JP2023131411A - エネルギー線検出システム - Google Patents
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Abstract
【課題】検出素子の数を増加させた際に信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能なエネルギー線検出システムを提供する。【解決手段】冷却器を有する真空容器と、第1信号線81と、第1信号線81の端子81aに接続され、低温状態においてエネルギー線を検出する検出素子82と、端子81bに接続されるアンプ85、電流源86及びシャント抵抗87を含む信号処理回路84と、を有するn個の回路ユニット8と、を備える。第1信号線81の抵抗値Rは、第1信号線81の本数n、端子81a側の温度T1、端子81b側の温度T2、及び、冷却器の冷却能力Wcに基づく値より大きく、ノイズ許容電圧VN、シャント抵抗の抵抗値Rsh、検出素子82がOFFである場合とONである場合の抵抗値Rs,Rn、及び、検出素子82がOFFである場合の電流Ibに基づく値より小さい。【選択図】図2
Description
本発明は、エネルギー線検出システムに関する。
従来から、低温状態においてエネルギー線を検出するための検出システムが知られている。このシステムは、低温状態において動作する検出素子と、検出素子を動作させる信号処理回路と、検出素子と信号処理回路と接続する信号線と、を備えており、光子等のエネルギー線を検出することができる。従来の検出システムでは、1~20個の検出素子が設けられており、1~20本の信号線が検出素子と信号処理回路とを接続している。例えば、非特許文献1には、超伝導単一光子検出器(SSPD:Superconducting Single Photon Detector)と、当該検出器と電気的に接続された信号処理回路とを備える検出システムの動作の評価結果が記載されている。
A. J. Kerman, E. A. Dauler, W. E. Keicher, J. K.W. Yang, K. K.Berggren, G. Goltsman, and B. Voronov,"Kinetic-inductance-limitedreset time of superconducting nanowire photon counters"Appl. Phys. Lett. 88, 111116 (2006).
上述したような検出システムにおいて、複数の信号を検出するために検出素子の数及び信号線の本数を増加させたいという要望がある。この場合、信号線の本数が増えるほど、信号線を介した検出素子への外部からの熱の流入量の総量が増加するため、検出素子が動作するために十分な低温状態を確保することができなくなる場合がある。一方、上記の熱の流入量を減少させるために各信号線の熱抵抗を大きくすることも考えられるが、信号線の熱抵抗を大きくするとその電気抵抗も増大するため、検出素子から信号線を伝搬する信号が減衰すると共に当該信号がノイズに埋もれてしまう傾向にある。
そこで、実施形態の一側面は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、検出素子の数を増加させた際に信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能なエネルギー線検出システムを提供することを目的とする。
実施形態の一側面に係るエネルギー線検出システムは、冷却器を有する真空容器と、少なくとも一部が真空容器に格納されている信号線と、真空容器に格納され、信号線の一方の端子と所定電位との間に接続されており、低温状態においてエネルギー線を検出する検出素子と、信号線の他方の端子に直接的あるいは間接的に接続されており、真空容器の外部に配置された信号処理回路と、を有するn個(nは2以上の整数)の回路ユニットと、を備える。信号処理回路は、他方の端子に接続されているアンプと、他方の端子と所定電位との間に互いに並列に接続されている電流源及び回路要素と、を含む。信号線の抵抗値Rは、信号線の本数n、信号線における一方の端子側の温度T1、信号線における他方の端子側の温度T2、及び、冷却器の冷却能力Wcに基づいて算出された値より大きく、アンプにおけるノイズ許容電圧VN、回路要素のインピーダンスZsh、検出素子のエネルギー線を検出していない場合の抵抗値Rs、検出素子のエネルギー線を検出した場合の抵抗値Rn、及び、検出素子がエネルギー線を検出していない場合に検出素子に流れる電流Ibに基づいて算出された値より小さい。
このエネルギー線検出システムでは、エネルギー線が真空容器に格納された検出素子に入射すると、検出素子から、エネルギー線を検出した信号が信号線を介して真空容器の外部の信号処理回路のアンプに入力される。ここで、上記一側面によれば、信号線の抵抗値Rは、信号線の本数n、信号線における一方の端子側の温度T1、信号線における他方の端子側の温度T2、及び、冷却器の冷却能力Wcに基づいて算出された値より大きい。このような構成によれば、例えば、n個の検出素子への熱の流入量の総量が冷却器の冷却能力に対応した値より小さくなるように抵抗値Rを設定することが可能となり、各検出素子において低温状態が壊れることを抑制することが可能となる。また、上記一側面によれば、信号線の抵抗値Rは、アンプにおけるノイズ許容電圧VN、回路要素のインピーダンスZsh、検出素子のエネルギー線を検出していない場合の抵抗値Rs、検出素子のエネルギー線を検出した場合の抵抗値Rn、及び、検出素子がエネルギー線を検出していない場合に検出素子に流れる電流Ibに基づいて算出された値より小さい。このような構成によれば、例えば、検出素子からの信号の強度がノイズ許容電圧VNに対応した値より大きくなるように抵抗値Rを設定することが可能となり、検出素子からの信号を正常に検出することが可能となる。以上のことから、検出素子の数を増加させた際に信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能となる。
また、上記一側面においては、所定電位は接地電位であって、検出素子と所定電位とを接続するグランド線を更に備え、抵抗値Rが、下記の数式(1);
[但し、上記式(1)中、Lは、ローレンツ数、Aは、信号線及びグランド線を合わせた熱抵抗の信号線の熱抵抗に対する比率、を示す]
で示される範囲内に存在する、ことも好適である。このような構成によれば、既知の定数であるローレンツ数Lと比率Aとを基に、n個の検出素子に流入する熱量が冷却器の冷却能力を超えないように抵抗値Rの値が設定される。また、上記一側面によれば、検出素子からの信号の強度を、検出素子のエネルギー線を検出した場合にアンプに入力される電圧と検出していない場合にアンプに入力される電圧との電位差として見積もった場合に、検出素子からの信号の強度がノイズ許容電圧を上回るように抵抗値Rの値が設定される。これにより、抵抗値Rを、検出素子からの信号の強度がノイズ許容電圧を上回り、且つn個の検出素子への熱の流入量が冷却器の冷却能力を超えないように設定することが可能となる。したがって、検出素子の数を増加させた際に信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能となる。
