JP2023025840A - ピストンリング - Google Patents
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Abstract
【課題】硫黄原子の含有量が低く、特殊な暴露装置を必要とせず、厳重な安全対策が不要であり、かつ低コストであるピストンリングを提供する。【解決手段】ピストンリング1は、水素ガスを圧縮する水素ガス用往復式圧縮機に用いられ、熱可塑性ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂を主成分とする樹脂組成物からなり、トリプル四重極型誘導結合プラズマ質量分析法により測定される硫黄原子の含有量が5ppm未満であり、樹脂組成物が炭素材料および硫化物を含まない。【選択図】図1
Description
本発明は、ガスを圧縮する往復式圧縮機のピストンリングに関するものであり、特に、水素ステーションで用いられる水素ガス用往復式圧縮機のピストンリングに関する。
一般に、往復式圧縮機はピストンとシリンダーを含む構造であり、シリンダーに対してピストンが往復動することによって、流体を圧縮するのに用いられている。このような往復式圧縮機では、ピストンとシリンダーとの間の隙間において流体をシールする目的で、従来から環状のピストンリングが使用されている。ピストンリングはピストンに設けられた環状溝に装着される。この場合、ピストンリングの外周面がシリンダーの内周面と接触し、かつ、ピストンリングの側面が環状溝の側面と接触することにより、流体がシールされる。
近年では、往復式圧縮機は、水素ステーションで用いられる水素ガス用往復式圧縮機としても適用されている。水素ガス用往復式圧縮機では、圧縮後の水素ガスに硫黄成分が混入していると燃料電池の性能低下を引き起こす場合があるため、ピストンリングに含まれる硫黄原子の含有量が低いことが要求される。
水素ガス用往復式圧縮機としては、例えば特許文献1が開示されている。特許文献1には、ピストン部材およびシリンダライナの一方の部材に設けられ、他方の部材(被摺動部材)に対して相対的に摺動する樹脂製のリング状の摺動部材が記載されている。特許文献1では、摺動部材および被摺動部材の両方の摺動面に、非晶質炭素膜を形成することで、摺動部材の摩耗による交換寿命を伸ばすことができるとしている。なお、非晶質炭素膜は、表面部分の方がその内側の部分よりも炭素の含有量が多くなっている。この非晶質炭素膜は硫黄を含まないことが好ましいとされている。また、摺動部材は、例えば、圧縮機に組み込む前に水素雰囲気で曝露する処理をした脱硫処理部材であることが好ましいとされている。
上記特許文献1では、摺動部材の脱硫処理方法として水素雰囲気で曝露する処理が例示されているが、大気中ではなく特殊な雰囲気で曝露することになる。そのため、特殊な暴露装置が必要であり、また、水素を扱うため火災や爆発に対する安全対策も必要となり、高コストとなる。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、硫黄原子の含有量が低く、特殊な暴露装置を必要とせず、厳重な安全対策が不要であり、かつ低コストであるピストンリングを提供することを目的とする。
本発明のピストンリングは、水素ガスを圧縮する水素ガス用往復式圧縮機に用いられるピストンリングであって、上記ピストンリングが、熱可塑性ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂を主成分とする樹脂組成物からなり、硫黄原子の含有量が5ppm未満であることを特徴とする。また、本発明において、「ガス」とは一般的な気体を意味する概念であり、気体燃料なども含まれる。
上記ピストンリングの硫黄原子の含有量を測定する方法が、トリプル四重極型誘導結合プラズマ質量分析法によることを特徴とする。
上記樹脂組成物が炭素材料および硫化物を含まないことを特徴とする。
上記樹脂組成物がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂および芳香族ポリエステル樹脂の少なくとも一方を含むことを特徴とする。
上記樹脂組成物がPTFE樹脂および芳香族ポリエステル樹脂を含み、これらの合計の配合量が、上記樹脂組成物全体に対して5体積%~50体積%であることを特徴とする。
本発明のピストンリングは、熱可塑性ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂を主成分とし、特に、硫黄を不純物として含有する炭素材料および硫化物を含まない樹脂組成物をピストンリング材とすることで、水素雰囲気で曝露する処理などの特殊な脱硫処理をすることなく、硫黄原子の含有量を5ppm未満にすることができる。このピストンリングを水素ステーションで用いられる水素ガス用往復式圧縮機に用いた場合、圧縮ガス中にガス化した硫黄成分が混入されにくくなり、硫黄成分に起因する燃料電池の性能低下を抑制できる。
