JP2022528737A - Abcg2陽性角膜輪部幹細胞を得る又は維持する方法 - Google Patents

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Abstract

本発明は、多能性幹細胞をまず眼球前駆細胞に誘導し、次いでこの眼球前駆細胞をABCG2陽性角膜輪部幹細胞に分化させることによる、ABCG2陽性角膜輪部幹細胞の製造方法を提供する。本発明は、初代角膜輪部幹細胞等の角膜輪部幹細胞のABCG2陽性表現型を維持する方法も提供する。【選択図】なし

Description

本明細書は、多能性幹細胞の眼球前駆細胞への分化、さらにABCG2陽性輪部幹細胞への分化に関する。これらの細胞は、所望に応じて、さらに高増殖性のΔNp63α陽性の角膜輪部前駆細胞に、そして最終的に角膜上皮細胞に分化されてもよい。本発明は、初代角膜輪部幹細胞、又は当該分化方法により得られた角膜輪部幹細胞等の角膜輪部幹細胞のABCG2陽性表現型を維持する方法にも関する。
ヒトの角膜は、眼球の前面で保護バリアとして機能し、私たちにクリアな視界を提供する多層構造の透明な結合組織である。最外の角膜上皮は、急速な更新サイクルを持っており、この更新サイクルは、眼球表面の絶え間ない細胞消失と入れ替えとを介して現れる。この上皮層の代謝回転を可能にしているのは、フォークト・パリセード(Palisades of Vogt)にある特定の解剖学的ニッチ構造に存在し、上皮に新しい細胞を供給する輪部幹細胞(Limbal Stem Cell、LSC)である。LSCの機能障害や欠損は、「角膜上皮幹細胞疲弊症(limbal stem cell deficiency、LSCD)」と呼ばれる臨床症状を引き起こし、最終的には角膜失明につながる可能性がある。残念ながら、適切なドナー組織が世界的に不足しているため、LSC移植によるLSCDの効率的な治療は妨げられている。それゆえ、ヒト胚性多能性幹細胞及び人工多能性幹細胞(それぞれhESC及びhiPSC)を含むヒト多能性幹細胞(hPSC)からLSCを分化させることで、無尽蔵の代替細胞源を提供することを目的としたいくつかのプロトコルが開発されている。重要なのは、多くの研究室が依然として動物由来の成分を利用しており、これらの方法の臨床的な翻訳(臨床への橋渡し)を妨げているにもかかわらず、いくつかの臨床的に関連する明確な、フィーダー細胞を使用しない技術も導入されていることである(Hongistoら、2017 Stem Cells Res Ther;Mikhailovaら、2014 Stem Cell Rep)。
非常に多様な手法に加えて、この分野に存在するもう一つの重要な課題は、臨床的に関連するLSC集団の特定である。角膜輪部基底部上皮にあるLSCと思われる細胞にはいくつかのタンパク質が関連しているが、これらの細胞を明確に識別するための特異的なマーカーは見つかっていない。p63αの発現は、臨床移植の成功と関連しており、現在、臨床的関連性を示す最も有望なマーカーとみなされている(Ramaら、2010、N Engl J Med、363:147-55)。
国際公開第2018/037161号パンフレット及びHongistoら、2017 Stem Cells Res Therは、フィーダーを使用しない培養から得られたヒト多能性幹細胞を、まず眼球前駆細胞に分化させ、次にp63陽性角膜輪部上皮前駆細胞に分化させる方法を開示する。この方法は、多能性幹細胞を、まずTGF-β阻害剤と線維芽細胞成長因子(FGF)の存在下で培養し、次に骨形成タンパク質4(BMP-4)の存在下で培養する誘導期を含む。次に、このようにして得られた眼球前駆細胞は、上皮成長因子(EGF)、ヒドロコルチゾン、インスリン、イソプロテレノール、及びトリヨードチロニンからなる群から選択される1種以上のサプリメント(補助剤)を含む細胞培地を用いて、p63陽性角膜上皮前駆細胞に分化させられる。任意に、p63陽性の角膜上皮前駆細胞は、その後、成熟角膜上皮細胞又は角膜重層上皮に成熟させられる。
角膜では、ATP結合カセットサブファミリーGメンバー2(ABCG2)の発現は、輪部基底層のみに存在し、Hoechst 33342色素を排出する能力を持つ未熟で静止したLSC亜集団(SP)の表現型と関連付けられてきた。培養すると、これらの細胞は、ABCG2陰性の細胞に比べて活性化し、大きな成長力を発揮する(De Paivaら、2007、Stem Cells)。
輪部基底部上皮に発現している多種多様なタンパク質の分化階層及び機能的役割をさらに理解することで、将来のLSC移植の有効性及び安全性の両方が大幅に向上すると考えられる。現在、LSCの特定は、最終分化した角膜上皮(CE)のマーカーであるサイトケラチン(CK)3及びサイトケラチン12の非発現と組み合わせた、いくつかの陽性マーカーの同時発現に依存している(Schloetzer-Schrehardt及びKruse 2005 Exp Eye Res)。これらのマーカーの相互関係や、機能的な階層における正確な位置については、いくつかの研究を除いて、ほとんど知られていない。
とはいうものの、ABCG2は、生体内での能幹細胞の表現型についての有望なマーカーとして認識されており、それゆえ、臨床的に関連するLSCの特定に使用することができよう。従って、角膜上皮の状態、疾患、病理の治療や研究に使用されてもよいABCG2陽性LSCを得るための方法が必要とされている。加えて、このような細胞は、とりわけ幹細胞がフィーダー細胞を欠く細胞培養物から得られる場合には、毒物学的研究及び医薬品開発にも使用されてよい。さらに、異種由来の成分又は未定義の成分を避けることも、これらの方法の潜在的な臨床翻訳の安全性を向上させる重要な目的である。
国際公開第2018/037161号パンフレット
Hongistoら、2017 Stem Cells Res Ther Mikhailovaら、2014 Stem Cell Rep Ramaら、2010、N Engl J Med、363:147-55 De Paivaら、2007、Stem Cells Schloetzer-Schrehardt及びKruse 2005 Exp Eye Res
本発明の目的は、細胞培養条件におけるABCG2の容易に失われる発現に関連する課題を克服するように、ABCG2陽性角膜輪部幹細胞並びにその製造及び維持の方法を提供することである。本発明の目的は、独立請求項に記載された内容を特徴とする方法によって達成される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に開示されている。
従って、本発明は、角膜輪部幹細胞のABCG2陽性表現型を維持する方法であって、EGF及び少なくとも1種のWnt活性化因子を含む培養培地中でABCG2陽性角膜輪部幹細胞を培養する工程を含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、Wnt活性化因子は、GSK3阻害剤、好ましくはCHIR99021、及びR-スポンジン(spondin)ファミリーのタンパク質、好ましくはR-スポンジン-1又はそのサプリメントRS-246204からなる群から選択される。いくつかのさらなる実施形態では、培養培地は、ノギン又はそのサプリメント、例えばLDN-193189を含んでいてもよい。
加えて、本発明は、以下を含むABCG2陽性角膜輪部幹細胞の製造方法も提供する。
ABCG2陽性角膜輪部幹細胞の製造方法であって、a)多能性幹細胞を提供する工程と、b)TGF-β阻害剤及び線維芽細胞成長因子(FGF)、好ましくは塩基性FGFを含む細胞培養培地中で上記細胞を培養する工程と、c)TGF-β阻害剤及びFGFを除去し、工程b)で得られた細胞を、骨形成タンパク質4(BMP-4)を含む細胞培養培地中で培養し、これにより眼球前駆細胞を生成する工程と、d)上記眼球前駆細胞を角膜分化培地中で培養し、これによりABCG2陽性角膜輪部幹細胞を生成する工程と、e)上記ABCG2陽性角膜輪部幹細胞を、EGF及び少なくとも1種のWnt活性化因子を含む維持細胞培養培地中で培養し、これにより工程a~d)を経て得られたABCG2陽性輪部幹細胞の表現型を維持する工程と含む方法。いくつかの実施形態では、Wnt活性化因子は、GSK3阻害剤、好ましくはCHIR99021、及びR-スポンジンファミリーのタンパク質、好ましくはR-スポンジンg-1又はそのサプリメントRS-246204からなる群から選択される。いくつかのさらなる実施形態では、培養培地は、ノギン又はそのサプリメント、例えばLDN-193189も含んでよい。
本発明のさらなる態様、特定の実施形態、目的、詳細、及び利点は、以下の図面、詳細な説明、及び実施例に記載されている。
以下では、添付の図面を参照して、好ましい実施形態によって本発明をより詳細に説明する。
本発明の方法の模式図。図1Aは、多能性幹細胞からのABCG2陽性角膜輪部幹細胞の製造方法の1つの実施形態を示す。図1Bは、初代角膜輪部幹細胞のABCG2陽性表現型を維持する方法の1つの実施形態を示す。 hPSC-LSC分化中の推定LSCマーカー発現の特性評価。(図2A)IFで示した、選択した時間点でのhPSC-LSC培養物の代表的な形態及びタンパク質発現。同じ縦列のすべての画像にスケールバー100μmが適用される。細胞核はDAPIで対比染色されており、各パネルの右上隅に表示されている。(図2B)10日目及び24日目のhPSC-LSC集団におけるマーカー発現の違い。1試料あたり5枚の画像と、各時間点で最低1400個の細胞を、サイトスピン試料から各マーカーについて分析した。データはn=2~3の個々の細胞分化の平均値+SDで示している。(図2C)24日目のサイトスピン試料におけるΔNp63とp63αとの二重染色の代表的なIF画像であり、ΔNp63α陽性の表現型を確認する。C及びDの両方にスケールバー100μmが適用される。(図2D)10日目のサイトスピン試料におけるABCG2とp63αとの二重染色の代表的なIF画像であり、共局在パターンを示している。(図2E)サイトスピン試料から分析した、10日目及び24日目のhPSC-LSCにおけるp63α及びABCG2の発現とその共局在。1試料あたり5枚の画像と、各時間点で最低3000個の細胞を、二重染色したサイトスピン試料から分析した。データはn=3の個々の細胞分化の平均+SDで示している。(図2F)各試料の10,000個の記録されたイベントからFACSを用いて分析した、UD-hPSC、10日目及び24日目のhPSC-LSCにおけるABCG2タンパク質の発現レベル。データはn≧3の個々の細胞分化の平均値+SDで示し、統計はマン・ホイットニー(Mann-Whitney)のU検定で計算した。(図2G)各試料について3つのテクニカルレプリケート(技術的反復)を用いてqRT-PCRで分析した、UD-hPSC、10日目及び24日目のhPSC-LESCにおける相対的なABCG2 mRNAの発現レベル。データはn=2の個々の細胞分化の平均+SDで示している。すべての代表的なデータは、hESC株Regea08/017で示されている。 hPSC-LSCの形態及びp63α/ABCG2の発現に対する培養条件の影響。角膜分化(CnT-30)条件と、ABCG2陽性LSC維持(Cnt-07+ENRC)条件とで培養を続けた(全培養時間のうち)21日目の代表的な細胞形態並びにp63α及びABCG2タンパク質の発現。(図3A)P63α及びABCG2の発現パターンは、Cnt-07+ENRC条件で細胞を継代した後も維持されていた。(図3B)角膜分化条件(CnT-30)と、ABCG2陽性LSC維持条件(Cnt-07+ENRC)とで培養を続けた(全培養時間のうち)21日目のhPSC-LSCの相対的なABCG2 mRNA発現。(図3C)代表的なデータはすべてhESC株Regea08/017で示されている。すべての画像のスケールバーは100μm。 継代中のABCG2陽性hPSC-LSCのマーカー発現及び増殖能力。(図4A)ヒトPSC-LSCコロニーは、CnT-07+ENRC条件で継代した後も、その形態及びp63α/ABCG2の発現パターンを維持している。黒のスケールバーは200μmであり、白のスケールバーは100μmである。個体数(集団)倍加時間が安定していることからもわかるように、5回の継代の過程で20,20の個体数(集団)の倍加が達成され、培養が疲弊する明確な兆候は見られなかった(図4B~図4C、黒点)。継代3で細胞を凍結保存しても、hPSC-LSCの増殖能力には影響がないようであった(図4B~図4C、白枠)。代表的なデータはすべての、hESC株Regea11/013で示されている。
