以下、本願に係る電力変換装置の実施の形態1から3による電力変換装置について説明する。なお、各図において、同一部分または相当部分には同一符号を付している。また、各実施の形態では、交流電動機を駆動させるU相、V相およびW相を有した三相インバータに対して適用した電力変換装置を例示している。
1.実施の形態1
<スイッチング素子>
半導体スイッチング素子(以下、スイッチング素子と称する)には、一方向のみに電流を流すダイオード、大電流を扱うことに適したサイリスタ、高いスイッチング周波数で動作可能なパワートランジスタが存在する。スイッチング素子のうち、特に、パワートランジスタは、自動車、冷蔵庫、エアーコンディショナー等の幅広い分野に用いられている。パワートランジスタの中には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOS-FET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等があり、これらのパワートランジスタは様々な用途により使い分けられている。
スイッチング素子の材料として、近年、炭化ケイ素(SiC:Silicon Carbide)、窒化ガリウム(GaN:Gallium Nitride)といったワイドバンドギャップ半導体(Wide Band Gap Semiconductor)が注目されている。これらの材料により形成されたスイッチング素子は、従来のシリコン(Si:Silicon)を用いたスイッチング素子に比べ、オン状態におけるスイッチング素子の抵抗値が低く、電力損失を低減することができる。また、電子飽和速度が高く、オンおよびオフの状態の切り替えが素早く、電力損失を低減することができる。
シリコンと比較し、炭化ケイ素もしくは窒化ガリウムを用いたスイッチング素子は、より高温の環境下で駆動することが可能である。しかしながら、スイッチング素子の動作限界温度が定まっており、この動作限界温度を超えてもなお駆動し続けると、スイッチング素子が破損する可能性がある。
電力変換装置におけるスイッチング素子の配置環境に関連し、異常状態により、スイッチング素子等の温度が上昇し続ける場合が想定される。その場合、スイッチング素子の動作限界温度に達する可能性がある。スイッチング素子の温度が過度に上昇すると、電力変換装置の故障、性能の劣化、寿命の短縮が考えられる。この場合、電力変換装置を停止させることで、スイッチング素子の温度、および冷却媒体の温度を冷やすことは可能である。
しかしながら、自動車に搭載されている電力変換装置は、車両の駆動源である回転電機を駆動するために用いられる場合がある。このような場合に、運転中に突然駆動源を停止させることはできない。また、電力変換装置は、自動車に搭載されている電動パワーステアリング装置に用いられる場合がある。電動パワーステアリング装置は自動車の操舵をアシストするモータを制御しており、電力変換装置を自動車の運転中に突然停止させることは望ましくない。スイッチング素子が高温状態であっても、スイッチング素子を破損させずに電力変換装置を駆動させ続ける必要がある。
以上述べたように、電力変換装置の駆動条件、配置環境等により、スイッチング素子の温度は、スイッチング素子が破損する温度まで上昇する可能性がある。スイッチング素子が破損する温度を、以下、動作限界温度と称する。したがって、スイッチング素子が動作限界温度に達することを防ぎ、電力変換装置を駆動させ続けるためには、電力変換装置を適正な駆動条件、配置環境で駆動させる必要がある。
特に、電力変換装置を構成するスイッチング素子の配置環境において、冷却器とスイッチング素子との熱伝導が阻害された場合、冷却器に流れる冷却媒体の流入が停止した場合、または冷却媒体が消失した場合等の冷却器の異常状態(以下、異常状態と称する)を遅滞なく検出する必要がある。これらの異常状態に際して、電力変換装置の駆動条件を変更して制御することで、スイッチング素子が動作限界温度に達することを回避する必要がある。
従来は、温度検出値が予め定められた閾値を超えた場合に、電力変換装置の駆動条件を変更するように操作し、スイッチング素子の温度上昇を抑制していた。この閾値は、電力変換装置の駆動条件、配置環境、温度センサの判定誤差、スイッチング素子の発熱量のバラつき、冷却媒体の流入量のバラつき、等を加味して余裕を持って設けられる。
電力変換装置が正常なときに異常を誤判定しないように、閾値は高めに設定される。そのため、電力変換装置が異常となった場合、高めに設けられた閾値に温度検出値が達するまでの時間が長くなる。すなわち、異常が発生してから判定するまで遅れ時間が発生することとなる。スイッチング素子の過熱状態の検出が遅延することによって、電力変換装置の故障、性能の劣化、寿命の短縮の怖れが生じる。
特に冷却媒体の流入の停止、或いは冷却媒体が消失する故障の場合、半導体スイッチング素子の温度は急激に上昇し続ける。このため、異常が発生してから判定するまでの時間に比例して、半導体スイッチング素子の到達温度が高くなる。従来の技術においてスイッチング素子の破損を防止するには、より耐熱性の高いスイッチング素子、或いは低損失のスイッチング素子、等の高価なスイッチング素子が必要となりコストが高くなる。
<電力変換装置の構成>
図1は、実施の形態1に係る電力変換装置100の構成図である。図1において、電力変換装置100は、電源部2、電力変換部3、冷却器4、回転角センサ5、電動機温度センサ6、スイッチング素子温度センサ7、指令発生器8および制御装置9を備える。電動機1は、電力変換装置100の負荷装置である。負荷装置は、電動機1に限るものではなく、電動機1以外であってよい。
電動機1は、PWM(Pulse Width Modulation)方式により制御される。電動機1は、例えば車載用の電動機である。ここで、車載用の電動機とは具体的には、車両を駆動するための駆動用電動機、電動ファン、オイルポンプ、ウォーターポンプ、および車両のステアリング操作をアシストするための電動パワーステアリング装置等に用いられる電動機である。また、電動機1は、車載用の電動機に限らず、車載用以外の電動機であってもよい。
以下、電動機1がロータおよびステータを有する三相ブラシレスモータであるものとして説明する。ロータ(不図示)は、円板状の部材であり、その表面に固定された永久磁石からなる界磁磁極を有している。ステータは、内部にロータを相対回転可能に収容している。ステータは、予め設定された角度ごとにロータ側へ突出する複数の突出部を有し、この突出部にU相コイル11、V相コイル12、およびW相コイル13が巻回されている。
電源部2は、電動機1の駆動用電源であり、直流電力を電力変換部3に出力する。電源部2の具体的な構成例として、電源部2は、直流電力を出力する直流電源の一例であるバッテリ21と、平滑コンデンサ22と、チョークコイル23とを有する。
平滑コンデンサ22およびチョークコイル23は、バッテリ21と後述するインバータ部31との間に配置され、パワーフィルタを構成している。このように構成することで、バッテリ21を共有する他の装置からインバータ部31側へ伝わるノイズを低減するとともに、インバータ部31側からバッテリ21を共有する他の装置へ伝わるノイズを低減することができる。平滑コンデンサ22は、電荷を蓄えることで、スイッチング素子311~316への電力供給を補助し、さらに、サージ電流等のノイズ成分を抑制する。また、電源部2は、制御装置9にも電力を供給する(不図示)。
電力変換部3は、電源部2から供給された直流電力を交流電力に変換し、変換後の交流電力を電動機1に出力する。電力変換部3の具体的な構成例として、電力変換部3は、インバータ部31、電流検出器32、増幅回路33および駆動回路34を有する。
インバータ部31は、上アームおよび下アームのそれぞれにスイッチング素子を有する複数のハーフブリッジ回路が並列に接続されている。スイッチング素子311~316が、PWM信号にしたがってオンおよびオフに切り替え制御される。これによって、電源部2から出力された直流電力を交流電力に変換し、変換後の交流電力を電動機1に出力する。
