JP2022178163A - 抗がん剤含有液体吸着シート体 - Google Patents

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Abstract

【課題】抗がん剤等の毒性の高い薬剤を含有した尿や薬剤等の液体を迅速に吸収するとともに、その液体中に含有される薬剤を吸着して患者、医療従事者、病院関係者等の安全性を向上した病院内の二次曝露対策に効果的であるとともに、使い勝手の良い抗がん剤含有液体吸着シート体を提供する。【解決手段】抗がん剤の薬剤分子を含有する薬剤含有液体を吸収する薬剤含有液体吸収層部が表層に備えられるとともに、薬剤含有液体吸収層部の裏側には薬剤含有液体吸収層部側からの薬剤含有液体の漏洩を防ぐ透過防止層部とが積層された液体吸収シート体であって、薬剤含有液体吸収層部は、吸着活性炭10~30重量%と、パルプ15~60重量%と、無機繊維15~60重量%とを含有して抄紙されてなり、吸着活性炭と前記パルプと前記無機繊維の全重量が前記薬剤含有液体吸収層部の総重量の90重量%以上である。【選択図】なし

Description

本発明は抗がん剤含有液体吸着シート体に関し、調剤時や排尿時等の抗がん剤を含有する液体を吸着する抗がん剤含有液体吸着シート体に関する。
抗がん剤は、がん細胞の増殖を抑制し最終的には、その増殖を抑制または死滅させる製剤である。その作用機序は、対象となるがん細胞に浸入し同細胞のDNAの複製や合成の阻害、微小管形成の阻害(細胞分裂阻害)、細胞内代謝の阻害または栄養供給血流の制御等を引き起こす。それゆえ、抗がん剤はがん化した細胞に作用してアポトーシス等の細胞死を引き起こす反面、通常細胞に対しても高い毒性を持つ。このため、抗がん剤の取り扱いには慎重さを要する。
現在、各種のがんに対して対応するべく、抗がん剤を使用した化学療法が多く取り入れられている。抗がん剤治療において、抗がん剤については患者個別の用量が医師により決定され、その処方箋に基づき薬剤師により点滴用容器(輸液バッグ)等に分注される。この抗がん剤調製の作業をさらに詳しく見ると、注射針、薬品びん、点滴液等から飛散した抗がん剤の飛沫、エアロゾルが薬剤師等の皮膚に付着すること、またこれらを呼吸器から吸入する一次被曝がある。また、飛散した抗がん剤の液滴に接触した薬剤袋やびん等を介して薬剤師等の皮膚に付着する二次被曝がある。特に、抗がん剤の調製は専門の薬剤師により行われる。そのため、薬剤師や看護師等の医療従事者自身の職業的な抗がん剤被曝の危険性が指摘されている。特に、長期間の作業従事により、医療従事者自身の流産、白血病、膀胱がん等の報告がある。従って、医療従事者の抗がん剤による曝露対策は非常に重要である。
現状の抗がん剤調製作業においては、防水性のエプロン、二重にした手袋、活性炭入りマスクが着用される。抗がん剤調製作業は調製時に発生するエアロゾルを外部に流出させない生物学的安全キャビネット、閉鎖式調製器具等の薬剤飛散を低減する環境下で行われる。しかしながら、実際のところ環境的汚染は完全には防ぎきれていない。抗がん剤調製作業は、例えば、実習キットの発明等により開示されており、同実習キットを用いて訓練が行われる(特許文献1参照)。この場合、安全キャビネットの作業台上に吸液シートが敷かれる。
通常、抗がん剤の調製作業中に飛散した抗がん剤飛沫は作業環境下に敷かれる作業シートに吸着され、作業環境下での二次拡散が抑制されるものと思われる。しかし、現状のガイドラインにおいても、作業シートについては、「表面が吸水性素材で裏面が薬剤不透過素材である。」と指定されているに過ぎない。つまり、現状の作業シートは抗がん剤調製専用に開発されたシートではない。従って、使用されている吸液シートは、手術関連の滅菌ドレープ、血液、体液、または排泄物等の吸収を目的としたパルプ製のシートを代用しているのが実際である。それゆえ、既存の作業シートにおいては必ずしも抗がん剤の吸着は十分ではない。
また、既存の吸液シートの技術として次の構造が知られている。例えば、高吸水性材料の両面に紙が貼られ、さらにその紙の上に不織布が貼られた積層シートである(特許文献2参照)。または、2枚のパルプシートの間に活性炭含有シートが備えられて積層化した積層シートである(特許文献3参照)。既存の吸液シートの場合、吸水(吸液)性能の改善は主に吸液量の向上と同視されている。しかしながら、抗がん剤調製作業が念頭に置かれた場合、抗がん剤等の薬物を含有する溶液が適切に浸透され、吸着され、最終的に保持されるといったより高度な性能が要求される。それゆえ自明ながら、既存の吸液シートでは、高度な安全性追及の性能面は依然として十分とはいえない。
前述の抗がん剤の調製作業時における薬剤による曝露問題と並行して、抗がん剤治療中の患者の尿中に含有される抗がん剤成分による曝露も問題視されている。点滴、経口投与等により患者の体内に取り込まれた抗がん剤のうち、余剰の抗がん剤の薬剤分子は尿に混入して体外に排泄される。つまり、患者の尿中に抗がん剤が含まれており、排泄された尿が二次拡散の原因となる。
具体的には、便器に向けて排泄された尿は便器表面に衝突して便器外の周囲に飛散することから、小便器(主に男性用の小便器)の周りが顕著である。すると、他の患者、医療従事者等は抗がん剤を含有する尿と接触する機会が多い。また、便器及びその周辺の清掃の従事者は清掃作業を通じて抗がん剤を含有する尿と恒常的に接触する。そこで、化学療法病棟の清掃作業者は、便器とその周囲の清掃に際し、手袋、マスク、防護眼鏡、エプロンを着用しなければならない。しかしながら、便器周辺に飛散した尿中に含有される抗がん剤の二次拡散の抑制は十分ではない。
