JP2022552040A - てんかん発生を予防するおよび/または治療するためのマリマスタットの使用 - Google Patents

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Abstract

本発明は、脳損傷を罹患した対象のてんかん発生の予防または治療における、マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物またはその多形体の使用に関する。脳損傷は、卒中、外傷性脳損傷、または構造的または代謝的原因で惹起されたてんかん重積状態の結果である。マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩は、好ましくはてんかん発生の誘導後最初の24時間以内に投与される。【選択図】図1

Description

本発明は、てんかん発生を予防するおよび/または治療するためのマリマスタットの使用に関する。
マリマスタット(BB-2516)は、式Iの化合物である:
Figure 2022552040000002
マリマスタットは、マトリクス・メタロプロテイナーゼ(MMP)として知られるファミリーに属する酵素の周知の阻害剤である。これらの酵素は、組織形成および再構築過程の細胞外マトリックス蛋白質の分解において重要な役割を担う(Matrisian、1990)。生理的または病的条件下でECM環境を制御するプロテアーゼの1つは、ゼラチン分解特性を有するIV型コラゲナーゼである、MMP-9である。MMP-9の可用性および活性は、潜在的酵素前駆体としてのその分泌およびメタロプロテイナーゼ(TIMP)の内因性組織阻害剤による阻害を含む、複数のレベルで厳密に制御されている(KleinerおよびStetler-Stevenson、1993)。最も重要なことに、過剰なMMP-9活性は、複数の疾患(例えば、癌または神経変性病態など)の病因において重要な役割を果たすと考えられる(KimおよびJoh、2012)。したがって、MMP-9阻害剤は治療薬であると見なされている。
マリマスタットは、ほとんどの主要なMMP(MMP-1、MMP-2、MMP-3、MMP-7およびMMP-9)に対して広域スペクトルの強力な阻害活性を示す(RasmussenおよびMcCann、1997)。マリマスタットは、腫瘍学分野において臨床試験に導入された最初のマトリクス・メタロプロテイナーゼ阻害剤である。それは経口投与後にほぼ完全に吸収され、予測可能で高い生物学的利用能および約15時間の半減期(1日2回投与に規格化した場合)を有するので、マリマスタットはヒトにおける好ましい薬物動態プロファイルを有し、臨床試験のための有効な治療の選択肢となる(Millarら、1998)。重要なことに、短期のマリマスタットは患者に充分忍容性であり、一方で高用量での長期治療(数週間)は、患者の最大60%が影響をうける重度の関節痛(症候性炎症性多発性関節炎)を含む副作用を伴う(Kingら、2003;Renkiewiczら、2003;Sparanoら、2004;Wojtowicz-Pragaら、1998)。これらの症状は、治療の中止により可逆的であった(StewardおよびThomas、2000)。それらの発生率は、低用量の10mg/体重kgでマリマスタットを用いることにより減少されている(Bramhallら、2002;Steward、1999)。
マリマスタットは、マウス癌モデルの前臨床試験において腫瘍(黒色腫、血管腫、卵巣癌、結腸直腸癌、乳癌および膵臓癌)の進行を阻害し(RasmussenおよびMcCann、1997);ここで腫瘍増殖に対する効果は、増加された生存率と関連づけられた。さらに、マリマスタットの正の効果が、ヒトの膵臓癌(Bramhallら、2001;Evansら、2001;Rosemurgyら、1999)、肺癌(Wojtowicz-Pragaら、1998)、乳癌(Millerら、2002)、結腸直腸癌(Northら、2000)および胃腺癌(Bramhallら、2002)を有する患者において示されているが、胃癌の動物モデルにおいても示された(Kimataら、2002)。
意外なことに、本発明者らは、マリマスタットが、てんかん発生の治療および/または予防において新規で非常に有用な用途を有し得ることを、実験的に見いだした。したがって、本発明の目的は、脳損傷を罹患した対象におけるてんかん発生を予防するまたは治療することにおける、マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物またはその多形体の使用を提供することである。これまでのところ、マリマスタットは市販承認されていない。