図1では、インバータ部31は、3つのハーフブリッジ回路によって構成される場合が例示されている。インバータ部31は、スイッチング素子311~316を含む三相インバータである。U相コイル11、V相コイル12、およびW相コイル13のそれぞれへの通電を切り替えるべく、6つのスイッチング素子311~316がブリッジ接続されている。スイッチング素子311~316としては、電界効果トランジスタの一種であるMOS-FETを用いればよい。或いは、MOS-FETとは異なるその他のトランジスタまたはIGBT等を用いてもよい。
3つのスイッチング素子311、312、313のドレインは、バッテリ21の正極側に接続されている。スイッチング素子311、312、313のソースは、それぞれスイッチング素子314、315、316のドレインに接続されている。スイッチング素子314、315、316のソースは、バッテリ21の負極側に接続されている。
一対のスイッチング素子311およびスイッチング素子314を接続する接続点は、電動機1のU相コイル11の一端に接続されている。また、一対のスイッチング素子312およびスイッチング素子315を接続する接続点は、電動機1のV相コイル12の一端に接続されている。さらに、一対のスイッチング素子313およびスイッチング素子316を接続する接続点は、電動機1のW相コイル13の一端に接続されている。
インバータ部31の高電位側に配置される3つのスイッチング素子311、312、313は、それぞれ、U相上アーム、V相上アーム、W相上アームのスイッチング素子を構成する。インバータ部31の低電位側に配置されている3つのスイッチング素子314、315、316は、それぞれ、U相下アーム、V相下アーム、W相下アームのスイッチング素子を構成している。
電流検出器32は、U相電流検出部321、V相電流検出部322およびW相電流検出部323により構成されている。U相電流検出部321、V相電流検出部322およびW相電流検出部323は、例えば、シャント抵抗を用いて構成される。U相電流検出部321は、U相コイル11に流れるU相電流Iuに対応するU相電流検出値を出力する。V相電流検出部322は、V相コイル12に流れるV相電流Ivに対応するV相電流検出値を出力する。W相電流検出部323は、W相コイル13に流れるW相電流Iwに対応するW相電流検出値を出力する。なお、以下の説明では、U相電流検出値、V相電流検出値、W相電流検出値を総称して電流検出値と称することがある。
なお、図示していないが、電流検出器32に代えて、または電流検出器32とともに、スイッチング素子311~316に印加される電圧を検出する電圧検出器を設けてもよい。この場合、電力変換部3の出力状態は、電流検出器32の検出値と、電圧検出器の検出値と、電力変換装置の出力を指令する指令値と、のうちの少なくとも一つに基づいて演算される。
U相電流検出部321、V相電流検出部322およびW相電流検出部323からそれぞれ出力されたU相電流検出値、V相電流検出値、W相電流検出値は、増幅回路33を経由して、制御装置9へ入力される。増幅回路33は、U相電流検出値、V相電流検出値、W相電流検出値を、制御装置9内で処理可能な適正値として取り込めるようにするためのものである。
駆動回路34は、制御装置9から入力されるPWM信号に基づいて制御される。駆動回路34は、スイッチング素子311~316のオンおよびオフを切り替える機能を有している。
冷却器4は、平滑コンデンサ22、チョークコイル23および電力変換部3を冷却する。冷却器4は、例えば、水冷式冷却器である。具体的には、水冷式冷却器、ラジエータ、電動機駆動ウォーターポンプ等をホースで接続する構成であり、電動機駆動ウォーターポンプから水冷式冷却器に対し、水、オイル、もしくはLLC(Long Life Coolant)等の冷却媒体を流入させる。なお、冷却器4は、水冷式冷却器に限らず、空冷式冷却器等であってもよい。冷却器4は、スイッチング素子311~316に接続され熱伝導を行うヒートシンクであってもよい。
回転角センサ5は、電動機1に取り付けられており、電動機1のロータ位置を表す位置情報を検出する。回転角センサ5は、具体的にはロータの回転角θmを検出する。回転角センサ5は、例えば、レゾルバを用いて構成される。回転角センサ5は、検出した回転角θmを、電動機1の永久磁石の極対数を基に電気角θeに換算するように構成されている。回転角θmおよび電気角θeは、制御装置9に入力される。
電動機温度センサ6は、電動機1の温度を検出する。電動機温度センサ6は、例えば、U相コイル11、V相コイル12およびW相コイル13に取り付けられたサーミスタ等の温度センサによって構成される。電動機1の温度は、制御装置9に入力される。
スイッチング素子温度センサ7は、スイッチング素子311~316の温度を検出する。具体的には、例えば、スイッチング素子温度センサ7は、それぞれのスイッチング素子311~316の近傍に設置されており、スイッチング素子311~316の各温度Tjを間接的に測定している。なお、スイッチング素子温度センサ7は、スイッチング素子311~316の温度Tjを直接検出するものであってもよい。例えば、スイッチング素子311~316の半導体基板上に配置された温度検出用ダイオード等によって温度を検出してもよい。
スイッチング素子温度センサ7が出力する温度検出値Tj_sensは、スイッチング素子311~316の近傍の温度に基づくものである場合、スイッチング素子311~316の近傍の温度は、スイッチング素子311~316の温度Tjに対応するものである。したがって、スイッチング素子温度センサ7が出力する温度検出値Tj_sensは、スイッチング素子311~316の温度Tjに対応している。スイッチング素子温度センサ7の温度検出値Tj_sensは、制御装置9に入力される。
指令発生器8は、電動機1を制御するための制御指令を発生する。そして、指令発生器8はその制御指令を制御装置9に出力する。例えば、電動機1が電気自動車等の車両の駆動源として用いられている場合、指令発生器8は車両の運転手によって操作されるアクセルペダルの踏込み角度に対応した制御指令を出力する。指令発生器8により発生された制御指令は、通信により制御装置9へ周期的に送信される。
<制御装置のハードウェア構成>
図2は、実施の形態1に係る電力変換装置100の制御装置9のハードウェア構成図である。本実施の形態では、制御装置9は、電力変換装置100を制御する制御装置である。制御装置9の各機能は、制御装置9が備えた処理回路により実現される。具体的には、制御装置9は、処理回路として、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置80(コンピュータ)、演算処理装置80とデータのやり取りをする記憶装置81、演算処理装置80に外部の信号を入力する入力回路82、及び演算処理装置80から外部に信号を出力する出力回路83等を備えている。
演算処理装置80として、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、IC(Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、各種の論理回路、及び各種の信号処理回路等が備えられてもよい。また、演算処理装置80として、同じ種類のものまたは異なる種類のものが複数備えられ、各処理が分担して実行されてもよい。記憶装置81として、演算処理装置80からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(Random Access Memory)、演算処理装置80からデータを読み出し可能に構成されたROM(Read only Memory)等が備えられている。入力回路82は、回転角センサ5、電動機温度センサ6、スイッチング素子温度センサ7、増幅回路33を含み、各種のセンサ及びスイッチが接続され、これらセンサ及びスイッチの出力信号を演算処理装置80に入力するAD変換部、入力回路等のインターフェース回路を備えている。出力回路83は、駆動回路34を含み、スイッチング素子、アクチュエータ等の電気負荷が接続され、これら電気負荷に演算処理装置80からの出力信号を変換して出力する駆動回路、通信回路等のインターフェース回路を備えている。
