JP2023146183A - フェライト系ステンレス鋼板 - Google Patents

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Abstract

【課題】高温でのろう付け熱処理を行う場合に、優れたろう付け性を有するとともに、ろう付け熱処理後の強度特性と耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼板を提供する。【解決手段】質量%で、C:0.003~0.030%、Si:0.60~1.30%、Mn:0.05~0.30%、P:0.050%以下、S:0.020%以下、Cr:24.0~28.0%、Ni:1.60~2.50%、Mo:1.50~3.00%、Al:0.001~0.020%、Nb:0.20~0.80%、N:0.030%以下を含有し、式(1)、(2)を満たすとともに、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、ろう付け熱処理による引張強さの低下量が25MPa以内である、フェライト系ステンレス鋼板。C+N≦0.030% ・・・(1)3Si+Nb-7C-7N≧2.00% ・・・(2)【選択図】なし

Description

本発明は、フェライト系ステンレス鋼板に関し、特に、高温でのろう付け熱処理を行う場合に優れたろう付け性を有するとともに、ろう付け熱処理後の強度特性ならびに耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼板に関するものである。
近年、自動車分野において排気ガス規制強化に対応するため、排気ガス浄化性能の向上ならびに燃費向上が要求されている。そのため、排熱回収器やEGR(Exhaust Gas Recirculation)クーラー等の自動車用熱交換器の適用が拡大しつつある。
排熱回収器は、熱交換器を介して排気ガスの熱から冷却水を温め、燃費ならびに暖房性能を向上させる装置である。また、EGRクーラーは、排気ガスを再循環する機構を有しており、熱交換器を介して排気側の高温排気ガスを冷却し、その冷却された排気ガスをエンジンに再吸気させることで燃焼温度を低温化させ窒素酸化物の発生を抑制する装置である。
排熱回収器やEGRクーラー内の熱交換器部分の多くは、排気ガスをエンジンの吸気側に還流させる経路上に、水流通路と排気ガス通路を併せ持ち、パイプ、プレート、フィン、チューブ、サイドプレート等を組み合わせた構造となっている。これらの部品の接合ならびに組み立てにはNi含有ろう材を用いたろう付け接合が適用されている。このことから、熱交換器に用いられる素材(材料)には、Ni含有ろう材に対する良好なろう付け性やろう付け熱処理後における十分な強度特性が求められる。
さらに、排気ガスには窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)が含まれており、これらが熱交換器内で結露し、腐食性が強い酸性の凝縮水となる。そのため、熱交換器部材に用いられる材料には高い耐食性が求められる。なお、ろう付け熱処理は高温で行われるため、素材にろう付け熱処理が施されると、結晶粒界においてCr炭窒化物が析出し、その近傍ではCr欠乏層が生じることで耐食性の低下を引き起こす、いわゆる、鋭敏化が起きる場合がある。そのため、ろう付け熱処理後の耐食性を確保するために鋭敏化を防ぐ必要がある。
以上のことから、排熱回収器やEGRクーラーの熱交換器部分に用いられる材料には、炭素含有量を規制して鋭敏化の発生を抑制したSUS304LやSUS316Lなどのオーステナイト系ステンレス鋼が適用されてきた。しかし、オーステナイト系ステンレス鋼は、Niを多く含有するため高コストになることや、熱膨張係数が大きいため高温で激しい振動を伴う拘束を受けると熱疲労による破壊が起きる可能性がある。
そこで、排熱回収器やEGRクーラーの熱交換器部分にオーステナイト系ステンレス鋼以外の鋼を用いることが検討されている。
例えば、特許文献1には、排熱回収器やEGRクーラー用材料として、ろう付け後にカチオン分率でNbを16.0%以上含んだ酸化皮膜が生成することで耐食性を確保したフェライト系ステンレス鋼が開示されている。
特許文献2には、排熱回収器やEGRクーラー用材料として、Al、Ti、Si添加量を制御することで耐食性を確保したフェライト系ステンレス鋼が開示されている。
特許文献3には、排熱回収器やEGRクーラー用材料として、焼鈍工程後における酸化物皮膜のAl、Si、Cr濃度を制御することで耐食性を確保したフェライト系ステンレス鋼が開示されている。
