JP2023111754A - ヘッドアップディスプレイ装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】車両の姿勢変動が急峻な場合に、虚像表示の位置補正処理によってユーザーに違和感を与える可能性を低減できるヘッドアップディスプレイ装置を提供する。【解決手段】車両の前景に重なるように虚像を表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、車両の姿勢変動に応じて虚像の表示位置を補正する表示位置補正手段は、姿勢変動に応じた第1補正量で虚像の表示位置を補正する第1補正処理と、姿勢変動に応じた第1補正量よりも小さい第2補正量で虚像の表示位置を補正、又は姿勢変動に応じた補正量をゼロにする第2補正処理と、を含み、姿勢変動の速度が第1閾値より小さいとき第1補正処理を実行し、姿勢変動の速度が第1閾値より大きいとき第2補正処理を実行する。【選択図】図8
Description
本開示は、ヘッドアップディスプレイ装置に関する。
車両の前景に重なるように虚像を表示するヘッドアップディスプレイ装置(以下、HUD装置という場合がある)では、車両の加減速や路面の傾斜変化に応じて車両の姿勢(主にピッチ角)が変化すると、ユーザーの視界において虚像の位置(主に上下位置)がずれ、虚像の視認性が低下する可能性がある。このような問題を解決するために、車両の姿勢変動に応じて虚像の表示位置を補正することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、車両の姿勢変動を検出してから、その姿勢変動に対応する補正量が虚像の表示位置に反映されるまでには、タイムラグが生じるため、車両の姿勢変動が急峻な場合は、補正処理の遅れによって虚像表示の位置ずれ量やずれ方向が変化し、ユーザーに違和感を与える可能性があった。
そこで、本開示は、車両の姿勢変動が急峻な場合に、虚像表示の位置補正処理によってユーザーに違和感を与える可能性を低減できるHUD装置を提供することを目的とする。
1つの側面では、以下のような解決手段を提供する。
(1)車両の前景に重なるように虚像を表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、前記車両の姿勢変動に応じて前記虚像の表示位置を補正する表示位置補正手段を備え、前記表示位置補正手段は、前記姿勢変動に応じた第1補正量で前記虚像の表示位置を補正する第1補正処理と、前記姿勢変動に応じた前記第1補正量よりも小さい第2補正量で前記虚像の表示位置を補正、又は前記姿勢変動に応じた補正量をゼロにする第2補正処理と、を含み、前記姿勢変動の速度が第1閾値より小さいとき前記第1補正処理を実行し、前記姿勢変動の速度が前記第1閾値より大きいとき前記第2補正処理を実行することを特徴とする。
(2)上記(1)の構成において、前記表示位置補正手段は、前記第2補正処理の実行を開始した後、所定条件期間が終了するまで前記第2補正処理の実行状態を維持し、前記所定条件期間が終了したら前記第1補正処理を実行することを特徴とする。
(3)上記(2)の構成において、前記所定条件期間は、前記姿勢変動の速度が前記第1閾値より大きくなってから、前記姿勢変動の極値が検出された後に前記姿勢変動の大きさが第2閾値より小さくなるまでの期間であることを特徴とする。
(4)上記(2)の構成において、前記所定条件期間は、前記姿勢変動の速度が前記第1閾値より大きくなってから、前記姿勢変動の最初の極値が検出された後に前記姿勢変動の極値の絶対値が第3閾値より小さくなるまでの期間であることを特徴とする。
(5)上記(1)又は(3)の構成において、前記表示位置補正手段は、前記第1閾値及び前記第2閾値の少なくとも一方を前記車両の走行速度に応じて変更することを特徴とする。
(6)上記(1)~(5)のいずれかの構成において、前記表示位置補正手段は、前記第2補正処理から前記第1補正処理に戻す際、前記第2補正量から前記第1補正量に徐々近づくように補正量を制御することを特徴とする。
(7)上記(1)~(6)のいずれかの構成において、前記表示位置補正手段は、前記第2補正処理から前記第1補正処理に戻す際、所定時間待ってから前記第1補正処理に戻すことを特徴とする。
(1)車両の前景に重なるように虚像を表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、前記車両の姿勢変動に応じて前記虚像の表示位置を補正する表示位置補正手段を備え、前記表示位置補正手段は、前記姿勢変動に応じた第1補正量で前記虚像の表示位置を補正する第1補正処理と、前記姿勢変動に応じた前記第1補正量よりも小さい第2補正量で前記虚像の表示位置を補正、又は前記姿勢変動に応じた補正量をゼロにする第2補正処理と、を含み、前記姿勢変動の速度が第1閾値より小さいとき前記第1補正処理を実行し、前記姿勢変動の速度が前記第1閾値より大きいとき前記第2補正処理を実行することを特徴とする。
(2)上記(1)の構成において、前記表示位置補正手段は、前記第2補正処理の実行を開始した後、所定条件期間が終了するまで前記第2補正処理の実行状態を維持し、前記所定条件期間が終了したら前記第1補正処理を実行することを特徴とする。
(3)上記(2)の構成において、前記所定条件期間は、前記姿勢変動の速度が前記第1閾値より大きくなってから、前記姿勢変動の極値が検出された後に前記姿勢変動の大きさが第2閾値より小さくなるまでの期間であることを特徴とする。
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(7)上記(1)~(6)のいずれかの構成において、前記表示位置補正手段は、前記第2補正処理から前記第1補正処理に戻す際、所定時間待ってから前記第1補正処理に戻すことを特徴とする。
本開示によれば、車両の姿勢変動が急激な場合に、虚像表示の位置補正処理によってユーザーに違和感を与える可能性を低減することが可能となる。
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。
図1(A)、(B)に示す車両1は、直線状の道路を進行している。なお、HUD装置101のユーザーは、ウインドシールド2(フロントガラス)を介して、実景(背景)として、道路の側線51、53、センターライン55、及び信号機57を視認することができる。
