JP2023105417A - 音響レンズ用シリコーン樹脂、超音波プローブ及び音響レンズ用シリコーン樹脂の製造方法 - Google Patents

音響レンズ用シリコーン樹脂、超音波プローブ及び音響レンズ用シリコーン樹脂の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】生体の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを有し、超音波の減衰量が小さく、かつ高硬度である音響レンズ用シリコーン樹脂を提供すること。【解決手段】本実施形態に係る音響レンズ用シリコーン樹脂は、シリコーン樹脂と、無機酸化物と、を含む音響レンズ用シリコーン樹脂である。前記シリコーン樹脂は、少なくともフェニル基またはエチル基を有している。前記無機酸化物の密度が5.0g/cm3以上である。前記音響レンズ用シリコーン樹脂から形成された音響レンズの切断面の走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)画像に対する細線化処理により得られる無機酸化物部分の平均アスペクト比が100以上である。【選択図】図2

Description

本明細書及び図面に開示の実施形態は、音響レンズ用シリコーン樹脂、超音波プローブ及び音響レンズ用シリコーン樹脂の製造方法に関する。
超音波診断装置は、超音波の送受信を行う超音波プローブを用いて、生体内の画像化を行う医用画像診断装置である。超音波プローブは、分解能を向上させるため、圧電素子が発生した超音波を屈折させてスライス方向に集束する音響レンズを有する。音響レンズは、被検体の体表面に当接される超音波プローブの先端部分に設けられる。生体と直接接触する音響レンズの材料は、生体内に超音波が効率良く入射できるように、生体の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを有することが求められる。更に、音響レンズの材料は、超音波を高感度で送受信するために、超音波の減衰量が小さいことが求められる。
かかる音響特性を有する音響レンズの材料の1つとして、生体適合性に優れたシリコーン樹脂をベースとする音響レンズ用シリコーン樹脂が用いられている。シリコーン樹脂の音響インピーダンスは生体の音響インピーダンスより小さいことから、無機酸化物の添加により密度を増加させて、生体の音響インピーダンスに近い音響レンズ用シリコーン樹脂を得ることができる。ただし、無機酸化物の添加により超音波減衰量が大きくなるため、従来、無機酸化物の種類や含有量等の検討が行われている。
例えば、シリコーン樹脂に、無機酸化物として酸化鉄、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、酸化スズおよび酸化イッテルビウムからなる群から選択して添加した音響レンズが知られている。しかし、超音波プローブに用いられる音響レンズには、使用時の変形による音響レンズ効果の影響を低減するため、また、使用時の破壊を防ぐために、さらなる高硬度化も求められている。
特許第6265574号公報
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、生体の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを有し、超音波の減衰量が小さく、かつ、高硬度である音響レンズ用シリコーン樹脂を提供することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決される課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
本実施形態に係る音響レンズ用シリコーン樹脂は、シリコーン樹脂と、無機酸化物と、を含む音響レンズ用シリコーン樹脂である。前記シリコーン樹脂は、少なくともフェニル基またはエチル基を有している。前記無機酸化物の密度が5.0g/cm以上である。前記音響レンズ用シリコーン樹脂から形成された音響レンズの切断面の走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)画像に対する細線化処理により得られる無機酸化物部分の平均アスペクト比が100以上である。
図1は、本実施形態に係る超音波プローブの構成例を示す図である。 図2は、本実施形態に係る音響レンズ用シリコーン樹脂の概要図である。
