JP6833414B2 - シール付軸受 - Google Patents

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Description

この発明は、転がり軸受とシール部材とを備えるシール付軸受に関する。
例えば、自動車、各種建設用機械等の車両に搭載されたトランスミッション内にはギアの摩耗粉等の異物が混在する。このため、シール部材により、軸受内部への異物侵入を防ぎ、転がり軸受の早期破損を防止することが行われている。
一般的なシール部材は、ゴム材又は樹脂材で形成されたシールリップを有する。軌道輪、スリンガ等、シール部材に対して周方向に回転する回転輪には、シールリップを滑り接触させるシール摺動面が形成されている。シールリップとシール摺動面が全周に亘って滑り接触するため、シールリップの引き摺り抵抗(シールトルク)による軸受トルクの上昇を招く。また、その滑り接触の摩擦は、転がり軸受の温度上昇を促進する。この温度上昇が進むと、軸受内部と外部間の圧力差による吸着作用を招き、その摩擦が大きくなる。
このような接触式のシール部材の採用に伴うシールトルクを抑えるため、シール摺動面にショットピーニングを施すことにより、最大粗さRy2.5μm以下の微小凹凸を有するシール摺動面とし、その凹部に貯留した潤滑油によりシールリップ及びシール摺動面間の油膜形成を促進することが提案されている(特許文献1)。
また、耐圧シール軸受においては、内輪の外周の段部側壁をシール摺動面とし、シールリップの先端を境とした軸受内部側の面にリブ状の接触部を放射状に形成したものがある。シール部材を外輪に取り付けると、内輪のシール摺動面とシールリップとの間には、リブ状の接触部と非接触部とが周方向に交互に生じる。これにより、シールリップとシール摺動面間の接触面積を小さくして両者間の摩擦抵抗を少なくすることが提案されている(特許文献2)。
特開2007−107588号公報 特開2003−166548号公報
しかしながら、特許文献1のようなショットピーニングによる低トルク化は、シールリップとシール摺動面間のすべり面積を低減させることでもたらされているが、その低減に限界があるので、達成し得る低トルク化が限られていた。
また、軸受運転の初期は、潤滑油の温度が比較的低いため、潤滑油の粘度が比較的高く、油膜を形成し易い潤滑条件にあるが、運転継続で油温が上昇して粘度が低下すると、油膜が切れ易い潤滑条件となる。軸受を高速運転する程、シールリップに対するシール摺動面の相対的な周速が大となり、シールリップ及びシール摺動面間の摩擦に伴う発熱が大となるので、油温上昇やシールリップの摩耗が進み易くなる。また、発熱に伴う軸受内部と外部との圧力差により吸着作用を招く。このため、ショットピーニングによる低トルク化では、シール付軸受の高速運転や許容回転速度に潤滑条件から限界があり、電気自動車(EV)では、駆動系の回転部を支持するシール付軸受の高速運転の要求に応えきれない。
非接触式のシール部材を採用すれば、シールトルクを無くすことは可能だが、その代わり、シール部材及びシール摺動面間には、軸受内部と外部間に亘って連通している隙間が周方向全周に亘って生じる。所定粒径を超える異物が、隙間を通じて軸受内部へ侵入すると軸受寿命に悪影響を及ぼす懸念がある。非接触式のシール部材では、隙間の大きさを所定粒径の異物侵入を防止できるように管理することが難しい。
特許文献2のように放射状のリブ状接触部を採用すれば、リブ状接触部とシール摺動面の接触関係で隙間の大きさを管理することが容易になるが、リブ状接触部の摩耗が進行すると、シールリップとシール摺動面の接触面積が大きくなって摩擦抵抗が増え、低トルク性が低下する。このため、特許文献2のシール付軸受においても、EVの駆動系のような高速運転の要求に応えきれない可能性がある。
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、所定粒径以上の異物侵入を防ぎつつ、シール付軸受の低トルク化及び温度上昇の抑制を図ることである。