制御装置9が備える各機能は、演算処理装置80が、ROM等の記憶装置81に記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行し、記憶装置81、入力回路82、及び出力回路83等の制御装置9の他のハードウェアと協働することにより実現される。なお、制御装置9が用いる閾値、判定値等の設定データは、ソフトウェア(プログラム)の一部として、ROM等の記憶装置81に記憶されている。
図1の制御装置9の内部に搭載された各機能は、それぞれソフトウェアのモジュールで構成されるものであってもよいが、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせによって構成されるものであってもよい。
<制御装置の機能ブロック>
図3は、実施の形態1に係る電力変換装置100の制御装置9の機能ブロック図である。図3において、制御装置9は、出力抑制部91、回転数演算部92、トルク・電流指令変換部93、三相・二相変換部94、電圧指令生成部95、二相・三相変換部96、デューティ変換部97およびPWM信号生成部98を有する。
出力抑制部91は、指令発生器8からトルク指令Trqcを受け取る。電動機1を制御するための制御指令としては、例えば、トルク指令、電流指令、電圧指令、等が挙げられる。実施の形態1では、制御指令としてトルク指令Trqcを採用する場合を例示する。出力抑制部91は、スイッチング素子温度センサ7から温度検出値Tj_sensを受け取る。
出力抑制部91は、スイッチング素子311~316の温度Tjが動作限界温度に達しないように、トルク制御指令Trqc_ctlと、出力停止信号Sig_stopを生成する。なお、出力抑制部91のより詳細な構成については、後述する。また、実施の形態1では、トルク指令Trqcを抑制する手段により、電力変換装置100の出力電力を抑制するが、トルク指令の抑制に限らず、電動機1の回転数、電流、電圧等の指令を抑制するようにしてもよい。
回転数演算部92は、回転角センサ5から取得した回転角θmを積分して電動機1の回転数Nに換算する。回転数演算部92は、その演算した回転数Nを、トルク・電流指令変換部93に出力する。
トルク・電流指令変換部93は、回転数演算部92から取得した電動機1の回転数Nと、出力抑制部91から取得したトルク制御指令Trqc_ctlとから、d軸電流指令Idcおよびq軸電流指令Iqcを演算する。具体的には、例えば、トルク・電流指令変換部93は、電動機1の回転数Nとトルク制御指令Trqc_ctlとを軸としたトルク・電流指令変換テーブルを用いることで、これらの値をd軸電流指令Idcおよびq軸電流指令Iqcに換算するように構成される。なお、トルク・電流指令変換部93は、トルク・電流指令変換テーブルを用いずに、d軸電流指令Idcおよびq軸電流指令Iqcを演算するように構成されていてもよい。
三相・二相変換部94は、増幅回路33を介して受け取った電流検出器32の電流検出値と、回転角センサ5が検出した電気角θeに対応する角度検出値とから、d軸電流検出値Idおよびq軸電流検出値Iqを算出する。ここで、電流検出器32の電流検出値は、U相電流検出部321が検出したU相電流Iuに対応するU相電流検出値と、V相電流検出部322が検出したV相電流Ivに対応するV相電流検出値と、W相電流検出部323が検出したW相電流Iwに対応するW相電流検出値とにより構成されている。
電圧指令生成部95は、d軸電流指令Idcおよびq軸電流指令Iqcと、d軸電流検出値Idおよびq軸電流検出値Iqとから、電流フィードバック演算を行うことで、d軸電圧指令Vdcおよびq軸電圧指令Vqcを算出する。具体的には、例えば、電圧指令生成部95は、d軸電流指令Idcとd軸電流検出値Idとの偏差である電流偏差ΔIdと、q軸電流指令Iqcとq軸電流検出値Iqとの偏差である電流偏差ΔIqとがそれぞれ「0」に収束するように、d軸電圧指令Vdcおよびq軸電圧指令Vqcを算出するように構成されている。(ΔId、ΔIqは不図示)
二相・三相変換部96は、電圧指令生成部95から取得したd軸電圧指令Vdcおよびq軸電圧指令Vqcと、回転角センサ5から取得した電気角θeとから、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcを算出する。なお、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcは、インバータ部31に入力される直流電源電圧、すなわち、平滑コンデンサ22の電圧Vcon以下となるように設定されることが好ましい。
デューティ変換部97は、二相・三相変換部96から取得した三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcと、平滑コンデンサ22の電圧Vconとから、三相の各相のデューティ指令Du、Dv、Dwを生成する。デューティ変換部97は、最適補正制御指令に対応したデューティ指令Du、Dv、Dwを生成して出力する。
PWM信号生成部98は、PWM信号を生成する。PWM信号生成部98は、出力抑制部91から取得した出力停止信号Sig_stopと、デューティ変換部97から取得した各相のデューティ指令Du、Dv、Dwとから、スイッチング素子311~316のそれぞれをオンおよびオフに切り替え制御するためのPWM信号を生成する。
具体的には、例えば、PWM信号生成部98は、出力停止信号Sig_stopの状態が出力許可を示す場合、各相のデューティ指令Du、Dv、Dwと、搬送波を比較することで、PWM信号を生成する。出力停止信号Sig_stopの状態が出力禁止の場合、スイッチング素子311~316の全てがオフとなるようにPWM信号を生成する。PWM信号生成部98は、例えば、上昇速度と下降速度とが互いに等しい2等辺三角形の形状を有する三角波をキャリアとする三角波比較方式、鋸波比較方式等を採用してPWM信号を生成するように構成されている。
なお、図3では、PWM信号生成部98により生成されたPWM信号として、U相上アームのスイッチング素子311に与えるPWM信号UH_SW、V相上アームのスイッチング素子312に与えるPWM信号VH_SW、W相上アームのスイッチング素子313に与えるPWM信号WH_SW、U相下アームのスイッチング素子314に与えるPWM信号UL_SW、V相下アームのスイッチング素子315に与えるPWM信号VL_SW、W相下アームのスイッチング素子316に与えるPWM信号WL_SW、をそれぞれ示している。
<出力抑制部の機能ブロック>
図4は、実施の形態1に係る電力変換装置100の制御装置9の出力抑制部91の機能ブロック図である。図4において、出力抑制部91は、温度上昇率判定部911と、トルク指令抑制部912と、出力停止判定部913とにより構成されている。
温度上昇率判定部911は、スイッチング素子温度センサ7の温度検出値Tj_sensを入力する。そして、スイッチング素子311~316の異常発熱、冷却器4の異常状態等を検出し、その判定結果をトルク指令抑制部912と出力停止判定部913に出力する。
具体的には、温度上昇率判定部911は、スイッチング素子温度センサ7の温度検出値Tj_sensの単位時間当たりの上昇量である温度上昇率Tj_sens_ratを算出する(以下、温度検出値Tj_sensの単位時間当たりの上昇量である温度上昇率Tj_sens_ratを、単に、温度上昇率と称す)。そして、温度上昇率Tj_sens_ratと、予め定められた温度上昇率値Th1と、を比較する。
その比較の結果、温度上昇率Tj_sens_ratが温度上昇率値Th1を超えた状態が温度上昇率継続期間Δt1の間継続したとき、温度上昇率判定部911は、スイッチング素子311~316の異常発熱、または冷却器4の異常状態等であると判定する。そして、温度上昇率判定部911は異常状態を示す内容のエラー信号Sig_errを生成して、トルク指令抑制部912と出力停止判定部913へ出力する。温度上昇率値Th1及び温度上昇率継続期間Δt1の設定方法については後述する。
温度検出値Tj_sensから温度上昇率Tj_sens_ratを算出する単位時間は、スイッチング素子温度センサ7の時定数より十分短い。また、温度上昇率Tj_sens_ratを算出する単位時間は、スイッチング素子311~316のスイッチングノイズの影響を受けない程度の時間に設定されることが望ましい。
