JP2023090326A - アクリル塗膜の外観改善溶液 - Google Patents

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Abstract

【課題】アクリル塗膜の剥離+新塗膜の形成やアクリル旧塗膜上への新塗膜の形成ではなく、外観が劣化したアクリル塗膜を拭く等するだけで、アクリル塗膜の外観(意匠性)を改善処理することができ、かつ、このように外観改善処理後のアクリル塗膜へのダメージを抑制することができる、アクリル塗膜の外観改善溶液を提供すること。【解決手段】炭素数1~4のアルコール(A)と水(B)とを含有する、アクリル塗膜の外観改善溶液。【選択図】なし

Description

本発明は、アクリル塗膜の外観改善溶液およびアクリル塗膜の外観改善方法に関する。
構造物を構成する部材(基材)には、防食性、防汚性、耐候性、耐キズ性、意匠性等の各種機能を付与することを目的として、種々の塗膜が形成されている。
基材上に形成された塗膜は、塗装不良や経時劣化等により、所望の機能を発揮できなくなる場合が多い。基材上に形成される塗膜には、そこに要求される機能を付与することが求められるため、このように機能を発揮できなくなった塗膜は、通常、基材から剥離され、剥離部分に、新たに塗膜を形成し直していたり、機能を発揮できなくなった塗膜の上に、新たな塗膜を形成し直したりしていた。
基材から塗膜を剥離する方法の一例としては、ディスクサンダー等の電動工具により塗膜を剥離する方法、ブラスト処理により塗膜を剥離する方法、剥離剤を用いて塗膜を剥離する方法が挙げられ、該剥離剤としては、例えば、特許文献1に記載の塗膜用水系剥離剤が知られている。
特開2009-203403号公報
前記基材上に形成される塗膜(積層塗膜の場合は上塗り塗膜)としては、アクリル塗膜が様々な基材に対して多く用いられている。
このようなアクリル塗膜は、経時劣化等により、その外観(意匠性)が悪くなることが知られている。特に、アクリル塗膜を形成するアクリル塗料を基材上に塗装した後、塗装された塗料が乾燥する前に、該塗料と水(雨等による)とが接触した場合、形成されたアクリル塗膜が白化(劣化)し、該塗膜の外観が損なわれるという問題があった。
このような外観が劣化したアクリル塗膜の外観を改善する方法としては、従来通り、該外観が劣化したアクリル塗膜を剥離して、新たにアクリル塗膜を形成する(以下「アクリル塗膜の剥離+新塗膜の形成」ともいう。)ことが考えられるが、アクリル塗膜の剥離および新たなアクリル塗膜の形成は、手間と時間がかかるため、このような方法以外の簡便な方法で、アクリル塗膜の外観を改善できることが好ましい。
このようなアクリル塗膜の外観を改善する簡便な方法として、前記の通り、旧アクリル塗膜の上に新しくアクリル塗料(例えば、旧アクリル塗膜を形成する際に使用した塗料と同じアクリル塗料)を塗り重ねる(以下「アクリル旧塗膜上への新塗膜の形成」ともいう。)ことも考えられる。
しかしながら、このように塗り重ねる場合、旧アクリル塗膜が溶解するため、溶解した旧アクリル塗膜と新しく塗り重ねたアクリル塗料とを合計した膜厚分の乾燥が必要となり、このように塗り重ねる際に形成する新塗膜と同等の膜厚の単層のアクリル塗膜を形成する場合よりも、乾燥期間が長くなる。このように乾燥期間が長くなるほど、塗装された塗料が乾燥する前に水と接触し易く、形成される塗膜が白化するリスクが高くなっていた。さらに、アクリル塗膜は、厚膜になるほど、フクレやクラック等の塗膜欠陥のリスクも高くなっていた。
以上のことから、アクリル塗膜の外観を改善する方法として、アクリル旧塗膜上への新塗膜の形成以外の方法も求められていた。
本発明は以上のことに鑑みてなされたものであり、アクリル塗膜の剥離+新塗膜の形成やアクリル旧塗膜上への新塗膜の形成ではなく、外観が劣化したアクリル塗膜を拭く等するだけで、アクリル塗膜の外観(意匠性)を改善処理することができ、かつ、このように外観改善処理後のアクリル塗膜へのダメージを抑制することができる、アクリル塗膜の外観改善溶液を提供することを目的とする。
