JP2023077143A - 細胞培地のラマンスペクトルからグルコースの濃度を定量する方法 - Google Patents

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Abstract

Figure 2023077143000001
【課題】細胞培地のラマンスペクトルからグルコースの濃度を容易に定量する方法を提供する。
【解決手段】細胞培地がグルコースおよびグルコースの分析に影響を及ぼす成分(HEPES)を含んでいて、細胞培地のラマンスペクトルを取得する。グルコースのための所定の波数、1120cm-1におけるグルコースのスペクトル強度と濃度との関係を示す検量線、他の波形と重ならず孤立して現れるHEPESに特有の波数におけるHEPESのスペクトル強度と濃度との関係を示す検量線、および1120cm-1におけるHEPESのスペクトル強度と濃度との関係を示す検量線を作成し、細胞培地の1120cm-1におけるスペクトル強度およびHEPESに特有の波数におけるスペクトル強度と前記検量線より、細胞培地中のグルコースの濃度を算出する方法である。
【選択図】図1

Description

本発明は、細胞培地のラマンスペクトルからグルコースの濃度を定量する方法に関する。
水溶液中に存在する、グルコース、乳酸、アンモニウムなどの測定には、一般的に液体クロマトグラフィーや、イオンクロマトグラフィー、測定専用キットなどが使われている。測定対象物によっては、複数の装置を組み合わせて測定することもある。細胞培地のような、高濃度のマトリックス下(高濃度ナトリウム、塩素など)にグルコース、乳酸、アンモニウムなどが存在した場合、一般的な分析手段として、液体クロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィーなどによる分離分析が行われる。
一方、一般的なラマン分光分析における、得られた測定スペクトルの処理は、得られたスペクトルをデータベースと照合し、物質の定性および同定を行っている。物質が特定でき、標準物質が入手可能であれば、さらに1成分のみの濃度を定量する場合がほとんどである。
ここで、標準物質のスペクトルは、物質の生産メーカ、公的機関、データベース販売会社から提供されている。標準物質のスペクトルは、物質の特徴を表すスペクトルのパターンをデータベース化したものであり、物質1つ1つの単独なデータとなっている。複数のマトリックスが混在したデータベースは無く、ユーザーは、得られたスペクトルデータから、波形の四則演算や差分スペクトルを求める作業を手動で行い、複合しているスペクトルより、それぞれの物質に分けて定性同定を行うことになる。
特許文献1には、ラマンスペクトルを利用した血液中の成分を分析する場合に好適な成分分析装置が記載されている。特許文献2には、ラマンスペクトルを利用した血液や間質液に含まれる成分を分析する場合に好適な分析装置が記載されている。
特許第6826463号明細書 特許第6842322号明細書
ラマン分光分析において、測定されたスペクトルは、被測定物の組成(分子結合状態、付加された官能基)により、複数のスペクトルが発現するため、すぐにどんな物質なのか判断することは難しい。特に、ラマン分光分析は、液体クロマトグラフィーのような、被測定物を分離する機能は無く、物質の分子構造、付与されている官能基からデータベースと照合し、定性、同定を行うので、重なり合うスペクトルが発現してしまうと、定性-同定はもとより、濃度演算することは難しくなってしまう恐れがある。
特に液体クロマトグラフィーでは、例えば被測定物の濃度に対し混在する測定対象ではない物質が10倍以上存在すると、測定対象物質がカラムの選択性を変化させて分離に影響を与える恐れがある。陽イオン分析を例にすると、高濃度ナトリウム(例えば7g/l)中に微量(例えば0.17g/l)の測定成分が存在した場合、カラムによる濃縮分析となる。しかし、測定成分を濃縮するはずがナトリウムも濃縮されるため、ナトリウムによりカラムの交換容量を超えてしまい、測定成分をトラップできない恐れがある。
本発明は、細胞培地のラマンスペクトルからグルコースの濃度を容易に定量することを目的とする。
本発明に係る一実施形態の方法は、
細胞培地のラマンスペクトルからグルコースの濃度を定量する方法であって、
細胞培地がグルコースおよびグルコースの分析に影響を及ぼす成分を含んでいて、前記細胞培地のラマンスペクトルを取得し、
前記グルコース由来のグルコースのスペクトル強度分および前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分由来のグルコースの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分を含む、前記グルコースのための所定の波数におけるスペクトル強度と、前記所定の波数とは異なり、他の波形と重ならず孤立して現れる前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分に特有の波数におけるグルコースの分析に影響を及ぼす成分特有のスペクトル強度を抽出し、
前記特有の波数における前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度と濃度との関係を示すグルコースの分析に影響を及ぼす成分特有検量線を用いて、前記特有の波数における前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分特有のスペクトル強度から、前記細胞培地中の前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分の濃度を定量し、
前記所定の波数における前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度と濃度との関係を示すグルコースの分析に影響を及ぼす成分所定検量線を用いて、定量された前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分の濃度から、前記所定波数におけるグルコースの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分を算出し、
前記所定の波数における前記スペクトル強度と算出された前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分から、前記所定の波数における前記グルコースのスペクトル強度分を算出し、
前記所定の波数におけるグルコースのスペクトル強度と濃度との関係を示すグルコース検量線を用いて、算出された前記所定の波数における前記グルコースのスペクトル強度分から、前記細胞培地中のグルコースの濃度を定量することを含み、
前記グルコースのための前記所定の波数が、1120cm-1である、方法である。
本発明によれば、得られたラマンスペクトルデータから細胞培地のグルコースの濃度を容易に定量することができる。
図1は、本実施形態の方法に用いられる分析装置を備えた分析機構の構成の一例を示す概念図である。 図2は、本実施形態の方法に用いられる分析装置の構成の一例を示す概念図である。 図3は、1120cm-1におけるグルコースのスペクトル強度と濃度の関係を示す検量線である。 図4は、1120cm-1におけるHEPESのスペクトル強度と濃度の関係を示す検量線である。 図5は、1038cm-1におけるHEPESのスペクトル強度と濃度の関係を示す検量線である。 図6は、グルコースについてラマン分光計測による経時変化を示した細胞培地測定結果(StemFit)と血ガス計の比較結果である。 図7は、グルコースについてラマン分光計測による経時変化を示した細胞培地測定結果(Essential8)と血ガス計の比較結果である。 図8は、グルコースについてラマン分光計測による経時変化を示した細胞培地測定結果(CHOM)と血ガス計の比較結果である。 図9は、グルコースについてラマン分光計測による経時変化を示した細胞培地測定結果(REGM)と血ガス計の比較結果である。 図10は、グルコースについて異なるメーカの細胞培地(REGM、StemFit、DMEM/F12、Essential6)のラマン分光計測による経時変化と血ガス計の結果を比較した図である。 図11は、1084cm-1における乳酸の濃度およびスペクトル強度の関係を示す検量線である。 図12は、1084cm-1におけるグルコースの濃度およびスペクトル強度の関係を示す検量線である。 図13は、乳酸についてラマン分光計測による経時変化を示した細胞培地測定結果(StemFit)と血ガス計の比較結果である。 図14は、乳酸についてラマン分光計測による経時変化を示した細胞培地測定結果(Essential8)と血ガス計の比較結果である。 図15は、乳酸についてラマン分光計測による経時変化を示した細胞培地測定結果(CHOM)と血ガス計の比較結果である。 図16は、乳酸についてラマン分光計測による経時変化を示した細胞培地測定結果(REGM)と血ガス計の比較結果である。 図17は、乳酸について異なるメーカの細胞培地(REGM、StemFit、DMEM/F12、Essential6)のラマン分光計測による経時変化とイオンクロマトの結果を比較した図である。 図18は、1436cm-1におけるアンモニウムの濃度およびスペクトル強度の関係を示す検量線である。 図19は、1436cm-1におけるグルコースの濃度およびスペクトル強度の関係を示す検量線である。 図20は、1436cm-1における乳酸の濃度およびスペクトル強度の関係を示す検量線である。 図21は、852cm-1における乳酸の濃度およびスペクトル強度の関係を示す検量線である。 図22は、1436cm-1におけるアセトアルデヒドの濃度およびスペクトル強度の関係を示す検量線である。 図23は、928cm-1におけるアセトアルデヒドの濃度およびスペクトル強度の関係を示す検量線である。 図24は、1436cm-1におけるグルタミンの濃度およびスペクトル強度の関係を示す検量線である。 図25は、1140cm-1におけるグルタミンの濃度およびスペクトル強度の関係を示す検量線である。 図26は、1436cm-1におけるHEPESの濃度およびスペクトル強度の関係を示す検量線である。 図27は、1436cm-1におけるフェノールレッドの濃度およびスペクトル強度の関係を示す検量線である。 図28は、1162cm-1におけるフェノールレッドの濃度およびスペクトル強度の関係を示す検量線である。 図29は、アンモニウムについてラマン分光計測による経時変化を示した細胞培地測定結果(StemFit)とAmmonia Assay Kitとの比較結果である。 図30は、アンモニウムについてラマン分光計測による経時変化を示した細胞培地測定結果(Essential8)とAmmonia Assay Kitとの比較結果である。 図31は、アンモニウムについてラマン分光計測による経時変化を示した細胞培地測定結果(CHOM)とAmmonia Assay Kitとの比較結果である。 図32は、アンモニウムについてラマン分光計測による経時変化を示した細胞培地測定結果(REGM)とAmmonia Assay Kitとの比較結果である。 図33は、アンモニウムについて異なるメーカの細胞培地(REGM、StemFit、DMEM/F12、Essential6)のラマン分光計測による経時変化とイオンクロマトの結果を比較した図である。
以下、本発明を実施するための実施形態の例を添付図面を参照して説明する。以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。以下に例示する実施形態は、本発明の趣旨を逸脱することなく、適宜変更および改良することができる。
<分析機構>
図1は、本実施形態の方法に用いられる分析装置26を備えた分析機構10の構成の一例を示す概念図である。分析機構10は、励起光の照射によってサンプル16で生じるラマン散乱光のスペクトルを分析する機構である。分析機構10は、光源12、リフレクタ14、サンプル16、光学系18、モノクロメーター20、および分析装置26を主な構成要素として備える。
