JP2022151128A - フェライト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに抗菌・抗ウィルス部材 - Google Patents

フェライト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに抗菌・抗ウィルス部材 Download PDF

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Abstract

【課題】抗菌性及び抗ウィルス性を長期間にわたって維持することが可能なフェライト系ステンレス鋼材を提供する。【解決手段】質量基準で、C:0.10%以下、Si:4.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Ni:4.00%以下、Cr:10.00~32.00%、Cu:0.40~4.00%を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有するフェライト系ステンレス鋼材である。フェライト系ステンレス鋼材は、ε-Cu相が表面に露出している。フェライト系ステンレス鋼材の表面におけるε-Cu相は、面積率が0.1~4.0%、平均粒子径が10~300nm、最大粒子間距離が100~1000nmである。【選択図】なし

Description

本発明は、フェライト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに抗菌・抗ウィルス部材に関する。
ステンレス鋼材は、耐食性に優れているため、厨房機器、家電機器、医療器具、内装建材、輸送機器などの広範な用途で使用されており、細菌の繁殖やウィルスの付着などが起こり易い環境下での使用も多くなっている。近年、このような細菌の繁殖やウィルスの付着などによる人体への悪影響を懸念する傾向が強まっており、とりわけ、清潔さが必須とされる医療器具や厨房機器に加え、多数の人が集まる建造物や輸送機器に用いられる各種部材にも抗菌性や抗ウィルス性が要求されている。
抗菌・抗ウィルス性を有する金属元素としては、AgやCuなどが知られていることから、これらの金属元素を添加することで抗菌・抗ウィルス性を付与したステンレス鋼材が提案されている。
例えば、特許文献1には、C:0.1重量%以下、Si:2重量%以下、Mn:2重量%以下、Cr:10~30重量%及びCu:0.4~3重量%を含み、マトリックス中にCuリッチ相(ε-Cu相)が0.2体積%以上の割合で析出している抗菌性に優れたフェライト系ステンレス鋼材が提案されている。このフェライト系ステンレス鋼材は、C:0.1重量%以下、Si:2重量%以下、Mn:2重量%以下、Cr:10~30重量%及びCu:0.4~3重量%を含むフェライト系ステンレス鋼を冷間圧延し、最終焼鈍した後、500~800℃で時効処理を施すことでCuリッチ相(ε-Cu相)を0.2体積%以上に析出させることによって製造される。
特開平9-170053号公報
特許文献1に記載のフェライト系ステンレス鋼材は、表面におけるε-Cu相の分布状態が適切に制御されていないため、所望の抗菌性が得られなかったり、抗菌性が早期に失われ易かったりすることがある。
また、ウィルスは、細菌に比べて小さいため、表面におけるε-Cu相の間にウィルスが付着した場合には、抗ウィルス性がほとんど得られないこともある。
本発明は、抗菌性及び抗ウィルス性を長期間にわたって維持することが可能なフェライト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに抗菌・抗ウィルス部材を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記のような問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定の組成を有するフェライト系ステンレス鋼材の表面におけるε-Cu相の分布状態(特に、表面におけるε-Cu相の面積率、ε-Cu相の平均粒子径及びε-Cu相の最大粒子間距離)が、抗菌性及び抗ウィルス性、並びにそれらの持続性と密接に関係していることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、質量基準で、C:0.10%以下、Si:4.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Ni:4.00%以下、Cr:10.00~32.00%、Cu:0.40~4.00%を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
ε-Cu相が表面に露出しており、
前記表面における前記ε-Cu相は、面積率が0.1~4.0%、平均粒子径が10~300nm、最大粒子間距離が100~1000nmであるフェライト系ステンレス鋼材である。
また、本発明は、質量基準で、C:0.10%以下、Si:4.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Ni:4.00%以下、Cr:10.00~32.00%、Cu:0.40~4.00%を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有するスラブを熱延して熱延材を得る熱延工程であって、仕上熱延終了温度が700~900℃である熱延工程と、
前記熱延工程で得られた前記熱延材を0.2~5℃/秒の平均冷却速度で900~500℃の間を冷却する冷却工程と、
前記冷却工程で冷却された前記熱延材を750~850℃で4時間以上加熱する熱処理工程と
を含むフェライト系ステンレス鋼材の製造方法である。
さらに、本発明は、前記フェライト系ステンレス鋼材を含む抗菌・抗ウィルス部材である。