さらに、上記樹脂組成物全体に対するPTFE樹脂と芳香族ポリエステル樹脂の合計の配合量が5体積%~50体積%であることにより、オイルなどによる潤滑剤がない圧縮機であっても耐摩耗性に優れ、特に、高温高圧かつ無潤滑条件での耐摩耗性が要求される水素ガス用往復式圧縮機に好適である。
本発明者は、硫黄原子の含有量が低く、耐摩耗性に優れるピストンリング材を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂を主成分とし、更には、炭素材料および硫化物を含まず、PTFE樹脂と芳香族ポリエステル樹脂の合計の配合量が5体積%~50体積%である樹脂組成物が、ピストンリング材として特に好適であることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
本発明のピストンリングおよびピストンリングを適用した往復式圧縮機の一例を図1および図2に基づいて説明する。図1は、本発明のピストンリングの一例を示した斜視図である。図1に示すように、ピストンリング1は断面が略矩形の環状体である。リング内周面1bとリングの両側面1cとの角部は直線状、曲線状の面取りが設けられていてもよく、シールリングを射出成形で製造する場合、該部分に金型からの突出し部分となる段部を設けてもよい。
また、ピストンリング1は、一箇所の合い口1aを有するカットタイプのリングであり、弾性変形により拡径してピストンの環状溝に装着される。ピストンリング1は、合い口1aを有することから、使用時においてガスの圧力によって拡径されて、外周面1dがシリンダーの内周面と密着する。合い口1aの形状については、限定されるものではなく、ストレートカット型、アングルカット型などにすることも可能であるが、シール性に優れることから、図1に示す複合ステップカット型を採用することが好ましい。
なお、本発明のピストンリングは、図1に示すような単一の部材からなるピストンリングに限定されず、複数の部材を組み合わせることで円環状になるピストンリングであってもよい。
なお、本発明のピストンリングは、図1に示すような単一の部材からなるピストンリングに限定されず、複数の部材を組み合わせることで円環状になるピストンリングであってもよい。
図2は、本発明のピストンリングを用いた水素ガス用往復式圧縮機の一例の断面図である。水素ガス用往復式圧縮機の圧縮機構部2は、シリンダー3とピストン4からなり、ピストン4はピストンロッド5に接続されている。ピストン4の外周面には、ピストンリング1を装着するための環状溝が複数配置されており、ピストンリング1が弾性変形により拡径して各環状溝に1つずつ組み込まれる。ピストンに装着されるピストンリングの数は特に限定されず、図2では6個のシールリングが装着されている。水素ガスは圧縮室6に導入され、ピストン4がシリンダー3に対して往復動することによって圧縮された後、外部に排出される。
本発明のピストンリングが適用される往復式圧縮機は、水素ガスを圧縮する水素ガス用往復式圧縮機であり、水素ステーションなどに設置され、燃料電池自動車、水素エンジン車への水素ガスの充填などに用いられる。
以下には、本発明のピストンリングに用いる樹脂組成物について説明する。本発明では、熱可塑性ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂を樹脂組成物のベース樹脂に用いている。
熱可塑性ポリイミド樹脂としては、ガラス転移点、融点が高く、かつ射出成形などの溶融成形が可能な樹脂が好ましい。具体的には、下記式(1)に示すように、分子構造の繰り返し単位中に、熱的特性、機械的強度などに優れたイミド基が芳香族基を取り囲みながらも、熱などのエネルギーが加えられることにより適度な溶融特性を示すエーテル結合部分を複数個有する構造のイミド系樹脂がよく、機械的特性、剛性、耐熱性、射出成形性を満足させるため、エーテル結合部を繰り返し単位中に2個有する熱可塑性ポリイミド樹脂が好ましい。
熱可塑性ポリイミド樹脂の市販品としては、三井化学株式会社製オーラム(登録商標)、三菱ガス化学株式会社製サープリム(登録商標)などが挙げられる。この2種類のうち、上記式(1)を満たすオーラムはガラス転移点250℃、融点388℃であり、極めて耐熱性に優れるため、特に好ましい。オーラムは、上記式(1)におけるXが直接結合であり、R1~R4が全て水素である。本発明のピストンリングに使用可能なオーラムのグレードとしては、例えば、PD250、PD400、PD450、PD500などが挙げられる。
