JP2023077292A - 車両の制御装置 - Google Patents
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【課題】摩擦係合装置を介して動力を伝達する変速機を有する車両において、車両後進時に変速機の摩擦係合装置がスリップすることを抑制する。【解決手段】後進走行時に自動変速機の出力回転速度の周期的な増減変動を検出するとともに、その増減変動が保護実行条件である入力トルク制限開始条件(S1)を満たした場合には、後進走行時に係合させられる摩擦係合装置のスリップを抑制するための保護制御として入力トルク制限制御(S2~S4)が実行されるため、その摩擦係合装置のスリップによる耐久性低下等が抑制される。特に、自動変速機の出力回転速度の周期的な増減変動は、後輪のスリップグリップに起因して発生するため、保護実行条件を適当に設定することにより、保護が必要な場合に摩擦係合装置のスリップを適切に抑制できるとともに、必要以上に保護制御が行なわれて走行性能等の車両品質が損なわれることが抑制される。【選択図】図5
Description
本発明は車両の制御装置に係り、特に、変速機の摩擦係合装置を保護する技術に関するものである。
特許文献1には、ベルト式無段変速機を搭載している車両において、下り坂を後進して登坂する際に、ベルト滑りを防止するためにベルト挟圧力を増圧する技術が提案されている。
上記特許文献1に記載の技術は、ベルト式無段変速機を搭載している車両に特有の技術であるが、クラッチ等の摩擦係合装置を介して動力を伝達する変速機を搭載している車両においても、下り坂を後進して登坂する際に変速機の摩擦係合装置がスリップする可能性があることが分かった。すなわち、車両発進時にはサスペンション装置の作用でパワーホップと呼ばれる駆動輪の上下振動が発生することがあるが、後輪駆動車両が下り坂を後進して登坂する際には駆動輪と路面との間の摩擦力が小さくなるため、パワーホップによる駆動輪の上下変動の際の摩擦力の変化で、駆動輪がスリップとグリップを繰り返すスリップグリップが発生し易くなる。このスリップグリップにより駆動輪の回転速度が周期的に増減変動すると、駆動力源からの入力トルクとの関係で変速機の摩擦係合装置に大きな負荷が掛かり、スリップが発生する可能性があるのである。
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、摩擦係合装置を介して動力を伝達する変速機を有する車両において、車両後進時に変速機の摩擦係合装置がスリップすることを抑制することにある。
本発明は、(a) 駆動力源によって後輪が回転駆動されることにより走行するとともに、(b) 前記駆動力源と前記後輪との間の動力伝達経路には、前記駆動力源側から流体式伝動装置と、摩擦係合装置を介して動力を伝達する変速機とが直列に配設されている、車両の制御装置において、(c) 後進走行時に前記変速機の出力軸の回転速度の周期的な増減変動を検出した場合に、その増減変動が予め定められた保護実行条件を満たした時には、前記後進走行時に係合させられる前記変速機の前記摩擦係合装置のスリップを抑制するための保護制御を実行する部品保護制御部を有することを特徴とする。
このような車両の制御装置においては、後進走行時に変速機の出力軸の回転速度の周期的な増減変動を検出し、その増減変動が保護実行条件を満たした場合には、摩擦係合装置のスリップを抑制するための保護制御が実行されるため、その摩擦係合装置のスリップによる耐久性低下等が抑制される。特に、変速機の出力軸の回転速度の周期的な増減変動は、後輪のスリップグリップに起因して発生するため、保護実行条件を適当に設定することにより、保護が必要な場合に摩擦係合装置のスリップを適切に抑制できるとともに、必要以上に保護制御が行なわれて走行性能等の車両品質が損なわれることが抑制される。
本発明は、エンジン等の駆動力源が車両前側に搭載されているFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型の後輪駆動車両に好適に適用されるが、駆動力源が車両の中央部や後側に搭載されている後輪駆動車両や、前輪も駆動輪として回転駆動される前後輪駆動車両などにも適用され得る。駆動力源はエンジンのみでも良いし、駆動力源としてエンジンおよび電動モータを備えているハイブリッド式電動車両や、電動モータのみで走行する電気自動車にも適用され得る。変速機は、少なくとも後進走行時に係合させられる油圧式等の摩擦係合装置を備えて構成され、例えば前進走行用のDレンジおよび後進走行用のRレンジを有する遊星歯車式や平行軸式等の有段変速機が好適に用いられる。前後進を切り替えるだけの前後進切替装置や、前後進切替装置とベルト式等の無段変速機とを組み合わせたものでも良い。駆動力源である電動モータの逆回転によって後進走行を行なう変速機が用いられても良い。流体式伝動装置は流体を介して動力を伝達する装置で、トルク増幅作用を有するトルクコンバータが好適に用いられるが、フルードカップリングなどを用いることもできる。
部品保護制御部が保護制御を実行する保護実行条件は、例えば変速機の出力側のイナーシャトルクに対応する出力軸の回転加速度に基づいて定められる。例えば、回転加速度の減速側の値が予め定められた保護判定加速度以下となる急減速と、その保護判定加速度を上回る状態とを繰り返し、且つ前記急減速が予め定められた繰返し判定時間内に再発生した場合に、前記保護実行条件を満たすと判断するように定められる。保護実行条件として、回転加速度の減速側の値が予め定められた保護判定加速度以下になったか否か、或いは回転加速度の絶対値が予め定められた保護判定加速度以上になったか否か、を判断するだけでも良いし、回転加速度以外でも、例えば周期的に増減する回転速度の増減変動の振幅や周期に基づいて保護実行条件を定めることもできるなど、摩擦係合装置のスリップが予測される種々の態様が可能である。また、部品保護制御部は、例えば変速機の入力トルクが予め定められた保護判定トルク以上であることなど、上記出力軸の回転速度に関する条件とは別の保護実行条件が定められても良い。部品保護制御部によって実行される保護制御としては、例えば変速機の入力トルクを制限する入力トルク制限制御、および前記摩擦係合装置の係合力を増大させる係合力増大制御、の少なくとも一方を含むことが望ましい。係合力増大制御は、例えば摩擦係合装置が油圧式でライン圧によって係合させられる場合、そのライン圧を最大圧とするように構成されるが、特定の摩擦係合装置の係合力を増大させるだけでも良い。部品保護制御部による保護制御は、パワーホップにより後輪のスリップグリップが発生し易い後進走行時に行なわれれば良いが、前進走行時に行なうこともできる。
