JP2023013932A - SARS-CoV-2 RNA配列に基づく新規siRNA及びその利用 - Google Patents

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徹彦 吉田
Tetsuhiko Yoshida
菜穂子 ベイリー小林
Nahoko BAILEYKOBAYASHI
和雄 高山
Kazuo Takayama
里菜 橋本
Rina Hashimoto
善紀 吉田
Yoshinori Yoshida
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Kyoto University NUC
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Abstract

【課題】新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の増殖を抑制するsiRNAを提供する。【解決手段】ここで開示されるsiRNAは、センス鎖と、アンチセンス鎖とから構成される。センス鎖は、5’末端の塩基がグアニン(G)またはシトシン(C)である19~23塩基からなるターゲット配列と、該ターゲット配列の3’末端側に付加された2~4塩基からなるオーバーハングとから構成される。アンチセンス鎖は、上記ターゲット配列と相補的な配列と、該相補的な配列の3’末端側に付加された2~4塩基からなるオーバーハングとから構成される。ここで、上記ターゲット配列の少なくとも一部は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質(Sタンパク質)のシグナルペプチド領域をコードする塩基配列の少なくとも一部を含んでいる。【選択図】図8

Description

本発明は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2,severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)の増殖を抑制するsiRNAとその利用に関する。
SARS-CoV-2はヒトに感染し、COVID-19(Coronavirus disease 2019)を発症させるウイルスであり、急速に重篤な肺炎等の症状を引き起こし、感染者を死に至らしめることもある病原性のウイルスである。2019年12月から2020年初期にかけてこのウイルスによる感染症が発見されて以来、その感染は世界全体に広がり、従来知られているSARSやMERS等と同様に、世界の経済や人命に重篤な影響を与えるウイルス感染症となっている。
非特許文献1には、SARS-CoV-2の感染経路に寄与するスパイクタンパク質(以下、「Sタンパク質」ともいう)の構造が開示されている。SARS-CoV-2が有するSタンパク質はウイルス粒子の表面に存在し、ヒト細胞の細胞膜に存在するアンジオテンシン変換酵素II(ACE2)と結合することで、ウイルス粒子がヒト細胞内へ侵入することを促す。
コンピューターズ・イン・バイオロジー・アンド・メディスン(Computers in Biology and Medicine)、128巻、 2021年、 アーティクルナンバー104124 ネイチャー(Nature)、592巻、7853号、2021年、pp.283-289
ところで、SARS-CoV-2の感染拡大に伴い、SARS-CoV-2のSタンパク質が変異した多様な変異株が報告されている。Sタンパク質が変異することで、ヒト細胞のACE2への結合力が高まり感染力が増強することや、Sタンパク質の構造が変化し、既存の抗体が認識し難い構造に変化する等の問題が生じ得る。そのため、SARS-CoV-2の感染拡大を抑制するためには、抗体医薬や抗体産生を促すワクチンの開発等の免疫化学からのアプローチだけでなく、多様な側面からのアプローチが求められている。
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、SARS-CoV-2の増殖を抑制するsiRNAを提供することを主な目的とする。また、別の側面として、該siRNAを含む組成物を提供することを目的とする。また、該組成物の利用方法を提供することを目的とする。
本発明者は、RNA干渉(RNAi:RNA interference)によりSARS-CoV-2の特定のタンパク質の発現を抑制することで、SARS-CoV-2の増殖を抑制できると推察した。ここで、本発明者らは、RNAiのターゲット配列として、シグナルペプチド領域に注目した。シグナルペプチド領域はタンパク質の輸送および局在を指示する部分であることから、タンパク質が本来の機能を適切に発揮するために欠かせない領域の一つであるといえる。そのため、シグナルペプチド領域に変異が生じたSARS-CoV-2は、タンパク質の本来の機能を適切に維持できなくなり、淘汰され易くなると推察される。したがって、感染が拡大するSARS-CoV-2(変異株を含む)においては、シグナルペプチド領域に変異が起こり難く、配列が保存される傾向があるものと推察される。即ち、シグナルペプチド領域をターゲットとしたRNAiによりSARS-CoV-2の増殖抑制効果が得られれば、変異株を含む感染拡大の虞のある多様なSARS-CoV-2に対しても増殖抑制効果が得られると推察される。
そこで、本発明者らが鋭意検討を行った結果、SARS-CoV-2のSタンパク質のシグナルペプチド領域をコードする塩基配列の少なくとも一部を含む塩基配列を有するsiRNAを使用することで、SARS-CoV-2の増殖を顕著に抑制できることが見出された。その一方で、驚くべきことに、SARS-CoV-2が有するORF8タンパク質のシグナルペプチド領域をコードする塩基配列の少なくとも一部をターゲットとしたsiRNAでは、SARS-CoV-2の増殖抑制効果は見られなかった(詳細は、後述の試験例で示す)。即ち、SARS-CoV-2の増殖抑制効果は、siRNAが単にシグナルペプチド領域をターゲットとすることで得られるのではなく、Sタンパク質におけるシグナルペプチド領域をターゲットとすることにより得られることが見出された。
