JP2023145206A - バイオマス糖化のための酵素組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】効率的にバイオマスを糖化できるバイオマス糖化のための酵素組成物の提供。【解決手段】バイオマス糖化のための酵素組成物であって、セルラーゼ及びアラビノフラノシダーゼを含有し、該アラビノフラノシダーゼが、下記(a)~(c)から選ばれるアミノ酸配列からなる、酵素組成物:(a)特定のアミノ酸配列;(b)前記特定のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;(c)前記特定のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列。【選択図】なし

Description

本発明は、バイオマス糖化のための酵素組成物、及びこれを用いたバイオマスからの糖の製造方法に関する。
近年、作物や木材の収穫後の残渣等、農業生産の副産物として生じるセルロース系バイオマスの利用に対する研究開発が注目されている。セルロース系バイオマス(以下バイオマスと記載)は,セルロース,ヘミセルロース及びリグニンから構成されており、これら3成分は強固に絡み合っている。これら3成分のうち、セルロース及びヘミセルロースの分解産物である糖はエタノールや化成品の原料となる。
セルロースはグルコースがβ-1,4結合でつながった多糖であり、ヘミセルロースはグルコース以外の糖を含むヘテロ多糖である。ヘミセルロースの中に最も豊富に存在するアラビノキシランは、主にキシロースがβ-1,4結合でつながったキシラン骨格に側鎖としてアラビノースやガラクトース、グルクロン酸、フェルラ酸等が結合している。セルロース及びヘミセルロースを分解する酵素はセルラーゼ及びヘミセルラーゼであり、バイオマス糖化酵素と総称されている。
バイオマスは複雑に絡み合った構造をとっているため、分解されにくい。セルロースやヘミセルロースを効率よく分解するにはセルラーゼ及びヘミセルラーゼが共に必須である。バイオマスの分解には酵素の種類や組成が大きく影響するため、バイオマス糖化酵素の開発は重要課題である。
バイオマスの分解を向上するため、セルラーゼにTrichoderma reesei由来のキシラナーゼやアラビノフラノシダーゼ等のヘミセルラーゼが添加された酵素組成物が開発されている(特許文献1)。またPenicillium sp.の高いキシラナーゼ活性を有するキシラナーゼが添加された酵素組成物が開発されている(特許文献2)。
α-L-アラビノフラノシダーゼは、α-1,2結合、又はα-1,3結合、又はα-1,5結合したアラビノース側鎖を非還元末端側から加水分解できる糖質加水分解酵素(glycoside hydrolase;GH)である。α-L-アラビノフラノシダーゼは、EC3.2.1.55に分類され、またアミノ酸配列の相同性に基づく分類では、GH43、GH51、GH54、又はGH62に分類されている。非特許文献1には、Penicillium copsulatumから64.5kDa及び62.7kDaのα-L-アラビノフラノシダーゼについてその特性が開示されている。特許文献3には、Penicillium sp.由来のGH62に分類されるα-L-アラビノフラノシダーゼが開示されている。特許文献4には、Aspergillus niger由来のα-L-アラビノフラノシダーゼ及びそのアミノ酸配列が開示されている。なおAspergillus nigerを含むAspergillus section Nigri(黒麹黴)については、近年、糖質関連酵素についてのゲノム解析及び種間でのゲノムシークエンスの比較が行われている(非特許文献2)。
特表2011-515089号公報 特開2017-12006号公報 特開2020-065514号公報 国際公開第2006/125438号
Appl. Environ. Microbiol., 1996, 62:168-173 Nature Genetics, 2018, 50:1688-1695
本発明は、効率的にバイオマスを糖化することができる、バイオマス糖化のための酵素組成物、及びこれを用いたバイオマスからの糖の製造方法を提供する。
本発明者らは、優れたアラビノフラノシダーゼ活性を有するアラビノフラノシダーゼを見出し、また該アラビノフラノシダーゼとセルラーゼを併用することにより、効率的にバイオマスを糖化することができることを見出した。
本発明は、バイオマス糖化のための酵素組成物であって、セルラーゼ及びアラビノフラノシダーゼを含有し、該アラビノフラノシダーゼが、下記(a)~(c)から選ばれるアミノ酸配列からなる、酵素組成物:
(a)配列番号1のアミノ酸配列;
(b)配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;
(c)配列番号1のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列、
を提供する。
また本発明は、前記バイオマス糖化のための酵素組成物を用いる、バイオマスからの糖の製造方法を提供する。
本発明の酵素組成物に含まれるアラビノフラノシダーゼは、優れたアラビノフラノシダーゼ活性を有し、バイオマスに含まれるヘミセルラーゼの分解を促進することで、バイオマスの糖化率を向上させる。したがって、本発明によれば、バイオマスから効率的に糖を製造することができる。
F5054ABFの至適温度。60℃での酵素活性に対する相対酵素活性を示す。 F5054ABFの至適pH。pH3.0での酵素活性に対する相対酵素活性を示す。 F5054ABFの温度安定性。50℃で前処理した酵素の活性に対する相対酵素活性を示す。 F5054ABFのpH安定性。pH4.0で前処理した酵素の活性に対する相対酵素活性を示す。 F5054ABFとセルラーゼ剤を併用したバイオマスの糖化における生成糖量。セルラーゼ単独の場合の生成糖量を100%としたときの相対生成量。 F5054ABFとセルラーゼ剤を併用したバイオマスの糖化におけるグルコース、キシロース、アラビノース生成量。セルラーゼ単独の場合の生成糖量を100%としたときの相対生成量。
本明細書において、塩基配列及びアミノ酸配列の配列同一性は、Lipman-Pearson法(Science,1985,227:1435-1441)によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Winのホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列に関する「少なくとも90%の同一性」とは、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.5%以上の同一性をいう。
本明細書において、「1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列」としては、好ましくは1個以上10個以下、より好ましくは1個以上5個以下、さらに好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個又は2個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列が挙げられる。また本明細書において、「1又は数個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列」としては、好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは1個以上15個以下、さらに好ましくは1個以上9個以下、より好ましくは1個以上6個以下、より好ましくは1~3個のヌクレオチドが欠失、置換、挿入もしくは付加されたヌクレオチド配列が挙げられる。本明細書において、ヌクレオチドの「付加」には、配列の一末端及び両末端へのヌクレオチドの付加が含まれる。
本明細書において、アミノ酸配列又はヌクレオチド配列上の「相当する位置」又は「相当する領域」は、目的配列と参照配列(例えば、配列番号1のアミノ酸配列)とを、最大の相同性を与えるように整列(アラインメント)させることにより決定することができる。アミノ酸配列またはヌクレオチド配列のアラインメントは、公知のアルゴリズムを用いて実行することができ、その手順は当業者に公知である。例えば、アラインメントは、Clustal Wマルチプルアラインメントプログラム(Thompson,J.D.et al,1994,Nucleic Acids Res.22:4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより、行うことができる。Clustal Wは、例えば、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute:EBI[www.ebi.ac.uk/index.html])や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ[www.ddbj.nig.ac.jp/searches-j.html])のウェブサイト上で利用することができる。上述のアラインメントにより参照配列の任意の位置にアラインされた目的配列の位置は、当該任意の位置に「相当する位置」とみなされる。また、相当する位置により挟まれた領域、または相当するモチーフからなる領域は、相当する領域とみなされる。
