JP2023014951A - 濃縮液逐次採取型電気透析方法による同符号イオン成分の分離方法及び装置 - Google Patents

濃縮液逐次採取型電気透析方法による同符号イオン成分の分離方法及び装置 Download PDF

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Abstract

【課題】 イオン選択性の異なる同符号の複数のイオンを安定して分離できる方法を提供すること。【解決手段】 イオン選択性の異なる複数の同符号のイオンを含む被処理液体を、電気透析装置で脱塩処理する際、イオン選択性の大きなイオンが含まれる濃縮液を採取する工程、イオン選択性の小さなイオンが含まれる濃縮液を採取する工程、及び脱塩開始前に予め特定のイオンを含む塩型調製液を使用してイオン交換膜の塩型を特定のイオン型に転換する工程を含む濃縮液逐次採取型電気透析方法によって、イオン選択性の異なるイオン成分を安定して分離する。【選択図】図1

Description

発明の詳細な説明
本発明は強酸性カチオン交換膜及び強塩基性アニオン交換膜を用いる電気透析方法において、複数のイオンを含む被処理液から特定のイオンを分離できるよう改良された電気透析方法に関する。なお、強酸性カチオン交換膜及び強塩基性アニオン交換膜には、通常の全イオン透過型のイオン交換膜及び一価イオン選択透過型イオン交換膜を含むものとする。
電気透析技術は海水のように塩類濃度が比較的大きい被処理液を通常の飲料水程度まで脱塩するのに利用されてきた。即ち、塩類濃度が数%と高い液を数百mg/L程度に脱塩することに利用され、被処理液中の含まれる特定のイオンを他のイオンから分離するために利用されることが少なかった。
これまでの電気透析技術に関する研究例をみると、同符号イオン間の分離については、縮合系イオン交換膜において、カチオン交換膜の架橋密度を高くし、1価のナトリウムイオンに対して2価のカルシウムイオンの透過性を小さくする研究がおこなわれている(非特許文献1)。
また、陰イオン交換膜についても、架橋密度を高くしたり、膜表面の陰イオン交換基を一部分解したりするなどの改質により、アニオンの選択透過性を変える試みがなされている(非特許文献1)。
特許文献1においては、酸糖化液という特殊な液の処理において、カチオン交換膜―アニオン交換膜1―アニオン交換膜2という特殊なイオン交換膜構成を有する電気透析装置によって、糖化液と酸を分離することが行われている。
しかしながら、これらの研究は膜を改質することによって、イオンの透過性を変える研究か、またはイオン性物質と非イオン性物質とを特殊なイオン交換膜構成で分離しようとする試みであり、通常のイオン交換膜を使用した電気透析装置による一価の同符号のイオンの分離には適用困難であった。
本発明者らは特許文献2(特開2020-82078)において、本願発明の基本となる電気透析法によるイオンの分離方法について新たに提案した。この方法は、通常のカチオン及びアニオン交換膜が交互に配列された電気透析装置を用い、複数のイオンが混在する液体を電気透析装置で処理する場合、濃縮室側に透過するイオンの順番が、イオン交換膜の材料であるイオン交換樹脂のイオン選択性の大きな順番から濃縮室側に漏出するという現象を利用したものである。例えばアニオン交換樹脂に対するイオン選択性が大きいヨウ化物イオン(I)とイオン選択性の小さいホウ酸イオン(B(OH) )の場合のように、アニオン交換樹脂に対する選択性が大きく異なる複数のイオンが共存している液中から、ヨウ化物イオンを分離するためには、混合液の電気透析脱塩処理を開始した直後から濃縮室に漏出し始めるヨウ化物イオン主体の濃縮液を最初に採取し、ヨウ化物イオンの移動量が少なくなるまで採取を継続した後、他のイオンやホウ酸イオンが濃縮室に漏出を始める時点で濃縮液を別に採取するという技術的特徴を有している。