以下、図面を参照して、超音波プローブ、音響レンズ用シリコーン樹脂、及び、音響レンズ用シリコーン樹脂の製造方法の実施形態について詳細に説明する。なお、実施形態は、以下の実施形態に限られるものではない。また、一つの実施形態に記載した内容は、原則として他の実施形態にも同様に適用される。
(実施形態)
まず、図1を用いて、実施形態に係る音響レンズ用シリコーン樹脂が用いられる超音波プローブ100の構成例を説明する。図1は、実施形態に係る超音波プローブ100の構成例を示す図である。超音波プローブ100は、被検体に対して超音波を送信するとともに、被検体内で反射された反射波(エコー)を受信し、電気信号(受信信号)に変換し、超音波診断装置(装置本体)に送信する。例えば、超音波プローブ100は、振動子アレイ110、整合層120、バッキング層130、及び音響レンズ140を有する。
振動子アレイ110は、複数の振動子(圧電素子)を有し、超音波診断装置から供給される駆動信号に基づいて、超音波を発生する。また、振動子アレイ110は、被検体内で反射した超音波(反射波)を受信し、受信信号に変換する。超音波診断装置は、受信信号に基づいて、生体内が映像化された超音波画像を生成する。
整合層120は、振動子の音響インピーダンスと被検体(生体)の音響インピーダンスとの差を少なくして、超音波を効率よく送受信するために設けられる。整合層120は、振動子と生体との中間的な音響インピーダンスを持つ物質で構成される。
バッキング層130は、振動子アレイ110から後方(超音波の送信方向とは反対の方向)へ伝播する超音波を減衰させる部材である。
音響レンズ140は、屈折を利用して超音波をスライス方向に集束させることで、分解能を向上させる。音響レンズ140は、被検体の体表面に当接され、超音波プローブ100の先端部分に設けられる。なお、用途に応じて、音響レンズ140には、不図示の音響カプラ材が設けられても良い。
音響レンズ140の材料は、超音波が生体表面で反射されず、生体内に効率良く入射できるよう、生体の音響インピーダンス(1.4~1.6Mrayl)に近い音響インピーダンスを有することが求められる。更に、音響レンズ140の材料は、超音波を高感度で送受信するために、超音波の減衰量が小さいことが求められる。
また、近年、超音波診断装置には更なる高感度化が求められており、高精細な超音波画像を得るため、中心周波数が高い高周波プローブが超音波プローブ100として用いられる。周波数が高い程、超音波は減衰しやすくなるので、音響レンズ140の材料も、更なる超音波減衰量の低下が求められている。さらに、使用時の変形による音響レンズ効果の影響を低減するため、また、使用時の破壊を防ぐために、さらなる高硬度化も求められている。
<<音響レンズ>>
本実施形態に係る音響レンズ140を形成する材料は、少なくともフェニル基またはエチル基を有しているシリコーン樹脂と、密度が5.0g/cm以上の高密度な無機酸化物とを含む音響レンズ用シリコーン樹脂である。無機酸化物は、ネットワーク状に連なって分散(以下ネットワーク状分散とも称す)しており、音響レンズ用シリコーン樹脂から形成された音響レンズの切断面の走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)画像に対する細線化処理により得られる無機酸化物部分の平均アスペクト比は、100以上である。
以下、音響レンズ用シリコーン樹脂が含有するシリコーン樹脂、無機酸化物について説明する。
<シリコーン樹脂>
本実施形態に用いられるシリコーン樹脂は、ポリオルガノシロキサンであり、該ポリオルガノシロキサンは、シロキサンの主鎖のケイ素原子に対して、側鎖もしくは末端に少なくともフェニル基、エチル基のいずれかを有している。本実施形態に用いられるシリコーン樹脂は、更に、メチル基を有していても良い。
本実施形態では、かかるシリコーン樹脂が少なくともフェニル基、エチル基を有していることにより、音響インピーダンスが高まる。これにより、音響インピーダンスを生体の音響インピーダンスに合わせるために添加する無機酸化物の添加量が少なく済むため、低い減衰係数の音響レンズ140を実現できる。
また、本実施形態において、ポリオルガノシロキサンのフェニル基、エチル基の含有量は、特に限定されないが、上記効果を実現する観点から、以下の含有量が好ましい。例えば、ポリオルガノシロキサンを構成する全シロキサンユニットを100モル%としたときの、ジフェニルシロキサンユニット、ジエチルシロキサンユニットとして3.0モル%以上が好ましい。また、25モル%以下であることにより、生体に対して音速が高くなりすぎず、凸形状の音響レンズ140として好適である。
