JP2023066992A - 既設石積み擁壁の耐震補強工法 - Google Patents

既設石積み擁壁の耐震補強工法 Download PDF

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Abstract

【課題】経済性と工期、及び、補強効果を改善すること、大規模地震に対しても設計照査が可能とすること、及び、初期工事費と施工速度の改善、更にライフサイクルコストを低減すること。【解決手段】既設石積み擁壁の壁面を覆うように鉄筋7aの配置が可能な厚さwの張りコンクリート7が配置され、その張りコンクリート7の上端側の背面側上面に設定した延長区間whに引張ボルト1の頭部が、下端側には圧縮杭2の頭部が連結された擁壁横断面から成り、引張ボルト1と圧縮杭2の擁壁延長方向打設間隔B1、B2は1.0m~2.5mの大きなピッチとした既設石積み擁壁の耐震補強工法を採用した。【選択図】図1

Description

既設の石積みや既設のブロック積み擁壁(以下、既設石積み擁壁と総称する)の耐震補強工法の提供に関する。
歴史的に数多く存在する石積みやブロック積み擁壁において、間知石や割石などの目地部にセメントを間詰めしないで構築した空積みの石積みや、ブロック積み擁壁、及び、積み石の合端や表面目地部に限定した間詰めコンクリートで練積みした石積み擁壁は、建設当時の耐震補強に関する知見が少ない時代に構築されたものも数多く存在している。また、これらの既設石積み擁壁は、近年の建築や土木分野の擁壁工指針などで設計評価が不能な規格適用外の擁壁とされている。実際、これらの中には、過去の地震や雨水の侵入、基礎部の沈下などによる裏グリ石の沈降と石積み壁面のはらみ出しが年月を掛けて進行しているものも多く、更に大規模地震などが発生すると石積み壁の倒壊に至る可能性がある。
平成7年の兵庫県南部地震や平成16年の新潟県中越地震では、盛土や斜面に腹付けした盛土や石積み擁壁などが滑動崩落を起こし、多くの宅地被害が発生した。これに対して平成18年に宅地造成等規制法が改訂され、新規宅地造成に係る耐震性を確保するための技術基準が法令上明確になり、国土交通省ではこれに準じた「宅地耐震化推進事業」を創設し、多くの地方公共団体も参加して各自治体で危険個所に対する調査・対策事業の整理が推進しており、平成23年の東北地方太平洋沖地震の事後対策と新しい知見の更新が追加され、各種の対策工選定の考え方を示した「大規模盛土造成地の滑動崩壊対策推進ガイドライン及び同解説」(以下「ガイドライン」と称す)が平成27年に発行され、その後の平成29年3月には「被災宅地災害復旧技術マニュアル(熊本地震対応)国土交通省・熊本県・熊本市の連名で発行」にて大幅に活用され、今後も発生が予想される首都直下型地震や南海トラフ地震なども視野にガイドラインの内容研鑽が継続している。
前記ガイドラインの内容は、国の「激甚災害指定」を受けた大規模地震対策でも活用され、提案されている対策工も液状化対策工、抑止杭工、永久アンカー工、地山補強土工などが幅広く紹介されているが、この中で本願の石積み擁壁の耐震補強工法は、宅地間の狭隘地にある既設石積み擁壁に対する「地山補強土工法(擁壁補強)」として、鉄筋挿入工(引張補強)と(圧縮補強:圧縮型ルートパイル=網状鉄筋挿入工)が断面図付きで提案されているが、この内の圧縮補強:圧縮型ルートパイルの改良工法に該当する。
本願は、圧縮補強の圧縮型ルートパイルの特徴と課題を説明するとともに、発明者らの調査・研究により判明した既設石積み擁壁の新しい耐震補強策工法を提案するものだが、既設石積み擁壁の補強に豊富な採用実績があるEPルートパイル工法(登録商標)での過去の特許文献が見いだせないため、本願の「従来の技術」として、圧縮型ルートパイルを既設石積み擁壁補強に応用した例を用いて説明する。
従来の技術であるルートパイル工法は、例えば、社団法人地盤工学会冊子、土質基礎工学ライブラリー29、補強土工法(平成13年発行第8版)の3.3章に解説があり、前記ガイドラインにも「圧縮型ルートパイル」として紹介され、過去の大規模地震後の既設石積み擁壁の補修・補強の実績が豊富な工法のため、従来の技術として引用すると共に、これに対する本願の新規性や改善点を説明する。
その従来技術として、例えば、図19及至図21Dに示すように、高さ(h)が4.0mの既設石積み擁壁の上側背面近傍に、圧縮型ルートパイル(82)を構築した事例がある。同ルートパイルは、表層が砂質土で標準貫入試験のN値が10の軟弱地盤(I)であるため、その下の礫質土からなるN値が50の強固な定着地盤(II)まで貫通させて定着している横断面図と縦断平面図であり、斜め背面方向と鉛直方向にξ1=20°、ξ2=0°で2列のパイルが配置され、パイル(82)の削孔呼び径はφ115mmであり、擁壁延長方向には各列のピッチが削孔呼び径の7倍以下(つまり、Sn=800mm以下)で千鳥配置に打設され、密なピッチのパイル頭部は共にキャッピングビーム(81)により連結されており、パイル(82)間のハッチングした軟弱地盤部には「地中疑似擁壁(N)」を形成しており、図19の横断面図に示すように、土はこの地中疑似擁壁(N)をすり抜けることができずに円弧滑り力(Pr)の抑止する工法であり、一般には石積み擁壁以外の盛土補強土壁や重力式擁壁などの上部構造物が載る基礎の補強事例にも多用され、それらの基礎反力である鉛直力、水平力、及び、転倒モーメントもこの「地中疑似擁壁(N)」で支持する工法である。
標準貫入試験のN値とは、土質力学の分野で多用される土の強度を示す値であり、試験はシンプルでSPT(Standard Penetration Test)試験とも称して当初米国で提案された試験で今では世界中で同じであり、63.5kgの重りを国際標準のサンプラー貫入ロッドの頭に75cm上から自然落下させ、各試験地層を30cm貫通するための打撃数(Number of Blow)であり、土質には土砂、粘性土、礫質土(岩石も含む)の3種類があり、それぞれにこのN値を使って長年研究された工学式でそれぞれの土質に応じた土の引張ボルトや圧縮ボルトとのセメントグラウトを介した極限周面摩擦力や水平バネ乗数(K)を求めることができ、杭基礎の水平変位量を求める汎用解析ソフトも用意されている。本願の事例では軟弱な地盤(I)は土砂でN=10と比較的軟弱であり、その地層線(20)より下の定着地盤(II)は礫質土でN=50で良質で強固である。
従来技術である図19乃至図21Dに示す工法では、既設石積み擁壁の延長方向に沿う2列の圧縮型ルートパイルを備え、それぞれ、石積み擁壁の上側背面近傍から呼び径φ115mmにて汎用小型アンカーマシンによる2重管掘りを所定の深さまで実施した後に、インナーロッドを回収してから、注入ホースを削孔(82h)内のアウターパイプに挿入し、例えば設計呼び強度24(N/mm)程度の所定の化学添加剤を配合した汎用セメントグラウト(86)が空中を落下して分離しないように下側から逐次充填し、口元までセメントグラウト(86)が充填されたら、ボルト材として充実断面で連続したねじを有する直径φ29mmのねじ節異形棒鋼からなる芯材(82a)を所定の長さになるように接続カップラー(84)で接続し、芯材(82a)が削孔(82h)の中央に配置されるように複数のスペーサ(85)が配置され、また付着効果を発現するための鍔材(83)が略1.0mピッチで配置され、これら全部を組み込んでから、アウターパイプ内に充填されたセメントグラウト(86)の中に立て込む手法がとられ、その後でアウターパイプ内のセメントグラウト(86)を加圧し、加圧浸透した削孔壁(82’)を構築しながら逐次、アウターパイプを回収し、その後で頭部の支圧板(87)をキャッピングビーム(81)の所定の高さで上下の両側から六角ナット(88)で固定してルートパイル(82)の構築を終える手法を取っている。
圧縮型ルートパイルは引張力が全てのパイルに生じないように「地中疑似擁壁(N)」を構築する必要があるが、図19に示す検討基準面(▽Lo)にて疑似擁壁水平断面における各構成部材の照査において、擁壁高(h)の1/3の高さに生じる円弧滑り線(10’)に沿った滑り力(Pr)の水平分力(Prh)による転倒モーメントに、キャッピングビーム(81)重心と疑似擁壁(N)の重心に生じる地震時の水平慣性力による検討基準面(▽Lo)での転倒モーメントを加えた全転倒モーメントはかなり大きい値となる。
一方、前記全転倒モーメントにより山側のルートパイル(ξ1=20°)には引張力が掛かろうとするが、この引張力を抑えるのが垂直荷重であり、検討基準面(▽Lo)で照査する場合の垂直力は、小さなキャッピングビーム(81)の重量、地中疑似擁壁(N)の土塊重量、及び、滑り力の鉛直分力(Prv)のみであり、それなりの重い構造物を支持しない石積み擁壁補強での採用では山側のルートパイルには引張力が発生しやすく、疑似擁壁の重量を増やすために角度(ξ1)を大きくする、又は、キャッピングビーム(81)の幅(B)を大きくするなどの工夫が必要だが、住宅密集地では、近接した位置に既設建物(21)や用地境界線(22)もあって、全パイル圧縮力の状態が必須の疑似擁壁(N)の形成には、難点があった。
また、図19及び図20に示すように、キャッピングビーム(81)と前面の張りコンクリート(7)の上側の水平方向への延長区間(Wh)の間には間詰めコンクリート(80)を配置して、相互の地震時荷重が伝達されない独立躯体としている。この理由は仮に一体化してルートパイルより外側の石積み擁壁や張りコンクリート躯体、裏グリ石などの地震時慣性力がキャッピングビーム(81)に伝達された場合、山側のルートパイル(ξ1)には間違いなく地震時に引張力が生じて地中疑似擁壁(N)の形成が不完全となり、円弧滑り力の抑止機能を発現できなくなるためである。
