JP2023074305A - 原料ナフサの選択方法及び低級オレフィンの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】管式加熱法又はスチーム・クラッキング法により、エーテルを含有するナフサを分解して低級オレフィンを製造するにあたり、メタノール生成濃度の低い良質な原料ナフサを選択する方法を提供する。【解決手段】選択対象ナフサから、管式加熱法又はスチーム・クラッキング法により低級オレフィンを製造するための原料ナフサを選択する方法において、比重が0.60g/ml以上0.80g/ml以下であるナフサを候補材料として選定することと、ガスクロマトグラフィー法を用いて、前記候補材料に含まれる、非対称構造を有するエーテルの含有量を算出すること、を備え、前記非対称構造を有するエーテルの含有量が、該エーテルに由来する酸素原子の含有量に換算して20,000質量ppm以下である前記候補材料を、低級オレフィンの製造に用いる原料ナフサとして選択する、原料ナフサの選択方法。【選択図】図1
Description
本発明は、管式加熱法又はスチーム・クラッキング法により低級オレフィンを製造するための原料ナフサの選択方法に関する。
さらに、本発明は前記選択方法により選択された原料ナフサを熱分解することを含む低級オレフィンの製造方法に関する。
さらに、本発明は前記選択方法により選択された原料ナフサを熱分解することを含む低級オレフィンの製造方法に関する。
Very Large Crude(Oil)Carrier(以下、「VLCC」と称する。)で運ばれてきたナフサは、エチレンやプロピレン等の石油化学製品を製造するエチレンプラントに供される前に、一旦ナフサタンクに揚げられる。ナフサは、その産出地により含有成分や性状に違いがあるため、上記の石油化学製品製造プロセスでは、運ばれてきたナフサをそのままエチレンプラントに供給することもあれば、或いは又、運ばれてきたナフサを予めタンク内に貯蔵されたナフサに適当な混合比率で混合したり、或いは、1つまたは2つ以上のタンク内に貯蔵されたナフサを適当な混合比率で混合したりしてエチレンプラントに供給して、各種石油化学製品の製造が行われる。
エチレンやプロピレン等の低級オレフィンの代表的な製造方法としては、ナフサ(30~230℃程度の沸点範囲をもつ原油由来の炭化水素混合物)を水蒸気の存在下に熱分解(スチーム・クラッキング)する方法が知られている(例えば特許文献1)。
ナフサには、含酸素化合物が含まれており、ナフサを熱分解して各種低級オレフィンを製造する際、含酸素化合物の熱分解物に由来するメタノールを生成する場合がある。なお、ナフサに含まれる含酸素化合物は種々存在するが、それら含酸素化合物からメタノールが生成する割合は一定ではなく、その詳細は明らかにされていない。
含酸素化合物の熱分解物に由来するメタノールは、プロピレン等の製品低級オレフィンに混入すると、プロピレン等の低級オレフィンを重合する際に用いる触媒の性能を低下させるという問題があった。
含酸素化合物の熱分解物に由来するメタノールは、プロピレン等の製品低級オレフィンに混入すると、プロピレン等の低級オレフィンを重合する際に用いる触媒の性能を低下させるという問題があった。
このため、ナフサ中の含酸素化合物の含有濃度がナフサの品質の良否の判断基準とされており、通常、ナフサの購入者は、購入したナフサの含酸素化合物含有量を分析し、含酸素化合物含有量が所定値以下のナフサに、他のナフサをブレンドせずに低級オレフィンの製造に用いることもあれば、一方で、含酸素化合物含有量が多いナフサには、含酸素化合物含有濃度が低いナフサをブレンドし、ナフサ中の含酸素化合物の含有濃度を低減してから、低級オレフィンの製造に用いている。
前述のとおり、従来、ナフサに含まれる含酸素化合物の種類と、該含酸素化合物の熱分解に由来するメタノールの生成量との関係についての詳細は明らかにされていなかった。そのため、ナフサ中の含酸素化合物の含有濃度からナフサを選択しても、必ずしもその含有濃度に、実際に熱分解により低級オレフィンを製造した際のメタノール生成濃度が比例するとは限らなかった。即ち、メタノール生成濃度の低い良質なナフサを的確に選択する方法はこれまで知られていなかった。
本発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、管式加熱法又はスチーム・クラッキング法により、エーテルを含有するナフサを分解して低級オレフィンを製造するにあたり、メタノール生成濃度の低い良質な原料ナフサを選択する原料ナフサの選択方法を提供することを課題とする。さらに、本発明は、該選択方法により選択された原料ナフサを用いて、メタノール含有量の少ない低級オレフィンを製造する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、含酸素化合物の中でもエーテル結合の酸素原子に対して非対称構造を有する特定のエーテルが、ナフサの熱分解工程において分子中の特定の結合が選択的に分解し易く、特に、分解によりメタノールを生成し易いこと、該非対称構造を有する特定のエーテル、より好ましくは非対称構造を有する特定のエーテルの、エーテル結合の酸素原子に結合する2つの炭素原子の電荷の値の差の絶対値ΔE[単位:e]が所定値以上であるエーテルに由来する酸素原子の含有量で、ナフサの良否を判定でき、メタノール生成濃度の低い良質な原料ナフサを選択できるとの知見を得、この知見に基づき本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
本発明の第1の要旨は、選択対象ナフサから、管式加熱法又はスチーム・クラッキング法により低級オレフィンを製造するための原料ナフサを選択する方法において、比重が0.60g/ml以上0.80g/ml以下であるナフサを候補材料として選定することと、ガスクロマトグラフィー法を用いて、前記候補材料に含まれる、非対称構造を有するエーテルの含有量を算出すること、を備え、前記非対称構造を有するエーテルの含有量が、該エーテルに由来する酸素原子の含有量に換算して20,000質量ppm以下である前記候補材料を、低級オレフィンの製造に用いる原料ナフサとして選択する、原料ナフサの選択方法に関する。
