JP2023147228A - 熱硬化性樹脂組成物、硬化物、複合成形体および半導体デバイス - Google Patents

熱硬化性樹脂組成物、硬化物、複合成形体および半導体デバイス Download PDF

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Toshiyuki Sawamura
裕也 古賀
Yuya Koga
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Abstract

【課題】耐熱性に優れた熱伝導性部材を形成することができ、それでいてシェルフライフ性に優れた熱硬化性樹脂組成物を提供する。【解決手段】無機フィラーおよび熱硬化性樹脂を含有し、無機フィラーは凝集窒化ホウ素粒子を含み、熱硬化性樹脂は、質量平均分子量が5000より大きく、かつTgが50℃以上であるエポキシポリマーと、式(A)で表されるポリアリレート化合物とを含有し、エポキシポリマーの含有量は、無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分100質量%に対し10~30質量%である、熱硬化性樹脂組成物である。TIFF2023147228000009.tif41158(Xは夫々独立にH、基脂肪族基または芳香族基、Yは夫々独立に単結合、-CR1R2-、O、COまたはS、ZはH、OH基またはアルコキシ基。nは1以上の整数。)【選択図】なし

Description

本発明は、熱硬化性を有する熱硬化性樹脂組成物、その硬化物、それを用いた複合成形体、並びに、それを用いた半導体デバイスに関する。
近年、鉄道・自動車・産業用、一般家電用等の様々な分野で使用されているパワー半導体デバイスは、更なる小型化・低コスト化・高効率化等の為に、従来のSiパワー半導体から、SiC、AlN、GaN等を使用したパワー半導体へ移行しつつある。
パワー半導体デバイスは、一般的には、複数の半導体デバイスを共通のヒートシンク上に配してパッケージングしたパワー半導体モジュールとして利用される。
このようなパワー半導体デバイスの実用化に向けて、種々の課題が指摘されているが、そのうちの一つにデバイスからの発熱の問題がある。パワー半導体デバイスは、高温で作動させることにより高出力・高密度化が可能となる一方、デバイスのスイッチングなどに伴う発熱は、パワー半導体デバイスの信頼性を低下させることが懸念されている。
また、近年、電気・電子分野において、集積回路の高密度化に伴う発熱が大きな問題となっており、これらの分野でも、いかに熱を放散するかが緊急の課題となっている。例えば、パソコンの中央演算装置、電気自動車のモーター等の制御に用いられる半導体デバイスの安定動作を行う際、放熱のためにヒートシンク、放熱フィン等が不可欠になっており、半導体デバイスとヒートシンク等とを結合する部材として、熱伝導性及び絶縁性を両立可能な接合材料が求められている。
熱伝導性及び絶縁性を両立可能な接合材料として、従来から、アルミナ基板や窒化アルミニウム基板などの熱伝導性の高いセラミック基板が使用されてきた。しかし、セラミックス基板では、衝撃で割れやすい、薄膜化が困難で小型化が難しい、といった課題を抱えていた。
そこで、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と無機フィラーを含有する、放熱性を備えた接合材料が提案されている。中でも最近、無機フィラーとして、窒化ホウ素粒子を用いたものが提案されている。
窒化ホウ素(以下「BN」とも称する。)は、絶縁性のセラミックであり、熱伝導性、固体潤滑性、化学的安定性、耐熱性に優れるという特徴を有することから、近年、電気・電子材料分野で特に着目されている材料である。
無機フィラーとして、窒化ホウ素粒子を用いた放熱用接合部材、若しくは、それを形成し得る硬化性組成物に関して、例えば特許文献1(特開2013-089670号公報)には、窒化ホウ素粒子とエポキシ樹脂とフェノール樹脂とを含有する熱硬化性接着剤からなる絶縁樹脂層を有し、該絶縁樹脂層の一面側を被着体に接着硬化させて、該被着体の熱を前記絶縁樹脂層を通じて放熱させるべく用いられる放熱部材が開示されている。
特許文献2(特開2015-6985号公報)には、エポキシ樹脂組成物と、六方晶窒化ホウ素の一次粒子が凝集した凝集窒化ホウ素粒子であって、該凝集窒化ホウ素粒子中の一次粒子同士がカードハウス構造を有する、凝集窒化ホウ素粒子と、硬化剤(例えば2-エチルメチルイミダゾール)とを有する熱硬化性樹脂組成物及び成形体が開示されている。
さらに特許文献3(特開2016-135730号公報)、特許文献4(国際公開2015/119198号公報)、特許文献5(特開2017-36415号公報)および特許文献6(国際公開2021/085593号公報)などにも、エポキシ樹脂と、硬化剤と、凝集窒化ホウ素粒子とを含有する熱硬化性樹脂組成物が開示されている。
他方、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂は、耐熱性と比誘電率および誘電正接等の誘電特性との両立が困難である一方、エポキシ樹脂の硬化剤であるポリアリレート化合物は耐熱性および誘電特性が優れていることが知られており、エポキシ樹脂組成物の改質剤として使用することができる。
そこで、特許文献7(特開2004-224890号公報)及び特許文献8(国際公開2017/73549号公報)などには、エポキシ樹脂にポリアリレート化合物を配合した硬化性樹脂組成物が開示されている。
また、特許文献9(特開2019-85494号公報(特許第6919508号))には、エポキシ樹脂、ポリアリレート化合物を含む活性エステル化合物及び無機充填材を含む樹脂組成物が提案されている。
特開2013-089670号公報 特開2015-6985号公報 特開2016-135730号公報 国際公開2015/119198号公報 特開2017-36415号公報 国際公開2021/085593号公報 特開2004-224890号公報 国際公開2017/73549号公報 特開2019-85494号公報(特許第6919508号)
次世代のパワーデバイス開発のため、より信頼性の高い実装技術として、例えば、Ag焼結接合(Agシンター接合)などが注目されており、これらの実装技術では、接合部材として用いる熱伝導性部材に対して優れた耐熱性が求められている。
また、パワーデバイスの小型化及び高パワー密度化に伴い、チップの動作環境はますます高温化しているため、この点からも、接合部材として用いる熱伝導性部材に対して優れた耐熱性が求められている。
熱伝導性部材の耐熱性を高める手段として、熱伝導性部材を形成する熱硬化性樹脂組成物を構成する硬化剤や硬化触媒の種類や量を調整して硬化物の架橋密度を向上させ、ガラス転移温度(Tg)を高める手段を想定することができる。
しかしながら、そのような手段で硬化物すなわち熱伝導性部材の架橋密度を高めた場合、同時に、架橋し易い状態となるため、意図的に熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させる前に、保管しているうちに硬化が進んで接着性が低下してしまう。すなわち、シェルフライフ性(貯蔵特性)が低下するという課題を生じることになる。
そこで本発明の目的は、耐熱性に優れた熱伝導性部材を形成することができ、それでいてシェルフライフ性に優れた熱硬化性樹脂組成物を提供することにある。
かかる課題を解決するための本発明の要旨は次の通りである。
[1] 無機フィラーおよび熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物であり、
前記無機フィラーは凝集窒化ホウ素粒子を含み、
前記熱硬化性樹脂は、質量平均分子量が5000より大きく、かつガラス転移温度(Tg)が50℃以上であるエポキシ樹脂(「エポキシポリマー」とも称する)と、下記一般式(A)で表されるポリアリレート化合物とを含有し、
該エポキシポリマーの含有量は、無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分100質量%に対し10~30質量%である、熱硬化性樹脂組成物。
Figure 2023147228000001
一般式(A)中、Xはそれぞれ独立に、水素原子、基脂肪族基または芳香族基であり、Yはそれぞれ独立に、単結合、-CR-、O、COまたはSであり、Zは水素原子、ヒドロキシ基またはアルコキシ基である。nは繰り返し数であり、1以上の整数であればよい。
[2] 熱硬化性樹脂組成物から前記無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分を、120℃で30分間加熱した後、175℃で30分間加熱し、200℃で10分間加熱して測定されるガラス転移温度(Tg)が150℃以上である、[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[3] 熱硬化性樹脂組成物中に含有される前記ポリアリレート化合物の官能基量が、前記熱硬化性樹脂のエポキシ基量の50%以下である、[1]又は[2]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[4] 前記熱硬化性樹脂が、質量平均分子量600以下のエポキシ化合物を含有する、[1]~[3]のいずれか1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[5] 前記熱硬化性樹脂が、質量平均分子量600以下で、一分子中にエポキシ基を3つ以上含むエポキシ化合物を含有する、[1]~[4]のいずれか1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[6] 熱硬化性樹脂組成物から前記無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分は、120℃を保持した際の複素粘度の最下点ηbが100Pa・s以下であり、前記樹脂成分を、昇温速度2℃/分で室温から120℃まで加熱した後、120℃を保持する温度プロファイルにて複素粘度を測定した際、複素粘度が最下点ηbから10000Pa・sとなるまでの時間Tsが500秒以上である、[1]~[5]のいずれか1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[7] 前記凝集窒化ホウ素粒子は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布における累積体積50%粒子径(D50)が10μm以上である、[1]~[6]のいずれか1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[8] 前記無機フィラーが、カードハウス型凝集窒化ホウ素粒子を含む、[1]~[7]のいずれか1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
[9] [1]~[8]のいずれか1に記載の熱硬化性樹脂組成物から形成してなるシート状硬化物。
[10] [9]に記載のシート状硬化物からなる硬化物部と、金属部とを有する複合成形体。
[11] [10]に記載の複合成形体を備えた半導体デバイス。
本発明が提案する熱硬化性樹脂組成物は、無機フィラーとして、凝集窒化ホウ素粒子を含んでいるため、硬化することにより、熱伝導性に優れた熱伝導性部材を形成することができる。しかも、エポキシポリマーを含んでいるため、凝集窒化ホウ素粒子の含有割合を高めたとしても、ハンドリング性(脆さ)を良好に維持することができる。