[但し、上記式(1)中、Lは、ローレンツ数、Aは、信号線及びグランド線を合わせた熱抵抗の信号線の熱抵抗に対する比率、を示す]
で示される範囲内に存在する、ことも好適である。このような構成によれば、既知の定数であるローレンツ数Lと比率Aとを基に、n個の検出素子に流入する熱量が冷却器の冷却能力を超えないように抵抗値Rの値が設定される。また、上記一側面によれば、検出素子からの信号の強度を、検出素子のエネルギー線を検出した場合にアンプに入力される電圧と検出していない場合にアンプに入力される電圧との電位差として見積もった場合に、検出素子からの信号の強度がノイズ許容電圧を上回るように抵抗値Rの値が設定される。これにより、抵抗値Rを、検出素子からの信号の強度がノイズ許容電圧を上回り、且つn個の検出素子への熱の流入量が冷却器の冷却能力を超えないように設定することが可能となる。したがって、検出素子の数を増加させた際に信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能となる。
また、上記一側面においては、信号線の抵抗値Rと、信号線及びグランド線を合わせた熱抵抗の信号線の熱抵抗に対する比率Aとが、信号線の長さ及びグランド線の長さによって調整されている、ことも好適である。このような構成によれば、抵抗値R及び熱抵抗の比率Aを簡易に調整することが可能となる。これにより、簡易な調整により、信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能となる。
また、上記一側面においては、信号線の抵抗値Rと、信号線及びグランド線を合わせた熱抵抗の信号線の熱抵抗に対する比率Aとが信号線の断面積及びグランド線の断面積によって調整されている、ことも好適である。このような構成によれば、抵抗値R及び熱抵抗の比率Aを簡易に調整することが可能となる。これにより、簡易な調整により、信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能となる。
また、上記一側面においては、信号線の抵抗値Rと、信号線及びグランド線を合わせた熱抵抗の信号線の熱抵抗に対する比率Aとが、信号線の材質及びグランド線の材質によって調整されている、ことも好適である。このような構成によれば、抵抗値R及び熱抵抗の比率Aを簡易に調整することが可能となる。これにより、簡易な調整により信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能となる。
また、上記一側面においては、複数のグランド線は、互いに電気的に接続されており、複数の信号線及び複数のグランド線は、一体化されている、ことも好適である。このような構成によれば、真空容器内部において、信号線及びグランド線を設けるためのスペースをできるだけ小さくすることが可能となり、結果として検出システムの小型化が実現される。
また、上記一側面においては、検出素子によって検出されるエネルギー線は、光子、荷電粒子、及び中性子の少なくとも1つである、ことも好適である。このような構成によれば、光子、荷電粒子、及び中性子によるエネルギー線の少なくとも1つをより精度良く検出することができる。
また、上記一側面においては、検出素子は、超伝導状態でエネルギー線を検出する素子であり、抵抗値Rsは0であること、も好適である。このような構成によれば、検出素子がエネルギー線を検出した場合の信号強度が増大するため、検出素子からの信号の強度がノイズ許容電圧に対応した値より大きくなるような抵抗値Rの許容値も増大する。これにより、抵抗値Rが取り得る範囲が増大し、エネルギー線検出システムの設計の自由度を向上させることができる。
本発明の一側面によれば、検出素子の数を増加させた際に信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能なエネルギー線検出システムを提供することができる。
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
[エネルギー線検出システムの概要]
図1は、実施形態に係るエネルギー線検出システムの概略構成図である。エネルギー線検出システム1は、エネルギー線を検出するためのシステムであり、例えば微弱光の検出等に用いられるシステムである。エネルギー線検出システム1は、真空容器2、メインステージ31、サブステージ32、大気ステージ33、グランド接続部4、複数の第1接続部5、複数の第2接続部6、及び光ファイバ7によって構成される。
図1は、実施形態に係るエネルギー線検出システムの概略構成図である。エネルギー線検出システム1は、エネルギー線を検出するためのシステムであり、例えば微弱光の検出等に用いられるシステムである。エネルギー線検出システム1は、真空容器2、メインステージ31、サブステージ32、大気ステージ33、グランド接続部4、複数の第1接続部5、複数の第2接続部6、及び光ファイバ7によって構成される。
真空容器2は、筐体20及び冷凍機21を有する。筐体20内は、減圧されて真空状態となっている。冷凍機21は、圧縮機ユニット22、筐体20に格納されている第1コールドヘッド(冷却器)23、及び、圧縮機ユニット22と第1コールドヘッド23とを接続しているホース24を有する。圧縮機ユニット22は、常温のヘリウムを圧縮して液体ヘリウムを生成する。生成された液体ヘリウムは、ホース24を介して第1コールドヘッド23に送られる。第1コールドヘッド23は、メインステージ31(後述する)に接触しており、メインステージ31から熱を吸収して液体ヘリウムに熱を放出する。
冷凍機21は、筐体20に格納されている第2コールドヘッド25、及び、圧縮機ユニット22と第2コールドヘッド25とを接続しているホース26をさらに有する。圧縮機ユニット22により生成された液体ヘリウムは、ホース26を介して第2コールドヘッド25に送られる。第2コールドヘッド25は、サブステージ32(後述する)に接触しており、サブステージ32から熱を吸収して液体ヘリウムに熱を放出する。
メインステージ31は、筐体20内部に格納されている。メインステージ31には、複数の検出素子82(後述する)が設けられている。メインステージ31は、第1コールドヘッド23によって、例えば3Kまで冷却されている。また、サブステージ32は、筐体20内部に格納されている。サブステージ32は、第2コールドヘッド25によって、例えば50Kまで冷却されている。サブステージ32には、固定治具32aが設けられている。大気ステージ33は、筐体20の外部で大気圧環境下に配置されている。大気ステージ33には、複数の信号処理回路84及び複数の接地電位接続部88が設けられている。大気ステージ33の温度は、例えば常温である。なお、接地電位接続部88は、所定電位に接続しており、本実施形態では所定電位は接地電位である。
グランド接続部4は、複数の第1グランド線41(グランド線)及び複数の第2グランド線42を有している。複数の第1グランド線41は、固定治具32aにおいて互いに電気的に接続されている。複数の第2グランド線42は、固定治具32aにおいて互いに電気的に接続されている。グランド接続部4は、検出素子82と接地電位接続部88とを接続している。具体的には、第1グランド線41は、検出素子82と第2グランド線42とを接続している。第1グランド線41と第2グランド線42とは、固定治具32aにおいて互いに接続されている。第2グランド線42は、第1グランド線41と接地電位接続部88とを接続している。なお、本実施形態において、グランド接続部4は、各回路ユニット8(詳細は後述する。)ごとに第1グランド線41及び第2グランド線42を有している。
