JP2022162964A - 定量pcr測定系の性能評価キット及び性能評価方法 - Google Patents

定量pcr測定系の性能評価キット及び性能評価方法 Download PDF

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【課題】ポアソン分布の影響が抑制された、正確な性能評価を行うことができる定量PCR測定系の性能評価キットを提供する。【解決手段】定量PCR測定系の性能評価キットは、特定コピー数の検量線作成用核酸を含むウェルからなり、且つ、前記検量線作成用核酸の特定コピー数が互いに異なるウェルを3以上有する第1のウェル群と、特定コピー数の定量用核酸を含むウェルからなり、且つ、前記定量用核酸の特定コピー数が互いに異なるウェルを1以上有する第2のウェル群と、を有するデバイスを備え、前記検量線作成用核酸の特定コピー数のうち少なくとも1つ、及び、前記定量用核酸の特定コピー数のうち少なくとも1つがそれぞれ100未満である。【選択図】なし

Description

本発明は、定量PCR測定系の性能評価キット及び性能評価方法に関する。
近年、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の性能に関する国際標準化機構(ISO)による規格が制定されている。ISO15189やISO17025では、測定に用いる設備の妥当性や性能を維持しているかを示すことや、その維持及び管理が求められている。
例えば、特許文献1及び2には、分析装置の精度管理方法が開示されている。
しかしながら、PCRにおいて、特に1000コピー以下等の低コピー数における性能は、ポアソン分布の影響で正確に評価することができない。
また、現状では、各機関で独自の管理方法による認証値を記載しており、共通に正確な性能を評価することができていない。これは、PCRの性能を正確に評価するツールが存在しないことに起因している。
本発明は、ポアソン分布の影響が抑制された、正確な性能評価を行うことができる定量PCR測定系の性能評価キット及び性能評価方法を提供する。
定量PCR測定系の性能評価キットは、特定コピー数の検量線作成用核酸を含むウェルからなり、且つ、前記検量線作成用核酸の特定コピー数が互いに異なるウェルを3以上有する第1のウェル群と、特定コピー数の定量用核酸を含むウェルを1以上有する第2のウェル群と、を有するデバイスを備え、前記検量線作成用核酸の特定コピー数のうち少なくとも1つ、及び、前記定量用核酸の特定コピー数のうち少なくとも1つがそれぞれ100未満である。
上記態様の性能評価キット及び性能評価方法によれば、ポアソン分布の影響が抑制された、正確な性能評価を行うことができる定量PCR測定系の性能評価キット及び性能評価方法を提供することができる。
本実施形態の性能評価キットが備えるデバイスの一例を示す図である。 ポアソン分布に基づくばらつきを持ったコピー数と変動係数CVとの関係を示すグラフである。 電磁バルブ方式の吐出ヘッドの一例を示す模式図である。 ピエゾ方式の吐出ヘッドの一例を示す模式図である。 図4におけるピエゾ方式の吐出ヘッドの変形例の模式図である。 (a)は、圧電素子に印加する電圧の一例を示す模式図である。(b)は、圧電素子に印加する電圧の他の一例を示す模式図である。 (a)~(c)は、液滴の状態の一例を示す模式図である。 ウェル内に順次液滴を着弾させるための分注装置の一例を示す概略図である。 DNA複製済みの細胞の頻度と、蛍光強度との関係の一例を示すグラフである。 液滴形成装置の一例を示す模式図である。 図10の液滴形成装置の制御手段のハードウェアブロックを例示する図である。 図10の液滴形成装置の制御手段の機能ブロックを例示する図である。 液滴形成装置の動作の一例を示すフローチャートである。 液滴形成装置の変形例を示す模式図である。 液滴形成装置の他の変形例を示す模式図である。 (a)及び(b)は、飛翔する液滴に2個の蛍光粒子が含まれる場合を例示する図である。 粒子同士の重なりが生じない場合の輝度値Liと、実測される輝度値Leとの関係を例示する図である。 液滴形成装置の他の変形例を示す模式図である。 液滴形成装置の他の一例を示す模式図である。 マイクロ流路中を通過してきた細胞をカウントする方法の一例を示す模式図である。 吐出ヘッドのノズル部近傍の画像を取得する方法の一例を示す模式図である。 確率P(≧2)と平均細胞数の関係を表すグラフである。 実験例1におけるSeo M. et al., (2019)によって開発されたシステムに基づいて改良された標準物質を製造するためのカウントシステムの概略図である。 実験例1における変数xの95%が該当する間隔を計算するために使用される方法のフローチャートである。代表値rは、必要に応じて、平均値、中央値、最頻値、及びその他の値から選択できる。テキストでは変数xは整数である必要があるため、代表値とステップ値sはそれぞれ整数と1に設定される。 実験例1における段階希釈法で作製したキャリブレーター(A)及び標準物質(B)の、リアルタイムPCRの結果のボックスプロットと検量線(破線)である.ボックスプロットのひげは10thパーセンタイルと90thパーセンタイルを示している。丸(〇)は各コピー数のキャリブレーターが増幅したウェルの割合(検出率)を示している。 実験例2におけるリアルタイムPCRを行うサンプルの96ウェルプレート上での配置図である。 実験例2におけるコピー数の異なる検量線作成用核酸を使用して作成された検量線である。 実験例2における定量用核酸(25コピー/ウェル、50コピー/ウェル、及び100コピー/ウェル)の定量コピー数の平均値を4日間モニタリングした結果を示すグラフである。 実験例2における定量用核酸(25コピー/ウェル)の各ロットでの定量コピー数の平均値、定量値の中央値、並びに定量値の不確かさの最大値及び最小値を4日間モニタリングした結果を示すグラフである。 実験例2における定量用核酸(50コピー/ウェル)の各ロットでの定量コピー数の平均値、定量値の中央値、並びに定量値の不確かさの最大値及び最小値を4日間モニタリングした結果を示すグラフである。 実験例2における定量用核酸(100コピー/ウェル)の各ロットでの定量コピー数の平均値、定量値の中央値、並びに定量値の不確かさの最大値及び最小値を4日間モニタリングした結果を示すグラフである。 実験例3における新規の参照試料である定量用核酸の製造方法を簡略的に示した図である。 実験例3における標準物質(定量用核酸)及び検量線作成用核酸を含むウェルを示す図である。 実験例3における12回のPCRの各ランで定量した定量用核酸(25コピー/ウェル)のコピー数の平均値(n=6)、警告限界(±2SD)、及び管理限界(±3SD)を示すグラフである。 実験例3における12回のPCRの各ランで定量した定量用核酸(50コピー/ウェル)のコピー数の平均値(n=6)、警告限界(±2SD)、及び管理限界(±3SD)を示すグラフである。 実験例3における12回のPCRの各ランで定量した定量用核酸(100コピー/ウェル)のコピー数の平均値(n=6)、警告限界(±2SD)、及び管理限界(±3SD)を示すグラフである。
以下、本発明の一実施形態に係る定量PCR測定系の性能評価キット及び性能評価方法(以下、それぞれ単に「本実施形態の性能評価キット」、「本実施形態の性能評価方法」と称する場合がある)について、必要に応じて特定の実施形態及び図面を参照して説明する。かかる実施形態及び図面は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、以下に説明する部材の形状、寸法、配置等については、本発明の趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれる。
また、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願および他の出版物や情報は、その全体を参照により本明細書に援用する。また本明細書において参照された出版物と本明細書の記載に矛盾が生じた場合は、本明細書の記載が優先されるものとする。
≪定量PCR測定系の性能評価キット≫
本実施形態の性能評価キットは、特定コピー数の検量線作成用核酸を含むウェルからなり、且つ、前記検量線作成用核酸の特定コピー数が互いに異なるウェルを3以上有する第1のウェル群と、特定コピー数の定量用核酸を含むウェルを1以上有する第2のウェル群と、を有するデバイスを備える。前記検量線作成用核酸の特定コピー数のうち少なくとも1つ、及び、前記定量用核酸の特定コピー数のうち少なくとも1つがそれぞれ100未満である。
本実施形態の性能評価キットは、上記構成を有することで、ポアソン分布の影響が抑制された、正確な定量PCR測定系の性能評価を行うことができる。
なお、本明細書における「定量PCR(Q-PCR)」としては、例えば、リアルタイムPCR、デジタルPCR等が挙げられる。
リアルタイムPCRは、PCRによる増幅を経時的(リアルタイム)に測定することで、増幅効率に基づいて鋳型核酸を定量するものである。定量は蛍光色素を用いて行われ、主に、インターカレーション法とハイブリダイゼーション法が存在する。
インターカレーション法では、二本鎖DNAに特異的に挿入(インターカレート)して蛍光を発するインターカレーターの存在下で鋳型核酸の増幅反応を行う。インターカレーターとしては、SYBR Green I(CAS番号:163795-75-3)又はその誘導体が挙げられる。一方、ハイブリダイゼーション法ではTaqMan(登録商標)プローブを用いる方法が最も一般的であり、対象核酸配列に相補的なオリゴヌクレオチドに蛍光物質及び消光物質を結合させたプローブが用いられる。
デジタルPCRは、限界希釈(各微小区画にターゲットDNAが1又は0となるような希釈)したサンプルDNAを微小区画内に分散させてPCR増幅を行い、微小区画ごとに増幅産物の有無を検出し、コピー数の絶対量を定量するものである。
本実施形態の性能評価キットの各構成成分について以下に詳細を説明する。
<デバイス>
図1は、本実施形態の性能評価キットが備えるデバイスの一例を示す図である。
デバイス1は、特定コピー数の検量線作成用核酸を含むウェル2からなり、且つ、検量線作成用核酸の特定コピー数が互いに異なるウェルを3以上有する第1のウェル群3と、特定コピー数の定量用核酸を含むウェル4を1以上有する第2のウェル群5と、を有する。
図1において、検量線作成用核酸の特定コピー数が互いに異なるウェルを4種類有する場合(ウェル2a、2b、2c、及び2d)を例示したが、第1のウェル群2において、検量線作成用核酸の特定コピー数が互いに異なるウェル数は、3以上であり、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上とすることができる。一方で、検量線作成用核酸の特定コピー数が互いに異なるウェル数の上限値は、特に限定されず、デバイスが有するウェル数に応じて適宜設定することができるが、例えば、20、15、10等とすることができる。
第2のウェル群3は、特定コピー数の定量用核酸を含むウェル4からなる。
定量用核酸の特定コピー数が互いに異なるウェルを有してもよく、図1においては、定量用核酸の特定コピー数が互いに異なるウェルを2種類有する場合(ウェル4a、及び4b)を例示したが、当該ウェル数は2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上とすることができる。一方で、定量用核酸の特定コピー数が互いに異なるウェル数の上限値は、特に限定されず、デバイスが有するウェル数に応じて適宜設定することができるが、例えば、20、15、10等とすることができる。
検量線作成用核酸の特定コピー数のうち少なくとも1つ、及び、定量用核酸の特定コピー数のうち少なくとも1つがそれぞれ100未満であり、検量線作成用核酸の特定コピー数の全て、及び、定量用核酸の特定コピー数の全てがそれぞれ100未満であることが好ましい。これにより、従来ではポアソン分布の影響により、定量が難しかった低コピー数の領域において検量線を作成することができ、且つ、低コピー数の領域における正確な定量用核酸を配置することができる。
また、100未満である検量線作成用核酸の特定コピー数及び定量用核酸の特定コピー数としては、適宜設定することができるが、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、60、70、80、90等とすることができる。
デバイスにおいて、検量線作成用核酸の特定コピー数及び定量用核酸の特定コピー数は互いに同一であってもよく、互いに異なっていてもよいが、中でも、互いに異なっていることが好ましい。
また、検量線作成用核酸の特定コピー数及び定量用核酸の特定コピー数が互いに異なっている場合に、1つの定量用核酸の特定コピー数をX、互いに異なり、且つ、隣接するコピー数である2つの検量線作成用核酸の特定コピー数をそれぞれY及びYとしたとき、X、Y及びYは、式:Y<X<Yで表される関係であることがより好ましい。
検量線作成用核酸の特定コピー数及び定量用核酸の特定コピー数が上記関係であることで、定量PCR測定系を用いた定量において、より正確に定量用核酸のコピー数を定量することができる。
第1のウェル群及び第2のウェル群において、特定コピー数が同一である検量線作成用核酸を含むウェル、及び、特定コピー数が同一である定量用核酸を含むウェルを、例えば、それぞれ1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上有することができる。中でも、定量PCR測定系を用いた定量において、検量線作成用核酸及び定量用核酸の定量値の不確かさの精度を高める観点から、特定コピー数が同一である検量線作成用核酸を含むウェル、及び、特定コピー数が同一である定量用核酸を含むウェルを、それぞれ4以上有することが好ましい。
一方で、第1のウェル群及び第2のウェル群において、特定コピー数が同一である検量線作成用核酸を含むウェル、及び、特定コピー数が同一である定量用核酸を含むウェル数の上限値は、特に限定されず、デバイスが有するウェル数に応じて適宜設定することができるが、例えば、20、15、10等とすることができる。
[特定コピー数]
本明細書において、ウェル内に存在する核酸のコピー数が特定されているとは、ウェル内に存在する核酸の数が一定以上の精度で特定されていることを意味する。すなわち、実際にウェル内に存在する核酸の数が既知であるということができる。
つまり、本明細書における特定コピー数は、従来の系列希釈により得られる所定のコピー数(算出推定値)よりも、数としての精度、信頼性が高く、特に、1,000以下の低コピー数領域であってもポアソン分布によらない制御された値となる。
制御された値は、概ね、不確かさを表す変動係数CVが平均コピー数xに対し、CV<1/√x又はCV≦20%のどちらかの値の大きさの中に収まっていることが好ましい。
ここで、核酸の「コピー数」と「分子数」が対応付けられる場合もある。具体的には、例えば、核酸の塩基配列をゲノム上の2箇所に導入したG1期の酵母菌の場合、酵母菌数=1なら核酸分子数(同一の染色体数)=1、核酸のコピー数=2となる。本明細書においては、核酸の特定コピー数を核酸の絶対数という場合がある。
本実施形態の性能評価キットを用いて、定量PCR測定系の性能評価を行なう際に、検量線作成用核酸及び定量用核酸それぞれを含む反応空間(以下、「ウェル」と称する場合もある)が複数存在する場合、各ウェル内に含まれる各核酸のコピー数が同一であるとは、各核酸を反応空間に充填する際に生じる、核酸の数のばらつきが許容範囲内であることを意味する。核酸の数のばらつきが許容範囲内にあるか否かについては、以下に示す不確かさの情報に基づいて判断することができる。
核酸の特定コピー数に関する情報としては、例えば、不確かさの情報、核酸の情報等が挙げられる。
「不確かさ」とは、「測定の結果に付随した、合理的に測定量に結びつけられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ」であるとISO/IEC Guide99:2007[国際計量計測用語-基本及び一般概念並びに関連用語(VIM)]に定義されている。
ここで、「合理的に測定量に結びつけられ得る値」とは、測定量の真の値の候補を意味する。すなわち、不確かさとは、測定対象の製造に係る操作、機器等に起因する測定結果のばらつきの情報を意味する。不確かさが大きいほど、測定結果として予想されるばらつきが大きくなる。不確かさは、例えば、測定結果から得られる標準偏差であってもよく、真の値が所定の確率以上で含まれている値の幅として表す信頼水準の半分の値であってもよい。
不確かさは、Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement(GUM:ISO/IEC Guide98-3)及びJapan Accreditation Board Note 10試験における測定の不確かさに関するガイドライン等に基づいて算出することができる。
不確かさを算出する方法としては、例えば、測定値等の統計を用いたタイプA評価法と、校正証明書、製造者の仕様書、公表されている情報等から得られる不確かさの情報を用いたタイプB評価法の2つの方法を適用することができる。
不確かさは、操作及び測定等の要因から得られる不確かさを全て標準不確かさに変換することにより、同じ信頼水準で表現することができる。標準不確かさとは、測定値から得られた平均値のばらつきを示す。
不確かさを算出する方法の一例としては、例えば、不確かさを引き起こす要因を抽出し、それぞれの要因の不確かさ(標準偏差)を算出する。続いて、算出したそれぞれの要因の不確かさを平方和法により合成し、合成標準不確かさを算出する。合成標準不確かさの算出において、平方和法を用いるため、不確かさを引き起こす要因の中で不確かさが十分に小さい要因については無視することができる。
不確かさの情報としては、ウェルに充填される核酸の変動係数を用いてもよい。変動係数とは、例えば、核酸をウェルに充填する際に生じる各ウェルに充填される核酸の数のばらつきの相対値を意味する。すなわち、変動係数とは、核酸に充填した核酸の数の充填精度を意味する。変動係数とは、標準偏差σを平均値xで除した値である。ここでは、標準偏差σを平均コピー数(平均充填コピー数)xで除した値を変動係数CVとすると、下記式1の関係式になる。
