JP2023140594A - マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法およびマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体 - Google Patents

マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法およびマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体 Download PDF

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Abstract

【課題】高い表面硬さと高い耐食性とを両立するマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体およびその製造方法を提供すること。【解決手段】Nbを含有するマルテンサイト系ステンレス鋼粉末、および有機バインダーを混合し、組成物を得る組成物調製工程と、前記組成物を成形し、成形体を得る成形工程と、前記成形体に含まれる前記有機バインダーの少なくとも一部を除去し、脱脂体を得る脱脂工程と、前記脱脂体に対し、900℃以上1100℃以下の温度で30分以上加熱する操作を含む焼結処理を行い、焼結体を得る焼結工程と、前記焼結体に対し、窒素を含有する窒素雰囲気下、700℃以上1300℃以下の温度で加熱する操作を含む窒化処理を行う窒化工程と、を有することを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法。【選択図】図1

Description

本発明は、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法およびマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体に関するものである。
特許文献1には、SUS420J2相当のステンレス鋼粉末を金属射出成形した後、窒化処理を行い、耐摩耗部品を製造することが開示されている。窒化処理を行うことで、窒化クロムを多く残留させることができ、表面硬さを向上させることができる。これにより、耐摩耗部品に耐摩耗性を付与することができる。
特開2005-126782号公報
しかしながら、窒化クロムは、耐食性を低下させる原因となる。このため、特許文献1に記載の耐摩耗部品は、表面硬さが向上する一方、耐食性の低下を招くことが懸念される。
本発明の適用例に係るマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法は、
Nbを含有するマルテンサイト系ステンレス鋼粉末、および有機バインダーを混合し、組成物を得る組成物調製工程と、
前記組成物を成形し、成形体を得る成形工程と、
前記成形体に含まれる前記有機バインダーの少なくとも一部を除去し、脱脂体を得る脱脂工程と、
前記脱脂体に対し、900℃以上1100℃以下の温度で30分以上加熱する操作を含む焼結処理を行い、焼結体を得る焼結工程と、
前記焼結体に対し、窒素を含有する窒素雰囲気下、700℃以上1300℃以下の温度で加熱する操作を含む窒化処理を行う窒化工程と、
を有することを特徴とする。
本発明の適用例に係るマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体は、
マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の焼結体であって、
Nbを含有し、
表面に位置し、オーステナイト相を含む平均厚さが10μm以上の窒化層と、
前記窒化層よりも内部に位置し、マルテンサイト相を含む基部と、
を有することを特徴とする。
実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法を示す工程図である。 焼結工程における加熱温度の時間変化を表すグラフの一例である。 窒化工程における加熱温度の時間変化を表すグラフの一例である。 実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体を模式的に示す断面図である。 実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体についてX線回折法(XRD)による結晶構造解析を行って得られたX線回折パターンP3、および、窒化処理を省略した製造方法により製造された焼結体から得られたX線回折パターンP4である。 実施例2および比較例3の表面からの深さとビッカース硬さとの関係(硬さ分布)を示すグラフである。 実施例2の焼結体から得られた電位と電流密度との関係、および、比較例3の焼結体から得られた電位と電流密度との関係を示すグラフである。
以下、本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法およびマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
1.マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法
図1は、実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法を示す工程図である。
図1に示すマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法は、組成物調製工程S102と、成形工程S104と、脱脂工程S106と、焼結工程S108と、窒化工程S110と、を有する。以下、各工程について順次説明する。
1.1.組成物調製工程
組成物調製工程S102では、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末および有機バインダーを混合し、組成物を得る。組成物の形態としては、例えば、混練物、造粒粉末等が挙げられる。この組成物は、後述する各工程を有する粉末冶金に供される。粉末冶金では、金属粉末と有機バインダーとを含む組成物を、所望の形状に成形した後、脱脂処理および焼結処理に供することにより、所望の形状の焼結体を得る。これにより、複雑で微細な形状の焼結体をニアネットシェイプ、すなわち最終形状に近い形状で製造することができる。
1.1.1.マルテンサイト系ステンレス鋼粉末
マルテンサイト系ステンレス鋼粉末には、マルテンサイト系ステンレス鋼の組成に所定量のNbを添加した粉末が用いられる。マルテンサイト系ステンレス鋼の組成としては、例えば、JIS規格に規定される化学成分が挙げられる。JIS規格では、マルテンサイト系ステンレス鋼の鋼種を記号で表している。この鋼種としては、例えば、SUS403、SUS410、SUS410L、SUS410S、SUS410J1、SUS410F2、SUS416、SUS420J1、SUS420J2、SUS420F、SUS420F2、SUS431、SUS440A、SUS440B、SUS440C、SUS440F等が挙げられる。
また、本工程で用いるマルテンサイト系ステンレス鋼粉末は、上述した鋼種にNbを添加した鋼種の粉末である他、上述した鋼種のうち、一部の元素の含有量を変更した鋼種や、規定されていない元素を追加したりした鋼種、にNbを添加した鋼種の粉末であってもよい。
以下、好ましい鋼種の例について説明する。マルテンサイト系ステンレス鋼粉末は、好ましくは、以下の化学成分を有するFe基合金の粉末とされる。
Cの含有率:0.42質量%以上1.20質量%以下
Siの含有率:1.00質量%以下
Mnの含有率:1.00質量%以下
Niの含有率:0.60質量%以下
Crの含有率:12.0質量%以上18.0質量%以下
Nbの含有率:0.5質量%以上3.0質量%以下
なお、上記化学成分では、残部がFeおよび不純物である。以下、各成分について説明する。
1.1.1.1.C(炭素)
C(炭素)は、Nbと併用されることで、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の粒子表面にNbCを析出させる。
マルテンサイト系ステンレス鋼粉末におけるCの含有率は、好ましくは0.42質量%以上1.20質量%以下とされるが、より好ましくは0.50質量%以上1.00質量%以下とされ、さらに好ましくは0.53質量%以上0.80質量%以下とされる。Cの含有率が前記下限値を下回ると、Nbの量に対してCの量が不足し、全体の組成比によっては、焼結密度を十分に高めることができない。一方、Cの含有率が前記上限値を上回ると、Nbの量に対してCの量が過剰になり、全体の組成比によっては、焼結反応が阻害され、焼結密度が低下するおそれがある。