光源12は、サンプル16に照射するための励起光を発するものである。この励起光の波長は短いほどラマン散乱の効率が高くなり空間分解能も高くなることから、光源12として固体レーザーが好ましい。なお、ラマン散乱光のスペクトルでは、励起光の波数に対するラマン散乱光の波数の差(ラマンシフト量)が示される。そのため、励起光の波長は単一の波長であることが好ましい。励起光の波長の具体例としては、例えば、514nm、532nm、633nm、670nm、785nmのなかから選択される単一の波長とすることが好ましい。
リフレクタ14は、光源12から発せられる励起光を反射させ、サンプル16に導く。なお、光源12から発せられる励起光をサンプル16に導く限り、リフレクタ14に代えてまたは加えて、他の部材を採用してもよい。
サンプル16は、細胞培地と、細胞培地を収容する容器(不図示)とから構成されている。細胞培地を収容する容器は、不活性なプラスチック素材で出来ているタテ長の内容量25~50mlの密閉ができる構造となっている。使用する測定セルは、合成石英ガラス製の容量1~10mlの角形縦長の容器形状を呈している。このような測定セルにサンプル16を入れて測定する方法の他に、流通式測定セルを使ったサンプル16を流しながら行う、フローセル測定方法もある。化学的に不活性な無機材料、プラスチック素材あるいは合成樹脂の他、酸アルカリに対し、耐腐食性に優れる金属でできた筐体を容器として用いてもよい。容器は、サンプル16の出入口を備えた構造であって、ラマン散乱光を透過させる方式として、ラマン散乱光を入射する光学窓と、サンプル16を通過したラマン散乱光を受光する光学窓を備えた構造や、ラマン散乱光を入射、受光を1つの光学系素子で行うことのできる反射型の方式による構造を有しているものを採用できる。容器は、これらの方式に限ることなく、サンプル16の出入と、ラマン散乱光の入射、サンプル16へ照射、照射後のラマン散乱光の受光を備えた構造を呈していれば、より好ましい。
<細胞培地>
細胞培地は、通常、無機物、アミノ酸、pH指示薬、pH緩衝剤、栄養源(炭素源、ミネラル源、窒素源の3種類に大別される)から構成されているがこれに限定されない。細胞培地は、その目的により成分濃度は異なっていてもよい。ラマン分光分析において、基本的に無機物の吸収はほとんど認められず、有機物に限って吸収を表す。
<代謝産生>
細胞が増殖を始めると、栄養源であるグルコースなどを消費し、細胞内にて産生された乳酸、アンモニウムは低分子であるため、細胞膜を通過、細胞外に放出され、細胞培地中に蓄積する。乳酸、アンモニウムなどの老廃物の蓄積は、細胞培地のpHの低下、細胞毒性を引き起こし、細胞の成長を妨げるため、乳酸、アンモニウムの濃度の監視が必要とされる。
<細胞培地模擬液>
細胞培地模擬液は、pH指示薬、pH緩衝剤、グルコース、乳酸などを混合したものとすることができる。細胞培地模擬液において、典型的にはpH指示薬とpH緩衝剤が配合されている。細胞培地模擬液は、経時変化を示さないため、検量線の作成に用いるのが好ましい。
<pH指示薬>
pH指示薬は、透明な培養容器で細胞培養を行う場合、内容物のpHを目視で瞬時に判断するためのものである。pH指示薬として本願ではフェノールレッドが用いられる。細胞培地にpH指示薬としてフェノールレッドが含まれている場合、これは透明な培養容器で細胞培養を行う際に内容物のpHを目視で瞬時に判断するために用いられる。フェノールレッドは、監視するpHが6~8のため特に好ましい。
<pH緩衝剤>
pH緩衝剤は、細胞培養時に上昇してくる、乳酸による急激な変化を抑制するためのものである。pH緩衝剤として本願ではHEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)が用いられる。HEPESは、細胞培養時、培養細胞が好気性呼吸によって生成される二酸化炭素濃度の変化を吸収して生理学的pHを維持することが優れているため特に好ましい。またりん酸生食緩衝剤は、生体内で普遍的に見出されるイオンで構成されるため無毒であり特に好ましい。
ラマン分光装置でサンプル16を測定する前に、純水にてバックグラウンド補正を行うことが好ましい。不純物の少ない純水、精製水(蒸留水をイオン交換樹脂で精製)を用いることが望ましい。なお、バックグラウンド測定は、以後のサンプル16の測定の健全性に大きく影響を及ぼすため、バックグラウンド測定・補正後、さらに純水の測定を行い、ベースラインができるだけ平坦化されるまで繰り返すことが好ましい。さらに、細胞培地に含まれる特定することが難しい不明のピークが存在する場合、乳酸やグルコースの主ピークの近傍に出現する場合も想定して、純水によるバックグラウンド補正のほかに、細胞培養前(培養0日目)の細胞培地を測定し、取得したスペクトルを使って、バックグラウンド補正することが好ましい。
高濃度のマトリックス成分が存在している場合、周囲温度の変動が少ない環境が望ましい。なお、ここでの周囲温度は、例えば20~30℃の範囲で、ごく短時間での変動は±5℃以内である。
光学系18は、サンプル16で生じるラマン散乱光をモノクロメーター20に導くものである。サンプル16に励起光が照射された場合、励起光とサンプル16との相互作用により、サンプル16では励起光の波長と異なる波長のラマン散乱光が生じるとともに、励起光の波長と同じ波長のレイリー散乱光が生じる。分析機構10は、このレイリー散乱光を除去する光学系18を導波路上に有しており、光学系18を介して得られるラマン散乱光をモノクロメーター20に導くようになっている。
モノクロメーター20は、回折格子22およびCCD(Charge Coupled Device)検出器24を備えている。回折格子22は、サンプル16から光学系18を介して供給される励起光を波長ごとに分け、CCD検出器24の受光面に導く。CCD検出器24は、1次元または2次元に配置される複数の受光素子を受光面内に有する。このCCD検出器24は、受光面内の受光素子に露光される各波長のラマン散乱光の強さに比例した電荷を蓄え、ラマン散乱光における波長ごとの強度分布を示すラマンスペクトルのデータを分析装置26に出力する。CCD検出器24に代えて、フォトダイオード、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などを用いた検出器を用いることができる。
<分析装置>
分析装置26は、モノクロメーター20のCCD検出器24から与えられるデータに基づいて、サンプル16の細胞培地に含まれる成分を検出し、検出した成分の濃度を求めるようになっている。また分析装置26は、サンプル16が有していた成分の種類や濃度などを必要に応じて通知するようになっている。
図2は、本実施形態の方法に用いられる分析装置26の構成の一例を示す概念図である。分析装置26は、入力部30、記憶部32、制御部34、および表示部36を主要な構成要素として備えている。
入力部30は、ユーザーの操作に応じた命令や設定値などの各種の情報を入力可能な部分である。入力部30の具体例としては、マウス、キーボード、タッチパネル、可搬型の半導体コネクタ型のメモリ、ネットワーク通信や、シリアル通信を経由して情報を授受する通信インターフェイスなどが挙げられる。半導体コネクタ型メモリとしては、USB(Universal Serial Bus)メモリやCF(Compact Flash)メモリなどが挙げられる。
記憶部32は、入力部30または制御部34から与えられるデータを記憶し、記憶したデータを読み出す部分である。記憶部32の具体例としては、半導体メモリ、磁気ディスク、光ディスクなどが挙げられる。
記憶部32には、各種のプログラムを格納する第1格納領域(不図示)と、入力部30から入力される設定データなどの各種のデータを格納する第2格納領域(不図示)と、プログラムおよびデータを展開する展開領域(不図示)とが含まれる。第1格納領域には、サンプル16の細胞培地を分析する処理を実行するための分析プログラムが記憶されている。記憶部32に記憶されている具体的な内容は後に詳述する。
制御部34は、記憶部32の第1格納領域に記憶されたプログラムおよび記憶部32の第2格納領域に記憶されたデータに基づいて、分析装置26を制御するようになっている。
制御部34は、記憶部32の第1格納領域に記憶された分析プログラムを読み出した場合、その読み出した分析プログラムを記憶部32の展開領域に展開する。この場合、制御部34は、取得部40、抽出部42、成分識別部44、算出部46、および通知部48として機能し、細胞培地を分析する処理を実行する。
表示部36は、制御部34から与えられるデータに示される情報を表示する部分である。表示部36の具体例としては、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、EL(Electro Luminescence)ディスプレイなどが挙げられる。
取得部40は、所望の成分を含む細胞培地である試料に単一波長の励起光が照射されることで生じるラマン散乱光の波数ごとの強度分布を示すラマンスペクトルを取得する。具体的には、取得部40は、光源12から発すべき励起光の強度などを適宜調整して光源12を駆動し、光源12、リフレクタ14、サンプル16、および光学系18を順次介してモノクロメーター20のCCD検出器24から出力されたラマンスペクトルのデータを取得する。
本実施形態においては、取得部40は、細胞培地が対象となる成分および分析に影響を及ぼす成分を含んでいてこの細胞培地のラマンスペクトルを取得する。分析対象となる成分は、グルコース、乳酸、アンモニウムである。
細胞培養を維持するのに必要なグルコース濃度を調整するためにグルコースの濃度を測定することが好ましい。ここで、乳酸、アンモニウムは、細胞に対し毒性を引き起こし、細胞の成長を妨げる成分として代謝産生されてくる。このような乳酸、アンモニウムなどの濃度を監視し除去するなどの操作を行い、適切な細胞培地の状態を持続させるために、乳酸、アンモニウムの測定を行うことが好ましい。
対象となる成分がグルコースの場合、影響を及ぼす成分は、pH緩衝剤であるHEPESであることが好ましい。HEPESは、グルコースのための所定の波数である1120cm-1にスペクトル強度が現れること、1120cm-1においてHEPESのラマンスペクトルの強度と濃度との間に線形性があること、1120cm-1において他に重なるスペクトル成分がないこと、のため好ましい。
対象となる成分が乳酸の場合、影響を及ぼす成分はグルコースであることが好ましい。グルコースは、乳酸のための所定の波数である1084cm-1にスペクトル強度が現れること、1084cm-1においてグルコースのラマンスペクトルの強度と濃度との間に線形性があること、1084cm-1において他に重なるスペクトル成分がないこと、のため好ましい。
対象となる成分がアンモニウムの場合、影響を及ぼす成分はグルコース、乳酸、アセトアルデヒド、グルタミン、HEPES、フェノールレッドの少なくとも1つであることが好ましい。これらの影響を及ぼす成分は、アンモニウムのための所定の波数である1436cm-1にスペクトル強度が現れること、1436cm-1においてこれらの影響を及ぼす成分のラマンスペクトルの強度と濃度との間に線形性があること、1436cm-1において他に重なるスペクトル成分がないこと、のため好ましい。
抽出部42は、取得部40で取得されたラマンスペクトルの波長をラマンシフト量に換算して、スペクトル強度を抽出する。具体的には、ラマンスペクトルにおける各波長は、単位の長さに含まれる波の数である波数に変換され、変換された各波数は、光源12から発せられる励起光の波数との差であるラマンシフト量に変換されて、変換された各波数は、光源12から発する励起光の波数との差であるラマンシフト量に変換される。この結果、例えば縦軸をスペクトル強度とし横軸を波数とするラマンスペクトルとなる。なお、物質はその分子構造や結晶構造に応じた特有の振動エネルギーを持つことが知られており、ラマン散乱光の波数(振動数)と入射光の波数(振動数)の差であるラマンシフト量は物質の分子構造や結晶構造を反映した特有の波形となる。
成分識別部44は、抽出部42で換算されたラマンスペクトルと、細胞培地の成分に応じてラマンスペクトルに出現するピークの特有の波数とに基づいて、細胞培地の成分を探索して識別する。