第1接続部5の一方の端部51は、メインステージ31に固定されている。第1接続部5の他方の端部52は、サブステージ32の固定治具32aに固定されている。本実施形態では、第1接続部5は、各回路ユニット8(詳細は後述する。)ごとに設けられている。第1接続部5は、1本の第1信号線81及び1本の第1グランド線41を内部に備える。第1接続部5内において、各第1グランド線41は、第1信号線81と互いに電気的に絶縁されつつ、第1信号線81と一体化されている。例えば、第1接続部5は、外部導体である第1グランド線41に取り囲まれた内部導体である1本の第1信号線81を含む同軸ケーブルである。
第2接続部6の一方の端部61は、サブステージ32の固定治具32aに固定されている。第2接続部6の他方の端部62は、大気ステージ33に固定されている。本実施形態では、第2接続部6は、各回路ユニット8(詳細は後述する)ごとに設けられている。第2接続部6は、1本の第2信号線83及び1本の第2グランド線42を内部に備える。第2接続部6内において、各第2グランド線42は、第2信号線83と互いに電気的に絶縁されつつ、第2信号線83と一体化されている。例えば、第2接続部6は、外部導体である第2グランド線42に取り囲まれた内部導体である1本の第2信号線83を含む同軸ケーブルである。
光ファイバ7は、検出対象であるエネルギー線をエネルギー線検出システム1の外部からメインステージ31内の検出素子82に導入する。導入されたエネルギー線は、複数の検出素子82に入射させられる。
回路ユニット8は、メインステージ31、サブステージ32、大気ステージ33、グランド接続部4、第1接続部5及び第2接続部6によって構成されるエネルギー線を検出するための回路である。エネルギー線検出システム1では、n個(nは2以上の整数)の回路ユニット8が設けられている。各回路ユニット8は、第1信号線81、検出素子82、及び第2信号線83と、信号処理回路84内の対応する要素によって構成される。検出素子82は、第1信号線81及び第2信号線83を介して信号処理回路84に接続されている。第1信号線81及び第2信号線83は、固定治具32aにおいて互いに接続されている。また、回路ユニット8の数nは、エネルギー線検出システム1における検出素子82の数であり、第1信号線81の本数であり、第2信号線83の本数である。なお、nは、30以上であってもよいし、より好ましくは100以上であってもよい。
図2は、エネルギー線検出システムの回路ユニットの等価回路を示す図である。信号処理回路84は、アンプ85、電流源86、及びシャント抵抗(回路要素)87を有する。検出素子82は、第1信号線81の一方の端子81aと接地電位接続部88との間に接続されている。第2信号線83の一方の端子83aは、第1信号線81の他方の端子81bに接続されている。信号処理回路84のアンプ85は、第2信号線83の他方の端子83bに接続されている。電流源86及びシャント抵抗87は、他方の端子83bと接地電位接続部88との間に互いに並列に接続されている。つまり、アンプ85は、第2信号線83を介して第1信号線81の他方の端子81bに間接的に接続されていると共に、電流源86及びシャント抵抗87は、第2信号線83を介して第1信号線の他方の端子81bと接地電位接続部88との間に接続されている。
検出素子82は、低温状態においてエネルギー線を検出する素子である。検出素子82は、例えば、超伝導状態においてエネルギー線を検出する素子である。検出素子82は、例えば、光子を検出する素子である。一例としては、n個の検出素子82を有する検出器は、超伝導単一光子検出器(SSPD:Superconducting Single Photon Detector)である。また、本実施形態では、検出素子82が、超伝導状態においてエネルギー線を検出する素子である場合、検出素子82がエネルギー線を検出していない場合の抵抗値Rs(後述する)は0である。
各回路ユニット8の動作について説明する。図2における回路ユニット8の等価回路では、検出素子82においてエネルギー線が検出された場合、検出素子82の抵抗値が変化すると共に検出素子82に流れる電流が変化する。このとき、電流源86から発生する電流は一定値であるので、シャント抵抗87に流れる電流が大きくなる。その結果、アンプ85に入力される電圧が大きくなる。このように、検出素子82においてエネルギー線が入射したことが、アンプ85に入力される電圧の変化として検出される。
[第1信号線81の抵抗値Rの設定]
エネルギー線検出システム1では、回路ユニット8の数nが増えるに連れて、第1信号線81の本数nも増える。この場合、複数の検出素子82への外部からの熱の流入量の総量が増加するため、検出素子82が動作するために十分な低温状態を確保することができなくなる場合がある。一方、上記の熱の流入量を減少させるために各第1信号線81の熱抵抗を大きくすることも考えられるが、第1信号線81の熱抵抗を大きくすると第1信号線81の抵抗値Rも増大するため、検出素子82から第1信号線81を伝搬する信号が減衰すると共に当該信号がノイズに埋もれてしまう傾向にある。したがって、エネルギー線検出システム1では、検出素子82の数を増加させた際に信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能となるように、第1信号線81の抵抗値Rの範囲が後述する最大値と最小値との間に設定されている。
エネルギー線検出システム1では、回路ユニット8の数nが増えるに連れて、第1信号線81の本数nも増える。この場合、複数の検出素子82への外部からの熱の流入量の総量が増加するため、検出素子82が動作するために十分な低温状態を確保することができなくなる場合がある。一方、上記の熱の流入量を減少させるために各第1信号線81の熱抵抗を大きくすることも考えられるが、第1信号線81の熱抵抗を大きくすると第1信号線81の抵抗値Rも増大するため、検出素子82から第1信号線81を伝搬する信号が減衰すると共に当該信号がノイズに埋もれてしまう傾向にある。したがって、エネルギー線検出システム1では、検出素子82の数を増加させた際に信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能となるように、第1信号線81の抵抗値Rの範囲が後述する最大値と最小値との間に設定されている。
まず、第1信号線81の抵抗値Rの範囲の最大値は、検出素子82からの信号の検出可否によって決定される。具体的には、まず、回路ユニット8では、第1信号線81の抵抗値Rが大きいほど、検出素子82がエネルギー線を検出している場合にアンプ85への入力電圧Vの変化が小さくなり、検出素子82からの信号が減衰する。このため、第1信号線81の抵抗値Rが大きすぎると、検出素子82からの信号が入力電圧Vのノイズ許容電圧を下回り、当該信号を検出することができなくなる。言い換えると、第1信号線81の抵抗値Rの最大値は、検出素子82からの信号の強度が入力電圧Vのノイズ許容電圧を上回るように設定された抵抗値Rのうちの最大値である。