一連の経緯から、安全キャビネット内における医療従事者の抗がん剤による曝露対策に加えて、病院内または病棟環境における抗がん剤等の毒性の高い薬剤を含有した尿の吸収を通じて薬剤吸着に特化したより高性能の尿吸着シート体が希求されている。
発明者らは、吸液シートにおける抗がん剤等の毒性の高い薬剤の吸着性能及び保持性能を向上させるべく、吸液シート使用される材料を鋭意検討し続けた。結果、飛散した薬剤や尿の浸透性能を高め、その尿中に含有される薬剤成分を内部に選択的に吸着して、薬剤成分の外部拡散対策に効果的な抗がん剤含有尿吸着シート体(特許文献4,5参照)を開発するに至っている。
特許第5062685号公報 特許第2862274号公報 特許第4301633号公報 特許第6092445号公報 特開2018-126316号公報
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、抗がん剤等の毒性の高い薬剤を含有した尿や薬剤等の液体を迅速に吸収するとともに、その液体中に含有される薬剤を吸着して患者、医療従事者、病院関係者等の安全性を向上した病院内の二次曝露対策に効果的であるとともに、使い勝手の良い抗がん剤含有液体吸着シート体を提供する。
すなわち、第1の発明は、抗がん剤の薬剤分子を含有する薬剤含有液体を吸収する薬剤含有液体吸収層部が表層に備えられるとともに、前記薬剤含有液体吸収層部の裏側には前記薬剤含有液体吸収層部側からの薬剤含有液体の漏洩を防ぐ透過防止層部とが積層された液体吸収シート体であって、前記薬剤含有液体吸収層部は、吸着活性炭10~30重量%と、パルプ15~60重量%と、無機繊維15~60重量%とを含有して抄紙されてなり、前記吸着活性炭と前記パルプと前記無機繊維の全重量が前記薬剤含有液体吸収層部の総重量の90重量%以上であることを特徴とする抗がん剤含有液体吸着シート体に係る。
第2の発明は、第1の発明において、前記吸着活性炭が、さらに、DHプロット法による測定において当該吸着活性炭の単位重量当たりの細孔半径1~100nmの細孔の細孔容積を0.10cm3/g以上とする物性を有する抗がん剤含有液体吸着シート体に係る。
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記薬剤分子が不揮発性の分子であって分子量が100ないし1000である抗がん剤含有液体吸着シート体に係る。
第4の発明は、第1ないし第3のいずれかの発明において、前記透過防止層部の裏面に滑り止め部が備えられている抗がん剤含有液体吸着シート体に係る。
第5の発明は、第1ないし第4のいずれかの発明において、前記透過防止層部の裏面にセパレーター部材が備えられている抗がん剤含有液体吸着シート体に係る。
第1の発明に係る抗がん剤含有液体吸着シート体によると、抗がん剤の薬剤分子を含有する薬剤含有液体を吸収する薬剤含有液体吸収層部が表層に備えられるとともに、前記薬剤含有液体吸収層部の裏側には前記薬剤含有液体吸収層部側からの薬剤含有液体の漏洩を防ぐ透過防止層部とが積層された液体吸収シート体であって、前記薬剤含有液体吸収層部は、吸着活性炭10~30重量%と、パルプ15~60重量%と、無機繊維15~60重量%とを含有して抄紙されてなり、前記吸着活性炭と前記パルプと前記無機繊維の全重量が前記薬剤含有液体吸収層部の総重量の90重量%以上であるため、吸液能力を備えて抗がん剤等の毒性の高い薬剤を含有した液体を迅速に吸収するとともに、その液体中に含有される薬剤を吸着して患者、医療従事者、病院関係者等の安全性を向上した病院内の二次曝露対策に効果的となるとともに、使い勝手の良い抗がん剤含有液体吸着シート体とすることができる。
第2の発明の係る抗がん剤含有液体吸着シート体によると、第1の発明において、前記吸着活性炭が、さらに、DHプロット法による測定において当該吸着活性炭の単位重量当たりの細孔半径1~100nmの細孔の細孔容積を0.10cm3/g以上とする物性を有するため、幅広い分子量の薬剤分子を吸着することができる。
第3の発明の係る抗がん剤含有液体吸着シート体によると、第1又は第2の発明において、前記薬剤分子が不揮発性の分子であって分子量が100ないし1000であるため、経皮吸収の危険性が軽減され、現在処方される抗がん剤の薬剤分子はほぼ網羅される。
第4の発明の係る抗がん剤含有液体吸着シート体によると、第1ないし第3のいずれかの発明において、前記透過防止層部の裏面に滑り止め部が備えられているため、配置位置の位置ずれが抑制される。
第5の発明の係る抗がん剤含有液体吸着シート体によると、第1ないし第4のいずれかの発明において、前記透過防止層部の裏面にセパレーター部材が備えられているため、取り扱いが容易となる。
本発明の抗がん剤含有液体吸着シート体は、取り回しに優れたシート体であって、抗がん剤等の調整作業や治療に携わる医療従事者の暴露対策や注液時に飛散した薬剤のほか、抗がん剤等を投与した化学療法の患者から排泄された尿等の液体に含有される抗がん剤の薬剤分子を選択的に吸着して、二次拡散を抑制する液体吸収シート体である。
抗がん剤の調製作業は、一般に安全キャビネット内で行われ、キャビネット内は陰圧であることから、内部拡散した揮発性成分はキャビネット内に吸引される。しかし、薬剤分子が不揮発性である場合、内部飛散した液滴の付着部位から医療従事者の手や腕を通じて体内に浸透する危険性が高まる。また、調剤時、安全キャビネットの内部に飛散した抗がん剤の液滴が、安全キャビネット内に持ち込まれる薬剤袋、びん、その他の備品等に付着することもある。