特許文献4ならびに特許文献5には、Cr、Moなどの成分を一定の関係式で添加し、かつAl、Ti添加量を抑制することで優れた耐凝縮水腐食性ならびにろう付け性を確保したフェライト系ステンレス鋼が開示されている。
特許文献6には、Si、Niなどの成分を一定の関係式で添加し、かつAl添加量を抑制することで優れた耐凝縮水腐食性ならびにろう付け性を確保したフェライト系ステンレス鋼が開示されている。
特許第6157664号公報 特許第6159775号公報 特開2020-63499号公報 特許第6517371号公報 特許第6583517号公報 特許第6699670号公報
しかしながら、特許文献1~6のようなフェライト系ステンレス鋼では、Ni含有ろう材を用いた高温でのろう付け熱処理により組織が粗大化することで軟質化し、鋼の強度が不十分になる場合があった。さらに、ろう材やろう付け条件等によっては、ろう付け性が不十分な場合もあった。このように、従来の技術では、良好な耐食性ならびにNi含有ろう材を用いた高温での良好なろう付け性を有し、かつ、ろう付け熱処理後の材料強度を十分に確保できているとは言えなかった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高温でのろう付け熱処理を行う場合に、優れたろう付け性を有するとともに、ろう付け熱処理後の強度特性と耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼板を提供することを目的とする。
ここで、本明細書において、ろう付け熱処理(高温でのろう付け熱処理)は、以下の熱処理とする。
0.2Torrの窒素キャリアガス雰囲気中で、室温から970℃までの温度域を平均昇温速度18℃/minで加熱し、970℃で30分保持した後、970℃から1180℃までの温度域を平均昇温速度18℃/minで加熱し、1180℃で10分保持する。その後、前記雰囲気と同じ雰囲気中で1180℃から800℃までの温度域を平均冷却速度11℃/min、800℃から600℃までの温度域を平均冷却速度6℃/min、600℃から400℃までの温度域を平均冷却速度4℃/min、400℃から200℃までの温度域を平均冷却速度2℃/minで冷却する。その後、大気雰囲気で200℃から室温まで冷却する。
また、本明細書において、優れたろう付け性とは、表面にNi含有ろうを設置した鋼板に、上記ろう付け熱処理を行った後、ろう付け熱処理前のろう材の円相当直径に対する、ろう付け熱処理後のろう材の円相当直径の比(ろう材の広がり率)が、150%以上であることを意味する。
本明細書において、ろう付け熱処理後の耐食性に優れるとは、上記ろう付け熱処理を施した鋼板から試験片を採取し、ASTM G48 Method Cに準拠して、20℃から50℃まで5℃毎に変化させ一定温度で保持した各温度(20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃)の6質量%FeCl+1質量%HCl混合水溶液中のそれぞれに、試験片を72h浸漬後、各試験片の表面を観察し、試験片表面に孔食が発生した最低温度(臨界孔食発生温度)が35℃以上であることを意味する。
本明細書において、ろう付け熱処理後の強度特性に優れるとは、上記ろう付け熱処理を施した鋼板と、上記ろう付け熱処理を施す前の鋼板からそれぞれ、JIS Z 2241:2011に準拠して、圧延方向に平行に採取したJIS 13B号試験片を用いて試験速度10mm/minにて室温で引張試験を行い、上記ろう付け熱処理を施す前の引張強さ(MPa)から上記ろう付け熱処理を施した後の引張強さ(MPa)を引いた値(ろう付け熱処理による引張強さの低下量)が、25MPa以内であることを意味する。
本発明者らは、高温でのNi含有ろう付熱処理を行う場合において、各種ステンレス鋼の成分元素と析出物との関係について、鋭意検討した。その結果、Siを適量含有させ、さらにC、NおよびNbの含有量を適切に制御することで、ろう付け熱処理中の冷却過程においてLaves相を十分に析出させ、ろう付け熱処理後の強度特性を確保できることを知見した。
本発明の要旨構成は次のとおりである。
[1]質量%で、
C:0.003~0.030%、
Si:0.60~1.30%、
Mn:0.05~0.30%、
P:0.050%以下、
S:0.020%以下、
Cr:24.0~28.0%、
Ni:1.60~2.50%、
Mo:1.50~3.00%、
Al:0.001~0.020%、
Nb:0.20~0.80%、
N:0.030%以下、
を含有し、以下の式(1)、(2)を満たすとともに、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
ろう付け熱処理による引張強さの低下量が25MPa以内である、フェライト系ステンレス鋼板。