さらに本発明が提案する熱硬化性樹脂組成物は、エポキシポリマーとポリアリレート化合物を含有するため、硬化することにより、エポキシポリマーとポリアリレート化合物とが反応して架橋構造が複合化して強固な架橋構造を形成し、ガラス転移温度(Tg)を高めることができ、硬化物の耐熱性を優れたものとすることができる。
さらに、本発明が提案する熱硬化性樹脂組成物は、エポキシポリマー及びポリアリレート化合物を含んでいるため、前記のように強固な架橋構造を得ることができる一方、エポキシポリマー及びポリアリレート化合物によって硬化反応速度を遅くすることができ、安定性を高めることができるため、例えばシェルフライフ性を高めることができる。
カードハウス構造を有する凝集窒化ホウ素粒子の一例に係る粒子断面図の概念図である。
以下に、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
<<本熱硬化性樹脂組成物>>
本発明の実施の形態の一例に係る熱硬化性樹脂組成物(「本熱硬化性樹脂組成物」と称する。)は、熱硬化性樹脂成分及び無機フィラーを含有するものである。
本発明において「熱硬化性樹脂組成物」とは、熱により硬化する性質を有する樹脂組成物の意味である。すなわち、熱により硬化する余地が残された、硬化性を有する樹脂組成物であればよく、硬化する余地が残された状態に既に硬化(「仮硬化」とも称する)されたものであってもよいし、未だ硬化されていない(「未硬化」と称する)状態のものであってもよい。
本発明において「樹脂」とは、溶剤を除く有機化合物の意味である。よって、例えば「エポキシ樹脂」は「エポキシ化合物」、「主成分樹脂」は「主成分有機化合物」、「熱硬化性樹脂」は「熱硬化性化合物」とそれぞれ読み替えることができる。
本熱硬化性樹脂組成物は、粉末状、スラリー状、液状、固形状、或いは、シート状などに成形された成形体のいずれであってもよい。
本熱硬化性樹脂組成物は、シート状に成形して硬化させることにより、シート状硬化物(「本熱伝導性樹脂シート」とも称する)を形成することができる。
<熱硬化性樹脂成分>
本熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂成分すなわち樹脂の熱硬化に関与する成分として、熱硬化性化合物、質量平均分子量が5000より大きいエポキシ樹脂(「エポキシポリマー」とも称する)及びポリアリレート化合物を含有するのが好ましい。
本熱硬化性樹脂組成物が、熱硬化性化合物、エポキシポリマー及びポリアリレート化合物を含んでいれば、本熱硬化性樹脂組成物を硬化することにより、熱硬化性化合物による架橋構造と、エポキシポリマーとポリアリレート化合物とが反応してなる架橋構造と、さらに熱硬化性化合物としてエポキシ化合物を含む場合には、該エポキシ化合物とポリアリレート化合物とが反応してなる架橋構造とを有することになるばかりか、それらの架橋構造が複合化することになる。そのため、本熱硬化性樹脂組成物からなる硬化物は、より強固な架橋構造を有するものとなり、ガラス転移温度(Tg)が高まり、優れた耐熱性を備えたものとなる。よって、例えば硬化物とした際の高温での寸法変化を抑制することができる。
さらに、本熱硬化性樹脂組成物はエポキシポリマー及びポリアリレート化合物を含むことで、前記のように強固な架橋構造を有しつつも、硬化反応速度を遅くすることができ、安定性を向上させることができ、例えばシェルフライフ性を高めることができる。
本熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂成分である熱硬化性化合物、エポキシポリマー及びポリアリレート化合物を、本熱硬化性樹脂組成物から無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分100質量%に対し、50~100質量%含有するのが好ましく、中でも65質量%以上、その中でも80質量%以上含有するのがさらに好ましい。
本発明において「熱硬化性樹脂組成物から無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分」の「有機溶剤を除いた」の意味は、有機溶剤を含んでいる場合は有機溶剤を除くという意味であり、熱硬化性樹脂組成物が有機溶剤を含むという意味ではない。
(熱硬化性化合物)
本熱硬化性樹脂組成物が含有する熱硬化性化合物は、熱によって硬化する性質を有する化合物であればよい。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等を挙げることができる。これらの中で、粘度、耐熱性、吸湿性、取扱い性の観点から、エポキシ樹脂が好ましい。
これら熱硬化性化合物の分子量は、質量平均分子量5000未満であれば特に限定するものではない。一般的には50~4500、中でも80以上或いは4200以下、その中でも100以上或いは4000以下であればよい。
熱硬化性化合物の含有量は、本熱硬化性樹脂組成物から無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分100質量%に対し、5~90質量%であるのが好ましい。
熱硬化性化合物の含有量が5質量%以上であれば、架橋密度向上のために好ましく、他方、90質量%以下であれば、他の成分の含有量を確保することができ、成形性やシートのハンドリング性を高めることができるから好ましい。
かかる観点から、熱硬化性化合物の含有量は、本熱硬化性樹脂組成物から無機フィラと有機溶剤を除いた樹脂成分100質量%に対し、5~90質量%であるのが好ましく、中でも10質量%以上、中でも20質量%以上、中でも30質量%以上であるのがさらに好ましい一方、90質量%以下、中でも85質量%以下、その中でも80質量%以下の割合で含有することがさらに好ましい。
(エポキシ化合物)
本熱硬化性樹脂組成物に含まれる熱硬化性化合物としてのエポキシ化合物は、分子内に1個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有する化合物であればよい。
エポキシ化合物に含まれるオキシラン環(エポキシ基)は、脂環式エポキシ基、グリシジル基のどちらでも構わない。反応速度もしくは耐熱性の観点から、グリシジル基であることがより好ましい。
エポキシ化合物としては、例えば、エポキシ基含有ケイ素化合物、脂肪族型エポキシ樹脂、ビスフェノールAまたはF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂、高分子型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
前記エポキシ化合物は、芳香族オキシラン環(エポキシ基)含有化合物であってもよい。その具体例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラフルオロビスフェノールAなどのビスフェノール類をグリシジル化したビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型のエポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの2価のフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタンなどのトリスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタンなどのテトラキスフェノール類をグリシジル化したエポキシ樹脂、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、臭素化ビスフェノールAノボラックなどのノボラック類をグリシジル化したノボラック型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
熱硬化性化合物としてのエポキシ化合物の分子量は、600以下であることが好ましく、特に100以上或いは590以下、中でも200以上或いは580以下であることがさらに好ましい。また、より低吸湿かつ高架橋を達成する観点から、窒素原子を含有するようなアミン系もしくはアミド系の構造を含まないほうが好ましい。
[多官能エポキシ化合物]
前記エポキシ化合物の中でも、次に説明する多官能エポキシ化合物が特に好ましい。
多官能エポキシ化合物とは、分子内に2個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有するエポキシ化合物をいう。
このような多官能エポキシ化合物を添加することにより、極性の高いオキシラン環(エポキシ基)を高密度で導入することが可能であり、それにより、ファンデルワールス力や水素結合といった物理的相互作用の効果が増し、例えば、本熱硬化性樹脂組成物から形成した本熱伝導性樹脂シートと導電体との密着性を向上させることができる。また、多官能エポキシ化合物を添加することにより、本熱伝導性樹脂シートの貯蔵弾性率を高くすることができ、それにより被着体である導電体表面の凹凸に本熱硬化性樹脂組成物の硬化物が入り込んだ後、強固なアンカー効果を発現し、本熱伝導性樹脂シートと導電体との密着性を向上させることができる。
一方で、多官能エポキシ化合物を導入することにより、本熱硬化性樹脂組成物の吸湿性が高くなる傾向にあるが、オキシラン環(エポキシ基)の反応性を向上させることで、反応途中のヒロドキシ基量を減らし、吸湿性の増加を抑制することができる。また、前述したエポキシポリマーと多官能エポキシ化合物を組み合わせて本熱硬化性樹脂組成物を製造することにより、本熱伝導性樹脂シートの高弾性化と低吸湿化を両立することが可能となる。
前記多官能エポキシ化合物としては、熱硬化後の硬化物の貯蔵弾性率を高くする、特にパワー半導体のように高温使用が想定される場合に重要になる高温時の貯蔵弾性率を高くする観点から、一分子内に2個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有するエポキシ化合物であればよく、中でも、一分子内に3個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有するエポキシ化合物が好ましく、さらに一分子内に4個以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物がより一層好ましい。一分子内に複数のオキシラン環(エポキシ基)、特にグリシジル基を有することで、硬化物の架橋密度が向上し、得られる硬化物がより高強度となる。それにより、吸湿リフロー試験において硬化物に内部応力が発生した際に、硬化物が変形したり、破壊したりせずに、形態を保持することで、硬化物内にボイド等の空隙が発生するのを抑制することができる。
また、硬化物の貯蔵弾性率を高くするという観点から、多官能エポキシ化合物の分子量は600以下であることが好ましく、特に100以上或いは580以下、中でも200以上或いは550以下であることがさらに好ましい。また、より低吸湿かつ高架橋を達成する観点から、窒素原子を含有するようなアミン系もしくはアミド系の構造を含まないほうが好ましい。
多官能エポキシ化合物の具体例としては、例えば一分子当たりエポキシ基を3つ以上有し、分子量600以下の多官能エポキシ化合物が好ましい。例えばナガセケムテックス社製の、EX321L、DLC301、DLC402等を用いることができる。
これらの多官能エポキシ化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
多官能エポキシ化合物の含有量は、本熱硬化性樹脂組成物から無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分100質量%に対し、5質量%以上80質量%以下であるのが好ましい。
