JP2023072564A - 電動機制御方法、及び、電動機制御装置 - Google Patents

電動機制御方法、及び、電動機制御装置 Download PDF

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Abstract

【課題】通常動作時と負荷急変時のいずれにおいても、電流ベクトル制御と電圧位相制御の切り替えを適切に行うことができる電動機制御方法及び電動機制御装置を提供する。【解決手段】電動機11に供給する電流の目標値である電流目標値に、電動機11の電流値をフィードバックすることによって電動機11を制御する電圧指令値を演算する第1制御モード(電流ベクトル制御)と、電動機に供給する電圧の位相に関する指令値に、電流値または電流値に基づいて演算されるパラメータをフィードバックすることによって電圧指令値を演算する第2制御モード(電圧位相制御)と、を切り替えながら電動機を制御する。第1制御モードと第2制御モードの切り替えに対して、遅延時間が設定される。そして、第2制御モードから第1制御モードへの切り替えに対する遅延時間は、電源電圧Vdcに応じて変化される。【選択図】図2

Description

本発明は、電動機の制御方法及び制御装置に関する。
特許文献1には、電動機の作動状態に応じて電流ベクトル制御と電圧位相制御のうちいずれか1つの制御を実行する電動機制御方法が開示されている。この電動機制御方法においては、電動機の電流値あるいは電動機の電流値に基づいて演算された状態量に基づいて、電流ベクトル制御と電圧位相制御の切り替えのタイミングが判定されている。
国際公開2019/106729号
電流ベクトル制御と電圧位相制御は、いずれも、電動機の電流値やその他の電動機の状態を表すパラメータ等(以下、これらをまとめて、電動機の状態量、または、単に状態量という)をフィードバックすることにより、電動機に供給する電圧を調整する制御構成となっている。一方、状態量には高調波が含まれることが避けられない。これは、例えば電動機の磁気特性等やセンサの誤差特性等、すなわちハードウェア特性や検出誤差によるものである。したがって、電流ベクトル制御と電圧位相制御の切り替えタイミングの判定に電動機の状態量を用いるときには、ローパスフィルタ等による平均化処理によって状態量に含まれる高調波が低減または除去される。これは、制御の切り替えにともなう段差やそれによるショックを抑制するためである。
状態量の変化が比較的緩慢な通常の動作状態において、状態量に含まれる高調波を十分に低減するためには、ローパスフィルタの時定数を比較的長く(大きい値に)設定する必要がある。しかし、ローパスフィルタの時定数が長く設定されていると、電動機に対する負荷の急変(以下、単に負荷急変という)等によって状態量が急激に変化したときに、制御の切り替え判定の成立が遅れ、制御上意図されていない電流上昇が生じる。その結果、インバータに含まれる半導体スイッチング素子におけるサージ電圧が大きくなり、半導体スイッチング素子に印加される電圧が、半導体スイッチング素子の耐圧上限を超えてしまう場合がある。
また、上記とは逆に、負荷急変等によって状態量が急激に変化したときに制御の切り替えが遅れないようにするためには、ローパスフィルタの時定数を比較的短く設定する必要がある。しかし、ローパスフィルタの時定数が短く設定されていると、通常の動作状態において制御の切り替えチャタリングが発生し、思わぬ振動が生じるおそれがある。
特に、電圧位相制御は非線形な制御系であるから、制御系及び電動機からなる一巡伝達特性が電動機の動作状態に応じて変化する。このため、上記のような負荷急変時と通常動作時の各問題点を両方とも解決し得るようにローパスフィルタを設計することは困難である。
本発明は、通常動作時と負荷急変時のいずれにおいても、上記のような弊害が生じないように、電流ベクトル制御と電圧位相制御の切り替えを適切に行うことができる電動機制御方法及び電動機制御装置を提供することを目的とする。
本発明のある態様は、電動機に供給する電流の目標値である電流目標値に、電動機の電流値をフィードバックすることによって電動機を制御する電圧指令値を演算する第1制御モード(電流ベクトル制御)と、電動機に供給する電圧の位相に関する指令値に、電流値または電流値に基づいて演算されるパラメータをフィードバックすることによって電圧指令値を演算する第2制御モード(電圧位相制御)と、を切り替えながら電動機を制御する電動機制御方法である。この電動機制御方法では、第1制御モードと第2制御モードの切り替えに対して、遅延時間が設定される。そして、第2制御モードから第1制御モードへの切り替えに対する遅延時間は、電源電圧に応じて変化される。
本発明によれば、通常動作時と負荷急変時のいずれにおいても、電流ベクトル制御と電圧位相制御の切り替えを適切に行うことができる電動機制御方法及び電動機制御装置を提供することができる。
図1は、電動機制御装置の概略構成を示すブロック図である。 図2は、制御演算部の構成を示すブロック図である。 図3は、電流ベクトル制御部の構成を示すブロック図である。 図4は、電圧位相制御部の構成を示すブロック図である。 図5は、電圧位相とトルクの関係の例を示すグラフである。 図6は、制御モード切替部の構成を示すブロック図である。 図7は、制御モード判定部の具体的な構成を示すブロック図である。 図8は、電源電圧と制御モードの切替線の関係を示す説明図である。 図9は、電圧位相制御における電動機の入出力静特性を示すグラフである。 図10は、半導体スイッチング素子の特性を概略的に示すグラフである。 図11は、電動機制御装置による制御モードの切り替えに係る作用を示すフローチャートである。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
[第1実施形態]
図1は、電動機制御装置100の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、電動機制御装置100は、電源10から供給される電力によって電動機11を駆動し、その動作状態を制御する。また、電源10、電動機11、及び、電動機制御装置100は、例えば、駆動源として、電動車両またはハイブリッド車両等の車両に搭載される。
電源10は、電動機11及びその他車両等の各部に対する電力の供給源である。電源10は、直接的には、例えばリチウムイオンバッテリ等の二次電池である。このため、電源10は、外部電源や回生制動力等によって充電可能である。電源10は、二次電池を充電するために、電力を生成する燃料電池等の装置を含む場合がある。
本実施形態においては、電源10は直流電源である。すなわち、電源10が出力する電圧は直流電圧(以下、DC電圧という)であり、電源10が出力する電流は交流電流(DC電流)であり、電源10が出力する電力は直流電力(DC電力)である。
また、本実施形態においては、電源10が出力するDC電圧は、電圧検出器21によって適宜に検出される。そして、電動機制御装置100等は、検出されたDC電圧(以下、電源電圧Vdcという)を、任意のタイミングで取得し、演算等に利用可能である。特に留意すべき点は、電源電圧Vdcが、電源10のSOC(State Of Charge)やSOH(State Of Health)等、電源10の実際的かつ具体的な状態によって少なからず変動し得ることである。このため、電動機制御装置100は、電源電圧Vdcに応じて電動機11の動作状態を制御する。
電動機11は、例えば、IPM(Interior Permanent Magnet)型の三相同期電動機である。そして、本実施形態においては、電動機11はIPM型の三相同期電動機であり、U相、V相、及びW相の三相の巻線を有する。なお、いわゆる電圧ベクトル制御及び電圧位相制御によって駆動可能であれば、他の形態の電動機も、電動機制御装置100の制御対象となり得る。
電動機制御装置100は、制御演算部12、座標変換部13、PWM変換部14、インバータ15(INV.)、座標変換部16、及び、回転数演算部17等によって構成される。
制御演算部12は、トルク指令値Tに応じたトルクTを電動機11に出力させるために、トルク指令値T等に基づいて、電動機11に供給すべき電圧の指令値を演算する。具体的には、制御演算部12は、トルク指令値T、d軸電流i、q軸電流i、電源電圧Vdc、及び、回転数Nに基づいて、d軸電圧指令値Vd-fin 及びq軸電圧指令値Vq-fin を演算する。
トルク指令値Tは、電動機11に出力させるトルクTに関する指令であって、運転者による車両の操作等に応じて、例えば図示しない上位のコントローラ(コンピュータ)等によって予め決定される。
d軸電流i及びq軸電流iは、電動機11に流れる電流の検出値を、電動機11の回転子とともに回転するdq軸座標系における電流に換算した電流値である。制御演算部12は、座標変換部16からd軸電流i及びq軸電流iを取得する。以下では、d軸電流i及びq軸電流iをまとめてdq軸電流i,iという。
電源電圧Vdcは、電圧検出器21から取得される。電源電圧Vdcは、前述のとおり、電源10のSOC等によって変化するので、制御演算部12は電源電圧Vdcを適宜取得することにより、電源電圧Vdcの変化に応じてd軸電圧指令値Vd-fin 及びq軸電圧指令値Vq-fin を演算する。
回転数N[rpm]は、電動機11の回転状態、より具体的には回転速度を表すパラメータであって、電動機11の電気角θ[deg]に基づいて算出される。制御演算部12は、回転数演算部17から回転数Nを取得する。
d軸電圧指令値Vd-fin 及びq軸電圧指令値Vq-fin は、電動機11によってトルク指令値Tに応じたトルクTを出力させるために電動機11に供給すべき電圧の指令値である。また、d軸電圧指令値Vd-fin 及びq軸電圧指令値Vq-fin は、dq軸座標系における電圧指令値である。以下では、d軸電圧指令値Vd-fin 及びq軸電圧指令値Vq-fin をまとめてdq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin という。制御演算部12は、dq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin を座標変換部13に出力する。