C+N≦0.030% ・・・(1)
3Si+Nb-7C-7N≧2.00% ・・・(2)
(式(1)、(2)中のC、N、Si、Nbは、各元素の含有量(質量%)を示す。)
[2]さらに質量%で、
Cu:0.01~1.00%、
Co:0.01~1.00%、
W:0.01~2.00%、
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する、[1]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[3]さらに質量%で、
Ti:0.01~0.10%、
V:0.01~0.20%、
Zr:0.01~0.10%、
Mg:0.0005~0.0050%、
Ca:0.0005~0.0050%、
B:0.0005~0.0050%、
REM(希土類金属):0.001~0.100%、
Sn:0.001~0.100%、
Sb:0.001~0.100%、
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する、[1]または[2]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[4]一か所以上の接合部がろう付け熱処理によって組み立てられる、排熱回収器またはEGRクーラーに用いられる、[1]~[3]の何れかに記載のフェライト系ステンレス鋼板。
本発明によれば、高温でのろう付け熱処理を行う場合に、優れたろう付け性を有するとともに、ろう付け熱処理後の強度特性と耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼板を得ることができる。
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において、鋼の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、鋼の成分組成における元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り単に「%」で示す。
C:0.003~0.030%
C含有量が多くなると強度が向上し、少なくなると加工性が向上する。ここで、Cは、十分な強度を得るために0.003%以上の含有が必要である。しかし、C含有量が0.030%を超えると、加工性の低下が顕著となるうえ、粒界にCr炭化物が析出して鋭敏化を起こして耐食性が低下する。そのため、C含有量は0.003~0.030%の範囲とする。C含有量は、好ましくは0.005%以上である。また、C含有量は、好ましくは0.025%以下であり、より好ましくは0.020%以下であり、さらに好ましくは0.010%以下である。
Si:0.60~1.30%
Siは、ろう付け熱処理中おいてLaves相の析出を促進する効果がある元素である。その効果は0.60%以上のSiの含有で得られる。しかし、Si含有量が1.30%を超えると、ろう付け熱処理時にSi酸化物が鋼板表面に形成され、ろう付け性が低下する。そのため、Si含有量は0.60~1.30%の範囲とする。Si含有量は、好ましくは0.65%以上であり、より好ましくは0.70%以上である。また、Si含有量は、好ましくは1.00%以下であり、より好ましくは0.80%以下である。
Mn:0.05~0.30%
Mnは脱酸作用があり、その効果は0.05%以上のMnの含有で得られる。しかし、Mn含有量が0.30%を超えると耐食性が劣化する。そのため、Mn含有量は0.05~0.30%の範囲とする。Mn含有量は、好ましくは0.10%以上であり、より好ましくは0.15%以上である。また、Mn含有量は、好ましくは0.25%以下であり、より好ましくは0.20%以下である。
P:0.050%以下
Pは、鋼に不可避的に含まれる元素であり、過剰な含有は粒界腐食を生じさせやすくする。その傾向は、Pの0.050%超の含有で顕著となる。そのため、P含有量は0.050%以下とする。好ましくは、P含有量は0.030%以下である。なお、P含有量の下限は特に限定されない。ただし、過度の脱Pはコストの増加を招くので、P含有量は0.005%以上が好ましい。
S:0.020%以下
Sは、鋼に不可避的に含まれる元素であり、0.020%超のSの含有は、MnSの析出を促進し、耐食性を低下させる。よって、S含有量は0.020%以下とする。好ましくは、S含有量は0.015%以下である。なお、S含有量の下限は特に限定されない。ただし、過度の脱Sはコストの増加を招くので、S含有量は0.0005%以上が好ましい。
Cr:24.0~28.0%
