JP2023091625A - ピストンおよび舶用内燃機関 - Google Patents

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Abstract

【課題】ボアポリッシュを解消してシリンダとの間の潤滑性を安定して確保することができるピストンおよび舶用内燃機関を提供すること。【解決手段】内燃機関のシリンダの内部をピストン軸方向に往復運動するピストンにおいて、前記ピストン軸方向に延びる円筒状に構成され、前記シリンダの内部の燃焼室に面するクラウン部を前記ピストン軸方向の一端側に有し、前記ピストン軸方向の他端側にスカート部を有するピストン本体と、前記ピストン本体における前記クラウン部と前記スカート部との間の外周面に形成され、離型性を有するコーティング膜と、を備える。【選択図】図2

Description

本発明は、ピストンおよび舶用内燃機関に関するものである。
従来、船舶に搭載される舶用内燃機関では、ピストンを往復運動自在に収容するシリンダが1つ以上設けられ、当該シリンダの内部におけるピストンの往復運動がクランクの回転動に変換されて、クランクシャフトが回転するようになっている。一般に、ピストンの外周面(側壁面)にはピストンリングが設けられ、ピストンの下部にはピストンスカートが設けられている。ピストンの往復運動において、ピストンの頂面(ピストンクラウン)はシリンダ内の燃焼室に面し、シリンダの内周面にはピストンリングまたはピストンスカートが摺接する。このようなピストンの外周面とシリンダの内周面との間には、潤滑油が供給され、当該潤滑油による油膜が形成される。これらピストンとシリンダとの潤滑性(具体的にはピストンリングまたはピストンスカートとシリンダの内周面との摺接時の潤滑性)は、上記油膜によって確保される。
また、シリンダ内の燃焼室では、上述したピストンの往復運動により、掃気、燃焼用気体の供給および圧縮が順次行われる。このような燃焼室には燃料噴射弁から燃料が噴射され、当該燃料は、燃焼室内の圧縮された燃焼用気体によって着火し、燃焼する。ピストンは、この燃焼室内における燃料の燃焼エネルギーを利用して、シリンダ内での往復運動を継続して行う。
このようなピストンは、舶用内燃機関の稼働時において、燃焼室内での燃料燃焼後の高温ガス(以下、既燃ガスという)に接触する。例えば、ピストンの外周面とシリンダの内周面との隙間に既燃ガスが侵入し、これにより、ピストンの外周面は既燃ガスと接触した状態になる。これに起因して、ピストンの外周面上には、燃料や潤滑油等の油成分に由来する硬質なスラッジが堆積し、ピストンとシリンダとの間の油膜が当該スラッジとの接触によって破壊される、所謂、ボアポリッシュが発生する。この結果、ピストンとシリンダとの潤滑性が損なわれ、これらの摺接面にピストンとシリンダとの金属同士の摩耗による傷が生じてしまう。
近年、上記ボアポリッシュを解消するために、例えば、ピストンの外周面とシリンダの内周面との隙間を小さくし、これにより、当該隙間への既燃ガスの侵入を抑制して、上記スラッジの堆積を抑制することが考えられている。また、上記スラッジの堆積を抑制するための手法として、例えば、シリンダの内周面にアンチポリッシングリング(フレームリング)を設け、ピストンの往復運動に伴い、フレームリングによって当該ピストンの外周面からスラッジを削り落とすことが開示されている(特許文献1参照)。
特開2021-32253号公報
しかしながら、上述した特許文献1に記載の従来技術では、フレームリングによってピストンの外周面から削り落とされたスラッジの硬質粒子が、ピストンリングの摺接面とシリンダの内周面との間、またはピストンスカートの摺接面とシリンダの内周面との間に噛み込まれる場合がある。この場合、ピストンとシリンダとの間でアブレシブ摩耗が発生し、この結果、ピストンリングやピストンスカートに縦傷等が生じてピストンが破損する恐れがある。さらに、上記フレームリングを用いる場合、シリンダの内径をフレームリングの内径よりも大きくしなければならず、この結果、ピストンの外周面とシリンダの内周面との隙間が無駄に増大することから、舶用内燃機関の燃費性能が低下する恐れがある。
また、上述したようにピストンの外周面とシリンダの内周面との隙間を単に小さくするのみでは、当該隙間への既燃ガスの侵入を抑えきれず、故に、上記スラッジの堆積抑制が不十分となる恐れがあるから、ピストンとシリンダとの潤滑性を安定して確保することは困難である。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、ボアポリッシュを解消してシリンダとの間の潤滑性を安定して確保することができるピストンおよび舶用内燃機関を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るピストンは、内燃機関のシリンダの内部をピストン軸方向に往復運動するピストンにおいて、前記ピストン軸方向に延びる円筒状に構成され、前記シリンダの内部の燃焼室に面するクラウン部を前記ピストン軸方向の一端側に有し、前記ピストン軸方向の他端側にスカート部を有するピストン本体と、前記ピストン本体における前記クラウン部と前記スカート部との間の外周面に形成され、離型性を有するコーティング膜と、を備えることを特徴とする。
また、本発明に係るピストンは、上記の発明において、前記スカート部の外径は、前記ピストン本体の前記外周面の外径よりも大きく、前記コーティング膜の膜厚と前記外周面の外径との合計寸法は、前記スカート部の外径よりも小さい、ことを特徴とする。
また、本発明に係るピストンは、上記の発明において、前記コーティング膜は、前記シリンダの内周面よりも軟らかい、ことを特徴とする。
また、本発明に係るピストンは、上記の発明において、前記ピストン本体の前記外周面には、前記ピストン軸方向に並ぶ複数のピストンリングが設けられ、前記コーティング膜は、前記ピストン本体の前記外周面のうち、前記クラウン部と、前記複数のピストンリングのうち前記燃焼室に最も近い側に設けられているトップリングとの間の外周面である少なくともトップランドに形成されている、ことを特徴とする。
また、本発明に係るピストンは、上記の発明において、前記トップリングは、ガスタイトリングである、ことを特徴とする。
また、本発明に係るピストンは、上記の発明において、前記ピストン本体は、ピストン棒を介してクロスヘッドに揺動自在に接続され、前記コーティング膜は、前記ピストン本体の揺動方向の一端側と他端側とに分割して形成される、ことを特徴とする。
また、本発明に係る舶用内燃機関は、上記の発明のいずれか一つに記載のピストンと、前記ピストンを往復運動自在に収容するシリンダと、を備えることを特徴とする。