算出部46は、成分識別部44によって検出されたピークのスペクトル強度に基づいて、ピークに対応する成分の濃度を定量する。すなわち、算出部46は、成分識別部44によって検出されたピークに対応する成分および波数についての検量線を第2格納領域から読み出し、検量線を用いて、検出されたピークのスペクトル強度から、そのピークに対応する成分の濃度(mg/dl)を求める。算出部の成分ごとの具体的な作用については後述する。
成分識別部44は、第2格納領域から読み出したある成分の所定の波数およびある成分に特有の波数を認識し、その波数を基準として±6cm-1の範囲内にピークがあるか否かを探索する。この場合、上記所定の波数および特有の波数を基準とする±6cm-1の範囲内にピークが1つでも検出された場合、当該ピークに対応する成分が細胞培地中に含まれていることを意味する。なお、本願においては、記載の簡略化および分かり易さのために所定の波数および特有の波数としてある値の波数のみが示されているが、本発明における所定の波数および特有の波数は±6cm-1の幅を含むことを意味するものとする。例えば、「852cm-1」は852±6cm-1を意味し、「928cm-1」は928±6cm-1を意味し、「1038cm-1」は1038±6cm-1を意味し、「1084cm-1」は1084±6cm-1を意味し、「1120cm-1」は1120±6cm-1を意味し、「1140cm-1」は1140±6cm-1を意味し、「1162cm-1」は1162±6cm-1を意味し、「1436cm-1」は1436±6cm-1を意味する。
通知部48は、成分識別部44によって検出可能な細胞培地成分の種類と、当該種類のうち成分識別部44によって検出され算出部46によって定量された細胞培地の成分の濃度とを通知する。例えば、細胞培地の成分の種類と算出部46によって定量された細胞培地の成分の濃度とが所定の表示形式で表示部36の表示画面に表示される。なお、表示部36に表示させることに代えてまたは加えて、細胞培地の成分の種類と算出部46によって定量された細胞培地の成分の濃度とがスピーカから音声出力されても良い。
このような取得部40、抽出部42、成分識別部44、算出部46、および通知部48により制御部34が機能し、細胞培地の成分を分析する処理が実行される。
ラマン分光分析においては、サンプル16を前処理することなく、直接容器にサンプル16を入れて測定することができる。測定は一斉分析とすることができ、この場合は溶液中に吸収を示すものはスペクトルとして発現してくる。あらかじめ溶液の組成が判明している細胞培地においては、高濃度のマトリックスで吸収スペクトルとして検出されるもの、されないものを把握しておくことが好ましい。pH指示薬としてフェノールレッド、pH緩衝剤としてHEPESおよびりん酸生食緩衝剤が添加されていることが多い。これらは使い始めと培養終了後に濃度の変化しないものとして取り扱うことができるので、最初にこれらの濃度を求めておくことが好ましい。
なお、通常、ラマン分光装置で測定を始める前にバックグラウンド測定を行う。バックグラウンド測定では、通常、純水を石英セルに入れて測定し、石英セルの吸収、純水中の不純物、炭酸ガスなどのスペクトルを求める。以後は、測定するたびにバックグラウンド補正を自動的に行うことが望ましい。純水に次いで、この純水に次ぐバックグラウンドとして、例えば濃度既知のフェノールレッドやHEPESから、または例えば濃度未知のフェノールレッドやHEPESの濃度を定量し、バックグラウンド測定に使用して、スペクトル測定後の成分濃度を定量しても良い。細胞培地において、濃度の変化の少ない物質は、フェノールレッド、HEPESである。また、他の成分で、濃度の変化の少ない物質などによりスペクトル吸収に影響を及ぼすものであれば、同じ処理をしてもよい。
なお、以下の各検量線を求める場合において、100~300mg/dlのグルコース、0~400mg/dlの乳酸、0~500mg/dlのアンモニウム、30~50mg/dlのグルタミンの全種混合液においても、それぞれ直線性を示していることが確認されている。
また、実際に本発明を実施する場合には、PCで自動演算させるプログラムを構築し、演算結果を判断することが好ましいが、演算結果によっては、結果が例えばゼロ、検出不可、N.D、または‐‐‐と表示される。
なお、以下の説明において、説明を理解し易くするため、各方法の対象となる1つの成分ごとにその作用の一例が説明されている。
以下、対象となる成分ごとにその作用の一例を説明する。なお、検量線を作成する際には、細胞培地に代えて所定の成分を含む細胞培地模擬液を用いることが好ましい。細胞培地模擬液の調製は、例えば下記の表1~表4に基づいて行うことができる。
Figure 2023077143000002
Figure 2023077143000003
Figure 2023077143000004
Figure 2023077143000005
表1はpH6.5の時の細胞培地模擬液のベース液の調製表である。表2はpH6.8の時の細胞培地模擬液のベース液の調製表である。表3はpH7.0の時の細胞培地模擬液のベース液の調製表である。表4はpH7.5の時の細胞培地模擬液のベース液の調製表である。
例えば、上記表に基づき、りん酸緩衝生食ベース(フェノールレッド+HEPES)模擬液を調製する。pH緩衝剤として、富士フィルム和光純薬工業製、10×D-PBS(-)、Code.No.048-29805を用いるか、上記表に基づき調製することもできる。
調製方法
・富士フィルム和光純薬工業のSDSに基づき、KCl:2000.0mg/L、NaCl:80000.0mg/L、KH2PO4:2000.0mg/L、Na2HPO4:11500.0mg/Lで調製する。ここで10×という意味は、10倍濃縮液で、使用するには、10倍希釈が必要ということである。上記構成成分の試薬を入手し、蒸留精製、ろ過している超純水を使用して、上記のりん酸緩衝液の10倍濃縮液を1L調製し、ストック溶液として希釈して使用する。
・KH2PO、NaHPO4の配合比を変化させてpHが6.5~7.5になるように調製して使用する。
・NaCl、KClは、それぞれ137mM、2.7mMで一定とする。
・pH指示薬のフェノールレッドは、15mg/lとする。
・pH緩衝剤のHEPESは、3000mg/lとする。
・上記溶液を基本とし、グルコースは、50、75、150、200、300mg/dl、乳酸は、9、45、90、180、450mg/dl、アンモニウムは、26、53、160、267、500、750mg/dlとし、それぞれをpH緩衝剤ベースの溶液に添加し、全量が100mlになるよう純水を添加し所望の濃度になるよう調製する。
実施形態1:グルコースの分析
[グルコースの分析のための検量線]
本実施形態においては、分析に影響を及ぼす成分はpH緩衝剤としてのHEPESである。この場合、ラマン分光分析において、細胞培地に含まれるグルコースを分析する際、HEPESの影響を考慮する。グルコースの濃度を定量するためには、測定したスペクトル強度からこの影響分を減算することでグルコースのスペクトル強度の算出および濃度を定量することができる。
<グルコース検量線>
図3は、1120cm-1におけるグルコースのスペクトル強度(y)と濃度(x(mg/dl))の関係を示すグルコース検量線である。縦軸はスペクトル強度yを示し、横軸は濃度xを示す(以下、他の検量線についても同様とする)。
1120cm-1におけるグルコース検量線(式1)は、以下のとおりである:
グルコース:y=0.809x+20.211(@1120cm-1)(式1)
グルコースが細胞培地に含まれている場合、ラマンスペクトルのグルコースの所定の波数として1120cm-1が設定される。上記の1120cm-1におけるグルコース検量線は入力部30から入力され、記憶部32の第2格納領域に格納されている。
<HEPES所定検量線>
図4は、1120cm-1におけるHEPESのスペクトル強度(y)と濃度(x(mg/dl))の関係を示すHEPES所定検量線である。
1120cm-1におけるHEPES所定検量線の(式2)は、以下のとおりである:
HEPES:y=0.08x+25.516(@1120cm-1)(式2)
上記の1120cm-1におけるHEPES所定検量線は入力部30から入力され、記憶部32の第2格納領域に格納されている。
<HEPES特有検量線>
HEPESのラマンスペクトルにおいては、1038cm-1に主スペクトルがあり、これを含む1448cm-1、1298cm-1、1190cm-1に濃度依存性を示すスペクトルを検出した。
図5は、1038cm-1におけるHEPESのスペクトル強度(y)と濃度(x(mg/dl))の関係を示すHEPES特有検量線である。
1038cm-1におけるHEPES特有検量線の(式3)は、以下のとおりである:
HEPES:y=3.1151x+331.28(@1038cm-1)(式3)
HEPESが細胞培地に含まれている場合、ラマンスペクトルのHEPES特有の波数として1038cm-1が設定される。上記の1038cm-1におけるHEPES特有検量線は入力部30から入力され、記憶部32の第2格納領域に格納されている。
ここで、取得部40は、グルコースを含む細胞培地である試料に単一波長の励起光が照射されることで生じるラマン散乱光の波数ごとの強度分布を示すラマンスペクトルを取得する。
また、抽出部42は、グルコースのための所定の波数である1120cm-1におけるスペクトル強度であって、グルコース由来のグルコースのスペクトル強度分およびHEPES由来のHEPESのスペクトル強度分を含む、1120cm-1におけるスペクトル強度を抽出する。さらに抽出部は、他の波形と重ならず孤立して現れるHEPESに特有の波数である1038cm-1におけるHEPES特有のスペクトル強度を抽出する。
また、記憶部32は、1120cm-1におけるグルコースのスペクトル強度と濃度との関係を示すグルコース検量線と、1120cm-1におけるHEPESのスペクトル強度と濃度との関係を示すHEPES所定検量線と、1038cm-1におけるHEPESのスペクトル強度と濃度との関係を示すHEPES特有検量線を記憶する。
なお、記憶部32は、1038cm-1におけるHEPESのスペクトル強度と濃度との関係を示すHEPES特有検量線に代えて、上記したHEPESの濃度依存性を示す他の波数における検量線を記憶しても良い。
算出部46は、HEPES特有のスペクトル強度から、HEPES特有検量線を用いて、HEPESの濃度を定量し、HEPESの濃度から、HEPES所定検量線を用いて、1120cm-1におけるHEPESのスペクトル強度分を算出し、1120cm-1におけるスペクトル強度とHEPESのスペクトル強度分から、1120cm-1におけるグルコースのスペクトル強度分を算出し、グルコースのスペクトル強度分から、グルコース検量線を用いて、グルコースの濃度を定量する。
[実施例1:グルコースの分析]
以下、ラマンスペクトルのピークからグルコース濃度を定量した実施例を説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定されるものではない。本実施例においては、グルコースを含む細胞培地を用いた。表5は、細胞培地の種類と主要成分を示す。
Figure 2023077143000006
<細胞培地サンプル1について>
細胞培地サンプル1として、上記表5中の味の素社製StemFit AK02Nを用いた。このStemFit AK02Nをマウス胎仔から単離したNPC(Nephron progenitor cell)の培養に用い、培養0日目の細胞培地サンプルとして本実施例1のグルコースを含む細胞培地サンプル1とした。細胞培地サンプル1に対して785nmの単一波長のレーザー光を照射し、細胞培地サンプル1のラマンスペクトルを取得した。ラマン分析装置は、TSI社製、型番ProRaman-L-785-B1Sを用いた。血ガス分析装置(血ガス計)は、ラジオメーター(株)型式ABL800 BASIC analyzerを用いた。アンモニウムの分析は、Sigma-Aldrich社のAmmonia Assay Kit (AA0100)を使用した。
<細胞培地サンプル2について>
細胞培地サンプル2は、細胞培地サンプル1の培養7日目のものをサンプルとした。