本発明者が、前記課題を解決する方法について鋭意検討を重ねた結果、下記構成例によれば前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の構成例は以下の通りである。
<1> 炭素数1~4のアルコール(A)と水(B)とを含有する、アクリル塗膜の外観改善溶液。
<2> 前記アルコール(A)と前記水(B)との質量比[(A):(B)]が、65:35~95:5である、<1>に記載のアクリル塗膜の外観改善溶液。
<3> 前記アルコール(A)と前記水(B)との合計含有量が95質量%以上である、<1>または<2>に記載のアクリル塗膜の外観改善溶液。
<4> <1>~<3>のいずれかに記載のアクリル塗膜の外観改善溶液を用いた、アクリル塗膜の外観改善方法。
<5> 下記工程[1]または[2]を含む、<4>に記載のアクリル塗膜の外観改善方法。
[1]<1>~<3>のいずれかに記載のアクリル塗膜の外観改善溶液を含む拭き取り部材を用いて、アクリル塗膜を拭く工程
[2]アクリル塗膜上に、<1>~<3>のいずれかに記載のアクリル塗膜の外観改善溶液を設け、該外観改善溶液を拭く工程
<6> 前記アクリル塗膜が、屋外用アクリル塗膜、または、船舶用アクリル塗膜である、<4>または<5>に記載のアクリル塗膜の外観改善方法。
本発明によれば、アクリル塗膜の剥離+新塗膜の形成やアクリル旧塗膜上への新塗膜の形成ではなく、外観が劣化したアクリル塗膜を拭く等するだけで、アクリル塗膜の外観(意匠性)を改善処理することができ、かつ、このように外観改善処理後のアクリル塗膜へのダメージを抑制することができる。
特に、本発明によれば、白化(劣化)したアクリル塗膜の白化した部分を除去し、白化した部分の下部(基材側部)の白化していない健全なアクリル塗膜を維持しながら、白化の改善および白化により消失した光沢を回復させることができる。
また、本発明に係るアクリル塗膜の外観改善溶液を用いて、一度アクリル塗膜の外観を改善することで、このように外観改善後のアクリル塗膜に水等が接触しても、外観の再劣化(再白化)が起り難いアクリル塗膜を得ることができる。
さらに、本発明に係るアクリル塗膜の外観改善溶液を用いて、一度アクリル塗膜の外観を改善すると、従来のアクリル旧塗膜上への新塗膜の形成により外観改善した場合と比べ、これらの処理の後のアクリル塗膜に水が接しても、アクリル塗膜に生じ得る白化をより抑制できる。
図1は、下記実施例で作製した外観改善処理試験板の説明図である。
≪アクリル塗膜の外観改善溶液≫
本発明に係るアクリル塗膜の外観改善溶液(以下「本溶液」ともいう。)は、炭素数1~4のアルコール(A)と水(B)とを含有すれば特に制限されないが、下記その他の成分を含んでいてもよい。
本溶液は、アクリル塗膜を剥離(基材上に形成されたアクリル塗膜を厚み方向に全部剥離除去)する剥離剤とは異なり、アクリル塗膜の外観を改善処理して、外観が改善されたアクリル塗膜を得ることができる(基材上に形成されたアクリル塗膜を厚み方向に全部剥離除去しない)溶液である。
なお、本溶液を用いて、一度アクリル塗膜の外観を改善することで、このように外観改善後のアクリル塗膜に水等が接触しても、外観の再劣化(再白化)が起り難いアクリル塗膜を得ることができる。また、本溶液を用いて、一度アクリル塗膜の外観を改善すると、従来のアクリル旧塗膜上への新塗膜の形成により外観改善した場合と比べ、アクリル塗膜に水が接しても、アクリル塗膜に生じ得る白化をより抑制できる。
このため、本溶液は、アクリル塗膜の劣化(白化)を抑制できる耐劣化(白化)性を有するため、アクリル塗膜の劣化(白化)抑制溶液であるともいえる。
また、本溶液によれば、外観が劣化していないアクリル塗膜に対しても、本溶液を用いて拭く等することで、このように拭く等する前のアクリル塗膜より光沢が向上する傾向にある。
