JP2023008787A - 眼内レンズ - Google Patents

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博士 太田
Hiroshi Ota
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Hiroya Monobe
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Abstract

【課題】レンズ部を通過した光のうち、装用者によって認識されない光の量を抑制しつつ、焦点深度が適切に拡大された眼内レンズを提供する。【解決手段】第1領域は、最も中心に位置する円形の領域である。第1領域には、軸からの距離に関わらず、第1屈折力が一定に付与されている。第2領域は、第1領域の外側に隣接する環状の領域である。第2領域では、軸からの距離が離れるに従って、屈折力が第1屈折力から増加または減少する。外方領域は、第2領域よりも外側に位置する環状の領域である。外方領域には、遠方に焦点を合わせるための基準屈折力が付与されている。レンズ部の軸を中心とする半径1.5mmの領域を通過する光についての、空間周波数50lp/mmにおけるMTF曲線が、デフォーカス量-0.5D~0.5Dの範囲において1つの極大値を有し、且つ極小値の数が0である。【選択図】図3

Description

本開示は、眼内に挿入される眼内レンズに関する。
眼内に挿入される眼内レンズとして、レンズ部への入射光を単一の焦点に集光させる眼内レンズが知られている。入射光を単一の焦点に集光させる眼内レンズによると、レンズ部への入射光を複数の焦点に振り分けて集光させる眼内レンズに比べて、物体が高い解像度で視認され易い。
また、眼内レンズについて、ピントがある程度ずれた場合でも適切な解像度を得るための技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載の眼内レンズでは、レンズ部の少なくとも一方の面を非球面として焦点深度を拡大することで、ピントがずれる場合の解像度の低下が抑制されている。
特開2004-121433号公報
しかしながら、種々のシミュレーションおよび検討を行った結果、眼内レンズの焦点深度を拡大する方法が適切でなければ、レンズ部を通過して網膜へ至る光のうち、装用者によって認識されない光の量が多くなってしまうことが分かった。装用者によって認識されない光の量が多くなってしまうと、良好な視界は得られ難い。従って、眼内レンズの焦点深度を適切な方法で拡大できることが望ましい。
本開示の典型的な目的は、レンズ部を通過した光のうち、装用者によって認識されない光の量を抑制しつつ、焦点深度が適切に拡大された眼内レンズを提供することである。
本開示における典型的な実施形態が提供する眼内レンズは、レンズ部を備えた眼内レンズであって、円形または環状である複数の領域が、前記レンズ部の軸を中心として同心円状に前記レンズ部に配置されており、前記複数の領域は、最も中心に位置する円形の領域であり、前記軸からの距離に関わらず第1屈折力が一定に付与された領域である第1領域と、前記第1領域の外側に隣接する環状の領域であり、前記軸からの距離が離れるに従って、屈折力が第1屈折力から増加または減少する領域である第2領域と、前記第2領域よりも外側に位置する環状の領域であり、遠方に焦点を合わせるための基準屈折力が付与された領域である外方領域と、を含み、前記レンズ部の軸を中心とする半径1.5mmの領域を通過する光についての、空間周波数50lp/mmにおけるMTF曲線が、デフォーカス量-0.5D~0.5Dの範囲において1つの極大値を有し、且つ極小値の数が0である。
本開示における眼内レンズによると、レンズ部を通過した光のうち、装用者によって認識されない光の量を抑制しつつ、焦点深度が適切に拡大される。
眼内レンズ1の平面図である。 第1実施形態の眼内レンズにおけるレンズ部2の前面の構成を示す模式図である。 第1実施形態のレンズ部2の軸Oからの距離と、レンズ部2の屈折力(ディオプター)の関係を示すグラフである。 第1実施形態において、レンズ部2の軸Oを中心とする半径1.5mmの領域を通過する光についてのMTF曲線と、レンズ部2の軸Oを中心とする半径1.0mmの領域を通過する光についてのMTF曲線を比較したグラフである。 第1実施形態の眼内レンズ1のMTF曲線と、比較例の眼内レンズのMTF曲線を比較したグラフである。 第2実施形態のレンズ部2の軸Oからの距離と、レンズ部の屈折力(ディオプター)の関係を示すグラフである。
<概要>
本開示で例示する眼内レンズの第1態様では、円形または環状である複数の領域(1つの円形の領域と、1つ以上の環状の領域)が、レンズ部の軸を中心として同心円状にレンズ部に配置されている。複数の領域は、第1領域、第2領域、および外方領域を含む。第1領域は、最も中心に位置する円形の領域である。第1領域には、軸からの距離に関わらず、第1屈折力が一定に付与されている。第2領域は、第1領域の外側に隣接する環状の領域である。第2領域では、軸からの距離が離れるに従って、屈折力が第1屈折力から増加または減少する。外方領域は、第2領域よりも外側に位置する環状の領域である。外方領域には、遠方に焦点を合わせるための基準屈折力が付与されている。レンズ部の軸を中心とする半径1.5mmの領域を通過する光についての、空間周波数50lp/mmにおけるMTF曲線が、MTFが最も大きくなる位置を基準(0D)として、デフォーカス量-0.5D~0.5Dの範囲において1つの極大値を有し、且つ極小値の数が0である。
例えば、レンズ部の中心部において、軸に近づく程屈折力が強くなるように設計することで、眼内レンズの焦点深度を拡大することも考えられる。しかし、この方法では、屈折力が最大となる部分(軸の部分)を通過する光の量がごく僅かとなってしまう。従って、装用者は、軸の部分を通過する光を認識することができないため、最大の屈折力に対応する視界を認識することができない。軸に近づく程屈折力が弱くなるように設計する場合も、同様の問題が生じ得る。つまり、これらの方法では、軸の部分を通過する光は、装用者によって認識されずにロスされてしまう。
これに対し、本開示で例示する眼内レンズでは、第1領域、第2領域、および外方領域が配置されることで、レンズ部への入射光の多くを所定の焦点(後述の実施形態では、単一の焦点)の近傍に集光させる眼内レンズとしての要件(空間周波数50lp/mmにおけるMTF曲線が、MTFが最も大きくなる位置を基準(0D)として、デフォーカス量-0.5D~0.5Dの範囲において1つの極大値を有し、且つ極小値の数が0となる要件)を満たしつつ、焦点深度が拡大される。ここで、最も中心に位置する第1領域には、軸からの距離に関わらず、第1屈折力が一定に付与されている。従って、軸から僅かに離れるだけで屈折力が減少または増加する場合とは異なり、装用者は、第1屈折力に対応する視界を適切に認識することができる。よって、装用者によって認識されない光の量が抑制されるので、良好な視界が得られやすい。また、装用者は、第2領域を通過した光によって、第1屈折力に近い屈折力の範囲に対応する視野を得ることも可能である。よって、本開示の技術によると、レンズ部を通過した光のうち、装用者によって認識されない光の量を抑制しつつ、焦点深度が適切に拡大される。