図1(A)において、車両(自車両)1のウインドシールドが、被投影部材(光の反射性と透光性を備える部材)として機能する。被投影部材は、言い換えれば、反射透光部材2である。なお、被投影部材(反射透光部材2)であるウインドシールド2は、コンバイナ等であってもよい。HUD装置101は、車両1に設けられた反射透光部材2に表示光を投影し、反射透光部材2に反射された表示光により虚像を生成して表示する。
HUD装置101は、例えば、ダッシュボード(図1では不図示、図6の符号41)の内部に配置されている。
また、図1(A)の例では、ステアリングホイール(広義には、ステアリングハンドル)7の近傍に、HUD装置101等のオン/オフの切り換えや、動作モード等を設定可能な操作部9が設けられている。また、フロントパネル11の中央には、表示装置(例えば、液晶表示装置)13が設けられている。表示装置13は、例えば、HUD装置101による表示の補助用に用いることができる。なお、この表示装置13は、タッチパネル等を有する複合型のパネルであってもよい。
虚像は、ウインドシールド(反射透光部材)2内の、虚像表示領域3に表示される。図1(A)では、車両1の前方に、仮想的な虚像表示面(虚像結像面)PS1(上り坂の傾斜面を有する)が設定され、この虚像表示面PS1上に虚像が表示される。虚像表示面PS1は、道路の路面40に対して傾斜した平面又は曲面であってもよい。ここで、平面又は曲面は、虚像表示面PS1の一部において存在してもよい。図1(A)では、傾斜面PS1は平面である。曲面の場合については後述する。
虚像表示面PS1の車両1に近い側の端部を近端部(点U1にて示す)とし、遠い側の端部を遠端部(点U4にて示す)とする。また、虚像表示面PS1の中心位置(点U3にて示す)とし、また、U1とU3との間に、第1の領域Z1と第2の領域Z2とを分ける境界位置(点U2にて示す)が有る。U1~U2の領域を第1の領域Z1とし、U2~U4の領域を第2の領域Z2とする。
虚像表示面PS1における、近端部U1側に位置する第1の領域Z1のぼかしの程度に対して、第1の領域Z1よりも遠端部U4側に位置する第2の領域Z2のぼかしの程度の方が大きくなるように、HUD装置101の光学系が設定されている(この点は後述する)。
図1(A)の例では、第1の領域Z1には、鮮明な車速表示(「50km/h」という表示)の虚像SPが表示されている。この車速表示SPの虚像は、広義には、「ぼかしの無い、あるいはぼかしが少ない鮮明な虚像G1」であり、言い換えれば、ユーザーへの正確な情報伝達が重視される画像(鮮明度の高い画像)の虚像G1ということができる。
この「鮮明度が高い画像」の虚像G1は、ユーザーから見て手前側に常時表示される非重畳コンテンツ(対象への重畳が意図されない、例えば車両1の状態や車両1の周囲の状況等を示すもの)の表示であってもよく、また、文字、図形、記号等の少なくとも1つからなるナビゲーション表示等であってもよい。
一方、奥側に、制限速度を示す標識(交通標識)の虚像65が表示されている。この虚像65は、適切にぼかされている(言い換えれば、ピンぼけされている)ことによって、ユーザーに、違和感のない自然な視覚が与えられる。ぼかしの程度(ぼかし量)は、実景である信号機57と同程度であり、虚像65だけが際立つことがなく、ユーザーは、自然な遠近感の虚像65を視認することができ、このため目の疲労も低減される。
虚像65は、広義には、「車両1からの距離に見合った自然なぼかしが生じている虚像G2」であり、言い換えれば、ユーザーに違和感のない視覚を与えることが重視される画像(自然な遠近感(距離感)の視覚を与える画像)の虚像G2ということができる。
虚像G2は、例えば、車両1、又は他車両の進行に関する矢印の図形、及び矢印以外の図形(例えば、進行方向を示す三角形の図形や、交通標識である円形の図形)を含む情報画像であってもよく、また、路面40に重畳されて、例えば車両1の進行方向に沿ってかなり長く延在する矢印等の図形(路面重畳図形)であってもよい。
次に、図1(B)を参照する。なお、図1(B)において、車両1の前方に沿う方向(前後方向ともいう)をZ方向とし、車両1の幅(横幅)に沿う方向(左右方向)をX方向とし、車両1の高さ方向(平坦な路面40に垂直な線分の、路面40から離れる方向)をY方向(上方向)とする。
また、以下の説明では、虚像表示面の形状の説明等において、上、下、という表現をする。ここでは、説明の便宜上、路面40に垂直な線分(法線)に沿う方向(車両1の高さ方向でもある)を上下方向とする。路面40が水平である場合は、鉛直下向きが下方であり、その反対方向が上方である。この点は、以降の図面の説明にも適用され得る。
HUD装置101は、投光部(投射部、あるいはプロジェクター)151と、画像を表示する表示面164を有する表示部(画像表示部と言う場合もあり、具体的には例えばスクリーン)161と、反射鏡(折り返しミラー)174と、曲面ミラー(凹面鏡)161と、カバーガラス176と、外装(筐体)121と、表示制御部(単に制御部という場合もある)300と、を有する。
投光部151及び表示部161は、プロジェクションディスプレイを構成する。プロジェクションディスプレイは、液晶ディスプレイのような平面ディスプレイであっても良い。また、平面ディスプレイとレンチキュラレンズ、又は、平面ディスプレイとバリアから成る立体ディスプレイであってもよい。
また、表示部161の表示面164は、光軸(具体的には、路面40に垂直な(言い換えれば直交する)虚像表示面を設定する場合を想定し、その場合の、1つの光学部品である表示部の表示面の中心を通る主光線を想定したときの、その主光線に沿う光軸)に対して、斜めに配置されている。この傾斜の程度によって、虚像表示面PS1の傾斜面の勾配(路面40に対する傾きの角度)が決定される。プロジェクター151による投影によって、表示部161の表示面164上に画像(映像)が表示(生成)される。
プロジェクター151は、例えば、LED等の光源と、表示パネル(液晶パネル等)と、投射光学系とを含むことができる。
また、表示部であるスクリーン161としては、例えば、透明なポリカーボネートの基材上に、透明なUV硬化樹脂でマイクロレンズアレイを形成したものを使用することができる。なお、表示部161は、それ自体が液晶表示装置等のディスプレイであってもよい。