1.1.1.2.Si(ケイ素)
Si(ケイ素)は、添加されることにより、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の耐酸化性を増加させる。これにより、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の焼結性を高めることができる。
マルテンサイト系ステンレス鋼粉末におけるSiの含有率は、好ましくは1.00質量%以下とされるが、より好ましくは0.30質量%以上0.90質量%以下とされ、さらに好ましくは0.50質量%以上0.80質量%以下とされる。
1.1.1.3.Mn(マンガン)
Mn(マンガン)は、添加されることにより、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末についてN(窒素)との親和性を高める。これにより、後述する窒化工程S110において、焼結体中への窒素の固溶が促進される。
マルテンサイト系ステンレス鋼粉末におけるMnの含有率は、好ましくは1.00質量%以下とされるが、より好ましくは0.30質量%以上0.90質量%以下とされ、さらに好ましくは0.50質量%以上0.85質量%以下とされる。
1.1.1.4.Ni(ニッケル)
Ni(ニッケル)は、Crと併用されることで、焼結体の耐食性および耐熱性を高める。
マルテンサイト系ステンレス鋼粉末におけるNiの含有率は、好ましくは0.60質量%以下とされるが、より好ましくは0.05質量%以上0.40質量%以下とされ、さらに好ましくは0.10質量%以上0.30質量%以下とされる。
1.1.1.5.Cr(クロム)
Cr(クロム)は、焼結体の耐食性および耐熱性を高める。
マルテンサイト系ステンレス鋼粉末におけるCrの含有率は、好ましくは12.0質量%以上18.0質量%以下とされるが、より好ましくは12.3質量%以上16.0質量%以下とされ、さらに好ましくは12.5質量%以上14.0質量%以下とされる。Crの含有率が前記下限値を下回ると、全体の組成比によっては、焼結体の耐食性が不十分になるおそれがある。一方、Crの含有率が前記上限値を上回ると、全体の組成比によっては、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の焼結性が低下し、焼結密度が低下するおそれがある。
1.1.1.6.Nb(ニオブ)
Nb(ニオブ)は、Cと併用されることで、金属粉末の粒子の表面にNbC(炭化ニオブ)を析出させる。これにより、脱脂体における急速な焼結の進行を抑制する。その結果、脱脂体の内部で発生した気体が閉じ込められるのを抑制し、脱脂体の内部の焼結密度を十分に高めることができるので、最終的に高密度のマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体を得ることができる。
また、後述する窒化処理では、NbがNと反応し、NbN(窒化ニオブ)が析出する。このNbNは、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の表面硬さと耐食性を高める作用を持つ。したがって、Nbを含有することで、高い表面硬さと高い耐食性とを両立するマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体が得られる。
また、Nbを含有することにより、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の焼結開始温度を高めることができる。これにより、後述するように、焼結に至る前に、脱炭を促進する温度域にマルテンサイト系ステンレス鋼粉末を保持することが可能になる。その結果、後述する窒化処理の下地を効果的に形成することができる。
さらに、焼結開始温度を高めることにより、焼結を阻害しやすい物質の還元反応を促進することもできる。焼結を阻害しやすい物質としては、例えば、酸化ケイ素や酸化クロム等の酸化物が挙げられる。これらを還元することにより、後述する焼結工程において、焼結が進みやすくなる。その結果、焼結体の高密度化を図ることができる。
この還元反応としては、以下の反応式で表される反応が挙げられる。
SiO(s)+C(s)→SiO(g)+CO(g)
Cr(s)+3C(s)→2Cr(s)+3CO(g)
上式では、(s)が固体、(g)が気体を表す。この例では、酸化ケイ素SiOが炭素Cと反応し、気化しやすい物質に変化して成形体中から除去される。また、酸化クロムが金属クロムに還元される。その結果、焼結を阻害しやすい酸化物を成形体中から減らすことができ、焼結体の高密度化を図ることができる。なお、この反応は、例えば800℃以上で起こりやすいことから、焼結開始温度を高めることができれば、後述する焼結処理の過程で、上記還元反応に適した温度域にマルテンサイト系ステンレス鋼粉末をより長時間滞在させることができる。
Nbの含有率は、0.5質量%以上3.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以上2.5質量%以下であるのがより好ましく、1.2質量%以上1.8質量%以下であるのがさらに好ましい。Nbの含有量を前記範囲内に規定することにより、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の粒子表面にNbCを析出させやすくなる。また、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の焼結開始温度を高めることができる。これにより、脱脂体の内部で発生した気体が閉じ込められるのを抑制し、内部の焼結密度を十分に高めることができるので、高密度のマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体を得ることができる。
なお、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末において、Nbの含有率が前記下限値を下回ると、Cの量に対してNbの量が不足するため、全体の組成比によっては、焼結密度を十分に高めることができないおそれがある。一方、Nbの含有率が前記上限値を上回ると、Cの量に対してNbの量が過剰になるため、全体の組成比によっては、焼結反応が阻害され、焼結密度が低下するおそれがある。
また、Nbの含有量に対するCの含有量の比をC/Nbとするとき、C/Nbは、0.18以上0.90以下であるのが好ましく、0.20以上0.80以下であるのがより好ましく、0.23以上0.60以下であるのがさらに好ましい。これにより、Cの含有量とNbの含有量のバランスを最適化することができる。その結果、CやNbに余剰や不足が発生しにくくなり、高密度化と高強度化を高度に両立した焼結体を製造可能なマルテンサイト系ステンレス鋼粉末を実現することができる。
また、Cの含有率とNbの含有率の和をC+Nbとするとき、C+Nbは、1.5以上3.5以下であるのが好ましく、1.7以上3.3以下であるのがより好ましく、2.0以上3.2以下であるのがさらに好ましい。これにより、生成されるNbCの絶対量が少なかったり、過剰量のNbCが生成されたりするのを抑制することができる。その結果、高密度化と高強度化を高度に両立した焼結体を製造可能なマルテンサイト系ステンレス鋼粉末を実現することができる。
1.1.1.7.その他の成分
マルテンサイト系ステンレス鋼粉末は、必要に応じて、Cu、Mo、CoおよびPbのうちの少なくとも1種を含有していてもよい。
Cuの含有率は、0.20質量%以下であるのが好ましく、0.10質量%以下であるのがより好ましい。
Moの含有率は、0.75質量%以下であるのが好ましく、0.30質量%以下であるのがより好ましい。
Coの含有率およびPbの含有率は、それぞれ0.30質量%以下であるのが好ましく、0.10質量%以下であるのがより好ましい。
1.1.1.8.Fe(鉄)および不純物
Fe(鉄)および不純物は、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末に含まれる成分のうち、前述した成分以外の残部を占める。したがって、Feの含有率は、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末において最も高い。すなわち、Feは、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の主成分であり、焼結体の特性に大きな影響を及ぼす。