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比や角度、形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の一実施例である制御装置として電子制御装置90を備えているハイブリッド式電動車両10(以下、単に電動車両10という。)の駆動系統の概略構成図で、電動車両10に関する各種制御のための制御機能および制御系統の要部を併せて示した図である。図1において、電動車両10は、走行用の駆動力源としてエンジン12および回転機MGを備えているパラレル型のハイブリッド式電動車両である。また、電動車両10は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16を備えている。駆動輪14は左右の後輪で、電動車両10は車両前側にエンジン12や回転機MGが搭載されたFR型の後輪駆動車両である。
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。エンジン12は、スロットルアクチュエータや燃料噴射装置、点火装置等を含むエンジン制御機器50が電子制御装置90によって制御されることにより、エンジン12の出力トルクであるエンジントルクTe が制御される。回転機MGは、電力から機械的な動力を発生させる電動機としての機能および機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有するモータジェネレータで、例えば三相交流同期モータ等であり、インバータ52を介してバッテリ54に接続されている。回転機MGは、電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、回転機MGのトルクであるMGトルクTmgや回転機MGの回転速度であるMG回転速度Nmgが制御される。回転機MGは、エンジン12に替えて或いはエンジン12に加えて、インバータ52を介してバッテリ54から供給される電力により走行用の動力を発生する。回転機MGはまた、エンジン12の動力や駆動輪14側から入力される被駆動力により回転駆動される際に、発電機として機能するように回生制御されることにより発電を行うとともに、駆動輪14に連結されている場合には回生ブレーキを発生する。回転機MGの発電により発生させられた電力は、インバータ52を介してバッテリ54に蓄積される。バッテリ54は、回転機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、エンジン12側からK0クラッチ20、トルクコンバータ22、および自動変速機24を直列に備えており、K0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に回転機MGが連結されている。K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12と回転機MGとの間に設けられたクラッチで、回転機MGとエンジン12との間を接続遮断するエンジン断接装置である。トルクコンバータ22は、回転機MGと自動変速機24との間に設けられ、流体である作動油OIL を介して動力伝達する流体式伝動装置であり、K0クラッチ20を介してエンジン12に連結されている。自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、エンジン12および回転機MGと駆動輪14との間にトルクコンバータ22と直列に設けられた変速機である。動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された一対のドライブシャフト32等を備えている。また、動力伝達装置16は、エンジン12とK0クラッチ20とを連結するエンジン連結軸34、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結するMG連結軸36等を備えており、MG連結軸36に回転機MGのロータが連結されている。
K0クラッチ20は、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチにより構成される湿式または乾式(実施例では湿式)の摩擦係合装置である。K0クラッチ20は、油圧制御回路56から供給される調圧されたK0油圧PRk0によりK0クラッチ20のトルク容量であるK0トルクTk0が変化させられることで、係合状態や開放状態などの制御状態が切り替えられる。K0クラッチ20の係合状態では、エンジン連結軸34を介して回転機MGのロータおよびポンプ翼車22aとエンジン12とが一体的に回転させられる。K0クラッチ20の開放状態では、回転機MGのロータおよびポンプ翼車22aとエンジン12との間の動力伝達が遮断され、エンジン12を停止させることができる。
トルクコンバータ22は、MG連結軸36と連結されたポンプ翼車22a、および自動変速機24の入力回転部材である入力軸38と連結されたタービン翼車22bを備えている。ポンプ翼車22aは、K0クラッチ20を介してエンジン12と連結されていると共に、直接的に回転機MGと連結されている。ポンプ翼車22aはトルクコンバータ22の入力部材であり、タービン翼車22bはトルクコンバータ22の出力部材である。MG連結軸36は、トルクコンバータ22の入力回転部材でもある。入力軸38は、タービン翼車22bによって回転駆動されるタービン軸と一体的に形成されたトルクコンバータ22の出力回転部材でもある。トルクコンバータ22は、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを連結するLUクラッチ40を備えている。LUクラッチ40は、トルクコンバータ22の入出力回転部材を連結する直結クラッチ、すなわちロックアップクラッチである。
LUクラッチ40は、油圧制御回路56から供給される調圧されたLU油圧PRluによりLUクラッチ40のトルク容量であるLUクラッチトルクTluが変化させられることで、作動状態つまり制御状態が切り替えられる。LUクラッチ40の制御状態としては、LUクラッチ40が開放された状態である完全開放状態、LUクラッチ40が滑りを伴って係合された状態であるスリップ状態、およびLUクラッチ40が係合された状態である完全係合状態がある。LUクラッチ40が完全開放状態とされることにより、トルクコンバータ22はトルク増幅作用が得られるトルクコンバータ状態とされる。また、LUクラッチ40が完全係合状態とされることにより、トルクコンバータ22はポンプ翼車22aおよびタービン翼車22bが一体回転させられるロックアップ状態とされる。
自動変速機24は、例えば1組または複数組の遊星歯車装置と、複数の係合装置CBと、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、各々、油圧制御回路56から供給される調圧されたCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態や開放状態などの制御状態が切り替えられる。