Figure 2022162964000001
一般的に、核酸は試料中でポアソン分布のランダムな分布状態を取っている。そのため、段階希釈法、すなわち、ポアソン分布におけるランダムな分布状態では、標準偏差σは、平均コピー数xと下記式2の関係式を満たすとみなすことができる。これより、核酸を含む試料を段階希釈法により希釈した場合、標準偏差σと平均コピー数xとから平均コピー数xの変動係数CV(CV値)を、上記式1及び下記式2から導出された下記式3を用いて求めると、表1及び図2に示すようになる。ポアソン分布に基づくばらつきを持ったコピー数の変動係数のCV値は図2から求めることができる。
Figure 2022162964000002
Figure 2022162964000003
Figure 2022162964000004
表1及び図2の結果から、例えば、ウェルに100コピー数の核酸を段階希釈法により充填する場合には、最終的にウェルに充填される核酸のコピー数はその他の精度を無視しても、少なくとも10%の変動係数(CV値)を持つことがわかる。
核酸のコピー数は、変動係数のCV値と、核酸の平均特定コピー数xとが、次式、CV<1/√xを満たすことが好ましく、CV<1/2√xを満たすことがより好ましい。
不確かさの情報としては、核酸を含むウェルが複数存在する場合、ウェルに含まれる核酸の特定コピー数に基づく、ウェル全体としての不確かさの情報を用いることが好ましい。
不確かさを引き起こす要因としてはいくつか考えられ、例えば、核酸を細胞に導入して当該細胞をウェルに計数及び分注する場合には、細胞内の核酸の数(例えば、細胞の細胞周期等)、細胞をウェルに配置する手段(インクジェット装置、インクジェット装置の動作のタイミングを制御する装置等の各部位の動作による結果を含む。例えば、細胞懸濁液を液滴化した時の液滴に含まれる細胞数等)、細胞がウェルの適切な位置に配置された頻度(例えば、ウェル内に配置された細胞数等)、細胞が細胞懸濁液中で破壊されることにより核酸Aが細胞懸濁液中に混入することによるコンタミネーション(夾雑物の混入、以下、「コンタミ」という場合がある。)等が挙げられる。
核酸の情報としては、例えば、核の特定コピー数に関する情報が挙げられる。核酸の特定コピー数に関する情報としては、例えば、ウェルに含まれる核酸の特定コピー数の不確かさの情報等が挙げられる。
本実施形態の性能評価キットにおいて、検量線作成用核酸の特定コピー数のばらつきは、前記定量用核酸の特定コピー数のばらつきと同等以下であることが好ましい。これにより、より高い精度で、定量PCR測定系の性能を評価することができる。
[検量線作成用核酸及び定量用核酸]
一般に、核酸とは、プリン又はピリミジンから導かれる含窒素塩基、糖及びリン酸が規則的に結合した高分子の有機化合物を意味し、核酸アナログ等も含まれる。核酸としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DNA、RNA、cDNA等が挙げられる。
検量線作成用核酸及び定量用核酸は、互いに同一の配列からなるものであってもよく、異なる配列からなるものであってもよいが、同一の配列からなるものであることが好ましい。これにより、プライマーや増幅サイクル等のPCR条件を同一のものとすることができ、定量PCR測定系の性能評価をより高い精度で行うことができる。
また、本実施形態の性能評価キットが、定量PCR測定系による特定の核酸の定量を行う際の性能評価に用いられる場合には、検量線作成用核酸及び定量用核酸は、それぞれ定量PCR測定系において定量対象となる特定の核酸と同一の配列からなるものであってもよく、異なる配列からなるものであってもよいが、同一の配列からなるものであることが好ましい。これにより、プライマーや増幅サイクル等のPCR条件を同一のものとすることができ、定量対象となる特定の核酸を、より高い精度で定量することができる。
検量線作成用核酸及び定量用核酸は、核酸断片であってもよいし、細胞の核中に組み込まれていてもよいが、細胞の核中に組み込まれていることが好ましい。よって、検量線作成用核酸及び定量用核酸は、定量PCR測定系の性能評価のために使用される際には、細胞から抽出された状態で用いられる。すなわち、検量線作成用核酸及び定量用核酸は、それぞれ細胞から抽出された核酸であることが好ましい。
検量線作成用核酸及び定量用核酸は、生物から得られる天然物であってもよく、その加工物であってもよく、遺伝子組換え技術を利用して製造されたものであってもよく、化学的に合成された人工合成核酸であってもよい。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
検量線作成用核酸及び定量用核酸の配列は、真核生物、原核生物、多細胞生物、単細胞生物のいずれの生物に由来する配列であってもよい。真核生物としては、例えば、動物、昆虫、植物、真菌、藻類、原生動物等が挙げられる。動物としては、例えば、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類等の脊椎動物であることが好ましい。
脊椎動物の中でも、哺乳類であることがより好ましい。哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、マーモセット、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等が挙げられるが、ヒトが好ましい。
中でも、検量線作成用核酸及び定量用核酸としては、ヒトゲノムDNA又はその断片であることが好ましい。
人工合成核酸とは、天然に存在するDNA又はRNAと同様の構成成分(塩基、デオキシリボース、リン酸)からなる核酸を人工的に合成した核酸を意味する。人工合成核酸は、例えば、タンパク質をコードする塩基配列を有する核酸であってもよく、任意の塩基配列を有する核酸であってもよい。
核酸又は核酸断片のアナログとしては、核酸又は核酸断片に非核酸成分を結合させたもの、核酸又は核酸断片を蛍光色素や同位元素等の標識剤で標識したもの(例えば、蛍光色素や放射線同位体で標識されたプライマーやプローブ)、核酸又は核酸断片を構成するヌクレオチドの一部の化学構造を変化させた人工核酸(例えば、PNA、BNA、LNA等)が挙げられる。
検量線作成用核酸及び定量用核酸の形態は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、二本鎖核酸、一本鎖核酸、部分的に二本鎖又は一本鎖である核酸等が挙げられ、環状又は直鎖状のプラスミドであってもよい。また、検量線作成用核酸及び定量用核酸は修飾又は変異を有していてもよい。
検量線作成用核酸及び定量用核酸は、塩基配列が明らかな特定の塩基配列を有することが好ましい。特定の塩基配列は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、遺伝子疾患検査に用いられる塩基配列、自然界には存在しない非天然の塩基配列、動物細胞由来の塩基配列、植物細胞由来の塩基配列、真菌細胞由来の塩基配列、細菌由来の塩基配列、ウイルス由来の塩基配列等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
検量線作成用核酸及び定量用核酸は、使用する細胞由来の核酸であってもよく、遺伝子導入により導入された核酸であってもよい。検量線作成用核酸及び定量用核酸の種類は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。検量線作成用核酸及び定量用核酸として、細胞の核中に遺伝子導入により組み込まれた核酸を使用する場合には、1細胞に特定コピー数(例えば、1コピー)の検量線作成用核酸又は定量用核酸が導入されていることを確認することが好ましい。特定コピー数の検量線作成用核酸又は定量用核酸が導入されていることの確認方法は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シーケンス、PCR法、サザンブロット法等が挙げられる。
細胞の核中に検量線作成用核酸又は定量用核酸を導入する場合、遺伝子導入の方法としては、特定の核酸配列が目的の場所に目的のコピー数導入できれば特に限定されず、例えば、相同組換え、CRISPR/Cas9、CRISPR/Cpf1、TALEN、Zinc finger nuclease、Flip-in、Jump-in等が挙げられる。あるいは、プラスミド、人工染色体等の形態で細胞の核中に検量線作成用核酸又は定量用核酸を導入してもよい。例えば、細胞として酵母菌(酵母細胞)を用いる場合、これらの中でも効率の高さ及び制御のしやすさの点から、相同組換えが好ましい。
検量線作成用核酸及び定量用核酸は、微小領域や担体によって、試料中において微小区画化されていてもよい。このとき、微小領域や担体により微小区画化された検量線作成用核酸及び定量用核酸は1コピーであってもよく、2コピー以上であってもよい。また、2コピー以上の検量線作成用核酸又は定量用核酸が微小区画された場合に、複数存在する検量線作成用核酸又は定量用核酸は同じ配列からなるものであってもよく、異なる配列からなるものであってもよい。検量線作成用核酸及び定量用核酸が担体によって、試料中において微小区画化された場合に、検量線作成用核酸及び定量用核酸は担体に直接又はリンカー等を介して間接的に結合して存在する。
微小領域としては、例えば、細胞、リポソーム、マイクロカプセル、ウイルス、ドロップレット、エマルジョン等の形態が挙げられる。担体としては、例えば、金属粒子、磁性粒子、セラミックス粒子、高分子粒子、タンパク質粒子等の形態が挙げられる。
[細胞]
細胞は、生物体を形成する構造的及び機能的単位である。検量線作成用核酸又は定量用核酸が含まれる細胞としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真核細胞、原核細胞、多細胞生物細胞、単細胞生物細胞等が挙げられる。細胞は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
真核細胞としては、特に限定されず、目的応じて適宜選択することができ、例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、真菌細胞、藻類、原生動物等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、動物細胞又は真菌細胞が好ましい。
動物細胞の由来となる動物としては、例えば、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類等が挙げられるが、哺乳類であることが好ましい。哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、マーモセット、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等が挙げられるが、ヒトが好ましい。
動物細胞は接着性細胞であってもよく、浮遊性細胞であってもよい。接着性細胞は、組織や器官から直接採取した初代細胞であってもよく、組織や器官から直接採取した初代細胞を何代か継代させたものであってもよく、分化した細胞であってもよく、未分化の細胞であってもよい。
分化した細胞は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、肝臓の実質細胞である肝細胞、星細胞、クッパー細胞、血管内皮細胞、類道内皮細胞、角膜内皮細胞等の内皮細胞;繊維芽細胞、骨芽細胞、砕骨細胞、歯根膜由来細胞、表皮角化細胞等の表皮細胞;気管上皮細胞、消化管上皮細胞、子宮頸部上皮細胞、角膜上皮細胞等の上皮細胞;乳腺細胞、ペリサイト;平滑筋細胞、心筋細胞等の筋細胞、腎細胞、膵ランゲルハンス島細胞;末梢神経細胞、視神経細胞等の神経細胞;軟骨細胞、骨細胞等が挙げられる。
未分化の細胞は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)等の全能性幹細胞;間葉系幹細胞等の多能性幹細胞;血管内皮前駆細胞等の単能性幹細胞等が挙げられる。
真菌細胞は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カビ、酵母菌等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、細胞周期を調節することができ、1倍体を使用することができる点から、酵母菌が好ましい。細胞周期とは、細胞が増えるとき、細胞分裂が生じ、細胞分裂で生じた細胞(娘細胞)が再び細胞分裂を行う細胞(母細胞)となって新しい娘細胞を生み出す過程を意味する。
酵母菌は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、G0/G1期に同調して同調培養され、G1期で固定されたものが好ましい。また、酵母菌としては、例えば、細胞周期をG1期に制御するフェロモン(性ホルモン)の感受性が増加したBar1遺伝子欠損酵母が好ましい。酵母菌がBar1遺伝子欠損酵母であると、細胞周期が制御できていない酵母菌の存在比率を低くすることができるため、細胞中の核酸のコピー数の増加等を防ぐことができる。
原核細胞は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、大腸菌等の真正細菌、古細菌等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
細胞は、死細胞であることが好ましい。死細胞であると、分取後に細胞分裂が起こり、細胞内核酸量が変化することを防ぐことができる。細胞は、光を受光したときに発光可能であることが好ましい。光を受光したときに発光可能な細胞であると、細胞の数を高精度に制御してウェル内に着弾させることができる。
細胞は、光を受光した時に発光可能であることが好ましい。受光とは、光を受けることを意味する。細胞の発光は、光学センサで検出する。光学センサとは、人間の目で見ることができる可視光線と、それより波長の長い近赤外線や短波長赤外線、熱赤外線領域までの光のいずれかの光をレンズで集め、対象物である細胞の形状等を画像データとして取得する受動型センサを意味する。
光を受光したときに発光可能な細胞は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蛍光色素で染色された細胞、蛍光タンパク質を発現した細胞、蛍光標識抗体により標識された細胞等が挙げられる。細胞における蛍光色素による染色部位、蛍光タンパク質の発現部位、蛍光標識抗体による標識部位としては、特に制限はなく、細胞全体、細胞核、細胞膜等が挙げられる。
蛍光色素としては、例えば、フルオレセイン類、アゾ類、ローダミン類、クマリン類、ピレン類、シアニン類等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、フルオレセイン類、アゾ類、ローダミン類、又はシアニン類が好ましく、エオシン、エバンスブルー、トリパンブルー、ローダミン6G、ローダミンB、ローダミン123、又はCy3がより好ましい。
蛍光色素としては、市販品を用いることができ、市販品としては、例えば、商品名:EosinY(和光純薬工業株式会社製)、商品名:エバンスブルー(和光純薬工業株式会社製)、商品名:トリパンブルー(和光純薬工業株式会社製)、商品名:ローダミン6G(和光純薬工業株式会社製)、商品名:ローダミンB(和光純薬工業株式会社製)、商品名:ローダミン123(和光純薬工業株式会社製)等が挙げられる。
蛍光タンパク質としては、例えば、Sirius、EBFP、ECFP、mTurquoise、TagCFP、AmCyan、mTFP1、MidoriishiCyan、CFP、TurboGFP、AcGFP、TagGFP、Azami-Green、ZsGreen、EmGFP、EGFP、GFP2、HyPer、TagYFP、EYFP、Venus、YFP、PhiYFP、PhiYFP-m、TurboYFP、ZsYellow、mBanana、KusabiraOrange、mOrange、TurboRFP、DsRed-Express、DsRed2、TagRFP、DsRed-Monomer、AsRed2、mStrawberry、TurboFP602、mRFP1、JRed、KillerRed、mCherry、mPlum、PS-CFP、Dendra2、Kaede、EosFP、KikumeGR等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
蛍光標識抗体は、対象細胞に結合することができ、蛍光標識されていれば特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、FITC標識抗CD4抗体、PE標識抗CD8抗体等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
細胞の体積平均粒径は、遊離状態において、30μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、7μm以下が特に好ましい。体積平均粒径が、30μm以下であれば、インクジェット法やセルソーター等の液滴吐出手段に好適に用いることができる。
細胞の体積平均粒径は、例えば、次のような測定方法で測定することができる。細胞として酵母を用いた場合、作製した染色済み酵母分散液から10μL取り出してPMMA製プラスチックスライドに載せ、自動セルカウンター(商品名:Countess Automated Cell Counter、invitrogen社製)を用いること等により体積平均粒径を測定することができる。なお、細胞数も同様の測定方法により求めることができる。
細胞懸濁液における細胞の密度は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、5×10個/mL以上5×10個/mL以下が好ましく、5×10個/mL以上5×10個/mL以下がより好ましい。細胞密度が上記の範囲であると、吐出した液滴中に細胞を確実に含むことができる。細胞密度は、体積平均粒径の測定方法と同様にして、自動セルカウンター(商品名:Countess Automated Cell Counter、invitrogen社製)等を用いて測定することができる。