本明細書において、遺伝子と、プロモーター等の制御領域との「作動可能な連結」とは、遺伝子と制御領域とが、該遺伝子が該制御領域の制御の下で発現し得るように連結されていることをいう。遺伝子と制御領域との「作動可能な連結」の手順は当業者に周知である。
本明細書において、遺伝子に関する「上流」及び「下流」とは、該遺伝子の転写方向の上流及び下流をいう。例えば、遺伝子の「上流配列」「下流配列」とは、それぞれDNAセンス鎖において該遺伝子の5'側及び3’側に位置する配列をいう。例えば、「遺伝子の上流に連結されたプロモーター」とは、DNAセンス鎖において遺伝子の5'側にプロモーターが存在することを意味する。
本明細書において、細胞の機能や性状、形質に対して使用する用語「本来」とは、当該機能や性状、形質が当該細胞に元から存在していることを表すために使用される。対照的に、用語「外来」とは、当該細胞に元から存在するのではなく、外部から導入された機能や性状、形質を表すために使用される。例えば、「外来」ヌクレオチド又はDNAとは、細胞に外部から導入されたヌクレオチド又はDNAである。外来ヌクレオチド又はDNAは、それが導入された細胞と同種の生物由来であっても、異種の生物由来(すなわち異種ヌクレオチド又は異種DNA)であってもよい。
本明細書において、「バイオマス」とは、植物や藻類が生産するヘミセルロース成分を含むセルロース系及び/又はリグノセルロース系バイオマスをいう。バイオマスの具体例としては、カラマツやヌマスギ等の針葉樹、アブラヤシ(幹部)、ヒノキ等の広葉樹などから得られる各種木材;ウッドチップ等の木材の加工物又は粉砕物;木材から製造されるウッドパルプ、綿の種子の周囲の繊維から得られるコットンリンターパルプ等のパルプ類;新聞紙、ダンボール、雑誌、上質紙等の紙類;バガス(サトウキビの搾りかす)、パーム空果房(EFB)、稲わら、エリアンサス、とうもろこし茎もしくは葉等の植物の茎、葉、果房等;籾殻、パーム殻、ココナッツ殻等の植物殻類;藻類、などからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。このうち、入手容易性及び原料コストの観点から、木材、木材の加工物又は粉砕物、植物の茎、葉、果房等が好ましく、バガス、EFB、アブラヤシ(幹部)、エリアンサスがより好ましく、バガスがさらに好ましい。上記バイオマスは、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。また上記バイオマスは乾燥されていてもよい。
本明細書において、「アラビノフラノシダーゼ」とは、アラビノフラノシダーゼ活性を有するタンパク質をいう。本明細書において、「アラビノフラノシダーゼ活性」とは、アラビノース含有多糖中のα-1,2結合もしくはα-1,3結合した側鎖、又はα-1,2結合及びα-1,3結合した側鎖を加水分解により切断し、α-L-アラビノース残基を生成する活性をいう。タンパク質のアラビノフラノシダーゼ活性は、例えば、p-ニトロフェニル-α-Lアラビノフラノシドを基質として当該タンパク質と反応させ、遊離するp-ニトロフェノールを測定すること(pNP法)によって決定することができる。アラビノフラノシダーゼ活性の測定の具体的手順は、後述の実施例に詳述されている。
(1.アラビノフラノシダーゼ)
一実施形態において、本発明はアラビノフラノシダーゼを提供する。本発明のアラビノフラノシダーゼは、下記(a)~(c)から選ばれるアミノ酸配列からなり、且つアラビノフラノシダーゼ活性を有するタンパク質である。
(a)配列番号1のアミノ酸配列;
(b)配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;
(c)配列番号1のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列。
上記(a)の配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質としては、例えば、アスペルギルス・アクリータス(Aspergillus aculeatus)No.F-50由来のアラビノフラノシダーゼの成熟タンパク質が挙げられる。上記(b’)及び(c’)のアミノ酸配列からなるタンパク質としては、例えば、配列番号1のアラビノフラノシダーゼの天然又は人工的に作製された変異体が挙げられる。本発明のアラビノフラノシダーゼは、そのアミノ酸配列から、糖質加水分解酵素ファミリー54(GH54)に分類される。
別の一実施形態において、本発明は、下記(a’)~(c’)から選ばれるアミノ酸配列からなる、アラビノフラノシダーゼのプレタンパク質を提供する。
(a’)配列番号2のアミノ酸配列;
(b’)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;
(c’)配列番号2のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列。
上記のプレタンパク質は、菌体外分泌シグナルペプチド領域と、アラビノフラノシダーゼの成熟タンパク質のアミノ酸配列とを含み、該分泌シグナルペプチドが切断されることでアラビノフラノシダーゼの成熟タンパク質へと変換される。例えば、上記(a’)の配列番号2のアミノ酸配列は、菌体外分泌シグナルペプチド領域のアミノ酸配列(配列番号2の1~26位)と、配列番号1のアラビノフラノシダーゼのアミノ酸配列(配列番号2の27~501位)とを含む。上記(b’)及び(c’)のアミノ酸配列は、配列番号2の1~26位に相当する菌体外分泌シグナルペプチド領域のアミノ酸配列と、配列番号2の27~501位に相当するアラビノフラノシダーゼのアミノ酸配列とを含む。
上記(a’)の配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質としては、例えば、アスペルギルス・アクリータス No.F-50由来のアラビノフラノシダーゼのプレタンパク質が挙げられる。上記(b’)及び(c’)のアミノ酸配列からなるタンパク質としては、例えば、配列番号2のアラビノフラノシダーゼのプレタンパク質の天然又は人工的に作製された変異体が挙げられる。
前述した本発明のアラビノフラノシダーゼ及びそのプレタンパク質の変異体は、例えば、配列番号1又は2のタンパク質をコードする遺伝子に対して紫外線照射や部位特異的変異導入(Site-Directed Mutagenesis)のような公知の突然変異導入法により突然変異を導入し、当該突然変異を有する遺伝子を発現させ、発現したタンパク質から、所望のアミノ酸配列及びアラビノフラノシダーゼ活性を有するものを選択することによって作製することができる。このような変異体作製の手順は、当業者に周知である。
(2.アラビノフラノシダーゼの生産方法)
本発明のアラビノフラノシダーゼ又はそのプレタンパク質は、本発明のアラビノフラノシダーゼ又はそのプレタンパク質をコードするポリヌクレオチド(以下、まとめて本発明のポリヌクレオチドという)を発現させることにより生産することができる。例えば、本発明のアラビノフラノシダーゼは、本発明のポリヌクレオチドを導入した形質転換体から生産することができる。より詳細には、本発明のポリヌクレオチド、又はそれを含むベクターを宿主に導入して形質転換体を得た後、該形質転換体を適切な培地で培養すれば、該形質転換体に導入した該ポリヌクレオチドから本発明のアラビノフラノシダーゼ又はそのプレタンパク質が発現される。さらに、発現した該プレタンパク質は、保有する分泌シグナルペプチドの働きを介して、成熟アラビノフラノシダーゼとして細胞外に分泌生産され得る。得られたアラビノフラノシダーゼを該培養物から単離又は精製することにより、本発明のアラビノフラノシダーゼを取得することができる。
本発明のポリヌクレオチドは、上記(a)~(c)から選ばれるアミノ酸配列からなり、且つアラビノフラノシダーゼ活性を有するタンパク質をコードする、ポリヌクレオチドであり得る。本発明のポリヌクレオチドの好ましい例としては、下記(d)~(g)から選ばれるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