また、既存石積み擁壁の背面近傍に独立したキャッピングビーム(81)付きの従来のルートパイル(82)を「疑似擁壁(N)」を形成するべく小ピッチ(Sn、呼び径φ115mmならSn=800mm以下)で2列配置しても、背面地山の滑り力(Pr)抑止はできるが、その外側にある既存石積み擁壁の補強は全くできておらず、そのままでは地震時に石積み壁が大規模地震の慣性力で腹膨れや崩壊を生じるため、追加で擁壁前面に張りコンクリート(7)工などの追加対策が必要で、全体では高価で工期も長いものとなっていた。
また、既設石積み擁壁は空積みや部分的にコンクリートで練積みした石積みは、前述のとおり設計評価が不能な規格適用外の擁壁であるため、背面に滑り力を抑止するためのルートパイルを構築しても、石積み擁壁は前記の如く規格適用外の擁壁であるため水平変位の照査は行われていなかったが、例えば、社団法人日本道路協会発行の擁壁工指針(平成24年7月版)では規格適応な擁壁基礎部の水平変位の照査を求めており、大規模地震時の小径杭の許容変位量は15mm以内とされているので、本願の発明により規格適応の対策工を実施できた場合は、水平変位の照査を行うことが望ましい。
特許文献1には、同文献図の「従来の技術」の説明を目的に図10及至図13が紹介され、国土交通省の前記ガイドラインに紹介がある大規模地震後の宅地密集地の既設石積み擁壁補強に豊富な採用実績を有する圧縮型のEPルートパイル工法(登録商標)の別形態の盛土基礎補強事例が開示されている。ここで、特許文献1の図10及至図13には、盛土基礎補強で3列配置の従来の圧縮型ルートパイルの事例が紹介されている。また、特許文献2には同文献図1及至図8に別な手段による既設石積み・ブロック積み擁壁の耐震補強工法が開示されている。
特許第6949390号公報 特許第5977177号公報
図19及至図21Dは、従来の圧縮型ルートパイルを、既設建物(21)が石積み擁壁の上下に近接した狭隘地での擁壁補強の実施例であり、既設石積み擁壁の上側近傍から2列のルートパイル(82)が所定角度(例えばξ1=20°,ξ2=0°)で略鉛直方に打設された事例で、汎用小型アンカーマシンによる各列の縦断方向パイル打設ピッチは削孔径の7倍以内(多用される呼び径φ115mm削孔ならピッチSnは800mm以下)で密に打設してルートパイル列間の土を拘束して地中疑似擁壁(N)を構築し、擁壁背面に生じる滑り土塊(Pr)がこの疑似擁壁(N)を通過できず円弧滑り線(10’)発生の抑止が可能な工法であるが、打設本数が多くて高価で、工期も長い欠点があった。
また、図19及び図20に示すように、前記ルートパイル(82)の頭部を連結している小幅(B)のキャッピングビーム(81)と、別途に施工される張りコンクリート(7)の天端水平延長部(wh)とは間詰めコンクリート(80)で分離して、前記石積み壁(6)や張りコンクリート(7)、及び、裏グリ石(9)などの地震慣性力がキャッピングビーム(81)の水平力に加算されて角度(ξ1)側のパイルに大きな引張力が生じて地中疑似擁壁(N)の確保が不能になることを回避しなければならず、構造的にも効果的ではなく、経済性も良くなかった。
また、前記ルートパイル(82)のキャッピングビーム(81)と張りコンクリート(7)の上端水平区間(wh)の間を間詰めコンクリート(80)で分離しても、ルートパイルの疑似擁壁(N)のパイル芯材の圧縮軸力や内包する拘束された土の応力状態を照査する「検討基準面(▽Lo)」での応力照査において、2列あるルートパイル(82)の双方を圧縮荷重状態にするために、滑り力(Pr)の水平分力(Prh)に前記検討基準面(▽Lo)から荷重点までの高さ(h/3)を掛けた転倒モーメント、及び、地震時のキャッピングビーム(81)の重心に生じる水平慣性力と疑似擁壁(N)の重心に生じる水平慣性力による同検討基準面での転倒モーメントを合計した「全転倒モーメント」によるパイル(ξ1)側の引張軸力を疑似擁壁(N)の重量、キャッピングビーム(81)の重量、及び、滑り力(Pr)の垂直分力(Prv)の「合計重量」にてパイルが圧縮状態になるように、打設角(ξ1、ξ2)やキャッピングビーム(81)の形状を設計時に複数回試算する必要があるが、既設建物(21)及び用地境界線(22)の制限や鉛直荷重が小さい石積み擁壁補強での適用では、設計上の難点もあった。
また、特許文献1で紹介されているように、前記擁壁工指針(平成24年7月版)では規格適応の各種擁壁構造物を支持する小径杭で補強された基礎、または本願発明の補強手段で規格適応の擁壁に改善された圧縮杭で支持される既設石積み擁壁補強後の基礎は、地震時の水平変位が許容値内であるかの照査を求められているが、圧縮型ルートパイルによる補強は石積み擁壁の背面地山の円弧滑り力(Pr)を抑止するだけが目的の対策工であることから、同様な照査は実施されていなかった。
なお、従来の圧縮型ルートパイルによる地中疑似擁壁(N)は、土塊とその両端の2列のボルトで構成されているために横方向の剛性はとても小さく、平地やゆるい傾斜の地形なら周囲の受動土圧によって余り撓まないものの、石積み擁壁補強は擁壁面より外には抵抗する地層がないため、滑り力の水平成分(Prh)やキャッピングビーム地震時水平慣性力及び疑似擁壁(N)の地震時水平慣性力により、石積み擁壁面を背面から押し出すような撓みを誘発することを、本願の発明者らが実験と解析で確認した。このため、従来の圧縮型ルートパイルによる石積み擁壁の耐震補強は、好ましくないとの見解に至った。この点は、後述の「発明を実施するための形態」においても詳述する。
また、特許文献2は、石積み・ブロック積み擁壁の壁面を覆う覆面部材(ネットやシート)を配置し、擁壁の上部と下部に覆面部材を壁面に締め込みを行うコンクリート固定部材を配置し、更に壁面から追加で複数の棒状補強材を備えて更なる覆面部材の締め込み効果を改善する技術構成は、同文献2の請求項1、請求項3、請求項4及び請求項5だけを鑑みても石積み壁の耐震補強を実現するための構成要素が多く、高価で施工速度も遅いものと推察される。
また、特許文献2の請求項2に限っては棒状補強材を追加打設する記載はなく、単に上部及び下部固部材がそれぞれ、覆面部材の巻き込み用固定台と根固めコンクリート部材であると主張されており、部材構成には棒状補強材の追加打設の手段はなくて極端に高価な工法ではないと想定できるが、請求項1及至請求項5の全ての特許文献2の覆面部材は基本的に耐久性に優れたシートやネットであり、上部コンクリート固定部材と下部固定部材もしくは下部根固めコンクリート部材にて締め込みを行った場合に、例えば面状に凹凸のある割石や自然石を採用した石積み壁面、または延長方向に湾曲する壁面では締め込み力を上げても複数の積み石が覆面材と接触していない状態も発生することが容易に推察され、どの請求項の記載も「擁壁の崩壊防止と変状低減」と記載されているが、同文献2の「発明の効果」に記載の崩壊防止ネット又はシートにより、特に面状に凹凸のある割石や自然石を採用した石積み擁壁への適用では、「崩壊防止を図ると共に締め込みによる締め付け効果によって擁壁面とシート・ネット等の一体化」との主張があるが、この「一体化」は完全には実現できておらず、「壁面変状の低減と崩壊防止」までに限定されており、主に鉄道沿線の既設石積み・ブロック積みの耐震補強を対象としているため、鉄道施設の維持管理は点検列車などにより定期的に丁寧な点検が行われているので補修をしながらの採用であれば問題ないが、ライフサイクルコストは安価な鉄筋補強の張りコンクリートによる前面補強の方が遥かに経済的で耐久性に優れると考える。
本発明は以上の課題に鑑みて成されたもので、その目的は、以下の課題を達成することである。
<1>経済性と工期、及び、補強効果を改善する工法を提供する。
<2>大規模地震に対しても設計照査が可能な工法を提供する。
<3>初期工事費と施工速度の改善、更にライフサイクルコストにも帰する効果的な工法を提供する。
上記課題を達成するために、本発明は、間知石、割石又はコンクリートブロックからなる既設石積み擁壁の耐震補強工法において、
前記既設石積み擁壁の頂部の背面側、及び、前記既設石積み擁壁の裾部の前面側において、それぞれ呼び径φ115mm~φ146mmのリングビット付きのアウターパイプとセンタービット付きのインナーロッドを用いた2重管削孔により、鉛直方向に対する角度を所定の下向き角度、擁壁延長方向間隔を1.0m~2.5mとして削孔作業を進め、それぞれの前記削孔が所定の深さに達したら前記インナーロッドと前記センタービットを回収する第1工程と、
周辺地山との付着改善を目的とした複数のフックスペーサと底面支圧プレートを配置した充実断面の鋼棒と注入ホースをアウターパイプ内に挿入し、又は、周辺地山との付着改善を目的とした複数のフックスペーサと底面支圧プレートを配置した中空鋼棒をアウターパイプ内に挿入する第2工程と、
前記注入ホース又は前記中空鋼棒の内孔を介してセメントグラウトを前記削孔に逐次下側から上方に向かって充填する第3工程と、
擁壁頂部の背面側の前記削孔における引張ボルトの構築として、前記リングビット付きの前記アウターパイプを前記セメントグラウトを加圧充填しながら回収し、その後前記鋼棒に挿通した頭部支圧板を前記鋼棒に配置した上下2個の六角ナットで前記鋼棒の上部の所定位置に締め付けて固定する第4工程と、
擁壁袖部の前面側の前記削孔における圧縮杭の構築として、その上端に落下防止蓋のついた直径φ76.3~φ114.3mm、長さ2~5mの口元補強管を、前記鋼棒の上部の所定位置に挿通して落下防止ナットで吊り下げて支持し、前記リングビット付きの前記アウターパイプを前記セメントグラウトを加圧充填しながら回収し、前記落下防止蓋及び前記鋼棒に挿通した頭部支圧板を前記鋼棒の上側から装着した六角ナットと前記落下防止ナットとの間で締め付けて固定する第5工程と、
所定量の鉄筋を前記既設石積み擁壁の前面区間と前記既設石積み擁壁の頂部の背面側上面に設定した延長区間に配筋し、前記鉄筋を収容可能な厚さの張りコンクリートを前記既設石積み擁壁の前面区間と前記延長区間に打設する第6工程と、
を備え、
前記張りコンクリートの前記延長区間に前記引張ボルトの頭部が、前記張りコンクリートの下端に前記圧縮杭の頭部が連結されている既設石積み擁壁の耐震補強工法の構成を採用したのである。