Feの含有率は、50質量%以上であるのが好ましく、60質量%以上であるのがより好ましい。
また、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末は、前述した成分以外のあらゆる元素を不純物として含有していてもよい。不純物は、原料に意図せず含まれていたり、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の製造過程で不可避的に混入したりする。不純物の濃度は、それぞれ上述した各成分の含有率より低ければよいが、それぞれ0.10質量%以下であるのが好ましく、0.05質量%以下であるのがより好ましい。
1.1.1.9.分析方法
以上、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の化学成分について詳述したが、上記の化学成分は、以下のような分析手法により特定される。
分析手法としては、例えば、JIS G 1257:2000に規定された鉄及び鋼-原子吸光分析法、JIS G 1258:2007に規定された鉄及び鋼-ICP発光分光分析法、JIS G 1253:2002に規定された鉄及び鋼-スパーク放電発光分光分析法、JIS G 1256:1997に規定された鉄及び鋼-蛍光X線分析法、JIS G 1211~G 1237に規定された重量・滴定・吸光光度法等が挙げられる。
具体的には、例えばSPECTRO社製固体発光分光分析装置、特にスパーク放電発光分光分析装置、モデル:SPECTROLAB、タイプ:LAVMB08Aや、株式会社リガク製ICP装置CIROS120型が挙げられる。
また、特にC(炭素)およびS(硫黄)の特定に際しては、JIS G 1211:2011に規定された酸素気流燃焼(高周波誘導加熱炉燃焼)-赤外線吸収法も用いられる。具体的には、LECO社製炭素・硫黄分析装置、CS-200が挙げられる。
さらに、特にN(窒素)およびO(酸素)の特定に際しては、JIS G 1228:1997に規定された鉄及び鋼-窒素定量方法、JIS Z 2613:2006に規定された金属材料の酸素定量方法通則も用いられる。具体的には、LECO社製酸素・窒素分析装置、TC-300/EF-300が挙げられる。
1.1.1.10.粉末特性
マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の平均粒径D50は、特に限定されないが、20μm以下であるのが好ましく、1μm以上15μm以下であるのがより好ましく、2μm以上10μm以下であるのがさらに好ましい。このような粒径のマルテンサイト系ステンレス鋼粉末は、良好な焼結性を有するため、高密度の焼結体を製造することができる。
なお、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の平均粒径D50が前記下限値を下回った場合、粉末が凝集しやすく、焼結密度が低下するおそれがある。一方、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の平均粒径D50が前記上限値を上回った場合、成形時の充填性が低下するため、焼結密度が低下するおそれがある。
マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の平均粒径D50は、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末についてレーザー回折法により体積基準での粒度分布を測定し、得られる積算分布曲線において、小径側からの累積値が50%であるときの粒子径である。
マルテンサイト系ステンレス鋼粉末について、レーザー回折法により体積基準での粒度分布を測定し、得られる積算分布曲線において、小径側からの累積値が10%であるときの粒子径をD10とし、小径側からの累積値が90%となるときの粒子径をD90とするとき、(D90-D10)/D50は、1.0以上2.5以下程度であるのが好ましく、1.2以上2.3以下程度であるのがより好ましい。(D90-D10)/D50は粒度分布の広がりの程度を示す指標であるが、この指標が前記範囲内であることにより、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の充填性が特に良好になる。その結果、高密度の焼結体を製造することができる。
1.1.1.11.製造方法
マルテンサイト系ステンレス鋼粉末は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、アトマイズ法により製造されたものであるのが好ましく、水アトマイズ法または回転水流アトマイズ法により製造されたものであるのがより好ましい。アトマイズ法は、溶湯を、高速で噴射された液体または気体に衝突させることにより、微粉化するとともに冷却して、金属粉末を製造する方法である。マルテンサイト系ステンレス鋼粉末をアトマイズ法によって製造することにより、極めて微小な粉末を効率よく製造することができる。
1.1.2.有機バインダー
有機バインダーとしては、脱脂処理または焼結処理において短時間で分解可能な樹脂が用いられる。かかる樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたはこれらの共重合体、各種ワックス、パラフィン、高級脂肪酸、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
有機バインダーの混合比率は、組成物の0.2質量%以上20.0質量%以下程度であるのが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下程度であるのがより好ましい。
組成物中には、これらの他に、可塑剤、滑剤、酸化防止剤、脱脂促進剤、界面活性剤等の各種添加物が添加されていてもよい。
1.2.成形工程
成形工程S104では、成形用組成物を目的とする形状に成形する。これにより、成形体が得られる。
成形方法としては、例えば、射出成形法、圧縮成形法(プレス成形法)、押出成形法、積層造形法等が挙げられる。このうち、積層造形法としては、例えば、材料押出堆積法やバインダージェッティング法が挙げられる。
1.3.脱脂工程
脱脂工程S106では、成形体に脱脂処理を施し、脱脂体を得る。
脱脂処理としては、例えば、成形体を加熱して有機バインダーを分解する方法、有機バインダーを分解するガスに成形体を曝す方法等が挙げられる。脱脂処理により、成形体中の有機バインダーの全部または一部が除去される。
成形体を加熱する方法を用いる場合、成形体の加熱条件は、有機バインダーの組成や配合量によって若干異なるものの、温度が100℃以上750℃以下、時間が0.1時間以上20時間以下であるのが好ましく、温度が150℃以上600℃以下、時間が0.5時間以上15時間以下であるのがより好ましい。
成形体を加熱する際の雰囲気は、特に限定されず、窒素、アルゴンのような不活性雰囲気、大気のような酸化性雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。
有機バインダーを分解するガスに成形体を曝す方法としては、例えば酸脱脂法が用いられる。酸脱脂法は、酸含有雰囲気下で成形体を加熱することにより、酸の触媒作用を利用して脱脂する方法である。酸脱脂法によれば、有機バインダーを低温でも短時間で分解することができるので、体積の大きな成形体であっても、効率よく脱脂処理を施すことができる。
酸含有雰囲気とは、有機バインダーを分解可能な酸を含む雰囲気のことをいう。かかる酸としては、例えば、硝酸、シュウ酸、オゾン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの酸と他のガスとを混合した混合ガスを用いるようにしてもよい。混合ガスの一例としては、発煙硝酸が挙げられる。なお、雰囲気圧力は、大気圧下であっても、減圧下であっても、加圧下であってもよい。
酸含有雰囲気下における成形体の加熱条件は、前述した加熱条件よりも低温または短時間で済む。このため、成形体に加える熱量を減らすことができ、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の酸化を抑制しやすい。