通常のイオン交換樹脂を利用した吸着塔方式の分離においては、イオン選択性の小さいイオンが先に漏出し、イオン選択性の大きいイオンが後に漏出する、という現象が一般的である。これに対し、特許文献2では、電気透析装置において、運転を開始すると脱塩室側から濃縮室側に向かってイオン選択性の高い順にイオンが移動し、濃縮室側に逐次漏出するという現象を利用しており、電気透析装置におけるイオン交換膜中のイオンの移動を動的にとらえた画期的技術である。
この技術を利用した濃縮液逐次採取型電気透析方法によって、例えば複数のアニオンが存在する液中から、イオン選択性の大きなヨウ化物イオンとイオン選択性の小さなホウ酸イオンやフッ化物イオンとを分離することができることが可能となった。
しかしながら、この処理を繰り返すと、最初のサイクルでは高い分離効率が得られるが、2回目以降分離効率が多少下がる場合があることが明らかとなった。そのため、分離効率の安定性向上が求められる。
特開2012-183031 特開2020-82078
「電気透析に於けるイオン交換膜の同符号イオン間選択透過性に関する研究」佐田、日本海水学会誌第52巻第3号(1998)
本発明は、濃縮液逐次採取型電気透析方法により同符号のイオンを分離する場合において、安定しなかった分離効率を安定させることが課題である。
本発明は次の特徴を有する電気透析技術を提供することにより、課題を解決する。
(1)同符号で複数のイオンを含む被処理液体から、イオン選択性の大きなイオン成分1及びイオン選択性の小さなイオン成分2を電気透析法により分離する方法であって、被処理液体を脱塩室に導入し、最初に濃縮室側に漏出するイオン成分1主体の濃縮液1を採取する第1工程、イオン成分2が漏出し始める時点の濃縮液2を採取する第2工程、第1工程の前に予めイオン成分1からなる塩型調製液によって、イオン交換膜の塩型をイオン成分1の塩型に調製する第3工程、を含む工程よりなる濃縮液逐次採取型電気透析方法による同符号イオン成分の分離方法
(2)前記、同符号で複数のイオンを含む被処理液体に、イオン選択性がイオン成分1より小さくイオン成分2よりも大きい一種類以上のイオン成分3を含む場合、濃縮液1及び濃縮液2には、イオン成分3が含まれる、(1)項記載の濃縮液逐次採取型電気透析方法による同符号イオン成分の分離方法
(3)前記、同符号で複数のイオンを含む被処理液体はアニオンである(1)項又は(2)項記載の濃縮液逐次採取型電気透析方法による同符号イオン成分の分離方法
(4)前記、イオン成分1はヨウ化物イオンを含む(1)項~(3)項のいずれか1に記載の濃縮液逐次採取型電気透析方法による同符号イオン成分の分離方法
(5)前記、イオン成分2はホウ素、フッ素を含むイオン及び半金属のオキソ酸イオンより選択される(1)項~(4)項のいずれか1に記載の濃縮液逐次採取型電気透析方法による同符号イオン成分の分離方法
(6)前記、(2)項の第3工程はイオン成分1又は3より選択された塩型調製液を用いる、(2)項~(5)項記載のいずれか1に記載の濃縮液逐次採取型電気透析方法による同符号イオン成分の分離方法
(7)前記、(2)項記載のイオン成分3は塩化物イオン及び/又は硫酸イオンを含む(2)項~(5)項のいずれか1に記載の濃縮液逐次採取型電気透析方法による同符号イオン成分の分離方法
(8)正極と負極の間にカチオン交換膜及びアニオン交換膜が交互に配置され、脱塩室及び濃縮室が交互に形成された電気透析セル部、脱塩室に接合された被処理液を貯留するための被処理液槽、濃縮室に接合され濃縮液を逐次貯留するための一つ以上の濃縮液槽、脱塩室に接合されイオン交換膜の塩型調製を行う塩型調製槽を少なくとも有する、被処理液中の複数の同符号のイオンを分離する濃縮液逐次採取型電気透析装置
発明の具体的説明
説明をわかりやすくするため、被処理液中のイオン成分をアニオンとし、イオン成分1としてヨウ化物イオン、イオン成分2としてホウ酸イオン、イオン成分3として塩化物イオンをとり説明するが、本特許はこの範囲に限定されないことは言うまでもない。例えば、イオン成分2についてはフッ化物イオンでもよく、イオン成分3は硫酸イオンでもよい。また、同符号のイオンとしてカチオンについても適用できる。
本発明の濃縮液逐次採取型電気透析方法における同符号イオンの分離工程を時系列的に示すと図1のとおりである。