上記の課題を達成するため、この発明は、軸受内部と外部を区切るシール部材と、前記シール部材が取り付けられた静止輪と、軸受運転によって回転させられる回転輪とを備えており、前記回転輪がシール摺動面を有しており、前記シール部材が、軸受停止時に前記シール摺動面に接する接触部と、当該シール摺動面との間に隙間を形成する非接触部とを周方向に交互にもったシールリップを有しており、前記隙間が、前記軸受内部と外部間に亘って連通しているシール付軸受において、前記シールリップが、軸受運転時に当該シールリップと前記シール摺動面間で引き摺られる潤滑油によって前記シール摺動面と当該シールリップを分離する油膜を形成できるように前記接触部と前記非接触部を周方向全周に亘って滑らかな曲線で交互に連ねた波状になっている構成を採用したものである。
上記構成によれば、軸受停止時、波状で周方向全周に亘っているシールリップのうち、接触部がシール摺動面に接触し、非接触部がシール摺動面との間に隙間を形成する。その隙間は、軸受内部と外部間に亘って連通しており、軸受に供給される潤滑油は、その隙間に入る。軸受運転時、回転輪の回転速度が高まれば、波状のシールリップとシール摺動面間に介在する潤滑油が回転輪の回転方向へ引き摺られ、くさび効果によって各接触部とシール摺動面とを分離する油膜が形成される。その結果、波状のシールリップとシール摺動面とが完全に分離されて直接接触しない状態(すなわち流体潤滑状態)で軸受運転が行われる。流体潤滑状態では、摩擦係数が著しく低減されるので、シールリップが実質的に摩耗せず、シールリップ及びシール摺動面間での発熱が抑えられる。また、隙間を通じて潤滑油が軸受内部と外部との間を出入りする通油性が得られる。これら発熱の抑制や通油性によって軸受の温度上昇が抑えられるので、シールリップに対する吸着作用も防止される。
また、隙間の大きさに応じて異物が隙間経由で軸受内部へ侵入することが防止されるので、所定粒径以上の異物侵入を防止することも可能である。
例えば、前記接触部が周方向に均一間隔で配置されていることが好ましい。このようにすると、前記シール摺動面の全周に亘って油膜形成を均一に促進することができる。
また、前記非接触部が、当該非接触部の周方向中央から周方向両側に向かって次第に前記シール摺動面に接近する形状になっており、前記シール摺動面が、周方向全周に亘って周方向に沿った形状になっていることが好ましい。このようにすると、前記回転輪がどちらに回転する場合でも、前述のくさび効果を生じさせることができる。
また、前記シール部材が前記非接触部の変形を防ぐリブ部を有することが好ましい。このようにすると、吸着作用や潤滑油の圧力が非接触部に作用しても、隙間の大きさが変化することを抑えられる。
また、前記接触部の肉厚が前記シール摺動面に直角な方向に関して前記非接触部よりも薄く設定されていることが好ましい。このようにすると、接触部が非接触部よりもシール摺動面に直角な方向へ変形し易くなるので、油膜によって接触部をシール摺動面から分離し易くすることができる。
上述のように、この発明は、上記構成の採用により、所定粒径以上の異物侵入を防ぎつつ、シール付軸受の低トルク化及び温度上昇の抑制を図ることができる。
この発明の第1実施形態に係るシール付軸受の停止時を軸方向から眺めた外観で示す部分正面図 図1のシール付軸受をアキシアル平面で切断した部分断面図 図2のシールリップ付近の拡大図 図1のシールリップ付近の拡大図 図1のシール付軸受の運転時を軸方向から眺めた外観で示す部分正面図 この発明の第2実施形態に係るシール付軸受の停止時を軸方向から眺めた外観で示す部分正面図 図6のシール付軸受をリブ部の直近を通るアキシアル平面で切断した部分断面図 この発明の第3実施形態に係るシール付軸受をアキシアル平面で切断した部分断面図 この発明の第4実施形態に係るシール付軸受をアキシアル平面で切断した部分断面図 この発明に係るシール付軸受を備えるトランスミッションの一例を示す断面図
以下、この発明に係る第1実施形態を図1〜5に基づいて説明する。第1実施形態は、図1、2に示すように、転がり軸受1と、転がり軸受1の両側に配置されたシール部材2とを備えるシール付軸受になっている。
転がり軸受1は、内輪3と、外輪4と、複数の転動体5とを有し、回転軸6を回転自在に支持する。
回転軸6は、例えば、車両のトランスミッション、ディファレンシャル、等速ジョイント、プロペラシャフト、ターボチャージャ、工作機械、風力発電機、及びホイール軸受の中のいずれか1つの回転部として設けられる。
以下、転がり軸受1の軸受中心軸に沿った方向を「軸方向」という。軸方向に直交する方向を「径方向」という。軸受中心軸回りの円周方向を「周方向」という。転がり軸受1の軸受中心軸と、回転軸6の回転中心軸とは、同軸に設定されている。