多官能エポキシ化合物の含有量が5質量%以上であれば、硬化物の弾性率を保持できることから好ましく、80質量%以下であれば、吸水率が高くなり過ぎないことから好ましい。
かかる観点から、多官能エポキシ化合物の含有量は、本熱硬化性樹脂組成物から無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分100質量%に対し、5質量%以上80質量%以下であるのが好ましく、中でも10質量%以上或いは75質量%以下、その中でも15質量%以上或いは70質量%以下であるのがさらに好ましい。
後述するように、エポキシポリマー及び多官能エポキシ化合物を併用する場合、シートの成膜性とシート状硬化物の弾性率の観点から、エポキシポリマーの含有量100質量部に対し、多官能エポキシ化合物の含有量が20質量部以上1500質量部以下であるのが好ましく、中でも30質量部以上或いは1200質量部以下、その中でも50質量部以上或いは1000質量部以下であるのがさらに好ましい。
<エポキシポリマー>
本熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂成分として、質量平均分子量が5000より大きなエポキシ樹脂(「エポキシポリマー」とも称する)を含有するのが好ましい。
本熱硬化性樹脂組成物がエポキシポリマーを含有することにより、エポキシポリマーとポリアリレート化合物とが反応するため、架橋構造が複合化して、より強固な架橋構造を形成することができる。その一方、本熱硬化性樹脂組成物の硬化反応速度を遅くすることができ、安定性を向上させることができ、例えばシェルフライフ性を高めることができる。さらには、凝集窒化ホウ素粒子の含有割合を高めたとしても、ハンドリング性(脆さ)を良好に維持することができる。
前記エポキシポリマーとしては、例えばビスフェノールA型骨格、ビスフェノールF型骨格、ビスフェノールA/F混合型骨格、ナフタレン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格、キサンテン骨格、アダマンタン骨格及びジシクロペンタジエン骨格からなる群から選択された少なくとも1つの骨格を有するフェノキシ樹脂を挙げることができる。
前記エポキシポリマーとしては、例えば、下記式(1)で表される構造(以下、「構造(1)」と称す場合がある。)および下記式(2)で表される構造(以下、「構造(2)」と称す場合がある。)から選ばれる少なくとも一つの構造を有するエポキシ樹脂を挙げることができる。
Figure 2023147228000002
式(1)中、RおよびRはそれぞれ有機基を表し、少なくとも一方は分子量16以上の有機基であり、式(2)中、Rは2価の環状有機基を表す。
なお、前記「有機基」とは、炭素原子を含む基であれば如何なる基でも含むものであり、具体的に例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基等が挙げられ、それらはハロゲン原子や、ヘテロ原子を有する基や、他の炭化水素基で置換されていても構わない。以下においても同様である。
また、エポキシポリマーとして、下記式(3)で表される構造(以下、「構造(3)」と称す場合がある。)を有するエポキシ樹脂を挙げることができる。
Figure 2023147228000003
式(3)中、R、R、R、Rは、それぞれ分子量15以上の有機基を表す。
上記式(1)において、RおよびRのうちの少なくとも一方は、分子量が16以上、好ましくは分子量16~1000の有機基を表し、例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基やフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、フルオレニル基等のアリール基を挙げることができる。RおよびRは共に分子量16以上の有機基であってもよく、一方が分子量16以上の有機基で、他方が分子量15以下の有機基又は水素原子であってもよい。好ましくは、一方が分子量16以上の有機基で他方が分子量15以下の有機基であり、特にいずれか一方がメチル基で、他方がフェニル基であることが、樹脂粘度等の取扱い性の制御が容易になることや、硬化物の強度の観点から好ましい。
上記式(2)において、Rは2価の環状有機基であり、ベンゼン環構造、ナフタレン環構造、フルオレン環構造等の芳香族環構造であってもよいし、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂肪族環構造であってもよい。また、それらは独立に、炭化水素基、又はハロゲン原子等の置換基を有していても構わない。2価の結合部は、単一の炭素原子にある2価基であっても構わないし、異なる炭素原子にある2価基であっても構わない。好ましくは、炭素数6~100の2価の芳香族基、シクロプロパンやシクロヘキサンのような炭素数2~100のシクロアルカンに由来する基を挙げることができる。特に、下記式(4)で表される3,3,5-トリメチル-1,1-シクロへキシレン基(以下、「構造(4)」と称す場合がある。)が、樹脂粘度等の取扱い性の制御や硬化物の強度の観点から好ましい。
Figure 2023147228000004
上記式(3)において、R、R、R、Rは、それぞれ分子量15以上の有機基である。好ましくは分子量15~1000のアルキル基であり、特にR、R、R、Rのすべてがメチル基であることが、樹脂粘度等の取扱い性の制御や硬化物の強度の観点から好ましい。
エポキシポリマーは、特に構造(1)および構造(2)のいずれか一方と、構造(3)とを含むエポキシ樹脂であることが、得られる硬化物である放熱シートの吸湿性の低減と強度保持の性能の両立の観点から好ましい。
このようなエポキシポリマーは、一般的なビスフェノールA、ビスフェノールF骨格を有するエポキシ樹脂と比較して、疎水性の炭化水素および芳香族構造を多く含むため、エポキシポリマーを配合することにより、得られる硬化物である放熱シートの吸湿量を低減することができる。
また、吸湿量を低減するという観点から、エポキシポリマーは疎水性構造である構造(1)、(2)、(3)を多く含むものが好ましく、具体的には質量平均分子量が5,000より大きいことが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、20,000以上であることがさらに好ましい。
エポキシポリマーのガラス転移温度(Tg)は、耐熱性の観点から、50℃以上であるのが好ましく、中でも70℃以上、その中でも80℃以上であるのがさらに好ましい。他方、溶剤溶解性の観点から、300℃以下であるのが好ましく、中でも270℃以下、その中でも250℃以下であるのがさらに好ましい。
また、エポキシポリマーはより疎水性であることが好ましく、かかる観点から、エポキシ成分のエポキシ当量は大きい方がよく、具体的には5,000g/当量以上が好ましく、7,000g/当量以上、例えば8,000~20、000g/当量がより好ましい。
なお、エポキシ樹脂の質量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されたポリスチレン換算の値である。
また、エポキシ当量とは、「1当量のエポキシ基を含むエポキシ樹脂の質量」と定義され、JIS K7236に準じて測定することができる。
このようなエポキシポリマーは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
エポキシポリマーの含有量は、本熱硬化性樹脂組成物から無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分100質量%に対し、10~30質量%であるのが好ましい。
エポキシポリマーの含有量が10質量%以上であることで、無機フィラーの保持力と成膜性が保たれるから好ましく、30質量%以下であることで、硬化時の強度を保つことができるから好ましい。
かかる観点から、エポキシポリマーの含有量は、本熱硬化性樹脂組成物から無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分100質量%に対し、10~30質量%であるのが好ましく、中でも13質量%以上或いは29質量%以下、その中でも15質量%以上或いは28質量%以下であるのがさらに好ましい。
(ポリアリレート化合物)
本熱硬化性樹脂組成物が、エポキシポリマー乃至エポキシ化合物と、ポリアリレート化合物とを含むことで、ポリアリレート化合物の主鎖骨格中のエステル基乃至末端の水酸基が、エポキシポリマー乃至エポキシ化合物のエポキシ基と反応して結合するため、エポキシポリマー乃至エポキシ化合物による架橋構造と、エポキシポリマー乃至エポキシ化合物とポリアリレート化合物とが反応してなる架橋構造とが複合化して、より強固な架橋構造を有するものとなる。よって、本熱硬化性樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)を高めることができ、耐熱性を優れたものとすることができ、例えば硬化物の高温での弾性率変化を抑制することができる。
本発明で用いるポリアリレート化合物は、下記一般式(A)で表される化合物であるのが好ましい。
Figure 2023147228000005
一般式(A)中、Xはそれぞれ独立に、水素原子基、脂肪族基または芳香族基であればよい。具体的には、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、アリール基などを挙げることができる。
Yはそれぞれ独立に、単結合、-CR-、O、COまたはSであればよい。なお、前記R、Rは各々独立に、水素原子、メチル基、もしくはエチル基を示すか、又は、RとRとが結合して形成されるシクロヘキシリデン基を示す。例えば炭素原子数1~12の直鎖状、分岐状、または環状のアルキレン基などを挙げることができる。
Zはそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基またはアルコキシ基であればよい。
nは繰り返し数であり、1以上の整数であればよく、例えば1~100の整数であるのが好ましく、中でも1以上或いは90以下、その中でも2以上或いは80以下の整数であるのがさらに好ましい。
前記ポリアリレート化合物の分子量は、耐熱性向上の観点から、500以上であるのが好ましく、中でも700以上、その中でも1000以上であるのがさらに好ましい。他方、樹脂流動性の観点から、10000以下であるのが好ましく、中でも8000以下、その中でも5000以下であるのがさらに好ましい。
前記ポリアリレート化合物のガラス転移温度は、高温での寸法安定性の観点から、80℃以上であるのが好ましく、中でも100℃以上、その中でも120℃以上であるのがさらに好ましい。他方、靭性向上の観点から、300℃以下であるのが好ましく、中でも270℃以下、その中でも250℃以下であるのがさらに好ましい。
前記ポリアリレート化合物の官能基当量(ヒドロキシ基及びエステル基の量)は、吸湿性低下の観点から、100g/eq以上であるのが好ましく、中でも120g/eq以上、その中でも140g/eq以上であるのがさらに好ましい。他方、耐熱性向上の観点から、1000g/eq以下であるのが好ましく、中でも800g/eq以下、その中でも600g/eq以下であるのがさらに好ましい。
本熱硬化性樹脂組成物中に含有される前記ポリアリレート化合物の官能基量は、接着性の観点から、前記熱硬化性樹脂中のエポキシ基量の50%以下であるのが好ましく、中でも45%以下、その中でも40%以下であるのがさらに好ましい。他方、シェルフライフおよび耐熱性向上の観点から、前記熱硬化性樹脂中のエポキシ基量の5%以上であるのが好ましく、中でも7%以上、その中でも10%以上であるのがさらに好ましい。
