JP2022155341A - オーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに耐食性部材 - Google Patents

オーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに耐食性部材 Download PDF

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Abstract

【課題】平滑で光沢のある表面を有し、耐食性及び疲労特性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼材を提供する。【解決手段】質量基準で、C:0.001~0.150%、Si:0.20~5.00%、Mn:2.50%以下、P:0.050%以下、S:0.0300%以下、Ni:6.00~20.00%、Cr:14.00~25.00%、Mo:3.00%以下、Cu:4.00%以下、N:0.400%以下、Al:3.500%以下を含み、Si+2Alが1.20%以上であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼材10である。このオーステナイト系ステンレス鋼材10は、表面Bからの深さが厚みの1/4の位置Cの母相11における介在物13の個数密度D1に対する表面Bにおける介在物13の個数密度D2の比D2/D1が0.50以下である。【選択図】図1

Description

本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに耐食性部材に関する。
ステンレス鋼材は、耐食性などの各種特性に優れるため、自動車用部品、建築用部品、厨房用器具などの広範な用途に用いられている。
ステンレス鋼材は、形状によって、鋼板、条鋼、鋼帯、棒鋼、鋼管などに分類される。一般的なステンレス鋼材であるステンレス鋼板は、次のような工程によって製造される。例えば、熱延鋼板(厚板材)は、ステンレス鋼の原料を溶解した溶銑を連続鋳造してスラブとし、スラブを熱間圧延した後、焼鈍及び酸洗することによって製造される。また、冷延鋼板(薄板材)は、熱延鋼板を冷間圧延した後、焼鈍及び酸洗することによって製造される。このようなステンレス鋼材の製造工程において、酸洗は、ステンレス鋼材の表面に形成された酸化スケールを除去するために行われている。以下、ステンレス鋼材の表面に形成された酸化スケールを除去することを「デスケール」と称する。
しかしながら、酸洗のみによっては酸化スケールを十分に除去できないことがある。特に、ステンレス鋼材の中でもオーステナイト系ステンレス鋼材は、Niを多く含有するために耐酸性に優れる。そのため、オーステナイト系ステンレス鋼材は、他のステンレス鋼材に比べて、表面に形成された酸化スケールを酸洗によって除去し難い。
そこで、一般的なデスケール工程では、スケールブレーカーやショットブラストなどによる機械的な前処理を施して酸化スケールにクラックを入れた後に、酸洗することによって酸化スケールを除去し易くする方法が行われている(例えば、特許文献1及び2)。また、化学的な前処理としてソルトバスにステンレス鋼材を浸漬する方法も知られている。
特開2014-172077号公報 特開平2-145785号公報
しかしながら、酸洗を用いる従来のデスケール工程では、前処理で形成される表面の凹凸と酸洗による表面の荒れによって、ステンレス鋼材の表面が白くなり光沢を失ってしまい、意匠性が低下してしまう。特に、冷延鋼材には、熱延鋼材に比べて高い水準の意匠性(平滑度及び光沢度)が要求されるため、酸洗を用いる従来のデスケール工程では所望の意匠性を得ることが難しい。また、SiやAlの含有量が多いステンレス鋼材の場合、酸化スケールとステンレス鋼材との界面に形成されるSiO2やAl23を含む内部酸化層が化学的に安定であるため、酸化スケールを除去することがより一層難しくなる。さらに、酸化スケールを除去すると、ステンレス鋼材の表面には介在物が露出するため、この介在物がステンレス鋼材の耐食性及び疲労特性を低下させる要因となる。
そこで、これらの問題を解決するためにデスケール工程の後に表面を研磨することが考えられるが、表面を平滑になるまで研磨すると、研削量が多くなって歩留まりが低下するとともに、研磨焼けや研磨屑の巻き込みによって耐食性や意匠性が低下する。また、介在物はステンレス鋼材の内部にも存在しているため、デスケール工程の後に表面を研磨しても、ステンレス鋼材の表面に新たな介在物が露出することとなる。したがって、この手段は有効であるとはいえない。
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、平滑で光沢のある表面を有し、耐食性及び疲労特性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、及びこれを用いた耐食性部材を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記のような問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、オーステナイト系ステンレス鋼材の組成を制御するとともに、レーザ光を特定の条件で照射することにより、表面の平滑性及び光沢性を確保しながらデスケールするとともに、表面の介在物を固溶させることで耐食性及び疲労特性を向上させ得るという知見を得た。この知見に基づいて様々なオーステナイト系ステンレス鋼材を作製して検討を行った結果、所定の組成を有し、表面からの深さが厚みの1/4の位置の母相における所定の介在物の個数密度D1に対する表面における介在物の個数密度D2の比D2/D1が特定の範囲にあるオーステナイト系ステンレス鋼材が上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、質量基準で、C:0.001~0.150%、Si:0.20~5.00%、Mn:2.50%以下、P:0.050%以下、S:0.0300%以下、Ni:6.00~20.00%、Cr:14.00~25.00%、Mo:3.00%以下、Cu:4.00%以下、N:0.400%以下、Al:3.500%以下を含み、Si+2Alが1.20%以上であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
表面からの深さが厚みの1/4の位置の母相における円相当径が0.5~10μmの介在物の個数密度D1に対する前記表面における前記介在物の個数密度D2の比D2/D1が0.50以下であるオーステナイト系ステンレス鋼板である。