本発明によれば、抗菌性及び抗ウィルス性を長期間にわたって維持することが可能なフェライト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに抗菌・抗ウィルス部材を提供することができる。
本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材の表面の模式図である。
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
なお、本明細書において成分に関する「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材は、C:0.10%以下、Si:4.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Ni:4.00%以下、Cr:10.00~32.00%、Cu:0.40~4.00%を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有する。
ここで、本明細書において、「鋼材」とは、鋼板などの各種材形の材料のことを意味する。また、「鋼板」とは、鋼帯を含む概念である。さらに、「不純物」とは、ステンレス鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップなどの原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
また、本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材は、Nb:1.00%以下、Ti:0.60%以下、V:1.00%以下、W:2.00%以下から選択される1種以上を更に含むことができる。
また、本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材は、Mo:3.00%以下、N:0.050%以下、Sn:0.50%以下から選択される1種以上を更に含むことができる。
また、本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材は、Al:5.00%以下、Zr:0.50%以下、Co:0.50%以下から選択される1種以上を更に含むことができる。
さらに、本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材は、B:0.010%以下、Ca:0.10%以下、REM:0.20%以下から選択される1種以上を更に含むことができる。
以下、各成分について詳細に説明する。
<C:0.10%以下>
Cは、フェライト系ステンレス鋼材の強度を向上させるとともに、Cr炭化物の生成によってε-Cu相を均一に分散析出させるのに有効な元素である。ただし、Cの含有量は多すぎると、硬質になって加工性が下がることに加え、溶接などの熱影響を受けた際に鋭敏化が生じ、フェライト系ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまう。そのため、Cの含有量の上限値は、0.10%、好ましくは0.06%、より好ましくは0.04%、更に好ましくは0.03%に制御される。一方、Cの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001%、より好ましくは0.003%、更に好ましくは0.005%である。
<Si:4.00%以下>
Siは、フェライト相(α相)生成元素であり、フェライト系ステンレス鋼材の耐食性及び強度を向上させるのに有効な元素である。ただし、Siの含有量は多すぎると、硬質化してフェライト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Siの含有量の上限値は、4.00%、好ましくは2.00%、より好ましくは1.50%、更に好ましくは1.00%に制御される。一方、Siの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.01%、より好ましくは0.05%、更に好ましくは0.10%である。
<Mn:2.00%以下>
Mnは、フェライト系ステンレス鋼材の耐熱性を向上させる元素である。しかし、Mnの含有量が多すぎると、フェライト系ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまう。また、Mnは、オーステナイト相(γ相)形成元素であるため、高温でγ相(室温ではマルテンサイト相)を生成し、フェライト系ステンレス鋼材の加工性も低下してしまう。そのため、Mnの含有量の上限値は、2.00%、好ましくは1.50%、より好ましくは1.20%、更に好ましくは1.00%に制御される。一方、Mnの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.01%、より好ましくは0.05%、更に好ましくは0.10%である。
<P:0.050%以下>
Pの含有量は多すぎると、フェライト系ステンレス鋼材の耐食性や加工性が低下してしまう。そのため、Pの含有量の上限値は、0.050%、好ましくは0.040%、より好ましくは0.030%に制御される。一方、Pの含有量の下限値は、特に限定されないが、低減には精錬コストが生じるため、好ましくは0.001%、より好ましくは0.005%、更に好ましくは0.010%である。
<S:0.030%以下>