ここで開示されるsiRNAは、センス鎖と、アンチセンス鎖とから構成されており、上記センス鎖は、5’末端の塩基がグアニン(G)またはシトシン(C)である19~23塩基からなるターゲット配列と、上記ターゲット配列の3’末端側に付加された2~4塩基からなるオーバーハングとから構成される。上記アンチセンス鎖は、上記ターゲット配列と相補的な配列と、該相補的な配列の3’末端側に付加された2~4塩基からなるオーバーハングとから構成されている。そして、上記ターゲット配列の少なくとも一部は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質(Sタンパク質)のシグナルペプチド領域をコードする塩基配列の少なくとも一部を含むことを特徴とする。
かかる構成のsiRNAは、Sタンパク質の発現量を抑制し、SARS-CoV-2の増殖を抑制することができる。
また、ここで開示されるsiRNAの好ましい一態様では、上記ターゲット配列の3’末端側の5塩基のうち少なくとも3塩基はアデニン(A)またはウラシル(U)である。これにより、アンチセンス鎖がRNAiに関与するタンパク質であるRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に取り込まれ易くなるため、より好適にRNAiが誘導され、SARS-CoV-2増殖抑制効果がよりよく発揮される。
また、ここで開示されるsiRNAの好ましい一態様では、上記ターゲット配列は、以下の(1)~(7):
(1)GUUUUAUUGCCACUAGUCU(配列番号1);
(2)GUCUCUAGUCAGUGUGUUA(配列番号2);
(3)CAGUGUGUUAAUCUUACAA(配列番号3);
(4)GUUUGUUUUUCUUGUUUUA(配列番号31);
(5)CCACUAGUCUCUAGUCAGU(配列番号32);
(6)CUCUAGUCAGUGUGUUAAU(配列番号33);
(7)CUAGUCAGUGUGUUAAUCU(配列番号34);
のいずれかからなる。上記(1)~(7)に示す配列は、Sタンパク質のシグナルペプチド領域をコードする塩基配列の少なくとも一部を含むため、Sタンパク質の発現を好適に抑制し、SARS-CoV-2増殖を効果的に抑制することができる。
また、ここで開示されるsiRNAの好ましい一態様では、上記オーバーハングを構成する塩基配列がチミン・チミン(TT)である。これにより、RNAiが誘導され易くなり得る。
上記目的を実現するため、本開示により、SARS-CoV-2の増殖を抑制するために用いられる組成物が提供される。ここで開示される組成物は、ここで開示されるsiRNAを含むことを特徴とする。また、本開示により、SARS-CoV-2感染に対しての治療方法が提供される。ここで開示される治療方法の一態様では、ここで開示される組成物をヒトを除く動物に投与することを含むことを特徴とする。これにより、SARS-CoV-2に感染した動物個体中でSARS-CoV-2の増殖が抑制され、SARS-CoV-2感染による症状を緩和し得る。
例1~3に示すsiRNAのトランスフェクションおよびSARS-CoV-2感染後の細胞内から得られる総RNA量を示すグラフである。 ORF8のシグナルペプチド領域またはその近傍をターゲットとしたsiRNAのトランスフェクションおよびSARS-CoV-2感染後の細胞内から得られる総RNA量を示すグラフである。 例1~3に示すsiRNAのトランスフェクションおよびSARS-CoV-2感染後の培養培地(上清試料)中に含まれるSARS-CoV-2のRNAコピー数を示すグラフである。なお、ウイルスRNAコピー数は、細胞内から得られた総RNA量で補正されている。 例1~3に示すsiRNAをトランスフェクションすることによるSARS-CoV-2感染細胞抽出試料中に含まれるSタンパク質のRNA量の変化を示すグラフである。 例1~3に示すsiRNAをトランスフェクションすることによるSARS-CoV-2感染細胞抽出試料中に含まれるSARS-CoV-2のヌクレオカプシドタンパク質(以下、「Nタンパク質」ともいう)のRNA量の変化を示すグラフである。 例1~3に示すsiRNAをトランスフェクションすることによるSARS-CoV-2感染細胞抽出試料中に含まれるORF8(1)のRNA量の変化を示すグラフである。 例1~3に示すsiRNAをトランスフェクションすることによるSARS-CoV-2感染細胞抽出試料中に含まれるORF8(2)のRNA量の変化を示すグラフである。 例2に示すsiRNAを0~50nMの濃度範囲でトランスフェクションしたときのSARS-CoV-2感染細胞抽出試料中に含まれるSタンパク質のRNA量の変化を示すグラフである。 例2に示すsiRNAを0~50nMの濃度範囲でトランスフェクションしたときのSARS-CoV-2感染細胞抽出試料中に含まれるNタンパク質のRNA量の変化を示すグラフである。 例7~10に示すsiRNAのトランスフェクションおよびSARS-CoV-2感染後の培養培地(上清試料)1mL中に含まれるSARS-CoV-2ウイルスのRNAコピー数を示すグラフである。 例7~10に示すsiRNAを10nMまたは50nMの濃度でトランスフェクションしたときのSARS-CoV-2感染細胞抽出試料中に含まれるSタンパク質のRNA量の変化を示すグラフである。 例7~10に示すsiRNAを10nMまたは50nMの濃度でトランスフェクションしたときのSARS-CoV-2感染細胞抽出試料中に含まれるNタンパク質のRNA量の変化を示すグラフである。
以下、ここで開示される技術について詳細に説明する。本明細書において特に言及している事項(例えばsiRNAの構成)以外の事柄であって、実施に必要な事柄(例えばポリヌクレオチドの合成方法等に関するような一般的事項等)は、細胞工学、生理学、医学、薬学、有機化学、生化学、遺伝子工学、タンパク質工学、分子生物学、遺伝学等の分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここに開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、本明細書において、「ポリヌクレオチド」とは、複数(2以上)のヌクレオチドがリン酸ジエステル結合で結ばれたポリマーを指す用語であり、ヌクレオチドの数によって限定されない。例えば、ヌクレオチドとしてデオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドとの両者を含むものも本明細書における「ポリヌクレオチド」に包含される。