本発明によれば、ボアポリッシュを解消してシリンダとピストンとの間の潤滑性を安定して確保することができるという効果を奏する。
図1は、本発明の実施形態1に係るピストンが適用された舶用内燃機関の一構成例を示す模式図である。 図2は、本発明の実施形態1に係るピストンの一構成例を示す模式図である。 図3は、本発明の実施形態1に係るピストンの外周面におけるコーティング構造の一例を示す模式図である。 図4は、比較例のピストンの挙動を説明するための模式図である。 図5は、本発明の実施形態1に係るピストンの作用を説明する模式図である。 図6は、本発明の実施形態2に係るピストンの一構成例を示す模式図である。 図7は、本発明の実施形態2に係るピストンの外周面におけるコーティング構造の一例を示す模式図である。
以下に、添付図面を参照して、本発明に係るピストンおよび舶用内燃機関の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態により、本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、各図面において、同一構成部分には同一符号が付されている。
(実施形態1)
まず、本発明の実施形態1に係るピストンが適用された舶用内燃機関の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態1に係るピストンが適用された舶用内燃機関の一構成例を示す模式図である。この舶用内燃機関10は、船舶に搭載されるクロスヘッド型内燃機関の一例であり、プロペラ軸を介して船舶の推進用プロペラ(いずれも図示せず)を回転駆動させる推進用の機関(主機関)である。例えば、舶用内燃機関10は、ユニフロー掃排気式のクロスヘッド型ディーゼルエンジン等の2ストロークディーゼルエンジンである。
詳細には、図1に示すように、舶用内燃機関10は、高さ方向D1の下側に位置する台板1と、台板1の上に設けられる架構4と、架構4の上に設けられるシリンダジャケット11とを備える。これらの台板1と架構4とシリンダジャケット11とは、舶用内燃機関10の高さ方向D1(すなわち上下方向)に延在する複数のタイボルト24等の連結部材により、一体に締結されて固定されている。また、舶用内燃機関10は、シリンダジャケット11に設けられるシリンダ12と、シリンダ12の内部に設けられるピストン15と、ピストン15の往復運動に連動して回転運動するクランクシャフト2とを備える。
台板1は、舶用内燃機関10のクランクシャフト2等を収容するクランクケースを構成するものである。図1に示すように、台板1の内部には、クランク3を有するクランクシャフト2と当該クランクシャフト2の軸受部(図示せず)とが設けられる。クランクシャフト2は、船舶の推進力を出力する出力軸の一例であり、上記軸受部によって回転自在に軸支されている。このクランクシャフト2には、クランク3を介して連接棒5の下端部が回動自在に連結されている。
架構4の内部には、図1に示すように、連接棒5と、摺動板6と、クロスヘッド7とが設けられる。架構4は、ピストン軸方向に沿って設けられる摺動板6が舶用内燃機関10の幅方向D2に間隔を空けて一対をなすように、台板1上に配置されている。連接棒5は、その下端部がクランクシャフト2のクランク3に連接された態様で、一対の摺動板6の間に配置されている。クロスヘッド7は、ピストン棒16の下端部に接続されるクロスヘッドピン8と、連接棒5の上端部に接続されるクロスヘッドピン軸受部(図示せず)とを備える。クロスヘッドピン8は、当該クロスヘッドピン軸受部によって回動自在に軸支されている。例えば図1に示すように、クロスヘッド7は、クロスヘッドピン8の軸心方向(長手方向)と舶用内燃機関10の軸方向D3とが同じ方向となる態様で、一対の摺動板6の間に配置される。このようなクロスヘッド7は、一対の摺動板6の長手方向(図1では高さ方向D1)に往復運動自在となり且つ一対の摺動板6同士の対向方向(図1では幅方向D2)に揺動自在となるように構成されている。
シリンダジャケット11は、図1に示すように、架構4の上部に設けられ、シリンダ12を支持する。シリンダ12は、図1に示すように、シリンダライナ13とシリンダカバー14とによって構成される筒状の構造体(気筒)であり、燃料を燃焼させるための燃焼室17を有する。シリンダライナ13は、例えば円筒形状の構造体であり、シリンダジャケット11の内側に支持されている。シリンダライナ13の上部にはシリンダカバー14が固定され、これにより、シリンダライナ13の内部空間(燃焼室17等)が区画される。このシリンダライナ13の内部空間には、ピストン15が、燃焼室17に面する状態でシリンダライナ13の内部をピストン軸方向(図1中の両側矢印参照)に往復運動し得るように設けられる。このピストン15の下端部には、図1に示すように、ピストン棒16の上端部が連結されている。ピストン棒16は、上述したクロスヘッドピン8に接続され、クロスヘッドピン8の軸心回りの方向に揺動可能である。すなわち、ピストン15は、図1に示す揺動方向D4に揺動可能である。
また、シリンダカバー14には、図1に示すように、排気弁18と上部動弁装置19とが設けられている。排気弁18は、シリンダ12内の燃焼室17に通じる排気管21の排気口(排気ポート)を開閉可能に閉止する弁である。上部動弁装置19は、排気弁18を開閉駆動させる装置である。燃焼室17は、このような排気弁18と、上述したシリンダライナ13、シリンダカバー14およびピストン15とによって囲まれた空間である。また、舶用内燃機関10は、シリンダ12の近傍に、排気マニホールド20を備える。排気マニホールド20は、例えば図1に示すように、舶用内燃機関10の幅方向D2の両側のうちいずれか片側(図1では幅方向D2の負側)に配置される。排気マニホールド20は、シリンダ12内の燃焼室17から排気管21を通じて排ガスを受け入れ、受け入れた排ガスを一時貯留して、この排ガスの動圧を静圧に変える。
また、図1に示すように、舶用内燃機関10は、燃料噴射弁22と、燃料噴射ポンプ23とを備える。燃料噴射弁22は、その噴射口を燃焼室17内に向けた状態となるように、シリンダカバー14に設けられる。燃料噴射ポンプ23は、例えば図1に示すように、舶用内燃機関10の幅方向D2の両側のうちいずれか片側(図1では幅方向D2の正側)に配置される。燃料噴射ポンプ23は、配管等を通じて燃料噴射弁22に燃料等を圧送する。燃料噴射弁22は、燃料噴射ポンプ23から圧送された燃料等の液体を燃焼室17内へ噴射する。