また、抗がん剤治療の化学療養病棟のトイレの場合、投薬を受けている患者本人及び他の患者が使用したり、清掃作業者等が清掃したりする。このように、不特定多数の者、特に、薬剤拡散について無防備な者が多く利用する。このことから、抗がん剤の薬剤分子の二次拡散抑制、曝露対策は大きな意味を持つ。抗がん剤の投薬治療中の患者から排泄された尿中には抗がん剤の薬剤分子が常温下で不揮発性の分子である場合、便器周辺の壁、床等に付着した後、ここからの経皮吸収の危険性はより高まる。そこで、便器周辺の壁、床等に抗がん剤含有液体吸着シート体(液体吸収シート体)が配置されると、不揮発性の薬剤分子を含有する薬剤含有尿は抗がん剤含有液体吸着シート体内に吸収され、経皮吸収の危険性は軽減される。
具体的には、便器(小便器、主に男性用の小便器)に向けて排泄された尿が便器に衝突後、飛沫となって周囲に飛散して便器周辺の壁や床に付着する。そこで、液体吸収シート体が予め便器の周囲に配置されていると、飛散した尿は吸収され、かつ、尿中に含有されている抗がん剤の薬剤分子は当該液体吸収シート体内に保持されて拡散は抑制される。本発明の抗がん剤含有液体吸着シート体はこのような用途のための液体吸収シート体である。当該液体吸収シート体について、以後、断面図を用いながら、実施形態の抗がん剤含有尿吸着シート体の構造、特性を順に説明する。
薬剤分子が常温下では不揮発性の分子であると、経皮吸収の危険性はより高まる。抗がん剤含有液体吸着シート体が敷かれると、不揮発性の薬剤分子を含有する薬剤液は吸収され、経皮吸収の危険性は軽減される。従って、抗がん剤含有液体吸着シート体の吸収対象は、分子量100ないし1000の範囲であり、しかも不揮発性の薬剤分子を含有する薬剤液である。当該分子量範囲の薬剤分子は、尿中等のアンモニア(分子量:14.0)と異なり、常温下ではほとんど揮発しないと考えられる。
ここで、代表的な抗がん剤とその分子量は、パクリタキセル(分子量:853.91)、シクロフォスファミド(分子量:279.10)、イリノテカン(分子量:677.18)、5-フルオロウラシル(分子量:130.08)、アドリアマイシン(分子量:579.98)、メトトレキセート(分子量:454.44)、ダカルバジン(分子量:182.18)、シタラビン(分子量:243.22)、ビンクリスチン(分子量:923.04)、ゲムシタビン(分子量:299.66)、ミトキサントロン(分子量:517.40)、マイトマイシン(分子量:334.33)、エピルビシン(分子量:543.52)、エトポシド(分子量:588.56)、シスプラチン(分子量:300.05)、カルボプラチン(分子量:371.25)等として列記される。
列記の薬剤分子の分子量範囲を勘案すると、ほぼ100ないし1000の範囲に収斂する。つまり、現在処方される抗がん剤の薬剤分子はほぼ網羅される。そこで、分子量100ないし1000の範囲の分子吸着が実現すると、抗がん剤の調製作業に起因する危険性や抗がん剤を含有する尿を介した二次拡散の危険性は大きく減少する。
本発明の抗がん剤含有液体吸着シート体は、薬剤含有液体吸収層部とその裏側に透過防止層部とが積層されてなり、表層には薬剤含有液体吸収層部が配設され不織布等からなる液体透過層が備えられないため、液滴を効率よく吸収することができて抗がん剤含有液体吸着シート体表面における液滴の残存を抑制し、二次拡散の防止に効果的である。
抗がん剤含有液体吸着シート体表層に備えられる薬剤含有液体吸収層部は、吸着活性炭とパルプと無機繊維を主体としてこれらの全重量が薬剤含有液体吸収層部の総重量の90重量%以上となる。これら主部材の他には樹脂バインダー等が保形性の向上のために配合される場合もある。
薬剤含有液体吸収層部における薬剤分子の吸着には、吸着活性炭が使用される。さらに、薬剤液の状態での吸収に対応するための吸液性にも優れた素材や、二次拡散を防ぐための液体の保持性に優れた素材も必要である。加えて、ディスポーザブル(使い捨て)、ワンウェイの使用であるため、低廉に仕上げる必要もある。このことを勘案して、薬剤含有液体吸収層部には、吸着活性炭が含有される。
吸着活性炭は、分子量100ないし1000の範囲の薬剤分子(抗がん剤の薬効成分)の吸着を考慮して、細孔容積の物性により選択されるのがよい。この場合、DHプロット法(Dollimore-Heal法、DH法)による吸着活性炭の細孔分布の解析において、吸着活性炭の単位重量当たりの細孔半径1ないし100nmの細孔の細孔容積は0.10cm3/g以上とする物性である。DHプロット法は一般に1nmないし100nmの半径のメソ細孔の分布を比較的容易に把握できる。このことから、DHプロット法は当該半径範囲を含む細孔の解析に有利に用いられる。
吸着活性炭の単位重量当たりの細孔容積の上限については、使用する活性炭の種類、賦活の方法等により変動するものの、後記の実施例の傾向から、概ね2cm3/g前後と考えられる。細孔容積が0.10cm3/gを下回る場合、活性炭における細孔量が少ないことから、薬剤分子の吸着能力は低下するおそれがある。特に、抗がん剤吸着シート体の形状を勘案すると、薄型のシート体のような少量の活性炭しか充填できない制約条件の下、効率よく幅広い分子量の薬剤分子を吸着しなくてはならない。それゆえ、DHプロット法による指標は、吸着活性炭の単位重量当たりの細孔容積を評価できるという意味において意義が大きい。
吸着活性炭の原料は、ヤシ殻、大鋸粉(オガコ)、廃材、廃竹、石炭、石油ピッチ、フェノール樹脂等が用いられ、これらは炭化された後、水蒸気賦活、塩化亜鉛賦活、リン酸賦活、硫酸賦活、空気賦活、炭酸ガス賦活等の賦活処理が加えられる。この結果、活性炭に細孔が発達する。