反射鏡(折り返しミラー)174は、平面部分を有するように成形した樹脂、例えばポリカーボネートに、金属、例えばアルミを蒸着したミラーであり、光路を折り畳むためにプロジェクションディスプレイの光を反射する。
曲面ミラー(凹面鏡)171は、凹面を有するように成形した樹脂、例えばポリカーボネートに、金属、例えばアルミを蒸着したミラーであり、一種の拡大鏡としての機能を有し、表示光Kをウインドシールド2に向けて投射することで画像(映像)の投影を行う。
カバーガラス176は、透明な樹脂、例えばポリカーボネート製のシートである。また、外装121は,全ての部分を収容する筐体である。
表示制御部(制御部)300は、マイクロプロセッサとそれを動作させるための各種電子部品、基板、ケース等から成り、外部から車両情報やユーザーの入力を処理し、それに基づいて映像を適切に表示するようにプロジェクションディスプレイを制御する。表示制御部300の内部構成の例については後述する。
ここで、表示面164を有する表示部161を「1つの光学部材」とし、凹面鏡(曲面ミラー)171及び反射鏡174を備える構成を、「他の光学部材」とする。なお、反射鏡174は必要に応じて設けられるものであり、これが無い構造であってもよい。
本実施形態では、上記の「1つの光学部材」と、上記の「他の光学部材」と、の光学的不整合を意図的に導入して、図1(A)で説明した第1、第2の領域Z1、Z2における、ぼかし特性(ぼかし量の調整)を実現する。端的に述べれば、他の光学部材(171、174)は、仮想的な表示部163(現実の表示部161とは別である)を想定したとき、この仮想的な表示部163の表示面に画像が表示されたときに、焦点があった(ピンぼけのない)虚像が得られるように、その形状や配置が設計されている。これによって、光学的な不整合が意図的に設けられる。この点については、図2の例にて詳細に説明する。
また、図1(B)において、表示部161(の表示面164)の上端部が、虚像表示面PS1における近端部U1に対応する端部U1’であり、下端部が、遠端部U4に対応する端部U4’である。
また、表示光Kは、虚像表示面PS1の近端部U1に対応する光線E1と、中間部U3に対応する光線E2と、遠端部U4に対応する光線E3を含む。
また、図1(B)の左側に、破線にて虚像表示面PS2(仮想的な表示部163に対応するものである)が示されている。
また、図1(B)の左側に、所定の幅をもつ許容焦点深度の範囲PDが示されている。この範囲PDに収まる焦点深度ずれであれば、ユーザーの目には、その結像のずれが目立たず、ピンぼけが実質的に感得されない。虚像表示面PS1上の、U1~U2の領域(第1の領域Z1)は、範囲PDの内にあるため、第1の領域Z1に結像する画像は、ピンぼけが目立たず、鮮明な画像が得られる領域となっている。
一方、U2~U4の領域(第2の領域Z2)は、範囲PDの外にあり、よって、第2の領域Z2に結像する画像は、ピンぼけ(ぼかし)がユーザーに感得される。図1(B)の例では、U1、U2、U3、U4の各部(各点)に対する、視覚上の基準点(ユーザーの視点A、あるいは、これに代る車両1上の所定点等)を始点とした距離(虚像表示距離)は、L1、L2、L3、L4である。L2~L4の範囲では、虚像表示距離が大きくなるほど、ぼかし(ピンぼけ)の量(程度)も増大し、距離に応じた自然な、虚像のぼかしが実現される。
次に、図2を参照する。図2(A)に示される構成の主要部は、図1(B)と同じであり、説明を省略する。但し、図2(A)では、曲面ミラー(凹面鏡)171の角度は、アクチュエータを備える回転機構175の動作によって適宜、調整されることができ、また、スクリーン161の傾きや位置は、アクチュエータを備える表示部用の調整部173によって、適宜、調整することができ、この点で、図1(B)とは異なる。
図2(A)では、表示制御部(制御部)300は、投光部(プロジェクター)151の動作、回転機構175の動作、表示部用の調整部173の動作等を統括的に制御する。光学系の特性を、種々の観点から調整することで、例えば、虚像表示面の傾き角、路面40からの距離等を調整することができ、これによって虚像表示面の形状等のバリエーションを増やすことができる。なお、図2(A)では、表示制御部(制御部)300は、外部のセンサや他のECUから情報を取得するI/Oインターフェース、プロセッサ、メモリ、及びメモリに記憶されたコンピュータ・プログラム(いずれも不図示)等を含んで構成される。
次に、光学的不整合(光学的なずれ)を意図的に設定することについて、より具体的に説明する。
図1(B)を用いて説明したように、表示面164を有する表示部161を「1つの光学部材」とし、凹面鏡(曲面ミラー)171及び反射鏡174を備える構成を、他の光学部材としたとき、上記の1つの光学部材と、上記の「他の光学部材」との光学的不整合を意図的に導入して、図1(A)で説明した第1、第2の領域Z1、Z2における、ぼかし特性(ぼかし量の調整)を実現する。
「他の光学部材」は、言い換えれば、「表示部161の表示面164に形成(生成)される画像に対応する光(表示光)を反射する少なくとも1つの反射部材(具体的に言えば、図2(B)の凹面鏡171のみ、又は、凹面鏡171と反射鏡(折り返しミラー)174)を備える、表示部161以外の光学部材」ということができる。
そして、1つの光学系としての表示部161と、他の光学部材(171、174)との間に光学的不整合が生じている。具体的には、例えば、凹面鏡171や反射鏡174の配置(言い換えれば、表示部161の表示面164に対する相対的位置関係)、及び、光を反射する反射面(具体的には、凹面鏡171及び他の反射鏡174の各反射面の少なくとも1つ)の形状、の少なくとも1つを、通常の場合(光学的ずれがない場合)とは変更することで、光学的ずれを意図的に生じさせることができる。
一例として、図2(B)では、他の光学部材(171、174)は、仮想的な表示部163(現実の表示部161とは別である)を想定したとき、この仮想的な表示部163の表示面(仮想表示面)に画像が表示されたときに、焦点があった(ピンぼけのない)虚像が得られるように、その形状や配置が設計される。
言い換えれば、仮想的な表示部163の仮想表示面(実際の基準面とは異なる面)を想定し、他の光学部材(171、174)の特性(複数の要素の特性が総合されて生じる、統合された1つの光学系としての特性)が、その仮想表示面に表示される画像に対して、許容焦点深度内の適正な結像が得られる(言い換えれば、鮮明な虚像が得られる)ように調整される、ということである。