本発明の第2の要旨は、前記選択方法により選択された原料ナフサを熱分解することを含む低級オレフィンの製造方法において、前記エーテルの、エーテル結合を構成している酸素原子と結合する2つの炭素原子について、密度汎関数法によって求めた、一方の炭素原子の電荷E1と他方の炭素原子の電荷E2との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)[単位:e]、及び、得られた低級オレフィンにおけるメタノール生成比率Bが、下記式(1)及び(2)を満たす、低級オレフィンの製造方法に関する。
0.05≦ΔE 式(1)
B≦1.25×ΔE+0.10 式(2)
但し、eは電子素量を意味し、e=1.602176634×10-19[単位:C]である。
本発明の第2の要旨は、前記選択方法により選択された原料ナフサを熱分解することを含む低級オレフィンの製造方法において、前記エーテルの、エーテル結合を構成している酸素原子と結合する2つの炭素原子について、密度汎関数法によって求めた、一方の炭素原子の電荷E1と他方の炭素原子の電荷E2との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)[単位:e]、及び、得られた低級オレフィンにおけるメタノール生成比率Bが、下記式(1)及び(2)を満たす、低級オレフィンの製造方法に関する。
0.05≦ΔE 式(1)
B≦1.25×ΔE+0.10 式(2)
但し、eは電子素量を意味し、e=1.602176634×10-19[単位:C]である。
本発明によれば、熱分解における低級オレフィン製造時のメタノール生成量の少ないナフサをより的確に選択し、このような原料ナフサを用いてメタノール含有濃度の低い低級オレフィンを製造することができる。具体的には、ナフサの比重が所定の範囲内にあり、且つ、ナフサ中の特定のエーテル、具体的には非対称構造を有するエーテルに由来する酸素原子の含有量が所定値以下である場合に、メタノール生成濃度の低い良質な原料ナフサとして的確に選択することができる。
さらに、本発明によれば、ナフサ中の特定のエーテル、具体的にはエーテル結合を構成している酸素原子と結合する2つの炭素原子について、密度汎関数法によって求めた、一方の炭素原子の電荷E1と他方の炭素原子の電荷E2との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)が0.05[単位:e]以上であるエーテルに由来する酸素原子の含有量から、メタノール生成濃度の低い良質な原料ナフサを、より的確に選択することができる。
このため、例えば、含酸素化合物の含有濃度が高いために安価なナフサの中から、ΔEが0.05[単位:e]以上のエーテルに由来する酸素原子の含有量の低いナフサを選択して、安価な原料ナフサを用いた上でメタノール生成濃度を抑えて高純度の低級オレフィンを製造することができる。また、含酸素化合物の含有濃度が高いナフサであっても、ΔEが0.05e以上のエーテルに由来する酸素原子の含有量が低いものであれば、含酸素化合物含有濃度の低いナフサをブレンドすることなく、そのまま原料ナフサとして用いることができる。
このため、例えば、含酸素化合物の含有濃度が高いために安価なナフサの中から、ΔEが0.05[単位:e]以上のエーテルに由来する酸素原子の含有量の低いナフサを選択して、安価な原料ナフサを用いた上でメタノール生成濃度を抑えて高純度の低級オレフィンを製造することができる。また、含酸素化合物の含有濃度が高いナフサであっても、ΔEが0.05e以上のエーテルに由来する酸素原子の含有量が低いものであれば、含酸素化合物含有濃度の低いナフサをブレンドすることなく、そのまま原料ナフサとして用いることができる。
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
なお、特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
本発明において、「低級オレフィン」とは、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素を意味し、具体的にはエチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、1,2-ブタジエン及び1,3-ブタジエンが挙げられる。
[原料ナフサの選択方法]
本発明の原料ナフサの選択方法は、選択対象ナフサから、管式加熱法又はスチーム・クラッキング法により低級オレフィンを製造するための原料ナフサを選択する方法において、比重が0.60g/ml以上0.80g/ml以下であるナフサを候補材料として選定することと、ガスクロマトグラフィー法を用いて、前記候補材料に含まれる、非対称構造を有するエーテル(以下、「非対称エーテル」と称す場合がある。)の含有量を算出すること、を備え、前記非対称構造を有するエーテルの含有量が、該エーテルに由来する酸素原子(以下、「エーテル酸素原子」又は「非対称エーテル酸素原子」と称す場合がある。)の含有量に換算して20,000質量ppm以下である前記候補材料を、低級オレフィンの製造に用いる原料ナフサとして選択する。
本発明の原料ナフサの選択方法は、選択対象ナフサから、管式加熱法又はスチーム・クラッキング法により低級オレフィンを製造するための原料ナフサを選択する方法において、比重が0.60g/ml以上0.80g/ml以下であるナフサを候補材料として選定することと、ガスクロマトグラフィー法を用いて、前記候補材料に含まれる、非対称構造を有するエーテル(以下、「非対称エーテル」と称す場合がある。)の含有量を算出すること、を備え、前記非対称構造を有するエーテルの含有量が、該エーテルに由来する酸素原子(以下、「エーテル酸素原子」又は「非対称エーテル酸素原子」と称す場合がある。)の含有量に換算して20,000質量ppm以下である前記候補材料を、低級オレフィンの製造に用いる原料ナフサとして選択する。