上記のように構成される制御演算部12は、電動機11を制御するために第1制御モードと第2制御モードの2つの制御モードを有する。第1制御モードは、電流ベクトル制御で電動機11を制御するモードである。第2制御モードは、電圧位相制御で電動機11を制御するモードである。そして、第1制御モードと第2制御モードは適宜に切り替えられる。したがって、d軸電圧指令値Vd-fin 及びq軸電圧指令値Vq-fin は、第1制御モードの電流ベクトル制御によって演算される場合と、第2制御モードの電圧位相制御によって演算される場合と、がある。これらの各制御モード及びその切り替え等を行う制御演算部12の具体的構成については詳細を後述する。
座標変換部13は、dq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin を、UVW各相における電圧指令値に変換する。すなわち、座標変換部13は、dq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin に基づいて、U相電圧指令値V ,V相電圧指令値V ,及び、W相電圧指令値V を演算する。以下では、U相電圧指令値V ,V相電圧指令値V ,及び、W相電圧指令値V をまとめて三相電圧指令値V ,V ,V という。具体的には、座標変換部13は、下記の数式(1)に基づき、電動機11の電気角θに応じて、三相電圧指令値V ,V ,V をPWM変換部14に出力する。電気角θは、電気角検出器22によって検出される。
Figure 2023072564000002
PWM変換部14は、電源電圧Vdcに基づいて、三相電圧指令値V ,V ,V を、インバータ15を構成する半導体スイッチング素子23(sw)の駆動信号であるPWM(Pulse Width Modulation)信号Duu ~Dwl に変換する。PWM信号Duu ~Dwl の第1添字u,v,wはそれぞれUVW各相を表し、第2添字u,lは各相の半導体スイッチング素子における上アーム(u)及び下アーム(l)に対する駆動信号であることを表す。PWM変換部14は、PWM信号Duu ~Dwl をインバータ15に出力する。
インバータ15は、複数の半導体スイッチング素子23を用いて構成される。インバータ15は、PWM信号Duu ~Dwl に基づいて、これらの半導体スイッチング素子23をそれぞれ駆動することにより、直流電圧である電源電圧Vdcを交流電圧V,V,Vに変換する。そして、インバータ15は、交流電圧V,V,Vを電動機11のUVW各相にそれぞれ供給する。これにより、電動機11は、トルク指令値Tに応じたトルクTを出力するように駆動される。
なお、インバータ15を構成する半導体スイッチング素子23は物理的な回路素子である。このため、半導体スイッチング素子23が入出力する電圧Vsw及び電流Iswには上限がある。以下では、半導体スイッチング素子23が入力または出力する電圧Vsw及び電流Iswの上限値を、それぞれ上限電圧VUL及び上限電流IULという。また、半導体スイッチング素子23は、原則として、電源電圧Vdc及びこれに応じた電流を入出力する。しかし、電流ベクトル制御と電圧ベクトル制御が切り替えられるときには、この切り替えに起因して、半導体スイッチング素子23の電圧Vsw及び電流Iswには、過渡的なノイズ(以下、サージという)が重畳される場合がある。以下では、半導体スイッチング素子23の電圧におけるサージをサージ電圧といい、サージ電圧の大きさをサージ幅Wという。サージ幅Wは、電源電圧Vdcに依らず、半導体スイッチング素子23が入出力する電圧及び電流の関係に応じて定まる。また、上限電圧VULと電源電圧Vdcの差(VUL-Vdc)はサージ電圧(サージ幅W)に対する余裕であるから、以下ではこれをサージ余裕Vという。
座標変換部16は、電動機11の電流についての検出値を、dq軸電流i,iに変換する。本実施形態においては、座標変換部16は、電気角θに基づいて、U相電流i及びV相電流iをdq軸電流i,iに変換する。座標変換部16は、dq軸電流i,iを制御演算部12に出力する。具体的には、座標変換部16は、下記の数式(2)に基づき、電気角θに応じて、U相電流i及びV相電流iをdq軸電流i,iに変換する。
Figure 2023072564000003
U相電流i及びV相電流iは、電流検出器24によって検出される。なお、電流検出器24は、三相のうち少なくとも2相以上の電流を検出すればよい。電流検出器24が三相の電流を検出するように構成されるときには、座標変換部16は、三相の電流を用いてdq軸電流i,iを演算する。
回転数演算部17は、電気角θの単位時間当たりの変化量に基づいて、電動機11の回転数Nを演算する。回転数演算部17は、回転数Nを制御演算部12に出力する。
なお、上記のように構成される電動機制御装置100のうち、例えば、制御演算部12、座標変換部13、PWM変換部14、座標変換部16、及び、回転数演算部17は、1または複数のコンピュータによって構成される。すなわち、1または複数のコンピュータが、制御演算部12、座標変換部13、PWM変換部14、座標変換部16、及び、回転数演算部17として機能するようにプログラムされている。一方、インバータ15及び半導体スイッチング素子23、電圧検出器21、電気角検出器22、並びに、電流検出器24は、上記コンピュータと連携する回路装置等である。
[制御演算部の構成]
図2は、制御演算部12の構成を示すブロック図である。図2に示すように、制御演算部12は、電流ベクトル制御部26(第1制御部)、電圧位相制御部27(第2制御部)、制御モード切替部28、及び、遅延時間設定部29を含む。
電流ベクトル制御部26は、電流ベクトル制御によって、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値(以下、電流ベクトル制御のdq軸電圧指令値Vdi-fin ,Vqi-fin という)を演算する。電流ベクトル制御は、電動機11に供給する電流の目標値である電流目標値に対して、電動機11の電流値をフィードバックする制御である。本実施形態においては、電流ベクトル制御部26は、d軸電流目標値i 及びq軸電流目標値i (以下、dq軸電流目標値i ,i という)を演算し、dq軸電流目標値i ,i に対して、電動機11の電流値(dq軸電流i,i)をフィードバックする。
具体的には、電流ベクトル制御部26は、トルク指令値T、回転数N、電源電圧Vdc、及び、dq軸電流i,iに基づいて、電流ベクトル制御のdq軸電圧指令Vdi-fin ,Vqi-fin を演算する。電流ベクトル制御のdq軸電圧指令Vdi-fin ,Vqi-fin を演算する具体的構成については詳細を後述する。
電圧位相制御部27は、電圧位相制御によって、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値(以下、電圧位相制御のdq軸電圧指令値Vdv-fin ,Vqv-fin という)を演算する。電圧位相制御は、電動機11に供給する電圧の位相(以下、電圧位相αという)に、電動機11の電流値、または電動機11の電流値から演算されるパラメータをフィードバックする制御である。本実施形態では、電圧位相αについての目標値または指令値(以下、電圧位相指令値α)を演算し、この電圧位相指令値αに対して、電流値等のパラメータをフィードバックする。「電動機11の電流値または電動機11の電流値から演算されるパラメータ」とは、例えば、dq軸電流i,i、もしくは、dq軸電流i,iを用いて演算される電力またはトルクである。本実施形態の電圧位相制御では、例えば、dq軸電流i,iを用いて電動機11のトルクTが推定される。そして、その推定値(以下、トルク推定値Testという)を電圧位相指令値αにフィードバックすることにより、dq軸電流i,iが電圧位相指令値αにフィードバックされる。
具体的には、電圧位相制御部27は、トルク指令値T、回転数N、電源電圧Vdc、及び、dq軸電流i,iに基づいて、電圧位相制御のdq軸電圧指令値Vdv-fin ,Vqv-fin を演算する。また、電圧位相制御のdq軸電圧指令値Vdv-fin ,Vqv-fin を演算するときに電圧位相制御部27で使用される制御ゲインの一部または全部が遅延時間設定部29によって設定または調節される。電圧位相制御のdq軸電圧指令値Vdv-fin ,Vqv-fin を演算する具体的な構成については詳細を後述する。
制御モード切替部28は、電動機11の制御モードを切り替え、または、維持する。具体的には、制御モード切替部28は、電源電圧Vdc、並びに、遅延時間設定部29によって設定される時定数τva及び切替禁止期間tmask等に基づいて、制御モードを選択する。第1制御モードを選択したときには、制御モード切替部28は、電流ベクトル制御のdq軸電圧指令値Vdi-fin ,Vqi-fin を、最終的なdq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin として座標変換部13に出力する。一方、第2制御モードを選択したときには、制御モード切替部28は、電圧位相制御のdq軸電圧指令値Vdv-fin ,Vqv-fin を、最終的なdq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin として座標変換部13に出力する。
また、制御モード切替部28は、選択した制御モードが第1制御モードであるか第2制御モードであるのかを表すモード選択信号Smodeを遅延時間設定部29に出力する。制御モード切替部28の具体的構成については詳細を後述する。
遅延時間設定部29は、モード選択信号Smodeと、変化し得る電源電圧Vdcと、に応じて、第1制御モードと第2制御モードの切り替えに対し、遅延時間を設定する。特に、遅延時間設定部29は、少なくとも第2制御モードから第1制御モードへの切り替えに対して、可変な遅延時間を設定する。具体的には、遅延時間設定部29は、制御モード切替部28が制御モードの切替判定において使用するローパスフィルタ91の可変な時定数τvaを設定し、または変化させることによって、遅延時間を設定することができる(図7参照)。また、遅延時間設定部29は、制御モードの切替禁止期間tmaskを設定し、または変化させることによって、遅延時間を設定することができる(図7参照)。本実施形態においては、遅延時間設定部29は、電源電圧Vdcに基づいて、時定数τva及び切替禁止期間tmaskを設定し、または変化させる。但し、遅延時間設定部29は、時定数τvaまたは切替禁止期間tmaskのうちいずれか一方の設定または変化によって遅延時間を設定してもよい。