また、本明細書において「人為的に設計されたポリヌクレオチド」とは、そのヌクレオチド鎖(全長)がそれ単独で自然界に存在するものではなく、化学合成或いは生合成(即ち遺伝子工学に基づく生産)によって人為的に合成されたポリヌクレオチドをいう。
また、本明細書において、塩基配列は「5’」および「3’」の記載が付されていない限り、常に左側が5’末端側であり、右側が3’末端側を示す。
また、本明細書において、数値範囲をA~B(ここでA,Bは任意の数値)と記載している場合は、一般的な解釈と同様であり、A以上B以下(Aを上回り且つBを下回る範囲を含む)を意味するものである。
ここで開示されるsiRNAは、センス鎖と、アンチセンス鎖とから構成されている。センス鎖は、SARS-CoV-2のゲノムRNAの塩基配列の一部と同様の塩基配列を有するターゲット配列を含み、アンチセンス鎖は、センス鎖のターゲット配列と相補的な配列を含む。センス鎖とアンチセンス鎖はターゲット配列部分でハイブリダイズされており、siRNAは二本鎖を形成している。なお、センス鎖およびアンチセンス鎖は人為的に合成されたポリヌクレオチドである。
SARS-CoV-2は一本鎖RNAウイルスであることが知られており、そのゲノムRNAの配列は、例えばNCBI(National Center for Biotechnology Information)等のデータベースから入手することができる。なお、データベースによっては、SARS-CoV-2のゲノム配列がウラシル(U)に代えてチミン(T)で表記されるが、この場合には、SARS-CoV-2が一本鎖RNAウイルスであることを考慮し、TをUに読み替えることができる。
siRNAは細胞内に導入されることで、RNAiを誘導し得る。必ずしもこのメカニズムに限定されるものではないが、典型的には、siRNAは細胞内に導入された後、アンチセンス鎖がRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に取り込まれる。そして、アンチセンス鎖に含まれる配列と相補的な配列(即ち、ターゲット配列)を有するRNAを認識し、該RNAを切断、もしくは翻訳阻害をする。これにより、所望のタンパク質の発現を抑制することができる。ここで開示されるsiRNAは、このようなメカニズムを利用し、SARS-CoV-2のSタンパク質の発現を抑制することで、SARS-CoV-2の増殖を抑制する。
ここで開示されるターゲット配列は、SARS-CoV-2のゲノムRNAの一部と同様の塩基配列から構成される。また、ターゲット配列はSARS-CoV-2のSタンパク質のシグナルペプチド領域をコードする塩基配列(以下、「SP塩基配列」ともいう。)の少なくとも一部を含んでいる。
なお、本明細書において、「Sタンパク質のシグナルペプチド領域」とは、非特許文献1および2に開示されるように、SARS-CoV-2のSタンパク質の1番目から16番目までのアミノ酸配列(配列番号4)から成るペプチド領域のことをいう。即ち、本明細書において「Sタンパク質のシグナルペプチド領域をコードする塩基配列(SP配列)」とは、配列番号5に示す48塩基からなる塩基配列のことをいう。
ターゲット配列のうち、SP塩基配列に含まれる配列が占める割合は、ターゲット配列全体を100%としたとき、例えば、45%以上であることが好ましく、60%以上、75%以上、90%以上、または100%であってよい。シグナルペプチド領域をコードする塩基配列は変異し難い配列であると推測されるため、かかる割合を有するターゲット配列は、感染が拡大し得る多様なSARS-CoV-2変異株に対しても増殖抑制効果を発揮し得る。
ターゲット配列が、SP塩基配列由来の配列以外の塩基配列を含む場合は、SP塩基配列由来の配列の5’末端側または3’末端側に、SP塩基配列由来の配列以外の塩基配列が備えられる。即ち、ターゲット配列は、SARS-CoV-2のゲノムRNAにおけるSP塩基配列の5’末端側に連続している塩基配列を含んでいてもよく、SP塩基配列の3’末端側に連続している塩基配列を含んでいてもよい。これらの配列は、例えばNCBIが公開しているデータベース等で確認することができる。
ターゲット配列の長さは、従来公知のsiRNAの設計と同様であればよい。例えば、19塩基以上23塩基以下、または、19塩基以上21塩基以下であってよく、19塩基から構成されていてもよい。これにより、細胞内でRNAiが好適に誘導され、SARS-CoV-2の増殖を抑制することができる。
ターゲット配列は、典型的には、リボヌクレオチドのポリマーであるポリヌクレオチドで構成される。換言すれば、ターゲット配列はRNAで構成される。即ち、ターゲット配列の塩基配列は、典型的には、A(アデニン)、U(ウラシル)、G(グアニン)、C(シトシン)の4文字、またはa、u、g、cの4文字で表記される。
ターゲット配列の5’末端は、グアニンまたはシトシンであることが好ましい。グアニンおよびシトシンは相補鎖との結合力がアデニンおよびウラシルよりも高いため、センス鎖の5’末端側(即ち、アンチセンス鎖の3’末端側)の安定性が高くなる。換言すれば、アンチセンス鎖の5’末端側の安定性が相対的に低くなる。メカニズムの詳細は明らかではないが、RISCはセンス鎖、アンチセンス鎖のうち、5’末端側がよりエネルギー的に不安定な鎖を優先的に取り込む傾向がある。そのため、ターゲット配列の5’末端がグアニンまたはシトシンであることで、アンチセンス鎖がRISCに取り込まれ易くなり、RNAiをより好適に誘導し得る。その結果、SARS-CoV-2の増殖抑制効果がより好適に発揮される。
ターゲット配列の3’末端側の5塩基において、アデニンおよびウラシルが60%以上(即ち3塩基以上)含まれることが好ましく、80%以上(即ち4塩基以上)含まれてもよく、100%(即ち5塩基)であってもよい。これにより、アンチセンス鎖の5’末端側の安定性が3’末端側よりも相対的に低くなる。その結果、アンチセンス鎖がRISCに取り込まれ易くなり、RNAiをより好適に誘導し得る。その結果、SARS-CoV-2の増殖抑制効果がより好適に発揮される。