上記の他に、舶用内燃機関10は、空気等の燃焼用気体を過給する過給機と、当該過給機による圧縮後の燃焼用気体を冷却する冷却器と、当該冷却器による冷却後の燃焼用気体(圧縮ガス)を一時貯留する掃気トランクとを備える。この燃焼用気体は、上記掃気トランクから掃気ポート等を通じてシリンダライナ13の内部空間(例えば燃焼室17)に送給される。特に図示しないが、舶用内燃機関10は、排ガス中の窒素酸化物(NOx)を低減する設備として、排ガス再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)システムや選択式触媒還元(SCR:Selective Catalytic Reduction)システムを備えていてもよい。
上述したような構成を有する舶用内燃機関10において、シリンダ12内の燃焼室17には、掃気トランクから掃気ポート等を通じて燃焼用気体が供給される。この燃焼室17内においては、燃焼用気体がピストン15によって圧縮され、燃料噴射弁22から供給された燃料が当該燃焼用気体によって着火して燃焼する。そして、燃焼室17での燃料の燃焼によって発生したエネルギーにより、ピストン15は、シリンダライナ13の内部をピストン軸方向に往復運動する。このとき、上部動弁装置19によって排気弁18が作動してシリンダ12の排気ポートが開放されると、燃料の燃焼後にシリンダライナ13内に残留する既燃ガスが排ガスとして排気管21に排出される。これとともに、シリンダライナ13の内部空間には、掃気トランクから掃気ポート等を通じて新たに燃焼用気体が導入される。
また、ピストン15は、上述したようにピストン軸方向に往復運動する際、燃焼室17の筒内圧力に応じて揺動方向D4に揺動する場合がある。すなわち、ピストン棒16は、ピストン15とともに揺動しながらピストン軸方向に往復運動する。これに連動して、クロスヘッド7は、揺動しながら摺動板6に沿ってピストン軸方向に往復運動する。ピストン15の往復運動は、このようなクロスヘッド7を介して連接棒5に伝わり、連接棒5の下端部に接続されるクランク3の回転運動に変換される。クランクシャフト2は、このクランク3の回転運動に伴って回転運動し、プロペラ軸とともに船舶の推進用プロペラを回転させる。
なお、本明細書では、説明の便宜上、図1に示すように、舶用内燃機関10について高さ方向D1、幅方向D2および軸方向D3が設定されているが、これらの方向は本発明を限定するものではない。舶用内燃機関10の高さ方向D1は、上下方向であり、例えば、ピストン15の往復運動の方向に対して平行である。ピストン15の往復運動の方向はピストン軸方向であり、ピストン軸方向はピストン棒16の長手方向である。舶用内燃機関10の幅方向D2は、高さ方向D1および軸方向D3に対して垂直な方向である。舶用内燃機関10の軸方向D3は、図1に示すクランクシャフト2の長手方向(軸心方向)である。上記高さ方向D1、幅方向D2および軸方向D3は、互いに垂直な方向である。なお、上記高さ方向D1、幅方向D2および軸方向D3は、舶用内燃機関10については勿論、舶用内燃機関10を構成する各構成部(例えばシリンダ12およびピストン15等)についても同様である。
また、クロスヘッドピン8の軸心方向は、上記軸方向D3と同じ方向である。ピストン15の揺動方向D4は、このクロスヘッドピン8の軸心回りの方向である。例えば図1に示すように、揺動方向D4の一端側は舶用内燃機関10の排気側であり、揺動方向D4の他端側は舶用内燃機関10のポンプ側である。舶用内燃機関10の排気側は、シリンダ12の中心軸を境にして、排ガスが排出される側、具体的には排気マニホールド20が配置されている側である。舶用内燃機関10のポンプ側は、シリンダ12の中心軸を境にして、燃料が燃焼室17内へ供給される側、具体的には燃料噴射ポンプ23が配置されている側である。
(ピストンの構成)
つぎに、本発明の実施形態1に係るピストン15の構成について説明する。図2は、本発明の実施形態1に係るピストンの一構成例を示す模式図である。図2には、図1に示した舶用内燃機関10のシリンダ12およびピストン15等が拡大して図示されている。図3は、本発明の実施形態1に係るピストンの外周面におけるコーティング構造の一例を示す模式図である。図3には、図2に示すピストン15を頂面側から見た図が示されている。なお、図3では、説明の便宜上、ピストン15のピストンリング(図2ではトップリング155、セカンドリング156およびサードリング157)の図示は省略されている。
本実施形態1に係るピストン15は、図1に例示した舶用内燃機関10のシリンダ12の内部をピストン軸方向に往復運動するものであり、図2、3に示すように、ピストン本体151と、離型性のコーティング膜160とを備える。上記ピストン軸方向は、ピストン15の中心軸であるピストン軸C1の長手方向(以下、ピストン軸C1方向という)であり、例えば、ピストン棒16の長手方向と同じ方向である。また、ピストン15は、その外周面に複数のピストンリングを備える。例えば、ピストン15は、これら複数のピストンリングとして、トップリング155、セカンドリング156およびサードリング157という3つのピストンリングを備えている。
ピストン本体151は、上述した舶用内燃機関10(図1参照)の燃焼室17が形成されるシリンダ12の内部を往復運動するように構成される。詳細には、図2、3に示すように、ピストン本体151は、ピストン軸C1方向に延びる円筒状に構成され、ピストン軸C1方向の一端側(例えば上側)にクラウン部152を有し、ピストン軸C1方向の他端側(例えば下側)にスカート部154を有する。また、ピストン本体151は、これらクラウン部152とスカート部154との間に、ピストン軸C1回りの方向(周方向)に沿って外周面153を有する。このピストン本体151の外周面153には、ピストン軸C1方向に並ぶ複数のピストンリング、例えば、図2に示すトップリング155、セカンドリング156およびサードリング157が設けられている。
また、ピストン本体151には、上述したピストン棒16が、スカート部154から延出するように連結されている。特に図示しないが、ピストン本体151の内部には、上述したクロスヘッドピン8と同じ軸心方向のピン(図示せず)が設けられている。ピストン本体151内の当該ピンには、ピストン棒16の上端部が回動自在に接続される。すなわち、ピストン本体151およびピストン棒16は、図2に示す揺動方向D4の排気側およびポンプ側へ揺動可能であるとともに、ピストン本体151自体は、ピストン棒16に対して相対的に揺動方向D4の排気側およびポンプ側へ揺動可能である。