Sの含有量は多すぎると、熱間加工性が下がってフェライト系ステンレス鋼材の製造性が低下してしまうとともに、耐食性にも悪影響を及ぼす。そのため、Sの含有量の上限値は、0.030%、好ましくは0.020%、より好ましくは0.010%に制御される。一方、Sの含有量の下限値は、特に限定されないが、低減には精錬コストが生じるため、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.0002%、更に好ましくは0.0003%である。
<Ni:4.00%以下>
Niは、フェライト系ステンレス鋼材の耐食性を向上させる元素である。しかし、Niは、Mnと同様にオーステナイト相(γ相)形成元素であるため、その含有量が多すぎると、高温でγ相(室温ではマルテンサイト相)を生成し、フェライト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。また、Niは、高価な元素であるため、製造コストの上昇にもつながる。そのため、Niの含有量の上限値は、4.00%、好ましくは2.00%、より好ましくは1.00%、更に好ましくは0.60%に制御される。一方、Niの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.005%、より好ましくは0.01%、更に好ましくは0.03%である。
<Cr:10.00~32.00%>
Crは、フェライト系ステンレス鋼材の耐食性を維持するために重要な元素である。ただし、Crの含有量は多すぎると、精錬コストの上昇を招く上に、固溶強化によって硬質化し、フェライト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Crの含有量の上限値は、32.00%、好ましくは22.00%、より好ましくは20.00%、更に好ましくは18.00%に制御される。一方、Crの含有量は少なすぎると、耐食性が十分に得られない。そのため、Crの含有量の下限値は、10.00%、好ましくは14.00%、より好ましくは15.00%、更に好ましくは16.00%に制御される。
<Cu:0.40~4.00%>
Cuは、抗菌性及び抗ウィルス性を与えるε-Cu相を析出させるのに必要な元素である。また、Cuは、フェライト系ステンレス鋼材の加工性を改善する元素でもある。このような効果を得るために、Cuの含有量の下限値は、0.40%、好ましくは0.70%、より好ましくは1.00%、更に好ましくは1.30%に制御される。一方、Cuの含有量が多すぎると、フェライト系ステンレス鋼材の耐食性が低下してしまうとともに、鋳造時に低融点相を形成して熱間加工性の低下を招く。そのため、Cuの含有量の上限値は、4.00%、好ましくは3.00%、より好ましくは2.00%、更に好ましくは1.70%に制御される。
<Nb:1.00%以下>
Nbは、析出物を形成し、その周囲にε-Cu相を均一に析出させる効果を呈する元素であり、必要に応じて添加される。ただし、Nbの含有量が多すぎると、フェライト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Nbの含有量の上限値は、1.00%、好ましくは0.80%、より好ましくは0.60%、更に好ましくは0.55%に制御される。一方、Nbの含有量の下限値は、特に限定されないが、Nbによる効果を得る観点から、好ましくは0.05%、より好ましくは0.10%、更に好ましくは0.20%、特に好ましくは0.25%である。
<Ti:0.60%以下>
Tiは、Nbと同様に析出物を形成し、その周囲にε-Cu相を均一に析出させる効果を呈する元素であり、必要に応じて添加される。ただし、Tiの含有量は多すぎると、表面疵の原因となって品質低下を招くとともに、フェライト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Tiの含有量の上限値は、0.60%、好ましくは0.30%に制御される。一方、Tiの含有量の下限値は、特に限定されないが、Tiによる効果を得る観点から、好ましくは0.01%、より好ましくは0.03%である。
<V:1.00%以下>
Vは、Nb、Tiと同様に析出物を形成し、その周囲にε-Cu相を均一に析出させる効果を呈する元素であり、必要に応じて添加される。ただし、Vの含有量が多すぎると、表面疵の原因となって品質低下を招くとともに、フェライト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Vの含有量の上限値は、1.00%、好ましくは0.50%に制御される。一方、Vの含有量の下限値は、特に限定されないが、Vによる効果を得る観点から、好ましくは0.01%、より好ましくは0.03%である。
<W:2.00%以下>
Wは、Nb、Ti、Vと同様に析出物を形成し、その周囲にε-Cu相を均一に析出させる効果を呈する元素であり、必要に応じて添加される。ただし、Wの含有量が多すぎると、表面疵の原因となって品質低下を招くとともに、フェライト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Wの含有量の上限値は、2.00%、好ましくは1.00%に制御される。一方、Wの含有量の下限値は、特に限定されないが、Wによる効果を得る観点から、好ましくは0.01%、より好ましくは0.03%である。
<Mo:3.00%以下>
Moは、フェライト系ステンレス鋼材の耐食性を改善する元素であり、必要に応じて添加される。ただし、Moの含有量は多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Moの含有量の上限値は、3.00%、好ましくは2.00%、より好ましくは1.50%、更に好ましくは1.00%に制御される。一方、Moの含有量の下限値は、特に限定されないが、Moによる効果を得る観点から、好ましくは0.01%、より好ましくは0.03%、更に好ましくは0.10%である。
<N:0.050%以下>