ここで、複数のフックスペーサを配置した充実断面ボルトの全長に注入ホースをアウターパイプに挿入する手段は、注入ホースは単に充実断面ボルトの場合でも削孔内での自由落下打設によるグラウト材の分離が生じないように下側から逐次充填することが目的であることから、充実断面ボルトと注入ホースをアウターパイプ内に一緒に(充実断面ボルトに注入ホースを添わせて)挿入したり、充実断面ボルトを挿入し、続けて注入ホースを挿入したり、先に注入ホースのみをアウターパイプ内に挿入して、セメントミルクを削孔下側から充填しながら回収し、その後で充実断面ボルトを挿入するなどの手段も適宜に選択できる。
また、前記削孔の斜角は、張りコンクリート上端側の引張ボルトの下向き角度が反時計廻りに10°~45°、下端側の圧縮杭の下向き角度も同じく-10°~0°のいずれかを適宜選択する。
また、引張りボルトと圧縮杭の削孔呼び径(φ114mm~φ146mm)と打設ピッチ(1.0m~2.5m)は、前記範囲で適用条件に応じて、それぞれ異なる値を採用することができる。
なお、本発明で用いられるセメントグラウトは、従来から現場配合して用いる設計呼び強度24~30(N/mm)で水セメント比0.45~0.55で所定の化学添加剤を配合した汎用のセメントグラウトで良く、例えば、社団法人日本アンカー協会発行のグランドアンカー施工の手引書(平成15年4月版)に記載のものであれば良い。
更に、鋼棒及び周辺地山との付着改善を目的としたフックスペーサは、本願の当該各図では鋼棒と接合された部材から3本の剛性の高い厚肉鋼製アームが外周方向に伸びた形状であるが、厚肉アームは更に多くても良く、又は同様に鋼棒と接合された所定径の厚肉円形部材や多角形部材でも良く、前記付着改善の機能と鋼材を削孔の中心位置に保持する2つの機能を有する部材であれば良い。
張りコンクリート上端側の引張ボルトの削孔の深さは、設計で求められる引張ボルトの引張軸力を、加圧充填したグラウト壁を介して周辺地山の摩擦力により地山に安全に伝達する必要があり、軟弱地盤の下にある定着地盤の土の種類と標準貫入試験のN値から求まる地山とセメントグラウトの極限周面摩擦力を膨大な実績を有する永久アンカーの極限摩擦力推奨値から特定し、それに所定の安全率を加味した当該削孔径に応じた必要なボルト長さとする。
また、下端側の圧縮杭の削孔深さは、設計で求められる圧縮軸力を、加圧充填したグラウト壁を介して周辺地山の摩擦力により地山に安全に伝達する必要があり、前記軟弱地盤の下にある定着地盤の土の種類と前記N値から求まる地山とセメントグラウトの極限周面摩擦力を膨大な実績を有する永久アンカーの極限摩擦力推奨値から特定し、それに所定の安全率を加味した当該削孔径に応じた必要なボルト長さとする。
更に、下端側の圧縮杭に生じる水平力に対する安定性は、設計で求められる地震時の水平力を、同圧縮杭の頭部所定位置に固定されて軟弱地盤内に所定長さで挿入された口元補強管の曲げ剛性と当該補強管の内面及び外面に加圧充填されたセメントグラウトの横断面から成る圧縮杭により、周辺軟弱地盤の土質とN値から算定される前記水平バネ定数を介して弾性もしくは弾塑性的に周辺地山で支えられ、所定の水平変位を生じて安定すると共に、その変位量が許容値内であるかも照査できるようになる。
また、これらの各態様において、前記センタービット付きの前記インナーロッドに代えて、ロスト型センタービット付きで周辺地山との付着改善を目的とした複数のフックスペーサを配置した中空断面の鋼棒を採用して削孔作業を完了し、その鋼棒を回収することなく残置して前記セメントグラウトを充填し、前記センタービット付きの前記インナーロッドの回収工程と、前記注入ホースの挿入工程と前記充実断面の鋼棒又は前記中空鋼棒の前記アウターパイプ内への挿入工程を省略した構成を採用することができる。この場合、引張ボルト及び圧縮杭のどちらの構築においても、その鋼棒を回収することなく、上記セメントグラウトを充填して、センタービット付きインナーロッドの回収工程と上記注入ホースを添わせてフックスペーサを配置した充実断面の鋼製ボルト(鋼棒)または中空断面の鋼製ボルト(鋼棒)のアウターパイプ内への挿入工程を省略することにより、工期の短縮を図ることができる。このときその表面に連続ねじを有するボルトとすることもできる。
上記の張りコンクリートの下端側に打設する圧縮杭の口元補強管として、面状がなだらかでフラットな側面を有する汎用鋼管を採用できるが、その内面及び外面に凹凸を有し内面側及び外面側の前記セメントグラウトとの付着力改善を目的としたディンプル鋼管を用いれば、その内面の鋼棒の圧縮軸力や周面グラウトの圧縮軸力を各部材の付着力を介して確実に外側のセメントグラウトに伝達し、更にグラウト内のせん断応力の伝達で加圧浸透した削孔壁を介して周辺地山に伝達できるようになる。
本発明は以上説明したとおりであるから、次の効果<1>~<3>のうち少なくとも一つを得ることができる。
<1> 経済性と工期、及び補強効果を改善する工法を提供する。
<2> 大規模地震に対しても設計照査が可能な工法を提供する。
<3> 初期工事費と施工速度の改善、更にライフサイクルコストにも帰する効果的な工法を提供する。
これらの効果について、後述の実施形態に基づいてより具体的に説明すると、以下の<A>~<E>の通りである。
<A> 従来の圧縮型ルートパイルによる既設石積み擁壁補強では、例えば多用される呼び径φ115mmの削孔であれば、その7倍以下の小ピッチ(すなわちSn=800mm以下)、また縦断方向に最低2列の補強杭を配置して全パイルに圧縮力のみが働くように設計し、「地中疑似擁壁(N)」を構築して滑り力(Pr)を抑止する必要があったが、本発明では、従来技術と同規模の高さ(h)4mの石積み擁壁補強の試設計例では、石積み擁壁前面に鉄筋入りの張りコンクリート(7)を配置し、地震時に転倒しないようにその天端側から削孔呼び径がφ115mmの引張ボルト(1)を1列、延長方向の打設間隔B1=2.0mピッチ、横断方向角δ1=20°にて斜め鉛直方向に打設するとともに、同張りコンクリート(7)の下端側には削孔呼び径がφ115mmの圧縮杭(2)を1列、延長方向の打設間隔B2=2.0mピッチで鉛直方向角(δ2=0°)に打設すればよい結果となり、引張ボルト及び圧縮杭の本数は、打設ピッチ@0.8m÷@2.0m=0.4倍となり、従来技術のルートパイルの打設本数を60%も減らすことができる。
<B> 本発明では、前記同規模の試設計例において、張りコンクリート上端側の引張ボルト(δ1=20°)は、通常の前記のロックボルト引張定着理論で構築できるので設計も容易であり、鋼棒の特性である引張機能を最大限に活用して地震時の石積み擁壁前面の鉄筋補強(7a)した張りコンクリート(7)が転倒しないように後ろに引っ張る構造としており、引張ボルト(1)の引張力[T]は軟弱地盤(I)下の定着地盤(II)に定着必要長さが挿入され、加圧注入された削孔壁の周辺地山に確実に定着され、引張ボルト(1)の引抜けを防止しており、構造が明快で効果的である。
また、張りコンクリート(7)の下端側の圧縮杭(2)は、その水平力[H]により、張りコンクリートの下側が足払い効果で滑動崩壊しないように圧縮杭の口元補強管(4)を地中まで延長配置して、当該鋼管の曲げ剛性と内面及び外面に加圧充填されたセメントグラウトの横断面から成る圧縮杭により、周辺軟弱地盤(I)の土質とN値から算定される水平バネ定数(Ko)にて支持しており、張りコンクリート(7)と一体で石積み擁壁下端側からの崩壊防止に機能しており、構造が明快で効果的である。
更に、前記圧縮杭(2)の軸圧縮力[C]は、軟弱地盤(I)下の定着地盤(II)に定着必要長さが挿入され、加圧注入された削孔壁の周辺地山に確実に定着され、張りコンクリートの沈下を防止している。
<C> 本発明の圧縮杭(2)の口元補強管(4)は、前記同規模の試設計例において、打設間隔B2=2.0mピッチで一列の短尺鋼管杭であり、張りコンクリートと石積み擁壁基礎の圧縮杭(2)の口元部の曲げ剛性を付加しており、軟弱地盤(I)の表層での圧縮力[C]と水平力[H]から生じる圧縮と曲げによる局部座屈を回避できるとともに、水平力[H]を周囲の軟弱地盤(I)の水平ばね乗数(Ko)により確実に分散して弾性解析もしくは弾塑性解析による水平変位量の照査ができ、前記擁壁工指針が求める許容値内であるかも確認できる。
<D> 本発明の構成において、引張ボルト(1)及び圧縮杭(2)の前記2重管掘りの回収型センタービット(26)付きインナーロッド(24)に替えて、ロスト型センタービット(41)付きの付着改善を目的とした複数のフックスペーサ(12)を配置した中空ボルト(1a、2a)を採用して削孔作業を完了し、その鋼棒(1a、2a)を残置してセメントグラウト(3)を充填すれば、センタービット(26)付きインナーロッド(24)の回収工程と鋼製ボルトの後挿入工程を省略した高速の前記引張ボルト(1)及び圧縮杭(2)の構築を行えば、前述の<A>及至<C>と同様の効果を得ることができると共に、工期短縮も可能となる。
<E> また、本発明の構成において、施工する現場の表層地盤が比較的に良好な想定地盤で、この表層地盤も支持層に加えたい場合には、前記圧縮杭(2)の汎用鋼管の口元補強管の面状は平滑であり、内側の鋼棒の軸圧縮力や周囲セメントグラウトの軸圧縮力を外側の周辺地山に確実に伝達できないため、汎用鋼管に替えて連続して凹凸面状のディンプル鋼管を口元補強管とすれば、その内側の鋼棒の圧縮軸力や周面グラウトの圧縮力を確実に外側のセメントグラウトの加圧浸透した削孔壁(2’)を介して周辺地山の摩擦力(14)に伝達できるようになり、汎用鋼管による口元補強管の土中長さ分の圧縮杭(2)長さを低減できて経済的である。加えて、比較的に良好な想定地盤のみでなく、ディンプル鋼管と汎用鋼管の曲げ剛性はほぼ同等であることから前記軟弱地盤でも周囲の土の側圧により、前記圧縮杭(2)の頭部の水平変位を抑制できるとともに、弾性解析もしくは弾塑性解析により水平変位量を計算して、本発明の耐震補強を施した既設石積み・ブロック積み擁壁に、前記擁壁工指針などで求められる許容水平変位量を照査するという目的を達成できる。