トルク指令抑制部912は、トルク指令Trqcと、エラー信号Sig_errの状態と、に基づいて変換されたトルク制御指令Trqc_ctlを生成する。具体的には、例えば、トルク指令抑制部912は、エラー信号Sig_errがエラー状態を示しているときは、トルク指令Trqcに対して予め定められた割合を掛けることで、トルク指令Trqcより低い値のトルク制御指令Trqc_ctlを生成して出力してもよい。
一方、トルク指令抑制部912は、エラー信号Sig_errが正常状態を示しているときは、トルク指令Trqcをそのままをトルク制御指令Trqc_ctlとして出力する。エラー信号Sig_errがエラー状態を示しているときは、トルク指令抑制部912は、トルク指令Trqcに対し、予め定められた割合を掛けることでトルク制御指令Trqc_ctlを生成している。トルク制御指令Trqc_ctlの生成方法は、これに限定されない。スイッチング素子温度センサ7の温度検出値Tj_sensに応じてこの割合を変化させてトルク制御指令Trqc_ctlを演算し生成してもよい。
出力停止判定部913は、スイッチング素子温度センサ7の温度検出値Tj_sensとエラー信号Sig_errの状態とから、インバータ部31の出力を停止させる内容の出力停止信号Sig_stopを出力する。具体的には、例えば、出力停止判定部913は、エラー信号Sig_errがエラー状態で予め定められた制限運転期間継続すると、出力停止信号Sig_stopをPWM信号生成部98に伝達し、PWM信号の出力を禁止させることとなる。
ここで、予め定められた制限運転期間について説明する。予め定められた制限運転期間は、例えば、車両が自走して支障のない場所に停車できるまでの時間を指す。駆動源が電動機である電気自動車、ハイブリッド自動車等の車両である場合、スイッチング素子311~316の異常発熱、または冷却器4の異常状態であっても、車両が突然停止するのは望ましくない。異常が発生した場合であっても、車両は自走して支障のない場所に退避し停車できる必要がある。
さらに、エラー信号Sig_errの内容がエラー状態を示すとき、出力停止判定部913は、スイッチング素子温度センサ7の温度検出値Tj_sensと予め定められた停止判定温度Th3とを比較する(Th3は不図示)。スイッチング素子311~316の温度Tjが動作限界温度である破壊温度に達しないようにするためである。出力停止判定部913は、温度検出値Tj_sensが停止判定温度Th3を超えた場合に、駆動禁止を内容とする出力停止信号Sig_stopを出力する。
すなわち、出力停止判定部913は、エラー信号Sig_errの内容がエラー状態を示していて予め定められた制限運転時間継続した場合と、スイッチング素子温度センサ7の温度検出値Tj_sensが予め定められた停止判定温度Th3を超えた場合のうちの少なくとも何れか一方が成立した場合に、駆動禁止を内容とする出力停止信号Sig_stopを出力する。
<スイッチング素子の温度上昇率の推移>
図5は、実施の形態1に係る電力変換装置100のスイッチング素子の温度と温度検出値の推移を示す図である。図5の縦軸は温度、横軸は時間を示している。図6は、実施の形態1に係る電力変換装置100のスイッチング素子の温度上昇率の推移を示す図である。縦軸は温度上昇率、横軸は時間を示す。具体的には、図5、図6は、インバータ部31の出力を「0」から一定の出力の値に変化させ、その状態で十分に時間が経過した後に、冷却器4の冷却媒体が消失したときの、スイッチング素子311の温度Tjと、スイッチング素子温度センサ7の温度検出値Tj_sensと、温度上昇率Tj_sens_ratの推移を示す。
なお、図5に示しているスイッチング素子の温度Tjと温度検出値Tj_sensは、例えばスイッチング素子311を対象としている。しかし、スイッチング素子311に限らず、他のスイッチング素子312、313、314、315、316のうちの一つであっても同様な温度推移を示す。
図5、 図6において、時刻t1にて電力変換部3が出力「0」の状態から一定の出力の値に変化し、その状態で運転を継続し十分に時間が経過した時の様子を示している。そして、時刻t2にて冷却器4の冷却媒体が消失した状況を示している。
図5に示すように、時刻t2に冷却器4の冷却媒体が消失に至る前は、冷却器4は健全に作動している。スイッチング素子の温度Tjと、スイッチング素子温度センサ7の温度検出値Tj_sensとは、スイッチング素子311の損失と冷却器4の性能とに基づいて定まる十分な時間が経過すると、ほぼ一定温度に整定される。スイッチング素子温度センサ7の温度検出値Tj_sensは、スイッチング素子311の温度Tjを間接的に測定しているため、スイッチング素子311の温度Tjよりも時定数が長く、整定温度が低くなる。
時刻t2で冷却器4の冷却媒体が消失すると、スイッチング素子311の発熱により、冷却器4の温度が急峻に上昇する。そして、冷却器4の温度上昇により、スイッチング素子311の温度Tjと、スイッチング素子温度センサ7の温度検出値Tj_sensとが上昇する。よって図6に示すように、温度上昇率Tj_sens_ratが上昇する。
<温度上昇率値、温度上昇率継続期間の設定>
図7は、実施の形態1に係る電力変換装置100のスイッチング素子の温度上昇率、温度上昇率継続期間および判定値を示す図である。温度上昇率判定部911における温度上昇率値Th1と温度上昇率継続期間Δt1の設定手順について説明する。図7の縦軸は温度上昇率、横軸は時間を示す。
図7において、正常状態においてインバータの出力が0から定格出力に変化したときの正常時定格出力温度上昇率Tj_sens_rat_nH(以下、正常状態における定格出力時の温度上昇率と称する)を示す。これは、図6のt1~t2の推移に対応する波形であり、時刻t3にて電力変換部3が出力「0」の状態から定格出力の値に変化し、その状態で十分に時間が経過した時の温度上昇率Tj_sens_ratを示す。
電力変換装置100には、電流判定器、電圧判定器、回転角センサ5等の判定ばらつきを起因とする出力電力ばらつきが生じる。定格出力は、これらのばらつきを含めて、電力変換装置100の性能の範囲での最大の出力状態を言う。正常状態における定格出力時の温度上昇率である正常時定格出力温度上昇率Tj_sens_rat_nHは冷却器4の製造ばらつき、温度センサの観測誤差も含んだ正常時における最大の温度上昇率の推移である。
定格出力時における異常状態で異常時定格出力温度上昇率Tj_sens_rat_fHは、図6のt2以降の推移に対応する波形である。定格出力時に時刻t3にて冷却器4の冷却媒体が消失した場合の温度上昇率の推移が図7に示されている。
部分出力時における異常状態での異常時部分出力温度上昇率Tj_sens_rat_fLは、同様に、図6のt2以降の推移に対応する波形である。図7には、部分出力時に時刻t3にて冷却器4の冷却媒体が消失した場合の推移を示している。部分出力とは電力変換部3の出力状態のうち、実施の形態1に係る電力変換装置100が保護すべき下限の出力のことを示す。すなわち、定格出力ではなく部分出力状態であるが、冷却器の異常に際して、スイッチング素子の作動制限を行うべきである出力状態を示す。スイッチング素子が動作限界温度に達して電力変換装置の故障、性能の劣化、寿命の短縮が発生することを防ぎつつ、電力変換の継続を実現する必要のある出力状態を示す。
温度上昇率判定部911における温度上昇率値Th1は、部分出力時における異常状態での異常時部分出力温度上昇率Tj_sens_rat_fLのピーク値以下に設定する。部分出力から定格出力の間の出力時に異常状態になった場合には、温度上昇率Tj_sens_ratは部分出力時における異常状態での異常時部分出力温度上昇率Tj_sens_rat_fL以上に推移する。このため、温度上昇率値Th1により保護すべき全領域で異常状態の判定ができる。
次に、温度上昇率継続期間Δt1について説明する。温度上昇率継続期間Δt1は、誤判定を防止するために、正常動作時の温度上昇率が温度上昇率値Th1を超えている時間より長い時間を設定する。具体的には、温度上昇率継続期間Δt1は、正常状態における定格出力時での正常時定格出力温度上昇率Tj_sens_rat_nH(図7の上に凸の温度上昇率)が温度上昇率値Th1を上回っている期間よりも長い期間とする。