自動変速機24は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置が係合させられることによって、変速比γ(=入力回転速度Ni /出力回転速度No )が異なる複数の前進ギヤ段および後進ギヤ段を形成することができる有段変速機である。自動変速機24は、電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等の運転状態に応じて形成されるギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のギヤ段が選択的に形成される。また、複数の係合装置CBが総て開放されると、動力伝達を遮断するニュートラルになる。入力回転速度Ni は、入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。入力回転速度Ni は、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Nt と同値である。出力回転速度No は、出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合させられた場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、MG連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、およびドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。また、回転機MGから出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態に拘わらず、MG連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、およびドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。左右の駆動輪14は、それぞれサスペンション装置66を介して車体に取り付けられている。
電動車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、ポンプ用モータ62等を備えている。MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、駆動力源(エンジン12、回転機MG)によって回転駆動されることにより、動力伝達装置16で用いられる作動油OIL を吐出する。ポンプ用モータ62は、EOP60を回転駆動するためのEOP60専用の電動機である。EOP60は、ポンプ用モータ62により回転駆動されて作動油OIL を吐出するもので、電動車両10の停止時を含めた任意のタイミングで作動油OIL を吐出することができる。MOP58やEOP60が吐出した作動油OIL は、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、MOP58および/またはEOP60が吐出した作動油OIL を元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0、LU油圧PRluなどを出力する。作動油OIL は、トルクコンバータ22に供給されて動力伝達に用いられる他、各部の潤滑や冷却にも用いられる。作動油OIL は、ケース18の下部に設けられたオイルパン等の油溜に蓄積されるとともに、MOP58および/またはEOP60により汲み上げられて油圧制御回路56へ供給される。
図2は、自動変速機24の具体例を説明する骨子図である。この自動変速機24は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置42、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置44、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置46、およびシングルピニオン型の第4遊星歯車装置48の、計4つの遊星歯車装置を備えて構成されている。第1遊星歯車装置42および第2遊星歯車装置44は、所謂ラビニヨ型の遊星歯車列を構成している。この自動変速機24は、前記係合装置CBとして4つのクラッチC1~C4および2つのブレーキB1、B2を備えており、それ等の係合装置CBが図3の作動表に示すように個別に係合、開放制御されることにより、その係合開放状態の組み合わせによって動力伝達状態が異なる複数のシフトレンジが形成される。具体的には、例えば前進走行用のD(ドライブ)レンジ、後進走行用のR(リバース)レンジ、駐車用のP(パーキング)レンジ、動力伝達を遮断するニュートラル用のN(ニュートラル)レンジが形成される。前進走行用のDレンジでは、変速比γが異なる前進10速のギヤ段(第1速ギヤ段「1st」~第10速ギヤ段「10th」)を切り替えることができ、後進走行用のRレンジでは単一の後進ギヤ段が成立させられる。また、NレンジおよびPレンジでは、クラッチC1~C4およびブレーキB1、B2が総て開放されることにより動力伝達が遮断される。なお、図3の作動表の「B2in」および「B2out 」は、ブレーキB2に設けられた一対の油圧アクチュエータで、ブレーキB2はその両方の油圧アクチュエータB2inおよびB2out によって係合、開放制御される。
上記クラッチC1~C4およびブレーキB1、B2は、例えば図4に示す油圧制御回路56によってそれぞれ係合開放制御される。油圧制御回路56は、油圧発生源である前記MOP58およびEOP60の他、プライマリレギュレータバルブ102、リニアソレノイドバルブSLT、SL1~SL6、オンオフソレノイドバルブSC1を備えており、MOP58および/またはEOP60によって汲み上げられた作動油OIL は先ず、プライマリレギュレータバルブ102によって所定のライン圧PLに調圧される。プライマリレギュレータバルブ102にはリニアソレノイドバルブSLTが接続されており、そのリニアソレノイドバルブSLTは、電子制御装置90によって電気的に制御される。すなわち、電子制御装置90から供給されるライン圧制御指令信号Sslt に従って、略一定圧であるモジュレータ油圧Pmoを元圧として信号圧Pslt を出力する。そして、その信号圧Pslt がプライマリレギュレータバルブ102に供給されると、そのプライマリレギュレータバルブ102のスプールが信号圧Pslt に応じて軸方向へ移動させられることにより、リリーフ油量が調整されてライン圧PLが調圧される。このライン圧PLは、例えば出力要求量であるアクセル開度θacc 等に応じて調圧される。リニアソレノイドバルブSLTはライン圧調整用の電磁調圧弁で、プライマリレギュレータバルブ102は、そのリニアソレノイドバルブSLTから供給される信号圧Pslt に応じてライン圧PLを調圧する油圧制御弁である。これ等のプライマリレギュレータバルブ102およびリニアソレノイドバルブSLTを含んでライン圧調整装置100が構成されている。