1.4.焼結工程
焼結工程S108では、脱脂体に焼結処理を施し、焼結体を得る。
この焼結処理は、脱脂体に対し、900℃以上1100℃以下の温度で30分以上加熱する操作を含む。この温度域で前記時間以上保持することにより、脱脂体の焼結が開始する前に、脱脂体の表面において、C(炭素)とO(酸素)との結合反応が促進される。この結合反応のことを、本明細書では「脱炭」という。脱炭が生じると、炭素は、一酸化炭素や二酸化炭素等の酸化物となって、脱脂体中の金属粉末から排出される。これにより、金属粉末の粒子表面では、炭素が減少した状態となる。このような炭素が減少した表面層を「脱炭層」という。本工程を経て得られる焼結体は、この脱炭層を伴うものとなる。そして、この脱炭層は、後述する窒化工程S110において、焼結体に窒化処理を施したとき、十分な厚さで高濃度の窒素の固溶を促進するための下地となる。
焼結処理における前記温度域は、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の焼結開始温度よりも低い温度域である。したがって、加熱条件で脱脂体を加熱することにより、脱炭によって生じた酸化炭素が焼結によって除去されにくくなる現象を抑制することができる。これにより、十分な脱炭を行うことができる。
また、上記温度域は、脱炭が生じやすい温度域でもある。マルテンサイト系ステンレス鋼粉末は、Nbを含有することで、前述したように焼結開始温度を高めたり、NbCの析出によって焼結の進行を遅らせたりすることができる。これにより、焼結に至る前に十分な脱炭を行うことができる。また、上記温度域では、前述した、焼結を阻害しやすい物質が還元される。これにより、焼結体の高密度化を図りやすくなる。
図2は、焼結工程S108における加熱温度の時間変化を表すグラフの一例である。なお、以下の説明では、この加熱温度の時間変化を「焼結温度パターンP1」という。
図2に示す焼結温度パターンP1の例では、主に2つの温度域で、加熱温度を保持する時間が設けられている。ここでは、約1000℃で保持している時間帯を「第1温度保持時間t1」といい、約1350℃で保持している時間帯を「第2温度保持時間t2」という。
焼結温度パターンP1は、図2に示すように、第1温度保持時間t1を有する。この第1温度保持時間t1では、900℃以上1100℃以下の温度で30分以上加熱する操作が行われることになる。したがって、第1温度保持時間t1では、十分に脱炭を行うことができ、窒化処理の下地が整うことになる。
第1温度保持時間t1とは、900℃以上1100℃以下の温度域に脱脂体を連続して保持する時間のことをいい、その長さは30分以上とされる。また、好ましくは1時間以上20時間以下とされ、より好ましくは2時間以上10時間以下とされる。第1温度保持時間t1が前記下限値を下回ると、脱炭が不十分になり、窒化処理の下地を十分に整えることができない。一方、第1温度保持時間t1が前記上限値を上回ってもよいが、その場合、焼結体の内部深くまで脱炭層が形成され、焼結体全体で炭素濃度が低下しすぎるおそれがある。そうすると、後述する窒化処理において十分な焼き入れが行えない部位が増えて、全体の機械的特性が低下するおそれがある。
また、第1温度保持時間t1には、950℃以上1050℃以下の温度範囲で30分以上保持する時間帯が含まれているのが好ましい。これにより、上記効果がより顕著になる。
なお、第1温度保持時間t1では、この温度域に連続して保持されていれば、保持する温度が一定であっても、変化していてもよい。
また、加熱開始から第1温度保持時間t1に至るまでの昇温速度は、特に限定されないが、30[℃/時間]以上300[℃/時間]以下であるのが好ましく、50[℃/時間]以上150[℃/時間]以下であるのがより好ましい。これにより、脱脂体の温度ムラを抑制し、脱脂体の形状によらず、脱炭を均等に進めることができる。なお、この昇温過程でも、温度を一定に保持する時間帯があってもよい。
第1温度保持時間t1における加熱雰囲気は、例えば、水素等を含む還元性雰囲気、窒素、アルゴン等を含む不活性雰囲気、減圧状態にする減圧雰囲気等が挙げられる。このうち、不活性雰囲気または減圧雰囲気であるのが好ましい。これにより、焼結体の酸化を抑制することができる。また、減圧雰囲気であれば、脱炭に伴って発生したガスを効率よく排出することができるので、脱炭層の厚さを十分に確保することができるとともに、焼結体の高密度化が図られる。
なお、減圧雰囲気の圧力は、大気圧未満の圧力であれば、特に限定されないが、10kPa以下であるのが好ましく、1kPa以下であるのがより好ましい。なお、本明細書において大気圧とは、101kPa±10kPaの範囲を指すものとする。
焼結温度パターンP1は、図2に示すように、第2温度保持時間t2を有する。この第2温度保持時間t2では、第1温度保持時間t1の温度域よりも高温で脱脂体を加熱する。これにより、脱脂体を焼結することができる。
第2温度保持時間t2とは、1200℃以上1500℃以下の温度域に脱脂体を連続して保持する時間のことをいい、その長さは、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上10時間以下とされる。第2温度保持時間t2が前記下限値を下回ると、焼結が不十分になり、焼結体の密度が低下するおそれがある。一方、第2温度保持時間t2が前記上限値を上回ると、焼結が過剰になり、結晶粒の肥大化等が生じるおそれがある。
また、第2温度保持時間t2には、前記温度域で、かつ、第1温度保持時間t1で保持されたときの最高温度より50℃以上高い温度域で1時間以上保持する時間帯が含まれているのが好ましく、1270℃以上1400℃以下の温度域で1時間以上保持する時間帯が含まれているのがより好ましい。これにより、上記効果がより顕著になる。なお、第2温度保持時間t2で保持する温度が前記下限値を下回ると、焼結が不十分になるおそれがある。一方、第2温度保持時間t2で保持する温度が前記上限値を上回ると、焼結が過剰になるおそれがある。
なお、第2温度保持時間t2では、この温度域に連続して保持されていれば、保持する温度が一定であっても、変化していてもよい。
また、第1温度保持時間t1から第2温度保持時間t2に至るまでの昇温速度は、特に限定されないが、30[℃/時間]以上300[℃/時間]以下であるのが好ましく、50[℃/時間]以上150[℃/時間]以下であるのがより好ましい。これにより、焼結体の温度ムラを抑制し、焼結体の形状によらず、焼結を均等に進めることができる。なお、この昇温過程でも、温度を一定に保持する時間帯があってもよい。
第2温度保持時間t2における加熱雰囲気は、例えば、水素等を含む還元性雰囲気、窒素、アルゴン等を含む不活性雰囲気、減圧状態にする減圧雰囲気等が挙げられる。このうち、不活性雰囲気または減圧雰囲気であるのが好ましい。これにより、焼結体の酸化を抑制することができる。また、減圧雰囲気であれば、発生したガスを除去することができるので、脱炭のさらなる進行および焼結体の高密度化が図られる。
なお、減圧雰囲気の圧力は、大気圧未満であれば、特に限定されないが、10kPa以下であるのが好ましく、1kPa以下であるのがより好ましい。
第2温度保持時間t2で加熱された後、自然冷却または強制冷却により、焼結体の放熱を行う。放熱では、常温まで戻してもよいし、常温より高い温度で留めてもよい。つまり、焼結工程S108と後述する窒化工程S110との間では、焼結体の温度を常温まで下げてもよいし、下げることなく両工程を連続して行うようにしてもよい。
また、前述した脱脂工程S106と焼結工程S108との間でも、脱脂体の温度を常温まで下げてもよいし、下げないようにしてもよい。
1.5.窒化工程
窒化工程S110では、得られた焼結体に窒化処理を施す。これにより、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体を得る。
この窒化処理は、焼結体に対し、窒素雰囲気下、700℃以上1300℃以下の温度で加熱する操作を含む。窒素雰囲気下においてこの温度域で加熱することにより、焼結体の脱炭層に窒素を固溶させることができる。窒素は、炭素と同様、侵入型固溶元素であるため、脱炭によって炭素が失われた場所に侵入する。このような窒素の固溶反応のことを、本明細書では「窒化」といい、窒素が固溶した表面層を「窒化層」という。窒素は、オーステナイト生成元素であるため、窒化が生じると、窒化層ではオーステナイト化が進行する。これにより、焼結体の表面ではオーステナイト相に由来する高い耐食性が得られる。本実施形態では、窒化処理の前に脱炭を生じさせているため、窒化層では高濃度の窒素が固溶できる。これにより、窒化層の耐食性を十分に高めることができる。また、脱炭層は、フェライト相を多く含んでいるため、比較的低硬度であるが、オーステナイト化により、硬度が高くなる。したがって、窒化層は、表面硬さの向上にも寄与する。