<非対称エーテル酸素原子の含有量に基づく選択のメカニズム>
エーテルは、ナフサに含まれる化合物である。
本発明に係る非対称エーテルは、エーテル酸素原子に対して非対称構造を有する。
エーテルは、ナフサに含まれる化合物である。
本発明に係る非対称エーテルは、エーテル酸素原子に対して非対称構造を有する。
この非対称エーテルの中でも、非対称エーテル酸素原子と結合する2つの炭素原子について、密度汎関数法によって求めた、一方の炭素原子の電荷E1[単位:e]と他方の炭素原子の電荷E2[単位:e]との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)が0.05[単位:e]以上である非対称エーテルの酸素原子含有量に基づいて原料ナフサを選択することで、これを熱分解して得られる低級オレフィン中のメタノールの含有量をより効果的に低減することができる。
なお、本明細書において、「e」は電子素量を意味し、e=1.602176634×10-19[単位:C]である。
前記2つの炭素原子の電荷の値は、前記エーテルの分子構造について、密度汎関数法(DFT)計算を行い算出される。DFTの計算条件には、基底関数系としてdef-TZVPを使用し、溶媒効果としてCOSMO溶媒和モデル(COnductor like Screening MOdel)を採用し、解析方法としてMullikenの電荷密度解析法(Population Analysis)を用いることができる。
前記ΔEの計算には、量子化学計算ソフト「TURBOMOLE」(TURBOMOLE社製)及びTURBOMOLE用のグラフィカルユーザーインターフェイス「TmoleX」(TURBOMOLE社製)を使用できる。
なお、本明細書において、「e」は電子素量を意味し、e=1.602176634×10-19[単位:C]である。
前記2つの炭素原子の電荷の値は、前記エーテルの分子構造について、密度汎関数法(DFT)計算を行い算出される。DFTの計算条件には、基底関数系としてdef-TZVPを使用し、溶媒効果としてCOSMO溶媒和モデル(COnductor like Screening MOdel)を採用し、解析方法としてMullikenの電荷密度解析法(Population Analysis)を用いることができる。
前記ΔEの計算には、量子化学計算ソフト「TURBOMOLE」(TURBOMOLE社製)及びTURBOMOLE用のグラフィカルユーザーインターフェイス「TmoleX」(TURBOMOLE社製)を使用できる。
一般的に、前記ΔEが大きいエーテルは、エーテル酸素原子に対して非対称構造を有する、非対称エーテルである。本発明者らは、非対称エーテルは、熱分解条件下で熱分解してメタノールを生成し易い傾向があることを見出した。
さらに本発明者らは、エーテルのΔEが大きいほど、エーテル酸素原子に結合する2つの炭素原子間に電荷の偏りがあるため、このようなエーテルは熱分解条件下で熱分解してメタノールを生成し易い傾向があることを見出した。
さらに本発明者らは、エーテルのΔEが大きいほど、エーテル酸素原子に結合する2つの炭素原子間に電荷の偏りがあるため、このようなエーテルは熱分解条件下で熱分解してメタノールを生成し易い傾向があることを見出した。
さらに、本発明者らは、ナフサ中の非対称エーテル、より好ましくは前記ΔE[単位:e]が0.05以上である非対称エーテルに由来する酸素原子の含有量が20,000質量ppm以下のナフサであれば、これを熱分解して得られた低級オレフィン中のメタノールの含有濃度をより顕著に低減できることを見出した。
例えば、エーテル酸素原子に対して非対称構造を有する非対称エーテルとして、2-メトキシブタン(CH3CH2CH(CH3)-O-CH3)、メトキシシクロペンタン(C5H9-O-CH3)、1-メトキシプロパン(CH3CH2CH2-O-CH3)は、ΔE[単位:e]がそれぞれ0.181、0.151、0.084であり、ΔEが大きく、電荷の偏りが大きいため、分子中の特定の結合が選択的に分解され易い。その結果、これらのエーテルを含有するナフサの熱分解工程において、前記エーテルはメタノールを生成し易い。
一方、エーテル酸素原子に対して対称構造を有するエーテル(以下、「対称エーテル」という。)として、ジメチルエーテル(CH3-O-CH3)、ジエチルエーテル(CH3-CH2-O-CH2-CH3)、ジイソプロピルエーテル((CH3)2CH-O-CH(CH3)2)、ジプロピルエーテル(CH3-CH2-CH2-O-CH2-CH2-CH3)は、ΔE[単位:e]がそれぞれ0.004、0.001、0.010、0.000であり、ΔEが小さく、電荷の偏りが小さいため、分子中の特定の結合が選択的に分解されるということが起こりにくい。その結果、これらの対称エーテルを含有するナフサの熱分解工程において、前記対称エーテルはメタノールを生成し難い。
本発明のナフサの選択方法では、候補材料の中でも、非対称エーテル酸素原子の含有量が20,000質量ppm以下のナフサを低級オレフィン製造用原料ナフサとして選択し、この原料ナフサを低級オレフィンの製造原料として用いることで、メタノール生成量を抑えて製品価値の高い低級オレフィンを製造することができる。
<候補材料の選定>
本発明の原料ナフサの選択方法では、まず、選択対象ナフサの比重を測定し、比重が0.60g/ml以上0.80g/ml以下のものを候補材料として選定する。
ナフサ密度とナフサの組成には相関関係があることが知られており、本発明における低級オレフィン、すなわち、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素を、副生成物の生成を抑制し、且つ、高い収率で製造することができる観点から、ナフサの比重は0.60g/ml以上0.8g/ml以下であることが好ましく、0.66g/ml以上0.71g/ml以下であることがより好ましい。
ナフサの比重はJIS K2249-1:2011を用いて測定できる。
本発明の原料ナフサの選択方法では、まず、選択対象ナフサの比重を測定し、比重が0.60g/ml以上0.80g/ml以下のものを候補材料として選定する。