ライン圧調整装置100によって調圧されたライン圧PLの作動油OIL は、供給油路104を経てリニアソレノイドバルブSL1~SL6、オンオフソレノイドバルブSC1等に供給される。リニアソレノイドバルブSL1~SL6、およびオンオフソレノイドバルブSC1は、前記クラッチC1~C4、ブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータに対応して設けられており、電子制御装置90から供給されるCB油圧制御指令信号Scbに従ってそれぞれ出力油圧が制御されることにより、クラッチC1~C4、ブレーキB1、B2が個別に係合開放制御される。リニアソレノイドバルブSL1~SL6は電磁調圧弁で、オンオフソレノイドバルブSC1は電磁開閉弁であり、何れも自動変速機24のレンジやギヤ段を切り換える変速制御用電磁弁に相当する。なお、図4は、自動変速機24の油圧制御に関係する部分の油圧回路図で、K0クラッチ20やLUクラッチ40の油圧制御に関係する部分の油圧回路は省略されている。
図1に戻って、電動車両10は、各種の制御を実行する制御装置として電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより電動車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、MG制御用、油圧制御用等の複数のコンピュータを含んで構成される。
電子制御装置90には、電動車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、MG回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、ブレーキスイッチ82、バッテリセンサ84、油温センサ86、レバーポジションセンサ88など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne 、入力回転速度Ni と同値であるタービン回転速度Nt 、車速Vに対応する出力回転速度No 、回転機MGの回転速度であるMG回転速度Nmg、アクセルペダル等のアクセル操作部材79の操作量で運転者の出力要求量を表すアクセル開度θacc 、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキON信号Bon、バッテリ54のバッテリ温度THbat やバッテリ充放電電流Ibat やバッテリ電圧Vbat 、油圧制御回路56内の作動油OIL の温度である油温THoil 、電動車両10に備えられたシフトレバー64の操作ポジションPOSshを表す信号など)が、それぞれ供給される。
シフトレバー64は運転席の近傍に配置され、自動変速機24の動力伝達状態である前記シフトレンジP、R、N、Dを切り替えるために運転者によって操作されるシフト操作部材で、複数の操作ポジションPOSshを備えている。操作ポジションPOSshとしてP、R、N、Dが設けられており、それ等の操作ポジションPOSshへ移動操作されることにより前記P、R、N、Dの各シフトレンジを選択することができる。Pポジションは、自動変速機24が動力伝達を遮断するニュートラル状態とされ且つ機械的に出力軸26の回転が阻止される駐車用のPレンジを選択する操作ポジションである。ニュートラル状態は、自動変速機24の総ての係合装置CBが開放された状態である。Rポジションは、自動変速機24が後進ギヤ段とされる後進走行用のRレンジを選択する操作ポジションである。Nポジションは、Pポジションと同様に自動変速機24がニュートラル状態とされるNレンジを選択する操作ポジションである。Dポジションは、例えば自動変速機24の複数の前進ギヤ段を車速Vやアクセル開度θacc 等の運転状態に応じて自動的に切り替えて走行する前進走行用のDレンジを選択する操作ポジションである。シフトレバー64は、P、R、N、Dの各操作ポジションPOSshに位置決め保持されるものでも良いが、所定のホームポジションへ自動的に戻される自動復帰型でも良い。また、シフト操作部材として、上記各シフトレンジを選択する押釦スイッチ等が用いられても良い。
電子制御装置90からは、電動車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御機器50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御するためのエンジン制御指令信号Se 、回転機MGを制御するためのMG制御指令信号Smg、係合装置CBを制御するためのCB油圧制御指令信号Scb、K0クラッチ20を制御するためのK0油圧制御指令信号Sk0、LUクラッチ40を制御するためのLU油圧制御指令信号Slu、ライン圧PLを調圧制御するためのライン圧制御指令信号Sslt 、EOP60を制御するためのEOP制御指令信号Seop など)が、それぞれ出力される。油圧制御回路56には、CB油圧制御指令信号Scbによって制御されるリニアソレノイドバルブSL1~SL6、オンオフソレノイドバルブSC1、ライン圧制御指令信号Sslt によって制御されるリニアソレノイドバルブSLTの他、K0油圧制御指令信号Sk0およびLU油圧制御指令信号Sluに従って油路を切り替えたり油圧を制御したりする複数のソレノイドバルブが設けられている。係合装置CB、K0クラッチ20、およびLUクラッチ40が係合状態に保持される際には、ライン圧制御指令信号Sslt によって調圧されたライン圧PLがそのまま供給されて係合状態に維持される。
電子制御装置90は、電動車両10における各種制御を実現する為に、ハイブリッド制御部92、変速制御部94、トラクション制御部96、および部品保護制御部98を機能的に備えている。
ハイブリッド制御部92は、エンジン12および回転機MGの作動を協調して制御する機能を有し、エンジン12を制御するエンジン制御部92a、および回転機MGを制御するMG制御部92bを備えている。ハイブリッド制御部92は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc および車速Vを適用することで、運転者による電動車両10に対する駆動要求量を算出する。駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdem等である。ハイブリッド制御部92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γ、トルクコンバータ22のトルク比、バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout 等を考慮して、例えば上記要求駆動トルクTrdemを実現するために必要なトルクコンバータ22の入力トルクである要求TC入力トルクTtcdem を求め、その要求TC入力トルクTtcdem が得られるように、エンジン12を制御するエンジン制御指令信号Se を出力するとともに、回転機MGを制御するMG制御指令信号Smgを出力する。バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Wout は、例えばバッテリ温度THbat およびバッテリ54の充電状態値SOC[%]に基づいて電子制御装置90により算出される。バッテリ54の充電状態値SOCは、バッテリ54の充電状態すなわち蓄電残量を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibat およびバッテリ電圧Vbat などに基づいて算出できる。