(d)配列番号3で示されるヌクレオチド配列;
(e)配列番号3の79番から1506番で示されるヌクレオチド配列;
(f)(d)又は(e)で示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列;
(g)(d)又は(e)で示されるヌクレオチド配列において、1又は数個のヌクレオチドが欠失、挿入、置換もしくは付加されたヌクレオチド配列。
上記(d)のポリヌクレオチドは、配列番号2のアラビノフラノシダーゼのプレタンパク質をコードする。該(d)のポリヌクレオチドから発現したプレタンパク質が保有する分泌シグナルペプチドの働きを介して細胞外に分泌生産されると、配列番号1のアラビノフラノシダーゼとなる。上記(e)のポリヌクレオチドは、該(d)のヌクレオチド配列から菌体外分泌シグナルペプチドをコードする配列を除いたヌクレオチド配列からなり、配列番号1のアラビノフラノシダーゼをコードする。
本発明のポリヌクレオチドは、一本鎖もしくは二本鎖のDNA、RNA、又は人工核酸の形態であり得、あるいはcDNA、又はイントロンを含まない化学合成DNAであり得る。
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のアラビノフラノシダーゼ又はそのプレタンパク質のアミノ酸配列に基づいて、化学的又は遺伝子工学的に合成することができる。例えば、本発明のポリヌクレオチドは、アスペルギルス・アクリータス No.F-50等のアスペルギルス属(Aspergillus)菌から、当該分野で用いられる任意の方法を用いて単離することができる。例えば、本発明のポリヌクレオチドは、アスペルギルス・アクリータス No.F-50の全ゲノムDNAを抽出した後、配列番号3の塩基配列を元に設計したプライマーを用いたPCRにより標的遺伝子を選択的に増幅し、増幅した遺伝子を精製することで得ることができる。あるいは、本発明のポリヌクレオチドは、前述した本発明のアラビノフラノシダーゼ又はそのプレタンパク質のアミノ酸配列に基づいて、化学的に合成することができる。ポリヌクレオチドの化学合成には、核酸合成受託サービス(例えば、株式会社医学生物学研究所、Genscript社等より提供されている)を利用することができる。さらに、合成したポリヌクレオチドをPCR、クローニング等により増幅することもできる。
また例えば、本発明のポリヌクレオチドは、前記の手順で合成されたポリヌクレオチドに対して、前述した紫外線照射や部位特異的変異導入のような公知の突然変異導入法により突然変異を導入することによって作製することができる。例えば、本発明のアラビノフラノシダーゼをコードするポリヌクレオチドは、配列番号3のポリヌクレオチドに公知の方法で突然変異導入し、得られたポリヌクレオチドを発現させてアラビノフラノシダーゼ活性を調べ、所望のアラビノフラノシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを選択することによって、得ることができる。
ポリヌクレオチドへの部位特異的変異導入は、例えば、インバースPCR法やアニーリング法など(村松ら編、「改訂第4版 新遺伝子工学ハンドブック」、羊土社、p.82-88)の任意の手法により行うことができる。必要に応じてStratagene社のQuickChange II Site-Directed Mutagenesis Kitや、QuickChange Multi Site-Directed Mutagenesis Kit等の各種の市販の部位特異的変異導入用キットを使用することもできる。あるいは、ヌクレオチド配列に対するヌクレオチドの欠失、置換、付加、又は挿入の方法は、例えば、Dieffenbachら(Cold Spring Harbar Laboratory Press,New York,581-621,1995)に記載されている。
必要に応じて、本発明のポリヌクレオチドは、それを導入する宿主にあわせてコドン至適化されてもよい。各種生物が使用するコドンの情報は、Codon Usage Database([www.kazusa.or.jp/codon/])から入手可能である。
本発明のポリヌクレオチドを含むベクターの種類としては、特に限定されず、遺伝子のクローニングに通常用いられるベクター、例えばプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス、YAC、BAC等が挙げられる。このうち、プラスミドベクターが好ましく、その例としては、市販のタンパク質発現用プラスミドベクター、例えばシャトルベクターpHY300PLK、pUC19、pUC119、pBR322(いずれもタカラバイオ株式会社製)、pNAN8142(Minetokiら、J Biol Macromol,2003,3(3):89-96)などを好適に用いることができる。
前記ベクターは、DNAの複製開始領域又は複製起点を含むDNA領域を含み得る。あるいは、前記ベクターにおいては、本発明のポリヌクレオチド(すなわち本発明のアラビノフラノシダーゼ遺伝子)の上流に、該遺伝子の転写を開始させるためのプロモーター領域、ターミネーター領域、又は、発現されたタンパク質を細胞外へ分泌させるための分泌シグナルペプチドをコードする分泌シグナル配列などの制御配列が作動可能に連結されていてもよい。
前記プロモーター領域、ターミネーター、分泌シグナル配列等の制御配列の種類は、特に限定されず、導入する宿主に応じて、通常使用されるプロモーターや分泌シグナル配列を適宜選択して用いることができる。例えば、本発明のベクターに組み込むことができる制御配列の好適な例としては、Trichoderma reesei由来cbh1プロモーター配列(Curr,Genet,1995,28(1):71-79)が挙げられる。あるいは、その他のセロビオハイドロラーゼ、エンドグルカナーゼ、βグルコシダーゼ、キシラナーゼ、βキシロシダーゼなどの糖化酵素を発現するプロモーターを使用してもよい。あるいは、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、ピルビン酸キナーゼなどの代謝経路の酵素のプロモーターを使用してもよい。
あるいは、前記ベクターには、該ベクターが適切に導入された宿主を選択するためのマーカー遺伝子(例えば、アンピシリン、ネオマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコールなどの薬剤の耐性遺伝子)がさらに組み込まれていてもよい。あるいは、宿主に栄養要求性株を使用する場合、要求される栄養の合成酵素をコードする遺伝子をマーカー遺伝子としてベクターに組み込んでもよい。またあるいは、生育のために特定の代謝を必須とする選択培地を用いる場合、該代謝の関連遺伝子をマーカー遺伝子としてベクターに組み込んでもよい。このような代謝関連遺伝子の例としては、アセトアミドを窒素源として利用するためのアセトアミダーゼ遺伝子が挙げられる。
本発明のポリヌクレオチドと、制御配列及びマーカー遺伝子との連結は、SOE(splicing by overlap extension)-PCR法(Gene,1989,77:61-68)などの当該分野で公知の方法によって行うことができる。連結した断片のベクターへの導入手順は、当該分野で周知である。
前記ベクターを導入する形質転換体の宿主の例としては、細菌、糸状菌などの微生物が挙げられる。細菌の例としては、大腸菌(Escherichia coli)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、リステリア属(Listeria)、バチルス属(Bacillus)に属する細菌などが挙げられ、このうち、大腸菌及びバチルス属細菌(例えば、枯草菌又はその変異株)が好ましい。枯草菌変異株の例としては、J.Biosci.Bioeng.,2007,104(2):135-143に記載のプロテアーゼ9重欠損株KA8AX、ならびにBiotechnol.Lett.,2011,33(9):1847-1852に記載の、プロテアーゼ8重欠損株にタンパク質のフォールディング効率を向上させたD8PA株を挙げることができる。糸状菌の例としては、トリコデルマ属(Trichoderma)、アスペルギルス属(Aspergillus)、リゾプス属(Rizhopus)などが挙げられ、このうち、アスペルギルス属が好ましい。
宿主へのベクターの導入の方法としては、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法などの当該分野で通常使用される方法を用いることができる。導入が適切に行われた株をマーカー遺伝子の発現、栄養要求性などを指標に選択することで、ベクターが導入された目的の形質転換体を得ることができる。