また、本発明は、質量基準で、C:0.001~0.150%、Si:0.20~5.00%、Mn:2.50%以下、P:0.050%以下、S:0.0300%以下、Ni:6.00~20.00%、Cr:14.00~25.00%、Mo:3.00%以下、Cu:4.00%以下、N:0.400%以下、Al:3.500%以下を含み、Si+2Alが1.20%以上であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有する冷延鋼材にレーザ光を照射し、前記冷延鋼材の表面に形成された酸化スケールを除去するデスケール工程を含むオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法であって、
前記レーザ光の照射は、前記冷延鋼材における母相と前記酸化スケールとの界面からの深さが0.50~10.00μmまでの領域を溶融可能な条件で行われる製造方法である。
さらに、本発明は、前記オーステナイト系ステンレス鋼材を含む耐食性部材である。
本発明によれば、平滑で光沢のある表面を有し、耐食性及び疲労特性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、及びこれを用いた耐食性部材を提供することができる。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材の模式的な断面図である。 レーザ光の照射によるデスケールと従来の方法によるデスケールとの違いを説明するための模式的な断面図である。
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
なお、本明細書において成分に関する「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、C:0.001~0.150%、Si:0.20~5.00%、Mn:2.50%以下、P:0.050%以下、S:0.0300%以下、Ni:6.00~20.00%、Cr:14.00~25.00%、Mo:3.00%以下、Cu:4.00%以下、N:0.400%以下、Al:3.500%以下を含み、Si+2Alが1.20%以上であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有する。
ここで、本明細書において「ステンレス鋼材」とは、ステンレス鋼から形成された材料のことを意味し、その材形は特に限定されない。材形の例としては、板状(帯状を含む)、棒状、管状などが挙げられる。また、断面形状がT形、I形などの各種形鋼であってもよい。また、「不純物」とは、ステンレス鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップなどの原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。例えば、ステンレス鋼材は、不純物としてОを0.02%以下含有してもよい。
また、本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、Ti:0.001~0.500%、Nb:0.001~1.000%、V:0.001~1.000%、W:0.001~1.000%、Zr:0.001~1.000%、Co:0.001~1.200%から選択される1種以上を更に含むことができる。
さらに、本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、Ca:0.0001~0.0100%、B:0.0001~0.0080%、Sn:0.001~0.500%、REM:0.200%以下から選択される1種以上を更に含むことができる。
以下、各成分について詳細に説明する。
<C:0.001~0.150%>
Cの含有量は多すぎると、硬質になって加工性が下がることに加え、溶接などの熱影響を受けた際に鋭敏化が生じ、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまう。そのため、Cの含有量の上限値は、0.150%、好ましくは0.100%、より好ましくは0.080%、更に好ましくは0.060%に制御される。一方、Cの含有量は少なすぎると、オーステナイト相の安定度が下がることによる加工性の劣化や精練コストの上昇につながる。そのため、Cの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.002%、より好ましくは0.005%、更に好ましくは0.010%に制御される。
<Si:0.20~5.00%>
Siの含有量は多すぎると、硬質化してオーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Siの含有量の上限値は、5.00%、好ましくは4.00%、より好ましくは3.80%、更に好ましくは3.50%に制御される。一方、Siの含有量は少なすぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐熱性が低下してしまう。そのため、Siの含有量の下限値は、0.20%、好ましくは1.00%、より好ましくは1.50%、更に好ましくは2.50%に制御される。
<Mn:2.50%以下>
Mnは、オーステナイト相(γ相)生成元素である。Mnの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまう。そのため、Mnの含有量の上限値は、2.50%、好ましくは2.00%、より好ましくは1.80%、更に好ましくは1.60%に制御される。一方、Mnの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.01%、より好ましくは0.05%、更に好ましくは0.10%である。
<P:0.050%以下>
Pの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性や加工性が低下してしまう。そのため、Pの含有量の上限値は、0.050%、好ましくは0.030%、より好ましくは0.020%、更に好ましくは0.010%に制御される。一方、Pの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001%、より好ましくは0.002%、更に好ましくは0.003%である。
<S:0.0300%以下>