ターゲット配列全体のGC含量(ターゲット配列を構成する塩基配列全体に占めるGおよびCの合計割合)は、特に限定されるものではないが、例えば、20%以上60%以下であるとよく、30%以上50%以下が好ましく、30%以上45%以下であってよい。GC含量は、RISCに取り込まれるアンチセンス鎖と、ターゲット配列を有するRNAとの結合力や、RNAの切断容易性等に関わるパラメータである。上記GC含量であれば、RNAiの効果を好適に発揮することができる。
センス鎖は、ターゲット配列に加え、オーバーハングを有することが好ましい。オーバーハングはターゲット配列の5’末端側または3’末端側に付加される塩基配列である。好ましくは、オーバーハングはターゲット配列の3’末端側に付加される。オーバーハングが付加されることにより、RNAiがより効果的に誘導されるため、SARS-CoV-2の増殖を好適に抑制することができる。
オーバーハングは、2~4塩基からなる塩基配列で構成され、好ましくは2塩基からなる塩基配列で構成される。オーバーハングを構成する塩基配列は特に限定されるものではないが、好適な一例としては、TT(チミン・チミン)、UU(ウラシル・ウラシル)等が挙げられる。なお、オーバーハングがTTである場合には、オーバーハングはDNAで構成される。
オーバーハングは、ポリヌクレオチド(ダイマー、トリマー、もしくはテトラマー)から構成される。オーバーハングを構成するポリヌクレオチドは、リボヌクレオチドのみ、デオキシヌクレオチドのみ、またはデオキシヌクレオチドとリボヌクレオチドとの両方を含んで構成されていてもよい。即ち、センス鎖およびアンチセンス鎖は、全体がRNAであってよく、RNAとDNAとのキメラポリヌクレオチドであってよい。また、オーバーハングは修飾デオキシリボヌクレオチド、修飾リボヌクレオチド、その他の公知のヌクレオチド類似体等を含み得る。
センス鎖は、例えば、21塩基以上27塩基以下の塩基配列で構成され、21塩基以上25塩基以下、または21塩基以上23塩基以下で構成され得る。好適な一例では、ターゲット配列19塩基と、オーバーハング2塩基とからなる21塩基で構成される。かかる例では、RNAiが効果的に誘導されるため、SARS-CoV-2の増殖を好適に抑制することができる。
アンチセンス鎖は、センス鎖のターゲット配列と相補的な塩基配列を有する。これにより、アンチセンス鎖はセンス鎖とハイブリダイズされ、二本鎖構造が形成される。なお、上記相補的な塩基配列の部分は、典型的には、リボヌクレオチドのポリマー(RNA)で構成されている。
アンチセンス鎖は、センス鎖と同様、オーバーハングを有する。オーバーハングは、上記相補的な塩基配列の5’末端側若しくは3’末端側に付加されている。好ましい一例では、センス鎖のオーバーハングがターゲット配列の3’末端側に付加されているとき、アンチセンス鎖のオーバーハングは上記相補的な塩基配列の3’末端側に付加されている。
なお、アンチセンス鎖におけるオーバーハングの構成は上述したセンス鎖のオーバーハングの構成と同様であってよい。典型的には、アンチセンス鎖のオーバーハングの塩基配列は、ハイブリダイズするセンス鎖のオーバーハングと同じであるが、異なる塩基配列であってもよい。
アンチセンス鎖は、例えば、21塩基以上27塩基以下の塩基配列で構成され、21塩基以上25塩基以下、または21塩基以上23塩基以下で構成され得る。好適な一例では、アンチセンス鎖はセンス鎖と同じ長さの塩基配列で構成され、オーバーハングを除く塩基配列が全てセンス鎖のターゲット配列と相補的な塩基配列で構成される。
ここで開示されるsiRNAのターゲット配列の好適な配列の具体例として、配列番号1~3、31~34で示される以下の塩基配列:
(1)GUUUUAUUGCCACUAGUCU(配列番号1);
(2)GUCUCUAGUCAGUGUGUUA(配列番号2);
(3)CAGUGUGUUAAUCUUACAA(配列番号3);
(4)GUUUGUUUUUCUUGUUUUA(配列番号31);
(5)CCACUAGUCUCUAGUCAGU(配列番号32);
(6)CUCUAGUCAGUGUGUUAAU(配列番号33);
(7)CUAGUCAGUGUGUUAAUCU(配列番号34);
が挙げられる。なお、配列番号1~3、31~34に示す塩基配列はいずれもRNAで構成されている。
配列番号1に示される塩基配列は、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする塩基配列の16~34番目の塩基配列であり、SP塩基配列の一部の塩基配列である。
配列番号2に示される塩基配列は、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする塩基配列の31~49番目の塩基配列である。配列番号2に示す塩基配列のうち、1~18番目までの塩基配列はSP塩基配列の一部であり、19番目のAはSP塩基配列外の配列である。
配列番号3に示される塩基配列は、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする塩基配列の40~58番目の塩基配列である。配列番号3に示される塩基配列のうち、1~9番目までの塩基配列はSP塩基配列の一部であり、10~19番目の塩基配列はSP塩基配列外の配列である。
配列番号31に示される塩基配列は、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする塩基配列の3~21番目の塩基配列であり、SP塩基配列の一部の塩基配列である。
配列番号32に示される塩基配列は、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする塩基配列の25~43番目の塩基配列であり、SP塩基配列の一部の塩基配列である。
配列番号33に示される塩基配列は、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする塩基配列の33~51番目の塩基配列である。配列番号33に示す塩基配列のうち、1~16番目までの塩基配列はSP塩基配列の一部であり、17~19番目の塩基配列はSP塩基配列外の配列である。
配列番号34に示される塩基配列は、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする塩基配列の35~53番目の塩基配列である。配列番号34に示す塩基配列のうち、1~14番目までの塩基配列はSP塩基配列の一部であり、15~19番目の塩基配列はSP塩基配列外の配列である。