あるいは、本発明のポリヌクレオチドを含むDNA断片を、宿主のゲノムに直接導入することもできる。例えば、SOE-PCR法などにより、作動可能に連結された本発明のポリヌクレオチド、制御配列及びマーカー遺伝子を含み、且つ両端に宿主のゲノムと相補的な配列を有するDNA断片を構築し、これを宿主に導入して、宿主ゲノムと該DNA断片との間に相同組換えを起こさせることによって、本発明のポリヌクレオチドが宿主のゲノムに導入される。
得られた本発明のポリヌクレオチド又はそれを含むベクターが導入された形質転換体を、適切な培地で培養すれば、該ポリヌクレオチド又はベクター上のアラビノフラノシダーゼ遺伝子が発現して本発明のアラビノフラノシダーゼ又はそのプレタンパク質が生成される。当該形質転換体の培養に使用する培地は、当該形質転換体の微生物の種類にあわせて、当業者が適宜選択することができる。あるいは、本発明のアラビノフラノシダーゼ又はそのプレタンパク質は、無細胞翻訳系を使用して本発明のポリヌクレオチド又はその転写産物から発現させてもよい。「無細胞翻訳系」とは、宿主となる細胞を機械的に破壊して得た懸濁液にタンパク質の翻訳に必要なアミノ酸等の試薬を加えて、in vitro転写翻訳系又はin vitro翻訳系を構成したものである。
前記培養物又は無細胞翻訳系にて生成された本発明のアラビノフラノシダーゼ又はそのプレタンパク質は、タンパク質精製に用いられる一般的な方法、例えば、遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、単離又は精製することができる。このとき、形質転換体に導入された本発明のアラビノフラノシダーゼをコードするポリヌクレオチドが分泌シグナル配列と作動可能に連結されている場合、生成されたアラビノフラノシダーゼは細胞外に分泌されるため、より容易に培養物から回収され得る。培養物から回収されたアラビノフラノシダーゼは、公知の手段でさらに精製されてもよい。
(3.バイオマス糖化のための酵素組成物)
本発明のアラビノフラノシダーゼは、後述の実施例に示すとおり、アラビノフラノシダーゼ活性に優れており、ヘミセルラーゼ分解を促進することでバイオマス糖化率を向上させる。したがって、本発明のアラビノフラノシダーゼは、バイオマス糖化のために使用することができる。よって、さらなる一実施形態において、本発明は、本発明のアラビノフラノシダーゼを含有するバイオマス糖化のための酵素組成物を提供する。
本発明で提供されるバイオマス糖化のための酵素組成物(以下、本発明の酵素組成物ともいう)は、前述した本発明のアラビノフラノシダーゼを含有し、且つバイオマス糖化率の向上の観点から、さらにセルラーゼを含有する。ここで、セルラーゼとは、セルロースのβ-1,4-グルカンのグリコシド結合を加水分解する酵素を指し、エンドグルカナーゼ、エクソグルカナーゼ又はセロビオハイドロラーゼ、及びβ-グルコシダーゼなどと称される酵素の総称である。バイオマス糖化率の向上の観点からは、本発明の酵素組成物に含有されるセルラーゼは、セロビオハイドロラーゼ及びエンドグルカナーゼからなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。本発明の酵素組成物に含有されるセルラーゼは、動物、植物、及び微生物由来のセルラーゼから選択されるいずれであってもよく、又は市販のセルラーゼを使用することもできる。これらのセルラーゼは、単独で使用されても2種以上の組合せで使用されてもよい。
本発明の酵素組成物に含有されるセルラーゼの例としては、これらに限定されるものではないが、トリコデルマ・リーゼ(Trichoderma reesei)由来のセルラーゼ;トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)由来のセルラーゼ;バチルス・エスピー(Bacillus sp.)KSM-N145(FERM P-19727)、バチルス・エスピー KSM-N252(FERM P-17474)、バチルス・エスピー KSM-N115(FERM P-19726)、バチルス・エスピー KSM-N440(FERM P-19728)、バチルス・エスピー KSM-N659(FERM P-19730)などの各種バチルス株由来のセルラーゼ;パイロコッカス・ホリコシ(Pyrococcus horikoshii)由来の耐熱性セルラーゼ;フミコーラ・インソレンス(Humicola insolens)由来のセルラーゼ、などが挙げられる。これらの中で、バイオマス糖化率の向上の観点から、トリコデルマ・リーゼ、トリコデルマ・ビリデ、又はフミコーラ・インソレンス由来のセルラーゼが好ましい。また、上記の微生物に対して外来性に導入したセルラーゼ遺伝子を発現させて得られた組換えセルラーゼを用いてもよい。具体例としては、トリコデルマ・リーゼに対してアスペルギルス・アクリータス由来のβ-グルコシダーゼ遺伝子を導入して得られたX3AB1株(J.Ind.Microbiol.Biotechnol.(2012)1741-9)が生産するセルラーゼJN11が挙げられる。
本発明の酵素組成物に含有され得るセルラーゼのうち、セロビオハイドロラーゼの例としては、トリコデルマ・リーゼ、トリコデルマ・ビリデ、アクレモニウム・セルロリティカス(Acremonium celluloriticus)、フミコーラ・インソレンス、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、バチルス(Bacillus)、サーモビフィダ(Thermobifida)、セルロモナス(Cellulomonas)由来のセロビオハイドロラーゼなどが挙げられる。
エンドグルカナーゼの例としては、トリコデルマ・リーゼ、アクレモニウム・セルロリティカス、フミコーラ・インソレンス、クロストリジウム・サーモセラム、バチルス、サーモビフィダ、セルロモナス由来のエンドグルカナーゼなどが挙げられる。このうち、バイオマス糖化率向上の観点から、トリコデルマ・リーゼ、フミコーラ・インソレンス、バチルス、セルロモナス由来のエンドグルカナーゼが好ましく、トリコデルマ・リーゼ由来のエンドグルカナーゼがより好ましい。
β-グルコシダーゼの例としては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来のβ-グルコシダーゼ(例えば、ノボザイムズ社製ノボザイム188及びメガザイム社製β-グルコシダーゼ)、アスペルギルス・アクリータス由来のβ-グルコシダーゼ、ならびにトリコデルマ・リーゼ又はペニシリウム・エメルソニイ(Penicillium emersonii)由来のβ-グルコシダーゼなどが挙げられる。このうち、バイオマス糖化率向上の観点から、ノボザイム188、及びトリコデルマ・リーゼ由来のβ-グルコシダーゼが好ましく、トリコデルマ・リーゼ由来のβ-グルコシダーゼがより好ましい。
市販のセルラーゼの例としては、セルクラスト(登録商標)1.5L(ノボザイムズ社製)、TP-60(明治製菓株式会社製)、Cellic(登録商標)CTec2(ノボザイムズ社製)、AccelleraseTMDUET(ジェネンコア社製)、及びウルトラフロ(登録商標)L(ノボザイムズ社製)、などの市販のセルラーゼ製剤が挙げられる。
本発明の酵素組成物は、前述した本発明のアラビノフラノシダーゼのヘミセルラーゼをさらに含有していてもよい。ここで、ヘミセルラーゼとは、へミセルロースを加水分解する酵素を指し、キシラナーゼ、キシロシダーゼ、ガラクタナーゼなどと称される酵素の総称である。本発明のアラビノフラノシダーゼ以外のヘミセルラーゼの例としては、トリコデルマ・リーゼ由来のヘミセルラーゼ;バチルス・エスピー KSM-N546(FERM P-19729)由来のキシナラーゼ;アスペルギルス・ニガー、トリコデルマ・ビリデ、フミコーラ・インソレンス、又はバチルス・アルカロフィルス(Bacillus alcalophilus)由来のキシラナーゼ;サーモマイセス(Thermomyces)、オウレオバシジウム(Aureobasidium)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、クロストリジウム(Clostridium)、サーモトガ(Thermotoga)、サーモアスクス(Thermoascus)、カルドセラム(Caldocellum)、又はサーモモノスポラ(Thermomonospora)属由来のキシラナーゼ;バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)由来のβ-キシロシダーゼ;セレノモナス・ルミナンティウム(Selenomonas ruminantium)由来β―キシロシダーゼ、などが挙げられる。このうち、糖化効率向上の観点から、本発明の酵素組成物は、バチルス・エスピー、アスペルギルス・ニガー、トリコデルマ・ビリデもしくはストレプトマイセス由来のキシラナーゼ、又はセレノモナス・ルミナンティウム由来のβ-キシロシダーゼを含有することが好ましく、バチルス・エスピー若しくはトリコデルマ・ビリデ由来のキシナラーゼ、又はセレノモナス・ルミナンティウム由来のβ-キシロシダーゼを含有することがより好ましい。