そして、第1信号線81の抵抗値Rの範囲の最小値は、第1コールドヘッド23の冷却能力及び検出素子82の動作温度によって決定される。具体的には、第1信号線81の抵抗値Rを小さくすると、第1信号線81及び第1グランド線41を含む第1接続部5の熱抵抗が大きくなるため、第1接続部5を介して検出素子82に流入する熱量が大きくなる。ここで、抵抗値Rを小さくしすぎると、n個の検出素子82に流入する熱の総量が第1コールドヘッド23の冷却能力を超え、検出素子82の温度が上昇すると共に検出素子82が動作しなくなる場合がある。言い換えると、第1信号線81の抵抗値Rの最小値は、n個の検出素子82に流入する熱の総量が第1コールドヘッド23の冷却能力を下回るように設定された抵抗値Rのうちの最小値である。
[第1信号線81の抵抗値Rの範囲の最大値の算出]
エネルギー線検出システム1に設定される第1信号線81の抵抗値Rの範囲の最大値の数値例について詳細に説明する。以下の説明では、図2における回路ユニット8の等価回路において、第1信号線81の抵抗値をR、検出素子82にエネルギー線を検出していない場合(以下、「検出素子82がOFFの場合」と表記する)の検出素子82の抵抗値をRsとし、検出素子82がOFFの場合の検出素子82に流れる電流(バイアス電流)をIbとする。また、検出素子82がエネルギー線を検出した場合(以下、「検出素子82がONの場合」とする)の検出素子82の抵抗値をRnとし、検出素子82がONの場合の検出素子82に流れる電流(バイアス電流)をIb´とする。また、電流源86から発生する電流(定常電流)をIs、シャント抵抗87の抵抗値Rsh、アンプ85に入力される電圧(以下、入力電圧と表記する)をVとする。なお、信号処理回路84に、アンプ85、電流源86、及びシャント抵抗87以外の素子等が含まれる場合、当該素子とシャント抵抗87とを合成して1つの回路要素とする。この場合、シャント抵抗87の抵抗値Rshに代えて、回路要素のインピーダンスZshが下記の計算に用いられる。
エネルギー線検出システム1に設定される第1信号線81の抵抗値Rの範囲の最大値の数値例について詳細に説明する。以下の説明では、図2における回路ユニット8の等価回路において、第1信号線81の抵抗値をR、検出素子82にエネルギー線を検出していない場合(以下、「検出素子82がOFFの場合」と表記する)の検出素子82の抵抗値をRsとし、検出素子82がOFFの場合の検出素子82に流れる電流(バイアス電流)をIbとする。また、検出素子82がエネルギー線を検出した場合(以下、「検出素子82がONの場合」とする)の検出素子82の抵抗値をRnとし、検出素子82がONの場合の検出素子82に流れる電流(バイアス電流)をIb´とする。また、電流源86から発生する電流(定常電流)をIs、シャント抵抗87の抵抗値Rsh、アンプ85に入力される電圧(以下、入力電圧と表記する)をVとする。なお、信号処理回路84に、アンプ85、電流源86、及びシャント抵抗87以外の素子等が含まれる場合、当該素子とシャント抵抗87とを合成して1つの回路要素とする。この場合、シャント抵抗87の抵抗値Rshに代えて、回路要素のインピーダンスZshが下記の計算に用いられる。
まず、検出素子82がOFFである場合のバイアス電流Ib及びONである場合のバイアス電流Ib´は、以下の式(2-1)のように表される。したがって、検出素子82がOFFである場合のバイアス電流IbとONである場合のバイアス電流Ib´との関係は、以下の式(2-2)のように表される。
次に、検出素子82がOFFの場合の入力電圧VOFFは、以下の式(3-1)のように表される。また、検出素子82がONの場合の入力電圧VONは、式(2-2)を用いて以下の式(3-2)のように表される。したがって、検出素子82がOFFの場合とONの場合との間の入力電圧の差分ΔVは、式(3-1)及び式(3-2)を用いて式(3-3)のように表される。
上記の計算結果から、第1信号線81の抵抗値Rの範囲の最大値は次のように表される。具体的には、まず、検出素子82からの信号が検出される場合とは、式(4―1)のように、上記入力電圧の差分ΔVがアンプ85におけるノイズ許容電圧VNを上回る場合である。したがって、第1信号線81の抵抗値Rの範囲の最大値は、式(4-1)に式(3-3)が代入されて整理されることにより算出された式(4-2)で示される範囲の最大値で与えられる。つまり、第1信号線81の抵抗値Rは、ノイズ許容電圧VN、シャント抵抗87の抵抗値Rsh、検出素子82がOFFである場合の抵抗値Rs、検出素子82がONである場合の抵抗値Rn、及び、検出素子82がOFFである場合に検出素子82に流れるバイアス電流Ibに基づいて算出された値より小さくなるように設定される。なお、ノイズ許容電圧VNは、一般的に、アンプ入力換算ノイズσnに、予め設定された定数mを乗じたもので以下の式(4-3)のように表される。定数mの範囲は、エネルギー線の検出において実用的な範囲であればよく、例えば、mは、3.0以上6.0以下である。
[第1信号線81の抵抗値Rの範囲の最小値の算出]
エネルギー線検出システム1に設定される第1信号線81の抵抗値Rの範囲の最小値の数値例について詳細に説明する。以下の説明では、第1接続部5の熱抵抗をRT、第1コールドヘッド23の冷却能力をWc、第1信号線81の一方の端子81a側の温度をT1、第1信号線81の他方の端子81b側の温度をT2、第1接続部5の温度をTとする。なお、T1は、メインステージ31の温度でもあり、T2は、サブステージ32の温度でもある。
エネルギー線検出システム1に設定される第1信号線81の抵抗値Rの範囲の最小値の数値例について詳細に説明する。以下の説明では、第1接続部5の熱抵抗をRT、第1コールドヘッド23の冷却能力をWc、第1信号線81の一方の端子81a側の温度をT1、第1信号線81の他方の端子81b側の温度をT2、第1接続部5の温度をTとする。なお、T1は、メインステージ31の温度でもあり、T2は、サブステージ32の温度でもある。
検出素子82への熱の流入量は、第1接続部5の他方の端部52から一方の端部51に流入する熱量である。検出素子82への熱の流入量は、(T2―T1)/RTと算出される。複数の検出素子82への熱の流入量の合計は、当該流入量に第1接続部5の本数nを乗算した数値であり、(T2―T1)n/RTと算出される。
ここで、第1接続部5の熱抵抗RTは、複数の検出素子82に流入する熱の総量が第1コールドヘッド23の冷却能力Wcを超えないように設定される必要がある。したがって、第1接続部5の熱抵抗RTが満たすべき条件は、式(5―1)のようになる。ここで、第1接続部5の熱抵抗RTは、ウィーデマンフランツ則に従い、第1信号線81の抵抗値Rに依存する関数として式(5-2)のように表される。但し、下記式(5-2)において、定数Lは、ローレンツ数であり、例えば、2.44×10-8[WΩ/K2]である。また、Aは、第1信号線81及び第1グランド線41を合わせた熱抵抗の第1信号線81の熱抵抗に対する比率を示す。