Crは、ステンレス鋼の耐食性を確保するために重要な元素である。Cr含有量が24.0%未満では、十分な耐食性が得られない。一方、Cr含有量が28.0%を超えると、硬質化し加工性が低下する。そのため、Cr含有量は24.0~28.0%の範囲とする。Cr含有量は、好ましくは25.0%以上である。また、Cr含有量は、好ましくは27.0%以下であり、より好ましくは26.0%以下である。
Ni:1.60~2.50%
Niを1.60%以上の含有することで、ろう付け熱処理後の耐食性の低下を招く原因となるσ相がろう付け熱処理時に析出するのを抑制することができる。一方、Ni含有量が2.50%を超えると、応力腐食割れ感受性が高くなる。そのため、Ni含有量は1.50~2.50%の範囲とする。Ni含有量は、好ましくは1.70%以上であり、より好ましくは1.80%以上である。また、Ni含有量は、好ましくは2.30%以下であり、より好ましくは2.20%以下である。
Mo:1.50~3.00%
Moは、ステンレス鋼の不動態化皮膜を安定化させて耐食性を向上させる。この効果はMo含有量が1.50%以上で得られる。しかし、Mo含有量が3.00%を超えると、ろう付け熱処理中にσ相が析出して耐食性が低下する。よって、Mo含有量は、1.50~3.00%の範囲とする。Mo含有量は、好ましくは1.70%以上であり、より好ましくは1.80%以上である。また、Mo含有量は、好ましくは2.50%以下であり、より好ましくは2.00%以下である。
Al:0.001~0.020%
Alは脱酸に有用な元素であり、その効果は0.001%以上のAlの含有で得られる。しかし、Alは酸素に対して活性な元素であり、Al含有量が0.020%を超えるとろう付け熱処理時にAlを主体とした酸化物が鋼の表面に生成する。この酸化物は、ろう付け性を著しく低下させる。そのため、Al含有量は0.001~0.020%の範囲とする。Al含有量は、好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.010%以下である。
Nb:0.20~0.80%
Nbは、CおよびNと結合することにより、ろう付け熱処理時のCr炭窒化物の析出による耐食性の低下(鋭敏化)を抑制する元素である。また、Laves相の析出により強度の向上に寄与する。この効果は、Nb含有量が0.20%以上で得られる。一方、Nb含有量が0.80%を超えると、Laves相の析出が過剰となり加工性が低下する。そのため、Nb含有量は、0.20~0.80%の範囲とする。Nb含有量は、好ましくは0.25%以上であり、より好ましくは0.30%以上である。また、Nb含有量は、好ましくは0.60%以下であり、より好ましくは0.40%以下である。
N:0.030%以下
N含有量が0.030%を超えると、耐食性と加工性が低下する。従って、N含有量は0.030%以下とする。N含有量は、好ましくは0.025%以下であり、さらに好ましくは0.015%以下である。なお、N含有量の下限については特に限定されるものではないが、過度のN含有量の低減はコストの増加を招くため、N含有量は0.003%以上とすることが好ましい。
C+N≦0.030% ・・・(1)
式(1)中のC、Nは、各元素の含有量(質量%)を示す。
CおよびNの過剰含有は、耐食性を低下させる。そのため、C含有量およびN含有量を前述した範囲とした上で、C+N(C含有量とN含有量の和)は0.030%以下とする。C+Nは、好ましくは0.024%以下であり、さらに好ましくは0.019%以下である。
3Si+Nb-7C-7N≧2.00% ・・・(2)
式(2)中のSi、Nb、C、Nは、各元素の含有量(質量%)を示す。
本発明では、ろう付け熱処理中に十分な量のLaves相を析出させるためにSi、Nb、CおよびNの夫々を所定の含有量にする。さらに本発明者らは、鋭意検討し、3Si+Nb-7C-7Nが2.00%より小さいと、ろう付け熱処理後のLaves相の析出量が十分でなくろう付け熱処理後の強度低下が大きくなることを知見した。この理由として、SiならびにNbはLaves相の析出を促進するが、C+Nの増加によりNb炭窒化物の析出量が多くなることによりNbが消費されてLaves相の析出量低下を引き起こすため、これらの元素のバランスがLaves相の析出に大きく影響を及ぼすものと考えられる。そのため、Si、Nb、CおよびN含有量の夫々を前述した範囲とした上で、3Si+Nb-7C-7Nを2.00%以上とする。3Si+Nb-7C-7Nは、好ましくは3.00%以上である。
以上、本発明のフェライト系ステンレス鋼板における基本成分(必須成分)について説明した。上記基本成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物とすることができる。