Nは、Moと同様にフェライト系ステンレス鋼材の耐食性を改善する元素であり、必要に応じて添加される。ただし、Nの含有量は多すぎると、硬質化してフェライト系ステンレス鋼材の加工性が低下してしまう。そのため、Nの含有量の上限値は、0.050%、好ましくは0.030%、より好ましくは0.025%、更に好ましくは0.015%に制御される。一方、Nの含有量の下限値は、特に限定されないが、Nによる効果を得る観点から、好ましくは0.001%、好ましくは0.003%である。
<Sn:0.50%以下>
Snは、Mo、Nと同様にフェライト系ステンレス鋼材の耐食性を改善する元素であり、必要に応じて添加される。ただし、Snの含有量は多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Snの含有量の上限値は、0.50%、好ましくは0.30%に制御される。一方、Snの含有量の下限値は、特に限定されないが、Snによる効果を得る観点から、好ましくは0.01%、より好ましくは0.03%である。
<Al:5.00%以下>
Alは、精錬工程において脱酸のために用いられる元素であり、必要に応じて添加される。また、Alは、フェライト系ステンレス鋼材の耐食性や耐酸化性を改善する元素でもある。ただし、Alの含有量は多すぎると、介在物の生成量が増加して品質を低下させてしまう。そのため、Alの含有量の上限値は、5.00%、好ましくは3.00%、より好ましくは2.00%、更に好ましくは1.00%である。一方、Alの含有量の下限値は、特に限定されないが、Alによる効果を得る観点から、好ましくは0.01%、より好ましくは0.05%である。
<Zr:0.50%以下>
Zrは、Alと同様にフェライト系ステンレス鋼材の耐酸化性を改善する元素であり、必要に応じて添加される。ただし、Zrの含有量は多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Zrの含有量の上限値は、0.50%、好ましくは0.30%に制御される。一方、Zrの含有量の下限値は、特に限定されないが、Zrによる効果を得る観点から、好ましくは0.01%、より好ましくは0.03%である。
<Co:0.50%以下>
Coは、Al、Zrと同様にフェライト系ステンレス鋼材の耐酸化性を改善する元素であり、必要に応じて添加される。ただし、Coの含有量は多すぎると、製造コストの上昇につながる。そのため、Coの含有量の上限値は、0.50%、好ましくは0.30%に制御される。一方、Coの含有量の下限値は、特に限定されないが、Coによる効果を得る観点から、好ましくは0.01%、より好ましくは0.03%である。
<B:0.010%以下>
Bは、フェライト系ステンレス鋼材の熱間加工性を改善する元素であり、必要に応じて添加される。また、Bは、粒界強化によりフェライト系ステンレス鋼材の二次加工性を改善する元素でもある。ただし、Bの含有量は多すぎると、溶接性や疲労強度の低下を招く。そのため、Bの含有量の上限値は、0.010%、好ましくは0.070%に制御される。一方、Bの含有量の下限値は、特に限定されないが、Bによる効果を得る観点から、好ましくは0.001%、より好ましくは0.002%である。
<Ca:0.10%以下>
Caは、Bと同様にフェライト系ステンレス鋼材の熱間加工性を改善する元素であり、必要に応じて添加される。また、Caは、硫化物を形成してSの粒界偏析を抑制することで耐粒界酸化性を改善する元素でもある。ただし、Caの含有量は多すぎると、加工性の低下を招く。そのため、Caの含有量の上限値は、0.10%、好ましくは0.05%に制御される。一方、Caの含有量の下限値は、特に限定されないが、Caによる効果を得る観点から、好ましくは0.001%、より好ましくは0.003%である。
<REM:0.20%以下>
REM(希土類元素)は、B、Caと同様にフェライト系ステンレス鋼材の熱間加工性を改善する元素であり、必要に応じて添加される。また、REMは、溶出し難い硫化物を形成し、腐食起点となるMnSの生成を抑制することで耐食性を改善する元素でもある。ただし、REMの含有量は多すぎると、製造コストの上昇につながる。そこで、REMの含有量の上限値は、0.20%、好ましくは0.10%に制御される。一方、REMの含有量の下限値は、特に限定されないが、REMによる効果を得る観点から、好ましくは0.001%、より好ましくは0.01%である。
なお、REMは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。これらは単独で用いてもよいし、混合物として用いてもよい。
本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材は、ε-Cu相が表面に露出している。
ここで、本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材の表面の模式図を図1に示す。
図1に示されるように、フェライト系ステンレス鋼材10は、母相の表面にε-Cu相11が露出している。また、ε-Cu相11が露出していない母相の表面には、不働態皮膜12が形成されている。
母相の表面にε-Cu相11を露出させることにより、フェライト系ステンレス鋼材10の表面に水分が接触した際に、ε-Cu相11からCuイオンを溶出させることができる。例えば、フェライト系ステンレス鋼材の表面に人の手が触れると、手の水分によってε-Cu相11からCuイオンを溶出させることができる。そのため、細菌が表面に付着しても殺菌することができるとともに、ウィルスが表面に付着しても不活性化し、やがて死滅させることができる。
また、ε-Cu相11が露出していない母相の表面には、不働態皮膜12が形成されているため、耐食性も良好である。
以下、表面に露出するε-Cu相の特徴について詳細に説明する。