本溶液は、通常、外観が劣化したアクリル塗膜に対して使用されるが、以上のように、耐劣化(白化)性を有し、光沢を向上できるため、外観が劣化していないアクリル塗膜に対しても使用することができる。このように外観が劣化していないアクリル塗膜の光沢を向上させることは、外観改善といえるため、外観が劣化していないアクリル塗膜に用いる溶液も、アクリル塗膜の外観改善溶液といえ、外観が劣化していないアクリル塗膜に本溶液を用いることも、アクリル塗膜の外観改善方法であるといえる。
本発明における外観改善とは、例えば、劣化していない(劣化する前の)アクリル塗膜と該アクリル塗膜が劣化した後のアクリル塗膜との色差をΔE1、および、劣化していないアクリル塗膜と該劣化したアクリル塗膜に外観改善処理を行った後のアクリル塗膜との色差をΔE2とした時、(1-(ΔE2/ΔE1))×100で表される色差(ΔE)回復率が、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上となることをいう。
なお、該ΔE回復率(%)は、具体的には、下記実施例に記載の方法で測定・算出することができる。
また、本発明における外観改善とは、例えば、劣化していない(劣化する前の)アクリル塗膜の60°鏡面光沢をG1とし、劣化したアクリル塗膜の60°鏡面光沢をG2とし、該劣化したアクリル塗膜に外観改善処理を行った後のアクリル塗膜の60°鏡面光沢をG3とした時、{(G3-G2)/(G1-G2)}×100で表される光沢回復率が、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、さらにより好ましくは60%以上となることをいう。
さらに、本発明における外観改善とは、例えば、劣化していない(劣化する前の)アクリル塗膜の60°鏡面光沢をG1とし、劣化したアクリル塗膜に外観改善処理を行った後のアクリル塗膜の60°鏡面光沢をG3とした時、(G3/G1)×100で表される光沢保持率が、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらにより好ましくは65%以上となることをいう。
なお、該60°鏡面光沢は、具体的には、下記実施例に記載の方法で測定・算出することができる。
[アルコール(A)]
アルコール(A)としては、炭素数1~4のアルコールであれば特に制限されない。
該アルコール(A)としては、アクリル塗膜の外観(特に白化および光沢)を容易に改善することができ、かつ、外観改善処理後のアクリル塗膜へのダメージを容易に抑制することができる等の点から、炭素数1~3のアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)が好ましく、炭素数1~3の1価アルコール、PGMが好ましい。
本溶液に用いるアルコール(A)は、1種でもよく、2種以上でもよい。
アルコール(A)の具体例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール(IPA)、エチレングリコール、プロピレングリコール、PGMが挙げられ、これらの中でも、アクリル塗膜の外観(特に白化および光沢)を容易に改善することができ、かつ、外観改善処理後のアクリル塗膜へのダメージを容易に抑制することができる等の点から、エタノール、1-プロパノール、IPA、PGMが好ましく、IPA、PGMがより好ましい。
本溶液中のアルコール(A)の含有量(本溶液を調製する際のアルコール(A)の使用量)は、アクリル塗膜の外観(特に白化および光沢)を容易に改善することができ、かつ、外観改善処理後のアクリル塗膜へのダメージを容易に抑制することができる等の点から、本溶液100質量%に対し、好ましくは65~95質量%、より好ましくは70~90質量%である。
[水(B)]
水(B)としては特に制限されず、水道水等を用いてもよいが、純水やイオン交換水等を用いることが好ましい。
本溶液中の水(B)の含有量(本溶液を調製する際の水(B)の使用量)は、アクリル塗膜に対するアルコールの溶解力を調整し、アクリル塗膜の外観(特に白化および光沢)を容易に改善することができ、かつ、外観改善処理後のアクリル塗膜へのダメージを容易に抑制することができる等の点から、本溶液100質量%に対し、好ましくは5~35質量%、より好ましくは10~30質量%である。