本発明を用いた既設石積み擁壁の耐震補強工法の一実施形態の横断面図 同実施形態による既設石積み擁壁の耐震補強の一部区間を破断した縦断平面図 同実施形態による既設石積み擁壁の耐震補強の一部区間を破断した縦断側面図 石積み擁壁を構成する積み石に関する部位名称の説明図(正面図) 図4Aの右側面図 石積み擁壁を構成する積み石部の空積み(練積みコンクリートなしの空積み擁壁)の説明横断図 石積み擁壁を構成する積み石部の部分練積み(合端6bのみを練積みした石積み擁壁)の説明横断図 石積み擁壁を構成する積み石部の全体練積み(控え6d以上を練り積みした石積み擁壁)の説明横断図 (イ)~(へ)は、同実施形態による上端側引張ボルトの構築工程の説明図 同実施形態による上端側引張ボルトの部材構成図 図7AのB-B断面図 図7AのC-C断面図 図7AのD-D断面図 図7Aの要部拡大図 (イ)~(ト)は、同実施形態による下端側圧縮杭の構築工程の説明図 同実施形態による下端側圧縮杭の部材構成図 図9AのB-B断面図 図9AのC-C断面図 図9AのD-D断面図 図9Aの要部拡大図 図9Aの落下防止蓋付き鋼管の断面図 図9FのG-G矢視図 同他の実施形態の引張ボルトにロスト型センタービットを採用した部材構成図 図10AのB-B断面図 図10AのC-C断面図 図10AのD-D矢視図 図10Aの要部拡大図 同他の実施形態の圧縮杭にロスト型センタービットを用いた部材構成図 図11AのB-B断面図 図11AのC-C断面図 図11AのD-D矢視図 図11Aの要部拡大図 図11Aの落下防止蓋付き鋼管の断面図 図11FのG-G矢視図 実施形態による下端側圧縮杭に用いる別形態の口元補強管の断面図 図12AのB-B矢視図 図12Aの要部拡大図 図12Cの要部拡大断面図 図12CのE-E断面図 同実施形態、及び従来の技術の横方向荷重試験の試験槽の断面図 同実施形態、及び従来の技術の横方向荷重試験の試験体断面図と試験結果図 図14Aの条件図(RP) 図14Aの条件図(一体) 図14Aの条件図(一体化引張) 同実施形態の有限要素解析をおこなうための3次元モデル図 同実施形態の有限要素解析結果を「見える化」した3次元立体図 同実施形態の耐震補強した既設石積み擁壁の基礎水平変位の解析モデル横断面図 同実施形態の耐震補強した既設石積み擁壁の基礎水平変位の解析モデル縦断面図 従来技術による既設石積み擁壁へのルートパイル補強の横断面図 従来技術による同擁壁へのルートパイル補強の一部区間を破断した縦断平面図 従来技術の圧縮型ルートパイルの部材構成図 図21AのB-B断面図 図21AのC-C断面図 図21AのD-D断面図
次に本発明の実施形態について、詳細に説明する。図1は、従来技術の説明図である図19等と全く同じ現場条件、荷重条件における本発明の試設計結果を示す横断図である。図2は図1の平面図、図3は図1の左側面図である。
図1に示すように、既設石積み擁壁は、均しコンクリート(17)を配置した石積み擁壁の基礎(16)の上に間知石等の積み石(6)を積み上げて成り、背面の斜面地山(8)との間には侵入水を流下・排水するための裏グリ石(9)が所定厚さで配置されている。耐震補強を施した既設石積み擁壁は、高さ(h)の擁壁全面を覆うように張りコンクリート(7)が施工されている。張りコンクリート(7)は、近接する既設建物(21)の狭隘な区間において、既設石積み擁壁の全面側を覆う前面区間(vh)と、既設石積み壁の頂部の背面側上面に設定した延長区間(wh)に亘って連続的に配置されている。
なお、石積み擁壁には間知石や割石、コンクリートブロックなど各種の積み石があるが、間知石による積み石の要素名称と空積み・練積みとの関係を説明する。図4A及び図4Bで示す一般的な積み石(6)では、石積み壁の表面側となる面(6a)、その周りの積み石接合面となる合端(6b)、背面側の胴尻(6c)、奥行き長さとなる控え(6d)と称する部位からなる。図5Aは、積み石(6)を間詰めコンクリートを使わずに合端(6b)部のみで空積みした石積み断面図、図5Bは、合端部(6b)のみに間詰コンクリートを配置した石積み断面図、図5Cは、控え部も含めて十分な胴巻きコンクリートを配置しながら構築した石積み断面図である。ただし、このうち、図5Aと図5Bは、今日の建築・土木業界での規格や指針などに合致しない規格適用外の擁壁であり、図5Cについても建設当時のコンクリートの管理状態が明確でないものやコアリングなどの試験で状態が良くないものは、もたれ擁壁としての壁体の一体化が確実ではなく、規格適用外とみなされ、本願の既設石積み擁壁補強工法の適用対象である。
前面区間(vh)及び延長区間(wh)の内部には、鉄筋(7a)が配筋されている。前面区間(vh)及び延長区間(wh)は、それぞれ鉄筋(7a)が必要なコンクリート被り厚を有して内部に収容可能な厚さ(w)に設定されている。図中の符号(18)は、雨水侵入防止の舗装面を示し、符号(19)は、張りコンクリート下側底面(基礎上面、地表面)を示している。この実施形態では、延長区間(wh)は水平方向であるが、地形に合わせてやや傾斜した形態となる場合もある。
張りコンクリート(7)を打設する前段の作業として、引張ボルト(1)及び圧縮杭(2)を設置する箇所、すなわち、既設石積み擁壁の頂部の背面側、及び、既設石積み擁壁の裾部の前面側において、それぞれ削孔作業が行われる。この削孔部分は、その後、張りコンクリート(7)の打設時には、その張りコンクリート(7)の延長区間(wh)と前面区間(vh)とに覆われる部分である。以下に、引張ボルト(1)の芯材である鋼棒(1a)として、その外周に連続するねじを有する中空ボルト(中空ボルト(1a)と称する)を用い、また、圧縮杭(2)の芯材である鋼棒(2a)として、その外周に連続するねじを有する中空ボルト(中空ボルト(2a)と称する)を用いた本発明の実施形態の例を詳細に説明する。
延長区間(wh)の削孔(1h)の箇所には、引張ボルト(1)が施工される。引張ボルト(1)は、図7Aに示すように、頭部支圧板(5)がその外周に連続するねじを有する中空ボルト(1a)に両面から六角ナット(36)で固定され、同中空ボルト(1a)は打設角δ1=20°の斜角で配置されている。地中深くの強固な定着地盤(II)まで削孔構築された引張ボルト(1)の削孔(1h)内には、中空ボルト(1a)が定着地盤(II)内で確実に引張力[T]を周辺地山の摩擦力(13)に伝達できるように、付着改善を目的とした複数のフックスペーサ(12)と、先端に注入横穴(15a)付きの底面支圧プレート(15)が配置されている。また、比較的浅い位置にある軟弱地盤(I)とその上側の頭部支圧板(5)の区間にも、同中空ボルト(1a)のスペーサ機能のみを目的としたフックスペーサ(12’/スペーサ機能を主たる目的としたフックスペーサ12の符号を、以下12’として区別する)が所定間隔で配置されている。削孔(1h)と中空ボルト(1a)の隙間には全長に亘ってセメントグラウト(3)が加圧浸透された削孔壁(1’)が形成され、引張ボルト(1)を構成している。
前面区間(vh)の削孔(2h)の箇所には、圧縮杭(2)が施工される。圧縮杭(2)は、図9Aに示すように、頭部支圧板(5)と口元補強管(4)の上端部にある落下防止用蓋(38)が所定高さで張りコンクリート(7)内に埋め込まれた状態になるように、その外周に連続ねじを有する中空ボルト(2a)に対して落下防止用ナット(37)と六角ナット(36)で固定されている。打設角δ2=0°の鉛直方向に強固な定着地盤(II)まで削孔構築された圧縮ボルトの削孔(2h)内には、中空ボルト(2a)が強固な定着地盤(II)内で確実に圧縮力[C]を周辺地山の摩擦力(14)に伝達できるように、付着改善を目的とした複数のフックスペーサ(12)と先端に注入横穴(15a)付きの底面支圧プレート(15)が、また軟弱地盤(I)内にも同中空ボルト(2a)のスペーサ機能のみを目的としたフックスペーサ(12’)が配置されている。削孔(2h)と中空ボルト(2a)の隙間には全長に亘ってセメントグラウト(3)が加圧浸透された削孔壁(2’)が形成され、圧縮杭(2)を構成している。また、圧縮杭(2)の水平力[H]は、口元補強管(4)とその内面と外面に加圧充填された横断面からなる杭の曲げ剛性を利用して、周面の軟弱地盤(I)の土砂層のN値=10の地盤から算出される土の水平バネ定数(Ko)により支持されている(図1参照)。
ここで、大規模地震時に発生する荷重と引張ボルト(1)の引張力[T]と圧縮杭(2)の水平力[H]並びに圧縮力[C]の算出手段について詳しく説明する。
図1で、大規模地震時には、背面の斜面地山(8)にも主動土塊の地滑り線(10)が発生することが予想され、この滑り線(10)より擁壁側の断面構成要素の各水平慣性力は、滑り土塊断面(11)の重心に土塊水平慣性力(Esh)が、裏グリ石(背面グリ石)(9)の断面重心に同水平慣性力(Egh)が、積み石(6)の全断面重心に同水平慣性力(Ebh)が、また本願で追加施工する張りコンクリート(7)の重心にも同水平慣性力(Ech)が発生し、これら水平慣性力の和に、滑り土塊断面(11)の滑り力(S)による水平主動土圧力(Pa)を加えた「地震時の全水平力」において、それぞれの断面構成要素の重心高さは図形的に求まり、また主動土圧力(Pa)の荷重点は擁壁高さ(h)の1/3であることから、張りコンクリート底面レベルを回転中心とした各構成断面の慣性力による転倒モーメントの和を求めることができ、これと同値の反対方向の抵抗モーメントを同回転底面レベルから引張ボルトの頭部支圧板までの垂直高さ(h-w/2)と引張ボルトの水平成分[Th](図1の分力図53参照)の積を得ることで、水平分力[Th]を求めることができる。また、張りコンクリート(7)にて支持される前記「地震時の全水平力」から上端側引張ボルト(1)の水平分力[Th]と「擁壁底面の地震時の水平滑り抵抗力(τh)」を差し引けば、下端側の圧縮杭(2)の水平力[H]を算出できる。なお、水平分力[Th]と「擁壁底面の地震時の水平滑り抵抗力(τh)」の和が「地震時の全水平力」より大きく、堅固な地盤に支持されている場合には圧縮杭を省略することができる。