<面積率:0.1~4.0%>
表面に露出するε-Cu相の面積率は大きいほど、Cuイオンの溶出量が多くなるため抗菌性及び抗ウィルス性を高めることができる。このε-Cu相の面積率は、結晶構造及びCuの含有量に主に依存する。そのため、ε-Cu相の面積率の上限値は、フェライト系ステンレス鋼材におけるCuの含有量を考慮すると、4.0%、好ましくは2.0%、より好ましくは1.9%、更に好ましくは1.8%に制御される。一方、ε-Cu相の面積率の下限値は、抗菌性及び抗ウィルス性を確保する観点から、0.1%、好ましくは0.3%、より好ましくは0.6%に制御される。
ここで、本明細書における「表面に露出するε-Cu相の面積率」は、フェライト系ステンレス鋼材の表面をTEM(透過型電子顕微鏡)観察することによって算出することができる。具体的には、フェライト系ステンレス鋼材の表面において、無作為に選んだ3箇所以上でTEM像を撮影した後、TEM像を画像解析してε-Cu相の面積を測定し、ε-Cu相の面積を視野面積で除することにより、「表面に露出するε-Cu相の面積率」を算出することができる。視野面積は、特に限定されないが、撮影箇所の合計で10μm2以上であることが好ましい。
<平均粒子径:10~300nm>
表面に露出するε-Cu相の平均粒子径は大きいほど、Cuイオンを長期にわたって溶出させることができるため、抗菌性及び抗ウィルス性の持続性が向上する。ただし、ε-Cu相の平均粒子径が大きすぎると、表面に露出するε-Cu相の粒子間距離が大きくなる傾向にある。そのため、表面に露出するε-Cu相の粒子間に細菌やウィルスが付着した際に、抗菌性及び抗ウィルス性が十分に得られないことがある。したがって、ε-Cu相の平均粒子径の上限値は、300nm、好ましくは250nm、より好ましくは200nmに制御される。一方、ε-Cu相の平均粒子径の下限値は、Cuイオンの溶出持続性を確保する観点から、10nm、好ましくは30nm、より好ましくは50nmに制御される。
ここで、本明細書における「表面に露出するε-Cu相の平均粒子径」は、フェライト系ステンレス鋼材の表面をTEM(透過型電子顕微鏡)観察することによって算出することができる。具体的には、フェライト系ステンレス鋼材の表面において、無作為に選んだ3箇所以上でTEM像を撮影した後、TEM像を画像解析してε-Cu相の円相当径を求め、その平均値を「表面に露出するε-Cu相の平均粒子径」とすることができる。
<最大粒子間距離:100~1000nm>
一般的に、細菌の大きさは0.5~3μmであるのに対し、ウィルスの大きさは10~200nmと非常に小さい。そのため、表面に露出するε-Cu相の最大粒子間距離が大きすぎると、特に、表面に露出するε-Cu相の粒子間にウィルスが付着した際に、抗ウィルス性が十分に得られないことがある。そのため、ε-Cu相の最大粒子間距離の上限値は、1000nm、好ましくは800nm、より好ましくは500nmに制御される。一方、表面に露出するε-Cu相の最大粒子間距離は小さいほど、抗菌性及び抗ウィルス性を高めることができるが、平均粒子径が10~300nmの比較的大きいε-Cu相とする場合、熱処理によるε-Cu相の成長過程を考慮すると、ε-Cu相の最大粒子間距離の下限値は、100nmが限界であると考えられる。そのため、ε-Cu相の最大粒子間距離の下限値は、100nm、好ましくは150nm、より好ましくは200nmに制御される。
ここで、本明細書における「表面に露出するε-Cu相の最大粒子間距離」は、フェライト系ステンレス鋼材の表面をTEM(透過型電子顕微鏡)観察することによって算出することができる。具体的には、フェライト系ステンレス鋼材の表面において、無作為に選んだ3箇所以上でTEM像を撮影した後、TEM像を画像解析し、ε-Cu相の重心(母点)位置を求めてボロノイ分割する。次に、隣接するボロノイ領域におけるε-Cu相の重心間距離を粒子間距離として測定し、その最大値を「表面に露出するε-Cu相の最大粒子間距離」とすることができる。
本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材は、ビッカース硬さが160Hv以下であることが好ましい。このようなビッカース硬さに制御することにより、加工性を確保することができるため、様々な用途に用いることが可能となる。
なお、ビッカース硬さの下限値は、特に限定されないが、一般的に100Hvである。
ここで、ビッカース硬さは、JIS Z2244:2009に準拠して測定することができる。ビッカース硬さの測定において、測定荷重は10kgとし、無作為に選んだ5箇所以上で測定を行い、その平均値をビッカース硬さの結果とする。
本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材は、JIS Z2801:2010に準拠した抗菌試験において、抗菌活性値が2.0以上であることが好ましい。このような抗菌活性値であれば、抗菌性が高いことを客観的に担保することができる。
本発明における「抗菌試験」は、JIS Z2801:2010に準拠し、細菌として黄色ぶどう球菌を用いて行う。
本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材は、ISO 21702:2019に準拠した抗ウィルス試験において、抗ウィルス活性値が2.0以上であることが好ましい。このような抗ウィルス活性値であれば、抗ウィルス性が高いことを客観的に担保することができる。
抗ウィルス試験は、ISO 21702:2019に準拠し、ウィルスとしてA型インフルエンザウィルスを用いて行う。
本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材の種類は、特に限定されないが、熱延材又は冷延材であることが好ましい。