また、本発明では、さらに、Cu、Co、Wのうちから選んだ1種または2種以上を、それぞれ下記の範囲で含有することができる。
Cu:0.01~1.00%
Cuは、耐食性を高める元素である。この効果は、Cu含有量が0.01%以上で得られる。しかし、Cu含有量が1.00%を超えると、熱間加工性が低下する。そのため、Cuを含有する場合、Cu含有量は、0.01~1.00%の範囲とする。Cuを含有する場合、Cu含有量は、好ましくは0.10%以上である。また、Cuを含有する場合、Cu含有量は、好ましくは0.80%以下であり、より好ましくは0.60%以下である。
Co:0.01~1.00%
Coは、耐食性を高める元素である。この効果は、Co含有量が0.01%以上で得られる。しかし、Co含有量が1.00%を超えると、加工性が低下する。そのため、Coを含有する場合は、Co含有量は0.01~1.00%の範囲とする。Coを含有する場合、Co含有量は、より好ましくは0.05%以上である。また、Coを含有する場合、Co含有量は、より好ましくは0.70%以下である。
W:0.01~2.00%
Wは、耐食性を高める元素である。この効果は、W含有量が0.01%以上で得られる。しかし、W含有量が2.00%を超えると、加工性が低下する。そのため、Wを含有する場合は、W含有量は0.01~2.00%の範囲とする。Wを含有する場合、W含有量は、より好ましくは0.05%以上である。また、Wを含有する場合、W含有量は、より好ましくは1.00%以下である。
本発明では、さらに、Ti、V、Zr、Mg、Ca、B、REM、Sn、Sbのうちから選んだ1種または2種以上を、それぞれ下記の範囲で含有することができる。
Ti:0.01~0.10%
Tiは、鋼中に含まれるCおよびNと結合し、鋭敏化を防止する効果を有する。その効果はTiの0.01%以上の含有で得られる。一方、Tiは酸素に対して活性な元素であり、0.10%超えのTiの含有はろう付け熱処理時にTiを主体とした酸化物が鋼の表面に形成される。この酸化物は、ろう付け性を低下させる。よって、Tiを含有する場合は、Ti含有量は0.01~0.10%の範囲とする。Tiを含有する場合、Ti含有量は、より好ましくは0.05%以下である。
V:0.01~0.20%
Vは、Tiと同様に、鋼中に含まれるCおよびNと結合し、鋭敏化を防止する。これらの効果は、V含有量が0.01%以上で得られる。一方、V含有量が0.20%を超えると、加工性が低下する。そのため、Vを含有する場合は、V含有量は0.01~0.20%の範囲とする。Vを含有する場合、V含有量は、より好ましくは0.15%以下であり、さらに好ましくは0.10%以下である。
Zr:0.01~0.10%
Zrは、TiやNbと同様に、鋼中に含まれるCおよびNと結合し、鋭敏化を抑制する元素である。この効果は、Zr含有量が0.01%以上で得られる。一方、Zr含有量が0.10%を超えると、加工性が低下する。そのため、Zrを含有する場合は、Zr含有量は0.01~0.10%の範囲とする。Zrを含有する場合、Zr含有量は、より好ましくは0.03%以上である。また、Zrを含有する場合、Zr含有量は、より好ましくは0.05%以下である。
Mg:0.0005~0.0050%
Mgは、脱酸剤として作用する。この効果はMg含有量が0.0005%以上で得られる。しかし、Mg含有量が0.0050%を超えると、鋼の靱性が低下して製造性が低下する。そのため、Mgを含有する場合は、Mg含有量は0.0005~0.0050%の範囲とする。Mgを含有する場合、Mg含有量は、より好ましくは0.0020%以下である。
Ca:0.0005~0.0050%
Caは、溶接部の溶け込み性を改善して溶接性を向上させる。その効果は、Ca含有量が0.0005%以上で得られる。しかし、Ca含有量が0.0050%を超えると、Sと結合してCaSを生成し、耐食性が低下する。そのため、Caを含有する場合は、Ca含有量は0.0005~0.0050%の範囲とする。Caを含有する場合、Ca含有量は、より好ましくは0.0010%以上である。また、Caを含有する場合、Ca含有量は、より好ましくは0.0025%以下である。
B:0.0005~0.0050%
Bは、二次加工脆性を改善する元素である。その効果は、B含有量が0.0005%以上で発現する。しかし、B含有量が0.0050%を超えると、固溶強化により延性が低下する。そのため、Bを含有する場合は、B含有量は0.0005~0.0050%の範囲とする。Bを含有する場合、B含有量は、より好ましくは0.0025%以下である。
REM(希土類金属):0.001~0.100%