ターゲット配列が配列番号1~3、31~34のいずれかで構成されるsiRNAは、後述の試験例で示すように、SARS-CoV-2の増殖を顕著に抑制することができる。
ここで開示されるsiRNAを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖は、一般的な化学合成法に準じて製造することができる。例えば、市販のDNA/RNA自動合成機を使用して合成することができる。また、インビトロまたはインビボにおいて、遺伝子工学的手法に基づいてsiRNAを合成してもよい。なお、合成されたセンス鎖およびアンチセンス鎖は精製されていることが好ましく、例えばHPLC等により精製することができる。
ここで開示されるsiRNAは、例えば、センス鎖およびアンチセンス鎖をアニーリング(ハイブリダイズ)することで製造することができる。アニーリング方法は従来公知の方法に従えばよく、ターゲット配列を構成する塩基配列に応じてアニーリング温度、冷却速度等を調整すればよい。一例では、センス鎖とアンチセンス鎖とを溶媒中で等量混合し、90℃で1分~5分間加熱後、4℃~室温まで冷却することで、アニーリングを行うことができる。溶媒としては、例えば、蒸留水、純水、超純水、バッファー(例えば、pH7.4の30mM~50mM HEPES-KOHバッファー)等を使用できる。なお、活性のあるRNase(RNA分解酵素)が溶媒に混入することを防ぐため、溶媒は、例えばDEPC処理、オートクレーブ処理等がされたものが好ましく用いられる。
なお、siRNAは、溶媒に溶解した溶液状であってよく、ゲル状であってよく、粉末状であってもよい。
以上、ここで開示されるsiRNAについて説明したが、本開示により、さらに、ここで開示されるsiRNAを含む組成物が提供される。ここで開示される組成物は、使用形態に応じて医薬(薬学)上許容され得る種々の担体を含み得る組成物として提供され得る。担体としては、例えば、希釈剤、賦形剤等として医薬において一般的に使用される担体が好ましい。かかる担体としては、組成物の用途や形態に応じて適宜異なり得るが、典型的には、水、生理学的緩衝液、種々の有機溶媒が挙げられる。また、かかる担体は、適当な濃度のアルコール(エタノール等)水溶液、グリセロール、オリーブ油のような不乾性油であり得、或いはリポソームであってもよい。また、医薬用組成物に含有させ得る副次的成分としては、種々の充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、表面活性剤、色素、香料等が挙げられる。また、従来公知のドラッグデリバリーシステムに利用される担体を含み得る。
組成物の形態は、特に限定されない。例えば、典型的な形態として、液剤、懸濁剤、乳剤、エアロゾル、泡沫剤、顆粒剤、粉末剤、錠剤、カプセル、軟膏が挙げられる。また、注射等に用いるため、使用直前に生理食塩水または適当な緩衝液(例えばPBS)等に溶解して薬液を調製するための凍結乾燥物、造粒物とすることもできる。
siRNA(主成分)および種々の担体(副成分)を材料にして種々の形態の薬剤(組成物)を調製するプロセス自体は従来公知の方法に準じればよく、かかる製剤方法自体は本開示を特徴付けるものでもないため詳細な説明は省略する。処方に関する詳細な情報源として、例えばComprehensive Medicinal Chemistry,Corwin Hansch監修,Pergamon Press刊(1990)が挙げられる。
また、組成物はここで開示されるsiRNAを1種単独で、または2種以上の複数で含み得る。siRNAを2種以上含むことにより、発現抑制のターゲットとなる配列種が増加するため、SARS-CoV-2の増殖抑制をより好適に実現し得る。一方で、siRNAを1種単独で含む場合には、ターゲット配列に類似した塩基配列を有する宿主細胞のmRNAの翻訳を阻害する虞(いわゆる、オフターゲット効果)が低減される。ここで開示されるsiRNAは、1種単独で使用した場合であってもSARS-CoV-2の増殖を顕著に抑制することができるため、1種単独であっても好適に使用することができる。
また、本開示により、ここで開示される組成物を用いたSARS-CoV-2感染に対する治療方法が提供される。ここで開示される治療方法は、ヒト及び/又はヒトを除く動物に対してここで開示される組成物を投与することを含む。SARS-CoV-2は、ヒトだけでなく、ヒト以外の動物に対して感染し得るウイルスである。このような動物としては、例えば、イヌ、ネコ、トラ、ライオン、フェレット、ミンク、ハムスター、サル等の哺乳動物等が挙げられる。
組成物の投与方法は、従来動物の治療に使用されている方法に準じればよく、特に限定されない。組成物は、生体内(インビボ)において、その形態および目的に応じた方法や用量で使用され得る。例えば、液剤として、静脈内、筋肉内、皮下、皮内若しくは腹腔内への注射によって患者または動物個体(即ち生体)の患部(例えば悪性腫瘍組織、ウイルス感染組織、炎症組織等)に所望する量だけ投与することができる。あるいは、錠剤等の固体形態のものや軟膏等のゲル状若しくは水性ジェリー状のものを、直接所定の組織(即ち、例えば腫瘍細胞、ウイルス感染細胞、炎症細胞等を含む組織や器官等の患部)に投与することができる。あるいは、錠剤等の固体形態のものは経口投与することができる。経口投与の場合は、消化管内での消化酵素分解を抑止すべくカプセル化や保護(コーティング)材の適用が好ましい。
また、ここで開示されるsiRNAおよび組成物は、生体外(インビトロ)において、真核細胞に対しても使用することができる。インビトロにおける真核細胞は、例えば、生体から摘出された種々の細胞塊、組織、臓器、器官、血液、およびリンパ液、ならびにセルライン等を包含する。インビトロで使用される際には、siRNAは、例えば、種々の市販のトランスフェクション試薬と混合され得る。siRNA濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、真核細胞の培養培地中で、1nM以上であって、5nM以上(例えば6.25nM以上)であり得る。また、トランスフェクション効率の観点から、例えば、1μM以下であるとよく、100nM以下、50nM以下、25nM以下、12.5nM以下であり得る。さらに、ここで開示されるsiRNAは、低濃度であっても顕著なSARS-CoV-2抑制効果を発揮するため、例えば、siRNA濃度は、10nM以下、8nM以下、6.5nM以下であってもよい。