ここで、使用する電気透析装置は強酸性カチオン交換膜及び強塩基性アニオン交換膜を交互に設置し、脱塩室と濃縮室が交互に形成された通常の電気透析装置でよい。ヨウ化物イオン、ホウ酸イオン及び塩化物イオンを含む被処理液は電気透析装置に導入され、脱塩が開始される。脱塩と同時に濃縮が開始され、濃縮室側へはイオン交換選択性の高いイオン成分1であるヨウ化物イオンが漏出する。この際、濃縮液1にアニオン交換膜のイオン交換基に吸着していた塩化物イオンや被処理液体中に含有されていた塩化物イオンが混じる。濃縮液1におけるヨウ化物イオン以外のイオン成分の混入は、被処理液体の液性、次の分離精製工程に対する許容濃度及び目的とするヨウ化物イオンの用途などに悪影響を与えない範囲で混ざっていてもよい。
脱塩開始前に仕込む濃縮液には、分離したいイオン成分1を含む液を選択できる。例えばヨウ化物イオンを分離したい場合は、ヨウ化カリウム(KI)溶液やヨウ化ナトリウム(NaI)溶液が利用できる。次の分離精製工程や用途等に差し支えない範囲で別の電解質溶液、例えば塩化ナトリウム溶液などを利用できる。
脱塩を継続すると、脱塩室側のヨウ化物イオン濃度が下がり、濃縮室側のヨウ化物イオン濃度が高くなる。さらに脱塩を継続し、脱塩室側のヨウ物イオン濃度が低くなると、イオン成分3である塩化物イオンがイオン交換膜を通過し濃縮室側での濃度が高くなる。イオン成分2であるホウ酸イオンも濃縮室側に漏出し始めるため、その前に第1工程である濃縮液1採取工程を停止し、第2工程である濃縮液2採取工程に移行する。
ここで、予め仕込む濃縮液2には、イオン成分2の利用方法などを勘案しながらイオン成分1以外の電解質溶液を選択できる。例えば、塩化ナトリウム溶液や塩化カリウム溶液などを利用することができる。
第1工程から第2工程への移行は、脱塩室側や濃縮室側のヨウ化物イオン濃度やホウ酸イオン等のイオン濃度を測定することにより、決定することができる。また、予め、小型の電気透析装置等を用いた予備実験等からも移行のタイミングを知ることができる。
第2工程ではホウ酸イオンが漏出し始める。この際、濃縮室側にはアニオン交換膜に含有されていた塩化物イオンや被処理液体中に含有されていた塩化物イオンをなど他のアニオンも混ざっていてもよい。
被処理液体中のホウ酸イオン濃度が低下し、あらかた濃縮室側に移動した段階で脱塩を終了し、ホウ酸主体の濃縮液2を採取する。このようにして、イオン成分1及びイオン成分2との分離が可能である。第2工程の終了はホウ酸濃度を測定することによって決めることができる。また、ホウ酸以外のイオン成分を代替指標としてもよい。濃縮液2の目的や用途によっても決めることができる。
脱塩を終了し濃縮液2の採取を終えた段階では、アニオン交換膜中にホウ酸イオンが残存しており、次の脱塩工程において濃縮液1に混入する。そのため、塩化物イオンを使用して第3工程である塩型調製を行う。アニオン交換膜は新品時に塩化物イオン型で市販されており、被処理液体中にも共存している場合が多く好適である。また、ヨウ化物イオンの塩を用いて塩型調製を行ってもよく、その場合は、脱塩開始初期にイオン成分3の混入が少なく、純度の高い濃縮液1が得られる。
この際、塩型調製を行うイオンとしては、イオン成分1か又はイオン成分1とイオン成分2のイオン選択性の中間のイオン成分であることが好ましい。本発明者が検討したところ、電気透析による、濃縮室側へのアニオン交換膜を隔てたアニオンの移動の順番は、イオン選択性に大きく依存し、以下の順になることが分かっている(左側にあるイオンほどイオン選択性が大きい)。この中では、ヨウ化物イオンの他、塩化物イオンや硫酸イオンが安価で入手性の点からも好ましいが、次のヨウ素分離精製工程に許容されるヨウ化物イオン濃度と他の共存イオンの許容濃度にもよる。
>I>NO >S 2->Br>Cl>SO 2->HPO 2->OH>イオン状のホウ酸
この塩型調製を経ないで、電気透析処理を行うと、脱塩終了後のイオン成分2(ホウ酸イオン)がイオン交換膜に吸着したまま、脱塩工程に移行することになり、被処理液中のヨウ化物イオンがホウ酸イオンを押し出しながら、濃縮室側に漏出する。したがって、一定量のイオン成分2が濃縮液1に混じり、これが従来の濃縮液逐次採取型電気透析方法の問題でもあった。