ナフサ密度とナフサの組成には相関関係があることが知られており、本発明における低級オレフィン、すなわち、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素を、副生成物の生成を抑制し、且つ、高い収率で製造することができる観点から、ナフサの比重は0.60g/ml以上0.8g/ml以下であることが好ましく、0.66g/ml以上0.71g/ml以下であることがより好ましい。
ナフサの比重はJIS K2249-1:2011を用いて測定できる。
候補材料の選定において、更に選択対象ナフサの直鎖状パラフィンの含有量P1と分岐状パラフィンの含有量P2を測定し、上記比重を満たすと共に、直鎖状パラフィンの含有量P1及び分岐状パラフィンの含有量P2がそれぞれ20質量%以上70質量%以下のものを候補材料として選定してもよい。
直鎖状パラフィン、分岐状パラフィンの含有量がそれぞれ上記範囲内のものであれば、本発明における低級オレフィン、すなわち、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素を、副生成物の生成を抑制し、且つ、高い収率で製造することができる。直鎖状パラフィン、分岐状パラフィンの含有量はより好ましくはそれぞれ25質量%以上65質量%以下である。
この場合、更に、直鎖状パラフィンの含有量P1の分岐状パラフィンの含有量P2に対する比率(P1/P2)を求め、このP1/P2が0.3以上3.5以下であるナフサを、候補材料として選定してもよい。P1/P2が上記範囲内であれば、本発明における低級オレフィン、すなわち、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素を、副生成物の生成を抑制し、且つ、高い収率で製造することができる。P1/P2はより好ましくは0.5以上2.5以下である。
直鎖状パラフィン、分岐状パラフィンの含有量がそれぞれ上記範囲内のものであれば、本発明における低級オレフィン、すなわち、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素を、副生成物の生成を抑制し、且つ、高い収率で製造することができる。直鎖状パラフィン、分岐状パラフィンの含有量はより好ましくはそれぞれ25質量%以上65質量%以下である。
この場合、更に、直鎖状パラフィンの含有量P1の分岐状パラフィンの含有量P2に対する比率(P1/P2)を求め、このP1/P2が0.3以上3.5以下であるナフサを、候補材料として選定してもよい。P1/P2が上記範囲内であれば、本発明における低級オレフィン、すなわち、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素を、副生成物の生成を抑制し、且つ、高い収率で製造することができる。P1/P2はより好ましくは0.5以上2.5以下である。
ナフサ中の直鎖状パラフィン及び分岐状パラフィンの含有量は、ガスクロマトグラフィー法により測定することができる。
<候補材料からの原料ナフサの選択>
本発明では、上記のようにして選定された候補材料について、ガスクロマトグラフィー法により非対称エーテルの含有量を測定し、非対称エーテル酸素原子の含有量としての換算値が20,000質量ppm以下であるものを原料ナフサとして選択する。
ナフサ中の非対称エーテル酸素原子の含有量が20,000質量ppm以下であれば、このナフサを原料ナフサとして熱分解して得られる低級オレフィン中の生成メタノールの含有量を低減できる。選択する原料ナフサの非対称エーテル酸素原子含有量の値は、1,000質量ppm以下であることが好ましく、100質量ppm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは50質量ppm以下である。
本発明では、上記のようにして選定された候補材料について、ガスクロマトグラフィー法により非対称エーテルの含有量を測定し、非対称エーテル酸素原子の含有量としての換算値が20,000質量ppm以下であるものを原料ナフサとして選択する。
ナフサ中の非対称エーテル酸素原子の含有量が20,000質量ppm以下であれば、このナフサを原料ナフサとして熱分解して得られる低級オレフィン中の生成メタノールの含有量を低減できる。選択する原料ナフサの非対称エーテル酸素原子含有量の値は、1,000質量ppm以下であることが好ましく、100質量ppm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは50質量ppm以下である。
一方で、原料ナフサとして選択するナフサの非対称エーテル酸素原子含有量の値の下限は特に限定されない。通常は、一般的な分析機器であるGC及びGC/MS測定による定量下限値から0.1質量ppm以上であるが、0.2質量ppm以上であることが好ましく、0.5質量ppm以上であることがより好ましく、1質量ppm以上であることがさらに好ましく、10質量ppm以上であることが特に好ましく、20質量ppm以上であることが最も好ましい。
なお、原料ナフサの選択において、測定対象とする非対称エーテルは、エーテル酸素原子と結合する2つの炭素原子について、密度汎関数法によって求めた、一方の炭素原子の電荷E1と他方の炭素原子の電荷E2との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)が0.05[単位:e]以上であることが、本発明により選択した原料ナフサを熱分解して得られる低級オレフィン中のメタノールの含有量をより効果的に低減することができる観点からが好ましい。
本発明に係る非対称エーテルとしては、2-メトキシブタン(CH3CH2CH(CH3)-O-CH3)、メトキシシクロペンタン(C5H9-O-CH3)、1-メトキシプロパン(CH3CH2CH2-O-CH3)等が挙げられるが、何らこれらに限定されない。
前記非対称エーテルは、本発明により選択した原料ナフサを熱分解して得られる低級オレフィン中の生成メタノールの含有量を効果的に低減できることから、分子中にエーテル酸素原子を1つのみ有するモノエーテルであることが好ましい。