ここで、本実施形態に用いられるシリコーン樹脂は、特に、限定されないが、下記に示すシリコーンのビニル基と、さらに下記に示す硬化剤であるシリコーンのSi-H基とを付加反応させることで、架橋硬化させて得ることができる。
係るビニル基を含有するシリコーンとして、例えば、Gelest社製のビニル末端ジフェニルシロキサン-ジメチルシリコーンを挙げることができる。具体的には、PDV-0325、PDV-0331、PDV-0341、PDV-0346、PDV-0525、PDV-0535、PDV-0541を挙げることができる。さらに、PDV-1625、PDV-1631、PDV-1635、PDV-1641、PDV-2331、PDV-2335を挙げることができる。もしくは、ビニル末端ジエチルシロキサン-ジメチルシリコーンである、EDV-2022を挙げることができる。また、これらを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、Gelest社製のDMS-V31などのビニル末端ジメチルシリコーンを含めて組み合わせても良い。
また、硬化剤であるシリコーンとして、メチルヒドロシロキサン-ジメチルシリコーン(トリメチルシロキサン末端)である、HMS-064、HMS-082、HMS-301、HMS-501が挙げられる。
ビニル基を有するシリコーンのビニル基と、分子鎖中に2個以上のSi-H基を有するシリコーンのSi-H基とは、通常、後述する白金触媒を用いて、化学量論的には1:1で反応する。
付加反応を進行させる触媒として、例えば、白金、又は、白金含有化合物(以下、白金化合物とも称する)を用いることができる。白金、又は、白金化合物としては、特に限定されないが、市販の白金触媒として、例えば、Gelest社製のSIP6829.2、SIP6830.3、SIP6832.2が挙げられる。
また、白金触媒による付加反応による硬化を遅らせる用途で硬化遅延剤を用いても良い。硬化遅延剤としては、例えば、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンである(商品名:SIT7900.0、Gelest社製)が挙げられる。硬化遅延剤の含有量により、硬化速度、すなわち作業時間を調整することができる。
<無機酸化物>
本実施形態に用いられる無機酸化物は、当該無機酸化物の添加量に応じて、音響インピーダンスを生体の音響インピーダンスに合わせた1.4~1.6Mraylに調整することができる。図2は、本実施形態に係る音響レンズ用シリコーン樹脂1の概要図である。図2に示すように、無機酸化物2は、ネットワーク状に連なって分散(以下ネットワーク状分散とも称す)しており、音響レンズ用シリコーン樹脂1から形成された音響レンズの切断面のSEM画像に対する細線化処理により得られる無機酸化物部分の平均アスペクト比は、100以上である。
本実施形態に用いられる無機酸化物は、上述したように、密度が5.0g/cm以上である。密度が5.0g/cm以上の無機酸化物であることにより、フェニル基、エチル基を含むシリコーン樹脂による高い音速を、低音速化する効果が生じる。このため、凸形状の音響レンズとして超音波を集束する効果が高く、好ましい。しかし、高密度な無機酸化物を用いる場合、低密度な無機酸化物に比較して、音響インピーダンスを生体の音響インピーダンスに合わせるための添加体積割合が少ないため、音響レンズとして高硬度を実現するには困難である。
無機酸化物の密度は、重量測定値gを体積測定値Vで除することで求めることができる。重量測定値gは、シリコーン溶解剤(製品名:Eソルブ21RS、株式会社カネコ化学製)により音響レンズから抽出した値である。体積測定値Vは、当該抽出した無機酸化物を乾式自動密度計(商品名:アキュピック1330-1、株式会社島津製作所製)により測定した値である。なお、無機酸化物の密度については、音響レンズ用シリコーン樹脂の形状に依らず、音響レンズとしてのレンズ形状・音響物性測定用のシート形状、いずれの場合でも、同様の値が得られる。
本実施形態に用いられる無機酸化物の平均粒径は、100nm以下であることが好ましい。平均粒径が小さいほど、緻密なネットワーク状分散とすることができ、低硬度かつ高硬度な音響レンズを実現しやすいため、好適である。
また、音響レンズに気泡を含むことによる成型不良を抑制する観点においては、無機酸化物の平均粒径は、25nm以上であることが好適である。例えば、25nm未満の場合、成型時の粘度が高くなり、成型不良を引き起こしやすいという課題がある。なお、無機酸化物の平均粒径については、音響レンズ用シリコーン樹脂の形状に依らず、音響レンズとしてのレンズ形状・音響物性測定用のシート形状、いずれの場合でも、同様の値が得られる。