従って、第1信号線81の抵抗値Rの範囲の最小値は、式(5-2)を式(5-1)に代入することによって導出される。具体的には、第1接続部5が均一な温度勾配を有するとの仮定の下、第1接続部5の温度Tが、(T2+T1)/2であると近似され、近似された結果が式(5-2)に代入され、式(5-2)が式(5-1)に代入されて整理される。これにより、下記式(6)に示すように、第1信号線81の抵抗値Rの範囲の最小値が表される。つまり、第1信号線81の抵抗値Rは、第1信号線81の本数n、第1信号線81における一方の端子81a側の温度T1、第1信号線81における他方の端子81b側の温度T2、及び、第1コールドヘッド23の冷却能力Wcに基づいて算出された値より大きくなるように設定される。
第1信号線81の抵抗値Rが、上記最小値から上記最大値までの範囲に存在する場合(式(4-2)及び式(6)を満たす場合)、検出素子82が正常に動作する。つまり、第1信号線81の抵抗値Rは、以下の式(7)に示される範囲となる場合、検出素子82が正常に動作する。
例えば、式(7)において、n=2000、T2=50K、Rn=1000Ω、Rs=0Ω、Rsh=50Ω、A=10、L=2.44×10-8WΩ/K2を代入し、更に、T1=3K、Wc=0.05W、Ib=25μA、VN=1.0mVを代入すると、第1信号線81の抵抗値Rの範囲は、12.2Ωより大きく200Ωより小さい範囲となる。
例えば、式(7)において、n=2000、T2=50K、Rn=1000Ω、Rs=0Ω、Rsh=50Ω、A=10、L=2.44×10-8WΩ/K2を代入し、更に、T1=3K、Wc=0.05W、Ib=25μA、VN=1.0mVを代入すると、第1信号線81の抵抗値Rの範囲は、12.2Ωより大きく200Ωより小さい範囲となる。
なお、第1信号線81の抵抗値Rは、第1信号線81の長さ、第1信号線81の断面積、及び第1信号線81の材質の少なくともいずれかを変更することにより調整される。熱抵抗の比率Aは、第1信号線81の長さ、第1信号線81の断面積、及び第1信号線81の材質の少なくともいずれか変更することにより調整される。また、熱抵抗の比率Aは、第1グランド線41の長さ、第1グランド線41の断面積、及び第1グランド線41の材質の少なくともいずれかを変更することにより調整される。
また、第2信号線83を介して大気ステージ33から流入する熱は、サブステージ32において第2コールドヘッド25により吸収される。したがって、第2信号線83の抵抗値が、第1信号線81、検出素子82及びシャント抵抗87の抵抗値よりも十分に小さく設定され、第2信号線83を介して流入する熱量が増大した場合でも、第2信号線83を介して流入する熱は第2コールドヘッド25によって吸収されるため、検出素子82は正常に動作する。なお、第2コールドヘッド25の冷却能力は、第1コールドヘッド23の冷却能力Wcよりも高い。
以上説明した実施形態に係るエネルギー線検出システム1の作用効果について説明する。
本実施形態に係るエネルギー線検出システム1では、エネルギー線が筐体20に格納された検出素子82に入射すると、検出素子82から、エネルギー線を検出した入力電圧の差分ΔVが信号線81,83を介して真空容器2の外部の信号処理回路84のアンプ85に入力される。ここで、エネルギー線検出システム1では、第1信号線81の抵抗値Rは、第1信号線81の本数n、第1信号線81における一方の端子81a側の温度T1、第1信号線81における他方の端子81b側の温度T2、及び、第1コールドヘッド23の冷却能力Wcに基づいて算出された値より大きい。このような構成によれば、例えば、n個の検出素子82への熱の流入量の総量が第1コールドヘッド23の冷却能力に対応した値より小さくなるように抵抗値Rを設定することが可能となり、各検出素子82において低温状態が壊れることを抑制することが可能となる。また、本実施形態に係るエネルギー線検出システム1では、第1信号線81の抵抗値Rは、アンプ85におけるノイズ許容電圧VN、シャント抵抗87の抵抗値Rsh、検出素子82がOFFである場合の抵抗値Rs、検出素子82がONである場合の抵抗値Rn、及び、検出素子82がOFFである場合に検出素子82に流れるバイアス電流Ibに基づいて算出された値より小さい。このような構成によれば、例えば、検出素子82がONである場合とOFFである場合との入力電圧の差分ΔV(検出素子82からの信号の強度)がノイズ許容電圧VNに対応した値より大きくなるように抵抗値Rを設定することが可能となり、検出素子からの信号を正常に検出することが可能となる。以上のことから、検出素子82の数を増加させた際に信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能となる。
このように、本実施形態では、検出素子82の数を増加させた際に検出素子82が正常に動作するように、第1信号線81の抵抗値Rの範囲が、検出素子82の特性、第1コールドヘッド23の冷却性能、信号処理回路84のパラメータから決定されている。これにより、従来よりも検出素子82の数が多いエネルギー線検出システムにおいても検出素子82を正常に動作させることができる。例えば、汎用ケーブルでは正常に動作させられない数の検出素子82が設けられている場合でも、第1信号線81の抵抗値Rを上述したように調整することにより、検出素子82を正常に動作させることができる。従来よりも検出素子82の数が多いエネルギー線検出システムとは、例えば、検出素子82の数が30個以上のエネルギー検出線システムであってもよいし、より好ましくは検出素子82の数が100個以上のエネルギー線検出システムであってもよい。
さらに、本来、入力電圧の差分ΔV及び熱抵抗RT等の複数の目的変数に対して複数の検出素子82を有する検出器が正常に動作するために必要な条件を規定する必要があるが、本実施形態では、第1信号線81の抵抗値Rという単一の目的変数で、当該条件を規定することができる。言い換えると、複数の検出素子82を有する検出器自体の特性を変更することなく、第1信号線の抵抗値Rのみを調整することで、検出素子82の数を多く含む検出素子を動作させることができる。
また、本実施形態に係るエネルギー線検出システム1では、第1グランド線41が、検出素子82と接地電位接続部88とを間接的に接続している。そして、抵抗値Rが、下記の数式(7);
[但し、上記式(7)中、Lは、ローレンツ数、Aは、第1信号線81及び第1グランド線41を合わせた熱抵抗の第1信号線81の熱抵抗に対する比率、を示す]
で示される範囲内に存在する。このような構成によれば、既知の定数であるローレンツ数Lと比率Aとを基に、n個の検出素子82に流入する熱量が第1コールドヘッド23の冷却能力Wcを超えないように抵抗値Rの値が設定される。また、上記構成によれば、検出素子82からの信号の強度を、検出素子82がONである場合とOFFである場合との入力電圧Vの差分ΔVとして見積もった場合に、検出素子82からの信号の強度がノイズ許容電圧VNを上回るように抵抗値Rの値が設定される。これにより、抵抗値Rを、検出素子82からの信号の強度がノイズ許容電圧VNを上回り、且つn個の検出素子82への熱の流入量が第1コールドヘッド23の冷却能力Wcを超えないように設定することが可能となる。したがって、検出素子82の数を増加させた際に信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能となる。
[但し、上記式(7)中、Lは、ローレンツ数、Aは、第1信号線81及び第1グランド線41を合わせた熱抵抗の第1信号線81の熱抵抗に対する比率、を示す]