また、遅延時間設定部29は、可変な遅延時間の設定または変更を補助するために、電圧位相制御部27が使用する制御ゲインの一部または全部を、設定または変更する。これにより、遅延時間は、現実的に許容可能な大きさを超えない範囲で設定されやすくなる。本実施形態においては、遅延時間設定部29は、電圧位相制御部27が使用する制御ゲインのうち、比例ゲインKφp及び積分ゲインKφiを設定または変更する(図4参照)。
また、本実施形態においては、遅延時間設定部29は、第1制御モードから第2制御モードへの切り替え、及び、第2制御モードから第1制御モードへの切り替え、の両方に対して遅延時間を設定する。但し、電源電圧Vdcに応じて遅延時間が変更等されるのは、第2制御モード(電圧位相制御)から第1モード(電流ベクトル制御)への切り替えについて、である。すなわち、第1制御モード(電流ベクトル制御)から第2制御モード(電圧位相制御)への切り替えについては、遅延時間は、電源電圧Vdcに依らず、予め定める所定値である。遅延時間の具体的な設定については、詳細を後述する。
[電流ベクトル制御部の構成]
図3は、電流ベクトル制御部26の構成を示すブロック図である。図3に示すように、電流ベクトル制御部26は、非干渉電圧演算部31、平均化処理部32、電流目標値演算部33、偏差演算部34、PI制御部35、及び、加算部36、を含む。
非干渉電圧演算部31は、トルク指令値T、回転数N、及び、電源電圧Vdcに基づいて、非干渉電圧Vd-dcpl を演算する。非干渉電圧Vd-dcpl は、d軸に供給すべき電圧の目標値であって、d軸及びq軸の間で互いに干渉する干渉電圧を低減または除去した電圧値である。非干渉電圧演算部31は、例えば、トルク指令値T、回転数N、及び、電源電圧Vdcと、非干渉電圧Vd-dcpl と、を実験またはシミュレーション等に基づいて対応付けた非干渉電圧テーブル(ルックアップテーブル)を予め保有する。このため、非干渉電圧演算部31は、非干渉電圧テーブルを参照することにより、非干渉電圧Vd-dcpl を演算する。非干渉電圧演算部31は、非干渉電圧Vd-dcpl を平均化処理部32に出力する。
平均化処理部32は、非干渉電圧Vd-dcpl を平均化することにより、平均化非干渉電圧Vd-dcpl-flt を演算する。平均化処理部32は、例えば、ローパスフィルタ(LPF)、バンドパスフィルタ、移動平均フィルタ、ガウシアンフィルタ、または、メディアンフィルタ等のフィルタによって構成される。本実施形態では、平均化処理部32はローパスフィルタである。平均化非干渉電圧Vd-dcpl-flt は、加算部36に出力される。
電流目標値演算部33は、トルク指令値T、回転数N、及び、電源電圧Vdcに基づいて、d軸電流目標値i を演算する。電流目標値演算部33は、例えば、トルク指令値T、回転数N、及び、電源電圧Vdcと、d軸電流目標値i (及びq軸電流目標値i )と、を実験またはシミュレーション等に基づいて対応付けた電流目標値テーブル(ルックアップテーブル)を予め保有する。このため、電流目標値演算部33は、この電流目標値テーブルを参照することにより、d軸電流目標値i を演算することができる。d軸電流目標値i は、偏差演算部34に出力される。
偏差演算部34は、d軸電流目標値i と、検出値であるd軸電流iと、の偏差であるd軸電流偏差id-errを演算する。本実施形態においては、偏差演算部34は、d軸電流目標値i からd軸電流iを減算し、これによるd軸電流偏差id-err(=i -i)をPI制御部35に出力する。
PI制御部35は、d軸電流iがd軸電流目標値i に追従するようにd軸電圧指令値を調整する電流フィードバック処理を実行する。具体的には、PI制御部35は、下記の数式(3)により、d軸電流偏差id-errに基づいて、電流フィードバックd軸電圧指令値Vdi′を演算する。数式(3)における「s」はラプラス演算子であり、「Kdp」はd軸比例ゲインであり、「Kdi」はd軸積分ゲインである。本実施形態においては、PI制御部35が用いるd軸比例ゲインKdq及びd軸積分ゲインKdiは、実験またはシミュレーション等によって予め定められた固定値である。PI制御部35は、電流フィードバックd軸電圧指令値Vdi′を加算部36に出力する。
Figure 2023072564000004
加算部36は、下記の数式(4)に示すように、平均化非干渉電圧Vd-dcpl-flt と電流フィードバックd軸電圧指令値Vdi′を加算することにより、電流ベクトル制御における最終的なd軸電圧指令値であるd軸電圧指令値Vdi-fin を演算する。このように演算されたd軸電圧指令値Vdi-fin が、前述のとおり、制御モード切替部28に入力される。
Figure 2023072564000005
なお、図3においては、電流ベクトル制御部26のうちd軸に関する構成が示されているが、電流ベクトル制御部26は、上記と同様の構成により、q軸電圧指令値Vdq-fin を演算する。電流ベクトル制御部26のうちq軸に関する構成については説明を省略する。
[電圧位相制御部の構成]
図4は、電圧位相制御部27の構成を示すブロック図である。図4に示すように、電圧位相制御部27は、電圧ノルム演算部41、電圧位相演算部42、第1フィードバックシステム43、及び、第2フィードバックシステム44を含む。
電圧ノルム演算部41は、電源電圧Vdcに基づいて、電圧ノルムVに対するフィードフォワード制御による指令値(以下、フィードフォワード電圧ノルム指令値Va-ffという)を演算する。具体的には、電圧ノルム演算部41は、下記の数式(5)により、フィードフォワード電圧ノルム指令値Va-ffを演算する。フィードフォワード電圧ノルム指令値Va-ffは、加算部71及び電圧位相演算部42に入力され、電圧ノルムVに対する最終的な指令値である電圧ノルム指令値V の演算に使用される。
Figure 2023072564000006
なお、数式(5)における「M」は基準変調率である。基準変調率Mは、電圧位相制御によって実現すべき変調率Mの基準値である。電圧位相制御において変調率Mの基準として予め定められる所定の変調率である。変調率Mは、電源電圧Vdcに対する相関電圧の基本波成分の振幅比である。相関電圧とは、例えば、電動機11におけるUV相間の電圧(V-V)である。
変調率Mが1.0以下であるときには、電圧位相制御は、PWM制御によって相関電圧の基本波成分を疑似正弦波にすることができる通常の制御領域(通常変調領域)にある。変調率Mが1.0を超える場合、電圧位相制御は、過変調な制御領域(いわゆる過変調領域)における制御となり、疑似正弦波を生成しようとしても、相関電圧の波形形状はピーク及びボトムにおいて一部制限される。そして、変調率Mが約1.1程度になると、電圧位相制御は、相関電圧の基本波成分が実質的に矩形波相当となる制御領域(いわゆる矩形波領域)での制御となる。電圧位相制御は、特に過変調領域及び矩形波領域(いわゆる弱め磁束領域)での制御によって、電動機11の取り得る動作状態(動作点)を拡充させることができるという利点がある。
電圧位相演算部42は、フィードフォワード電圧ノルム指令値Va-ff、回転数N、及び、トルク指令値Tに基づいて、電圧位相αに対するフィードフォワード制御による指令値(以下、フィードフォワード電圧位相指令値αffという)を演算する。電圧位相演算部42は、例えば、ノミナル状態において、フィードフォワード電圧ノルム指令値Va-ff、回転数N、及び、トルク指令値Tと、フィードフォワード電圧位相指令値αffと、を実験またはシミュレーション等に基づいて対応付けた電圧位相テーブル(ルックアップテーブル)を予め保有する。このため、電圧位相演算部42は、この電圧位相テーブルを参照することにより、フィードフォワード電圧位相指令値αffを演算することができる。フィードフォワード電圧位相指令値αffは、加算部73に入力され、最終的な電圧位相指令値αの演算に使用される。
第1フィードバックシステム43は、電圧ノルムVに、電動機11の電流値、または電動機11の電流値から演算されるパラメータをフィードバックするシステムである。本実施形態においては、第1フィードバックシステム43は、電動機11に供給する電流であるdq軸電流i,iから磁束ノルムφに関するパラメータを演算し、これを電圧ノルム指令値V にフィードバックする。
具体的には、第1フィードバックシステム43は、電流目標値演算部51、磁束演算部52、参照磁束ノルム演算部53、磁束推定部54、偏差演算部55、及び、PI制御部56を含む。
電流目標値演算部51は、トルク指令値T、回転数N、及び、電源電圧Vdcに基づいて、dq軸電流目標値i ,i を演算する。電流目標値演算部51は、例えば、トルク指令値T、回転数N、及び、電源電圧Vdcと、dq軸電流目標値i ,i と、を実験またはシミュレーション等によって対応付けた電流目標値テーブル(ルックアップテーブル)を予め保有する。このため、電流目標値演算部51は、この電流目標値テーブルを参照することにより、dq軸電流目標値i ,i を演算することができる。電流目標値演算部51は、dq軸電流目標値i ,i を磁束演算部52に入力する。
磁束演算部52は、dq軸電流目標値i ,i に基づいて、磁束ノルム指令値φを演算する。磁束ノルム指令値φは、磁石磁束と電流磁束の合成磁束のノルム(磁束ノルムφ)に対する指令値である。具体的には、磁束演算部52は、下記の数式(6)に基づいて、磁束ノルム指令値φを演算する。数式(6)において、「Φ」は巻線鎖交磁束数であり、「L」はd軸インダクタンスであり、「L」はq軸インダクタンスである。これらは具体的な電動機11について予め定まる定数である。また、後述する数式(7)においても同様である。磁束ノルム指令値φは、参照磁束ノルム演算部53に入力される。
Figure 2023072564000007
参照磁束ノルム演算部53は、磁束ノルム指令値φに基づいて、参照磁束ノルムφ0-refを演算する。参照磁束ノルムφ0-refは、磁束ノルムφの目標応答を表す。参照磁束ノルム演算部53は、例えば、例えば、ローパスフィルタ(LPF)、バンドパスフィルタ、移動平均フィルタ、ガウシアンフィルタ、または、メディアンフィルタ等のフィルタによって構成される。本実施形態では、参照磁束ノルム演算部53はローパスフィルタである。参照磁束ノルムφ0-refは、偏差演算部55に入力される。
磁束推定部54は、dq軸電流i,iに基づいて、磁束ノルムφの推定値である磁束ノルム推定値φ0-estを演算する。具体的には、磁束推定部54は、下記の数式(7)に基づいて、磁束ノルム推定値φ0-estを演算する。磁束ノルム推定値φ0-estは、偏差演算部55に入力される。