さらに、前記ΔE[単位:e]が0.05以上の非対称エーテルは、分子中の少なくとも1つのエーテル結合のΔEの値が0.05以上のものであるが、ΔEの値とメタノールの生成量との相関性が高いため、得られる低級オレフィン中の生成メタノールの含有量を効果的に低減できることから、分子中にエーテル酸素原子を1つのみ有するモノエーテルであることが好ましい。
また、前記非対称エーテル、好ましくは、前記ΔEが0.05以上の非対称エーテルは、2-メトキシブタン、メトキシシクロペンタン、1-メトキシプロパンのように、エーテル酸素原子と結合する2つの炭素原子の一方がメチル基の炭素原子であることが、得られる低級オレフィン中の生成メタノールの含有量をより効果的に低減できることから、好ましい。
なお、エーテルが、1分子中に2以上のエーテル結合を有する場合には、各エーテル結合部のΔEは各々のエーテル酸素原子に結合する2つの炭素原子の電荷の差の絶対値として求められ、前記エーテルのΔEは、2以上のΔEの中で最も大きい値のことをいう。
<選択対象ナフサ>
本発明で候補材料を選定し、更に原料ナフサを選択する選択対象ナフサとは、タンクに貯蔵されているナフサ(在庫ナフサ)であってもよく、系外から運ばれてきてこの在庫ナフサに混合される受入ナフサであってもよく、タンク内で在庫ナフサと受入ナフサとが混合された混合ナフサであってもよい。本発明は、特に在庫ナフサを有するタンク内に受入ナフサを受け入れて混合した後の混合ナフサからの原料ナフサの選択に好適である。
本発明で候補材料を選定し、更に原料ナフサを選択する選択対象ナフサとは、タンクに貯蔵されているナフサ(在庫ナフサ)であってもよく、系外から運ばれてきてこの在庫ナフサに混合される受入ナフサであってもよく、タンク内で在庫ナフサと受入ナフサとが混合された混合ナフサであってもよい。本発明は、特に在庫ナフサを有するタンク内に受入ナフサを受け入れて混合した後の混合ナフサからの原料ナフサの選択に好適である。
本発明の原料ナフサの選択方法により原料ナフサとして選択されたナフサは、低級オレフィンの製造原料ナフサとして低級オレフィンの製造工程に送給される。
一方、本発明の原料ナフサの選択方法により原料ナフサとして選択されたなかったナフサは別のナフサを混合するなどして、選択基準を満たすように調整した後、低級オレフィン製造の原料ナフサとして低級オレフィンの製造工程に送給することができる。
即ち、例えば、候補材料のうち、非対称エーテル酸素原子含有量が20,000質量ppmを超えるものは、別途非対称エーテル酸素原子含有量が20,000質量ppm未満の候補材料を混合して非対称エーテル酸素原子含有量20,000質量ppm以下に調整して低級オレフィンの製造の原料ナフサとして低級オレフィンの製造工程に送給することができる。
一方、本発明の原料ナフサの選択方法により原料ナフサとして選択されたなかったナフサは別のナフサを混合するなどして、選択基準を満たすように調整した後、低級オレフィン製造の原料ナフサとして低級オレフィンの製造工程に送給することができる。
即ち、例えば、候補材料のうち、非対称エーテル酸素原子含有量が20,000質量ppmを超えるものは、別途非対称エーテル酸素原子含有量が20,000質量ppm未満の候補材料を混合して非対称エーテル酸素原子含有量20,000質量ppm以下に調整して低級オレフィンの製造の原料ナフサとして低級オレフィンの製造工程に送給することができる。
[低級オレフィンの製造方法]
本発明の低級オレフィンの製造方法は、本発明の原料ナフサの選択方法により選択された原料ナフサを熱分解することを含む低級オレフィンの製造方法において、前記ΔE[単位:e]、及び、得られた低級オレフィンにおけるメタノール生成比率Bが、下記式(1)及び(2)を満たす低級オレフィンの製造方法であり、この方法により、メタノールの含有量が低減された低級オレフィンを得ることができる。
0.05≦ΔE 式(1)
B≦1.25×ΔE+0.10 式(2)
本発明の低級オレフィンの製造方法は、本発明の原料ナフサの選択方法により選択された原料ナフサを熱分解することを含む低級オレフィンの製造方法において、前記ΔE[単位:e]、及び、得られた低級オレフィンにおけるメタノール生成比率Bが、下記式(1)及び(2)を満たす低級オレフィンの製造方法であり、この方法により、メタノールの含有量が低減された低級オレフィンを得ることができる。
0.05≦ΔE 式(1)
B≦1.25×ΔE+0.10 式(2)
前述のとおり、メタノールは、低級オレフィンを重合する際の重合触媒に悪影響を与える。前記式(1)及び(2)を満たす条件で、本発明により選択された原料ナフサを熱分解して得られた低級オレフィンは、メタノールの含有量が低減されているため、プロピレン等の低級オレフィンを製造する場合に有効である。
前記式(2)は、B≦1.25×ΔE+0.05を満たす条件であることがより好ましい。
なお、前記メタノール生成比率Bは、ナフサを熱分解する際に生成するメタノールの生成割合を示す指標であり、「ナフサに含まれるエーテル中の酸素原子数」に対する、「凝縮水に含まれるメタノール中の酸素原子数」の比率を意味する。メタノール生成比率Bの具体的な測定は実験例の項に記載した。
本発明の低級オレフィンの製造方法は、本発明の選択方法により選択された原料ナフサを用いて常法に従って行うことができる。
即ち、前記原料ナフサを、水蒸気の存在下、700~1000℃の温度において熱分解(スチーム・クラッキング)させることにより低級オレフィンを得る。
熱分解の条件のうち、ナフサと水蒸気との比率は、ナフサ100質量部に対して水蒸気20~100質量部であることが好ましく、30~70質量部であることが更に好ましく、35~60質量部であることが特に好ましい。水蒸気量が20質量部未満の場合には、熱分解炉内に設置された分解反応を行うための配管への炭素質物質の沈着が多くなる傾向にある。他方、水蒸気量が100質量部を超える場合には、水蒸気に与える熱量が増大し、装置にかかるエネルギー負荷が過大なものとなる。