本発明は、多能性幹細胞をまず眼球前駆細胞に誘導し(誘導期)、次いでこの眼球前駆細胞をABCG2陽性角膜輪部幹細胞(角膜上皮幹細胞)に分化させ(分化期)、次いでABCG2の発現を維持する(維持期)ことによる、ABCG2陽性角膜輪部幹細胞の製造方法を提供する。初代角膜輪部幹細胞及び多能性幹細胞由来の角膜輪部幹細胞を含む、角膜輪部幹細胞のABCG2陽性表現型を維持する方法も提供する。さらには、本発明は、本発明に従って得られた又は維持されたABCG2陽性細胞の治療的使用に関する。
細胞
本明細書で使用する場合、用語「角膜輪部幹細胞」は、角膜輪部の基底部上皮層に位置し、角膜上皮の再増殖を担う成体幹細胞を指す。この用語は、「輪部幹細胞(LSC)」、「輪部上皮幹細胞(LESC)」、「角膜上皮幹細胞」及び「角膜上皮前駆細胞」という用語と交換可能である。本明細書で使用する場合、用語「前駆体」及び「前駆細胞」は、特段の記載がない限り、互換的に使用されてもよい。
本明細書で使用する場合、用語「初代角膜輪部幹細胞」は、生体組織から直接採取された角膜輪部幹細胞を指す。初代角膜輪部幹細胞を得るための手段及び方法は、当該技術分野において容易に利用可能である。
本明細書で使用する場合、用語「多能性幹細胞由来の角膜輪部幹細胞」は、多能性幹細胞に由来する角膜輪部幹細胞を指す。いくつかの実施形態では、本発明は、多能性幹細胞をまず眼球前駆細胞に誘導し(誘導期)、次いでこの眼球前駆細胞を、所望に応じて高増殖性のΔNp63α陽性の輪部上皮前駆細胞に、そして最終的に成熟した角膜上皮細胞に向けてさらに分化させることができるABCG2陽性角膜輪部幹細胞に分化させる(分化期)ことによる、ABCG2陽性角膜輪部幹細胞の製造方法を提供する。
本明細書で使用する場合、用語「多能性幹細胞」は、胚外組織を含まない、ヒト又は動物の体のすべての細胞型に分化する可能性を有するあらゆる幹細胞を指す。これらの幹細胞には、胚性幹細胞(ESC)及び人工多能性細胞(iPSC)の両方が含まれる。従って、本発明での使用に適した細胞は、iPSC及びESCから選択される幹細胞を含む。ヒト多能性幹細胞(hPSC)が好ましく、それらには、ヒトiPSC(hiPSC)及びヒトESC(hESC)が含まれる。
ESC、とりわけhESCは、培養中に無限の増殖が可能であり、従って、故障や欠陥のあるヒト組織の代替となる細胞及び組織を供給することができるため、治療上非常に興味深い。しかしながら、ヒト胚性幹細胞から眼球前駆細胞を製造することは、倫理的な課題に直面する可能性がある。本発明の一実施形態によれば、当該方法自体又はあらゆる関連する行為が、ヒト胚の破壊を伴わないという但し書きの下、ヒト胚性幹細胞が使用されてもよい。
一般にiPS細胞又はiPSCと略される人工多能性幹細胞は、非多能性細胞、典型的には成体(成人)の体細胞から、当該技術分野で周知の手段及び方法によって特定の遺伝子の強制的な発現を誘導することにより、人工的に誘導される一種の多能性幹細胞である。iPS細胞を使用する利点は、胚細胞を一切使用する必要がないため、倫理的な問題を回避できることである。さらなる利点は、iPSC技術を採用することで、免疫拒絶反応の問題がない患者特異的な細胞の生成が可能になることである。それゆえ、本発明の一実施形態によれば、iPS細胞の使用が好ましい。臨床用途では、hiPS細胞が好ましい。
人工多能性幹細胞は、多くの側面において、胚性幹細胞等の天然の多能性幹細胞と類似している。例示的な側面としては、特定の幹細胞遺伝子及びタンパク質の発現、クロマチンメチル化パターン、倍加時間、胚様体形成、奇形腫(テラトーマ)形成、生存可能なキメラ形成、効力及び分化能等が挙げられるが、天然の多能性幹細胞との関係の全容はまだ評価されているところである。人工多能性細胞は、典型的には、成体の皮膚細胞、血液細胞、胃又は肝臓から作られるが、他の代替物も可能である。当業者は、研究及び治療目的のためのiPS細胞の可能性をよく知っている。
多能性幹細胞は、自然な細胞の運命に従って自発的に分化する傾向があるため、細胞培養で維持するのは困難である。望ましくない分化を防ぐために、多能性幹細胞は通常、フィーダー細胞上で培養される。ヒト多能性細胞のフィーダー細胞としてであっても、マウス胚性線維芽細胞(マウス胎仔線維芽細胞)(MEF)等の動物由来のフィーダー細胞が広く用いられている。また、動物由来の材料に代わるものとして、ヒト多能性幹細胞の培養には、ヒト包皮フィーダー細胞等のヒト由来のフィーダー細胞も採用されている。従って、いくつかの実施形態では、フィーダー細胞上で、好ましくはヒト包皮フィーダー細胞等のヒトフィーダー細胞上で培養された多能性幹細胞が、ABCG2陽性角膜輪部幹細胞の当該製造方法に採用されてもよい。
フィーダー細胞の使用に関連する欠点を克服するために、新しいフィーダーフリーの細胞培養方法が開発されている。従って、用語「フィーダーフリー培養」又はその言語的変化は、フィーダー細胞を一切使用しないで多能性幹細胞を培養することを指す。
フィーダー細胞の使用は、例えば、当該技術分野で周知のように、適切な基材コーティングで置き換えることによって省略することができる。適切なコーティング材料としては、ラミニン、コラーゲン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ナイドジェン、プロテオグリカン、及びE-カドヘリン等のヒト又は動物の、天然抽出の細胞外マトリクス(ECM)タンパク質若しくは組換え細胞外マトリクス(ECM)タンパク質、並びにそのアイソフォーム、フラグメント、及びペプチド配列が挙げられるが、これらに限定されない。上記ECMタンパク質のアイソフォームの非限定的な例としては、ラミニンの異なるアイソフォーム、例えば、ラミニン-511、ラミニン-521、ラミニン-322、ラミニン-411等が挙げられる。上記フラグメントの非限定的な例としては、ヒトラミニンアイソフォームのE8フラグメントが挙げられ、一方、上記ペプチド配列の非限定的な一例は、ビトロネクチンのArg-Gly-Asp(RGD)配列である。上記ECMタンパク質、アイソフォーム、フラグメント、又はペプチド配列は、他のタンパク質と融合していてもよく、IgG-Fcドメインと融合したN-カドヘリンドメインは、そのような融合タンパク質の非限定的な一例である。代替又は追加の適切なコーティング材料としては、マウス胚性線維芽細胞、ヒト線維芽細胞、間葉系幹細胞、及び腫瘍等、ヒト若しくは動物由来の様々な組織型若しくは細胞型からのECM又は基底膜抽出物が挙げられるが、これらに限定されない。さらなる適切なコーティング材料としては、単独で、あるいはECMタンパク質若しくはその配列、若しくは他の化学的若しくは物理的な表面修飾で機能化された、天然又は合成の生体材料及びそのハイブリッドが挙げられる。このような生体材料の非限定的な例としては、PMEDSAH(ポリ[2-(メタクリロイルオキシ)エチル-ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド])及びコラーゲングラフト混合セルロースエステル膜(MCE-COL)が挙げられる。さらなる適切なコーティング材料の非限定的な例としては、Corning(登録商標) Synthemax(登録商標)表面、Corning(登録商標) PureCoat(商標)、CELLstart(商標)、Matrigel(商標)、又はGeltrex(登録商標)等の市販品が挙げられる。上述のタンパク質、アイソフォーム、フラグメント、ペプチド配列、融合タンパク質、抽出物、生体材料又は市販品のいずれも、当該技術分野で周知のように、フィーダー細胞を置き換えるために、単独で、又は任意の適切な組み合わせ若しくは混合物で使用されてもよい。フィーダー細胞を置き換えるための適切なコーティング材料を入手し、選択し、及び使用するための手段並びに方法は、当該技術分野で容易に利用可能である。
上記に従い、フィーダーフリー条件で培養された多能性幹細胞は、ABCG2陽性角膜輪部幹細胞の当該製造方法のいくつかの実施形態において採用されてもよい。
好ましい細胞外マトリクスタンパク質としては、それぞれ5つ、4つ及び3つの遺伝子変異体が見つかっているα鎖、β鎖及びγ鎖を含むヘテロ三量体の糖タンパク質であるラミニンが挙げられる。ラミニン分子は、その鎖の組成に応じて名前が付けられている。従って、本明細書で使用する場合、用語「ラミニン-521」は、α5、β2、及びγ1鎖を含有するラミニンを指し、一方、用語「ラミニン-511」は、α5、β1、及びγ1鎖を含有するラミニンを指す。好ましいラミニンとしては、組換えヒトラミニン-521、組換えヒトラミニン-511、及び組換えヒトラミニン-511のフラグメントE8が挙げられる。
ヒト多能性幹細胞は、フィーダー細胞上ではコロニーとして成長するが、ヒト多能性幹細胞は、ラミニン521上でのフィーダーを使用しない培養では単層として成長し、より効果的な増殖が可能となる。さらに、フローサイトメトリーによる解析では、フィーダーフリー培養系で培養されたヒト多能性幹細胞は、フィーダー細胞上で培養された細胞と比較して、高い多能性マーカーの陽性率を示す。
実際、フィーダー細胞を含有する培養物から得られたヒト多能性幹細胞と、フィーダーフリー培養から得られたヒト多能性幹細胞は異なるように見える。国際公開第2018/037161号パンフレットの実験部分で実証されているように、欧州特許出願公開第2828380号明細書に開示されている角膜分化方法は、フィーダー細胞を含む培養物から得られたヒト多能性幹細胞に対しては良好な結果を与えるが、フィーダーフリー培養から得られた多能性幹細胞に対しては同様の良好な結果を与えない。他方、国際公開第2018/037161号パンフレットの方法では、フィーダーフリー培養から得られたヒト多能性幹細胞を、まず眼球前駆細胞に、そしてp63陽性の角膜上皮前駆細胞(すなわち角膜輪部幹細胞)に、優れた態様で分化させることができる。今回は、本発明が、ABCG2陽性角膜輪部幹細胞の優れた維持を提供する。このように、本発明のいくつかの実施形態では、フィーダーフリー培養から得られた未分化多能性幹細胞が、ABCG2陽性角膜輪部幹細胞の製造に用いられる。しかしながら、本発明は、フィーダーフリー培養から得られたヒト多能性幹細胞の分化に限定されるものではなく、フィーダー細胞上で培養された多能性幹細胞をABCG2陽性角膜輪部幹細胞に分化させるためにも用いられてよい。
本明細書で使用する場合、用語「眼球前駆細胞」は、多能性幹細胞から誘導され、かつ多能性マーカーOCT-4(POU5F1としても知られる)の下方制御及び眼球特異的な細胞系統への分化を示す遺伝子であるPAX6の上方制御を特徴とする眼球の任意の細胞系統を広く指す。多能性マーカーを定量化する手段及び方法は、当該技術分野で容易に利用可能である。
本明細書で使用する場合、用語「p63陽性角膜輪部幹細胞」は、細胞表面にp63を発現する角膜輪部幹細胞の集団を指す。
本明細書で使用する場合、用語「ABCG2陽性角膜輪部幹細胞」は、細胞表面にATP結合カセットサブファミリーGメンバー2(ABCG2)を発現する角膜輪部幹細胞の集団を指す。
ABCG2及びp63等の細胞表面マーカーは、免疫蛍光法及びフローサイトメトリー、例えば蛍光活性化セルソーティング(FACS)を含むがこれらに限定されない、この目的に適した任意の利用可能な技術によって定量化されてもよい。
ABCG2陽性角膜輪部幹細胞の製造方法
国際公開第2018/037161号パンフレットは、フィーダーフリー培養から得られた多能性幹細胞を、まずTGF-β阻害剤及び線維芽細胞成長因子(FGF)の存在下で、次いで骨形成タンパク質4(BMP-4)の存在下で、眼球前駆細胞に誘導することによる、分化した眼球細胞の製造方法を開示する。このようにして得られた眼球前駆細胞は、次に、TGF-β阻害剤、FGF及びBMP-4を除去し、上記眼球前駆細胞を、上皮成長因子(EGF)、ヒドロコルチゾン、インスリン、イソプロテレノール、及びトリヨードチロニンからなる群から選択される1種以上のサプリメントの存在下で培養することにより、p63陽性角膜上皮前駆細胞(p63陽性角膜輪部幹細胞)に分化させられる。任意に、このp63陽性の角膜上皮前駆細胞は、続いて、成熟角膜上皮細胞又は角膜重層上皮に成熟させることができる。
意外なことに、国際公開第2018/037161号パンフレットの方法を通して、異なる時間点でのいくつかの多能性マーカー、輪部幹細胞マーカー、及び角膜上皮マーカーの発現パターンを注意深く分析したところ、ABCG2は一過性にしか発現されず、10~11日目にピークを迎え、その後、分化プロトコルの21日目(4日間の誘導期間を含む)までに非常に低いレベルまで徐々に減少することが明らかになった。同時に、p63のΔNp63αアイソフォームの発現は着実に増加していた。加えて、培養培地に少なくとも上皮成長因子(EGF)及び少なくとも1種のWnt活性化因子を補充することで、継代せずに少なくとも35日目まで、サブコンフルエントな培養物を継代して少なくとも50日目まで、ABCG2の強い発現を維持できることが予想外にも判明した。