また、ここで開示されるsiRNAに含まれるターゲット配列は、shRNA(short hairpin RNA)にも使用され得る。shRNAは、ターゲット配列と、その相補的な配列とが一本鎖上に存在するRNAであり、これらの間にはループ構造を形成するためのループ配列が存在する。shRNAは、ループ構造を有することで、ターゲット配列とその相補的な配列とがハイブリダイズし、局所的な二本鎖構造を形成する。これにより、細胞内に存在する酵素であるDicerによってshRNAがプロセシングされ、ここで開示されるsiRNAが形成され得る。
shRNAの構成は、従来公知のshRNAと同様であってよい。shRNAの長さは、例えば、50~70塩基であり得る。また、ループ配列の長さは、例えば19~29塩基であり得る。また、shRNAは、ベクター(例えばレンチウイルス発現ベクター)内に組み込まれ得る。shRNAを使用することで、細胞内で安定的にRNAiを誘導し得るため、SARS-CoV-2の増殖を安定的に抑制し得る。
以下、ここに開示される技術に関するいくつかの試験例を説明する。ただし、ここに開示される技術は試験例に示すものに限定されるものではない。
<siRNAの調製>
ユーロフィンジェノミクス株式会社にポリヌクレオチドの合成を依頼し、12種類のポリヌクレオチドを得た。各ポリヌクレオチドの塩基配列を表1に示す。なお、各ポリヌクレオチドにおいて、3’末端側の「TT」(オーバーハング)はDNAであり、その他の配列(ターゲット配列)部分はRNAで構成されている。得られたポリヌクレオチドは、相補的な配列を有するセンス鎖とアンチセンス鎖とをアニーリングさせることで、例1~6に用いるsiRNAをそれぞれ調製した。
Figure 2023013932000002
表1に示す例1~3は上述したSARS-CoV-2のSタンパク質のシグナルペプチド領域をコードする塩基配列の少なくとも一部を含むように設計されたsiRNAである。一方で、例4~6は、SARS-CoV-2のORF8タンパク質に対するsiRNAである。ORF8タンパク質はシグナルペプチド領域を有しており、ORF8タンパク質をコードする塩基配列の1~45番目の配列(配列番号18)がシグナルペプチド領域をコードする塩基配列である。
例4のsiRNAは、ORF8タンパク質をコードする塩基配列の13~31番目の塩基配列(例4のセンス鎖のTTを除く配列部分)をターゲットとしている。即ち、ORF8タンパク質のシグナルペプチド領域をコードする塩基配列内の一部と同様となるように設計されている。
例5のsiRNAは、ORF8タンパク質のORF8タンパク質をコードする塩基配列の40~58番目の塩基配列(例5のセンス鎖のTTを除く配列部分)をターゲットとしている。即ち、ORF8タンパク質のシグナルペプチド領域をコードする塩基配列の少なくとも一部を含むように設計されている。
例6のsiRNAは、ORF8タンパク質のORF8タンパク質をコードする塩基配列の52~70番目の塩基配列(例6のセンス鎖のTTを除く配列部分)をターゲットとしている。即ち、ORF8タンパク質のシグナルペプチド領域をコードする塩基配列を含まないように設計されている。
[試験1]
<細胞へのsiRNAの導入およびウイルス感染>
(例1~6)
試験1では、上記準備したsiRNAのSARS-CoV-2の増殖抑制効果を検討した。この検討には、ヒトACE2遺伝子を安定発現するように形質転換されたヒト肝癌由来細胞株であるHuh7-ACE2細胞を用いた。また、Huh7-ACE2細胞の培養培地として、10%fetal bovine serum(FBS)を含むDulbecco’s minimal essential medium(DMEM)を用いた。まず、Huh7-ACE2細胞を5×10cells/wellとなるように、細胞培養用の48ウェルプレートに播種し、37℃、5%CO環境下で24時間培養した。次に、トランスフェクション試薬であるLipofectamine(商標)RNAiMAX(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、上記準備したsiRNAを10pmol/well(ウェル内培地中siRNA濃度10nM)または50pmol/well(ウェル内培地中siRNA濃度50nM)となるようにウェルに加えた。その後、37℃、5%CO環境下で6時間培養後、ウェルにSARS-CoV-2の野生株を2×10TCID50/wellとなるように加え、さらに2時間培養した。その後、PBSでウェルを洗浄し、上記培養培地をウェルに加え、2日間さらに培養し後、ウェル中の培地(上清)を回収した。次に、回収した上清に、等量の2×RNA溶解バッファー(0.4μL SUPERaseI(商標)RNase Inhibitor(Thermo Fisher Scientific社製)、2% TritonX-100、50mM KCl、100mM Tris-HCl(pH7.4)、40% glycerol)を混合し、室温で10分間静置した。その後、蒸留水で10倍に希釈し、qPCR用の上清試料を調製した。
一方で、ウェル中の細胞を回収し、ISOGEN(株式会社ニッポンジーンより購入)を用いてRNAを単離し、回収した。回収して得られたRNA量は260nmの吸光度に基づき測定した。回収したRNAのうち500ng分のRNAをSuperscript VILO cDNA Synthesis Kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてcDNA(以下、「細胞抽出試料」ともいう)を調製した。
(参考例1)
参考例1では、トランスフェクションおよびSARS-CoV-2の添加を行わなかったこと以外は上述の例1~6と同様にして、上清試料および細胞抽出試料を得た。即ち、参考例1は、SARS-CoV-2感染のない例を示す。
各例の細胞内から得られた総RNAの量を比較した。図1および2では、参考例1を100%としたときの値を示しており、値が低いほど細胞の生存数が低いと推定することができる。