細胞培地サンプル1において、HEPESの主スペクトルの波数である1038cm-1(HEPESの特有の波数)におけるスペクトル強度は、650.0925であった。したがって(式3)から、
3.031x=650.0925-363.51
x=(650.0925-363.51)/3.031=94.55
ゆえに、HEPESの濃度は、94.55mg/dlと求められた。
細胞培地サンプル1において、グルコース分析の波数である1120cm-1(グルコースの所定の波数)におけるスペクトル強度は284.4756であった。
グルコース濃度は、(式1)、(式2)から、
x=(284.4756-(((0.08×94.55)+25.516)+20.211))/0.809=285.8mg/dl
ゆえに、グルコース濃度は285.8mg/dlであることが分かった。
図6~9は、グルコースについて表5にある幾つかの異なるメーカの細胞培地で測定を行った場合の血ガス計に対する追従性を示す。各図において、日時を変えて計4回実験を行った結果が示されている。図10は、グルコースについて異なるメーカの細胞培地(REGM、StemFit、DMEM/F12、Essential6)のラマン分光計測による経時変化と血ガス計の結果を比較した図である。ここで血ガス計の測定結果は、ラマン分光計で検出され、演算から得られた濃度とを相対的な評価を行うための比較対象を意味するため、追従性があることは相対的な指示応答性を示していることを意味する。図から異なるメーカの種類の異なる細胞培地において、日時を変えても再現性良く測定でき、血ガス計との指示傾向性も応答性の良い結果であることが分かった。
本発明により新たに見出されたグルコースのスペクトルを検出される波数は、フェノールレッドおよびHEPESなどの添加有無で変わらないことが確認されている。
本発明者による鋭意検討の結果、pH緩衝剤であるHEPESのピークが測定対象としているグルコースのある波数におけるピークの嵩増しになっていることが判明し、これらのピークが影響し重なっていることが原因であることが見出された。
上記構成は、本発明者により見出された以下の知見に基づいている:
[1]細胞培地におけるグルコースのスペクトルの強度と濃度との間に、1120cm-1において線形性があることが判明した。すなわち、細胞培地におけるグルコースの1120cm-1でのスペクトルの強度と濃度の一方から他方を算出できることが判明した。
[2]細胞培地におけるHEPESのスペクトルの強度と濃度との間に、1120cm-1と1038cm-1において線形性があることが判明した。すなわち、細胞培地におけるHEPESの1120cm-1と1038cm-1でのスペクトルの強度と濃度の一方から他方を算出できることが判明した。
[3]細胞培地における1120cm-1でのラマンスペクトルの強度は、グルコースおよびHEPESの各スペクトル強度を実質的に加算されたものであることが判明した。すなわち、細胞培地における1120cm-1でのスペクトルの強度からHEPESのスペクトル強度を差し引けば、1120cm-1でのグルコースのスペクトル強度を実質的に算出できることが判明した。
実施形態2:乳酸の分析
[乳酸の分析のための検量線]
本実施形態においては、影響を及ぼす成分はグルコースである。この場合、ラマン分光分析において、細胞培地に含まれる乳酸を分析する際、グルコースによる嵩増しの影響分を考慮する。乳酸の濃度を定量するためには、測定したスペクトル強度からこの影響分を減算することで乳酸のスペクトル強度の算出および濃度を定量することができる。
<乳酸検量線>
図11は、1084cm-1における乳酸のスペクトル強度(y)と濃度(x(mg/dl))の関係を示す乳酸検量線である。
1084cm-1における乳酸検量線の(式4)は、以下のとおりである:
乳酸:y=0.2626x+17.054(@1084cm-1)(式4)
乳酸が細胞培地に含まれている場合、ラマンスペクトルの乳酸の所定の波数として1084cm-1が設定される。上記の1084cm-1における乳酸検量線は入力部30から入力され、記憶部32の第2格納領域に格納されている。
<グルコース所定検量線>
図12は、1084cm-1におけるグルコースのスペクトル強度(y)と濃度(x(mg/dl))の関係を示すグルコース所定検量線である。
1084cm-1におけるグルコース所定検量線の(式5)は、以下のとおりである:
グルコース:y=0.2959x+18.003(@1084cm-1)(式5)
上記の1084cm-1におけるグルコース所定検量線は入力部30から入力され、記憶部32の第2格納領域に格納されている。
<グルコース特有検量線>
グルコースのラマンスペクトルにおいては、1120cm-1に主スペクトルがあり、これを含む1120cm-1、1058cm-1、904cm-1に濃度依存性を示すスペクトルを検出した。
1120cm-1におけるグルコース特有検量線については、図3で示したものと同じであるため、その説明を省略する。
グルコースが細胞培地に含まれている場合、ラマンスペクトルのグルコース特有の波数として1120cm-1が設定される。上記の1120cm-1におけるグルコース特有検量線は入力部30から入力され、記憶部32の第2格納領域に格納されている。
ここで、取得部40は、乳酸を含む細胞培地である試料に単一波長の励起光が照射されることで生じるラマン散乱光の波数ごとの強度分布を示すラマンスペクトルを取得する。
また、抽出部42は、乳酸のための所定の波数である1084cm-1におけるスペクトル強度であって、乳酸由来の乳酸のスペクトル強度分とグルコース由来のグルコースのスペクトル強度分とを含む、1084cm-1におけるスペクトル強度を抽出する。さらに抽出部42は、他の波形と重ならず孤立して現れるグルコースに特有の波数である1120cm-1におけるグルコース特有のスペクトル強度とを抽出する。
また、記憶部32は、1084cm-1における乳酸のスペクトル強度と濃度との関係を示す乳酸検量線と、1084cm-1におけるグルコースのスペクトル強度と濃度との関係を示すグルコース所定検量線と、1120cm-1におけるグルコースのスペクトル強度と濃度との関係を示すグルコース特有検量線とを記憶する。
なお、記憶部32は、1084cm-1におけるグルコースのスペクトル強度と濃度との関係を示すグルコース特有検量線に代えて、上記したグルコースの濃度依存性を示す他の波数における検量線を記憶しても良い。
算出部は、グルコース特有のスペクトル強度から、グルコース特有検量線を用いて、グルコースの濃度を定量し、グルコースの濃度から、グルコース所定検量線を用いて、1084cm-1におけるグルコースのスペクトル強度分を算出し、1084cm-1におけるスペクトル強度とグルコースのスペクトル強度分から、1084cm-1における乳酸のスペクトル強度分を算出し、乳酸のスペクトル強度分から、乳酸検量線を用いて、乳酸の濃度を定量する。
[実施例2:乳酸の分析]
以下、ラマンスペクトルのピークから乳酸濃度を定量した実施例を説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定されるものではない。なお、細胞培地サンプル1は、グルコースの分析と同時分析したサンプルと同じであるので、説明を省略する。
乳酸を含む細胞培地サンプル1、2に対して785nmの単一波長のレーザー光を照射し、細胞培地サンプル1、2のラマンスペクトルを取得した。分析装置は、TSI社製、型番ProRaman-L-785-B1Sを用いた。血液ガス分析装置(血ガス計)は、ラジオメーター(株)型式ABL800 BASIC analyzerを用いた。イオンクロマトは、日機装(株)7320可搬型イオンクロマト装置で、乳酸を所定の測定条件で測定した。
<細胞培地サンプル1の乳酸濃度>
上記グルコースの分析の実施例の結果から、細胞培地サンプル1のグルコース濃度は、285.8mg/dlであった。したがって(式5)から、
0.2959×285.8+18.003=102.57122
ゆえに、1084cm-1におけるグルコースのスペクトル強度は、102.57122と算出された。
細胞培地サンプル1において、乳酸分析のための波数である1084cm-1(乳酸の所定の波数)におけるスペクトル強度は、120.5383であった。したがって、
120.5383-102.57122=17.96708
ゆえに、1084cm-1における乳酸のスペクトル強度は、17.96708と算出された。
乳酸濃度は、(式4)から、
x=((17.96708-17.054)/0.2626=3.477mg/dl
乳酸モル質量=178g/molとして、
3.477(mg/dl)=3.477×10/178(mM)=0.2(mM)
ゆえに、細胞培地サンプル1の乳酸濃度は0.2mMであることが分かった。
<細胞培地サンプル2の乳酸濃度>
細胞培地サンプル2のグルコース濃度は、137mg/dlであった。したがって(式5)から、
0.2959×137+18.003=58.5413
ゆえに、1084cm-1におけるグルコースのスペクトル強度は、58.5413と算出された。
細胞培地サンプル2において、乳酸分析のためのスペクトルの波数である1084cm-1(乳酸の所定の波数)におけるスペクトル強度は155.772であった。したがって、
155.772-58.5413=97.2307
ゆえに、1084cm-1における乳酸のスペクトル強度は、97.2307と算出された。
乳酸濃度は、(式4)から、
x=(97.2307-17.054)/0.2626=305.32mg/dl
乳酸モル質量=178g/molとして、
305.32(mg/dl)=305.32×10/178(mM)=17.2(mM)
ゆえに、細胞培地サンプル2の乳酸濃度は17.2mMであることが分かった。
図13~16は、乳酸について表5にある幾つかの異なるメーカの細胞培地で測定を行った場合の血ガス計に対する追従性を示す。各図において、日時を変えて計4回実験を行った結果が示されている。図17は、乳酸について異なるメーカの細胞培地(REGM、StemFit、DMEM/F12、Essential6)のラマン分光計測による経時変化とイオンクロマトの結果を比較した図である。図から異なるメーカの種類の異なる細胞培地において、日時を変えても再現性良く測定でき、血ガス計やイオンクロマトとの指示傾向性も応答の良い結果であることが分かった。
なお、本発明により新たに見出された乳酸のスペクトル検出の波数は、フェノールレッドおよびHEPESなどの添加有無で変わらないことが確認されている。
上記構成は、本発明者により見出された以下の知見に基づいている:
[1]細胞培地における乳酸のスペクトルの強度と濃度との間に、1084cm-1において線形性があることが判明した。すなわち、細胞培地における乳酸の1084cm-1でのラマンスペクトルの強度と濃度の一方から他方を算出できることが判明した。
[2]細胞培地におけるグルコースのスペクトル強度と濃度との間に、1084cm-1と1120cm-1において線形性があることが判明した。すなわち、細胞培地におけるグルコースの1084cm-1と1120cm-1でのスペクトル強度と濃度の一方から他方を算出できることが判明した。
[3]細胞培地における1084cm-1でのスペクトル強度は、乳酸のスペクトル強度とグルコースのスペクトル強度とを実質的に加算されたものであることが判明した。すなわち、細胞培地における1084cm-1でのスペクトル強度からグルコースのスペクトル強度を差し引けば、1084cm-1での乳酸のスペクトル強度を実質的に算出できることが判明した。
実施形態3:アンモニウムの分析
[アンモニウムの分析のための検量線]
本実施形態においては、分析に影響を及ぼす成分はグルコース、乳酸、アセトアルデヒド、グルタミン、HEPES、フェノールレッドのうちの少なくとも1つである。ラマン分光分析において、細胞培地に含まれるアンモニウム(NH4)を分析する際、上記分析に影響を及ぼす成分の影響を考慮する。アンモニウムの濃度を定量するためには、測定したスペクトル強度から上記分析に影響を及ぼす成分の影響分を減算することでアンモニウムのスペクトル強度および濃度を定量することができる。
<アンモニウム検量線>
図18は、1436cm-1におけるアンモニウムのスペクトル強度(y)と濃度(x(mg/dl))の関係を示す検量線である。