平均粒径は、無機酸化物粒子メーカーのカタログに記載されているが、測定する際は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)により測定した粒径を平均することで求めることができる。
本実施形態では、TEMを用いて撮影したTEM画像の粒子1つについて、断面積を測定し、該断面積から真円と仮定した際の円相当径を算出する処理を、粒子50個分行い、その平均値により平均粒径を求めている。
本実施形態に用いられる無機酸化物は、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化スズ、酸化イッテルビウムの群から少なくとも一つ選択されることが好ましい。
上記無機酸化物は、生体に当てた際に接触する皮脂に含まれるステアリン酸による劣化が生じにくく、超音波プローブとして使用する音響レンズの表面に亀裂不良が生じにくいため、好ましい。
特に、本実施形態のように無機酸化物の粒径が小さく、表面積が大きい形で分散している場合、上記課題が顕著となる。
ここで、ステアリン酸に対する劣化の加速試験として、ステアリン酸1wt%となるエタノール溶液に音響レンズを6日間浸漬した後に、音響レンズをカミソリで裁断し、その裁断面を走査電子顕微鏡で観察する方法が挙げられる。該観察画像において、ステアリン酸エタノール溶液に触れた表面部分の亀裂の有無により、ステアリン酸に対する耐性の評価が可能である(以下ステアリン酸試験と称す)。なお、該観察画像については、音響レンズ用シリコーン樹脂の形状に依らず、音響レンズとしてのレンズ形状・音響物性測定用のシート形状、いずれの場合でも、同様の評価が可能である。
上記に挙げた無機酸化物の中でも、特に酸化セリウムが好適である。酸化セリウムより密度が低い場合、シリコーン樹脂の低音速化効果が低く、凸形状の音響レンズとして超音波集束効果が低い傾向にある。また、酸化セリウムより密度が高い場合、生体に合わせる音響インピーダンスを実現するための添加する体積割合が低くなり、ネットワーク状分散をなしていても低硬度になる傾向にある。さらに平均粒径100nm以下の粒子として工業的に入手容易なため、酸化セリウムが好ましい。
本実施形態に用いられる無機酸化物は、表面処理されていても良い。表面処理の手法としては一般的な手法で良く、例えば、シランカップリング剤で表面処理する手法や、ハイドロゲンジメチコンなどのシリコーン化合物で被覆する手法が挙げられる。
無機酸化物の表面処理の中でも、特に、無機酸化物の表面は、プロピル基以上の長さの炭化水素基を有することが好ましい。上記表面であることにより、ネットワーク状分散が促進し、高硬度化するため、好ましい。該表面は疎水であり、かつ、長鎖であるため、加熱硬化前のシリコーン樹脂内において無機酸化物2同士が適度に絡み合いやすく、ネットワーク状分散が促進したと考えられる。
本実施形態に係る音響レンズに含まれる無機酸化物は、ネットワーク状に分散している。ネットワーク状の分散状態を測定するために、以下の手法を用いている。
まず、音響レンズ用シリコーン樹脂から形成された音響レンズをカミソリにより裁断し、その裁断面を走査型電子顕微鏡(SEM)である日本電子株式会社製JSM-F100を用いて10000倍の倍率で撮影し、画像処理を行うことで、裁断面のSEM画像を得る。
画像処理はMATLAB(登録商標)およびImage Processing Toolboxを用いて行う。なお、記載されていない処理パラメータは、MATLAB(登録商標)の既定値を用いる。100Pixelが約1μmに相当する上記SEM画像に対し、サイズ3×3Pixel、標準偏差1Pixelのガウスフィルタを用いて平滑化し、適応ヒストグラム均一化(CLAHE)を行う。次に、大津法を用いて、二値化し、無機酸化物領域を抽出する。さらに、5×5Pixelの正方形を構造化要素とするオープニング処理を行い、さらに同じ構造化要素でクロージング処理を行い、この結果で得られた画像を画像Aとする。画像Aに対し、関数bwskelを用いて細線化を行う。すなわち、裁断面のSEM画像に対する細線化処理を行う。このとき、100Pixelより短い分岐は削除する。この結果で得られた画像を画像Bとする。画像Aに存在する値1の画素の総数をSとする。Sは、無機酸化物領域の面積に相当する。画像Bに存在する値1の画素の総数をLとする。画像Bは太さ1Pixelに細線化されているため、Lは無機酸化物領域の長さに相当する。以上の無機酸化物領域の面積に相当するS、無機酸化物領域の長さに相当するLより、式1を用いてアスペクト比を計算する。