吸着活性炭は、繊維状活性炭又は粒状ないし粉末状活性炭よりなる。繊維状活性炭は、適宜の繊維を炭化し賦活して得た活性炭であり、例えば、上記原料のうち、フェノール樹脂系、アクリル樹脂系、セルロース系、石炭ピッチ系等がある。繊維長や断面径等は適宜である。繊維断面径が大きすぎる場合は、表面積が少なくなり接触効率が低下するため、吸着能力向上の点から繊維断面径は30μm以下とすることが好ましい。
粒状ないし粉末状の吸着活性炭は、上記原料のうち、例えば、木材(廃材、間伐材、オガコ)、コーヒー豆の絞りかす、籾殻、椰子殻、樹皮、果物の実等の原料がある。これらの天然由来の原料は炭化、賦活により細孔が発達しやすくなる。また廃棄物の二次的利用であるため安価に調達可能である。他にもタイヤ、石油ピッチ、ウレタン樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂由来の焼成物、さらには、石炭等も原料として使用することができる。活性炭の粒径は、シートの成形性と吸着性能の観点から適宜決定される。活性炭の粒径が小さすぎるとシート体の抄紙が難しくなり、粒径が大きすぎるとシート体の均一性の確保が難しくなるおそれがある。このため、粒状ないし粉末状の吸着活性炭の平均粒子径は5~100μmの範囲とするのが望ましく、より好ましくは10~50μmとするのがよいと考えられる。
上記にて詳述のとおり、吸着活性炭は現在主流の抗がん剤等の薬剤分子の分子量に対応した細孔の物性を備えている。従って、抗がん剤含有液体吸着シート体は薬剤分子の効率の良い吸着とその状態の維持に効果を発揮する。しかしながら、吸着活性炭の保持に際し、単に活性炭のみでは薬剤液の水分を上手く吸収して保持することができない。そこで、吸着活性炭の他に、パルプや無機繊維が混合されて薬剤含有液体吸収層部とされる。
パルプは、液体の吸収速度を向上させるために混合される。無機繊維は、例えば、ロックウールやガラス繊維が用いられ、ロックウールは多孔質で保水性に優れる特性から、液体の保持性の向上に寄与する。ガラス繊維は剛性が高く、パルプの伸縮を抑制して抗がん剤含有液体吸着シート体の強度の向上に寄与する。また、無機繊維は湿潤時の寸法変化が小さく、液体吸収時のシート体の寸法安定性を向上させる上で極めて有効である。
薬剤含有液体吸収層部において吸着活性炭は10~30重量%、パルプは15~60重量%、無機繊維15~60重量%、さらには有機系高分子樹脂バインダー5~7重量%で配合され、抄紙法により製造される。吸着活性炭、パルプ、無機繊維及び有機系高分子樹脂バインダーを所定の配合比で水中に分散させ、得られた分散スラリーは抄紙機で抄紙され、脱水乾燥されることにより抗がん剤含有液体吸着シート体とされる。有機系高分子樹脂バインダーは、ポリビニルアルコール系合成樹脂やアクリル系合成樹脂が使用される。薬剤含有液体吸収層部は抄紙されてなることから、任意の位置で切断された場合においても各材料が脱落せず抗がん剤含有液体吸着シート体の保形性が向上し、使い勝手が良くなる。
吸着活性炭が10重量%よりも少ないと、抗がん剤の薬剤分子の吸着が不十分となるおそれがある。30重量%よりも多い場合には、活性炭の疎水性により抗がん剤含有液体吸着シート体が撥水性を有することとなり、抗がん剤含有液体の吸収速度が遅くなるきらいがある。パルプが15重量%よりも少ないと液体の吸収性が不十分となり、抗がん剤含有液体の吸収速度が遅くなるおそれがある。パルプが60重量%よりも多く、無機繊維が15重量%よりも少ない場合には、抄紙時の吸水と乾燥によりパルプが収縮と膨張を繰り返して波打つように変形し、平滑で均一なシートを作成することが難しくなる。無機繊維が60重量%よりも多いと、シート体の密度が高くなり、抗がん剤含有液体の吸収速度が遅くなるきらいがある。
薬剤含有液体吸収層部の裏側に配される透過防止層部の役割は薬剤含有液体吸収層部の保護に加え、抗がん剤含有液体吸着シート体に落下した薬剤含有液体をそのまま透過させて外部に漏出させることなく透過防止層部で受け止めることである。つまり、抗がん剤含有液体吸着シート体からの抗がん剤含有液体の漏洩が防止される。
そこで、透過防止層部は水分の不透過目的から樹脂製粘着剤やフィルムにより形成される。透過防止層部は、防水性の点からポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、またはポリエチレンテレフタレート(PET)等の調達容易な樹脂から形成される。他に、ポリ乳酸等のその他の樹脂材料も加えられる。粘着剤が用いられる場合には、薬剤含有液体吸収層部の裏側に塗布されて形成される。透過防止層部に用いられるフィルムは、一般に入手可能な層厚さであり、一軸延伸、二軸延伸、無延伸等の公知の製膜方法により製造される。
薬剤含有液体吸収層部とフィルムよりなる透過防止層部の固定方法は、特に限定されない。接着剤は、例えば、ポリオレフィン樹脂系、ポリアミド樹脂系、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、さらにはエチレン酢酸ビニル樹脂等の各種の樹脂を使用することもできる。接着に関しては、有機溶剤で希釈した接着剤を薬剤含有液体吸収層部にコーティングして乾燥により溶剤を揮発させた後、透過防止層部と貼着させる方法や、接着剤を加熱して薬剤含有液体吸収層部にコーティングして透過防止層部と貼着させる方法など、一般的な手法を用いることができる。