また、窒化処理は、その後、焼結体を急冷することで、焼き入れ処理と同様の作用を生じさせる。焼き入れ処理は、焼結体の急冷に伴って窒化層よりも内部でマルテンサイト化を促進する処理である。マルテンサイト化では、炭素濃度が重要であり、炭素濃度が高いほど硬度が高くなる傾向がある。したがって、窒化層ではマルテンサイト化が進みづらく、窒化層よりも内部ではマルテンサイト化が進みやすい。したがって、窒化処理の結果、窒化層ではオーステナイト化による耐食性および硬度の向上が図られ、窒化層よりも内部ではマルテンサイト化による高硬度化が進むことになる。その結果、窒化層自体が持つ耐食性および高い硬度と、内部の高い硬度と、を併せ持つマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体が得られる。
図3は、窒化工程S110における加熱温度の時間変化を表すグラフの一例である。なお、以下の説明では、この加熱温度の時間変化を「窒化温度パターンP2」という。
図3に示す窒化温度パターンP2の例では、1つの温度域で、加熱温度を保持する時間が設けられている。ここでは、この時間帯を「第3温度保持時間t3」という。第3温度保持時間t3では、窒素を十分に固溶させることができ、窒化層を形成することができる。
第3温度保持時間t3とは、700℃以上1300℃以下の温度域に焼結体を連続して保持する時間のことをいい、その長さは30分以上であるのが好ましく、1時間以上20時間以下であるのがより好ましく、3時間以上10時間以下であるのがさらに好ましい。第3温度保持時間t3が前記下限値を下回ると、窒化が不十分になり、耐食性を十分に高めることができないおそれがある。一方、第3温度保持時間t3が前記上限値を上回ってもよいが、その場合、焼き入れが過剰になって、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の機械的特性が低下するおそれがある。
第3温度保持時間t3には、1000℃以上1300℃以下の温度範囲で30分以上保持する時間帯が含まれているのが好ましく、1100℃以上1300℃以下の温度範囲で30分以上保持する時間帯が含まれているのがより好ましい。これにより、上記効果がより顕著になる。
第3温度保持時間t3における加熱雰囲気は、窒素を含有する窒素雰囲気とされる。窒素雰囲気における窒素濃度は、特に限定されないが、80体積%以上であるのが好ましい。また、窒素雰囲気の全圧は、常圧または減圧であってもよいが、加圧(大気圧超)であるのが好ましい。これにより、窒素の固溶が促進され、ムラなく窒化させることができる。また、十分に厚い窒化層を形成することができる。その結果、耐食性に優れるマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体が得られる。加圧されている窒素雰囲気の全圧は、常圧超であれば特に限定されないが、120kPa(0.12MPa)以上であるのが好ましく、150kPa(0.15MPa)以上500kPa(0.50MPa)以下であるのがより好ましい。なお、窒素雰囲気の圧力が前記下限値を下回ると、焼結体の形状によっては、窒素の固溶が不均一になるおそれがある。一方、窒素雰囲気の圧力が前記上限値を上回ってもよいが、その場合、設備のコストが上昇するおそれがある。
なお、第3温度保持時間t3では、この温度域に連続して保持されていれば、保持する温度が一定であっても、変化していてもよい。
また、第3温度保持時間t3で加熱された後、自然冷却または強制冷却により、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の放熱を行う。強制冷却により、焼き入れ処理を行うことができる。強制冷却の方法としては、例えば、水冷、油冷等が挙げられる。
強制冷却時の降温速度は、特に限定されないが、50[℃/秒]以上であるのが好ましく、100[℃/秒]以上であるのがより好ましい。これにより、窒化層のマルテンサイト相を維持しつつ、内部のマルテンサイト化を特に促進することができる。
なお、得られたマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体には、必要に応じて、サブゼロ処理、焼き戻し処理等を施すようにしてもよい。これにより、安定したマルテンサイト組織を生成することができる。
サブゼロ処理は、焼き入れ処理においてマルテンサイト化せず、残留したオーステナイトの結晶構造を、冷却によってマルテンサイト化する処理のことである。残留したオーステナイトの結晶構造は、時間の経過とともにマルテンサイト化することが多いが、このとき、焼結体の体積変化を伴うため、経時的に焼結体の寸法が変化してしまうことがある。そこで、焼き入れ処理後にサブゼロ処理を行うことで、残留したオーステナイトの結晶構造を半ば強制的にマルテンサイト化する。これにより、経時的な寸法変化の発生を予防することができる。
サブゼロ処理の温度は0℃以下とされ、時間は0.2時間以上3時間以下程度であるのが好ましい。焼結体の冷却には、例えばドライアイスや炭酸ガス、液体窒素等を用いる。
焼き戻し処理は、焼き入れ処理後の焼結体に対して、焼き入れ処理よりも低温で再び加熱する処理のことである。これにより、焼結体の硬度を下げつつ靭性を付与することができる。
焼き戻し処理の温度は100℃以上250℃以下程度、時間は0.3時間以上5時間以下程度であるのが好ましい。
1.6.実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法が奏する効果
以上のように、実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法は、組成物調製工程S102と、成形工程S104と、脱脂工程S106と、焼結工程S108と、窒化工程S110と、を有する。組成物調製工程S102では、Nbを含有するマルテンサイト系ステンレス鋼粉末、および有機バインダーを混合し、組成物を得る。成形工程S104では、組成物を成形し、成形体を得る。脱脂工程S106では、成形体に含まれる有機バインダーの少なくとも一部を除去し、脱脂体を得る。焼結工程S108では、脱脂体に対し、900℃以上1100℃以下の温度で30分以上加熱する操作を含む焼結処理を行い、焼結体を得る。窒化工程S110では、焼結体に対し、窒素を含有する窒素雰囲気下、700℃以上1300℃以下の温度で加熱する操作を含む窒化処理を行う。
このような製造方法によれば、焼結処理において、脱脂体の焼結が開始する前に、脱炭を生じさせることができる。これにより、脱炭層が形成される。そして、この脱炭層を、窒化処理の下地とすることができるので、窒化処理では、高濃度の窒素を固溶させることができ、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の耐食性を十分に高めることができる。また、窒化処理は、焼き入れ処理と同様の効果を奏するため、焼結体の内部ではマルテンサイト化を進めることができる。したがって、窒化層ではオーステナイト化による耐食性の向上が図られ、脱炭層よりも内部ではマルテンサイト化による高硬度化が進むことになる。その結果、本実施形態によれば、窒化層自体が持つ耐食性および高い硬度と、内部の高い硬度と、により、高い耐食性と高い表面硬さとを両立させるマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体を製造することができる。
また、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末がNbを含有しているため、脱脂体における急速な焼結の進行を抑制したり、焼結開始温度を高めたりすることができる。これにより、脱炭がムラなく進行し、十分な厚さで窒化層を形成することができる。
さらに、焼結開始温度を高めることにより、焼結を阻害しやすい物質が還元されやすくなる。これにより、焼結体の高密度化を図ることができる。
また、窒化処理における窒素雰囲気の全圧は、大気圧超であるのが好ましい。これにより、窒素の固溶が促進され、ムラなく窒化させることができる。また、十分に厚い窒化層を形成することができる。その結果、耐食性に優れるマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体が得られる。