図1に示すように、Sタンパク質のシグナルペプチド領域をコードする塩基配列の少なくとも一部をターゲットとしたsiRNAをトランスフェクションした例1~3では、いずれも参考例1の30%以上の値を示した。特に、例2においてはsiRNAの添加量に関わらず約80%の値を示し、例3においては、siRNAを50pmol添加したとき(siRNA濃度50nM)、約80%の値を示した。一方で、図2に示すように、ORF8タンパク質のシグナルペプチド領域またはその近傍をターゲットとした例4~6では、2%以下の低い値を示した。これらの結果から、Sタンパク質のシグナルペプチド領域をコードする塩基配列の少なくとも一部をターゲットとしたsiRNAをトランスフェクションした場合には、SARS-CoV-2感染を受けた細胞からRNAを回収可能なことがわかる。
次に、SARS-CoV-2の増殖数を比較するため、参考例1、例1~3の上記調製した上清試料に含まれるSARS-CoV-2のRNA量をqPCR(定量PCR;quantitative PCR)により測定した。PCR機はStepOnePlus(商標)リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific社製)を使用した。プライマーは、N-sarbecoをターゲットとするプライマーを用いた。表2にプライマー配列を示す。N-sarbecoのプライマーは、サルベコウイルス属(SARS-CoV-2が属する属名)が有するNタンパク質の保存領域をターゲットとする。ここでは、qPCRで求めたN-sarbecoのRNA量をSARS-CoV-2のRNAコピー数(ウイルスRNAコピー数)として示す。上清試料のqPCRには、qPCR試薬としてOne Step TB Green PrimeScript PLUS RT‐PCR Kit(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)を用い、PCR機は上記と同じのものを用いた。結果を図3に示す。なお、標準曲線は日本遺伝子研究所から購入したSARS-CoV-2のRNA(10copies/μL)を用いて作成した。
Figure 2023013932000003
図3は、上清試料に含まれるSARS-CoV-2のRNAコピー数を示すグラフである。ここでは、かかるRNAコピー数を細胞から得られた総RNA量1000ngあたりの値となるよう補正した。即ち、図3に示される値は、単位細胞あたりのウイルスRNA産生量とみなすことができる。図3に示すように、例1~3では、siRNAの添加量を増加させることで、単位細胞あたりのウイルスRNAコピー数を大きく減少させることができることが確かめられた。
次に、細胞抽出試料中のSARS-CoV-2のRNA量をqPCRにより定量した。qPCR用試薬としてSYBR Green リアルタイムPCR マスターミックス(Thermo Fisher Scientific社製)を使用し、PCR機は上記と同じのものを使用した。プライマーは、Sタンパク質の内部領域、ORF8の内部領域(「ORF8(1)」と表記する)、ORF8より上流からORF8の内部までの領域(「ORF8(2)」と表記する)、Nタンパク質のSARS-CoV-2特異的な領域(「SARS-CoV-2-N」と表記する)をターゲットとする4種類を使用した(表2参照)。また、qPCRの標準化のためにヒトGAPDHをターゲットするqPCRを行った(プライマーは表2参照)。
図4~7は、細胞抽出試料のGAPDHのCt値から上清試料中の各種ターゲット領域のCt値を引いた値を示す。図4~7は、縦軸の値が小さいほど、SARS-CoV-2のRNAの存在量が少ないことを示す。
図4~7に示すように、例1~3は、siRNAのターゲットとしたSタンパク質だけでなく、他の領域のRNAの存在量を低減させたことがわかる。即ち、例1~3において、SARS-CoV-2の増殖(ゲノムRNAの増加)が抑制されたことがわかる。また、例1~3のいずれにおいても、siRNAを50pmol添加したとき、SARS-CoV-2のRNAの増殖をより効果的に抑制することができることが確かめられた。
[試験2]
次に、例2のsiRNAを用いて、siRNAの濃度依存的なSARS-CoV-2増殖抑制効果をさらに検討した。上述した試験1の方法のうち、トランスフェクションの際の培地中siRNA濃度を0nM(即ち、トランスフェクション試薬のみ)、6.25nM、12.5nM、25nM、50nMとした以外は同様にして行った。また、参考例2として、siRNAおよびトランスフェクション試薬を添加せず、SARS-CoV-2を感染させた例を実施した。
試験2では、細胞抽出試料に含まれるSタンパク質およびNタンパク質のRNA量をそれぞれqPCRにより定量した。なお、qPCRの方法は試験1の細胞試料のqPCRの方法と同様であり、プライマーは表2に示すSタンパク質およびSARS-CoV-Nをターゲットするプライマーを用いた。結果を図8および9に示す。なお、図8および9は、siRNAを0nM添加した場合を1とした相対値を示している。
図8および9に示すように、例2で用いたsiRNAをトランスフェクションすることにより、siRNA濃度依存的に細胞抽出試料中のSARS-CoV-2のRNA量が減少することがわかる。さらに、siRNA濃度を6.25nMとしたときであっても、0nMのときと比較して、Sタンパク質およびNタンパク質のRNA量が100分の1以下となった。これにより、例2で用いたsiRNAは、低濃度であっても、SARS-CoV-2の増殖を顕著に抑制できることがわかる。
[試験3]
試験3では、ユーロフィンジェノミクス株式会社にポリヌクレオチドの合成を依頼し、8種類のポリヌクレオチドを得た。各ポリヌクレオチドの塩基配列を表3に示す。なお、各ポリヌクレオチドにおいて、3’末端側の「TT」(オーバーハング)はDNAであり、その他の配列(ターゲット配列)部分はRNAで構成されている。得られたポリヌクレオチドは、相補的な配列を有するセンス鎖とアンチセンス鎖とをアニーリングさせることで、例7~10に用いるsiRNAをそれぞれ調製した。表3に示す例7~10は、上述したSARS-CoV-2のSタンパク質のシグナルペプチド領域をコードする塩基配列の少なくとも一部を含むように設計されたsiRNAである。
Figure 2023013932000004
(例7~10)