本発明の酵素組成物における、本発明のアラビノフラノシダーゼの含有量は、該組成物の総タンパク質量中、0.1質量%以上70質量%以下の範囲であればよく、好ましくは0.5質量%以上50質量%以下の範囲である。本発明の酵素組成物におけるセルラーゼの含有量は、該組成物の総タンパク質量中、10質量%以上99質量%以下の範囲であればよく、好ましくは15質量%以上95質量%以下の範囲である。本発明の酵素組成物における、本発明のアラビノフラノシダーゼ以外のヘミセルラーゼの含有量は、該組成物の総タンパク質量中、0.01質量%以上30質量%以下の範囲であればよく、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下の範囲である。本発明の酵素組成物における、本発明のアラビノフラノシダーゼとセルラーゼとのタンパク質量比(本発明のアラビノフラノシダーゼ/セルラーゼ)は、0.001以上7以下の範囲であればよく、好ましくは0.005以上1以下である。
(4.糖の製造方法)
本発明の酵素組成物は、バイオマスから糖を製造するために用いられる。したがって、本発明は、本発明の酵素組成物を用いた、バイオマスからの糖の製造方法を提供する。本発明によるバイオマスからの糖の製造方法(以下、本発明の方法ともいう)は、バイオマスを、本発明の酵素組成物(すなわち、本発明のアラビノフラノシダーゼとセルラーゼの併用)で糖化処理する工程を含む。
本発明の方法に用いるバイオマスは、前述したとおりであるが、入手容易性、原料コスト、及びバイオマス糖化率向上の観点からは、該バイオマスとしては、木材、木材の加工物又は粉砕物、植物の茎や葉又は果房などが好ましく、バガス、EFB、アブラヤシ(幹部)、エリアンサスがより好ましく、バガスがさらに好ましい。該バイオマスは、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。また該バイオマスは乾燥されていてもよい。
バイオマスを糖化処理する際には、粉砕効率向上、糖化率向上、及び生産効率向上(すなわち糖生産時間の短縮)の観点から、糖化処理する工程の前に、当該バイオマスを前処理する工程をさらに含むことが好ましい。
前記前処理としては、例えば、アルカリ処理、粉砕処理及び水熱処理からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。バイオマス糖化率向上の観点からは、該前処理としてはアルカリ処理が好ましい。
前記アルカリ処理とは、バイオマスを、後述する塩基性化合物と反応させることをいう。該アルカリ処理の方法としては、バイオマスを、後述する塩基性化合物を含むアルカリ溶液に浸漬する方法(以下、「浸漬処理」ということがある)、バイオマスと塩基性化合物とを混合して、後述する粉砕処理にかける方法(以下、「アルカリ混合粉砕処理」ということがある)などが挙げられる。
前記粉砕処理とは、バイオマスを機械的に粉砕して小粒子化することをいう。バイオマスを小粒子化することにより、糖化率がより向上する。また、該粉砕処理により、バイオマスに含まれるセルロースの結晶構造が破壊されると、糖化率がなお向上する。該粉砕処理は公知の粉砕機を用いて行うことができる。用いられる粉砕機に特に制限はなく、バイオマスを小粒子化することができる装置であればよい。該粉砕処理は、上述した塩基性化合物によるアルカリ処理と組み合わせてもよい。該粉砕処理は、アルカリ処理の前又は後に行ってもよく、あるいは、粉砕処理と並行してアルカリ処理、例えば前述したアルカリ混合粉砕処理を行ってもよい。アルカリ混合粉砕処理では、例えば、アルカリ溶液に浸漬したバイオマスを粉砕処理にかけてもよく(湿式粉砕)、又は固体のアルカリとバイオマスとを一緒に粉砕処理にかけてもよいが(乾式粉砕)、このうち、乾式粉砕が好ましい。
前記水熱処理とは、バイオマスを、水分の存在下で加熱処理することをいう。該水熱処理は、公知の反応装置を用いて行うことができ、用いられる反応装置に特に制限はない。
バイオマスの糖化処理の条件は、本発明の酵素組成物に含まれる酵素が失活しない条件であれば、特に限定されない。適切な条件は、バイオマスの種類や前処理工程の手順、使用する酵素の種類により当業者が適宜決定することができる。
前記糖化処理においては、必要に応じて前記前処理を行ったバイオマスに本発明の酵素組成物を添加して、糖化反応を起こさせる。バイオマスを含む懸濁液に、本発明の酵素組成物を添加することが好ましい。このとき、本発明の酵素組成物の成分、すなわち本発明のアラビノフラノシダーゼとセルラーゼ、及び必要に応じて他の酵素は、バイオマスに対して同時に添加されてもよく、又は順次もしくは別々に添加されてもよい。
前記懸濁液中のバイオマスの含有量は、バイオマス糖化率又は糖生産効率の向上(すなわち糖生産時間の短縮)の観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であり、そして好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。例えば、0.5~30質量%、0.5~25質量%、又は0.5~20質量%が好ましく、3~30質量%、3~25質量%、又は3~20質量%がより好ましく、5~30質量%、5~25質量%、又は5~20質量%がさらに好ましい。
前記糖化処理のための反応液中におけるバイオマスの初期濃度は、バイオマス糖化率又は糖生産効率の向上(すなわち糖生産時間の短縮)の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であり、そして好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。例えば、1~30質量%、1~20質量%、又は1~15質量%が好ましく、2~30質量%、2~20質量%、又は2~15質量%がより好ましく、3~30質量%、3~20質量%、又は3~15質量%がさらに好ましい。
前記糖化処理における本発明の酵素組成物の使用量は、前記前処理条件、ならびに併用する酵素の種類及び性質により適宜決定され得る。例えば、該糖化処理のための反応液中における本発明の酵素組成物の初期濃度は、バイオマス質量(100質量%)に対して、本発明のアラビノフラノシダーゼの質量に換算して、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.0002質量%以上、さらに好ましくは0.0005質量%以上であり、そして好ましくは100質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下であり、あるいは、セルラーゼの質量に換算して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上であり、そして100質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
例えば、該反応液中における本発明のアラビノフラノシダーゼの初期濃度は、バイオマス質量(100質量%)に対して、0.0001~100質量%、0.0001~50質量%、又は0.0001~20質量%が好ましく、0.0002~100質量%、0.0002~50質量%、又は0.0002~20質量%がより好ましく、0.0005~100質量%、0.0005~50質量%、又は0.0005~20質量%がさらに好ましい。あるいは、該反応液中におけるセルラーゼの初期濃度は、バイオマス質量(100質量%)に対して、0.01~100質量%、0.01~50質量%、又は0.01~20質量%が好ましく、0.02~100質量%、0.02~50質量%、又は0.02~20質量%がより好ましく、0.03~100質量%、0.03~50質量%、又は0.03~20質量%がさらに好ましい。該反応液中における本発明のアラビノフラノシダーゼとセルラーゼとのタンパク質量比(本発明のアラビノフラノシダーゼ/セルラーゼ)は、0.001以上7以下の範囲であればよく、好ましくは0.005以上1以下である。
前記糖化処理のための反応液のpHは、バイオマス糖効率又は糖生産効率向上(すなわち糖生産時間の短縮)、及び生産コスト低減の観点から、好ましくはpH2.0以上、さらに好ましくはpH3.0以上であり、そして好ましくはpH5.5以下、より好ましくはpH5.0以下である。例えば、pH2.0~5.5が好ましく、pH3.0~5.0がより好ましい。