なお、透過防止層部の裏側には滑り止め部が備えられるのが良い。滑り止め部は、本発明の抗がん剤含有液体吸着シート体に物を載置したり、人が載った際に滑らないための加工が施されればよく、特に限定されない。例えば、透過防止部のフィルムの裏側にゴム、シリコーン、粘着性高分子等をコーティングにより形成することが考えられる。このコーティングは、全面に連続して塗工されたり、ドット場や線条の隆起物として不連続に形成されてもよい。このほか、自己粘着性フィルムを貼着することも考えられる。また、さらにセパレーター部材を取り付けることもできる。セパレーター部材は、合成樹脂等からなる単層セパレーターや、剥離フィルム用機材と剥離剤層とを有する複層セパレーター等が考えられる。単層セパレーターとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリプロピレンフィルム等が挙げられる。複層セパレーターは基材に紙類や樹脂フィルムが使用され、剥離剤としてはシリコーン系剥離剤を使用することが好ましい。本発明の抗がん剤含有液体吸着シート体は、フリーカット性を有することから、透過防止剤の裏面にセパレーター部材が備えられるとさらに取り扱いが容易となり、使い勝手が増す。
[抗がん剤含有液体吸着シート体の作製]
試作例1~8及び比較例1~5の抗がん剤含有液体吸着シート体について、後述の原料配合割合に基づいて作成した。薬剤含有液体吸収層部として、原料と水を混合したスラリーを網で掬いあげて抄紙し、熱ドラムロールに通過させて乾燥させた。薬剤含有液体吸収層部の目付は、170~180g/m2、密度0.3~0.4g/cm3となるようにした。薬剤含有液体吸収層部の裏面には、透過防止層部としてポリエチレンテレフタレートフィルムを基材としたセパレーターにアクリル系粘着剤を塗工して接着し、乾燥工程で粘着剤に含まれる溶剤を揮発させて、試作例1~8及び比較例1~3の抗がん剤含有液体吸着シート体を得た。
[吸着活性炭の性能評価]
抗がん剤含有液体吸着シート体における抗がん剤の薬剤分子の吸着主体は吸着活性炭である。そこで、5種類の吸着活性炭1ないし5について、分子の吸着能力の高低を評価した。ただし、抗がん剤は高価であり、毒性等問題から取り扱いに注意を要する。そこで、吸着性能の評価に際し、抗がん剤物質と類似構造を有するアルカロイド物質を代用物質として用い、活性炭の吸着能力を測定した。
〈吸着活性炭〉
吸着活性炭1ないし5は、全てフタムラ化学株式会社製の活性炭を使用した。
吸着活性炭1:粉末活性炭「CI」(ヤシ殻)
吸着活性炭2:粉末活性炭「CB」(ヤシ殻)
吸着活性炭3:粉末活性炭「S」(木質系)
吸着活性炭4:粉末活性炭「GB」(石炭系)
吸着活性炭5:繊維状活性炭「カイノール1500」(フェノール樹脂系)
〈吸着活性炭の物性測定〉
〔平均粒子径〕
各吸着活性炭の平均粒子径(μm)は、株式会社島津製作所製のレーザー光散乱式粒度分布測定装置(SALD3000S)を使用して測定し、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%における粒径とした。
〔BET比表面積〕
BET比表面積(m2/g)は、マイクロトラック・ベル株式会社製,自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP-miniII」を使用して77Kにおける窒素吸着等温線を測定し、BET法により求めた。
〔全細孔容積、DHプロット細孔容積及び平均細孔直径〕
DHプロットの細孔容積(VD)及び平均細孔直径は、比表面積の測定に使用した装置を使用した。細孔半径1nmないし100nmの範囲の全細孔容積(cm3/g(またはcc/g))は、同装置を使用し、Gurvitschの法則を適用しDH法により相対圧0.953における窒素吸着量(V)を下記の数式(i)により液体窒素の体積(Vp)に換算して求めた。なお、数式(i)において、Mgは吸着質の分子量(窒素:28.020)、ρg(g/cm3)は吸着質の密度(窒素:0.808)である。
Figure 2022178163000001
平均細孔直径(nm)は、細孔の形状を円筒形と仮定し、前述の測定から得た細孔容積(cc/g)及び比表面積(m2/g)の値を用いて数式(ii)より求めた。
Figure 2022178163000002
〔ヨウ素吸着性能〕
ヨウ素吸着性能(mg/g)は、JIS K 1474-1(2014)に準拠し測定した。
〔メチレンブルー吸着性能〕
メチレンブルー吸着性能(mL/g)の測定は、JIS K 1474(2014)に準拠して測定した。
〈対象物質〉
低分子量(例えばシクロホスファミド(分子量:279.10)等)の代表としてカフェイン「分子式:C81042,分子量:194.19(キシダ科学株式会社製,無水カフェイン)」と、高分子量(例えばイリノテカン(分子量:677.18)等)を代表して、ヘマトポルフィリン「分子式:C343846,分子量:598.69(和光純薬株式会社製,ヘマトポルフィリン)」を使用した。これらのアルカロイドの代用物質は抗がん剤の薬剤分子(薬効成分)と概ね近似した分子量である。そのため、吸着活性炭の挙動も近似すると推定して採用した。
〈代用物質の試験液の調製〉
前記の無水カフェイン100mgを人口尿1Lに溶解し、カフェイン水溶液を調製した(pH:7.2)。
前記のヘマトポルフィリン117.65mgをエタノール100mLに溶解後、同エタノール溶液に人口尿を足し総量で1Lとし、ヘマトポルフィリン水溶液を調製した(pH5.1)。
〈試験・評価方法〉