Sの含有量は多すぎると、熱間加工性が下がってオーステナイト系ステンレス鋼材の製造性が低下してしまう。そのため、Sの含有量の上限値は、0.0300%、好ましくは0.0100%、より好ましくは0.0050%、更に好ましくは0.0010%に制御される。一方、Sの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.0002%、更に好ましくは0.0003%である。
<Ni:6.00~20.00%>
Niは、Mnと同様にオーステナイト相(γ相)生成元素である。Niは高価であるため、含有量が多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Niの含有量の上限値は、20.00%、好ましくは18.00%、より好ましくは16.00%、更に好ましくは14.00%に制御される。一方、Niの含有量が少なすぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまう。そのため、Niの含有量の下限値は、6.00%、好ましくは6.50%、より好ましくは7.00%、更に好ましくは8.00%に制御される。
<Cr:14.00~25.00%>
Crの含有量は多すぎると、精錬コストの上昇を招く上に、固溶強化によって硬質化し、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Crの含有量の上限値は、25.00%、好ましくは22.00%、より好ましくは21.00%、更に好ましくは20.00%に制御される。一方、Crの含有量は少なすぎると、耐食性が十分に得られない。そのため、Crの含有量の下限値は、14.00%、好ましくは15.00%、より好ましくは16.00%、更に好ましくは17.00%に制御される。
<Mo:3.00%以下>
Moは、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性を改善する元素である。Moは高価であるため、Moの含有量が多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Moの含有量の上限値は、3.00%、好ましくは2.50%、より好ましくは2.00%、更に好ましくは1.00%に制御される。一方、Moの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.01%、より好ましくは0.05%、更に好ましくは0.10%である。
<Cu:4.00%以下>
Cuは、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性を改善する元素である。Cuの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまうとともに、鋳造時に低融点相を形成して熱間加工性の低下を招く。そのため、Cuの含有量の上限値は、4.00%、好ましくは3.00%、より好ましくは2.00%、更に好ましくは1.00%に制御される。一方、Cuの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.01%、より好ましくは0.04%、更に好ましくは0.20%である。
<N:0.400%以下>
Nは耐食性を改善する元素である。Nの含有量は多すぎると、硬質化してオーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Nの含有量の上限値は、0.400%、好ましくは0.200%、より好ましくは0.150%、更に好ましくは0.100%に制御される。一方、Nの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001%、好ましくは0.005%、より好ましくは0.010%に制御される。
<Al:3.500%以下>
Alは、精錬工程において脱酸のために必要に応じて添加され、耐食性及び耐熱性を改善する元素である。Alの含有量は多すぎると、介在物の生成量が増加して品質を低下させてしまう。そのため、Alの含有量の上限値は、3.500%、好ましくは3.000%、より好ましくは2.000%、更に好ましくは1.500%に制御される。一方、Alの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001%、より好ましくは0.010%、更に好ましくは0.100%である。
<Si+2Al:1.20%以上>
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、Si及びAlの含有量が多いものを対象とする。具体的には、Si+2Al(各元素記号は、各元素の含有量を表す)は、1.20%以上、好ましくは1.30%以上、より好ましくは1.50%以上、更に好ましくは2.00%以上である。なお、Si+2Alの上限値は、特に限定されないが、好ましくは10.00%、より好ましくは8.00%、更に好ましくは5.00%である。
<Ti:0.001~0.500%>
Tiは、CやNと結合して耐食性及び耐粒界腐食性を向上させる元素であり、必要に応じて添加される。Tiによる効果を得る観点から、Tiの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.005%に制御される。一方、Tiの含有量は多すぎると、表面疵の原因となって品質低下を招くとともに、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Tiの含有量の上限値は、0.500%、好ましくは0.300%、より好ましくは0.100%に制御される。
<Nb:0.001~1.000%>
Nbは、Tiと同様に、CやNと結合して耐食性及び耐粒界腐食性を向上させる元素であり、必要に応じて添加される。Nbによる効果を得る観点から、Nbの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.004%、より好ましくは0.010%に制御される。一方、Nbの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Nbの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.600%、より好ましくは0.060%に制御される。
<V:0.001~1.000%>
