄りに偏って積載されていると、右側に比べて左側のモータ102Lの負荷イナーシャが大きくなるため、右側に比べて左側の減速度が小さくなる。このようなブレーキ効力のアンバランスにより、左右の車輪101L,101Rに速度差が生じ、搬送装置100が予定経路を外れ右に曲がっていく。速度差がさらに大きい場合には、搬送装置100の回転や、搬送物Cの転倒や落下を引き起こす可能性もある。
そこで、図1の搬送装置1においては、左右のモータ12L,12Rが正常に駆動されている状態のときに、処理装置150が、左右それぞれのモータ12L,12Rの制御特性に関わるパラメータを測定ないし計算し、記憶装置151に記憶しておく。正常走行時に記憶装置151に記録(保存)される情報を本明細書では「駆動情報」と称する。この駆動情報は、搬送物Cの偏りや搬送装置1自体の重心の偏りに因る負荷イナーシャの差、モータ12L,12Rの物理的特性のばらつき(例えば、モータイナーシャの差)、車輪11L,11Rの物理的特性のばらつき(例えば、車輪の摩耗量の差、摩擦係数の差)、モータ12L,12Rの電気的特性のばらつき(例えば、巻線抵抗の差、インダクタンスの差)、DB回路14L,14Rの電気的特性のばらつき(例えば、抵抗器のインピーダンスの差)などに起因する、左右のモータ12L,12Rの制御特性の差異を表す情報といえる。
そして、いずれかのドライバ(例えば右側ドライバ13R)で異常が検知された場合、異常側のDB回路14Rを作動させて異常側のモータ12Rを制動する一方で、正常側については、DB回路14Lは使わず、右側モータ12Rと同じように左側モータ12Lの速度が低下するようにドライバ13Lによるモータ12Lの減速制御を実行する。このとき、処理装置150は、記憶装置151に記憶された駆動情報を用いることによって、左右のモータ12L,12Rの制御特性の差異を考慮に入れたモータ12Lのサーボ制御を実施する。したがって、左右のモータ12L,12Rの間で、負荷イナーシャ、物理的特性、電気的特性などに差異があったとしても、正常側のモータの速度を異常側のモータの速度に適応性良く追従させることができ、安全かつ安定した状態を維持したまま搬送装置1を制動することが可能となる。なお、図1では、処理装置150及び記憶装置151の機能をコントローラ15に実装したが、処理装置150及び記憶装置151の機能はドライバ13R,13Lのいずれか又は両方に実装してもよい。
<実施形態>
(全体構成)
図3は、本発明の実施形態に係るモータ制御システム及び搬送装置の構成を模式的に示す図である。なお、図1と対応する構成については図1と同じ符号を付す。
搬送装置1は、搬送物を積載して走行する自走式搬送装置であり、例えば、AGV、AMRなどである。搬送装置1は、走行に関わる基本構成として、左右の前輪10L,10R、左右の後輪11L,11R、左後輪11L用のサーボモータ12Lとサーボドライバ13LとDB回路14L、右後輪11R用のサーボモータ12Rとサーボドライバ13RとDB回路14R、コントローラ15、I/Oユニット16、障害物センサ17、バッテリー18、変圧器19を有する。この例では、サーボドライバ13L,13R、DB回路14L,14R、及びコントローラ15により、モータ制御システム2が構成されている
。以後の説明において、左右のいずれか一方の部材を指す場合には「サーボモータ12L」「サーボモータ12R」のように添え字「L」「R」付きの符号を用いるが、左右の両方に当てはまる説明では「サーボモータ12」のように添え字無しの符号を用いる。
(モータ制御システムの構成)
図4に、モータ制御システム2に関わる構成を抜き出して示す。
サーボモータ12は、ACモータ120とエンコーダ121から構成される。ACモータ120は、サーボドライバ13から供給される三相交流により回転する三相交流モータである。エンコーダ121は、ACモータ120の回転を検出するためのデバイスであり、エンコーダ121の出力(例えば、ACモータ120の回転軸の角度情報や角速度情報)はフィードバック信号としてサーボドライバ13に入力される。コントローラ15は通信部132を介してサーボドライバ13からエンコーダデータを受け取る。