前記糖化処理の反応温度は、バイオマス糖化率又は糖生産効率の向上(すなわち糖生産時間の短縮)、生産コスト低減、及び同時に使用するセルラーゼの至適温度及び温度安定性の観点から、40~60℃が好ましい。該糖化処理の反応時間は、バイオマスの種類若しくは量、酵素量などに合わせて適宜設定することができるが、糖化効率又は糖生産効率向上(すなわち糖生産時間の短縮)、及び生産コスト低減の観点から、好ましくは1~5日間、より好ましくは1~4日間、さらに好ましくは1~3日間である。
前記糖化処理で製造される糖の種類としては、グルコース、キシロース、マンノース、アラビノースなどが挙げられる。製造された糖化液は、スクリュープレス、スクリーン、フィルタープレス、ベルトプレス、ロータリープレス等を用いた固液分離や、蒸留分離などの公知の手法により反応液から回収及び精製することができる。
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<実施例1>アラビノフラノシダーゼの製造
Aspergillus aculeatus No.F-50由来アラビノフラノシダーゼF5054ABFを製造した。
(1)染色体DNAの調製
Aspergillus aculeatus No.F-50を30℃で約2日間培養し、菌体を濾過により集菌し、蒸留水で洗浄後、凍結乾燥した。これを乳鉢で少量の摩砕用海砂と共に粉末になるまで破砕した後、充分懸濁できる程度の量の菌体を50mL容キャップ付遠心チューブに入れ、2,160μLのExtraction buffer(0.1M Tris-HCl(pH8.0)、0.1M EDTA、0.25M NaCl)を加え、よく懸濁した。得られた懸濁液に240μLの10%Sarkosylと数mgの粉末Proteinase Kを加え、30分毎に攪拌しながら溶菌が認められるまで、2時間以上55℃でインキュベートした。懸濁液が粘性を帯びてきたら、さらに280μLの5M NaCl溶液を加えてよく混ぜ、次いで予め65℃に温めておいたCTAB/NaCl溶液(10%Hexadecyltrimethyl ammonium bromide in 0.7M NaCl)を300μL加え、65℃で10分間インキュベートした。得られた液をクロロホルム抽出し、遠心分離(4℃、13,500rpm、10分間)して水層をマイクロチューブに移し、さらにフェノール/クロロホルム抽出後、遠心分離(4℃、13,500rpm、5分間)して水層を回収した。回収した水層を5分間氷上で静置した後、約等量の氷冷したイソプロパノールを重層し、DNAの沈殿が出現するまで穏やかに振盪した。振盪後の液からDNAの沈殿を釣り上げ、1mLの70%EtOHで洗浄し、真空乾燥後、500μLのTE bufferに懸濁した。得られた懸濁液に1μLのRNase solution(10mg/mL)を加え、37℃で30分間インキュベートした後、2層の境界面に沈殿物が出現しなくなるまでフェノール/クロロホルム抽出を繰り返した。最後の抽出で得られた上層を別のチューブに入れ、1/10容の3M NaOAcを加え、氷上で5分間静置した後、約等量の氷冷したイソプロパノールを加え、白いDNAの沈殿が出現するまで穏やかにチューブを振盪した。出現したDNAの沈殿を釣り上げ、1mLの70%EtOHで数回洗浄し、空のチューブに移して軽く乾燥後、適当量のTE bufferに懸濁した。
(2)アラビノフラノシダーゼDNAの調製
得られたAspergillus aculeatus No.F-50染色体DNAを鋳型として、表1に示したプライマーセット(配列番号4及び5)を用いてPCRすることで、F5054ABFをコードする遺伝子配列(配列番号3)を含む約1.5kbp断片を増幅した。PCRには、PrimeSTARTM HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)及び添付のbufferを用いた。F5054ABFは、その遺伝子配列から糖質加水分解酵素ファミリー54(GH54)に分類される酵素であると推定された。
(3)F5054ABF発現用ベクターpNAN-54aの作製
上記(2)で取得した遺伝子断片をアガロース電気泳動で精製し、pUC119のマルチクローニングサイト内にあるHind III/Xba Iサイトにサブクローニングした。目的遺伝子のサブクローニングの確認は、構築したプラスミドをHind III/Xba I処理することによって行った。構築したプラスミドを大量調製し、Hind III/Xba I処理を行い、アガロースゲル電気泳動、ゲル回収を経て目的遺伝子断片を精製した。精製した目的遺伝子断片を糸状菌高発現ベクターであるpNAN8142(Minetokiら、2003,J Biol Macromol,3(3):89-96)のマルチクローニングサイト内にあるHind III/Xba Iサイトにサブクローニングし、Hind III/Xba I処理により断片が正しくサブクローニングされていることを確認した。構築したプラスミドをpNAN-54aと名付けた。
(4)形質転換体の作製
Aspergillus oryzae niaD300(J Biosci Bioeng,2001;92(2):131-137)に対して、上記(3)で構築したベクターpNAN-54aの形質転換を行った。ベクターの導入はプロトプラストPEG法で、Gomiら(Agric Biol Chem,1987,51(9):2549-2555)の方法を参照して行った。形質転換体は選択培地であるRMプレート(5%Salts solution、1%グルコース、0.3%NaNO3、4.68%NaCl、0.1%Trace element;%はw/v%、pH6.5)にて選抜した。Salts solutionの組成は以下のとおりである:2.6%KCl、2.6%MgSO4・7H2O、7.6%KH2PO4(%はw/v%)。Trace elementの組成は以下のとおりである:0.5%FeSO4・7H2O、0.16%CoCl2・6H2O、0.16%CuSO4・5H2O、0.11%Mo724・4H2O、0.11%H3BO3、5.0%EDTA(%はw/v%)。選択培地にて30℃で3~5日間培養後に生育してきた株を単離した。単離した株を胞子化してから、Tween/Saline溶液で分散して胞子懸濁液を調製した。該懸濁液を0.01%Triton X-100を含む最少培地(最少培地の組成は下記(5)参照)に少量塗布して培養し、単核の胞子から形成されたコロニーを分離することで形質転換体のモノスポア化を行った。
(5)形質転換体の培養
最少培地(NO3 )プレートに生育した菌株をスパーテルで切り出し、グルコースを3%、NaNO3を0.9%に調整した最少培地200mLを入れた500mL容バッフル付き三角フラスコに植菌し、30℃、160rpmで3日間程度培養した。最少培地(NO3 )の組成は以下のとおりである:5%Salts solution、0.1%Trace element、1%グルコース、0.3%NaNO3、pH6.5(%はw/v%)。Salts solution及びTrace elementの組成は上記(4)のとおりである。
(6)F5054ABFの精製
上記(5)で得た培養上清を、濾紙(No.2,ADVANTEC社製)を敷いたブフナー漏斗で吸引濾過し、濾液を粗酵素液として回収した。粗酵素液から下記の手順にて酵素の精製を行った。
粗酵素液にAmmonium sulfateを加えて30%飽和Ammonium sulfate溶液とした。得られた粗酵素溶液を予め30%飽和Ammonium sulfate溶液(in 20mM Acetate buffer(pH5.0))で平衡化したPhenyl-TOYOPEARL 650M(東ソー)に通して酵素を吸着させ、30~0%飽和Ammonium sulfate溶液(in 20mM Acetate buffer(pH5.0))1Lのリバースリニアグラジエントで溶出した。A280の値と終濃度1mM pNP-Araに対する活性が重なる画分をSDS-PAGEにかけ、約60kDaのバンドが確認された画分を回収した。
回収した画分にAmmonium sulfateを加えて80%飽和Ammonium sulfate溶液とし、硫安塩析を行った。遠心分離(4℃、9,000rpm,45分間)によって沈殿を回収後、少量の20mM Acetate buffer(pH5.0)に溶解した。これを透析膜(三光純薬社)を用いて20mM Acetate buffer(pH5.0)中で一晩透析した。集めたサンプルを予め20mM Acetate buffer(pH5.0)で平衡化したDEAE-TOYOPEARL 650 (東ソー)に通して酵素を吸着させ、0~0.3M NaCl溶液(in 20mM Acetate buffer(pH5.0))1Lのリニアグラジエントで溶出し、pNP-Araに対する活性を示す画分を回収した。回収した画分を再び硫安塩析し、遠心分離(4℃、12,000rpm,45分間)によって沈殿を回収後、少量の20mM Acetate buffer(pH5.0)に溶解した。これを一晩透析し、精製酵素液を得た。