なお、前述したMTF曲線が1つの極大値を有し極小値を持たない状態となるデフォーカス量の範囲は、変更することも可能である。例えば、デフォーカス量-1.0D~0.5Dの範囲において、MTF曲線が1つの極大値を有し極小値を持たない状態となってもよい。また、デフォーカス量-1.5D~0.5Dの範囲において、MTF曲線が1つの極大値を有し極小値を持たない状態となってもよい。これらの場合、より大きな焦点ずれが生じた場合でも視界が低下し難い眼内レンズとなる。
なお、本開示の種々の箇所において、「軸からの距離に関わらず屈折力が一定に付与された領域」との文言を使用している。この文言は、屈折力が領域内で厳密に一定であることを規定しているものではない。つまり、例えば収差の補正等を目的として、領域内で僅かに屈折力が変動している場合であっても、本開示の技術的範囲に含まれる。例えば、領域内における屈折力の変動割合(例えば、領域内の屈折力の最小値に対する最大値の割合等)が、15%以内、より望ましくは10%以内に収まっていればよい。また、外方領域に付与された基準屈折力も、収差の補正等を目的として、外方領域内である程度変化させてもよい。
第1領域の面積に対する、第2領域の面積の割合が、±50%以内であってもよい。つまり、「第2領域の面積/第1領域の面積≦1±0.5」が満たされていてもよい。この場合、第1領域および第2領域の各々の面積が十分に確保される。その結果、第1屈折力に対応する視界と、第1屈折力に近い屈折力の範囲に対応する視界の両方が、より適切に得られ易くなる。
なお、±50%の数値を変更することも可能である。例えば、第1領域の面積に対する、第2領域の面積の割合を±30%以内とすることで、第1領域および第2領域の各々の面積がより適切に確保される。
第1領域および第2領域の各々の面積が、0.6mm以上であってもよい。この場合、第1領域および第2領域の各々の面積が十分に確保される。その結果、第1屈折力に対応する視界と、第1屈折力に近い屈折力の範囲に対応する視界の両方が、より適切に得られ易くなる。
なお、第1領域および第2領域の面積は、0.8mm以上、より望ましくは1.1mm以上であってもよい。これらの場合、第1領域および第2領域の各々の面積がより適切に確保される。
第2領域の面積の大きさは、第1領域の面積以上の大きさであってもよい。この場合、軸からの距離に応じて屈折力が変化する第2領域の大きさが、より適切に確保される。よって、第1屈折力に近い屈折力に対応する視界が、より適切に得られる。つまり、眼内レンズの焦点深度が、より適切に深くなる。
第1領域に付与される第1屈折力は、基準屈折力よりも強い強屈折力であってもよい。第2領域では、軸からの距離が離れるに従って、屈折力が第1領域の強屈折力から減少してもよい。眼内レンズでは、レンズ部の周辺部に比べて軸の近傍の方が、収差が発生し難い。また、屈折力が強い部分である程、収差等が装用者の視界に与える影響は大きくなる。従って、基準屈折力よりも強い強屈折力を、収差が発生し難い中心の第1領域に付与することで、第1領域に基準屈折力を付与する場合に比べて、収差等が装用者の視界に与える影響が低下する。
複数の領域には、第3領域、第4領域、第5領域、および第6領域がさらに含まれていてもよい。第3領域は、第2領域の外側に隣接する環状の領域である。第3領域には、基準屈折力が付与される。第4領域は、第3領域の外側に隣接する環状の領域である。第5領域は、第4領域の外側に隣接する環状の領域である。第5領域には、強屈折力が付与される。第6領域は、第5領域の外側に隣接すると共に、外方領域の内側に隣接する環状の領域である。第4領域では、軸からの距離が離れるに従って、屈折力が第3領域の基準屈折力から第5領域の強屈折力に増加する。第6領域では、軸からの距離が離れるに従って、屈折力が第5領域の強屈折力から外方領域の基準屈折力に減少する。
この場合、内側から外側に向かって順に、強屈折力の領域(第1領域)、移行領域(第2領域)、基準屈折力の領域(第3領域)、移行領域(第4領域)、強屈折力の領域(第5領域)、移行領域(第6領域)、基準屈折力の領域(外方領域)が配置される。つまり、環状の外方領域よりも内側に、2つの強屈折力の領域と、その間の基準屈折力の領域が配置されることになる。よって、装用者の瞳孔が大幅に散瞳していなくても(つまり、瞳孔が外方領域よりも小さい状態でも)、網膜に届く光は、強屈折力の領域、基準屈折力の領域、および移行領域の各々を適切に通過し易くなる。その結果、装用者の瞳孔の大きさの変化に関わらず、適切な視野がさらに得られ易くなる。また、外方領域よりも内側の領域の数を7つ以上とする場合に比べて、領域の数を増加させることによる収差の増大も抑制される。なお、詳細は後述するが、第1領域の強屈折力と、第5領域の強屈折力は、厳密に同じである必要は無い。また、第3領域の基準屈折力と、外方領域の基準屈折力も、厳密に同じである必要は無い。
第1領域、第2領域、第3領域、第4領域、第5領域、および第6領域のうち、全ての領域間の面積の割合が、±50%以内であってもよい。この場合、第1~第6領域の各々の面積が十分に確保される。その結果、瞳孔が外方領域よりも小さい状態でも、基準屈折力から強屈折力の範囲に対応する適切な視野が得られ易くなる。なお、前述のように、±50%の数値を変更することも可能である。例えば、±50%の数値を±30%等に変更してもよい。
第1領域、第2領域、第3領域、第4領域、第5領域、および第6領域の各々の面積が、0.6mm以上であってもよい。この場合、第1~第6領域の各々の面積が十分に確保される。その結果、瞳孔が外方領域よりも小さい状態でも、基準屈折力から強屈折力の範囲に対応する適切な視野が得られ易くなる。なお、前述したように、「0.6mm以上」の数値を変更することも可能である。例えば、0.6mm以上の数値を、0.8mm以上、または1.1mm以上に変更してもよい。
また、第4領域の面積は、第3領域の面積以上であってもよい。第6領域の面積は、第5領域の面積以上であってもよい。これらの場合、基準屈折力と強屈折力の間の屈折力に対応する視界が、より適切に得られる。よって、眼内レンズの焦点深度が、より適切に深くなる。
なお、後述する第2態様の眼内レンズの構成の少なくとも一部を、前述した第1態様の眼内レンズの構成に付加することも可能である。また、第1態様の眼内レンズの構成の少なくとも一部を、後述する第2態様の眼内レンズの構成に付加することも可能である。