サーボドライバ13は、コントローラ15からの指令(位置指令、速度指令、トルク指令など)に従って、サーボモータ12を駆動するためのモータ駆動装置であり、概略、制御回路130と駆動回路131から構成されている。サーボドライバ13には、バッテリー18の直流電圧が変圧器19を介して供給される。駆動回路131は、直流電圧を、モータ駆動用の三相交流に変換するための回路であり、例えばインバータなどで構成される。制御回路130は、与えられた指令とフィードバック信号に基づいて駆動回路131の出力電流(トルク)を制御するユニットである。なお、変圧器19の代わりにコンバータを設けてもよい。
DB回路14は、ACモータ120の端子間を抵抗器で短絡し、ACモータ120の回転により発生する逆起電力を抵抗器に流すことで、ACモータ120に蓄積された回転エネルギーを抵抗器にて熱エネルギーとして消費することにより、ACモータ120を速やかに減速させる装置である。DB回路14は、サーボドライバ13に内蔵されていてもよいし、サーボドライバ13に外付けされていてもよい。
(サーボシステムの説明)
図5に、モータ制御システム2におけるサーボシステムの構成例を示す。
モータ制御システム2では、左後輪11Lと右後輪11Rの2つの制御軸のそれぞれに対応するサーボシステムが形成されている。すなわち、サーボモータ12Lに対応するサーボシステム5Lは、コントローラ15とサーボドライバ13Lとエンコーダ121Lにて形成され、サーボモータ12Rに対応するサーボシステム5Rは、コントローラ15とサーボドライバ13Rとエンコーダ121Rにて形成されている。各サーボシステム5L,5Rは、実質的には同一の内容を有するので、以下、両者に共通する内容についてはサーボシステム5Lを用いて説明する。
サーボシステム5Lは、速度制御部50L、電流制御部51L、駆動情報推定部52、駆動情報記憶部53、演算部54L、演算部152を有している。本実施形態では、速度制御部50L、電流制御部51L、演算部54Lがサーボドライバ13Lの制御回路130により構成され、駆動情報推定部52と演算部152がコントローラ15の処理装置150により構成され、駆動情報記憶部53がコントローラ15の記憶装置151により構成されている。サーボシステム5Rも同様に、サーボドライバ13Rとコントローラ15によって構成された、速度制御部50R、電流制御部51R、駆動情報推定部52、駆動情報記憶部53、演算部54Rを有している。
処理装置150は、CPUやMPUなどの汎用プロセッサを備える小型のコンピュータ
で構成されてもよいし、ASICやFPGAなどの回路で構成されてもよい。また記憶装置151は、非一時的に情報を保存可能な不揮発性のメモリで構成され、例えば、EEPROMやフラッシュメモリなどを用いてよい。
図5に示す構成では、コントローラ15とサーボドライバ13Lが通信部153,132Lにより通信し、コントローラ15とサーボドライバ13Rが通信部153,132Rにより通信し、サーボドライバ13Lとサーボドライバ13Rの間の同期はコントローラ15を介して実現されている。この構成の場合、通信周期によっては処理が遅れてしまう場合がある。そこで、図6に示すように、サーボドライバ13Lとサーボドライバ13Rが互いに通信(クロスコミュニケーション)を行い、コントローラ15との通信周期に依存しないモータの同期制御が実現されてもよい。その場合、駆動情報推定部52および駆動情報記憶部53はコントローラ15ではなくサーボドライバ13L,13Rに実装されても良い。
速度制御部50Lは、例えば、比例積分制御(PI制御)を行う。具体的には、速度指令Vcmdと検出速度との偏差である速度偏差の積分量に所定の速度積分ゲインを乗じ、その算出結果と当該速度偏差の和に所定の速度比例ゲインを乗ずることにより、トルク指令Tcmdを算出する。算出されたトルク指令Tcmdが、電流制御部51Lに送信される。
電流制御部51Lは、速度制御部50Lにより算出されたトルク指令Tcmdと、駆動回路131Lからサーボモータ12Rに供給された駆動電流との偏差に基づいて、電流ループ制御を行う。電流制御部51Lは電流指令Ccmdを駆動回路131Lに対して出力し、それによりサーボモータ12Rの駆動電流が生成される。電流制御部51Lは、トルク指令に関するフィルタ(1次のローパスフィルタ)や一又は複数のノッチフィルタを含み、制御パラメータとして、これらのフィルタの性能に関するカットオフ周波数等を有していてもよい。