Vは、耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて添加される。Vによる効果を得る観点から、Vの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.010%に制御される。一方、Vの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Vの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.200%に制御される。
<W:0.001~1.000%>
Wは、高温強度及び耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて添加される。Wによる効果を得る観点から、Wの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.010%に制御される。一方、Wの含有量は多すぎると、硬質化して加工性が低下するとともに、表面疵が増加してオーステナイト系ステンレス鋼材の表面品質が低下してしまう。そのため、Wの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.300%に制御される。
<Zr:0.001~1.000%>
Zrは、CやNと結合して耐酸化性及び耐粒界腐食性を向上させる元素であり、必要に応じて添加される。Zrによる効果を得る観点から、Zrの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.010%に制御される。一方、Zrの含有量は多すぎると、オーステナイト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Zrの含有量の上限値は、1.000%、好ましくは0.200%、より好ましくは0.050%に制御される。
<Co:0.001~1.200%>
Coは、耐熱性を向上させる元素であり、必要に応じて添加される。Coによる効果を得る観点から、Coの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.010%に制御される。一方、Coは高価であるため、Coの含有量が多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Coの含有量の上限値は、1.200%、好ましくは0.400%に制御される。
<Ca:0.0001~0.0100%>
Caは、オーステナイト系ステンレス鋼材の熱間加工性を改善する元素であり、必要に応じて添加される。また、Caは、硫化物を形成してSの粒界偏析を抑制することで耐粒界酸化性を改善する元素でもある。Caによる効果を得る観点から、Caの含有量の下限値は、0.0001%、好ましくは0.0003%に制御される。一方、Caの含有量は多すぎると、介在物数が増加して加工性の低下を招く。そのため、Caの含有量の上限値は、0.0100%、好ましくは0.0050%に制御される。
<B:0.0001~0.0080%>
Bは、オーステナイト系ステンレス鋼材の熱間加工性を改善する元素であり、必要に応じて添加される。また、Bは、粒界強化によってオーステナイト系ステンレス鋼材の二次加工性を改善する元素でもある。Bによる効果を得る観点から、Bの含有量の下限値は、0.0001%、好ましくは0.0003%、より好ましくは0.0005%に制御される。一方、Bの含有量は多すぎると、溶接性や疲労強度の低下を招く。そのため、Bの含有量の上限値は、0.0080%、好ましくは0.0040%、より好ましくは0.0025%に制御される。
<Sn:0.001~0.500%>
Snは、耐食性及び高温強度を向上させる元素であり、必要に応じて添加される。Snによる効果を得る観点から、Snの含有量の下限値は、0.001%、好ましくは0.002%に制御される。一方、Snの含有量は多すぎると、低融点相を形成してオーステナイト系ステンレス鋼材の熱間加工性が低下してしまう。そのため、Snの含有量の上限値は、0.500%、好ましくは0.100%、より好ましくは0.050%に制御される。
<REM:0.200%以下>
REM(希土類元素)は、B、Caと同様にオーステナイト系ステンレス鋼材の熱間加工性を改善する元素であり、必要に応じて添加される。また、REMは、溶出し難い硫化物を形成し、腐食起点となるMnSの生成を抑制することで耐食性を改善する元素でもある。ただし、REMの含有量は多すぎると、製造コストの上昇につながる。そこで、REMの含有量の上限値は、0.200%、好ましくは0.100%に制御される。一方、REMの含有量の下限値は、特に限定されないが、REMによる効果を得る観点から、好ましくは0.001%、より好ましくは0.010%である。
なお、REMは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。これらは単独で用いてもよいし、混合物として用いてもよい。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、表面(例えば、図1の表面B)からの深さが厚みの1/4の位置の母相(例えば、図1の位置C)における円相当径0.5~10μmの介在物の個数密度D1に対する、表面(例えば、図1の表面B)における円相当径0.5~10μmの介在物の個数密度D2の比D2/D1が0.50以下、好ましくは0.49以下、より好ましくは0.48以下である。このような範囲に介在物の個数密度の比D2/D1を制御することにより、母相に存在する介在物に比べて表面に存在する介在物の割合を少なくすることができるため、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性及び疲労特性を向上させることができる。
なお、介在物の個数密度の比D2/D1の下限値は、小さいほどの耐食性及び疲労特性の向上効果が高くなるため特に限定されないが、例えば、0.01である。
オーステナイト系ステンレス鋼材の表面からの深さが厚みの1/4の位置の母相における円相当径0.5~10μmの介在物の個数密度D1(以下、「母相における介在物の個数密度D1」という。)は、次のようにして算出することができる。まず、オーステナイト系ステンレス鋼材の表面からの深さが厚みの1/4の位置(母相)における任意の箇所(10視野以上)を電子顕微鏡で撮影する。次に、撮影された画像を二値化処理して円相当径0.5~10μmの介在物(黒色)と母相(白色)とに分け、黒色領域を数えて介在物の個数を求め、得られた介在物の個数を観察視野の面積で除することによって母相における介在物の個数密度D1を算出することができる。