定格出力未満の温度上昇率Tj_sens_ratは定格出力での温度上昇率Tj_sens_ratより小さくなる。このため、定格出力での温度上昇率Tj_sens_ratの推移を考慮して温度上昇率継続期間Δt1を設定することで、保護すべき全出力で誤判定を防止することができる。
なお、温度上昇率継続期間Δt1は少なくともスイッチング素子311~316の損失ばらつき、冷却器4の性能ばらつき、スイッチング素子温度センサ7の検出誤差、等を加味し、正常状態における定格出力時での正常時定格出力温度上昇率Tj_sens_rat_nHが高い値側にばらついたとしても到達しない期間に設定される。
図8は、比較例に係る電力変換装置のスイッチング素子の温度と判定温度を示す図である。従来の技術と同様に温度を検出し比較した場合における、異常判定までの、スイッチング素子の温度Tjと温度検出値Tj_sensの推移を示す説明図である。縦軸は温度、横軸は時間である。図8では、温度検出値Tj_sensと比較して異常を判定するための判定温度Th0と、異常判定X1の時刻t4を、図5に対して追加している。
図8において、判定温度Th0は、電力変換部3の駆動条件、スイッチング素子311~316の配置環境等が正常なときに異常を誤判定しないように設定されている。すなわち、スイッチング素子温度センサ7の判定誤差、スイッチング素子311~316の発熱量のバラつき、冷却器4の冷却媒体の流入量のバラつき、等を加味して高めに設定されている。
そのため、図8に示すように、時刻t2で冷却器4の冷却媒体が消失した場合、温度検出値Tj_sensが判定温度Th0に達して異常判定するX1(時刻t4)までの時間[t4-t2]が長くなる。すなわち、従来の技術を適用した場合は、異常判定X1までの時間が長くなり、スイッチング素子311の温度がTj_X1となり、高くなってしまう。
<冷却器の冷却媒体消失時の温度上昇率の推移>
図9は、実施の形態1に係る電力変換装置100のスイッチング素子の作動制限までの温度の推移を示す図である。縦軸は温度、横軸は時間を示す。図10は、実施の形態1に係る電力変換装置100のスイッチング素子の作動制限までの温度上昇率の推移を示す図である。縦軸は温度上昇率、横軸は時間を示す。
図9、図10において、時刻t2までは正常な状態のスイッチング素子の温度検出値Tj_sens、温度上昇率Tj_sens_ratを示している。時刻t1でインバータ部31の出力が「0」から上昇する。この変化に伴い、温度検出値Tj_sensに基づく温度上昇率Tj_sens_ratは、急劇に上昇する。そして温度上昇率Tj_sens_ratは、時刻t1の直後の時刻t11で正常時における最大値に達する。
その後、温度上昇率Tj_sens_ratは緩やかに減少し、時刻t11から十分な時間が経過した時刻t12に達すると、温度検出値Tj_sensが整定する。このため、温度上昇率Tj_sens_ratは「0」となる。
時刻t2に冷却器4の冷却媒体が消失する。温度検出値Tj_sensは上昇する。温度検出値Tj_sensに基づく温度上昇率Tj_sens_ratは、急峻に上昇し、時刻t21aで温度上昇率値Th1に達する。温度上昇率Tj_sens_ratが温度上昇率値Th1を温度上昇率継続期間Δt1の間超過した時刻t21bに異常判定に至る。
図10の異常発生の時刻t2から異常判定の時刻t21bまでの時間[t21b-t2]は、図8の比較例に係る異常発生の時刻t2から異常判定の時刻t4までの時間[t4-t2]よりも短い。すなわち、より迅速に異常状態を判定できる。このときのスイッチング素子311の温度は、Tj_X2bとなる。このため、図8に示した従来の手法によって異常判定した場合のスイッチング素子311の温度Tj_X1よりも、実施の形態1に係る異常判定時の温度Tj_X2bのほうが低くなる。よって、単純に温度検出値Tj_sensを判定温度Th0と比較するのに比べて、温度上昇率Tj_sens_ratが温度上昇率値Th1を温度上昇率継続期間Δt1の間超過したことを検出する実施の形態1に係る異常判定の方が有利であることがわかる。
なお、温度検出値Tj_sensから温度上昇率Tj_sens_ratを算出する単位時間は、ノイズの影響を回避するために長くとり、その推移はランプ関数で示されている。しかし、必ずしもその限りではなく、温度検出値Tj_sensから温度上昇率Tj_sens_ratを算出する単位時間をより短くしてもよい。
その場合、異常発生の時刻t2から温度上昇率値Th1と温度上昇率Tj_sens_ratのクロス点X2の時刻t21aと異常判定時刻t21bまでの時間をより短くすることが可能となる。それによって、スイッチング素子311の温度上昇の抑制をより効果的に実現することができる。
<作動制限時の温度の推移>
図11は、実施の形態1に係る電力変換装置100のスイッチング素子の作動制限時の温度の推移を示す図である。縦軸は温度、横軸は時間を示す。図12は、実施の形態1に係る電力変換装置100のスイッチング素子の作動制限時の温度上昇率の推移を示す図である。縦軸は温度上昇率、横軸は時間を示す。
図11、図12において、時刻t21bでの異常判定を完了している。この後は、図4に示す温度上昇率判定部911のエラー信号Sig_errがエラー状態を示すこととなる。このとき、トルク指令抑制部912によりトルク指令Trqcに対して予め定められた割合を掛けてトルク制御指令Trqc_ctlを算出する。よって、トルク指令Trqcより低い、トルク制御指令Trqc_ctlがトルク指令抑制部912から出力される。
トルク制御指令Trqc_ctlは、トルク指令Trqcに所定の制限が加えられた、より低い値であるため、インバータ部31の出力は低下する。このとき、スイッチング素子温度Tjは、温度Tj_21bとなる。スイッチング素子温度センサ7による温度検出値Tj_sensに基づく温度上昇率Tj_sens_ratは時刻t21bから低下する。その後、温度上昇率Tj_sens_ratは、温度上昇率値Th1を下回る。
しかし、エラー信号Sig_errは、エラー状態を継続して示す。そのため、温度上昇率Tj_sens_ratが低下してもトルク制御指令Trqc_ctlに所定の制限を継続し、スイッチング素子の過熱状態に対処を続けることができる。その結果、スイッチング素子が動作限界温度に達して電力変換装置の故障、性能の劣化、寿命の短縮が発生することを防ぎつつ、電力変換の継続を実現することができる。
異常判定の時刻t21bから予め定められた時間[t22―t21b]である制限運転期間Δt2の経過後である時刻t22では、スイッチング素子は停止させられる。時刻t22に、図3に示す出力停止判定部913から出力される出力停止信号Sig_stopは駆動禁止を示すこととなり、インバータ部31の出力は「0」となる。したがって、図11に示す時刻t22でのスイッチング素子の温度TjはTj_22となってスイッチング素子311の動作限界温度に達することはない。その結果、電力変換装置の故障、性能の劣化、寿命の短縮を防ぐことができる。
図12に示すように、実施の形態1に係る電力変換装置100は、温度上昇率Tj_sens_ratが温度上昇率値Th1を温度上昇率継続期間Δt1の間超過してから所定の制限運転期間Δt2以上動作する。これにより、例えば電動機1が電気自動車等の車両の駆動源として用いられている場合には、異常状態が交差点等の問題のある場所で発生したときに車両が自走して支障のない場所に停車できるまで車両を移動させることができる。
実施の形態1による電力変換装置100は、異常状態を判定した後、トルク制御指令Trqc_ctlを抑制することで出力を制限している。これにより、異常状態を判定してからの温度上昇が小さくなる。このため、異常状態を判定してから電力変換装置100を停止させるまでの時間、すなわち時刻t21bから時刻t22までの制限運転期間Δt2をより長く設定することができる。
よって、例えば電動機1が電気自動車等の車両の駆動源として用いられている場合には、異常状態が交差点等の問題のある場所で発生したときに適切に対応することができる。支障のない場所に停車できるまで、充分な時間をかけて車両が自走することができる。このため、異常状態発生時に信頼性を確保しつつ適切な対応が可能となる電力変換装置100が構成できる。