また、ポリアミドイミド樹脂は、高分子主鎖内にイミド結合とアミド結合とを有する樹脂である。例えば、ポリアミドイミド樹脂として、下記式(2)に示すように、イミド結合、アミド結合が芳香族基を介して結合している芳香族系ポリアミドイミド樹脂を用いることができる。
このような芳香族系ポリアミドイミド樹脂は、芳香族第一級ジアミン、例えばジフェニルメタンジアミンと芳香族三塩基酸無水物、例えばトリメリット酸無水物のモノまたはジアシルハライド誘導体から製造されるポリアミドイミド樹脂、芳香族三塩基酸無水物と芳香族ジイソシアネート化合物、例えばジフェニルメタンジイソシアネートとから製造されるポリアミドイミド樹脂などがある。
ポリアミドイミド樹脂の市販品としては、ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社製トーロン(登録商標)などが挙げられる。本発明のピストンリングに使用可能なトーロンのグレードとしては、4000Tなどが挙げられる。
本発明に用いる樹脂組成物は、樹脂組成物全体に対して、熱可塑性ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂を50体積%~95体積%含むことが好ましく、60体積%~90体積%含むことがより好ましく、70体積%~80体積%含むことがさらに好ましい。また、熱可塑性ポリイミド樹脂を用いる場合、溶融粘度の異なる複数の熱可塑性ポリイミド樹脂を混合して使用してもよい。ポリアミドイミド樹脂を用いる場合、溶融粘度の異なる複数のポリアミドイミド樹脂を混合して使用してもよい。
ピストンリングとしてのシール性を考慮すると、上記熱可塑性ポリイミド樹脂および上記ポリアミドイミド樹脂の水素ガス透過度は低いことが好ましい。水素ガス透過度は、例えばJIS K7126-1準拠の測定方法で7×10-12mol/(m2・s・Pa)以下であってもよい。
上記樹脂組成物は、カーボンブラック、炭素繊維、黒鉛、コークス粉などの炭素材料、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなどの硫化物を含まないことが好ましい。カーボンブラックには、硫黄原子は、主に多環芳香族炭化水素の結合硫黄として存在している。炭素繊維では、石油ピッチなどの原料に硫黄原子が含まれる場合があるほか、製造工程で硫酸を使用する場合などがあり、硫黄原子が不純物として残留することがある。また、地中に存在している天然黒鉛は不純物として硫黄を含有しており、人造黒鉛およびコークス粉は石炭由来であるため、硫黄を含有している。
上記樹脂組成物は、硫黄を含有しないPTFE樹脂および芳香族ポリエステル樹脂の少なくとも一方を含むことが好ましい。また、上記樹脂組成物は、PTFE樹脂および芳香族ポリエステル樹脂の両方を含むことがより好ましい。この場合、樹脂組成物全体に対するPTFE樹脂と芳香族ポリエステル樹脂の合計の含有量は、5体積%~50体積%であることが好ましい。合計の含有量が5体積%未満であると、耐摩耗性向上の効果が得られにくく、50体積%を超えると樹脂組成物の溶融粘度が高くなり、射出成形しにくくなる。PTFE樹脂、芳香族ポリエステル樹脂のそれぞれの含有量は、耐摩耗性の点から、樹脂組成物全体に対して、PTFE樹脂が5体積%~25体積%(より好ましくは10体積%~20体積%)、芳香族ポリエステル樹脂が5体積%~25体積%(より好ましくは10体積%~20体積%)であることが好ましい。
PTFE樹脂は、固体潤滑剤であり、樹脂組成物の無潤滑条件における摩擦摩耗特性を向上できる。PTFE樹脂として、懸濁重合法によるモールディングパウダー、乳化重合法によるファインパウダー、再生PTFEのいずれを採用してもよい。樹脂組成物の流動性を安定させるためには、成形時のせん断により繊維化し難く、溶融粘度を増加させ難い再生PTFEを採用することが好ましい。再生PTFEとは、熱処理(熱履歴が加わったもの)粉末、γ線または電子線などを照射した粉末のことである。例えば、モールディングパウダーまたはファインパウダーを熱処理した粉末、また、この粉末をさらにγ線または電子線を照射した粉末、モールディングパウダーまたはファインパウダーの成形体を粉砕した粉末、また、その後γ線または電子線を照射した粉末、モールディングパウダーまたはファインパウダーをγ線または電子線を照射した粉末などのタイプがある。γ線または電子線を照射後にさらに熱処理を加えたタイプもある。PTFE樹脂の50%粒子径は、特に限定されるものではないが10μm~50μmとすることがより好ましい。
