JP2022148357A - シール付軸受 - Google Patents

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Abstract

【課題】シール摺動面とシール部材のシールリップ間をシールリップの複数の突起によって流体潤滑状態にすることが可能なシール付軸受において、外部からの給油がない場合でも突起とシール摺動面間の油不足を防止する。【解決手段】シールリップ10は、グリースGを保持する凹状に形成されたグリース溜まり15を有する。グリース溜まり15は、周方向に隣り合う突起12同士の間の部位である繋ぎ部14に形成されている。【選択図】図2

Description

この発明は、転がり軸受及びシール部材を備えるシール付軸受に関する。
転がり軸受の早期破損を防止するため、シール部材が利用されている。例えば、自動車、各種建設用機械等の車両に搭載されたトランスミッション内にはギアの摩耗粉等の異物が混在するため、シール部材により、摩耗粉等の軸受内部への侵入を防止している。
一般に、シール部材は、ゴム状材料等の弾性材で環状に形成されたシールリップを有する。軌道輪、スリンガ等、軸受回転に伴ってシール部材に対して周方向に相対回転する相手部品には、シールリップと摺接するシール摺動面が形成されている。
一般的なシール部材は、シールリップとシール摺動面が全周で滑り接触し、微視的には固体接触領域を伴っている。シールリップの引き摺り抵抗(シールトルク)は、軸受トルクの上昇を招く。また、その滑り接触は、転がり軸受の温度上昇の一因となる。また、軸受内部が外部に対してシール部材で閉塞されるので、軸受内部と外部間の圧力差によってシールリップがシール摺動面に押し付けられる吸着作用が生じてシールトルクが増大することがある。これらのことから、一般的なシール部材では、軸受の高速運転に限界がある。
シール部材のシールリップを相手部品と非接触に配置し、ラビリンスシールを形成すれば、シールトルクを無くすことは可能だが、シール部材及び相手部品間の隙間の大きさについて所定粒径の異物侵入を防止できるような各種誤差の管理が難しい。
これに対し、シールリップが周方向に並んだ複数の突起を有し、これら複数の突起が周方向に隣り合う突起同士の間を通じて軸受内部と外部に連通する隙間を生じさせ、かつ軸受回転に伴って隙間から突起とシール摺動面間に引き摺り込まれる潤滑油の油膜によってシールリップ及びシール摺動面間を流体潤滑状態にすることができるシール付軸受が提案されている(特許文献1)。
特許文献1のシール付軸受は、所定粒径の異物侵入を防ぐことが可能な隙間を通じて転がり軸受の内部空間と外部間での潤滑油の流通を許すことにより、シール摺動面上での潤滑油を潤沢とし、軸受回転に伴って潤滑油を突起とシール摺動面間に引き摺り込ませる際のくさび効果により、油膜を厚く形成して各突起とシール摺動面を油膜で完全に分離させ、シールリップとシール摺動面間を流体潤滑状態にすることができる。このため、特許文献1のシール付軸受によれば、所定粒径の異物侵入を防ぎつつ軸受の高速運転に対応可能でありながら、シールトルクを著しく低減することができる。
国際公開第2016/143786号
特許文献1のシール付軸受において、シールリップとシール摺動面の潤滑に用いられる潤滑油は、跳ねかけ、オイルバス等で外部から供給された機械油や、内部空間に封入されているグリースからしみ出た基油である。
潤滑油としてグリースの基油だけを用いるグリース潤滑方式の場合、グリースからしみ出た基油でシールリップとシール摺動面間を潤滑することになる。グリースの封入量を増やせば、グリースからしみ出た基油が突起やシール摺動面に供給され易くなるが、その反面、グリースの攪拌抵抗が大きくなる。軸受回転速度が高速になる運転条件の場合、攪拌による発熱を抑えるため、グリースの封入量は、少ない方がよく、内部空間の容積の1/3以下、場合によっては1/6以下に設定される。このような場合、グリースがシールリップやシール摺動面の近傍で安定的に存在するとは限らず、このため、基油を潤滑油として突起やシール摺動面に安定供給できず、各突起とシール摺動面の摺動部を潤滑する基油が不足する懸念がある。