また、圧縮杭(2)の圧縮力[C]は、張りコンクリート(7)を介して伝達される引張ボルト(1)の引張力[T]の鉛直分力[Tv]とその頭部を連結した張りコンクリート(7)の重量の和から既設石積み擁壁の個々の支持地盤の土質とN値及び基礎形状や状態に応じた分担する圧縮力(Vb)を差し引く、つまり圧縮力[C]=(Tv+張りコンクリート重量-Vb)でよく、その他の既設石積み擁壁の構成要素は、従来から現地盤で保持してきた要素であり加算する必要はない。
図2は、本発明の既設石積み擁壁の補強構造を示す縦断平面図である。張りコンクリート(7)の上端側から角度δ1=20°にて打設された引張ボルト(1)が、延長方向に打設ピッチ(B1=2.0m)で、また下端側から鉛直にδ2=0°にて打設された圧縮杭(2)も、延長方向に打設ピッチ(B2=2.0m)で配置されている状態を示している。また、図3は、同縦断側面図である。
ところで、本発明の課題として段落0021で述べたように、図19に示す従来の圧縮型ルートパイルによる地中疑似擁壁(N)は、土塊とその両端の2列のボルトで構成されているために横方向の剛性はとても小さく、平地やゆるい傾斜の地形なら周囲の受動土圧によって余り撓まないものの、石積み擁壁補強は擁壁面より外には抵抗する地層がないため、滑り力の水平成分(Prh)やキャッピングビーム地震時水平慣性力及び疑似擁壁(N)の地震時水平慣性力により、石積み擁壁面を背面から押し出すような撓みを誘発することを、本願の発明者らが実験と解析で確認した。
図13~図15は、その実験と解析の結果を示している。実験は遠心力を利用して模型地盤の応力レベルを、実地盤を模擬した状態にし、縮小模型を用いて実物の挙動をより正確に把握できるようにした遠心模型実験により実施した(例えば、特開2008-157876号公報)。遠心加速度は20Gで縮尺1/20としている。図14Aのグラフは、図13の静的横方向載荷試験装置(42)を使って採取した数多くのデータを代表して「水平載荷力とルートパイル頭部の変位量」をプロットしたグラフであり、図14Bに示すルートパイル(RP)の頭部を石積み擁壁と分離したモデル(48)、図14Cに示す同頭部を同擁壁と連結したモデル(49)、図14Dに示す1列の引張補強材のみをルートパイルと同じ密なピッチで延長方向に配置して擁壁の頭部と連結したモデル(50)、及び、同1列の引張補強材のみをルートパイルの2.5倍の大きなピッチで配置して擁壁の頭部と連結したモデル(51)の「合計4つのモデル」の試験結果を呈している。図14はすべて実地盤換算とした結果として示した。
1. モデル(48)は、図19及至図21Dと同じ従来の圧縮型ルートパイルの要素をモデル化しており、水平載荷力の増加に応じた杭頭変位は4つのモデルの中で最も大きくなり、その他のパラメータで採取したグラフ(添付は省略)でも水平載荷力の増加に応じてパイルの曲げモーメントも最も大きく、2列のパイルとも共に石積み壁を押し出す変位が他のモデルよりも卓越していることが判明した。
2. モデル(49)は、前記ルートパイル(RP)の頭部を石積み擁壁頭部と連結したモデルであり、前述の段落0018、0019で述べた課題が再確認され、石積み擁壁と連結した場合の杭頭変位は小さいが、その他のパラメータで採取したグラフ(添付は省略)からは2列あるパイル列の斜杭側のみでなく直杭側にも引張力が発生し、すなわち、石積み擁壁が圧縮側の鉛直力を負担して圧縮型ルートパイル2列のボルトは共に「全杭が引張力の状態」となり「地中疑似擁壁(N)は構築されない」との結論を得た。
3.モデル(50)とモデル(51)は1列の引張材のみを配置して同石積み擁壁の天端部と連結したモデルで、杭頭変位は共に更に小さく、その他のパラメータで採取したグラフ(添付は省略)からも引張材が効果的に頭部水平変位の発生を抑えており、またルートパイルと同じピッチで7本の引張材を配置したモデル(50)よりもその2.5倍の大きなピッチで3本の引張材を配置したモデル(51)の方が軸引張力は大きくなるが引張部材の曲げモーメントは増加せず、擁壁頭部の傾斜角はモデル(50)と同程度であり、引張材の効果が最も良好であることも判明した。
4.上記モデル試験の結果により、従来の圧縮型ルートパイルによる石積み擁壁補強のモデル(48)とモデル(49)では、前述の段落0018、0019で述べた技術の課題は室内モデル実験で再確認され、基本的に圧縮型ルートパイルによる石積み擁壁の耐震補強は好ましくないとの見解に至った。
これに対して、本発明では、上記の既設石積み擁壁の耐震補強構造を構築するための施工方法として、以下の6つ工程を採用している。
(第1工程)
既設石積み擁壁の頂部の背面側、及び、既設石積み擁壁の裾部の前面側において、それぞれ呼び径φ115mm~φ146mmのリングビット(27)付きのアウターパイプ(28)とセンタービット(26)付きのインナーロッド(24)を用いた2重管削孔により、鉛直方向に対する角度を所定の下向き角度(δ1、δ2)、擁壁延長方向間隔(B1、B2)を1.0m~2.5mとして削孔作業を進め、それぞれの削孔(1h、2h)が所定の深さに達したらインナーロッド(24)と前記センタービット(26)を回収する工程。
(第2工程)
周辺地山との付着改善を目的とした複数のフックスペーサ(12)と底面支圧プレート(15)を配置した充実断面の鋼棒(1a、2a)と注入ホースをアウターパイプ(28)内に挿入し、又は、周辺地山との付着改善を目的とした複数のフックスペーサ(12)と底面支圧プレート(15)を配置した中空鋼棒(1a、2a)をアウターパイプ(28)内に挿入する工程。
(第3工程)
注入ホース又は中空鋼棒(1a、2a)の内孔を介してセメントグラウト(3)を削孔(1h、2h)に逐次下側から上方に向かって充填する工程。
(第4工程)
頂部背面側の削孔(1h)における引張ボルト(1)の構築として、リングビット(27)付きのアウターパイプ(28)をセメントグラウト(3)を加圧充填しながら回収し、その後前記鋼棒(1a)に挿通した頭部支圧板(5)を鋼棒(1a)に配置した上下2個の六角ナット(36)で前記鋼棒(1a)の上部の所定位置に締め付けて固定する工程。
(第5工程)
袖部前面側の削孔(2h)における圧縮杭(2)の構築として、その上端に落下防止蓋(38)のついた直径φ76.3~φ114.3mm、長さ2~5mの口元補強管(4)を、鋼棒(2a)の上部の所定位置に挿通して落下防止ナット(37)で吊り下げて支持し、リングビット(27)付きのアウターパイプ(28)をセメントグラウト(3)を加圧充填しながら回収し、落下防止蓋(38)及び鋼棒(2a)に挿通した頭部支圧板(5)を鋼棒(2a)の上側から装着した六角ナット(36)と落下防止ナット(37)との間で締め付けて固定する工程。
(第6工程)
所定量の鉄筋(7a)を既設石積み擁壁の前面区間(vh)と既設石積み擁壁の頂部の背面側上面に設定した延長区間(wh)に配筋し、鉄筋(7a)を収容可能な厚さ(w)の張りコンクリート(7)を既設石積み擁壁の前面区間(vh)と前記延長区間(wh)に打設する工程。
これらの第1工程~第6工程を備えたことにより、張りコンクリート(7)の延長区間(wh)に引張ボルト(1)の頭部が、張りコンクリート(7)の下端に圧縮杭(2)の頭部が連結されている状態となっている。なお、各工程の名称に示す第1~第6の序数は、必ずしも施工の順序を示すものではない。また、複数の工程が並行して行われる態様も考えられる。
このように、張りコンクリート(7)の上端側の延長区間(wh)に引張ボルトの配置を選択した理由は、従来の圧縮型ルートパイルの課題のほとんどが、図13の静的横方向載荷試験装置(42)による図14の4種類のモデル(48~51)の内、従来の圧縮型ルートパイルを模擬したモデル(48)とモデル(49)は想定された課題が再確認され、既設石積み擁壁の耐震補強に相応しくない、との結論に至ったこと、及び、本願発明者がその他の遠心模型実験による滑り確認試験や図14Dのモデル(50)とモデル(51)の静的荷重試験結果、及び、3次元有限要素解析による前記荷重試験の再照査(図15と図16)により、モデル(51)の如く引張ボルトを設計が許容する範囲で大きなピッチにすれば、ボルトの引張耐力を効果的に活用でき、曲げモーメントも低減できる結果を得たことによる。
図16では、当然ながら目視できるほどの積み石の腹み出し(52)が確認され、この事象を解決するために擁壁前面の面的な補強は耐震対策として必須であり、鉄筋(7a)が配筋された張りコンクリート(7)を配置し、その上端側に引張ボルト(1)を連結する構造とした。また、擁壁背面から押し出すように発生する石積み擁壁の前記各構成要素の地震時水平慣性力の和に、滑り土塊断面(11)の滑り力(S)による水平主動土圧力(Pa)を加えた「地震時の全水平力」により張りコンクリートの下端側が水平力[H]により足払いを受けて下側から擁壁が崩壊しないように、口元部に曲げ剛性を有する汎用鋼管の口元補強管(4)を配置した圧縮杭(2)を有する構造を提案したものである。汎用鋼管は、面状がなだらかでフラットな側面を有する管体であり、通常は、円形断面でその側面が円筒面からなる円筒状の管体が用いられる。
図6は、その外周に連続するねじを有する中空ボルトを採用した引張ボルト(1)の構築方法の詳細を示している。