サーボシステム5Lでは、サーボモータ12Rが有するエンコーダ121Rの検出信号に基づいて算出された検出速度信号が、速度に関するフィードバック信号Vfbとして、速度制御部50Lに対してフィードバックされる。
(正常時の動作)
このサーボシステム5Lでは、トルク指令Tcmdと速度フィードバック信号Vfbのデータが通信部132L,153を介して駆動情報推定部52に入力される。駆動情報推定部52は、これらの入力値を基に駆動情報の推定処理を行い、その結果を駆動情報記憶部53に記録する。例えば、駆動情報推定部52は、サーボモータ12LのトルクT[N・m]、加速度ω[rad/s]、負荷イナーシャJ[kg・m]を推定し、これら3つの情報を時刻情報とともに駆動情報記憶部53に保存する。トルクTは、トルク指令Tcmdから計算され、加速度ωは、速度フィードバック信号Vfbを微分して計算すればよく、負荷イナーシャJは、下記式
J=T/ω
により計算すればよい。
搬送装置1に積載された搬送物Cの重量や、搬送物Cの偏り(搬送装置1全体の重心の偏り)に応じて、左右それぞれのモータの負荷イナーシャが変化し得る。また、前述のように、サーボドライバやモータの物理的特性のばらつきもある。そのため、搬送装置1が正常に走行している間、駆動情報推定部52が左右それぞれのモータの駆動情報を所定の時間間隔(例えば、数秒から数十秒に1回程度)で記録するとよい。
速度制御部50Lは、比例積分制御(PI制御)で用いる速度積分ゲインを、左側モータの負荷イナーシャの推定値Jに基づいて調整してもよい。同様に、右側の速度制御部50Rも、比例積分制御(PI制御)で用いる速度積分ゲインを、右側モータの負荷イナーシャの推定値Jに基づいて調整してもよい。これにより、搬送物Cの重量や偏りに応じて制御パラメータ(速度積分ゲイン)が適応的に調整されるため、より安定した搬送動作が実現できる。
さらに、駆動情報推定部52は、サーボモータ12Lの電気的特性(モータの電気定数など)、DB回路14Lの電気的特性(インピーダンスなど)についても、予め駆動情報記憶部53に保存する。これらの電気的特性は、サーボモータ12LやDB回路14Lの設計値(仕様)から取得してもよいし、測定により得てもよい。サーボモータ12L及びDB回路14Lの電気的特性は、DB回路14Lの制動特性に影響を与える。図7にDB回路の制動特性を模式的に示す。横軸が時間(DB回路を動作してからの経過時間)であり、縦軸が速度である。このグラフの傾きが急であるほど、ブレーキ力が高いことを示している。DB回路14Lの制動特性は、サーボモータ12LとDB回路14Lの電気的特性をモデルに当てはめることにより、推定することが可能である。駆動情報から推定したDB回路14Lの制動特性を駆動情報記憶部53に保存してもよい。
(異常発生時の動作)
図8に異常発生時の動作フローの概略を示す。左右のサーボドライバ13L,13Rのうち右側のサーボドライバ13Rに異常(例えば基板の故障など)が発生したケースを想定する。説明の便宜上、ここでは、異常側を「第1」、正常側を「第2」とも記す。
第1のサーボドライバ13Rは、第1のサーボドライバ13Rに異常が発生したことを検知すると(ステップS70)、その第1のサーボドライバ13Rの第1のDB回路14Rを作動させて第1のサーボモータ12Rを制動する(ステップS71)。そして、コントローラ15は、通信を介し、第1のサーボモータ12Rから入力される速度フィードバック信号をチェックし、第1のサーボモータ12Rのエンコーダ信号が正常に検出できるか否かを判定する(ステップS72)。
第1のサーボドライバ13Rが第1のサーボモータ12Rのエンコーダ信号を正常に検出できる場合は、コントローラ15(演算部152)は、当該エンコーダの出力信号から第1のサーボモータ12Rの速度v1及び加速度ω1を計算する(ステップS73)。他方、第1のサーボモータ12Rのエンコーダ信号が正常に検出できない場合は、コントローラ15(演算部152)は、駆動情報記憶部53に保存された第1のDB回路14Rの制動特性に基づいて、第1のサーボモータ12Rの速度v1及び加速度ω1を推定する(ステップS74)。例えば、DB回路動作時の第1のサーボモータ12R又は搬送装置1そのものの速度と、カウンタなどで計測したDB回路動作開始からの経過時間を、制動特性に当てはめることで、現在時刻の第1のサーボモータ12Rの速度v1を推定すればよい。