熱延材の場合、その厚みは、一般的に3mm以上である。また、冷延材である場合、その厚みは、一般的に3mm未満である。
本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材は、熱延工程、冷却工程及び熱処理工程を含む方法によって製造することができる。
熱延工程は、上記の組成を有するスラブを熱延して熱延材を得る工程である。具体的には、上記の組成を有するスラブを粗圧延した後、仕上熱延することによって熱延材が得られる。この熱延材は、コイル状に巻取ってもよい。
なお、上記の組成を有するスラブは、特に限定されないが、例えば、上記の組成を有するステンレス鋼を溶製し、鍛造又は鋳造によって得ることができる。
仕上熱延は、仕上熱延終了温度が700~900℃となるようにして行われる。この温度範囲に仕上熱延終了温度を制御することにより、仕上熱延終了から冷却工程においてε-Cu相の微細な「種」を少量且つ均一に析出させ易くなる。その結果、熱処理工程でε-Cu相を成長させることにより、表面におけるε-Cu相の分布状態を上記のように制御することが可能となる。これに対して、仕上熱延終了温度が700℃未満であると、仕上熱延終了から冷却工程においてε-Cu相の微細な「種」が十分に析出しない。その結果、熱処理工程でε-Cu相を成長させると、表面におけるε-Cu相の平均粒子径や最大粒子間距離が大きくなりすぎてしまう。また、仕上熱延終了温度が900℃を超えると、組織が粗大化して加工性及び靭性が低下してしまう。
なお、熱延工程におけるその他の条件は、スラブの組成に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
冷却工程は、ε-Cu相の微細な「種」を析出させるための工程であり、熱延工程で得られた熱延材を0.2~5℃/秒の平均冷却速度で900~500℃の間を冷却することによって行われる。このような条件で緩やかに冷却することにより、ε-Cu相の析出温度域(900~500℃)でε-Cu相の微細な「種」を少量且つ均一に析出させることができる。このε-Cu相の微細な「種」は、熱処理工程において優先的に成長するため、比較的大きなε-Cu相が均一に分散した状態となる。その結果として、表面におけるε-Cu相の分布状態を上記のように制御することが可能となる。これに対して、900~500℃の間を5℃/秒よりも大きい平均冷却速度で冷却すると、ε-Cu相の微細な「種」が十分に析出しない。その結果、熱処理工程でε-Cu相を成長させると、表面におけるε-Cu相の平均粒子径や最大粒子間距離が大きくなりすぎてしまう。また、900~500℃の間を0.2℃/秒よりも小さい平均冷却速度で冷却すると、ε-Cu相の微細な「種」の析出量が多くなってしまう。その結果、熱処理工程において比較的小さなε-Cu相が多量に析出した状態となる。
なお、冷却工程における冷却方法は、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。例えば、コイル状に巻取った熱延材を保温ボックスに入れるだけで、復熱によって上記の冷却条件で緩やかに冷却することが可能となる。また、冷却温度の細かな調整は、保温ボックスに供給するガス(例えば、Arガス)の供給量を制御することによって行うことができる。
熱処理工程は、冷却工程で析出したε-Cu相の微細な「種」を成長させる工程であり、冷却工程で冷却された熱延材を750~850℃で4時間以上加熱することによって行われる。このような条件で熱処理を行うことにより、表面におけるε-Cu相の分布状態を上記のように制御することが可能となる。加熱温度が750℃未満であったり、加熱時間が4時間未満であったりすると、ε-Cu相の微細な「種」が十分に成長せず、ε-Cu相の平均粒子径が小さくなりすぎてしまう。また、加熱温度が850℃を超えると、ε-Cu相が母相に固溶してしまう。
熱処理工程後には、必要に応じて、酸洗及び/又は研磨を行う表層除去工程を更に行ってもよい。表層除去工程を行うことにより、表面に形成されたスケールやCr貧化層の除去を行うことができる。
表層除去工程で除去される表層の厚さは、スラブの組成などに応じて適宜調整すればよく、特に限定されない。例えば、Cr貧化層を除去する場合には、10μm以上の厚さの表層を除去することが好ましい。
フェライト系ステンレス鋼材が冷延材である場合、熱処理工程後に、冷間圧延を行い、次いで300秒以内の焼鈍処理を行う冷間圧延・焼鈍工程を更に行ってもよい。なお、熱処理工程後に表層除去工程を行う場合、表層除去工程後に冷間圧延・焼鈍工程を行ってもよいし、冷間圧延・焼鈍工程後に表層除去工程を行ってもよい。
焼鈍処理を300秒以内の短時間とすることにより、表面に露出するε-Cu相への影響を抑えつつ、冷間圧延で生じた歪を除去することができる。
なお、冷間圧延及び焼鈍処理の条件は、スラブの組成などに応じて適宜調整すればよく、特に限定されない。
本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材は、抗菌性及び抗ウィルス性を長期間にわたって維持することができるため、抗菌・抗ウィルス部材に用いることができる。また、本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材は、ビッカース硬さを160Hv以下にすることができるため、抗菌・抗ウィルス部材に適した形状に加工することも容易である。
本発明の実施形態に係る抗菌・抗ウィルス部材は、上記のフェライト系ステンレス鋼材を含む。この抗菌・抗ウィルス部材に用いられる上記のフェライト系ステンレス鋼材は、当該技術分野において公知の方法によって各種形状に加工されていてもよい。
本発明の実施形態に係る抗菌・抗ウィルス部材は、上記のフェライト系ステンレス鋼材以外の部材を更に含むことができる。