内輪3は、外周に軌道面を有する環状の軸受部品からなる。外輪4は、内周に軌道面を有する環状の軸受部品からなる。内輪3の外周と外輪4の内周によって環状空間が形成される。複数の転動体5は、内輪3の軌道面と外輪4の軌道面間に介在しながら公転する。転動体5として、玉が採用されている。
内輪3は、回転軸6に取り付けられる。回転軸6が回転する軸受運転時、内輪3は、回転軸6と一体に回転する回転輪となる。一方、外輪4は、ハウジング等、回転軸6からの荷重を負荷させる部材に取り付けられる。外輪4は、軸受運転時、内輪3及び回転軸6に対して静止する静止輪となる。
外輪4の内周には、シール溝7が周方向全周に亘って形成されている。シール部材2は、その外周縁をシール溝7に圧入することにより、外輪4に取り付けられる。
外輪4に取り付けられたシール部材2は、転がり軸受1の軸受内部8と外部を区切る。シール部材2を境界として軸方向のうち転動体5側にある前述の環状空間が軸受内部8となる。シール部材2を境界とした外部側(転動体5に対して反対側)には、ギアの摩耗粉、クラッチの摩耗粉、微小砕石等、転がり軸受1の組み込み先に応じた異物が存在する。このような粉状の異物は、潤滑油や雰囲気の流れによって転がり軸受1付近に到達し得る。シール部材2は、外部から軸受内部8への異物侵入を抑える。
内輪3の外周には、シール摺動面9が形成されている。シール摺動面9は、軸受停止時から内輪3が回転する際、シール部材2のシールリップ10に対して内輪3の回転方向に摺動する表面からなる。シール摺動面9は、周方向全周に亘って周方向に沿った形状になっている。図示のシール摺動面9は、軸受中心軸と同心の円筒面状になっている。
図2及び3に示すように、シール部材2は、金属板製の芯金11と、芯金11に付着したゴム材12とによって形成されている。芯金11は、周方向全周に亘る環状に形成されたプレス加工部品になっている。ゴム材12は、加硫成形されたゴム部になっている。ゴム材12は、芯金11の少なくともシール摺動面9側の端部13に付着している。
シールリップ10は、ゴム材12に形成されている。シールリップ10は、ゴム材12のうち、芯金11から内輪3側へ径方向に突き出た部分に含まれている。シールリップ10は、ゴム材12のうち、周方向全周に亘って軸方向に一定幅で径方向に延びる腰部14から軸方向に対して傾きをもって突出している。なお、ゴム材12は、芯金11の全体に付着させてもよいし、芯金11の端部13だけに付着させてもよい。
図1、3、4は停止時のシール付軸受を示している。これらに図示するように、シールリップ10は、軸受停止時にシール摺動面9に接する接触部15と、シール摺動面9との間に隙間16を形成する非接触部17とを周方向に交互にもっている。隙間16は、軸受内部8と外部間に亘って連通している。シールリップ10は、軸受運転時に内輪3の回転方向へ引き摺る潤滑油によってシール摺動面9とシールリップ10を分離する油膜を形成できるように接触部15と非接触部17を周方向全周に亘って滑らかな曲線で交互に連ねた波状になっている。
具体的には、接触部15は、軸受停止時、接触部15の先端において、シール摺動面9に対してラジアル接触する。ここで、ラジアル接触とは、軸方向に沿ったシール摺動面又は軸方向に対して45°以内の鋭角の勾配をもったシール摺動面に接触し、かつ当該シール摺動面との間に径方向の締め代をもって接触することをいう。この締め代により、シール摺動面9に径方向に押し付けられたシールリップ10が外部側へ曲がった弾性変形を生じ、シールリップ10の緊迫力を生む。シール部材2の取り付け誤差、製造誤差等は、シールリップ10の曲がり具合の変化によって吸収される。シールリップ10の緊迫力をなるべく抑えるため、シールリップ10の腰部14における軸方向の肉厚は、なるべく薄くすることが好ましい。
非接触部17は、当該非接触部17の周方向中央から周方向両側に向かって次第にシール摺動面9に接近する円弧形状になっている。非接触部17とシール摺動面9との間に締め代は設定されていない。
非接触部17の内側面17aは、シール摺動面9の曲率と異なる曲率の円弧状になっている。非接触部17の外側面17bは、内側面17aに沿った円弧状になっている。このため、非接触部17の肉厚は、シール摺動面9に直角な方向(すなわち径方向)に関し、非接触部17の周方向長さ全域において一定又は実質的に一定となっている。