ハイブリッド制御部92は、回転機MGの出力のみで要求TC入力トルクTtcdem を賄える場合には、バッテリ54からの電力のみで回転機MGを駆動して走行するモータ走行モードであるBEV(Battery Electric Vehicle)走行モードとする。BEV走行モードでは、K0クラッチ20を開放状態としてエンジン12を停止させ、回転機MGのみを駆動力源として用いて走行するBEV走行を行う。このBEV走行モードにおいては、要求TC入力トルクTtcdem を実現するようにMGトルクTmgを制御する。一方で、ハイブリッド制御部92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求TC入力トルクTtcdem を賄えない場合には、エンジン走行モードであるHEV(Hybrid Electric Vehicle )走行モードとする。HEV走行モードでは、K0クラッチ20を係合状態として少なくともエンジン12を駆動力源として用いて走行するエンジン走行すなわちHEV走行を行う。このHEV走行モードにおいては、要求TC入力トルクTtcdem の全部または一部を実現するようにエンジントルクTe を制御し、要求TC入力トルクTtcdem に対してエンジントルクTe では不足するトルク分を補うようにMGトルクTmgを制御する。他方で、ハイブリッド制御部92は、回転機MGの出力のみで要求TC入力トルクTtcdem を賄える場合であっても、エンジン12等の暖機が必要な場合などには、HEV走行モードを成立させる。このように、ハイブリッド制御部92は、要求TC入力トルクTtcdem 等に基づいて、HEV走行中にエンジン12を自動停止したり、そのエンジン停止後にエンジン12を再始動したり、BEV走行中にエンジン12を始動したり、停車中にエンジン12を自動停止したり、エンジン12を始動したりして、BEV走行モードとHEV走行モードとを切り替える。
変速制御部94は、Dレンジが選択された場合に、例えば車速Vやアクセル開度θacc 等の運転状態を変数として予め定められた変速マップ等を用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機24の複数の前進ギヤ段を自動的に切り替えるためのCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力する自動変速制御を実行する。また、シフトレバー64または運転席の近傍に設けられたマニュアル変速操作部材が運転者によって操作され、変速指示信号が供給された場合には、その変速指示に従って自動変速機24の前進ギヤ段を切り替えるマニュアル変速制御を実行する。
変速制御部94はまた、シフトレバー64が操作されて操作ポジションPOSshが切り替えられた場合に、その切り替えられた操作ポジションPOSshに応じて自動変速機24のシフトレンジを切り替えるガレージ制御を実行する。ガレージ制御は、シフトレバー64がDポジションおよびRポジションの一方から他方へ切り替える反転シフト操作が行なわれた場合に、その反転シフト操作に従って自動変速機24をDレンジおよびRレンジの一方から他方へ切り替える反転レンジ切替を実行する他、PレンジおよびNレンジの非走行レンジとDレンジおよびRレンジの走行レンジとの間でシフトレンジを切り替える各種のレンジ切替を実行する。
トラクション制御部96は、横滑りやホイールスピン等を抑制して車両の挙動を安定させたり所定の駆動力を確保したりするもので、駆動力源であるエンジン12および回転機MGの作動を制御するとともに、図示しないホイールブレーキ制御装置を介して駆動輪14を含む総ての車輪の制動力を制御する。ABS(アンチロックブレーキシステム:Antilock Brake System)やVSC(ヴィークルスタビリティコントロール:Vehicle Stability Control )と言われるものも、トラクション制御部96の一例と見做すことができる。
部品保護制御部98は、下り坂を後進して登坂する際に自動変速機24の係合装置CBがスリップすることを抑制し、その係合装置CBを保護するためのものである。すなわち、車両発進時にはサスペンション装置66の作用でパワーホップと呼ばれる駆動輪14の上下振動が発生することがあり、電動車両10のようなFR型の後輪駆動車両が下り坂を後進して登坂する際には駆動輪14と路面との間の摩擦力が小さくなるため、パワーホップによる駆動輪14の上下変動の際の摩擦力の変化でスリップグリップが発生し易くなる。このスリップグリップにより駆動輪14の回転速度が周期的に増減変動すると、駆動力源(エンジン12や回転機MG)からトルクコンバータ22を経て自動変速機24に入力される入力トルクTinとの関係で、係合装置CBに大きな負荷が掛かり、スリップが発生する可能性がある。
前記図2~図4に示した自動変速機24を参照して具体的に説明すると、後進走行が可能なRレンジではクラッチC2、C3、およびブレーキB2が係合させられて後進ギヤ段が形成されるが、それ等の油圧アクチュエータの径寸法や受圧面積、伝達トルクの分担比等から例えばクラッチC3が最もスリップし易いと仮定する。図8は、このクラッチC3に作用するトルクTC3を例示した図で、破線で示した入力側トルクTC3inと、一点鎖線で示した出力側トルクTC3out とを加算したトルクが、実線で示した総トルクTC3total で、クラッチC3にはこの総トルクTC3total が作用するとともに、この総トルクTC3total がクラッチC3のトルク容量tc3capa を超えるとスリップが発生する。入力側トルクTC3inは、アクセル開度θacc 等に応じて自動変速機24に入力される入力トルクTinに分担比を掛け算したもので、比較的滑らかに変化している。出力側トルクTC3out は、自動変速機24よりも出力側のイナーシャトルクTinert に分担比を掛け算したもので、ここでは駆動輪14のスリップグリップによる回転抵抗の変化などで周期的に増減変化している。その場合に、駆動輪14の回転速度が低下する減速時にクラッチC3に加えられる出力側トルクTC3out は、クラッチC3の負荷が大きくなる+側に作用し、駆動輪14の回転速度が増加する増速時にクラッチC3に加えられる出力側トルクTC3out は-側に作用する。