有害な副作用は、癌治療におけるマリマスタットの長期使用を妨げた。重要なことは、健常な対象の試験は、高用量単回投与(800mgまで)後に、あるいは1日2回で1週間の反復投与(200mgまで)後に、いかなる副作用も示さなかった(Millarら、1998)ことである。本発明者らは、てんかん発生を予防するおよび/または治療するためのマリマスタットの新規な医学的用途を意外にも見いだした。
マリマスタットはネクチン-3の切断を阻害することを示すウエスタンブロット分析。 切断型のMMP-9蛋白質標的(ネクチン-3の17キロダルトン断片)の発現。a、免疫ブロッティング;b、光学密度。 電極配置を示すマウス頭蓋骨の上面図。 カイニン酸注射後の最初の24時間における、てんかん発作の出現を示すグラフ。 カイニン酸注射後の最初の週における、てんかん発作の出現を示すグラフ。 カイニン酸注射後の慢性変化を示すグラフ。
てんかん発生
てんかん発生は、遷延性で持続する過程であり、その間に、以前は正常であった脳のネットワークが、てんかん発作感受性が増加するように機能的に変化し、従って自発的な再発性のてんかん発作を起こす高まった確率を有する(Pitkanenら、2015)。てんかん発生は、2段階に分けられ:第1は、てんかん状態の発生であり、第2は、それが確立された後のてんかんの進行である。ほとんどの場合、ヒトのてんかん発生は、脳損傷によって始まる(卒中、外傷性脳損傷(TBI)あるいは構造上または代謝上の原因で起こるてんかん重積状態(SE))(Annegersら、1998;Graham Neil S.N.ら、2013;Hesdorfferら、1998)。興味深いことに、てんかん発生率は、脳損傷間で異なり、SEおよび卒中後に最も高い。
SEの複数の動物モデルが存在し、そこからカイニン酸注射モデルを、本発明で利用した。カイニン酸(KA)は、興奮毒性グルタミン酸のアナログであり、げっ歯類の脳において選択的神経細胞死をもたらす。KAは、主要な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸のイオンチャンネル型受容体(iGluR)のカイニン酸型およびAMPA型に作用することによって、神経興奮毒性およびてんかん原性特性を発揮する。iGluRへのKAの結合時に、KAは、細胞内Ca2+流入、反応性酸素種(ROS)産生、および神経細胞アポトーシスおよび壊死に至るミトコンドリア機能不全を含む、多数の細胞事象を誘導する(Zhengら、2011)。KAの全身性の(静脈内または腹腔内のいずれか)、鼻腔内の、または局所的な投与は、再発性てんかん発作、げっ歯類の挙動変化、酸化ストレス(ROSおよび反応性窒素種(RNS)の発生を含む)、海馬神経細胞死ならびにグリア活性化を含む、げっ歯類における一連の臨床症状および病的変化をもたらす(Wangら、2005)。最初の20~30分の間に、動物は、点頭、直立、および卒倒のような挙動変化を示し始める。通常それは約30分ほどかかり、その後動物は、てんかん重積状態へと進展する再発性辺縁系てんかん発作を示し始める(Chuangら、2004)。細胞レベルでは、KA投与は、主に海馬体門部CA3およびCAI領域で起こるが、高用量のKAの場合へんとう体内側核でも起こる、海馬の損傷をもたらす。
てんかん発生におけるMMP-9
血液脳関門破壊、ならびに炎症反応およびシナプス可塑性への寄与を含む、それによりMMPがてんかん発生(epileptogenesis)およびてんかん(epilepsy)に関与し得る、複数のメカニズムがある。てんかんの異なるモデルおよび種類において重要な役割を有する最もよく調べられた蛋白質分解酵素は、MMP-9であると思われる(Vafadariら、2016)。まず、Zhangら(1998;2000)は、痙攣誘発用量のKAを与えたげっ歯類の脳におけるMMP-9(ならびにMMP-2)のレベルの増加を報告した(Zhangら、1998、2000)。次に、KAは、MMP-9のmRNAのみならずMMP-9蛋白質および酵素活性のレベルも上方調節することが示された(Szklarczykら、2002)。重要なことに、これらの応答は、歯状回(つまり、最も広汎なKA投与後可塑性を受ける海馬領域)に限定され、てんかん発生をおそらく支持している。次に、てんかん発生におけるMMP-9の役割が、2つの動物モデル:KA惹起性てんかん重積状態(SE、てんかん発生を惹起することが知られている病態)および痙攣誘発性ペンチレンテトラゾール(PTZ、GABAa受容体拮抗剤)による化学的発火(Wilczynskiら、2008)、で裏付けられた。Wilczynskiら(2008)は、PTZ発火に対する感度がMMP-9ノックアウトマウスでは低下されたが、神経でMMP-9を過剰発現するトランスジェニックラットでは増加されたことを示した。さらに、彼らは、MMP-9欠乏が樹状突起棘のKA惹起性刈り込みを減少させ、かつ苔状線維発芽後の異常シナプス形成を低下させたことを実証した。最後に、彼らはまた、MMP-9が興奮性シナプスに関連し、MMP-9蛋白質のレベルおよび酵素活性の両方がてんかん発作時に顕著に増加することを報告した。その後、てんかん発生におけるMMP-9の推定的役割が、Mizoguchiら(2011)により裏付けられ、彼らは、PTZ発火モデルの損傷海馬における上昇されたMMP-9の活性および発現を示した。