一方、跳ねかけ等の油潤滑方式を採用する場合、外部の機械油が潤滑油としてシール付軸受に供給されるまで時間を要することがある。このため、初期潤滑剤としてシール付軸受の内部空間にグリースを封入することもあるが、この場合でもグリース潤滑と同様の懸念がある。
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、シール摺動面とシール部材のシールリップ間をシールリップの複数の突起によって流体潤滑状態にすることが可能なシール付軸受において、外部からの給油がない場合でも突起とシール摺動面間の油不足を防止することにある。
上記の課題を達成するため、この発明は、転がり軸受の内部空間を外部に対して密封するシール部材と、前記シール部材に対して周方向に摺動するシール摺動面とを備え、前記シール部材は、環状に形成されたシールリップを有し、前記シールリップは、周方向に並んだ複数の突起を有し、前記複数の突起は、周方向に隣り合う前記突起同士の間に隙間を生じさせ、かつ軸受回転に伴って前記隙間から前記突起と前記シール摺動面間に引き摺り込まれる潤滑油の油膜によって前記シールリップ及び前記シール摺動面間を流体潤滑状態にすることが可能な態様で形成されているシール付軸受において、前記シールリップは、グリースを保持する凹状に形成されたグリース溜まりを有し、前記グリース溜まりは、周方向に隣り合う前記突起同士の間の部位と、前記突起上の部位とのうちの少なくとも一方の部位に形成されている構成を採用した。
上記構成によれば、突起とシール摺動面の摺動部に近いシールリップの突起上や突起同士の間の部位のグリース溜まりにグリースが保持され、そのグリースから基油がしみ出て突起やシール摺動面に供給される。このため、外部からの給油がない場合でも突起とシール摺動面間の油不足が防止される。
前記グリース溜まりは、周方向に隣り合う前記突起同士の間の部位に配置されているとよい。突起にグリース溜まりを形成する場合、グリース溜まりの縁が油膜形成に悪影響を及ぼさないようにするため、突起上に長く容量の大きなグリース溜まりを形成することが困難である。これに対して、周方向に隣り合う突起同士の間であれば、グリース溜まりを比較的長く形成して容量を増やすことが容易であり、グリース溜まりに保持されたグリースからしみ出た基油を軸受回転時に突起とシール摺動面間に引き摺り込ませて潤滑に寄与させることができる。
前記グリース溜まりは、前記突起に連続しているとよい。このようにすると、突起間の部位のグリース溜まりに保持されたグリースから突起に直接的に基油が供給されるので、より効果的に油不足を防止することができる。
前記グリース溜まりは、前記シール摺動面と直交しかつ前記シール摺動面に沿った方向の位置に関して前記突起と前記シール摺動面の摺動部と同じ位置に配置されているとよい。このようにすると、グリース溜まりに保持されたグリースからしみ出た基油が軸受回転時、速やかに突起とシール摺動面間に引き摺り込まれるので、より効果的に油不足を防止することができる。
この発明に係るシール付軸受は、例えば、車両のトランスミッション、ディファレンシャル、プロペラシャフト、ターボチャージャ、工作機械、風力発電機及びホイール軸受の中のいずれか一つの回転部を支持する用途に好適である。
この発明は、上記構成の採用により、シール摺動面とシール部材のシールリップ間をシールリップの複数の突起によって流体潤滑状態にすることが可能なシール付軸受において、グリースを用いて突起とシール摺動面間を潤滑するときの油不足を防止することができる。
この発明の第一実施形態に係るシール付軸受を示す断面図 図1のシールリップの突起付近の拡大図 第一実施形態に係るシールリップの突起付近を示す斜視図 この発明の第二実施形態に係るシール付軸受を図2のIV-IV線の切断面で示す部分拡大断面図 この発明の第二実施形態に係るシールリップの突起付近を示す斜視図 この発明の第三実施形態に係るシールリップの突起付近を示す斜視図 この発明の第四実施形態に係るシールリップの突起付近を示す斜視図
この発明の一例として、第一実施形態に係るシール付軸受を添付図面の図1~図6に基づいて説明する。
図1に示すこのシール付軸受は、転がり軸受1と、転がり軸受1の両側に配置された二つのシール部材2と、を備える。