部品保護制御部98は、上記クラッチC3が駆動輪14のスリップグリップに起因してスリップしないように保護するためのもので、自動変速機24の出力回転速度No の周期的な増減変動は前記イナーシャトルクTinert に対応するため、その出力回転速度No の周期的な増減変動に基づいて保護制御を実行する。具体的には、図5のフローチャートのステップS1~S4(以下、ステップを省略して単にS1~S4という。他のフローチャートも同じ。)に従って信号処理を実行し、必要に応じて入力トルクTinを制限する入力トルク制限制御を実施することによりクラッチC3のスリップを抑制する。
図5のS1では、入力トルク制限開始条件が成立するか否かを判断する。入力トルク制限開始条件は保護実行条件で、本実施例では以下の(a) ~(c) を総て満たした場合に入力トルク制限開始条件が成立し、S2以下の入力トルク制限制御を実行する一方、(a) ~(c) の何れか1つでも満たさない場合はそのまま終了する。
(a) 下記の(i) ~(iii) が総て成立。
この(a) の要件は、駆動輪14側から逆入力されるイナーシャトルクTinert 等に関連するもので、出力回転速度No に関する要件である。
(i) Noac ≦noacs の状態が連続して確定時間ta以上継続。
Noac は、出力回転速度No の変化率である出力回転加速度で、イナーシャトルクTinert に対応する変数であり、noacs は予め定められた保護判定加速度である。保護判定加速度noacs は、クラッチC3がスリップを生じる可能性があるか否かを判断するための条件で、出力回転速度No が低下する減速時のマイナスの値で一定値でも良いが、入力トルクTin等の車両状態に基づいて可変設定されても良い。本実施例では例えば-2500(rpm/s)程度の一定値が設定されている。確定時間taは、瞬間的な検出誤差等を排除するためのもので、例えば10(ms)程度の一定時間が定められる。この(i) の条件を満たした場合、駆動輪14のグリップにより出力回転速度No が急減速していることを意味する。
(ii)(i) の後にNoac >noacs の状態が連続して確定時間tb以上継続。
これは、出力回転加速度Noac が極小から増加に転じ、出力回転速度No の減速度が小さくなり、或いは増速側へ変化していることを意味する。確定時間tbは、瞬間的な検出誤差等を排除するためのもので、例えば10(ms)程度の一定時間が定められる。
(iii) (ii)から繰返し判定時間tc以内に再び(i) が成立。
これは、パワーホップに起因する駆動輪14のスリップグリップによる周期的な増減変動か否かを判定するためのものである。出力回転速度No の増減変動の周期は車両重量やサスペンション装置66等によって定まり、繰返し判定時間tcは例えば車種毎に一定値が定められるが、車両重量等に基づいて可変設定されても良い。本実施例では例えば200(ms)程度の一定値が設定されている。
この(a) の要件は、駆動輪14側から逆入力されるイナーシャトルクTinert 等に関連するもので、出力回転速度No に関する要件である。
(i) Noac ≦noacs の状態が連続して確定時間ta以上継続。
Noac は、出力回転速度No の変化率である出力回転加速度で、イナーシャトルクTinert に対応する変数であり、noacs は予め定められた保護判定加速度である。保護判定加速度noacs は、クラッチC3がスリップを生じる可能性があるか否かを判断するための条件で、出力回転速度No が低下する減速時のマイナスの値で一定値でも良いが、入力トルクTin等の車両状態に基づいて可変設定されても良い。本実施例では例えば-2500(rpm/s)程度の一定値が設定されている。確定時間taは、瞬間的な検出誤差等を排除するためのもので、例えば10(ms)程度の一定時間が定められる。この(i) の条件を満たした場合、駆動輪14のグリップにより出力回転速度No が急減速していることを意味する。
(ii)(i) の後にNoac >noacs の状態が連続して確定時間tb以上継続。
これは、出力回転加速度Noac が極小から増加に転じ、出力回転速度No の減速度が小さくなり、或いは増速側へ変化していることを意味する。確定時間tbは、瞬間的な検出誤差等を排除するためのもので、例えば10(ms)程度の一定時間が定められる。
(iii) (ii)から繰返し判定時間tc以内に再び(i) が成立。
これは、パワーホップに起因する駆動輪14のスリップグリップによる周期的な増減変動か否かを判定するためのものである。出力回転速度No の増減変動の周期は車両重量やサスペンション装置66等によって定まり、繰返し判定時間tcは例えば車種毎に一定値が定められるが、車両重量等に基づいて可変設定されても良い。本実施例では例えば200(ms)程度の一定値が設定されている。
(b) 変速過渡時、ガレージ制御過渡時、エンジン始動停止制御過渡時、の何れでもないこと。
すなわち、前記変速制御部94による自動変速機24の変速制御中でなく、変速制御部94によるガレージ制御中でなく、ハイブリッド制御部92によるエンジン12の始動制御中でなく、ハイブリッド制御部92によるエンジン12の停止制御中でない、場合である。これ等の制御とS2以下の入力トルク制限制御とを同時に実施することは適当でないからである。
すなわち、前記変速制御部94による自動変速機24の変速制御中でなく、変速制御部94によるガレージ制御中でなく、ハイブリッド制御部92によるエンジン12の始動制御中でなく、ハイブリッド制御部92によるエンジン12の停止制御中でない、場合である。これ等の制御とS2以下の入力トルク制限制御とを同時に実施することは適当でないからである。
(c) Tin≧tinsが成立。
入力トルクTinが小さければクラッチC3がスリップする恐れはないため、入力トルクTinが予め定められた保護判定トルクtins以上であることを要件とする。保護判定トルクtinsは、予め一定値が定められても良いが、クラッチC3のトルク容量tc3capa 等に基づいて可変設定されても良い。本実施例では例えば300(Nm)程度の一定値が設定されている。
入力トルクTinが小さければクラッチC3がスリップする恐れはないため、入力トルクTinが予め定められた保護判定トルクtins以上であることを要件とする。保護判定トルクtinsは、予め一定値が定められても良いが、クラッチC3のトルク容量tc3capa 等に基づいて可変設定されても良い。本実施例では例えば300(Nm)程度の一定値が設定されている。