ここで、前記ポリアリレート化合物の官能基とは、ポリアリレート化合物の主鎖骨格中のエステル基及び末端のヒドロキシ基を意味する。
また、前記熱硬化性樹脂中のエポキシ基量とは、エポキシ化合物及びエポキシポリマーを含む熱硬化性樹脂成分中のエポキシ基量を意味する。
本熱硬化性樹脂組成物におけるポリアリレート化合物の含有量は、耐熱性向上の観点から、熱硬化性樹脂の含有量100質量部に対して3質量部以上であるのが好ましく、中でも5質量部以上、その中でも8質量部以上であるのがさらに好ましい。他方、接着性の観点から、熱硬化性樹脂の含有量100質量部に対して60質量部以下であるのが好ましく、中でも55質量部以下、その中でも45質量部以下であるのがさらに好ましい。
<無機フィラー>
本熱硬化性樹脂組成物に含まれる無機フィラーは、熱伝導率が2.0W/m・K以上であるものが好ましく、特に3.0W/m・K以上、特に5.0W/m・K以上、特に10.0W/m・K以上であるものがさらに好ましい。
無機フィラーとしては、炭素のみからなる電気絶縁性であるフィラー、金属炭化物又は半金属炭化物、金属酸化物又は半金属酸化物、及び金属窒化物又は半金属窒化物等からなるフィラーを挙げることができる。
前記炭素のみからなり電気絶縁性であるフィラーとしては、例えばダイヤモンド(熱伝導率:約2000W/m・K)等を挙げることができる。
前記金属炭化物又は半金属炭化物としては、例えば炭化ケイ素(熱伝導率:約60~270W/m・K)、炭化チタン(熱伝導率:約21W/m・K)、炭化タングステン(熱伝導率:約120W/m・K)等を挙げることができる。
前記金属酸化物又は半金属酸化物の例としては、酸化マグネシウム(熱伝導率:約40W/m・K)、酸化アルミニウム(熱伝導率:約20~35W/m・K)、酸化亜鉛(熱伝導率:約54W/m・K)、酸化イットリウム(熱伝導率:約27W/m・K)、酸化ジルコニウム(熱伝導率:約3W/m・K)、酸化イッテルビウム(熱伝導率:約38.5W/m・K)、酸化ベリリウム(熱伝導率:約250W/m・K)、「サイアロン」(ケイ素、アルミニウム、酸素、窒素からなるセラミックス、熱伝導率:約21W/m・K)等を挙げることができる。
前記金属窒化物又は半金属窒化物の例としては、窒化ホウ素(六方晶窒化ホウ素(h-BN)の板状粒子の面方向の熱伝導率:約200~500W/m・K)、窒化アルミニウム(熱伝導率:約160~285W/m・K)、窒化ケイ素(熱伝導率:約30~80W/m・K)等を挙げることができる。
これらの無機フィラーは、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
電気絶縁性の観点から、無機フィラーの20℃における体積抵抗率は1013Ω・cm以上であるのが好ましく、特に1014Ω・cm以上であるのがより好ましい。
中でも、本熱伝導性樹脂シートの電気絶縁性を十分なものとし易い点から、金属酸化物、半金属酸化物、金属窒化物又は半金属窒化物が好ましい。このような無機フィラーとして、具体的には、酸化アルミニウム(Al、体積抵抗率:>1014Ω・cm)、窒化アルミニウム(AlN、体積抵抗率:>1014Ω・cm)、窒化ホウ素(BN、体積抵抗率:>1014Ω・cm)、窒化ケイ素(Si、体積抵抗率:>1014Ω・cm)、シリカ(SiO、体積抵抗率:>1014Ω・cm)などを挙げることができる。
中でも、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素が好ましく、本熱伝導性樹脂シートに高い絶縁性を付与できる点から、とりわけ酸化アルミニウム、窒化ホウ素が好ましい。
無機フィラーの形状は、不定形粒子状、球状、ウィスカー状、繊維状、板状、又はそれらの凝集体、混合体であってもよい。
中でも、本発明の無機フィラーの形状は球状であることが好ましい。
なお、本発明において「球状」とは、通常アスペクト比(長径と短径の比)が1以上2以下、好ましくは1以上1.75以下、より好ましくは1以上1.5以下、さらに好ましくは1以上1.4以下であることをいう。
当該アスペクト比は、本熱硬化性樹脂組成物或いは本熱伝導性樹脂シートの断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した画像から10個以上の粒子を任意に選択し、それぞれの長径と短径の比を求めて平均値を算出することにより求めることができる。
[凝集窒化ホウ素粒子]
本熱硬化性樹脂組成物に含まれる無機フィラーは、加熱成型時の吸湿の問題が少なく、毒性も低い点、熱伝導率を効率的に高めることができる点、及び、本熱伝導性樹脂シートに高い絶縁性を付与できる点から、窒化ホウ素の一次粒子が凝集してなる「凝集窒化ホウ素粒子」を含有することが好ましい。
本熱硬化性樹脂組成物が無機フィラーとして、凝集窒化ホウ素粒子を含むことにより、本熱硬化性樹脂組成物の硬化物の熱伝導性及び放熱性を高めることができる。また、本熱硬化性樹脂組成物は、エポキシポリマーを含んでいるため、凝集窒化ホウ素粒子の含有割合を高めたとしても、良好なハンドリング性(脆さ)を維持することができる。
なお、凝集窒化ホウ素粒子と、他の無機フィラーを併用してもよい。比較的廉価で、かつ熱伝導率が比較的高い点から、窒化ホウ素と併用する無機フィラーとしては、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、炭化タングステン、炭化ケイ素、窒化アルミニウム等の中から適宜選択することが好ましい。
中でも、高い熱伝導性の観点から、無機フィラーの50質量%以上を凝集窒化ホウ素粒子が占めるのが好ましく、中でも60質量%以上、その中でも65質量%以上(100質量%を含む)を凝集窒化ホウ素粒子が占めるのが好ましい。
凝集窒化ホウ素粒子の形状は、球状であることが好ましい。
凝集窒化ホウ素粒子の凝集構造は、熱伝導率を向上させる観点から、カードハウス構造であるのが好ましい。
なお、凝集窒化ホウ素粒子の凝集構造は、走査型電子顕微鏡(SEM)により確認することができる。
カードハウス構造とは、板状粒子が配向せず複雑に積層されたものであり、「セラミックス・43・No.2」(2008年、日本セラミックス協会発行)に記載されている。より具体的には、凝集粒子を形成する一次粒子の平面部と、該凝集粒子内に存在する他の一次粒子の端面部が接触している構造をいう。カードハウス構造の模式図を図1に示す。
該カードハウス構造の凝集粒子は、その構造上破壊強度が非常に高く、本熱伝導性樹脂シートのシート成形時に行われる成形工程でも圧壊しない。そのため、通常本熱伝導性樹脂シートの面方向に配向してしまう一次粒子を、ランダムな方向に存在させることができる。したがって、カードハウス構造の凝集粒子を用いると、本熱伝導性樹脂シートの厚み方向に一次粒子のab面が配向する割合をより高めることができるので、該シートの厚み方向に効果的に熱伝導を行うことができ、厚み方向の熱伝導率を一層高めることができる。
なお、カードハウス構造を有する凝集窒化ホウ素粒子は、例えば国際公開第2015/119198号に記載される方法で製造することができる。
カードハウス構造を有する凝集窒化ホウ素粒子を用いる場合、当該粒子は表面処理剤により表面処理が施されていてもよい。
当該表面処理剤としては、例えば、シランカップリング処理などの公知の表面処理剤を用いることができる。一般的に、無機フィラーと熱硬化性樹脂との間には直接的な親和性や密着性は認められない場合が多く、これは無機フィラーとしてカードハウス構造を有する凝集窒化ホウ素粒子を用いた場合も同様である。無機フィラーとマトリクス樹脂との界面の密着性を化学的処理により高めることで、界面での熱伝導性減衰をより低減できると考えられる。
無機フィラーとして、凝集窒化ホウ素粒子を用いることで、一次粒子をそのまま用いた無機フィラーに比べて、粒径を大きくすることができる。
無機フィラーの粒径を大きくすることによって、熱伝導率の低い熱硬化性樹脂を介した無機フィラー間の伝熱経路を少なくでき、従って、厚み方向の伝熱経路中での熱抵抗増大を低減できる。
上記の観点から、凝集窒化ホウ素粒子の最大粒子径の下限は、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは20μm以上であり、さらに好ましくは25μm以上である。一方、前記最大粒子径の上限は、好ましくは300μm以下であり、より好ましくは250μm以下であり、さらに好ましくは150μm以下である。
また、凝集窒化ホウ素粒子の平均粒子径は、特に限定されない。中でも、10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、特に25μm以上がさらに好ましい。また、150μm以下が好ましい。凝集窒化ホウ素粒子の平均粒子径が10μm以上であることで、樹脂組成物及び樹脂組成物を用いた硬化物内において相対的に粒子数が少なくなるため、粒子間界面が少なくなることにより熱抵抗が小さくなり、熱伝導率を高めることができる。また、前記平均粒子径が上記上限値以下であることで、樹脂組成物を用いた硬化物の表面平滑性が得られる傾向にある。
凝集窒化ホウ素粒子の平均粒子径又は最大粒子径が上記上限以下であることにより、マトリクス樹脂中に凝集窒化ホウ素粒子を含有させた場合に、表面荒れなどのない良質な膜を形成できる。平均粒子径又は最大粒子径が上記下限以上であることにより、マトリクス樹脂と凝集窒化ホウ素粒子の界面が減少する結果、熱抵抗が小さくなり、高熱伝導化を達成できるとともに、パワー半導体デバイスに求められる無機フィラーとしての十分な熱伝導性向上効果を得ることができる。
なお、凝集窒化ホウ素粒子の最大粒子径及び平均粒子径は、例えば以下の方法で測定することができる。
凝集窒化ホウ素粒子を溶剤に分散させた試料、具体的には、分散安定剤を含有する純水媒体中に凝集窒化ホウ素粒子を分散させた試料に対して、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置にて粒度分布を測定し、得られた粒度分布から凝集窒化ホウ素粒子の最大粒子径Dmax及び平均粒子径D50として求めることができる。
ここで、Dmax及びD50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布における最大粒子径及び累積体積50%粒子径である。
また、モフォロギG3(マルバーン社製)等の乾式の粒度分布測定装置で最大粒子径及び平均粒子径を求めることもできる。
なお、本熱硬化性樹脂組成物が硬化物になっている場合、焼成により樹脂成分を全て除いて無機フィラーを分離して上記のようにして最大粒子径及び平均粒子径を測定することができる。
(破壊強度)
凝集窒化ホウ素粒子の破壊強度は、20MPa以下であるのが好ましく、中でも15MPa以下、その中でも12MPa以下であるのがさらに好ましい。
凝集窒化ホウ素粒子の破壊強度が20MPa以下であることにより、凝集窒化ホウ素粒子同士が接触している部分は変形し、面接触することができる。そのため、凝集窒化ホウ素粒子内部の高い熱伝導率を維持しながら、凝集窒化ホウ素粒子界面及び後述する金属基板と放熱シートとの界面の接触熱抵抗を下げ、全体の熱伝導率が向上することができる。
但し、凝集窒化ホウ素粒子の破壊強度が小さすぎると、成形体を作製する際の圧力で粒子が破壊されやすくなり、熱伝導性が向上しない傾向があるため、凝集窒化ホウ素粒子の破壊強度は、2.5MPa以上であるのが好ましく、中でも3.0MPa以上、その中でも3.5MPa以上、その中でも4.0MPa以上であるのがさらに好ましい。