前記本発明の効果がより発揮される等の点から、本溶液中のアルコール(A)と水(B)との質量比(本溶液を調製する際に用いるアルコール(A)と水(B)との質量比)[(A):(B)]は、好ましくは65:35~95:5、より好ましくは70:30~90:10である。
また、本溶液中のアルコール(A)と水(B)との合計含有量は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上であり、その上限は100質量%である。つまり、本溶液は、アルコール(A)と水(B)とのみからなることも好ましい。
[その他の成分]
本溶液には、所望により、本発明の効果を損なわない範囲で、界面活性剤、防腐剤、pH調整剤、キレート剤、除菌剤、香料、有機溶剤等のその他の成分を用いてもよい。
これらその他の成分は、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
[界面活性剤]
界面活性剤としては、特に制限されず、従来公知の界面活性剤を用いることができる。例えば、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
本溶液には、界面活性剤を用いてもよいが、コスト等を考慮すると、該界面活性剤は用いないことが好ましい。
陰イオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ジアルキルスルホコハク酸等が挙げられる。
陽イオン性界面活性剤としては、アルキルアミンアセテート、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
非イオン性界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等が挙げられる。
[防腐剤]
防腐剤としては、特に制限されず、従来公知の防腐剤を用いることができる。具体的には、硫酸イオン、塩素イオンを含有する有機窒素硫黄系化合物や塩素系化合物、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
[pH調整剤]
pH調整剤としては、特に制限されず、従来公知の酸性物質またはアルカリ性物質を適宜選択して用いることができる。具体的には、酸性物質としては、硫酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられ、アルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、アルカノールアミン等が挙げられる。
[有機溶剤]
有機溶剤としては、前記アルコール(A)以外の有機溶剤であれば特に制限されず、従来公知の有機溶剤を適宜選択して用いることができる。具体的には、ベンジルアルコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソアミルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル等のアルコール系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン系溶剤、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、n-ヘキサン、n-オクタン、2,2,2-トリメチルペンタン、イソオクタン、n-ノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤が挙げられ、これらの中でも、アルコール(A)または水(B)と可溶な有機溶剤が好ましい。
≪アクリル塗膜≫
本発明において、外観が改善される対象となるアクリル塗膜は特に制限されず、従来公知の(メタ)アクリル樹脂系組成物から形成されたアクリル塗膜が挙げられる。本溶液を用いることで、従来公知の(メタ)アクリル樹脂系組成物から形成されたアクリル塗膜のいずれに対しても、その外観を改善することができる。