しかしながら、本発明の塩型調製工程を加えることで、イオン交換膜中のホウ酸を押し出し、脱塩開始前にイオン交換膜の塩型をヨウ化物イオン型又は塩化物イオン型に転換でき、ホウ酸イオンがイオン交換膜中から排除でき、脱塩開始時に濃縮液1にホウ酸イオンが混入する現象を回避することができる。
説明をさらに分かりやすくするため、各工程において強塩基性アニオン交換膜断面をイオン成分1、2及び3がどのように移動するかについて図2を用いて説明する。
図2は左側に負極2、右側に正極3、中間に強塩基性アニオン交換膜1が配置され、膜の左側が脱塩室4、右側が濃縮室5を示している。そして、▲1▼、▲2▼、▲3▼がそれぞれアニオン成分1、2、3に相当する。脱塩開始時に予め濃縮液側に導入しておく電解質溶液については図示していない。
脱塩開始前は、イオン成分▲1▼、▲2▼、▲3▼は脱塩室に存在し、▲3▼はイオン交換膜の対イオンとしても吸着している。脱塩が開始されると、第1工程の図に示すように、イオン選択性の大きな▲1▼が膜を透過し始め、濃縮室に至る。同時に▲3▼も押し出される。この時点で濃縮室における▲2▼の混入は少ない。アニオンの移動方向を矢印6で示す。
脱塩室に▲1▼が少なくなり、濃縮液側に移動すると濃縮液1を採取し、別の濃縮液に変え、第2工程を開始する。ここでは主として▲2▼と▲3▼が濃縮室側に移動する。ここで、被処理液体中の▲3▼は、その種類、濃度やイオン選択性にもよるが、濃縮液1及び濃縮液2に混入していてもよい。また、第2工程を開始するにあたって、濃縮液1と濃縮液2を貯留する槽を複数配置してもよいし、一つの濃縮液槽に濃縮液1を貯留し、排出した後、第2工程を開始するための濃縮液2を貯留してもよい。重要な点は、濃縮室側に漏出するイオン濃度を監視しながら濃縮液を逐次採取するという技術思想である。
第2工程の脱塩終了時において、▲2▼が所定量濃縮室側に移動し終えると、濃縮液2を採取し、脱塩工程を終了する。
脱塩工程終了時の脱塩室内のイオン成分をみればわかるが、▲1▼が含まれておらず、▲2▼と▲3▼が主となっている。この脱塩室側に存在する液を▲1▼を含まない分離液として採取できることは明らかである。濃縮室側の液及び脱塩室側の液の両方を分離液として採取可能である。
脱塩終了時には、膜内に▲2▼と▲3▼が存在しているため、第3工程では▲2▼を膜内から排除するため、▲3▼からなる塩型調製液を脱塩室側に導入し電気透析を行う。その結果、膜内の▲2▼は濃縮室側に押し出され、強塩基性アニオン交換膜の塩型は新品購入時と同様▲3▼を吸着した塩型になる。ここで、塩型調製液として、▲1▼の塩を用いてもよく、より純度の高い濃縮液1を採取できる。
第3工程で発生する濃縮液3や濃縮液2には、イオン成分2が存在するため、この液の使用方法は、処理プロセス全体の効率、イオン成分2の有用性などを勘案し、再利用することができる。
本発明の技術を実施するためには、通常の電気透析装置において、イオン交換膜内のイオンの移動を動的に理解し、逐次変化する濃縮室側のイオン成分を検知することにより確実に実施することができる。したがって、少なくともイオン成分1のイオン濃度をタイムリーに測定することが必要である。また、予め被処理液を用いて予備実験を行うことにより、イオン濃度の変化やその代替指標を知ることができる。さらに、電気特性を計測することもでき、これらの情報を基に濃縮液の採取時期を決めることができる。
以上、被処理液体中のイオン成分が3種類の場合について説明した。しかしながら。被処理液体にはさまざま液体があり、製造工程から比較的純度の高い2成分からなる廃液が発生する場合がある。例えば、偏光フィルム製造工程からのヨウ素とホウ酸イオンなる2成分の廃液の場合、イオン成分3が無視でき、塩型調製液としてヨウ化カリウムやヨウ化ナトリウムなどを使用することができる。