このように、本発明は、ABCG2陽性角膜輪部幹細胞を製造及び維持する方法を提供し、この方法は、以下に詳細に説明するように、そして表1にまとめられているように、誘導期、分化期及び維持期を含む。
Figure 2022528737000001
誘導期
誘導期では、得られた多能性幹細胞が、表面外胚葉及び眼球前駆細胞に誘導される。
誘導期は、懸濁培養でも接着培養でも行われてよい。誘導期が接着培養で行われる場合、当該技術分野で一般に公知のように、細胞外マトリクス(ECM)タンパク質又はその組み合わせ等の材料でコーティングされた基板を使用することが有利である場合がある。好ましいECMタンパク質としては、ラミニン、コラーゲン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ナイドジェン、及びプロテオグリカン又はそのペプチド配列が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、フィーダー細胞を置き換えるのに適した任意のコーティングを使用して、誘導期を接着培養で実施できるようにしてもよい。
いくつかの実施形態では、懸濁培養で誘導期を実施することが好ましい。このような実施形態では、誘導期の第1工程は、フィーダーフリー培養から得られた多能性幹細胞から胚様体を形成することを含む。本明細書で使用する場合、用語「胚様体」(EB)は、3次元の細胞集合体を指す。胚様体の形成は、当該技術分野で周知の様々な凝集促進方法によって達成することができる。
本明細書で使用する場合、用語「凝集促進方法」は、物理的又は化学的手段によって多能性幹細胞からの胚様体の形成を促進することができる任意の方法を指す。
胚様体の形成は、例えば、Corning Corning(登録商標) Costar(登録商標) 超低接着表面等の非付着促進性の細胞培養表面の存在下で、又は細胞の付着を防止する1種以上の薬剤の存在下で、懸濁培養で多能性幹細胞を培養する物理的凝集促進方法を採用することによって達成することができる。
EB形成を達成するために凝集を促進する適切な物理的方法のさらなる非限定的な例としては、懸滴培養が挙げられる。このような方法では、多能性幹細胞を含む懸濁液をペトリ皿の蓋の上に規則的な配列でプレーティングし、その後、PBS等の適切な液体で満たされたペトリ皿の底に反転した蓋を置き、滴が乾燥するのを防ぐ。最終的には、幹細胞は垂れ下がった液滴の底に落ち、1滴につき1つのEBに集約される。Perfecta3D(登録商標) Hanging Drop Plates (3D Biomatrix(スリーディー・バイオマトリクス))等、懸滴法に基づく市販品も使用してよい。
適切な物理的な凝集促進方法としては、マルチウェル技術及び微細加工技術を用いて、例えば、低接着性の96ウェルプレート又はマイクロウェルアレイを用いて、大きさが制御されたEBの形成を誘導する方法も挙げられる。このようなプレート又はアレイの非限定的な例としては、マイクロウェルがパターン化されたマイクロウェル付きポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)モールド、アガロースヒドロゲルのマイクロウェルアレイ、及び市販のAggreWell(商標)(STEMCELL Technologies(ステムセル・テクノロジーズ))マイクロアレイプレートが挙げられる。
また、EB形成を得るための物理的な凝集促進方法として、遠心分離若しくは回転、又は微小重力環境等の他の物理的環境による強制的な凝集が採用されてもよい。
さらなる好適な凝集促進方法としては、細胞の凝集を助ける薬剤の存在下で細胞を培養する方法が挙げられる。このような薬剤の非限定的な例としては、ガラクトース誘導体(例えばカラギーナン)、グルコース誘導体(例えばデキストラン硫酸)、ポリエチレングリコール、Ficoll(登録商標)等の、細胞をより緊密に接触させる高分子クラウダー(高分子量混み合い分子)が挙げられる。
また、メチルセルロース、フィブリン、ヒアルロン酸、デキストラン、アルギン酸、又はアガロース等のヒドロゲルに多能性幹細胞を封入又は捕捉することで、半固体の懸濁培地中に個別に分離したEBを生成する物理的凝集促進方法を用いてもよい。
任意の適切な物理的凝集促進方法が、ブレビスタチン若しくはRho関連キナーゼ(ROCK)阻害剤等の1種以上の凝集促進化学剤、又は単一細胞の生存率を高め、かつ/若しくは幹細胞の凝集を促進する他のアポトーシス阻害剤と組み合わせて使用されてもよい。あるいは、細胞の凝集が、化学的手段のみにより、例えば、上記の化学剤を使用することにより促進されてもよい。
従来、胚様体は、付着したコロニー又は付着したコロニーの領域を手動で分離することによっても、多能性幹細胞から形成されてよい。しかしながら、本発明の方法のいくつかの実施形態においては、フィーダーフリー条件で培養された多能性幹細胞は、手動で小さな凝集体又は単一細胞に解離させた後には自発的に再凝集しないため、手動での分離は、胚様体を得るための実行可能な選択肢ではない。ROCK阻害剤又はブレビスタチン等の1種以上の凝集促進剤を添加すると、解離によって誘導されるアポトーシスが顕著に減少し、解離後に胚様体を形成することができる。
胚様体の形成に必要な時間は、使用する方法等の様々な変動因子によって変わる可能性がある。典型的には、この工程の継続時間は、約1時間~約48時間の間、より具体的には約5時間~約24時間の間、又は一晩、すなわち約18時間である。しかしながら、ある場合には、この工程の継続時間は48時間よりもさらに長くてもよい。いくつかの実施形態では、多能性幹細胞は、胚様体の形成のために、ブレビスタチンの存在下で約1日間培養される。
誘導期の第2工程では、誘導期の第1工程から得られた胚様体を、活性のある「誘導サプリメント」、すなわちTGF-β阻害剤及びFGFを含む誘導培地に供する。接着性の細胞が用いられる場合(すなわち、胚様体を形成する工程が省略される場合)、細胞を誘導培地に供することは、誘導期の第1工程とみなされてもよい。上記誘導サプリメントは、多能性幹細胞の眼球前駆細胞への誘導を増進し、臨床的に価値のある角膜輪部幹細胞へのさらなる分化効率を向上させることが判明した。
いくつかの好ましい実施形態では、誘導培地中のTGF-β阻害剤の量は、約1μM~約100μM、好ましくは約1~約30μMであり、かつ/又は、線維芽細胞成長因子の量は、約1ng/ml~約1000ng/ml、好ましくは約2ng/ml~約100ng/ml、より好ましくは約30ng/ml~約80ng/mlである。
本発明の誘導培地は、基礎培地及び本発明の誘導サプリメントから構成されているか、又は基礎培地及び本発明の誘導サプリメントを含むと考えられてもよい。しかしながら、当該技術分野で一般的なさらなるサプリメントが適用されてもよい。本明細書で使用する場合、用語「一般的な細胞培養用サプリメント」は、抗生物質、L-グルタミン、及び血清、血清アルブミン又は血清代替物、好ましくは規定の(限定された)血清代替物を含む、実質的にすべての細胞培養培地で使用される材料を指す。
他方、いくつかの実施形態では、誘導培地は、誘導サプリメント、基礎培地、抗生物質、L-グルタミン、及び規定の血清代替物以外の材料を含まない。
いくつかのより具体的な実施形態では、誘導サプリメントとして、式I又は式IIのTGF-β阻害剤、及びbFGFが使用される。いくつかのさらに具体的な実施形態では、誘導サプリメントは、SB-505124、及びbFGFである。いくつかのなおさらに具体的な実施形態では、SB-505124は、約10μMの濃度で使用され、bFGFは、約50ng/mlの濃度で使用される。
上述の実施形態のいずれも、誘導培地が、神経分化を含む眼球系統以外の系統への分化を誘導することが一般的に知られているいかなるサプリメントも含まない、追加又は代替の実施形態の基礎を形成してもよい。そのような一般的に公知のサプリメントとしては、レチノイン酸、アスコルビン酸、脳由来神経栄養因子(BDNF)、及びグリア由来神経栄養因子(GDNF)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの好ましい実施形態では、誘導培地は、Wnt阻害剤を含有しない。
誘導サプリメントを用いて接着細胞又は胚様体を誘導するために使用される時間は、細胞株、細胞の初期分化状態、並びに使用する特定のサプリメント及びその濃度等の様々な変動因子に応じて変化する可能性がある。典型的には、この工程の継続時間は、約1日~約7日(すなわち、約22時間~約185時間)、より具体的には、約1日~約5日(すなわち、約22時間~約132時間)で変化する。いくつかの実施形態では、胚様体は誘導サプリメントの存在下で約1日間(すなわち、約22時間~約26時間)培養される。
誘導期の次の工程では、第1の誘導サプリメント(TGF-β阻害剤及びFGF)が除去され、誘導期の前の工程から得られた接着細胞又は胚様体が、骨形成タンパク質4(BMP-4)の存在下で培養されて、細胞が表面外胚葉に導かれ、同時に神経系統への分化が防がれる。典型的な濃度としては、約1ng/ml~約1000ng/ml、好ましくは約10ng/ml~約50ng/ml、より好ましくは約25ng/mlが挙げられる。
BMP-4を用いて接着細胞又は胚様体を誘導するために使用される時間は、BMP-4の濃度等の様々な変動因子に応じて変化する可能性がある。典型的には、この工程の継続時間は、約12時間~約5日間(すなわち、約12時間~約132時間)、好ましくは約24時間~約4日間(すなわち、約24時間~約105時間)、より具体的には2日間(すなわち、約43時間~約53時間)で変化し、この時間は、培養培地を新鮮な培地に交換することを含んでも含まなくてもよい。いくつかの実施形態では、この工程は、約2日間、好ましくはまず、好ましくは約25ng/mlの量のBMP-4を補充した培地で約1日間、その後、同じく好ましくは約25ng/mlの量のBMP-4を補充した新鮮な培地でさらに約1日間実施される。
誘導期の全体的な継続時間(期間)は、様々な変動因子に応じて変化してもよい。典型的には、誘導期の継続時間は、2日程度から数日の範囲で変化する可能性がある。好ましい時間範囲は、約2.5日~約18日、すなわち、約54時間~約475時間である。いくつかの実施形態では、誘導期の好ましい全体の継続時間は、約3日~約7日(すなわち、約65時間~約185時間)、又は約3日~約5日(すなわち、約65時間~約132時間))である。より具体的には、誘導期の好ましい全体の継続時間は、任意の1日間の胚様体形成工程を含めて4日間である。本明細書で使用する場合、用語「約」は、指定された値の約10%の変動を意味する。従って、例えば、用語「約3日」には65時間~79時間の変動があり、他方、用語「約7日」には152時間~186時間の変動がある。誘導時間が短いと、OCT4の下方制御及びPAX6の上方制御が弱くなり、前駆体マーカーであるPAX6やp63の発現が弱くなることによって判断されるように、分化の効率が悪くなる可能性がある。さらに、ヒト多能性幹細胞は、とりわけ塩基性線維芽細胞成長因子の存在下で、神経系統に分化する傾向があることが知られているため、誘導時間を長くすれば、より多くの神経分化が予想できる。
凝集促進剤
本明細書で使用する場合、機能的用語「凝集促進剤」は、胚様体の形成を促進することができる薬剤を指す。凝集促進剤の非限定的な例としては、以下に詳細を開示するブレビスタチン及びRho関連キナーゼ(ROCK)阻害剤が挙げられる。
ブレビスタチンは、非筋肉性ミオシンIIの細胞透過性の、選択的でかつ可逆的な阻害剤である。その名前は、細胞の小疱形成(ブレッビング)を阻害する能力に由来する。アクチン-ミオシン系の細胞骨格は、細胞の収縮、運動性、及び組織の構築に不可欠な動的な系である。アクチン-ミオシンモーターは、アクチンフィラメントと、アクチンフィラメントに沿って滑ることで収縮をもたらす非筋肉性のミオシンII重鎖とからなる。このプロセスは、Rho関連キナーゼ(ROCK)等のキナーゼを介したリン酸化により活性化されるミオシン軽鎖の結合によって開始(トリガ)される。ECM及び上皮細胞との接触がなくなると、アクチン-ミオシンは自由に収縮できるようになり、細胞膜が過度に小疱形成し、最終的には細胞死に至る等、表現型に変化が生じる。個体差のあるヒトES細胞でアクチン-ミオシン収縮を阻害すると、細胞の生存率やクローニングの効率が劇的に向上する。アクチン-ミオシン収縮は、ROCK制御の下流の標的である。ブレビスタチンは当該技術分野で容易に利用可能である。