REM(希土類金属:La、Ce、Ndなどの原子番号57~71の元素)は、脱酸に有効な元素である。その効果は、REM含有量が0.001%以上で得られる。しかし、REM含有量が0.100%を超えると、熱間加工性が低下する。そのため、REMを含有する場合は、REM含有量は0.001~0.100%の範囲とする。REMを含有する場合、REM含有量は、より好ましくは0.005%以上である。また、REMを含有する場合、REM含有量は、より好ましくは0.050%以下である。なお、REMは、Sc、Yと、原子番号57のランタン(La)から原子番号71のルテチウム(Lu)までの15元素の総称であり、ここでいうREM含有量は、これらの元素の合計含有量である。
Sn:0.001~0.100%
Snは、加工肌荒れ抑制に有効な元素である。その効果は、Sn含有量が0.001%以上で得られる。しかし、Sn含有量が0.100%を超えると、熱間加工性が低下する。そのため、Snを含有する場合は、Sn含有量は0.001~0.100%の範囲とする。Snを含有する場合、Sn含有量は、より好ましくは0.050%以下である。
Sb:0.001~0.100%
Sbは、Snと同様に、加工肌荒れ抑制に有効な元素である。その効果は、Sb含有量が0.001%以上で得られる。しかし、Sb含有量が0.100%を超えると、加工性が低下する。そのため、Sbを含有する場合は、Sb含有量は0.001~0.100%の範囲とする。Sbを含有する場合、Sb含有量は、より好ましくは0.050%以下である。
以上、本発明に係るフェライト系ステンレス鋼板の成分組成について説明したが、さらに、高温でのろう付け熱処理後の材料の強度低下を小さくすることが排熱回収器、EGRクーラー用の材料には重要である。
ろう付け熱処理による引張強さの低下量が25MPa以内
ろう付け熱処理による引張強さの低下量[MPa]=ろう付け熱処理前の引張強さ[MPa]-ろう付け熱処理後の引張強さ[MPa]とした。
上述したように、ろう付け熱処理中に十分な量のLaves相を析出させるためにSi、Nb、CおよびNの夫々を所定の含有量とし強度低下量の制御を検討した結果、ろう付け熱処理による引張強さの低下量が25MPa以内であれば、ろう付け熱処理により製造された排熱回収器やEGRクーラーの使用時において軟質化に起因した破損を未然に防ぐことができることが分かった。ろう付け熱処理による引張強さの低下量は、好ましくは15MPa以内である。
次に、本発明のフェライト系ステンレス鋼板の好適な製造方法について説明する。
本発明のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上記の成分組成を有する鋼スラブを、熱間圧延して熱延板とし、該熱延板に必要に応じて熱延板焼鈍を施し、その後、該熱延板に冷間圧延を施して所望板厚の冷延板とし、さらに必要に応じて該冷延板に冷延板焼鈍を施すことにより、上記の成分組成を有するフェライト系ステンレス鋼板を製造することができる。なお、熱間圧延や冷間圧延、熱延板焼鈍、冷延板焼鈍などの条件は特に限定されず、常法に従えばよい。
鋼を溶製する製鋼工程は、転炉あるいは電気炉等で溶解した鋼をVOD(Vacuum Oxygen Decarburization)法等により二次精錬し、上記必須成分および必要に応じて添加される成分を含有する鋼とすることが好ましい。溶製した溶鋼は、公知の方法で鋼素材とすることができるが、生産性および品質面からは、連続鋳造法によることが好ましい。鋼素材は、その後、好ましくは1050~1250℃に加熱され、熱間圧延により所望の板厚の熱延板とされる。もちろん、板材以外に熱間加工することもできる。上記熱延板は、その後必要に応じて900~1150℃の温度で連続焼鈍を施した後、酸洗等により脱スケールし、熱延製品とすることが好ましい。なお、必要に応じて、酸洗前にショットブラストや研削ブラシなどによりスケール除去してもよい。
さらに、上記熱延製品(熱延焼鈍板等)を、冷間圧延等の工程を経て冷延製品としてもよい。この場合の冷間圧延は、1回でもよいが、生産性や要求品質上の観点から中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延としてもよい。1回または2回以上の冷間圧延の総圧下率は60%以上が好ましく、より好ましくは70%以上である。冷間圧延した鋼板は、その後、好ましくは900~1150℃、さらに好ましくは950~1150℃の温度で連続焼鈍(仕上げ焼鈍)し、酸洗し、冷延製品とするのが好ましい。なお、連続焼鈍を光輝焼鈍で行って酸洗を省略してもよい。さらに用途によっては、仕上げ焼鈍後、スキンパス圧延等を施して、鋼板の形状や表面粗度、材質調整を行ってもよい。