試験1のうち、使用したsiRNAを表3に示すsiRNAに変更した以外は同様にして、上清試料と細胞抽出試料とを調製した。また、siRNAを添加しない系(即ち、siRNAが0nM)も同時に実施した。上清試料に対し、表2に示すN-sarbecoをターゲットとするプライマーを用いたqPCRを行い、上清試料1mLあたりのSARS-CoV-2のRNAコピー数を測定した。なお、qPCRの方法は試験1の上清試料のqPCRの方法と同様である。結果を図10に示す。
図10に示すように、例7~例10のいずれにおいても、siRNAを添加することで、上清試料に含まれるSARS-CoV-2のRNAコピー数が減少することがわかる。特に、例8~10では、siRNA濃度依存的に上清試料に含まれるSARS-CoV-2のRNAコピー数が減少していることがわかる。
また、細胞抽出試料に含まれるSタンパク質およびNタンパク質のRNA量をそれぞれqPCRにより定量した。qPCRの方法は試験1の細胞試料のqPCRの方法と同様であり、プライマーは表2に示すSタンパク質およびSARS-CoV-Nをターゲットするプライマーを用いた。結果を図11および12に示す。なお、図11および12は、siRNAを0nM添加した場合(即ち未添加)を1とした相対値を示している。
図11および12に示すように、例7~10のいずれにおいても、siRNAを添加することで、細胞抽出試料中のSタンパク質およびNタンパク質のRNA量が減少することがわかる。即ち、例7~10で用いたsiRNAは、SARS-CoV-2の増殖を抑制することがわかる。また、例8~10で用いたsiRNAでは、濃度依存的に細胞抽出試料中のSタンパク質およびNタンパク質のRNA量を減少させることができることがわかる。さらに、例8~10で用いたsiRNAは、10nMという低濃度であっても、0nMのときと比較して、Sタンパク質およびNタンパク質のRNA量が100分の1以下とすることができることが確かめられた。これにより、例8~10で用いたsiRNAは、SARS-CoV-2の増殖を顕著に抑制できることがわかる。
特に限定されるものではないが、以上の試験例から、ここで開示されるsiRNAによるSARS-CoV-2の増殖抑制メカニズムは、次のように推定される。ここで開示されるsiRNAは、Sタンパク質のシグナルペプチド領域の少なくとも一部をターゲットとするため、SARS-CoV-2のゲノムRNAのターゲット配列を分解または翻訳阻害をする。これにより、Sタンパク質の発現が抑制される。そのため、SARS-CoV-2粒子上のSタンパク質の量が減少し、ヒト細胞表面に存在するACE2と結合する頻度が減少する。その結果、SARS-CoV-2粒子の感染の拡大が抑制され、SARS-CoV-2の増殖を抑制することができる。一方で、例4~6において、SARS-CoV-2の増殖抑制効果が得られなかったのは、SARS-CoV-2の感染拡大のメカニズムにおいて、ORF8タンパク質は必要不可欠なものではなかったと推定される。即ち、siRNAによるSARS-CoV-2の増殖抑制効果は、そのターゲット配列に依存し得るものであり、ここで開示されるsiRNAは、SARS-CoV-2の増殖を顕著に抑制できるものといえる。
以上、ここに開示される技術の具体例を詳細に示したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
ここで開示されるsiRNAは、SARS-CoV-2の顕著な増殖抑制効果を発揮し、生存細胞の数を増加させることができる。このため、ここで開示されるsiRNAは、SARS-CoV-2に対する治療薬として用いることができ得る。また、ここで開示されるsiRNAは、アミノ酸変異が生じ難いと推定されるSARS-CoV-2のSタンパク質のシグナルペプチド領域の少なくとも一部をターゲットとしているため、SARS-CoV-2変異株に対しても、増殖抑制効果を発揮し得る。
配列番号1~3 siRNAのターゲット配列
配列番号6~17 1~19番目のヌクレオチドはRNAである。
配列番号19~30 プライマー
配列番号31~34 siRNAのターゲット配列
配列番号35~42 1~19番目のヌクレオチドはRNAである。

Claims (6)

  1. センス鎖と、アンチセンス鎖とから構成されるsiRNAであって、
    前記センス鎖は、
    5’末端の塩基がグアニン(G)またはシトシン(C)である19~23塩基からなるターゲット配列と、
    前記ターゲット配列の3’末端側に付加された2~4塩基からなるオーバーハングと
    から構成され、
    前記アンチセンス鎖は、
    前記ターゲット配列と相補的な配列と、
    該相補的な配列の3’末端側に付加された2~4塩基からなるオーバーハングと
    から構成されており、
    ここで、前記ターゲット配列の少なくとも一部は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質のシグナルペプチド領域をコードする塩基配列の少なくとも一部を含む、
    siRNA。
  2. 前記ターゲット配列の3’末端側の5塩基のうち少なくとも3塩基はアデニン(A)またはウラシル(U)である、請求項1に記載のsiRNA。
  3. 前記ターゲット配列は、以下の(1)~(7):
    (1)GUUUUAUUGCCACUAGUCU(配列番号1);
    (2)GUCUCUAGUCAGUGUGUUA(配列番号2);
    (3)CAGUGUGUUAAUCUUACAA(配列番号3);
    (4)GUUUGUUUUUCUUGUUUUA(配列番号31);
    (5)CCACUAGUCUCUAGUCAGU(配列番号32);
    (6)CUCUAGUCAGUGUGUUAAU(配列番号33);
    (7)CUAGUCAGUGUGUUAAUCU(配列番号34);
    のいずれかからなる、請求項1または2に記載のsiRNA。
  4. 前記オーバーハングを構成する塩基配列がチミン・チミン(TT)である、請求項1~3のいずれか一項に記載のsiRNA。
  5. SARS-CoV-2の増殖を抑制するための組成物であって、請求項1~4のいずれか一項に記載のsiRNAを含む、組成物。
  6. ヒトを除く動物に対して請求項5に記載の組成物を投与することを含む、SARS-CoV-2感染の治療方法。
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