ROCK阻害剤は、Rho-associated coiled-coil forming protein serine/threonine kinase(ROCK、Rho関連コイルドコイル形成プロテインセリン/スレオニンキナ-ゼ)ファミリーのプロテインキナーゼの、細胞透過性の、非常に強力かつ選択的な阻害剤である。ROCK阻害剤の非限定的な例としては、クロマン1、ファスジル、ファスジル塩酸塩、GSK269962A、GSK429286A、H-1152、H-1152二塩酸塩、ヒドロキシファスジル、ヒドロキシファスジル塩酸塩、K-115、K-115遊離塩基、LX7101、RKI-1447、ROCK阻害剤(アザインドール1)、SAR407899、SAR407899塩酸塩、SLx-2119、SR-3677、チアゾビビン、及びY-27632が挙げられ、これらはすべて、例えばMedChem Express(メドケム・エクスプレス)から入手可能である。
好ましいROCK阻害剤は、Y-27632(ジヒドロクロリドトランス-4-[(1R)-1-アミノエチル]-N-4-ピリジニルシクロヘキサンカルボキサミド二塩酸塩)であり、これは、触媒部位への結合についてATPと競合することにより、ROCK1及びROCK2の両方を阻害する。さらに、Y-27632は、多能性幹細胞のアポトーシス(アノイキス)の強力な阻害剤であり、解離したヒト多能性幹細胞の生存を許容し、強制凝集プロトコルにおける胚様体形成を改善し、凍結保存された単一のヒトES細胞の解凍後の生存率を向上させる。
当業者は、当該技術分野で容易に利用可能な様々な方法を用いて、所与の薬剤が凝集促進活性を有するか否か、及び当該方法での使用に適しているか否かを容易に判断することができる。そのような方法の非限定的な例としては、凝集体形成の視覚的評価及び細胞生存率アッセイが挙げられる。
TGF-ベータ(TGF-β)阻害剤
本明細書で使用する場合、「TGF-β阻害剤」は、機能的に、形質転換成長因子β1を阻害できる物質を指す。
形質転換成長因子β1(TGF-β1)は、病気の状態及び正常な状態での成長、分化、遊走、細胞の生存、接着等、多くの生物学的活動に関与する多面的サイトカインの大規模なスーパーファミリーのメンバーである。このスーパーファミリーでは30近いメンバーが同定されている。これらは2つの主要な枝、TGFβ/Activin/Nodal及びBMP/GDF(Bone Morphogenetic Protein(骨形成タンパク質)/Growth and Differentiation Factor(成長分化因子))、に分類されると考えられている。これらは非常に多様で、しばしば補完的な機能を持っている。胚の発生過程で短期間しか発現しないものや、限られた種類の細胞でしか発現しないもの(例えば、抗ミュラー管ホルモン、AMH、インヒビン)もあれば、胚形成の間及び成体の組織において広く発現するもの(例えば、TGFβ1、BMP4)もある。TGF-β1は、細胞外マトリクス(線維化因子)の合成における強力な制御因子であり、創傷治癒にも関与している。
化学的、構造的に見て、適切なTGF-β阻害機能は、タンパク質及び低分子有機化合物の中に見出されてもよい。当業者であれば、生物学的マトリクスからタンパク質を単離する手段、又は組換え技術によってタンパク質を生成する手段を知っている。
TGF-β阻害活性を示す化合物は、スクリーニングによって見つけられてもよい。好ましくは、TGF-β阻害剤は、比較的低いモル質量を有する有機分子、例えば、800g/モル未満、好ましくは500g/モル未満のモル質量を有する低分子である。一般的な構造として、好適な低モル質量のTGF-β阻害剤である式Iは、以下のように記述されてもよい。
Figure 2022528737000002
上記式I中、RはC~C脂肪族アルキル基、カルボン酸、アミドを表し、RはC~C脂肪族アルキルを表し、R及びRはヘテロ原子、O又はNを含む脂肪族アルキルを表し、これらは互いに連結して5員又は6員のヘテロ環を形成してもよい。
典型的な構造は、2個の酸素原子を有するヘテロ環を含み、一般式IIの低分子と呼べる場合である。
Figure 2022528737000003
上記式II中、Rは、C~C脂肪族アルキル基、芳香族カルボン酸又はアミドを表し、Rは、C~C脂肪族アルキルを表す。
このようなTGF-β阻害剤の1つの非限定的な例は、SB 431542としても知られている4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミドであり、これは、複数の供給元から市販されており、トランスフォーミング成長因子-βI型受容体(ALK5)、ALK4及びALK7の選択的阻害剤として販売されている。特異的なTGF阻害剤の別の非限定的な例は、SB 505124としても知られている2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン塩酸塩水和物である。
しかしながら、TGF-β阻害活性を示すか、又はTGF阻害剤として市販されている他の小分子も、本発明の文脈において同様に好適である可能性がある。化学合成又は組換え生産によって得られる物質から上記TGF-β阻害剤を選択する場合、規定培地を提供することができる。これは、ゼノフリー及び無血清(セラムフリー)の条件の要件にも適合する。
当業者であれば、当該技術分野で容易に利用可能な様々な方法を用いて、所与の薬剤がTGF-β阻害活性を有するか否か、及び当該方法での使用に適しているか否かを容易に判断することができる。
線維芽細胞成長因子
本発明の誘導培地では、分化に寄与するために、線維芽細胞成長因子が必要である。線維芽細胞成長因子、又はFGFは、一般に血管新生、創傷治癒及び胚発生に関与する成長因子の一群である。FGFはヘパリン結合タンパク質であり、細胞表面に結合したヘパラン硫酸プロテオグリカンとの相互作用がFGFのシグナル伝達に必須であることが示されている。FGFは、様々な細胞及び組織の増殖分化の過程において重要な役割を果たす。
本発明での使用に適した好ましい線維芽細胞成長因子は、塩基性FGF(bFGF又はFGF-2)である。しかしながら、いくつかの実施形態では、FGFの代わりに、線維芽細胞成長因子受容体を活性化するように設計された(例えば、組換えDNAバリアント又は変異体によって産生される)特定の合成低分子ペプチド等の他の材料が使用されてもよい。線維芽細胞成長因子は、基礎培地として使用される血清代替物に含まれていてもよいし、本発明に係る最終的な細胞培養培地に別途添加されてもよい。
分化期
必ずではないが好ましくは懸濁培養で行われる上述の誘導期に続いて、接着培養での分化期が行われる。後者の段階では、誘導期で産生された眼球前駆細胞が、ABCG2陽性角膜輪部幹細胞に分化される。
分化期は接着培養で行われるべきであり、上皮細胞にとっては細胞外マトリクス(ECM)に付着する能力が重要であると考えられているため、当該技術分野で一般に公知のECMタンパク質でコーティングされた細胞培養プレートやボトル等の基材を使用することが有利である。好ましいECMタンパク質としては、コラーゲンIV及びラミニン、好ましくはラミニン-521及び/又はラミニン-511が挙げられる。より好ましくは、細胞培養基材は、コラーゲンIVとラミニン521及び/又はラミニン511との混合物でコーティングされ、さらに好ましくは、5μg/cmのコラーゲンIV及び0.75μg/cmのラミニン521でコーティングされる。他の適切なコーティング材料の非限定的な例としては、コラーゲンI、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ナイドジェン、プロテオグリカン、又はそれらのペプチド配列、それらを含む市販の接着培養基材、例えばCELLstart(商標)、及びMatrigel(商標)又はGeltrex(登録商標)等の基底膜抽出物が挙げられる。さらに、フィーダー細胞の置き換えに適した任意のコーティングが分化期に使用されてもよい。ヒトでの使用においてゼノフリー条件が望まれる場合は、基質は、ヒト又は組換えヒト由来の1種以上のECMタンパク質でコーティングされるべきである。細胞培養基材をコーティングする手段及び方法は、当該技術分野で一般的に利用可能である。
典型的には、ABCG2陽性角膜輪部幹細胞を得るには、眼球前駆細胞を本発明の角膜分化条件下で約3日~約14日間、好ましくは約7日間培養する必要がある。いくつかの好ましい実施形態では、ABCG2陽性角膜輪部幹細胞は、誘導期を約2.5日~約18日間実施した後、角膜分化期を約3日~14日間実施することにより得られる。いくつかのさらに好ましい実施形態では、ABCG2陽性角膜輪部幹細胞は、誘導期を約4日間実施した後、角膜分化期を約6~7日間実施することにより得られる。この長さの分化段階の後に、最も純粋なABCG2陽性細胞集団を得ることができる。分化時間が短いと、より不均一な細胞集団が得られ、一方、分化時間が長いと、ABCG2の発現の消失とp63の発現の出現が同時に起こり、その後、角膜上皮細胞への最終的な成熟が起こる。成熟した角膜上皮のマーカーの非限定的な例としては、CK12及びCK3が挙げられる。
本明細書で使用する場合、用語「角膜分化培地」は、角膜系統への細胞の分化、好ましくはABCG2陽性角膜輪部幹細胞への分化を支持する細胞培養培地を指す。当業者であれば、当該技術分野で容易に利用可能な様々な方法を用いて、所与の細胞培地が角膜分化培地とみなされるか否か、ひいては本分化期での使用に適しているか否かを容易に判断することができる。
上記に従って、分化期での使用に適した培養培地は、例えば、CELLnTECH(セルンテック)から市販されているCnT-30等の任意の角膜培地、又は角膜上皮細胞の培養に適した任意のサプリメントホルモン上皮培地(supplemental hormonal epithelial medium、SHEM)であってもよい。他のいくつかの実施形態では、分化培地は、上皮成長因子(EGF)、ヒドロコルチゾン、インスリン、イソプロテレノール及びトリヨードチロニンからなる群から選択される1種以上の分化サプリメント等の材料を、任意の適切な基礎培地に添加することによって構成されてもよい。いくつかの実施形態では、角膜分化培地は、上記1種以上の分化成熟サプリメント、基礎培地、抗生物質、L-グルタミン、及び規定の血清代替物以外の材料を含有しない。すなわち、いくつかの実施形態では、上記角膜分化培地は、TGF-β阻害剤、線維芽細胞成長因子、及びBMP-4、又は機能的に同等の薬剤といったいずれの材料も含まない。いくつかのさらなる実施形態では、上記角膜分化培地は、Wnt阻害剤も含まない。
上述の実施形態のいずれも、分化培地が、神経分化を含む眼系統以外の細胞系統への分化を引き起こすことが一般的に知られているいかなるサプリメントも含まない、追加又は代替の実施形態の基礎を形成してもよい。そのような一般的に知られているサプリメントとしては、レチノイン酸、アスコルビン酸、BDNF、及びGDNFが挙げられるが、これらに限定されない。
維持期
上述の分化期の後には、接着培養による維持期が続く。この段階では、分化期で得られた角膜輪部幹細胞のABCG2陽性表現型が維持される。
維持期で使用するのに適した培養培地は、例えば、当該技術分野で入手可能で、角膜上皮細胞を培養するのに適した任意の角膜培地又は任意のサプリメントホルモン上皮培地(SHEM)であってよい。非限定的な例としては、CELLnTECHから市販されているCnT-07及びCnT-30、並びにHongistoら、2017、Stem Cellsに開示されているXFDM-が挙げられる。いくつかの他の実施形態では、維持培地は、任意の適切な基礎培地に、分化サプリメントとして少なくとも上皮成長因子(EGF)及び少なくとも1種のWnt活性化因子を添加することによって構成されてもよい。好ましいWnt活性化因子としては、CHIR99021等のグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤、及びR-スポンジン又はRS-246204等のその代替物が挙げられる。さらなる好ましい維持サプリメントは、ノギンである。いくつかの実施形態では、維持培地は、ヒドロコルチゾン、インスリン、イソプロテレノール、及びトリヨードチロニンをさらに含んでもよい。代替的又は追加的に、いくつかの実施形態では、維持培地は、上記維持サプリメント、基礎培地、抗生物質、L-グルタミン、及び規定の血清代替物以外の材料を含まない。従って、いくつかの実施形態では、培地は、TGF-β阻害剤、線維芽細胞成長因子、及びBMP-4、又は機能的に同等の薬剤といったいずれの材料も含まない。
いくつかの実施形態では、ABCG2陽性表現型は、少なくとも50日間、6回の継代にわたって、また、凍結保存にわたって維持される可能性がある。
上皮成長因子
本発明の分化培地において、角膜輪部幹細胞のABCG2発現を維持するためには、上皮成長因子が必要である。