転がり軸受1は、内輪3と、外輪4と、内輪3と外輪4との間に介在する所定数の転動体5と、所定数の転動体5を保持する保持器6とで構成されている。シール部材2は、転がり軸受1の内部空間7を外部に対して密封する。この密封の目的は、このシール付軸受の周囲である外部の異物が内外輪3、4間の内部空間7に侵入することを抑制して転がり軸受1の早期損傷を防止することであり、内部空間7を液密に密封することではない。
内輪3及び外輪4は、転動体5に対応の軌道面を有する。内輪3は、回転軸Sに取り付けられ、回転軸Sと一体に回転する。外輪4は、ハウジング、ギア等、回転軸からの荷重を負荷させる部材に取り付けられる。転動体5は、内輪3及び外輪4間に介在しながら公転する。
転動体5として、玉が採用されている。このシール付軸受は、深溝玉軸受となっている。
シール付軸受の潤滑方式は、外部から供給される潤滑油(図示省略、以下、同じ。)を用いる油潤滑方式又は内部空間7に封入されたグリース(図示省略、以下、同じ。)のみを用いるグリース潤滑方式のいずれでもよい。油潤滑方式とする場合、例えば、潤滑油をシール付軸受に掛けるはね掛け方式、又はシール付軸受の下部をオイルバスに漬ける油浴方式が挙げられる。油潤滑方式とする場合であって、初期潤滑剤として内部空間7に適量のグリースが封入されていてもよい。
回転軸Sは、例えば、車両のトランスミッション、ディファレンシャル、等速ジョイント、プロペラシャフト、ターボチャージャ、工作機械、風力発電機及びホイール軸受の中のいずれか一つに備わる回転部として設けられる。
なお、以下では、シール付軸受の軸受中心軸(図示省略、以下、同じ。)に沿った方向を「軸方向」という。軸方向に直交する方向を「径方向」という。軸受中心軸回りの円周に沿った方向を「周方向」という。図1において、軸受中心軸は、回転輪とする内輪3の中心軸であり、同図において左右方向に相当する。
外輪4の内周の端部に、シール部材2を保持するシール溝8が形成されている。シール部材2は、その外周縁をシール溝8に圧入することにより、外輪4に取り付けられる。
このシール付軸受を囲む外部には、ギアの摩耗粉、クラッチの摩耗粉、微小砕石等、このシール付軸受の組み込み先に応じた異物が存在する。このような粉状の異物は、シール部材2の周囲の流体の流れによってシール部材2付近に到達し得る。シール部材2は、外部から内部空間7への異物侵入を抑制するためのものである。
シール部材2は、金属板製の芯金9と、環状に形成されたシールリップ10とを有する。芯金9は、周方向に連なる環状に形成されたプレス加工部品になっている。
シールリップ10は、弾性材により形成されている。弾性材としては、例えば、加硫成形されたゴム材、ゴム材相当のエラストマ等が挙げられる。ゴム材として、例えば、ニトリルゴム(NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等が挙げられる。
内輪3の外周には、シールリップ10に対して周方向に摺動するシール摺動面11が形成されている。シール摺動面11は、周方向全周に連続する円筒面状になっている。シールリップ10は、ラジアルリップになっている。ここで、ラジアルリップは、軸方向に沿ったシール摺動面又は軸方向に対して45°以内の鋭角の勾配をもったシール摺動面と密封作用を奏するシールリップであって、当該シール摺動面との間に径方向の締め代をもったもののことをいう。
シールリップ10は、軸方向に一定の幅で径方向に連続する円環状に形成された腰部と、腰部から外部側へ曲がる突片状に形成された頭部とを有する。
シールリップ10の頭部とシール摺動面11間に締め代が設定されている。シール部材2を図1の所定配置に取り付けると、シールリップ10は、その締め代により、シール摺動面11に押し付けられて、図2に示すように外部側へ曲がったゴム状弾性の変形を生じ、シールリップ10の緊迫力を生む。シール部材2の取り付け誤差、製造誤差等は、シールリップ10の撓み具合の変化によって吸収される。
図3に示すように、シールリップ10は、周方向に並んだ複数の突起12を有する。突起12は、その全長に亘って周方向と直交する方向に延びている。突起12の高さは、その全長に亘って一定になっている。突起12は、周方向に一定のピッチで並んでいる。突起12の全長は、シール摺動面11との間に径方向の締め代をもった範囲の全域に亘っている。シールリップ10の全体的な形状は、突起12のピッチに対応した回転対称形になっている。