アスペクト比=L/(S/L)=L/S ・・・ 式1
なお、一つのサンプルに対し、SEMで5箇所の画像を取得し、各々の画像に対し上記定量化手法でアスペクト比を算出した平均値を平均アスペクト比とする。上述のように、本実施形態では、音響レンズ用シリコーン樹脂から形成された音響レンズの切断面のSEM画像に対する細線化処理により得られる無機酸化物部分の平均アスペクト比は、100以上である。
該平均アスペクト比が大きい場合、細く緻密なネットワーク状に無機酸化物が連なる分散状態となっている。これにより、少なくともフェニル基またはエチル基を有しているシリコーン樹脂であり、かつ、密度が5.0g/cm以上の高密度な無機酸化物といった、無機酸化物の添加体積割合が少ない音響レンズ用シリコーン樹脂においても、高い硬度を実現できる。これは、互いに分子間力などによる相互作用が生じている無機酸化物2の緻密なネットワーク構造により、変形を抑制するため、少ない無機酸化物2においても、高い硬度を実現できると考えられる。
<その他の成分>
さらに、音響レンズ用シリコーン樹脂のその他成分として、顔料、染料、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤を適宜配合することができる。分散剤は超音波プローブとして使用する際に、整合層などの他の層との密着性の観点から含まないことが好ましい。
<<音響レンズ用シリコーン樹脂の製造方法>>
音響レンズ用シリコーン樹脂の製造方法は、加熱硬化工程を含む。例えば、硬化前の音響レンズ用シリコーン樹脂である音響レンズ用組成物を構成する成分を秤量混合し、脱泡を行った後に、加熱硬化工程を行うことで、音響レンズ用シリコーン樹脂1を得ることができる。具体的には、加熱硬化工程において、音響レンズ用組成物を130℃で10分加熱した後に、200℃で4時間加熱することで、該音響レンズ用組成物を硬化させた音響レンズ用シリコーン樹脂を得ることができる。
ここで、音響レンズ用シリコーン樹脂の製造方法は、さらに、ビーズミル工程を含む。例えば、本実施形態に係る音響レンズ用シリコーン樹脂において、切断面のSEM画像に対する細線化処理により得られる無機酸化物部分の平均アスペクト比が100以上を好適に実現する上で、加熱硬化工程の前にビーズミル工程が実施されることが好ましい。具体的には、ビーズミル工程において、ビーズを用いて、音響レンズ用組成物を構成する成分を混合させる。そして、脱泡を行う。その後、加熱硬化工程において、ビーズミル工程等で混合や脱泡が行われた音響レンズ用組成物を加熱して硬化させることで、音響レンズ用シリコーン樹脂が得られる。
ここで、ビーズミル工程において使用するビーズ径は、0.5mm未満であることが好ましい。また、ビーズミル工程に際し粘度が高い場合は、溶媒を添加する希釈工程、ビーズミル工程の後に、溶媒を除去するエバポレーター工程を設けても良い。
本実施形態では、ビーズ径が0.5mm未満のビーズを用いている。ビーズ径が0.5mm以上の場合、平均アスペクト比が100以上のネットワーク構造を実現することが困難であった。その理由は明らかではないが、ビーズ径が大きい場合、ビーズ1個当たりの質量が大きく、解砕エネルギーが大きいため、過分散が生じ、所々で凝集が生じやすいため、緻密なネットワーク構造を実現することが困難だったと考えられる。
<<音響レンズ用シリコーン樹脂の音響特性>>
以下に、音響レンズ用シリコーン樹脂の音響特性の測定方法等について記載する。
<音響インピーダンス>
音響インピーダンスは、シリコーン樹脂の密度と、シリコーン樹脂中の音速との積として算出可能である。シリコーン樹脂の密度は、市販の電子天秤により測定した重量測定値を、乾式自動密度計(商品名:アキュピック1330-1、株式会社島津製作所製)により測定した体積測定値で除算することで算出することができる。
シリコーン樹脂の音速は、厚み1mmのシリコーン樹脂について、25℃の環境下で、JIS Z2353(2003)に従い、パルス透過法により測定できる。後述する実施例では、超音波パルサ・レシーバとしてJPR-600C(ジャパンプローブ株式会社製)を用い、送信・受信側の測定用プローブとして10MHzの水浸プローブ(ジャパンプローブ株式会社製)を用いた。
<減衰係数>
シリコーン樹脂の低減衰を評価する指標として、以下の測定で得られる減衰係数を用いた。