1436cm-1におけるアンモニウム検量線の(式6)は、以下のとおりである:
アンモニウム:y=0.0961x+70.752(@1436cm-1)(式6)
アンモニウムが細胞培地に含まれている場合、ラマンスペクトルのアンモニウムの所定の波数として1436cm-1が設定される。上記の1436cm-1におけるアンモニウム検量線は入力部30から入力され、記憶部32の第2格納領域に格納されている。
<グルコース所定検量線>
図19は、1436cm-1におけるグルコースのスペクトル強度(y)と濃度(x(mg/dl))の関係を示す検量線である。
1436cm-1におけるグルコース所定検量線の(式7)は、以下のとおりである:
グルコース:y=0.1234x+71.878(@1436cm-1)(式7)
上記の1436cm-1におけるグルコース所定検量線は入力部30から入力され、記憶部32の第2格納領域に格納されている。
<グルコース特有検量線>
グルコース特有検量線については、乳酸の分析で用いたグルコース特有検量線を用いることができるため、説明を省略する。
<乳酸所定検量線>
図20は、1436cm-1における乳酸のスペクトル強度(y)と濃度(x(mg/dl))の関係を示す検量線である。
1436cm-1における乳酸所定検量線の(式8)は、以下のとおりである:
乳酸:y=0.2572x+73.409(@1436cm-1)(式8)
上記の1436cm-1における乳酸所定検量線は入力部30から入力され、記憶部32の第2格納領域に格納されている。
<乳酸特有検量線>
乳酸のラマンスペクトルにおいては、852cm-1に主スペクトルがあり、これを含む852cm-1、1038cm-1、1084cm-1に濃度依存性を示すスペクトルを検出した。
図21は、852cm-1における乳酸のスペクトル強度(y)と濃度(x(mg/dl))の関係を示す検量線である。
主スペクトルである852cm-1における乳酸特有検量線の(式9)は、以下のとおりである:
乳酸:y=0.7626x+5.12(@852cm-1)(式9)
乳酸が細胞培地に含まれている場合、ラマンスペクトルの乳酸特有の波数として852cm-1が設定される。上記の852cm-1における乳酸特有検量線は入力部30から入力され、記憶部32の第2格納領域に格納されている。
<アセトアルデヒド所定検量線>
図22は、1436cm-1におけるアセトアルデヒドのスペクトル強度(y)と濃度(x(mg/dl))の関係を示す検量線である。
1436cm-1におけるアセトアルデヒド所定検量線の(式10)は、以下のとおりである:
アセトアルデヒド:y=0.4955x+33.837(@1436cm-1)(式10)
上記の1436cm-1におけるアセトアルデヒド所定検量線は入力部30から入力され、記憶部32の第2格納領域に格納されている。
<アセトアルデヒド特有検量線>
アセトアルデヒドのラマンスペクトルにおいては、928cm-1に主スペクトルがあり、これを含む858cm-1、928cm-1、1436cm-1に濃度依存性を示すスペクトルを検出した。
図23は、928cm-1におけるアセトアルデヒドのスペクトル強度(y)と濃度(x(mg/dl))の関係を示す検量線である。
主スペクトルである928cm-1におけるアセトアルデヒド特有検量線の(式11)は、以下のとおりである:
アセトアルデヒド:y=0.3071x+21.035(@928cm-1)(式11)
アセトアルデヒドが細胞培地に含まれている場合、ラマンスペクトルのアセトアルデヒド特有の波数として928cm-1が設定される。上記の928cm-1におけるアセトアルデヒド特有検量線は入力部30から入力され、記憶部32の第2格納領域に格納されている。
<グルタミン所定検量線>
図24は、1436cm-1におけるグルタミンのスペクトル強度(y)と濃度(x(mg/dl))の関係を示す検量線である。
1436cm-1におけるグルタミン所定検量線の(式12)は、以下のとおりである:
グルタミン:y=0.0947x+124.78(@1436cm-1)(式12)
上記の1436cm-1におけるグルタミン所定検量線は入力部30から入力され、記憶部32の第2格納領域に格納されている。
<グルタミン特有検量線>
グルタミンのラマンスペクトルにおいては、1140cm-1に主スペクトルがあり、これを含む900cm-1、1140cm-1、1436cm-1に濃度依存性を示すスペクトルを検出した。
図25は、1140cm-1におけるグルタミンのスペクトル強度(y)と濃度の関係を示す検量線である。
1140cm-1におけるグルタミン特有検量線の(式13)は、以下のとおりである:
グルタミン:y=0.2839x+23.074(@1140cm-1)(式13)
グルタミンが細胞培地に含まれている場合、ラマンスペクトルのグルタミン特有の波数として1140cm-1が設定される。上記の1140cm-1におけるグルタミン特有検量線は入力部30から入力され、記憶部32の第2格納領域に格納されている。
<HEPES所定検量線>
図26は、1436cm-1におけるHEPESのスペクトル強度(y)と濃度(x(mg/dl))の関係を示す検量線である。
1436cm-1におけるHEPES所定検量線の(式14)は、以下のとおりである:
HEPES:y=1.0737x+118.78(@1436cm-1)(式14)
上記の1436cm-1におけるHEPES所定検量線は入力部30から入力され、記憶部32の第2格納領域に格納されている。
<HEPES特有検量線>
HEPES特有検量線については、グルコースの分析で用いたHEPES特有検量線を用いることができるため、説明を省略する。
<フェノールレッド所定検量線>
図27は、1436cm-1におけるフェノールレッドのスペクトル強度(y)と濃度(x(mg/dl))の関係を示す検量線である。
1436cm-1におけるフェノールレッド所定検量線の(式15)は、以下のとおりである:
フェノールレッド:y=5.9107x+34.724(@1436cm-1)(式15)
上記の1436cm-1におけるフェノールレッド所定検量線入力部30から入力され、記憶部32の第2格納領域に格納されている。
<フェノールレッド特有検量線>
図28は、1162cm-1におけるフェノールレッドのスペクトル強度(y)と濃度(x(mg/dl))の関係を示す検量線である。
1162cm-1におけるフェノールレッド特有検量線の(式16)は、以下のとおりである:
フェノールレッド:y=10.304x+33.441(@1162cm-1)(式16)
上記の1162cm-1におけるフェノールレッド特有検量線は入力部30から入力され、記憶部32の第2格納領域に格納されている。
ここで、本実施形態において、取得部40は、アンモニウムを含む細胞培地である試料に単一波長の励起光が照射されることで生じるラマン散乱光の波数ごとの強度分布を示すラマンスペクトルを取得する。
また、本実施形態において、抽出部42は、アンモニウムのための所定の波数である1436cm-1におけるスペクトル強度であって、アンモニウム由来のアンモニウムのスペクトル強度分と、グルコース由来のグルコースのスペクトル強度分、乳酸由来の乳酸のスペクトル強度分、アセトアルデヒド由来のアセトアルデヒドのスペクトル強度分、グルタミン由来のグルタミンのスペクトル強度分、HEPES由来のHEPESのスペクトル強度分、フェノールレッド由来のフェノールレッドのスペクトル強度分のうちの少なくとも1つを含む、1436cm-1におけるスペクトル強度と、他の波形と重ならず孤立して現れる、グルコースに特有の波数である1120cm-1におけるグルコース特有のスペクトル強度、乳酸に特有の波数である852cm-1における乳酸特有のスペクトル強度、アセトアルデヒドに特有の波数である928cm-1におけるアセトアルデヒド特有のスペクトル強度、グルタミンに特有の波数である1140cm-1におけるグルタミン特有のスペクトル強度、HEPESに特有の波数である1038cm-1におけるHEPES特有のスペクトル強度、およびフェノールレッドに特有の波数である1162cm-1におけるフェノールレッド特有のスペクトル強度のうちの少なくとも1つを抽出する。
また、本実施形態において、記憶部32は、1436cm-1におけるアンモニウムのスペクトル強度と濃度との関係を示すアンモニウム検量線、1436cm-1におけるグルコースのスペクトル強度と濃度との関係を示すグルコース所定検量線、1120cm-1におけるグルコースのスペクトル強度と濃度との関係を示すグルコース特有検量線、1436cm-1における乳酸のスペクトル強度と濃度との関係を示す乳酸所定検量線、852cm-1における乳酸のスペクトル強度と濃度との関係を示す乳酸特有検量線、1436cm-1におけるアセトアルデヒドのスペクトル強度と濃度との関係を示すアセトアルデヒド所定検量線、928cm-1におけるアセトアルデヒドのスペクトル強度と濃度との関係を示すアセトアルデヒド特有検量線、1436cm-1におけるグルタミンのスペクトル強度と濃度との関係を示すグルタミン所定検量線、1140cm-1におけるグルタミンのスペクトル強度と濃度との関係を示すグルタミン特有検量線、1436cm-1におけるHEPESのスペクトル強度と濃度との関係を示すHEPES所定検量線、1038cm-1におけるHEPESのスペクトル強度と濃度との関係を示すHEPES特有検量線、1436cm-1におけるフェノールレッドのスペクトル強度と濃度との関係を示すフェノールレッド所定検量線、1162cm-1におけるフェノールレッドのスペクトル強度と濃度との関係を示すフェノールレッド特有検量線のうちの少なくとも1つ、を記憶する。
また、本実施形態において、算出部46は、グルコース特有のスペクトル強度からグルコース特有検量線を用いたグルコースの濃度、乳酸特有のスペクトル強度から乳酸特有検量線を用いた乳酸の濃度、アセトアルデヒド特有のスペクトル強度からアセトアルデヒド特有検量線を用いたアセトアルデヒドの濃度、グルタミン特有のスペクトル強度からグルタミン特有検量線を用いたグルタミンの濃度、HEPES特有のスペクトル強度からHEPES特有検量線を用いたHEPESの濃度、フェノールレッド特有のスペクトル強度からフェノールレッド特有検量線を用いたフェノールレッドの濃度の少なくとも1つを算出し、グルコースの濃度からグルコース所定検量線を用いた1436cm-1におけるグルコースのスペクトル強度分、乳酸の濃度から乳酸所定検量線を用いた1436cm-1における乳酸のスペクトル強度分、アセトアルデヒドの濃度からアセトアルデヒド所定検量線を用いた1436cm-1におけるアセトアルデヒドのスペクトル強度分、グルタミンの濃度からグルタミン所定検量線を用いた1436cm-1におけるグルタミンのスペクトル強度分、HEPESの濃度からHEPES所定検量線を用いた1436cm-1におけるHEPESのスペクトル強度分、フェノールレッドの濃度からフェノールレッド所定検量線を用いた1436cm-1におけるフェノールレッドのスペクトル強度分の少なくとも1つを算出し、1436cm-1におけるスペクトル強度と、グルコースのスペクトル強度分、乳酸のスペクトル強度分、アセトアルデヒドのスペクトル強度分、グルタミンのスペクトル強度分、HEPESのスペクトル強度分、およびフェノールレッドのスペクトル強度分の少なくとも1つとから、1436cm-1におけるアンモニウムのスペクトル強度分を算出し、アンモニウムのスペクトル強度分から、アンモニウム検量線を用いて、アンモニウムの濃度を定量する。
[実施例3:アンモニウムの分析]
以下、ラマンスペクトルのピークからアンモニウムの濃度を定量した実施例を説明する。ただし、本発明は、この実験例に限定されるものではない。なお、細胞培地サンプル1は、グルコースの分析と同時分析したサンプルと同じであるので、説明を省略する。
アンモニウムを含む細胞培地サンプル1に対して785nmの単一波長のレーザー光を照射し、細胞培地サンプル1のラマンスペクトルを取得した。分析装置は、TSI社製、型番ProRaman-L-785-B1Sを用いた。アンモニウムの分析は、Sigma-Aldrich社のAmmonia Assay Kit (AA0100)を使用した。イオンクロマトは、日機装(株)7320可搬型イオンクロマト装置で、アンモニウムを所定の測定条件で測定した。