で示される範囲内に存在する。このような構成によれば、既知の定数であるローレンツ数Lと比率Aとを基に、n個の検出素子82に流入する熱量が第1コールドヘッド23の冷却能力Wcを超えないように抵抗値Rの値が設定される。また、上記構成によれば、検出素子82からの信号の強度を、検出素子82がONである場合とOFFである場合との入力電圧Vの差分ΔVとして見積もった場合に、検出素子82からの信号の強度がノイズ許容電圧VNを上回るように抵抗値Rの値が設定される。これにより、抵抗値Rを、検出素子82からの信号の強度がノイズ許容電圧VNを上回り、且つn個の検出素子82への熱の流入量が第1コールドヘッド23の冷却能力Wcを超えないように設定することが可能となる。したがって、検出素子82の数を増加させた際に信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能となる。
図3、図4及び図5を参照して、上記作用効果について詳細に説明する。図3、図4、及び図5は、エネルギー線検出システム1のアンプ85に入力される入力電圧Vの時間変化を示す図である。図3、図4及び図5では、縦軸が入力電圧Vを示し、横軸が時間を示す。図3は、第1信号線81の抵抗値Rが下記の式(8-1)に示される範囲に設定された場合の入力電圧Vの時間変化を示す。図4は、第1信号線81の抵抗値Rが下記の式(7)に示される範囲に設定された場合の入力電圧Vの時間変化を示す。図5は、第1信号線81の抵抗値Rが下記の式(8-2)に示される範囲に設定された場合の入力電圧Vの時間変化を示す。
図3、図4及び図5では、時間0μsにおいて検出素子82にエネルギー線が入射している。図3及び図5では、入力電圧の差分ΔVを確認することができない。図3に対応するエネルギー線検出システムでは、第1信号線81から検出素子82への熱の流入量が第1コールドヘッド23の冷却能力Wcを上回るため、検出素子82における低温状態が壊れてしまい、検出素子82が正常に動作しなくなっている。また、図5に対応するエネルギー線検出システムでは、検出素子82からの信号である入力電圧の差分ΔVが、アンプ85におけるノイズ許容電圧を下回っている。一方、図4では、抵抗値Rが適正値に設定されているため、入力電圧の差分ΔVを観測可能な状態となっていることが分かる。したがって、第1信号線81の抵抗値Rが式(7)に示される範囲に存在することにより、検出素子82の数を増加させた際に信号品質を高めつつ正常に動作させることができることが理解される。
また、別の側面から上記作用効果について説明する。具体的には、第1コールドヘッド23の冷却能力Wc及びバイアス電流Ibがメインステージ31の温度T1に依存するとして、入力電圧の差分ΔVが最大になる抵抗値Rを計算し、計算した計算値が式(7)に示される範囲に含まれていることを確認する。なお、上述した第1信号線81の抵抗値Rの設定方法では、第1コールドヘッド23の冷却能力Wc及びバイアス電流Ibがメインステージ31の温度T1に依存しないと近似して各計算を行っている。また、以下の計算では、検出素子82は、超伝導状態でエネルギー線を検出する素子であり、Rs=0であるとする。
まず、メインステージ31への熱の流入量と第1コールドヘッド23の冷却能力Wcとが打ち消し合っている場合、第1信号線81の抵抗値Rとメインステージ31の温度T1との関係式は式(9)のように表される。つまり、メインステージ31の温度T1を、抵抗値Rから導出することができる。なお、4K以下に冷却可能な第1コールドヘッド23の冷却能力Wcのメインステージ31の温度T1依存性は、一般的に、Wc=aT1-bと表される。
次に、バイアス電流Ibは、検出素子82の臨界電流Icに定数Cを乗算した数値となる。IcにはT1依存性があり、この依存性はギンツブルグ‐ランダウの式として知られている。したがって、バイアス電流Ibは、式(10)のように表される。つまり、バイアス電流Ibを、メインステージ31の温度T1から導出することができる。なお、定数Cは、0以上1以下であればよく、例えば0.8である。また、Tcとは、超伝導転移温度である。ここで、ΔVは、抵抗値R及びバイアス電流Ibにより、式(3-3)にRs=0を代入した式(11)のように表される。以上のことから、入力電圧の差分ΔVを、抵抗値Rから導出することができる。
図6は、入力電圧の差分ΔVと第1信号線81の抵抗値Rとの関係を示す図である。図6では、縦軸が入力電圧の差分ΔV、横軸が第1信号線81の抵抗値Rを示す。図6では、式(9)、(10)、及び(11)に定数を下記のように代入した場合の関係が示されている。つまり、n=2000、T2=50K、Rn=1000Ω、Rsh=50Ω、A=10、L=2.44×10-8WΩ/K2、a=0.1W/K、b=0.25W、C=0.8、Tc=6K、Ic0=4.50×10―5である。
ここで、入力電圧の差分ΔVが1mV以上であれば当該差分ΔVを検出素子82からの信号として検出できるとする(ノイズ許容電圧VN=1.0mVとする)。このとき、第1信号線81の抵抗値Rの範囲は、入力電圧の差分ΔVが1mV以上となる範囲であり、例えば15Ωより大きく170Ωより小さい範囲となる。そして、入力電圧の差分ΔVが最大となる場合の第1信号線81の抵抗値Rの最適値は、50Ωとなる。
ここで、式(7)において、Wc=0.05W、Ib=25μAとすると共に、残りの定数を図6と同様に決定すると、第1信号線81の抵抗値Rの範囲は、12.2Ωより大きく200Ωより小さい範囲となる。つまり、本実施形態において近似を用いて導出された式(7)に基づく上記範囲は、第1信号線81の抵抗値Rの上記最適値を含んでいる。したがって、第1信号線81の抵抗値Rが式(7)に示される範囲に存在することにより、検出素子82の数を増加させた際に信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能となる。
また、本実施形態に係るエネルギー線検出システム1では、第1信号線81の抵抗値Rと、第1信号線81及び第1グランド線41を合わせた熱抵抗の第1信号線81の熱抵抗に対する比率Aとが、第1信号線81の長さ及び第1グランド線41の長さによって調整されている。このような構成によれば、抵抗値R及び熱抵抗の比率Aを簡易に調整することが可能となる。これにより、簡易な調整により、信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能となる。
また、本実施形態に係るエネルギー線検出システム1では、第1信号線81の抵抗値Rと、第1信号線81及び第1グランド線41を合わせた熱抵抗の第1信号線81の熱抵抗に対する比率Aとが、第1信号線81の断面積及び第1グランド線41の断面積によって調整されている。このような構成によれば、第1信号線81の本数を変えずに、抵抗値R及び熱抵抗の比率Aを簡易に調整することが可能となる。これにより、簡易な調整により、信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能となる。
また、本実施形態に係るエネルギー線検出システム1では、第1信号線81の抵抗値Rと、第1信号線81及び第1グランド線41を合わせた熱抵抗の第1信号線81の熱抵抗に対する比率Aとが、第1信号線81の材質及び第1グランド線41の材質によって調整されている。このような構成によれば、抵抗値R及び熱抵抗の比率Aを簡易に調整することが可能となる。これにより、簡易な調整により、信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能となる。