100mL三角フラスコ内に吸着活性炭を25mg、ヘマトポルフィリンの場合には吸着活性炭を100mgとして秤量し投入した。この三角フラスコ内に、測定対象となる代用物質の試験液に応じ、カフェイン水溶液50mL、又はヘマトポルフィリン水溶液50mLを注入した。1回の吸着測定に際し、三角フラスコに入る代用物質の試験液は1種類とした。つまり、一度に三角フラスコに2種類の代用物質の試験液が入ることはない。
吸着材料(25mg)入りの三角フラスコ(100mL)内に代用物質の試験液を50mL注入後、三角フラスコを60分間振とうした。振とう後の溶液を0.45μmのメンブレンフィルターにより吸引濾過し個々の吸着材料の試験液毎の濾液を得た。カフェインについては、HPLC(株式会社島津製作所製、LC-20AD)とカラムCAPCELLPAK C18 MG,φ3.0mm×150mm,5μm(株式会社資生堂製)を使用して測定した。HPLCのピーク面積より濃度を算出した。ヘマトポルフィリンについては、分光光度計(株式会社島津製作所製,UVmini-1240)を使用して濾液の吸光度を測定し、当初の水溶液と比較して、その吸光度の減少量を吸着材料による吸着量とした。なお、一つの吸着材料について2回測定し(n=2)、算術平均を求めた。
吸着率(%)は、「{(試験液の当初濃度)-(濾過後の濾液の濃度)}/(試験液の当初濃度)×100」として求めた。結果は表1に示す。個々の吸着活性炭毎に、形態、平均粒子径(μm)、BET比表面積(m2/g)、全細孔容積(cm3/g)、DHプロット法による細孔容積(VD)(cm3/g)、平均細孔直径(nm)、カフェイン吸着率(%)、ヘマトポルフィリン吸着率(%)、カフェイン吸着率の評価、ヘマトポルフィリン吸着率の評価及び総合評価(A又はFの2段階)を記した。各物質の評価に際し、吸着率が60%以上のものを「◎」、30%以上60%未満のものを「〇」、30%未満のものを「×」とした。総合評価に際し、「×」が一つもないものを「A」、「×」が一つでもあるものを「F」の評価とした。
Figure 2022178163000003
〈吸着率の考察〉
吸着活性炭1ないし5について見ると、総じてカフェインに代表される低分子量の分子の吸着は良好である。しかしながら、ヘマトポルフィリンのように分子量が大きいと吸着率は低下するものもあった。
この点への対処を検討すると、相違にはDHプロット法による細孔容積が挙げられる。すなわち、吸着活性炭1ないし4は0.10cm3/g以上の細孔容積(細孔半径1ないし100nmにおいて)である。しかし、吸着活性炭5は、0.10cm3/g未満である。そうすると、0.10cm3/g以上の細孔容積は、吸着性能評価の有力な区分指標となり得る。なお、DHプロット法による細孔容積の上限は、当該物性測定の結果を鑑み、吸着活性炭3より概ね2cm3/gと考える。
さらに、平均細孔直径の相違も挙げることができる。すなわち、吸着活性炭1ないし4は1.7nm以上の平均細孔直径である。しかし、吸着活性炭5は、1.7nm未満である。そうすると、平均細孔直径1.7nm以上は吸着性能評価の区分指標となり得るとも考えられる。なお、平均細孔直径の上限は、当該物性測定の結果を鑑み、吸着活性炭3より概ね5nmと考える。
[使用原料]
抗がん剤含有液体吸収シート体の薬剤含有液体吸収層部を形成する原料として、以下の原料を使用した。吸着活性炭は上記性能評価を鑑み吸着活性炭1を使用した。
・吸着活性炭1:フタムラ化学株式会社製「CI」(平均粒子径17μm)
・パルプ:天然パルプ
・無機繊維IF1:ロックウール
・無機繊維IF2:ガラス繊維
・合成樹脂:ポリビニルアルコール
・合成樹脂:アクリル樹脂
抗がん剤含有液体吸収シートの透過防止層部として、セパレーターとなるポリエチレンテレフタレートフィルム(膜厚0.025mm)にアクリル樹脂を膜厚0.012~0.016mmとなるよう塗工し、薬剤含有液体吸収部の裏側に貼着したのち、加熱乾燥した。
〔試作例1〕
吸着活性炭20重量%、パルプ15重量%、無機繊維としてロックウール60重量%、合成樹脂としてポリビニルアルコール系合成樹脂とアクリル系合成樹脂の合計を5重量%として薬剤含有液体吸収層部を抄紙して、上記の透過防止層部及びセパレーター部材を備えた試作例1とした。
〔試作例2〕
吸着活性炭20重量%、パルプ30重量%、無機繊維としてロックウール45重量%、合成樹脂としてポリビニルアルコール系合成樹脂とアクリル系合成樹脂を合計5重量%として薬剤含有液体吸収層部を抄紙して、上記の透過防止層部及びセパレーター部材を備えた試作例2とした。
〔試作例3〕
吸着活性炭20重量%、パルプ37.5重量%、無機繊維としてロックウール37.5重量%、合成樹脂としてポリビニルアルコール系合成樹脂とアクリル系合成樹脂を合計5重量%として薬剤含有液体吸収層部を抄紙して、上記の透過防止層部及びセパレーター部材を備えた試作例3とした。
〔試作例4〕
吸着活性炭20重量%、パルプ45重量%、無機繊維としてロックウール30重量%、合成樹脂としてポリビニルアルコール系合成樹脂とアクリル系合成樹脂を合計5重量%として薬剤含有液体吸収層部を抄紙して、上記の透過防止層部及びセパレーター部材を備えた試作例4とした。
〔試作例5〕
吸着活性炭20重量%、パルプ45重量%、無機繊維としてロックウール20重量%とガラス繊維10重量%、合成樹脂としてポリビニルアルコール系合成樹脂とアクリル系合成樹脂を合計を5重量%として薬剤含有液体吸収層部を抄紙して、上記の透過防止層部及びセパレーター部材を備えた試作例5とした。
〔試作例6〕