すなわち、上述した超音波レシーバJPR-600C(ジャパンプローブ株式会社製)と送信側プローブとを用いて、中心周波数10MHzの超音波パルス波を水中に発生させる。そして、超音波が1mmのシリコーン樹脂シートを透過する前の振幅と、透過した後の振幅とを用いて、減衰係数を測定した。近年の超音波診断画像の高精細化の観点から、減衰係数が1.0dB/(mm・MHz)以下であることが好ましい。本実施例では、0.75dB/(mm・MHz)以下をランクA、0.75dB/(mm・MHz)超から1.0dB/(mm・MHz)以下をランクB、1.0dB/(mm・MHz)超の場合をランクCとして評価した。
<硬度>
JIS K6253-3(2012)に従い、厚み2mmのシリコーン樹脂を用いて、タイプAデュロメータ硬さを測定した。使用時の変形による音響レンズ用シリコーン樹脂の効果の影響を低減するため、また、使用時の破壊を防ぐために硬度45以上であることが好ましい。
本実施例では、硬度50以上をランクA、硬度45以上50未満をランクB、硬度45未満をランクCとして評価した。
[実施例]
以下、実施例に基づいて、本実施形態を更に具体的に説明するが、本実施形態は、これらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
表1に示すように、実施例1では、ビニル基とフェニル基とを含有するシリコーン(商品名:PDV-1631、Gelest社製、ジエチルシロキサンユニット16モル%)10gを使用している。当該シリコーンに対して、白金触媒(商品名:SIP6829.2、Gelest社製)を0.003g、硬化遅延剤(商品名:SIT7900.0、Gelest社製)を0.02g添加した。さらに、無機酸化物として、予めオクチルトリエトキシシラン(表1では「オクチルシラン」と記載)により表面処理した酸化セリウム(密度7.2g/cm、粒径8nm)を3.5g添加した。その後に、混合装置(商品名:ARV-310、株式会社シンキー製)で真空減圧モードにおいて1000rpm5分間混合することで、音響レンズ用組成物を得た。なお、無機酸化物の添加量は、音響インピーダンスが1.5Mraylとなるように調整している。次に、トルエンを15g添加し、ジルコニアビーズΦ0.1mmを25g添加した。そして、ビーズミル装置(株式会社シンキー製、NP-100)によって、1000rpm1分、400rpm1分を20セット行った後、メッシュによってビーズを分離した。その後、エバポレーターによりトルエンを除去し、分子鎖中に2個以上のSi-H基を有するシリコーン(商品名:HMS-301、Gelest社製)を0.5g添加した。混合装置(商品名:ARV-310、株式会社シンキー製)の真空減圧モードにおいて1000rpm5分間混合した音響レンズ用組成物を、100mm×100mm角1mm厚み及び2mm厚みとなる金属型に各々入れ、130℃で10分加熱した。更に、200℃で4時間加熱して硬化させることで、厚み1mm及び2mmの音響レンズ用シリコーン樹脂を得た。
[実施例2~3]
表1に示すように、実施例2及び3では、無機酸化物として酸化セリウムの添加量を増やすことで、それぞれ、音響インピーダンスが1.5Mrayl及び1.6Mraylとなるように調整した。それ以外は、実施例1と同様の処理により、各実施例の超音響レンズ用シリコーン樹脂を得た。
[実施例4~12]
表1に示すように、実施例4では、無機酸化物として「密度7.2g/cm、粒径25nm」の酸化セリウムを使用し、実施例5では、無機酸化物として「密度7.2g/cm、粒径50nm」の酸化セリウムを使用している。また、実施例6では、無機酸化物として「密度5.0g/cm、粒径38nm」の酸化イットリウムを使用している。また、表2に示すように、実施例7では、無機酸化物として「密度5.6g/cm、粒径35nm」の酸化亜鉛を使用し、実施例8では、無機酸化物として「密度5.7g/cm、粒径40nm」の酸化ジルコニウムを使用している。また、実施例9では、無機酸化物として「密度7.0g/cm、粒径45nm」の酸化スズを使用し、実施例10では、無機酸化物として「密度9.2g/cm、粒径90nm」の酸化イッテルビウムを使用している。また、実施例11では、無機酸化物として、プロピルシランにより表面処理した「密度7.2g/cm、粒径8nm」の酸化セリウムを使用している。また、実施例12では、無機酸化物として、表面処理なしで「密度7.2g/cm、粒径8nm」の酸化セリウムを使用している。そして、表1、2に示すように、実施例4、6~8、11、12、及び、実施例5、9、10では、無機酸化物の添加量により、それぞれ、音響インピーダンスが1.5Mrayl及び1.6Mraylとなるように調整した。それ以外は、実施例1と同様の処理により、各実施例の音響レンズ用シリコーン樹脂を得た。