このようなピストン本体151は、図2に示すように、シリンダ12の内部、より具体的には、シリンダ12の円筒部を構成するシリンダライナ13の内部に収容され、シリンダライナ13の内周面13aに沿ってピストン軸C1方向に往復運動する。なお、ピストン軸C1は、クラウン部152から見て円形をなすピストン本体151の中心を通り且つピストン本体151の径方向に対して垂直な軸(中心軸)である。シリンダライナ13の内周面13aは、シリンダライナ13とシリンダカバー14とによって構成される円筒状のシリンダ12の内周面である。
クラウン部152は、図2に示すように、ピストン本体151の頂面をなし、シリンダ12の内部の燃焼室17に面する。例えば図3に示すように、クラウン部152は、ピストン軸C1方向から見た平面視(図3では上面視)で円形をなしている。ピストン15の往復運動において、クラウン部152は、燃焼室17内の燃焼用気体を圧縮する圧縮面として機能し、燃焼室17から筒内圧力を受ける。なお、燃焼室17は、図2に示すように、シリンダライナ13の内周面13aとシリンダカバー14の内壁面とクラウン部152とによって囲まれる空間である。
ピストン本体151の外周面153は、図2に示すように、ピストン軸C1回りの周方向に亘ってシリンダライナ13の内周面13aと対向する周面であり、クラウン部152とスカート部154との間に位置する。ピストン本体151の外周面153に複数のピストンリングが設けられる場合、当該外周面153は、これら複数のピストンリングのうち最上段のピストンリングとクラウン部152との間に位置する最上段ランドと、当該最上段のピストンリングとスカート部154との間に位置する中間ランドとに分割される。
例えば、ピストン本体151の外周面153に3つのピストンリングが設けられる場合、当該外周面153は、図2に示すように、トップランド153aと、セカンドランド153bと、サードランド153cとに分割される。ピストン本体151の外周面153のうち、トップランド153aは、上記最上段ランドの一例であり、具体的には、クラウン部152とトップリング155との間の外周面である。セカンドランド153bおよびサードランド153cは、上記中間ランドの一例である。具体的には、セカンドランド153bは、トップリング155とセカンドリング156との間の外周面である。サードランド153cは、セカンドリング156とサードリング157との間の外周面である。
スカート部154は、ピストン軸C1方向に延在する円筒状に構成され、図2に示すように、ピストン本体151におけるピストン軸C1方向の他端側(クラウン部152とは反対側)に設けられる。このスカート部154の外周面は、ピストン軸C1回りの周方向に亘り、シリンダライナ13の内周面13aと対向する。また、図3に示すように、スカート部154の外径R1は、ピストン本体151の外周面153の外径R2よりも大きい。このようなスカート部154は、ピストン15の往復運動において、ピストン本体151の揺動により、シリンダライナ13の内周面13aに接触する場合がある。スカート部154は、シリンダライナ13の内周面13aとの接触により、シリンダライナ13の内部におけるピストン15の往復運動時の揺動(傾動)を規制する。シリンダライナ13の内周面13aにスカート部154との接触(摺接)による傷が生じ難くなるという観点から、スカート部154の構成素材は、シリンダライナ13の内周面13aよりも軟らかい素材であることが好ましい。
トップリング155、セカンドリング156およびサードリング157は、各々、ピストン本体151の外周面153に設けられてシリンダライナ13の内周面13aと摺接するように構成される。以下、本実施形態1では、「トップリング155、セカンドリング156およびサードリング157」を総称して「複数のピストンリング」と称する場合がある。
トップリング155は、図2に示すように、ピストン軸C1方向に並ぶ複数のピストンリングのうち、クラウン部152に最も近い最上段のピストンリングの一例である。例えば、トップリング155は、ピストン本体151の外周面153のうちトップランド153aの下端部に沿って形成された環状溝に装着される。セカンドリング156は、図2に示すように、上記複数のピストンリングのうち最上段のピストンリングと最下段のピストンリングとの間に位置する中段のピストンリングの一例である。例えば、セカンドリング156は、ピストン本体151の外周面153のうちセカンドランド153bの下端部に沿って形成された環状溝に装着される。サードリング157は、図2に示すように、上記複数のピストンリングのうち、クラウン部152から最も遠い(すなわちスカート部154に最も近い)最下段のピストンリングの一例である。例えば、サードリング157は、ピストン本体151の外周面153のうちサードランド153cの下端部に沿って形成された環状溝に装着される。
また、トップリング155、セカンドリング156およびサードリング157は、各々、リングの切断部分である合口(図示せず)が形成されている。この構造により、これら複数のピストンリングは、各々、ピストン本体151の径方向へ拡径および縮径可能な弾力性を有するようになる。ピストン本体151がシリンダ12の内部に往復運動自在に収容された際、これら複数のピストンリングは、各々、シリンダライナ13の内周面13aに適度な面圧を加えながら、潤滑油の油膜を介して当該内周面13aに摺接する。これら複数のピストンリングとシリンダライナ13の内周面13aとの摺接により、ピストン15の外周面153とシリンダライナ13の内周面13aとの間におけるシール性が確保される。
ここで、上記複数のピストンリングのうち、トップリング155は、燃焼室17に最も近いことから、燃焼室17から高い筒内圧力を受ける。このような高い筒内圧力に耐えて上記シール性を確保するという観点から、トップリング155は、入れ子構造の合口に例示されるガスタイト型合口を有するピストンリング、すなわちガスタイトリングであることが好ましい。トップリング155がガスタイトリングである場合、トップリング155のシール性をより高めることができる。これにより、ピストン15の外周面153(特にトップランド153a)とシリンダライナ13の内周面13aとの間隙への、燃焼室17からの既燃ガスの侵入を抑制することができる。