本開示で例示する眼内レンズの第2態様では、円形または環状である複数の領域(1つの円形の領域と、1つ以上の環状の領域)が、レンズ部の軸を中心として同心円状にレンズ部に配置されている。複数の領域は、第1領域、第2領域、第3領域、第4領域、および外方領域を含む。第1領域は、最も中心に位置する円形の領域である。第1領域には第1屈折力が付与されている。第2領域は、第1領域の外側に隣接する環状の領域である。第3領域は、第2領域の外側に隣接する環状の領域である。第3領域には、第1屈折力とは異なる第3屈折力が付与されている。第4領域は、第3領域の外側に隣接する環状の領域である。外方領域は、第4領域よりも外側に位置する環状の領域である。外方領域には、遠方に焦点を合わせるための基準屈折力が付与されている。第2領域では、軸からの距離が離れるに従って、屈折力が第1屈折力から第3屈折力に増加または減少する。第4領域では、軸からの距離が離れるに従って、屈折力が第2領域における変化とは逆の方向に変化する。第1領域、第2領域、第3領域、および、第4領域の少なくとも一部が、レンズ部の軸を中心とする半径1.5mmの領域内に配置されている。レンズ部の軸を中心とする半径1.5mmの領域を通過する光についての、空間周波数50lp/mmにおけるMTF曲線が、MTFが最も大きくなる位置を基準(0D)として、デフォーカス量-0.5D~0.5Dの範囲において1つの極大値を有し、且つ極小値の数が0である。
本開示で例示する眼内レンズでは、第1領域、第2領域、第3領域、および第4領域が中心から順に配置されることで、レンズ部への入射光の多くを所定の焦点(後述の実施形態では、単一の焦点)の近傍に集光させる眼内レンズとしての要件(空間周波数50lp/mmにおけるMTF曲線が、デフォーカス量-0.5D~0.5Dの範囲において1つの極大値を有し、且つ極小値の数が0となる要件)を満たしつつ、焦点深度が拡大される。ここで、第1領域に付与された第1屈折力と、第3領域に付与された第3屈折力は異なる。また、第2領域と第4領域では、軸からの距離が離れるに従って、逆の方向に屈折力が変化する。さらに、第1領域、第2領域、第3領域、および、第4領域の少なくとも一部が、ある程度縮瞳された状態の人間の瞳孔の半径に対応する半径1.5mmの領域内に配置されている。従って、装用者の瞳孔がある程度縮瞳された場合でも、網膜に届く光は、第1屈折力が付与された第1領域、第3屈折力が付与された第3領域、および、第1屈折力~第3屈折力の間で変化する移行領域(第2領域および第4領域)の各々を通過する。よって、装用者の瞳孔の大きさの変化に関わらず、第1屈折力から第3屈折力の範囲に対応する適切な視野が得られ易くなる。
なお、前述したMTF曲線が1つの極大値を有し極小値を持たない状態となるデフォーカス量の範囲は、変更することも可能である。例えば、デフォーカス量-1.0D~0.5Dの範囲において、MTF曲線が1つの極大値を有し極小値を持たない状態となってもよい。また、デフォーカス量-1.5D~0.5Dの範囲において、MTF曲線が1つの極大値を有し極小値を持たない状態となってもよい。これらの場合、より大きな焦点ずれが生じた場合でも視界が低下し難い眼内レンズとなる。
第3領域に付与される第3屈折力は、遠方に焦点を合わせるための基準屈折力であってもよい。第1領域に付与される第1屈折力は、基準屈折力よりも強い強屈折力であってもよい。第2領域では、軸からの距離が離れるに従って、屈折力が第1領域の強屈折力から第3領域の基準屈折力に減少してもよい。第4領域では、軸からの距離が離れるに従って、屈折力が第3領域の基準屈折力から増加してもよい。
眼内レンズでは、レンズ部の周辺に比べて軸の近傍の方が、収差が発生し難い。また、屈折力が強い部分である程、収差等が装用者の視界に与える影響は大きくなる。従って、基準屈折力よりも強い強屈折力を、収差が発生し難い中心の第1領域に付与することで、第1領域に基準屈折力を付与する場合に比べて、収差等が装用者の視界に与える影響が低下する。
第3領域に付与される基準屈折力の値と、外方領域に付与される基準屈折力の値は、厳密に同じ値である必要は無い。例えば、外方領域の基準屈折力に対する、第3領域の基準屈折力の割合は、±30%以内(つまり、「第3領域の基準屈折力/外方領域の基準屈折力≦1±0.3」)、より望ましくは、±20%以内であってもよい。この場合でも、装用者の瞳孔の大きさの変化に関わらず、適切な視野が得られる。ただし、外方領域の基準屈折力と、第3領域の基準屈折力の値が近い方が、装用者の瞳孔がある程度小さくなった場合の遠方の視野が得られ易くなる。
第1領域、第2領域、および、第3領域の少なくとも一部が、レンズ部の軸を中心とする半径1.0mmの領域内に配置されていてもよい。明るい環境下では、人間の瞳孔の半径は約1.0mm以下まで縮瞳する。軸を中心とする半径1.0mmの領域内に、第1領域、第2領域、および第3領域の少なくとも一部を配置するすると、非常に明るい環境下であっても、網膜に届く光は第1領域、第2領域、および第3領域の各々を通過する。よって、装用者の瞳孔が非常に小さくなった場合でも、基準屈折力から強屈折力の範囲に対応する適切な視野が得られ易くなる。
複数の領域には、第5領域と第6領域がさらに含まれていてもよい。第5領域は、第4領域の外側に隣接する環状の領域である。第5領域には強屈折力が付与される。第6領域は、第5領域の外側に隣接すると共に、外方領域の内側に隣接する環状の領域である。第6領域では、軸からの距離が離れるに従って、屈折力が第5領域の強屈折力から外方領域の基準屈折力に減少する。この場合、内側から外側に向かって順に、強屈折力の領域(第1領域)、移行領域(第2領域)、基準屈折力の領域(第3領域)、移行領域(第4領域)、強屈折力の領域(第5領域)、移行領域(第6領域)、基準屈折力の領域(外方領域)が配置される。つまり、環状の外方領域よりも内側に、2つの強屈折力の領域と、その間の基準屈折力の領域が配置されることになる。よって、装用者の瞳孔が大幅に散瞳していなくても、網膜に届く光は、強屈折力の領域、基準屈折力の領域、および移行領域の各々を適切に通過し易くなる。その結果、装用者の瞳孔の大きさの変化に関わらず、適切な視野がさらに得られ易くなる。また、外方領域よりも内側の領域の数を7つ以上とする場合に比べて、領域を増加させることによる収差の増大も抑制される。
第1領域、第2領域、第3領域、第4領域、第5領域、および、第6領域の少なくとも一部が、レンズ部の軸を中心とする半径1.5mmの領域内に配置されていてもよい。この場合、装用者の瞳孔がある程度縮瞳された場合でも、網膜に届く光は、2つの強屈折力の領域と、その間の基準屈折力の領域と、3つの移行領域の各々を通過する。よって、装用者の瞳孔の大きさの変化に関わらず、基準屈折力から強屈折力の範囲に対応する適切な視野が得られ易くなる。
なお、第1領域に付与される強屈折力の値と、第5領域に付与される強屈折力の値は、厳密に同じ値である必要は無い。例えば、第1領域の強屈折力に対する、第5領域の強屈折力の割合は、±30%以内(より望ましくは、±20%以内)であってもよい。この場合でも、装用者の瞳孔の大きさの変化に関わらず、適切な視野が得られる。