本発明は、脳損傷を罹患している対象においててんかん発生を予防するまたは治療することにおける、マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物またはその多形体の使用を提供する。
好ましい一実施態様において、脳損傷は、卒中、外傷性脳損傷、あるいは構造的または代謝的原因により惹起されたてんかん重積状態の結果である。
好ましくは、マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩を、経口投与、舌下投与、頬側投与、皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与または髄腔内投与する。
さらなる好ましい実施態様において、マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩を、てんかん発生誘導後に、単回投与量または反復用量(1日2回、最長で6.5日間)で投与する。
好ましくは、マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩を、てんかん発生誘導後1~3日間、反復用量で投与する。
さらなる好ましい実施態様において、マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩の単回投与量は、ヒトに用いる場合、200mg~800mgである。
好ましい一実施態様において、マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩を、てんかん発生の誘導後最初の24時間以内に投与する。
好ましい一実施態様において、マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩を、てんかん発生誘導後3時間以内に投与し、より好ましくはマリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩を、てんかん発生誘導後1時間以内に投与し、最も好ましくはマリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩を、てんかん発生誘導後30分以内に投与する。
ここで「てんかん発生誘導」という表現はまた、すべての原因となる事故を含み、情報通信事故;労働災害;家内事故(すべての種類の転倒など);建設現場での事故およびバーでの喧嘩、ならびに脳損傷をもたらす、スポーツ関連または戦闘関連の傷害を含むが、これらに限定されない。
本明細書中の用語「対象」は、哺乳動物(マウスおよびラットを含むげっ歯類など);有蹄動物(サーカスまたは競馬のウマなど);またはヒト(負傷者、スタントマン、スポーツマン、または軍人など)を含むが、これらに限定されない。
以下の非限定的な例によって、本発明をさらに具体的に説明する。
実施例
実施例1:インビトロでのMMP-9活性の特異的阻害
第1の非限定的な例において、化合物を、インビトロでMMP-9活性の特異的阻害に関して試験した。海馬ニューロンを、以前に記述されるように(Habasら、2006)出生後0日目(P0)にWistarラット新生仔から調製した。培地は、B27(Invitrogen)ならびに1mMのL-グルタミン、100U/mlのペニシリンおよび0.1mg/mlのストレプトマイシンが補充された神経培地(Neurobasal Medium)から成る。これらの実験のために用いた細胞は、7DIVであった。マリマスタットを、最小有効用量を決定するために異なる濃度;5nM、0.5μM、5μM、40μMおよび100μM、で用いた。マリマスタット添加(培地補充で)後30分に、細胞を、PBSで洗浄し、MMP-9放出に至る神経細胞活動を促すためにグルタミン酸(5μM;培地添加)で処理した。対照培養は、グルタミン酸および阻害剤I(MMP-9活性に対して阻害効果が実証されている阻害剤)の存在下でグルタミン酸で刺激した神経細胞から成った。実験を、4回繰り返した(繰返しとして異なる神経細胞培養物で)。MMP-9活性のレベルを、MMP-9の基質であるネクチン-3の切断により評価した。