図6中の(イ)において、試設計から削孔呼び径φ115mmが採用され、汎用の小型アンカーマシンによるロータリーパーカッション方式の2重管掘りを所定の深さ、すなわち大規模地震時の設計から求まる引張ボルト(1)の引張力[T]を強固な定着地盤(II)の周辺地山の摩擦力(13)に安全に伝達する必要から当該地層の土の種類とN値から求まる周辺地山とセメントグラウト(3)の極限周面摩擦力を膨大な実績を有する永久アンカーの極限摩擦力推奨表から特定し、それに安全率を加味した当該削孔径に応じた必要な引張ボルト定着深さまでの削孔を実施したのちに、
(ロ)インナーロッド(24)とセンタービット(26)を、インナーロッド接続部(25)を解除しながら回収し、
(ハ)次に、中空ボルト(1a)を所定の長さに接続カップラー(35)で接続し、中空ボルト(1a)が削孔(1h)の中央に配置される目的と多段フック効果で周面地山への付着力改善の目的とを兼ねた鋼製フックスペーサ(12)を所定の位置にねじ嵌合にて複数配置し、ボルト先端にねじ嵌合した底面支圧プレート(15)を配置した芯材をアウターパイプ(28)の内側に挿入し、
(ニ)次に、張りコンクリート上側の張り出し部躯体底面の地表面(23)側の中空ボルト(1a)の端部にセメントグラウト(3)の注入口(30)を設置して注入し、セメントグラウト(3)を削孔(1h)の下側に設置した底面支圧プレート(15)の注入用横穴(15a)から吐出させて逐次充填してアウターパイプ(28)の口元からオーバーフロー(31)したことを確認し、
(ホ)次に、アンカーマシンを使ってアウターパイプ(28)の引抜(矢印34)を実施しながら、複数回、アウターパイプ(28)の口元部に加圧ホース(33)を有するアウターパイプのグラウト加圧蓋(32)を装着して加圧し、セメントグラウト(3)が加圧浸透した削孔壁(1’)を構築しながら全てのアウターパイプ(28)とリングビット(27)を回収し、
(ヘ)最後に、後工程で構築される張りコンクリート(7)の延長区間(wh)部の躯体の略中央高さに頭部支圧板(5)が位置するように、中空ボルト(1a)外周の連続ねじに2個の六角ナット(36)で両面から固定して1本の引張ボルト(1)の構築を完了する。
図7Aは、その外周に連続するねじを有する中空ボルト(1a)を採用した引張ボルト(1)、及び、その構成部材の詳細を示している。既に、図6を使って主な部材の構成は説明したので、新たな部材の詳細のみを説明する。図7Bは、図7AのB-B断面図であり、他部材の配置がない一般部の引張ボルト(1)の断面である。セメントグラウト(3)が加圧浸透した削孔壁(1’)の内側には、セメントグラウトが全面に充填されており、削孔(1h)の中央部には、引張力を伝達する目的の連続ねじを有する中空ボルト(1a)が配置されている。
図7Cは、図7AのC-C断面図であり、中空ボルト(1a)と周辺地山との付着改善を目的としたフックスペーサ部の引張ボルト(1)の断面である。セメントグラウト(3)が加圧浸透した削孔壁(1’)の内側には、セメントグラウト(3)が全面に充填されており、削孔(1h)の中央部には、引張力を伝達する目的の連続ねじを有する中空ボルト(1a)に3方向に厚いアームが伸びた鋼製のフックスペーサ(12)がねじ嵌合している。
図7Dは、図7AのD-D断面図であり、引張ボルト(1)の先端部の断面である。セメントグラウト(3)が加圧浸透した削孔壁(1’)の内側には、セメントグラウト(3)が全面に充填されており、削孔(1h)の中央部には引張力を伝達する目的の連続ねじを有する中空ボルト(1a)に3方向に厚いアームが伸びた鋼製のフックスペーサ(12)がねじ嵌合している。また、中空ボルトの先端部には芯材を挿入した際に、ボルト先端部が削孔底の地盤に刺さってボルトの中空部が閉塞されてセメントグラウト(3)が充填できなくなることの防止と、施工時の不当な沈下回避を目的に、2個の注入用横穴(15a)が配置された底面支圧プレート(15)が中空ボルトにねじ嵌合されている(図7E参照)。
図7Aに示す引張ボルト(1)と張りコンクリート(7)で既設石積み擁壁を耐震補強した擁壁上側の破断断面図において、張りコンクリート(7)の内側には鉄筋(7a)の配筋がなされている。既存石積みの最上段の間知石を必要個(ここでは1個)外した部分には、張りコンクリート(7)の水平延長区間(wh)まで配筋が行われ、その中に頭部支圧板(5)が2個の六角ナット(36)で中空ボルト(1a)に両側から締め付け固定されている。ここでは、延長区間(wh)は水平方向であるので、水平延長区間(wh)と称している。これにより、大規模地震時に生じる引張ボルト(1)の引張力[T]は確実に張りコンクリート(7)に伝達され、張りコンクリートの転倒や倒壊を防止できる。また、引張力[T]に対しては、強固な定着地盤(II)内で、周辺地山との付着力の改善を目的として複数のフックスペーサ(12)が配置されるが、その地層線(20)より上側の特に定着を目的としない区間にも中空ボルトがセメントグラウトの強アルカリによる防食機能で守られるように、例えば、ボルト2.5m毎に中空ボルトのセンタリングのみを目的としたフックスペーサ(12’)が配置されている。
図8は、その外周に連続するねじを有する中空ボルトを採用した圧縮杭(2)の構築方法の詳細を示している。
図8に示す(イ)において、試設計から削孔呼び径φ115mmが採用され、汎用の小型アンカーマシンによるロータリーパーカッション方式の2重管掘りを所定の深さ、すなわち大規模地震時の設計から求まる圧縮杭(2)の圧縮力[C]を強固な定着地盤(II)の周辺地山の摩擦力(14)に安全に伝達する必要から当該地層の土の種類とN値から求まる周辺地山とセメントグラウト(3)の極限周面摩擦力を膨大な実績を有する永久アンカーの極限摩擦力推奨表から特定し、それに安全率を加味した当該削孔径に応じた必要な圧縮杭定着深さまでの削孔を実施したのちに、
(ロ)インナーロッド(24)とセンタービット(26)を、インナーロッド接続部(25)を解除しながら回収し、
(ハ)次に、中空ボルト(2a)を所定の長さに接続カップラー(35)で接続し、中空ボルト(2a)が削孔(2h)の中央に配置される目的と多段フック効果で周面地山への付着力改善の目的とを兼ねた鋼製フックスペーサ(12)を所定の位置にねじ勘合にて複数配置し、口元側近傍の所定の位置に、本発明の口元補強管(4)の落下防止ナット(37)をねじ嵌合して配置し、またボルト先端部にねじ嵌合した底面支圧プレート(15)を配置した芯材をアウターパイプ(28)の内側に挿入し、
(ニ)次に、張りコンクリート(7)の下側底面(基礎上面、地表面)(19)側の中空ボルト(2a)の端部にセメントグラウト(3)の注入口(30)を設置して注入し、セメントグラウト(3)を削孔(2h)の下側に設置した底面支圧プレート(15)の注入用横穴(15a)から吐出させて逐次充填してアウターパイプ(28)の口元からオーバーフロー(31)したことを確認し、
(ホ)次に、ここでは外径φ76.3mm、厚さ4.2mm、長さ2.5mで片側に落下防止蓋(38)が付いた鋼管(汎用鋼管)からなる口元補強管(4)を、中空ボルト(2a)を内包するように嵌装させ、口元補強管の落下防止ナット(37)にて吊り下げた状態にし、
(ヘ)次に、アンカーマシンを使ってアウターパイプ(28)の引抜(矢印34)を実施しながら、複数回、アウターパイプ(28)の口元部に加圧ホース(33)を有するアウターパイプのグラウト加圧蓋(32)を装着して加圧し、セメントグラウト(3)が加圧浸透した削孔壁(2’)を構築しながら全てのアウターパイプ(28)とリングビット(27)を回収し、
(ト)最後に、後工程で構築される張りコンクリート(7)の下端側の鉄筋(7a)が配筋された躯体内に所定深さで固定して、圧縮杭(2)の頭部に生じる張りコンクリートの圧縮力[C]と水平力[H]を伝達するための頭部支圧板(5)を中空ボルト(2a)の頭部に嵌装し、再度その上から頭部支圧板(5)と口元補強管(4)を固定する目的で六角ナット(36)をねじ嵌合して落下防止ナット(37)との間で締め付けて、1本の圧縮杭(2)の構築を完了する。
図9Aは、その外周に連続するねじを有する中空ボルト(2a)を採用した圧縮杭(2)、及び、その構成部材の詳細を示している。既に、図8を使って主な部材の構成は説明したので、新たな部材の詳細のみを説明する。図9Bは、図9AのB-B断面図であり、既設石積み擁壁の基礎(16)下側において、張りコンクリ―ト(7)から地中に伸びた口元補強管(4)が配置された圧縮杭(2)の断面である。また、図9Cは、図9AのC-C断面図であり、図9Dは、図9AのD-D断面図である。セメントグラウト(3)が加圧浸透した削孔壁(2’)の内側にはセメントグラウトが全面に充填されており、その内側の削孔(2h)の中央部には、セメントグラウト(3)の圧縮力と共に分担して圧縮力[C]を伝達する目的の連続ねじを有する中空ボルト(2a)が配置され、それを外装するように口元補強管(4)が配置されている。なお、既設石積み擁壁の基礎(16)の形態は、現場により多種多様で、例えば、張りコンクリート(7)の下にコンクリート基礎(16)が存在しない事例も多い。
図9Eは、図9Aの先端部の拡大図であり、口元補強管(4)より下側部分における圧縮杭(2)の一般部の断面である。セメントグラウト(3)が加圧浸透した削孔壁(2’)の内側にはセメントグラウト(3)が全面に充填されており、その内側の削孔(2h)の中央部には、セメントグラウト(3)の圧縮力と共に分担して圧縮力[C]を伝達する目的の連続ねじを有する中空ボルト(2a)が配置されている。
図9Fは、口元補強管(4)の詳細図であり、図9Gは、口元補強管(4)の上端側である図9FのG-G矢視図である。セメントグラウト(3)が加圧浸透した削孔壁(2’)の内側にはセメントグラウトが全面に充填されており、削孔(2h)の中央部にはセメントグラウト(3)の圧縮力と共に分担して圧縮力(C)を伝達する目的の連続ねじを有する中空ボルト(2a)に、3方向に厚いアームが伸びた鋼製のフックスペーサ(12)がねじ嵌合している。また、中空ボルトの先端部には、芯材を挿入した際にボルト先端部が削孔底の地盤に刺さってボルトの中空部が閉塞されてセメントグラウト(3)が充填できなくなることの防止と、施工時の不当な沈下回避を目的に、2個の注入用横穴(15a)が配置された底面支圧プレート(15)が中空ボルトにねじ勘合されている(図9E参照)。