また、本実施形態の性能評価キットにおいて、検量線作成用核酸又は定量用核酸を含む細胞としては、細胞と同一条件を再現できるものであれば、上述した細胞の代わりに、細胞以外のものを利用することもできる。細胞以外のものとしては、例えば、リポソーム、マイクロカプセル、ウイルス、ドロップレット、エマルジョン等の形態が挙げられる。
(リポソーム)
リポソームとは、脂質分子を含む脂質二重層から形成される脂質小胞体であり、具体的には、脂質分子の疎水性基と親水性基の極性に基づいて生じる脂質二重層により外界から隔てられた空間を有する閉鎖された脂質を含む小胞体を意味する。
リポソームは、脂質を用いた脂質二重膜で形成される閉鎖小胞体であり、その閉鎖小胞の空間内に水相(内水相)を有する。内水相には、水等が含まれる。リポソームはシングルラメラ(単層ラメラ、ユニラメラ、二重層膜が一重)であっても、多層ラメラ(マルチラメラ、タマネギ状の構造をした多数の二重層膜で、個々の層は水様の層で仕切られている)であってもよい。
リポソームは、核酸を内包することができるものであればよく、その形態は特に限定されない。「内包」とは、リポソームに対して核酸が内水相又は膜自体に含まれる形態をとることを意味する。例えば、膜で形成された閉鎖空間内に核酸を封入する形態、膜自体に核酸を内包する形態等が挙げられ、これらの組合せでもよい。
リポソームの大きさ(平均粒子径)は、核酸を内包することができる大きさであれば特に限定されない。また、形態は球状又はそれに近い形態が好ましい。
リポソームの脂質二重層を構成する成分(膜成分)は、脂質から選ばれる。脂質としては、水溶性有機溶媒及びエステル系有機溶媒の混合溶媒に溶解するものであれば任意に使用することができる。具体的な脂質としては、リン脂質、リン脂質以外の脂質、コレステロール類、それらの誘導体等が挙げられる。これらの成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(マイクロカプセル)
マイクロカプセルとは、壁材と中空構造とを有する微小な粒体を意味し、中空構造に核酸を内包することができる。マイクロカプセルは、特に限定されず、適宜目的に応じて、壁材、大きさ等を選択することができる。
マイクロカプセルの壁材としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリ尿素、ポリ尿素-ポリウレタン樹脂、尿素-ホルムアルデヒド樹脂、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリスルホンアミド、ポリカーボネート、ポリスルフィネート、エポキシリ、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、ゼラチン等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
マイクロカプセルの大きさは、核酸を内包することができる大きさであれば特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。マイクロカプセルの製造方法は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、in-situ法、界面重合法、コアセルベーション法等が挙げられる。
細胞に含まれる検量線作成用核酸又は定量用核酸のコピー数は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、50、100コピーとすることができる。また、ウェル内に細胞が2個以上の複数添加されている場合に、細胞に含まれる核酸のコピー数は同一であってもよく、異なっていてもよいが、効率よく性能評価キットを製造できることから、同一であることが好ましい。
中でも、1個の細胞に1コピーの検量線作成用核酸又は定量用核酸が含まれることが好ましい。この場合、「細胞の細胞数」=「ウェル内に存在する検量線作成用核酸又は定量用核酸の合計コピー数」とすることができ、より簡便にウェル内に存在する検量線作成用核酸又は定量用核酸の合計コピー数を把握することができる。
[その他成分]
第1のウェル群及び第2のウェル群はそれぞれ検量線作成用核酸及び定量用核酸に加えて、定量PCR測定系による処理及びその前処理で使用される試薬を含んでいてもよい。
試薬としては、例えば、プライマー、増幅試薬等が挙げられる。プライマーは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)において、鋳型DNA(本実施形態においては、検量線作成用核酸及び定量用核酸)に特異的な18~30塩基の相補的塩基配列を持つ合成オリゴヌクレオチドであり、増幅対象領域を挟むようにフォワードプライマー(センスプライマー)とリバースプライマー(アンチセンスプライマー)の2か所(一対)設定される。
増幅試薬としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)において、例えば、酵素としてDNAポリメラーゼ、基質として4種の塩基(dGTP、dCTP、dATP、dTTP)、Mg2+(終濃度約1mM以上2mM以下程度の塩化マグネシウム)、最適pH(pH7.5~9.5)を保持するバッファー等が挙げられる。
反応空間内の検量線作成用核酸及び定量用核酸、並びに、存在する場合、プライマー及び増幅試薬の状態は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、溶液又は固体のいずれかの状態であってもよい。
使用性の観点からは、特に、溶液状態であることが好ましい。溶液状態であると、使用者はすぐに試験に用いることができる。輸送上の観点からは、特に、固体状態であることが好ましく、固体乾燥状態がより好ましい。固体乾燥状態であると、分解酵素等による試薬の分解速度を低減化することができ、試薬の保存性を向上させることができる。
乾燥方法としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、凍結乾燥、加熱乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、蒸気乾燥、吸引乾燥、赤外線乾燥、バレル乾燥、スピン乾燥等が挙げられる。
反応空間は、デバイスの使用直前に、固体乾燥状態の試薬をバッファーや水に溶解させることで、すぐに反応液として用いることができるよう、適正量の試薬を含んでいることが好ましい。
デバイスは、複数の反応空間の全部に検量線作成用核酸及び定量用核酸を含んでいてもよいし、複数の反応空間の一部に検量線作成用核酸及び定量用核酸を含んでいてもよい。後者の場合、残部の反応空間は、例えば空であってもよく、異なる組成の試薬を含んでいてもよい。
デバイスにおいて、反応空間の形態は特に限定されず、例えば、ウェル、液滴、基板上の区画等が挙げられる。例えば、反応空間がウェルである場合、デバイスはウェルプレートの形態であってもよい。
[ウェル]
ウェルは、その形状、数、容積、材質、色等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。ウェルの形状としては、検量線作成用核酸及び定量用核酸、及び、存在する場合、試薬を含むことができれば特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平底、丸底、U底、V底等の凹部等が挙げられる。
ウェルの数は複数であり、5以上が好ましく、50以上がより好ましい。ウェルの数が2以上であるマルチウェルプレートが好適に用いられる。マルチウェルプレートとしては、ウェル数が、例えば、24、48、96、384、1,536等であるウェルプレートが挙げられる。
ウェルの容積は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、一般的な定量PCRに用いられる試料量を考慮すると、10μL以上1,000μL以下が好ましい。
ウェルの材質は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。
ウェルの色は、例えば、透明、半透明、着色、完全遮光等であってよい。ウェルの濡れ性は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、撥水性であってもよい。ウェルの濡れ性が、撥水性であると、ウェル内壁への試薬の吸着を低減化することができる。また、ウェルの濡れ性が撥水性であると、ウェル内の試薬を溶液状態で移動することが容易である。
ウェル内壁の撥水化の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フッ素系樹脂被膜を形成する方法、フッ素プラズマ処理、エンボス加工等が挙げられる。特に、接触角が100°以上となる撥水化処理を施すことで、液体の取りこぼしによる試薬の減少、不確かさ、変動係数の増大を抑えることができる。
[基材]
デバイスは、ウェルが基材に設けられたプレート状のものが好ましいが、8連チューブ等の連結タイプのウェルチューブであってもよい。基材としては、その材質、形状、大きさ、構造等について特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
基材の材質は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、半導体、セラミックス、金属、ガラス、石英ガラス、プラスチックス等が挙げられる。中でも、プラスチックスが好ましい。
プラスチックスとしては、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。
基材の形状は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状等が挙げられる。基材の構造は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、単層構造であってもよく、複数層構造であってもよい。
[識別手段]
デバイスは、検量線作成用核酸及び定量用核酸の特定コピー数の情報(例えば、細胞の数)を識別可能な識別手段を有していてもよい。識別手段は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メモリ、ICチップ、バーコード、QRコード(登録商標)、Radio Frequency Identifier(以下、「RFID」とも称することがある)、色分け、印刷等が挙げられる。
識別手段を設ける位置及び識別手段の数は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
識別手段に記憶させる情報としては、検量線作成用核酸及び定量用核酸の特定コピー数の情報以外にも、例えば、分析結果(例えば、PM値、PM値のばらつき等)、細胞の生死、複数のウェルのうちどのウェルに検量線作成用核酸及び定量用核酸が充填されているのか、検量線作成用核酸及び定量用核酸の種類、測定日時、測定者の氏名等が挙げられる。
識別手段に記憶された情報は、各種読取手段を用いて読み取ることができ、例えば、識別手段がバーコードであれば読取手段としてバーコードリーダーが用いられる。
識別手段に情報を書き込む方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、手入力、ウェルに検量線作成用核酸及び定量用核酸を分注する際に検量線作成用核酸及び定量用核酸の特定コピー数を計数する液滴形成装置から直接データを書き込む方法、サーバに保存されているデータの転送、クラウドに保存されているデータの転送等が挙げられる。
[その他の部材]
その他の部材は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、密閉部材等が挙げられる。
デバイスは、ウェルへの異物混入又は充填物の流出等を防ぐために、密閉部材を有することが好ましい。密閉部材としては、少なくとも1つのウェルを密閉可能であり、1つ1つのウェルを個別に密閉又は開封できるように、切り取り線により切り離し可能に構成してもよい。
密閉部材の形状としては、ウェル内壁径と一致するキャップ状、ウェル開口部を被覆するフィルム状等が挙げられる。
密閉部材の材質としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。密閉部材としては、全てのウェルを一度に密閉可能なフィルム状であることが好ましい。また、使用者の誤使用を低減化できるように再開封が必要なウェルと不必要なウェルとの接着強度が異なるように構成されていてもよい。
<デバイスの製造方法>
デバイスの製造方法は、特定コピー数の検量線作成用核酸又は定量用核酸をそれぞれ細胞の核中の核酸に組み込む組み込み工程と、特定コピー数の検量線作成用核酸が核中の核酸に組み込まれた細胞を1つ含む液滴を作製し、当該液滴の個数を制御することにより特定の個数の細胞を充填する検量線作成用核酸充填工程と、特定コピー数の定量用核酸が核中の核酸に組み込まれた細胞を1つ含む液滴を作製し、当該液滴の個数を制御することにより特定の個数の細胞を充填する定量用核酸充填工程と、を含む。
デバイスの製造方法は、細胞懸濁液精製工程及び細胞数計数工程を更に含むことが好ましく、細胞懸濁液生成工程、検量線作成用核酸充填工程、定量用核酸充填工程及び細胞数計数工程において推定したウェル内に存在する検量線作成用核酸又は定量用核酸のコピー数の確からしさを算出する工程、出力工程及び記録工程を更に含むことがより好ましく、更に必要に応じてその他の工程を含む。
[組み込み工程]
組み込み工程では、特定コピー数の検量線作成用核酸又は定量用核酸をそれぞれ細胞の核中の核酸に組み込む。
細胞の核中の核酸に組み込まれる検量線作成用核酸又は定量用核酸のコピー数は、特定のコピー数であれば、特に限定はないが、導入効率の観点から、1コピーであることが好ましい。
検量線作成用核酸又は定量用核酸の細胞の核中の核酸への組み込み方法としては、上記「検量線作成用核酸及び定量用核酸」において「遺伝子導入の方法」として例示された方法と同様の方法が挙げられる。
[検量線作成用核酸充填工程及び定量用核酸充填工程]
検量線作成用核酸充填工程では、特定コピー数の検量線作成用核酸が核中の核酸に組み込まれた細胞を1つ含む液滴を作製し、当該液滴の個数を制御することにより特定の個数の細胞を充填する。
定量用核酸充填工程では、特定コピー数の定量用核酸が核中の核酸に組み込まれた細胞を1つ含む液滴を作製し、当該液滴の個数を制御することにより特定の個数の細胞を充填する。
液滴の作製及び充填は、例えば、核中の核酸に検量線作成用核酸又は定量用核酸が組み込まれた細胞を含む細胞懸濁液を液滴として吐出することにより容器内に液滴を順次着弾させることで達成できる。吐出とは、細胞懸濁液を液滴として飛翔させることを意味する。順次とは、次々に順序どおりにすることを意味する。着弾とは、液滴をウェルに到達させることを意味する。
容器としては、1穴マイクロチューブ、8連チューブ、96穴、384穴のウェルプレート等を用いることが好ましいが、ウェルが複数である場合には、これらのプレートにおけるウェルには同じ個数の細胞を分注することも可能であるし、異なる水準の個数の細胞を入れることも可能である。また、細胞が含まれないウェルが存在していてもよい。
吐出手段としては、細胞懸濁液を液滴として吐出する手段(以下、「吐出ヘッド」とも称することがある)を好適に用いることができる。
細胞懸濁液を液滴として吐出する方式としては、例えば、インクジェット法におけるオンデマンド方式、コンティニュアス方式等が挙げられる。これらの中でもコンティニュアス方式の場合、安定的な吐出状態に至るまでの空吐出、液滴量の調整、ウェル間を移動する際にも連続的に液滴形成を行い続ける等の理由から、用いる細胞懸濁液のデッドボリュームが多くなる傾向にある。本実施形態では細胞数を調整する観点からデッドボリュームによる影響を低減させることが好ましく、そのため、上記2つの方式では、オンデマンド方式の方がより好適である。
オンデマンド方式としては、例えば、液体に圧力を加えることによって液体を吐出する圧力印加方式、加熱による膜沸騰によって液体を吐出するサーマル方式、静電引力によって液滴を引っ張ることによって液滴を形成する静電方式等の既知の複数の方式等が挙げられる。これらの中でも、以下の理由から、圧力印加方式が好ましい。
静電方式は、細胞懸濁液を保持して液滴を形成する吐出部に対向して電極を設置する必要がある。デバイスの製造方法では、液滴を受けるためのプレートが対向して配置されており、プレート構成の自由度を上げるため電極の配置は無いことが好ましい。サーマル方式は、局所的な加熱が発生するため生体材料である細胞への影響や、ヒーター部への焦げ付き(コゲーション)が懸念される。熱による影響は、含有物やプレートの用途に依存するため、一概に除外する必要はないが、圧力印加方式は、サーマル方式よりヒーター部への焦げ付きの懸念がないという点から好ましい。
圧力印加方式としては、ピエゾ素子を用いて液体に圧力を加える方式、電磁バルブ等のバルブによって圧力を加える方式等が挙げられる。細胞懸濁液の液滴吐出に使用可能な液滴生成デバイスの構成例を図3~5に示す。
図3は、電磁バルブ方式の吐出ヘッドの一例を示す模式図である。電磁バルブ方式の吐出ヘッドは、電動機13a、電磁弁112、液室11a、細胞懸濁液300a及びノズル111aを有する。電磁バルブ方式の吐出ヘッドとしては、例えば、TechElan社のディスペンサ等を好適に用いることができる。
図4は、ピエゾ方式の吐出ヘッドの一例を示す模式図である。ピエゾ方式の吐出ヘッドは、圧電素子13b、液室11b、細胞懸濁液300b及びノズル111bを有する。ピエゾ方式の吐出ヘッドとしては、Cytena社のシングルセルプリンター等を好適に用いることができる。