なお、前記(メタ)アクリル樹脂系組成物とは、該組成物中に含まれる樹脂100質量%に対し、(メタ)アクリル化合物の含有量が、好ましくは20~100質量%、より好ましくは40~100質量%である組成物のことをいう。
また、前記(メタ)アクリル樹脂系組成物は、該組成物の不揮発分100質量%に対し、(メタ)アクリル化合物の含有量が、好ましくは20~100質量%、より好ましくは20~80質量%、さらに好ましくは25~60質量%である組成物であることが望ましい。
前記(メタ)アクリル化合物は、変性されていてもよく、前記(メタ)アクリル化合物が(メタ)アクリル樹脂である場合、その変性体としては、例えば、アルキド樹脂変性(メタ)アクリル樹脂、脂肪酸変性(メタ)アクリル樹脂、ウレタン変性(メタ)アクリル樹脂、フッ素変性(メタ)アクリル樹脂、シリコーン変性(メタ)アクリル樹脂が挙げられる。
つまり、前記アクリル塗膜は、アクリル塗膜、メタクリル塗膜、変性アクリル塗膜または変性メタクリル塗膜のいずれかである。
前記アクリル塗膜を構成するアクリル樹脂の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した重量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、本発明の効果がより発揮されやすい等の点からは、好ましくは20,000~70,000である。
該Mwは具体的には、下記実施例に記載の方法で測定できる。
前記アクリル塗膜を構成するアクリル樹脂のヨウ素価は特に制限されないが、本発明の効果がより発揮されやすい等の点からは、好ましくは0~50、より好ましくは0~35、さらに好ましくは0~20、特に好ましくは0~15である。
該ヨウ素価は具体的には、下記実施例に記載の方法で測定できる。
前記アクリル塗膜を構成するアクリル樹脂の、ガラス転移温度(Tg)は特に制限されないが、本発明の効果がより発揮されやすい等の点からは、好ましくは0~70℃である。
また、前記アクリル塗膜の、ガラス転移温度(Tg)は特に制限されないが、本発明の効果がより発揮されやすい等の点からは、好ましくは10~45℃である。
前記Tgは、DSC(示差走査熱量測定)で測定することができるが、Fox T.G.,Bull.Am.Physics Soc.1,3,第123頁(1956)に記載の下記Foxの式により近似的に算出することもできる。
なお、本明細書におけるTgは、具体的には、下記実施例に記載の方法で測定した値である。
Figure 2023090326000001
[式中、Xnは、アクリル樹脂を製造する際に用いたモノマーnの、アクリル樹脂を製造する際に用いたモノマー全量に対する質量分率(質量/100)であり、Tgnは、該モノマーnのホモポリマーのガラス転移温度(ケルビン)である。]
Tgnは、例えば、Polymer Handbook 2nd Edition,J.Wiley & Sons,New York(1975)に記載の値を参考にできる。
本発明は、劣化、特に白化が起こりやすいアクリル塗膜に対し、その効果がより発揮される。
このような、劣化、特に白化が起こりやすいアクリル塗膜としては、例えば、船舶用アクリル塗膜(特に、船舶のデッキ用アクリル塗膜)、屋外用アクリル塗膜(例えば、塗膜形成後、塗膜と水が接触する環境(特に、雨に曝される環境)にあるアクリル塗膜)が挙げられ、それぞれ、従来公知の船舶塗装用(メタ)アクリル樹脂系組成物、従来公知の屋外塗装用(メタ)アクリル樹脂系組成物から形成されたアクリル塗膜が挙げられる。これらの中でも、本発明は、船舶のデッキ用アクリル塗膜に対し、その効果がより発揮される。
前記アクリル塗膜(外観が改善される前のアクリル塗膜)の厚みは、該アクリル塗膜が形成される基材、用途に応じて、推奨の厚みがあり特に制限されないが、通常、基材上に形成される1層のアクリル塗膜(新塗膜)の厚みは30~200μm程度である。
本発明によれば、旧アクリル塗膜上に新しく形成されたアクリル塗膜に対しても、その外観を改善することができるため、このような旧塗膜+新塗膜との積層体に対して用いることも考慮すると、本発明の効果が発揮されやすいアクリル塗膜(新塗膜または旧塗膜+新塗膜)の厚みは、例えば30~2000μm程度である。
