JP2023024876A - 歯付ベルト及びベルト伝動機構 - Google Patents

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Abstract

【課題】無張力の状態でプーリ間に巻き掛けられても、低温環境下におけるベルトの屈曲性を確保しつつ、ベルトの伝動性能を確保できる歯付ベルトを提供する。【解決手段】プーリ間に負荷が0.8N・mより大きく3N・m以下になるように巻き掛けられ、-30℃~-40℃の低温環境下で使用される歯付ベルト1であって、心線2は高強度ガラス繊維フィラメントを含む撚りコードであり、歯ピッチPtは2.0mm以上2.5mm以下であり、心線2の径は0.15mm以上0.30mm未満であり、歯付ベルト1の厚みに対する背部3の厚みの割合は22.0%以上38.5%以下であり、歯部4はゴム組成物で構成され、硬さは73°以上83°以下であり、歯部4は歯先部41と当該歯先部41をベルト長手方向で挟む2つの側面42・側面43とが一定の曲率を有する1又は2以上の曲面で繋がった形状をしている。【選択図】図1

Description

本発明は、歯付ベルトに関するもので、例えば、電動パワースライドドア(PSD)システムの駆動装置に適用される歯付ベルト及びベルト伝動機構に関する。
電動パワースライドドア(PSD)システム(以下、PSDシステム)とは、乗用車(ワンボックスカーやワゴン車等)のスライドドアを電動で開閉させるシステムのことであり、PSDシステムは、駆動源(駆動モータ)を含む駆動装置(アクチュエータ)が車両床部又は車両側部に設けられ、抗張力体(ワイヤーケーブルやベルト類)を介してスライドドアを開閉させるものである。
最近は、ユーザニーズ及び採用車種の多様化による、更なる装置の小型・軽量化、省電力化、静粛性(作動音の低減)、ならびに駆動モータの高出力化(ドア重量の増加に伴う駆動トルクアップ)等の要求に対応するために、駆動装置に備わる減速機構(1段目)の方式をギヤ式からベルト式に置き代えた形のPSDシステムが、軽自動車から普通自動車までスライドドアを備える様々な車種に採用されるようになった。
この駆動装置に備わるベルト式減速機構は、当該装置のユニット(筐体)内に設けられ、駆動モータの回転軸(正逆転可能)に接続された駆動プーリと、従動軸に接続され、該駆動プーリよりも大径の従動プーリと、この2つのプーリ間に無端状に巻き掛けられる、比較的小型(例えば歯ピッチ2~3mm程度)の歯付ベルトと、で構成されている。なお、当該プーリ間は、軸間距離が比較的短く(例えば50mm程度)、且つ両者の軸は固定されている。このため、当該歯付ベルトは、主に装置への組み付け(ベルトの装着)を容易にすべく、当該プーリ間に無張力(取付張力がゼロ)の状態で巻き掛けられている(図2参照)。
特許6096239号公報 特許6641513号公報 特許6748131号公報 特開2018-165514号公報 特許6324336号公報
(課題1)
PSDシステムには、電動でスライドドアを開閉できる機能のみならず、PSDシステム非搭載車での操作性と同程度に、手動でスライドドアをスムーズに開閉できる機能(手動操作性)を有することが要求される。
特に最近は、PSDシステム搭載車種の多様化により使用地域が拡大し、極寒地域(大陸等)での使用をも想定する必要がある(耐寒性を有する歯付ベルトを記載した特許文献1参照)。そのため、極低温環境下(-30~-40℃)においても、プーリ間に無張力(取付張力がゼロ)の状態で巻き掛けられるベルトの屈曲性(しなやかさ、プーリへの巻き付き性)が過度に低下せず、スライドドアの手動操作性に影響を与えないことが要求される。
具体的には、PSDシステムの駆動装置(ベルト式減速機構)に適用され、無張力の状態で巻き掛けられる小型の歯付ベルトにおいて、極低温環境下でも屈曲性(しなやかさ、プーリへの巻付き性)を確保でき、極低温環境下でスライドドアを手動で開閉する際でも、ベルト式減速機構に備わる従動プーリの起動トルクを十分に低い水準に確保することが要求される。
即ち、極低温環境下(-30~-40℃)での使用はさほど考慮せずに設計された従来のベルトと比べ、ベルトの屈曲性をより向上させ、該従来の歯付ベルトが当該減速機構に適用された場合と比べ、極低温環境下でスライドドアを手動で開閉する際の、ベルト式減速機構に備わる従動プーリの起動トルクをより低い水準に確保することが求められる。
(課題2)
更に、PSDシステムの駆動装置(ベルト式減速機構)に適用され、無張力の状態で巻き掛けられる小型の歯付ベルトにおいて、PSDシステムの採用車種の多様化に伴い、スライドドアの重量(負荷)が増した分、駆動モータのトルクを増加(例えば従来の0.8N・m程度から1.5N・m程度に増加)させた状態で駆動された場合でも、伝動性能(歯飛びを生じさせないこと等)を確保できることが要求される。
即ち、比較的低い駆動モータトルク(例えば0.8N・m程度)に対応するよう設計された、従来のベルトと比べ、ベルトの伝動性能(耐歯飛び性能等)をより高い水準に確保することが求められる。
そこで、本発明は、無張力の状態でプーリ間に巻き掛けられても、極低温環境下におけるベルトの屈曲性を確保しつつ、ベルトの伝動性能を確保できる歯付ベルト及びベルト伝動機構を提供することを目的とする。
本発明は、背部と、
前記背部に埋設された心線と、
前記背部の一方の表面にベルト長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部と、
前記歯部の表面および前記背部の前記一方の表面の一部を覆う歯布と、を有する歯付ベルトであって、
前記心線は、高強度ガラス繊維フィラメントを含む撚りコードであり、
前記歯部間の歯ピッチは、2.0mm以上2.5mm以下であり、
前記心線の径は、0.15mm以上0.30mm未満であり、
前記歯付ベルトの厚みに対する前記背部の厚みの割合は、22.0%以上38.5%以下であり、
前記歯部は、ゴム組成物で構成され、前記ゴム組成物の23℃での硬さは、73°以上83°以下であり、
前記歯部は、歯先部と前記歯先部をベルト長手方向で挟む2つの側面とが一定の曲率を有する1又は2以上の曲面で繋がった形状をしている、歯付ベルトである。
心線が高強度ガラス繊維フィラメントを含む撚りコードであることにより、歯付ベルトに所定のベルト弾性率を確保し、歯付ベルトの屈曲性と歯付ベルトの伝動性能(特には耐衝撃負荷性能)とを両立できる。
また、ベルト長手方向に隣り合うベルト歯(複数の歯部)の間隔である歯ピッチの数値は、ベルト歯のスケール(ベルト歯のベルト長手方向の長さ、及び、ベルト歯の歯高さ)に対応している。すなわち、歯ピッチの数値が大きいほど、相似的にベルト歯のスケールも大きくなる中で、歯ピッチを2.0mm以上2.5mm以下の範囲とすることで、無張力の状態でプーリ間に巻き掛けられても、極低温環境下におけるベルトの屈曲性と、伝動性能(耐歯飛び性能等)とを両立し易くすることができる。
また、心線の径を0.15mm以上0.30mm未満の範囲とすることで、極低温環境下におけるベルトの屈曲性を確保できる。
また、比較的小型(歯ピッチが2.0mm以上2.5mm以下)の歯付ベルトにおいて、歯付ベルトの厚みに対する前記背部の厚みの割合(背厚比)を、22.0%以上38.5%以下の比較的低い水準に抑えることで、極低温環境下におけるベルトの屈曲性を確保できる。
また、ゴム組成物で構成された歯部の硬さを73°以上83°以下の比較的高い水準に設けることで、無張力の状態で駆動された場合のベルトの伝動性能(特に耐歯飛び性能)を確保し易くすることができる。
また、歯部の形状を、断面形状が略半円形の、H歯形(所謂、丸歯形)にすることにより、歯ピッチ毎に、歯部の側面におけるプーリ溝部と接触する部分(以下、動力伝達部分)を通る歯部のベルト長手方向最大長さ(Lbt)と、当該動力伝達部分から歯先部までの最大高さ(Hbt)とを共に最大にできる。つまり、1歯あたりの動力伝達に寄与する部分のボリュームを最大にできる。
そのため、歯部の形状を、S歯形(所謂、STPD歯形)、つまりそれぞれ外側に膨らんだ凸状曲面(円弧面)からなる2つの側面と、平坦な面である歯先部とが繋がった形状とした場合と比較し、1歯あたりの動力伝達に寄与する部分のボリュームをより大きくできる分、歯部の剛性がより上がり、無張力の状態で駆動された場合のベルトの伝動性能(特に耐歯飛び性能)を確保し易くすることができる。
また、本発明は、上記歯付ベルトにおいて、前記高強度ガラス繊維フィラメントの直径が、6~9ミクロンであることを特徴としてもよい。
心線に直径が6~9ミクロンの高強度ガラス繊維フィラメント(素線)を用いることで、径が0.15mm以上0.30mm未満の範囲にある高強度ガラス心線を作製し易くすることができる。
また、本発明は、上記歯付ベルトにおいて、前記心線が、片撚りの撚りコードであることを特徴としてもよい。
片撚りの心線にすることで、径が0.15mm以上0.30mm未満の範囲にある高強度ガラス心線を作製し易くすることができる。
また、本発明は、上記歯付ベルトにおいて、前記心線が、前記背部にベルト幅方向に配列されて埋設されており、
ベルト幅方向に隣り合う前記心線と前記心線との間隔の合計値の、ベルト幅に対する割合が、20%以上35%以下であることを特徴としてもよい。
ベルト幅方向に隣り合う心線と心線との間隔の合計値の、ベルト幅に対する割合を20%以上35%以下にすることにより、歯付ベルトの背部に適度な剛性(弾性率)を確保できる。ひいては、歯付ベルトが無張力の状態でプーリ間に巻き掛けられても、極低温環境下における歯付ベルトの屈曲性の確保と、歯付ベルトの伝動性能(耐久性、耐振動性、耐歯飛び性等)の確保とを確実に両立できる。