吸着活性炭20重量%、パルプ60重量%、無機繊維としてロックウール15重量%、合成樹脂としてポリビニルアルコール系合成樹脂とアクリル系合成樹脂を合計5重量%として薬剤含有液体吸収層部を抄紙して、上記の透過防止層部及びセパレーター部材を備えた試作例6とした。
〔試作例7〕
吸着活性炭10重量%、パルプ51重量%、無機繊維としてロックウール34重量%、合成樹脂としてポリビニルアルコール系合成樹脂とアクリル系合成樹脂を合計5重量%として薬剤含有液体吸収層部を抄紙して、上記の透過防止層部及びセパレーター部材を備えた試作例7とした。
〔試作例8〕
吸着活性炭30重量%、パルプ39重量%、無機繊維としてロックウール26重量%、合成樹脂としてポリビニルアルコール系合成樹脂とアクリル系合成樹脂を合計5重量%として薬剤含有液体吸収層部を抄紙して、上記の透過防止層部及びセパレーター部材を備えた試作例8とした。
〔比較例1〕
吸着活性炭20重量%、パルプ75重量%、無機繊維は配合せず、合成樹脂としてポリビニルアルコール系合成樹脂とアクリル系合成樹脂を合計5重量%として薬剤含有液体吸収層部を抄紙して、上記の透過防止層部及びセパレーター部材を備えた比較例1とした。
〔比較例2〕
吸着活性炭20重量%、パルプは配合せず、無機繊維としてロックウール75重量%、合成樹脂としてポリビニルアルコール系合成樹脂とアクリル系合成樹脂を合計5重量%として薬剤含有液体吸収層部を抄紙して、上記の透過防止層部及びセパレーター部材を備えた比較例2とした。
〔比較例3〕
吸着活性炭は配合せず、パルプ57重量%、無機繊維としてロックウール38重量%、合成樹脂としてポリビニルアルコール系合成樹脂とアクリル系合成樹脂を合計5重量%として薬剤含有液体吸収層部を抄紙して、上記の透過防止層部及びセパレーター部材を備えた比較例3とした。
〔比較例4〕
不織布、パルプシート、樹脂フィルムが順に積層され、一体化された吸液シート(「アブソケアシーツ」、株式会社リリー製)を比較例4とした。
〔比較例5〕
不織布、樹脂フィルムが一体化され、裏面に滑り止め加工が施された吸液シート(「ピタパシート」(登録商標)、日本バイリーン株式会社製)を比較例5とした。
[抗がん剤含有液体吸収シートの性能評価]
試作例1~8及び比較例1~5の抗がん剤含有液体吸着シート体について、下記の各種試験を行い性能評価を行った。液滴の吸収性能の指標として、液滴飛散試験、液体吸収速度評価及び飛沫吸収試験を行った。また、使い勝手の面からフリーカット性についても切断試験を行って評価した。
〈液滴飛散試験〉
抗がん剤含有液体は滴下時に周囲に飛散せずに吸収されることが望ましいことから、試作例1~8及び比較例1~5の抗がん剤含有液体吸着シート体について、液滴飛散試験を行った。
人口尿1滴(各30μL)を抗がん剤含有液体吸着シート体の上部30cm又は60cmの高さから落下させ、5秒経過後に抗がん剤含有液体吸着シート体表面に残っている(鏡面反射がある)液体の個数を数えた。それぞれ10回の試行を行い、その平均値を液滴飛散個数(個)とした。
〈液体吸収速度評価〉
人口尿50μLを抗がん剤含有液体吸着シート体上部2cmから滴下し、抗がん剤含有液体吸着シート体に吸収されるまで(鏡面反射がなくなるまで)の時間を計測した。それぞれ10回の試行を行い、その平均値を液体吸収速度(s)とした。
〈飛沫吸収試験〉
試作例1~8及び比較例1~5の抗がん剤含有液体吸着シート体について、飛沫の吸収性能を評価するため、液体の跳ね返り量を測定する飛沫吸収試験を行った。
抗がん剤含有液体吸着シート体の中心から50cm離れた箇所の高さ22cmのところから水平から仰角10℃で霧吹きで水を5回噴霧した。10秒経過後、10cm×10cmのポリエチレンフィルム(厚み0.2mm)を抗がん剤含有液体吸着シート体中央に載せ、その上からステンレス板(15cm×15cm、500g)を載置した。さらに10秒経過後にポリエチレンフィルムを回収し、試験の前後における重量変化を測定した。抗がん剤含有液体吸着シート体を置かないブランクの状態で計測したポリエチレンフィルムの重量増加分に対する各試作例ないし比較例の抗がん剤含有液体吸着シート体に載置したポリエチレンフィルムの重量増加分から液体の跳ね返り量の指標として飛沫吸収率(%)を算出した。それぞれの5回の試行を行い、その平均値を飛沫吸収率(%)とした。
〈切断試験〉
試作例1~8及び比較例1~5の抗がん剤含有液体吸着シート体について、フリーカット性を評価した。各試作例ないし比較例を、中央で半分に切断したものと、中央を20cm四方に切り出したものについて、切り口からの材料の脱落がないか、及び形状が保持されるかについて目視で評価した。それぞれ材料の脱落がないものを「〇」、脱落があるものを「×」、切り出した形状が保持されるものを「〇」、保持されないものを「×」とした。
〈抗がん剤吸着試験〉
試作例5及び比較例3~5の抗がん剤含有液体吸着シート体について、現在化学療法の臨床にて処方されている代表的な抗がん剤を使用して吸着能力を測定した。試験に供した抗がん剤の薬剤分子は、シクロフォスファミド(分子量27.9,塩野義製薬株式会社製,注射用エンドキサン(登録商標)500mg)、メトトレキセート(分子量454.4,ファイザー株式会社製,メソトレキセート(登録商標)点滴静注液200mg)、及びパクリタキセル(分子量853.9,ブリストル・マイヤーズ株式会社製,タキソール(登録商標)注射液30mg)の分子量の異なる3種類とした。