精製酵素液に含まれるF5054ABFは、アラビノフラノシダーゼのプレタンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)から推定シグナル配列(1~26位)を除いたアミノ酸配列からなる成熟アラビノフラノシダーゼ(配列番号1)である。なお、シグナル配列の予測にはsignalP(Bendtsenら,J Mol Biol,2004,340:783-795)を用いた。
<実施例2>F5054ABFの酵素特性
(1)タンパク質濃度測定
実施例1で調製した精製酵素液におけるタンパク質の濃度は、吸光係数による測定とbradford法にて測定した。吸光係数による測定は、OD280nmを測定することによりタンパク質濃度を決定した。酵素の吸光係数は、ProtParam(web.expasy.org/protparam/)(Gasteigerら,The Proteomics Protocols Handbook,(ed)John M.Walker,Humana Press,2005の571-607頁)により検索した。bradford法では、プロテインアッセイ試薬(Bio-Rad社製)を使用し、ウシγグロブリンを標準タンパク質とした検量線をもとにタンパク質量を計算した。
(2)p-ニトロフェニル-α-Lアラビノフラノシド分解活性
F5054ABFのα-L-アラビノフラノシダーゼ活性を測定した。活性測定はpNP法により行った。基質溶液として1mM p-Nitrophenyl-α-L-arabinofuranoside(フナコシ、以下、pNP-Ara)溶液(in 20mM Acetate buffer(pH5.0))を用いた。精製酵素液は20mM Acetate buffer(pH5.0)で適切な濃度に希釈し、酵素溶液を調製した。5分間37℃でプレインキュベートした酵素溶液100μLに、同じくプレインキュベートした基質溶液100μLを加えてよく混合し、37℃にて10分間反応させた。反応液に2mLの1M Na2CO3を加えて反応を停止させ、遊離したp-ニトロフェノール濃度を表す405nmを測定した。酵素溶液の代わりにAcetate buffer(pH5.0)を添加したものをブランクとした。測定した吸光度とpNPの吸光係数から、以下の式により精製酵素液の酵素活性を求めた。1unit(U)は、1分間に1μmolのp-ニトロフェノールを遊離する酵素量として定義した。
酵素活性(unit/mL)=(ΔA405×反応液量(mL)×精製酵素サンプル希釈率)/(ε405nm×試料量(mL)×反応時間(min))
ΔA405:反応液の405nm吸光度からブランク値を引いた値
ε405nm:1.85μL/μmol/cm
算出した精製酵素液の酵素活性と、上記(1)で求めた精製酵素液のタンパク質濃度に基づいて、以下の式にて質量当たり酵素活性を求めた。
比活性(U/mg)=酵素活性(unit/mL)/酵素重量(mg/mL)
表2に示すとおり、F5054ABFのpNP-Ara分解活性は53.4U/mgであった。
(3)基質特異性
精製酵素液を各種pNP配糖体、又は天然基質と反応させて、F5054ABFの基質特異性を評価した。
pNP配糖体としては、以下を用いた:p-Nitrophenyl-β-D-xylopyranoside(pNP-Xyl,Sigma-Aldrich)、p-Nitrophenyl-α-L-arabinopyranoside(pNP-α-Arap,Sigma-Aldrich)、又はp-Nitrophenyl-β-L-arabinopyranoside(pNP-β-Arap,Sigma-Aldrich)。pNP配糖体に対する酵素活性は、pNP法により上記(2)の手順に従って測定した。基質溶液として終濃度1mMpNP配糖体-20mM Acetate buffer溶液を使用した。酵素反応は37℃で10分間行った。
天然基質としては、以下を用いた:Wheat arabinoxylan(Megazyme)、Rye arabinoxylan(Megazyme)、Beech wood xylan(Sigma-Aldrich)、Oat spelt xylan(東京化成工業)、Sugar beet arabinan(Megazyme)、又はDebranched arabinoxylan(Megazyme)。天然基質に対する酵素活性は、Somogyi-Nelson法によりDuboisらの方法(Duboisら,Analytical Chemistry,1956,28:350-356)に従って行った。基質溶液として終濃度0.1%(w/v)に調整した上記天然基質の溶液(in 20mM Acetate buffer(pH5.0))を使用した。精製酵素溶液を20mM Acetate buffer(pH5.0)で適当に希釈した。希釈液100μLに基質溶液を100μL加え、37℃で、16時間又は10分間反応させた。反応液にSomogyi液500μLを加えて反応を停止させ、次いでイオン交換水を300μL加えて、15分間100℃で煮沸し、5分間流水中で冷却し、Nelson液を500μL加えて攪拌し、室温にて30分間放置した。得られた液に3.5mLのイオン交換水を加えて攪拌し、分光光度計で500nmの吸光度を測定した。精製酵素溶液の希釈液にSomogyi液500μLを加えたものをブランクとした。測定した吸光度から、既知濃度のAra溶液を用いて作成した検量線をもとに、反応液中の還元等量を算出した。算出した還元糖量から、以下の式により、天然基質に対する精製酵素液の酵素活性を求めた。1unitは、1分間に1μmolの還元糖を生産する酵素量として定義した。
酵素活性(unit/mL)={還元糖量×反応時間(min)}×(1/0.1mL)×精製酵素サンプル希釈率
検量線(Ara):y=337.52×A500+0.967
500:反応液の500nm吸光度からブランク値を引いた値
Ara分子量:150.13
還元糖量(μg/mL)=y/150.13
算出した精製酵素液の酵素活性と、精製酵素液のタンパク質濃度に基づいて、以下の式にて質量当たり酵素活性を求めた。
比活性(U/mg)=酵素活性(unit/mL)/酵素重量(mg/mL)
各種基質に対する酵素活性を表2に示す。F5054ABFは、pNP-Araに対して最も高い活性を示し、アラビノース含有多糖であるWheat arabinoxylan、Rye arabinoxylan、Sugar beet arabinan,Debranched arabinanにも若干の活性を示した。一方、F5054ABFは、pNP-Araのピラノース型であるpNP-α-Arap、pNP-β-Arap、ならびにpNP-Xyl、Beech wood xylan(Sigma-Aldrich)、Oat spelt xylanなどのキシロース含有糖に対してはほとんど活性を示さなかった。F5054ABFと同じくGH54に属し、アミノ酸配列相同性が69%であるAspergillus nigerのアラビノフラノシダーゼBは、pNP-Araに対して最も高い活性(147U/mg)を示し、arabinanに対しても活性を示した(1.6U/mg)ことが報告されている(Romboutsら,Carbohydrate Polymers,1988,9(1):25-47)。F5054ABFは、各種基質に対する比活性の傾向がA.nigerのアラビノフラノシダーゼBと類似していた。
(4)温度及びpHによる影響
F5054ABFの至適温度、至適pH、温度安定性、及びpH安定性を調べた。酵素活性は、上記(1)と同様にpNP法により、基質にpNP-Ara(in 20mM Acetate buffer(pH5.0))を用いて測定した。基質の終濃度は1mMとした。至適温度の評価では、精製酵素溶液の希釈液(in 20mM Acetate buffer)を、30~70℃の各温度で5分間プレインキュベート後、同温度でプレインキュベートした基質溶液を添加し、反応時間10分間で活性を測定した。至適pHの評価では、精製酵素溶液の希釈液を、pH2.2~11.7の100mM Britton-Robinson buffer(Britonら,Journal of the Chemical Society,1931,0:1456-1462)を用いて調製した基質溶液と37℃で10分間反応させたときの活性を調べた。温度安定性の評価では、精製酵素溶液の希釈液を30~70℃の各温度で30分間前処理し、氷中で5分間急冷した後、基質に対する残存活性を調べた。pH安定性の評価では、精製酵素溶液の希釈液を100mM Britton-Robinson buffer(pH2.2~11.7)(上述のBritonら,1931)で3~10倍希釈し、室温で1h前処理し、次いで100mM Acetate buffer(pH5.0)で10倍希釈することでpH5.0に戻した後、基質に対する残存活性を測定した。