Figure 2023072564000008
偏差演算部55は、磁束ノルム指令値φと磁束ノルム推定値φ0-estの偏差である磁束ノルム偏差φ0-errを演算する。本実施形態では、偏差演算部55は、磁束ノルム指令値φから磁束ノルム推定値φ0-estを減算することにより、磁束ノルム偏差φ0-errを演算する。磁束ノルム偏差φ0-errはPI制御部56に入力される。
PI制御部56は、電圧ノルムVを電圧ノルム指令値V に追従させるためのフィードバック処理を実行する。具体的には、PI制御部56は、下記の数式(8)により、磁束ノルム偏差φ0-err(=φ0-ref-φ0-est)に基づいて、フィードバック電圧ノルム指令値Va-fbを演算する。フィードバック電圧ノルム指令値Va-fbは、電圧ノルムVaに対するフィードバック制御による指令値である。フィードバック電圧ノルム指令値Va-fbは、加算部71に入力される。
Figure 2023072564000009
なお、数式(8)における「Kφp」は比例ゲインであり、「Kφi」は積分ゲインである。そして、本実施形態においては、比例ゲインKφp及び積分ゲインKφiは、可変値であり、遅延時間設定部29によって、電源電圧Vdcに応じて設定され、または変更される。電源電圧Vdc及び制御モード等と、比例ゲインKφp及び積分ゲインKφiの設定等に係る関係については、詳細を後述する。
加算部71は、電圧ノルム演算部41から入力されるフィードフォワード電圧ノルム指令値Va-ffと、上記のように第1フィードバックシステム43から入力されるフィードバック電圧ノルム指令値Va-fbと、を加算する。これにより、加算部71は、電圧位相制御における電圧ノルム指令値V を演算する。電圧ノルム指令値V は、電圧ノルム指令値制限部72に入力される。
電圧ノルム指令値制限部72は、電源電圧Vdcに基づいて、加算部71から入力される電圧ノルム指令値V を、下限値(ゼロ)以上所定の上限値Va-max以下の値に制限する。電圧ノルム指令値V に対する下限値及び上限値Va-maxは予め定められている。具体的には、電圧ノルム指令値V の上限値は、下記の数式(9)により、電源電圧Vdcに応じて予め定められている。数式(9)における「Mmax 」は基準変調率Mとして設定し得る最大の値、すなわち基準変調率Mの最大許容値である。
Figure 2023072564000010
電圧ノルム指令値制限部72における制限によって、電圧ノルム指令値V が上限値Va-maxとなっている間は、電圧ノルムVは固定される。このため、後述する電圧位相αに対するトルクのフィードバックだけが機能する状態となる。また、電圧ノルム指令値V が上限値Va-maxとなっている間、電圧ノルム指令値制限部72は、PI制御部56に、電圧ノルム指令値V の制限中である旨の通知信号を入力する。PI制御部56は、この通知信号を受けている間、アンチワインドアップのために、積分の計算を停止する。
加算部71が出力する電圧ノルム指令値V が上限値Va-max以下であるときには、実質的に加算部71が出力する電圧ノルム指令値V が、電圧位相制御における最終的な電圧ノルム指令値V としてベクトル変換部75に入力される。一方、加算部71が出力する電圧ノルム指令値V が上限値Va-max以上であるときには、電圧ノルム指令値V の上限値Va-maxが、電圧位相制御における最終的な電圧ノルム指令値V としてベクトル変換部75に入力される。
第2フィードバックシステム44は、電圧位相αに、電動機11の電流値、または電動機11の電流値から演算されるパラメータをフィードバックするシステムである。本実施形態においては、第2フィードバックシステム44は、電動機11に供給する電流であるdq軸電流i,iからトルクTに関するパラメータを演算し、これを電圧位相指令値αにフィードバックする。
具体的には、第2フィードバックシステム44は、参照トルク演算部61、トルク推定部62、偏差演算部63、及び、PI制御部64を含む。
参照トルク演算部61は、トルク指令値Tに基づいて、参照トルクTrefを演算する。参照トルクTrefは、トルクTの目標応答を表す。参照トルク演算部61は、例えば、例えば、ローパスフィルタ(LPF)、バンドパスフィルタ、移動平均フィルタ、ガウシアンフィルタ、または、メディアンフィルタ等のフィルタによって構成される。本実施形態では、参照トルク演算部61はローパスフィルタである。参照トルクTrefは、偏差演算部63に入力される。
トルク推定部62は、dq軸電流i,iに基づいて、トルクTの推定値であるトルク推定値Testを演算する。トルク推定部62は、例えば、dq軸電流i,iと、トルク推定値Testと、を実験またはシミュレーション等に基づいて対応付けたトルクテーブル(ルックアップテーブル)を予め保有する。このため、トルク推定部62は、このトルクテーブルを参照することにより、トルク推定値Testを演算することができる。トルク推定値Testは、偏差演算部63に入力される。
偏差演算部63は、参照トルクTrefとトルク推定値Testの偏差であるトルク偏差Terrを演算する。本実施形態では、偏差演算部63は、参照トルクTrefからトルク推定値Testを減算することにより、トルク偏差Terrを演算する。トルク偏差Terrは、PI制御部64に入力される。
PI制御部64は、電圧位相αを電圧位相指令値αに追従させるためのフィードバック処理を実行する。具体的には、PI制御部64は、下記の数式(10)により、トルク偏差Terr(=Tref-Test)に基づいて、フィードバック電圧位相指令値αfbを演算する。フィードバック電圧位相指令値αfbは、電圧位相αに対するフィードバック制御による指令値である。フィードバック電圧位相指令値αfbは、加算部73に入力される。
Figure 2023072564000011
なお、数式(10)における「Kαp」は比例ゲインであり、「Kαi」は積分ゲインである。本実施形態においては、比例ゲインKαp及び積分ゲインKαiは、予め定められた固定値である。
加算部73は、電圧位相演算部42から入力されるフィードフォワード電圧位相指令値αffと、上記のように第2フィードバックシステム44から入力されるフィードバック電圧位相指令値αfbと、を加算する。これにより、加算部73は、電圧位相制御における電圧位相指令値αを演算する。電圧位相指令値αは、電圧位相指令値制限部74に入力される。
電圧位相指令値制限部74は、加算部73から入力される電圧位相指令値αを、所定の下限値αminから所定の上限値αmaxの範囲の値に制限する。電圧位相指令値αの下限値αmin及び上限値αmaxは、電動機11の特性によって予め定められる。
図5は、電圧位相αとトルクTの関係の例を示すグラフである。例えば、電動機11が図5に示す特性を有する場合、電圧位相指令値αとトルクTの相関関係が維持される範囲は、概ね±105度の範囲である。このため、電圧位相指令値制限部74における電圧位相指令値αの下限値αminは-105度、上限値αmaxは+105度に設定される。
電圧位相指令値制限部74における制限によって、電圧位相指令値αが下限値αminまたは上限値αmaxとなっている間は、電圧位相指令値αは固定される。このため、電圧ノルムVに対する磁束ノルムのフィードバックだけが機能する状態となる。また、電圧位相指令値αが下限値αminまたは上限値αmaxとなっている間、電圧位相指令値制限部74は、PI制御部64に、電圧位相指令値αの制限中である旨の通知信号を入力する。PI制御部64は、この通知信号を受けている間、アンチワインドアップのために、積分の計算を停止する。
加算部73が出力する電圧位相指令値αが下限値αmin以上、上限値αmax以下の範囲内であるときには、実質的に加算部73が出力する電圧位相指令値αが、電圧位相制御における最終的な電圧位相指令値αとしてベクトル変換部75に入力される。一方、電圧位相指令値制限部74における制限によって、電圧位相指令値αが下限値αminまたは上限値αmaxに制限されているときには、電圧位相指令値制限部74の下限値αminまたは上限値αmaxが、電圧位相制御における最終的な電圧位相指令値αとしてベクトル変換部75に入力される。
ベクトル変換部75(図4参照)は、電圧ノルム指令値制限部72から電圧ノルム指令値V の入力を受け、かつ、電圧位相指令値制限部74から電圧位相指令値αの入力を受ける。そして、ベクトル変換部75は、その電圧ノルム指令値V 及び電圧位相指令値αに基づき、下記の数式(11)によってdq軸電圧指令値Vdv-fin ,Vqv-fin を演算する。dq軸電圧指令値Vdv-fin ,Vqv-fin は、前述のとおり、制御モード切替部28に入力される。
Figure 2023072564000012
[制御モード切替部の構成]
図6は、制御モード切替部28の構成を示すブロック図である。図6に示すように、制御モード切替部28は、スイッチ81と、制御モード判定部82と、を含む。
スイッチ81は、モード選択信号Smodeに基づいて、電流ベクトル制御で電動機11を制御する第1制御モードと、電圧位相制御で電動機11を制御する第2制御モードと、を相互に切り替える。モード選択信号Smodeは、制御モード判定部82からスイッチ81に入力される。モード選択信号Smodeが第1制御モードの選択を表すものであるときには、スイッチ81は、電流ベクトル制御のdq軸電圧指令値Vdi-fin ,Vqi-fin を、最終的なdq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin として出力する。一方、モード選択信号Smodeが第2制御モードの選択を表すものであるときには、スイッチ81は、電圧位相制御のdq軸電圧指令値Vdv-fin ,Vqv-fin を、最終的なdq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin として出力する。