また、本発明は、上記歯付ベルトにおいて、ベルト伸長率(%)に対するベルト幅1mmあたりのベルト張力(N)で定義されるベルト弾性率が、30N/%以上60N/%未満であることを特徴としてもよい。
ベルト弾性率が上記範囲内にあれば、ベルトの屈曲性とベルトの伝動性能(特には耐衝撃負荷性能)とを両立し易くすることができる。
また、本発明は、上記歯付ベルトにおいて、前記背部及び前記歯部が、ゴム組成物で構成され、前記ゴム組成物は少なくともクロロプレンゴムを含んでいることを特徴としてもよい。
上記構成によれば、耐寒性を担保でき、且つ比較的安価であるクロロプレンゴムを用いて歯付ベルトを製造することができる。
また、本発明は、上記歯付ベルトにおいて、プーリ間に巻き掛けられたときの、前記プーリの負荷が3N・m以下で使用されることを特徴としてもよい。
適用する駆動装置において要求される駆動モータトルクに対応できる様、プーリ間に巻き掛けられたときのプーリの負荷を、該駆動モータトルク(1.5N・m程度)に対する安全率を2倍として換算した3N・m以下(換言すれば、歯飛びトルクの目標値を3N・m以上)として、具体的に歯付ベルトを設計することができる。
そして歯付ベルトが上記負荷範囲内で使用された場合に、無張力の状態で駆動されてもベルトの伝動性能(特に耐歯飛び性能)を確実に確保することができる。
また、本発明は、駆動源によって回転駆動される駆動プーリと、
従動プーリと、
前記駆動プーリおよび前記従動プーリに、前記従動プーリの負荷が3N・m以下になるように巻き掛けられる、上記に記載の歯付ベルトと、を含む、ベルト伝動機構である。
上記ベルト伝動機構によれば、歯付ベルトが無張力の状態で駆動プーリと従動プーリとの間に巻き掛けられても、極低温環境下におけるベルトの屈曲性を確保しつつ、ベルトの伝動性能を確実に確保することができる。
無張力の状態でプーリ間に巻き掛けられても、極低温環境下におけるベルトの屈曲性を確保しつつ、ベルトの伝動性能を確保できる歯付ベルト及びベルト伝動機構を提供することができる。
実施形態に係る歯付ベルトの断面斜視図である。 実施形態に係るベルト伝動機構の説明図である。 実施形態に係る歯部(H歯形)の説明図である。 歯ピッチが2.0mmの歯部(H2M)の説明図である。 歯ピッチが2.5mmの歯部(H2.5M)の説明図である。 実施形態に係る歯付ベルトの歯部が果たす伝動性能の説明図である。 実施形態に係る歯付ベルトのベルト幅方向の断面図である。 起動トルク測定試験に使用した2軸トルク測定試験機の説明図である。 形状がS歯形(STPD歯形)の歯部の説明図である。 S歯形の歯部を有する歯付ベルトの歯部が果たす伝動性能の説明図である。
本発明の実施形態に係る歯付ベルト1及びベルト伝動機構10について図面を参照して説明する。
(歯付ベルト1)
歯付ベルト1は、図1に示すように、心線2がベルト長手方向に沿って螺旋状に埋設された背部3と、背部3の内周面(背部3の一方の表面に相当)にベルト長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部4とを有する。本実施形態では、複数の歯部4は、背部3の内周面に一体成形されている。また、歯部4は、ベルト幅方向に沿って延びている(つまり歯部4は直歯である)。また、歯付ベルト1の内周面、即ち、歯部4の表面、および背部3の内周面の一部(歯部4が設けられていない部分)は、歯布5で構成(被覆)されている。なお、背部3の外周面(背部3の他方の表面に相当)は、布等(背布)で被覆されていない。
また、図1に示すように、ベルト長手方向に隣り合う歯部4の間隔(歯ピッチPt)は、2.0mm以上2.5mm以下である。なお、歯ピッチPtの数値は、歯部4のスケール(歯部4のベルト長手方向の長さ、及び、歯部4の歯高さHt)の大きさにも対応している。すなわち、歯ピッチPtが大きいほど、相似的に歯部4のスケールも大きくなる。例えば、図4は、歯ピッチPtが2.0mmの歯部であり、図5は、歯ピッチPtが2.5mmの歯部である。歯ピッチPtが2.0mm以上2.5mm以下の場合、歯高さHtは0.88mm~1.10mm程度である。
また、図1に示す、歯付ベルト1のベルト厚みTに対する背部3の厚みTbの割合(百分率)で定義する「背厚比」は、歯ピッチPtが2.0mm以上2.5mm以下の場合、22.0%以上38.5%以下にしている。ここで、本発明では、上記「背厚比」を定義することにより、歯付ベルトの屈曲性を表す一指標(代用特性)としている。
背厚比は、歯ピッチPtが2.0mmの場合、好ましくは26.1%以上38.5%以下、より好ましくは27.9%以上29.0%以下であり、歯ピッチPtが2.5mmの場合、好ましくは22.0%以上38.5%以下、より好ましくは22.0%以上23.6%以下である。
例えば、歯ピッチPtが2.0mmで、歯高さHtが0.88mmの場合、背部3の厚みTbは、0.31~0.55mmの範囲である。
また、歯ピッチPtが2.5mmで、歯高さHtが1.10mmの場合、背部3の厚みTbは、0.31~0.69mmの範囲である。
なお、背部3の厚みTb(の下限値)は、歯布5の厚み(例えば歯付ベルト1の断面での厚み0.1mm)を考慮し、背部3における心線2よりも外周側の部分の厚みを製造不良(背面ゴム欠け)とならない程度に担保(最低でも厚さ0.04mmを確保)できる厚みでなければならない。
また、歯付ベルト1のベルト長手方向の長さ(周長)は、例えば、200mm~250mmである。歯付ベルト1のベルト幅方向の長さ(幅)は、例えば、5mm~15mmである。
(背部3及び歯部4)
背部3及び歯部4は、ゴム組成物で構成され、このゴム組成物のゴム成分としては、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム(HNBR)、エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、スチレン-ブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム等が用いられる。これらのゴム成分は、単独または組み合わせて使用できる。背部3及び歯部4を構成するゴム組成物のゴム成分は、耐寒性の良いポリマーであることが好ましい。特に、安価という観点では、クロロプレンゴムが好ましい。尚、歯部4と背部3を構成するゴム組成物は、同じゴム組成物を使用しても、異なるゴム組成物を使用してもよい。
背部3及び歯部4を構成するゴム組成物は、必要に応じて、慣用の各種添加剤(または配合剤)を含んでいてもよい。添加剤としては、加硫剤または架橋剤(例えば、オキシム類(キノンジオキシムなど)、グアニジン類(ジフェニルグアニジンなど)、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、補強剤(カーボンブラック、含水シリカなどの酸化ケイ素など)、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、可塑剤、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤または加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィンなど)、老化防止剤(芳香族アミン系、ベンズイミダゾール系老化防止剤など)、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤などが例示できる。これらの添加剤は、単独または組み合わせて使用でき、ゴム成分の種類や用途、性能などに応じて選択できる。
なお、可塑剤としては、例えばエーテル系、エステル系、エーテルエステル系、フタル酸系、アジピン酸系等の可塑剤を使用することができる。なかでも、少量の添加で極低温時にも常温時と大差の無い程度のしなやかさをゴム組成物に付与することができるアジピン酸系可塑剤が最も好ましい。
歯部4を構成するゴム組成物(歯ゴム)の硬さは、JIS K 6253(2012)に準拠し、雰囲気温度23℃(23±2℃)でタイプAデュロメータを用いて測定した硬度で、73~83°である。
(歯部4の形状)
歯部4は、図3及び図4に示すように、歯先部41と、当該歯先部41をベルト長手方向で挟む側面42及び側面43とが一定の曲率を有する1又は2以上の曲面(円弧面)で繋がった形状をしている。即ち、歯部4のベルト長手方向を含む断面形状は、歯部4の、側面42、歯先部41及び側面43が一定の曲率を有する1又は2以上の曲線(円弧線)で繋がった形状をしている。具体的には、歯部4の断面形状は略半円形の、H歯形(丸歯形)をしている。なお、図3の歯部4は、歯先部41と側面42とが曲率R2と曲率R3を有する2つの曲面で繋がった形状をしている。なお、図3では、歯部4の歯元部44は曲率R1を有する曲面で歯底部45と繋がっている。
これにより、図3及び図6に示すように、歯部4の側面42における、駆動プーリ11のプーリ溝11b・従動プーリ12のプーリ溝12bと接触する部分(以下、動力伝達部分)を通る歯部4のベルト長手方向最大長さ(Lbt)と、この動力伝達部分から歯先部41までの最大高さ(Hbt)とを共に、歯ピッチPt毎に最大にできる。つまり、1つの歯部4あたりの動力伝達に寄与する部分のボリュームを最大にできる。
そのため、歯部の形状を、図9及び図10に示す、S歯形(所謂、STPD歯形)、つまりそれぞれ外側に膨らんだ凸状曲面(円弧面)からなる2つの側面と、平坦な面である歯先部とが繋がった形状とした場合と比較し、1つの歯部4あたりの動力伝達に寄与する部分のボリューム(図6のハッチング部分)をより大きくできる分、歯部4の剛性がより上がり、無張力の状態で駆動された場合のベルトの伝動性能(特に耐歯飛び性能)を確保し易くすることができる。
(心線2)