以上説明した本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、一か所以上の接合部がろう付け熱処理によって組み立てられる、排熱回収器やEGRクーラー(排気ガス再循環装置)に好適に用いられる。特に前記排熱回収器やEGRクーラーの熱交換器部材に好適に用いられる。
表1に示した成分組成を有する鋼を真空溶解炉で溶製し、1150℃で1時間加熱した後、熱間圧延によって板厚4.2mmの熱延板を製造し、その熱延板を1080℃で30s以上保持して熱延板焼鈍を行った。さらに、鋼板表面のスケールを研削加工により除去後、板厚1.2mmまで冷間圧延して冷延板とし、その後、前記冷延板を1040℃で30s保持して仕上げ焼鈍を行い、冷延焼鈍板を製造した。
(1)ろう付け性の評価
作製した冷延焼鈍板から、50×50mmの試験片を採取し、表面を#600エメリーペーパーにより研磨仕上げした後、アセトンによる脱脂を行った。研磨面に直径12mmΦ、厚さ1mmのNi含有ろう(主成分(残部):Ni-29mass%Cr-6mass%P-4mass%Si)を設置した。その後、Ni含有ろうを設置した面を上にして鋼板面を水平にした状態で、下記に示すろう付け熱処理を行った。その後、試験片表面のろう材の円相当直径(ろう付け熱処理後のろう材の円相当直径)を測定した。そして、ろう付け熱処理前のろう材の直径(12mmΦ、円相当直径も同じ)に対するろう付け熱処理後のろう材の円相当直径の比(ろう材の広がり率)を求め、以下の基準で評価した。
ろう付け熱処理前に対するろう付け熱処理後のろう材の広がり率=(ろう付け熱処理後のろう材の円相当直径/ろう付け熱処理前のろう材の円相当直径)×100(%)
○(合格):150%以上
×(不合格):150%未満
この試験で、ろう付け熱処理前に対するろう付け熱処理後のろう材の広がり率が150%以上を、ろう付け性に優れると評価した。
<ろう付け熱処理>
0.2Torrの窒素キャリアガス雰囲気中で、室温から970℃までの温度域を平均昇温速度18℃/minで加熱し、970℃で30分保持した後、970℃から1180℃までの温度域を平均昇温速度18℃/minで加熱し、1180℃で10分保持した。その後、前記雰囲気と同じ雰囲気中で1180℃から800℃までの温度域を平均冷却速度11℃/min、800℃から600℃までの温度域を平均冷却速度6℃/min、600℃から400℃までの温度域を平均冷却速度4℃/min、400℃から200℃までの温度域を平均冷却速度2℃/minで冷却した。その後、大気雰囲気で200℃から室温まで冷却した。
(2)耐食性の評価
作製した冷延焼鈍板について、上記ろう付け熱処理を行った。その後、前記ろう付け熱処理を行った冷延焼鈍板から、50mm×30mmの試験片を採取し、表面を#600エメリーペーパーにより研磨仕上げした後、アセトンによる脱脂を行った。その後、ASTM G48 Method Cに準拠して、20℃から50℃まで5℃毎に変化させ一定温度で保持した各温度(20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃)の6質量%FeCl+1質量%HCl混合水溶液中のそれぞれに、試験片を72h浸漬後、各試験片の表面を拡大鏡で観察し、孔食発生の有無を確認した。孔食が発生した最低温度を臨界孔食発生温度とし、以下の基準で評価した。
◎(合格、特に良好):臨界孔食発生温度が45℃以上
○(合格):臨界孔食発生温度が35℃以上45℃未満
×(不合格):臨界孔食発生温度が35℃未満
この試験で、孔食が発生した最低温度(臨界孔食発生温度)が35℃以上を、ろう付け熱処理後の耐食性に優れると評価した。
(3)ろう付け熱処理後の強度特性評価
作製した冷延焼鈍板について、上記ろう付け熱処理を行った。その後、上記ろう付け熱処理を施した後の鋼板と、上記ろう付け熱処理を施す前の鋼板からそれぞれ、JIS Z 2241:2011に準拠して、圧延方向に平行に採取したJIS 13B号試験片を用いて試験速度を10mm/minにて室温で引張試験を行い、上記ろう付け熱処理を施す前の引張強さ(MPa)から上記ろう付け熱処理を施した後の引張強さ(MPa)を引いた値(ろう付け熱処理による引張強さの低下量)により、以下の基準で評価した。
ろう付け熱処理による引張強さの低下量[MPa]=ろう付け熱処理前の引張強さ[MPa]-ろう付け熱処理後の引張強さ[MPa]
◎(合格、特に良好):15MPa以内
○(合格):15MPa超~25MPa以内
×(不合格):25MPa超
この試験で、ろう付け熱処理による引張強さの低下量が25MPa以内を、ろう付け熱処理後の強度特性に優れると評価した。
Figure 2023146183000001
Figure 2023146183000002