図9Gには、圧縮杭(2)の口元部に配置される汎用鋼管の口元補強管(4)の片端に溶接などで取り付けられた落下防止蓋(38)の詳細が示されている。ボルトの通過孔(39)は中空ボルト(2a)と接続カップラー(35)は通過するが、口元補強管(4)の落下防止ナット(37)は通過できない直径になっており、セメントグラウト(3)が硬化するまでに地中に更に沁み込んで、削孔内の硬化したセメントグラウト(3)の上面が沈下する事象や、口元補強管(4)が張りコンクリート(7)の下側底面(基礎上面、地表面)(19)よりも幾分上側に突出するように配置されることから、口元補強管(4)内面に追加でセメントグラウト(3)を後注入できるように、追加注入用の横穴(40)が設けられている。
図9Aに示す擁壁下側の破断断面図において、張りコンクリート(7)の内側には鉄筋(7a)の配筋がなされた厚さ(w)の躯体内に、所定の深さ(高さ)位置に圧縮杭(2)の頭部支圧板(5)と鋼管(汎用鋼管)の口元補強管(4)が、落下防止ナット(37)と上側からねじ嵌合された六角ナット(36)にて中空ボルト(2a)にねじ込み固定されている。大規模地震時に圧縮杭(2)に生じる張りコンクリート(7)からの圧縮力[C]と水平力[H]は確実に圧縮杭(2)の頭部に伝達され、張りコンクリート(7)の沈下や水平力による足払いによる下端側での擁壁の崩壊を防止できる。
また、圧縮杭(2)の圧縮力[C]に対しては、強固な定着地盤(II)内で、周辺地山との付着力の改善を目的として複数のフックスペーサ(12)が配置されるが、その地層線(20)より上側の特に定着を目的としない区間にも中空ボルトがセメントグラウトの強アルカリによる防食機能で守られるように、例えば、ボルト2.5m毎で中空ボルトのセンタリングのみを目的としたフックスペーサ(12’)が配置されている。
また、圧縮杭(2)の水平力[H]は、ここでは削孔呼び径φ115mmの頭部から2.5mの長さで鉛直に挿入された直径φ71.6mm、厚さ4.2mmの鋼管と周囲と内面をセメントで充填された杭の曲げ剛性とその周囲の土砂でN=10の軟弱地盤(I)による土の水平バネ定数(Ko)により一定の水平変位を伴って保持され(図1参照)、またその変位量は弾性解析または弾塑性解析にて照査できる。
図10A~図10Eは、上記の実施形態の変形例を示す。この変形例の引張ボルト(1)は、中空ボルト(1a)の先端の底面支圧プレート(15)に代えて、削孔送水・グラウト注入孔(41a、41b)を具備したロスト型センタービット(41)が配置されている以外は、それぞれ図7Aの実施形態と同一である。このロスト型センタービット(41)を、図10Aに示すフックスペーサ(12)、及び、接続カップラー(35)とともに、図6で説明した汎用のセンタービット(26)、汎用のインナーロッド(24)、及び、汎用のインナーロッド接続部(25)に置き換えて施工を実施すれば、図6の(イ)及至(ヘ)の6つの工程から、(ロ)のインナーロッドの回収工程と、(ハ)の中空ボルト(1a)からなる芯材の挿入工程の2工程を省略出来て、引張ボルト(1)の高速施工が実現できる。
同様に、図11A~図11Gも、上記の実施形態の変形例を示す。この変形例の圧縮杭(2)は、中空ボルト(2a)の先端の底面支圧プレート(15)に代えて、削孔送水・グラウト注入孔(41a、41b)を具備したロスト型センタービット(41)を配置した以外は、それぞれ図9Aの実施形態と同一である。このロストセンタービット(41)を、図11Aに示すフックスペーサ(12)、及び、接続カップラー(35)とともに、図8で説明した汎用のセンタービット(26)、汎用のインナーロッド(24)、及び、汎用のインナーロッド接続部(25)に置き換えて施工を実施すれば、図8の(イ)及至(ト)の7つの工程から、(ロ)のインナーロッドの回収工程と、(ハ)の中空ボルト(2a)からなる芯材の挿入工程の2工程を省略出来て、圧縮杭(2)の高速施工が実現できる。
すなわち、これらの変形例では、第1工程から第6工程を備えた実施形態との比較において、センタービット(26)付きのインナーロッド(24)に代えて、ロスト型センタービット(41)付きで周辺地山との付着改善を目的とした複数のフックスペーサ(12)を配置した連続ねじを有する中空断面の鋼棒(1a、2a)を採用することで、中空断面の鋼棒(1a、2a)を回収することなくセメントグラウト(3)を充填して、センタービット(26)付きのインナーロッド(24)の回収工程と、注入ホースの挿入工程と、充実断面の鋼棒(1a、2a)又は中空鋼棒(1a、2a)のアウターパイプ(28)内への挿入工程を省略することを実現できる。
図12A~図12Eも、上記の実施形態の変形例を示す。この変形例は、圧縮杭(2)に用いる口元補強管(4)として、ディンプル鋼管を採用したものである。ディンプル鋼管は、鋼管の面状が連続する凹凸状を有しており、本実施例では外径φ76.3mm、厚さ4.2mm、長さ2.5mとサイズは、各圧縮杭(2)の実施形態の汎用鋼管の口元補強管(4)と同じで曲げ剛性はほぼ同じである。以下、ディンプル鋼管からなる口元補強管(4)を、口元補強管(4’)又はディンプル鋼管(4’)と称する。ディンプル鋼管(4’)は、その内面及び外面に凹凸を有し、内面側及び外面側のセメントグラウト(3)との付着力を高める機能を発揮する。
図1の施工事例では、土砂層でN値(標準貫入試験値)=10の軟弱地盤(I)の下に砂礫層でN値=50の強固な地盤(II)が存在しており、このような場合の引張ボルト(1)、及び、圧縮杭(2)の軸力の定着は基本的に強固な定着地盤(II)となるが、別の現場の地質事例として、表層側の軟弱地盤(I)が比較的強固な定着地盤(II)と同等な強度(例えば礫質土でN値=45)など、各種の地層の組み合わせが現実にはある。
仮に、表層地盤が比較的に良好で強固な状況で、この表層地盤も支持層に加えたい場面を想定する。このような場面で、圧縮杭(2)の口元補強管(4)の面状が平滑であると、内側のボルトの圧縮力やセメントグラウト(3)の圧縮力を、口元補強管(4)の付着力を介して外側のセメントグラウト(3)から加圧浸透した削孔壁(2’)、更には周辺地山へと効率よく伝達できないという問題がある。このため、口元補強管(4)の長さ分だけ長い圧縮杭(2)としなければならなくなり、経済性や施工速度が悪くなる。
そこで、この実施形態の変形例では、口元補強管(4)の設置部分も含めて圧縮杭(2)の全長に亘って、中空ボルト(2a)と口元補強管(4)内面、更に、口元補強管(4)外面とその周りのセメントグラウト(3)が加圧浸透した削孔壁(2’)を通して、周辺地山に対して確実に中空ボルト(2a)とセメントグラウト(3)の圧縮軸力が伝わるように、ディンプル鋼管からなる口元補強管(4’)を採用したものである。すなわち、この変形例は、汎用鋼管からなる口元補強管(4)を採用した図11B及び図11Cの例と同じ施工内容で口元補強管(4’)の周面も含めて圧縮杭(2)の圧縮軸力[C]が周辺地山に伝達できるように改善する目的で、提案されたものである。
施工時の扱い方は、汎用鋼管からなる口元補強管(4)の場合と全く同様であるのでその説明を省略し、以下、同図で示す部材の面状を各部詳細図で説明する。
この例で示す口元補強管(4’)は、外径φ76.3mmで、内面突起の内径はφ63.9mmのディンプル鋼管である。その面状は、図12Dに示すように、延長方向の窪み開始部幅(O)が35mm、窪み底幅(P)が18mm、窪み深さ(R)が2mmであり、直角方向の窪み開始幅(図示なし)は20mmであり、表面が2mm窪んでいる分、鋼管内面も内側に同量の連続突起が配置されている。なお、高炉メーカーの研究報告から付着力の改善は汎用鋼管の12倍以上であることが報告されている。また、内包する中空ボルト(2a)は、外径φ32mmで内径15mmであることからしてディンプル鋼管の内外径もかなり大きいため、外面に連続ねじを有するボルトの圧縮軸力は中空ボルト(2a)の付着力により、また、セメントグラウト(3)の圧縮軸力はせん断応力の伝播により、確実にディンプル鋼管の内面に伝わる。更に、その外周面の凹凸面状を介して周囲のセメントグラウト(3)のせん断応力の伝播により、加圧浸透した削孔壁(2’)から周辺地山に確実な伝達が出来るため、ディンプル鋼管を配置した圧縮杭(2)の区間も含め、全長に亘って高い付着力を期待できるようになる。以上のようなことから、表層部の地盤でも支持したい場合に、この手段を提案する。
図17及び図18は、本発明による圧縮杭(2)の頭部水平変位量(δf)を計算する目的で設定したモデルである。汎用の杭基礎解析ソフトに、土砂でN値=10の軟弱地盤(I)と、地層境界線(20)より下に礫質土でN値=50の比較的強固な定着地盤(II)、及び、基礎コンクリートとなる下端側の張りコンクリート(7)に10m延長当りの水平力(H)がかかり、本発明の下端側の圧縮杭(2)が鉛直方向打設角δ2=0°、1列に@2.0m間隔で5本配置され、削孔径φ115mmの口元に外径φ76.3、厚さ4.2mm、長さ2.5mの口元補強管(4、もしくは4’)が配置され、更に、その内側には下側に貫通して外形φ32mmで内径φ15mmの外周に連続ねじを有する中空ボルト(2a)が配置された状態の入力を行い、道路橋示方書にある土の種類とそのN値から土の水平バネ乗数(K)を算出して水平変位量(δf)を計算している状態を示している。
試設計で得られた既設石積み擁壁の大規模地震時の圧縮杭(2)は、安全側に擁壁底面の地震時の水平滑り抵抗力(τh)を無視した大きな水平力であり、その水平力[H]=55.19(kN/本)である。これを延長10mの基礎モデルとして、圧縮杭(2)を5本直列配置した、両端1m×2+@2.0m×4径間=10mの張りコンクリート(7)の下端側基礎としている。入力荷重は、Ho=55.19(kN/本)×5本=275.95(kN/10m)として入力し、下記表1に示する基礎底面の水平変位量の計算結果を得た。