制御モード判定部82は、スイッチ81の出力であるdq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin 、電源電圧Vdc、及び、遅延時間設定部29による遅延時間の設定等に関するパラメータの全部または一部に基づいて、選択すべき制御モードを選択する。本実施形態においては、遅延時間設定部29による遅延時間の設定等に関するパラメータは、後述するローパスフィルタ91の時定数τva、切替禁止期間tmask、並びに、電圧位相制御部27のPI制御部56における制御ゲイン(比例ゲインKφp及び積分ゲインKφi)である。本実施形態では、制御モード判定部82は、dq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin 、電源電圧Vdc、時定数τva、及び、切替禁止期間tmaskに基づいて、制御モードを選択する。なお、制御モード判定部82は、モード選択信号Smodeを遅延時間設定部29とスイッチ81に出力する。
図7は、制御モード判定部82の具体的な構成を示すブロック図である。図7に示すように、ローパスフィルタ91、電圧ノルム演算部92、及び、制御モード選択部93を含む。
ローパスフィルタ91は、最終的なdq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin に対して平均化処理を実行することにより、平均化dq軸電圧指令値Vd-flt ,Vq-flt を演算する。ローパスフィルタ91は、制御モードの切り替え判定に使用するdq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin が含む高調波を低減または除去する。また、本実施形態においては、ローパスフィルタ91は、特に、制御モードの切り替えに対して、可変な遅延時間を設定する要素の1つとなっている。
ローパスフィルタ91は、例えば、d軸電圧指令値Vd-fin を平均化するd軸用ローパスフィルタ91aと、q軸電圧指令値Vq-fin を平均化するq軸用ローパスフィルタ91bと、から構成される。但し、d軸用ローパスフィルタ91aとq軸用ローパスフィルタ91bは、同じ時定数τvaが用いられる。したがって、区別が必要な場合を除き、これらをまとめてローパスフィルタ91という。ローパスフィルタ91の時定数τvaは、固定値ではなく、遅延時間設定部29によって、遅延時間の設定または変更のために調節されるパラメータである。
なお、ローパスフィルタ91は、平均化処理を実行するフィルタの一例であり、ローパスフィルタ91の代わりに、バンドパスフィルタ、移動平均フィルタ、ガウシアンフィルタ、または、メディアンフィルタ等を用いることができる。この場合、遅延時間設定部29は、ローパスフィルタ91における時定数τvaを設定等するのと同様に、具体的なフィルタの種類等に応じて、平均化の程度を変更するパラメータを設定または変更することができる。
電圧ノルム演算部92は、平均化dq軸電圧指令値Vd-flt ,Vq-flt に基づき、下記の式(12)によって電圧ノルムVを演算する。電圧ノルム演算部92は、演算した電圧ノルムVを制御モード選択部93に入力する。
Figure 2023072564000013
制御モード選択部93は、電圧ノルム演算部92から入力される電圧ノルムV、切替禁止期間tmask、及び、電源電圧Vdcに基づいて制御モードを選択し、その選択に対応するモード選択信号Smodeを出力する。制御モード選択部93が制御モードを選択する具体的な方法は以下のとおりである。
なお、制御モード判定部82は、上記のように、制御モードの選択にdq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin を用いているが、制御モード判定部82は、dq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin を含め、電動機11の動作状態を表す任意の状態量を用いることができる。電動機11の動作状態を表す状態量とは、例えば、電動機11の電流(dq軸電流i,i等)、電圧(dq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin 等)、トルクT、もしくは、回転数N、または、これらに直接的にもしくは間接的に関連する量である。制御モード判定部82が、制御モードの選択に使用する状態量は、特に、電動機11の電流、電圧、トルクT、または、回転数N、であることが好ましい。
[制御モードの選択]
制御モード選択部93は、前回の制御モードの変更からの経過時間tを計数または取得することにより、これを監視する。また、制御モード選択部93は、例えば制御周期毎に、経過時間tを、遅延時間設定部29によって設定された切替禁止期間tmaskと比較する。
下記の表1に示すように、経過時間tが切替禁止期間tmask未満であるときには、制御モード選択部93は、電圧ノルムV等の他のパラメータに依らず、前回選択した現在の制御モードを維持することを決定する。すなわち、経過時間tが切替禁止期間tmask未満である場合、制御モード選択部93は、前回選択した制御モードを再選択する。
Figure 2023072564000014
一方、上記の表1に示すように、経過時間tが切替禁止期間tmask以上であるときには、制御モード選択部93は、電源電圧Vdcに応じて、制御モードの切り替え、または、現在の制御モードの維持を決定する。
具体的には、制御モード選択部93は、電源電圧Vdcを用いて、電圧ノルム演算部92が演算した電圧ノルムVに対する閾値である第1電圧ノルム閾値Thva1及び第2電圧ノルム閾値Thva2を演算する。第1電圧ノルム閾値Thva1は、第2制御モード(電圧位相制御)に切り替えるか否かを決定するための閾値である。第1電圧ノルム閾値Thva1は、例えば、上記の表1に示すように、Thva1=1.05×Vdc/√2によって演算される。また、第2電圧ノルム閾値Thva2は、第1制御モード(電圧ベクトル制御)に切り替えるか否かを決定するための閾値である。第2電圧ノルム閾値Thva2は、例えば、上記の表1に示すように、Thva2=1.00×Vdc/√2によって演算される。
第1電圧ノルム閾値Thva1は、PWM制御における実質的な変調率Mが「1.05」となる制御シーンにおける電圧ノルムVを表す。変調率Mが「1.05」になる制御シーンは、明らかに過変調領域の制御が必要となっている制御シーンである。したがって、第1電圧ノルム閾値Thva1は、電圧位相制御に切り替える必要性を判断する基準となる。なお、第1電圧ノルム閾値Thva1の変調率Mの部分を「1.00」ではなく、「1.05」としているのは、制御モードの切り替えにヒステリシスを持たせ、チャタリングを抑制するためである。また、電源電圧Vdcは、電源10のSOC等によって変化するので、第1電圧ノルム閾値Thva1は電源電圧Vdcに応じて変化する。具体的には、電源電圧Vdcが小さくなれば第1電圧ノルム閾値Thva1も小さくなり、電源電圧Vdcが大きくなれば第1電圧ノルム閾値Thva1も大きくなる。
第2電圧ノルム閾値Thva2は、PWM制御における実質的な変調率Mが「1.00」となる制御シーンにおける電圧ノルムVを表す。変調率Mが「1.00」になる制御シーンは、通常変調領域での制御が可能な制御シーンである。したがって、第2電圧ノルム閾値Thva2は、電流ベクトル制御に切り替える可能性を判断する基準となる。なお、電源電圧Vdcは、電源10のSOC等によって変化するので、第2電圧ノルム閾値Thva2は電源電圧Vdcに応じて変化する。具体的には、電源電圧Vdcが小さくなれば第2電圧ノルム閾値Thva2も小さくなり、電源電圧Vdcが大きくなれば第2電圧ノルム閾値Thva2も大きくなる。
制御モード選択部93は、電圧ノルム演算部92が演算した電圧ノルムVと、電源電圧Vdcに応じて上記のように算出する第1電圧ノルム閾値Thva1及び第2電圧ノルム閾値Thva2と、を比較することにより、制御モードを選択する。すなわち、電圧ノルムVが第1電圧ノルム閾値Thva1よりも大きいと判定したときに、制御モード選択部93は、第2制御モード(電圧位相制御)を選択する。電圧ノルムVが第2電圧ノルム閾値Thva2よりも小さいと判定したときに、制御モード選択部93は、第1制御モード(電流ベクトル制御)を選択する。そして、電圧ノルムVaが第1電圧ノルム閾値Thva1以上第2電圧ノルム閾値Thva2以下であるときには、現状の制御モードを再選択することにより、これを維持する。
[遅延時間の設定]
遅延時間設定部29は、上記の制御モードの切り替えに対して、以下に示すように、電源電圧Vdcに応じて、時定数τva、切替禁止期間tmask、並びに、比例ゲインKφp及び積分ゲインKφiを設定または変更することにより、遅延時間を設定または変更する。
遅延時間設定部29は、下記の表2に示すように、電源電圧Vdcに対する閾値として、実験またはシミュレーション等に基づいて、第1電源電圧閾値Thvdc1及び第2電源電圧閾値Thvdc2が予め設定される。表2の例においては、第1電源電圧閾値Thvdc1は例えば250Vであり、第2電源電圧閾値Thvdc2は例えば350Vである。そして、遅延時間設定部29は、第1電源電圧閾値Thvdc1及び第2電源電圧閾値Thvdc2を、電源電圧Vdcと比較し、そのその比較結果に基づいて、時定数τva等の遅延時間に関する各種のパラメータを設定し、または、変更する。
Figure 2023072564000015
具体的には、表2に示すとおり、遅延時間設定部29は、選択または維持された制御モードが第1制御モード(電流ベクトル制御)であるときには、電源電圧Vdcの具体的な値に依らず、時定数τva及び切替禁止期間tmaskを予め定める所定値(固定値)とする。表2の例においては、制御モードが第1制御モード(電流ベクトル制御)である場合、時定数τvaは5msに設定され、切替禁止期間tmaskは10msに設定される。
なお、制御モードが第1制御モード(電流ベクトル制御)である場合、PI制御部56の比例ゲインKφp及び積分ゲインKφiは、電源電圧Vdcに依存しない所定の値、または、例えば、電圧位相制御について表2の下段に定める値が設定される。このため、表2においては、制御モードが第1制御モード(電流ベクトル制御)であるときの比例ゲインKφp及び積分ゲインKφiの記載は省略している。
選択または維持された制御モードが第2制御モード(電圧位相制御)であるときには、遅延時間設定部29は、電源電圧Vdcと、第1電源電圧閾値Thvdc1及び第2電源電圧閾値Thvdc2と、を比較する。