例えば、仮想基準面と実際の表示面とを、一端が一致し、他端が異なるように配置することにより、一端側では、2つの各表示面の表示領域の位置にはあまり差がないため、その付近の箇所では、概ね焦点の合った虚像表示ができ、一方、他端側になると、各表示面の位置の差が大きくなり、合焦位置に差が生じる。図2(B)の例では、実施の表示部161(の画像表示領域)と、仮想的な表示部163(の画像表示領域)とは、上端が一致しており、下端同士は、かなり距離が開いている。
図2(B)の例では、各表示面(実際の表示面164と仮想表示面)が共に平面であることから、一端(上端)から他端(下端)へと向かうにつれて、位置の差が拡大し、焦点ずれが拡大される。
ここで、図2(B)を参照する。図2(B)には、実際の表示部161の表示面164上で、虚像表示面PS1上の第1、第2の領域に対応して、第1、第2の実像表示領域が設定される様子を示している。なお、実際の表示部161のU1’~U4’が付された箇所は、虚像表示面PS1のU1~U4の各部分に対応する。
実際の表示面164上において、一端(上端)側に第1の実像表示領域Z1’を設定し、他端(下端側)に第2の実像表示領域Z2’を設定することで、第2の実像表示領域Z2’に配置される画像に対して、一端(上端)からの距離に応じた(言い換えれば、虚像表示距離に応じた)、適正なぼかし量(ピンぼけの程度)を有する、自然な遠近感の虚像による表示が可能となる。特に、虚像表示距離に対して連続的に変化するような「ぼかし量の調整」が、電気的処理を何ら施すことなく可能であることから、画像処理ソフトウェアの負担の少ないHUD装置101を、低コストで提供することができる。
但し、光学的な不整合を設定する方法は、上記のものに限定されない。例えば、光学的不整合を実現するために、補正鏡や補正レンズを介在させる場合もあり得る。この場合は、凹面鏡や他の反射鏡は、通常の場合と同様の配置や形状としておき、補正鏡(補正レンズ)にて光学的ずれを生じさせることも可能である。このような設計の変更は適宜、なし得るものである。
次に、図2(C)を参照する。図2(C)では、虚像表示面PS3が曲面であり、特に、近端部U1付近が、路面40に近づくように、下側に向かって曲がっている。よって、この曲がっている部分に第1の領域を設定すれば、文字やアイコン等の立像(路面40に対して傾斜しているのではなく、立っている像)M1の表示が可能となり、ユーザーの視認性が、さらに向上するという効果を得ることができる。一方、第2の領域Z2では、かなり広い範囲にわたって、奥行き感のある傾斜像M2の表示が可能である。
図2(C)のような形状の虚像表示面PS3は、例えば、曲面ミラー(凹面鏡)171の反射面を自由曲面として、言い換えれば、異なる曲率半径の複数の曲面の集合体として設計することで可能となる。
表示光Kには、虚像表示面の近端部U1に対応する光線E1(図2(A)に一点鎖線で示される)と、中間部U3に対応する光線E2(図2(A)に破線で示される)と、遠端部U4に対応する光線E3とが含まれる。
曲面ミラー(凹面鏡)171において、光線E2、E3に対応する箇所(言い換えれば、光の反射により光線E2、E3を出射させる箇所)については、虚像表示面が平面である場合と同様の曲率半径に設定する。
但し、光線E1に対応する箇所については、虚像表示面が平面である場合に比べて、曲率半径を小さく設定し、焦点が短くなるようにする。そうすると、この部分に対応する倍率が大きくなる。
HUD装置101の倍率(cとする)は、表示部161の表示面164からウインドシールド2に至るまでの距離(aとする)と、ウインドシールド(反射透光部材2)で反射した光が視点Aを経由して結像点で結像するまでの距離をbとすると、c=b/aで表すことができるが、光線E1に対応する部分の曲率が小さくなると、aが小さくなり、倍率が上がり、像は、車両1からより遠い位置に結像するようになる。
したがって、図2(C)における、虚像表示面PS3の近端部U1は、車両1から引き離されることになり、これによって頭が抑えられて、近端部U1がおじぎをする形で路面40側に湾曲し、この結果として立像の表示が可能な第1の領域Z1が形成される。光線E2、E3についての光路長は変わらないため、図2(A)の平面の場合と同様になり、これにより、図2(C)のような、立像の表示に適した第1の領域Z1と、奥行き画像の表示に適した第2の領域Z2と、を併せもつ虚像表示面PS3が得られる。
図2(A)に戻って説明を続ける。表示制御部(制御部)300は、表示部161の表示面164における、虚像表示面の第1の領域Z1に対応する第1の実像表示領域Z1’に「第1の画像」を表示させ、第2の領域Z2に対応する第2の実像表示領域Z2’、又は第1、第2の実像表示領域Z1’、Z2’の双方に、第1の画像とは異なる「第2の画像」を表示させる。
ここで、「第1の画像」は、上述のとおり、車速表示SP等の画像であり、広義には、「ぼかしの無い、あるいはぼかしが少ない鮮明な虚像による表示が好ましいものであり、言い換えれば、ユーザーへの正確な情報伝達が重視される画像(鮮明度の高い画像)」である。
また、「第2の画像」は、上述のとおり、車両1の進行方向に沿って延在するナビゲーション用の矢印等の図形や、遠方に表示される標識や看板等であり、広義には、「車両1からの距離に見合った自然なぼかしが生じている虚像による表示が好ましいもの」であり、言い換えれば、「ユーザーに違和感のない視覚を与えることが重視される画像(自然な遠近感(距離感)の視覚を与える画像)」である。
このようにして、第1、第2の各実像表示領域Z1’、Z2’には、それぞれの領域に適した視覚特性をもつ画像が配置されることになる。よって、ユーザーから見て、手前側には、鮮明な表示が実現され、奥側には、かなり広範囲にわたる奥行き感のある表示が実現されることになり、傾斜した一面の虚像表示面を用いた、異なる種類の画像(虚像)の表示が良好な視認性をもって表示されるという効果が得られる。また、本実施形態では、遠方の虚像は自然にピンぼけした表示となることから、仮に虚像表示面の一部が路面40から浮き上がっていても、その浮き上がりが見えづらくなる(感得しがたくなる)という効果(言い換えれば、路面重畳HUDによる表示を行う場合の、虚像表示面の浮き上がりを感得しにくくする効果)も期待できる。