Figure 2023066992000002
表1で、延長10m当りの圧縮杭(2)のモデルに入力した水平力(H)は、275.95(kN/10m延長当たり)であり、鉛直力[C]は既に別途に照査を完了しており、また曲げモーメントは荷重としては考えていないため、ここでは0.00値として水平変位のみ照査するようにした。結果として、本実施形態の場合、前記擁壁工指針、平成24年7月版で求められる小径杭の大規模地震時の許容水平変位(δa)=15mm以内の要求性能に対して、実際の水平変位は(δf)=13.97mmであることから、許容値以内であることが照査できるようになった。
また、上記の各実施形態では、外周に連続するねじを有する中空の鋼棒(1a,2a)の内孔を介して削孔(1h,2h)にセメントミルク(3)を充填したが、削孔に注入ホース(図示せず)を挿入し、その注入ホースを介してセメントミルク(3)を削孔に充填することもできる。このとき、中空の鋼棒(1a,2a)は充実断面の鋼棒(ボルト)とし、注入ホースは単に充実断面ボルトの場合でも削孔下側への落下打設によるグラウト材の分離が生じないように下側から逐次充填することが目的であることから、その鋼棒と注入ホースをアウターパイプ(28)内に一緒に(鋼棒に沿わせて)挿入したり、充実断面鋼棒を挿入し、続けて注入ホースを挿入したり、先に注入ホースのみをアウターパイプ(28)内に挿入してセメントミルク(3)を充填し、その後に鋼棒を挿入したり、することができる。注入ホースはセメントミルク(3)を削孔(1h,2h)下側から充填しながら上方にあげて回収する。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び、範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 引張ボルト
1’ グラウトを加圧浸透した削孔壁
1a 引張ボルトの芯材(鋼棒/中空棒鋼、中空ボルト)
1h 引張ボルトの削孔
2 圧縮杭
2’ グラウトを加圧浸透した削孔壁
2a 圧縮杭の芯材(鋼棒/中空棒鋼、中空ボルト)
2h 圧縮杭の削孔
3 セメントグラウト
4 汎用管の口元補強管
4’ ディンプル鋼管の口元補強管
5 頭部支圧板
6 積み石(石積み擁壁の間知石)
6a 面(つら)
6b 合端(あいば)
6c 胴尻(どうじり)
6d 控え(ひかえ)
7 張りコンクリート
7a 張りコンクリートの鉄筋
8 石積み擁壁背面の斜面地山
9 裏グリ石
10 地震時の地山滑り線
10’ 従来の技術の円弧滑り線
11 滑り土塊断面
12 多段フックスペーサ
12’ 芯材のセンタリング目的のみのフックスペーサ
13 引張ボルトのグラウトと周面地山の摩擦力
14 圧縮杭のグラウトと周辺地山の摩擦力
15 底面支圧プレート
15a 底面支圧プレートの注入用横穴
16 基礎(コンクリート基礎)
17 均しコンクリート
18 雨水侵入防止の舗装面
19 張りコンクリート下側底面(基礎上面、地表面)
20 地層線
21 既設建物
22 用地境界線
23 張りコンクリート上側の張り出し部躯体底面の地表面
24 インナーロッド
25 インナーロッド接続部
26 センタービット
27 リングビット
28 アウターパイプ
29 アウターパイプ接続部
30 セメントグラウトの注入口
31 オーバーフロー
32 アウターパイプのグラウト加圧蓋
33 加圧ホース
34 アウターパイプ引抜方向
35 接続カップラー
36 六角ナット
37 口元補強管の落下防止ナット
38 口元補強管の落下防止蓋
39 ボルト通過孔
40 追加注入用の横穴
41 ロスト型センタービット
41a ロストビットの削孔送水・グラウト注入孔
41b ロストビットの削孔送水・グラウト注入孔
42 静的横方向載荷試験装置
43 背面土圧用の油圧ジャッキ
44 土砂(珪砂)
45 石積み擁壁の間知石モデル
46 ジャッキ反力壁
47 背面土圧方向を考慮した土圧載荷板
48 擁壁頭部とルートパイルを分離(7列)したモデル
49 擁壁頭部とルートパイルを固定(7列)したモデル
50 擁壁頭部と引張ボルトを固定(7本)したモデル
51 擁壁頭部と引張ボルトを固定(3本)したモデル
50’ 引張ボルト解析モデルと解析結果立体図(7本)
51’ 引張ボルト解析モデルと解析結果立体図(3本)
52 石積み擁壁面のはらみ出しの状況
80 間詰めコンクリート
81 キャッピングビーム
82 ルートパイル
82’ グラウトを加圧浸透した削孔壁
82a 芯材(全断面充実型のねじ節異形棒鋼)
82h 削孔
83 鍔材
84 接続カップラー
85 スペーサ
86 セメントグラウト
87 支圧板
88 六角ナット
T 引張ボルトの引張力
Th 引張ボルトの水平分力
Tv 引張ボルトの垂直分力
Vb 石積み壁が分担する地震時の鉛直荷重
τh 石積み擁壁底面の地震時の水平滑り抵抗力
C 圧縮杭の頭部圧縮力
H 圧縮杭の頭部水平力
Ko 軟弱地盤の水平反力バネ定数
δf 圧縮杭の頭部水平変位
Ho 縦断延長10m当りの圧縮杭の頭部水平力
I 軟弱地盤
II 定着地盤
vh 張りコンクリートの前面区間
w 張りコンクリートの厚さ
wh 張りコンクリートの延長区間(水平延長区間)
h 張りコンクリートの高さ
δ1 引張ボルトの打設角度(約10°~45°)
δ2 圧縮杭の打設角(約-5°~0°)
θ 背面地山の地震時滑り角度
S 背面地山の滑り力
Pa 水平主動土圧力
Esh 滑り土塊の地震時慣性力
Egh 裏グリ石の地震時慣性力
Ebh 擁壁積み石の地震時慣性力
Ech 張りコンクリートの地震時慣性力
B1 引張ボルトの擁壁延長方向の打設ピッチ
B2 圧縮杭の擁壁延長方向の打設ピッチ
B キャッピングビームの幅
Pr 円弧滑り力
Prh 円弧滑り力の水平分力
Prv 円弧滑り力の垂直成分

Claims (3)

  1. 間知石、割石又はコンクリートブロック(6)からなる既設石積み擁壁の耐震補強工法において、
    前記既設石積み擁壁の頂部の背面側、及び、前記既設石積み擁壁の袖部の前面側において、それぞれ呼び径φ115mm~φ146mmのリングビット(27)付きのアウターパイプ(28)とセンタービット(26)付きのインナーロッド(24)を用いた2重管削孔により、鉛直方向に対する角度を所定の下向き角度(δ1、δ2)、擁壁延長方向間隔(B1、B2)を1.0m~2.5mとして削孔作業を進め、それぞれの前記削孔(1h、2h)が所定の深さに達したら前記インナーロッド(24)と前記センタービット(26)を回収する第1工程と、
    周辺地山との付着改善を目的とした複数のフックスペーサ(12)と底面支圧プレート(15)を配置した充実断面の鋼棒(1a、2a)と注入ホースをアウターパイプ(28)内に挿入し、又は、周辺地山との付着改善を目的とした複数のフックスペーサ(12)と底面支圧プレート(15)を配置した中空鋼棒(1a、2a)をアウターパイプ(28)内に挿入する第2工程と、
    前記注入ホース又は前記中空鋼棒(1a、2a)の内孔を介してセメントグラウト(3)を前記削孔(1h、2h)に逐次下側から上方に向かって充填する第3工程と、
    擁壁頂部の背面側の前記削孔(1h)における引張ボルト(1)の構築として、前記リングビット(27)付きの前記アウターパイプ(28)を前記セメントグラウト(3)を加圧充填しながら回収し、その後前記鋼棒(1a)に挿通した頭部支圧板(5)を前記鋼棒(1a)に配置した上下2個のナット(36、36)で前記鋼棒(1a)の上部の所定位置に締め付けて固定する第4工程と、
    擁壁袖部の前面側の前記削孔(2h)における圧縮杭(2)の構築として、その上端に落下防止蓋(38)のついた直径φ76.3~φ114.3mm、長さ2~5mの口元補強管(4)を、前記鋼棒(2a)の上部の所定位置に挿通して落下防止ナット(37)で吊り下げて支持し、前記リングビット(27)付きの前記アウターパイプ(28)を前記セメントグラウト(3)を加圧充填しながら回収し、前記落下防止蓋(38)及び前記鋼棒(2a)に挿通した頭部支圧板(5)を前記鋼棒(2a)の上側から装着した六角ナット(36)と前記落下防止ナット(37)との間で締め付けて固定する第5工程と、
    所定量の鉄筋(7a)を前記既設石積み擁壁の前面区間(vh)と前記既設石積み擁壁の頂部の背面側上面に設定した延長区間(wh)に配筋し、前記鉄筋(7a)を収容可能な厚さ(w)の張りコンクリート(7)を前記既設石積み擁壁の前面区間(vh)と前記延長区間(wh)に打設する第6工程と、
    を備え、
    前記張りコンクリート(7)の前記延長区間(wh)に前記引張ボルト(1)の頭部が、前記張りコンクリート(7)の下端に前記圧縮杭(2)の頭部が連結されている既設石積み擁壁の耐震補強工法。
  2. 前記センタービット(26)付きの前記インナーロッド(24)に代えて、ロスト型センタービット(41)付きで周辺地山との付着改善を目的とした複数のフックスペーサ(12)を配置した中空断面の鋼棒(1a、2a)を採用して削孔作業を完了し、その鋼棒(1a、2a)を回収することなく残置して前記セメントグラウト(3)を充填し、前記センタービット(26)付きの前記インナーロッド(24)の回収工程と、前記注入ホースの挿入工程と前記充実断面の鋼棒(1a、2a)又は前記中空鋼棒(1a、2a)の前記アウターパイプ(28)内への挿入工程を省略した請求項1に記載の既設石積み擁壁の耐震補強工法。
  3. 上記圧縮杭(2)の口元補強管(4)に、その内面及び外面に凹凸を有し内面側及び外面側の前記セメントグラウト(3)との付着力改善を目的としたディンプル鋼管(4’)を用いた請求項1又は2に記載の既設石積み擁壁の耐震補強工法。
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