心線2は、複数本のストランドを撚り合わせて形成された撚りコードで構成される。1本のストランドは、フィラメント(長繊維)を束ねて引き揃えて形成されていてよい。フィラメントの材質は、高強度ガラス繊維であり、心線2の径は、0.15mm以上0.30mm未満である。高強度ガラス繊維は、高強度かつ低伸度であり、比較的低コストであるゆえ、心線2の材質として好適である。撚りコードを形成するフィラメントの太さ、フィラメントの収束本数、ストランドの本数、および撚り方などの撚り構成については特に制限されないが、径が0.15mm以上0.30mm未満の高強度ガラス心線を得るためには、高強度ガラス繊維フィラメントの直径(素線径)を6~9ミクロンとし、撚り方を片撚りとするのが好ましい。
高強度ガラス繊維としては、例えば、引張り強度が300kg/cm2以上のもの、特に、無アルカリガラス繊維(Eガラス繊維)よりもSi成分の多い下記表1に示す組成のガラス繊維を好適に使用できる。なお、下記表1には比較のためEガラス繊維の組成も記載している。このような高強度ガラス繊維としては、Kガラス繊維、Uガラス繊維(共に日本硝子繊維社製)、Tガラス繊維(日東紡績社製)、Rガラス繊維(Vetrotex社製)、Sガラス繊維、S-2ガラス繊維、ZENTRONガラス繊維(すべてOwensCorning Fiberglass社製)等があげられる。
Figure 2023024876000002
心線2として用いる撚りコードには、背部3との接着性を高めるために接着処理が施されることが好ましい。接着処理としては、例えば、撚りコードを、レゾルシン-ホルマリン-ラテックス処理液(RFL処理液)に浸漬後、加熱乾燥して、表面に均一に接着層を形成する方法が採用される。RFL処理液は、レゾルシンとホルマリンとの初期縮合体をラテックスに混合したものであり、ここで使用するラテックスとしては、クロロプレン、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン三元共重合体(VPラテックス)、水素化ニトリル、NBR等が挙げられる。なお、接着処理としては、エポキシまたはイソシアネート化合物で前処理を行った後に、RFL処理液で処理する方法等もある。
(心線配列の密度について)
心線2は、背部3に、ベルト長手方向に沿って、ベルト幅方向に所定の間隔dを空けて螺旋状に埋設されている。即ち、心線2は、図7に示すように、背部3に、ベルト幅方向に所定の間隔dを空けて配列されている。より詳細には、ベルト幅方向に隣り合う心線2と心線2との間隔dの合計値の、ベルト幅Wに対する割合(%)が、20%以上35%以下になるように、心線2は背部3に埋設されているのが好ましい。なお、ベルト幅方向に隣り合う心線2と心線2との間隔dの合計値には、歯付ベルト1の端と心線2との間隔も含まれる(両端部分)。即ち、ベルト幅方向に隣り合う心線2と心線2との間隔dの合計値は、「ベルト幅」の値から「心線径Dの合計(心線径D×心線の本数)」の値を減算した値といえる。従って、ベルト幅方向に隣り合う心線2と心線2との間隔dの合計値の、ベルト幅Wに対する割合(%)は、「心線径Dと心線ピッチSPの関係式」に置換可能である(下記「数1」参照)。ここで、ベルト幅方向に隣り合う心線2と心線2との間隔dの合計値の、ベルト幅Wに対する割合(%)が小さな値になるほど、心線2と心線2との間隔dが小さくなることから、心線配列の密度の程度が密になるといえる。
また、心線2は、図7に示すように、背部3のベルト幅方向の一方の端から他方の端にかけて、螺旋状に埋設された心線2と心線2との中心間の距離である各心線ピッチSPが、一定の値になるように配列されている。なお、本明細書では、図7に示すように、ベルト幅方向に所定の心線ピッチSPで配列された心線2の断面視での見かけ上の数を「心線の本数」として扱っている。即ち、一本の心線2を螺旋状に埋設した場合、その螺旋数を「心線の本数」としている。
ここで、「心線の本数」とは、ベルトの強度(弾性率)に影響のある本数(有効本数)のみ数えることが望ましい。従って、歯付ベルト1の背部3の幅方向一方の端及び他方の端に配置された、裁断されて、断面視が円形でない心線2は有効本数には入れず、断面視で裁断されていない心線2を有効本数として数えることが望ましい。
具体的には、ベルト幅Wを心線ピッチSPで割った計算値から小数点以下の値を切り捨てた値を、概算的な「心線の本数」(有効本数)と見做している。例えば、ベルト幅Wが8.5mm、心線ピッチSPが0.28mmならば、計算値は30.36となり、「心線の本数」(有効本数)は30本と見做している。また、ベルト幅Wが8.5mm、心線ピッチSPが0.33mmならば、計算値は25.76となり、「心線の本数」(有効本数)は25本と見做している。
Figure 2023024876000003
(歯布5)
歯布5は、経糸と緯糸を一定の規則によって縦横に交錯させて織られた織布で構成されることが好ましい。織布の織り方は、綾織り、朱子織等のいずれでもよい。経糸および緯糸の形態は、フィラメント(長繊維)を引き揃えたり、撚り合せたマルチフィラメント糸、1本の長繊維であるモノフィラメント糸、短繊維を撚り合せたスパン糸(紡績糸)のいずれであってもよい。経糸または緯糸がマルチフィラメント糸またはスパン糸の場合、複数種類の繊維を用いた混撚糸または混紡糸であってもよい。緯糸は、伸縮性を有する弾性糸を含むことが好ましい。弾性糸としては、例えば、ポリウレタンからなるスパンデックスのように材質自体が伸縮性を有するものや、繊維を伸縮加工(例えばウーリー加工、巻縮加工等)した加工糸が用いられる。通常、経糸には弾性糸を用いない。そのため、製織が容易である。そして、歯布5としては、織布の経糸をベルト幅方向に、緯糸をベルト長手方向に延びるように配置するのが好ましい。それにより、歯布5のベルト長手方向の伸縮性を確保できる。なお、歯布5は、織布の緯糸をベルト幅方向に、経糸をベルト長手方向に延びるように配置してもよい。この場合、経糸として、伸縮性を有する弾性糸を用いてもよい。歯布5を構成する繊維の材質としては、ナイロン、アラミド、ポリエステル、ポリベンゾオキサゾール、綿等の何れかまたはこれらの組み合わせを採用できる。
歯布5として用いる織布は、背部3及び歯部4との接着性を高めるために、接着処理が施されていてもよい。接着処理としては、織布をレゾルシン-ホルマリン-ラテックス(RFL液)に浸漬後、加熱乾燥して、表面に均一に接着層を形成する方法が一般的である。しかし、これに限ることなく、エポキシまたはイソシアネート化合物で前処理を行った後に、RFL液で処理する方法のほかに、ゴム組成物をメチルエチルケトン、トルエン、キシレン等の有機溶媒に溶解してゴム糊とし、このゴム糊に織布を浸漬処理して、ゴム組成物を含浸、付着させる方法も採用することができる。これらの方法は、単独または組み合わせて行うこともでき、処理順序や処理回数は特に限定されない。
(ベルト弾性率)
なお、詳細は実施例で後述するが、ベルト伸長率(%)に対するベルト幅1mmあたりのベルト張力(N)で定義される歯付ベルト1の「ベルト弾性率」は、30N/%以上60N/%未満であることが好ましい(ベルト弾性率の単位の表記例:N/%/1mm幅)。
(歯付ベルトの製造方法)
本実施形態に係る歯付ベルト1は、例えば、以下の工法(圧入工法)で作製される。まず、歯付ベルト1の歯部4に対応する複数の溝部(凹条)を有する円筒状モールドの外周面に、歯布5を形成する繊維織物を巻き付ける。続いて、巻き付けた繊維織物の外周面に、心線2を構成する撚りコードを螺旋状に所定のピッチで(円筒状モールドの軸方向に所定のピッチを有するように)巻き付ける。さらにその外周側に、背部3及び歯部4を形成する未加硫ゴムシートを巻き付けて未加硫のベルト成形体(未加硫積層体)を形成する。
次に、未加硫のベルト成形体が、円筒状モールドの外周に配置された状態で、更にその外側に、蒸気遮断材であるゴム製のジャケットが被せられる。続いて、ジャケットが被せられたベルト成形体および円筒状モールドは、加硫缶等の加硫装置の内部に収容される。そして、加硫装置の内部でベルト成形体を加熱加圧すると、未加硫ゴムシートのゴム組成物と繊維織物が円筒状モールドの溝部(凹条)に圧入されて、所望の形状の歯部4が形成されるとともに、未加硫ゴムシートのゴム組成物が加硫されて、ゴム組成物と繊維織物と心線2とが一体化したスリーブ状の加硫成形体(加硫ベルトスリーブ)が形成される。この時、繊維織物は歯部4の輪郭形状に沿った形態に伸張して、歯部4の表面に配置された歯布5となっている。そして、円筒状モールドから脱型した加硫ベルトスリーブを所定の幅に切断することにより、複数の歯付ベルト1が得られる。この工法(圧入工法)では、背部3及び歯部4を構成するゴム組成物は、同じゴム組成物を使用することになる。
あるいは、歯付ベルト1は、予備成形工法によって、以下の手順で作製してもよい。
まず、複数の溝部(凹条)を有する円筒状モールドに繊維織物と未加硫ゴムシートとを順次巻き付けて、ゴム組成物が軟化する程度の温度(例えば、70~90℃程度)に加熱加圧し、未加硫ゴムシートのゴム組成物と繊維織物とを円筒状モールドの溝部(凹条)に圧入させて歯部4を形成し、予備成形体を得る。次に、得られた予備成形体の外周面に心線2を螺旋状に巻き付ける。さらにその外周面に背部3を構成する未加硫ゴムシートを巻き付けて未加硫のベルト成形体(未加硫積層体)を形成する。
そして、その後は前述の製造方法と同様の手順で、加硫成形体(加硫ベルトスリーブ)が形成される。なお、この予備成形工法においては、加硫前に予め歯部4が形成される為、加硫時に未加硫ゴムを背部側から歯部側へ、所定のピッチで並ぶ心線2の間隙を通して流動又は押出して歯部4を形成する必要がない。そのため、隣接する心線間の距離(ピッチ)を小さくすることが可能となる。この予備成形工法では、背部3及び歯部4を構成するゴム組成物は、同じゴム組成物を使用しても、異なるゴム組成物を使用してもよい。例えば、背部3を構成するゴム組成物を、歯部4を構成するゴム組成物よりも加硫後のゴム硬度が低くなるゴム組成物として、この予備成形工法で歯付ベルト1を製造すれば、背部3の剛性がさらに低下し、歯付ベルト1の屈曲性をさらに向上させることが可能である。