<細胞培地サンプル1のアンモニウム濃度>
上記グルコースの分析の実施例の結果から、細胞培地サンプル1のグルコース濃度は、285.8mg/dlであった。したがって(式8)から、
1436cm-1におけるグルコースのスペクトル強度=0.1234×285.8+71.878=107.14572
細胞培地において、細胞を培養する前の細胞培地には、乳酸は入っていない。細胞培地サンプル1は培養日数0日のサンプルであり、乳酸は代謝物であるため、細胞培地サンプル1の乳酸濃度を、0mg/dlとした。したがって(式9)から、
1436cm-1における乳酸のスペクトル強度=0.2572×0+73.409=73.409
細胞培地において、細胞を培養する前の細胞培地には、アセトアルデヒドは入っていない。細胞培地サンプル1は培養日数0日のサンプルであり、アセトアルデヒドは代謝物であるため、細胞培地サンプル1のアセトアルデヒド濃度を、0mg/dlとした。したがって(式11)から、
1436cm-1におけるアセトアルデヒドのスペクトル強度=0.4955×0+33.837=33.837
細胞培地サンプル1のグルタミン濃度は29.1mg/dlであった。したがって(式12)から、
1436cm-1におけるグルタミンのスペクトル強度=0.0947×29.1+124.78=127.527
細胞培地サンプル1のHEPES濃度は、94.55mg/dlであった。したがって(式14)から、
1436cm-1におけるHEPESのスペクトル強度=1.0737×94.55+118.78=220.298355
細胞培地サンプル1のフェノールレッド濃度は、10mg/dlであった。したがって(式15)から、
1436cm-1におけるフェノールレッドのスペクトル強度=5.9107×10+34.724=93.831
細胞培地サンプル1において、アンモニウム分析の波数である1436cm-1におけるスペクトル強度は688.2881であった。したがって、アンモニウム濃度は、アンモニウムモル質量=18.03g/molとして、(式7)から、
x=(688.2881-107.145-73.409-33.837-127.527-220.298355-93.831-70.752)/(0.0961×10×18.03)=-2.2mM
ゆえに、細胞培地サンプル1のアンモニウム濃度は-2.2mMであることが分かった。
<細胞培地サンプル2のアンモニウム濃度>
細胞培地サンプル2のグルコース濃度は、137mg/dlであった。したがって(式8)から、
1436cm-1におけるグルコースのスペクトル強度=0.1234×137+71.878=88.7838
細胞培地サンプル2の乳酸濃度は、29.7mg/dlであった。したがって(式9)から、
1436cm-1における乳酸のスペクトル強度=0.2572×29.7+73.409=81.04784
細胞培地サンプル2のアセトアルデヒド濃度は24.5mg/dlであった。したがって(式11)から、
1436cm-1におけるアセトアルデヒドのスペクトル強度=0.4955×24.5+33.837=45.97675
細胞培地サンプル2のグルタミン濃度は17.6mg/dlであった。したがって(式12)から、
1436cm-1におけるグルタミンのスペクトル強度=0.0947×17.6+124.78=126.44672
細胞培地サンプル2のHEPES濃度は、94.55mg/dlであった。したがって(式14)から、
1436cm-1におけるHEPESのスペクトル強度=1.0737×94.55+118.78=220.298
細胞培地サンプル2のフェノールレッド濃度は、10mg/dlであった。したがって(式15)から、
1436cm-1におけるフェノールレッドのスペクトル強度=5.9107×10+34.724=93.831
細胞培地サンプル2において、アンモニウム分析のためのスペクトルの波数である1436cm-1におけるスペクトル強度は829.5327であった。したがって、アンモニウム濃度は、アンモニウムモル質量=18.03g/molとして、(式7)から、
x=(829.5327-88.7838-81.04784-45.97675-126.44672-220.298-93.831-70.752)/(0.0961×10×18.03)=5.9mM
ゆえに、細胞培地サンプル2のアンモニウム濃度は5.9mMであることが分かった。
図29~32は、アンモニウムについて表5にある幾つかの異なるメーカの細胞培地で測定を行った場合のアンモニウムAssayに対する追従性を示す。各図において、日時を変えて計4回実験を行った結果が示されている。図33は、アンモニウムについて異なるメーカの細胞培地(REGM、StemFit、DMEM/F12、Essential6)のラマン分光計測による経時変化とイオンクロマトの結果を比較した図である。図から異なるメーカの種類の異なる細胞培地において、日時を変えても再現性良く測定でき、イオンクロマトとの指示傾向性も応答の良い結果であることが分かった。
本発明の実験により、アンモニウムのピークが他のピーク(グルコース、乳酸、アセトアルデヒド、グルタミン、HEPES、フェノールレッド)に嵩増しした形で検出されていることが分かっている。
上記構成は、本発明者により見出された以下の知見に基づいている:
[1]細胞培地におけるアンモニウムのラマンスペクトルの強度と濃度との間に、1436cm-1において線形性があることが判明した。すなわち、1436cm-1におけるアンモニウムのラマンスペクトルの強度と濃度の一方から他方を算出できることが判明した。
[2]細胞培地におけるグルコースのラマンスペクトルの強度と濃度との間に、1436cm-1と1120cm-1において線形性があることが判明した。すなわち、細胞培地におけるグルコースの1436cm-1と1120cm-1でのラマンスペクトルの強度と濃度の一方から他方を算出できることが判明した。
[3]細胞培地における乳酸のラマンスペクトルの強度と濃度との間に、1436cm-1と852cm-1において線形性があることが判明した。すなわち、細胞培地における乳酸の1436cm-1と852cm-1でのラマンスペクトルの強度と濃度の一方から他方を算出できることが判明した。
[4]細胞培地におけるアセトアルデヒドのラマンスペクトルの強度と濃度との間に、1436cm-1と928cm-1において線形性があることが判明した。すなわち、細胞培地におけるアセトアルデヒドの1436cm-1と928cm-1でのラマンスペクトルの強度と濃度の一方から他方を算出できることが判明した。
[5]細胞培地におけるグルタミンのラマンスペクトルの強度と濃度との間に、1436cm-1と1140cm-1において線形性があることが判明した。すなわち、細胞培地におけるグルタミンの1436cm-1と1140cm-1でのラマンスペクトルの強度と濃度の一方から他方を算出できることが判明した。
[6]細胞培地におけるHEPESのラマンスペクトルの強度と濃度との間に、1436cm-1と1038cm-1において線形性があることが判明した。すなわち、細胞培地におけるHEPESの1436cm-1と1038cm-1でのラマンスペクトルの強度と濃度の一方から他方を算出できることが判明した。
[7]細胞培地におけるフェノールレッドのラマンスペクトルの強度と濃度との間に、1436cm-1と1162cm-1において線形性があることが判明した。すなわち、細胞培地におけるフェノールレッドの1436cm-1と1162cm-1でのラマンスペクトルの強度と濃度の一方から他方を算出できることが判明した。
本発明の第1の実施の態様は、
細胞培地のラマンスペクトルからグルコースの濃度を定量する方法であって、
細胞培地がグルコースおよびグルコースの分析に影響を及ぼす成分を含んでいて、前記細胞培地のラマンスペクトルを取得し、
前記グルコース由来のグルコースのスペクトル強度分および前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分由来のグルコースの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分を含む、前記グルコースのための所定の波数におけるスペクトル強度と、前記所定の波数とは異なり、他の波形と重ならず孤立して現れる前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分に特有の波数におけるグルコースの分析に影響を及ぼす成分特有のスペクトル強度を抽出し、
前記特有の波数における前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度と濃度との関係を示すグルコースの分析に影響を及ぼす成分特有検量線を用いて、前記特有の波数における前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分特有のスペクトル強度から、前記細胞培地中の前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分の濃度を定量し、
前記所定の波数における前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度と濃度との関係を示すグルコースの分析に影響を及ぼす成分所定検量線を用いて、定量された前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分の濃度から、前記所定波数におけるグルコースの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分を算出し、
前記所定の波数における前記スペクトル強度と算出された前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分から、前記所定の波数における前記グルコースのスペクトル強度分を算出し、
前記所定の波数におけるグルコースのスペクトル強度と濃度との関係を示すグルコース検量線を用いて、算出された前記所定の波数における前記グルコースのスペクトル強度分から、前記細胞培地中のグルコースの濃度を定量することを含み、
前記グルコースのための前記所定の波数が、1120cm-1である、方法である。
これにより、得られたラマンスペクトルデータから細胞培地に含まれるグルコースの成分濃度を定量することができる。また得られたラマンスペクトルデータから細胞培地中のグルコース濃度を短時間で把握することができる。測定時に試薬などを使用しないため、消耗品が発生せず、ランニングコストの低減が期待できる。複数の濃度の異なるマトッリクスを含有する溶液を前処理せずにそのまま測定し、検出されたスペクトルから細胞培地中のグルコースの定量分析を行うことができる。ラマン分光分析では、一般的には、液体クロマトグラフィーのように測定対象物を分離することはなく、物質の分子構造や付与されている官能基から標準物質のスペクトルのデータベースと照合して定性および同定を行っている。これにより、混在する測定対象ではない物質の影響分を減算して細胞培地中のグルコース濃度を定量できる。
本発明の第2の実施の態様は、前記第1の実施の態様において、前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分がHEPESであり、前記HEPESに特有の波数が、1038cm-1であることである。
これにより、HEPES成分が細胞培地に含まれている場合、ラマンスペクトルの1038cm-1に特有のピークが出現しその再現性もあることが実験により確認されている。これにより、細胞培地中のHEPES成分の有無を確認でき、細胞培地中のHEPESを正確に定量することができる。
本発明の第3の実施の態様は、
前記第1または第2の実施の態様において、グルコース濃度の定量に加えて、乳酸の濃度をも定量する方法であって、前記乳酸の濃度を定量する方法が、
細胞培地が乳酸および乳酸の分析に影響を及ぼす成分を含んでいて、前記細胞培地のラマンスペクトルを取得し、