これらの吐出ヘッドのいずれも用いることが可能であるが、電磁バルブによる圧力印加方式では高速に繰り返し液滴を形成することができないため、プレートの生成のスループットを上げるためにはピエゾ方式を用いることが好ましい。また、一般的な圧電素子13bを用いたピエゾ方式の吐出ヘッドでは、沈降によって細胞濃度のムラが発生すること
や、ノズル詰まりが生じることが問題として生じることがある。
このため、より好ましい構成として図5に示した構成等が挙げられる。図5は、図4における圧電素子を用いたピエゾ方式の吐出ヘッドの変形例の模式図である。図5の吐出ヘッドは、圧電素子13c、液室11c、細胞懸濁液300c及びノズル111cを有する。
図5の吐出ヘッドでは、図示していない制御装置から圧電素子13cに対して電圧印加することにより、紙面横方向に圧縮応力が加わりメンブレン12cを紙面上下方向に変形させることができる。
オンデマンド方式以外の方式としては、例えば、連続的に液滴を形成させるコンティニュアス方式等が挙げられる。コンティニュアス方式では、液滴を加圧してノズルから押し出す際に圧電素子やヒーターによって定期的なゆらぎを与え、それによって微小な液滴を連続的に作り出すことができる。更に、飛翔中の液滴の吐出方向を、電圧を印加することによって制御することにより、ウェルに着弾させるか、回収部に回収するかを選ぶことも可能である。このような方式は、セルソーター又はフローサイトメーターで用いられており、例えば、ソニー株式会社製の装置名:セルソーターSH800Zを用いることができる。
図6(a)は、圧電素子に印加する電圧の一例を示す模式図である。また、図6(b)は、圧電素子に印加する電圧の他の一例を示す模式図である。図6(a)は、液滴を形成するための駆動電圧を示す。電圧(V、V、V)の強弱により、液滴を形成することができる。図6(b)は、液滴の吐出を行わずに細胞懸濁液を撹拌するための電圧を示している。
液滴を吐出しない期間中に、液滴を吐出するほどには強くない複数のパルスを入力することによって、液質内の細胞懸濁液を撹拌することが可能であり、細胞沈降による濃度分布の発生を抑制することができる。
本実施形態において使用することができる吐出ヘッドの液滴形成動作に関して、以下に説明する。吐出ヘッドは、圧電素子に形成された上下電極に、パルス状の電圧を印加することにより液滴を吐出することができる。図7(a)~(c)は、それぞれのタイミングにおける液滴の状態を示す模式図である。
まず、図7(a)に示すように、圧電素子13cに電圧を印加することにより、メンブレン12cが急激に変形し、それにより、液室11c内に保持された細胞懸濁液とメンブレン12cとの間に高い圧力が発生し、この圧力によってノズル部から液滴が外に押し出される。
次に、図7(b)に示すように、圧力が上方に緩和するまでの時間、ノズル部からの液押し出しが続き液滴が成長する。最後に、図7(c)に示すように、メンブレン12cが元の状態に戻る際に細胞懸濁液とメンブレン12cとの界面近傍の液圧力が低下し、液滴310’が形成される。
デバイスの製造方法では、ウェルが形成されたプレートからなる容器を移動可能なステージ上に固定し、ステージの駆動と吐出ヘッドとからの液滴形成を組み合わせることにより、ウェルに順次液滴を着弾させてもよい。ここで、ステージの移動としてプレートを移動させる方法を示したが、当然のことながら吐出ヘッドを移動させてもよい。
プレートとしては、特に制限はなく、バイオ分野において一般的に用いられるウェルが形成されたものを用いることができる。プレートにおけるウェルの数は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、単数であってもよく、複数であってもよい。プレートとして具体的には、1穴マイクロチューブ、8連チューブ、96穴、384穴のウェルプレート等を用いることが好ましいが、ウェルが複数である場合には、これらのプレートにおけるウェルには同じ個数の細胞を分注することも可能であり、異なる水準の個数の細胞を入れることも可能である。また、細胞が含まれないウェルが存在していてもよい。
図8は、プレートのウェル内に順次液滴を着弾させるための分注装置400の一例を示す概略図である。図8に示すように、液滴を着弾させるための分注装置400は、液滴形成装置401と、プレート700と、ステージ800と、制御装置900とを有している。
分注装置400において、プレート700は、移動可能に構成されたステージ800上に配置されている。プレート700には液滴形成装置401の吐出ヘッドから吐出された液滴310が着滴する複数のウェル710(凹部)が形成されている。制御装置900は、ステージ800を移動させ、液滴形成装置401の吐出ヘッドとそれぞれのウェル710との相対的な位置関係を制御する。これにより、液滴形成装置401の吐出ヘッドからそれぞれのウェル710中に順次、蛍光染色細胞350を含む液滴310を吐出することができる。
制御装置900は、例えば、CPU、ROM、RAM、メインメモリ等を含む構成とすることができる。この場合、制御装置900の各種機能は、ROM等に記録されたプログラムがメインメモリに読み出されてCPUにより実行されることによって実現できる。ただし、制御装置900の一部又は全部は、ハードウェアのみにより実現されてもよい。また、制御装置900は、物理的に複数の装置等により構成されてもよい。
吐出する液滴としては、ウェル内に細胞懸濁液を着弾させる際に、複数の水準を得るように液滴をウェル内に着弾させることが好ましい。複数の水準とは、標準となる複数の基準を意味する。複数の水準としては、例えば、ウェル内に核酸Aを有する複数の細胞が所定の濃度勾配が挙げられる。複数の水準は、センサによって計数される値を用いて制御することができる。
[細胞懸濁液生成工程]
細胞懸濁液生成工程は、核中の核酸に上記核酸が導入された複数の細胞及び溶剤を含む細胞懸濁液を生成する工程である。溶剤とは、細胞を分散させるために用いる液体を意味する。細胞懸濁液における懸濁とは、細胞が溶剤中に分散して存在する状態を意味する。生成とは、作り出すことを意味する。
(細胞懸濁液)
細胞懸濁液は、核中の核酸に上記検量線作成用核酸又は定量用核酸が導入された複数の細胞及び溶剤を含み、添加剤を含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含む。核中の核酸に上記検量線作成用核酸又は定量用核酸が導入された複数の細胞については、上記「細胞」において説明したとおりである。
(溶剤)
溶剤は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、培養液、分離液、希釈液、緩衝液、有機物溶解液、有機溶剤、高分子ゲル溶液、コロイド分散液、電解質水溶液、無機塩水溶液、金属水溶液又はこれらの混合液体等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、水、緩衝液が好ましく、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、Tris-EDTA緩衝液(TE)がより好ましい。
(添加剤)
添加剤は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、界面活性剤、核酸、樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
界面活性剤は、細胞同士の凝集を防止し、連続吐出安定性を向上することができる。界面活性剤は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、添加量にもよるが、タンパク質を変性及び失活させない点から、非イオン性界面活性剤が好ましい。
イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、脂肪酸ナトリウムが好ましく、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)がより好ましい。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルグリコシド、アルキルポリオキシエチレンエーテル(Brijシリーズ等)、オクチルフェノールエトキシレート(Triton Xシリーズ、Igepal CAシリーズ、Nonidet Pシリーズ、Nikkol OPシリーズ等)、ポリソルベート類(Tween20等のTweenシリーズ等)、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、アルキルマルトシド、ショ糖脂肪酸エステル、グリコシド脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、ポリソルベート類が好ましい。
界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、細胞懸濁液全量に対して、0.001質量%以上30質量%以下が好ましい。含有量が、0.001質量%以上であると、界面活性剤の添加による効果を得ることができ、30質量%以下であると、細胞の凝集を抑制することができるため、細胞懸濁液中の核酸のコピー数を厳密に制御することができる。
核酸としては、細胞に含まれる検量線作成用核酸又は定量用核酸の検出に影響しないものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ColE1 DNA等が挙げられる。核酸を添加すると、細胞に含まれる検量線作成用核酸又は定量用核酸の抽出及び検出を行う際に用いられるウェルの壁面等に付着することを防ぐことができる。
樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエチレンイミド等が挙げられる。
(その他の成分)
その他の成分としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、架橋剤、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤、浸透圧調整剤、湿潤剤、分散剤等が挙げられる。
細胞を分散する方法は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビーズミル等のメディア方式、超音波ホモジナイザー等の超音波方式、フレンチプレス等の圧力差を利用する方式等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、細胞へのダメージが少ないことから超音波方式が好ましい。メディア方式では、解砕能力が強いため、細胞膜や細胞壁を破壊することや、メディアがコンタミとして混入することがある。
細胞のスクリーニング方法は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、湿式分級、セルソーター、フィルタによるスクリーニング等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、細胞へのダメージが少ないことから、セルソーター、フィルタによるスクリーニングが好ましい。
細胞は、細胞の細胞周期を測定することにより、細胞懸濁液に含まれる細胞数から核酸のコピー数を推定することが好ましい。細胞周期を測定するとは、細胞分裂による細胞数を数値化することを意味する。核酸のコピー数を推定するとは、細胞数から、核酸のコピー数を求めることを意味する。
計数対象が細胞数ではなく核酸が何個入っているかであってもよい。通常は、細胞1個につき検量線作成用核酸又は定量用核酸が1コピー導入されたものを選択するか、又は、遺伝子組換えにより核酸を細胞に導入するため、核酸の数は細胞数と等しいと考えてよい。ただし、細胞は特定の周期で細胞分裂を起こすため、細胞内で核酸の複製が行われる。細胞周期は細胞の種類によって異なるが、細胞懸濁液から所定量の溶液を抜き取り複数細胞の周期を測定することによって、細胞1個中に含まれる核酸の数に対する期待値及びその確からしさを算出することが可能である。これは、例えば、核染色した細胞をフローサイトメーターによって観測することによって可能である。
確からしさとは、いくつかの事象の生じる可能性がある場合に、特定の1つの事象が起こる可能性の程度を事前に予測して、その事象の起こる確率を意味する。算出とは、計算して求める数値を出すことを意味する。
図9は、DNA複製済みの細胞の頻度と、蛍光強度との関係の一例を示すグラフである。図9に示すように、ヒストグラム上でDNAの複製有無により2つのピークが現れるため、DNA複製済みの細胞がどの程度の割合で存在するかを算出することが可能である。この算出結果から1細胞中に含まれる平均的な核酸のコピー数を算出することが可能であり、前述の細胞数計数結果に乗じることにより、核酸の推定コピー数を算出することが可能である。
また、細胞懸濁液を作製する前に細胞周期を制御する処理を行うことが好ましく、上述したような複製が起きる前又は後の状態に揃えることによって、核酸のコピー数を細胞数からより精度良く算出することが可能になる。
推定する特定のコピー数は、確からしさ(確率)を算出することが好ましい。確からしさ(確率)を算出することにより、これらの数値に基づき確からしさを分散又は標準偏差として表現して出力することが可能である。複数因子の影響を合算する場合には、一般的に用いられる標準偏差の二乗和平方根を用いることが可能である。例えば、因子として吐出した細胞数の正答率、細胞内のDNA数、吐出された細胞がウェル内に着弾する着弾率等を用いることができる。これらの中で影響の大きい項目を選択して算出することもできる。
[細胞数計数工程]
細胞数計数工程は、液滴の作製後、かつ液滴のウェルへの着弾前に、液滴に含まれる細胞数をセンサによって計数する工程である。センサとは、自然現象や人工物の機械的・電磁気的、熱的、音響的又は化学的性質、あるいはそれらにより示される空間情報・時間情報を、何らかの科学的原理を応用して、人間や機械が扱い易い別媒体の信号に置き換える装置を意味する。計数とは、数を数えることを意味する。
細胞数計数工程としては、液滴の吐出後、かつ液滴のウェルへの着弾前に、液滴に含まれる細胞数をセンサによって計数すれば特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、吐出前に細胞を観測する処理、着弾後の細胞をカウントする処理を含んでいてもよい。
液滴の吐出後、かつ液滴のウェルへの着弾前に、液滴に含まれる細胞数の計数としては、液滴がプレートのウェルに確実に入ることが予測されるウェル開口部の直上の位置にあるタイミングにて液滴中の細胞を観測することが好ましい。
液滴中の細胞を観測する方法としては、例えば、光学的に検出する方法、電気的又は磁気的に検出方法等が挙げられる。
(光学的に検出する方法)
図10、図14及び図15を用いて、光学的に検出する方法に関して以下に述べる。図10は、液滴形成装置401の一例を示す模式図である。図14及び図15は、液滴形成装置の他の一例(401A、401B)を示す模式図である。図10に示すように、液滴形成装置401は、吐出ヘッド(液滴吐出手段)10と、駆動手段20と、光源30と、受光素子60と、制御手段70とを有する。
図10では、細胞懸濁液として細胞を特定の色素によって蛍光染色した後に所定の溶液に分散した液を用いており、吐出ヘッドから形成した液滴に光源から発せられる特定の波長を有する光を照射し細胞から発せられる蛍光を受光素子によって検出することによって計数を行う。このとき、蛍光色素によって細胞を染色する方法に加え、細胞中に元々含まれる分子が発する自家蛍光を利用してもよいし、細胞に蛍光タンパク質(例えば、GFP(Green Fluorescent Protein))をコードする遺伝子を予め導入しておき細胞が蛍光を発するようにしておいてもよい。光を照射するとは、光をあてることを意味する。
吐出ヘッド10は、液室11と、メンブレン12と、駆動素子13とを有しており、蛍光染色細胞350を懸濁した細胞懸濁液300を液滴として吐出することができる。
液室11は、蛍光染色細胞350を懸濁した細胞懸濁液300を保持する液体保持部であり、下面側には貫通孔であるノズル111が形成されている。液室11は、例えば、金属やシリコン、セラミックス等から形成することができる。蛍光染色細胞350としては、蛍光色素によって染色された無機微粒子や有機ポリマー粒子等が挙げられる。
メンブレン12は、液室11の上端部に固定された膜状部材である。メンブレン12の平面形状は、例えば、円形とすることができるが、楕円状や四角形等としてもよい。
駆動素子13は、メンブレン12の上面側に設けられている。駆動素子13の形状は、メンブレン12の形状に合わせて設計することができる。例えば、メンブレン12の平面形状が円形である場合には、円形の駆動素子13を設けることが好ましい。
駆動素子13に駆動手段20から駆動信号を供給することにより、メンブレン12を振動させることができる。メンブレン12の振動により、蛍光染色細胞350を含有する液滴310を、ノズル111から吐出させることができる。
駆動素子13として圧電素子を用いる場合には、例えば、圧電材料の上面及び下面に電圧を印加するための電極を設けた構造とすることができる。この場合、駆動手段20から圧電素子の上下電極間に電圧を印加することによって紙面横方向に圧縮応力が加わり、メンブレン12を紙面上下方向に振動させることができる。圧電材料としては、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)を用いることができる。この他にも、ビスマス鉄酸化物、ニオブ酸金属物、チタン酸バリウム、或いはこれらの材料に金属や異なる酸化物を加えたもの等、様々な圧電材料を用いることができる。
光源30は、飛翔中の液滴310に光Lを照射する。なお、飛翔中とは、液滴310が液滴吐出手段10から吐出されてから、着滴対象物に着滴するまでの状態を意味する。飛翔中の液滴310は、光Lが照射される位置では略球状となっている。又、光Lのビーム形状は略円形状である。
ここで、液滴310の直径に対し、光Lのビーム直径が10倍~100倍程度であることが好ましい。これは、液滴310の位置ばらつきが存在する場合においても、光源30からの光Lを確実に液滴310に照射するためである。