(ベルト伝動機構10)
ベルト伝動機構10は、図2に示すように、主に、駆動モータ(駆動源)の回転軸(正逆転可能)に連結された駆動プーリ11と、従動軸に連結され、減速比が例えば5程度になるように駆動プーリ11よりもピッチ径が5倍程度大きい従動プーリ12と、この駆動プーリ11と従動プーリ12との間に無端状に巻き掛けられる、歯付ベルト1とで構成されている。
駆動プーリ11と従動プーリ12の軸間距離は、固定されており、例えば50mm程度である。また、歯付ベルト1の装着性確保のため、歯付ベルト1が駆動プーリ11と従動プーリ12との間に無張力の状態で巻き掛けられるゆえ、装着後の歯付ベルト1には、若干弛みが生じている。
駆動プーリ11と従動プーリ12には、歯付ベルト1が無張力の状態で巻き掛けられた際のベルト外れを防ぐために、いずれもプーリ溝の幅方向片側にフランジ(駆動プーリ11のフランジ11a、従動プーリ12のフランジ12a)が設けられている。
駆動モータトルクは1.5N・m程度に設けられる。歯付ベルト1は、当該歯付ベルト1がベルト伝動機構10の駆動プーリ11と従動プーリ12との間に無張力の状態で巻き掛けられたとき、従動プーリ12の負荷が3N・m以下の範囲内(安全率2倍)で使用可能なように設計(構成)されている。
(上記構成の効果)
(高強度ガラス心線)
上記歯付ベルト1では、心線2が高強度ガラス繊維を含む撚りコードとしている。これにより、上記30N/%以上60N/%未満のベルト弾性率を確保できる。ひいては、歯付ベルト1の屈曲性と歯付ベルト1の伝動性能(特には耐衝撃負荷性能)とを両立できる。
(歯ピッチPt)
また、歯付ベルト1の歯ピッチPtを2.0mm以上2.5mm以下とすることで、無張力の状態で駆動プーリ11と従動プーリ12との間に巻き掛けられても、極低温環境下におけるベルトの屈曲性と、伝動性能(耐歯飛び性能等)とを両立し易くできる。
歯ピッチPtが2.0mmを下回ると、歯部4のスケール(ボリューム)が小さくなりすぎ、歯部4の形状に依らず(歯部4の形状を後述するH歯形としても)、歯部4の剛性が低くなりすぎ、伝動性能を確保できなくなる(歯飛びや歯欠けを生じ易くなる)虞がある。
一方、歯ピッチPtが2.5mmを上回ると、歯付ベルト1と駆動プーリ11・従動プーリ12とのかみ合い部分(駆動プーリ11・従動プーリ12に対する歯付ベルト1の巻付部分)において、歯底部45を含むベルト部分(ベルト最薄部分)の割合が減少しすぎるため、極低温環境下におけるベルトの屈曲性を確保できなくなる虞がある。また、小径のプーリ(駆動プーリ11)に対応し難くなり、減速比が比較的大きい水準(例えば減速比5程度)に設計されたベルト伝動機構10(ベルト式減速機構)に歯付ベルト1を適用することが難しくなる。
(心線2の径)
歯付ベルト1の心線2の径が0.15mm以上0.30mm未満であれば、極低温環境下におけるベルトの屈曲性を確保できる。
心線2の径が0.15mmを下回る場合(例えば、高強度ガラス心線、フィラメント径9ミクロン、撚り構成1/0の片撚り、心線径0.14mmの場合)、心線強度が不足し、例えばベルトの製造過程で心線2に衝撃を伴う張力が付与された際に心線2が切断してしまう虞がある。
一方、心線2の径が0.30mm以上の場合(例えば、高強度ガラス心線、フィラメント径9ミクロン、撚り構成3/0片撚りで、心線の径が0.30mmの場合)、径が0.30mm未満の心線2と比較し、心線自体のしなやかさが劣るため、極低温環境下におけるベルトの屈曲性を確保できなくなる虞がある。
(背厚比)
歯付ベルト1のベルト厚みTに対する背部3の厚みTbの割合(背厚比)は、歯ピッチPtが2.0mm以上2.5mm以下の場合、22.0%以上38.5%以下としている。
比較的小型(歯ピッチPtが2.0mm以上2.5mm以下)の歯付ベルト1が無張力の状態で駆動プーリ11と従動プーリ12との間(特に小径プーリ)に巻き掛けられた場合のベルトの屈曲性(しなやかさ)は、歯底部45を含む部分(ベルト最薄部分)のしなやかさのみならず、歯部4を含む部分の曲げ方向の弾性変形のし易さも関係してくる。そのため、ベルトの屈曲性を表す一指標(代用特性)として、「背厚比」を設けた。
背厚比を上記範囲の比較的低い水準(従来(特許文献1~5)のベルトにない程、低い水準)に抑えることで、極低温環境下におけるベルトの屈曲性を確保できる。
なお、背部3における心線2よりも外周側の部分は、最低でも厚さ0.04mmを確保する必要がある。厚さ0.04mmを下回ると、製造後のベルト背面にひび割れ等の欠陥が生じる虞がある。
背厚比が22.0%を下回る場合、歯布5の厚み(例えばベルト断面での厚み0.1mm)を考慮し、心線2の径が下限水準(例えば0.17mm)であっても、背部3における心線2よりも外周側の部分の厚みを製造不良(背面ゴム欠け)とならない程度に担保(最低でも厚さ0.04mmを確保)できず、線径0.15mm以上の心線2を用いて歯付ベルト1を製造することができなくなる虞がある。
一方、背厚比が38.5%を上回る場合、背部3の剛性が大きくなりすぎ、心線2の径、ならびに背部3を構成するゴム組成物の硬さによっては、極低温環境下におけるベルトの屈曲性を確保できなくなる虞がある。
(歯部4を構成するゴム組成物の硬さ)
歯部4における歯布5を除く部分は、ゴム組成物で構成され、該ゴム組成物(歯ゴム)の23℃で測定した硬さ(タイプAデュロメータを用いて測定した硬度)を73°以上83°以下としている。
歯ゴムの硬さを上記範囲の比較的高い水準に抑えることで、無張力の状態で駆動された場合のベルトの伝動性能(特に耐歯飛び性)が確保し易くなる。
23℃での歯部4のゴム硬さが73°を下回る場合、歯部4の剛性が低くなりすぎ、歯部4の形状をH歯形(丸歯形)としても、伝動性能を確保できなくなる(歯飛びを生じ易くなる)虞がある。
一方、23℃での歯部4のゴム硬さが83°を上回る場合、通常の方法(所謂、圧入工法)で製造した歯付ベルト1(歯部4と背部3とを構成するゴム組成物が同じもの)において、心線2の径、ならびに背厚比に依っては、極低温環境下における背部3の剛性が高くなりすぎ、極低温環境下におけるベルトの屈曲性を確保できなくなる虞がある。
(歯部4の形状)
歯部4のベルト長手方向を含む断面形状は、歯部4の、側面42、歯先部41及び側面43が一定の曲率を有する1又は2以上の曲線(円弧線)で繋がった形状をしている(歯部4の形状を、図3及び図6に示す断面形状が略半円形の、H歯形(所謂、丸歯形)にしている)。
これにより、歯部4の形状を、図9及び図10に示す、S歯形(所謂、STPD歯形)、つまりそれぞれ外側に膨らんだ凸状曲面(円弧面)からなる2つの側面と、平坦な面である歯先部とが繋がった形状とした場合と比較し、1つの歯部4あたりの動力伝達に寄与する部分のボリューム(図6のハッチング部分)をより大きくできる分、歯部4の剛性がより上がり、無張力の状態で駆動された場合のベルトの伝動性能(特に耐歯飛び性能)を確保し易くすることができる。
(心線2のフィラメント径)
心線2に直径が6~9ミクロンの高強度ガラス繊維フィラメント(素線)を用いることで、径が0.15mm以上0.30mm未満の高強度ガラス心線を作製し易くなる。
(心線2の撚り方)
片撚りの心線2にすることで、径が0.15mm以上0.30mm未満の高強度ガラス心線を作製し易くなる。
(心線配列の密度)
ベルト幅方向に隣り合う心線2と心線2との間隔dの合計値の、ベルト幅Wに対する割合(%)(心線配列の密度)を20%以上35%以下にすることにより、歯付ベルト1の背部3に適度な剛性(弾性率)を確保できる。ひいては、歯付ベルト1が無張力の状態で駆動プーリ11と従動プーリ12との間に巻き掛けられても、極低温環境下におけるベルトの屈曲性の確保と、ベルトの伝動性能(耐久性、耐振動性、耐歯飛び性等)の確保とを確実に両立できる。
なお、本明細書ではベルト幅方向に隣り合う心線2と心線2との間隔dの合計値の、ベルト幅Wに対する割合(%)を「心線配列の密度」と表現する。心線配列の密度(%)の数値が小さいほど心線配列が密であることを表わす。
心線配列の密度が20%を下回ると、心線配列の密度の程度が密になりすぎ、隣り合う心線2と心線2との間隔dが狭くなりすぎ(例えば0.05mm未満)、ベルトの製造時に心線周囲にゴムが流入しにくく成形不良(心線がゴムで担持されない)となる虞がある。
一方、心線配列の密度が35%を上回ると、心線配列の密度の程度が疎になりすぎ、心線2の径によっては(心線2の径が上限寄りでは)、ベルト弾性率が不足し、同期(かみ合い)伝動性(耐歯飛び性)を損なう虞があるとともに、耐久性や耐振動性を確保できなくなる虞がある。
(ベルト弾性率)
ベルト伸長率(%)に対するベルト幅1mmあたりのベルト張力(N)で定義される、歯付ベルト1のベルト弾性率が、30N/%以上60N/%未満であれば、ベルトの屈曲性とベルトの伝動性能(特には耐衝撃負荷性能)とを両立し易くなる。
ベルト弾性率が30N/%を下回ると、耐衝撃負荷性能が低下する。歯付ベルト1が無張力の状態で駆動プーリ11と従動プーリ12との間に巻き掛けられていても、歯付ベルト1に衝撃的な負荷(張力)が付与された際(例えばスライドドアが手動にて勢いよく開閉された際)には、歯欠け(歯部の欠損)等のベルト故障を生じ易くなる虞がある。なお、後述の実施例の評価で明らかなように、耐歯飛び性能の確保に関しては、歯付ベルト1が無張力の状態で駆動プーリ11と従動プーリ12との間に巻き掛けられている場合は、当該ベルト弾性率の水準を上げることよりも、歯付ベルト1の歯部4の剛性(歯部4のゴム硬度と歯部4の形状とが関係)を上げることの方が効果的である。