同様に、オーステナイト系ステンレス鋼材の表面における円相当径0.5~10μmの介在物の個数密度D2(以下、「表面における介在物の個数密度D2」という。)は、オーステナイト系ステンレス鋼材の表面における任意の箇所(10視野以上)を電子顕微鏡で撮影し、上記と同様にして得られた介在物の個数を観察視野の面積で除することによって算出することができる。
ここで、介在物はその多くが円相当径0.5~10μmの範囲であるため、この範囲の大きさの介在物を個数として数え、介在物の個数密度D1,D2とした。なお、円相当径は、観察される個々の黒色領域の面積を、同じ面積を有する円に換算した場合の円の直径を意味する。
電子顕微鏡としては、株式会社日立ハイテク製ショットキー走査電子顕微鏡SU5000を用いることができる。また、介在物の特定は、電子顕微鏡に付属されたオックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製EDX検出器EMAX3.3SP2で行うことができる。また、画像処理には、オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製の解析ソフト(AZtecSteel)を用いることができる。
母相における介在物の個数密度D1は、例えば、80~300個/mm2程度である。
表面における介在物の個数密度D2は、好ましくは75個/mm2以下、より好ましくは60個/mm2以下である。この範囲に表面における介在物の個数密度D2を制御することにより、オーステナイト系ステンレス鋼材の表面に存在する介在物の量を低減できるため、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性及び疲労強度を安定して向上させることができる。
なお、表面における介在物の個数密度D2の下限値は、小さいほど耐食性及び疲労特性の向上効果が高くなるため特に限定されないが、例えば10個/mm2である。
介在物は、非金属介在物(特に、硫化物系や酸化物系の介在物)であり、その具体例としては、MnS、TiN、TiC、NbN、NbC、CaO、SiO2、Al23及びこれらの複合化合物などが挙げられる。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、表層に溶融凝固層を備えることが好ましい。
ここで、一例として、本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材の模式的な断面図を図1に示す。
図1に示されるように、オーステナイト系ステンレス鋼材10は、母相11と母相11の表面Aに形成された溶融凝固層12とを備える。母相11には介在物13が含まれる。溶融凝固層12にも介在物13が含まれ得るが、溶融凝固層12の表面Bに露出する介在物13は少ない。これは、レーザ光によるデスケールによって表面Bに露出した介在物13が固溶したためである。
溶融凝固層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.50~10.00μm、より好ましくは1.00~10.00μm、更に好ましくは2.00~10.00μmである。溶融凝固層の厚さが0.50μm未満であると、介在物が十分に固溶していない状態となり易い。したがって、表面に露出した介在物が多くなり、オーステナイト系ステンレス鋼材の耐食性及び疲労特性が低下する傾向にある。一方、溶融凝固層の厚さが10.00μmを超えると、表面が粗くなってしまい、平滑で光沢のある表面が得られ難くなる傾向にある。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、表面の算術平均粗さRaが、好ましくは0.01~0.40μm、より好ましくは0.01~0.30μm、更に好ましくは0.01~0.20μmである。このような範囲に表面の算術平均粗さRaを制御することにより、オーステナイト系ステンレス鋼材の平滑性を確保することができる。
ここで、本明細書において「算術平均粗さRa」とは、JIS B0601:2013に準拠して測定される算術平均粗さRaを意味する。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、表面の60度鏡面光沢Gs(60°)が、好ましくは200~750%、より好ましくは300~750%、更に好ましくは400~750%である。このような範囲に表面の60度鏡面光沢Gs(60°)を制御することにより、オーステナイト系ステンレス鋼材の光沢性を確保することができる。
ここで、本明細書において「60度鏡面光沢Gs(60°)」とは、JIS Z8741:1997に準拠して測定される60度鏡面光沢Gs(60°)を意味する。
本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、オーステナイト系ステンレス冷延鋼材であることが好ましく、オーステナイト系ステンレス冷延鋼板であることがより好ましい。なお、本明細書において、酸化スケールが除去された後の冷延鋼材及び冷延鋼板を「オーステナイト系ステンレス冷延鋼材」及び「オーステナイト系ステンレス冷延鋼板」、酸化スケールが除去される前の冷延鋼材及び冷延鋼板を「冷延鋼材」及び「冷延鋼板」という。
以下、本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材がオーステナイト系ステンレス冷延鋼板である場合を例に挙げて説明する。
本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス冷延鋼板の厚み(板厚)は、特に限定されないが、好ましくは3mm未満、より好ましくは2.5mm以下、更に好ましくは2mm以下である。また、その下限は、例えば、0.1mmであり、0.3mmとしてもよい。
本発明の一実施形態に係るオーステナイト系ステンレス冷延鋼板は、上記の組成を有する冷延鋼板にレーザ光を照射し、表面に形成された酸化スケールを除去するデスケール工程を行うこと以外は、当該技術分野において公知の方法を用いることによって製造することができる。
上記の組成を有する冷延鋼板の製造方法は、特に限定されないが、例えば、次のようにして製造することができる。まず、上記の組成を有するステンレス鋼を溶製し、鍛造又は鋳造により鋼片を得る。次に、鋼片を熱間圧延し、焼鈍した後、デスケールを行う。デスケールの方法は、特に限定されず、酸洗、研磨、レーザ光を用いて行うことができる。次に、デスケールを行った熱延鋼板を冷間圧延し、焼鈍することによって冷延鋼板を得ることができる。なお、各工程の条件は、ステンレス鋼の組成などに応じて適宜調整すればよく特に限定されない。