前述のように、温度上昇率Tj_sens_ratが温度上昇率値Th1を上回った後、図12における時刻t21cで温度上昇率値Th1を下回るがエラー信号Sig_errは、エラー状態を継続して示す。これにより、スイッチング素子の破損を防ぎつつ、確実に制限運転期間Δt2の電力変換装置100の動作を継続することができる。
前述のように、時刻t21bで異常状態を判定して作動制限を行った後、予め定められた時間[t22―t21b]である制限運転期間Δt2の経過後に、図3に示す出力停止判定部913から出力される出力停止信号Sig_stopは駆動禁止を示す。これにより、異常状態を判定してから予め定められた制限運転期間Δt2動作を継続できると共に、スイッチング素子311が動作限界温度に達するまでに動作を停止することができる。
なお、インバータ部31のスイッチング素子311~316は、どのような半導体素子を用いて構成してもよい。例えば、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成することができる。ワイドバンドギャップ半導体の材料としては、SiC、GaN等が挙げられる。これらの半導体を用いて構成することで、スイッチング素子の耐熱性を向上することができるので、性能を向上することに寄与する。
しかし、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成されたスイッチング素子311~316は、従来のSiを用いて構成されたスイッチング素子に比べてコストが高くなる。よって、ワイドバンドギャップ半導体を備えたインバータ部31は高コストとなる。
スイッチング素子の最大到達温度を低くすることで、耐熱性の低い素子を使用することが可能となる。或いは損失の高い素子を使用することが可能となる。さらに半導体の温度上昇を適切に制御できるため、半導体の最大到達温度を動作限界温度に接近させることができる。このため、放熱性能が低下する半導体のサイズ縮小にも対応でき、よりコストを削減することができる。
また、前述のように、インバータ部31の1つのアームを1つのスイッチング素子で構成してもよい。しかし、1つのスイッチング素子当たりに流れる電流を減らすために、1つのアームを、複数のスイッチング素子を並列接続して構成してもよい。この場合、1つのスイッチング素子に対し、1つのスイッチング素子温度センサ7を実装すると、スイッチング素子温度センサ7の個数が膨大となる。このため、高コストとなり、また温度取得回路が大規模化する。これを回避するために、1つのアームに対し、1つのスイッチング素子温度センサ7を設置し、複数のスイッチング素子の温度を包括的に取得してもよい。
このようにすれば、1つのスイッチング素子が過大に発熱しても、平均的に温度が取得できる位置に温度センサを配置することで、取得温度のバラつきの影響を小さくすることができる。そして迅速に異常状態を判定できる。スイッチング素子の発熱量のバラつきを加味して温度上昇率値Th1と温度上昇率継続期間Δt1を設定することができる。
以上述べたように、実施の形態1による電力変換装置100は、スイッチング素子311~316が設置されている周辺部の温度を検出するスイッチング素子温度センサ7の温度検出値から、その温度上昇率を監視することで、冷却器4に流れる冷却媒体の流入が停止または消失したことを、迅速に判定することができる。これによって、スイッチング素子の最大到達温度を低くすることができる。そして、電力変換装置100の駆動条件を工夫して最適な制御を実現することができる。スイッチング素子311~316が高温により破損することを防ぎつつ、電力変換装置100を駆動し続けることができる。
<温度上昇率のばらつき>
図13は、実施の形態1に係る電力変換装置のスイッチング素子の温度上昇率のばらつきを説明する図である。図13において正常時における実際の出力状態での温度上昇率の最大値をZ0、正常時における観測精度により小さく観測された出力状態での温度上昇率の最大値をZ1、正常時における観測精度により大きく観測された出力状態での温度上昇率の最大値をZ2、実際の出力状態で異常状態になったときの温度上昇率の最大値をZaとする。
図13では、観測精度により出力状態が小さく観測された場合、温度上昇率値Th1aは、小さく観測された出力状態での温度上昇率の最大値Z1より上に設定されている。しかしながら、実際の出力状態での温度上昇率の最大値Z0は温度上昇率値Th1aより大きいため、正常状態での温度上昇率が温度上昇率値Th1aを上回り、異常状態ではないにも関わらず、異常状態と判定して誤判定が発生する。
そこで、観測精度を考慮して出力状態が大きく観測された場合の最大値Z2より高い値、すなわち、温度上昇率値Th1aの代わりに温度上昇率値Th1bを設定した場合を考える。この場合は、実際の出力状態で異常状態になったときの温度上昇率の最大値Zaより温度上昇率値Th1bのほうが高いため、異常状態を判定できなくなる。出力が小さい程、異常状態での温度上昇率の最大値Zaと、実際の出力状態での温度上昇率の最大値Z0との差は小さくなる傾向があるため、より異常状態を判定できなくなる。
電力変換装置100では、誤判定を防ぐには電流検出器、電圧検出器の精度を上げる必要がある。そのためには、判定回路の部品の高性能化によりコストが高くなるという課題がある。実施の形態1に係る電力変換装置100では、電流検出器、電圧検出器を用いて出力状態を監視することなく、温度上昇率Tj_sens_ratおよび、温度上昇率値Th1と温度上昇率継続期間Δt1を用いて異常判定を行う。これによって、上記のばらつきの影響を排して広範囲の出力状態に対して異常状態を判定することが可能となる。
2.実施の形態2
図14は、実施の形態2に係る電力変換装置100のスイッチング素子の温度上昇率、温度上昇率継続期間および判定値を示す図である。実施の形態2では、図1から図4に記載したハードウェア構成、機能ブロックを使用する。スイッチング素子の温度および温度上昇率に応じた異常判定と作動制限の実施は、ソフトウェアの変更で実現できるものとして説明し、各部の符号の変更はしない。しかし、実施の形態2に係る電力変換装置100の実現にあたって、ハードウェアの変更を排除するものではない。変更したハードウェアと変更したソフトウェアの協業によって実現することとしてもよい。以下では実施の形態1と同一または相当する部分の説明は省略し、実施の形態1と異なる点を中心に説明する。
実施の形態2では、図4に示した実施の形態1に係る電力変換装置100の温度上昇率判定部911について、温度上昇率値Th1及び温度上昇率継続期間Δt1を複数設けた点が異なる。図7に示した実施の形態1に係る温度上昇率、温度上昇率継続期間および判定値に対して、図14に実施の形態2に係る温度上昇率、温度上昇率継続期間および判定値を示す。図14では、温度上昇率値Th11、第二の温度上昇率値Th12、温度上昇率継続期間Δt11、第二の温度上昇率継続期間Δt12を設けている。さらに、正常状態における定格出力時での正常時定格出力温度上昇率Tj_sens_rat_nHの最大値より高い値として、第三の温度上昇率値Th13を設けた。
実施の形態1では、図7に示すように温度上昇率値Th1は、部分出力時における異常状態での異常時部分出力温度上昇率Tj_sens_rat_fLのピーク値以下に設定し、温度上昇率値で誤判定しないために温度上昇率継続期間Δt1を設けている。しかし、定格出力時に異常状態になった場合に、出力が大きく温度Tjが急速に上昇する。このため、温度上昇率継続期間Δt1が経過する前にスイッチング素子の温度Tjが動作限界温度に達してしまい、高温により破損する可能性がある。
そこで実施の形態2では、図14に示すように実施の形態1に対して、温度上昇率値Th11よりも高い閾値である第二の温度上昇率値Th12と、温度上昇率継続期間Δt11よりも短い判定時間である第二の温度上昇率継続期間Δt12を追加して設けている。これにより、高出力時における迅速な異常判定とスイッチング素子の作動制限を可能としている。実施の形態2では温度上昇率値と温度上昇率継続期間をそれぞれ2つ設けているがその限りではなく、3つ以上設けてもよい。
図14を用いて実施の形態2における温度上昇率値と温度上昇率継続期間及び、第三の温度上昇率値Th13の設定の手順について説明する。縦軸は温度上昇率、横軸は時間を示す。