接触部15の内側面15aは、シール摺動面9に沿った円弧状になっている。接触部15の外側面15bは、周方向に隣接する両側の非接触部17の外側面17bを延長し、接触部15の周方向中央で繋げた形状になっている。このため、接触部15の肉厚は、シール摺動面9に直角な方向に関して非接触部17よりも薄くなっている。
接触部15は、周方向に均一間隔で配置されている。非接触部17も周方向に均等な間隔で配置されている。このため、シールリップ10は、接触部15及び非接触部17の数に対応の回転対称性をもった形状になっている。
シール部材2の取り付け時、シールリップ10のうち、シール摺動面9に接触するのは、各接触部15のみであり、これら接触部15がシールリップ10の緊迫力に抗して突っ張ることにより、周方向に隣り合う接触部15、15間で非接触部17とシール摺動面9との間に隙間16が形成される。その隙間16の大きさδは、非接触部17の周方向中央においてシール摺動面9と直角な方向(第1実施形態においては径方向)に最大となっている。また、その隙間16は、非接触部17から当該非接触部17に隣接する両側の接触部15に向かって次第に小さくなるくさび状となっている。軸受停止時に隙間16が取り付け時のくさび状を保っている。軸受回転時には、非接触部17に潤滑油の圧力、雰囲気圧力等の外力が作用することによって非接触部17が変形し得るが、それでも隙間16のくさび状が残るようにシールリップ10の波状や非接触部17の肉厚が決定されている。
隙間16の大きさδは、非接触部17の内側面17aの先端と、シール摺動面9との間で規定すればよい。これにより、隙間16の外部側入口で所定粒径以上の異物が隙間16へ侵入することを抑えられる。
第1実施形態に係るシール付軸受は、上述のようなものであり、図4に示すように、軸受停止時、波状で周方向全周に亘っているシールリップ10のうち、各接触部15がシール摺動面9に接触し、各非接触部17がシール摺動面9との間に隙間16を形成する。その隙間16は、図3に示すように、軸受内部8と外部間に亘って連通している。転がり軸受1の外部から供給される潤滑油は、その隙間16に入る。軸受運転時、内輪3の回転速度が高まれば、図5に示すように、波状のシールリップ10とシール摺動面9間に介在する潤滑油(図5中に潤滑油をドット模様で示す。)がシール摺動面9の回転方向へ引き摺られる。隙間16がくさび状になっているので、引き摺られる潤滑油は、くさび効果によって、接触部15をシール摺動面9から浮かせる。このため、接触部15とシール摺動面9とを分離する油膜が形成される。その結果、波状のシールリップ10とシール摺動面9とが完全に分離されて直接接触しない状態(すなわち流体潤滑状態)で軸受運転が行われる。流体潤滑状態では、摩擦係数μが著しく低減されるので、シールリップ10が実質的に摩耗せず、シールリップ10とシール摺動面9間での発熱が抑えられる。また、隙間16を通じて潤滑油が軸受内部8と外部との間を出入りする通油性が得られる。これら発熱の抑制や通油性によって転がり軸受1の温度上昇が抑えられるので、シールリップ10に対する吸着作用も防止される。なお、軸受停止から運転初期の短時間においては、軸受運転速度が低く、シールリップ10に対するシール摺動面9の相対的な周速が一定未満となっており、くさび効果が弱くて接触部15とシール摺動面9間が境界潤滑状態になっている。軸受運転速度が高まって前述の周速が一定速度以上になれば、シールリップ10とシール摺動面9間が流体潤滑状態に保たれる。ここで、流体潤滑状態とは、Greenwood−Johnsonの決めた無次元数である粘性パラメータgと弾性パラメータgに基づく潤滑領域図において、等粘度-剛体領域(R−Iモード)又は等粘度-弾性体領域(E−Iモード,ソフトEHL)のいずれかの潤滑モードに分布することに相当する。
また、隙間16の大きさδを超える粒径の異物は、隙間16を簡単には通過することができない。このため、隙間16の大きさδに応じて、外部の異物が隙間16を経由して軸受内部8へ侵入することが防止される。
このように、第1実施形態に係るシール付軸受は、所定粒径以上の異物侵入を防ぎつつ、シール付軸受の低トルク化及び温度上昇の抑制を図ることができる。