抗菌・抗ウィルス部材としては、特に限定されないが、厨房機器、家電機器、医療器具、建造物の内装建材、輸送機器、実験器具、衛生器具などに用いられる、抗菌性や抗ウィルス性が要求される各種部材が挙げられる。
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
表1に示す鋼種A~Jの組成(残部はFe及び不純物である)を有するステンレス鋼を溶製し、鍛造してスラブとした後、仕上熱延終了温度を表2に示す通りに制御して厚さ3mmに熱圧して熱延材を得た。熱延材はコイル状に巻取り、速やかに保温ボックスに入れた後、900~500℃の間を表2に示す平均冷却速度で冷却した。平均冷却速度は、保温ボックスに供給するArガスの供給量によって調節した。次に、冷却した熱延材を、バッチ焼鈍炉を用いて、大気雰囲気下、800℃で24時間加熱する熱処理を行った。次に、熱処理を行った熱延材を切削加工によって100mm(圧延方向)×100mm(幅方向)に切り出した後、酸洗してスケールを除去し、P400番バフ(#400)によって研磨仕上げしてフェライト系ステンレス鋼材を得た。
Figure 2022151128000001
Figure 2022151128000002
得られたフェライト系ステンレス鋼材について以下の評価を行った。
(表面に露出するε-Cu相の面積率)
フェライト系ステンレス鋼材から直径3mmの円板を切り出し、厚さ0.5mmまで片面を研削した後、研削した面を電解研磨することによって試験片を作製した。この試験片の電解研磨した面について、無作為に選んだ10箇所(視野面積の合計:15μm2)でTEM像を撮影した後、TEM像を画像解析してε-Cu相の面積を測定した。測定したε-Cu相の面積を視野面積で除することにより、ε-Cu相の面積率を算出した。
(表面に露出するε-Cu相の平均粒子径)
上記の面積率と同様にして得られたTEM像を画像解析してε-Cu相(30個)の円相当径を求め、その平均値を算出することにより、ε-Cu相の平均粒子径を得た。
(表面に露出するε-Cu相の最大粒子間距離)
上記の面積率と同様にして得られたTEM像を画像解析し、上記した方法に従って隣接するボロノイ領域におけるε-Cu相の重心間距離を粒子間距離として測定し、その最大値を求めることにより、ε-Cu相の最大粒子間距離を得た。
(抗菌試験:抗菌活性値)
フェライト系ステンレス鋼材から50mm(圧延方向)×50mm(幅方向)の試験片を切り出した後、JIS Z2801:2010に準拠して抗菌試験を行い、抗菌活性値(初期)を求めた。抗菌試験では、細菌として黄色ぶどう球菌を用い、密着フィルムとして40mm×40mmのポリエチレンフィルムを用いた。また、菌液の接種量は0.4mLとし、試験開始の直前に試験片の全面を純度99%以上のエタノールを吸収させた局法ガーゼで軽く拭き、十分に乾燥させた後に試験を実施した。
また、抗菌効果の持続性を評価するために、試験片を500mLの水に浸漬し、恒温槽にて80℃で16時間保持した後、上記と同様に抗菌試験を行い、抗菌活性値(水浸漬後)を求めた。
(抗ウィルス試験:抗ウィルス活性値)
フェライト系ステンレス鋼材から50mm(圧延方向)×50mm(幅方向)の試験片を切り出した後、ISO 21702:2019に準拠して抗ウィルス試験を行い、抗ウィルス活性値を求めた。抗ウィルス試験では、ウィルスとしてA型インフルエンザウィルスを用い、密着フィルムとして40mm×40mmのポリエチレンフィルムを用いた。また、ウィルス懸濁液(試験液)の接種量は0.4mLとし、試験開始の直前に試験片の全面を純度99%以上のエタノールを吸収させた局法ガーゼで軽く拭き、十分に乾燥させた後に試験を実施した。
また、抗ウィルス効果の持続性を評価するために、試験片を500mLの水に浸漬し、恒温槽にて80℃で16時間保持した後、上記と同様に抗ウィルス試験を行い、抗ウィルス活性値(水浸漬後)を求めた。
(ビッカース硬さ)
JIS Z2244:2009に準拠してビッカース硬さを測定した。測定は、株式会社ミツトヨ製のビッカース硬さ試験機HV-100を用い、測定荷重を10kgとし、無作為に選んだ10箇所で表面のビッカース硬さを測定して、その平均値を結果とした。
上記の各評価結果を表3に示す。
Figure 2022151128000003
表3に示されるように、No.1~7のフェライト系ステンレス鋼材(本発明例)は、所定の組成及び表面におけるε-Cu相の分布状態を有していたため、抗菌活性値(初期及び水浸漬後)、抗ウィルス活性値(初期及び水浸漬後)及びビッカース硬さの結果が全て良好であった。
これに対してNo.8のフェライト系ステンレス鋼材(比較例)は、仕上熱延終了温度が低すぎるとともに平均冷却速度が大きすぎたため、ε-Cu相の最大粒子間距離が大きくなりすぎた。その結果、抗ウィルス性(2.0以上の抗ウィルス活性値)が得られなかった。
No.9及び10のフェライト系ステンレス鋼材(比較例)は、平均冷却速度が大きすぎたため、ε-Cu相の平均粒子径や最大粒子間距離が大きくなった。その結果、抗ウィルス性(2.0以上の抗ウィルス活性値)が得られなかった。
No.11のフェライト系ステンレス鋼材(比較例)は、平均冷却速度が小さすぎたため、ε-Cu相の最大粒子間距離が小さくなった。その結果、水浸漬後の抗菌活性値及び抗ウィルス活性値が低く、抗菌性及び抗ウィルス性の維持効果が十分でなかった。
No.12及び13のフェライト系ステンレス鋼材(比較例)は、所定の組成を有していないため、表面におけるε-Cu相の分布状態を適切に制御できなかった。その結果、抗菌性(2.0以上の抗菌活性値)及び抗ウィルス性(2.0以上の抗ウィルス活性値)が得られなかった。