また、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末のNbの含有率は、0.5質量%以上3.0質量%以下であるのが好ましい。これにより、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の粒子表面にNbCを析出させやすくなるとともに、焼結開始温度を高めることができる。その結果、高密度のマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体を得ることができる。
また、焼結処理は、不活性雰囲気下で、かつ、大気圧未満の圧力下で行うことが好ましい。このような条件で焼結処理を行うことにより、焼結体の酸化を抑制するとともに、脱炭に伴って発生したガスを効率よく排出することができる。これにより、脱炭層の厚さを十分に確保することができるとともに、焼結体の高密度化が図られる。
また、窒化処理は、焼結体を急冷する操作を含む。これにより、窒化処理は、焼き入れ処理と同様の作用を生じさせる。その結果、窒化層よりも内部でマルテンサイト化が進み、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の表面硬さを高めることができる。
2.マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体
実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体について説明する。
図4は、実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体を模式的に示す断面図である。
図4に示すマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1は、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の焼結体であって、Nbを含有する組成を有する。そして、表面に位置し、オーステナイト相を含む平均厚さが10μm以上の窒化層2と、窒化層2よりも内部に位置し、マルテンサイト相を含む基部3と、を有する。
このようなマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1は、窒化層2ではオーステナイト相に由来する良好な耐食性および高い硬度が発現し、基部3ではマルテンサイト相に由来する高い硬度が得られる。したがって、窒化層2および基部3を有するマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1は、高い耐食性と高い表面硬さとを両立させるものとなる。
窒化層2は、窒素が固溶し、オーステナイト相を有する表層である。そして、窒化層2は、平均厚さが10μm以上である。オーステナイト相は、耐食性に優れるため、窒化層2が表面に位置することで、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1の耐食性を高めることができる。窒化層2に固溶している窒素は、オーステナイト生成元素であるため、オーステナイト相の安定に寄与している。また、窒素が固溶することで、固溶しない場合に比べて、硬度が上昇する。したがって、窒化層2は、例えばフェライト相を有する場合に比べて、高い硬度を有する。
マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1が有するオーステナイト相およびマルテンサイト相は、X線回折法による結晶構造解析によって特定可能である。
図5は、実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1についてX線回折法(XRD)による結晶構造解析を行って得られたX線回折パターンP3である。なお、実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1は、前述したマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法により製造されたものである。したがって、X線回折パターンP3は、窒化処理を伴う製造方法により製造された焼結体から得られたものである。また、図5には、併せて、窒化処理を省略した製造方法により製造された焼結体から得られたX線回折パターンP4も図示している。
図5に示すX線回折パターンP3は、マルテンサイト相に由来するピークpmだけでなく、オーステナイト相に由来するピークpaも含む。ピークpmは、複数本あり、そのうちの1本は、2θ=80~82°に位置している。2θ=80~82°に位置しているピークpmを、特にピークpk1(第1ピーク)とする。ピークpaも、複数本あり、そのうちの1本は、2θ=50~52°に位置している。2θ=50~52°に位置しているピークpaを、特にピークpk2(第2ピーク)とする。
ピークpk1(第1ピーク)の高さを100としたとき、ピークpk2(第2ピーク)の高さは、3以上100以下であるのが好ましく、5以上50以下であるのがより好ましく、10以上30以下であるのがさらに好ましい。ピークpk1の高さに対するピークpk2の高さの比pk2/pk1は、マルテンサイト相に対するオーステナイト相の体積比率を表している。換言すれば、比pk2/pk1は、窒化層2の厚さに対応しているといえる。マルテンサイト相は、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1の表面硬さに寄与し、オーステナイト相は、表面硬さおよび耐食性に寄与する。したがって、この比pk2/pk1が前記範囲内にあるとき、これらの寄与のバランスが最適化され、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1において、高い耐食性と高い表面硬さとを特に良好に両立させることができる。
また、窒化層2の平均厚さは、10μm以上とされるが、好ましくは20μm以上500μm以下とされ、より好ましくは30μm以上300μm以下とされる。窒化層2の平均厚さを前記範囲内に設定することで、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1に十分な耐食性を付与しつつ、表面においては窒化層2および基部3の双方が持つ高い硬度の恩恵を受けることができる。
なお、窒化層2の平均厚さは、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1の断面を拡大観察し、窒化層2の厚さを5か所以上で測定したときの平均値である。
基部3は、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1において窒化層2よりも内部(内側)に位置し、マルテンサイト相を含む部位である。マルテンサイト相は、高い硬度を有するため、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1の表面硬さをより高めることができる。
窒化層2のビッカース硬さは、400以上800以下であるのが好ましく、480以上700以下であるのがより好ましい。窒化層2のビッカース硬さが前記範囲内であれば、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1の耐摩耗性を十分に高めることができる。
窒化層2のビッカース硬さは、次のようにして測定される。まず、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1を切断し、断面を研磨する。次に、窒化層2の断面のビッカース硬さをマイクロビッカース硬さ試験機により測定する。測定位置は、窒化層2の厚さの中間にあたる位置とする。また、試験時の圧子の押し込み荷重は、1.96Nとする。
マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1の製造には、前述した組成を有するマルテンサイト系ステンレス鋼粉末が好ましく用いられる。この場合、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1の組成は、前述したマルテンサイト系ステンレス鋼粉末の組成に準じたものとなる。
マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1は、Nbの含有率が、0.5質量%以上3.0質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以上2.5質量%以下であるのがより好ましく、1.2質量%以上1.8質量%以下であるのがさらに好ましい。Nbの含有量を前記範囲内に規定することにより、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1の高い耐食性と高い表面硬さとをより高度に両立させることができる。
また、Nbの含有率が前記範囲内であれば、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1の表面にNbCやNbNが析出しやすくなる。NbCは、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1の高密度化を図ることに寄与する。NbNは、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1の耐食性および表面硬さを高めることに寄与する。
以上のように、実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1は、マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の焼結体であって、Nbを含有し、窒化層2と、基部3と、を有する。窒化層2は、表面に位置し、オーステナイト相を含む平均厚さが10μm以上の層である。基部3は、窒化層2よりも内部に位置し、マルテンサイト相を含む部位である。
このような構成によれば、表面に窒化層2が位置しているため、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1に高い耐食性と高い表面硬さが付与される。また、内部に基部3が位置しているため、窒化層2を基部3によって支えることになり、窒化層2の表面硬さを補うことができる。これにより、高い耐食性と高い表面硬さとを両立させたマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1が得られる。
また、窒化層2のビッカース硬さは、400以上800以下であるのが好ましい。これにより、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1の耐摩耗性を十分に高めることができる。
また、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1のNbの含有率は、0.5質量%以上3.0質量%以下であるのが好ましい。これにより、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1の高い耐食性と高い表面硬さとをより高度に両立させることができる。
また、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1は、X線回折法による結晶構造解析に供されたとき、得られるX線回折パターンP3が、2θ=80~82°に存在するマルテンサイト相に由来するピークpk1(第1ピーク)と、2θ=50~52°に存在するオーステナイト相に由来するピークpk2(第2ピーク)と、を含む。ピークpk1の高さを100としたとき、ピークpk2の高さは、3以上100以下であることが好ましい。
ピークpk1の高さに対するピークpk2の高さの比pk2/pk1は、マルテンサイト相に対するオーステナイト相の体積比率を表している。比pk2/pk1が前記範囲内にあるとき、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1において、高い耐食性と高い表面硬さとを特に良好に両立させることができる。
上述したマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体1は、例えば、自動車用部品、自転車用部品、鉄道車両用部品、船舶用部品、航空機用部品、宇宙輸送機用部品のような輸送機器用部品、パソコン用部品、携帯電話端末用部品、タブレット端末用部品、ウェアラブル端末用部品のような電子機器用部品、冷蔵庫、洗濯機、冷暖房機のような電気機器用部品、工作機械、半導体製造装置のような機械用部品、原子力発電所、火力発電所、水力発電所、製油所、化学コンビナートのようなプラント用部品、時計用部品、金属食器、宝飾品、眼鏡フレームのような装飾品の全体または一部を構成する材料として用いられる。
以上、本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法およびマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体は、前記実施形態に係るマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法以外の製造方法で製造されたものであってもよい。また、本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法は、前記実施形態に任意の目的の工程が付加されたものであってもよい。
次に、本発明の実施例について説明する。
3.マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造
3.1.実施例1
まず、水アトマイズ法により製造されたマルテンサイト系ステンレス鋼粉末と有機バインダーとを含む混練物(組成物)を調製した。なお、金属粉末には、平均粒径6.0μmのマルテンサイト系ステンレス鋼粉末を用いた。また、有機バインダーには、ポリプロピレンとワックスの混合物を使用した。混練物における有機バインダーの混合比率は8質量%とした。
次に、混練物を射出成形機で成形し、成形体を得た。なお、成形体の形状は、縦15mm、横15mm、高さ3mmの直方体とした。
次に、成形体に脱脂処理を施し、脱脂体を得た。脱脂処理は、窒素雰囲気下、450℃で2時間、成形体を加熱する処理とした。
次に、脱脂体に焼結処理を施し、焼結体を得た。焼結処理は、図2に示す焼結温度パターンP1により行った。具体的には、900℃以上1100℃以下の温度域で脱脂体を保持する時間(第1温度保持時間t1)を7時間とした。特に、900℃以上1100℃以下の温度域で脱脂体を保持する時間を5時間とした。そのうち、950℃以上1050℃以下の温度域で脱脂体を保持する時間を3時間とした。また、1200℃以上1500℃以下の温度域で脱脂体を保持する時間(第2温度保持時間t2)を3時間とした。なお、焼結処理の雰囲気は、アルゴンガスの減圧雰囲気とした。
次に、焼結体に窒化処理を施し、マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体を得た。窒化処理は、図3に示す窒化温度パターンP2により行った。具体的には、700℃以上1300℃以下の温度域で焼結体を保持する時間(第3温度保持時間t3)を6時間とした。特に、1100℃以上1300℃以下の温度域で焼結体を保持する時間を5時間とした。そして、この温度域で加熱後、焼結体を水冷により急冷した。また、窒化処理の雰囲気は、窒素の加圧雰囲気とした。雰囲気の全圧は、0.20MPaとし、純度99%以上の窒素ガスのみを使用した。
3.2.実施例2~26
マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の組成比を表1~表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体を得た。
3.3.比較例1~9
マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の組成比を表1~表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして焼結体を得た。
4.マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の評価
4.1.相対密度
各実施例および各比較例で得られた焼結体について、JIS Z 2501:2000に規定の方法に準じて相対密度を算出した。算出結果を表4~表6に示す。
4.2.XRDのピーク高さ比