ただし、液滴310の直径に対し、光Lのビーム直径が100倍を大きく超えることは好ましくない。これは、液滴310に照射される光のエネルギー密度が下がるため、光Lを励起光として発する蛍光Lfの光量が低下し、受光素子60で検出し難くなるからである。
光源30から発せられる光Lはパルス光であることが好ましく、例えば、固体レーザー、半導体レーザー、色素レーザー等が好適に用いられる。光Lがパルス光である場合のパルス幅は10μs以下が好ましく、1μs以下がより好ましい。単位パルス当たりのエネルギーとしては、集光の有無等、光学系に大きく依存するが、概ね0.1μJ以上が好ましく、1μJ以上がより好ましい。
受光素子60は、飛翔中の液滴310に蛍光染色細胞350が含有されていた場合に、蛍光染色細胞350が光Lを励起光として吸収して発する蛍光Lfを受光する。蛍光Lfは、蛍光染色細胞350から四方八方に発せられるため、受光素子60は蛍光Lfを受光可能な任意の位置に配置することができる。この際、コントラストを向上するため、光源30から出射される光Lが直接入射しない位置に受光素子60を配置することが好ましい。
受光素子60は、蛍光染色細胞350から発せられる蛍光Lfを受光できる素子であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、液滴に特定の波長を有する光を照射して液滴内の細胞からの蛍光を受光する光学センサが好ましい。受光素子60としては、例えば、フォトダイオード、フォトセンサ等の1次元素子が挙げられるが、高感度な測定が必要な場合には、光電子増倍管やアバランシェフォトダイオードを用いることが好ましい。受光素子60として、例えば、CCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)、ゲートCCD等の2次元素子を用いてもよい。
なお、光源30が発する光Lと比較して蛍光染色細胞350の発する蛍光Lfが弱いため、受光素子60の前段(受光面側)に光Lの波長域を減衰させるフィルタを設置してもよい。これにより、受光素子60において、非常にコントラストの高い蛍光染色細胞350の画像を得ることができる。フィルタとしては、例えば、光Lの波長を含む特定波長域を減衰させるノッチフィルタ等を用いることができる。
また、前述のように、光源30から発せられる光Lはパルス光であることが好ましいが、光源30から発せられる光Lを連続発振の光としてもよい。この場合には、連続発振の光が飛翔中の液滴310に照射されるタイミングで受光素子60が光を取り込み可能となるように制御し、受光素子60に蛍光Lfを受光させることが好ましい。
制御手段70は、駆動手段20及び光源30を制御する機能を有している。また、制御手段70は、受光素子60が受光した光量に基づく情報を入手し、液滴310に含有された蛍光染色細胞350の個数(ゼロである場合も含む)を計数する機能を有している。以下、図11~図13を参照し、制御手段70の動作を含む液滴形成装置401の動作について説明する。
図11は、図10の液滴形成装置の制御手段のハードウェアブロックを例示する図である。図12は、図10の液滴形成装置の制御手段の機能ブロックを例示する図である。図13は、液滴形成装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図11に示すように、制御手段70は、CPU71と、ROM72と、RAM73と、通信インターフェイス(通信I/F)74と、バスライン75とを有している。CPU71、ROM72、RAM73及びI/F74は、バスライン75を介して相互に接続されている。
CPU71は、制御手段70の各機能を制御する。記憶手段であるROM72は、CPU71が制御手段70の各機能を制御するために実行するプログラムや、各種情報を記憶している。記憶手段であるRAM73は、CPU71のワークエリア等として使用される。また、RAM73は、所定の情報を一時的に記憶することができる。I/F74は、液滴形成装置401を他の機器等と接続するためのインターフェイスである。液滴形成装置401は、I/F74を介して、外部ネットワーク等と接続されてもよい。
図12に示すように、制御手段70は、機能ブロックとして、吐出制御手段701と、光源制御手段702と、細胞数計数手段(細胞数検知手段)703とを有している。
図12及び図13を参照しながら、液滴形成装置401の細胞数計数について説明する。まず、ステップS11において、制御手段70の吐出制御手段701は、駆動手段20に吐出の指令を出す。吐出制御手段701から吐出の指令を受けた駆動手段20は、駆動素子13に駆動信号を供給してメンブレン12を振動させる。メンブレン12の振動により、蛍光染色細胞350を含有する液滴310が、ノズル111から吐出される。
次に、ステップS12において、制御手段70の光源制御手段702は、液滴310の吐出に同期して(駆動手段20から液滴吐出手段10に供給される駆動信号に同期して)光源30に点灯の指令を出す。これにより、光源30が点灯し、飛翔中の液滴310に光Lを照射する。
なお、ここで、同期するとは、液滴吐出手段10による液滴310の吐出と同時に(駆動手段20が液滴吐出手段10に駆動信号を供給するのと同時に)発光することではなく、液滴310が飛翔して所定位置に達したときに液滴310に光Lが照射されるタイミングで、光源30が発光することを意味する。つまり、光源制御手段702は、液滴吐出手段10による液滴310の吐出(駆動手段20から液滴吐出手段10に供給される駆動信号)に対して、所定時間だけ遅延して発光するように光源30を制御する。
例えば、液滴吐出手段10に駆動信号を供給した際に吐出する液滴310の速度vを予め測定しておく。そして、測定した速度vに基づいて液滴310が吐出されてから所定位置まで到達する時間tを算出し、液滴吐出手段10に駆動信号を供給するタイミングに対して、光源30が光を照射するタイミングをtだけ遅延させる。これにより、良好な発光制御が可能となり、光源30からの光を確実に液滴310に照射することができる。
次に、ステップS13において、制御手段70の細胞数計数手段703は、受光素子60からの情報に基づいて、液滴310に含有された蛍光染色細胞350の個数(ゼロである場合も含む)を計数する。ここで、受光素子60からの情報とは、蛍光染色細胞350の輝度値(光量)や面積値である。
細胞数計数手段703は、例えば、受光素子60が受光した光量と予め設定された閾値とを比較して、蛍光染色細胞350の個数を計数することができる。この場合には、受光素子60として1次元素子を用いても2次元素子を用いても構わない。
受光素子60として2次元素子を用いる場合は、細胞数計数手段703は、受光素子60から得られた2次元画像に基づいて、蛍光染色細胞350の輝度値或いは面積を算出するための画像処理を行う手法を用いてもよい。この場合、細胞数計数手段703は、画像処理により蛍光染色細胞350の輝度値或いは面積値を算出し、算出された輝度値或いは面積値と、予め設定された閾値とを比較することにより、蛍光染色細胞350の個数を計数することができる。
なお、蛍光染色細胞350は、細胞や染色細胞であってもよい。染色細胞とは、蛍光色素によって染色された細胞、又は、蛍光タンパク質を発現可能な細胞を意味する。染色細胞において、蛍光色素としては、上述したものを用いることができる。また、蛍光タンパク質としては、上述したものを用いることができる。
このように、液滴形成装置401では、蛍光染色細胞350を縣濁した細胞懸濁液300を保持する液滴吐出手段10に、駆動手段20から駆動信号を供給して、蛍光染色細胞350を含有する液滴310を吐出させ、飛翔中の液滴310に光源30から光Lを照射する。そして、飛翔する液滴310に含有された蛍光染色細胞350が光Lを励起光として蛍光Lfを発し、蛍光Lfを受光素子60が受光する。更に、受光素子60からの情報に基づいて、細胞数計数手段703が、飛翔する液滴310に含有された蛍光染色細胞350の個数を計数(カウント)する。
つまり、液滴形成装置401では、飛翔する液滴310に含有された蛍光染色細胞350の個数を実際にその場で観察するため、蛍光染色細胞350の個数の計数精度を従来よりも向上することが可能となる。又、飛翔する液滴310に含有された蛍光染色細胞350に光Lを照射して蛍光Lfを発光させて蛍光Lfを受光素子60で受光するため、高いコントラストで蛍光染色細胞350の画像を得ることが可能となり、蛍光染色細胞350の個数の誤計数の発生頻度を低減できる。
図14は、図10の液滴形成装置401の変形例を示す模式図である。図14に示すように、液滴形成装置401Aは、受光素子60の前段にミラー40を配置した点が、液滴形成装置401(図10参照)と相違する。なお、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
このように、液滴形成装置401Aでは、受光素子60の前段にミラー40を配置したことにより、受光素子60のレイアウトの自由度を向上することができる。
例えば、ノズル111と着滴対象物を近づけた際に、図10のレイアウトでは着滴対象物と液滴形成装置401の光学系(特に受光素子60)との干渉が発生するおそれがあるが、図14のレイアウトにすることで、干渉の発生を回避することができる。
図14に示すように、受光素子60のレイアウトを変更することにより、液滴310が着滴する着滴対象物とノズル111との距離(ギャップ)を縮めることが可能となり、着滴位置のばらつきを抑制することができる。その結果、分注の精度を向上することが可能となる。
図15は、図10の液滴形成装置401の他の変形例を示す模式図である。図15に示すように、液滴形成装置401Bは、蛍光染色細胞350から発せられる蛍光Lfを受光する受光素子60に加え、蛍光染色細胞350から発せられる蛍光Lfを受光する受光素子61を設けた点が、液滴形成装置401(図10参照)と相違する。なお、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
ここで、蛍光Lf及びLfは、蛍光染色細胞350から四方八方に発せられる蛍光の一部を示している。受光素子60及び61は、蛍光染色細胞350から異なる方向に発せられる蛍光を受光できる任意の位置に配置することができる。なお、蛍光染色細胞350から異なる方向に発せられる蛍光を受光できる位置に3つ以上の受光素子を配置してもよい。又、各受光素子は同一仕様としてもよいし、異なる仕様としてもよい。
受光素子が1つであると、飛翔する液滴310に複数個の蛍光染色細胞350が含まれる場合に、蛍光染色細胞350同士が重なることに起因して、細胞数計数手段703が液滴310に含有された蛍光染色細胞350の個数を誤計数する(カウントエラーが発生する)おそれがある。
図16(a)及び図16」(b)は、飛翔する液滴に2個の蛍光染色細胞が含まれる場合を例示する図である。例えば、図16(a)に示すように、蛍光染色細胞350aと350bとに重なりが発生する場合や、図16(b)に示すように、蛍光染色細胞350aと350bとに重なりが発生しない場合があり得る。受光素子を2つ以上設けることで、蛍光染色細胞が重なる影響を低減することが可能である。
前述のように、細胞数計数手段703は、画像処理により蛍光粒子の輝度値或いは面積値を算出し、算出された輝度値或いは面積値と、予め設定された閾値とを比較することにより、蛍光粒子の個数を計数することができる。
受光素子を2つ以上設置する場合,それぞれの受光素子から得られる輝度値或いは面積値のうち、最大値を示すデータを採択することで、カウントエラーの発生を抑制することが可能である。これに関して、図17を参照して、より詳しく説明する。
図17は、粒子同士の重なりが生じない場合の輝度値Liと、実測される輝度値Leとの関係を例示する図である。図17に示すように、液滴内の粒子同士の重なりがない場合には、Le=Liとなる。例えば、細胞1個の輝度値をLuとすると、細胞数/滴=1個の場合はLe=Luであり、細胞数/滴=n個の場合はLe=nLuである(n:自然数)。
しかし、実際には、nが2以上の場合には粒子同士の重なりが発生し得るため、実測される輝度値はLu≦Le≦nLu(図16の網掛部分)となる。そこで、細胞数/滴=n個の場合、例えば、閾値を(nLu-Lu/2)≦閾値<(nLu+Lu/2)と設定することができる。そして、複数の受光素子を設置する場合、それぞれの受光素子から得られたデータのうち最大値を示すものを採択することで、カウントエラーの発生を抑制することが可能となる。なお、輝度値に代えて面積値を用いてもよい。
また、受光素子を複数設置する場合、得られる複数の形状データを基に、細胞数を推定するアルゴリズムにより細胞数を決定づけてもよい。このように、液滴形成装置401Bでは、蛍光染色細胞350が異なる方向に発した蛍光を受光する複数の受光素子を有しているため、蛍光染色細胞350の個数の誤計数の発生頻度を更に低減できる。
図18は、図10の液滴形成装置401の他の変形例を示す模式図である。図18に示すように、液滴形成装置401Cは、液滴吐出手段10が液滴吐出手段10Cに置換された点が、液滴形成装置401(図10参照)と相違する。なお、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
液滴吐出手段10Cは、液室11Cと、メンブレン12Cと、駆動素子13Cとを有している。液室11Cは、液室11C内を大気に開放する大気開放部115を上部に有しており、細胞懸濁液300中に混入した気泡を大気開放部115から排出可能に構成されている。
メンブレン12Cは、液室11Cの下端部に固定された膜状部材である。メンブレン12Cの略中心には貫通孔であるノズル121が形成されており、液室11Cに保持された細胞懸濁液300はメンブレン12Cの振動によりノズル121から液滴310として吐出される。メンブレン12Cの振動の慣性により液滴310を形成するため、高表面張力(高粘度)の細胞懸濁液300でも吐出が可能である。メンブレン12Cの平面形状は、例えば、円形とすることができるが、楕円状や四角形等としてもよい。
メンブレン12Cの材質としては特に限定はないが、柔らか過ぎるとメンブレン12Cが簡単に振動し、吐出しないときに直ちに振動を抑えることが困難であるため、ある程度の硬さがある材質を用いることが好ましい。メンブレン12Cの材質としては、例えば、金属材料やセラミック材料、ある程度硬さのある高分子材料等を用いることができる。
特に、蛍光染色細胞350として細胞を用いる際には、細胞やタンパク質に対する付着性の低い材料であることが好ましい。細胞の付着性は一般的に材質の水との接触角に依存性があるといわれており、材質の親水性が高い又は疎水性が高いときには細胞の付着性が低い。親水性の高い材料としては各種金属材料やセラミック(金属酸化物)を用いることが可能であり、疎水性が高い材料としてはフッ素樹脂等を用いることが可能である。
このような材料の他の例としては、ステンレス鋼やニッケル、アルミニウム等や、二酸化ケイ素、アルミナ、ジルコニア等を挙げることができる。これ以外にも、材料表面をコーティングすることで細胞接着性を低下させることも考えられる。例えば、材料表面を前述の金属又は金属酸化物材料でコーティングすることや、細胞膜を模した合成リン脂質ポリマー(例えば、日油株式会社製、Lipidure)によってコーティングすることが可能である。
ノズル121は、メンブレン12Cの略中心に実質的に真円状の貫通孔として形成されていることが好ましい。この場合、ノズル121の径としては特に限定はないが、蛍光染色細胞350がノズル121に詰まることを避けるため、蛍光染色細胞350の大きさの2倍以上とすることが好ましい。蛍光染色細胞350が例えば、動物細胞、特にヒトの細胞である場合、ヒトの細胞の大きさは一般的に5μm~50μm程度であるため、ノズル121の径を、使用する細胞に合わせて10μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。
一方で、液滴が大きくなり過ぎると微小液滴を形成するという目的の達成が困難となるため、ノズル121の径は200μm以下であることが好ましい。つまり、液滴吐出手段10Cにおいては、ノズル121の径は、典型的には10μm以上200μm以下の範囲となる。
駆動素子13Cは、メンブレン12Cの下面側に形成されている。駆動素子13Cの形状は、メンブレン12Cの形状に合わせて設計することができる。例えば、メンブレン12Cの平面形状が円形である場合には、ノズル121の周囲に平面形状が円環状(リング状)の駆動素子13Cを形成することが好ましい。駆動素子13Cの駆動方式は、駆動素子13と同様とすることができる。
駆動手段20は、メンブレン12Cを振動させて液滴310を形成する吐出波形と、液滴310を形成しない範囲でメンブレン12Cを振動させる撹拌波形とを駆動素子13Cに選択的に(例えば、交互に)付与することができる。
例えば、吐出波形及び撹拌波形をいずれも矩形波とし、吐出波形の駆動電圧よりも撹拌波形の駆動電圧を低くすることで、撹拌波形の印加により液滴310が形成されないようにすることができる。つまり、駆動電圧の高低により、メンブレン12Cの振動状態(振動の程度)を制御することができる。
液滴吐出手段10Cでは、駆動素子13Cがメンブレン12Cの下面側に形成されているため、駆動素子13Cによりメンブレン12が振動すると、液室11Cの下部方向から上部方向への流れを生じさせることが可能である。
この時、蛍光染色細胞350の動きは下から上への運動となり、液室11C内で対流が発生して蛍光染色細胞350を含有する細胞懸濁液300の撹拌が起きる。液室11Cの下部方向から上部方向への流れにより、沈降、凝集した蛍光染色細胞350が液室11Cの内部に均一に分散する。
つまり、駆動手段20は、吐出波形を駆動素子13Cに加え、メンブレン12Cの振動状態を制御することにより、液室11Cに保持された細胞懸濁液300をノズル121から液滴310として吐出させることができる。又、駆動手段20は、撹拌波形を駆動素子13Cに加え、メンブレン12Cの振動状態を制御することにより、液室11Cに保持された細胞懸濁液300を撹拌することができる。なお、撹拌時には、ノズル121から液滴310は吐出されない。