また、イオン成分の種類が多い場合は、イオン成分1と他のイオン成分からなる濃縮液1を濃縮液2とは分離し、濃縮液1をさらに次の濃縮液逐次採取型電気透析方法の被処理液として処理することにより、共存するイオン成分を少なくすることができ、2種類のイオン成分の分離に近づけることができる。
イオン成分2はイオン選択性の小さいイオンであり、ホウ酸は代表的なイオンであるが、フッ化物イオン(F)、ヨウ素酸イオン(IO )、重炭酸イオン(HCO )もイオン選択性の小さなイオンとして代表的なものである。また、半金属のオキソ酸はイオン選択性が小さく、本発明を適用することができる。例えば、ホウ素は半金属に属しているが、それ以外では、シリカ(SiO)、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、セレンなどは一般的にオキソ酸として存在し、健康に有害といわれる。これら半金属のオキソ酸イオンについても本発明の分離対象とすることができる。
一方、イオン選択性の大きなイオン成分1としてヨウ化物イオンを上げたが、先に挙げたイオン選択性の順番から、三ヨウ化物イオン(I )、硝酸イオン(NO )などについても本発明を適用することができ、濃縮液1として分離することができる。
濃縮液1や濃縮液2は必要であれば、次の分離精製工程に移し、さらなる純度の向上を図ることができる。例えば、濃縮液1の主成分がヨウ化物イオンであれば強塩基性アニオン交換樹脂で吸着処理でき、濃縮液2の主成分がホウ酸イオンであれば官能基としてN-メチルグルカミン基を有するホウ素吸着材と接触させ吸着処理できる。濃縮液1や2には、夾雑イオンが少なく、先に説明したように濃縮液逐次採取型電気透析方法をさらに適用することができる。
同符号のイオン成分として、アニオンを取り上げたが、本発明の技術はカチオンについても適用できる。カチオンやアニオンについては、一価と二価の分離が可能なイオン交換膜が市販されているが、一価のイオン同士の分離については実用的なイオン交換膜がなく、本発明で提案した通常のイオン交換膜による濃縮液逐次採取型電気透析方法が好適である。この技術は一価イオン選択透過膜を利用した場合においても利用することができる。
本発明を実施するための電気透析装置の基本構成は図3のとおりである。負極2と正極3との間にアニオン交換膜1及びカチオン交換膜7が交互に配置され、脱塩室4及び濃縮室5が交互に形成された電気透析セル部、脱塩室4に接合され被処理液を貯留するための被処理液槽8、濃縮室5に接合され濃縮液を逐次採取するための複数の濃縮液槽9及び濃縮液槽10、脱塩室4に接合されイオン交換膜の塩型調製を行う塩型調製槽11及び塩型調製時の濃縮液を貯留する濃縮液槽12を有している。濃縮液槽12には、目的のイオン成分の分離に影響しない電解質溶液を仕込んでおくことができる。脱塩開始から濃縮室側に透過してくるイオン成分1の濃度を検知する手段は図示していないが、濃縮室9又は濃縮室9への配管の途中に設置することができる。図3では、簡略化のため、脱塩室4と濃縮室5をそれぞれ1室ずつ示しているが、通常は多数の区画室が配置されスタックを形成している。また、脱塩工程時に逐次採取する濃縮液槽の数を2槽示しているが、2槽以上でもよく、一つの濃縮液槽を逐次利用してもよい。このように、電気透析セル部は通常の電気透析装置の電気透析セル部を使用でき、加えて濃縮液を逐次採取するための複数の濃縮液槽と塩型調製のための塩型調製液槽とを追加することにより、本発明を実施できる。
発明の効果
本発明の濃縮液逐次採取型電気透析方法は、脱塩室、濃縮室及びイオン交換膜内のイオンの挙動を動的に理解することにより成し遂げられたものであり、既存の代表的な電気透析装置に若干の槽を追加するだけで実施が可能である。特に、液量が大量でなくイオン選択性に差のある複数の同符号のイオンをバッチ処理で分離することに好適であり、製造工程において発生する有用資源を回収するなどの用途に利用できる。
本発明の濃縮液逐次採取型電気透析方法による同符号イオンの分離工程を時系列的に示す運転工程図である。 本発明の濃縮液逐次採取型電気透析方法おいて、複数のアニオン成分を分離する際、各工程別のアニオンの挙動を示すイメージ図 本発明の濃縮液逐次採取型電気透析方法を実施するための濃縮液逐次採取型電気透析装置の基本構成図である。