そして、電源電圧Vdcが第1電源電圧閾値Thvdc1以上第2電源電圧閾値Thvdc2以下であるときには、遅延時間設定部29は、時定数τva、切替禁止期間tmask、並びに、PI制御部56の比例ゲインKφp及び積分ゲインKφiを、実験またはシミュレーション等に基づいて予め定める所定の基準値に設定または変更する。表2においては、時定数τvaの基準値は例えば5msであり、切替禁止期間tmaskの基準値は例えば10msである。これらは、第1制御モード(電流ベクトル制御)から第2制御モード(電圧位相制御)への切り替えに対して設定される値に等しい。また、PI制御部56の比例ゲインKφp及び積分ゲインKφiの基準値は、例えば、それぞれ「837.8」「41.9」である。
これに対し、電源電圧Vdcが第1電源電圧閾値Thvdc1よりも小さいときには、遅延時間設定部29は、時定数τvaを、その基準値よりも大きい値に設定または変更する。表2の例においては、電源電圧Vdcが第1電源電圧閾値Thvdc1(250V)よりも小さいときには、時定数τvaは基準値(5ms)よりも大きい10msに設定される。
電源電圧Vdcが第1電源電圧閾値Thvdc1よりも小さいときには、遅延時間設定部29は、切替禁止期間tmaskを、その基準値よりも大きい値に設定または変更する。表2の例においては、電源電圧Vdcが第1電源電圧閾値Thvdc1(250V)よりも小さいときには、切替禁止期間tmaskは基準値(10ms)よりも大きい20msに設定される。
電源電圧Vdcが第1電源電圧閾値Thvdc1よりも小さいときには、遅延時間設定部29は、PI制御部56の比例ゲインKφp及び積分ゲインKφiを、その基準値よりも小さい値に設定または変更する。表2の例においては、電源電圧Vdcが第1電源電圧閾値Thvdc1(250V)よりも小さいときには、PI制御部56の比例ゲインKφp及び積分ゲインKφiは基準値(「837.8」「41.9」)よりも小さい「418.9」「20.9」に設定される。
一方、電源電圧Vdcが第2電源電圧閾値Thvdc2よりも大きいときには、遅延時間設定部29は、時定数τvaを、その基準値よりも小さい値に設定または変更する。表2の例においては、電源電圧Vdcが第2電源電圧閾値Thvdc2(350V)よりも小さいときには、時定数τvaは基準値(5ms)よりも小さい2msに設定される。
電源電圧Vdcが第2電源電圧閾値Thvdc2よりも大きいときには、遅延時間設定部29は、切替禁止期間tmaskを、その基準値よりも小さい値に設定または変更する。表2の例においては、電源電圧Vdcが第2電源電圧閾値Thvdc2(350V)よりも小さいときには、切替禁止期間tmaskは基準値(10ms)よりも小さい5msに設定される。
電源電圧Vdcが第2電源電圧閾値Thvdc2よりも大きいときには、遅延時間設定部29は、PI制御部56の比例ゲインKφp及び積分ゲインKφiを、その基準値よりも大きい値に設定または変更する。表2の例においては、電源電圧Vdcが第2電源電圧閾値Thvdc2(350V)よりも小さいときには、PI制御部56の比例ゲインKφp及び積分ゲインKφiは基準値(「837.8」「41.9」)よりも大きい「2094.4」「104.7」に設定される。
遅延時間設定部29は、上記のように、電源電圧Vdcに応じて、時定数τva、切替禁止期間tmask、並びに、PI制御部56の比例ゲインKφp及び積分ゲインKφiを設定または変更することによって、制御モードの切り替えに対して、可変な遅延時間を設定する。そして、特に第2制御モード(電圧位相制御)から第1制御モード(電流ベクトル制御)への切り替えに対する遅延時間を、電源電圧Vdcに応じて変化させる。
具体的には、遅延時間設定部29は、上記のように時定数τva及び切替禁止期間tmaskを設定または変更することによって、電源電圧Vdcが第1電源電圧閾値Thvdc1よりも小さいときには、電源電圧Vdcが第1電源電圧閾値Thvdc1以上である場合と比較して遅延時間を延長する。また、遅延時間設定部29は、電源電圧Vdcが第2電源電圧閾値Thvdc2よりも大きいときには、電源電圧Vdcが第2電源電圧閾値Thvdc2以下である場合と比較して遅延時間を短縮する。時定数τva及び切替禁止期間tmaskと遅延時間の関係については、詳細を後述する。
なお、上記のように、電源電圧Vdcに対して第1電源電圧閾値Thvdc1及び第2電源電圧閾値Thvdc2を設定し、電源電圧Vdcを3区間に分けるのは、遅延時間の延長または短縮のために時定数τva等のパラメータを設定する場合の一例である。すなわち、遅延時間設定部29は、原則として、電源電圧Vdcが大きいほど遅延時間を短縮するために、電源電圧Vdcが大きいほど時定数τva及び切替禁止期間tmaskを小さい値に設定する。また、遅延時間設定部29は、原則として、電源電圧Vdcが大きいほど遅延時間を短縮するために、電源電圧Vdcが大きいほどPI制御部56の比例ゲインKφp及び積分ゲインKφiを大きい値に設定する。同様に、遅延時間設定部29は、原則として、電源電圧Vdcが小さいほど遅延時間を延長するために、電源電圧Vdcが小さいほど時定数τva及び切替禁止期間tmaskを大きい値に設定する。また、遅延時間設定部29は、原則として、電源電圧Vdcが小さいほどPI制御部56の比例ゲインKφp及び積分ゲインKφiを小さい値に設定する。
[時定数τva及び切替禁止期間tmaskと遅延時間の関係]
電源電圧Vdcに応じた時定数τva及び切替禁止期間tmaskの設定または変更と、制御モードの切り替えに対する遅延時間と、の具体的な関係性は以下のとおりである。
切替禁止期間tmaskは、電動機制御装置100において、制御モードの切り替えを直接的に制限するパラメータである。したがって、切替禁止期間tmaskが大きいほど、電動機11の負荷急変に対して制御モードの切り替えが緩慢になり、切替禁止期間tmaskが小さいほど、負荷急変に対して俊敏に制御モードが切り替わる。
時定数τvaは、前述のとおり、制御モードの選択に使用するdq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin を平均化する程度を定めるパラメータであり、時定数τvaの値が大きいほど、dq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin が平均化される。したがって、時定数τvaが大きいほど、電動機11に対する負荷急変に対して制御モードの切り替えが緩慢になり、時定数τvaが小さいほど、負荷急変に対して俊敏に制御モードが切り替わる。したがって、時定数τvaの設定または変更は、制御モードの切り替えに対する遅延時間の設定または変更と同義である。
[遅延時間の設定と半導体スイッチング素子の耐久性の関係]
上述の電源電圧Vdcに応じた遅延時間の設定または変更と、半導体スイッチング素子23の物理的な特性(特に上限電圧VUL)との関係は、以下のとおりである。
まず、図8は、電源電圧Vdcと制御モードの切替線の関係を示す説明図である。図8に示すように、電動機11の動作状態(動作点)は、回転数NとトルクTとの関係において、所定のトルクリミット線TLIMの範囲内で変化し得る。また、前述のとおり、制御モードの切り替えに係る判定は、電源電圧Vdcに応じて行われるので、図8においては、相対的に、電源電圧Vdcが低電圧Vであるときの制御切替線95(一点鎖線)と、電源電圧Vdcが低電圧Vよりも大きい高電圧Vであるときの制御切替線96(破線)を示している。
矢印A1及び矢印B1で示すように、制御モード選択部93によって、制御切替線95及び制御切替線96の高回転数側では、第2制御モード(電圧位相制御)が選択される。一方、制御モード選択部93によって、矢印A2及び矢印B2で示すように、制御切替線95及び制御切替線96の低回転数側では、第1制御モード(電圧ベクトル制御)が選択される。したがって、電源電圧Vdcが低いときには、電圧位相制御は低回転数領域まで適用され、電源電圧Vdcが高いときには、電圧位相制御は概ね高回転数領域で適用される。このように制御モードが選択されるのは、電圧位相制御が、いわゆる弱め磁束領域で良好な制御性能が得られるからである。
次に、図9は、電圧位相制御における電動機11の入出力静特性を示すグラフである。電圧位相制御は、電圧ノルムVと電圧位相αを入力とし、磁束ノルムφとトルクTを出力とするフィードバックシステムと捉えることができる(図4)。このため、ここでは、複数の回転数Nの条件のもとに、電圧位相αに対するトルクTの静特性を表す図9(A)と、電圧ノルムVに対する磁束ノルムφの静特性を表す図9(B)を示す。
図9(A)に示すように、電圧位相制御の制御構成のうち、電圧位相αに対するトルクTの静特性は、矢印Nで示すように回転数Nが小さいほど傾きが大きく、矢印Nで示すように回転数Nが大きいほど傾きが小さくなる。そして、この図9(A)に示すグラフの傾きは、電圧位相αを入力とし、トルクTを出力とする第2フィードバックシステム44のゲイン(一巡伝達系のゲイン)を表す。
同様に、図9(B)に示すように、電圧位相制御の制御構成のうち、電圧ノルムVaに対する磁束ノルムφの静特性は、矢印Nで示すように回転数Nが小さいほど傾きが大きく、矢印NHで示すように回転数Nが大きいほど傾きが小さくなる。そして、この図9(B)に示すグラフの傾きは、電圧ノルムVを入力とし、磁束ノルムφを出力とする第1フィードバックシステム43のゲイン(一巡伝達系のゲイン)を表す。
したがって、これらを総合すれば、電圧位相制御は、電動機11の回転数Nが小さいほど高ゲインになる非線形な特性を有する制御系である。このため、電圧位相制御では、電動機11の回転数Nが小さいほど、電動機11の電流や電圧に重畳される高調波が増大する傾向がある。
さらに、図10は、半導体スイッチング素子23の特性を概略的に示すグラフである。図10(A)は、電源電圧Vdcが低電圧Vである場合について、半導体スイッチング素子23の電流Isw及び電圧Vswと、サージ幅Wと、サージ余裕Vと、の関係を示す模式的なグラフである。図10(B)は、電源電圧Vdcが高電圧Vである場合について、半導体スイッチング素子23の電流Isw及び電圧Vswと、サージ幅Wと、サージ余裕Vと、の関係を示す模式的なグラフである。
図10(A)及び図10(B)に太実線で示すように、半導体スイッチング素子23の動作において重畳されるサージ電圧は、電源電圧Vdcに依らず概ね同一である。すなわち、電源電圧Vdcを基準とするサージ幅Wは、同形状のグラフである。