冷延鋼板に対するレーザ光の照射は、冷延鋼板における母相と酸化スケールとの界面からの深さが0.50~10.00μm、好ましくは1.00~10.00μm、より好ましくは2.00~10.00μmまでの領域を溶融可能な条件で行われる。このような条件でレーザ光の照射を行うことにより、表面の平滑性及び光沢性を確保しながら酸化スケールを除去するとともに、熱影響によって表面の介在物を固溶させて表面に溶融凝固層を形成することで耐食性及び疲労特性を向上させることができる。冷延鋼板の表面からの深さが0.50μm未満の領域までしか溶融できない照射条件であると、介在物が十分に固溶しないため、表面に露出した介在物を十分に低減できず、オーステナイト系ステンレス冷延鋼板の耐食性及び疲労特性が低下する。また、冷延鋼板の表面からの深さが10.00μmを超える領域を溶融する照射条件であると、オーステナイト系ステンレス冷延鋼板の表面が粗くなってしまい、平滑で光沢のある表面が得られない。
ここで、レーザ光の照射によるデスケールと従来の方法によるデスケールとの違いを説明するための模式的な断面図を図2に示す。
図2(a)に示されるように、冷延鋼材(冷延鋼板)20は、母相11の表面に酸化スケール21が形成されている。また、母相11と酸化スケール21との界面D(母相11の表面)には介在物13が存在している。
従来の方法(酸洗及び/又は研磨)によってデスケール(酸化スケール21の除去)を行う場合、図2(b)に示されるように、母相11と酸化スケール21との界面Dに存在する介在物13が表面Eに露出する。また、母相11と酸化スケール21との界面Dに存在する介在物13を除去するために、酸化スケール21とともに母相11の表層を除去するにしても、母相11の内部に介在物13が存在しているため、母相11の内部の介在物13が表面Eに露出しまう。そのため、従来の方法では、表面Eに露出した介在物13を低減することは難しい。
これに対してレーザ光の照射によるデスケールを行う場合、図2(c)に示されるように、酸化スケール21の除去とともに、母相11と酸化スケール21との界面Dに存在していた介在物13が固溶する。また、その結果、母相11の表層に溶融凝固層12が形成され、表面Bに露出する介在物13の数が少なくなる。介在物13の数の減少は、溶融凝固層12の形成時に表面近傍の介在物13が溶融し、母相成分で希釈された状態となり、再析出するよりも前に急速凝固することで生じる。これに加えて、溶融凝固層12の近傍において、直接溶融しなかった部分においても温度の上昇によって介在物13の固溶が生じ、介在物13の大きさの縮小と介在物13の数の減少が生じる。また、介在物が完全に溶融して無害化されなかった場合でも、部分的に溶融して介在物13の円相当径が小さくなることで、耐食性及び疲労強度が改善される。
照射するレーザの条件は、使用する装置に応じて、以下の事項を考慮して調整すればよい。
(レーザ光の種類)
連続波レーザ光を用いる場合、酸化スケールの除去に必要なエネルギーが大きくなり、必要な電力が大きくなること、及び熱影響が生じる範囲が大きすぎて、溶融凝固層の厚さ制御が困難となることから、瞬間的に熱を加えることができるパルスレーザ光が好ましい。
(波長)
一般に物質の光に対する反射率は波長依存性を有し、反射率が低い波長を選択すると入熱が大きくなり、酸化スケールの蒸散が生じ易くなる。そのため、母相の反射率が高く、酸化物の反射率が低い波長を選択することで、必要以上に母相を溶融させることなく酸化スケールを選択的に蒸散除去することができる。
(パルス幅)
パルス幅は1つのパルスが照射されている時間を表し、パルス幅が狭いほど瞬間的な加熱が生じることになる。パルス幅が狭いとレーザによる入熱が周囲に伝達される前にアブレーションが生じるため、アブレーション閾値が小さくなるとともに、母相への熱影響が少なくなる。母相の溶融が起こる条件でレーザ照射を行う場合、パルス幅が狭いほど急速冷却が生じ、溶融した介在物の再析出が抑制される。ただし、パルス幅は主に発振器の性能で決定され、短いパルス幅で発振可能な装置は高額であるため、装置の仕様範囲内で、短いパルス幅を選択することが好ましい。
(発振周波数)
パルス幅が短いほど発振周波数を高くすることができ、発振周波数が高いほど単位時間あたりに照射されるパルス数が多くなり、酸化スケールの除去速度が向上する。そのため、装置の仕様範囲内で、高い発振周波数を選択することが好ましい。
(スキャン周波数)
スキャン周波数はパルス照射位置の平面方向における移動速度を表し、スキャン周波数が高いほど酸化スケールの除去速度が速くなるが、高くしすぎるとパルス照射位置の間に空隙が生じて酸化スケールが残存してデスケール率が低下する。そのため、デスケール率を維持できる範囲でスキャン周波数を高くすることが好ましい。
(レーザのビーム径)
大きいほど照射範囲、すなわち一回のパルスでデスケールできる範囲が広くなり、デスケール効率がよくなるが、パルス一回のエネルギー密度(フルエンス)が低くなる。酸化スケールを蒸散除去できるフルエンスを維持した範囲でビーム径を大きくすることが好ましい。
(フルエンス)
酸化スケールを構成する酸化物のアブレーション閾値を超えるフルエンスを有するレーザ光を照射することで、酸化スケールを蒸散除去できる。フルエンスが高いほど除去できる酸化スケールの厚さが増大するが、フルエンスを高くしすぎると酸化スケールだけでなく母相の蒸散除去も生じるようになる。また、パルスレーザは連続波レーザと比較して熱影響が少ないが、フルエンスが高いほど母相への入熱が大きくなり、溶融部及び熱影響部が大きくなる。したがって、除去する酸化スケールの特性(厚さ、構成、組成など)と母相への入熱とのバランスを考慮して、必要以上に母相を溶融させることのない範囲でフルエンスを調整すればよい。ビームスポット内でフルエンスの分布が異なる場合は、平均フルエンスを用いて制御すればよい。
上記の特徴を有する本発明の実施形態に係るオーステナイト系ステンレス鋼材は、耐食性に優れるため、耐食性部材として用いることができる。また、このオーステナイト系ステンレス鋼材は、疲労特性にも優れるため、疲労特性が要求される耐食性部材に用いるのに好適である。さらに、このオーステナイト系ステンレス鋼材は、平滑で光沢のある表面を有し、意匠性に優れているため、意匠性が要求される耐食性部材に用いるのに好適である。
本発明の実施形態に係る耐食性部材は、上記のオーステナイト系ステンレス鋼材を含む。
この耐食性部材に用いられるオーステナイト系ステンレス鋼材は、当該技術分野において公知の方法によって各種形状に加工されていてもよい。
本発明の実施形態に係る耐食性部材は、上記のオーステナイト系ステンレス鋼材以外の部材を更に含むことができる。