次に、図3を参照する。図3(A)、(B)は、表示部の表示面上における、第1、第2の実像表示領域に表示される画像(実像)の例を示す図である。図3において、前掲の図と共通する部分には同じ符号を付している。
なお、図3(A)、(B)の画像は、理解の容易のために上下を逆にして描いている。紙面の下側が、表示面164の上端側であり、紙面の上側が、表示面164の下端側となる。これは、図2(B)のHUD装置の光学系を用いると、虚像表示面に表示される虚像と、表示部161の表示面164に表示される画像(実像)とでは、上下が逆転(反転)することから、表示面164には、虚像とは、上下が逆の画像を表示することになり、そのままの表示では、理解がしづらいことを考慮したものである。
図3(A)、(B)では、表示部161の表示面164に画像表示領域165が設けられ、この画像表示領域165内に画像が表示される。
図3(A)は、図1(A)の虚像表示例に対応する画像表示を示している。表示面164の画像表示領域165において、第1の実像表示領域Z1’には、「50km/h」という車速を示す画像SP’が表示され、第2の実像表示領域Z2’には、標識の画像65’が表示されている。なお、図中のRG1は、先に記載した第1の画像(鮮明度が重視される画像)を示し、RG2は、第2の画像(自然なぼかしのある視認性が重視される画像)を示す。
図3(B)は、別の画像表示例を示す。表示面164の画像表示領域165において、第1の実像表示領域Z1’には、「目的地まで15分」というナビゲーション用の文字の画像NV’が表示され、第2の実像表示領域Z2’には、目的地の位置を示す三角のマークの画像67’及びナビゲーション用の矢印の画像69’が表示されている。
次に、図4を参照する。図4(A)、(B)は路面に張り付くように虚像を表示する場合の虚像表示面の例を示す図、図4(C)~(E)は、ウインドシールドを介してユーザーが視認する虚像の他の例を示す図である。図4において、前掲の図面と共通する部分には同じ符号を付している。図4では、変形例として、路面HUDと呼ばれる、路面に虚像を重畳させて表示する技術に本発明を適用した例を示す。
図4(A)の例では、路面40上に水平に重なるようにして延在する虚像表示面PS4上に、路面に重畳される画像(路面重畳画像)Mが表示されている。なお、虚像表示面PS4は、全部(又は一部)が路面40の下に位置するようにしてもよい。人は、表示が路面上になされると認識しているため、結像点が路面40の下にあっても路面40に張り付いているかのように画像を認識し、問題は生じない。この技術を用いると、虚像表示面の路面40からの浮き上がりを抑制して、路面40に密着して張り付いた路面重畳表示(言い換えれば、違和感のない路面重畳表示)を実現することができるという利点がある。
図4(B)では、虚像表示面PS5が路面40の近くにおいて、やや傾斜して設定されている。遠端部の路面からの浮き上がりを抑えた方がよいときは、虚像表示面PS5の一部(近端部付近)を路面40の下に位置させればよい。
図4(C)の例では、ウインドシールド2の虚像表示領域3において、第1の領域Z1の右側には車速表示SPが表示されており、その左側において、第1の領域Z1から第2の領域Z2の奥側へと、車両1の進行方向に沿って延びる、左折を促すナビゲーション用矢印71が表示されている。
車速表示SPは鮮明度が高く、視認性に優れる。また、ナビゲーション用矢印71は、車両1に近い側に基端部71aが存在し、遠い側に先端部71bが存在する。基端部71aは鮮明に表示され、先端部71bは距離に応じてぼかされて表示され、71aと71bの中間の領域では、距離に応じて自然なぼかしが入った表示となり、自然な遠近感のある表示が、かなりの広範囲にわたって実現されている。
図4(D)の例では、車両誘導用の表示73が、路面40に重畳されて表示されている。車両誘導用の表示73は、基端部73aと先端部73bを有するが、基端部73aから先端部73bに向かうにつれて、ぼかし量が増大し、従って、遠近感に優れた表示が実現される。
ここで、先に説明した表示制御部300は、虚像表示距離が長くなるほど、表示対象のサイズを縮小して表示する等の画像処理を行っている。但し、虚像表示距離に応じたぼかしを実現するための画像処理は不要である。よって、表示対象の遠近感制御における表示制御部300の負担が、十分に低減されている。
図4(E)の例では、遠方の右上に標識75が表示され、その標識75より手前の左側に、高速道路の出口(降り口)77を示す円形のマーク78が表示されている。
また、ある時点では、出口(EXIT)を示す車両誘導用の標識79が路面40に重畳されて、第2の領域Z2に表示されている。時間の経過と共に(言い換えれば、車両1の進行に合わせて)、その標識79が、車両1に近づくように、言い換えれば第1の領域Z1に向かうように移動する。その移動に伴い、標識79のぼかしの程度が徐々に減少し、鮮明度が増してくるので、ユーザーには自然な視覚が与えられる。
一方、高速道路の出口(降り口)77を示す円形のマーク78であるが、仮に、出口77で進入できずに通り過ぎてしまうと、ユーザーは次の出口まで行って再び戻ってくるという大きな負担を負うことになり、この運転シーンは、重大性(あるいは緊急性)が高い運転シーンということになる。
ここで、円形のマーク78は、出口77が遠方にある場合であっても鮮明に表示した方がよいのであれば、表示制御部300は、円形のマーク78については、個別に画像処理を行い、ぼかしのない鮮明な虚像とする画像処理(ぼかしを抑制する表示制御)を実施してもよい。
光学的な不整合を生じさせて、自然なぼかしを実現するが、場合によっては、そのぼかしが不要となることもある。例えば、上記のような重要な運転シーンの場合、あるいは、遠方に障害物があることを報知するために注意喚起マークを表示するような場合(危険報知の場合)や、高速道路の出口の報知のように重要度の高い表示の場合等である。このようなときは、表示制御部300が、個別に画像処理を行って、ぼかしを抑制し、鮮明度を増す補正を行うことで、個別に救済することで、本実施形態の光学系を使用した場合の悪影響が発生しないようにすることができる。この場合でも、個別の画像処理であることから、画像処理ソフトウェアやハードウェアの負担はそれほど増大しないので、問題は生じない。
次に、図5を参照する。図5は、HUD装置101のシステム構成の一例を示す図である。図5において、前掲の図と共通する部分には、できるだけ同じ符号を付している。図5に示されるシステムは、表示制御部(表示制御装置)300と、対象物検出部801と、車両情報検出部803と、表示部161と、第1アクチュエータ177と、第2アクチュエータ179と、を有する。