≪アクリル塗膜の外観改善方法≫
本発明に係るアクリル塗膜の外観改善方法は、前記本溶液を用いれば特に制限されないが、下記工程[1]または[2]を含むことが好ましい。
[1]本溶液を含む拭き取り部材を用いて、アクリル塗膜を拭く工程
[2]アクリル塗膜上に本溶液を設け、該本溶液を拭く工程
前記工程[1]における本溶液を含む拭き取り部材としては、具体的には、本溶液を染み込ませた拭き取り部材が挙げられる。
前記工程[2]において、アクリル塗膜上に設けられた本溶液を拭く際には、本溶液を含まない拭き取り部材を用いて拭いてもよいし、本溶液を含む拭き取り部材を用いて拭いてもよい。
前記工程[1]や[2]で用いる拭き取り部材としては、例えば、ウエス、雑巾、モップ、スポンジ、パッド、ブラシが挙げられる。
前記工程[1]や[2]でアクリル塗膜を拭く際には、前記拭き取り部材を用いて、人の手等により拭いてもよいし、前記拭き取り部材を装着した機器(例:床洗浄用機器、自動床洗浄機)等を用いて拭いてもよい。
前記工程[2]におけるアクリル塗膜上に本溶液を設ける方法としては、アクリル塗膜に、本溶液を、スプレー、シャワー等により散布する方法、アクリル塗膜が形成された基材を本溶液に浸漬する方法等が挙げられる。
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらによって制限されない。
[実施例1]
イソプロピルアルコール(IPA)80質量部と、水20質量部とを容器に入れ、撹拌することで、外観改善溶液を調製した。
[実施例2~8および比較例1、2]
表1の原料の欄に記載の各成分を、表1に記載の量(質量部)で用いた以外は実施例1と同様にして、外観改善溶液を調製した。
<試験板(アクリル塗膜付き基材)の作製>
基材(ブリキ板)の表面に、下記表2の塗料1(アクリル樹脂系塗料)を、乾燥後に得られるアクリル塗膜の厚さが120μmとなるように、隙間0.5mmのアプリケーターを用いて塗装した。次いで、常温(23℃)で3時間乾燥させることで、アクリル塗膜付き基材(試験板)を作製した。
なお、表2に記載の数値は質量部を示し、表2に記載の各成分の説明を表3に示す。
なお、表3に記載のアクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、GPC法により、以下の条件で測定した。
装置(東ソー(株)製、HLC-8220GPC)
カラム(SuperH2000+SuperH4000(東ソー(株)製、内径6mm/長さ各15cm))
カラム温度(40℃)
溶離液(テトラヒドロフラン)
流速(0.50mL/min.)
検出器(RI)
標準物質(ポリスチレン)
また、表3に記載のアクリル樹脂のヨウ素価は、以下の方法で測定した。
共栓付きフラスコに、アクリル樹脂0.2~5gを正確に秤量し、四塩化炭素10mlを加えて該樹脂を溶解し、さらにウィイス液25mlを正確に加えた。栓をしたのち、30分間常温で暗所に置いた。次に、10W/V%ヨウ化カリウム水溶液20mlおよび水100mlを加えて振り混ぜた。N/10チオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定し、溶液が微黄色になった後、デンプン溶液を数滴加え、よく振り混ぜながら滴定を続け、デンプンによる青色が消失した時を終点とすることで本試験を行った。なお前記本試験と並行して、樹脂を用いない以外は本試験と同様の空試験を行った。
ヨウ素価は、次式によって計算した。
ヨウ素価=((A-B)×f×1.269)/S
(A:空試験のN/10チオ硫酸ナトリウム水溶液使用量(ml)、B:本試験のN/10チオ硫酸ナトリウム水溶液使用量(ml)、f:N/10チオ硫酸ナトリウム水溶液のファクター、S:樹脂の質量(g))
表2に記載のアクリル塗膜のTgは、以下の方法で測定した。