いくつかの好ましい実施形態では、分化培地中のEGFの量は、約1ng/ml~約150ng/ml、好ましくは約1ng/ml~約100ng/ml、より好ましくは約5ng/ml~約50ng/mlである。
いくつかの実施形態では、EGFの代わりに、上皮成長因子受容体(EGFR)を活性化するように設計された(例えば、組換えDNAバリアント又は変異体によって産生される)特定の合成低分子ペプチド等の他の材料が使用されてもよい。
EGFは、血清代替物、基礎培地で提供されてもよいし、EGFは、本発明に係る最終的な細胞培養培地に別途添加されてもよい。
Wnt活性化因子
癌原遺伝子のWntファミリーは、少なくとも16の公知のメンバーから構成されており、これらのメンバーは、発癌、並びに細胞運命及び胚発生の制御等のいくつかの他の発生プロセスに関与する分泌シグナル伝達タンパク質をコードしている。本明細書で使用する場合、用語「Wnt活性化因子」は、Wntシグナル伝達経路を活性化することができる物質を指す。タンパク質及び低分子のWnt活性化因子の両方が当該技術分野で公知である。
グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤は、本発明で使用するための好ましいWnt活性化因子の例示的なクラスである。複数の提供元から市販されているCHIR99021は、GSK3の最も選択的な阻害剤であり、従って、本発明で使用するための特に好ましいWnt活性化因子である。さらなるGSK3阻害剤としては、SB-216763、BIO(6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)、LY2090314及び塩化リチウムが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これらはすべて市販されている。
いくつかの好ましい実施形態では、分化培地中のCHIR99021等のGSK3阻害剤の量は、約1μM~約15μM、約1μM~約10μM、約1μM~約5μM、好ましくは約3μMである。
本発明での使用に適したWnt活性化因子の別のクラスは、R-スポンジンタンパク質ファミリーであり、その4つのメンバーは、R-スポンジン-1、R-スポンジン-2、R-スポンジン-3及びR-スポンジン-4として指定され、正統的なWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の分泌されたアゴニストである。
いくつかの実施形態では、Wnt活性化因子はR-スポンジン-1である。好ましい濃度範囲としては、約100ng/ml~約2μg/ml、約500ng/ml~約2μg/ml、好ましくは約1μg/mlが挙げられる。
RS-246204は、低分子のR-スポンジン-1代用物であり、これも本発明での使用に適している。好ましい濃度範囲としては、約6.25μM~約200μM、及び約25μM~約50μMが挙げられる。
いくつかの実施形態では、分化サプリメントは、CHIR99021等の少なくとも1種のGSK3阻害剤、及びR-スポンジン-1等の少なくとも1種のR-スポンジンを含んでもよい。いくつかの他の実施形態では、上記少なくとも1種のGSK3阻害剤の量を増加させることが、上記少なくとも1種のR-スポンジンの存在を置き換えるために使用されてもよく、その逆もまた同様である。
当業者は、当該技術分野で容易に利用できる様々な方法を用いて、所与の薬剤がWnt活性化特性を有するか否か、及び当該方法での使用に適しているか否かを容易に判断することができる。化合物は、Wnt活性化因子として作用する能力について、例えば、市販の試験キット、Enzo(エンゾ)から入手可能なLEADING LIGHT(登録商標) Wntレポーターアッセイスターターキットを用いて試験することができる。
ノギン
NOGとしても知られるノギンは、神経組織、筋肉、及び骨を含む多くの身体組織の発達に関与するタンパク質である。
本発明のいくつかの実施形態では、分化培地は、角膜輪部幹細胞のABCG2発現を支援するために、ノギンをさらに含むか、又はノギンを補充されてもよい。
典型的には、分化培地中のノギンの量は、約10ng/ml~約500ng/ml、約10ng/ml~約100ng/mlで変化してもよく、例えば約100ng/mlであってもよい。
LDN-193189は、低分子のノギン代用物であり、本発明での使用にも適している。好ましい濃度範囲としては、例えば、約0.01μM~約1μMが挙げられる。さらなるノギン代用物としては、DMH1等のドルソモルフィン類似体が挙げられるが、これらに限定されない。
角膜輪部幹細胞のABCG2陽性表現型を維持する方法
本発明は、上述したABCG2陽性角膜輪部幹細胞の製造方法に加えて、角膜輪部幹細胞のABCG2陽性表現型を維持する方法も提供する。
この方法において、ABCG2陽性表現型を維持しようとする角膜輪部幹細胞は、初代角膜輪部幹細胞、又は上述の分化方法により生成された角膜輪部幹細胞が挙げられるがこれらに限定されず、任意のABCG2陽性角膜輪部幹細胞であってよい。
角膜輪部幹細胞のABCG2陽性表現型を維持する方法は、EGF及び少なくとも1種のWnt活性化因子を含む培養培地で、ABCG2陽性表現型の角膜輪部幹細胞を培養する工程を含む。いくつかの実施形態では、培地は、EGF及び少なくとも1種のGSK3阻害剤(CHIR99021等)を含む。いくつかの他の実施形態では、培地は、EGF及びR-スポンジン(R-スポンジン-1等)又はその代用物(RS-246204等)を含む。いくつかのさらなる実施形態では、培地は、EGF、少なくとも1種のGSK3阻害剤(CHIR99021等)及びR-スポンジン(R-スポンジン-1等)又はその代用物(RS-246204等)を含む。これらの各実施形態において、培地は、ノギンをさらに含んでいてもよい。ABCG2陽性角膜輪部幹細胞の製造方法に関して上述したこれらのサプリメントの好ましい濃度範囲は、角膜輪部幹細胞のABCG2陽性表現型を維持する当該方法にも適用される。
いくつかの実施形態では、ABCG2陽性表現型は、少なくとも50日間、6回の継代にわたって、また、凍結保存にわたって維持される可能性がある。
ABCG2陽性角膜輪部幹細胞の当該製造方法の維持期に関連して記載された任意の実施形態は、特段の記載がない限り、角膜輪部幹細胞のABCG2陽性表現型を維持する当該方法に適用され、その逆もまた同様である。
培養条件及び培地の一般的特徴
どのような培地も、基礎培地とサプリメントとで構成されていると考えられてよい。本発明の誘導培地では、必須のサプリメントは、まずTGF-β阻害剤及びFGF、次にBMP-4であり、本発明の維持培地では、必要なサプリメントは、EGF及び少なくとも1種のWnt活性化因子を含む。しかしながら、培養培地の文脈では、眼球組織以外の組織への分化を誘導することが知られていない限り、当該技術分野で一般的なサプリメントがさらに適用されてもよい。培地の成分に言及する場合、この用語には、基礎培地に対するサプリメント及び材料の両方が含まれる。
使用時又は使用準備が整っているとき、本発明の培養培地は、上述した適切な必須サプリメントを含んでいる。しかしながら、当該分野での一般的な慣行によれば、培地の材料は、上記成分を含む濃縮物として提供されてもよいし、提供される指示に従って実験室で使用する前に適切な組み合わせを調製するためのバイアルのセットとして提供されてもよい。多くの場合、培養培地は使用直前に希釈して最終組成物に調製される。それゆえ、そのような即時調製に使用するのに適した任意のストック溶液又は調製キットが当該方法で使用する細胞培養培地を得るために使用されてもよいことが理解される。例えば、上記の誘導培地の調製には、サプリメントとしてのTGF-β阻害剤及び線維芽細胞成長因子を、それぞれ別個の容器に入れて、又はそれらを任意に組み合わせて含み、任意に他の成分、例えば基礎培地又はその調製のための消耗品を含む細胞培養キットが採用されてもよい。
本明細書中でいう「(培養)培地」又は「培養液」は、微生物、細胞、小植物の成長を支援するために設計された任意の液体又はゲル状の配合物を広く指す。細胞の維持及び成長を目的とした配合物を指す場合には、「細胞培養培地」という用語が用いられる。当該技術分野では、誘導培地、成長培地、分化培地、成熟培地等の表現は、一般的な表現である「培養培地」の亜種と考えることができる。当業者は、培養培地中又は培養培地上で生細胞を維持し栄養を与えるために必要な基本的な成分を熟知しており、市販の基本的な培地が広く利用可能である。通常、このような基本的な成分は「基礎培地」と呼ばれ、必要なアミノ酸、ミネラル、ビタミン及び有機化合物を含んでいる。一般に、基礎培地は、単離された純粋な成分から組み合わされてもよい。必要に応じて、基礎培地に培養培地の特別の特徴又は機能に寄与する物質を補ってもよい。非常に一般的なサプリメントとしては、汚染物質の増殖を抑えるために使用される抗生物質、L-グルタミン酸、血清、血清アルブミン、血清代替物等が挙げられる。当業者は、必要な又は任意の培養培地成分及びその濃度の両方に精通している。
本発明の方法及びその様々な実施形態で使用するために、基礎培地は、幹細胞が効果的に分化できる任意の幹細胞培養培地であってよい。適切な基礎培地の非限定的な例としては、ノックアウトダルベッコ変法イーグル培地(KO-DMEM)、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、最小必須培地(MEM)、イーグル基礎培地(BME)、RPMI1640、F-10、F-12、グラスゴー最少必須培地(G-MEM)、イスコフ改変ダルベッコ培地、及びそれらの任意の組み合わせが挙げられる。いくつかの好ましい実施形態では、レチノール、bFGF及びアクチビンAを省略して改変したRegES培地(本明細書ではRegESbasicと呼ばれ、Vaajasaariら、Mol Vis. 2011;17:558-75に開示されている)が基礎培地として使用される。いくつかのより好ましい実施形態では、RegESbasicは、本発明の誘導培地の基礎培地として使用される。
より良い臨床的受容性のために、当該方法及びその様々な実施形態で使用するすべての培地は、好ましくは実質的にゼノフリー、実質的に無血清、又は実質的に規定のものであり、より好ましくはこれらの組み合わせであり、最も好ましくは同時に実質的にゼノフリー、実質的に無血清、及び実質的に規定のものである。本明細書では、「実質的に」は、意図しない痕跡は無関係であることを意味し、臨床又は実験室の規則の下で、ゼノフリー、無血清、又は規定のものとして考えられ、受け入れられているものは、ここにも適用される。
本明細書で使用する場合、用語「ゼノフリー」は、異物や外来成分が含まれていないことを意味する。従って、ヒトの細胞培養の場合は、用語「ゼノフリー」は、ヒト以外の動物成分を含まない状態を指す。言い換えれば、ヒトでの使用のための角膜細胞を製造するためにゼノフリーの条件が望まれる場合、あらゆる細胞培養培地のすべての成分は、ヒト又は組換え体由来のものでなければならない。
伝統的に、血清、特にウシ胎仔血清(FBS)は、真核細胞のインビトロ細胞培養のための必須の成長及び生存成分を提供する細胞培養において価値を見出されてきた。FBSは、食肉用に飼育された牛の食肉処理場で採取された血液から製造される。「無血清」は、培養培地が動物性又はヒト性の血清を含まないことを示す。規定培地(限定培地)は、未規定の(不明確な)培地、例えば、培養細胞から回収した使用済みの培地であって、培養細胞によって培地中に分泌された代謝産物、成長因子及び細胞外マトリクスタンパク質を含有する培地を指す「馴化培地」を使用することに矛盾がある場合に価値を見出される。未規定の培地は、生物学的な自然の変動により、かなりの相違点を帯びる可能性がある。細胞培養における未規定の成分は、例えば、創薬及び毒性研究における細胞モデル実験の再現性を損なう。従って、「規定培地」又は「規定の培養培地」は、培地がすべて既知の量の材料を有する組成物を指す。通常、細胞培養のために培養培地に添加される血清は、既知の量の血清成分、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、及び場合によっては特定の成長因子(例えば、塩基性線維芽細胞成長因子、形質転換成長因子又は血小板由来成長因子)で置き換えられる。
合成培地(既知組成培地)は、ヒト又は動物の細胞をインビトロで細胞培養するのに適した成長培地であって、化学成分がすべて既知である培地である。合成培地は、動物由来の成分を全く含まず、最も純粋で一貫性のある細胞培養環境を意味する。当然のこととして、合成培地は、ウシ胎仔血清も、ウシ血清アルブミンも、ヒト血清アルブミンも含むことができない。というのも、これらの産物は、ウシ又はヒトの供給元に由来し、アルブミン及び脂質の複雑な混合物を含有するからである。