また、熱分解の反応温度は、通常700~1000℃であり、好ましくは750~950℃である。反応温度が700℃未満の場合はナフサの熱分解が十分に進行せず、目的とする低級オレフィンの収率が低下する。他方、反応温度が1000℃を超える場合には、ナフサの熱分解が過剰となり、メタン等の好ましくない副生成物の発生が増加して、目的とする低級オレフィンの収率が低下する傾向となる。
また、熱分解の反応時間は、好ましくは0.01~1秒、より好ましくは0.04~0.7秒である。反応時間が0.01秒未満の場合はナフサの熱分解が十分に進行せず、目的とする低級オレフィンの収率が低下する傾向となる。他方、反応時間が1秒を超える場合には、ナフサの熱分解が過剰となり、メタン等の好ましくない副生成物の発生が増加して目的とする低級オレフィンの収率が低下する傾向となる。
また、熱分解の反応圧力は、好ましくは0.01~1.5MPa(ゲージ圧力)、より好ましくは0.05~0.5MPa(ゲージ圧力)、さらに好ましくは0.07~0.2MPa(ゲージ圧力)である。
熱分解の反応域を出た反応生成物は、急冷することによって、過剰な分解の進行を抑制することができる。冷却温度は、特に限定されないが、例えば、工業的スケールで実施する場合は、好ましくは200~700℃、より好ましくは250~650℃とすることができ、パイロットや実験室等の小スケールで実施する場合は、好ましくは0~100℃、より好ましくは3~40℃とすることができる。
このようにして得られる低級オレフィンを含む反応生成物については、常法に従って、精製、分画等の処理を行うことができる。これにより、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン等の低級オレフィン、芳香族炭化水素類、その他の炭化水素類がそれぞれ得られる。また、エタン、プロパン等の飽和炭化水素は、回収して再び熱分解に供することができる。なお、低級オレフィンのうちブテン及びブタジエンは、通常、ブタンとの混合物として得られる。そのため、別工程にてブタジエンを溶媒抽出により単離し、抽出残であるブテン及びブタンの混合物については別工程で重合、精留等により利用、分画することが好ましい。
本発明の低級オレフィンの製造方法によれば、低級オレフィン製造時のメタノールの生成が抑えられ、メタノール含有量の少ない低級オレフィンを製造することができる。
例えば、本発明の低級オレフィンの製造方法を用いることで、プロピレン製造時のメタノールの生成が抑えられ、メタノール含有量の少ないプロピレンを製造することができる。
例えば、本発明の低級オレフィンの製造方法を用いることで、プロピレン製造時のメタノールの生成が抑えられ、メタノール含有量の少ないプロピレンを製造することができる。
前述のとおり、メタノールは、プロピレン等の低級オレフィンを重合する際の重合触媒に悪影響を与えることから、本発明の製造方法は、プロピレン等の低級オレフィンを製造する場合に有効である。
本発明の低級オレフィンの製造方法により製造されたプロピレン等の低級オレフィン中のメタノールの含有量は、特に限定されないが、低級オレフィンの総質量に対して、好ましくは10,000質量ppm以下であり、より好ましくは1,000質量ppm以下、さらに好ましくは100質量ppm以下、特に好ましくは10質量ppm以下、とりわけ好ましくは5質量ppm以下であり、最も好ましくは1質量ppm以下である。
以下に実施例に代わる実験例及び比較実験例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
実験例及び比較実験例で使用した化合物の名称は以下のとおりである。
2-メトキシブタン(東京化成工業(株)製)
メトキシシクロペンタン(東京化成工業(株)製)
1-メトキシプロパン(東京化成工業(株)製)
ジメチルエーテル(小池化学(株)製)
ジエチルエーテル(東京化成工業(株)製)
ジイソプロピルエーテル(東京化成工業(株)製)
ジプロピルエーテル(東京化成工業(株)製)
2-メトキシブタン(東京化成工業(株)製)
メトキシシクロペンタン(東京化成工業(株)製)
1-メトキシプロパン(東京化成工業(株)製)
ジメチルエーテル(小池化学(株)製)
ジエチルエーテル(東京化成工業(株)製)
ジイソプロピルエーテル(東京化成工業(株)製)
ジプロピルエーテル(東京化成工業(株)製)
<評価方法>
(1)ΔEの計算方法
実験例及び比較実験例に用いたエーテルについて、該エーテル中のエーテル酸素原子に結合する2つの炭素原子の電荷の差の絶対値ΔE[単位:e]を下記の手順に従って計算した。
前記エーテルの分子構造について、密度汎関数法(DFT)計算を行い、前記2つの炭素原子の電荷の値を算出した。DFTの計算条件には、基底関数系としてdef-TZVPを使用し、溶媒効果としてCOSMO溶媒和モデル(COnductor like Screening MOdel)を採用し、解析方法としてMullikenの電荷密度解析法(Population Analysis)を用いた。
次いで、前記エーテル中のエーテル結合の酸素原子に結合する2つの炭素原子について、一方の炭素原子の電荷E1と他方の炭素原子の電荷E2との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)(単位:e)を算出した。なお、「e」は電子素量を意味し、e=1.602176634×10-19[単位:C]である。例えば、ΔEが0.05[単位:e]である場合、これをSI系単位で表すと、ΔE=0.05×1.602176634×10-19[単位:C]である。
前記ΔEの計算には、量子化学計算ソフト「TURBOMOLE ver7.2」(TURBOMOLE社製)及びTURBOMOLE用のグラフィカルユーザーインターフェイス「TmoleX ver4.4.1」(TURBOMOLE社製)を使用した。
(1)ΔEの計算方法
実験例及び比較実験例に用いたエーテルについて、該エーテル中のエーテル酸素原子に結合する2つの炭素原子の電荷の差の絶対値ΔE[単位:e]を下記の手順に従って計算した。