突起12は、その周方向幅の中央から周方向両側に向かう程に低くなっている。図示例の突起12を周方向に横断する方向に切断したときの断面は、半円状になっている。
図1のようにシール部材2を転がり軸受1に取り付ける際、複数の突起12がシール摺動面11に接触する。図2に示すように、突起12は、軸受中心軸を含む仮想平面上においてシール摺動面11に対して直角な方向に高さをもつため、シールリップ10の緊迫力に抗して突っ張る。これにより、周方向に隣り合う突起12同士の間かつシール摺動面11とシールリップ10との間において、内部空間7と外部に連通する隙間13が生じさせられる。突起12は、シール摺動面11との間に隙間13側で大、突起12側で小となるくさび状隙間を形成する。
図2、図3に示すように、周方向に隣り合う突起12同士の間の部位は、これら突起12の根元間に亘る繋ぎ部14になっている。ここで、突起12の根元は、前述のくさび状隙間を形成するための突起12の高さが実質的に無くなる部位のことをいう。隙間13の流路断面高さは、繋ぎ部14とシール摺動面11との間の径方向間隔に相当する。繋ぎ部14は、シール摺動面11と非接触の状態に保たれる。シールリップ10は、複数の突起12上でのみシール摺動面11と摺動するようになっている。
突起12は、図2に示すように、軸受中心軸を含む仮想平面上において、概ねシール摺動面11に沿った領域をもつ。この領域は、シール摺動面11に沿った方向(図示例においては軸方向に相当)に幅をもって存在する。このため、軸受回転に伴う突起12とシール摺動面11の摺動部、すなわち、突起12が隙間13内の潤滑油をシール摺動面11との間に周方向に引き摺り込む際のくさび効果によって油膜形成が促進され、突起12とシール摺動面11との間に油膜が介在させられる領域は、前述の仮想平面上においてシール摺動面11に沿った方向に所定以上の有限長Lで生じる。このような突起12とシール摺動面11の摺動部は、Hertzの弾性接触理論に基づく接触楕円状に生じると考えられるので、その接触楕円状の長軸が有限長Lに相当する。
シールリップ10とシール摺動面11間の相対回転の周速が一定未満のとき、微視的には固体接触領域を含む境界潤滑状態ないし混合潤滑状態となる。軸受回転が速くなり、突起12とシール摺動面11の相対回転の周速が一定以上になると、突起12とシール摺動面11間の油膜厚さは、突起12とシール摺動面11間の合成粗さσを余裕で上回り、各突起12とシール摺動面11が油膜で完全に分離させられた流体潤滑状態になる。これにより、シールリップ10とシール摺動面11間を油膜で完全に分離させた流体潤滑状態にすることができる。このような流体潤滑状態になれば、シール部材2によるシールトルクを非接触式のシールと同等まで低減し、ひいてはシール付軸受の温度上昇を抑制し、シールリップ10の吸着作用を防止することができる。
ここで、油膜パラメータΛ≧3であれば、摺動部の潤滑モードは流体潤滑状態であると考えられる。油膜パラメータΛは、摺動部での最小油膜厚さhに対する合成粗さσの比であり、Λ=h/σである。最小油膜厚さhは、弾性流体潤滑理論に基づいて求められる。合成粗さσ=√((Rq1 +Rq2 )/2)である。Rqは、前述の摺動部を成すシール摺動面11の二乗平均平方根粗さである。Rqは、突起12の表面における二乗平均平方根粗さとすると、二乗平均平方根粗さは、JIS(B0601:2013)に規定された二乗平均平方根粗さRqの値(μm)である。
油膜パラメータΛは合成粗さσに依存し、合成粗さσが小さいほど油膜を厚くすることができる。前述の周速が極低速のときから突起12とシール摺動面11の摺動部を流体潤滑状態とするため、その摺動部における合成粗さσを0.9μm以下にすることが好ましい。例えば、合成粗さσが0.9μm、潤滑油をミッション油(30cst,40℃)、雰囲気温度を20℃、周速0.2m/sの計算条件において、Johnsonチャートによる油潤滑モードを判定したところ、最小油膜厚さhが2.8μm、油膜パラメータΛが3以上となり、潤滑モードがE-Iモードとなった。したがって、突起12とシール摺動面11の合成粗さσが0.9μm以下であれば、軸受の実使用領域において確実に流体潤滑状態になることが見込まれる。