一方、ベルト弾性率が60N/%以上では、歯付ベルト1の弾性率(引張弾性率)に付随して、歯付ベルト1の曲げ応力(曲げ弾性率)が大きくなりすぎるため、極低温環境下において無張力の状態で駆動プーリ11と従動プーリ12との間に巻き掛けられるベルトの屈曲性を確保できなくなる虞がある。
(ゴム組成物)
背部3及び歯部4を構成するゴム組成物は、少なくともクロロプレンゴムを含む構成にすることにより、耐寒性を担保でき、且つ比較的安価であるクロロプレンゴムを用いて歯付ベルト1を製造することができる。
(従動プーリ12の負荷)
ベルト伝動機構10において、歯付ベルト1は、駆動プーリ11と従動プーリ12との間に巻き掛けられたときの、従動プーリ12の負荷が3N・m以下で使用される。
ベルト伝動機構10において要求される駆動モータトルクに対応できる様、駆動プーリ11と従動プーリ12との間に、歯付ベルト1が巻き掛けられたときの従動プーリ12の負荷を、該駆動モータトルク(1.5N・m程度)に対する安全率を2倍として換算した3N・m以下(換言すれば、歯飛びトルクの目標値を3N・m以上)として、具体的に歯付ベルトを設計することができる。
そして歯付ベルト1が上記負荷範囲内で使用された場合に、無張力の状態で駆動されても極低温環境下におけるベルトの屈曲性を確保しつつ、ベルトの伝動性能を確実に確保することができる。
本発明においては、歯付ベルトが無張力の状態で巻き掛けられるベルト伝動機構に適用された場合でも、極低温環境下における歯付ベルトの屈曲性(手動での従動プーリの回転操作性)と、歯付ベルトの伝動性能(耐歯飛び性能等)とを両立させる必要がある。
そこで、本実施例では、実施例1~33および比較例1~18に係る歯付ベルト(以下、各供試体)を作製し、ベルト弾性率の測定、起動トルク測定試験(-30℃、-40℃)、ならびに、ジャンピング試験を行い、比較検証を行った。
なお、以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[使用材料]
(心線)
各供試体の心線として、表2に示す構成のA1~A7の撚りコードを作製した。
A1の撚りコードは、以下の手順で作成した。JIS R 3413(2012)に記載されている呼称UCDE-300のガラス繊維(Uガラス繊維)のフィラメント(6ミクロン径)を束ねて引き揃えて、2本のストランドとした。この2本のストランドを、下記表3に示す組成のRFL液(18~23℃)に3秒間通過させることにより浸漬した後、200~280℃で3分間加熱乾燥して、表面に均一に接着層を形成した。この接着処理の後に、2本のストランドを、撚り数16回/10cmで下撚りして、上撚りは与えず、片撚りで径が0.17mmの撚りコードを用意した。
A2~A7の撚りコードは、それぞれ、フィラメントの材質(Uガラス繊維以外に、Kガラス繊維、Eガラス繊維)とフィラメントの径(6ミクロン径以外に、7ミクロン径、9ミクロン径、10ミクロン径)、ならびに心線の構成(ストランドの数が2本以外に、3本、1本)を変更した以外はA1と同様に作製し、表2に示す通り、片撚りで径が0.20mm、0.26mm、0.30mm、0.14mmの水準の撚りコードとした。
Figure 2023024876000004
Figure 2023024876000005
(歯布)
各供試体の歯布に用いた繊維織物の構成は次の1種類とした。
組成は、緯糸が66ナイロン、経糸が66ナイロンである。糸構成は、緯糸が44dtexのウーリー加工糸であり、経糸が44dtexである。織り構成は、綾織りである。そして、上記構成の歯布を、表3に示したRFL処理液にて、RFL処理を行った。その後、表4に示した未加硫ゴムシートと同じゴム組成物をトルエンに溶解したゴム糊にて接着処理し、更に、表4に示した組成のゴム組成物シートを積層してコート処理を行った。
(ゴム組成物)
表4に示す組成(C1~C7の7種類)のゴム組成物をバンバリーミキサーで混練りし、この練りゴムをカレンダーロールに通して所定厚みの圧延ゴムシートとして、各供試体の背部及び歯部形成用の未加硫ゴムシートを作製した。
なお、表4中※印の成分は下記の通りである。また、C5(ゴム成分にH-NBRの耐寒グレードを使用)を除く、C1~C7のゴム組成物の組成は、いずれのゴム組成物にもアジピン酸系の可塑剤を添加している。このため、後述するゴム組成物の物性試験(特には、低温衝撃脆化温度、ゲーマンねじり試験温度の物性試験)の結果(表4参照)からも分かるように、歯付ベルト(特に背部)を構成するゴム組成物をC1~C7の組成から選択すれば、極低温で長時間放置しても歯付ベルト(特に背部)を構成するゴム組成物の硬化が抑制されるため、常温時と大差の無い程度(具体的には、-30℃でのゴム硬度が、23℃でのゴム硬度に比べて+0~+4°程度)に、極低温環境下での歯付ベルトのしなやかさを見込める。
Figure 2023024876000006
※1 三井化学社製「EPT」※2 デンカ社製「PM-40」※3 日本ゼオン社製「Zetpole4310」※4 大内新興化学工業社製「ノクラックMB」※5 大内新興化学工業社製「N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド」※6 東海カーボン社製「シースト3」※7 正同化学工業社製「酸化亜鉛3種」
(ゴム組成物の物性試験)
組成C1~C7の各ゴム組成物について、混練り後、未加硫ゴムシートを作製し、161℃にて25分間の加硫を行い、加硫ゴムシートを得た。そして、ゴム組成物の物性試験(後述するゴム硬度試験、低温衝撃脆化試験、ゲーマンねじり試験の各試験)に供する所定の試験片を作製した。そして、組成C1~C7のゴム組成物について、それぞれ、ゴム組成物の物性試験として、ゴム硬度試験、低温衝撃脆化試験、ゲーマンねじり試験を下記に詳細する方法にて行った。その試験結果を表4に示す。
(ゴム硬度試験)
ここで、ゴム組成物(加硫ゴムシート)のゴム硬度試験は、JIS K 6253(2012)に準拠して行い、雰囲気温度23℃でタイプAデュロメータを用いて硬度を測定した。
常温でのゴム硬度が73°を下回ると、極低温環境下でも歯付ベルト(特に歯部)の剛性が下がりすぎ、所定の耐歯飛び性能(歯飛びトルク)を確保できなくなるという問題が生じる。
一方、83°を上回ると、極低温環境下でも歯付ベルト(特に背部)の剛性が上がりすぎ、ベルトをプーリ等に巻き掛ける際の屈曲性(起動トルク)を確保できなくなるという問題が生じる。
(低温衝撃脆化試験)
低温衝撃脆化試験は、JIS K 6261(2006)に準拠して行い、低温衝撃脆化温度を測定した。尚、低温衝撃脆化温度は、値が小さいほど、より低温までしなやかさを維持でき、耐寒性(低温柔軟性)が向上することを示すものである。低温衝撃脆化試験のサンプル(試験片)は、40.0mm×6.0mm×2.0mmの短冊状とした。
(ゲーマンねじり試験)
ゲーマンねじり試験では、JIS K 6261(2006)に準拠して行い、ゲーマンねじり試験のT10である、ねじり剛性が23℃での値の10倍になる温度を測定した。ゲーマンねじり試験T10の温度は、値が小さいほど、より低温までしなやかさを維持することができ、耐寒性(低温柔軟性)が向上することを示すものである。
[歯付ベルトの製造]
上記使用材料で説明した、A1~A7の心線(接着処理品)、歯布(接着処理品)、ならびにC1~C7のゴム組成物(未加硫ゴムシート)をそれぞれ使用して、上記実施の形態に記載した通常の圧入工法にて、各供試体(各歯付ベルト)を作製した。なお、加硫は、161℃で25分間行った。また、背部を所定の厚みに構成するため、加硫して得られたベルトスリーブに対して、背面を一定厚さ研磨したうえで、一定幅に切断し、各供試体(各歯付ベルト)を得た。
通常の圧入工法で各供試体(各歯付ベルト)を作製したため、背部及び歯部は同じ組成のゴム組成物で構成されている。そのため、各供試体(各歯付ベルト)において、背部を構成するゴム組成物の硬さと、歯部を構成するゴム組成物の硬さとは、略同じである。
作製した歯付ベルト(供試体)の外観寸法・形状
(共通する外観寸法・形状)
ベルト幅8.5mm、ベルト周長約230mm、歯布厚み(ベルト断面での厚み)0.1mm
(相違する外観寸法・形状)
歯ピッチ(1.5mm、2.0mm、2.5mm、3.0mm)、背厚比(背部厚み、ベルト厚み)、歯形(H歯形、S歯形)、歯数(歯ピッチ1.5mmで153歯、歯ピッチ2.0mmで115歯、歯ピッチ2.5mmで92歯、歯ピッチ3.0mmで77歯)
(歯部の形状)
図3及び図4に示すように、本実施形態の各供試体の歯部の形状は、歯部の断面形状が略半円形の、H歯形(丸歯形)と呼ばれる形状である。歯部の形状(ベルト長手方向を含む断面の形状)は、歯部の2つの側面と歯先部とが一定の曲率(図3のR2とR3)を有する2つの曲面(円弧面)で繋がった形状である。なお、歯部の歯元部は一定の曲率(図3のR1)を有する曲面で歯底部と繋がっている。
図9及び図10に示すように、対比対象となる各供試体の歯部の形状は、S歯形(STPD歯形)と呼ばれる形状であり、それぞれ曲面(円弧面)からなる2つの側面を平坦面でつないだ形状を有する。歯部の歯先部は平坦な面であり、両側面は共に外側に膨らんだ凸状曲面である。より詳細には、側面は、ベルト長手方向を含む断面において、2つの円弧をなめらかに繋げた形状をしている。なお、歯部の歯元部は一定の曲率を有する曲面で歯底部と繋がっている。
[歯付ベルトの評価:項目、方法、基準]
表6~16に示す、各供試体について、本願課題を解決し得る歯付ベルトが得られたかどうかを見極めるために、ベルト性能(ベルト弾性率、起動トルク(-30℃、-40℃)、歯飛びトルク)を検証した。