前記エーテルの分子構造について、密度汎関数法(DFT)計算を行い、前記2つの炭素原子の電荷の値を算出した。DFTの計算条件には、基底関数系としてdef-TZVPを使用し、溶媒効果としてCOSMO溶媒和モデル(COnductor like Screening MOdel)を採用し、解析方法としてMullikenの電荷密度解析法(Population Analysis)を用いた。
次いで、前記エーテル中のエーテル結合の酸素原子に結合する2つの炭素原子について、一方の炭素原子の電荷E1と他方の炭素原子の電荷E2との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)(単位:e)を算出した。なお、「e」は電子素量を意味し、e=1.602176634×10-19[単位:C]である。例えば、ΔEが0.05[単位:e]である場合、これをSI系単位で表すと、ΔE=0.05×1.602176634×10-19[単位:C]である。
前記ΔEの計算には、量子化学計算ソフト「TURBOMOLE ver7.2」(TURBOMOLE社製)及びTURBOMOLE用のグラフィカルユーザーインターフェイス「TmoleX ver4.4.1」(TURBOMOLE社製)を使用した。
(2)メタノール生成比率Bの算出
ナフサの熱分解に由来して生成したメタノールは、実質的に、実験例及び比較実験例で得られた凝縮水に含まれ、ガス成分及び油分には含まれないことから、実験例及び比較実験例で得られた凝縮水のメタノール生成比率Bを、ガスクロマトグラフィー質量分析測定装置(GC/MS装置)(装置名:GCMS-QP2010Ultra、(株)島津製作所製)を用いて、下記の条件で測定した。
なお、実験例及び比較実験例に用いたブランクナフサからはメタノールが生成しないことを事前に確認した。
<GC/MS測定条件>
キャリアガス: ヘリウム、線速40cm/sec
カラム: SUPELCOWAX-10(Supelco社製、内径0.32mm×
長さ60m×膜厚0.25μm)
温度(昇温条件): 50℃(保持時間5分)→20℃/分で昇温→200℃(保持
時間2.5分)
注入口温度: 200℃
MSインターフェース温度: 200℃
イオン源温度: 200℃
サンプル量: 0.5μL
スプリット比: 1:5
測定モード: SIM(m/z=31)
ナフサの熱分解に由来して生成したメタノールは、実質的に、実験例及び比較実験例で得られた凝縮水に含まれ、ガス成分及び油分には含まれないことから、実験例及び比較実験例で得られた凝縮水のメタノール生成比率Bを、ガスクロマトグラフィー質量分析測定装置(GC/MS装置)(装置名:GCMS-QP2010Ultra、(株)島津製作所製)を用いて、下記の条件で測定した。
なお、実験例及び比較実験例に用いたブランクナフサからはメタノールが生成しないことを事前に確認した。
<GC/MS測定条件>
キャリアガス: ヘリウム、線速40cm/sec
カラム: SUPELCOWAX-10(Supelco社製、内径0.32mm×
長さ60m×膜厚0.25μm)
温度(昇温条件): 50℃(保持時間5分)→20℃/分で昇温→200℃(保持
時間2.5分)
注入口温度: 200℃
MSインターフェース温度: 200℃
イオン源温度: 200℃
サンプル量: 0.5μL
スプリット比: 1:5
測定モード: SIM(m/z=31)
実験例及び比較実験例で得られた凝縮水から熱分解生成物であるメタノールの生成量を定量し、濃度既知のメタノールの標準溶液を用いて予め作成した検量線に基づいて、下記式より添加したエーテルに対するメタノール生成比率Bを求めた。
[メタノール生成比率B]=[凝縮水中のメタノール中の酸素原子数]÷[ブランクナフサに添加したエーテル中の酸素原子数]
つまり、メタノール生成比率Bが1.00の場合は、添加したエーテルがすべてメタノールとして定量されたことを意味する。なお、ここで添加したエーテル中に含まれる酸素原子の数は、エーテル化合物1分子当たり1酸素原子である。
[実験例1]
原料として使用するブランクナフサ(比重0.66g/ml、直鎖状パラフィンの含有量P1:45質量%、分岐状パラフィンの含有量P2:40質量%、P1/P2:1.1)に対し、2-メトキシブタンをエーテル由来の酸素原子の含有量として50質量ppmとなるように添加し、次いで、水蒸気の存在下に熱分解炉を用いて下記熱分解条件で熱分解した。得られた熱分解生成物を5℃で急冷し、気液分離器を用いて0.1MPa(ゲージ圧力)下、5℃の条件で気液分離して、ガス成分と分離液を得た。さらに前記分離液を、分液ロートを用いて大気圧下、室温の条件で油分と凝縮水とに油水分離した。
原料として使用するブランクナフサ(比重0.66g/ml、直鎖状パラフィンの含有量P1:45質量%、分岐状パラフィンの含有量P2:40質量%、P1/P2:1.1)に対し、2-メトキシブタンをエーテル由来の酸素原子の含有量として50質量ppmとなるように添加し、次いで、水蒸気の存在下に熱分解炉を用いて下記熱分解条件で熱分解した。得られた熱分解生成物を5℃で急冷し、気液分離器を用いて0.1MPa(ゲージ圧力)下、5℃の条件で気液分離して、ガス成分と分離液を得た。さらに前記分離液を、分液ロートを用いて大気圧下、室温の条件で油分と凝縮水とに油水分離した。
<熱分解条件>
ナフサ流量:83.1g/hr
水蒸気/ナフサ質量比:0.4
滞留時間:0.6秒
熱分解温度:810℃
熱分解圧力:0.1MPa(ゲージ圧力)
ナフサ流量:83.1g/hr
水蒸気/ナフサ質量比:0.4
滞留時間:0.6秒
熱分解温度:810℃
熱分解圧力:0.1MPa(ゲージ圧力)
上述した方法により前記凝縮水のメタノール生成比率Bを測定し、ΔEの値と共に、表1に示した。また、ΔEとメタノール生成比率Bの関係を図1に示した。
[実験例2~3、比較実験例4~7]
エーテルの種類及び該エーテル由来の酸素原子の含有量を表1記載のとおりに変更した以外は、実験例1と同様の条件で、ガス成分、油分及び凝縮水を得、同様に評価を行った。評価結果を表1及び図1に示した。