また、本実施形態に係るエネルギー線検出システム1では、検出素子82は、超伝導状態でエネルギー線を検出する素子であり、抵抗値Rsは0であってもよい。このような構成によれば、検出素子82がエネルギー線を検出した場合の信号強度が増大するため、検出素子82からの信号の強度がノイズ許容電圧に対応した値より大きくなるような抵抗値Rの許容値も増大する。これにより、抵抗値Rが取り得る範囲が増大し、エネルギー線検出システム1の設計の自由度を向上させることができる。
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
上記実施形態に係るエネルギー線検出システム1では、1本の第1信号線81及び1本の第1グランド線41が各第1接続部5に含まれており、複数の第1接続部5が設けられていたが、これに限定されない。複数の第1グランド線41は、互いに電気的に接続されており、複数の第1信号線81及び複数の第1グランド線41は、一体化されていてもよい。より詳細には、エネルギー線検出システム1には、第1接続部5が1つのみ設けられており、第1接続部5において、n本の第1信号線81及び複数の第1グランド線41が、一体化されていてもよい。例えば、第1接続部5は、n本の第1信号線81及び複数の第1グランド線41が一体化されたケーブル又は基板であってもよい。また、例えば、n本の第1信号線81及び複数の第1グランド線41を用いて、例えばFPCケーブル等のフレキシブルケーブルのような平面伝送線路を形成形成してもよい。このような構成によれば、真空容器2内部において、第1信号線81及び第1グランド線41を設けるためのスペースをできるだけ小さくすることが可能となり、結果として検出システムの小型化が実現される。
また、第1接続部5が1つのみ設けられており、第1接続部5において、n本の第1信号線81及び複数の第1グランド線41が一体化されている場合、RTは、第1接続部5の熱抵抗を第1信号線81の本数nで除算した値である。また、定数Aは、1本の第1信号線81の熱抵抗と、全てのグランド線の熱抵抗を第1信号線81の本数nで除算した熱抵抗とを合計した熱抵抗の第1信号線81の熱抵抗に対する比率である。
また、上記実施形態に係るエネルギー線検出システム1では、1本の第2信号線83及び1本の第2グランド線42が各第2接続部6に含まれており、複数の第2接続部6が設けられていたが、これに限定されない。複数の第2グランド線42は、互いに電気的に接続されており、複数の第2信号線83及び複数の第2グランド線42は、一体化されていてもよい。より詳細には、エネルギー線検出システム1には、第2接続部6が1つのみ設けられており、第2接続部6において、n本の第2信号線83及び複数の第2グランド線42が、一体化されていてもよい。例えば、第2接続部6は、n本の第2信号線83及び複数の第2グランド線42が一体化されたケーブル又は基板であってもよい。また、例えば、n本の第2信号線83及び複数の第2グランド線42を用いて、例えばFPCケーブル等のフレキシブルケーブルのような平面伝送線路を形成してもよい。このような構成によれば、真空容器2内部において、第2信号線83及び第2グランド線42を設けるためのスペースをできるだけ小さくすることが可能となり、結果としてエネルギー線検出システム1の小型化が実現される。
また、上記実施形態では、信号処理回路84の構成は、アンプ85、電流源86、及びシャント抵抗87を備えていたが、これに限定されない。図7は、本変形例に係る回路ユニット108を示す図である。図7に示されるように、回路ユニット108の信号処理回路184は、電流源86及び第2信号線83の他方の端子83bの接続箇所とアンプ85との間にコンデンサ189を有していてもよい。この場合、検出素子82がOFFである場合に入力電圧が0Vとなり、検出素子82がONである場合に発生する入力電圧Vを、入力電圧の差分ΔVとして検出することができる。
加えて、図8は、本変形例に係る回路ユニット208を示す図である。回路ユニット208の信号処理回路284は、アンプ85に代えてアンプ285を有していてもよい。アンプ285は、コンデンサ289と、抵抗290と、アンプ291を有する。コンデンサ289は、電流源86と第2信号線83の他方の端子83bとの接続箇所に接続されている。アンプ291は、コンデンサ289に接続されている。抵抗290は、アンプ291とコンデンサ289との接続箇所と、接地電位接続部88との間に接続されている。この場合、第1信号線81の抵抗値Rの値は、シャント抵抗87、コンデンサ289、及び抵抗290を合成したインピーダンスZshを、シャント抵抗87の抵抗値Rshに置き換えた上で計算された範囲に設定される。
更に、上記変形例では、信号処理回路284は、シャント抵抗87を含んでいなくてもよい。この場合、第1信号線81の抵抗値Rの値は、コンデンサ289、及び抵抗290を合成したインピーダンスZshを、シャント抵抗87の抵抗値Rshに置き換えて計算された範囲に設定される。
また、上記実施形態では、回路ユニット8は、第1信号線81、検出素子82、第2信号線83及び信号処理回路84を有していたが、これに限定されない。図9は、本変形例に係る回路ユニット308を示す図である。回路ユニット308の信号処理回路384は、第2信号線83の他方の端子83bに直接接続するコイル392を有していてもよい。この場合、第1信号線81と直列の位置にコイル392が設けられるため、検出素子82がONである場合にバイアス電流Ibの変化が遅れる。したがって、検出素子82における発熱部分が広がり、検出素子82がONである場合の抵抗値Rnが大きくなるため、入力電圧の差分ΔVを大きくすることができる。その結果、検出素子82の数を増加させた際に信号品質を高めつつ正常に動作させることが可能となる。
また、上記実施形態では、エネルギー線検出システム1において、第2コールドヘッド25、ホース26、サブステージ32及び第2接続部6が設けられていなくてもよい。図10は、本変形例に係るエネルギー線検出システム401を示す概略構成図である。図11は、本変形例に係る回路ユニット408の等価回路を示す図である。本変形例に係るエネルギー線検出システム401は、真空容器402、メインステージ31、大気ステージ33、グランド接続部404、複数の第1接続部405、及び光ファイバ7によって構成される。n個(nは2以上の整数)の回路ユニット408は、上記実施形態と同様に、メインステージ31、大気ステージ33、グランド接続部404、及び第1接続部405によって構成されるエネルギー線を検出するための回路である。エネルギー線検出システム401では、n個(nは2以上の整数)の回路ユニット408が設けられている。
図10に示されるように、エネルギー線検出システム401は、サブステージ32及び第2接続部6を有していない。真空容器402は、真空容器2と異なり、第2コールドヘッド25及びホース26を有していない。グランド接続部404は、複数のグランド線441を有している。複数のグランド線441は、互いに電気的に接続されている。各グランド線441は、検出素子82と接地電位接続部88とを接続している。なお、本変形例では、グランド接続部404は、各回路ユニット408ごとにグランド線441を有している。