前記乳酸由来の乳酸のスペクトル強度分および前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分由来の乳酸の分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分を含む、前記乳酸のための所定の波数におけるスペクトル強度と、前記乳酸のための所定の波数とは異なり、他の波形と重ならず孤立して現れる前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分に特有の波数における乳酸の分析に影響を及ぼす成分特有のスペクトル強度を抽出し、
前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分に特有の波数における前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度と濃度との関係を示す乳酸の分析に影響を及ぼす成分特有検量線を用いて、前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分特有のスペクトル強度から、前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分の濃度を定量し、
前記乳酸のための所定の波数における前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度と濃度との関係を示す乳酸の分析に影響を及ぼす成分所定検量線を用いて、前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分の濃度から、前記乳酸のための所定波数における前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分を算出し、
前記乳酸のための所定の波数における前記スペクトル強度と前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分から、前記乳酸のための所定の波数における前記乳酸のスペクトル強度分を算出し、
前記乳酸のための所定の波数における前記乳酸のスペクトル強度と濃度との関係を示す乳酸検量線を用いて、前記乳酸のスペクトル強度分から、前記乳酸の濃度を定量することを含み、
前記乳酸のための前記所定の波数が、1084cm-1である、方法である。
これにより、得られたラマンスペクトルデータから細胞培地に含まれる乳酸の成分濃度を定量することができる。また得られたラマンスペクトルデータから細胞培地中の乳酸濃度を短時間で把握することができる。測定時に試薬などを使用しないため、消耗品が発生せず、ランニングコストの低減が期待できる。複数の濃度の異なるマトリックスを含有する溶液を前処理せずにそのまま測定し、検出されたスペクトルから細胞培地中の乳酸の定量分析を行うことができる。ラマン分光分析では、一般的には、液体クロマトグラフィーのように測定対象物を分離することはなく、物質の分子構造や付与されている官能基から標準物質のスペクトルのデータベースと照合して定性および同定を行っている。これにより、混在する測定対象ではない物質の影響分を減算して細胞培地中の乳酸濃度を定量できる。
本発明の第4の実施の態様は、前記第3の実施の態様において、前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分がグルコースであり、前記グルコースの前記特有の波数が、1120cm-1であることである。
これにより、グルコース成分が細胞培地に含まれている場合、ラマンスペクトルの1120cm-1に特有のピークが出現しその再現性もあることが実験により確認されている。これにより、細胞培地中のグルコース成分の有無を確認でき、細胞培地中のグルコースを正確に定量することができる。
本発明の第5の実施の態様は、
前記第1~3のいずれか1つの実施の態様において、グルコース濃度の定量、またはグルコース濃度および乳酸濃度の定量に加えて、アンモニウムの濃度をも定量する方法であって、前記アンモニウムの濃度を定量する方法が、
細胞培地がアンモニウムおよびアンモニウムの分析に影響を及ぼす成分を含んでいて、前記細胞培地のラマンスペクトルを取得し、
前記アンモニウム由来のアンモニウムのスペクトル強度分および前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分由来のアンモニウムの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分を含む、前記アンモニウムのための所定の波数におけるスペクトル強度と、前記所定の波数とは異なり、他の波形と重ならず孤立して現れる前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分に特有の波数におけるアンモニウムの分析に影響を及ぼす成分特有のスペクトル強度を抽出し、
前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分特有の波数における前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度と濃度との関係を示すアンモニウムの分析に影響を及ぼす成分特有検量線を用いて、前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分特有のスペクトル強度から、前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分の濃度を定量し、
前記アンモニウムのための所定の波数における前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度と濃度との関係を示すアンモニウムの分析に影響を及ぼす成分所定検量線を用いて、前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分の濃度から、前記アンモニウムのための所定の波数における前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分を算出し、
前記アンモニウムのための所定の波数における前記アンモニウムのスペクトル強度と前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分から、前記所定の波数における前記アンモニウムのスペクトル強度分を算出し、
前記アンモニウムのための所定の波数における前記アンモニウムのスペクトル強度と濃度との関係を示すアンモニウム検量線を用いて、前記アンモニウムのスペクトル強度分から、前記アンモニウムの濃度を定量することを含み、
前記アンモニウムのための前記所定の波数が、1436cm-1である、方法である。
これにより、得られたラマンスペクトルデータから細胞培地に含まれるアンモニウムの成分濃度を定量することができる。また得られたラマンスペクトルデータから細胞培地中のアンモニウム濃度を短時間で把握することができる。測定時に試薬などを使用しないため、消耗品が発生せず、ランニングコストの低減が期待できる。複数の濃度の異なるマトリックスを含有する溶液を前処理せずにそのまま測定し、検出されたスペクトルから細胞培地中のアンモニウムの定量分析を行うことができる。ラマン分光分析では、一般的には、液体クロマトグラフィーのように測定対象物を分離することはなく、物質の分子構造や付与されている官能基から標準物質のスペクトルのデータベースと照合して定性および同定を行っている。これにより、混在する測定対象ではない物質の影響分を減算して細胞培地中のアンモニウム濃度を定量できる。
本発明の第6の実施の態様は、第5の実施の態様において、前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分がグルコースを含み、前記グルコースの前記特有の波数が1120cm-1であることである。
これにより、グルコース成分が細胞培地に含まれている場合、ラマンスペクトルの1120cm-1に特有のピークが出現しその再現性もあることが実験により確認されている。これにより、細胞培地中のグルコース成分の有無を確認でき、細胞培地中のグルコースを正確に定量することができる。
本発明の第7の実施の態様は、第5または第6の実施の態様において、前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分が乳酸を含み、前記乳酸の前記特有の波数が852cm-1であることである。
これにより、乳酸成分が細胞培地に含まれている場合、ラマンスペクトルの852cm-1に特有のピークが出現しその再現性もあることが実験により確認されている。これにより、細胞培地中の乳酸成分の有無を確認でき、細胞培地中の乳酸を正確に定量することができる。
本発明の第8の実施の態様は、前記第5~7の実施の態様において、前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分がアセトアルデヒドを含み、前記アセトアルデヒドの前記特有の波数が928cm-1であることである。
これにより、アセトアルデヒド成分が細胞培地に含まれている場合、ラマンスペクトルの928cm-1に特有のピークが出現しその再現性もあることが実験により確認されている。これにより、細胞培地中のアセトアルデヒド成分の有無を確認でき、細胞培地中のアセトアルデヒドを正確に定量することができる。
本発明の第9の実施の態様は、前記第5~8の実施の態様において、前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分がグルタミンを含み、前記グルタミンの前記特有の波数が1140cm-1であることである。
これにより、グルタミン成分が細胞培地に含まれている場合、ラマンスペクトルの1140cm-1に特有のピークが出現しその再現性もあることが実験により確認されている。これにより、細胞培地中のグルタミン成分の有無を確認でき、細胞培地中のグルタミンを正確に定量することができる。
本発明の第10の実施の態様は、前記第5~9のいずれか1つの実施の態様において、前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分がHEPESを含み、前記HEPESの前記特有の波数が1038cm-1であることである。
これにより、HEPES成分が細胞培地に含まれている場合、ラマンスペクトルの1038cm-1に特有のピークが出現しその再現性もあることが実験により確認されている。これにより、細胞培地中のHEPES成分の有無を確認でき、細胞培地中のHEPESを正確に定量することができる。
本発明の第11の実施の態様は、前記第5~10のいずれか1つの実施の態様において、前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分がフェノールレッドを含み、前記フェノールレッドの前記特有の波数が1162cm-1であることである。
これにより、フェノールレッド成分が細胞培地に含まれている場合、ラマンスペクトルの1162cm-1に特有のピークが出現しその再現性もあることが実験により確認されている。これにより、細胞培地中のフェノールレッド成分の有無を確認でき、細胞培地中のフェノールレッドを正確に定量することができる。
本発明の第12の実施の態様は、前記第3または4の実施の態様において、グルコース濃度の定量および乳酸濃度の定量を、1つの分析装置において行うことである。
これにより、グルコースおよび乳酸の2つの成分を同時分析して検出し、これらを区別して濃度を定量することができる。一般的なラマン分光分析におけるスペクトルの処理では、得られたスペクトル強度とデータベースを照合し、物質の定性、もしくは、1成分毎に濃度算出をさせなければならない、という従来の課題を解決できる。高濃度のマトリックスが存在している細胞培地の成分分析を行うに際し、一斉分析にてグルコースおよび乳酸の2つの検出および濃度演算が可能となる。さらに、1回の測定でグルコース濃度、乳酸濃度を把握することができることから、イオンクロマトグラフィーや、血ガス計を用いなくても、1つの分析装置でグルコース濃度および乳酸濃度の定量分析を実施することができるため、消耗品が発生せず、ランニングコスト低減が期待できる。
本発明の第13の実施の態様は、前記第5~11のいずれか1つの実施の態様において、グルコース濃度の定量またはグルコース濃度および乳酸濃度の定量に加えて、アンモニウム濃度の定量を、1つの分析装置において行うことである。