[実施例13~14]
表3に示すように、実施例13では、ビニル基とエチル基とを含有するシリコーン(商品名:EDV-2022、Gelest社製、ジエチルシロキサンユニット20モル%)を使用している。当該シリコーンに対して、分子鎖中に2個以上のSi-H基を有するシリコーン(商品名:HMS-301、Gelest社製)を0.75g添加した。さらに、無機酸化物として酸化セリウムの添加量により音響インピーダンスが1.5Mraylとなるように調整した以外は、実施例1と同様の処理により、各実施例の音響レンズ用シリコーン樹脂を得た。
[比較例1]
表3に示すように、比較例1では、希釈工程、ビーズミル工程及びエバポレーター工程を経ずに作成した以外は、実施例2と同様の処理により、比較例1の音響レンズ用シリコーン樹脂を得た。
[比較例2]
表3に示すように、比較例2では、無機酸化物として、予めヘキサメチルジシラザンによりメチル疎水処理した平均粒径13nmの酸化亜鉛を使用して、また、ビーズミル工程でビーズ径0.5mmのビーズを使用した。それ以外は、実施例7と同様の処理により、比較例2の音響レンズ用シリコーン樹脂を得た。
[比較例3]
表3に示すように、比較例3では、無機酸化物として、表面処理を行っていない平均粒径850nmの酸化セリウムを使用した以外は、実施例2と同様の処理により、比較例3の音響レンズ用シリコーン樹脂を得た。
[比較例4]
表3に示すように、比較例4では、無機酸化物として、エチル基、フェニル基を含まず、ビニル基を含有するシリコーン(商品名:DMS-V31、Gelest社製、エチル基またはフェニル基を含まない)を使用している。また、比較例4では、無機酸化物2の添加量により音響インピーダンスが1.5Mraylとなるように調整した。それ以外は、実施例2と同様の処理により、比較例4の音響レンズ用シリコーン樹脂を得た。
実施例1~14及び比較例1~4で得られた厚み1mmのシリコーン樹脂について、上述した方法により、音響インピーダンスを測定した。また、実施例1~14及び比較例1~4で得られた厚み1mmのシリコーン樹脂について、上述した方法により、減衰係数を測定した。これらの測定結果を、無機酸化物の物理的特性とともにまとめた表1、表2及び表3を以下に示す。
Figure 2023105417000002
Figure 2023105417000003
Figure 2023105417000004
表1、表2及び表3に示すように、実施例1~14の音響レンズ用シリコーン樹脂は、切断面のSEM画像に対する細線化処理により得られる無機酸化物部分の平均アスペクト比が100以上を実現している。さらに、実施例1~14の音響レンズ用シリコーン樹脂1は、減衰係数が1.0dB/(mm・MHz)以下の低減衰を実現しつつ、硬度45以上の高硬度を実現している。
<ステアリン酸試験>
実施例4、6、7、8、9、10について、ステアリン酸試験を実施した。その結果、酸化亜鉛を用いた実施例7において、亀裂が多数生じたことを確認した。一方、実施例4、6、8、9、10について亀裂は生じず、耐ステアリン酸の性能が優れていることを確認した。
<成型不良試験>
実施例2と実施例4において、タテ1cmヨコ1cmのサンプルとなるよう50個切り出し、目視において気泡の有無を確認した。気泡を含む同1cm角サンプルの数をカウントすることで成型不良試験を行った。実施例2では、同サンプル50個につき10個気泡を含んでいたが、実施例4では、同サンプル50個につき3個であり、実施例4は実施例2に比較して、成型性が優れていることを確認した。
<音速の比較>
実施例2と実施例6は、ともに、低減衰かつ高硬度を実現しているが、実施例2の音速は1055m/s、実施例6の音速は1082m/sであり、実施例2の酸化セリウムを用いた方が低音速であり、超音波プローブとして超音波集束効果を発揮しやすい。
なお、上述した実施例および比較例では、シート形状に成型した音響レンズ用シリコーン樹脂の測定結果について説明したが、減衰係数が小さく、高硬度といった材料の特徴は形状に依らず、レンズ形状に成型した超音波プローブに用いる音響レンズに有用である。
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、生体の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを有し、超音波の減衰量が小さく、かつ、高硬度である音響レンズ用シリコーン樹脂を提供することができる。