合成培地は、ウシ血清アルブミン又はヒト血清アルブミンが、化学的に明確な組換え体(アルブミンに関連する脂質を欠く)又はBSA/HSAの機能の一部を再現できるポリマーであるポリビニルアルコール等の合成化学物質のいずれかに置き換えられている点で、無血清培地とは異なる。合成培地の次のレベルの規定培地は、タンパク質を含まない培地である。これらの培地は、動物性タンパク質の加水分解物を含み、昆虫やCHO細胞の培養に一般的に使用されているが、その配合は複雑である。
いくつかの実施形態によれば、本発明の培地は、ゼノフリー血清代替配合物を含む。規定のゼノフリーの血清代替の配合物又は組成物は、幹細胞のインビトロでの導出、維持、増殖、又は分化に使用するための任意の適切な基礎培地を補うために使用されてもよい。上記血清代替物は、血清を含まない基礎培地若しくは血清を含む基礎培地のいずれか、又はそれらの任意の組み合わせを補充するために使用されてもよい。ゼノフリーの基礎培地にゼノフリーの血清代替物を補充すると、最終的な培養培地もゼノフリーとなる。1つの例は、本発明の文脈で適用可能なゼノフリーの血清代替物を記述した、参考として本明細書に組み込まれるRajalaら、2010に記載されている。血清代替物の別の非限定的な例は、どちらもLife Technologies(ライフ・テクノロジーズ)から市販されているKnockOut(商標) Serum Replacement(Ko-SR)及びゼノフリーバージョンのKnockOut(商標) SR XenoFree CTS(商標)である。
治療上の使用
本発明は、必要とする対象における、角膜上皮幹細胞疲弊症(LSCD)等の眼疾患の治療方法も提供する。当該方法は、本発明に従って製造又は維持された効率的な量のABCG陽性角膜輪部幹細胞を上記対象に投与する工程を含む。
上記に従い、本発明は、LSCD等の眼疾患の治療に使用するための、本発明に従って製造又は維持されたABCG2陽性角膜輪部幹細胞も提供する。
本明細書で使用する場合、用語「対象」は、任意の哺乳動物、好ましくはヒトを指す。
治療に使用するためのABCG2陽性角膜輪部幹細胞は、同種異系間のものでもよいし、又は自家性のものでであってもよい。
本明細書で使用する場合、用語「効率的な量」は、眼疾患の有害な影響を少なくとも改善する、ABCG2陽性角膜輪部幹細胞の量を指す。p63陽性細胞が細胞集団のわずか3%を占めるだけの輪部幹細胞の培養で、78%の治療成功率をもたらすことが報告されていることから(Ramaら、2010、N Engl J Med、363:147-55)、わずか3%以上のABCG2陽性細胞を含む角膜輪部幹細胞の集団も、臨床的に有用であると考えられてもよく、従って「効率的な量」という用語に包含されてもよい。しかしながら、好ましくは、ABCG2陽性角膜輪部幹細胞の効率的な量は、ABCG2陽性細胞が全細胞集団の少なくとも65%、好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも90%を占める細胞集団を指す。
本明細書で使用する場合、用語「治療」又は「治療する」は、疾患を改善、軽減、抑制、又は治癒することを含んでもよい目的で、本発明のABCG2陽性角膜輪部幹細胞を対象に投与することを含むことを意図している。
本発明の番号付きの例示的な実施形態
1. 角膜輪部幹細胞のABCG2陽性表現型を維持する方法であって、EGF及び少なくとも1種のWnt活性化因子を含む培養培地中でABCG2陽性角膜輪部幹細胞を培養する工程を含む方法。
2. EGFの量が、約1ng/ml~約150ng/ml、好ましくは約1ng/ml~約100ng/ml、より好ましくは約15ng/ml~約50ng/mlである実施形態1に記載の方法。
3. 上記Wnt活性化因子が、GSK3阻害剤及びR-スポンジンファミリーのタンパク質からなる群から選択される実施形態1又は実施形態2に記載の方法。
4. 上記GSK3阻害剤が、CHIR99021、SB-216763、BIO(6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)、LY2090314及び塩化リチウムからなる群から選択される実施形態3に記載の方法。
5. GSK3阻害剤がCHIR99021である実施形態4に記載の方法。
6. CHIR99021の量が、約1μM~約15μM、約1μM~約10μM、約1μM~約5μM、又は約3μMである実施形態5に記載の方法。
7. 上記R-スポンジンファミリーのタンパク質が、R-スポンジン-1及びそのサプリメントRS-246204、R-スポンジン-2、R-スポンジン-3及びR-スポンジン-4からなる群から選択される実施形態3に記載の方法。
8. R-スポンジンファミリーのタンパク質がR-スポンジン-1である実施形態7に記載の方法。
9. R-スポンジン-1の量が、約100ng/ml~約2μg/ml、約500ng/ml~約2μg/ml、又は約1μg/mlである実施形態8に記載の方法。
10. RS-246204の量が、約6.25μM~約200μM、又は約25μM~約50μMである実施形態7に記載の方法。
11. 上記培養培地が、ノギン、又はLDN-193189及びDMH1等のドルソモルフィン類似体からなる群から選択されるそのサプリメントをさらに含む実施形態1から実施形態10のいずれか1つに記載の方法。
12. ノギンの量が、約10ng/ml~約500ng/ml、約10ng/ml~約100ng/ml、又は約100ng/mlである実施形態11に記載の方法。
13. LDN-193189の量が、約0.01μM~約1μMである実施形態11に記載の方法。
14. 上記ABCG2陽性角膜輪部幹細胞が、ABCG2陽性初代角膜輪部幹細胞又は多能性幹細胞由来のABCG2陽性角膜輪部幹細胞である実施形態1から実施形態13のいずれか1つに記載の方法。
15. 上記細胞がヒト細胞である実施形態14に記載の方法。
16. ABCG2陽性角膜輪部幹細胞の製造方法であって
a)多能性幹細胞を提供する工程と、
b)上記細胞を、TGF-β阻害剤及び線維芽細胞成長因子(FGF)、好ましくは塩基性FGFを含む細胞培養培地中で培養する工程と、
c)上記TGF-β阻害剤及び上記FGFを除去し、工程b)で得られた細胞を、骨形成タンパク質4(BMP-4)を含む細胞培養培地中で培養し、これにより眼球前駆細胞を生成する工程と、
d)上記眼球前駆細胞を角膜分化培地中で培養し、これによりABCG2陽性角膜輪部幹細胞を生成する工程と、
e)上記ABCG2陽性角膜輪部幹細胞を、EGF及び少なくとも1種のWnt活性化因子を含む維持細胞培養培地中で培養し、これにより工程a~d)を経て得られたABCG2陽性角膜輪部幹細胞の表現型を維持する工程と
を含む方法。
17. ABCG2陽性角膜輪部幹細胞の製造方法であって、
a)TGF-β阻害剤及び線維芽細胞成長因子(FGF)、好ましくは塩基性FGFを含む細胞培養培地中で多能性幹細胞を培養する工程と、
b)上記TGF-β阻害剤及び上記FGFを除去し、工程a)で得られた細胞を、骨形成タンパク質4(BMP-4)を含む細胞培養培地中で培養し、これにより眼球前駆細胞を生成する工程と、
c)上記眼球前駆細胞を角膜分化培地中で培養し、これによりABCG2陽性角膜輪部幹細胞を生成する工程と、
d)上記ABCG2陽性角膜輪部幹細胞を、EGF及び少なくとも1種のWnt活性化因子を含む維持細胞培養培地中で培養し、これにより工程a~e)を経て得られたABCG2陽性角膜輪部幹細胞の表現型を維持する工程と
を含む方法。
18. 上記TGF-β阻害剤が、800g/モル未満、好ましくは500g/モル未満のモル質量を有するTGF-β阻害剤から選択される実施形態16又は実施形態17に記載の方法。
19. 上記TGF-β阻害剤が、式Iに係る有機分子から選択され、
Figure 2022528737000004
上記式中、Rは、C~C脂肪族アルキル基、カルボン酸、アミドを表し、Rは、C~C脂肪族アルキルを表し、R及びRは、ヘテロ原子、O又はNを含む脂肪族アルキルを表し、これらは互いに連結して5員又は6員のヘテロ環を形成してもよい実施形態18に記載の方法。
20. 線維芽細胞成長因子が、塩基性FGF及び線維芽細胞成長因子様の活性を示す合成低分子ペプチドから選択される実施形態16から実施形態18のいずれか1つに記載の方法。
21. TGF-β阻害剤の量が、1μM~100μM、好ましくは1~30μMである実施形態16から実施形態20のいずれか1つに記載の方法。
22. 線維芽細胞成長因子の量が、1ng/ml~約1000ng/ml、好ましくは約2ng/ml~約100ng/ml、より好ましくは約30ng/ml~約80ng/mlである実施形態16から実施形態21のいずれか1つに記載の方法。
23. BMP-4の量が1ng/ml~1000ng/ml、好ましくは約10ng/ml~50ng/ml、より好ましくは25ng/mlである実施形態16から実施形態22のいずれか1つに記載の方法。
24. EGFの量が、約1ng/ml~約150ng/ml、好ましくは約1ng/ml~約100ng/ml、より好ましくは約15ng/ml~約50ng/mlである実施形態16から実施形態23のいずれか1つに記載の方法。
25. 上記Wnt活性化因子が、GSK3阻害剤及びR-スポンジンファミリーのタンパク質からなる群から選択される実施形態16から実施形態24のいずれか1つに記載の方法。
26. 上記GSK3阻害剤が、CHIR99021、SB-216763、BIO(6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)、LY2090314及び塩化リチウムからなる群から選択される実施形態25に記載の方法。
27. GSK3阻害剤がCHIR99021である実施形態26に記載の方法。
28. CHIR99021の量が、約1μM~約15μM、約1μM~約10μM、約1μM~約5μM、又は約3μMである実施形態27に記載の方法。
29. 上記R-スポンジンファミリーのタンパク質が、R-スポンジン-1及びそのサプリメントRS-246204、R-スポンジン-2、R-スポンジン-3及びR-スポンジン-4からなる群から選択される実施形態25に記載の方法。
30. R-スポンジンファミリーのタンパク質がR-スポンジン-1である実施形態29に記載の方法。
31. R-スポンジン-1の量が、約100ng/ml~約2μg/ml、約500ng/ml~約2μg/ml、又は約1μg/mlである実施形態30に記載の方法。
32. RS-246204の量が、約6.25μM~約200μM、又は約25μM~約50μMである実施形態29に記載の方法。
33. 上記維持培養培地が、ノギン、又はLDN-193189及びDMH1等のドルソモルフィン類似体からなる群から選択されるそのサプリメントをさらに含む実施形態16から実施形態32のいずれか1つに記載の方法。
34. ノギンの量が、約10ng/ml~約500ng/ml、約10ng/ml~約100ng/ml、又は約100ng/mlである実施形態33に記載の方法。
35. LDN-193189の量が、約0.01μM~約1μMである実施形態33に記載の方法。
36. 上記多能性幹細胞が、人工多能性幹(iPS)細胞及び胚性幹(ES)細胞から選択されるが、ただし、ヒト胚性幹(hES)細胞が使用される場合、上記方法はヒト胚の破壊を含まない実施形態16から実施形態35のいずれか1つに記載の方法。
37. 上記細胞がヒト細胞である実施形態16から実施形態36のいずれか1つに記載の方法。
38. 工程a)が、上記多能性幹細胞から胚様体を形成することを含む実施形態16及び実施形態16を引用する場合の実施形態18から実施形態37のいずれかに記載の方法。
39. 上記多能性幹細胞から胚様体を形成することを含む工程が工程a)に先行する実施形態17及び実施形態17を引用する場合の実施形態18から実施形態37のいずれかに記載の方法。
40. 上記胚様体を形成することが、物理的又は化学的方法によって行われ、好ましくは、接着防止剤の存在下で細胞を培養すること、懸滴中で細胞を培養すること、微細加工技術、遠心分離等による強制的な凝集、並びに高分子クラウダー、ブレビスタチン及びROCK阻害剤等の1種以上の凝集促進剤の存在下で細胞を培養することからなる群から選択される法によって行われる実施形態38又は実施形態39に記載の方法。
41. 工程d)及び工程e)における上記培養が、少なくともコラーゲンIV並びにラミニン、好ましくはラミニン521及び/又はラミニン511でコーティングされた基材上で行われる実施形態16及び実施形態16を引用する場合の実施形態18から実施形態40のいずれかに記載の方法。