しかし、サージ電圧は電源電圧Vdcに重畳され、かつ、半導体スイッチング素子23の上限電圧VULは物理特性であるから一定である。このため、電源電圧Vdcが低電圧Vである場合と、電源電圧Vdcが高電圧Vである場合とで、サージ電圧に対する余裕すなわちサージ余裕Vを比較すると、電源電圧Vdcが高電圧Vである方が、サージ余裕Vが小さくなる。すなわち、電源電圧Vdcが低電圧Vであるときのサージ余裕Vが「VM1」であり、電源電圧Vdcが高電圧Vであるときのサージ余裕Vが「VM2」であるとすれば、VM1>VM2である。
この結果、電源電圧Vdcが低電圧Vである場合と、電源電圧Vdcが高電圧Vである場合とで、半導体スイッチング素子23の上限電流IULを比較すると、電源電圧Vdcが高電圧Vである方が、上限電流IULが小さくなる。すなわち、電源電圧Vdcが低電圧Vであるときの上限電流IULが「IUL1」であり、電源電圧Vdcが高電圧Vであるときの上限電流IULが「IUL2」であるとすれば、IUL1>IUL2である。
したがって、電源電圧Vdcが低い場合、サージ電圧が重畳することを考慮しても、半導体スイッチング素子23は耐電圧性能に余裕があるので、上限電流IULを大きくすることができる。一方、電源電圧Vdcが高い場合には、サージ電圧が重畳することを考慮して上限電流IULを低く制限する必要がある。
以上のように、図8から図10で示した特性等を総合すると、電源電圧Vdcが低い場合は、半導体スイッチング素子23の耐久性の観点において、電圧位相制御から電圧ベクトル制御への切替遅延は許容され得る。
例えば、電圧位相制御中に負荷急変によって急減速が発生し、かつ、制御モードの切り替え判定が遅れて、電流ベクトル制御を実施すべき領域で電圧位相制御が継続すると、半導体スイッチング素子23にはサージによる大電流が流れる可能性がある。
しかし、電源電圧Vdcが低いときには、半導体スイッチング素子23はこの大電流を許容し得る。すなわち、電源電圧Vdcが低いときには、制御切替線が低回転数側(すなわち制御切替線95)にシフトしており、かつ、電圧位相制御が高ゲイン特性となっていることを利用して、敢えて、制御モードの切り替え判定を遅らせることができる。
したがって、本実施形態においては、遅延時間設定部29は、電源電圧Vdcが低いときには、時定数τva及び切替禁止期間tmaskを敢えて大きく設定することによって、制御モードの切り替えに対する遅延時間を敢えて延長する。そして、このような遅延時間を延長する設定によれば、負荷急変が生じていない通常の制御シーンにおいて、制御モードの切り替えチャタリングが抑制される利点がある。
一方、図8から図10で示した特性等を総合すると、電源電圧Vdcが高い場合は、半導体スイッチング素子23の耐久性の観点において、電圧位相制御から電圧ベクトル制御への切替遅延は許容され得ない。
例えば、上述と同様に、電圧位相制御中の負荷急変、及び、制御モードの切り替え判定の遅れによって、電流ベクトル制御を実施すべき領域で電圧位相制御が継続する制御シーンを想定する。この場合、半導体スイッチング素子23にはサージによる大電流が流れるが、電源電圧Vdcが高いときには、半導体スイッチング素子23の耐久性の観点において、このような大電流は許容され得ない。すなわち、電圧位相制御中の負荷急変は制御事項ではないので避け得ない事項であるから、電動機制御装置100の制御としては、電源電圧Vdcが高いときには、制御モードの切り替え判定の遅れは許容され得ない。
したがって、本実施形態においては、遅延時間設定部29は、電源電圧Vdcが高いときには、時定数τva及び切替禁止期間tmaskを小さく設定することによって、制御モードの切り替えに対する遅延時間を短縮することにより、電圧位相制御中に負荷急変が生じたときには、俊敏に電流ベクトル制御に切り替わるようにしている。
また、電源電圧Vdcが高いときには、制御切替線が高回転数側(すなわち制御切替線96)にシフトしており、かつ、電圧位相制御が低ゲイン特性となっている。このため、電源電圧Vdcが高いときには、そもそも制御モードの切り替えチャタリングは発生し難くなっている。したがって、遅延時間設定部29は、電源電圧Vdcが高いときには、このような制御モードの切り替えチャタリングは発生し難さを利用し、負荷急変が生じていない通常の制御シーンにおける制御モードの切り替えチャタリングを抑制する。
以上のとおり、遅延時間設定部29は、時定数τva及び切替禁止期間tmaskを介し、第2制御モード(電圧位相制御)から第1制御モード(電流ベクトル制御)への制御モードの切り替えに対する遅延時間を、電源電圧Vdcに応じて変化させる。これにより、通常動作時と負荷急変時のいずれにおいても、電流ベクトル制御と電圧位相制御の切り替えが適切に行われる。
<作用>
以下、上述のように構成される電動機制御装置100による制御モードの切り替えに係る作用を説明する。
図11は、電動機制御装置100の作用を示すフローチャートである。図11に示すように、ステップS101では電気角θが取得され、ステップS102では電気角θに基づいて回転数Nが演算される。また、ステップS103では、電動機11の電流、例えばU相電流i及びV相電流iが検出され、ステップS104では、座標変換により、U相電流i及びV相電流iからdq軸電流i,iが演算される。そして、ステップS105では電源電圧Vdcが取得され、ステップS106ではトルク指令値Tが取得される。
その後、ステップS107では、遅延時間設定部29が、電源電圧Vdcに基づいて、制御モードの切り替えに対して遅延時間を設定するためのパラメータである可変定数を選択する。本実施形態では、ローパスフィルタ91の時定数τva、切替禁止期間tmask、並びに、PI制御部56における制御ゲイン(比例ゲインKφp及び積分ゲインKφi)が、電源電圧Vdcに応じて設定または変更される。このとき、遅延時間設定部29は、特に第2制御モード(電圧位相制御)から第1制御モード(電流ベクトル制御)への切り替えについて、電源電圧Vdcが小さいほど、遅延時間が長くなるように、時定数τva及び切替禁止期間tmaskの値を設定または変更する。また、遅延時間設定部29は、電源電圧Vdcが小さいほど、PI制御部56における制御ゲインを小さくする。
次いで、ステップS108において電流ベクトル制御のための演算が実行される。一方、この電流ベクトル制御演算に並行して、ステップS109では、遅延時間設定部29によって選択された定数のうち、電圧位相制御用に、PI制御部56における制御ゲイン(比例ゲインKφp及び積分ゲインKφi)の設定が反映される。そして、ステップS110では、遅延時間設定部29によって設定または変更された制御ゲインを用いて、電圧位相制御のための演算が実行される。
その後、ステップS111では、遅延時間設定部29によって選択された定数のうち、ローパスフィルタ91の時定数τva及び切替禁止期間tmaskの設定が反映される。そして、ステップS112では、電流ベクトル制御演算及び電圧位相制御演算の結果に応じて定まるdq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin と、時定数τva及び切替禁止期間tmaskの設定と、に基づいて、制御モード判定部82が制御モードの切り替え判定を行う。制御モードの切り替え判定は、前回の制御モード変更からの経過時間tと切替禁止期間tmaskの比較、及び、電源電圧Vdcに基づいて演算される電圧ノルムVの値に基づいて行われる。
以上のように、本実施形態に係る電動機制御方法は、電動機11に供給する電流の目標値である電流目標値(dq軸電流目標値i ,i )に、電動機11の電流値(dq軸電流i,i)をフィードバックすることによって電動機11を制御する電圧指令値(電流ベクトル制御のdq軸電圧指令値Vdi-fin ,Vqi-fin )を演算する第1制御モード(電流ベクトル制御)と、電動機11に供給する電圧の位相に関する指令値(電圧位相指令値α)に、電動機11の電流値または電流値に基づいて演算されるパラメータ(トルク偏差Terr)をフィードバックすることによって電圧指令値(電圧位相制御のdq軸電圧指令値Vdv-fin ,Vqv-fin )を演算する第2制御モード(電圧位相制御)と、を切り替えながら電動機11を制御する電動機制御方法である。そして、第1制御モードと第2制御モードの切り替えに対して、遅延時間が設定され、かつ、第2制御モードから第1制御モードへの切り替えに対する遅延時間は、電源電圧Vdcに応じて変化される。
このように、第2制御モード(電圧位相制御)から第1制御モード(電流ベクトル制御)への切り替えに対する遅延時間を、可変とし、電源電圧Vdcに応じて変更すると、電流ベクトル制御と電圧位相制御の切り替えを適切に行うことができる。具体的には、負荷急変時には、制御モードの切り替え遅延によるサージに半導体スイッチング素子23が耐久し得る範囲内で、急峻に制御モードが切り替えられる。同時に、負荷急変がない通常時には、制御モードの切り替えチャタリングが抑制される。すなわち、負荷急変時における急峻な制御モード切り替えと、通常時のチャタリング抑制が両立される。
上記実施形態に係る電動機制御方法では、電源電圧Vdcが大きいほど遅延時間が短縮され、電源電圧Vdcが小さいほど遅延時間が延長される。これにより、特に、負荷急変時における急峻な制御モード切り替えと、通常時のチャタリング抑制が両立されやすい。
上記実施形態に係る電動機制御方法は、電源電圧Vdcに対して、第1閾値(第1電源電圧閾値Thvdc1)と、第1閾値よりも大きい第2閾値(第2電源電圧閾値Thvdc2)と、が設定される。そして、電源電圧Vdcが第1閾値よりも小さいときには、電源電圧Vdcが第1閾値以上である場合と比較して遅延時間が延長される。一方、電源電圧Vdcが第2閾値よりも大きいときには、電源電圧Vdcが第2閾値以下である場合と比較して遅延時間が短縮される。
上記実施形態に係る電動機制御方法では、電源電圧Vdcが第1閾値(第1電源電圧閾値Thvdc1)以上第2閾値(第2電源電圧閾値Thvdc2)以下であるときには、第2制御モード(電圧位相制御)から第1制御モード(電流ベクトル制御)への切り替えに対する遅延時間は、第1制御モード(電流ベクトル制御)から第2制御モード(電圧位相制御)への切り替えに対して設定される遅延時間と等しく設定される。電源電圧Vdcが、高くもなく、低くもない中庸な値であるときには、サージに対する半導体スイッチング素子23の耐久性、及び、制御モードの切り替えチャタリングを特別に考慮する必要性が比較的低い。このため、第2制御モードから第1制御モードへの切り替えに対する遅延時間を、第1制御モードから第2制御モードへの切り替えに対する遅延時間と同程度に設定することにより、電流ベクトル制御と電圧位相制御の切り替えを特に適切に行うことができる。