本発明に使用できる市販品のPTFE樹脂としては、株式会社喜多村製:KTL-610、KTL-450、KTL-350、KTL-8N、KTL-400H、三井ケマーズフロロプロダクツ株式会社製:テフロン(登録商標)7-J、TLP-10、AGC株式会社製:フルオンG163、L150J、L169J、L170J、L172J、L173J、L182J、ダイキン工業株式会社製:ポリフロンM-15、スリーエムジャパン株式会社製:ダイニオンTF9205、TF9207などが挙げられる。また、パーフルオロアルキルエーテル基、フルオルアルキル基、またはその他のフルオロアルキルを有する側鎖基で変性されたPTFE樹脂であってもよい。上記の中でγ線または電子線などを照射したPTFE樹脂としては、株式会社喜多村製:KTL-610、KTL-450、KTL-350、KTL-8N、KTL-8F、AGC株式会社製:フルオンL169J、L170J、L172J、L173J、L182Jなどが挙げられる。
芳香族ポリエステル樹脂としては、住友化学株式会社製:スミカスーパーE101-S、E101-S2、E101-P、E101-M、EGENE Optelectronic Materials社製:スーパーノールS101Plus、S101B、S101Pなどを用いることができる。芳香族ポリエステル樹脂の50%粒子径は、特に限定されるものではないが5μm~50μmとすることがより好ましい。50μmを超えると、樹脂組成物の引張伸び特性が低下するおそれがある。引張伸び特性が低下すると、ピストンリングを拡径してピストンの環状溝に装着するときに破断するおそれがある。
本発明に用いるPTFE樹脂および芳香族ポリエステル樹脂の50%粒子径(D50)は、粒子径分布を累積分布としたとき、累積値が50%となる点の粒子径であり、例えば、レーザー光散乱法を利用した粒子径分布測定装置などを用いて測定することができる。
上記樹脂組成物には、上記炭素材料、上記硫化物以外であれば、本発明の効果を阻害しない程度に周知の樹脂用添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、アラミド繊維、無機物(マイカ、タルク、炭酸カルシウム、窒化ホウ素など)、ウィスカ(炭酸カルシウム、チタン酸カリウムなど)、着色剤(酸化鉄、酸化チタンなど)、他の樹脂成分などが挙げられる。これらの添加剤は、不純物として活性な硫黄を含有している場合、熱処理によって除去してから配合してもよい。
上記樹脂組成物に、本発明の効果を阻害しない程度に、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、PTFE樹脂、芳香族ポリエステル樹脂以外の樹脂を配合する場合、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリサルホン(PSU)樹脂、ポリフェニルサルホン(PPSU)樹脂以外の樹脂であることが好ましい。PEEK樹脂は、下記の式(3)に示すように、分子構造に硫黄原子は含まれていないが、重合時に使用するジフェニルスルホンが残留しているため、硫黄原子を不純物として含有している。また、PPS樹脂は、下記の式(4)に示すように、分子構造に硫黄原子が含まれている。このほか、PES樹脂、PSU樹脂、PPSU樹脂はいずれもスルホニル基が含まれる分子構造であるため、硫黄原子を含有している。
本発明のピストンリングの硫黄原子の含有量は、例えば、トリプル四重極型誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS/MS)で高精度に測定することができる。分析の前処理方法としては、例えば、マイクロ波試料前処理装置にて酸分解して得られた分解液をろ過し、上澄みを分析サンプルとして得る方法が挙げられる。分解残渣に硫黄原子が含まれないことは、蛍光X線分析装置など既知の分析方法で確認することができる。
以上より、本発明の樹脂組成物の特に好ましい形態は、熱可塑性ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂を主成分とし、樹脂組成物全体に対して、PTFE樹脂を5体積%~25体積%含み、かつ、芳香族ポリエステル樹脂を5体積%~25体積%含み、硫黄原子の含有量が5ppm未満の樹脂組成物である。
上記樹脂組成物を構成する各材料を、必要に応じて、ヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダーなどにて混合した後、二軸混練押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレットを得ることができる。なお、PTFE樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、上述の樹脂用添加剤の投入は、二軸押出し機などで溶融混練する際にサイドフィードを採用してもよい。この成形用ペレットを用いて射出成形によりピストンリングを成形することができる。射出成形素材を用いて追加工または全加工を行い、所定のピストンリング形状に仕上げてもよい。なお、成形方法としては、圧縮成形、射出成形、押し出し成形などを適宜選択でき、これらの中でも射出成形を行うことが好ましい。