ネクチン-3は、シナプスのシナプス後部で主に発現される膜貫通蛋白質である(van der Kooijら、2014)。ネクチン-3分解は、N末端細胞外ドメインの蛋白質分解性脱離とそれに続く細胞内ドメインの切断により起こり得る。ネクチン-3の蛋白質分解処理に関与する分子の一つは、MMP-9である。本発明者らは、ネクチン-3の基礎量(免疫ブロッティングによる)およびネクチン-3の切断断片(おおよそ17キロダルトン)の存在を評価した。
免疫ブロッティングのために、培養物を、ガラス製ダウンス型ホモジナイザーを用いて1mMのMgCl、5mMのHEPES(pH=7.4)、320mMスクロース、1mMのNaF、およびcOmplete(登録商標)プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)を含む溶解緩衝液中でホモジナイズした。蛋白質濃度を、BCA蛋白質アッセイキットを用いて測定した(Pierce)。25マイクログラムのホモジネートを、10%ポリアクリルアミドゲルに移した。ウエスタンブロットを、1:500希釈で抗ネクチン抗体を用いる標準的方法により行った。次に、ブロットを、抗アクチン抗体(1:1000)(Sigma)で再プローブして、総蛋白質量が均等であるかを確かめた。化学発光による検出法を、用いた。個々のバンドの定量化のために、写真フィルムのスキャンを、GeneToolsソフトウェア(Syngene)を用いるデンシトメトリーにより分析した。
結果
マリマスタットは、ネクチン-3のMMP-9依存性切断を阻害する(用いた0.5μM用量からすでに(図1))ことが示された。
実施例2:血液脳関門透過
インビボでのマリマスタットの阻害効果を示す上の結果に基づいて、本発明者らは、この化合物が血液脳関門を透過するか否か(これは動物におけるその治療用途の前提である)を評価した。本目的のために、マウス(C57B16系統)に、体重1kgあたり9mgのマリマスタットを腹腔内注射した。
マリマスタットの腹腔内投与1時間後に、マウス(C57B16系統)を、屠殺し、血液試料、脳組織(海馬および皮質領域)を採取した。血清を得るために、血液試料を、クエン酸存在下で遠心分離した。試料中のマリマスタットを抽出する方法を、本化合物の特性に従い選択し開発した。この場合、本発明者らは、アセトニトリルと水の混合物(1:1 v/v)による抽出を用い、得られた産物をn-ヘキサンで精製して、マトリックスの脂溶性化合物(脂肪酸、脂肪、コレステロールなど;試料中のそれらの存在は、検出技術において記録される分析シグナルを大幅に抑制する)を除去した。
マリマスタット抽出の再現性は、100%に近かった(n=3での抽出性能の反復性ならびに技術的計測の反復性を含む相対標準偏差RSDは、2%未満である)。海馬および皮質抽出物における、ならびに血清試料における化合物濃度の測定を、MRMモードでのHPLC-ESI MS/MS技術:MRMモードでのエレクトロスプレー質量分析法による検出を備えた高速液体クロマトグラフィー(フォローアップ追跡)を用いて実施した。本測定方法を、標準溶液の使用での最大感度を達成するために、最適化した。マリマスタット用に開発した分析方法を、部分的に検証した(反復性、再現性、回収性)。
結果
マリマスタットは、両方の脳領域(海馬および皮質)ならびに血清中で検出され、これは、マリマスタットが、血液脳関門を透過し、かつ動物試験に利用でき、脳においてMMP-9への阻害効果を発揮することを意味する。
Figure 2022552040000003
実施例3:てんかん発生のマウスモデルにおけるマリマスタット
さらなる非限定的実施例で、マリマスタットを、てんかん発生のマウスモデル(海馬内カイニン酸注射)において、インビボで試験した。上の結果に基づき、マリマスタットは血液脳関門を透過し、投与後1時間を超えて脳中に留まることが分かった。これは、マリマスタットの潜在的治療効果を可能にする最適時間である。この段階で、本発明者らは、亜痙攣誘発剤(カイニン酸:これはグルタミン酸受容体の作動物質である)の単回投与後に、MMP-9阻害に対するマリマスタットの効果を評価した。マウスに、KA投与の1時間前に、マリマスタット(9mg/体重kg)を腹腔内注射した。マリマスタットの注射後1時間に、40mMのカイニン酸を、腹腔内投与した。KA注射の結果として、強いてんかん発作が、増加した神経活動のため観察された。
KAによって惹起されるてんかん発作(てんかん発生)の過程は、樹状突起棘からのMMP-9放出と密接に関連する。痙攣誘発剤注射前にマリマスタット投与を利用して、インビボでのその有効性を確認した。この目的のために、KA注射の6時間後に、海馬を単離し、免疫ブロッティングアッセイを、切断型ネクチン-3蛋白質の存在について行った。
結果
阻害剤投与は、ネクチン-3の酵素的切断(17キロダルトンのネクチン-3断片の光学密度、図2a~2b)のMMP-9依存性過程を特異的に減弱させることが分かった。