[ベルト弾性率]
(試験機)
オートグラフ((株)島津製作所製「AGS-J10kN」)を用いた。
(試験方法)
オートグラフの下側固定部と上側ロードセル連結部に一対のプーリ(30歯)を取り付け、歯付ベルトをプーリ間に掛けた。次に、上側プーリを上昇させて、歯付ベルトが緩まない程度に張力(約10N)を掛けた。この状態にある上側プーリの位置を初期位置とし、10mm/分の速度で上側プーリを上昇させた。このとき測定されたベルト張力(N)とベルト伸長率(%)との関係を示す応力-歪み曲線(S-S線図)において、比較的直線関係にある領域の直線の傾き(平均傾斜)から、ベルト伸長率(%)に対するベルト張力(N)の値(N/%)を算出し、ベルト幅1mmあたりに換算した値(N/%/1mm幅)をベルト弾性率(引張弾性率)とした。
(判定基準)
ベルトの屈曲性(ひいてはスライドドアの手動操作性)とベルトの伝動性能(特には耐衝撃負荷性能)とを兼ね備えているかどうかの判断の指標として、ベルト弾性率の値を指標(値が小さすぎるとベルトの耐衝撃負荷性能が確保できなくなり、値が大きすぎるとベルトの屈曲性が確保できなくなる)とした。
ベルト弾性率の値(N/%/1mm幅)が30以上60未満の場合は、歯付ベルトの屈曲性と歯付ベルトの伝動性能(特には耐衝撃負荷性能)とを両立できると評価し、a判定とした。
ベルト弾性率の値(N/%/1mm幅)が25以上30未満の場合は、歯付ベルトの屈曲性と歯付ベルトの伝動性能(特には耐衝撃負荷性能)との両立の観点でやや劣ると評価し、b判定とした。
ベルト弾性率の値(N/%/1mm幅)が25未満、もしくは60以上の場合は、歯付ベルトの屈曲性と歯付ベルトの伝動性能(特には耐衝撃負荷性能)とを両立できないと評価し、c判定とした。
本用途での実使用に対する適正(スライドドアの手動操作性とベルトの耐衝撃負荷性能との両立)の観点から、a判定、b判定のベルトを合格レベルとした。
[起動トルク(-30℃、-40℃)]
(試験名)起動トルク測定試験
(試験機)
不図示(図8で、タイプの異なるトルクゲージが従動プーリの軸に挿入された態様)
試験には2軸トルク測定試験機を使用した。プーリレイアウトは、前述のベルト伝動機構(図2)と同じである。つまり、該試験機のプーリのレイアウトは、駆動プーリと、従動プーリと、を有し、軸間距離は50mmで固定である。
(プーリの歯数)
歯ピッチ1.5mmの歯付ベルトに対しては、駆動プーリが24歯、従動プーリが108歯
歯ピッチ2.0mmの歯付ベルトに対しては、駆動プーリが14歯、従動プーリが69歯
歯ピッチ2.5mmの歯付ベルトに対しては、駆動プーリが15歯、従動プーリが75歯
歯ピッチ3.0mmの歯付ベルトに対しては、駆動プーリが12歯、従動プーリが60歯
(試験方法)
歯付ベルトを無張力(取付張力がゼロ)の状態でプーリ間(軸間距離固定)に巻き掛けた。雰囲気温度(-30℃、-40℃)で各々90分間放置後、各々の雰囲気温度(-30℃、-40℃)下、従動プーリの軸に接続したトルクゲージ(東日製作所社製ATG仕様)を介して手動で従動プーリを回転させ、この時の(回転し始めの)起動トルクを測定した。尚、屈曲性に優れた歯付ベルトであれば、操作力(起動トルク)を低く抑えることができる。
(判定基準)
ベルトの屈曲性(ひいてはスライドドアの手動操作性)の判定として、起動トルクの値を指標(トルク値が小さいほどベルトの屈曲性が良い)とし、-30℃での起動トルク値については、5.0cN・m未満の場合をa判定、5.0cN・m以上10.0cN・m未満の場合をb判定、10.0cN・m以上の場合をc判定とした。-40℃での起動トルク値については、12.4cN・m未満の場合をa判定、12.4cN・m以上24.8cN・m未満の場合をb判定、24.8cN・m以上の場合をc判定とした。
本用途での実使用に対する適正(スライドドアの手動操作性)の観点から、a判定、b判定のベルトを合格レベルとした。
[歯飛びトルク](試験名)ジャンピング試験(試験機)
試験には2軸トルク測定試験機を使用した(図8参照)。
プーリレイアウトは、前述のベルト伝動機構(図2)と同じである。つまり、該試験機のプーリのレイアウトは、駆動プーリと、従動プーリと、を有し、軸間距離は50mmで固定である。
(プーリの歯数)
歯ピッチ1.5mmの歯付ベルトに対しては、駆動プーリが24歯、従動プーリが108歯
歯ピッチ2.0mmの歯付ベルトに対しては、駆動プーリが14歯、従動プーリが69歯
歯ピッチ2.5mmの歯付ベルトに対しては、駆動プーリが15歯、従動プーリが75歯
歯ピッチ3.0mmの歯付ベルトに対しては、駆動プーリが12歯、従動プーリが60歯
(試験方法)
常温下、歯付ベルトを無張力(取付張力がゼロ)の状態でプーリ間(軸間距離固定)に巻き掛けた。そして、図8に示すように、従動プーリが回転しないようにあらかじめ固定した上で、駆動プーリの軸に接続したトルクゲージを介して手動で駆動プーリを回転させ、歯飛び(ジャンピング)が発生した時の駆動軸に掛かる負荷トルクを歯飛びトルクとして測定した。
(判定基準)
本用途でのベルトの伝動性能として最も重視される耐歯飛び性(歯飛びの生じにくさ)の判定として、歯飛びトルクの値を指標(トルク値が大きいほど歯飛びしにくい)とし、歯飛びトルクの値が、3.0N・m以上の場合をa判定、2.5N・m以上3.0N・m未満の場合をb判定、2.5N・m未満の場合をc判定とした。
本用途での実使用に対する適正(耐歯飛び性能)の観点から、a判定、b判定のベルトを合格レベルとした。
上記4つのベルト性能に関する試験項目(ベルト弾性率、起動トルク(-30℃、-40℃)、歯飛びトルク)における、各判定基準を表5にまとめた。
Figure 2023024876000007
(総合判定)
本課題を解決し得る歯付ベルトとしての総合的な判定(ランク付け)の基準は、上記4つのベルト性能に関する試験項目(ベルト弾性率、起動トルク(-30℃、-40℃)、歯飛びトルク)における判定の結果から、以下の通りとした。
ランクA:上記の試験項目で、すべてa判定であった場合は、実用上全く問題ないものと判断し、最良のランクとした。
ランクB:上記の試験項目で、「ベルト弾性率」の判定がa判定であり、且つ、「歯飛びトルク」、「-30℃での起動トルク」、および「-40℃での起動トルク」の3つの判定において、c判定はないが、1つでもb判定があった場合、もしくは、「ベルト弾性率」の判定がb判定であり、且つ、「歯飛びトルク」、「-30℃での起動トルク」、および「-40℃での起動トルク」の3つの判定が、すべてa判定であった場合は、実用上問題ないが、やや劣るランクとした。
ランクC:上記の試験項目で、1つでも判定がc判定であった場合、もしくは、「ベルト弾性率」の判定がb判定であり、且つ、「歯飛びトルク」、「-30℃での起動トルク」、および「-40℃での起動トルク」の3つの判定において、c判定はないが、1つでもb判定があった場合は、本課題の解決策として不充分なランク(不合格)とした。
(検証結果および考察)[歯ピッチ2.5mmでの検証]
検証結果を表6~12に示す。
(心線径を変量した比較)
Figure 2023024876000008
(実施例1~3、比較例1~2)
高強度ガラス(Uガラス、Kガラス)繊維の心線を用い、背厚比29.0%、ゴム硬度75°、H歯形、心線配列の密度29.0%、を一定にした歯付ベルトにおいて、心線径を変量し、比較した。
心線径が大きくなるほど、起動トルク(-30℃、-40℃)が増加する傾向が見られたが、これらの条件では所定のベルト弾性率や歯飛びトルクを確保できた(a判定)。
心線径が0.17mm(実施例1)、0.20mm(実施例2)、0.26mm(実施例3)の場合には、起動トルク(-30℃、-40℃)がaまたはb判定(総合判定でもランクAまたはB)であったが、心線径を0.30mm(比較例1)まで大きくすると、起動トルク(-30℃、-40℃)がc判定(総合判定でもランクC)となった。
一方、心線径を0.14mm(比較例2)まで小さくすると、製造中の心線の切断によりベルトが製造できなかった。
以上の結果から、いずれの雰囲気温度(-30℃、-40℃)においても所定(合格レベル)の起動トルクを確保できる点で、心線径の好適な範囲は0.15mm以上0.30mm未満であると云える。
(ガラス繊維(フィラメントの材質)を変更した比較)
Figure 2023024876000009
(実施例2、4、比較例3)
心線径0.20mmの実施例2の歯付ベルト(背厚比29.0%、ゴム硬度75°、H歯形、心線配列の密度29.0%)をベースにして、心線を構成する高強度ガラス(Uガラス)繊維を変更し、比較した。
別の高強度ガラス(Kガラス)繊維を用いた実施例4では、実施例2と同等に所定(合格レベル)のベルト弾性率を確保でき、総合判定でランクAとなった。
一方、高強度ガラス繊維ではないEガラス繊維を用いた比較例3では、ベルト弾性率がb判定、起動トルク(-30℃、-40℃)もb判定となり、総合判定でランクCであった。
(背厚比を変量した比較)
Figure 2023024876000010
(実施例2、5~6)
心線径0.20mmの実施例2の歯付ベルト(ゴム硬度75°、H歯形、心線配列の密度29.0%)をベースにして、背厚比29.0%を変更し、比較した。
背厚比が大きくなるほど、起動トルク(-30℃、-40℃)が増加する傾向が見られたが、これらの条件では所定のベルト弾性率や歯飛びトルクを確保できた(a判定)。
実施例2に対して、背厚比を23.6%まで小さくした実施例5では、実施例2と同等にランクAとなったが、背厚比を38.5%まで大きくした実施例6では、起動トルク(-40℃)がb判定となりランクBであった。
(実施例1、7~8、比較例4)
心線径0.17mmの実施例1の歯付ベルト(ゴム硬度75°、H歯形、心線配列の密度29.0%)をベースにして、背厚比29.0%を変更し、比較した。