例えば、車両のトランスミッション内の回転部を支持する用途では、一般に、跳ねかけ、オイルバス等の適宜の方式でミッションオイルが潤滑油としてシール付軸受に給油される。その潤滑油は、オイルポンプで循環されており、その循環経路に設けられたオイルフィルタによって濾過される。粒径0.05mmを超える大きな異物が内部空間7に侵入すると、軸受寿命に悪影響を及ぼすと考えられる。突起12の高さを0.07mm以下に設定すれば、そのような大きな異物が容易に通過できない隙間13を生じさせることができる。
突起12の高さが0.07mm以下の場合、例えば、周方向に隣り合う突起12同士の間隔が0.3mm以上2.6mm以下、突起12の周方向幅が0.2mm以上1.0mm以下、かつ突起12の表面の曲率半径を0.15mm以上2.0mm未満の範囲に設定することができる。この例では、その油温30~120℃、シールリップ10とシール摺動面11の相対的な周速が0.2m/s以上の場合に、計算上、Greenwood-Johnsonの決めた無次元数である粘性パラメータgvと弾性パラメータgeに基づく潤滑領域図(Johnsonチャート)において等粘度-剛体領域(R-Iモード)又は等粘度-弾性体領域(E-Iモード,ソフトEHL)のいずれかの潤滑モード、すなわち前述の流体潤滑状態になると考えられる。なお、前述の間隔が2.6mmの場合、突起12とシール摺動面11との間には、計算上、約3μmの油膜が形成され、2.6mmより小さい場合に油膜が厚くなる傾向がある。前述の間隔が2.6mm以下では、軸受回転トルクが低下傾向(すなわちシールトルクの低下傾向)を示す。前述の間隔が0.3mm未満では、突起12を成形するための転写面をエンドミル加工で金型に形成することが困難になる。
例えば、車両のトランスミッション等では、寒冷地での始動当初、ミッションオイル等の潤滑油の流動性が低く、図1に示すシール付軸受に潤滑油が潤沢に供給されるまでに時間を要することがある。このとき、前述の流体潤滑状態を実現できる程に十分な潤滑油がシールリップ10とシール摺動面11間に存在せず、油不足になる可能性がある。
また、グリース潤滑方式を採用する場合、軸受回転トルクや発熱を抑制するため、内部空間7に封入されたグリースを少なくすることが好ましいが、内部空間7で攪拌されるグリースがシールリップ10やシール摺動面11の近傍で安定的に存在するとは限らず、また、前述のような狭い隙間13に比較的入り込みにくい(図2参照)。このため、前述の流体潤滑状態を実現できる程に十分な潤滑油(基油)がシールリップ10とシール摺動面11間に存在せず、油不足になる可能性がある。
シールリップ10は、図2、図3に示すように、前述のような油不足を防止するためのグリース溜まり15を有する。グリース溜まり15は、グリースG(図2においてドット模様で示す。)を保持する凹状に形成されている。
グリース溜まり15は、その全長に亘って周方向と直交する方向に延びる溝部からなる。
グリース溜まり15は、シール摺動面11と直交しかつシール摺動面11に沿った方向の位置に関して突起12とシール摺動面11の摺動部(図2に示す有限長Lの領域)と同じ位置に配置されている。
グリース溜まり15の外部側の端部は、外部に向かって開放されており、グリース溜まり15の内部空間7側の端部は閉塞されている。
グリース溜まり15の周方向幅は、繋ぎ部14の周方向幅よりも小さく、繋ぎ部14の周方向幅の中央部を占めている。
例えば、突起12の高さが0.04mmの場合、突起12の根元に対するグリース溜まり15の深さを0.2~0.3mmとし、グリース溜まり15の底部での弾性材の肉厚を1mm以上確保することにより、繋ぎ部14のグリース溜まり15付近がシールリップ10の緊迫力で撓み、シール摺動面11に接触する事態を避けることができる。
グリース溜まり15は、シールリップ10のうち、各繋ぎ部14のみに配置されている。なお、グリース溜まり15を含まない繋ぎ部があってもよく、各繋ぎ部14に複数本のグリース溜まりを形成してもよい。
シール部材2の取り付け前に予めグリース溜まり15にグリースGを初期潤滑剤として充填することができる。また、油潤滑方式における初期潤滑剤又はグリース潤滑方式とするために内部空間7にグリースを封入する場合、封入されたグリースが攪拌によって隙間13に押し出され、空き容量のあるグリース溜まり15に入り込むことによって、グリース溜まり15にグリースGが蓄えられる。