42. 工程c)及び工程d)における上記培養が、少なくともコラーゲンIV並びにラミニン、好ましくはラミニン521及び/又はラミニン511でコーティングされた基材上で実施される実施形態17及び実施形態17を引用する場合の実施形態18から実施形態40のいずれかに記載の方法。
43. 実質的にゼノフリー、実質的に無血清及び/又は規定の条件で実施される実施形態1から実施形態42のいずれか1つに記載の方法。
44. 工程b)の継続時間が、1~7日間、好ましくは1日間実施される実施形態16及び実施形態16を引用する場合の実施形態18から実施形態43のいずれかに記載の方法。
45. 工程a)の継続時間が1~7日間、好ましくは1日間実施される実施形態17及び実施形態17を引用する場合の実施形態18から実施形態43のいずれかに記載の方法。
46. 工程c)の継続時間が0.5~5日間、好ましくは2日間実施される実施形態16及び実施形態16を引用する場合の実施形態18から実施形態43のいずれかに記載の方法。
47. 工程b)の継続時間が0.5~5日間、好ましくは2日間実施される実施形態17及び実施形態17を引用する場合の実施形態18から実施形態43のいずれかに記載の方法。
48. 工程d)の継続時間が3~14日間、好ましくは6~7日間、より好ましくは7日間実施される実施形態16及び実施形態16を引用する場合の実施形態18から実施形態43のいずれかに記載の方法。
49. 工程c)の継続時間が、3~14、好ましくは6~7日間、より好ましくは7日間実施される実施形態17及び実施形態17を引用する場合の実施形態18から実施形態43のいずれかに記載の方法。
50. 工程e)の継続時間が、50日未満又は少なくとも50日等の任意の所望の日数の間実施される実施形態16及び実施形態16を引用する場合の実施形態18から実施形態43のいずれかに記載の方法。
51. 工程d)の継続時間が、50日未満又は少なくとも50日等の任意の所望の日数の間実施される実施形態17及び実施形態17を引用する場合の実施形態18から実施形態43のいずれかに記載の方法。
52. 眼疾患、好ましくは角膜上皮幹細胞疲弊症(LSCD)の治療に使用するための、ABCG2陽性表現型が実施形態1から実施形態15のいずれか1つに記載の方法によって維持されているか、又は請求項16から請求項51のいずれか1つに記載の方法によって製造されたABCG2陽性角膜輪部幹細胞。
技術の進歩に伴い、本発明の概念を様々な方法で実施できることは、当業者には明らかであろう。本発明及びその実施形態は、以下に説明する例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の射程内で変わってもよい。
実施例1. ヒト多能性幹細胞から角膜輪部上皮幹細胞への分化の検討により、ABCG2又はΔNp63αを発現する2つの異なる細胞集団がその後出現することが明らかになる
これらの実験は、国際公開第2018/037161号パンフレットに開示されている分化方法を用いて、ヒト多能性幹細胞から角膜輪部上皮幹細胞への分化過程に沿った分化階層を解析するために行った。
材料及び方法
国際公開第2018/037161号パンフレットの分化プロトコル
遺伝的に異なる3つの組織内由来hPSC株、hESC株Regea08/017及びRegea11/013(Skottmanら、2010)、並びにhiPSC株UTA.04607.WTを本研究では使用した。ヒトPSC培養物は、血清及びフィーダー細胞を含まない条件で日常的に維持し、Hongistoら2017 Stem Cell Res及びHongistoら2018 JoVEにこれまでに記載されているように、角膜上皮系統に向けて分化させた。簡単に言うと、未分化のhPSCのコロニーを酵素的に単細胞懸濁液に解いて、懸濁培養での誘導のために、低接着性ウェルプレート上の規定XF-Ko-SR培地に移した。初日に胚様体(EB)の形成をサポートするために、5μMのブレビスタチン(Sigma-Aldrich(シグマ・アルドリッチ))をXF-Ko-SRに添加した。続く3日間のEBとしての誘導期間のあいだ、まずXF-Ko-SR培地に10μMのSB-505124及び50ng/mlのヒト塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF;PeproTech Inc.(ペプロテック)、ロッキーヒル(Rocky Hill)、ニュージャージー州)を1日間、25ng/mlの骨形成タンパク質(BMP)-4(PeproTech Inc.)を2日間添加した。誘導後、EBを、さらに上皮分化させるために、0.5μg/cmの組換えラミニン-521(LN-521、Biolamina(バイオラミナ)、スウェーデン)及び5μg/cmのヒト胎盤由来IV型コラーゲン(Col IV、Sigma-Aldrich)がコーティングされたウェルの市販の規定のCnT-30角膜分化培地(CELLnTEC Advanced Cell Systems AG(セルンテック・アドバンスト・セル・システムズ)、ベルン、スイス)に移した。標準的な分化では、その後、接着した培養物をCnT-30で維持し、分析又は凍結保存まで週に3回培地を交換した。細胞形態の代表的な画像は、Nikon Eclipse TE2000-S位相差顕微鏡(Nikon Instruments Europe(ニコン・インスツルメンツ・ヨーロッパ))で撮影した。
免疫蛍光法による分化プロトコル中のタンパク質発現プロファイリング
Regea08/017及びUTA.04607の未分化(UD)のヒト多能性幹細胞及びhPSC由来のLSCを、7日目、9日目、11日目、14日目、17日目、21日目、24日目(4日間の誘導期間を含む)の時間点で、OCT-3/4、PAX-6、ABCG2、p63α、ΔNp63、CK-15、CK-14及びCK-12の発現について、免疫蛍光標識(IF)を用いて完全に特性評価するために用いた。OCT-3/4、ABCG2、p63α、ΔNp63、CK-15及びCK-14の発現を定量化するためのサイトスピン試料を10日目及び24日目の時間点で調製した。染色の前に、細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA、Sigma-Aldrich)で15~20分間、室温(RT)で固定した。一次抗体及び二次抗体(表1)を用いた基本的なIFプロトコルは、基本的にMikhailovaら、2014にこれまで記載されている通りに実施した。染色した細胞の生の画像をOlympus(オリンパス) IX51蛍光顕微鏡で撮影し、ImageJ画像処理及び解析用ソフトウェア(https://imagej.nih.gov/ij/)を細胞計数分析のために使用した。IFの特性評価とサイトスピンの定量化は、個々の分化バッチからの細胞を用いて、両方の株について2~3回繰り返した。続いて、11日目及び24日目のIF解析により、hESC株Regea11/013の同様のタンパク質発現プロファイルが確認された。
Figure 2022528737000005
ABCG2についての蛍光活性化セルソーティング(FACS)分析
FACS抗体で標識するために、まず細胞を酵素的に解離させ、DPBS(Lonza(ロンザ))中に0.5%ウシ血清アルブミン(BSA、Sigma-Aldrich)及び2nM EDTA(Gibco(ギブコ)、Thermo Fisher Scientific(サーモフィッシャーサイエンティフィック))を含む予め冷却したFACS洗浄バッファで洗浄した。カウントした細胞は、試料ごとに2~10×10細胞を5mlチューブに分けて入れた。最適化した量の適切な抗体を100μlの試料体積に加え、遮光しながら氷上で20分間インキュベートした。最後に、試料を2回洗浄し、上記洗浄バッファに再懸濁し、分析するまで氷上で保存した。APC結合モノクローナルマウス抗ヒトCD338(ABCG2)抗体、クローン5D3(BD Pharmingen(ビーディー・ファーミンジェン)、#561451)を用いて細胞を標識した(試料あたり3μl)。また、APC結合マウスIgG2bκ抗体(BD Pharmingen、#555745)を適切なアイソタイプ対照として使用し、集団をゲートするために非染色の陰性試料を調製した。FACS解析は、BD FACSAria(商標) Fusionセルソーター(BD Biosciences(ビーディー・バイオサイエンシーズ)、サンノゼ、カリフォルニア州、米国)を用いて行い、個々の分化バッチからの解析は、Regea08/017株及びUTA.04607.WT株の両方について少なくとも3回繰り返した。各試料について、10,000イベントを記録した。
ABCG2の定量的RT-PCR
ペレット化した細胞試料から、RNeasy Mini Kit(Qiagen(キアゲン)、Thermo Fisher Scientific)を用いて全RNAを抽出し、NanoDrop-1000分光光度計(NanoDrop Technologies(ナノドロップ・テクノロジーズ))を用いて各試料のRNA濃度を測定した。各試料の400ngの全RNAを、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems(アプライド・バイオシステムズ)、Thermo Fisher Scientific)を用いたcDNA合成に使用した。得られたcDNA試料は、配列特異的TaqMan Gene Expression Assay(#HS01053790_m1、Applied Biosystems)を用いて、qPCRでそれらのABCG2 mRNAについて分析した。GAPDH(Hs99999905_m1)をハウスキーピング遺伝子として用いた。すべての試料と対照は、7300 Real-Time PCRシステム(Applied Biosystems)を用いて、3回の反応として実行した。結果は、-2ΔΔCt法(Livak及びSchmittgen、2001)を用いて解析し、GAPHDを基準にして、未分化対照(UD-hPSC)との相対的な遺伝子発現の倍率変化として示した。
結果
hPSCがLSCに分化する過程の異なる段階でのタンパク質発現を調べるために、遺伝的に異なる2つのフィーダーフリー培養のhPSC株、hESC株Regea08/017及びhiPSC株UTA.04607.WTを、確立された2段階のプロトコル(Hongistoら、2017 Stem Cell Res Ther)を用いて角膜系統に導いた。分化プロセスに沿って、OCT3/4、及びいくつかの認められたLSC及び成熟した角膜上皮関連のマーカータンパク質の発現パターンの変化を、免疫蛍光標識(IF)を用いて広範囲に特性評価した。8つのIF分析時間点は、0日目(UD-hPSC)、7日目、9日目、11日目、14日目、17日目、21日目及び24日目(4日間の誘導期間を含む)を含んでいた。この時間のあいだ、多能性関連因子であるOCT-3/4の発現は著しく下方制御されたのに対して、PAX-6、ΔNp63α、CK-15及びCK-14の発現は顕著に増加し、これは、輪部上皮様細胞集団が出現していることを示した(図2A)。興味深いことに、ABCG2は一過性にしか発現せず、9~11日目にピークを迎え、その後徐々に減少し、分化24日目までに非常に低いレベルになった(図2A)。このプロトコルを用いた以前の結果(Hongistoら、2017)と同様に、成熟した角膜上皮マーカーCK-12は、この特性評価枠の間、検出されないままであり(データは示していない)、細胞の未分化な前駆細胞表現型をさらに確認した。サイトスピン試料からのタンパク質発現を定量化したところ、10日目及び24日目の時間点の細胞集団の間に大きな違いがあることが確認された(図2B)。代表的なhESC株(Regea08/017)では、ABCG2の発現が62.3%(SD 6.7)から1.8%(SD 0.9)に減少し、ΔNp63αの発現(ΔNp63抗体及びp63α抗体を用いた二重染色により示されるとおり。図2C)は23.2%(SD 14.1)から54.3%(SD 6.2)に増加した。CK15及びCK14の発現は、10日目には検出されなかったレベルから、24日目までにそれぞれ37.0%(SD 12.4)及び56.2%(14.3)に増加した。他方、OCT3/4は、10日目にはすでに1.5%未満の細胞でしか発現しておらず、24日目までに1%未満にまでさらに減少した。分化過程におけるABCG2及びΔNp63αの挙動が異なることから、10日目及び24日目のサイトスピン試料を用いて、ABCG2とp63αとの共局在を調べた。興味深いことに、図2Dに示したように、両マーカーの最も強い染色は、典型的には異なる細胞で観察された。さらに、10日目にはABCG2とp63αとが31.6%の細胞で共局在していたのに対し、24日目にはABCG2+/p63α+の細胞は1%しかなかった(図2E)。しかしながら、2つの時間点の間で観察された差は、統計的には有意ではなかった(マン・ホイットニーのU検定)。