コーティング膜160は、ピストン15の外周面におけるスラッジの堆積を抑制するための膜である。詳細には、コーティング膜160は、離型性を有するコーティング材によって構成され、例えば図2に示すように、ピストン本体151におけるクラウン部152とスカート部154との間の外周面153に形成される。本実施形態1では、ピストン本体151の外周面153に複数のピストンリングが設けられている。この場合、コーティング膜160は、ピストン本体151の外周面153のうち、少なくともトップランド153aに形成されている。例えば、図2に示すように、コーティング膜160は、トップランド153aの全域を覆うように、トップランド153aに形成される。上述したように、トップランド153aは、ピストン本体151の外周面153のうち、クラウン部152とトップリング155との間の外周面である。トップリング155は、上記複数のピストンリングのうち、燃焼室17に最も近い側に設けられている最上段のピストンリングである。
また、コーティング膜160を構成するコーティング材は、対象とするピストン本体151の外周面153(本実施形態1ではトップランド153a)にスラッジが付着し難くし得る離型性を有するものである。このような離型性のコーティング材として、例えば、フッ素樹脂系コーティング材、モリブデン系コーティング材、セラミック系コーティング材、シリコーン樹脂系コーティング材等が挙げられる。特に、当該スラッジは潤滑油等の油成分に由来するものであるから、上記離型性のコーティング材としては、撥油性を有するコーティング材が好ましい。
上記コーティング材によって構成されるコーティング膜160は、シリンダ12の内周面にコーティング膜160との接触による傷が生じ難くなるという観点から、シリンダ12の内周面よりも軟らかいことが好ましい。すなわち、コーティング膜160の硬度は、シリンダライナ13の内周面13aの硬度よりも低いことが好ましい。このようなコーティング膜160の硬度は、例えば、ブルネル硬さでHB180以下である。
また、コーティング膜160は、シリンダ12内の高温環境下で往復運動するピストン本体151の外周面153に形成される膜として必要な耐熱性を有する。このようなコーティング膜160の耐熱性は、例えば、400℃以上である。
また、コーティング膜160の外径は、ピストン15の往復運動または揺動時にシリンダライナ13の内周面13aとコーティング膜160とが接触し難くするために、スカート部154の外径R1(図3参照)よりも小さいことが好ましい。すなわち、図3に示すように、コーティング膜160の膜厚Kとピストン本体151の外周面153の外径R2との合計寸法R3は、スカート部154の外径R1よりも小さいことが好ましい。本実施形態1において、コーティング膜160はトップランド153aに形成されているから、上記外径R2は、トップランド153aの外径である。また、上記合計寸法R3は、トップランド153aの外径R2と、ピストン本体151の径方向両側におけるコーティング膜160の膜厚(=K×2)との和によって表され、下記の式(1)で算出される。

合計寸法R3=外径R2+膜厚K×2 ・・・(1)

例えば、コーティング膜160の膜厚Kは、0.2mm以下であることが好ましい。また、スカート部154の外周面153に対する片側の出っ張り量は、スカート部154の外径R1と外周面153の外径R2との差の半分(=(R1-R2)/2)であり、0.3mm以上1.0mm以下であることが好ましい。
(ピストンの作用)
つぎに、本発明の実施形態1に係るピストン15の作用について説明する。以下では、まず、ピストン本体151の外周面にコーティング膜160が形成されていない比較例のピストンの挙動について説明し、その後、当該コーティング膜160を有する実施形態1のピストン15の作用について説明する。図4は、比較例のピストンの挙動を説明するための模式図である。図5は、本発明の実施形態1に係るピストンの作用を説明する模式図である。
比較例のピストンは、ピストン本体151のトップランド153a等の外周面にコーティング膜160が形成されていないものである。すなわち、比較例のピストンの構成は、コーティング膜160を備えていないこと以外、実施形態1に係るピストン15と同様である。このような比較例のピストンがシリンダ12の内部を繰り返し往復運動していると、シリンダライナ13とピストン本体151との間の潤滑油等の油成分が燃焼室17(図1、2参照)からの既燃ガスと接触して加熱され、これにより、スラッジ200が生じる。スラッジ200は、ピストン本体151の外周面のうち燃焼室17に最も近いトップランド153aに生じて付着し易い。このようなスラッジ200は、ピストン本体151の往復運動に伴い、例えば図4に示すように、トップランド153aに堆積して硬質化する。
ピストン本体151のトップランド153aにスラッジ200が堆積した場合、トップランド153aの周方向において、スラッジ200の堆積の厚さにバラツキがあるから、トップランド153aとシリンダライナ13の内周面13aとの間隙に、バラツキが生じる。このため、ピストン本体151の径方向からトップランド153aに加わる圧力のバランスが崩れ、これに起因して、トップランド153aには、ピストン本体151の揺動方向D4の両側のうちいずれか一方に偏って荷重が加わる。例えば、図4中の太線矢印に示されるように、揺動方向D4のポンプ側から排気側へ向かう荷重がトップランド153aに偏って加わる。ピストン本体151は、上記荷重により、揺動方向D4両側のうちいずれか一方(図4では排気側)に偏って揺動(傾動)する。
ここで、ピストン本体151がシリンダ12内で往復運動中に揺動方向D4に揺動した場合においては、本来、スカート部154が、トップランド153aよりも先にシリンダライナ13の内周面13aに摺接し、これにより、ピストン本体151の揺動が規制される。しかしながら、比較例のピストンでは、図4に示すように、硬質なスラッジ200がトップランド153aに堆積している。このため、たとえピストン本体151の揺動がスカート部154によって規制されても、トップランド153a上のスラッジ200がシリンダライナ13の内周面13aに摺接してしまい、このスラッジ200の摺接によってボアポリッシュが発生する。すなわち、シリンダライナ13の内周面13aとピストン本体151の外周面との間に形成されていた潤滑油の油膜が、スラッジ200によって破壊されてしまう。この結果、比較例のピストンとシリンダライナ13との間の潤滑性が損なわれることから、比較例のピストンにリング肌荒れやスカート肌荒れ等の傷が発生するリスクが増大する。また、当該傷の発生に起因して、比較例のピストンとシリンダライナ13との間のシール性が低下し、この結果、ガス抜けが発生するリスクが増大する。