No.14(比較例)は、熱延中に割れが生じてしまい、フェライト系ステンレス鋼材を製造することができなかった。
以上の結果からわかるように、本発明によれば、抗菌性及び抗ウィルス性を長期間にわたって維持することが可能なフェライト系ステンレス鋼材及びその製造方法、並びに抗菌・抗ウィルス部材を提供することができる。
10 フェライト系ステンレス鋼材
11 ε-Cu相
12 不働態皮膜

Claims (17)

  1. 質量基準で、C:0.10%以下、Si:4.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Ni:4.00%以下、Cr:10.00~32.00%、Cu:0.40~4.00%を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
    ε-Cu相が表面に露出しており、
    前記表面における前記ε-Cu相は、面積率が0.1~4.0%、平均粒子径が10~300nm、最大粒子間距離が100~1000nmであるフェライト系ステンレス鋼材。
  2. 質量基準で、Nb:1.00%以下、Ti:0.60%以下、V:1.00%以下、W:2.00%以下から選択される1種以上を更に含む、請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
  3. 質量基準で、Mo:3.00%以下、N:0.050%以下、Sn:0.50%以下から選択される1種以上を更に含む、請求項1又は2に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
  4. 質量基準で、Al:5.00%以下、Zr:0.50%以下、Co:0.50%以下から選択される1種以上を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
  5. 質量基準で、B:0.010%以下、Ca:0.10%以下、REM:0.20%以下から選択される1種以上を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
  6. ビッカース硬さが160Hv以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
  7. JIS Z2801:2010に準拠した抗菌試験において、抗菌活性値が2.0以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
  8. ISO 21702:2019に準拠した抗ウィルス試験において、抗ウィルス活性値が2.0以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
  9. 抗菌・抗ウィルス部材に用いられる請求項1~8のいずれか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
  10. 質量基準で、C:0.10%以下、Si:4.00%以下、Mn:2.00%以下、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Ni:4.00%以下、Cr:10.00~32.00%、Cu:0.40~4.00%を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有するスラブを熱延して熱延材を得る熱延工程であって、仕上熱延終了温度が700~900℃である熱延工程と、
    前記熱延工程で得られた前記熱延材を0.2~5℃/秒の平均冷却速度で900~500℃の間を冷却する冷却工程と、
    前記冷却工程で冷却された前記熱延材を750~850℃で4時間以上加熱する熱処理工程と
    を含むフェライト系ステンレス鋼材の製造方法。
  11. 前記スラブは、質量基準で、Nb:1.00%以下、Ti:0.60%以下、V:1.00%以下、W:2.00%以下から選択される1種以上を更に含む、請求項10に記載のフェライト系ステンレス鋼材の製造方法。
  12. 前記スラブは、質量基準で、Mo:3.00%以下、N:0.050%以下、Sn:0.50%以下から選択される1種以上を更に含む、請求項10又は11に記載のフェライト系ステンレス鋼材の製造方法。
  13. 前記スラブは、質量基準で、Al:5.00%以下、Zr:0.50%以下、Co:0.50%以下から選択される1種以上を更に含む、請求項10~12のいずれか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼材の製造方法。
  14. 前記スラブは、質量基準で、B:0.010%以下、Ca:0.10%以下、REM:0.20%以下から選択される1種以上を更に含む、請求項10~13のいずれか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼材の製造方法。
  15. 前記熱処理工程後に、酸洗及び/又は研磨を行う表層除去工程を更に含む、請求項10~14のいずれか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼材の製造方法。
  16. 前記熱処理工程後に、冷間圧延を行い、次いで300秒以内の焼鈍処理を行う冷間圧延・焼鈍工程を更に含む、請求項10~15のいずれか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼材の製造方法。
  17. 請求項1~9のいずれか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼材を含む抗菌・抗ウィルス部材。
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