図14は図7に対して、複数の温度上昇率値である温度上昇率値Th11、第二の温度上昇率値Th12を設定し、それぞれに対する複数の温度上昇率継続期間である温度上昇率継続期間Δt11、第二の温度上昇率継続期間Δt12を設けている。更に第三の温度上昇率値Th13と第三の温度上昇率継続期間Δt3を新たに設けてもよい(Δt3は不図示)。
<第三の温度上昇率値の設定>
まず、第三の温度上昇率値Th13と第三の温度上昇率継続期間Δt3の設定方法について説明する。第三の温度上昇率値Th13は、図14において、正常状態における定格出力時での正常時定格出力温度上昇率Tj_sens_rat_nHの最大値より、高い値に設定する。正常状態では到達し得ない温度上昇率に閾値を設定することで誤判定を防止できる。そして、正常状態では到達しない温度であるため、判定時間を短くすることができる。これにより、定格または定格に近い高出力時に異常状態になったときに、迅速に異常を判定できる。温度上昇率の急上昇を遅滞なく判定するために、第三の温度上昇率継続期間Δt3は非常に短い期間に設定してもよい。
ここで、動作限界温度から、異常状態を判定した後の動作継続時の温度上昇(図11のTj_21bからTj_22までの温度上昇)を差し引いた温度を最大許容温度とする。第三の温度上昇率継続期間Δt3は、図14において定格出力時における異常状態での異常時定格出力温度上昇率Tj_sens_rat_fHが第三の温度上昇率値Th13にX3で到達してから、スイッチング素子の温度Tjが最大許容温度に到達するまでの時間以下とする(不図示)。これにより、定格または定格に近い高出力時にスイッチング素子の温度Tjが最大許容温度に到達するまでに異常状態を判定することができる。
第三の温度上昇率値Th13は、定格出力時における異常状態での異常時定格出力温度上昇率Tj_sens_rat_fHの最大値より低い値とする。それにより、定格出力時に異常状態になったときに温度上昇率が確実に第三の温度上昇率値Th13に到達するので、確実に異常状態を判定することができる。
第三の温度上昇率継続期間Δt3は温度上昇率を算出している単位時間とし、単位時間当たりの上昇量である温度上昇率が一度でも第三の温度上昇率値Th13を超えると異常状態と判定し、エラー信号Sig_errがエラー状態を示すこととしてもよい。これにより、定格または定格に近い高出力時に最短の時間で異常状態を判定することができる。
<温度上昇率値、第二の温度上昇率値の設定>
次に複数の温度上昇率値である温度上昇率値Th11、第二の温度上昇率値Th12と複数の温度上昇率継続期間である温度上昇率継続期間Δt11、第二の温度上昇率継続期間Δt12の設定方法について説明する。温度上昇率値Th11は、図14において、部分出力時における異常状態での異常時部分出力温度上昇率Tj_sens_rat_fLのピーク値以下に設定する。部分出力とは電力変換部3の出力状態のうち、電力変換装置100が保護すべき下限の出力のことを示す。すなわち、定格出力ではなく部分出力状態であるが、冷却器の異常に際して、スイッチング素子の作動制限を行うべきである出力状態を示す。
温度上昇率値Th11に対応する温度上昇率継続期間Δt11は、正常状態における定格出力時での正常時定格出力温度上昇率Tj_sens_rat_nHが温度上昇率値Th11を上回っている期間よりも長い時間とする。これにより、誤判定を防止しつつ、部分出力以上の出力での冷却器異常等の異常を判定することができる。
正常状態における定格出力時での正常時定格出力温度上昇率Tj_sens_rat_nHの最大温度上昇率以下の温度上昇率値であり、温度上昇率値Th11より大きい値を選択して、第二の温度上昇率値Th12を設定する。温度上昇率継続期間Δt11よりも短い期間であり、正常時定格出力温度上昇率Tj_sens_rat_nHが、第二の温度上昇率値Th12を上回っている期間よりも長い期間を第二の温度上昇率継続期間Δt12として設定する。これにより、温度上昇率値Th11より大きい温度上昇率に対して、温度上昇率継続期間Δt11よりも短い期間である第二の温度上昇率継続期間Δt12で、誤判定を防止しつつ、迅速に異常判定をすることができる。このとき、第二の温度上昇率値Th12は、第三の温度上昇率値Th13以下に設定すればよい。
すなわち、温度上昇率値Th11と温度上昇率継続期間Δt11の組合せでは異常状態での異常時部分出力温度上昇率Tj_sens_rat_fLの場合、誤判定を防止しつつ、異常判定をすることができる。これによって、スイッチング素子の作動制限を行うことができるが、異常判定に温度上昇率継続期間Δt11の期間を必要とする。これに対し、第二の温度上昇率値Th12と第二の温度上昇率継続期間Δt12の組合せでは、異常時部分出力温度上昇率Tj_sens_rat_fLのスイッチング素子の作動制限を行うことができない。しかし、より大きな温度上昇率値である第二の温度上昇率値Th12を超える異常に対して、誤判定を防止しつつより短い期間である第二の温度上昇率継続期間Δt12で迅速に異常を判定しスイッチング素子の作動制限を行うことができる。
以上述べた実施の形態2による電力変換装置100によれば、温度上昇率値が高い程、温度上昇率値に対応した温度上昇率継続期間は短くなるように、温度上昇率値と温度上昇率継続期間を設定することで、温度Tjの上昇速度が大きい高出力程、早期に異常状態を判定できる。すなわち、定格出力以下、部分出力以上の全範囲において出力に応じて早期に異常状態を判定でき、電力変換装置100の出力を抑制する作動制限を行うことで、スイッチング素子311~316が高温により破損することを防ぎつつ、電力変換装置100を駆動し続けることができる。
3.実施の形態3
図15は、実施の形態3に係る電力変換装置100の出力抑制部91の機能ブロック図である。実施の形態3では、図1から図3に記載したハードウェア構成、機能ブロックを使用する。実施の形態1による電力変換装置100の構成に対して、図4に記載した出力抑制部91を、図15に記載した出力抑制部91に変更している。具体的には、図4の出力抑制部91の温度上昇率判定部911の出力先を変更し、温度上昇判定部914と異常判定部915を追加したものが図15の出力抑制部91である。
出力抑制部91の機能ブロックの変更と、スイッチング素子の温度および温度上昇率に応じた異常判定と作動制限の実施は、ソフトウェアの変更で実現できるものとして説明し、各部の符号の変更はしない。しかし、実施の形態3に係る電力変換装置100の実現にあたって、ハードウェアの変更を排除するものではない。変更したハードウェアと変更したソフトウェアの協業によって実現することとしてもよい。以下では実施の形態1と同一または相当する部分の説明は省略し、実施の形態1と異なる点を中心に説明する。
図15において、温度上昇率判定部911の出力は、異常判定部915に入力される。温度上昇判定部914は、温度上昇率判定部911の機能と並列に設けられた機能である。具体的には、温度上昇判定部914は、温度検出値Tj_sensと予め定められた判定温度Th2とを比較することで、スイッチング素子311~316の異常発熱、冷却器4の異常状態等を検出し、その結果を異常判定部915に入力する(Th2は不図示)。
判定温度Th2は、例えば、冷却器4の冷却媒体が消失したとしても、温度上昇率判定部911で異常を判定できない場合、すなわち、インバータ部31が低出力時に温度上昇判定部914が異常を判定できるように設定される。異常状態を判定した後、温度検出値Tj_sensが低下し判定温度Th2を下回った場合でも、温度上昇判定部914による異常状態の判定は継続する。
異常判定部915は、温度上昇率判定部911と温度上昇判定部914との出力結果を監視し、温度上昇率判定部911と温度上昇判定部914の少なくとも一方が異常と判定したとき、エラー信号Sig_errの内容を異常状態にして出力する。
ここで、特許文献1に記載された電力変換装置と実施の形態3に係る電力変換装置100とを比較する。両者は、ともに温度検出値Tj_sensと予め定められた判定温度(閾値)とを比較し、温度検出値Tj_sensが判定温度を超えた場合に、作動制限を開始する機能は同じである。しかし、実施の形態3では、インバータ部31の高出力領域では温度上昇率判定部911で温度上昇率値Th1に基づいて異常を判定し、低出力領域では温度上昇判定部914で判定温度Th2に基づいて異常を判定する点で異なる。