なお、リング肌荒れは、シリンダの内周面とピストンリングの外周面との金属同士の摩耗によって生じる縦縞状の傷(ピストンの往復運動方向の傷)である。スカート肌荒れは、シリンダの内周面とピストンスカートの外周面との金属同士の摩耗によって生じる縦縞状の傷である。また、ガス抜けは、リング肌荒れが発生したピストンリングの外周面(傷の隙間)から燃焼室側のガスがピストンスカート側へ抜ける現象である。
上記比較例のピストンに対し、本実施形態1に係るピストン15は、例えば図5に示すように、ピストン本体151の外周面(ここではトップランド153a)にコーティング膜160を備えている。このコーティング膜160の離型性により、ピストン本体151の外周面の中でも上述したスラッジ200が生じ易いトップランド153a上に、スラッジ200が付着し難くなっている。
このようなコーティング膜160を備えるピストン15がシリンダ12の内部を繰り返し往復運動しても、図5に示すように、ピストン本体151のトップランド153a上、すなわち、コーティング膜160の表面には、スラッジ200が殆どまたは全く堆積しない。このため、シリンダライナ13の内周面13aとピストン本体151のトップランド153aとの間隙が、トップランド153aの周方向の全域に亘って十分に確保される。それ故、トップランド153aには、ピストン本体151の径方向から圧力がバランスよく加わるから、ピストン本体151は、シリンダライナ13内を往復運動中、揺動方向D4の両側のうちいずれか一方に偏って傾動することがない。また、ピストン15がシリンダ12内を往復運動中、たとえピストン本体151が揺動方向D4に揺動した場合であっても、例えば図5に示すように、トップランド153a上のコーティング膜160がシリンダライナ13の内周面13aと摺接する前に、ピストン本体151の揺動がスカート部154によって規制される。
したがって、ピストン15がシリンダ12内で往復運動または揺動のいずれを行っていても、トップランド153a上のコーティング膜160とシリンダライナ13の内周面13aとの間隙が、ピストン本体151の周方向の全域に亘って十分に確保される。これにより、ピストン15とシリンダライナ13との間において、ボアポリッシュが発生せずに潤滑油の油膜が維持されるから、ピストン15とシリンダライナ13との間の潤滑性が安定して維持される。この結果、リング肌荒れやスカート肌荒れ等の傷がピストン15に発生するリスクが低減し、さらには、ピストン15とシリンダライナ13との間にガス抜けが発生するリスクが低減する。
以上、説明したように、本発明の実施形態1では、舶用内燃機関10のシリンダ12の内部をピストン軸C1方向に往復運動するピストン15のピストン本体151を、ピストン軸C1方向に延びる円筒状に構成して、当該ピストン本体151が、シリンダ12の内部の燃焼室17に面するクラウン部152をピストン軸C1方向の一端側に有し且つピストン軸C1方向の他端側にスカート部154を有するようにし、このピストン本体151におけるクラウン部152とスカート部154との間の外周面153に、離型性を有するコーティング膜160を形成している。
このため、ピストン本体151の外周面153を、コーティング膜160によってスラッジが付着し難い面にして、ピストン本体151の外周面153上における硬質なスラッジの堆積を抑制することができる。これにより、ピストン本体151の外周面153の周方向全域に亘って、当該外周面153上のコーティング膜160とシリンダ12の内周面との間隙を確保することができる。この結果、シリンダ12内でのピストン15の往復運動時に、シリンダ12の内周面上の潤滑油の油膜に硬質のスラッジが摺接する事態を回避できることから、シリンダ12とピストン15との間のボアポリッシュを解消して、当該油膜の形成を安定化することができ、故に、シリンダ12とピストン15との間の潤滑性を安定して確保することができる。延いては、シリンダ12とピストン15との金属接触を防止して、これらの金属同士の摩耗によるリング肌荒れやスカート肌荒れ等の傷がピストン15に発生するリスクを低減することができ、さらには、シリンダ12とピストン15との間にガス抜けが発生するリスクを低減することができる。また、シリンダ12の内周面(シリンダライナ13の内周面13a)上に潤滑油の油膜を保持し易くなるため、当該潤滑油の消費量の低減に寄与することができる。
また、本発明の実施形態1では、上述したピストン15と、当該ピストン15を往復運動自在に収容するシリンダ12とを備える舶用内燃機関10を構成している。このため、上述したピストン15の作用効果を享受することができ、これにより、シリンダ12およびピストン15を長寿命化して、これらの交換頻度を低減することができる。
また、本発明の実施形態1では、上記スカート部154の外径R1を、ピストン本体151の外周面153の外径R2よりも大きくし、コーティング膜160の膜厚Kとピストン本体151の外周面153の外径R2との合計寸法R3を、上記スカート部154の外径R1よりも小さくしている。このため、ピストン本体151の外周面153の周方向全域に亘って、コーティング膜160とシリンダ12の内周面との間隙を、スカート部154とシリンダ12の内周面との間隙よりも大きくすることができる。これにより、ピストン本体151の外周面153上のコーティング膜160が、シリンダ12内でのピストンの往復運動時に、シリンダ12の内周面に摺接する事態を容易に回避することができ、たとえピストン本体151が揺動方向D4に揺動した場合であっても、スカート部154とシリンダ12の内周面との事前の接触により、ピストン本体151の揺動を規制して、コーティング膜160とシリンダ12の内周面との摺接を容易に回避することができる。
また、本発明の実施形態1では、ピストン本体151の外周面153上のコーティング膜160を、シリンダ12の内周面よりも軟らかくなるように構成している。このため、シリンダ12内でのピストン15の往復運動または揺動時に、たとえコーティング膜160がシリンダ12の内周面に摺接しても、シリンダ12の内周面の摩耗を最小限度に抑えることができる。これにより、シリンダ12の内周面の摩耗による傷の発生を抑制することができる。
また、本発明の実施形態1では、ピストン軸C1方向に並ぶ複数のピストンリングをピストン本体151の外周面153に設け、ピストン本体151の外周面153のうち、クラウン部152と、これら複数のピストンリングのうち燃焼室17に最も近い側に設けられているトップリング155との間の外周面である少なくともトップランド153aに、コーティング膜160を形成している。このため、ピストン本体151の外周面153の中でも最も高温の環境下にあってスラッジが生じ易い、少なくともトップランド153aを、コーティング膜160によってスラッジが付着し難い面にすることができる。これにより、ピストン本体151の外周面153上における硬質なスラッジの堆積を効率よく抑制することができる。