上記S1の判断がYES(肯定)の場合に実行するS2~S4が入力トルク制限制御で、クラッチC3のスリップを抑制して保護する保護制御に相当し、S2では入力トルクTinを制限する。具体的には、入力トルクTinが所定の低減量だけ低減されるように、駆動力源であるエンジン12のトルクTe または回転機MGのトルクTmgを低下させるエンジン制御指令信号Se 或いはMG制御指令信号Smgを出力する。低減量は、クラッチC3のスリップが抑制されるように予め一定値が定められても良いが、前記出力回転加速度Noac の極小値等の車両状態に基づいて可変設定されても良い。低減量が大きいと、オフロード走破性等の走行性能に影響するため、必要最小限に止めることが望ましく、本実施例では例えば100(Nm)程度の一定値が設定されている。自動変速機24の入力トルクTinの代わりに、トルクコンバータ22の入力トルクであるTC入力トルクTtcが所定の低減量だけ低減されるようにしても良い。
S3では、入力トルク制限終了条件が成立したか否かを判断し、入力トルク制限終了条件が成立するまでS2の入力トルク制限を継続する一方、入力トルク制限終了条件が成立した場合にはS4を実行して入力トルク制限制御を終了する。入力トルク制限は走行性能を損なう可能性があるため必要最小限に止めることが望ましく、入力トルク制限終了条件は、例えば以下の(a) および(b) の何れかを満たした場合に成立するように定められる。
(a) アクセル開度θacc が略0のアクセルオフになった時。
(b) 出力回転加速度Noac が所定加速度以上で且つクラッチ滑りが無い状態が、所定時間以上連続して成立。
(a) アクセル開度θacc が略0のアクセルオフになった時。
(b) 出力回転加速度Noac が所定加速度以上で且つクラッチ滑りが無い状態が、所定時間以上連続して成立。
上記(a) でアクセルオフに伴って入力トルク制限が解除されることにより、アクセル操作部材79が再操作された再加速時に速やかに対応することができる。(b) の所定加速度は例えば前記保護判定加速度noacs と同じかそれよりも高い(0に近いかプラス)値で、所定時間は例えば前記繰返し判定時間tcであり、繰返し判定時間tcの間出力回転加速度Noac が所定加速度よりも低くならなければ、パワーホップに起因する駆動輪14のスリップグリップによる出力回転速度No の増減変動が収束し、クラッチC3がスリップする可能性が低下したと判断できる。クラッチ滑りの有無は、出力回転速度No に変速比γを掛け算して入力回転換算値No ×γを求め、この入力回転換算値No ×γが実際の入力回転速度Ninと略同じであるか否かによって判断できる。(b) の所定時間として繰返し判定時間tcよりも長い時間が定められても良い。
図9は、Rレンジでの後進走行で下り坂を登坂する発進時に、図5のフローチャートに従って入力トルク制限制御が行なわれた場合のアクセル開度θacc 、各部の回転速度Nmg、Nin、No ×γ、出力回転加速度Noac 、入力トルクTin、ライン圧PLの変化を説明するタイムチャートの一例である。図9の時間t1で、駆動輪14のスリップグリップによる出力回転速度No の増減変動が発生し始め、出力回転加速度Noac の欄の領域Es部分で、出力回転加速度Noac の増減変化の極小値が保護判定加速度noacs 以下になるなどS1の入力トルク制限開始条件を満たすようになり、時間t2でS2以下の入力トルク制限制御が開始される。この入力トルク制限制御で入力トルクTinが低減されることにより、クラッチC3のスリップが抑制される。回転速度の欄の入力回転速度Ninと、出力回転速度No に変速比γを掛け算した入力回転換算値No ×γとが略一致していることは、Rレンジで係合させられるクラッチC3を含めた係合装置CBにスリップが発生していないことを意味している。そして、この図9のタイムチャートでは、時間t3でアクセルオフに伴ってS3の判断がYESになり、S4が実行されて入力トルク制限制御が終了させられる。
前記図8のC3トルクTC3に関するタイムチャートも、図9と同様に入力トルク制限制御が実行された場合で、総トルクTC3total がクラッチC3のトルク容量tc3capa に達する前に入力トルクTinが低減され、入力側トルクTC3inが低下させられることにより、クラッチC3のスリップが防止される。
部品保護制御部98は、前記図5のフローチャートによる入力トルク制限制御に加えて、或いは入力トルク制限制御の代わりに、図6のフローチャートに従って必要に応じてライン圧PLを最大圧PLmax にするライン圧最大圧制御を実行する。本実施例では図5のフローチャートによる入力トルク制限制御と並行して図6のフローチャートによるライン圧最大圧制御を実行する。ライン圧最大圧制御は、クラッチC3の係合力を増大させる係合力増大制御で、クラッチC3のスリップを抑制して保護する保護制御に相当する。
図6のSS1では、ライン圧最大圧開始条件が成立するか否かを判断する。ライン圧最大圧開始条件は保護実行条件で、例えば前記図5のS1の入力トルク制限開始条件と同じ条件が定められる。ライン圧最大圧制御は、クラッチC3の係合力を増大させてスリップを抑制する制御で、入力トルク制限制御のように走行性能に影響を与える恐れはないため、必ずしも図5のS1の入力トルク制限開始条件と同じ条件を定める必要はない。例えば前記保護判定加速度noacs を高くしたり(0に近付ける)、前記(b) 、(c) の条件を省略したりするなど、入力トルク制限制御よりもライン圧最大圧制御の方の開始条件を緩和し、ライン圧最大圧制御が実行される作動領域を広くしても良い。
上記SS1の判断がYESの場合に実行するSS2~SS4がライン圧最大圧制御で、SS2ではライン圧PLを最大圧PLmax にする。具体的には、アクセル開度θacc 等に基づくライン圧PLの制御に優先して、ライン圧PLを最大圧PLmax にするライン圧制御指令信号Sslt をライン圧調整装置100のリニアソレノイドバルブSLTに出力する。これにより、Rレンジで係合させられるクラッチC3を含めた係合装置CBが何れも最大圧PLmax で係合状態に保持され、駆動輪14のスリップグリップに拘らずそれ等の係合装置CBのスリップが抑制される。最大圧PLmax は、油圧制御回路56の油圧発生源であるMOP58やEOP60の吐出容量等に応じて定まり、本実施例では例えば1800(kPa)程度の値に制御される。
SS3では、ライン圧最大圧終了条件が成立したか否かを判断し、ライン圧最大圧終了条件が成立するまでSS2を繰り返してライン圧PLが最大圧PLmax の状態を継続する一方、ライン圧最大圧終了条件が成立した場合にはSS4を実行してライン圧最大圧制御を終了する。ライン圧最大圧制御が長くなると作動油OIL の油温上昇が促進されるため、ライン圧最大圧終了条件は、例えば以下の(a) および(b) の何れかを満たした場合に成立するように定められる。
(a) 出力回転加速度Noac が所定加速度以上で且つクラッチ滑りが無い状態が、所定時間以上連続して成立。
(b) 入力回転速度Ninが所定値以下。