表1~2に示すように、発明例No.1~26ではいずれも、高温でのろう付け熱処理を行う場合に、ろう付け性に優れ、かつ、ろう付け熱処理後の強度特性と耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼板が得られた。
一方、成分組成が適正範囲外となる比較例No.27~37では、高温でろう付け熱処理を行う場合のろう付け性、ろう付け熱処理後の強度特性と耐食性の目標をすべて同時に満足することはできなかった。
比較例No.27では、Al含有量が本発明の上限値超えであったため、優れたろう付け性を得られなかった。
比較例No.28では、Si含有量が本発明の上限値超えであったため、優れたろう付け性を得られなかった。
比較例No.29では、Mn含有量が本発明の上限値超えであったため、優れた耐食性を得られなかった。
比較例No.30では、Mo含有量が本発明の上限値超えであったため、σ相が顕著に析出し優れた耐食性を得られなかった。
比較例No.31では、Si含有量が本発明の下限値未満であったため、ろう付け熱処理時にLaves相が十分析出せず、ろう付け熱処理後の優れた強度特性を得られなかった。
比較例No.32では、Cr含有量が本発明の下限値未満であったため、優れた耐食性を得られなかった。
比較例No.33では、Ni含有量が本発明の下限値未満であったため、優れた耐食性を得られなかった。
比較例No.34では、Nb含有量が本発明の下限値未満であったため、ろう付け熱処理時にLaves相が十分析出せず、ろう付け熱処理後の優れた強度特性を得られなかった。
比較例No.35では、Mo含有量が本発明の下限値未満であったため、優れた耐食性を得られなかった。
比較例No.36では、全ての成分が規定範囲であるが式(1)の要件を満たさなかったため、優れた耐食性を得られなかった。
比較例No.37では、全ての成分が規定範囲であるが式(2)の要件を満たさなかったため、ろう付け熱処理時にLaves相が十分析出せず、ろう付け熱処理後の優れた強度特性を得られなかった。
本発明によれば、熱回収器やEGRクーラー、特に、一か所以上の接合部がろう付け熱処理によって組み立てられる、排熱回収器やEGRクーラーなどの熱交換器の材料として好適なフェライト系ステンレス鋼板が得られるので、産業上極めて有用である。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.003~0.030%、
    Si:0.60~1.30%、
    Mn:0.05~0.30%、
    P:0.050%以下、
    S:0.020%以下、
    Cr:24.0~28.0%、
    Ni:1.60~2.50%、
    Mo:1.50~3.00%、
    Al:0.001~0.020%、
    Nb:0.20~0.80%、
    N:0.030%以下、
    を含有し、以下の式(1)、(2)を満たすとともに、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
    ろう付け熱処理による引張強さの低下量が25MPa以内である、フェライト系ステンレス鋼板。
    C+N≦0.030% ・・・(1)
    3Si+Nb-7C-7N≧2.00% ・・・(2)
    (式(1)、(2)中のC、N、Si、Nbは、各元素の含有量(質量%)を示す。)
  2. さらに質量%で、
    Cu:0.01~1.00%、
    Co:0.01~1.00%、
    W:0.01~2.00%、
    のうちから選んだ1種または2種以上を含有する、請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
  3. さらに質量%で、
    Ti:0.01~0.10%、
    V:0.01~0.20%、
    Zr:0.01~0.10%、
    Mg:0.0005~0.0050%、
    Ca:0.0005~0.0050%、
    B:0.0005~0.0050%、
    REM(希土類金属):0.001~0.100%、
    Sn:0.001~0.100%、
    Sb:0.001~0.100%、
    のうちから選んだ1種または2種以上を含有する、請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
  4. 一か所以上の接合部がろう付け熱処理によって組み立てられる、排熱回収器またはEGRクーラーに用いられる、請求項1~3の何れかに記載のフェライト系ステンレス鋼板。
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