要約すると、抗てんかん活性に関する潜在的な化合物としてマリマスタットは、以下の条件を満たす:
Figure 2022552040000004
実施例4:てんかん発生のマウスモデルにおけるマリマスタットの治療的使用の機能的分析
てんかん発生マウスモデル(海馬内カイニン酸注射)におけるマリマスタットの治療的使用の機能的分析を、実施した。てんかん発生を、定位的手術中に、海馬CAI領域に直接カイニン酸を投与することにより誘導した。CAIの座標を、Paxinosのマウス脳アトラス(Mouse Brain Atlas)にしたがって選択した。3平面における座標を用いた:
(1)Z軸 - AP(前後) -1.8
(2)X軸 - L (外側) +1.7
(3)Y軸 - DV(背腹) -2.1
マリマスタットを、MMP-9活性に対する阻害剤として用いた。マウスに、以下の時点でカイニン酸投与後3回、腹腔内注射した(9mg/体重kg):
(1)30分
(2)6時間
(3)24時間
対照群として、本発明者らは、次のマリマスタット注射なしで、CAI領域へのカイニン酸投与後にマウスを用いた。各群は、6匹の動物から成り、実験を、2回繰り返して実施した。同時に、KA注射直後に、マウスに、脳波記録のための頭蓋電極および海馬電極を埋め込んだ(図3)。
5本の電極を用い、そのうち4本を頭蓋骨に、1本を海馬に設置して、海馬性てんかん発作を記録した。注射したカイニン酸は、CAIおよびCA3領域内で変性を誘導したが、歯状回領域内でも変化を引き起こした。てんかん発生過程に観察された最も重要な変化の一つは、歯状回(DG)における苔状線維発芽であった。苔状線維発芽は、歯状回の内分子層中への顆粒細胞軸索(苔状線維)の異常発芽であると定義される。この過程は、側頭葉てんかんの患者で観察される(Buckmaster、2012)。それゆえ、DGへの海馬電極位置を、下記の座標位置により、注射部位の下部に、埋め込んだ:
(1)Z軸 - AP(前後) -2.0
(2)X軸 - L (外側) +1.3
(3)Y軸 - DV(背腹) -1.7
Figure 2022552040000005
電極埋め込み工程
電極埋め込み工程は、以下のプロトコルによった。ステンレス鋼製のビス電極(直径1.6mm、Bilaney Consultants GmbH、Germany)を、頭蓋骨中に設置した(表3;図3)。海馬双極電極を、歯状回中に設置した。2週間連続の(24時間/7日間)ビデオ-EEG(vEEG)追跡を、KA注射直後に開始した。マウスを、PMMAケージに入れ(ケージ当たりマウス1匹)、コミュテーター(SL6C、Plastics One Inc.、USA)を介して記録システムに繋いだ。vEEGを、57-チャンネル増幅器AS40-PLUS(Natus Medical Incorporated、USA)を有するComet EEG PLUSに接続されたツインEEG記録システムを用いて実施し、フィルタリングした(高域フィルターカットオフ、0.3Hz;低域フィルターカットオフ、100Hz)。
動物の挙動を、デジタルカメラI-PRO WV-SC385(パナソニック、日本)を用いて記録した。結果判定項目として、本発明者らは、自発性てんかん発作の発生、頻度および持続時間を評価した。脳波上発作を、5秒を超えて持続する異常なEEGパターンを明白に示す高振幅(>2xベースライン)律動性放電と定義した。各マウスにおけるてんかん発作頻度を、EEG記録が完了した日当たりまたは週当たりのてんかん発作回数として算出した。
改良ラシーン(Racine)スケールを、本試験で用いた(Racine、1972):
Figure 2022552040000006
実験を、3部に分けた:
(1)KA注射後、最初の24時間(注射した痙攣誘発剤に対する急性応答)
(2)KA注射後、最初の週(注射した痙攣誘発剤に対する急性応答)
(3)KA注射の4週間後(注射した痙攣誘発剤によるてんかん発生~慢性変化)
各段階において、複数のパラメーターを算出した:てんかん発作持続時間(秒単位)、てんかん発作スコア(ラシーン・スケールによる)、てんかん発作回数(動物当たり/1日当たり)。さらに、最初の24時間において、カイニン酸注射と最初のてんかん発作の間の時間も推定した。
海馬中へのKA注射後初日に、マリマスタットは、てんかん発作スコア(P=0.0016)および最初の24時間内において観察されるてんかん発作回数(P=0.005)を有意に減少させた。最初のてんかん発作のパラメーターと比較して、てんかん発作持続時間ならびに潜時に差異は認められなかった(図4)。
実験の第2の部では、自発性てんかん発作出現に関する次の7日間の脳波記録からのデータを、同じパラメーターを用いて分析した。最初の24時間とは対照的に、次の週の間、差異が、てんかん発作持続時間に関してのみ認められ、ここでマリマスタットは、単一てんかん発作の持続時間を有意に減少させた(P=0.02)。てんかん発作スコアおよび回数は、マリマスタット治療により変わらなかった。