第1接続部405の一方の端部451は、メインステージ31に固定されている。第1接続部405の他方の端部452は、大気ステージ33に固定されている。本変形例では、第1接続部405は、各回路ユニット408(詳細は後述する。)ごとに設けられている。第1接続部405は、1本の信号線480及び1本のグランド線441を内部に備える。第1接続部405内において、各グランド線441は、信号線480と互いに電気的に絶縁されつつ、信号線480と一体化されている。例えば、第1接続部405は、外部導体であるグランド線441に取り囲まれた内部導体である1本の信号線480を含む同軸ケーブルである。なお、本変形例において、第1接続部405は1つのみ設けられていてもよい。この場合、第1接続部405において、n本の信号線480及び複数のグランド線441が一体化されていてもよい。
図11に示されるように、回路ユニット408では、第1信号線481及び第2信号線483に代えて信号線480が設けられる。信号線480の一部分は、筐体20に格納されている。検出素子82は、信号線480の一方の端子480aと接地電位接続部88との間に接続されている。信号処理回路484は、信号線480の他方の端子480bに直接的に接続されている。
第1信号線81の抵抗値に代えて信号線480の抵抗値が抵抗値Rとされる。この場合、信号線480の抵抗値Rの最小値が、第1接続部405の熱抵抗をRT、第1コールドヘッド23の冷却能力をWc、信号線480の一方の端子480a側の温度T1、信号線480の他方の端子480b側の温度T2、第1接続部405の温度Tを基に計算された値に設定される。なお、T1は、メインステージ31の温度であり、T2は、大気ステージ33の温度である。
また、上記実施形態では、メインステージ31と大気ステージ33との間に複数のステージが設けられていてもよい。この場合、第2コールドヘッド25等の冷却器が設けられているステージのうち、メインステージ31に最も近いステージが抵抗値Rの設定範囲を決めるサブステージ32とされる。
また、上記実施形態では、第1信号線81の抵抗値Rを設定したが、第1コールドヘッド23の冷却能力Wcを設定することにより、検出素子82が正常に動作するような冷却能力Wcの範囲を規定してもよい。これにより、汎用のケーブルと汎用の冷凍機では正常に動作させられない数の検出素子82を有する検出器を、第1コールドヘッド23の冷却能力を上げる事で正常に動作させることができる。
また、上記実施形態では、検出素子82によって検出されるエネルギー線は、光子であったが、これに限定されない。例えば、検出されるエネルギー線は荷電粒子であってもよい。例えば、検出される荷電粒子は電子であってもよく、複数の検出素子82を有する検出器は、SSED(Superconducting Single Electron Detector)であってもよい。また、例えば、検出される荷電粒子はイオンであってもよく、検出器は、SSID(Superconducting Strip Ion Detector)であってもよい。また、例えば、検出される荷電粒子は陽子であってもよく、検出器はSSIDの一種である陽子検出器であってもよい。更に、検出されるエネルギー線は、中性子であってもよく、検出器は、中性子検出器であってもよい。このような構成によれば、光子、電子、陽子、中性子、及びイオンによるエネルギー線の少なくとも1つをより精度良く検出することができる。また、上述したように、検出素子82によって検出されるエネルギー線がX線、荷電粒子及び中性子等である場合、光ファイバ7に代えて、エネルギー線透過材料からなる窓材が筐体20等に設けられていてもよい。
また、上記実施形態では、接地電位接続部88が接続している所定電位は接地電位であるとしたが、これに限定されない。例えば、接地電位接続部88が接続している所定電位を接地電位以外の電位としてもよい。この場合、回路ユニット8,108,208,308,408は、差動伝送線路となり、各回路ユニット8,108,208,308,408において信号が読み出されてもよい。
1…エネルギー線検出システム、2…真空容器、23…第1コールドヘッド(冷却器)、41…第1グランド線(グランド線)、8,108,208,308,408…回路ユニット、81…第1信号線(信号線)、81a…一方の端子、81b…他方の端子、82…検出素子、84,184,284,384…信号処理回路、85,285…アンプ、86…電流源、87…シャント抵抗(回路要素)、480…信号線、480a…一方の端子、480b…他方の端子。
Claims (8)
- 冷却器を有する真空容器と、
少なくとも一部が前記真空容器に格納されている信号線と、前記真空容器に格納され、前記信号線の一方の端子と所定電位との間に接続されており、低温状態においてエネルギー線を検出する検出素子と、前記信号線の他方の端子に直接的あるいは間接的に接続されており、前記真空容器の外部に配置された信号処理回路と、を有するn個(nは2以上の整数)の回路ユニットと、
を備え、
前記信号処理回路は、前記他方の端子に接続されているアンプと、前記他方の端子と前記所定電位との間に互いに並列に接続されている電流源及び回路要素と、を含み、
前記信号線の抵抗値Rは、
前記信号線の本数n、前記信号線における前記一方の端子側の温度T1、前記信号線における前記他方の端子側の温度T2、及び、前記冷却器の冷却能力Wcに基づいて算出された値より大きく、
前記アンプにおけるノイズ許容電圧VN、前記回路要素のインピーダンスZsh、前記検出素子のエネルギー線を検出していない場合の抵抗値Rs、前記検出素子のエネルギー線を検出した場合の抵抗値Rn、及び、前記検出素子がエネルギー線を検出していない場合に前記検出素子に流れる電流Ibに基づいて算出された値より小さい、エネルギー線検出システム。 - 前記信号線の前記抵抗値Rと、前記信号線及び前記グランド線を合わせた熱抵抗の前記信号線の熱抵抗に対する前記比率Aとが、前記信号線の長さ及び前記グランド線の長さによって調整されている、請求項2に記載のエネルギー線検出システム。
- 前記信号線の前記抵抗値Rと、前記信号線及び前記グランド線を合わせた熱抵抗の前記信号線の熱抵抗に対する前記比率Aとが、前記信号線の断面積及び前記グランド線の断面積によって調整されている、請求項2又は3に記載のエネルギー線検出システム。
- 前記信号線の前記抵抗値Rと、前記信号線及び前記グランド線を合わせた熱抵抗の前記信号線の熱抵抗に対する前記比率Aとが、前記信号線の材質及び前記グランド線の材質によって調整されている、請求項2~4のいずれか1項に記載のエネルギー線検出システム。
- 複数の前記グランド線は、互いに電気的に接続されており、
複数の前記信号線及び複数の前記グランド線は、一体化されている、請求項2~5のいずれか1項に記載のエネルギー線検出システム。 - 前記検出素子によって検出される前記エネルギー線は、光子、荷電粒子、及び中性子の少なくとも1つである、請求項1~6のいずれか1項に記載のエネルギー線検出システム。
- 前記検出素子は、超伝導状態で前記エネルギー線を検出する素子であり、前記抵抗値Rsは0である、請求項1~7のいずれか1項に記載のエネルギー線検出システム。
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