表示制御部(表示制御装置)300は、I/Oインターフェース741と、プロセッサ742と、メモリ743を有する。表示制御部(表示制御装置)300、対象物検出部801及び車両情報検出部803は、通信線(BUS等)に接続されている。
また、第1アクチュエータ177、第2アクチュエータ179は、図2(A)に示した回転機構175や調整部173として利用することができる。これらは、光学系の調整系ということもできる。
また、対象物検出部801は、例えば、車両1に設けられた車外センサ、車外カメラ等にて構成することができる。また、車両情報検出部803は、例えば、速度センサ、車両ECU、車外通信機器、目の位置を検出するセンサ、車両1のピッチ角(前後傾斜角)を検出するヨートレートセンサ等、あるいは、ハイトセンサにより構成することができる。表示制御部(表示制御装置)300は、対象物検出部801の検出情報や、車両情報検出部803からの情報に基づいて、例えば、表示対象について、個別にぼかしの程度を調整する画像処理を実施し、適切な遠近感の表示と、ユーザーへの情報の確実な報知とを両立させるのが好ましい。
また、1つ又はそれ以上のプロセッサ742は、例えば、路面40の位置を取得し、路面40の位置に基づき、虚像表示面の少なくとも一部が、例えば、路面40の下に配置されるように、第1、第2のアクチュエータ177、179のうちの少なくとも一方を駆動することも可能である。
次に、図6を参照する。図6は、HUD装置の全体の構成の一例を示す図である。なお、図6では光学系52が設けられるが、この光学系52の構成として、先に図1(B)又は図2(A)で示したものと同様の構成が採用され得る。また、光学系52の内部構成に関して、図1(B)又は図2(A)に示される構成と同様の箇所には同じ参照符号を付している。
図6の例では、光学系52と、前方撮像カメラ17による撮像画像に基づいて画像処理を行う画像処理部21を有する運転シーン判定部19と、ナビゲーション部(ナビゲーションECU)400と、が設けられる。
光学系52は、投光部151と、画像Mが形成される表示面164を備える表示部(画像表示部:具体的には光透過性のスクリーン等)161と、曲面ミラー(凹面鏡)171と、を有する。光学系52から表示光Kがウインドシールド(反射透光部材2)に向けて出射され、この結果、先に説明したとおり、虚像表示面PSに虚像が表示される。
表示制御部300は、画像出力部32と、駆動部33と、虚像表示距離制御部34と、画像生成部35と、第1の領域(例えば、ぼかしが抑制された領域)/第2の領域(例えば、ぼかしが有りの領域)の検出部36と、虚像表示面位置調整部37と、各種情報取得部39(車両1のピッチ角を算出等により取得するピッチ角取得部38を含む)と、を有する。
ナビゲーション部(ナビゲーションECU)400は、奥行きマッピング部402と、ナビ情報(道路案内情報、道路標識情報等)生成部404と、運転経路情報取得部406と、自車両位置情報取得部408と、地図情報取得部410と、記憶部(地図、道路案内情報、道路標識等のデータベースとして機能する)412と、を有する。ナビゲーション部(ナビゲーションECU)400には、車載ECU700が収集した車両情報等が、バス(BUS)を介して供給される。
また、通信部500が、例えば、車両10の外部に設置されている運転支援システム(又は他車に搭載されているADASシステム等)600との無線通信によって取得した各種の情報を、適宜、ナビゲーション部400の自車両位置情報取得部408及び地図情報取得部410に供給するようにしてもよい。また、GPS受信部502がGPS衛星から受信した位置情報等を、適宜、ナビゲーション部400の自車両位置情報取得部408及び地図情報取得部410に供給するようにしてもよい。
また、車両1には、各種センサ(ピッチ角検出用のヨートレートセンサ等を含めることができる)505が設けられている。また、車載ECU700により収集される各種の情報は、BUSを介してナビゲーション部400に供給され、また、各種情報の一部(符号J0で示している)は、ピッチ角取得部38及び各種情報取得部39にも供給される。情報J0には、現在の運転シーンにおける前方や後方、車両の周囲等における危険情報や、ユーザーに報知すべき情報の重要度判定の結果も含ませることができる。
表示制御部300は、この危険の程度や重要性の程度の情報を参照して、表示対象についてのぼかし量を軽減する(抑制する)処理を個別に行い、危険度や重要度の高い事象に関する表示については、表示の遠近に関係なく、ぼかしを抑制(無しにすることを含む)して鮮明な表示による、的確な情報のユーザーへの提供を行ってもよい。また、悪天候などで、ユーザーの視認性が通常時に比べて低下していると判断されるときは、虚像表示の鮮明度を高める等の画像処理を、適宜、行うこともできる。
表示制御部300において、各種情報取得部39に含まれるピッチ角取得部38は、画像処理部21から供給される画像情報、及び車載ECU700から供給される各種センサの情報等に基づいて、車両1の現在のピッチ角(言い換えれば車両1の傾斜)を算出する。
また、各種情報取得部39は、ピッチ角やユーザー22の視点Aの位置等を考慮して、例えば、図1(B)、図2(A)に示される表示部161の表示面164上での、第1、第2の領域Z1、Z2の境界点U2や、中間点U3等の位置を検出、決定することができる。
また、虚像表示面位置調整部37は、運転シーン判定部19から提供される情報によって、車両1が例えば登り坂(あるいは下り坂)にさしかかっていると判定されるときは、ピッチ角等を考慮して、虚像表示面PSの斜面の位置(路面に対する相対位置)を調整(補正)する。
第1の領域(ぼかしが抑制された領域)/第2の領域(ぼかしが有りの領域)の検出部36は、虚像表示面PSにおける第1の領域Z1と、第2の領域Z2とに区別する。なお、虚像表示面が2以上の領域に区分される場合は、各領域を判定してもよい。