本発明は特殊な装置を利用する技術ではなく、通常のイオン交換膜を製造販売しているメーカーの電気透析装置を利用できる。例えば、株式会社アストム製のアシライザーEDやAGC株式会社のイオン交換膜セレミオンを搭載した電気透析装置などである。この装置に槽や配管を接合し、イオンの検出手段を設けることで実施できる。
強塩基性アニオン交換膜としては、特に制限はなく、通常の第四級アンモニウム基を有する強塩基性アニオン交換膜等が使用できる。また、一価イオン選択透過アニオン交換膜や高強度耐アルカリアニオン交換膜を使用してもよい。より具体的には、スチレン-ジビニルベンゼンを基本骨格とした基材膜(スチレン-ジビニルベンゼン系基材膜)に強塩基性アニオン交換基である四級アンモニウム基を導入した陰イオン交換膜が使用できる。市販品としては、AGCエンジニアリング株式会社製のセレミオン(登録商標)AMV、セレミオン(登録商標)AMT、一価アニオン選択膜であるセレミオン(登録商標)ASV等が使用できる。また、株式会社アストム製のネオセプタ(登録商標)ASE(全透過性の陰イオン交換膜)、一価陰イオン選択膜ACS、ネオセプタ(登録商標)AXP-D等も使用できる。
カチオン交換膜としては、特に制限はなく、強酸性カチオン交換膜、高強度耐アルカリカチオン交換膜等を使用できる。また、カチオン交換膜は、一価イオン選択透過カチオン交換膜であってもよい。より具体的には、スチレン-ジビニルベンゼンを基本骨格とした基材膜(スチレン-ジビニルベンゼン系基材膜)に強酸性カチオン交換基であるスルホン酸基を導入したカチオン交換膜が使用できる。カチオン交換膜の市販品としては、AGCエンジニアリング株式会社製のセレミオン(登録商標)CMV、セレミオン(登録商標)CMB等が使用できる。また、株式会社アストム製のネオセプタ(登録商標)CSE、ネオセプタ(登録商標)CMB等も使用できる。
以下の具体的実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
(1)電気透析装置
電気透析装置として、アストム株式会社製のマイクロアシライザーEX3Bを使用した。イオン交換膜としては、アストム株式会社製の強酸性カチオン交換膜(商品名:ネオセプタCSE)及び一価アニオン選択膜(商品名:ネオセプタCSE)を1ユニットとして使用し、10ユニットの2室法電気透析装置とした。有効膜面積は、550cmである。
(2)原液組成
純水に、5.9g―B/L分のホウ酸(B(OH))と269g―I/L分のヨウ化カリウムを溶解し、水酸化カリウムを添加してpHを13に調整し、合成原液1を調製した。
(3)電気透析実験1
合成原液1を電気透析装置の脱塩室に導入して平均電流1.1A、電圧10Vの動作条件で電気透析を行った。なお、濃縮室では、電解液として0.1MのNaClを700ml使用した。運転を3時間行い、濃縮室のヨウ化物イオン及びホウ酸の濃度を測定したところ、それぞれ219g―I/L及び125mg―B/Lであった。このとき、脱塩室側、即ち合成原液側には0.5g/L以下のヨウ素しか含まれておらず、ホウ酸はほとんど濃縮室側には移動していなかった。ヨウ素及びホウ素を含む混合液が、電気透析装置において、脱塩室側でホウ酸、濃縮液側でヨウ化物イオンの分離ができたことになる。
(4)塩型調製
電気透析実験1終了後、1MのNaCl溶液1Lを脱塩室に導入し、同様の動作条件で電気透析を行った。濃縮液には(3)の実験を終了したままの濃縮液を用いた。
(5)電気透析実験2
(4)の実験の後、再び(3)と同様の合成原液を同様の動作条件で電気透析を行った。運転を3時間行い、濃縮室のヨウ化物イオン及びホウ酸の濃度を測定したところ、それぞれ221g―I/L及び110mg―B/Lであった。
比較例
実施例1と同様の条件で(1)~(3)の電気透析を行った。次に、(4)の塩型調製工程を経ず(5)の電気透析実験2を行った。運転3時間後の濃縮室のヨウ化物イオン及びホウ酸の濃度を測定したところ、それぞれ214g―I/L及び304mg―B/Lであった。