前述したとおり、スイッチング素子311~316の最大到達温度が高くなることが課題である。実施の形態3に示すように、温度検出値Tj_sensと予め定められた判定温度Th2とを比較する方式であれば、スイッチング素子311~316最大到達温度は、スイッチング素子311~316の温度Tjと温度検出値Tj_sensとの差分と、判定温度Th2との和となる。
判定温度Th2は、電力変換装置100が正常に動作するときには到達しない温度であるため、低くすることはできない。一方で、インバータ部31の、低出力時におけるスイッチング素子の温度Tjと温度検出値Tj_sensとの差分と、高出力時におけるスイッチング素子の温度Tjと温度検出値Tj_sensとの差分とを比較すると、低出力時の方が高出力時より差分は小さくなる。そのため、インバータ部31の低出力時に判定温度Th2に達した時点でのスイッチング素子の温度Tjと温度検出値Tj_sensとの差分は小さくなる。このため、低出力時にスイッチング素子の最大到達温度を低くすることができる。
実施の形態3に係る電力変換装置100の制御装置9の出力抑制部91は、スイッチング素子温度センサ7の温度検出値Tj_sensと予め定められた判定温度Th2とを比較し、温度検出値Tj_sensが判定温度Th2を超えたことを判定する温度上昇判定部914を備えている。そして、前述の温度上昇率判定部911を備えている。温度上昇率判定部911と温度上昇判定部914とのうちの少なくとも一方が、対応する前述の閾値を超えたと判定したとき、電力変換部3の出力を抑制する作動制限を実行するように構成されている。これにより、高出力時には温度上昇率判定部911で異常状態を判定し、低出力時には温度上昇判定部914で異常状態を判定するので、様々な出力に対応して異常を判定できる。
判定温度Th2は、少なくとも、電力変換部3の正常状態の定格動作時に達する温度検出値Tj_sensより高い値に設定されている。これにより、正常状態では温度上昇判定部914が異常を判定しないので温度上昇判定部914での誤判定を防止することができる。
また、判定温度Th2は、スイッチング素子温度センサ7の温度検出値Tj_sensが判定温度Th2を超えてから、予め定められた制限運転期間、電力変換部3が動作できる値に設定されている。これにより、電力変換装置100が機能停止する前に必要な措置をとる余裕を与えることができる。
判定温度Th2は、部分出力の場合に冷却器の異常によって到達するスイッチング素子の温度を検出できるように設定する。部分出力とは電力変換部3の出力状態のうち、電力変換装置100が保護すべき下限の出力のことを示す。すなわち、定格出力ではなく部分出力状態であるが、冷却器の異常に際して、スイッチング素子の作動制限を行うべきである出力状態を示す。
このために、保護すべき下限の出力である部分出力の場合に、冷却器異常時に到達するスイッチング素子の温度検出値Tj_sensの最大値未満に判定温度Th2を設定する。これによって、電力変換装置100の制御装置9は低出力の領域においても、スイッチング素子の温度異常を検出して保護動作を行うことが可能となる。温度上昇率Tj_sens_ratでの異常判定ができる高出力の領域と、温度検出値Tj_sensに基づいて異常判定ができる低出力の領域を確保することができる。それにより、判定できない出力範囲を少なくすることができる。広い出力範囲において、温度上昇率に基づく異常判定と温度検出値に基づく異常判定のどちらかで異常状態を判定することができる。また、電力変換装置100の運転時、無負荷であっても冷却器異常時のスイッチング素子の温度検出値Tj_sensが、冷却器が正常時に定格運転した時のスイッチング素子の温度検出値Tj_sensを上回る場合は、この間に判定温度Th2を設定することによって、全出力範囲において、異常状態を判定することができる。
ここで、温度上昇率Tj_sens_ratでの異常判定ができる出力の領域の下限である、温度上昇率異常判定可能出力下限値を考える。そして、温度検出値Tj_sensでの異常判定が可能な出力の領域の下限である温度異常判定可能出力下限値を考える。温度上昇率異常判定可能出力下限値と温度異常判定可能出力下限値とを一致させて、これを部分出力としてもよい。そのように設定すれば、温度上昇率によって異常判定できる出力範囲と、温度によって異常判定できる出力範囲とが重複することとなる。それによって、重複する出力範囲において二つの方法で確実に異常を判定できるので、異常判定の信頼性が向上できる。
制御装置9は、温度上昇率判定部911と温度上昇判定部914とのうちの少なくとも一方が、異常判定をした後、電力変換部3の出力を抑制する作動制限を実行するように構成されている。これにより、異常状態を判定してからの温度上昇が小さくなる。よって、異常状態を判定してから停止させるまでの制限運転期間をより長く確保することができる。例えば電動機1が電気自動車等の車両の駆動源として用いられている場合には、異常状態が交差点等の問題のある場所で発生したときに、路肩等の支障のない場所まで制限運転期間を利用して車両を移動させられる電力変換装置100を得ることができる。
また、電力変換装置100の制御装置9は、電力変換部3の出力を抑制する作動制限をスイッチング素子の温度が低下した場合でも継続する。スイッチング素子の作動制限中に、温度上昇率Tj_sens_ratが温度上昇率値Th1より低下する状態と、温度検出値Tj_sensが判定温度Th2より低下する状態と、の少なくとも一方の状態になった場合、電力変換装置100は、電力変換部3の出力を抑制する作動制限を継続するように構成されている。これにより、スイッチング素子の破損を防ぎつつ、確実に所定の制限運転期間以上の期間、電力変換装置100の動作を継続できる。
さらに、電力変換装置100の制御装置9は、電力変換部3の出力を抑制する作動制限を実行してから、予め定められた時間(例えば制限運転期間)の後に電力変換部3の出力を停止させるように構成してもよい。また、制御装置9は、電力変換部3の出力を抑制する作動制限を実行してから、予め定められた停止判定温度Th3と温度検出値Tj_sensとを比較し、温度検出値Tj_sensが停止判定温度Th3を超えたとき、電力変換部3の出力を停止させる出力停止判定部913を備えていてもよい。これにより、異常状態を判定した後に動作を継続できると共に、スイッチング素子311が動作限界温度に達するまでに動作を停止することができる。
また、電力変換部3の一つのアームを構成するそれぞれのスイッチング素子311~316は、複数のスイッチング素子が並列に接続されて構成されていてもよい。そして、スイッチング素子温度センサ7は、全てのスイッチング素子の温度の平均値を検出するように構成されていてもよい。
以上述べた実施の形態3による電力変換装置100によれば、インバータ部31の出力が高い場合は温度上昇率Tj_sens_ratで冷却器4の異常をいち早く判定することができる。そして、インバータ部31の出力が低い場合は、温度検出値Tj_sensに基づいて冷却器4の異常を判定することができる。
部分出力とは電力変換部3の出力状態のうち、電力変換装置100が保護すべき下限の出力のことを示すと説明した。ここで、この部分出力状態において、冷却器の熱伝導機能が喪失された場合の最大温度上昇率値を検討する。このときの最大温度上昇率値よりも小さな値である温度上昇率値Th4を決定する(Th4は不図示)。温度上昇率判定部911にて温度上昇率Tj_sens_ratと比較する温度上昇率値Th1として、この温度上昇率値Th4を設定してもよい。
このようにすることによって、部分出力状態において冷却器の熱伝導機能が喪失された場合、これをより迅速に検出することが可能となる。これによって、温度上昇率値で異常を検出する高出力の領域と、温度検出値で異常を検出する低出力の領域をオーバーラップさせることができる。それにより、判定できない出力範囲をなくすことができる。全出力範囲において、温度上昇率に基づく異常判定と温度検出値に基づく異常判定のどちらかで異常状態を判定することができる。
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。