また、第5領域に付与される屈折力の値は、外方領域に付与される基準屈折力の値よりも、第1領域に付与される強屈折力に近い値であってもよい。この場合でも、装用者の瞳孔の大きさの変化に関わらず、適切な視野が得られる。
ただし、第1領域に強屈折力を付与し、且つ第3領域に基準屈折力を付与する場合の他の領域の構成を変更することも可能である。例えば、前述した第4領域と第6領域の間の第5領域を省略することも可能である。この場合でも、基準屈折力から強屈折力の範囲に対応する視野が得られる。
第1領域に付与される第1屈折力は、遠方に焦点を合わせるための基準屈折力であってもよい。第3領域に付与される第3屈折力は、基準屈折力よりも強い強屈折力であってもよい。第2領域では、軸からの距離が離れるに従って、屈折力が第1領域の基準屈折力から第3領域の強屈折力に増加してもよい。外方領域は、第4領域の外側に隣接して設けられていてもよい。第4領域では、軸からの距離が離れるに従って、屈折力が第3領域の強屈折力から外方領域の基準屈折力に減少してもよい。この場合、外方領域よりも内側に形成される領域の数が、極力少ない4つとなる。領域の数が少ない程、収差の発生量は抑制され易い。従って、外方領域よりも内側に形成される領域の数を4つとすることで、収差の発生が抑制された状態で、装用者の瞳孔の大きさに関わらず適切な視野が得られ易くなる。
なお、第1領域に付与される基準屈折力の値と、外方領域に付与される基準屈折力の値は、厳密に同じ値である必要は無い。例えば、外方領域の基準屈折力に対する、第1領域の基準屈折力の割合は、±30%以内(より望ましくは、±20%以内)であってもよい。
第1領域、第2領域、および、第3領域の少なくとも一部が、レンズ部の軸を中心とする半径1.0mmの領域内に配置されていてもよい。前述のように、明るい環境下では、人間の瞳孔の半径は約1.0mm以下まで縮瞳する。軸を中心とする半径1.0mmの領域内に、第1領域、第2領域、および第3領域の少なくとも一部を配置するすると、非常に明るい環境下であっても、網膜に届く光は第1領域、第2領域、および第3領域の各々を通過する。よって、装用者の瞳孔が非常に小さくなった場合でも、基準屈折力から強屈折力の範囲に対応する適切な視野が得られ易くなる。
<第1実施形態>
(概略構成)
図1~図5を参照して、第1実施形態の眼内レンズ1について説明する。まず、図1を参照して、眼内レンズ1の概略構成について説明する。なお、以下説明する眼内レンズ1の概略構成は、後述する第2実施形態の眼内レンズでも共通する。また、第1実施形態および第2実施形態では、レンズ部2への入射光の多くを単一の焦点の近傍に集光させる眼内レンズ(所謂単焦点眼内レンズ)を例示して説明を行う。ただし、本開示における技術を適用できる眼内レンズは、空間周波数50lp/mmにおけるMTF曲線が、デフォーカス量-0.5D~0.5Dの範囲において1つの極大値を有し、且つ極小値の数が0となる要件を満たす眼内レンズであればよい。従って、本開示における技術を、単焦点眼内レンズ以外の種々の眼内レンズ(例えば、多焦点眼内レンズ等)に適用することも可能である。
眼内レンズ1は、レンズ部(光学部)2と支持部3を備える。本実施形態の眼内レンズ1は、レンズ部2と支持部3が一体成型された、所謂ワンピース型の眼内レンズである。ただし、本開示で例示する技術は、ワンピース型以外の眼内レンズ(例えば、3ピース型の眼内レンズ等)にも適用できる。眼内レンズ1の材料には、例えば、BA(ブチルアクリレート)、HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)等の単体、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの複合材料等の種々の軟性の材料を採用できる。
レンズ部2は、患者眼に所定の屈折力を与える。レンズ部2の一対のレンズ面(前面および後面)は、凸面に形成されている。レンズ部2には、レンズ部の中心をレンズ面に対して垂直に通過する軸Oが存在する。本実施形態では、レンズ部2の軸Oは、レンズ部2の光軸と一致する。
本実施形態の眼内レンズ1では、レンズ部2における一対のレンズ面の少なくとも一方が非球面形状に形成されることで、レンズ部2の各部位における屈折力が調整されている。一例として、本実施形態では、レンズ部2の前面(凸面)が非球面形状に形成されることで、レンズ部2の各部位における屈折力が調整されている。しかし、レンズ部2の後面または両面が、非球面形状に形成されていてもよい。例えば、レンズ部2の前面および後面のうち、後述する屈折力の配置を実現するために非球面形状とされた側と反対側の面が、乱視を補正するためのトーリック形状に形成されていてもよい。この場合、本実施形態で説明する眼内レンズ1の効果に加えて、乱視を補正する効果も付与される。
支持部3は、レンズ部2を装用者の眼内(本実施形態では嚢内)で支持する。一例として、本実施形態の眼内レンズ1には、一対の支持部3が設けられている。ただし、支持部3の数は2つには限定されない。本実施形態では、支持部3の形状は、周方向に湾曲したループ形状となっている。支持部3の先端は自由端とされている。
(レンズ部の領域)
図2を参照して、第1実施形態の眼内レンズ1におけるレンズ部2の詳細について説明する。図2に示すように、軸Oに沿う方向(図2では前方)からレンズ部2を見た場合に、円形または環状である複数の領域R1~R6,ROが、軸Oを中心として同心円状にレンズ部2に配置されている。前述したように、本実施形態では、レンズ部2の前面(凸面)が非球面形状に形成されることで、複数の領域R1~R6,ROが設けられる。
第1領域R1は、複数の領域のうち最も中心に位置する円形の領域である。第2領域R2、第3領域R3、第4領域R4、第5領域R5、第6領域R6、および外方領域ROは、いずれも環状の領域である。第2領域R2は、第1領域R1の外側に隣接する。第3領域R3は、第2領域R2の外側に隣接する。第4領域R4は、第3領域R3の外側に隣接する。第5領域R5は、第4領域R4の外側に隣接する。第6領域R6は、第5領域R5の外側に隣接する。外方領域ROは、第6領域R6の外側に隣接する。
(各領域の屈折力)
図3を参照して、第1実施形態のレンズ部2の各領域R1~R6,ROにおける屈折力について説明する。図3に示すグラフでは、横軸がレンズ部2の軸Oからの距離、縦軸がレンズ部2の屈折力(ディオプター)を示す。本実施形態では、装用者が遠方に焦点を合わせるためにレンズ部2に付与される屈折力を、基準屈折力とする。グラフでは、基準屈折力を「0D」としている。付与される屈折力が強くなる程、装用者が合わせる焦点は近方に近づく。
第1領域R1に付与されている屈折力(第1屈折力)は、遠方に焦点を合わせるための基準屈折力よりも強い屈折力(以下、「強屈折力」という)とされている。詳細には、本実施形態の第1領域R1には、軸Oからの距離に関わらず、強屈折力が一定に付与されている。