痙攣誘発剤により誘発されるてんかん発作の出現およびパラメーターに対するマリマスタットの治療効果を徹底分析するために、本発明者らは、カイニン酸の海馬への注射により開始されるてんかん発生過程の影響として慢性的変化も評価することにした。てんかん発作出現およびてんかん発作パラメーター(てんかん発作持続時間およびてんかん発作スコア)を、評価した(図6)。
結果
てんかん発生過程誘導後の1ヶ月で、KA注射後1週と同様に、マリマスタットは、単一てんかん発作の持続を阻害した(P=0.02)(図6)。この効果はまた、KA注射後の4週間に海馬内で観察されるてんかん発作の例においても認められる。さらに、マリマスタットは、てんかん発作のスコアおよび回数をわずかに低下させたが、その変化は、有意ではなかった。

参考文献
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Claims (10)

  1. 脳損傷を罹患した対象においててんかん発生を予防するまたは治療することにおけるマリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩、溶媒和物またはその多形体の使用。
  2. 脳損傷が、卒中、外傷性脳損傷、あるいは構造的または代謝的原因により惹起された、てんかん重積状態の結果である、請求項1のマリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩の使用。
  3. マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩が、経口で、舌下で、頬側で、皮下で、静脈内で、筋肉内でまたは髄腔内で投与される、請求項1または2のマリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩の使用。
  4. マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩が、てんかん発生の誘導後に最長6.5日間単回投与量、または1日当たり2回投与される、反復用量でのいずれかで投与される、前記の請求項のいずれか1項に記載のマリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩の使用。
  5. マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩が、てんかん発生の誘導後に1~3日の期間において反復用量で投与される、前記の請求項のいずれか1項に記載のマリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩の使用。
  6. マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩の単回投与量が、ヒトに利用する場合、200mg~800mgである、前記の請求項のいずれか1項に記載のマリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩の使用。
  7. マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩が、てんかん発生の誘導後最初の24時間以内に投与される、前記の請求項のいずれか1項に記載のマリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩の使用。
  8. マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩が、てんかん発生の誘導後3時間以内に投与される、前記の請求項のいずれか1項に記載のマリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩の使用。
  9. マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩が、てんかん発生の誘導後1時間以内に投与される、前記の請求項のいずれか1項に記載のマリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩の使用。
  10. マリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩が、てんかん発生の誘導後30分以内に投与される、前記の請求項のいずれか1項に記載のマリマスタットまたはその薬学的に許容可能な塩の使用。
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