ABCG2の発現パターンを確認するために、UD-hPSCだけでなく、10日目~11日目及び24日目~26日目のhPSC-LSCからも、蛍光活性化セルソーティング(FACS)分析を行った。その結果、UD-hPSC及びより分化した24~25日目のhPSC-LSCでは、ともにABCG2の発現が低かったが(代表的なhESC株であるRegea08/017では、それぞれ0.8%、SD 1.3及び1.5%、SD 2.0)、10~11日目のhPSC-LSCでは、ABCG2の発現レベルが有意に高かった(21.6%、SD 8.2、マン・ホイットニーのU検定)(図2F)。加えて、転写レベルでのABCG2発現の変化をqRT-PCRで解析したところ、10日目のhPSC-LSC集団では、UD-hPSC及び24日目のhPSC-LSC集団と比較して、ABCG2 mRNAの発現レベルも顕著に高いことが確認された(図2G)。これらを合わせると、上記特性解析は、hPSC-LSCの分化過程において、10~11日目と24日目の時間点の間で、提案した輪部上皮幹細胞/前駆細胞マーカーのABCG2、ΔNp63α、CK-15及びCK-14についての非常に異なる発現プロファイルを明らかにした。
実施例2. ABCG2発現の維持
ABCG2の発現を長期間維持するために必要な培養条件を確立するために、この実験を行った。
材料及び方法
ABCG2陽性hPSC-LSC表現型を維持するための培養条件
ABCG2陽性集団を維持するために、CnT-30の培養培地を、CnT-07(CELLnTEC Advanced Cell Systems AG、ベルン、スイス)に置き換え、10~11日目(4日間の誘導期間を含む)にENRC(50ng/mlマウス組換え上皮成長因子(EGF、Invitrogen(インビトロジェン))、100ng/mlのマウス組換えノギン、1μg/mlのヒト組換えR-スポンジン-1(いずれもPeprotech)、及び3μMのCHIR-99021(Stemgent(ステムジェント))を補充した。CnT-07+ENRC培地を接着培養物に直接導入するか、あるいは、hPSC-LSCを同時に酵素的に解いて単細胞懸濁液とし、上記新しい培地で1000~5000細胞/cmの密度で新しいLN-521/Col IVコーティングした新しいウェルに継代した。いずれの場合も、hPSC-LSCはその後、標準的な給餌法に従って培養した。ABCG2陽性コロニーが出現した後、CnT-07+ENRCでのhPSC-LSCのさらなる増殖及び/又は培養の継続は、サブコンフルエントな培養物を1000細胞/cmの密度で、新しいLN-521/Col IVコーティングのマトリクスに継代することにより達成した。この細胞の凍結保存は、Hongistoら、2017 Stem Cell Res Therに記載されているように行った。
Cnt-07+ENRCで培養したhPSC-LSCコロニーにおける高いABCG2発現の保存は、研究した3つのhPSC株すべてでIFにより確認した。Regea08/017及びUTA.04607.WTについては、定量的RT-PCR分析を実施した。上記特性評価方法の実施は、基本的に実施例1に記載したものに従った。
上記に加えて、ABCG2陽性hPSC-LSC表現型を維持するための以下の改変培養条件を、hESC株Regea08/017を用いて試験した。
第1の関連実験では、異なる細胞培養培地を、ENRCの補充を伴う基礎培地として試験した。試験した基礎培地は、市販の多能性幹細胞培養培地E8 Flex(Thermo Fisher Scientific)、市販の角膜分化培地CnT-30(CELLnTEC)、及びHongistoら、2017 Stem Cell Res & Therに記載されている自前で配合したゼノフリー基礎培地XF-Ko-SRを含んでいた。
第2の関連実験では、CnT-07を、改変ENRC配合物を補充した基礎細胞培養培地として使用した。各実験条件では、ENRCの1つの成分が提供されなかった。従って、試験した条件は、CnT-07+ENR(CHIR-99021なし)、CnT-07+ENC(R-スポンジン-1なし)、CnT-07+ERC(ノギンなし)及びCnT-07+NRC(EGFなし)であった。
上述の両実験では、試験した細胞培養条件を、11日目(4日間の分化期間を含む)に接着したhPSC-LSC培養物に直接導入し、週3回の標準的な給餌法に従って10日間培養した。実験終了時には、Nikon Eclipse TE2000-S位相差顕微鏡(Nikon Instruments Europe)を用いて、細胞の形態を評価し、代表的な画像を撮影した。2回目の実験では、細胞を固定し、ABCG2抗体及びp63α抗体を用いたIF染色に供し、ABCG2陽性hPSC-LSC表現型の維持を確認した。
増殖分析
Regea11/013について、各継代培養終了時に個体数の倍加を以下の式を用いて算出した:log(N/N0)/log2(式中、N0はプレーティングされた細胞の数、Nは培養期間終了時の細胞の数)。同様に、各継代についての個体数倍加時間を以下の式で算出した。T×log2/log(N-N0)(式中、Tは時間単位の培養の継続時間である)。
結果
重要なことに、角膜分化培地CnT-30を、EGF、ノギン、R-スポンジン-1及びCHIR-99201の特定の組み合わせ(ENRC)を補充した上皮維持培地CnT-07に置き換えると、コロニーの形態が維持され、ABCG2が強く発現した。一方、完全なENRCを添加した他の試験した細胞培養培地、つまりE8 Flex、CnT-30及びXF-Ko-SRは、不要な細胞型に関連して、所望の細胞形態を保持及び拡大することに効果的ではなかった(データは示さず)。効率の悪い性能にもかかわらず、これらの培地も、少なくともその一部の実施形態において、本発明での使用に適している。興味深いことに、ENRCの完全な組み合わせを補充したCnT-07に加えて、ABCG2陽性hPSC-LSC表現型は、CHIR-99021を含むすべての試験したENRC改変条件、すなわちCnT-07+ENC、CnT-07+ERC及びCnT-07+NRCにおいて維持された。
注目すべきは、ABCG2陽性コロニーは低レベルのp63αしか発現していなかったのに対し、CnT-30条件のABCG2陰性の細胞がp63αを発現していたことである(図3A)。さらに、CnT-07+ENRCの条件では、細胞を継代した後でもABCG2の発現が維持されたが(図3B)、CnT-30の分化培地中で培養及び継代を続けると、実施例1のhPSC-LSCの分化過程で説明したように、上記細胞は堅牢なABCG2の発現を失い、p63αを発現する表現型にさらに分化した。これらのIF結果は、遺伝的に異なる3つの細胞株、2つのhESC株(Regea08/017及びRegea11/013)並びに1つのhiPSC株(UTA.04607.WT)で確認した。CnT-07+ENRC条件の効果は3つのケースで一貫していたが、さらなる継代での成長効果や他の細胞型を生成する傾向は細胞株間で異なることが観察された。継代を行わない場合、ABCG2陽性コロニーはCnT-07+ENRC中で少なくとも24日間(hPSC-LESCの総培養時間で35日間)持続したが、この日数は1つの株Regea08/017で試験した最も長い解析した時間点であった(データは示さず)。
ABCG2陽性hPSC-LSCを継代するための最適な時間点を決定するために、2つの異なる時間点を試験した。まず、細胞をCnT-07+ENRCで10日間培養し、ABCG2の発現が安定した21日目に継代を実施した。代替のアプローチでは、11日目(つまり、hPSC-LESCの分化過程におけるABCG2発現枠のピーク時)に細胞を継代し、CnT-07+ENRCに再播種してさらに培養した。ABCG2陽性コロニーの維持は、どちらの方法でも達成され、3つの細胞株すべてで確認されたが、増殖効果には細胞株特異的な大きな違いがあった。Regea11/013では、後者のアプローチにより、非常に増殖性の高いコロニーが形成され、他の細胞種の細胞がほとんど混入しなかった。コロニーの形態及びABCG2/p63αの発現は、さらなる継代でも影響を受けなかった(図4A)。Regea11/013では、5回の継代で20回を超える以上の個体数の倍加(PD)が観察され、平均個体数倍加時間(PDT)は50.9時間(SD 16.4)であった(図4B-C、黒点線)。加えて、継代2と継代3の間(p2-p3)で凍結保存しても、図4B~図4Cの白枠線で示すように、細胞の増殖能力に顕著な影響はなかった。

Claims (13)

  1. 角膜輪部幹細胞のABCG2陽性表現型を維持する方法であって、EGF及び少なくとも1種のWnt活性化因子を含む培養培地中でABCG2陽性角膜輪部幹細胞を培養する工程を含む方法。
  2. 前記Wnt活性化因子が、GSK3阻害剤、好ましくはCHIR99021、及びR-スポンジンファミリーのタンパク質、好ましくはR-スポンジン-1又はそのサプリメントRS-246204からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
  3. 前記培養培地がノギン又はそのサプリメントLDN-193189をさらに含む請求項1又は請求項2に記載の方法。
  4. 前記ABCG2陽性角膜輪部幹細胞が、ABCG2陽性初代角膜輪部幹細胞又は多能性幹細胞由来のABCG2陽性角膜輪部幹細胞である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
  5. ABCG2陽性角膜輪部幹細胞の製造方法であって、
    a)多能性幹細胞を提供する工程と、
    b)前記細胞を、TGF-β阻害剤及び線維芽細胞成長因子(FGF)、好ましくは塩基性FGFを含む細胞培養培地中で培養する工程と、
    c)前記TGF-β阻害剤及び前記FGFを除去し、工程b)で得られた前記細胞を、骨形成タンパク質4(BMP-4)を含む細胞培養培地中で培養し、これにより眼球前駆細胞を生成する工程と、
    d)前記眼球前駆細胞を角膜分化培地中で培養し、これによりABCG2陽性角膜輪部幹細胞を生成する工程と、
    e)前記ABCG2陽性角膜輪部幹細胞を、EGF及び少なくとも1種のWnt活性化因子を含む維持細胞培養培地中で培養し、これにより工程a~d)を経て得られたABCG2陽性角膜輪部幹細胞の表現型を維持する工程と
    を含む方法。
  6. 前記Wnt活性化因子が、GSK3阻害剤、好ましくはCHIR99021、及びR-スポンジンファミリーのタンパク質、好ましくはR-スポンジンg-1又はそのサプリメントRS-246204からなる群から選択される請求項5に記載の方法。
  7. 工程e)の前記維持培養培地が、ノギン又はそのサプリメントLDN-193189をさらに含む請求項5又は請求項6に記載の方法。
  8. 前記多能性幹細胞が、人工多能性幹(iPS)細胞及び胚性幹(ES)細胞から選択されるが、ただし、ヒト胚性幹(hES)細胞が使用される場合、前記方法はヒト胚の破壊を含まない請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
  9. 工程a)が、前記多能性幹細胞から胚様体を形成することを含む請求項5から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
  10. 工程a)における前記胚様体を形成することが、物理的又は化学的方法によって行われ、好ましくは、接着防止剤の存在下で細胞を培養すること、懸滴中で細胞を培養すること、微細加工技術、遠心分離等による強制的な凝集、並びに高分子クラウダー、ブレビスタチン及びROCK阻害剤等の1種以上の凝集促進剤の存在下で細胞を培養することからなる群から選択される方法によって行われる請求項9に記載の方法。
  11. 工程d)及び工程e)における前記培養が、少なくともコラーゲンIV並びにラミニン、好ましくはラミニン521及び/又はラミニン511でコーティングされた基材上で行われる請求項6から請求項10のいずれか1項に記載の方法。
  12. 実質的にゼノフリー、実質的に無血清及び/又は規定の条件で実施される請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の方法。
  13. 眼疾患、好ましくは角膜上皮幹細胞疲弊症(LSCD)の治療に使用するための、ABCG2陽性表現型が請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法によって維持されているか、又は請求項5から請求項12のいずれか1項に記載の方法によって製造されたABCG2陽性角膜輪部幹細胞。
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