また、第1実施形態に係るシール付軸受は、シールリップ10とシール摺動面9間の摩擦係数μを流体潤滑状態によって極限まで低減し、ひいては、シールトルクを顕著に低減して軸受回転トルクの低トルク化を著しく図り、従来であればシールリップの摩耗やシールリップ及びシール摺動面間の摺動による発熱の問題が起こるようなシール摺動面の周速(例えば30m/s以上)で運転される場合においても、シールリップの摩耗を実質的に無くすと共に前述の発熱も抑えることができる。このため、第1実施形態に係るシール付軸受は、従来達成できなかったシール付軸受の高速運転の要求にも応えることができる。
例えば、車両のトランスミッションの支持用途では、前述のシール摺動面9の周速0.2m/s以上において、シールリップ10とシール摺動面9間が流体潤滑状態になることが好ましい。周速0.2m/sは、車両のトランスミッションにおいて停止から速やかに到達する速度であるから、軸受運転時間の略全時間においてシールリップ10及びシール摺動面9間を流体潤滑状態にすることができる。
また、周方向に隣り合う接触部15間の間隔が小さい程、1回転当りの接触部15の通過回数が多くなり、シール摺動面9の周方向全周に亘って油膜が連続する状態に保たれ、各接触部15に対するくさび効果が途絶えることなく生じ易くなるので、流体潤滑状態を保ち易くなる。
例えば、接触部とシール摺動面間の理論油膜厚さは、R−IモードにおいてMartinの最小膜厚計算式を用い、E−IモードにおいてHerrebrughの最小膜厚計算式を用いて求めることができる。接触部とシール摺動面間の油膜厚さが薄すぎると摩擦係数μが増大し、逆に厚すぎると異物の侵入抑制効果を悪化させる可能性が出てくるので、シール摺動面の最大高さ粗さRzを上回る油膜厚さを前提で最適な油膜厚さを設定すればよい。ここで、最大高さ粗さRzは、JIS規格のB0601:2013で規定された最大高さ粗さのことをいう。
また、シール摺動面の最大高さ粗さRzを小さくする方が、流体潤滑状態とするのに必要な油膜の厚さが小さくなる。例えば、シール摺動面の最大高さ粗さRzを1μm未満にしてもよい。
この発明の第2実施形態を図6、7に基づいて説明する。なお、以下では、第1実施形態との相違点を述べるに留める。
第2実施形態に係るシール部材20は、非接触部17の変形を防ぐリブ部21を有する。リブ部21は、非接触部17の外側面における周方向中央部と、腰部14と、芯金11の端部13に付着するゴム材部分とを一連に繋ぐようにゴム材12に形成された補強部になっている。非接触部17に外力が作用すると、非接触部17がシール摺動面9に対して接近する方又は遠ざかる方へ変形しようとする。このとき、リブ部21は、ゴム材12の芯金11との付着部分、腰部14と一体的に当該変形に抵抗する強度を発揮し、その非接触部17の変形を抑える。このため、第2実施形態に係るシール付軸受は、隙間16が狭くなって通油性が過度に低下したり、隙間16が拡大して所定粒径以上の異物が通過し易くなったりすることを防止することができる。なお、リブ部21は、図示のような形態に限られず、隙間16の大きさが所定範囲に保たれるように適宜の形態を採用すればよい。
この発明の第3実施形態を図8に基づいて説明する。
第3実施形態に係るシール部材30は、シールリップ31よりも転がり軸受の外部側に位置する外側リップ32を有する。シールリップ31と外側リップ32は、腰部33から分岐している。シールリップ31の接触部34は、軸受停止時、その先端において、シール摺動面35に対してアキシアル接触するようになっている。ここで、アキシアル接触とは、径方向に沿ったシール摺動面又は径方向に対して45°未満の鋭角の勾配をもったシール摺動面に接触し、かつ当該シール摺動面との間に軸方向の締め代をもって接触することをいう。
内輪36は、周方向全周に亘って形成された溝37を有する。溝37の溝底から拡径する両溝側面のうち、内輪36の軌道面側の方の溝側面が、シール摺動面35となっている。シール摺動面35は、径方向に対して45°未満の鋭角の勾配をもっている。
シールリップ31の変形を防ぐリブ部38は、非接触部39の外側面から、シールリップ31と外側リップ32の分岐部まで連続するように形成されている。