第2領域R2では、軸Oからの距離が離れるに従って、屈折力が第1屈折力から減少する。詳細には、第2領域R2における屈折力は、軸Oからの距離が離れるに従って、第1領域R1の強屈折力から、第3領域R3に付与されている第3屈折力(基準屈折力)に減少する。なお、本実施形態の第2領域R2内の屈折力は、軸Oからの距離に比例して減少する。
第3領域R3に付与されている屈折力(第3屈折力)は、基準屈折力である。詳細には、本実施形態の第3領域R3には、軸Oからの距離に関わらず、基準屈折力が一定に付与されている。
第4領域R4では、軸Oからの距離が離れるに従って、屈折力が第3屈折力から増加する。詳細には、第4領域R4における屈折力は、軸Oからの距離が離れるに従って、第3領域R3の基準屈折力から、第5領域R5に付与されている第5屈折力(強屈折力)に増加する。なお、本実施形態の第4領域R4内の屈折力は、軸Oからの距離に比例して増加する。
第5領域R5に付与されている屈折力(第5屈折力)は、強屈折力である。詳細には、本実施形態の第5領域R5には、軸Oからの距離に関わらず、強屈折力が一定に付与されている。また、本実施形態では、第1領域R1に付与される強屈折力の値と、第5領域R5に付与される強屈折力の値は、同じ値となっている。しかし、第1領域R1と第5領域R5の各々に付与される強屈折力の値は、厳密に同じである必要は無い。例えば、第1領域R1の強屈折力に対する、第5領域R5の強屈折力の割合は、±30%以内(より望ましくは、±20%以内)であってもよい。この場合でも、装用者の瞳孔の大きさの変化に関わらず、適切な視野が得られる。
第6領域R6では、軸Oからの距離が離れるに従って、屈折力が第5屈折力から減少する。詳細には、第6領域R6における屈折力は、軸Oからの距離が離れるに従って、第5領域R5の強屈折力から、外方領域ROに付与されている基準屈折力に減少する。なお、本実施形態の第6領域R6内の屈折力は、軸Oからの距離に比例して減少する。
外方領域ROに付与されている屈折力は、基準屈折力である。詳細には、本実施形態の外方領域ROには、軸Oからの距離に関わらず、基準屈折力が一定に付与されている。しかし、外方領域ROに付与されている基準屈折力は、収差補正等を目的として領域内で変化していてもよい。また、本実施形態では、第3領域R3に付与される基準屈折力の値と、外方領域ROに付与される基準屈折力の値は、同じ値となっている。しかし、第3領域R3と外方領域ROの各々に付与される基準屈折力の値は、厳密に同じである必要は無い。例えば、外方領域ROの基準屈折力に対する、第3領域R3の基準屈折力の割合は、±30%以内(より望ましくは、±20%以内)であってもよい。この場合でも、装用者の瞳孔の大きさの変化に関わらず、適切な視野が得られる。
なお、本実施形態では、複数の領域R1~R6,ROのうち、軸Oからの距離が離れるに従って屈折力が増加または減少する領域(つまり、第2領域R2、第4領域R4、および第6領域R6)を、移行領域という場合もある。
(各領域の面積)
本実施形態では、第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3、第4領域R4、第5領域R5、および第6領域R6のうち、全ての領域間の面積の割合が、±50%以内となっている。詳細には、本実施形態では、第1領域R1~第6領域R6の面積が同一となるようにレンズ部2が設計されている。
また、本実施形態では、第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3、第4領域R4、第5領域R5、および第6領域R6の各々の面積が、0.6mm以上となっている。詳細には、本実施形態では、第1領域R1~第6領域R6の各々の面積は、1.1mm以上となっている。
(MTFの特性)
図4および図5を参照して、本実施形態の眼内レンズ1におけるMTFの特性について説明する。MTF(Modulation Transfer Function)とは、コントラストを示す指標である。図4および図5のグラフは、デフォーカス量(焦点ずれ、度数ずれの量)を横軸、MTFを縦軸とする、空間周波数50lp/mmにおけるMTF曲線を示す。
図4は、第1実施形態の眼内レンズ1を装用した装用者の眼を模した光学系において、レンズ部2の軸Oを中心とする半径1.5mm(直径3.0mm)の領域を通過する光についてのMTF曲線と、レンズ部2の軸Oを中心とする半径1.0mm(直径2.0mm)の領域を通過する光についてのMTF曲線を比較したグラフである。図4では、半径1.5mm(直径3.0mm)の領域のMTF曲線を点線で示し、半径1.0mm(直径2.0mm)の領域のMTF曲線を実線で示す。なお、レンズ部2の軸Oを中心とする半径1.5mm(直径3.0mm)の領域は、装用者の瞳孔がある程度縮瞳された場合に光が通過する領域に近似する。また、レンズ部2の軸Oを中心とする半径1.0mm(直径2.0mm)の領域は、装用者の瞳孔が非常に小さくなった状態で光が通過する領域に近似する。
図4に示すように、第1実施形態の眼内レンズ1では、半径1.5mm(直径3.0mm)の領域を光が通過する場合(つまり、装用者の瞳孔がある程度縮瞳された場合)でも、レンズ部2への入射光の多くを所定の焦点(本実施形態では単一の焦点)の近傍に集光させる眼内レンズとしての要件(空間周波数50lp/mmにおけるMTF曲線が、MTFが最も大きくなる位置を基準(0D)として、デフォーカス量-0.5D~0.5D(詳細には、-1.5D~0.5D)の範囲において1つの極大値を有し、且つ極小値の数が0となる要件)を満たしている。また、MTFの値は、極大値の近傍でのみ高い値を取るのではなく、デフォーカス量がある程度増減した場合でも高い値が維持されている。つまり、第1実施形態の眼内レンズ1では、焦点深度が適切に拡大されている。
また、図4に示すように、半径1.0mm(直径2.0mm)の領域を光が通過する場合(つまり、装用者の瞳孔が非常に小さくなった場合)でも、レンズ部2への入射光の多くを所定の焦点(本実施形態では単一の焦点)の近傍に集光させる眼内レンズとしての要件を満たしており、且つ、焦点深度も適切に拡大されている。また、半径1.0mmの場合のベストフォーカス位置は、半径1.5mmの場合のベストフォーカス位置に対して約-0.15Dしか変化していない。よって、装用者の瞳孔が非常に小さくなった場合でも、遠方視は悪化しづらい。
図5は、第1実施形態の眼内レンズ1のMTF曲線と、比較例の眼内レンズのMTF曲線を比較したシミュレーション結果を示すグラフである。比較例の眼内レンズでは、第1領域R1および第5領域R5に付与される強屈折力の大きさと、第2領域R2、第4領域R4、および第6領域R6における屈折力の変化量のみが、第1実施形態の眼内レンズ1と異なる。詳細には、比較例の眼内レンズでは、第1領域R1に約2.4Dの強屈折力が付与されており、且つ、第5領域R5に約2.8Dの強屈折力が付与されている。これに対し、第1実施形態の眼内レンズ1では、第1領域R1および第5領域R5の各々に、1.3Dの強屈折力が付与されている(図3参照)。なお、光が通過する領域は、軸Oを中心とする半径1.5mm(直径3.0mm)の領域に統一した。