このように、液滴310を形成していない間に細胞懸濁液300を撹拌することにより、蛍光染色細胞350がメンブレン12C上に沈降、凝集することを防ぐと共に、蛍光染色細胞350を細胞懸濁液300中にムラなく分散させることができる。これにより、ノズル121の詰まり及び吐出する液滴310中の蛍光染色細胞350の個数のばらつきを抑えることが可能となる。その結果、蛍光染色細胞350を含有する細胞懸濁液300を、長時間連続して安定的に液滴310として吐出することができる。
また、液滴形成装置401Cにおいて、液室11C内の細胞懸濁液300中に気泡が混入する場合がある。この場合でも、液滴形成装置401Cでは、液室11Cの上部に大気開放部115が設けられているため、細胞懸濁液300中に混入した気泡を、大気開放部115を通じて外気に排出できる。これによって、気泡排出のために大量の液を捨てることなく、連続して安定的に液滴310を形成することが可能となる。
即ち、ノズル121の近傍に気泡が混入した場合や、メンブレン12C上に多数の気泡が混入した場合には吐出状態に影響を及ぼすため、長い時間安定的に液滴の形成を行うためには、混入した気泡を排出する必要がある。通常、メンブレン12C上に混入した気泡は、自然に若しくはメンブレン12Cの振動によって上方に移動するが、液室11Cには大気開放部115が設けられているため、混入した気泡を大気開放部115から排出可能となる。そのため、液室11Cに気泡が混入しても不吐出が発生することを防止可能となり、連続して安定的に液滴310を形成することができる。
なお、液滴を形成しないタイミングで、液滴を形成しない範囲でメンブレン12Cを振動させ、積極的に気泡を液室11Cの上方に移動させてもよい。
(電気的又は磁気的に検出する方法)
電気的又は磁気的に検出する方法としては、図19に示すように、液室11’から細胞懸濁液を液滴310’としてプレート700’に吐出する吐出ヘッドの直下に、細胞数計数のためのコイル200がセンサとして設置されている。細胞は特定のタンパク質によって修飾され細胞に接着することが可能な磁気ビーズによって覆うことにより、磁気ビーズが付着した細胞がコイル中を通過する際に発生する誘導電流によって、飛翔液滴中の細胞の有無を検出することが可能である。一般的に、細胞はその表面に細胞特有のタンパク質を有しており、このタンパク質に接着することが可能な抗体を磁気ビーズに修飾することによって、細胞に磁気ビーズを付着させることが可能である。このような磁気ビーズとしては既製品を用いることが可能であり、例えば、株式会社ベリタス製のDynabeads(商標登録)が利用可能である。
(吐出前に細胞を観測する処理)
吐出前に細胞を観測する処理としては、図20に示すマイクロ流路250中を通過してきた細胞350’をカウントする方法や、図21に示す吐出ヘッドのノズル部近傍の画像を取得する方法等が挙げられる。
図20に示す方法は、セルソーター装置において用いられている方法であり、例えば、ソニー株式会社製のセルソーターSH800Zを用いることができる。図20では、マイクロ流路250中に光源260からレーザー光を照射して散乱光や蛍光を、集光レンズ265を用いて検出器255により検出することによって細胞の有無や、細胞の種類を識別しながら液滴を形成することが可能である。本方法を用いることによって、マイクロ流路250中に通過した細胞の数から所定のウェル中に着弾した細胞の数を推測することが可能である。
また、図21に示す吐出ヘッド10’としては、Cytena社製のシングルセルプリンターを用いることが可能である。図21では、吐出前において、ノズル部近傍をレンズ265’を介して、画像取得部255’において画像取得した結果からノズル部近傍の細胞350”が吐出されたと推定することや、吐出前後の画像から差分により吐出されたと考えられる細胞の数を推定することによって、所定のウェル中に着弾した細胞の数を推測することができる。図20に示すマイクロ流路中を通過してきた細胞をカウントする方法では、液滴が連続的に生成されるのに対して、図21は、オンデマンドで液滴形成が可能であるため、より好ましい。
(着弾後の細胞をカウントする処理)
着弾後の細胞をカウントする処理としては、プレートにおけるウェルを蛍光顕微鏡等により観測することにより、蛍光染色した細胞を検出する方法を取ることが可能である。この方法は、例えば、参考文献1(Moon S., et al., Drop-on-demand single cell isolation andtotal RNA analysis, PLoS One, Vol. 6, Issue 3, e17455, 2011)等に記載されている。
液滴の吐出前及び着弾後に細胞を観測する方法では、以下に述べる問題があり、生成するプレートの種類によっては吐出中の液滴内の細胞を観測することが最も好ましい。
吐出前に細胞を観測する手法においては、流路中を通過した細胞数や吐出前(及び吐出後)の画像観測から、着弾したと思われる細胞数を計数するため、実際にその細胞が吐出されたのかどうかの確認は行われておらず、思いがけないエラーが発生することがある。例えば、ノズル部が汚れていることにより液滴が正しく吐出せず、ノズルプレートに付着し、それに伴い液滴中の細胞も着弾しない、といったケースが発生する。他にも、ノズル部の狭い領域に細胞が残留することや、細胞が吐出動作によって想定以上に移動し観測範囲外に出てしまうといった問題の発生も起こりうる。
また、着弾後のウェル内の細胞を検出する手法においても問題がある。まず、プレートとして顕微鏡観察が可能であるものを準備する必要がある。観測可能なプレートとして、一般的に底面が透明かつ平坦なプレート、特に底面がガラス製となっているプレートが用いられるが、特殊なプレートとなってしまうため、一般的なウェルを使用することができなくなる問題がある。また、細胞数が数十個等多いときには、細胞の重なりが発生するため正確な計数ができなくなる問題もある。
そのため、液滴の吐出後、かつ液滴のウェルへの着弾前に、液滴に含まれる細胞数をセンサ及び細胞数計数手段によって計数することに加えて、吐出前に細胞を観測する処理、着弾後の細胞をカウントする処理を行うことが好ましい。
受光素子としては1又は少数の受光部を有する受光素子、例えば、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、光電子増倍管を用いることが可能であるし、その他に2次元アレイ状に受光素子が設けられたCCD(Charge Copuled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)、ゲートCCD等二次元センサを用いることも可能である。
1又は少数の受光部を有する受光素子を用いる際には、蛍光強度から細胞が何個入っているかを予め用意された検量線を用いて決定することも考えられるが、主として飛翔液滴中の細胞有無を二値的に検出することが行われる。細胞懸濁液の細胞濃度が十分に低く、液滴中に細胞が1個又は0個しかほぼ入らない状態で吐出を行う際には、二値的な検出で十分精度よく計数を行うことが可能である。
細胞懸濁液中で細胞はランダムに配置していることを前提とすれば、飛翔液滴中の細胞数はポアソン分布にしたがうと考えられ、液滴中に細胞数が2個以上入る確率P(≧2)は下記式4で表される。
Figure 2022162964000005
図22は、確率P(≧2)と平均細胞数の関係を表すグラフである。ここで、λは液滴中の平均細胞数であり、細胞懸濁液中の細胞濃度に吐出液滴の体積を乗じたものになる。
二値的な検出で細胞数計数を行う場合には、確率P(≧2)が十分小さい値であることが精度を確保する上では好ましく、確率P(≧2)が1%以下となるλ<0.15であることが好ましい。光源としては、細胞の蛍光を励起できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、水銀ランプやハロゲンランプ等の一般的なランプに特定の波長を照射するようにフィルタをかけたものや、LED(Light Emitting Diode)、レーザー等を用いることが可能である。ただし、特に1nL以下の微小な液滴を形成するときには、狭い領域に高い光強度を照射する必要があるため、レーザーを用いるのが好ましい。レーザー光源としては、固体レーザーやガスレーザー、半導体レーザー等一般的に知られている多種のレーザーを用いることが可能である。また、励起光源としては、液滴が通過する領域を連続的に照射したものであってもよいし、液滴の吐出に同期して液滴吐出動作に対して所定時間遅延を付けたタイミングでパルス的に照射するものであってもよい。
[細胞懸濁液生成工程、核酸充填工程及び細胞数計数工程において推定した核酸のコピー数の確からしさを算出する工程]
本工程は、細胞懸濁液生成工程、検量線作成用核酸充填工程、定量用核酸充填工程及び細胞数計数工程それぞれの工程における確からしさを算出する工程である。推定する検量線作成用核酸又は定量用核酸のコピー数の確からしさの算出は、細胞懸濁液生成工程における確からしさと同様に算出することができる。
なお、確からしさの算出タイミングは、細胞数計数工程の次工程で、まとめて算出してもよいし、細胞懸濁液生成工程、検量線作成用核酸充填工程、定量用核酸充填工程及び細胞数計数工程の各工程の最後に算出し、細胞数計数工程の次工程で各不確かさを合成して算出してもよい。いいかえれば、上記各工程での確からしさは、合成算出までに適宜算出しておけばよい。
[出力工程]
出力工程は、容器内に着弾した細胞懸濁液に含まれる細胞数として、センサにより測定された検出結果に基づいて細胞数計数手段にて計数された値を出力する工程である。計数された値とは、センサにより測定された検出結果から、細胞数計数手段にて当該容器に含まれる細胞数を意味する。
出力とは、原動機、通信機、計算機等の装置が入力を受けて計数された値を外部の計数結果記憶手段としてのサーバに電子情報として送信することや、計数された値を印刷物として印刷することを意味する。
出力工程は、プレートの生成時に、プレートにおける各ウェルの細胞数又は標的核酸数を観察又は推測し、観測値又は推測値を外部の記憶部に出力する。出力は、細胞数計数工程と同時に行ってもよく、細胞数計数工程の後に行ってもよい。
[記録工程]
記録工程は、出力工程において、出力された観測値又は推測値を記録する工程である。記録工程は、記録部において好適に実施することができる。記録は、出力工程と同時に行ってもよく、出力工程の後に行ってもよい。記録とは、記録媒体に情報を付与することだけでなく、記録部に情報を保存することも含む。この場合、記録部は記憶部ともいえる。
[その他工程]
その他の工程は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酵素失活工程等が挙げられる。
酵素失活工程は、酵素を失活させる工程である。酵素としては、例えば、DNase、RNase等が挙げられる。酵素を失活させる方法は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、公知の方法を好適に用いることができる。
≪定量PCR測定系の性能評価方法≫
本実施形態の性能評価方法は、上述の定量PCR測定系の性能評価キットを用いる方法である。
本実施形態の性能評価方法は、
定量PCR装置により、前記検量線作成用核酸を増幅し、検量線を作成する工程(以下、「検量線作成工程」という)と、
前記定量PCR装置により、前記定量用核酸を増幅し、前記検量線を用いて、前記定量用核酸の定量値を算出する工程(以下、「定量値算出工程」という)と、
前記検量線作成用核酸の特定コピー数の情報及び前記定量用核酸の特定コピー数の情報から、前記定量値の不確かさを算出する工程(以下、「定量値の不確かさ算出工程」という)と、
を含む。
本実施形態の性能評価方法は、上記構成を有することで、ポアソン分布の影響が抑制されており、正確な定量PCR測定系の性能評価を行うことができる。
次いで、本実施形態の性能評価方法の各工程について、詳細を説明する。
[検量線作成工程]
検量線作成工程では、定量PCR装置により、検量線作成用核酸を増幅し、増幅曲線から求められるCt値(Threshhold Cycle)から検量線を作成する。
定量PCR装置としては、上記「定量PCR装置の性能評価キット」において例示されたものと同様のものが挙げられる。定量PCRの条件は、増幅対象となる検量線作成用核酸の配列や使用するプライマーの配列等に応じて適宜設定することができる。
また、検量線は、増幅曲線から求められるCt値(Threshhold Cycle)と使用した検量線作成用核酸の特定コピー数から、公知の方法を用いて作成することができる。
[定量値算出工程]
定量値算出工程では、定量PCR装置により、定量用核酸を増幅し、検量線作成工程で作成された検量線を用いて、前記定量用核酸の定量値を算出する。
定量値算出工程において用いられる定量PCR装置は、上記検量線作成工程で使用される定量PCR装置と同一のものである。定量PCRの条件は、増幅対象となる定量用核酸の配列や使用するプライマーの配列等に応じて適宜設定することができるが、定量用核酸を検量線作成用核酸と同一の配列からなるものを用いて、上記検量線作成工程における定量PCRの条件と同一の条件で行うことが好ましい。これにより、より高い精度で定量用核酸の定量値を算出することができる。また、検量線作成工程及び定量値算出工程における検量線作成用核酸及び定量用核酸の増幅を同時に並行して行うことができる。
[定量値の不確かさ算出工程]
定量値の不確かさ算出工程では、検量線作成用核酸の特定コピー数の情報及び定量用核酸の特定コピー数の情報から、定量値の不確かさを算出する。
定量値の不確かさの算出方法は、上記「定量PCR測定系の性能評価キット」の「特定コピー数」に例示された方法と同様の方法を用いて行うことができる。
本実施形態の性能評価方法は、上記工程に加えて、性能評価工程を更に含むことができる。
性能評価工程では、上記定量値の不確かさ算出工程の後に、算出された定量値の不確かさに基づいて、定量PCR測定系の性能を評価する。具体的には、例えば、不確かさの情報として、定量用核酸のコピー数の定量値の変動係数CVを用いる場合に、変動係数CVが所定の数値範囲内である場合に、使用した定量PCR測定系の性能は良好であると評価することができる。一方で、変動係数CVが所定の数値範囲外である場合には、使用した定量PCRの性能が不良であると評価することができる。
上記変動係数CVの数値範囲は、求められる性能に応じて適宜設定することができるが、CV<1/√xを満たすことが好ましく、CV<1/2√xを満たすことがより好ましい。なお、xは定量用核酸のコピー数の定量値の平均値である。
本実施形態の性能評価キット及び性能評価方法は、例えば、異なる定量PCR装置間の性能比較、同一の定量PCR装置におけるPCR条件(プライマー、試薬、増幅サイクル等)の最適化や、ラン毎又は日毎の性能のモニタリング等に好適に用いられる。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実験例1]
リアルタイムPCRの測定の不確かさは大きく分けてキャリブレーターの不確かさと、測定過程による不確かさの2種類の成分を持ち、それぞれが正規分布に従うものとされている。そのため、測定結果の信頼区間は各サンプルのDNA濃度平均値と対称な測定の不確かさで定義されることとなる。しかし、極低濃度領域における定量分析においては、DNA濃度の信頼性区間が負の領域にまで及んでしまうという課題がある。従ってより確からしい不確かさの情報が付与できる手法の考案が求められている。一つの解決策として、同一サンプルを充分な重複回数計測することでばらつきの幅を収束させる手法がある。しかし、現実的には4回から5回程度の重複回数の計測によって効率的かつ再現性良く不確かさ情報を評価する手法が望ましい。以下の評価手法は不確かさを非対称に評価することによって、比較的に少ない重複回数でも信頼区間が負の領域を含む課題を解決できる。
(方法)
DNAコピー数の初期濃度が2.24×109 μL-1の認証標準物質(6205-a DNA600-G,National Metrology Institute of Japan)を段階希釈して低コピー数のキャリブレーターを作製した。希釈は表2が示すプロトコルに従って行った。希釈用のバッファーはTE buffer (TE, pH 7.0, RNase-free, Thermo Fisher Scientific)、 UltraPure DNase/RNase-Free Distilled Water (Thermo Fisher Scientific)、 ColE1 DNA (318-00436, 450 ng μL-1, NIPPON GENE)をそれぞれ1480 μL、1480 μL、40 μL混合して準備した。ColE1 DNAはターゲット配列を持つDNAがウェルの内壁へ付着するのを防止するために添加した。
Figure 2022162964000006
リアルタイムPCR実験には、それぞれ配列番号1及び2で表される塩基配列からなるフォワードプライマー、及びリバースプライマー、並びに、配列番号3で表される塩基配列からなる核酸の5’末端に6-FAM、3’末端にTAMRAが結合したでプローブを用いた。100 μLの濃度100 μMのプライマーと900 μLのTE bufferを混合して10 μMのプライマーに希釈した。また20 μLの濃度100 μMのプローブと980 μLのTE bufferを混合して2 μMのプローブに希釈した。増幅試薬の組成を以下の表3に示す。
Figure 2022162964000007
検量線を作成するため、我々は1枚の96ウェルプレートに希釈系列と新標準物質の2種類のキャリブレーターを分注した。各キャリブレーターは1、5、10、20、40、80コピーの6種類の濃度をそれぞれB~F行に5ウェル用意した。プレートのA行の6ウェルは増幅試薬のみを入れたネガティブコントロールにした。また別途H行にコピー数が1の段階希釈法で作製したキャリブレーターをそれぞれ6ウェル定量対象として用意した。
またリアルタイムPCRの測定はQuantStudio 12K Flex(Applied Biosystems)で行った。サーマルサイクリング条件を表4に示す。