耐食性部材としては、特に限定されないが、自動車用部品、建築用部品、厨房用器具などが挙げられる。
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
表1に示す鋼種A~Eの組成(残部はFe及び不純物である)を有するステンレス鋼30kgを真空溶解で溶製し、厚さ30mmの鋼片に鍛造した後、1230℃で2時間加熱し、厚さ3mmに熱間圧延し、大気雰囲気下、1100℃で5分焼鈍して熱延鋼板を得た。熱延鋼板は、加工によって50mm(圧延方向)×50mm(幅方向)に切り出した後、酸洗デスケールを行った。酸洗デスケールは、フッ酸50g/L及び硝酸150g/Lを含むフッ硝酸水溶液を恒温槽で60℃に保持し、熱延鋼板を240~1320秒浸漬させた後、直ぐに流水で水洗して自然乾燥させることによって行った。具体的な浸漬時間は、鋼種Aが360秒、鋼種Bが240秒、鋼種Cが1320秒、鋼種Dが1000秒、鋼種Eが1240秒とした。その後、熱延鋼板を厚さ3mmから1mmまで冷間圧延し1100℃で5分焼鈍して冷延鋼板を得た。得られた冷延鋼板を以下の各実施例及び各比較例で用いた。
Figure 2022155341000002
(実施例1~5)
各鋼種の組成を有する冷延鋼板に対して、レーザ光の照射によるデスケール工程を行った。
レーザ光の照射は、市販の装置(株式会社IHI検査計測製LaserClear50A)を用いて行った。この装置の可動ステージに冷延鋼板を設置し、圧延方向に沿って0.2m/分で移動させつつ、冷延鋼板の上方から板幅方向に一定速度でスキャンしてパルスレーザ光を1回照射した。1回あたりのスキャン幅は25mmとした。パルスレーザ光の照射条件は以下の通りとした。
波長:1085nm
パルス幅:220ns
発振周波数:60kHz
スキャン周波数:100Hz
レーザのビーム径:90μm
平均フルエンス:7J/cm2
(比較例1)
鋼種Aの組成を有する冷延鋼板に対して、酸洗によるデスケール工程を行った。
酸洗は、次のようにして行った。フッ酸30g/L及び硝酸100g/Lを含むフッ硝酸水溶液を恒温槽で60℃に保持し、冷延鋼板を600秒浸漬させた後、直ぐに流水で水洗して自然乾燥させた。
(比較例2)
比較例1で得られたデスケール工程後の冷延鋼板に対して、SiC研磨紙(番手#400)及び水溶性研削油を用いたベルト研磨を行った。研削深さは、表面から20μmの深さとした。
上記の実施例及び比較例で得られたデスケール工程後の冷延鋼板(オーステナイト系ステンレス冷延鋼板)に対して以下の評価を行った。
(介在物の個数密度D1,D2)
上記の実施例及び比較例で得られたオーステナイト系ステンレス冷延鋼板の幅方向及び長さ方向の中心部から50mm角の試験片を切り出し、表面の任意の箇所を、株式会社日立ハイテク製ショットキー走査電子顕微鏡SU5000を用いて200倍で撮影した。また、この試験片の表面を研磨して厚みの1/4(250μm)を除去し、表面からの深さが厚みの1/4の位置の母相を露出させた後、この露出面の任意の箇所を上記と同様にして撮影した。撮影は、0.48mm×0.64mm(0.3072mm2)を1視野とし、10視野で行った。次に、オックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製の解析ソフト(AZtecSteel)を用い、撮影された画像を二値化処理して円相当径0.5~10μmの介在物(黒色)と母相(白色)とに分けた。画像解析の条件は、以下の通りとした。
解像度:4096
最小検出サイズ:8ピクセル(0.5μm)
介在物の色閾値:47~24057
なお、8ピクセル未満のものはノイズとして除外した。
次に、二値化処理された画像において円相当径0.5~10μmの黒色領域を数えて介在物の個数を求め、得られた介在物の個数を観察視野の面積で除することによって介在物の個数密度D1,D2算出した。介在物の個数密度D1,D2の結果は、各視野における結果の平均値とした。
また、算出した介在物の個数密度D1,D2を基に、介在物の個数密度の比D2/D1を算出した。
(溶融凝固層の厚さ)
オーステナイト系ステンレス冷延鋼板を圧延方向と平行な厚み方向(表面に直交する方向)に切断し、電子顕微鏡を用いて切断面の組成像を10000倍まで観察し、コントラストの違いから溶融凝固層を判別して、その厚さを測定した。厚さは、任意の10箇所で測定し、その平均値を結果とした。
(表面粗さ測定)
オーステナイト系ステンレス冷延鋼板の表面について、JIS B0601:2013に準拠し、接触式の表面粗さ計(株式会社東京精密製サーフコム2800)を用いて算術平均粗さRaを測定した。算術平均粗さRaは、基準長さを4mmとし、端部から5mmまでの範囲を除く5箇所で測定を行い、その平均値を評価結果とした。なお、各測定位置の間は5mm以上離した。
(光沢度測定)
オーステナイト系ステンレス冷延鋼板の表面について、JIS Z8741:1997に準拠し、光沢度計(日本電色工業株式会社製PG-1M)を用いて60度鏡面光沢Gs(60°)を測定した。60度鏡面光沢Gs(60°)は、端部から5mmまでの範囲を除く5箇所で測定を行い、その平均値を評価結果とした。なお、各測定位置の間は5mm以上離した。
(耐食性試験)
耐食性試験は、JASO M609及びM610に準じ、複合サイクル試験を行った。具体的には、塩水噴霧、乾燥及び湿潤を繰り返す塩乾湿繰り返し試験を行った。塩乾湿繰り返し試験は、オーステナイト系ステンレス冷延鋼板に対して、5%のNaCl水溶液の噴霧(35℃で2時間)、乾燥(相対湿度30%、温度60℃で4時間)、及び湿潤(相対湿度95%、温度50℃で2時間)を1サイクルとし、サイクル終了毎に水洗して乾燥させた後、オーステナイト系ステンレス冷延鋼板の表面を観察し、発錆面積率の算出を行った。そして、発錆面積率が10%以上となったサイクル数を腐食発生サイクル数とした。
発錆面積率の算出は、次のような手順で行った。塩乾湿繰り返し試験後のオーステナイト系ステンレス冷延鋼板の表面を写真撮影し、端面を除いた中央の25mm×25mmの範囲における発錆部分の面積の割合を求めた。発錆部分の面積は、オーステナイト系ステンレス冷延鋼板の表面の写真を画像解析により2値化し、1ピクセルあたりの面積を算出した後、発銹部分のピクセル数をカウントして求めた。発錆面積率は、以下の式によって算出した。
発錆面積率(%)=発錆部分の面積(mm2)/観察部全体の面積(625mm2)×100
この評価では、比較例2のオーステナイト系ステンレス冷延鋼板の腐食発生サイクル数を基準とし、実施例1~5及び比較例1のオーステナイト系ステンレス冷延鋼板の腐食発生サイクル数の向上率を算出した。算出された腐食発生サイクル数の向上率が20%以上のものを「〇」、10%以上20%未満のものを「△」、10%未満のものを「×」とした。