下記表2のアクリル樹脂系塗料を、乾燥後に得られるアクリル塗膜の厚さが50μmとなるように、隙間0.2mmのアプリケーターを用いて塗装した。次いで、50℃で24時間乾燥させることで、アクリル塗膜を作製した。作製した塗膜を0.8~2.0mgになるように丸くくりぬいて、正確に秤量したサンプルを用いて、以下の条件でDSC(示差走査熱量測定)を行った。
装置:DSC Q2000(TAインスツルメント社製)
容器:アルミニウム製(Standard Pan,Standard Lid,TAインスツルメント社製)
測定温度:-20℃~80℃
昇温速度:20℃/分
<水浸漬後の試験板(白化アクリル塗膜付き基材)の作製>
前記のようにして作製した試験板を、その下半分が容器に入れた室温の水道水に浸漬するようにして、水道水に24時間浸漬し、その後、該試験板を容器から取り出し、該試験板上に付着している水をウエス(JKワイパー100-S[日本製紙クレシア(株)製])を用いて拭き取ることで、水浸漬後の試験板(白化アクリル塗膜付き基材)を作製した。
該水浸漬後の試験板における水浸漬部のアクリル塗膜は、水に浸漬しなかった試験板の上半分のアクリル塗膜に対し、白化していた。
なお、以下では、水に浸漬した試験板の下半分の部分を「水浸漬部」ともいい、この水に浸漬しなかった試験板の上半分の部分を「水非浸漬部」ともいう。
<外観改善処理試験板の作製>
ウエス(JKワイパー100-S[日本製紙クレシア(株)製])に、実施例および比較例で調製した外観改善溶液を染み込ませ、得られた外観改善溶液を含むウエスを、前記のようにして作製した水浸漬後の試験板の右半分(水浸漬部+水非浸漬部)のアクリル塗膜表面を8往復させる(アクリル塗膜表面を拭く)ことで、外観改善処理を行い、その後、該外観改善処理を行った部分上に残存した外観改善溶液を、乾いたウエス(JKワイパー100-S[日本製紙クレシア(株)製])を用いて拭き取ることで、外観改善処理試験板を作製した。
なお、このようにして作製した外観改善処理試験板の説明図を図1に示す。試験板の左上Aが水非浸漬部であり、外観改善処理を行わなかった部分(以下「健全部」ともいう。)であり、試験板の右上Bが水非浸漬部であり、外観改善処理を行った部分であり、試験板の左下Cが水浸漬部であり、外観改善処理を行わなかった部分(以下「劣化部」ともいう。)であり、試験板の右下Dが水浸漬部であり、外観改善処理を行った部分(以下「処理部」ともいう。)である。
<化粧塗り処理試験板の作製>
前記のようにして作製した水浸漬後の試験板の右半分(水浸漬部+水非浸漬部)のアクリル塗膜上に、下記表2の塗料1(アクリル樹脂系塗料)を、乾燥後に得られるアクリル塗膜(新塗膜)の厚さが20μmとなるように、隙間0.1mmのアプリケーターを用いて塗装し、常温で3時間乾燥させることで、化粧塗り処理試験板を作製した。
<色差変化(ΔE回復率)>
前記のようにして作製した外観改善処理試験板の、健全部と劣化部のアクリル塗膜の色差(ΔE1)、および、健全部と処理部のアクリル塗膜の色差(ΔE2)を、コニカミノルタジャパン(株)製のSPECTROPHOTOMETER CM-3700A(光源:C、視野:2°)を用いて測定し、下記式から、色差(ΔE)回復率を算出した。ΔE1およびΔE回復率の結果を表1に示す。なお、試験条件が同じである、実施例1~8および比較例1,2のΔE1は、各外観改善処理試験板の平均値とした。
ΔE回復率(%)=(1-(ΔE2/ΔE1))×100
<光沢保持率>
BYK社製のmicro-TRI-glossを用い、健全部のアクリル塗膜の60°鏡面光沢(G1)と、劣化部のアクリル塗膜の60°鏡面光沢(G2)と、処理部のアクリル塗膜の60°鏡面光沢(G3)とを測定し、下記式から、光沢回復率および光沢保持率を算出した。結果を表1に示す。
光沢回復率(%)={(G3-G2)/(G1-G2)}×100
光沢保持率(%)=(G3/G1)×100
<ダメージ評価>
前記外観改善処理試験板を作製する際に行った外観改善処理の後のアクリル塗膜とウエスを目視で確認し、処理部のアクリル塗膜に傷がなく、かつ、該ウエスにアクリル塗膜が付着していなかった場合を○、処理部のアクリル塗膜に傷がある、または、該ウエスにアクリル塗膜が付着していた場合を×として評価した。結果を表1に示す。