なお、破壊強度は、粒子1粒をJIS R 1639-5に従って圧縮試験し、下記式により算出できる。通常、粒子は5点以上測定し、その平均値を採用する。
式:Cs=2.48P/πd2
Cs:破壊強度(MPa)
P:破壊試験力(N)
d:粒子径(mm)
(弾性率)
凝集窒化ホウ素粒子の弾性率は48MPa以上であるのが好ましく、中でも50MPa以上、その中でも55MPa以上であるのがさらに好ましい。
凝集窒化ホウ素粒子の弾性率が上記範囲であれば、凝集窒化ホウ素粒子がプレス圧力の方向に弾性変形し、凝集構造が崩れてしまうことを防ぐことができる。一方、弾性率の上限値は特に限定するものではない。但し、十分な変形が得られやすい点から、凝集窒化ホウ素粒子の弾性率は2000MPa以下が好ましく、より好ましくは1500MPa以下であり、更に好ましくは1000MPa以下である。
凝集窒化ホウ素粒子の弾性率は、破壊強度の測定に用いた装置を用いて、破壊が起きた時点の試験力とその時点の圧縮変位から下記の式より算出することができる。
E=3×(1-ν)×P/4×(d/2)1/2×Y3/2
(「E」は弾性率(MPa)であり、「ν」はポアソン比であり、「P」は破壊試験力(N)であり、「d」は粒子径(mm)であり、「Y」は圧縮変位(mm)である。なお、ポアソン比は一定(0.13)と仮定することができる。)
(無機フィラーの含有量)
前記無機フィラーの含有量は、絶縁性と熱伝導性を高める観点から、本熱硬化性樹脂組成物の全固形分100質量%に対し、50質量%以上であるのが好ましく、中でも60質量%以上、その中でも65質量%以上であるのがさらに好ましい。他方、良好なハンドリング性(脆さ)を維持する観点から、95質量%以下であるのが好ましく、中でも90質量%以下、その中でも85質量%以下であるのがさらに好ましい。
前記凝集窒化ホウ素粒子の含有量は、絶縁性と熱伝導性を高める観点から、本熱硬化性樹脂組成物の全固形分100質量%に対し、50質量%以上であるのが好ましく、中でも60質量%以上、その中でも65質量%以上であるのがさらに好ましい。他方、良好なハンドリング性(脆さ)を維持する観点から、95質量%以下であるのが好ましく、中でも90質量%以下、その中でも85質量%以下であるのがさらに好ましい。
<分子量10,000以上のポリマー>
本熱硬化性樹脂組成物は、前記エポキシポリマーと共に、質量平均分子量10,000以上のポリマーを含有してもよい。
本熱硬化性樹脂組成物が当該ポリマーを含有することにより、凝集窒化ホウ素粒子の含有割合を高めたとしても、ハンドリング性(脆さ)を高めることができる。
前記ポリマーとしては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂等のいずれであってもよい。
当該熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン又はポリエーテルケトン等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。また、上記熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂として、熱可塑性ポリイミド、熱硬化性ポリイミド、ベンゾオキサジン、ポリベンゾオキサゾールとベンゾオキサジンとの反応物などのスーパーエンプラと呼ばれている耐熱性樹脂群等を使用することもできる。また、スチレン、アルキルスチレンなどのスチレン系重合体、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどの(メタ)アクリル系重合体、スチレン-メタクリル酸グリシジルなどのスチレン系-(メタ)アクリル系共重合体、ポリビニルブチラール、ポリビニルベンザール、ポリビニルアセタールなどのポリビニルアルコール誘導体、ノルボルネン化合物を含有するノルボルネン系ポリマー、フェノキシ樹脂等も使用することができる。中でも、耐熱性と熱硬化性樹脂との相溶性の点で、フェノキシ樹脂が好適である。
上記熱可塑性樹脂及び上記熱硬化性樹脂はそれぞれ、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のうちのいずれか一方が用いられてもよく、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とが併用されてもよい。
<硬化剤>
本熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、硬化剤を含有することができる。但し、前記ポリアリレート化合物が硬化剤の役割を果たすが、本熱硬化性樹脂組成物においては、前記ポリアリレート化合物以外の硬化剤を含有してもよい。
硬化剤としては、例えば、フェノール樹脂、窒素原子を含有する複素環構造を有する化合物(以下、「窒素含有複素環化合物」と称す場合がある。)、芳香族骨格もしくは脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物などを挙げることができる。硬化剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの好ましい硬化剤の使用により、耐熱性、耐湿性および電気物性のバランスに優れた樹脂硬化物を得ることができる。
前記フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック、o-クレゾールノボラック、p-クレゾールノボラック、t-ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール、ポリパラビニルフェノール、ビスフェノールA型ノボラック、キシリレン変性ノボラック、デカリン変性ノボラック、ポリ(ジ-o-ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ-m-ヒドロキシフェニル)メタン、又はポリ(ジ-p-ヒドロキシフェニル)メタン等を挙げることができる。中でも、熱硬化性樹脂組成物の柔軟性および難燃性をより一層の向上、樹脂硬化物の力学物性および耐熱性向上のためには剛直な主鎖骨格を持つノボラック型フェノール樹脂やトリアジン骨格を有するフェノール樹脂が好ましい。また、未硬化の熱硬化性樹脂組成物の柔軟性および樹脂硬化物の靭性向上のためにはアリル基を有するフェノール樹脂が好ましい。
前記窒素含有複素環化合物の有する複素環構造としては、例えば、イミダゾール、トリアジン、トリアゾール、ピリミジン、ピラジン、ピリジン、アゾールから誘導される構造などを挙げることができる。熱硬化性樹脂組成物の絶縁性、金属との密着性の向上の観点から、イミダゾール系化合物やトリアジン系化合物が好ましい。
好ましいイミダゾール系化合物、トリアジン系化合物としては、例えば2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-ビニル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ビニル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物等を挙げることができる。
これらの中でも、樹脂相溶性が高く、かつ反応活性化温度が高いことで、硬化速度や硬化後の物性を容易に調整することができ、これにより、本熱硬化性樹脂組成物の保存安定性向上や加熱成形後の接着強度の更なる向上を実現できることから、特にイミダゾールから誘導される構造を有するもの、トリアジンから誘導される構造を有するものが好ましく、とりわけトリアジンから誘導される構造を有するものが好ましい。窒素含有複素環化合物の有する複素環構造としては、1,3,5-トリアジンから誘導される構造が特に好ましい。また、これらの例示された構造部分を複数有するものであっても構わない。
なお、窒素含有複素環化合物には、構造によっては後述する硬化触媒が含まれる場合があり、従って、本熱硬化性樹脂組成物は硬化触媒として窒素含有複素環化合物を含むことができる。
窒素含有複素環化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、1分子中に複数の復素環構造を同時に有していても構わない。
前記窒素含有複素環化合物の分子量は1,000以下であることが好ましく、500以下であることがより好ましい。
前記芳香族骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物は、特に限定されない。
前記脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物は、多脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物もしくは該酸無水物の変性物、又はテルペン系化合物と無水マレイン酸との付加反応により得られる脂環式骨格を有する酸無水物、該酸無水物の水添加物又は該酸無水物の変性物であることが好ましい。
硬化剤は、本熱硬化性樹脂組成物から無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分100質量%に対し、0~70質量%、特に0~55質量%含まれることが好ましい。硬化剤の含有量が上記下限以上であると、十分な硬化性能を得ることができ、上記上限以下であれば反応が効果的に進行し、架橋密度を向上させ、強度を増すことができ、さらに良好なハンドリング性(脆さ)が向上する。
<硬化促進剤>
本熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、硬化速度や硬化物の物性などを調整するために、硬化促進剤として硬化触媒を含有することができる。
硬化触媒は、熱硬化性樹脂成分や硬化剤の種類に応じて適宜に選択するのが好ましい。
硬化触媒の具体例としては、鎖状または環状の3級アミン、有機リン系化合物、4級ホスホニウム塩類又は有機酸塩等のジアザビシクロアルケン類等、イミダゾール類を挙げることができる。また、有機金属化合物類、4級アンモニウム塩類又は金属ハロゲン化物等を用いることもできる。上記有機金属化合物類としては、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫又はアルミニウムアセチルアセトン錯体等を挙げることができる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
中でも、特に保存安定性、耐熱性、硬化速度の観点から、イミダゾール類が好ましい。
好ましいイミダゾール系化合物としては、例えば2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等を挙げることができる。
特に融点が100℃以上、さらに好ましくは200℃以上のイミダゾール化合物を用いることで、保存安定性、密着性に優れた硬化物が得られる。さらに前述のイミダゾール環以外の窒素含有複素環化合物を含むものが接着性の観点からより好ましい。
硬化触媒は、本熱硬化性樹脂組成物から無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分100質量%に対し、0.1~10質量%、特に0.1~5質量%含まれることが好ましい。硬化触媒の含有量が前記下限以上であると、硬化反応の進行を十分に促進して良好に硬化させることができ、前記上限以下であると、硬化速度が速すぎることがなく、従って、本熱硬化性樹脂組成物の保存安定性を良好なものとすることができる。
<有機溶剤>
本熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、例えば、塗布工程を経てシート状硬化物を成形する際の塗布性の向上のために、有機溶剤を含有していてもよい。