実施例と比較例を比べると、比較例では濃縮液中のヨウ化物イオンの濃度はほぼ同じ濃度であるが、不純物のホウ素濃度が約3倍含まれ、ヨウ化物イオンとホウ素の分離効率が低下した。
実施例1の実験を5回繰り返し、実施例1と同様、濃縮室のヨウ化物イオン及びホウ酸の濃度を測定したところ、それぞれ210~220g―I/L及び100~105mg―B/Lと安定していた。
イオン選択性の異なる複数の同符号のイオンを分離するにあたり、従来イオン交換樹脂を充填した吸着塔方式を採用することが多かった。この場合、イオン選択性の大きなイオンはイオン交換樹脂層に吸着され、イオン選択性の小さなイオンはイオン交換樹脂層に吸着されず流出する。しかしながら、イオン交換樹脂層に吸着したイオン選択性の大きなイオンを樹脂から溶離回収する場合、イオン選択性の大きさゆえに、再生薬液を大量に必要としたり、複雑な再生工程が必要となるなど課題が多かった。本発明は、電気透析装置において、イオン選択性の大きなイオン成分から順に濃縮室側に漏出し、その濃縮液を逐次採取するという濃縮液逐次採取型電気透析方法を改良したもので、イオン成分の分離効率を大きく向上することができる。一価のアニオンやカチオンには、将来的に重要な資源が多い。本発明は特に一価のイオンの分離に有効であり、産業上有用な技術である。
1:アニオン交換膜
2:負極
3:正極
4:脱塩室
5:濃縮室
6:イオンの移動方向
7:カチオン交換膜
8:被処理液槽
9:濃縮液1貯留槽
10:濃縮液2貯留槽
11:塩型調製液槽
12:塩型調製工程での濃縮液槽

Claims (8)

  1. 同符号で複数のイオンを含む被処理液体から、イオン選択性の大きなイオン成分1及びイオン選択性の小さなイオン成分2を分離する方法であって、被処理液体を電気透析装置の脱塩室に導入し、最初に濃縮室側に漏出するイオン成分1主体の濃縮液1を採取する第1工程、イオン成分2が漏出し始める時点の濃縮液2を採取する第2工程、第1工程の前に予めイオン成分1からなる塩型調製液によって、イオン交換膜の塩型をイオン成分1の塩型に調製する第3工程、を含む工程よりなる濃縮液逐次採取型電気透析方法による同符号イオン成分の分離方法
  2. 前記、同符号で複数のイオンを含む被処理液体に、イオン選択性がイオン成分1より小さくイオン成分2よりも大きい一種類以上のイオン成分3を含む場合、濃縮液1及び濃縮液2には、イオン成分3が含まれる、請求項1記載の濃縮液逐次採取型電気透析方法による同符号イオン成分の分離方法
  3. 前記、同符号で複数のイオンを含む被処理液体はアニオンである請求項1又は2記載の濃縮液逐次採取型電気透析方法による同符号イオン成分の分離方法
  4. 前記、イオン成分1はヨウ化物イオンを含む請求項1~3のいずれか1に記載の濃縮液逐次採取型電気透析方法による同符号イオン成分の分離方法
  5. 前記、イオン成分2はホウ素、フッ素及び半金属のオキソ酸より選択される請求項1~4のいずれか1に記載の濃縮液逐次採取型電気透析方法による同符号イオン成分の分離方法
  6. 前記、請求項2の第3工程はイオン成分1又は3より選択された塩型調製液を用いる、請求項2記載の濃縮液逐次採取型電気透析方法による同符号イオン成分の分離方法
  7. 前記、請求項2記載のイオン成分3は塩化物イオン及び/又は硫酸イオンを含む請求項2~5のいずれか1に記載の濃縮液逐次採取型電気透析方法による同符号イオン成分の分離方法
  8. 正極と負極の間にカチオン交換膜及びアニオン交換膜が交互に配置され、脱塩室及び濃縮室が交互に形成された電気透析セル部、脱塩室に接合された被処理液を貯留するための被処理液槽、濃縮室に接合され濃縮液を逐次貯留するための一つ以上の濃縮液槽、脱塩室に接合されイオン交換膜の塩型調製を行う塩型調製槽を少なくとも有する、被処理液中の複数の同符号のイオンを分離する濃縮液逐次採取型電気透析装置
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