また、虚像表示距離制御部34は、ナビゲーション部(ナビゲーションECU)400から供給される、表示対象である情報画像(ナビ情報等)の奥行き情報等に基づいて、表示面164における情報画像の表示位置を決定し、これによって虚像表示距離を調整する。言い換えれば、傾斜面である虚像表示面PS上において、表示位置が異なれば、虚像表示距離が異なることになり、このことを積極的に利用することで、虚像表示距離を適宜制御して、遠近感や立体感を調整することが可能である。表示位置の制御による虚像表示距離の変更に際して、表示対象のサイズを適宜変更したり、陰影をつける等の形態制御を実施したりして、効果的な遠近感を演出することもできる。
また、虚像表示面PSは、車両1の前方の、例えば100mの範囲にわたって設定することができる。上記の虚像表示距離の制御による遠近感の演出は、表示対象が20mを超えて(あるいは20m以上)遠方にあるときは、人がその差異を認識するのが困難となることから意味がないので、この場合は、表示対象のサイズ変更などの形態制御のみで対応するのが好ましい。
画像生成部35は、入力される各種情報に基づいて、表示面164に表示する画像(原画像)を生成する。生成された画像(原画像)は画像出力部32に供給される。画像出力部32は、画像(原画像)のデータcvを、光学系52の投光部150に供給する。また、駆動部33は、例えば、曲面ミラー(凹面鏡)171を回動させるための制御信号rvsをアクチュエータ(図5の符号177及び179の少なくとも1つ)に供給する。
次に、虚像表示面位置調整部37の具体的な機能構成について説明する。
虚像表示面位置調整部37は、ハードウェアとソフトウェアとの協働により実現される機能構成としての表示位置補正手段を含む。表示位置補正手段は、車両1の姿勢変動に応じて虚像の表示位置を補正する。本実施形態では、車両1のピッチ角変動に応じて虚像の表示位置を上下方向に補正するが、車両1の姿勢変動はピッチ角変動に限定されない。また、虚像の表示位置の補正方向も上下方向に限定されない。
表示位置補正手段は、姿勢変動に応じた第1補正量で虚像の表示位置を補正する第1補正処理と、姿勢変動に応じた第1補正量よりも小さい第2補正量で虚像の表示位置を補正、又は姿勢変動に応じた補正量をゼロにする第2補正処理と、を含む。つまり、第2補正処理は、通常時(第1補正処理時)に比べて補正量を抑制する補正量抑制処理である。
表示位置補正手段は、姿勢変動の速度が第1閾値未満のとき第1補正処理を実行し、姿勢変動の速度が第1閾値以上のとき第2補正処理を実行する。つまり、車両1の姿勢変動が急峻な場合、姿勢変動に応じた虚像表示位置の補正量を抑制するので、補正処理の遅れに起因する不自然な位置補正を抑制し、ユーザーに違和感を与える可能性を低減できる。
また、表示位置補正手段は、第2補正処理の実行を開始した後、所定条件期間が終了するまで第2補正処理の実行状態を維持し、所定条件期間が終了したら第1補正処理を実行する。つまり、第2補正処理の実行を開始した後は、所定条件期間が終了するまで第2補正処理の実行状態を維持することで、第1閾値を跨いだ姿勢変動に応じて第1補正処理と第2補正処理とが頻繁に切り換わることを防止し、表示位置補正処理の安定性を向上させることができる。
上記の所定条件期間は、例えば、姿勢変動の速度が第1閾値以上になってから、姿勢変動の極値(振幅)が検出された後に姿勢変動の大きさが第2閾値未満になるまでの期間とすることができる(図8(B)参照)。このようにすると、第2補正処理の実行を開始した後、姿勢変動の大きさが第2閾値を超えている間は第2補正処理の実行状態を維持するので、第1閾値を跨いだ姿勢変動に応じて第1補正処理と第2補正処理とが頻繁に切り換わることを防止できる。
また、上記の所定条件期間は、姿勢変動の速度が第1閾値以上になってから、姿勢変動の最初の極値が検出された後に姿勢変動の極値の絶対値が第3閾値未満になるまでの期間としてもよい(図8(C)参照)。このようにすると、第2補正処理の実行を開始した後、姿勢変動の最初の極値が検出された後に姿勢変動の極値の絶対値が第3閾値を超えている間は第2補正処理の実行状態を維持するので、第1閾値を跨いだ姿勢変動に応じて第1補正処理と第2補正処理とが頻繁に切り換わることを防止できる。また、所定条件期間をこのように設定した場合は、姿勢変動の大きさと第2閾値との比較に基づいて第2補正処理を終わらせる場合に比べ、第2補正処理の期間を長く確保することができる。なお、図8(C)に示す例では、第3閾値を第2閾値よりも大きく設定しているが、第3閾値の大きさは、第2補正処理を継続させたい期間に応じて任意に設定することができる。
また、表示位置補正手段は、第1閾値及び第2閾値の少なくとも一方を車両1の走行速度に応じて変更することが好ましい。例えば、走行速度の上昇に応じて第1閾値及び第2閾値を小さくする。つまり、同じ道路形状でも車両1の走行速度が速い時は、より姿勢変動の速度は大きくなる。そのため姿勢変動の速度の閾値である第1閾値を小さく変更することで、より敏感に第2補正量での第2補正処理が実行できるため、ユーザーに与える違和感をさらに抑制することが可能になる。また、車両1の姿勢変動の大きさの閾値である第2閾値を小さくすることで、より長期間にわたって第2補正量での第2補正処理が実行できるため、ユーザーに与える違和感をさらに抑制することが可能になる。
また、表示位置補正手段は、第2補正処理から第1補正処理に戻す際、第2補正量から第1補正量に徐々近づくように補正量を制御することが好ましい。このようにすると、第2補正処理から第1補正処理への復帰処理によってユーザーに与える違和感を抑制できる。
また、表示位置補正手段は、第2補正処理から第1補正処理に戻す際、所定時間待ってから第1補正処理に戻すことが好ましい。このようにすると、第1補正処理に戻した直後に第2補正処理に切り換わることを抑制し、表示位置補正処理の安定性を向上させることができる。
次に、表示位置補正手段による表示位置補正処理の具体的な処理手順及び処理タイミングについて、図7及び図8を参照して説明する。
図7に示すように、表示位置補正手段による表示位置補正処理が開始すると、まず、車両1の姿勢変動の速度が第1閾値以上か否かを判定する(S1)。この判定方法は、IMUセンサなどの姿勢センサの角速度検出情報からピッチ角などの姿勢を推定し、姿勢変動を時系列で確認することで行うことができる。また、HDマップ情報(高精度3次元地図情報)や、車両1に取り付けられた前方撮像カメラの画像などから大きな揺れの発生予測をしてもよい。