本熱硬化性樹脂組成物が含有し得る有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどを挙げることができる。これらの有機溶剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本熱硬化性樹脂組成物が有機溶剤を含有する場合、その含有量は、例えば本熱伝導性樹脂シート作製時の取り扱い性等に応じて適宜決定される。通常、有機溶剤は、本熱硬化性樹脂組成物中の固形分(溶剤以外の成分の合計)濃度が10~90質量%、特に40質量%以上或いは80質量%以下となるように用いることが好ましい。
また、本熱硬化性樹脂組成物をシート状に形成した場合には、有機溶剤は、シート状になった本熱硬化性樹脂組成物中の固形分(溶剤以外の成分の合計)濃度が95質量%以上、より好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上となるように用いることが好ましい。
<その他の成分>
本熱硬化性樹脂組成物は、上記成分以外に、他の成分を含有してもよい。
当該他の成分としては、例えば、分散剤、有機フィラー、無機フィラー、無機フィラーと樹脂成分との界面接着強度を改善するシランカップリング剤などの添加剤、樹脂シートと金属板状材との密着強度を高める効果を期待できる添加剤、還元剤等の絶縁性炭素成分、粘度調整剤、チキソ性付与剤、難燃剤、着色剤、リン系、フェノール系他の各種酸化防止剤、フェノールアクリレート系他のプロセス安定剤、熱安定剤、ヒンダードアミン系ラジカル補足剤(HAAS)、衝撃改良剤、加工助剤、金属不活化剤、銅害防止剤、帯電防止剤、増量剤等を挙げることができる。これらの添加剤を使用する場合の添加量は、通常、これらの目的に使用される量の範囲であればよい。
<本熱硬化性樹脂組成物の物性・特性>
本熱硬化性樹脂組成物は次のような物性及び特性を得ることができる。
(ガラス転移温度)
本熱硬化性樹脂組成物は、前記無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分を、120℃で30分間加熱した後、175℃で30分間加熱し、200℃で10分間加熱して測定されるガラス転移温度(Tg)を150℃以上とすることができる。
すなわち、本熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性化合物、エポキシポリマーおよびポリアリレート化合物を含むことで、その硬化物は、上述のように、より強固な架橋構造を有するものとなり、ガラス転移温度(Tg)を高めることができる。
かかる観点から、本熱硬化性樹脂組成物の前記ガラス転移温度(Tg)は150℃以上であるのが好ましく、中でも152℃以上、その中でも155℃以上とすることができる。
他方、硬化物の靭性の観点からは、300℃以下であるのが好ましく、中でも280℃以下、その中でも250℃以下であるのがさらに好ましい。
(シェルフライフ性)
本熱硬化性樹脂組成物から前記無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分は、120℃を保持した際の複素粘度の最下点ηbを100Pa・s以下とすることができ、前記樹脂成分を、昇温速度14℃/分で室温から120℃まで加熱した後、120℃を保持する温度プロファイルにて複素粘度を測定した際、複素粘度が最下点ηbから10000Pa・sとなるまでの時間Tsを500秒以上とすることができる。
本熱硬化性樹脂組成物は、硬化を促進するポリアリレート化合物を含む一方、エポキシポリマーを含んでいるため、前記のように強固な架橋構造を有しつつも、硬化反応速度を遅くすることができるため、上記の時間Tsを500秒以上とすることができる。これは、シェルフライフ性に優れていることを示すものである。
本熱硬化性樹脂組成物から前記無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分に関して、120℃を保持した際の複素粘度の最下点ηbは、加熱成形時の樹脂流動性の観点から、100Pa・s以下であるのが好ましく、中でも80Pa・s以下、その中でも60Pa・s以下であるのがさらに好ましい。他方、成形時の寸法安定性の観点から、0.01Pa・s以上であるのが好ましく、中でも0.1Pa・s以上、その中でも1Pa・s以上であるのがさらに好ましい。
また、本熱硬化性樹脂組成物から前記無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分に関して、上記時間Tsは、シェルフライフ性を高まる観点から、500秒以上であるのが好ましく、中でも530秒以上、その中でも550秒以上であるのがさらに好ましい。他方、硬化反応における密な架橋構造形成の観点からは、2000秒以下であるのが好ましく、中でも1800秒以下、その中でも1500秒以下であるのがさらに好ましい。
<<本熱硬化性樹脂組成物の硬化物>>
本熱硬化性樹脂組成物が硬化してなる硬化物は、熱伝導性が要求される各種用途に利用することができる。
<硬化物>
本熱硬化性樹脂組成物が硬化してなる硬化物は、下記一般式(B)で表される構造を含有するものとなる。
Figure 2023147228000006
一般式(B)中、Ra、Rb及びRcはそれぞれ独立して芳香族基又は脂肪族基である。
本熱硬化性樹脂組成物が硬化してなる硬化物は、TG-DTAによる熱分解測定において、300℃時点での無機フィラー以外の樹脂成分の質量減少率を1.5%以下とすることができる。
すなわち、本熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性化合物、エポキシポリマーおよびポリアリレート化合物を含むことで、その硬化物は、上述のように、より強固な架橋構造を有するものとなり、ガラス転移温度(Tg)が高まり、優れた耐熱性を得ることができる。よって、例えば硬化物の加熱時質量減少を抑制することができる。
かかる観点から、本熱硬化性樹脂組成物を硬化させた硬化物は、前記300℃時点での無機フィラー以外の樹脂成分の質量減少率が1.5%以下であるのが好ましく、中でも1.4%以下、その中でも1.2%以下であるのがさらに好ましい。
<シート状硬化物/熱伝導性樹脂シート>
本発明の実施形態の一例に係る熱伝導性樹脂シート(「本熱伝導性樹脂シート」と称する)は、本熱硬化性樹脂組成物をシート状に成形し硬化して得られるシート状硬化物である。
本熱伝導性樹脂シートの25℃における厚み方向の熱伝導率は、10W/m・K以上であることが好ましく、特に13W/m・K以上であることがより好ましい。厚み方向の熱伝導率が上記下限値以上であることにより、高温で作動させるパワー半導体デバイス等にも好適に用いることができる。
当該熱伝導率は、熱硬化性樹脂の種類及び溶融粘度等の物性値、凝集窒化ホウ素粒子の構造、吸油量及び含有量、熱硬化性樹脂と凝集窒化ホウ素粒子との混合方法、後述する加熱混練工程における条件等によって調整することができる。
なお、本熱伝導性樹脂シートの厚み方向の熱伝導率は、次の方法により測定できる。
例えば、熱抵抗測定装置(株式会社メンターグラフィックス製、製品名「T3ster」)を用いて、熱抵抗値を厚さに対してプロットしたグラフの傾きから、熱伝導率を求めることができる。
本熱伝導性樹脂シートの厚みの下限値は、50μm以上が好ましく、60μm以上がより好ましく、70μm以上がさらに好ましい。他方、厚みの上限値は、500μm以下が好ましく、450μm以下がより好ましく、400μm以下がさらに好ましい。
本熱伝導性樹脂シートの厚みを50μm以上とすることで、十分な耐電圧特性を確保できる。一方、500μm以下とすることで、特に熱伝導性樹脂シートをパワー半導体デバイス等に用いる場合、小型化や薄型化が達成可能であり、また、セラミックス材料による絶縁性熱伝導性層に比較して、薄膜化による厚み方向の熱抵抗低減の効果を得ることができる。
<熱伝導性樹脂シートの製造方法>
以下、本熱伝導性樹脂シート、すなわちシート状硬化物の製造方法の一例について説明する。
本熱伝導性樹脂シートは、本熱硬化性樹脂組成物をシート状に製膜し(この工程を「製膜工程」と称する)、必要に応じて乾燥し(この工程を「乾燥工程」と称する)、さらに必要に応じて加圧して、シート状に成形する(この工程を「成形工程」と称する)。そして、こうして得たシート状成形体を硬化させてシート状硬化物としての本熱伝導性樹脂シートを作製することができる(「この工程を「硬化工程」と称する)。
(製膜工程)
例えばスラリー状の本熱硬化性樹脂組成物をブレード法などの塗布法、溶剤キャスト法又は押し出し成膜法等の方法でシート状に成形することができる。
上記塗布法によりシート状に製膜する場合は、先ず基材の表面に、スラリー状の本熱硬化性樹脂組成物を塗布して塗膜を形成する。即ち、スラリー状の本熱硬化性樹脂組成物を用いて、ディップ法、スピンコート法、スプレーコート法、ブレード法、その他の任意の方法で基材上に塗膜を形成する。
スラリー状の本熱硬化性樹脂組成物の塗布には、スピンコーター、スリットコーター、ダイコーター、ブレードコーターなどの塗布装置を用いることができる。このような塗布装置により、基材上に所定の膜厚の塗膜を均一に形成することが可能である。
なお、基材としては、後述の銅板ないし銅箔やPETフィルムが一般的に用いられるが、何ら限定されるものではない。
(乾燥工程)
上記のようにシート状に製膜した本熱硬化性樹脂組成物は、溶剤や低分子成分の除去のために、通常10~150℃、好ましくは25~120℃、より好ましくは30~110℃の温度で乾燥する。
乾燥温度が上記上限値以下であることで、本熱硬化性樹脂組成物中の樹脂の硬化が抑制され、その後の成形工程でシート状の樹脂組成物中の樹脂が流動してボイドを除去しやすくなる傾向がある。乾燥温度が上記下限値以上であることで、効果的に溶剤を取り除くことができ生産性が向上する傾向にある。
乾燥時間は、特に限定されず、本熱硬化性樹脂組成物の状態、乾燥環境等によって適宜調整することができる。乾燥時間は、好ましくは1分以上であり、より好ましくは2分以上、さらに好ましくは5分以上である。乾燥時間は、好ましくは24時間以下であり、より好ましくは10時間以下であり、さらに好ましくは4時間以下である。
乾燥時間が上記下限値以上であることで、十分に溶剤が除去でき、残留溶剤が樹脂硬化物内のボイドとなることを抑制できる傾向にある。乾燥時間が上記上限値以下であることで、生産性が向上し、製造コストを抑制できる傾向にある。
(成形工程)
乾燥工程の後には、シート内のボイドや空隙をなくす目的、基材との密着性を向上させる目的、シートハンドリング性を向上させる目的等から、得られたシート状の本熱硬化性樹脂組成物に加圧を行うことが望ましい。但し、目的によっては、加圧しなくてもよい。
成形工程では、基材上のシート状の本熱硬化性樹脂組成物に2MPa以上の加重をかけて実施することが望ましい。
この際の加重は、好ましくは5MPa以上であり、より好ましくは7MPa以上であり、さらに好ましくは9MPa以上である。また、加重は、好ましくは1500MPa以下であり、より好ましくは1000MPa以下であり、さらに好ましくは800MPa以下である。
成形時の加重を上記上限値以下とすることにより、凝集無機フィラーの二次粒子が破壊することなく、シート状の本熱硬化性樹脂組成物中に空隙などがないシートを得ることができる。加重を上記下限値以上とすることにより、凝集無機フィラー間の接触が良好となり、ハンドリング性の良いシートを得ることができる。