<耐白化性>
前記のようにして作製した外観改善処理試験板および化粧塗り処理試験板を室温で3時間乾燥させた後、該乾燥させた外観改善処理試験板および化粧塗り処理試験板を、その下半分が容器に入れた室温の水道水に浸漬するようにして、水道水に24時間浸漬し、その後、該試験板を容器から取り出し、該試験板上に付着している水をウエス(JKワイパー100-S[日本製紙クレシア(株)製])を用いて拭き取ることで、水再浸漬後の試験板を作製した。
作製した水再浸漬後の外観改善処理試験板の、前記健全部に相当する部分(図1のA)と前記処理部に相当する部分(図1のD)のアクリル塗膜の色差(ΔE3)を、作製した水再浸漬後の化粧塗り処理試験板の、前記健全部に相当する部分(図1のA)と前記処理部に相当する部分(図1のD)のアクリル塗膜の色差(ΔE4)をそれぞれ前記と同様にして測定した。結果を表1に示す。
なお、水再浸漬後の試験板のΔE3は、ΔE1よりも小さかった。これは、水再浸漬後の試験板の、水浸漬部であり、前記外観改善処理を行った部分、つまり、一度外観改善処理を行った部分は、水に浸漬しても、アクリル塗膜に生じ得る白化が抑制されていたことを示す。
また、水再浸漬後の試験板の、ΔE3は、ΔE4よりも小さかった。これは、従来のアクリル塗膜の外観(白化)を改善する簡便な方法である、アクリル旧塗膜上への新塗膜の形成に比べ、本発明に係る外観改善方法によれば、これらの処理の後のアクリル塗膜に水が接しても、アクリル塗膜に生じ得る白化を抑制できることを示す。
Figure 2023090326000002
また、シンナー(キシレン、トルエンまたは酢酸ブチル)を、前記外観改善処理に用いたところ、アクリル塗膜の溶解および軟化が起こり、外観改善処理後のアクリル塗膜に、フクレ、ワレなどの不具合が生じた。
前記試験板の作製および化粧塗り処理試験板の作製において、下記表2の塗料1(アクリル樹脂系塗料)の代わりに、下記表2の塗料2(アクリル樹脂系塗料)、塗料3(アクリル樹脂系塗料)または塗料4(アクリル樹脂系塗料)を用いた以外は、実施例2と同様にして、前記と同様の試験を行ったところ、実施例2と同様の結果となった。
つまり、アクリル塗膜の種類によらず、本溶液は、外観が劣化したアクリル塗膜を拭くだけで、アクリル塗膜の外観を改善処理することができ、かつ、このように外観改善処理後のアクリル塗膜へのダメージを抑制することができ、さらに、このように外観改善処理後のアクリル塗膜に水等が接触しても、外観の再劣化(再白化)が起り難いアクリル塗膜を得ることができ、従来のアクリル旧塗膜上への新塗膜の形成に比べ、アクリル塗膜に生じ得る白化を抑制できた。
Figure 2023090326000003
Figure 2023090326000004

Claims (6)

  1. 炭素数1~4のアルコール(A)と水(B)とを含有する、アクリル塗膜の外観改善溶液。
  2. 前記アルコール(A)と前記水(B)との質量比[(A):(B)]が、65:35~95:5である、請求項1に記載のアクリル塗膜の外観改善溶液。
  3. 前記アルコール(A)と前記水(B)との合計含有量が95質量%以上である、請求項1または2に記載のアクリル塗膜の外観改善溶液。
  4. 請求項1~3のいずれか1項に記載のアクリル塗膜の外観改善溶液を用いた、アクリル塗膜の外観改善方法。
  5. 下記工程[1]または[2]を含む、請求項4に記載のアクリル塗膜の外観改善方法。
    [1]請求項1~3のいずれか1項に記載のアクリル塗膜の外観改善溶液を含む拭き取り部材を用いて、アクリル塗膜を拭く工程
    [2]アクリル塗膜上に、請求項1~3のいずれか1項に記載のアクリル塗膜の外観改善溶液を設け、該外観改善溶液を拭く工程
  6. 前記アクリル塗膜が、屋外用アクリル塗膜、または、船舶用アクリル塗膜である、請求項4または5に記載のアクリル塗膜の外観改善方法。
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