シールリップ10におけるグリース溜まり15の容量や配置は、各グリース溜まり15に保持されたグリースGからしみ出た基油によって前述の流体潤滑状態を実現し得るように適宜に決定すればよい。
上述のように、図1~図3に示すこのシール付軸受は、転がり軸受1の内部空間7を外部に対して密封するシール部材2と、シール部材2に対して周方向に摺動するシール摺動面11とを備え、シール部材2が環状に形成されたシールリップ10を有し、シールリップ10が周方向に並んだ複数の突起12を有し、複数の突起12が周方向に隣り合う突起12同士の間に隙間13を生じさせ、かつ軸受回転に伴って隙間13から突起12とシール摺動面11間に引き摺り込まれる潤滑油の油膜によってシールリップ10及びシール摺動面11間を流体潤滑状態にすることが可能な態様で形成されているものであって、そのシールリップ10がグリースGを保持する凹状に形成されたグリース溜まり15を有し、そのグリース溜まり15が周方向に隣り合う突起12同士の間の部位である繋ぎ部14に形成されていることにより、突起12とシール摺動面11の摺動部に近い繋ぎ部14のグリース溜まり15にグリースGが保持され、そのグリースGから基油がしみ出て突起12やシール摺動面11に供給されるため、外部からの給油がない場合でも突起12とシール摺動面11間の油不足を防止することができる。
また、このシール付軸受は、グリース溜まり15が周方向に隣り合う突起同士の間の繋ぎ部14に配置されていることにより、グリース溜まり15の縁が突起12とシール摺動面11の摺動部の油膜形成に悪影響を及ぼさないようにしつつ、グリース溜まり15を比較的長く形成して容量を増やすことができ、また、グリース溜まり15に保持されたグリースGからしみ出た基油を軸受回転時に突起12とシール摺動面11間に引き摺り込ませて潤滑に寄与させることができる。
また、このシール付軸受は、グリース溜まり15がシール摺動面11と直交しかつシール摺動面11に沿った方向の位置に関して突起12とシール摺動面11の摺動部と同じ位置に配置されていることにより、繋ぎ部14のグリース溜まり15に保持されたグリースGからしみ出た基油が軸受回転時、速やかに突起12とシール摺動面11間に引き摺り込まれるので、より効果的に油不足を防止することができる。
この発明に係る第二実施形態を図4、図5に示す。なお、以下では、第一実施形態との相違点を述べるに留める。
第二実施形態に係るシールリップ20は、繋ぎ部21の周方向全幅に及ぶグリース溜まり22を有する。グリース溜まり22は、周方向に隣り合う突起12のいずれとも連続している。
くさび状隙間を形成する突起12の表面とグリース溜まり22の内面との境界は変曲部になっている。グリース溜まり22の内面は、突起12の表面に比してグリースGが比較的ずり上りにくい形状になっている。
グリース溜まり22の全長は、グリースGを保持可能な容量を大きくすると共に内部空間で攪拌されたグリースが入り易くするため、突起12、繋ぎ部21よりも長くなっている。
第二実施形態に係るシール付軸受は、グリース溜まり22が突起12に周方向に連続していることにより、グリース溜まり22に保持されたグリースGから突起12に直接的に基油が供給されるので、より効果的に油不足を防止することができる。
なお、繋ぎ部に二つ以上のグリース溜まりを形成し、その一つを周方向一方側の突起に連続させ、別の一つを周方向他方側の突起に連続させてもよい。
この発明に係る第三実施形態を図6に示す。同図に示すシールリップ30の繋ぎ部31は、両端閉塞の溝部からなるグリース溜まり32を有する。グリース溜まり32の外部側の端部が閉塞されているため、第一実施形態に比して、突起12同士の間の流路断面高さを外部側の端部で小さくすることができる。このため、第三実施形態に係るシール付軸受は、第一実施形態よりも異物侵入の防止性に優れる。なお、グリース溜まり32を突起12に連続させてもよいし、突起12よりも長く形成したものに変更することも可能である。
この発明に係る第四実施形態を図7に示す。同図に示すシールリップ40は、各突起41と各繋ぎ部42のうち、各突起41だけにグリース溜まり43を有する。