図5に示すように、比較例の眼内レンズでは、第1領域R1および第5領域R5に付与される強屈折力の大きさが、第1実施形態の眼内レンズ1における強屈折力よりも大幅に増加した結果、遠用焦点と近用焦点が形成されている。つまり、比較例の眼内レンズは、多焦点眼内レンズの性質を有しており、レンズ部2への入射光の多くを単一の焦点の近傍に集光させることはできない。これに対し、第1実施形態の眼内レンズ1では、第1領域R1および第5領域R5に付与される強屈折力の値等が適切に調整されることで、レンズ部2への入射光の多くを単一の焦点の近傍に集光させる機能が維持された状態で、焦点深度が適切に拡大される。なお、比較例のグラフのうち、遠用焦点と近用焦点の間に表れているピークは、中間用の焦点ではなく、偽解像と呼ばれる現象によって表れるピークである。
(光のロスの抑制)
図3に示すように、第1領域R1には、軸Oからの距離に関わらず、第1屈折力(本実施形態では強屈折力)が一定に付与されている。従って、軸Oから僅かに離れるだけで屈折力が減少または増加する場合とは異なり、装用者は、第1屈折力に対応する視界を適切に認識することができる。よって、装用者によって認識されない光の量が抑制されるので、良好な視界が得られやすい。また、装用者は、第2領域R2を通過した光によって、第1屈折力に近い屈折力の範囲に対応する視野を得ることも可能である。よって、本開示の技術によると、レンズ部2を通過した光のうち、装用者によって認識されない光の量を抑制しつつ、焦点深度が適切に拡大される。
第1領域R1の面積に対する、第2領域R2の面積の割合が、±50%以内である。その結果、第1領域R1と第2領域R2の各々の面積が十分に確保されている。また、第1実施形態では、第1領域R1と第2領域R2の各々の面積を0.6mm以上とすることで、第1領域R1と第2領域R2の各々の面積が十分に確保されている。よって、第1屈折力に対応する視界と、第1屈折力に近い屈折力の範囲に対応する視界の両方が、より適切に得られ易くなっている。
第2領域R2の面積の大きさは、第1領域R1の面積以上の大きさとなっている(本実施形態では、第1領域R1の面積と、第2領域R2の面積は同じである)。その結果、軸Oからの距離に応じて屈折力が変化する第2領域R2の大きさが、適切に確保されている。よって、第1屈折力に近い屈折力に対応する視界が、より適切に得られる。つまり、眼内レンズ1の焦点深度が、より適切に拡大されている。
図3に示すように、第1実施形態の眼内レンズ1では、第1領域R1に強屈折力が付与されている。また、第2領域R2では、軸Oからの距離が離れるに従って、屈折力が第1領域R1の強屈折力から減少する。眼内レンズでは、レンズ部2の周辺部に比べて軸Oの近傍の方が、収差が発生し難い。また、屈折力が強い部分である程、収差等が装用者の視界に与える影響は大きくなる。従って、基準屈折力よりも強い強屈折力を、収差が発生し難い中心の第1領域R1に付与することで、第1領域R1に基準屈折力を付与する場合に比べて、収差等が装用者の視界に与える影響が低下する。
図2および図3に示すように、第1実施形態では、内側から外側に向かって順に、強屈折力の領域(第1領域R1)、移行領域(第2領域R2)、基準屈折力の領域(第3領域R3)、移行領域(第4領域R4)、強屈折力の領域(第5領域R5)、移行領域(第6領域R6)、基準屈折力の領域(外方領域RO)が配置される。つまり、環状の外方領域ROよりも内側に、2つの強屈折力の領域と、その間の基準屈折力の領域が配置されることになる。よって、瞳孔が外方領域ROよりも小さい状態でも、網膜に届く光は、強屈折力の領域、基準屈折力の領域、および移行領域の各々を適切に通過し易くなる。その結果、適切な視野がさらに得られ易くなる。また、外方領域ROよりも内側の領域の数を7つ以上とする場合に比べて、領域の数を増加させることによる収差の増大も抑制される。さらに、第5領域R5でも、第1領域R1と同様に、軸Oからの距離に関わらず、強屈折力が一定に付与されている。よって、強屈折力に対応する視野が適切に得られる。換言すると、装用者によって認識されない光の量が適切に抑制される。
第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3、第4領域R4、第5領域R5、および第6領域R6のうち、全ての領域間の面積の割合が、±50%以内である。その結果、第1領域R1~第6領域R6の各々の面積が十分に確保されている。また、第1実施形態では、第3領域R3、第4領域R4、第5領域R5、および第6領域R6の各々の面積を0.6mm以上とすることで、各面積が十分に確保されている。よって、瞳孔が外方領域ROよりも小さい状態でも、基準屈折力から強屈折力の範囲に対応する適切な視野が得られ易くなる。
図3に示すように、移行領域(第1実施形態では、第2領域R2、第4領域R4、および第6領域R6)では、軸Oからの距離に比例して屈折力が増減する。従って、軸Oからの距離と屈折力が比例しない場合に比べて、所望の数値から大きく外れた数値が一部に表れてしまう可能性が低下する。よって、レンズ部2の設計も容易となる。また、第2領域R2に加えて、第4領域R4および第6領域R6の大きさも、第1領域R1の面積以上の大きさとなっている(本実施形態では、第1領域R1~第6領域R6の面積は全て同じである)。その結果、基準屈折力から強屈折力の間に屈折力に対応する視界が、より適切に得られる。
(瞳孔の大きさの変化に対する対策)
図3に示すように、第2領域R2と第4領域R4では、軸Oからの距離が離れるに従って、逆の方向に屈折力が変化する。さらに、第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3、および、第4領域R4の少なくとも一部(本実施形態では、第4領域R4の全て)が、ある程度縮瞳された状態の人間の瞳孔の半径に対応する半径1.5mmの領域内に配置されている。従って、装用者の瞳孔がある程度縮瞳された場合でも、網膜に届く光は、第1屈折力が付与された第1領域R1、第3屈折力が付与された第3領域R3、および、第1屈折力~第3屈折力の間で変化する移行領域(第2領域R2および第4領域R4)の各々を通過する。よって、装用者の瞳孔の大きさの変化に関わらず、第1屈折力から第3屈折力の範囲に対応する適切な視野が得られ易くなる。
詳細には、第1実施形態では、第1領域R1に付与される第1屈折力は強屈折力であり、第3領域R3に付与される第3屈折力は基準屈折力である。前述したように、基準屈折力よりも強い強屈折力を、収差が発生し難い中心の第1領域R1に付与することで、第1領域R1に基準屈折力を付与する場合に比べて、収差等が装用者の視界に与える影響が低下する。