また、本発明の実施形態1では、上記複数のピストンリングのうちのトップリング155を、ガスタイトリングによって構成している。このため、上記複数のピストンリングのうち、燃焼室17側から最も高い圧力を受けるトップリング155のシール性をより高めることができる。これにより、シリンダ12の内周面とピストン本体151のトップランド153aとの間隙に、燃焼室17からの既燃ガスが侵入し難くすることができる。この結果、シリンダ12の内周面とトップランド153aとの間の潤滑油が既燃ガスによって加熱され難くなることから、シリンダ12の内周面とトップランド153aとの間におけるスラッジの生成を抑制することができ、ピストン本体151の外周面153上におけるスラッジの堆積抑制に寄与することができる。
(実施形態2)
つぎに、本発明の実施形態2に係るピストンおよび舶用内燃機関について説明する。図6は、本発明の実施形態2に係るピストンの一構成例を示す模式図である。図7は、本発明の実施形態2に係るピストンの外周面におけるコーティング構造の一例を示す模式図である。図7には、図6に示すピストン15Aを頂面側から見た図が示されている。なお、図7では、説明の便宜上、ピストン15Aのピストンリング(図6ではトップリング155、セカンドリング156およびサードリング157)の図示は省略されている。
図6、7に示すように、本発明の実施形態2に係るピストン15Aは、上述した実施形態1に係るピストン15のコーティング膜160に代えてコーティング膜160a、160bを備える。また、特に図示しないが、本発明の実施形態2に係る舶用内燃機関は、上述した実施形態1に係る舶用内燃機関10のピストン15に代えてピストン15Aを備えている。その他の構成は実施形態1と同じであり、同一構成部分には同一符号を付している。
コーティング膜160a、160bは、双方とも、ピストン15Aの外周面におけるスラッジの堆積を抑制するための膜である。詳細には、コーティング膜160a、160bは、上述した実施形態1と同様の離型性を有するコーティング材によって構成され、例えば図6、7に示すように、ピストン本体151の揺動方向D4の一端側と他端側とに分割して形成される。なお、ピストン本体151は、上述したように、ピストン棒16を介してクロスヘッド7(図1参照)に揺動自在に接続されている。
一方のコーティング膜160aは、ピストン本体151の揺動方向D4の一方側(図6、7では排気側)のコーティング膜である。詳細には、図6、7に示すように、コーティング膜160aは、ピストン本体151の外周面153のうち、揺動方向D4における排気側の外周面に形成される。特に、複数のピストンリングが外周面153に設けられているピストン本体151においては、コーティング膜160aは、当該排気側の外周面のうちの少なくともトップランド153a(以下、排気側のトップランドという)に形成される。
より詳細には、図7に示すように、上述した排気側の外周面は、ピストン本体151の外周面153のうち、ピストン軸C1と直交するクロスヘッドピン8(図1参照)の軸方向D3を境に揺動方向D4の排気側に位置する外周面である。本実施形態2において、コーティング膜160aは、このように区分される排気側の外周面のうち、例えば、排気側のトップランドに形成され、当該排気側のトップランドを覆う。
このようなコーティング膜160aの形成領域は、例えば、揺動方向D4の排気側において、ピストン本体151の外周面153とシリンダライナ13の内周面13aとの間隙が所定値以下となる領域に設定される。
具体的には、図7に示すように、コーティング膜160aは、ピストン軸C1を中心として、ピストン軸C1回りに所定の角度θ1および角度θ2をなす弧状領域に形成される。角度θ1は、コーティング膜160aの周方向一端側の直線L1と揺動方向D4とのなす角度である。角度θ2は、コーティング膜160aの周方向他端側の直線L2と揺動方向D4とのなす角度である。なお、これらの角度θ1、θ2は、互いに反対方向の角度である。また、直線L1は、コーティング膜160aの周方向の一端部である膜端部160aaに接し且つピストン軸C1と直交する直線である。直線L2は、コーティング膜160aの周方向の他端部である膜端部160abに接し且つピストン軸C1と直交する直線である。コーティング膜160aは、一端側の角度θ1が絶対値で90度未満となり且つ他端側の角度θ2が絶対値で90度未満となるように、排気側のトップランドに形成される。
他方のコーティング膜160bは、ピストン本体151の揺動方向D4における上記コーティング膜160aとは反対側(図6、7ではポンプ側)のコーティング膜である。詳細には、図6、7に示すように、コーティング膜160bは、ピストン本体151の外周面153のうち、揺動方向D4におけるポンプ側の外周面に形成される。特に、複数のピストンリングが外周面153に設けられているピストン本体151においては、コーティング膜160bは、当該ポンプ側の外周面のうちの少なくともトップランド153a(以下、ポンプ側のトップランドという)に形成される。
より詳細には、図7に示すように、上述したポンプ側の外周面は、ピストン本体151の外周面153のうち、上述した軸方向D3を境に揺動方向D4のポンプ側に位置する外周面である。本実施形態2において、コーティング膜160bは、このように区分されるポンプ側の外周面のうち、例えば、ポンプ側のトップランドに形成され、当該ポンプ側のトップランドを覆う。
このようなコーティング膜160bの形成領域は、例えば、揺動方向D4のポンプ側において、ピストン本体151の外周面153とシリンダライナ13の内周面13aとの間隙が所定値以下となる領域に設定される。
具体的には、図7に示すように、コーティング膜160bは、ピストン軸C1を中心として、ピストン軸C1回りに所定の角度θ3および角度θ4をなす弧状領域に形成される。角度θ3は、コーティング膜160bの周方向一端側の直線L3と揺動方向D4とのなす角度である。角度θ4は、コーティング膜160bの周方向他端側の直線L4と揺動方向D4とのなす角度である。なお、これらの角度θ3、θ4は、互いに反対方向の角度である。また、直線L3は、コーティング膜160bの周方向の一端部である膜端部160baに接し且つピストン軸C1と直交する直線である。直線L4は、コーティング膜160bの周方向の他端部である膜端部160bbに接し且つピストン軸C1と直交する直線である。コーティング膜160bは、一端側の角度θ3が絶対値で90度未満となり且つ他端側の角度θ4が絶対値で90度未満となるように、ポンプ側のトップランドに形成される。