抗がん剤の濃度調製に際し、シクロフォスファミドは2mg/mL、メトトレキセートは6mg/mL、パクリタキセルは0.2mg/mLとした。これらの希釈には人口尿(JIS T 3214(膀胱留置用カテーテル)付属書A記載)を使用した。各抗がん剤希釈液について、抗がん剤含有液体吸着シート体上に5μLずつ20箇所に均等に滴下した。滴下してから10秒経過後に約60kgの人間が片足のスリッパで負荷が30kgとなるように10秒間踏んだ。
抗がん剤含有液体吸着シート体使用の対照群として、抗がん剤含有液体吸着シート体を使用する代わりに、平滑なステンレス鋼板上に前記の各抗がん剤希釈液を同条件下で滴下した。そして、同条件で片足のスリッパで踏んだ。
その後、スリッパ裏面に付着した各種抗がん剤の量を測定し、対照群の付着量に対する抗がん剤含有液体吸着シート体の吸着率(%)を算出した。なお、吸着率は一つの試料につき3回測定して算術平均とした。
表2~表4に試作例1~8及び比較例1~5の抗がん剤含有液体吸着シート体の試験結果を示した。なお、表中において、抗がん剤の吸着率について、計測していないものは「-」とした。
Figure 2022178163000004
Figure 2022178163000005
Figure 2022178163000006
〈液滴吸収性能の考察〉
各試作例及び比較例を見ると、パルプと無機繊維を一定以上含むことにより、抗がん剤含有液体吸着シート体表面に付着した液体は速やかに抗がん剤含有液体吸着シート体内部に吸収され、また保持されて跳ね返りが生じにくくなることを確認した。また、不織布が表面層に配置された比較例4及び比較例5においては、液滴の飛散が生じ、液滴の吸収ないし保持が良好でないことが確認された。
比較例1によると無機繊維が配合されないことで液体の吸収速度が劣ることが示された。寸法変化も大きく平滑なシートにならなかった。また、比較例2によればパルプが配合されないことにより液体の透過性が低下して表面で撥水してしまうとともに吸収した液体の保持性も低下することが示された。つまり、各試作例に示される通り、パルプと無機繊維を一定の割合で配合することにより、液体の吸収速度を良好にしつつ、液体の透過性及び保持性を向上させることができることが示された。
<フリーカット性の考察>
前述の通り、各試作例は抄紙されてなることから、フリーカット性が良好であった。つまり、任意の形状に切断が可能で、吸着活性炭等の原料の脱落もなく形状も良好に保持されることから使い勝手が良好であることが確認された。
〈抗がん剤使用による吸着率の考察〉
抗がん剤使用による性能評価の結果、活性炭を用いた試作例5の例では、いずれの抗がん剤についても良好な吸着効果を確認した。活性炭が配合されない比較例3においては、液滴吸収性能には優れたものの、抗がん剤の吸着が十分ではなかった。ここで、使用した抗がん剤は異なる分子量の3種類である。各抗がん剤についても活性炭は十分に吸着性能を発揮した。従って、活性炭による抗がん剤の吸着効果は極めて高い。また、代用物質による評価との相関性も確認することができた。なお、表面層に不織布を備えた比較例4,5においては、不織布表面に液滴が残存する結果となり、抗がん剤の吸着も十分ではなかった。
従って、抗がん剤含有液体吸着シート体は、抗がん剤の調製作業や臨床の現場における作業従事者や医療関係者の安全性確保に役立つ。特に、抗がん剤の薬剤分子の吸着性能や液滴の吸収性能に優れることから、作業時の二次汚染対策にも有効である。加えて、不織布を表面層に配置することなく取り回しも良好であるとともに、構成材料は比較的安価で製造も容易であり、大きな金銭負担なく現場へ導入可能である。
本発明の抗がん剤吸着シート体は、既存の吸水シート等よりも、抗がん剤の薬剤分子の吸着に特化して高い吸着性能を備える。それゆえ、抗がん剤の調製作業の従事者等の安全性確保に大きく貢献する。従って、既存の抗がん剤の調製作業や臨床の現場において使用されている吸水シートやドレープ等の代替品として極めて有効である。

Claims (5)

  1. 抗がん剤の薬剤分子を含有する薬剤含有液体を吸収する薬剤含有液体吸収層部が表層に備えられるとともに、
    前記薬剤含有液体吸収層部の裏側には前記薬剤含有液体吸収層部側からの薬剤含有液体の漏洩を防ぐ透過防止層部とが積層された液体吸収シート体であって、
    前記薬剤含有液体吸収層部は、吸着活性炭10~30重量%と、パルプ15~60重量%と、無機繊維15~60重量%とを含有して抄紙されてなり、
    前記吸着活性炭と前記パルプと前記無機繊維の全重量が前記薬剤含有液体吸収層部の総重量の90重量%以上である
    ことを特徴とする抗がん剤含有液体吸着シート体。
  2. 前記吸着活性炭が、さらに、DHプロット法による測定において当該吸着活性炭の単位重量当たりの細孔半径1~100nmの細孔の細孔容積を0.10cm3/g以上とする物性を有する請求項1に記載の抗がん剤含有液体吸着シート体。
  3. 前記薬剤分子が不揮発性の分子であって分子量が100ないし1000である請求項1又は2に記載の抗がん剤含有液体吸着シート体。
  4. 前記透過防止層部の裏面に滑り止め部が備えられている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の抗がん剤含有液体吸着シート体。
  5. 前記透過防止層部の裏面にセパレーター部材が備えられている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の抗がん剤含有液体吸着シート体。
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