コントローラ15(演算部152)は、ステップS73で計算し又はステップS74で推定された、第1のサーボモータ12Rの速度v1に基づいて速度指令Vcmdを生成し、この速度指令Vcmdを目標値として正常側の第2の速度制御部50Lに与える(ステップS75)。さらに、コントローラ15(演算部152)は、ステップS73で計算し又はステップS74で推定された、第1のサーボモータ12Rの加速度ω1と、駆動情報記憶部53に保存された第1のサーボモータ12Rの負荷イナーシャJ1とから、
T1=J1・ω1
により、第1のサーボモータ12RのトルクT1を推定する(ステップS76)。そして、コントローラ15(演算部152)は、推定した第1のサーボモータ12RのトルクT
1と、駆動情報記憶部53に保存された各サーボモータ12R,12Lの負荷イナーシャJ1,J2とから、
T2=(J2/J1)・T1
により、第2のサーボモータ12Lに与えるべきトルクT2を計算する(ステップS77)。コントローラ15(演算部152)は、このトルクT2に基づいてトルク指令Tcmdを生成し、このトルク指令Tcmdを目標値として正常側の第2の電流制御部51Lに与える(ステップS78)。これにより、左右の負荷イナーシャの比に等しいトルク比(すなわち、T1:T2=J1:J2)で正常側の第2のサーボモータ12Lを減速制御できる。
以上述べたように、本実施形態のモータ制御システムによれば、片側のサーボドライバに異常が発生した場合に、正常時に記憶した駆動情報に基づいて正常側の第2のサーボモータ12Lを制御するので、搬送物Cの偏りや重心の偏り、物理的特性や電気的特性のばらつきによる左右の制御のアンバランスを可及的に修正でき、安全かつ安定した状態を維持したまま搬送装置1を制動することができる。なお、本実施形態では、コントローラ15の演算部152が異常発生時の減速制御を行う構成を例示したが、図6の変形例のようにサーボドライバ13L,13Rがクロスコミュニケーションを行う構成の場合には、いずれかのサーボドライバ(例えば正常側のサーボドライバ)の演算部(54L又は54R)が異常発生時の減速制御を行えばよい。
<変形例>
図9に異常発生時の動作の変形例を示す。この変形例に係るモータ制御システムは、片側のサーボドライバに異常が発生した場合にDB回路を動作させて異常側のサーボモータを制動する第1のモードと、片側のサーボドライバに異常が発生した場合にDB回路を動作せずに、異常側のサーボモータを自然減速させる第2のモードとを選択的に実行可能である。第1のモードと第2のモードのいずれの場合も、正常側のサーボモータは、異常側のサーボモータの速度に追随するように減速制御される。以下では、図8の動作フローとの相違点を中心に説明する。
第1のサーボドライバ13Rは、第1のサーボドライバ13Rに異常が発生したことを検知すると(ステップS70)、制動モードを選択する(ステップS80)。第1のモードが選択された場合、第1のサーボドライバ13Rは、第1のサーボドライバ13Rの第1のDB回路14Rを作動させて第1のサーボモータ12Rを制動する(ステップS71)。第1のモードの場合の以降の処理は図8のものと同じでよい。第2のモードが選択された場合、第1のサーボドライバ13Rが停止される(ステップS81)。第2のモードでは、第1のDB回路14Rは作動せず、第1のサーボモータ12Rは自然減速の状態になる。そして、コントローラ15は、通信を介し、第1のサーボモータ12Rから入力される速度フィードバック信号をチェックし、第1のサーボモータ12Rのエンコーダ信号が正常に検出できるか否かを判定する(ステップS82)。第1のサーボモータ12Rのエンコーダ信号を正常に検出できる場合は、ステップS73に進む。他方、第1のサーボモータ12Rのエンコーダ信号が正常に検出できない場合は、コントローラ15(演算部152)は、駆動情報記憶部53に保存された自然減速時の制動特性に基づいて、第1のサーボモータ12Rの速度v1及び加速度ω1を推定する(ステップS83)。これ以降の処理は図8のものと同じでよい。