成形工程における基板上のシート状の本熱硬化性樹脂組成物の加熱温度は特に限定されない。加熱温度は、好ましくは10℃以上であり、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上である。加熱温度は、好ましくは300℃以下であり、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは200℃以下、よりさらに好ましくは100℃以下、特に好ましくは90℃以下である。
この温度範囲で成形工程を行うことにより、シート状の本熱硬化性樹脂組成物中の樹脂の溶融粘度を低下させることができ、樹脂硬化物内のボイドや空隙をより低減することができる。また、上記上限値以下で加熱することで、シート状の樹脂組成物及び樹脂硬化物中の有機成分の分解、残留溶剤により発生するボイドを抑制できる傾向にある。
成形工程の時間は、特に限定されない。成形工程の時間は、好ましくは30秒以上であり、より好ましくは1分以上、さらに好ましくは3分以上、特に好ましくは5分以上である。成形工程の時間は、好ましくは8時間以下であり、より好ましくは4時間以下、さらに好ましくは1時間以下である。
成形時間が上記上限値以下であることで、樹脂硬化物の製造時間が抑制でき、生産コストを短縮できる傾向にある。加圧時間が上記下限値以上であることで、樹脂硬化物内の空隙やボイドを十分に取り除くことができ、熱伝達性能や耐電圧特性を向上できる傾向にある。
(硬化工程)
本熱硬化性樹脂組成物は加熱することで硬化させることができる。
この際、加熱温度は30~400℃であるのが好ましく、中でも50℃以上であるのが好ましく、その中でも90℃以上であるのがさらに好ましい。他方、中でも300℃以下であるのが好ましく、その中でも250℃以下であるのがさらに好ましい。
本熱硬化性樹脂組成物を完全に硬化反応を行わせる硬化工程は、加圧下で行ってもよく、無加圧で行ってもよい。加圧する場合は、上記と同様の理由から、上記の成形工程と同様の条件で行うことが望ましい。なお、成形工程と硬化工程を同時に行っても構わない。
特に成形工程と硬化工程を経るシート化工程においては、上記の範囲の加重をかけて、加圧、硬化を行うことが好ましい。
成形工程と硬化工程を同時に行う場合の加重は特に限定されない。この場合、基材上のシート状の本熱硬化性樹脂組成物に3MPa以上の加重をかけて実施することが好ましく、加重はより好ましくは5Pa以上であり、さらに好ましくは7MPa以上である。また、加重は好ましくは2000MPa以下であり、より好ましくは1500MPa以下である。
成形工程と硬化工程を同時に行う場合の加重を上記上限値以下とすることにより、凝集無機フィラーの二次粒子が破壊することなく、シート状の本熱硬化性樹脂組成物中に空隙などがない高い熱伝導性を有するシート状硬化物を得ることができる。また、加重を上記下限値以上とすることにより、凝集無機フィラー間の接触が良好となり、熱伝導パスを形成しやすくなるため、高い熱伝導性を有する樹脂硬化物を得ることができる。
成形工程と硬化工程を同時に行う場合の加圧時間は特に限定されない。加圧時間は好ましくは30秒以上であり、より好ましくは1分以上、さらに好ましくは3分以上、特に好ましくは5分以上である。また、加圧時間は好ましくは8時間以下であり、より好ましくは6時間以下、さらに好ましくは4時間以下である。
加圧時間が上記上限値以下であることで、シート状の樹脂硬化物の製造時間が抑制でき、生産コストを短縮できる傾向にある。加圧時間が上記下限値以上であることで、シート状の樹脂硬化物内の空隙やボイドを十分に取り除くことができ、熱伝達性能や耐電圧特性を向上できる傾向にある。
<<本熱伝導性樹脂シートの用途>>
本熱伝導性樹脂シート、すなわち、本熱硬化性樹脂組成物をシート状に成形し硬化して得られるシート状硬化物は、熱伝導性が要求される各種用途に利用することができる。
次に、本熱伝導性樹脂シートからなる硬化物部と、金属部とを有する複合成形体として、放熱積層体、放熱性回路基板、半導体デバイスについて説明する。但し、本熱伝導性樹脂シートの用途がこれらに限定されるものではない。
<放熱積層体>
本発明の実施形態の一例に係る放熱積層体(「本放熱積層体」と称する)は、本熱伝導性樹脂シートを備えた積層体であればよい。
本放熱積層体の一例として、本熱伝導性樹脂シートの一方の表面に、放熱性材料を含む放熱用金属層を積層したものを挙げることができる。
当該放熱性材料は、熱伝導性の良好な材質から成るものであれば特段限定されない。中でも、積層構成での熱伝導性を高くするために、放熱用金属材料を用いることが好ましく、中でも平板状の金属材料を用いることがより好ましい。
金属材料の材質は、特に限定されない。中でも、熱伝導性が良く、かつ比較的廉価である点から、銅板、アルミニウム板、アルミニウム合金板等が好ましい。
本熱伝導性樹脂シートと放熱用金属層との積層一体化に関しては、バッチプロセスであるプレス成形を好ましく用いることができる。この場合のプレス設備やプレス条件等は、前述の熱伝導性樹脂シートを得るためのプレス成形条件の範囲と同一である。
<放熱性回路基板>
本発明の実施形態の一例に係る放熱性回路基板(「本放熱性回路基板」と称する)は、本熱伝導性樹脂シートを備えたものであればよい。
本放熱性回路基板の一例として、本熱伝導性樹脂シートの一方の表面に、上記放熱用金属層を積層し、前記熱伝導性樹脂シートの放熱用金属層とは他方の表面に、例えばエッチング処理等により回路基板を形成してなる構成を有するものを挙げることができる。具体的には、「放熱用金属層/熱伝導性樹脂シート/導電回路」で一体化されたものがより好ましい。回路エッチング前の状態としては、例えば「放熱用金属層/熱伝導性樹脂シート/導電回路形成用金属層」の一体化構成で、導電回路形成用金属層が平板状であり、熱伝導性樹脂シートの片面側全表面に形成されたものや、一部面積で形成されたものが挙げられる。
導電回路形成用金属層の材料は、特に限定されない。中でも、一般的には電気伝導性やエッチング性の良さ、コスト面などの観点から、厚み0.05mm以上1.2mm以下の銅の薄板により形成されることが好ましい。
<半導体デバイス>
本発明の実施形態の一例に係る半導体デバイス(「本半導体デバイス」と称する)は、本放熱性回路基板を備えたものであればよい。
本半導体デバイスの一例として、本放熱性回路基板上に、予め個片化された半導体チップが搭載されたシリコンウエハー又は再配線層を形成してなる構成を備えたものを挙げることができる。
<パワーモジュール>
本発明の実施形態の一例に係るパワーモジュール(「本パワーモジュール」と称する)は、本熱伝導性樹脂シートを備えたものであればよい。
本パワーモジュールの一例として、本熱伝導性樹脂シートを放熱性回路基板としてパワー半導体デバイス装置に実装したものを挙げることができる。
このパワー半導体デバイス装置において、熱伝導性樹脂シート又は積層放熱シート以外のアルミ配線、封止材、パッケージ材、ヒートシンク、サーマルペースト、はんだというような部材は従来公知の部材を適宜採用できる。
<<語句の説明>>
本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」あるいは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)あるいは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」あるいは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
本発明において「シート」とは、シート、フィルム、テープを概念的に包含するものである。
以下、実施例により本発明を更に詳説する。但し、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
<使用材料>
実施例及び比較例における使用材料は以下の通りである。
(無機フィラー)
・無機フィラー1:国際公開第2015/119198号に基づいて製造されたカードハウス構造を有する球状の凝集窒化ホウ素粒子(平均粒子径(D50):45μm、最大粒子径(Dmax):90μm)、破壊強度 6MPa,弾性率 65MPa
・無機フィラー2:球状アルミナ粒子、平均粒子径(D50):6.5μm 熱伝導率:20~30W/m・K
(ポリアリレート化合物)
・ポリアリレート化合物1:ユニチカ社製 V-575、前記一般式(A)のZがヒドロキシ基、分子量3500、ガラス転移温度(Tg)158℃、官能基当量(ヒドロキシ基・エステル基)210g/eq
・ポリアリレート化合物2:ユニチカ社製 W-575、前記一般式(A)のZがアルコキシ基、分子量3300、ガラス転移温度(Tg)145℃、官能基当量(ヒドロキシ基・エステル基)220g/eq
(エポキシポリマー)
・エポキシポリマー:特開2020-63438号公報の樹脂成分1として開示される二官能エポキシ樹脂、ポリスチレン換算の質量平均分子量:30,000、ガラス転移温度(Tg)150℃、エポキシ当量:9,000g/当量
(熱硬化性化合物)
・エポキシ化合物1:三菱ケミカル社製のビフェニル型固体エポキシ樹脂、分子量:約400、エポキシ当量:200g/当量
・エポキシ化合物2:ナガセケムテックス社製 一分子当たりグリシジル基を4個以上有する構造を含む多官能エポキシ樹脂、分子量:約400、 エポキシ当量:100g/当量
・エポキシ化合物3:三菱ケミカル社製 1032H60 多官能エポキシ樹脂、エポキシ当量170g/当量
(硬化触媒)
・熱硬化性触媒1:2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン。イミダゾールから誘導される構造トリアジンから誘導される構造の両方を一分子中に有する(四国化成社製「キュアゾール 2E4MZ-A」)
・熱硬化性触媒2:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成社製「キュアゾール 2PHZ-PW」)
(硬化剤)
・硬化剤1:フェノール樹脂 MEH-8000H(明和化成社製)
[平均粒子径(D50)及び最大粒子径(Dmax)]
無機フィラーの粒子の平均粒子径(D50)及び最大粒子径(Dmax)は、分散安定剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを含有する純水媒体中に無機フィラーを分散させ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-300(堀場製作所社製)にて体積基準粒度分布を測定し、得られた粒度分布から求めた最大粒子径Dmax及び累積体積50%粒子径(平均粒子径D50)である。
[凝集無機フィラーの破壊強度及び弾性率の測定]
凝集無機フィラーの破壊強度及び弾性率の測定は、以下の手法により実施した。
凝集無機フィラーの破壊強度は、微小圧縮試験機(株式会社島津製作所製、製品名「MCT-510」)を用いて測定した。
微小圧縮試験機の下部に設置された加圧板の上に試料を極微量散布し、1粒子ずつ圧縮試験を行い、粒子が破壊した時の破壊試験力と粒子の粒子径から下記の式を用いて破壊強度を求めた。5粒子について測定を行い、その平均値を凝集無機フィラーの破壊強度とした。
Cs=2.48P/πd
(「Cs」は破壊強度(MPa)であり、「P」は破壊試験力(N)であり、「d」は粒子径(mm)である。)
通常、破壊強度の算出は、破壊点の試験力を使用して計算するが、破壊点が明確でない(例えば、試料は変形するが急激な破壊を起こさない)場合、参考強度として10%の変形を与えた時の試験力を使用して10%強度として比較に用いることとした。10%強度は下記の式より算出した。
Cx=2.48P/πd
(「Cx」は10%強度(MPa)であり、「P」は粒子径の10%変位時の試験力(N)であり、「d」は粒子径(mm)である。)