実施例1に対して、背厚比を22.0%まで小さくした実施例7、背厚比を38.5%まで大きくした実施例8では、いずれも実施例2と同等にランクAとなった。
背厚比を21.4%まで小さくした比較例4では、ベルトの製造時に背面ゴム欠けが生じて、製造ができなかった。そのため、ベルトの製造可否の観点で、背厚比の下限水準が22.0%であると云える。
(実施例3、9~12、比較例5)
心線径0.26mmの実施例3の歯付ベルト(ゴム硬度75°、H歯形、心線配列の密度29.0%)をベースにして、背厚比29.0%を変更し、比較した。
実施例3に対して、背厚比を26.7%まで小さくした実施例9、背厚比を38.5%まで大きくした実施例10では、いずれも実施例3と同等(ランクB)であった。
なお、起動トルクの値はベルトの屈曲性の指標(トルク値が小さいほどベルトの屈曲性が良い)となる値であるが、背部の屈曲性に関しては、背厚比とともに背部を構成するゴム硬度や、背部に埋設される心線の密度も影響する。
そこで、その影響を確認するため、実施例11は、実施例10の歯付ベルトに対して、心線配列の密度を20.0%に高めた(心線配列を密にした)例であるが、実施例10と同等(ランクB)であった。実施例12は、実施例11に対して、さらにゴム硬度を81°に高めた例であるが、実施例10と同等(ランクB)であった。しかし、実施例12の心線配列の高密度(20.0%)、且つ高硬度(81°)の条件で、背厚比を38.9%に高めた比較例5では、起動トルク(-30℃、-40℃)がc判定となり、ランクCとなった。
この結果から、いずれの雰囲気温度(-30℃、-40℃)においても所定(合格レベル)の起動トルクを確保できる点で、背厚比の上限水準が38.5%であると云える。
以上の結果から、製造可否、および所定の起動トルクを確保できる、という点で、背厚比の好適な範囲は22.0%以上38.5%以下であると云える。
(背部及び歯部を構成するゴム組成物の硬さ(ゴム硬度)を変量した比較)
Figure 2023024876000011
(実施例2、14)
心線径0.20mmの実施例2の歯付ベルト(背厚比29.0%、H歯形、心線配列の密度29.0%)をベースに、ゴム硬度75°を変量し、比較した。
実施例2に対して、ゴム硬度を81°まで大きくした実施例14では、実施例2と同等(ランクA)であった。ゴム硬度が大きくなると、起動トルク(-30℃、-40℃)や歯飛びトルクが増加する傾向が見られたが、これらの条件では所定のベルト弾性率、起動トルク、歯飛びトルクを確保できた(a判定)。
(実施例1、13、比較例6~7)
ゴム硬度の下限水準を確認するため、実施例1(心線径0.17mm)の歯付ベルトをベースに、ゴム硬度75°を変量し、比較した。
実施例1に対して、ゴム硬度を81°まで大きくした実施例13では、実施例1と同等(ランクA)であった。一方、実施例1に対して、ゴム硬度を小さくした比較例6(61°)、比較例7(71°)では、所定の歯飛びトルクが確保できず(c判定)、ランクCとなった。この結果から、ゴム硬度の下限水準は、73°程度であると云える。
(実施例11~12、比較例8)
ゴム硬度の上限水準を確認するため、前述の背部の屈曲性に不利な条件を備えた実施例11(太い心線径0.26mm、心線配列が高密度20.0%、高い背厚比38.5%)の歯付ベルトをベースに、ゴム硬度75°を変量し、比較した。
実施例11に対して、ゴム硬度を81°まで大きくした実施例12では、実施例11と同等(ランクB)であった。さらにゴム硬度を85°まで大きくした比較例8では、所定の起動トルクが確保できず(c判定)、ランクCとなった。この結果から、ゴム硬度の上限水準は、83°程度であると云える。
以上の結果から、所定の歯飛びトルク、および所定の起動トルクを確保できる、という点で、ゴム硬度の好適な範囲は73°以上83°以下であると云える。
(歯形を変更した比較)
Figure 2023024876000012
(実施例2、比較例9~10)
実施例2の歯付ベルト(心線径0.20mm、背厚比29.0%、ゴム硬度75°、心線配列の密度29.0%)をベースに、H歯形を変更し、比較した。
実施例2に対して、歯形をS歯形に変更した比較例9では、所定(合格レベル)の歯飛びトルクを確保できず(c判定)、ランクCとなった。また、S歯形の比較例9に対して、ゴム硬度を上限水準(81°)まで上げた比較例10においても、所定の歯飛びトルクを確保できず(c判定)、ランクCとなった。
以上の結果から、歯形をH歯形にすることは、ゴム硬度が下限水準(75°)であっても所定の歯飛びトルクを確保できる効果があるので、好適な歯形と云える。
(ベルト幅に対する間隔dの合計値の割合(心線配列の密度)を変量した比較)
Figure 2023024876000013
(実施例2、15~18、比較例11)
実施例2の歯付ベルト(心線径0.20mm、背厚比29.0%、ゴム硬度75°、H歯形)をベースに、心線配列の密度29.0%を変更し、比較した。
ここでの心線配列の密度(ベルト幅に対する間隔dの合計値の割合)の数値(%)が大きいことは、心線配列の密度の程度が疎になることを表わす。
心線配列の密度を、20.0%(実施例15)、29.0%(実施例2)、33.3%(実施例16)、35.0%(実施例17)と、心線配列が疎になるにつれ、ベルト弾性率および起動トルクが小さくなる傾向が見られたが、これらの条件ではランクAであった。さらに疎になった心線配列の密度38.5%(実施例18)のベルトでは、ベルト弾性率が低水準(b判定)のため、ランクBとなった。
一方、心線配列の密度の下限水準(密の限界水準)については、心線配列の密度を16.7%まで小さくした比較例11では、隣接する心線の間隔が小さすぎて、ベルトの製造時に心線周囲にゴムが流入しにくく成形不良となった。そのため、ベルトの製造可否の観点で、心線配列の密度の下限水準は20.0%程度であると云える。
以上の結果から、心線配列の密度の水準については、成形性(製造可否)、および所定(合格レベル)のベルト弾性率の確保の観点から、20.0%以上35.0%以下が好適な範囲と云える。
(ゴム成分の種類を変更した比較)
Figure 2023024876000014
(実施例14、19~20)
実施例14の歯付ベルト(心線径0.20mm、背厚比29.0%、ゴム硬度81°、H歯形、心線配列の密度29.0%)をベースに、ゴム成分を変更し、比較した。
本比較においては、背部及び歯部を構成するゴム組成物の耐寒性に対する影響を見るため、背部のゴム硬度が上限水準(81°)であっても、所定(合格レベル)の起動トルクを確保できるか否かという観点で検証した。
その結果、ゴム成分にCRを用いた実施例14に対して、EPDMを用いた実施例19、H-NBRを用いた実施例20においても、実施例14と同等(ランクA)であった。
ゴム成分にEPDMを用いた実施例19では、CRやH-NBRを用いた場合と比べ、耐寒性(低温柔軟性)が向上する分、いずれの雰囲気温度(-30℃、-40℃)においても起動トルクは若干程度低い値を示した。
[歯ピッチ2.0mmでの検証]
検証結果を表13~15に示す。
(背厚比を変量した比較)
Figure 2023024876000015
(実施例21~23)
歯ピッチ2.5mmでの検証におけるベースとした実施例2の歯付ベルト(心線径0.20mm、ゴム硬度75°、H歯形、心線配列の密度29.0%、背厚比29.0%)に相当する、歯ピッチ2.0mmの歯付ベルトを実施例22とした。実施例2はランクAであったが、実施例22では歯飛びトルクが低水準(b判定)となったことから、ランクBであった。
次に、実施例22に対して背厚比29.0%を変更し、比較した。なお、当該条件における、ベルトの製造可能な、背厚比の下限水準は27.9%であった。
実施例22に対して、背厚比を27.9%(下限水準)まで小さくした実施例21、および背厚比を38.5%まで大きくした実施例23では、実施例22と同様に歯飛びトルクがb判定で、ランクBとなった。
(実施例24~26)
歯ピッチ2.5mmの実施例1の歯付ベルト(心線径0.17mm、ゴム硬度75°、H歯形、心線配列の密度29.0%、背厚比29.0%)に相当する、歯ピッチ2.0mmの歯付ベルトを実施例25とした。実施例1はランクAであったが、実施例25では歯飛びトルクが低水準(b判定)となったことから、ランクBであった。
次に、実施例25に対して背厚比29.0%を変更し、比較した。なお、当該条件における、ベルトの製造可能な、背厚比の下限水準は26.1%であった。
実施例25に対して、背厚比を26.1%(下限水準)まで小さくした実施例24、および背厚比を38.5%まで大きくした実施例26の歯付ベルトは、実施例25と同等(ランクB)であった。
(実施例27~28)
歯ピッチ2.0mmで、心線径0.26mmの歯付ベルトにおいては、ベルトの製造可能な、背厚比の下限水準が31.3%であった。
そのため、歯ピッチ2.5mmの実施例3の歯付ベルト(ゴム硬度75°、H歯形、心線配列の密度29.0%、背厚比29.0%)に相当する歯付ベルトは製造できなかったので、背厚比を31.3%(下限水準)、38.5%の歯付ベルトをそれぞれ実施例27、28とした。いずれも、歯飛びトルクが低水準(b判定)となり、且つ起動トルクも低水準(b判定)となり、ランクBであった。
以上の結果から、歯ピッチ2.0mmの歯付ベルトにおいては、心線径が0.15mm以上0.30mm未満の範囲、且つ背厚比が26.1%以上38.5%以下の範囲で、本課題を解決し得るランクBの歯付ベルトが得られた。
(背部及び歯部を構成するゴム組成物の硬さ(ゴム硬度)を変量した比較)
Figure 2023024876000016
(実施例22、29、比較例12)