このような制御によれば、異常が発生した場合の制動方法を、DB回路によって速やかに制動することを優先するモード(第1のモード)と、時間や制動距離はかかるがより安全かつ安定した状態で制動することを優先するモード(第2のモード)から、選択することができる。どちらのモードを利用するかは、事前にユーザーや管理者によって設定されてもよいし、コントローラ15が積載された搬送物の重量や偏りに基づいて自動でモード
を選択してもよい。例えば、重い荷物を搬送しているときや、不安定な荷物を搬送しているときは、荷物の転倒や落下や破損を未然に防ぐため、第2のモードを選択してもよい。あるいは、搬送装置1の運用を管理する上位システムが、搬送装置1に積載された搬送物の種類や搬送物の有無に基づいて自動でモードを選択してもよい。例えば、慎重に搬送すべき荷物の場合には、第2のモードを選択してもよい。
<その他>
上記実施形態は、本発明の構成例を例示的に説明するものに過ぎない。本発明は上記の具体的な形態には限定されることはなく、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態は、2輪駆動の自走式搬送装置に本発明を適用した例を説明したが、本発明の適用範囲は自走式搬送装置に限られない。複数のモータを同期制御するシステムであれば同様の課題が起こり得るため、本発明を好ましく適用できる。例えば、X軸のモータとY軸のモータとを同期制御してワークのXY座標の位置決めを行うシステムや、上流側のベルトコンベアを駆動するモータと下流側のベルトコンベアを駆動するモータとを同期制御するシステムなどに、本発明を適用してもよい。
<付記>
1. 第1のモータ(12R)を駆動する第1のドライバ(13R)と、
前記第1のモータ(12R)を制動するための第1のダイナミックブレーキ回路(14R)と、
第2のモータ(12L)を駆動する第2のドライバ(13L)と、
前記第2のモータ(12L)を制動するための第2のダイナミックブレーキ回路(14L)と、
前記第1及び第2のモータ(12R,12L)が正常に駆動されているときに得られた情報に基づいて、前記第1及び第2のモータ(12R,12L)の制御特性に関わるパラメータに相当する駆動情報を記憶する記憶装置(151)と、
前記第1のドライバ(13R)に異常が発生し前記第1のドライバ(13R)が前記第1のダイナミックブレーキ回路(14R)を作動した場合に、前記駆動情報を用いて、前記第1のモータ(12R)と同じように速度が低下するように前記第2のドライバ(13L)による前記第2のモータ(12L)の減速制御を実行する処理装置(150)と、を有する
モータ制御システム。
2. 第1のモータ(12R)を駆動する第1のドライバ(13R)と、
前記第1のモータ(12R)を制動するための第1のダイナミックブレーキ回路(14R)と、
第2のモータ(12L)を駆動する第2のドライバ(13L)と、
前記第2のモータ(12L)を制動するための第2のダイナミックブレーキ回路(14L)と、を備えるモータ制御システムの制御方法であって、
前記第1及び第2のモータ(12R,12L)が正常に駆動されているときに得られた情報に基づいて、前記第1及び第2のモータ(12R,12L)の制御特性に関わるパラメータに相当する駆動情報を記憶装置(151)に保存するステップと、
前記第1のドライバ(13R)に異常が発生し前記第1のドライバ(13R)が前記第1のダイナミックブレーキ回路(14R)を作動した場合に、前記駆動情報を用いて、前記第1のモータ(12R)と同じように速度が低下するように前記第2のドライバ(13L)による前記第2のモータ(12L)の減速制御を実行するステップと、を有する
モータ制御システムの制御方法。
1:搬送装置
2:モータ制御システム
5L,5R:各サーボシステム
10L,10R:前輪
11L,11R:後輪
12,12L,12R:サーボモータ
13,13L,13R:サーボドライバ
14,14L,14R:ダイナミックブレーキ回路(DB回路)
15:コントローラ
16:I/Oユニット
17:障害物センサ
18:バッテリー
19:変圧器
50L,50R:速度制御部
51L,50R:電流制御部
52:駆動情報推定部
53:駆動情報記憶部
54L,54R:演算部
100:搬送装置
101L,101R:車輪
102L,102R:モータ
103L,103R:ドライバ
104L,104R:ダイナミックブレーキ回路
105:コントローラ
120:ACモータ
121,121L,121R:エンコーダ
130:制御回路