ステップS1の判定結果がNOの場合は、姿勢変動に応じた第1補正量を適用して虚像表示位置を補正する第1補正処理を実行する(S2)。一方、ステップS1の判定結果がYESの場合は、所定条件期間であるか否かを判定する(S3)。所定条件期間は、例えば、車両1の姿勢変動を検知した時点から、姿勢変動の極値が検出された後に姿勢変動の大きさが第2閾値を上回っている間とする。また、車両1の姿勢変動を検知した時点から、姿勢変動の極値が検出された後に姿勢変動の極値の絶対値が第2閾値よりも大きい第3閾値を上回っている間としてもよい。
ステップS3の判定結果がYESの場合は、姿勢変動に応じた第2補正量で虚像表示位置を補正する第2補正処理を実行する(S4)。第2補正量は、第1補正量よりも小さい補正量であり、ゼロであってもよい。ステップS4による第2補正処理は、ステップS3の判定結果がNOになるまで繰り返される。
ステップS3の判定結果がNOの場合は、第2補正処理から第1補正処理に復帰するための補正量復帰処理を行う(S5)。補正量復帰処理に際しては、補正量を徐々に目標値(第2補正量→第1補正量)に漸近させる。
図8(A)は、第1補正処理を示すタイミングチャートであり、横軸に時間を取り、縦軸に車両ピッチ角をとり、車両1の姿勢変動の一例を表す車両ピッチ角の時系列波形を示す。図8(A)に示すように、車両1の姿勢変動の速度が第1閾値未満の場合は、第2補正処理は適用せず、車両1の姿勢変動に応じた第1補正量で虚像表示位置の補正処理を実行する。実際には、車両1の姿勢変化の速度を判定する期間(車両1の姿勢変動を検知した時点から所定の期間)は補正処理を実行せず、判定後から補正処理を実行することになる。また、変動速度は車両ピッチ角の波形の極値付近に近づくにつれて小さくなっていくので、判断に使う変動速度は閾値に達するまでの波形で判断してよい。なお、この場合、姿勢の変動速度は、最初の傾き箇所(グラフのスタート点から最初の頂点付近までの間の波形から判断している。
図8(B)は、第2補正処理から第1補正処理への復帰処理の一例を示すタイミングチャートである。なお、図8(B)は、前の判定処理に基づいて、第2補正量が適用された状態からの経過を示すものである。図8(B)に示すように、車両1の姿勢変動の速度が第1閾値以上である場合は、補正量を第2補正量に抑制して虚像表示位置を補正する第2補正処理を実行する。車両1の姿勢変動を検知した時点から、姿勢変動の極値が検出された後に姿勢変動の大きさが第2閾値を上回っている間(所定条件期間)、第2補正量で補正量を抑制し、所定条件期間を経過した後は、第1補正量で虚像表示位置を補正する第1補正処理に復帰する。
図8(C)は、第2補正処理から第1補正処理への復帰処理の他例を示すタイミングチャートである。なお、図8(C)は、前の判定処理に基づいて、第2補正量が適用された状態からの経過を示すものである。図8(C)は、所定条件期間の他例を示している。図8(C)に示すように、車両1の姿勢変化の速度が第1閾値以上である場合は、補正量を第2補正量に抑制して虚像表示位置を補正する第2補正処理を実行する。車両1の姿勢変動を検知した時点から、姿勢変動の極値が検出された後に姿勢変動の極値の絶対値が第2閾値よりも大きい第3閾値を上回っている間(所定条件期間)、第2補正量で補正量を抑制し、所定条件期間を経過した後は、第1補正量で虚像表示位置を補正する第1補正処理に復帰する。
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
1 車両
101 ヘッドアップディスプレイ装置
300 表示制御部
37 虚像表示面位置調整部(表示位置補正手段)
38 ピッチ角取得部
101 ヘッドアップディスプレイ装置
300 表示制御部
37 虚像表示面位置調整部(表示位置補正手段)
38 ピッチ角取得部
Claims (7)
- 車両の前景に重なるように虚像を表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、
前記車両の姿勢変動に応じて前記虚像の表示位置を補正する表示位置補正手段を備え、
前記表示位置補正手段は、
前記姿勢変動に応じた第1補正量で前記虚像の表示位置を補正する第1補正処理と、
前記姿勢変動に応じた前記第1補正量よりも小さい第2補正量で前記虚像の表示位置を補正、又は前記姿勢変動に応じた補正量をゼロにする第2補正処理と、を含み、
前記姿勢変動の速度が第1閾値より小さいとき前記第1補正処理を実行し、前記姿勢変動の速度が前記第1閾値より大きいとき前記第2補正処理を実行する、ヘッドアップディスプレイ装置。 - 前記表示位置補正手段は、前記第2補正処理の実行を開始した後、所定条件期間が終了するまで前記第2補正処理の実行状態を維持し、前記所定条件期間が終了したら前記第1補正処理を実行する、請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
- 前記所定条件期間は、前記姿勢変動の速度が前記第1閾値より大きくなってから、前記姿勢変動の極値が検出された後に前記姿勢変動の大きさが第2閾値より小さくなるまでの期間である、請求項2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
- 前記所定条件期間は、前記姿勢変動の速度が前記第1閾値より大きくなってから、前記姿勢変動の最初の極値が検出された後に前記姿勢変動の極値の絶対値が第3閾値より小さくなるまでの期間である、請求項2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
- 前記表示位置補正手段は、前記第1閾値及び前記第2閾値の少なくとも一方を前記車両の走行速度に応じて変更する、請求項1又は3に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
- 前記表示位置補正手段は、前記第2補正処理から前記第1補正処理に戻す際、前記第2補正量から前記第1補正量に徐々近づくように補正量を制御する、請求項1~5のいずれか1項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
- 前記表示位置補正手段は、前記第2補正処理から前記第1補正処理に戻す際、所定時間待ってから前記第1補正処理に戻す、請求項1~6のいずれか1項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
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