凝集無機フィラーの弾性率は、破壊強度の測定に用いた装置を用い、破壊が起きた時点の試験力とその時点の圧縮変位から下記の式より算出した。
E=3×(1-ν)×P/4×(d/2)1/2×Y3/2
(「E」は弾性率(MPa)であり、「ν」はポアソン比であり、「P」は破壊試験力(N)であり、「d」は粒子径(mm)であり、「Y」は圧縮変位(mm)である、なお、ポアソン比は一定(0.13)と仮定した。)
<実施例1、2、比較例1、2、3、4>
表1に示す質量比となるように、無機フィラー1、2,ポリアリレート化合物1、2、エポキシポリマー、エポキシ化合物1、2、3、硬化剤1及び熱硬化性触媒1,2を秤量し、これらをメチルエチルケトンとシクロヘキサノンからなる有機溶剤に加えて、自転公転式撹拌装置を用いて混合して、塗布スラリーとしての熱硬化性樹脂組成物を調製した。この際、固形分濃度が65質量%となるようにメチルエチルケトンとシクロヘキサノンを用いた。
<ハンドリング性の評価>
実施例及び比較例で得た熱硬化性樹脂組成物を、PETフィルム上に膜厚が均一になるようにドクターブレードを用いることでシート状に成形して、厚さ150μmのシート状成形体を形成し、このシート状成形体を鋏でシートをカットした際のカット部分の割れ・クラックの有無を観察し、下記基準にてハンドリング性(脆さ)を評価した。
〇(合 格):目視にて、カット部分に割れ、クラックが見られない
×(不合格):目視にて、カット部分の割れ、クラックが見られる
<シェルフライフ性の評価>
無機フィラーを添加しないこと以外は、各実施例および比較例と同様に熱硬化性樹脂組成物を作製し、加熱乾燥を行った後、アントンパール社製のレオメーター「MCR302」を用いて、未硬化の樹脂組成物を加熱硬化させて、複素粘度の挙動からシェルフライフ性Tsを求めた。
測定には、アルミニウム製のパラレルプレート(治具径10φ)を使用し、測定条件は歪を0.3%、周波数を1Hz、ギャップを0.5mmとした。
加熱硬化時の温度プロファイルは25℃から昇温を開始し、毎分14℃で120℃まで昇温し、120℃に到達後30分間保持し、続けて毎分7℃で175℃まで昇温し、175℃に到達後30分間保持、続いて毎分7℃で200℃まで昇温し、200℃に到達後10分間保持した。
120℃ステップでの複素粘度の最下点ηbの複素粘度(Pa・s)を計測すると共に、複素粘度が該最下点ηbから10000Pa・sとなるまでの時間Tsを計測した。
〇(合 格):Tsが500秒以上
×(不合格):Tsが500秒未満
<ガラス転移温度(Tg)>
無機フィラーを添加しないこと以外は、各実施例および比較例と同様に熱硬化性樹脂組成物を作製し、加熱乾燥を行った後、アントンパール社製のレオメーター「MCR302」を用いて、前記熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化させて、Tanδ(G‘’/G’)のピーク値からガラス転移温度Tgを求めた。
測定にはアルミニウム製のパラレルプレート(治具径10φ)を使用し、測定条件は歪を0.3%、周波数を1Hz、ギャップを0.5mmとした。
加熱硬化時の温度プロファイルは25℃から昇温を開始し、毎分14℃で120℃まで昇温し、120℃に到達後30分間保持、 続けて毎分7℃で175℃まで昇温し、175℃に到達後30分間保持、続いて毎分7℃で200℃まで昇温し、200℃に到達後10分間保持した。さらに、200℃ステップ後に100℃まで毎分10℃、100℃から30℃までは毎分4℃で降温した。
この降温時のTanδ測定データより、各実施例・比較例の熱硬化性樹脂組成物の無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分を硬化させた際のガラス転移温度(Tg)を求めた。表に「樹脂のみTg」として示した。
〇(合 格):Tgが150℃以上
×(不合格):Tgが150℃未満
<シート状硬化物の作製と評価>
上記実施例・比較例で得た熱硬化性樹脂組成物をシート状に成形し、熱硬化させてシート状硬化物を作製し、シート状硬化物の物性・特性を次のように評価した。
(シート状成形体の厚み方向の熱伝導率)
上記実施例・比較例で得た塗布スラリーとしての熱硬化性樹脂組成物を、ドクターブレード法でPETフィルム基材(厚さ50μm)上に塗布し、60℃で熱硬化性樹脂組成物を加熱乾燥した後に、シート状に成形した。次に、成形したシートを上下から10MPaの圧力を掛けつつ120℃に加熱して、PETフィルム基材上に、厚さ150μmのシート状硬化物を作製した。
得られたシート状硬化物について、熱抵抗測定装置(株式会社メンターグラフィックス製、製品名「T3ster」)を用いて、定常法でのシート厚み方向の熱伝導率を25℃で測定した(ASTMD5470準拠)。
(1) 測定面積:Mentor Graphics社製 T3Ster-DynTIMを用いて測定する際の、熱を伝達する部分の面積(cm
(2) 熱伝導率:下記の式から熱伝導率(W/m・K)を算出した。
式:熱伝導率(W/m・K)=1/((傾き(熱抵抗値/厚み):K/(W・μm))×(面積:cm))×10-2
測定された厚み方向の熱伝導率に基づき、下記基準で熱伝導性を評価した。
〇(合 格):10W/m・K以上
×(不合格):10W/m・K未満
Figure 2023147228000007
上記実施例並びにこれまで本発明者が行ってきた試験結果から、無機フィラーおよび熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物に関し、前記無機フィラーが凝集窒化ホウ素粒子を含み、前記熱硬化性樹脂が、エポキシポリマーと、所定のポリアリレート化合物とを含有し、該エポキシポリマーの含有量が、無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分100質量%に対して10~30質量%である熱硬化性樹脂組成物であれば、硬化物の熱伝導性が優れているばかりか、硬化物の耐熱性を高めることができ、それでいて、熱硬化性樹脂組成物の硬化反応速度を抑えることができるため、シェルフライフ性を優れたものとすることができることが分かった。
すなわち、熱硬化性樹脂組成物が、前記無機フィラーが凝集窒化ホウ素粒子を含み、前記熱硬化性樹脂成分として、所定量のエポキシポリマーと、所定のポリアリレート化合物とを含有すれば、無機フィラーとして、凝集窒化ホウ素粒子を含んでいるため、硬化することにより、熱伝導性に優れた熱伝導性部材を形成することができる。しかも、エポキシポリマーを含んでいるため、凝集窒化ホウ素粒子の含有割合を高めたとしても、良好なハンドリング性(脆さ)を維持することができる。
さらにエポキシポリマーと熱硬化性化合物とポリアリレート化合物を含有することにより、硬化した場合、熱硬化性化合物とポリアリレート化合物とが反応して架橋構造を形成するばかりか、エポキシポリマーとポリアリレート化合物とが反応して架橋構造が複合化して強固な架橋構造を形成するため、ガラス転移温度(Tg)が高まり、耐熱性を優れたものとすることができる。
さらに、エポキシポリマーを含んでいるため、前記のように強固な架橋構造を有しつつも、硬化反応速度を遅くすることができ、安定性を高めることができるため、例えばシェルフライフ性を高めることができる。
このような作用機序からすれば、無機フィラーおよび熱硬化性樹脂成分を含有する熱硬化性樹脂組成物に関し、前記無機フィラーが凝集窒化ホウ素粒子を含み、前記熱硬化性樹脂成分が、エポキシポリマーと、ポリアリレート化合物とを含有し、該エポキシポリマーの含有量が、無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分100質量%に対して10~30質量%である熱硬化性樹脂組成物であれば、実施例の熱硬化性樹脂組成物と同様の効果を得ることができると推察される。

Claims (11)

  1. 無機フィラーおよび熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物であり、
    前記無機フィラーは凝集窒化ホウ素粒子を含み、
    前記熱硬化性樹脂は、質量平均分子量が5000より大きく、かつガラス転移温度(Tg)が50℃以上であるエポキシ樹脂(「エポキシポリマー」とも称する)と、下記一般式(A)で表されるポリアリレート化合物とを含有し、
    該エポキシポリマーの含有量は、無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分100質量%に対し10~30質量%である、熱硬化性樹脂組成物。
    Figure 2023147228000008
    (式中、Xはそれぞれ独立に、水素原子、基脂肪族基または芳香族基であり、Yはそれぞれ独立に、単結合、-CR-、O、COまたはSであり、Zは水素原子、ヒドロキシ基またはアルコキシ基である。nは繰り返し数であり、1以上の整数であればよい。)
  2. 熱硬化性樹脂組成物から前記無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分を、120℃で30分間加熱した後、175℃で30分間加熱し、200℃で10分間加熱して測定されるガラス転移温度(Tg)が150℃以上である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
  3. 熱硬化性樹脂組成物中に含有される前記ポリアリレート化合物の官能基量が、前記熱硬化性樹脂のエポキシ基量の50%以下である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
  4. 前記熱硬化性樹脂が、質量平均分子量600以下のエポキシ化合物を含有する、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
  5. 前記熱硬化性樹脂が、質量平均分子量600以下で、一分子中にエポキシ基を3つ以上含むエポキシ化合物を含有する、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
  6. 熱硬化性樹脂組成物から前記無機フィラーと有機溶剤を除いた樹脂成分は、120℃を保持した際の複素粘度の最下点ηbが100Pa・s以下であり、前記樹脂成分を、昇温速度2℃/分で室温から120℃まで加熱した後、120℃を保持する温度プロファイルにて複素粘度を測定した際、複素粘度が最下点ηbから10000Pa・sとなるまでの時間Tsが500秒以上である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
  7. 前記凝集窒化ホウ素粒子は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布における累積体積50%粒子径(D50)が10μm以上である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
  8. 前記無機フィラーが、カードハウス型凝集窒化ホウ素粒子を含む、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
  9. 請求項1~8のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂組成物から形成してなるシート状硬化物。
  10. 請求項9に記載のシート状硬化物からなる硬化物部と、金属部とを有する複合成形体。
  11. 請求項10に記載の複合成形体を備えた半導体デバイス。
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