(疲労特性試験)
疲労特性試験は、JIS Z2275:1978に準じ、平面曲げ疲労試験を行った。具体的には、オーステナイト系ステンレス冷延鋼板から幅方向長さ30mm×圧延方向長さ90mmを切り出し、幅方向両端に半径30mmのR部を形成することによって試験片を得た。この試験片を平面曲げ試験機に装着し、繰り返し数107回の疲れ試験を行った。この疲れ試験は、応力段階ごとに2個以上の試験片で試験を行い、時間強さを測定した。
この評価では、比較例2のオーステナイト系ステンレス冷延鋼板の疲労強度を基準とし、実施例1~5及び比較例1のオーステナイト系ステンレス冷延鋼板の時間強さの向上率を算出した。算出された時間強さの向上率が10%以上のものを「〇」、10%未満のものを「×」とした。
上記の各評価結果を表2に示す。
Figure 2022155341000003
表2に示されるように、介在物の個数密度の比D2/D1が0.50以下である実施例1~5のオーステナイト系ステンレス冷延鋼板は、表面の算術平均粗さRaが0.01~0.40μm、表面の60度鏡面光沢Gs(60°)が200~750%であり、平滑で光沢のある表面を有していることが確認された。また、実施例1~5のオーステナイト系ステンレス冷延鋼板は、比較例2のオーステナイト系ステンレス冷延鋼板に比べて耐食性及び疲労特性が向上した。
これに対して比較例1のオーステナイト系ステンレス冷延鋼板は、酸洗によるデスケールを行ったため、介在物の個数密度の比D2/D1が0.50を超えてしまった。そのため、比較例1のオーステナイト系ステンレス冷延鋼板は、比較例2のオーステナイト系ステンレス冷延鋼板に比べて耐食性及び疲労特性が十分に向上しなかった。
以上の結果からわかるように、本発明によれば、平滑で光沢のある表面を有し、耐食性及び疲労特性に優れるオーステナイト系ステンレス鋼材及びその製造方法、及びこれを用いた耐食性部材を提供することができる。
10 オーステナイト系ステンレス鋼材
11 母相
12 溶融凝固層
13 介在物
20 冷延鋼材
21 酸化スケール

Claims (11)

  1. 質量基準で、C:0.001~0.150%、Si:0.20~5.00%、Mn:2.50%以下、P:0.050%以下、S:0.0300%以下、Ni:6.00~20.00%、Cr:14.00~25.00%、Mo:3.00%以下、Cu:4.00%以下、N:0.400%以下、Al:3.500%以下を含み、Si+2Alが1.20%以上であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
    表面からの深さが厚みの1/4の位置の母相における円相当径が0.5~10μmの介在物の個数密度D1に対する前記表面における前記介在物の個数密度D2の比D2/D1が0.50以下であるオーステナイト系ステンレス鋼材。
  2. 質量基準で、Ti:0.001~0.500%、Nb:0.001~1.000%、V:0.001~1.000%、W:0.001~1.000%、Zr:0.001~1.000%、Co:0.001~1.200%から選択される1種以上を更に含む、請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
  3. 質量基準で、Ca:0.0001~0.0100%、B:0.0001~0.0080%、Sn:0.001~0.500%、REM:0.200%以下から選択される1種以上を更に含む、請求項1又は2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
  4. 前記表面の算術平均粗さRaが0.01~0.40μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
  5. 前記表面の60度鏡面光沢Gs(60°)が200~750%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
  6. 表層に溶融凝固層を備える、請求項1~5のいずれか一項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
  7. 前記溶融凝固層の厚さが0.50~10.00μmである、請求項6に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材。
  8. 質量基準で、C:0.001~0.150%、Si:0.20~5.00%、Mn:2.50%以下、P:0.050%以下、S:0.0300%以下、Ni:6.00~20.00%、Cr:14.00~25.00%、Mo:3.00%以下、Cu:4.00%以下、N:0.400%以下、Al:3.500%以下を含み、Si+2Alが1.20%以上であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有する冷延鋼材にレーザ光を照射し、前記冷延鋼材の表面に形成された酸化スケールを除去するデスケール工程を含むオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法であって、
    前記レーザ光の照射は、前記冷延鋼材における母相と前記酸化スケールとの界面からの深さが0.50~10.00μmまでの領域を溶融可能な条件で行われる製造方法。
  9. 前記冷延鋼材は、質量基準で、Ti:0.001~0.500%、Nb:0.001~1.000%、V:0.001~1.000%、W:0.001~1.000%、Zr:0.001~1.000%、Co:0.001~1.200%から選択される1種以上を更に含む、請求項8に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法。
  10. 前記冷延鋼材は、質量基準で、Ca:0.0001~0.0100%、B:0.0001~0.0080%、Sn:0.001~0.500%、REM:0.200%以下から選択される1種以上を更に含む、請求項8又は9に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材の製造方法。
  11. 請求項1~7のいずれか一項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼材を含む耐食性部材。
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