外側リップ32は、溝37のうち外部側の溝壁との間にラビリンスすきま40を形成する。このため、粒径50μm以上の異物は、外部から溝37内へ容易には侵入できない。ラビリンスすきま40でシールリップ31への異物到達を困難にしているので、低トルク化を阻害しないように異物侵入をより抑制することができる。一般に、アキシアル接触のシールリップは、ラジアル接触のシールリップに比べて、軸受運転中に起こす軸方向の移動量が大きく、その最大移動時に対応の非接触部39とシール摺動面35との間の隙間41が大きく開くことがある。このため、アキシアル接触のシールリップは、異物侵入に対して不利となる。第3実施形態では、そのような不利をラビリンスすきま40のシール効果で補うことができる。
この発明の第4実施形態を図9に基づいて説明する。
第4実施形態では、シールリップ50の接触部51と、シール摺動面52とに、ショットピーニングによる凹凸が形成されている。同図中では凹凸を誇張して描いているが、ショットピーニングによる凹凸は微小であり、例えば、シール摺動面52の最大高さ粗さRzは、2.5μm以下とされる。ショットピーニングによる凹凸を接触部51に形成する手段として、シールリップ50の成型に用いる型にショットピーニングを行うことにより、型表面に微小な凹凸を形成し、その成型時に当該凹凸を転写する製法が挙げられる。第4実施形態は、シール摺動面52の無数の微小凹部53,接触部51の無数の微小凹部54に貯留した潤滑油により、シールリップ50とシール摺動面52間の油膜形成を促進することができる。なお、ショットピーニングによる凹凸は、接触部51とシール摺動面52の少なくとも一方に採用すればよい。
上述の実施形態のいずれかに該当するシール付軸受が、車両のトランスミッションの回転部を支持する例を図10に示す。図示のトランスミッションは、段階的に変速比を変化させる多段変速機になっており、その回転部(例えば入力軸S1および出力軸S2)を回転可能に支持するシール付軸受Bとして、上述の実施形態のようなシール付軸受を備えている。図示のトランスミッションは、エンジンの回転が入力される入力軸S1と、入力軸S1と平行に設けられた出力軸S2と、入力軸S1から出力軸S2に回転を伝達する複数のギア列G1〜G4と、各ギア列G1〜G4と入力軸S1または出力軸S2との間に組み込まれた図示しないクラッチとを有する。トランスミッションは、クラッチを選択的に係合させることで使用するギア列G1〜G4を切り替え、入力軸S1から出力軸S2に伝達する回転の変速比を変化させるものである。出力軸S2の回転は出力ギアG5に出力され、その出力ギアG5の回転がディファレンシャルギヤ等に伝達される。入力軸S1と出力軸S2は、それぞれシール付軸受Bで回転可能に支持されている。また、このトランスミッションは、ギアの回転に伴う潤滑油のはね掛けにより、又はハウジングHの内部に設けられたノズル(図示省略)からの潤滑油の噴射により、はね掛け又は噴射された潤滑油が各シール付軸受Bの側面にかかるようになっている。
また、自動車のトランスミッションやディファレンシャルギヤ等の駆動系の回転部を支持する用途の場合、隙間の大きさδは、0.05mm以下にすることが好ましい。本出願人がオートマチックトランスミッション(AT)、マニュアルトランスミッション(MT)、無段変速機(CVT)のそれぞれについて複数の車両から回収した潤滑油について、潤滑油中の異物の数と粒径分布を調べた。なお、ここでの測定は、ハイアックロイコ社製の型番8000Aの測定機にて、微粒きょう雑物質量法を用いた。回収対象とした車両メーカー、車種、走行距離はばらばらであるが、ギアが多用されるAT/MTの方がCVTよりも異物の粒径、異物の数ともに多い傾向があった。また、トランスミッションの形式を問わず、粒径の分布は、50μm以下のものが99.9%以上を占めた。粒径50μmを超える異物の数は、走行距離が大きくなってもAT/MTの場合で1000個未満、CVTの場合で200個未満であった。このことは、近年、オイルフィルタの性能が向上し、潤滑油中の異物が微細化している(つまり大きな粒径の異物がオイルフィルタで取り除かれる)ことを示している。