(a) 出力回転加速度Noac が所定加速度以上で且つクラッチ滑りが無い状態が、所定時間以上連続して成立。
(b) 入力回転速度Ninが所定値以下。
上記(a) は、前記図5におけるS3の入力トルク制限終了条件の(b) と同じ条件で、パワーホップに起因する駆動輪14のスリップグリップによる出力回転速度No の増減変動が収束し、クラッチC3がスリップする可能性が低下したと判断できる。(b) の所定値は、例えばエンジンストップを回避できる回転速度等が定められる。
前記図9のタイムチャートは、図5のフローチャートに従って入力トルク制限制御が実行されるとともに、図6のフローチャートに従ってライン圧最大圧制御が実行された場合で、時間t2で入力トルク制限制御が開始されると同時にライン圧最大圧制御も開始されて、ライン圧PLが最大圧PLmax になるように制御される。すなわち、SS1のライン圧最大圧開始条件が、S1の入力トルク制限開始条件と同じ場合で、入力トルク制限制御の開始と同時にライン圧最大圧制御が開始される。また、後進走行の発進時におけるアクセル開度θacc 等に応じてライン圧PLは元々最大圧PLmax とされているため、ライン圧最大圧制御の実行で最大圧PLmax の状態が継続されるとともに、時間t3のアクセルオフ操作に拘らず最大圧PLmax の状態が維持され、クラッチC3のスリップが抑制される。そして、時間t4になると、例えばSS3のライン圧最大圧終了条件の(a) の条件を満たすことにより、SS4でライン圧最大圧制御が終了させられ、ライン圧PLがアクセル開度θacc 等に基づく通常制御に従って制御される。
一方、図10は、上記入力トルク制限制御およびライン圧最大圧制御が何れも行なわれない従来の場合で、図9と同様にRレンジでの後進走行で下り坂を登坂する発進時のタイムチャートの一例である。時間t1で、駆動輪14のスリップグリップによる出力回転速度No の増減変動が発生し始める点は図9と同じであるが、出力回転加速度Noac の増減変化の極小値が保護判定加速度noacs 以下になっても入力トルク制限制御が行なわれないため、そのまま出力回転速度No (図10では入力回転換算値No ×γ)の増減変動が大きくなる。そして、クラッチC3のトルクTC3の総トルクTC3total がトルク容量tc3capa を超えると、クラッチC3がスリップするようになり、時間t2でクラッチC3のスリップが始まっている。時間t2~t3の間の回転速度の欄の破線は入力回転換算値No ×γで、実線は入力回転速度Ninであり、両者の乖離はクラッチC3がスリップしていることを表している。このクラッチC3のスリップはアクセルオフ操作後も継続し、ブレーキ操作に従ってブレーキON信号BonがONになった時間t3付近で、クラッチC3のスリップが解消している。
前記部品保護制御部98はまた、図5および図6の入力トルク制限制御およびライン圧最大圧制御を実施するか否かを、図7に示すように走行レンジの種類およびトラクション制御部96によるトラクション制御の実施の有無に基づいて判断する。すなわち、前進走行用のDレンジでは、パワーホップに起因して駆動輪14がスリップグリップする可能性が低いため、トラクション制御を実施中(ON)か否(OFF)かに拘らず、入力トルク制限制御およびライン圧最大圧制御を何れも実施しない。後進走行用のRレンジの場合、トラクション制御が不実施(OFF)であれば、入力トルク制限制御およびライン圧最大圧制御を何れも実施する。また、Rレンジでトラクション制御を実施中(ON)の時には、駆動力に影響する入力トルク制限制御は実施しないが、ライン圧最大圧制御は実施する。トラクション制御の実施の有無は、例えばトラクション制御を実施中か否かを表すフラグ等を設けて判断することができる。この図7の判断は、図5および図6のS1、SS1を実施する前に行なうことが望ましいが、S1、SS1の判断がYESの場合に行なうようにしても良い。この他、パワーホップに起因する駆動輪14のスリップグリップ或いはクラッチC3のスリップに関係する他の車両状態に関する条件、例えば下り坂を後進して登坂する場合に限定する路面勾配に関する条件や、車両発進時に限定する車速Vに関する条件、駆動輪14のスリップグリップに関係する車両重量に関する条件など、を設定し、入力トルク制限制御やライン圧最大圧制御を実施するか否かを判断するようにしても良い。
このように本実施例の電動車両10の電子制御装置90は部品保護制御部98を機能的に備えており、後進走行時に自動変速機24の出力回転速度No の周期的な増減変動を検出するとともに、その増減変動が保護実行条件である入力トルク制限開始条件(S1)やライン圧最大圧開始条件(SS1)を満たした場合には、後進走行時に係合させられる係合装置CBのスリップを抑制するための保護制御として入力トルク制限制御(S2~S4)やライン圧最大圧制御(SS2~SS4)が実行されるため、その係合装置CBのスリップによる耐久性低下等が抑制される。特に、自動変速機24の出力回転速度No の周期的な増減変動は、駆動輪14のスリップグリップに起因して発生するため、保護実行条件を適当に設定することにより、保護が必要な場合に係合装置CBのスリップを適切に抑制できるとともに、必要以上に保護制御が行なわれて走行性能等の車両品質が損なわれることが抑制される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
10:ハイブリッド式電動車両(車両) 12:エンジン(駆動力源) 14:駆動輪(後輪) 16:動力伝達装置(動力伝達経路) 22:トルクコンバータ(流体式伝動装置) 24:自動変速機(変速機) 26:出力軸 90:電子制御装置(制御装置) 98:部品保護制御部 MG:回転機(駆動力源) SB:係合装置(摩擦係合装置) C1~C4:クラッチ(摩擦係合装置) B1、B2:ブレーキ(摩擦係合装置) No :出力回転速度(出力軸の回転速度) Noac :出力回転加速度 S1:入力トルク制限開始条件(保護実行条件) SS1:ライン圧最大圧開始条件(保護実行条件) S2~S4:入力トルク制限制御(保護制御) SS2~SS4:ライン圧最大圧制御(保護制御)
Claims (1)
- 駆動力源によって後輪が回転駆動されることにより走行するとともに、前記駆動力源と前記後輪との間の動力伝達経路には、前記駆動力源側から流体式伝動装置と、摩擦係合装置を介して動力を伝達する変速機とが直列に配設されている、車両の制御装置において、
後進走行時に前記変速機の出力軸の回転速度の周期的な増減変動を検出した場合に、該増減変動が予め定められた保護実行条件を満たした時には、前記後進走行時に係合させられる前記変速機の前記摩擦係合装置のスリップを抑制するための保護制御を実行する部品保護制御部を有する
ことを特徴とする車両の制御装置。
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