Figure 2022162964000008
閾値は0.2に固定した。定量対象サンプルにおいて、リアルタイムPCRでundeterminedとなったウェル中のDNAコピー数は0にした。
新標準物質作製用の細胞懸濁液の作製、及び分注完了後の細胞壁溶解などの後処理は先行研究と同じ手順で準備した。ただし、hmg-Le1の代わりにSynthetic construct DNA 6203-a-G(600-G,GenBank登録番号AB610938.1)を酵母に組み込んだ。
(結果)
本実験例は従来の正規分布に基づいた不確かさの推定手法と、非対称な不確かさを推定する新しい手法を比較した。リアルタイムPCRの定量実験を行い、2つの手法で定量結果の不確かさを推定した。また新手法の汎用性を示すため、我々は従来の希釈法で調製したキャリブレーターと新標準物質の2種類のキャリブレーターで検量線を作成した。
リアルタイムPCRの不確かさ要因
前述のようにリアルタイムPCRの不確かさは大きく分けて1) キャリブレーターのコピー数の不確かさと、2) 測定過程による不確かさの2種類の成分を持つ。キャリブレーターの不確かさに関しては、段階希釈法の場合、一般的に希釈の元となる液の濃度の不確かさと、希釈に使用する計測器の不確かさによって合成される。一度の希釈では計測器の不確かさは元液と希釈用の溶媒の計2回測定分を持つ。計測器の不確かさを抑えるため、適切なレンジの選択と、過度に少量の計測の回避が望ましい。更に低コピー数の場合は、ポアソン分布16による影響で元液のサンプリングばらつきも顕著になるため、第3の不確かさ要素として考慮することが望ましい。対して、新標準物質はインクジェットで細胞懸濁液を指定したコピー数になるまで容器に分注して作製した。我々は指定した分注コピー数を測定値と見なし、生産ばらつきと使用したサンプル数から測定の不確かさを計算した。生産ばらつきは先行研究で評価された細胞内ターゲットDNAのコピー数のばらつきおよびコンタミネーションによるばらつき以外に、細胞凝集も要因になっていることが判明した。また生産効率を上げるため、対向に配置された2台のアバランシェフォトダイオード(APD410A/M,Thorlabs,以降APD)を飛翔中の液滴内の細胞の存在を検出することに用いた(図23参照)。なお、図23に記載のシステムにおいて、細胞懸濁液の濃度が非常に低い場合、液滴内に2つ以上の細胞が存在する可能性は低くなる。したがって、APDによって検出された細胞を含む液滴の数を推定細胞数として使用した。APDは検出した細胞の蛍光エネルギーを電圧に変換する。閾値(0.2 Vと設定した)以上の電圧を出力した時は細胞を検出したと判断した。APDの検出率(粒子が存在する液滴を検出する確率)と誤検出率(細胞ではない粒子を検出する確率)と同じ液滴に2細胞以上が存在する可能性(細胞懸濁液濃度に依存)によってカウントエラーが発生する。従ってAPDのカウントエラーによるばらつきも計算した。以降DNAは全てターゲット配列を持つDNA分子を指す。
キャリブレーターのコピー数の不確かさ
希釈法でキャリブレーターを調製する際の不確かさは以下の手順で計算した。各段階の希釈後の濃度は以下の式に従う。
Figure 2022162964000009
ただし、CbeforeとCafterはそれぞれ各段階の元液と希釈後のDNA濃度であり、pとqはそれぞれ混合した元液と溶媒の体積であり、eはλ = p ・ Cbeforeのポアソン分布によるDNAコピー数のずれである(平均値は0)。
Guide to the expression of uncertainty in measurementの感度係数を利用した不確かさの合成式に従い、従来の不確かさ計算に基づいた希釈後の濃度の不確かさを以下の式で計算した。
Figure 2022162964000010
ただし、u(Cafter)、u(Cbefore)、u(p)、u(q)、u(e)はそれぞれの要素の不確かさであり、c1、c2、c3、c4はぞれぞれCbefore、p、q、eの感度係数であり、VPoissonは前述のポアソン分布の分散である。また認証標準物質の不確かさは9.75 × 107 μL-1である。希釈後の液はそれぞれピペットで4 μLを96ウェルプレートに分注し、最終的なコピー数の不確かさu(dil)を以下の式で計算した。
Figure 2022162964000011
ただし、Cfinalとpfinalは各ウェルに入れた希釈液の濃度と体積であり、VPoisson_finalは平均値がλ = pfinal ・ Cfinalのポアソン分布の分散であり、Nrwはその濃度のキャリブレーターが増幅したウェル数である。VPoisson_finalはポアソン分布の影響によってばらつく各標本(ウェル)内のDNAコピー数の分散に相当するため、VPoisson_final/Nrwはポアソン分布の影響によるウェル内DNAコピー数の平均値の不確かさに相当する。
それに対し、我々は新たな計算方法として各要素の95%信頼区間でCafterの不確かさを推定した。Cbefore、p、qそれぞれの95%信頼区間を[Cbefore - AC_before, Cbefore + BC_before]、[p - Ap, p + Bp]、[q - Aq, q + Bq]とし、eが95%入る区間を[- Ae, Be]とした場合、Cafterの信頼区間[Cafter - AC_after, Cafter + BC_after]は以下の式で計算した。ただしApとBp、及びAqとBqはそれぞれ2u(p)と2u(q)で近似した。また認証標準物質のAC_beforeとBC_beforeは不確かさの2倍にした。
Figure 2022162964000012
[- Ae, Be]の計算は以下の方法で行った。eの確率質量関数をPe(x) = Pλ(x + λ)とし、初期区間を[0, 0]とした。ただし、Pλは平均値がλ = p ・ Cbeforeのポアソン分布の確率質量関数である。現在の区間の下限をステップ値1(eは整数であるため)低くした場合と、上限を1高くした場合のeが区間内に入る確率を比較し、大きい確率を持つ区間に更新した。これを確率が95%以上になるまで繰り返した(図24参照)。各ウェルに最終的に入れたDNAコピー数の信頼区間[Ndil - Adil, Ndil + Bdil]は以下の式に従う。
Figure 2022162964000013
ただし、代表値Ndilは平均値pfinal・Cfinalであり、[Cfinal - AC_final, Cfinal + BC_final]、[pfinal - Ap_final, pfinal + Bp_final]はそれぞれウェルに入れた希釈液の濃度と液量の信頼区間であり、[- Ae_final, Be_final]は平均値がλ = pfinal ・ Cfinalのポアソン分布によるずれefinalが95%入る区間である。
次に、新標準物質をキャリブレーターとした場合の不確かさについての計算を実施した。より高精度に新標準物質の生産ばらつきと不確かさを得るため、我々は生産ばらつきの各影響要素の分布を測定し、これらの分布からキャリブレーターのDNAコピー数の分布を推定した。
インクジェットで分注するための細胞懸濁液中の細胞の凝集率はCountess Cell Counting Chamber Slides(Thermo Fisher Scientific)と顕微鏡(Axio Observer.D1,Carl Zeiss)で測定した。Slideの片方の液室に10 μLの細胞懸濁液を注入し、顕微鏡で液室内の細胞の画像を撮影した。続いて、目視で全画像中の凝集細胞の塊数Naggと、独立細胞の数Nsglを数えた。NaggとNsglの合計に対するNaggの割合を凝集率Paggとした。
細胞内のDNAコピー数分布の測定は先行研究と同じ手順で準備した。ただし測定はフローサイトメトリー(MA900,Sony)を使用した。またフローサイトメトリーでは内部に二つの細胞核を持つ細胞と、内部に一つの細胞核を持つ細胞が2個凝集した凝集体を区別できない。そのため、フローサイトメトリーで測定した2コピーのDNAを有する細胞の割合から凝集率を引いた。細胞懸濁液の作製プロセスが違うため、この凝集率の数値と前記の凝集率のとは違う値であった。
APDの検出率と誤検出率は以下の方法で測定した。インクジェットで細胞懸濁液をスライドガラスSD00011(Matsunami Glass Ind.)に吐出し、飛翔中の液滴を2台のAPDで測定した。その後着弾した液滴を顕微鏡で観察し、各液滴内の細胞塊数(以降説明の便宜上独立細胞も1塊と呼ぶ)をそれぞれ数えた。十分なデータ数を獲得するため、液滴内の粒子濃度は0.566(1.48 × 106 mL-1相当)に調製した。実際の生産時は濃度が薄く(0.1以下)、液滴中の細胞塊数が2以上の確率が非常に低い(5%以下)のであった。また細胞塊数が2以上であると蛍光の総強度が上昇し、APDの検出率が上昇する。そのため、本実験は細胞塊数が1以下の液滴のみを評価対象とした。細胞塊数が1の液滴数がN1、APDが細胞塊数が0と1の液滴を検出した回数がそれぞれNAPD_0とNAPD_1の場合、検出率PDと誤検出率PFDは以下の式で定義した。
Figure 2022162964000014
誤検出は主に細胞懸濁液作製時に発生した蛍光コンタミナントが原因であると思われる。従って、APDが検出したものの中にPFDの割合が細胞ではないと仮定した。
続いて、細胞懸濁液の濃度はインクジェットシステムで吐出した液滴をAPDで測定して計算した。APDが粒子(細胞塊と蛍光コンタミナント)を検出した液滴数がNpos、総液滴数がNallの場合、粒子がない液滴の出現率が0の時のポアソン分布の確率Pλ(0)である。そのため、液滴内の粒子濃度λは以下の式で計算した。
Figure 2022162964000015
また我々は、試薬と環境からのターゲット配列を持つDNAのコンタミネーションを測定した。まずはネガティブコントロールとして空の96ウェルプレート1枚の中の16ウェルをシールで密封した。その後、液滴を分注せずにインクジェット装置の中で通常の生産と同じ時間を放置した。続いてシールを剥がし、通常生産通りに全ウェルに細胞壁溶解処理をし、増幅試薬(次の節を参照)を添加してリアルタイムPCRで測定した。シールで密封しなかったウェル数80のうちポジティブになったウェル数の割合をウェルにDNAコンタミナントが混入する確率Pconとした。
また各要素の測定の不確かさを計算に入れるため、以下の方法で各要素の平均水準の不確かさを考慮した最悪値にした。まずは細胞内のDNAコピー数、APDの検出率と誤検出率の3つの要素はそれぞれベルヌーイ試行であり、ベルヌーイ分布に従う。また経験上、使用した細胞の凝集もほとんど2個の細胞のよるものであり、DNAコンタミナントコピー数もほとんど1以下であるため、ベルヌーイ試行で近似した。更に細胞懸濁液の濃度の測定も液滴中の粒子が存在するかしないかは0、1問題であり、ベルヌーイ分布に従う。ベルヌーイ分布に従う要素Xの確率P(X)の信頼区間はウィルソンの連続性修正を伴う得点区間[w(X), w+(X)]で推定した。最終的に凝集率、2コピーのDNAを持つ細胞の確率、APDの誤検出率、及びコンタミネーションの確率の最悪値はそれぞれw+(X)とし、APDの検出率の最悪値はw(X)とし、濃度の最悪値はPλ(0)のw(X)を式(11)に代入して計算した。
次に、各要素の最悪値から得る分布から、各ウェルに分注したDNAコピー数の分布を計算した。まずAPDが粒子を検出した時点に実際に分注した粒子の合計数Npaは検出した粒子数と未検出の粒子数の合計である。そのため、Npaは以下の式で示す分布に従う。
Figure 2022162964000016
ただし、λ(上に^付き)は細胞懸濁液の濃度の最悪値であり、PD(上に^付き)はAPDの検出率の最悪値であり、Ppa(Npa)は粒子数がNpaの時の確率であり、iはAPDが粒子を検出した時点に分注した粒子が存在する液滴の総数であり、Pλ(λは上に^付き)は平均値がλ(上に^付き)のポアソン分布の確率質量関数である。また経験上APDに検出されなかった粒子が存在する液滴の中に、粒子が2以上存在することがなかった。そのため、これらの液滴中の粒子数は1と仮定した。
続いて、各ウェル内のDNAコピー数の平均値NDNAは理論上以下の式に従う。
Figure 2022162964000017
ただし、定数NAPDはインクジェットシステムで設定した各ウェルのAPD検出数であり、NPAはNpaの平均値であり、NAGGは液滴中の各粒子内の平均細胞塊数であり、NSGLは細胞塊内の平均細胞数であり、NCOPYは細胞内の平均DNAコピー数であり、NCONは試薬と環境によるウェル内の平均DNAコンタミナント数である。各要素同士が乗算関係か足し算関係かによって、以下の方法で分布を合成した。変数Xが特定の要素の量(以降細胞塊内の細胞数を例とする)であり、変数Yがその要素の各個体の特定の性質の量(以降細胞内のDNAコピー数を例とする)の場合(式(13)の乗算関係)、すべての可能性を羅列して分布を合成した。Xが取り得る値の任意の一つがxとし、Yが取り得る値がy1, y2, … , ykとした場合、以下の式が成立する。
Figure 2022162964000018
ただし、(x,Y)(なお、Yは上に→の記載あり)は細胞の総個数と各細胞内のDNAコピー数がそれぞれy1, y2, … , ykである細胞の個数からなる1パターンを代表し、Ny(m)は細胞内のDNAコピー数がymの細胞の個数であり(Ny(0)は0)、PYはYの確率質量関数であり、PXY(x,Y)(なお、Yは上に→の記載あり)はこのパターンが現れる確率であり、COMXY(x,Y)(なお、Yは上に→の記載あり)はこのパターンの組み合わせ数であり、NXY(x,Y)(なお、Yは上に→の記載あり)はこのパターンの全細胞の合計DNAコピー数である。注目すべきなのは、NXY(x,Y)(なお、Yは上に→の記載あり)と(x,Y)(なお、Yは上に→の記載あり)は全単射ではない。NXY(x,Y)(なお、Yは上に→の記載あり)が同じ値nXYを取る全パターンのPXY(x,Y)(なお、Yは上に→の記載あり)を合計した確率を合計DNAコピー数がnXYの時の確率とした。その他の乗算関係の要素の分布合成も同じように計算した。
更に、DNAコンタミネーションはその他の要素の合成分布とは足し算関係にあるため、以下の式が成立する。
Figure 2022162964000019
ただし、Pはウェル内DNAコピー数Nの確率質量関数であり、P’はDNAコンタミネーション以外の要素の分布を合成して得た確率質量関数である。
式(14)~式(18)は理論的な計算であり、特に式(15) ~式(17)はXの最大値と、Yが取り得る値の数によってはパターンの数が膨大になる。そのため、実際の計算時には各要素の取り得る範囲を絞り、PYが極端に小さい値を計算から省いた。具体的にはNpaの範囲を[0, 10]に制限し(PYが1 × 10-16以上)、APDの1回の検出にウェル内に分注されるDNAコピー数(NPA・NAGG)・(NSGL・NCOPY)の範囲も[0, 6]に制限した(PYが1 × 10-6以上)。
最後に関数PからNの不偏標準偏差sNを計算した。同時にNの中央値を代表値NRMとし、図24の手順に沿ってNが95%入る区間[NRM - AN, NRM + BN]を計算した。ただし、原理的にNが整数であるため、この区間は整数区間であった。そのため、Pが非対称でも区間が対称的なることもあった。最後に標準物質の従来手法に基づいた不確かさu(RM)と、提案手法に基づいた95%信頼区間[NRM - ARM, NRM + BRM]は以下の式で計算した。
Figure 2022162964000020
測定過程による不確かさ
従来手法に基づいた検量線での定量による不確かさucombは先行研究の検量線の各濃度をプールして相対不確かさを計算する方法を利用した。ただし、各濃度のキャリブレーターの相対不確かさがそれぞれ計算できることを考慮し、式を以下のようにアレンジした。
Figure 2022162964000021
ただし、nはキャリブレーターの濃度の数であり、Nrwi、uri(ref)、Nri、srQi、及びNrQiはそれぞれ各濃度のキャリブレーターの増幅したウェル数、コピー数の不確かさと代表値、及び検量線から逆算したキャリブレーターのコピー数の不偏標準偏差と平均値であり、NQは定量対象サンプルの全レプリケートのリアルタイムPCR定量結果の平均値である。
それに対し、定量対象サンプルもレプリケートの測定結果間にばらつきが存在する。そのため、以下の式で従来手法に基づいた定量結果の拡張不確かさUconvを計算した。
Figure 2022162964000022
ただし、sQは定量対象サンプルのリアルタイムPCR定量結果の不偏標準偏差であり、Nwは増幅しなかったウェルを含んだ定量対象サンプルのウェル数であり、t(0.975,Nw-1)、は信頼水準95%、自由度Nw - 1の両側t境界値である(以下の表3-1及び表3-2参照)。自由度が5以下の両側t境界値は2.5以上であり、通常の包含係数の推奨値2を大幅に超える。そのため、我々は実際の自由度に応じた両側t境界値を包含計数とした。またaは定量対象サンプルのPCR測定過程による拡張不確かさであり、bはキャリブレーターによるの拡張不確かさである。
Figure 2022162964000023
Figure 2022162964000024
また検量線はキャリブレーターのCq値とコピー数の近似直線であるため、undeterminedとなったウェルを除外してNrQiとsrQiを計算した。対して定量対象サンプルのundeterminedとなったウェルはコピー数0を意味し、定量結果に入れる必要がある。そのため、全ウェルの定量結果でNQとsQを計算した。
対して新しい手法として、我々は以下の方法で定量対象サンプルのDNAコピー数の代表値Npropと非対称な95%信頼区間[MQ - Aprop, MQ + Bprop]を計算した。またCq値から変換したDNAコピー数は対数正規分布に従うと仮定した。
Figure 2022162964000025