また、コーティング膜160a、160bの形成に必要なコストを低減するという観点から、上述した角度θ1~θ4は、より小さい角度であることが好ましい。また、コーティング膜160aをスラッジの堆積抑制に有効な膜にするという観点から、角度θ1~θ4は、各々、絶対値で45度以上であることが好ましい。
なお、本実施形態2におけるコーティング膜160a、160bの硬さ、耐熱性および膜厚等の特性は、上述した実施形態1におけるコーティング膜160と同様である。また、コーティング膜160a、160bの膜厚Kとピストン本体151の外周面153の外径R2との合計寸法R3は、上述した実施形態1と同様に、スカート部154の外径R1よりも小さいことが好ましい。
以上、説明したように、本発明の実施形態2では、ピストン棒16を介してクロスヘッド7に揺動自在に接続されるピストン本体151の外周面153上に、コーティング膜160a、160bを、ピストン本体151の揺動方向D4の一端側と他端側とに分割して形成し、その他を実施形態1と同様にしている。このため、上述した実施形態1と同様の作用効果を享受するとともに、ピストン本体151の外周面153のうち、揺動方向D4の一端側においてシリンダ12の内周面との間隙が所定値以下となる第1領域と、揺動方向D4の他端側においてシリンダ12の内周面との間隙が所定値以下となる第2領域とにコーティング膜160a、160bの形成範囲を絞り込むことができる。これにより、コーティング膜160a、160bによるスラッジの堆積抑制の効果を確保しつつ、コーティング膜形成に要するコストを低減することができる。
なお、上述した実施形態1、2では、ピストン本体151の外周面153のうち最上段ランド(トップランド153a)にコーティング膜を形成していたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、上述したコーティング膜は、ピストン本体151の外周面153のうち、最上段ランドのみに形成されてもよいし、最上段ランドおよび中間ランドの双方に形成されてもよい。
また、上述した実施形態1、2では、ピストン本体151の外周面153に設けられる複数のピストンリングの一例として3つのピストンリングを例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、ピストン本体151の外周面153には、1つのピストンリングが設けられていてもよいし、ピストン本体151の往復運動方向(ピストン軸方向)に並ぶように2つ以上のピストンリングが設けられていてもよい。
また、上述した実施形態1、2では、本発明に係るピストンが適用される内燃機関の一例として、舶用内燃機関を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、本発明に係るピストンは、車両のエンジン等、舶用内燃機関以外の内燃機関に適用されてもよい。
また、上述した実施形態1、2により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施形態1、2に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
1 台板
2 クランクシャフト
3 クランク
4 架構
5 連接棒
6 摺動板
7 クロスヘッド
8 クロスヘッドピン
10 舶用内燃機関
11 シリンダジャケット
12 シリンダ
13 シリンダライナ
13a 内周面
14 シリンダカバー
15、15A ピストン
16 ピストン棒
17 燃焼室
18 排気弁
19 上部動弁装置
20 排気マニホールド
21 排気管
22 燃料噴射弁
23 燃料噴射ポンプ
24 タイボルト
151 ピストン本体
152 クラウン部
153 外周面
153a トップランド
153b セカンドランド
153c サードランド
154 スカート部
155 トップリング
156 セカンドリング
157 サードリング
160、160a、160b コーティング膜
160aa、160ab、160ba、160bb 膜端部
200 スラッジ
C1 ピストン軸
D1 高さ方向
D2 幅方向
D3 軸方向
D4 揺動方向

Claims (7)

  1. 内燃機関のシリンダの内部をピストン軸方向に往復運動するピストンにおいて、
    前記ピストン軸方向に延びる円筒状に構成され、前記シリンダの内部の燃焼室に面するクラウン部を前記ピストン軸方向の一端側に有し、前記ピストン軸方向の他端側にスカート部を有するピストン本体と、
    前記ピストン本体における前記クラウン部と前記スカート部との間の外周面に形成され、離型性を有するコーティング膜と、
    を備えることを特徴とするピストン。
  2. 前記スカート部の外径は、前記ピストン本体の前記外周面の外径よりも大きく、
    前記コーティング膜の膜厚と前記外周面の外径との合計寸法は、前記スカート部の外径よりも小さい、
    ことを特徴とする請求項1に記載のピストン。
  3. 前記コーティング膜は、前記シリンダの内周面よりも軟らかい、
    ことを特徴とする請求項1または2に記載のピストン。
  4. 前記ピストン本体の前記外周面には、前記ピストン軸方向に並ぶ複数のピストンリングが設けられ、
    前記コーティング膜は、前記ピストン本体の前記外周面のうち、前記クラウン部と、前記複数のピストンリングのうち前記燃焼室に最も近い側に設けられているトップリングとの間の外周面である少なくともトップランドに形成されている、
    ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載のピストン。
  5. 前記トップリングは、ガスタイトリングである、
    ことを特徴とする請求項4に記載のピストン。
  6. 前記ピストン本体は、ピストン棒を介してクロスヘッドに揺動自在に接続され、
    前記コーティング膜は、前記ピストン本体の揺動方向の一端側と他端側とに分割して形成される、
    ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載のピストン。
  7. 請求項1~6のいずれか一つに記載のピストンと、
    前記ピストンを往復運動自在に収容するシリンダと、
    を備えることを特徴とする舶用内燃機関。
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