図1~4にF5054ABFの至適温度、至適pH、温度安定性、及びpH安定性を示す。図1は、60℃での酵素活性に対する相対酵素活性を示す。F5054ABFの至適温度は50~60℃であり、50℃付近で90%以上の相対活性を示した。図2は、pH3.0での酵素活性に対する相対酵素活性を示す。F5054ABFの至適pHは、pH3.0~5.0で、この範囲で80%以上の相対活性を示した。温度安定性について、図3は、50℃で前処理した酵素の活性に対する相対酵素活性を示す。F5054ABFは60℃までの温度で80%以上の相対活性を示し、熱安定性に優れていた。pH安定性について、図4は、pH4.0で前処理した酵素の活性に対する相対酵素活性を示す。F5054ABFはpH2.5~6.0付近で80%以上の相対活性を示した。
(5)F5054ABFによる生成糖
F5054ABFによる多糖分解での生成糖を分析した。基質として、上記(3)で用いたWheat arabinoxylan、Rye arabinoxylan、Sugar beet arabinan、Debranched arabinoxylan、Beech wood xylan、及びOat spelt xylanを用いた。20mM Acetate buffer(pH5.0)で適度に希釈した精製酵素液100μLに、20mM Acetate buffer(pH5.0)で調製した0.2%(w/v)基質溶液100μLを添加し、50℃で10分又は1時間反応させた。5分間の煮沸処理により反応停止後、反応液に2倍量のアセトンを加え、ボルテックス、及び遠心分離(4℃、13,500rpm、10分間)し、沈殿を除いて真空乾燥した。得られた乾固物を精製水に溶解し、試料溶液とした。試料溶液に含まれる糖を、パルスアンペロメトリ検出を用いた高性能陰イオンクロマトグラフィー(HPAEC-PAD)により分析した。HPAEC-PADには、Dionex ICS-3000 Ion Chromatography System又はDionex ICS-5000 Ion Chromatography System、及びCarboPac PA100(guard column,4×50mm;analytical column,4×250mm)を用いた。サンプルループに30μL又は25μLの試料溶液をインジェクトし、20mM NaOHの溶離液を用いて流速1mL/minで分離を行った。スタンダードには、アラビノース又はキシロースを用いた。データ分析にはChromeleon Chromatography Data Systemを用いた。分析結果を表3に示す。
F5054ABFは、Sugar beet arabinanからの顕著なAra遊離を示した。Wheat arabinoxylan、Rye arabinoxylan、及びDebranched arabinanを基質とした場合もSugar beet arabinanほどではないが、Ara遊離が見られた。この傾向は、表2の比活性の傾向と同様であった。F5054ABFと同じくGH54に属し、アミノ酸配列相同性が72.6%であるAspergillus awamoriのα-L-AFase IIが、arabinoxylan、Debranched arabinan、arabinanの加水分解効率がそれぞれ16.0%、23.3%、67.4%で、arabinanに対して高い加水分解活性を示したことが報告されている(Kanekoら,Appl Environ Microbiol,1998,64(10):4021-4027)。同様にF5054ABFも、多糖の中でも特にarabinanを分解した。またこのことから、F5054ABFが、α-1,2結合又はα-1,3結合したアラビノース側鎖を分解する酵素であることが示唆された。
<実施例3>バイオマス糖化におけるF5054ABFの利用性
(1)バイオマスの調製
バイオマスとしてバガスを用いた。バガスを1%NaOH水溶液中で120℃、20分間処理し、洗浄することで、アルカリ処理バガス(組成:グルカン62.7%、キシラン17.9%)を得た。得られたアルカリ処理バガスを、糖化反応の基質として使用した。
(2)糖化反応
セルラーゼ剤として、Cellic(登録商標)Ctec2(Novozymes)を用いた。糖化反応は、Kawaiらの方法(Kawaiら,Journal of Industrial Microbiology and Biotechnology,2012,39(12):1741-1749)を参考に行った。5w/v%(乾燥質量)基質(in 100mM Acetate buffer(pH5.0))に、セルラーゼ剤3mg/g-基質(乾燥質量)と、精製酵素F5054AGF 0.1mg/g-基質(乾燥質量)を添加した。対照としてセルラーゼ剤のみを酵素として添加した反応液を調製した。反応液を50℃で72時間、150rpmで振盪させて糖化反応を行った。5分間の煮沸により反応停止させ、遠心分離(4℃、13,500rpm、10分間)し、上清を回収した。反応液中の生成糖は、Somogyi-Nelson法と、実施例2(5)に記載のHPAEC-PADにより分析した。セルラーゼ剤のみを用いた際に得られるグルコース、キシロース、アラビノース生成量を100%とし、F5054ABFとの併用で得られた糖量を相対値として算出した。
相対生成糖量を図5及び図6に示す。F5054ABFとセルラーゼ剤を併用した場合、バイオマスから生成される還元糖量の総量は、セルラーゼ剤単独の場合と比較して20%上昇した(図5)。また、F5054ABFとセルラーゼ剤を併用した場合、セルラーゼ剤単独の場合(100%)と比較して、グルコース生成量が2%、キシロース生成量が12%、及びアラビノース生成量が400%増加していた(図6)。これらの結果から、F5054ABFは、ヘミセルロースの分解を介してセルロースの分解を促進する、バイオマスの糖化に適した酵素であること、セルロースとの併用によりバイオマスからの効率的な糖の製造を可能にすることが示された。

Claims (11)

  1. バイオマス糖化のための酵素組成物であって、セルラーゼ及びアラビノフラノシダーゼを含有し、該アラビノフラノシダーゼが、下記(a)~(c)から選ばれるアミノ酸配列からなる、酵素組成物:
    (a)配列番号1のアミノ酸配列;
    (b)配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列;
    (c)配列番号1のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列。
  2. 前記アラビノフラノシダーゼの含有量が、総タンパク質量中0.1質量%以上70質量%以下である、請求項1記載の酵素組成物。
  3. 前記セルラーゼの含有量が、総タンパク質量中10質量%以上99質量%以下である、請求項1又は2記載の酵素組成物。
  4. 前記アラビノフラノシダーゼと前記セルラーゼとのタンパク質量比(アラビノフラノシダーゼ/セルラーゼ)が0.001以上7以下である、請求項1~3のいずれか1項記載の酵素組成物。
  5. 請求項1~4のいずれか1項記載の酵素組成物でバイオマスを糖化処理することを含む、バイオマスからの糖の製造方法。
  6. 前記バイオマスを、前記糖化処理の前に、アルカリ処理、粉砕処理及び水熱処理からなる群より選ばれる1種以上の前処理にかけることをさらに含む、請求項5記載の方法。
  7. 前記糖化処理のための反応液中における前記バイオマスの初期濃度が1~30質量%である、請求項5又は6記載の方法。
  8. 前記糖化処理のための反応液中における前記アラビノフラノシダーゼの初期濃度が、前記バイオマスの質量に対して0.0001~100質量%である、請求項5~7のいずれか1項記載の方法。
  9. 前記糖化処理のための反応液中における前記セルラーゼの初期濃度が、前記バイオマスの質量に対して0.1~100質量%である、請求項5~8のいずれか1項記載の方法。
  10. 前記糖化処理のための反応液がpH2.0~5.5である、請求項5~9のいずれか1項記載の方法。
  11. 前記糖化処理の反応温度が40~60℃である、請求項5~10のいずれか1項記載の方法。
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