上記樹脂組成物が熱可塑性ポリイミド樹脂を主成分とする場合、射出成形素材、射出成形素材から削り出したピストンリング、射出成形で製造したピストンリングのうち、いずれかの状態で結晶化処理(熱処理)を実施することが好ましい。例えば、熱可塑性ポリイミド樹脂として、上述の三井化学株式会社製オーラムを使用する場合、射出成形時にはほとんど結晶化しないため、結晶化処理によって結晶化度を高めてもよい。結晶化処理の条件は、例えば、大気中または窒素中にて、最高温度280℃~320℃とし、最高温度で2時間以上保持してもよい。結晶化処理後の結晶化度は20%~40%であることが好ましい。結晶化度の測定方法は、示差走査熱量測定(DSC)で結晶の融解熱量を測定するなどの周知の方法で測定できる。
上記樹脂組成物がポリアミドイミド樹脂を主成分とする場合、射出成形素材、射出成形素材から削り出したピストンリング、射出成形で製造したピストンリングのうち、いずれかの状態でポストキュア(熱処理)を実施することが、機械的強度の点から好ましい。ポストキュアの条件は、例えば、大気中にて、最高温度250℃~260℃とし、最高温度で15時間以上保持してもよい。
上記結晶化処理および上記ポストキュアは、樹脂組成物にわずかに含まれる活性な硫黄を除去するという点でも、実施することが好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1~実施例6、比較例1
表1の配合割合(体積%)で配合した熱可塑性ポリイミド樹脂組成物(実施例1~実施例4、実施例6)およびポリアミドイミド樹脂組成物(実施例5)、PEEK樹脂組成物(比較例1)を用いて、射出成形によってφ8×20mmの射出成形素材を成形した。
熱可塑性ポリイミド樹脂組成物、PEEK樹脂組成物は、射出成形素材を機械加工することでφ3×13mmのピン試験片を作製した。なお、熱可塑性ポリイミド組成物のうち、実施例3のみ、射出成形素材の状態で最高温度320℃、最高温度での保持時間2時間として結晶化処理を実施した。ポリアミドイミド樹脂組成物は、射出成形素材を大気中にて最高温度260℃で18時間保持してポストキュアした後、機械加工することで上記と同サイズのピン試験片を作製した。
表1の配合割合(体積%)で配合した熱可塑性ポリイミド樹脂組成物(実施例1~実施例4、実施例6)およびポリアミドイミド樹脂組成物(実施例5)、PEEK樹脂組成物(比較例1)を用いて、射出成形によってφ8×20mmの射出成形素材を成形した。
熱可塑性ポリイミド樹脂組成物、PEEK樹脂組成物は、射出成形素材を機械加工することでφ3×13mmのピン試験片を作製した。なお、熱可塑性ポリイミド組成物のうち、実施例3のみ、射出成形素材の状態で最高温度320℃、最高温度での保持時間2時間として結晶化処理を実施した。ポリアミドイミド樹脂組成物は、射出成形素材を大気中にて最高温度260℃で18時間保持してポストキュアした後、機械加工することで上記と同サイズのピン試験片を作製した。
各樹脂組成物に用いた原材料を以下に示す。
(1)熱可塑性ポリイミド樹脂〔TPI〕
三井化学株式会社:PD450
(2)ポリアミドイミド樹脂〔PAI〕
ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社:4000T
(3)ポリエーテルエーテルケトン樹脂〔PEEK〕
ビクトレックスジャパン株式会社:PEEK 150P
(4)PTFE樹脂〔PTFE〕
株式会社喜多村:KTL-450
(5)芳香族ポリエステル樹脂
(1)熱可塑性ポリイミド樹脂〔TPI〕
三井化学株式会社:PD450
(2)ポリアミドイミド樹脂〔PAI〕
ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社:4000T
(3)ポリエーテルエーテルケトン樹脂〔PEEK〕
ビクトレックスジャパン株式会社:PEEK 150P
(4)PTFE樹脂〔PTFE〕
株式会社喜多村:KTL-450
(5)芳香族ポリエステル樹脂
<摩擦摩耗試験>
得られたピン試験片について、図3に示すピンオンディスク試験機を用いて摩擦摩耗試験を行った。図3に示すように、試験機の回転ディスク8の表面に3つのピン試験片7の試験面を下記の面圧で押し付けた状態で、室温下で回転ディスク8を回転させた。具体的な試験条件は以下のとおりであり、回転ディスク8の材質はSUS304である。なお、この試験条件は水素ガス用往復式圧縮機でのピストンリングの使用条件を想定している。