これにより、グルコースおよびアンモニウム、またはグルコース、乳酸、およびアンモニウムを同時分析して検出し、これらを区別して濃度を定量することができる。一般的なラマン分光分析におけるスペクトルの処理では、得られたスペクトル強度とデータベースを照合し、物質の定性、もしくは、1成分毎に濃度算出をさせなければならない、という従来の課題を解決できる。高濃度のマトリックスが存在している細胞培地の成分分析を行うに際し、一斉分析にてグルコースおよびアンモニウム、またはグルコース、乳酸、およびアンモニウムの検出および濃度演算が可能となる。さらに1回の測定でグルコース濃度、乳酸濃度、アンモニウム濃度を把握することができることから、液体クロマトグラフィー、イオンクロマトグラフィーや、Ammonia Assay Kitなどを使用しなくて済むので、消耗品が発生せず、1つの分析装置で短時間でグルコース濃度、乳酸濃度、アンモニウム濃度を把握することができるため、コスト低減が期待できる。
10 分析機構
12 光源
14 リフレクタ
16 サンプル
18 光学系
20 モノクロメーター
22 回折格子
24 CCD検出器
26 分析装置
30 入力部
32 記憶部
34 制御部
36 表示部
40 取得部
42 抽出部
44 成分識別部
46 算出部
48 通知部

Claims (13)

  1. 細胞培地のラマンスペクトルからグルコースの濃度を定量する方法であって、
    細胞培地がグルコースおよびグルコースの分析に影響を及ぼす成分を含んでいて、前記細胞培地のラマンスペクトルを取得し、
    前記グルコース由来のグルコースのスペクトル強度分および前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分由来のグルコースの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分を含む、前記グルコースのための所定の波数におけるスペクトル強度と、前記所定の波数とは異なり、他の波形と重ならず孤立して現れる前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分に特有の波数におけるグルコースの分析に影響を及ぼす成分特有のスペクトル強度を抽出し、
    前記特有の波数における前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度と濃度との関係を示すグルコースの分析に影響を及ぼす成分特有検量線を用いて、前記特有の波数における前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分特有のスペクトル強度から、前記細胞培地中の前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分の濃度を定量し、
    前記所定の波数における前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度と濃度との関係を示すグルコースの分析に影響を及ぼす成分所定検量線を用いて、定量された前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分の濃度から、前記所定波数におけるグルコースの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分を算出し、
    前記所定の波数における前記スペクトル強度と算出された前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分から、前記所定の波数における前記グルコースのスペクトル強度分を算出し、
    前記所定の波数におけるグルコースのスペクトル強度と濃度との関係を示すグルコース検量線を用いて、算出された前記所定の波数における前記グルコースのスペクトル強度分から、前記細胞培地中のグルコースの濃度を定量することを含み、
    前記グルコースのための前記所定の波数が、1120cm-1である、方法。
  2. 前記グルコースの分析に影響を及ぼす成分がHEPESであり、前記HEPESに特有の波数が、1038cm-1である、請求項1に記載の方法。
  3. 請求項1または2に記載の方法において、グルコース濃度の定量に加えて、乳酸の濃度をも定量する方法であって、前記乳酸の濃度を定量する方法が、
    細胞培地が乳酸および乳酸の分析に影響を及ぼす成分を含んでいて、前記細胞培地のラマンスペクトルを取得し、
    前記乳酸由来の乳酸のスペクトル強度分および前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分由来の乳酸の分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分を含む、前記乳酸のための所定の波数におけるスペクトル強度と、前記乳酸のための所定の波数とは異なり、他の波形と重ならず孤立して現れる前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分に特有の波数における乳酸の分析に影響を及ぼす成分特有のスペクトル強度を抽出し、
    前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分に特有の波数における前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度と濃度との関係を示す乳酸の分析に影響を及ぼす成分特有検量線を用いて、前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分特有のスペクトル強度から、前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分の濃度を定量し、
    前記乳酸のための所定の波数における前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度と濃度との関係を示す乳酸の分析に影響を及ぼす成分所定検量線を用いて、前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分の濃度から、前記乳酸のための所定波数における前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分を算出し、
    前記乳酸のための所定の波数における前記スペクトル強度と前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分から、前記乳酸のための所定の波数における前記乳酸のスペクトル強度分を算出し、
    前記乳酸のための所定の波数における前記乳酸のスペクトル強度と濃度との関係を示す乳酸検量線を用いて、前記乳酸のスペクトル強度分から、前記乳酸の濃度を定量することを含み、
    前記乳酸のための前記所定の波数が、1084cm-1である、方法。
  4. 前記乳酸の分析に影響を及ぼす成分がグルコースであり、前記グルコースの前記特有の波数が、1120cm-1である、請求項3に記載の方法。
  5. 請求項1~4のいずれか1項に記載の方法において、グルコース濃度の定量、またはグルコース濃度および乳酸濃度の定量に加えて、アンモニウムの濃度をも定量する方法であって、前記アンモニウムの濃度を定量する方法が、
    細胞培地がアンモニウムおよびアンモニウムの分析に影響を及ぼす成分を含んでいて、前記細胞培地のラマンスペクトルを取得し、
    前記アンモニウム由来のアンモニウムのスペクトル強度分および前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分由来のアンモニウムの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分を含む、前記アンモニウムのための所定の波数におけるスペクトル強度と、前記所定の波数とは異なり、他の波形と重ならず孤立して現れる前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分に特有の波数におけるアンモニウムの分析に影響を及ぼす成分特有のスペクトル強度を抽出し、
    前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分特有の波数における前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度と濃度との関係を示すアンモニウムの分析に影響を及ぼす成分特有検量線を用いて、前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分特有のスペクトル強度から、前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分の濃度を定量し、
    前記アンモニウムのための所定の波数における前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度と濃度との関係を示すアンモニウムの分析に影響を及ぼす成分所定検量線を用いて、前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分の濃度から、前記アンモニウムのための所定の波数における前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分を算出し、
    前記アンモニウムのための所定の波数における前記アンモニウムのスペクトル強度と前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分のスペクトル強度分から、前記所定の波数における前記アンモニウムのスペクトル強度分を算出し、
    前記アンモニウムのための所定の波数における前記アンモニウムのスペクトル強度と濃度との関係を示すアンモニウム検量線を用いて、前記アンモニウムのスペクトル強度分から、前記アンモニウムの濃度を定量することを含み、
    前記アンモニウムのための前記所定の波数が、1436cm-1である、方法。
  6. 前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分がグルコースを含み、前記グルコースの前記特有の波数が1120cm-1である、請求項5に記載の方法。
  7. 前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分が乳酸を含み、前記乳酸の前記特有の波数が852cm-1である、請求項5または6に記載の方法。
  8. 前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分がアセトアルデヒドを含み、前記アセトアルデヒドの前記特有の波数が928cm-1である、請求項5~7のいずれか1項に記載の方法。
  9. 前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分がグルタミンを含み、前記グルタミンの前記特有の波数が1140cm-1である、請求項5~8のいずれか1項に記載の方法。
  10. 前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分がHEPESを含み、前記HEPESの前記特有の波数が1038cm-1である、請求項5~9のいずれか1項に記載の方法。
  11. 前記アンモニウムの分析に影響を及ぼす成分がフェノールレッドを含み、前記フェノールレッドの前記特有の波数が1162cm-1である、請求項5~10のいずれか1項に記載の方法。
  12. グルコース濃度の定量および乳酸濃度の定量を、1つの分析装置において行う、請求項3または4に記載の方法。
  13. グルコース濃度の定量またはグルコース濃度および乳酸濃度の定量に加えて、アンモニウム濃度の定量を、1つの分析装置において行う、請求項5~11のいずれか1項に記載の方法。
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