図2および図3に示すように、第1実施形態では、第1領域R1、第2領域R2、および、第3領域R3の一部が、レンズ部2の軸Oを中心とする半径1.0mmの領域内に配置されている。明るい環境下では、人間の瞳孔の半径は約1.0mm以下まで縮瞳する。軸Oを中心とする半径1.0mmの領域内に、第1領域R1、第2領域R2、および第3領域R3の少なくとも一部を配置すると、非常に明るい環境下であっても、網膜に届く光は第1領域R1、第2領域R2、および第3領域R3の各々を通過する。よって、装用者の瞳孔が非常に小さくなった場合でも、基準屈折力から強屈折力の範囲に対応する適切な視野が得られ易くなる。
前述したように、第1実施形態では、環状の外方領域ROよりも内側に、2つの強屈折力の領域と、その間の基準屈折力の領域が配置されることになる。つまり、第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3、第4領域R4、第5領域R5、および、第6領域R6の少なくとも一部が、レンズ部2の軸Oを中心とする半径1.5mmの領域内に配置されていてもよい。よって、装用者の瞳孔がある程度縮瞳された場合でも、網膜に届く光は、2つの強屈折力の領域、基準屈折力の領域、および移行領域の各々を適切に通過し易くなる。よって、装用者の瞳孔の大きさの変化に関わらず、基準屈折力から強屈折力の範囲に対応する適切な視野が得られ易くなる。
なお、第3領域R3~第6領域R6の構成を変更することも可能である。例えば、第3領域R3~第6領域R6にも、外方領域ROと同様に基準屈折力を付与してもよい。この場合でも、第1領域R1と第2領域R2によって、光のロスが抑制された状態で良好な視界が得られる。また、第4領域R4と第6領域R6の間の第5領域R5を省略することも可能である。この場合でも、基準屈折力から強屈折力の範囲に対応する視野が得られる。
<第2実施形態>
図6を参照して、第2実施形態の眼内レンズについて説明する。第2実施形態の眼内レンズと第1実施形態の眼内レンズ1は、レンズ部2における複数の領域の配置と、各々の領域における屈折力が異なるのみであり、他の構成は共通する。従って、第2実施形態の眼内レンズのうち、第1実施形態の眼内レンズ1と共通する構成については、説明を省略または簡略化する。なお、第2実施形態の眼内レンズも、第1実施形態と同様に、レンズ部2への入射光の多くを所定の焦点(後述の実施形態では、単一の焦点)の近傍に集光させる眼内レンズとしての要件(空間周波数50lp/mmにおけるMTF曲線が、デフォーカス量-0.5D~0.5Dの範囲において1つの極大値を有し、且つ極小値の数が0となる要件)を満たす。
(レンズ部の領域)
第2実施形態の眼内レンズにおけるレンズ部2の領域について説明する。図6に示すように、レンズ部2には、複数の領域R1~R4,ROが、軸Oを中心として同心円状に配置されている。
第1領域R1は、複数の領域のうち最も中心に位置する円形の領域である。第2領域R2、第3領域R3、第4領域R4、および外方領域ROは、いずれも環状の領域である。第2領域R2は、第1領域R1の外側に隣接する。第3領域R3は、第2領域R2の外側に隣接する。第4領域R4は、第3領域R3の外側に隣接する。外方領域ROは、第4領域R4の外側に隣接する。
(各領域の屈折力)
第2実施形態のレンズ部2の各領域R1~R4,ROにおける屈折力について説明する。図6に示すグラフでは、図3に示すグラフと同様に、横軸がレンズ部2の軸Oからの距離、縦軸がレンズ部2の屈折力(ディオプター)を示す。
第1領域R1に付与されている屈折力(第1屈折力)は、基準屈折力とされている。詳細には、本実施形態の第1領域R1には、軸Oからの距離に関わらず、基準屈折力が一定に付与されている。
第2領域R2では、軸Oからの距離が離れるに従って、屈折力が第1屈折力から増加する。詳細には、第2領域R2における屈折力は、軸Oからの距離が離れるに従って、第1領域R1の基準屈折力から、第3領域R3に付与されている第3屈折力(強屈折力)に増加する。なお、本実施形態の第2領域R2内の屈折力は、軸Oからの距離に比例して増加する。
第3領域R3に付与されている屈折力(第3屈折力)は、基準屈折力よりも強い強屈折力である。詳細には、本実施形態の第3領域R3には、軸Oからの距離に関わらず、強屈折力が一定に付与されている。
第4領域R4では、軸Oからの距離が離れるに従って、屈折力が第3屈折力から減少する。詳細には、第4領域R4における屈折力は、軸Oからの距離が離れるに従って、第3領域R3の強屈折力から、外方領域ROに付与されている基準屈折力に減少する。なお、本実施形態の第4領域R4内の一部には、軸Oからの距離に関わらず屈折力が一定となる領域(以下、「一定領域」という)も含まれている。しかし、第4領域R4には一定領域が設けられていなくてもよい。第2実施形態の第4領域R4のうち、一定領域以外の領域では、屈折力は、軸Oからの距離に比例して減少する。
外方領域ROに付与されている屈折力は、基準屈折力である。詳細には、本実施形態の外方領域ROには、軸Oからの距離に関わらず、基準屈折力が一定に付与されている。しかし、外方領域ROに付与されている基準屈折力は、収差補正等を目的として領域内で変化していてもよい。また、本実施形態では、第1領域R1に付与される基準屈折力の値と、外方領域ROに付与される基準屈折力の値は、同じ値となっている。しかし、第1領域R1と外方領域ROの各々に付与される基準屈折力の値は、厳密に同じである必要は無い。例えば、外方領域ROの基準屈折力に対する、第1領域R1の基準屈折力の割合は、±30%以内(より望ましくは、±20%以内)であってもよい。この場合でも、装用者の瞳孔の大きさの変化に関わらず、適切な視野が得られる。
(各領域の面積)
本実施形態では、第1領域R1、第2領域R2、および第3領域R3のうち、全ての領域間の面積の割合が、±50%以内となっている。詳細には、本実施形態では、第1領域R1~第3領域R3の面積が同一となるようにレンズ部2が設計されている。
また、本実施形態では、第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3、および第4領域R4の面積が、0.6mm以上となっている。詳細には、本実施形態では、第1領域R1~第4領域R4の各々の面積は、1.1mm以上となっている。
(光のロスの抑制)
図6に示すように、第1領域R1には、軸Oからの距離に関わらず、第1屈折力(第2実施形態では基準屈折力)が一定に付与されている。従って、軸Oから僅かに離れるだけで屈折力が減少または増加する場合とは異なり、装用者は、第1屈折力に対応する視界(つまり、第1領域R1を通過した光によって得られる視界)を適切に認識することができる。よって、装用者によって認識されない光の量が抑制されるので、良好な視界が得られやすい。また、装用者は、第2領域R2を通過した光によって、第1屈折力に近い屈折力の範囲に対応する視野を得ることも可能である。よって、本開示の技術によると、レンズ部2を通過した光のうち、装用者によって認識されない光の量を抑制しつつ、焦点深度が適切に拡大される。