各実施例および各比較例で得られた焼結体について、前述した方法により、ピークpk1の高さに対するピークpk2の高さの比pk2/pk1を算出した。算出結果を表4~表6に示す。
4.3.引張強さ
各実施例および各比較例で得られた焼結体について、JIS Z 2241:2011に規定された金属材料引張試験方法に準じて、引張強さを測定した。なお、引張試験速度は、5mm/分とした。そして、測定した引張強さを以下の評価基準に照らして評価した。
A:焼結体の引張強さが1800MPa以上である
B:焼結体の引張強さが1600MPa以上1800MPa未満である
C:焼結体の引張強さが1400MPa以上1600MPa未満である
D:焼結体の引張強さが1200MPa以上1400MPa未満である
E:焼結体の引張強さが1000MPa以上1200MPa未満である
F:焼結体の引張強さが800MPa以上1000MPa未満である
G:焼結体の引張強さが800MPa未満である
以上の評価結果を表4~表6に示す。
4.4.ビッカース硬さ
各実施例および各比較例で得られた焼結体を、ファインカッターにより切断した。そして、切断面のうち、表面からの深さ0.2mmの位置と、表面からの深さ0.5mmの位置と、について、それぞれ、JIS Z 2244:2009に規定されたビッカース硬さ試験の方法に準じて、ビッカース硬さを測定した。なお、測定荷重は200gfとした。そして、測定したビッカース硬さを以下の評価基準に照らして評価した。
A:ビッカース硬さが480以上である
B:ビッカース硬さが450以上480未満である
C:ビッカース硬さが420以上450未満である
D:ビッカース硬さが400以上420未満である
E:ビッカース硬さが360以上400未満である
F:ビッカース硬さが360未満である
以上の評価結果を表4~表6に示す。
また、実施例2の焼結体について、表面からの深さが0.050mmの位置から1.000mmの位置まで0.050mmごとにビッカース硬さを測定した。さらに、比較例3の焼結体について、表面からの深さが0.050mmの位置から0.500mmの位置まで0.050mmごとにビッカース硬さを測定した。そして、焼結体の表面からの深さとビッカース硬さとの関係、つまり硬さ分布をグラフとして図6に示す。
図6に示すように、実施例2の焼結体では、表面から内部まで、ビッカース硬さが高く、かつ、変化が少なかった。これに対し、比較例3の焼結体では、内部ではビッカース硬さが高いものの、表面ではビッカース硬さが低下していた。したがって、窒化処理により、焼結体の内部の硬さを高めつつ、表面硬さを高め得ることがわかった。
4.5.耐食性
各実施例および各比較例で得られた焼結体について、JIS G 0577:2014に規定されているステンレス鋼の孔食電位測定方法のB法に準じて、孔食電位を測定した。B法は、3.5質量%の塩化ナトリウム水溶液中における動電位法による孔食電位測定法である。なお、電流密度が100μA/cmとなる電位を便宜的に腐食が進行し始めた電位、すなわち孔食電位とした。また、孔食電位は、飽和カロメル電極(SCE)基準値とした。塩化ナトリウム水溶液のpHは7とし、温度は30℃とする。また、電位掃引速度は20mV/分とする。そして、測定した孔食電位を、以下の評価基準に照らして評価した。
A:孔食電位が-0.05V以上である
B:孔食電位が-0.10V以上-0.05V未満である
C:孔食電位が-0.20V以上-0.10V未満である
D:孔食電位が-0.30V以上-0.20V未満である
E:孔食電位が-0.40V以上-0.30V未満である
F:孔食電位が-0.40V未満である
以上の評価結果を表4~表6に示す。
また、実施例2の焼結体から得られた電位と電流密度との関係、および、比較例3の焼結体から得られた電位と電流密度との関係を、それぞれグラフとして図7に示す。なお、図7では、電流密度が100μA/cmである位置に破線を引いた。この破線と、実施例2のグラフおよび比較例3のグラフと、の交点に対応する電位がそれぞれの孔食電位である。
図7に示すグラフから、実施例2の焼結体から得られる孔食電位は、比較例3の焼結体から得られる孔食電位に比べて十分に高いことがわかった。前者の孔食電位は、一般的なオーステナイト系ステンレス鋼の孔食電位に匹敵する。
表4~表6に示すように、実施例の製造方法で製造されたマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体は、高い耐候性と高い表面硬さとを併せ持つことが認められた。また、合金組成を最適化することにより、高密度および高強度のマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体を製造可能であることが認められた。
これに対し、Nbの添加を省略した場合、脱炭を省略した場合、および、窒化を省略した場合、10μm以上の厚さの窒化層を形成することができなかった。このため、耐食性および表面硬さが十分ではなかった。
1…マルテンサイト系ステンレス鋼焼結体、2…窒化層、3…基部、P1…焼結温度パターン、P2…窒化温度パターン、P3…X線回折パターン、P4…X線回折パターン、pa…ピーク、pk1…ピーク、pm…ピーク、pk2…ピーク、S102…組成物調製工程、S104…成形工程、S106…脱脂工程、S108…焼結工程、S110…窒化工程、t1…第1温度保持時間、t2…第2温度保持時間、t3…第3温度保持時間

Claims (9)

  1. Nbを含有するマルテンサイト系ステンレス鋼粉末、および有機バインダーを混合し、組成物を得る組成物調製工程と、
    前記組成物を成形し、成形体を得る成形工程と、
    前記成形体に含まれる前記有機バインダーの少なくとも一部を除去し、脱脂体を得る脱脂工程と、
    前記脱脂体に対し、900℃以上1100℃以下の温度で30分以上加熱する操作を含む焼結処理を行い、焼結体を得る焼結工程と、
    前記焼結体に対し、窒素を含有する窒素雰囲気下、700℃以上1300℃以下の温度で加熱する操作を含む窒化処理を行う窒化工程と、
    を有することを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法。
  2. 前記窒素雰囲気の全圧は、大気圧超である請求項1に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法。
  3. 前記マルテンサイト系ステンレス鋼粉末のNbの含有率は、0.5質量%以上3.0質量%以下である請求項1または2に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法。
  4. 前記焼結処理は、不活性雰囲気下で、かつ、大気圧未満の圧力下で行う請求項1ないし3のいずれか1項に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法。
  5. 前記窒化処理は、前記焼結体を急冷する操作を含む請求項1ないし4のいずれか1項に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体の製造方法。
  6. マルテンサイト系ステンレス鋼粉末の焼結体であって、
    Nbを含有し、
    表面に位置し、オーステナイト相を含む平均厚さが10μm以上の窒化層と、
    前記窒化層よりも内部に位置し、マルテンサイト相を含む基部と、
    を有することを特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体。
  7. 前記窒化層のビッカース硬さが、400以上800以下である請求項6に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体。
  8. Nbの含有率が、0.5質量%以上3.0質量%以下である請求項6または7に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体。
  9. X線回折法による結晶構造解析に供されたとき、得られるX線回折パターンは、2θ=80~82°に存在するマルテンサイト相に由来する第1ピークと、2θ=50~52°に存在するオーステナイト相に由来する第2ピークと、を含み、
    前記第1ピークの高さを100としたとき、前記第2ピークの高さは、3以上100以下である請求項6ないし8のいずれか1項に記載のマルテンサイト系ステンレス鋼焼結体。
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