なお、実験例1とは表1記載の実験例1-1乃至実験例1-3のことをいう。実験例2とは表1記載の実験例2-1乃至実験例2-3のことをいう。実験例3は表1記載の実験例3-1乃至実験例3-3のことをいう。図1には、実験例1-1、実験例2-1、実験例3-1及び比較実験例4~7をプロットした。
エーテルの種類及び該エーテル由来の酸素原子の含有量を表1記載のとおりに変更した以外は、実験例1と同様の条件で、ガス成分、油分及び凝縮水を得、同様に評価を行った。評価結果を表1及び図1に示した。
なお、実験例1とは表1記載の実験例1-1乃至実験例1-3のことをいう。実験例2とは表1記載の実験例2-1乃至実験例2-3のことをいう。実験例3は表1記載の実験例3-1乃至実験例3-3のことをいう。図1には、実験例1-1、実験例2-1、実験例3-1及び比較実験例4~7をプロットした。
実験例1~3及び比較実験例4~7の対比から、エーテルのΔEの値とメタノール生成比率Bとには相関があり、エーテル酸素原子に対して非対称構造を有するエーテルは、メタノール生成比率Bが高く、メタノールを生成し易いことが分かる。さらに、ΔEが0.05以上のエーテルは、ΔEの値が大きいほどメタノールを多く生成する傾向があることが分かる。
また、表1の実験例1~3より、エーテル結合を構成している酸素原子に対して非対称構造を有するエーテルは、エーテル酸素原子濃度が20,000質量ppm以下の条件において、エーテル酸素原子濃度を50質量ppm、500質量ppm、5,000質量ppmとしたところ、メタノール生成比率がほぼ同等の値であった。その理由として、非対称構造を有するエーテルは、ΔEが大きいため、エーテル酸素原子に結合する2つの炭素原子間において電荷の偏りが大きく、熱分解条件下で熱分解してメタノールを生成し易いためと推察される。
従って、エーテルの中でもエーテル酸素原子に対して非対称構造を有するエーテルの含有濃度が所定値以下であるナフサを、低級オレフィン製造用原料ナフサとして選択し、このような原料ナフサを低級オレフィンの製造に用いることで、メタノール生成濃度を抑えて製品価値の高い低級オレフィンを製造することができることが分かる。
従って、エーテルの中でもエーテル酸素原子に対して非対称構造を有するエーテルの含有濃度が所定値以下であるナフサを、低級オレフィン製造用原料ナフサとして選択し、このような原料ナフサを低級オレフィンの製造に用いることで、メタノール生成濃度を抑えて製品価値の高い低級オレフィンを製造することができることが分かる。
Claims (11)
- 選択対象ナフサから、管式加熱法又はスチーム・クラッキング法により低級オレフィンを製造するための原料ナフサを選択する方法において、
比重が0.60g/ml以上0.80g/ml以下であるナフサを候補材料として選定することと、
ガスクロマトグラフィー法を用いて、前記候補材料に含まれる、非対称構造を有するエーテルの含有量を算出すること、を備え、
前記非対称構造を有するエーテルの含有量が、該エーテルに由来する酸素原子の含有量に換算して20,000質量ppm以下である前記候補材料を、低級オレフィンの製造に用いる原料ナフサとして選択する、原料ナフサの選択方法。 - 前記エーテルに由来する酸素原子の含有量が0.1質量ppm以上である前記候補材料を低級オレフィンの製造に用いる原料ナフサとして選択する、請求項1に記載の原料ナフサの選択方法。
- さらに、直鎖状パラフィンの含有量P1が20質量%以上70質量%以下、分岐状パラフィンの含有量P2が20質量%以上70質量%以下であるナフサを前記候補材料として選定する、請求項1又は2に記載の原料ナフサの選択方法。
- さらに、前記P1の前記P2に対する比率(P1/P2)が0.3以上3.5以下であるナフサを前記候補材料として選定する、請求項3に記載の原料ナフサの選択方法。
- 前記選択対象ナフサが、在庫ナフサを有するタンク内に受入ナフサを受け入れて混合した後のナフサである、請求項1~4のいずれか1項に記載の原料ナフサの選択方法。
- 前記エーテル由来のアルコールの含有量が10,000質量ppm以下である低級オレフィンを製造するための原料ナフサを選択する方法である、請求項1~5のいずれか1項に記載の原料ナフサの選択方法。
- 前記エーテルが、エーテル結合を構成している酸素原子と結合する2つの炭素原子について、密度汎関数法によって求めた、一方の炭素原子の電荷E1と他方の炭素原子の電荷E2との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)が0.05[単位:e]以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の原料ナフサの選択方法。
但し、eは電子素量を意味し、e=1.602176634×10-19[単位:C]である。 - 前記エーテルがモノエーテルである、請求項1~7のいずれか1項に記載の原料ナフサの選択方法。
- 前記エーテルのエーテル結合を構成している酸素原子と結合する2つの炭素原子の一方がメチル基由来の炭素原子である、請求項1~8のいずれか1項に記載の原料ナフサの選択方法。
- 請求項1~9のいずれか1項に記載の選択方法により選択された原料ナフサを熱分解することを含む低級オレフィンの製造方法において、
前記エーテルの、エーテル結合を構成している酸素原子と結合する2つの炭素原子について、密度汎関数法によって求めた、一方の炭素原子の電荷E1と他方の炭素原子の電荷E2との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)[単位:e]、及び、得られた低級オレフィンにおけるメタノール生成比率Bが、下記式(1)及び(2)を満たす、低級オレフィンの製造方法。
0.05≦ΔE 式(1)
B≦1.25×ΔE+0.10 式(2)
但し、eは電子素量を意味し、e=1.602176634×10-19[単位:C]である。 - 前記低級オレフィンがプロピレンである、請求項10に記載の低級オレフィンの製造方法。
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