第1領域R1の面積に対する、第2領域R2の面積の割合が、±50%以内である。その結果、第1領域R1と第2領域R2の各々の面積が十分に確保されている。また、第1実施形態では、第1領域R1と第2領域R2の各々の面積を0.6mm以上とすることで、第1領域R1と第2領域R2の各々の面積が十分に確保されている。よって、第1屈折力に対応する視界と、第1屈折力に近い屈折力の範囲に対応する視界の両方が、より適切に得られ易くなっている。
第2領域R2および第4領域R4の面積の大きさは、第1領域R1の面積以上の大きさとなっている。その結果、軸Oからの距離に応じて屈折力が変化する第2領域R2および第4領域R4の大きさが、適切に確保されている。よって、第1屈折力に近い屈折力に対応する視界が、より適切に得られる。つまり、眼内レンズ1の焦点深度が、より適切に拡大されている。
第2実施形態では、第3領域R3および第4領域R4の面積も0.6mm以上とすることで、各面積が十分に確保されている。よって、瞳孔が外方領域ROよりも小さい状態でも、基準屈折力から強屈折力の範囲に対応する適切な視野が得られ易くなる。
(瞳孔の大きさの変化に対する対策)
第2領域R2と第4領域R4では、軸Oからの距離が離れるに従って、逆の方向に屈折力が変化する。さらに、第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3、および、第4領域R4の少なくとも一部が、ある程度縮瞳された状態の人間の瞳孔の半径に対応する半径1.5mmの領域内に配置されている。従って、装用者の瞳孔がある程度縮瞳された場合でも、網膜に届く光は、第1屈折力が付与された第1領域R1、第3屈折力が付与された第3領域R3、および、第1屈折力~第3屈折力の間で変化する移行領域(第2領域R2および第4領域R4)の各々を通過する。よって、装用者の瞳孔の大きさの変化に関わらず、第1屈折力から第3屈折力の範囲に対応する適切な視野が得られ易くなる。
詳細には、第2実施形態では、第1領域R1に付与される第1屈折力は基準屈折力であり、第3領域R3に付与される第3屈折力は強屈折力である。この場合、外方領域ROよりも内側に形成される領域の数が、極力少ない4つとなる。領域の数が少ない程、収差の発生量は抑制され易い。従って、外方領域ROよりも内側に形成される領域の数を4つとすることで、収差の発生が抑制された状態で、装用者の瞳孔の大きさに関わらず適切な視野が得られ易くなる。
第2実施形態では、第1領域R1、第2領域R2、および、第3領域R3の一部が、レンズ部2の軸Oを中心とする半径1.0mmの領域内に配置されている。前述のように、明るい環境下では、人間の瞳孔の半径は約1.0mm以下まで縮瞳する。軸Oを中心とする半径1.0mmの領域内に、第1領域R1、第2領域R2、および第3領域R3の少なくとも一部を配置すると、非常に明るい環境下であっても、網膜に届く光は第1領域R1、第2領域R2、および第3領域R3の各々を通過する。よって、装用者の瞳孔が非常に小さくなった場合でも、基準屈折力から強屈折力の範囲に対応する適切な視野が得られ易くなる。
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。例えば、第1実施形態および第2実施形態の各々で例示された複数の技術の一部のみを、眼内レンズに採用することも可能である。
1 眼内レンズ
2 レンズ部
3 支持部
O 軸
R1 第1領域
R2 第2領域
R3 第3領域
R4 第4領域
R5 第5領域
R6 第6領域
RO 外方領域

Claims (7)

  1. レンズ部を備えた眼内レンズであって、
    円形または環状である複数の領域が、前記レンズ部の軸を中心として同心円状に前記レンズ部に配置されており、
    前記複数の領域は、
    最も中心に位置する円形の領域であり、前記軸からの距離に関わらず第1屈折力が一定に付与された領域である第1領域と、
    前記第1領域の外側に隣接する環状の領域であり、前記軸からの距離が離れるに従って、屈折力が第1屈折力から増加または減少する領域である第2領域と、
    前記第2領域よりも外側に位置する環状の領域であり、遠方に焦点を合わせるための基準屈折力が付与された領域である外方領域と、
    を含み、
    前記レンズ部の軸を中心とする半径1.5mmの領域を通過する光についての、空間周波数50lp/mmにおけるMTF曲線が、デフォーカス量-0.5D~0.5Dの範囲において1つの極大値を有し、且つ極小値の数が0であることを特徴とする眼内レンズ。
  2. 請求項1に記載の眼内レンズであって、
    前記第1領域の面積に対する、前記第2領域の面積の割合が、±50%以内であることを特徴とする眼内レンズ。
  3. 請求項1または2に記載の眼内レンズであって、
    前記第1領域および前記第2領域の各々の面積が、0.6mm以上であることを特徴とする眼内レンズ。
  4. 請求項1から3のいずれかに記載の眼内レンズであって、
    前記第1領域に付与される前記第1屈折力は、前記基準屈折力よりも強い強屈折力であり、
    前記第2領域では、前記軸からの距離が離れるに従って、屈折力が前記第1領域の前記強屈折力から減少することを特徴とする眼内レンズ。
  5. 請求項4に記載の眼内レンズであって、
    前記複数の領域は、
    前記第2領域の外側に隣接し、前記基準屈折力が付与された環状の第3領域と、
    前記第3領域の外側に隣接する環状の第4領域と、
    前記第4領域の外側に隣接し、前記強屈折力が付与された環状の第5領域と、
    前記第5領域の外側に隣接すると共に、前記外方領域の内側に隣接する環状の第6領域と、
    をさらに含み、
    前記第4領域では、前記軸からの距離が離れるに従って、屈折力が前記第3領域の前記基準屈折力から前記第5領域の前記強屈折力に増加し、
    前記第6領域では、前記軸からの距離が離れるに従って、屈折力が前記第5領域の前記強屈折力から前記外方領域の前記基準屈折力に減少することを特徴とする眼内レンズ。
  6. 請求項5に記載の眼内レンズであって、
    前記第1領域、前記第2領域、前記第3領域、前記第4領域、前記第5領域、および前記第6領域のうち、全ての領域間の面積の割合が、±50%以内であることを特徴とする眼内レンズ。
  7. 請求項5または6に記載の眼内レンズであって、
    前記第1領域、前記第2領域、前記第3領域、前記第4領域、前記第5領域、および前記第6領域の各々の面積が、0.6mm以上であることを特徴とする眼内レンズ。

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