131,131L,131R:駆動回路
132,132L,132R:通信部
150:処理装置
151:記憶装置
152:演算部
153:通信部

Claims (7)

  1. 第1のモータを駆動する第1のドライバと、
    前記第1のモータを制動するための第1のダイナミックブレーキ回路と、
    第2のモータを駆動する第2のドライバと、
    前記第2のモータを制動するための第2のダイナミックブレーキ回路と、
    前記第1及び第2のモータが正常に駆動されているときに得られた情報に基づいて、前記第1及び第2のモータの制御特性に関わるパラメータに相当する駆動情報を記憶する記憶装置と、
    前記第1のドライバに異常が発生し前記第1のドライバが前記第1のダイナミックブレーキ回路を作動した場合に、前記駆動情報を用いて、前記第1のモータと同じように速度が低下するように前記第2のドライバによる前記第2のモータの減速制御を実行する処理装置と、を有する
    モータ制御システム。
  2. 前記第1のモータはエンコーダを有しており、
    前記第1のドライバに異常が発生した場合に、前記処理装置は、
    前記第1のモータのエンコーダの情報と前記駆動情報とを用いて前記第2のドライバによる前記第2のモータの減速制御を実行する
    請求項1に記載のモータ制御システム。
  3. 前記第1のモータはエンコーダを有しており、
    前記第1のドライバに異常が発生した場合に、前記処理装置は、
    前記第1のモータのエンコーダが正常か否かを判定し、
    前記第1のモータのエンコーダが正常な場合には、前記第1のモータのエンコーダの出力から前記第1のモータの速度を計算し、
    前記第1のモータのエンコーダが正常でない場合には、前記第1のモータに対応する前記第1のダイナミックブレーキ回路の制動特性に基づいて前記第1のモータの速度を推定し、
    計算又は推定した前記第1のモータの速度と前記駆動情報とを用いて前記第2のドライバによる前記第2のモータの減速制御を実行する
    請求項1に記載のモータ制御システム。
  4. 前記処理装置は、
    前記第1のドライバに異常が発生し前記第1のドライバが前記第1のダイナミックブレーキ回路を作動した場合に、前記駆動情報を用いて前記第2のドライバによる前記第2のモータの減速制御を実行する第1のモードと、
    前記第1のドライバに異常が発生し前記第1のドライバが前記第1のダイナミックブレーキ回路を作動させずに前記第1のモータが自然減速した場合に、前記駆動情報を用いて前記第2のドライバによる前記第2のモータの減速制御を実行する第2のモードと、
    を選択的に実行可能である
    請求項1~3のいずれか1項に記載のモータ制御システム。
  5. 前記モータ制御システムは、搬送物を積載して搬送する自走式搬送装置の車輪を駆動するためのモータを制御するためのシステムである
    請求項4に記載のモータ制御システム。
  6. 前記処理装置は、前記自走式搬送装置に積載されている前記搬送物の重量、偏り、及び種類のうち少なくともいずれかの情報、又は、前記搬送物の有無に基づいて、前記第1のモードと前記第2のモードのいずれを選択するかを決定する
    請求項5に記載のモータ制御システム。
  7. 第1のモータを駆動する第1のドライバと、
    前記第1のモータを制動するための第1のダイナミックブレーキ回路と、
    第2のモータを駆動する第2のドライバと、
    前記第2のモータを制動するための第2のダイナミックブレーキ回路と、を備えるモータ制御システムの制御方法であって、
    前記第1及び第2のモータが正常に駆動されているときに得られた情報に基づいて、前記第1及び第2のモータの制御特性に関わるパラメータに相当する駆動情報を記憶装置に保存するステップと、
    前記第1のドライバに異常が発生し前記第1のドライバが前記第1のダイナミックブレーキ回路を作動した場合に、前記駆動情報を用いて、前記第1のモータと同じように速度が低下するように前記第2のドライバによる前記第2のモータの減速制御を実行するステップと、を有する
    モータ制御システムの制御方法。
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