(試験条件)
周速 :4.8m/min
面圧 :4MPa
潤滑 :なし(ドライ)
温度 :室温
時間 :50時間
得られたピン試験片について、図3に示すピンオンディスク試験機を用いて摩擦摩耗試験を行った。図3に示すように、試験機の回転ディスク8の表面に3つのピン試験片7の試験面を下記の面圧で押し付けた状態で、室温下で回転ディスク8を回転させた。具体的な試験条件は以下のとおりであり、回転ディスク8の材質はSUS304である。なお、この試験条件は水素ガス用往復式圧縮機でのピストンリングの使用条件を想定している。
(試験条件)
周速 :4.8m/min
面圧 :4MPa
潤滑 :なし(ドライ)
温度 :室温
時間 :50時間
試験終了後、試験前後におけるピン試験片7の高さの変化量をそれぞれ測定し、3本の平均値から比摩耗量を算出した。
表1に示すように、熱可塑性ポリイミド樹脂を主成分とする実施例1~実施例4は、比摩耗量が130×10-8mm3/(N・m)~292×10-8mm3/(N・m)であった。実施例2と実施例3は同じ配合割合であるが、結晶化処理を実施した実施例3の方が、耐摩耗性に優れる結果であった。また、ポリアミドイミド樹脂を主成分とする実施例5は、比摩耗量が122×10-8mm3/(N・m)であった。
熱可塑性ポリイミド樹脂を主成分とし、PTFE樹脂を3体積%配合した実施例6は、実施例1~実施例5に比べて比摩耗量が大きかった。
熱可塑性ポリイミド樹脂を主成分とし、PTFE樹脂を3体積%配合した実施例6は、実施例1~実施例5に比べて比摩耗量が大きかった。
実施例1~実施例6、比較例1のピン試験片について、次の手順で硫黄原子を測定した。ピン試験片を凍結粉砕し、マイクロ波試料前処理装置にて酸分解して得られた分解液をろ過して、上澄みを分析サンプルとして得た。この分析サンプルをICP-MS/MSにより分析した。なお、分解残渣に硫黄原子が含まれないことは、蛍光X線分析装置によって確認した。
実施例1~実施例6は、ICP-MS/MSによる硫黄原子の測定値が定量下限値(5ppm)未満であった。一方、PEEK樹脂を主成分とする比較例1では、硫黄原子の測定値が80ppmであり、実施例1~実施例6に比べて硫黄原子の含有量が高い結果となった。
実施例1~実施例6は、ICP-MS/MSによる硫黄原子の測定値が定量下限値(5ppm)未満であった。一方、PEEK樹脂を主成分とする比較例1では、硫黄原子の測定値が80ppmであり、実施例1~実施例6に比べて硫黄原子の含有量が高い結果となった。
本発明のピストンリングは、水素ガスを圧縮する水素ガス用往復式圧縮機のピストンリングに好適であり、耐摩耗性に優れるとともに、ピストンリングの硫黄原子の含有量が5ppm未満であるため、水素ガスの硫黄による汚染を避けることができる。
1 ピストンリング
2 圧縮機構部
3 シリンダー
4 ピストン
5 ピストンロッド
6 圧縮室
7 ピン試験片
8 回転ディスク
2 圧縮機構部
3 シリンダー
4 ピストン
5 ピストンロッド
6 圧縮室
7 ピン試験片
8 回転ディスク
Claims (5)
- 水素ガスを圧縮する水素ガス用往復式圧縮機に用いられるピストンリングであって、
前記ピストンリングが、熱可塑性ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂を主成分とする樹脂組成物からなり、硫黄原子の含有量が5ppm未満であることを特徴とするピストンリング。 - 前記ピストンリングの硫黄原子の含有量を測定する方法が、トリプル四重極型誘導結合プラズマ質量分析法によることを特徴とする請求項1記載のピストンリング。
- 前記樹脂組成物が炭素材料および硫化物を含まないことを特徴とする請求項1または請求項2記載のピストンリング。
- 前記樹脂組成物がポリテトラフルオロエチレン樹脂および芳香族ポリエステル樹脂の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載のピストンリング。
- 前記樹脂組成物がポリテトラフルオロエチレン樹脂および芳香族ポリエステル樹脂を含み、これらの合計の配合量が、前記樹脂組成物全体に対して5体積%~50体積%であることを特徴とする請求項4記載のピストンリング。
Priority Applications (3)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2021131226A JP2023025840A (ja) | 2021-08-11 | 2021-08-11 | ピストンリング |
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