以上の実施形態に関し、発明の一側面および選択的な特徴として以下の付記を開示する。
(付記1)
本発明の一つの側面において提供される音響レンズ用シリコーン樹脂は、
少なくともフェニル基またはエチル基を有しているシリコーン樹脂と、
密度が5.0g/cm以上の無機酸化物と、
を含む音響レンズ用シリコーン樹脂において、
前記音響レンズ用シリコーン樹脂から形成された音響レンズの切断面の走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)画像に対する細線化処理により得られる無機酸化物部分の平均アスペクト比が100以上である。
(付記2)
前記無機酸化物の平均粒径は、100nm以下であってもよい。
(付記3)
前記無機酸化物は、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化スズ、酸化イッテルビウムの群から少なくとも一つ選択されてもよい。
(付記4)
前記無機酸化物は、酸化セリウムであってもよい。
(付記5)
前記無機酸化物の表面は、プロピル基以上の長さの炭化水素基を有してもよい。
(付記6)
前記無機酸化物の平均粒径は、25nm以上であってもよい。
(付記7)
本発明の一つの側面において提供される音響レンズ用シリコーン樹脂の製造方法は、
前記音響レンズ用シリコーン樹脂を製造する方法において、
ビーズを用いて、音響レンズ用組成物を構成する成分を混合させるビーズミル工程と、
前記ビーズミル工程により混合された前記音響レンズ用組成物を加熱して硬化させることで、前記音響レンズ用シリコーン樹脂を得る加熱硬化工程と、
を含み、
前記ビーズミル工程において使用するビーズ径が0.5mm未満である。
(付記8)
本発明の一つの側面において提供される超音波プローブは、
前記音響レンズ用シリコーン樹脂で形成された音響レンズと、
複数の振動子を有する振動子アレイと、
を備える。
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
1 音響レンズ用シリコーン樹脂
2 無機酸化物
100 超音波プローブ
140 音響レンズ

Claims (8)

  1. 少なくともフェニル基またはエチル基を有しているシリコーン樹脂と、
    密度が5.0g/cm以上の無機酸化物と、
    を含む音響レンズ用シリコーン樹脂において、
    前記音響レンズ用シリコーン樹脂から形成された音響レンズの切断面の走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)画像に対する細線化処理により得られる無機酸化物部分の平均アスペクト比が100以上である、
    音響レンズ用シリコーン樹脂。
  2. 前記無機酸化物の平均粒径は、100nm以下である、
    請求項1に記載の音響レンズ用シリコーン樹脂。
  3. 前記無機酸化物は、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化スズ、酸化イッテルビウムの群から少なくとも一つ選択される、
    請求項1又は2に記載の音響レンズ用シリコーン樹脂。
  4. 前記無機酸化物は、酸化セリウムである、
    請求項1又は2に記載の音響レンズ用シリコーン樹脂。
  5. 前記無機酸化物の表面は、プロピル基以上の長さの炭化水素基を有する、
    請求項1~4のいずれか1つに記載の音響レンズ用シリコーン樹脂。
  6. 前記無機酸化物の平均粒径は、25nm以上である、
    請求項1~5のいずれか1つに記載の音響レンズ用シリコーン樹脂。
  7. 請求項1~6のいずれか1つに記載の音響レンズ用シリコーン樹脂を製造する方法において、
    ビーズを用いて、音響レンズ用組成物を構成する成分を混合させるビーズミル工程と、
    前記ビーズミル工程により混合された前記音響レンズ用組成物を加熱して硬化させることで、前記音響レンズ用シリコーン樹脂を得る加熱硬化工程と、
    を含み、
    前記ビーズミル工程において使用するビーズ径が0.5mm未満である、
    音響レンズ用シリコーン樹脂の製造方法。
  8. 請求項1~7のいずれか1つに記載の音響レンズ用シリコーン樹脂で形成された音響レンズと、
    複数の振動子を有する振動子アレイと、
    を備える超音波プローブ。
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