突起41の高さ及び周方向幅は、突起41の長さ方向に内部空間側に向かう程に小さくなっている。グリース溜まり43は、突起41とシール摺動面11の前述の摺動部(図2参照)よりも突起41の長さ方向に内部空間側に寄った位置から突起41の長さ方向に延びる溝状に形成されている。内部空間に封入されたグリースは、突起41の比較的低い部位を超えてグリース溜まり43に入ることができる。
第四実施形態に係るシール付軸受は、突起41とシール摺動面11の摺動部に近い突起42のグリース溜まり43にグリースGが保持され、そのグリースGから基油がしみ出て突起41やシール摺動面11に供給されるため、外部からの給油がない場合でも突起41とシール摺動面11間の油不足を防止することができる。
また、第四実施形態に係るシール付軸受は、グリース溜まり43が突起41上に形成されているため、第一実施形態に比して、個々のグリース溜まり43の容量が少ないが、突起41同士の間の流路断面高さを外部側の端部で小さくすることができる。
なお、図示説明は省略するが、図1~6に示すような突起12同士の間の部位に配置されたグリース溜まり15、22、32と、図7に示すような突起41上の部位に配置されたグリース溜まり43との両方を採用したシール付軸受に構成することも可能である。
また、上述の各実施形態では、グリース溜まりとして、長さ方向を特定の方向とし、その長さ方向の一端部又は両端部で閉塞した溝状のものを例示したが、丸穴状等の他の凹状に変更することも可能である。
また、上述の各実施形態では、シール部材を芯金と加硫ゴム材とから構成したものを例示したが、この発明は、単材の弾性材により形成されるシール部材に適用することも可能である。
また、上述の各実施形態では、ラジアルリップを例示したが、この発明は、軸方向に対して45°を超える勾配をもったシール摺動面と密封作用を奏するシールリップ(アキシアルリップ)に適用することも可能である。
また、上述の各実施形態では、内輪回転のラジアル玉軸受を例示したが、この発明は、外輪回転の軸受、スラスト軸受、ころ軸受等の適宜の形式にも適用することも可能である。また、シール摺動面を回転輪に形成した例を示したが、固定輪に形成する場合にこの発明を適用することも可能である。
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 転がり軸受
2 シール部材
7 内部空間
10、20、30、40 シールリップ
11 シール摺動面
12、41 突起
13 隙間
14、21、31、42 繋ぎ部
15、22、32、43 グリース溜まり

Claims (5)

  1. 転がり軸受の内部空間を外部に対して密封するシール部材と、前記シール部材に対して周方向に摺動するシール摺動面とを備え、
    前記シール部材は、環状に形成されたシールリップを有し、前記シールリップは、周方向に並んだ複数の突起を有し、前記複数の突起は、周方向に隣り合う前記突起同士の間に隙間を生じさせ、かつ軸受回転に伴って前記隙間から前記突起と前記シール摺動面間に引き摺り込まれる潤滑油の油膜によって前記シールリップ及び前記シール摺動面間を流体潤滑状態にすることが可能な態様で形成されているシール付軸受において、
    前記シールリップは、グリースを保持する凹状に形成されたグリース溜まりを有し、前記グリース溜まりは、周方向に隣り合う前記突起同士の間の部位と、前記突起上の部位とのうちの少なくとも一方の部位に形成されていることを特徴とするシール付軸受。
  2. 前記グリース溜まりは、周方向に隣り合う前記突起同士の間の部位に配置されている請求項1に記載のシール付軸受。
  3. 前記グリース溜まりは、前記突起に連続している請求項2に記載のシール付軸受。
  4. 前記グリース溜まりは、前記シール摺動面と直交しかつ前記シール摺動面に沿った方向の位置に関して前記突起と前記シール摺動面の摺動部と同じ位置に配置されている請求項2又は3に記載のシール付軸受。
  5. 車両のトランスミッション、ディファレンシャル、等速ジョイント、プロペラシャフト、ターボチャージャ、工作機械、風力発電機及びホイール軸受の中のいずれか一つの回転部を支持する請求項1から4のいずれか1項に記載のシール付軸受。
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