前述の実施例22の歯付ベルト(心線径0.20mm、H歯形、心線配列の密度29.0%、背厚比29.0%)をベースに、ゴム硬度75°を変量し、比較した。
実施例22に対して、ゴム硬度を81°まで大きくした実施例29の歯付ベルトは、実施例22と同等(ランクB)であった。一方、ゴム硬度を71°まで小さくした比較例12では、所定の歯飛びトルクが確保できず(c判定)、ランクCとなった。
(実施例30~31、比較例13)
ベルトの屈曲性の指標となる起動トルクの値(起動トルク値が小さいほどベルトの屈曲性が良い)には、背厚比、背部を構成するゴム硬度、背部に埋設される心線の太さや密度が影響する。その影響を考慮して、背部の屈曲性に不利な条件(高い背厚比38.5%、太い心線径0.26mm、心線配列が高密度20.0%)を備えた構成において、ゴム硬度の上限水準を確認した。
この構成において、実施例30(ゴム硬度75°)、及び実施例31(ゴム硬度81°)では、歯飛びトルクが低水準(b判定)で、且つ起動トルクも低水準(b判定)となったが、ランクBの歯付ベルトが得られた。しかし、ゴム硬度を85°まで大きくした比較例13では、起動トルクが上限を上回り(c判定)、所定(合格レベル)の起動トルクを確保できなかった(ランクC)。
以上の結果から、歯ピッチ2.0mmの歯付ベルトにおいても、ゴム硬度が73°以上83°以下の範囲で、本課題を解決し得るランクBの歯付ベルトが得られた。
(ゴム成分の種類を変更した比較)
Figure 2023024876000017
(実施例29、32~33)
実施例29の歯付ベルト(心線径0.20mm、背厚比29.0%、ゴム硬度81°、H歯形、心線配列の密度29.0%)をベースに、ゴム成分を変更し、比較した。
本比較においては、背部及び歯部を構成するゴム組成物の耐寒性に対する影響を見るため、背部のゴム硬度が上限水準(81°)であっても、所定(合格レベル)の起動トルクを確保できるか否かという観点で検証した。
その結果、ゴム成分にCRを用いた実施例29に対して、EPDMを用いた実施例32、H-NBRを用いた実施例33においても、実施例29と同等(ランクB)であった。
ゴム成分にEPDMを用いた実施例32では、CRやH-NBRを用いた場合と比べ、耐寒性(低温柔軟性)が向上する分、いずれの雰囲気温度(-30℃、-40℃)においても起動トルクは若干程度低い値を示した。
[歯ピッチ1.5mm、および歯ピッチ3.0mmでの検証]
検証結果を表16に示す。
Figure 2023024876000018
(比較例14~16)
歯ピッチ2.0mmでの検証においてベースとした実施例22の歯付ベルト(心線径0.20mm、ゴム硬度75°、H歯形、心線配列の密度29.0%、背厚比29.0%)に相当する、歯ピッチ1.5mmの歯付ベルトを比較例14とした。但し、背厚比については、歯ピッチ1.5mmのベルトで製造可能な下限の34.0%とした。実施例22では歯飛びトルクがb判定で、ランクBであったが、比較例14では所定の歯飛びトルクが確保できず(c判定)、ランクCとなった。
次に、比較例14の歯付ベルトに対して、細い心線(心線径0.17mm)に変更した歯付ベルトを比較例15として検証したが、比較例14と同様に所定の歯飛びトルクが確保できず(c判定)、ランクCとなった。
そこで、歯部の剛性を高めるために、比較例14の歯付ベルトに対してゴム硬度を81°まで大きくした歯付ベルトを比較例16として検証したが、比較例14と同様に所定の歯飛びトルクが確保できず(c判定)、ランクCとなった。
これらの結果から、所定(合格レベル)の歯飛びトルクを確保する観点で、歯ピッチの下限水準は2.0mmであると云える。
(比較例17~18)
歯ピッチ2.5mmでの検証において、背部の屈曲性に不利な条件(高い背厚比38.5%、太い心線径0.26mm、心線配列が高密度20.0%、高いゴム硬度81°)を備えた構成である実施例12の歯付ベルトでは、起動トルクが大きく(b判定)、ランクBとなった。実施例12の歯付ベルトに相当する、歯ピッチを3.0mmに大きくした歯付ベルトを比較例17として検証したが、さらに起動トルクが大きくなり(c判定)、ランクCとなった。
また、比較例17の歯付ベルトに対して、ゴム硬度を75°まで小さくした歯付ベルトを比較例18として検証したが、比較例17と同様に起動トルクが大きくなり(c判定)、ランクCとなった。
これらの結果から、いずれの雰囲気温度(-30℃、-40℃)においても所定(合格レベル)の起動トルクを確保する観点で、歯ピッチの上限水準は2.5mmであると云える。
以上の結果から、所定の歯飛びトルク、所定の起動トルクの両者を確保できる、という観点で、歯ピッチの好適な範囲は2.0mm以上2.5mm以下であると云える。
(得られた効果)
表6~16から、実施例1~33の歯付ベルトは、課題1、2に対応し、心線(フィラメントの材質)に高強度ガラス繊維を用いて、所定のベルト弾性率を確保し、ひいては、極低温環境下における歯付ベルトの屈曲性(起動トルク)と歯付ベルトの伝動性能(特には耐衝撃負荷性能)とを両立させつつ、歯部のピッチを比較的小さめ(2.0mm以上2.5mm以下の範囲)に設計することで、極低温環境下におけるベルトの屈曲性(起動トルク)の確保と、ベルトの伝動性能(歯飛びトルク)の確保とを両立し易くできた。
また、課題1に対応し、心線の径を比較的低水準(0.15mm以上0.30mm未満の範囲)に設計し、心線自体をしなやかにすることはもとより、ベルトの厚みに対する背部の厚みの割合で定義される背厚比を比較的低水準(歯ピッチが2.0mm以上2.5mm以下の場合、22.0%以上38.5%以下の範囲)に設計することで、無張力の状態でプーリ間に巻き掛けられても、ベルトのしなやかさを確保し、極低温環境下(-30℃~-40℃)におけるベルトの屈曲性(起動トルク)を確保できた。
また、課題2に対応し、歯部を構成するゴム組成物を比較的高硬度(73°以上83°以下)に設計し、歯部の形状をH歯形に設計して、歯部の剛性を高めることで、無張力の状態で駆動されても、ベルトの伝動性能(歯飛びトルク)を確保できる、ことがわかった。
所定の起動トルク(ベルトの屈曲性)の確保に関し、無張力の状態で巻き掛けられる歯付ベルトにあっては、表6から確認できるように、心線径の水準を下げること(即ち心線自体をしなやかにすること)が最も効果的(最も寄与率大)であり、次いで、表8~9及び表13~14から確認できるように、背厚比、背部のゴム硬度、歯ピッチの各水準を下げること、ならびに、表11から確認できるように、心線配列の密度の水準を上げて(配列を疎にして)、ベルト弾性率を下げることが効果的である(寄与する)ことがわかった。
所定の歯飛びトルク(ベルトの伝動性能)の確保に関し、無張力の状態で駆動される歯付ベルトにあっては、表9(例えば、比較例7、実施例1、実施例13の比較)、表10(実施例2と比較例9との比較)、及び表16から確認できるように、歯部の剛性(歯部のゴム硬度、歯部の形状、及び歯ピッチが関係)を高めることが最も効果的(寄与率大)であって、表6(実施例1~3、比較例1の比較)から確認できるように、ベルト弾性率の水準を上げることはほとんど効果がない(寄与しない)ことがわかった。
1 歯付ベルト
2 心線
3 背部
4 歯部
41 歯先部
42 歯部の側面
43 歯部の側面
44 歯元部
5 歯布
10 ベルト伝動機構

Claims (7)

  1. プーリ間に巻き掛けられたときの、前記プーリの負荷が0.8N・mより大きく3N・m以下になるように巻き掛けられ、-30℃~-40℃の低温環境下で使用される、歯付ベルトであって、
    背部と、
    前記背部に埋設された心線と、
    前記背部の一方の表面にベルト長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部と、
    前記歯部の表面および前記背部の前記一方の表面の一部を覆う歯布と、を有し、
    前記心線は、高強度ガラス繊維フィラメントを含む撚りコードであり、
    前記歯部間の歯ピッチは、2.0mm以上2.5mm以下であり、
    前記心線の径は、0.15mm以上0.30mm未満であり、
    前記歯付ベルトの厚みに対する前記背部の厚みの割合は、22.0%以上38.5%以下であり、
    前記歯部は、ゴム組成物で構成され、前記ゴム組成物の23℃での硬さは、73°以上83°以下であり、
    前記歯部は、歯先部と前記歯先部をベルト長手方向で挟む2つの側面とが一定の曲率を有する1又は2以上の曲面で繋がった形状をしている、歯付ベルト。
  2. 前記高強度ガラス繊維フィラメントの直径は、6~9ミクロンである、請求項1に記載の歯付ベルト。
  3. 前記心線は、片撚りの撚りコードである、請求項1又は2に記載の歯付ベルト。
  4. 前記心線は、前記背部にベルト幅方向に配列されて埋設されており、
    ベルト幅方向に隣り合う前記心線と前記心線との間隔の合計値の、ベルト幅に対する割合が、20%以上35%以下である、請求項1~3の何れか一項に記載の歯付ベルト。
  5. ベルト伸長率(%)に対するベルト幅1mmあたりのベルト張力(N)で定義されるベルト弾性率が、30N/%以上60N/%未満である、請求項1~4の何れか一項に記載の歯付ベルト。
  6. 前記背部及び前記歯部は、ゴム組成物で構成され、前記ゴム組成物は少なくともクロロプレンゴムを含んでいる、請求項1~5の何れか一項に記載の歯付ベルト。
  7. 駆動源によって回転駆動される駆動プーリと、
    従動プーリと、
    前記駆動プーリおよび前記従動プーリに巻き掛けられる、請求項1~6の何れか一項に記載の歯付ベルトと、を含む、ベルト伝動機構。
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