上記実施形態に係る電動機制御方法では、電動機11の動作状態を表す状態量(dq軸電圧指令値Vd-fin ,Vq-fin )に基づいて第1制御モードと第2制御モードの切り替えが判定され、この状態量に対する平均化処理(ローパスフィルタ91)によって遅延時間が設定される。そして、平均化処理のパラメータ(時定数τva)を電源電圧Vdcに応じて変更することにより、遅延時間が変化される。すなわち、制御モードの切り替え判定に用いる状態量を平均化し、かつ、その平均化の程度を調節することによって遅延時間が設定または変更される。この方法は、制御モードの切り替えチャタリングの発生しやすさと、負荷急変時の電流上昇と、の相関性を直接的に利用するものであるから、特に適切に、切り替えチャタリングの抑制でき、かつ、半導体スイッチング素子23の耐久性超過を抑制できる。
上記実施形態に係る電動機制御方法では、上記の状態量は、電動機11の電流、電圧、トルクT、または、回転数Nである。第1制御モード(電圧ベクトル制御)は、最小電流で最大トルクを得ることが求められる制御領域、すなわち、低回転かつ低トルクを要求される場合に特に適切である。一方、第2制御モード(電圧位相制御)は、電圧が飽和する弱め磁束領域、すなわち、高回転で高トルクを要求される場合に特に適切な制御である。したがって、制御モードの切り替えを判定するための状態量が、上記のように、電動機11の電流、電圧、トルクT、または、回転数Nであれば、これらの制御領域が直接かつ適切に判定される。このため、特に適切に、切り替えチャタリングが抑制され、かつ、半導体スイッチング素子23の耐久性超過が抑制される。
上記実施形態に係る電動機制御方法では、遅延時間として、第1制御モードと第2制御モードの切り替えを禁止する禁止期間(切替禁止期間tmask)が設定される。このように切替禁止期間tmaskを設定する方法は、遅延時間を直接的に設定または変更する方法である。同時に、この方法は、切り替えの遅延時間が、チャタリングと、負荷急変時の電流上昇と、に相関があることを利用するものである。したがって、上記のように、切替禁止期間tmaskを設定する場合、特に適切に、切り替えチャタリングが抑制され、かつ、半導体スイッチング素子23の耐久性超過が抑制される。
上記実施形態に係る電動機制御方法では、第2制御モードでは、電動機11の電流値(dq軸電流i,i)に基づいて、電動機11の磁束に関連するパラメータ(磁束偏差φerr)を算出し、かつ、この磁束に関連するパラメータに基づいて電圧ノルム指令値V が演算される。すなわち、電動機11の電流値(dq軸電流i,i)が、電圧位相αだけでなく、電圧ノルムVにもフィードバックされる。電圧位相制御は、原則として電圧位相αに電流値をフィードバックする制御である。しかし、上記のように、電圧ノルムVにも電流値がフィードバックされる場合、制御モードの切り替え遅延中において、電圧が過剰になることによる電流上昇が特に好適に抑制される。すなわち、負荷急変によって第2制御モード(電圧位相制御)から第1制御モード(電流ベクトル制御)へ移行すべきときに、切り替え遅延によって、電圧位相制御による高電圧が維持されてしまう制御シーンにおいても、半導体スイッチング素子23が耐久し得る範囲内に電流の上昇が抑制される。
上記実施形態に係る電動機制御方法では、電源電圧Vdcに応じて、さらに第2制御モード(電圧位相制御)における制御ゲイン(比例ゲインKφp及び積分ゲインKφi)が変化される。この方法は、電源電圧Vdcと電圧位相制御の一巡伝達系のゲインに相関があることを利用して、制御モードの切り替えに関する制御性能をさらに向上させるものである。具体的には、例えば、電源電圧Vdcが小さいときに一巡伝達系のゲインが大きくなるが、第2制御モード(電圧位相制御)における制御ゲインの電源電圧Vdcに応じた調節によって、この傾向が一定程度緩和される。このため、上記の方法によれば、許容可能な大きさを超えない現実的な範囲内で遅延時間を増加させることができ、かつ、制御モードの切り替えチャタリングを抑制することができる。
特に、上記実施形態に係る電動機制御方法では、電源電圧Vdcが大きいほど、第2制御モード(電圧位相制御)における制御ゲインが上げられ、電源電圧Vdcが小さいほど制御ゲインが下げられる。これにより、特に、許容可能な大きさを超えない現実的な範囲内で遅延時間を増加させることができ、かつ、制御モードの切り替えチャタリングを抑制することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態及び各変形例で説明した構成は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
10:電源,11:電動機,12:制御演算部,13:座標変換部,14:PWM変換部,15:インバータ,16:座標変換部,17:回転数演算部,21:電圧検出器,22:電気角検出器,23:半導体スイッチング素子,24:電流検出器,26:電流ベクトル制御部,27:電圧位相制御部,28:制御モード切替部,29:遅延時間設定部,31:非干渉電圧演算部,32:平均化処理部,33:電流目標値演算部,34:偏差演算部,35:PI制御部,36:加算部,41:電圧ノルム演算部,42:電圧位相演算部,43:第1フィードバックシステム,44:第2フィードバックシステム,51:電流目標値演算部,52:磁束演算部,53:参照磁束ノルム演算部,54:磁束推定部,55:偏差演算部,56:PI制御部,61:参照トルク演算部,62:トルク推定部,63:偏差演算部,64:PI制御部,71:加算部,72:電圧ノルム指令値制限部,73:加算部,74:電圧位相指令値制限部,75:ベクトル変換部,81:スイッチ,82:制御モード判定部,91:ローパスフィルタ,91a:d軸用ローパスフィルタ,91b:q軸用ローパスフィルタ,92:電圧ノルム演算部,93:制御モード選択部,95:制御切替線,96:制御切替線,100:電動機制御装置

Claims (11)

  1. 電動機に供給する電流の目標値である電流目標値に、前記電動機の電流値をフィードバックすることによって前記電動機を制御する電圧指令値を演算する第1制御モードと、前記電動機に供給する電圧の位相に関する指令値に、前記電流値または前記電流値に基づいて演算されるパラメータをフィードバックすることによって前記電圧指令値を演算する第2制御モードと、を切り替えながら前記電動機を制御する電動機制御方法であって、
    前記第1制御モードと前記第2制御モードの切り替えに対して、遅延時間を設定し、
    前記第2制御モードから前記第1制御モードへの切り替えに対する前記遅延時間を、電源電圧に応じて変化させる、
    電動機制御方法。
  2. 請求項1に記載の電動機制御方法であって、
    前記電源電圧が大きいほど前記遅延時間を短縮し、前記電源電圧が小さいほど前記遅延時間を延長する、
    電動機制御方法。
  3. 請求項2に記載の電動機制御方法であって、
    前記電源電圧に対して、第1閾値と、前記第1閾値よりも大きい第2閾値と、を設定し、
    前記電源電圧が前記第1閾値よりも小さいときに、前記電源電圧が前記第1閾値以上である場合と比較して前記遅延時間を延長し、
    前記電源電圧が前記第2閾値よりも大きいときに、前記電源電圧が前記第2閾値以下である場合と比較して前記遅延時間を短縮する、
    電動機制御方法。
  4. 請求項3に記載の電動機制御方法であって、
    前記電源電圧が前記第1閾値以上前記第2閾値以下であるときに、前記第2制御モードから前記第1制御モードへの切り替えに対する前記遅延時間を、前記第1制御モードから前記第2制御モードへの切り替えに対して設定される前記遅延時間と等しく設定する、
    電動機制御方法。
  5. 請求項1~4のいずれか1項に記載の電動機制御方法であって、
    前記電動機の動作状態を表す状態量に基づいて前記第1制御モードと前記第2制御モードの切り替えを判定し、
    前記状態量に対する平均化処理によって前記遅延時間を設定し、
    前記平均化処理のパラメータを前記電源電圧に応じて変更することにより、前記遅延時間を変化させる、
    電動機制御方法。
  6. 請求項5に記載の電動機制御方法であって、
    前記状態量は、前記電動機の電流、電圧、トルク、または、回転数である、
    電動機制御方法。
  7. 請求項1~6のいずれか1項に記載の電動機制御方法であって、
    前記遅延時間として、前記第1制御モードと前記第2制御モードの切り替えを禁止する禁止期間を設定する、
    電動機制御方法。
  8. 請求項1~7のいずれか1項に記載の電動機制御方法であって、
    前記第2制御モードでは、前記電流値に基づいて前記電動機の磁束に関連するパラメータを算出し、かつ、前記磁束に関連するパラメータに基づいて電圧ノルム指令値が演算される、
    電動機制御方法。
  9. 請求項1~8のいずれか1項に記載の電動機制御方法であって、
    前記電源電圧に応じて、さらに前記第2制御モードにおける制御ゲインを変化させる、
    電動機制御方法。
  10. 請求項9に記載の電動機制御方法であって、
    前記電源電圧が大きいほど前記制御ゲインを上げ、前記電源電圧が小さいほど前記制御ゲインを下げる、
    電動機制御方法。
  11. 電動機に供給する電流の目標値である電流目標値に前記電動機の電流値をフィードバックすることによって前記電動機を制御する電圧指令値を演算する第1制御モードによって前記電動機を制御する第1制御部と、前記電動機に供給する電圧の位相に関する指令値に、前記電流値または前記電流値に基づいて演算されるパラメータをフィードバックすることによって前記電圧指令値を演算する第2制御モードによって前記電動機を制御する第2制御部と、前記第1制御モードと前記第2制御モードを切り替える制御モード切替部と、を有する電動機制御装置であって、
    前記第1制御モードと前記第2制御モードの切り替えに対して、遅延時間を設定し、かつ、前記第2制御モードから前記第1制御モードへの切り替えに対する前記遅延時間を、電源電圧に応じて変化させる遅延時間設定部を備える、
    電動機制御装置。
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