一方、軸受内部の潤滑油が異物を含む場合に、その異物の粒径と軸受寿命との関係についても調査を行なったところ、粒径の大きな異物が多くなる程に軸受寿命が低下する傾向は存在するが、近年のトランスミッション内の環境のように粒径50μm以上の異物が少々存在する程度であれば、シールが無い状態で異物が軸受内に入っても、転がり軸受の寿命比(実際寿命の計算寿命に対する比)が、自動車のトランスミッションでの実用に十分耐えうる値を示すことが分かった。したがって、自動車に備わるオイルフィルタで濾過される潤滑油を給油する場合、隙間の大きさδを0.05mm以下に設定することにより、粒径50μm以上の異物が軸受内部へ侵入することを防止すれば、軸受寿命に問題を起こさない、と考えられる。
今回開示された実施形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、各実施形態では、固定輪が外輪からなり、回転輪が内輪からなる例を示したが、これを逆にしてもよい。また、各実施形態ではラジアル軸受を例示したが、スラスト軸受に変更してもよい。また、各実施形態ではシールリップを回転対称形にしたが、シールリップとシール摺動面間を流体潤滑状態にすることが可能な限り、接触部や非接触部を周方向に不均一に配置してもよい。また、シールリップは、ゴム材に代えて樹脂材で形成してもよい。また、シール部材は、芯金とゴム材とからなるものを例示したが、単種の材料により形成されるシール部材にしてもよい。
1 転がり軸受
2、20、30 シール部材
3、36 内輪
4 外輪
5 転動体
6 回転軸(回転部)
8 軸受内部
9、35、52 シール摺動面
10、31、50 シールリップ
11 芯金
12 ゴム材
13 端部
15、34、51 接触部
16、41 隙間
17、39 非接触部
21、38 リブ部
53、54 微小凹部
B シール付軸受
S1 入力軸(回転部)
S2 出力軸(回転部)

Claims (10)

  1. 軸受内部と外部を区切るシール部材と、前記シール部材が取り付けられた静止輪と、軸受運転によって回転させられる回転輪とを備えており、
    前記回転輪がシール摺動面を有しており、
    前記シール部材が、軸受停止時に前記シール摺動面に接する接触部と、当該シール摺動面との間に隙間を形成する非接触部とを周方向に交互にもったシールリップを有しており、
    前記隙間が、前記軸受内部と外部間に亘って連通しているシール付軸受において、
    前記シールリップが、軸受運転時に当該シールリップと前記シール摺動面間で引き摺られる潤滑油によって当該シール摺動面と当該シールリップを分離する油膜を形成できるように前記接触部と前記非接触部を周方向全周に亘って滑らかな曲線で交互に連ねた波状になっており、
    前記接触部の肉厚が、前記シール摺動面に直角な方向に関して前記非接触部よりも薄くなっていることを特徴とするシール付軸受。
  2. 前記接触部が、周方向に均一間隔で配置されている請求項1に記載のシール付軸受。
  3. 前記非接触部が、当該非接触部の周方向中央から周方向両側に向かって次第に前記シール摺動面に接近する形状になっており、前記シール摺動面が、周方向全周に亘って周方向に沿った形状になっている請求項1又は2に記載のシール付軸受。
  4. 前記シール部材が、前記非接触部の変形を防ぐリブ部を有する請求項1から3のいずれか1項に記載のシール付軸受。
  5. 前記静止輪が外輪からなり、前記回転輪が内輪からなる請求項1からのいずれか1項に記載のシール付軸受。
  6. 前記シールリップが、ゴム材又は樹脂材によって形成されている請求項1からのいずれか1項に記載のシール付軸受。
  7. 前記シール部材が、芯金と、前記芯金の少なくとも前記シール摺動面側の端部に付着したゴム材とによって形成されており、
    前記シールリップが、前記ゴム材によって形成されている請求項1からのいずれか1項に記載のシール付軸受。
  8. 前記接触部が、前記シール摺動面に対してラジアル接触又はアキシアル接触するようになっている請求項1からのいずれか1項に記載のシール付軸受。
  9. 前記接触部と前記シール摺動面の少なくとも一方に、ショットピーニングによる凹凸が形成されている請求項1からのいずれか1項に記載のシール付軸受。
  10. 車両のトランスミッション、ディファレンシャル、等速ジョイント、プロペラシャフト、ターボチャージャ、工作機械、風力発電機及びホイール軸受の中のいずれか一つの回転部を支持する請求項1からのいずれか1項に記載のシール付軸受。
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