ただし、[MQ - AQ, MQ + BQ]は対数正規分布に基づいて計算した定量対象サンプルの各レプリケートのリアルタイムPCR定量結果ばらつきによる95%信頼区間であり、AcombとBcombはそれぞれ検量線の95%信頼区間の代表値両側の区間幅である。つまりAQとBQは定量対象サンプルのPCR計測による拡張不確かさであり、AcombとBcombはキャリブレーターによるの拡張不確かさである。[Nri - Ari, Nri + Bri]と[MrQi -ArQi, MrQi + BrQi]はそれぞれ各濃度のキャリブレーターのコピー数の95%信頼区間と、対数正規分布に基づいて計算したキャリブレーターのリアルタイムPCR定量結果の95%信頼区間である。またMQとMrQiはそれぞれ対数正規分布に基づいて計算した定量対象サンプルと各濃度のキャリブレーターのリアルタイムPCR定量結果の中央値である。通常は対数正規分布に従う量Xの信頼区間はln(X)の平均値と不偏標準偏差で計算する。しかし、コピー数0となったウェルのCq値が存在しない。そのため、以下の式でこれらのウェルを含んだコピー数Xの定量結果からY = ln(X)の平均値Y(なお、上に-付き)と不偏標準偏差sYを推定した。
Figure 2022162964000026
ただし、X(なお、上に-付き)とsXはそれぞれNrQiとsrQiもしくはNQとsQである。Modified Cox methodを利用し、以下の式でXの95%信頼区間の代表値MX(推定中央値)両側の区間幅AXとBXを計算した。
Figure 2022162964000027
ただし、NXはNrwiもしくはNwである。各キャリブレーターと定量対象サンプルに対応するMXとAXとBXを式(24)~式(28)に代入し、NpropとApropとBpropを計算した。MQ - Apropが負の場合は0にした。
偏った分布において、中央値が平均値よりも分布のピークに近いため、本研究では中央値をリアルタイムPCRの定量結果の代表値にした。
標準物質の不確かさの計算結果
以下の表5の上半分が段階希釈法で作製したキャリブレーターの従来手法で計算した不確かさと提案手法で計算した95%信頼区間の代表値両側の区間幅を示している(各濃度のキャリブレーターが増幅したウェル数は以下の表6が示している)。以下の表4がピペットの不確かさ、希釈系列の濃度の不確かさと95%信頼区間の代表値両側の区間幅、及びポアソン分布によるずれから発生した信頼区間の代表値両側の区間幅などのパラメータと結果を示している。
Figure 2022162964000028
新標準物質の不確かさに影響する各要素の測定結果は以下のようになった。フローサイトメトリーで細胞内のDNAコピー数を測定した結果、DNAコピー数が2の細胞塊の割合が1.29%であった。対してその細胞懸濁液の凝集率が1.17%であった。従ったDNAコピー数が2のシングル細胞の割合の測定値が0.12%であり、最悪値が0.1440%であった。インクジェット分注用の細胞懸濁液の凝集率に関しては、細胞塊数2553の内、凝集した塊数が45であった。従って凝集率の最悪値2.373%であった。続いて、APDの検出率と誤検出率を測定した結果、内包細胞塊数が1の液滴数1047の内検出した液滴数が1043であった。加えて細胞塊を含まない液滴を検出した数は7であった。従って検出率と誤検出率の最悪値はそれぞれ98.96%と1.428%であった。また細胞懸濁液をインクジェットで吐出してAPDで測定した結果、液滴数14479の内粒子を検出した液滴数が876であったため、液滴中の粒子濃度の最悪値が0.06393であった。更にリアルタイムPCRでコンタミネーションを評価した結果、ネガティブコントロールが全部undeterminedとなり、残りのウェル数80の内増幅したウェル数が1であったが、Cq値が45.02であった。本実験ではコピー数1のサンプルのCq値の平均値 + 6 sは40以下であったため、特異的な増幅はなかったと判断した。従ってDNAコンタミナント数は0と判断した。つまり試薬と環境からDNAコンタミナントが混入する確率の最悪値が0.05709%であった。最後にこれらの要素から新標準物質のDNAコピー数の分布を合成した。表5の下半分が従来手法で計算した不確かさと、提案手法で計算した95%信頼区間の代表値両側の区間幅を示している。段階希釈法で作製したキャリブレーターと比べ、全体的に不確かさが低かった。またが1、5、9、20、79の時に強い非対称性を示した。コピー数が39の時は生産ばらつきの最小整数区間の計算過程で非対称性が丸められた。
Figure 2022162964000029
リアルタイムPCR定量結果と測定の不確かさの推定結果
表6及び図25は2種類のキャリブレーターのリアルタイムPCRの結果を示している。図25において、段階希釈法で作製したキャリブレーターと、(B)標準物質のリアルタイムPCRの結果のボックスプロットと検量線(破線)である。ボックスプロットのひげは10thパーセンタイルと90thパーセンタイルを示している。丸(○)は各コピー数のキャリブレーターが増幅したウェルの割合(検出率)を示している。また全てのネガティブコントロールは増幅しなかった。段階希釈法で作成した検量線の傾き、切片、及び決定係数(R2)はそれぞれ-3.404、38.14、0.9021であった。従って増幅効率は約96.67%であった。対して新標準物質で作成した検量線の傾き、切片、及びR2はそれぞれ-3.287、38.04、0.9837であった。従って増幅効率は101.48%であった。また希釈系列で作成した検量線の相対不確かさucomb/NQとAcomb/MQとBcomb/MQはそれぞれ0.2474、0.4144、62.30であった。新標準物質で作成した検量線の相対不確かさucomb/NQとAcomb/MQとBcomb/MQはそれぞれ0.101、0.1662、0.3405であった。希釈系列で作成した検量線において、1コピーのサンプルは2ウェルしか増幅しなかったため、両側t境界値が12.7に上昇した。そのため右側の相対不確かさが非常に大きい値となった。
続いて、表7は定量対象サンプルをそれぞれ2つの検量線で定量した結果を示している。6ウェルの中、undeterminedとなったウェル数が2であり、PODが66.7%であった。増幅したウェルのCq値はそれぞれ37.82、36.66、37.78、36.82であった。希釈系列で作成した検量線で定量したコピー数はそれぞれ1.240、2.736、1.280、2.444であった。新標準物質で作成した検量線で定量したコピー数はそれぞれ1.165、2.644、1.204、2.352であった。undeterminedとなったウェルの定量結果は0として扱った。
Figure 2022162964000030
Figure 2022162964000031
最終的な測定の不確かさは式(22)~式(33)で計算した。希釈系列で作成した検量線を定量に用いた場合、従来手法で計算した定量対象サンプルの定量結果と拡張不確かさは1.283 ± 1.375であった。従って95%信頼区間は[-0.092, 2.658]であった。対して提案手法で計算した定量結果は0.951であり、95%信頼区間は[0.350, 60.27]であった。新標準物質で作成した検量線を定量に用いた場合、従来手法で計算した定量対象サンプルの定量結果と拡張不確かさは1.228 ± 1.244であった。従って95%信頼区間は[0.02, 2.43]であった。対して提案手法で計算した定量結果はそれぞれ0.906であり、95%信頼区間は [0.447, 3.211]であった。
[実験例2]
(方法)
インクジェット技術によって生成された参照標準の直線性と再現性を評価するために、新しい標準曲線の3つの異なるロットで3回実験を繰り返した。また、検量線の安定性の経時変化分析も行った。
<試験の諸条件>
・標的DNAのコピー数
検量線作成用核酸:0、5(請求項2のX1=25 or 50のときの請求項2のY1に相当)、5×101(請求項2のX1=25のときの請求項2のY2に相当;請求項2のX1=100のときの請求項2のY1に相当)、5×102(請求項2のX1=50 or 100のときの請求項2のY2に相当)、5×103、5×104、5×105コピー/ウェル
定量用核酸(請求項2のX1に相当):25、50、100コピー/ウェル(推定)
・プライマーとプローブ:JAPN国立感染症研究所(NIID)のRT-PCRJPN-N2プライマープローブセット
・リアルタイムPCR試薬:RT-qPCRマスターミックス(RICOH)
・機器:QuantStudio 12K Flex(Thermo Fisher Scientific)
リアルタイムPCRのサンプルの組成及びPCR条件を以下の表8及び表9にそれぞれ示す。ROX色素はシグナルの標準化に使用した。閾値は0.04であった。
また、図26にリアルタイムPCRを行うサンプルの96ウェルプレート上での配置図を示す。
Figure 2022162964000032
Figure 2022162964000033
(結果)
図27にコピー数の異なる検量線作成用核酸を使用して作成された検量線を示す。
図27に示すように、3つの異なるロットを使用して作成された検量線の直線性(R2)は、それぞれ> 0.99であった。さらに、優れたロット間再現性が得られた(CV%≦1.5%)。
図28は定量用核酸を使用した検量線の安定性を示すグラフである。
図28に示すように、日々の変動が非常に小さく、低いDNAコピー数を含む定量用核酸の定量値が非常に安定しており、識別可能であることが示された。
図29~図31及び表10~表12に、定量用核酸(請求項2のX1に相当)(25コピー/ウェル(図29及び表10)、50コピー/ウェル(図30及び表11)、及び100コピー/ウェル(図31及び表12))の各ロットにおける定量コピー数の平均値、定量値の中央値、並びに定量値の不確かさの最大値及び最小値を4日間モニタリングした結果を示す。
Figure 2022162964000034
Figure 2022162964000035
Figure 2022162964000036
[実験例3]
(方法)
新規の標準物質である定量用核酸の製造方法は、発明者らの既報に従って調製した。製造方法を簡略的に示した図を図32に示す。
反復可能性(同じPCRの6回の反復におけるアッセイ内変動)及び再現性(12回のランにおけるアッセイ間の変動)を推定するために、SARS-CoV-2のヌクレオカプシドタンパク質(N)遺伝子を含む新たに開発された、上記標準物質の適用性を評価するための検量線を用いて、標準物質を分析した。
<試験の諸条件>
標準物質(定量用核酸)のコピー数(請求項2のX1に相当):25、50、及び100コピー/ウェル
検量線作成用核酸のコピー数:0、5(請求項2のX1=25 or 50のときの請求項2のY1に相当)、50(請求項2のX1=25のときの請求項2のY2に相当;請求項2のX1=100のときの請求項2のY1に相当)、及び500(請求項2のX1=50 or 100のときの請求項2のY2に相当)コピー/ウェル
・プライマーとプローブ:JAPN国立感染症研究所(NIID)のRT-PCRJPN-N2プライマープローブセット
・リアルタイムPCR試薬:RT-qPCRマスターミックス(RICOH)
・機器:QuantStudio 12K Flex(Thermo Fisher Scientific)
リアルタイムPCRのサンプルの組成及びPCR条件は、上記実験例2の表8及び表9と同じである。ROX色素はシグナルの標準化に使用した。閾値は0.04であった。
また、図33に、標準物質(定量用核酸)及び検量線作成用核酸を含むウェルを示す。
(結果)
図34~図36及び表13~表15に、12回のPCRのランで定量された定量用核酸(請求項2のX1に相当)(25コピー/ウェル(図34及び表13)、50コピー/ウェル(図35及び表14)、及び100コピー/ウェル(図36及び表15))の定量コピー数の平均値、警告限界(±2SD)、管理限界(±3SD)、標準偏差(SD)、及び変動係数(CV%)を示す。
Figure 2022162964000037
Figure 2022162964000038
Figure 2022162964000039
表13~表15に示すように、変動係数のパーセンテージ(CV%)として測定された反復可能性及び再現性はそれぞれ<20%及び<6.9%であった。
図34~図36に示すように、グラフ中の全ての定量コピー数の平均値は、統計的管理状態で保存されていると考えられる管理限界(平均値±3SD)の範囲内にあった。
本発明は以下の態様を含む。
(1) 定量PCR測定系の性能評価キットであって、
特定コピー数の検量線作成用核酸を含むウェルからなり、且つ、前記検量線作成用核酸の特定コピー数が互いに異なるウェルを3以上有する第1のウェル群と、
特定コピー数の定量用核酸を含むウェルからなり、且つ、前記定量用核酸の特定コピー数が互いに異なるウェルを1以上有する第2のウェル群と、
を有するデバイスを備え、
前記検量線作成用核酸の特定コピー数のうち少なくとも1つ、及び、前記定量用核酸の特定コピー数のうち少なくとも1つがそれぞれ100未満である、性能評価キット。
(2) 前記検量線作成用核酸の特定コピー数及び前記定量用核酸の特定コピー数が互いに異なり、
1つの前記定量用核酸の特定コピー数をX、互いに異なり、且つ、隣接するコピー数である2つの前記検量線作成用核酸の特定コピー数をそれぞれY及びYとしたとき、X、Y及びYは、式:Y<X<Yで表される関係である、(1)に記載の性能評価キット。
(3) 前記第1のウェル群及び前記第2のウェル群は、特定コピー数が同一である前記検量線作成用核酸を含むウェル、及び、特定コピー数が同一である前記定量用核酸を含むウェルを、それぞれ4以上有する、(1)又は(2)に記載の性能評価キット。
(4) 前記検量線作成用核酸及び前記定量用核酸は、それぞれ細胞から抽出された核酸である、(1)~(3)のいずれか一つに記載の性能評価キット。
(5) 前記検量線作成用核酸の特定コピー数のばらつきが、前記定量用核酸の特定コピー数のばらつきと同等以下である、(1)~(4)のいずれか一つに記載の性能評価キット。
(6) (1)~(5)のいずれか一つに記載の性能評価キットを用いる、定量PCR測定系の性能評価方法であって、
定量PCR装置により、前記検量線作成用核酸を増幅し、検量線を作成する工程と、
前記定量PCR装置により、前記定量用核酸を増幅し、前記検量線を用いて、前記定量用核酸の定量値を算出する工程と、
前記検量線作成用核酸の特定コピー数の情報及び前記定量用核酸の特定コピー数の情報から、前記定量値の不確かさを算出する工程と、
を含む、性能評価方法。
1…デバイス、2a,2b,2c,2d…検量線作成用核酸を含むウェル、3…第1のウェル群、4a,4b…定量用核酸を含むウェル、5…第2のウェル群、10,10’,10C…吐出ヘッド(液滴吐出手段)、11,11a,11b,11c,11C,11’…液室、12,12C…メンブレン、13,13C…駆動素子、13a…電動機、13b,13c…圧電素子、20…駆動手段、30,260…光源、40…ミラー、60,61…受光素子、70…制御手段、71,101…CPU、72…ROM、73…RAM、74,106…I/F、75…バスライン、100…性能評価装置、102…主記憶装置、103…補助記憶装置、104…出力装置、105…入力装置、107…バス、111,111a,111b,111c,121…ノズル、112…電磁弁、115…大気開放部、200…コイル、250…マイクロ流路、255…検出器、255’…画像取得部、265,265’…レンズ、300,300a,300b,300c…細胞懸濁液、310,310’…液滴、350,350a,350b,350’,350”…細胞、400…分注装置、401,401A,401B,401C…液滴形成装置、700,700’…プレート、710…ウェル、800…ステージ、900…制御装置、L…光、Lf,Lf,Lf…蛍光。
特開2018-124171号公報 特開2017-187473号公報

Claims (6)

  1. 定量PCR測定系の性能評価キットであって、
    特定コピー数の検量線作成用核酸を含むウェルからなり、且つ、前記検量線作成用核酸の特定コピー数が互いに異なるウェルを3以上有する第1のウェル群と、
    特定コピー数の定量用核酸を含むウェルからなり、且つ、前記定量用核酸の特定コピー数が互いに異なるウェルを1以上有する第2のウェル群と、
    を有するデバイスを備え、
    前記検量線作成用核酸の特定コピー数のうち少なくとも1つ、及び、前記定量用核酸の特定コピー数のうち少なくとも1つがそれぞれ100未満である、性能評価キット。
  2. 前記検量線作成用核酸の特定コピー数及び前記定量用核酸の特定コピー数が互いに異なり、
    1つの前記定量用核酸の特定コピー数をX、互いに異なり、且つ、隣接するコピー数である2つの前記検量線作成用核酸の特定コピー数をそれぞれY及びYとしたとき、X、Y及びYは、式:Y<X<Yで表される関係である、請求項1に記載の性能評価キット。
  3. 前記第1のウェル群及び前記第2のウェル群は、特定コピー数が同一である前記検量線作成用核酸を含むウェル、及び、特定コピー数が同一である前記定量用核酸を含むウェルを、それぞれ4以上有する、請求項1又は2に記載の性能評価キット。
  4. 前記検量線作成用核酸及び前記定量用核酸は、それぞれ細胞から抽出された核酸である、請求項1~3のいずれか一項に記載の性能評価キット。
  5. 前記検量線作成用核酸の特定コピー数のばらつきが、前記定量用核酸の特定コピー数のばらつきと同等以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の性能評価キット。
  6. 請求項1~5のいずれか一項に記載の性能評価キットを用いる、定量PCR測定系の性能評価方法であって、
    定量PCR装置により、前記検量線作成用核酸を増幅し、検量線を作成する工程と、
    前記定量PCR装置により、前記定量用核酸を増幅し、前記検量線を用いて、前記定量用核酸の定量値を算出する工程と、
    前記検量線作成用核酸の特定コピー数の情報及び前記定量用核酸の特定コピー数の情報から、前記定量値の不確かさを算出する工程と、
    を含む、性能評価方法。
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