JP2022147772A - 表面被覆切削工具 - Google Patents

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尚志 本間
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翔 龍岡
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Abstract

【課題】耐欠損性をより向上させた表面被覆切削工具の提供【解決手段】被覆層は、その平均層厚が1.0~20.0μmで、組成を組成式:(V1-xAlx)(CyN1-y)で表したとき、xの平均含有割合xavgが0.76~0.95、yの平均含有割合yavgが0.000~0.015であるVとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層を有し、前記層は、NaCl型面心立方構造を有する複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒を有し、工具基体の表面の法線方向に対する前記結晶粒のそれぞれの{110}面の法線方向のなす傾斜角のうち、0~45度の範囲内にある傾斜角を0.25度毎に区分した傾斜角度分布の各区分における度数分布において、0~10度の前記区分のいずれかに最高度数が存在し、前記0~10度の前記区分の度数分布の和が前記傾斜角度分布の度数全体の和の45%以上を占める表面被覆切削工具【選択図】図1

Description

本発明は、表面被覆切削工具(以下、被覆工具ということがある)に関するものである。
従来、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金等の工具基体の表面に、被覆層を形成した被覆工具が知られており、優れた耐摩耗性を発揮することが知られている。
そして、被覆工具の耐久性を向上させるべく、被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、工具基体の表面上に(Al1-x)の窒化物、炭窒化物、窒酸化物および炭窒化酸化物のいずれか(xは0.24~0.45)を被覆した被覆工具が記載され、該被覆工具は刃先の欠けやチッピング、被覆層の剥離を防止し、良好な湿潤性を有するとされている。
特開2005-271106号公報
本発明は、前記事情や前記提案を鑑みてなされたものであって、耐欠損性をより向上させた被覆工具を提供することを目的する。
本発明の実施形態に係る表面被覆切削工具は、
工具基体と該工具基体の表面に被覆層を有し、
1)前記被覆層は、その平均層厚が1.0~20.0μmであって、その組成を組成式:(V1-xAl)(C1-y)で表したとき、xの平均含有割合xavgが0.76~0.95、yの平均含有割合yavgが0.000~0.015であるVとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層を有し、
2)前記複合窒化物層または複合炭窒化物層は、NaCl型面心立方構造を有する複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒を有し、
3)前記工具基体の表面の法線方向に対する前記結晶粒のそれぞれの{110}面の法線方向のなす傾斜角のうち、0~45度の範囲内にある傾斜角を0.25度毎に区分した傾斜角度分布の各区分における度数分布において、0~10度の前記区分のいずれかに最高度数が存在し、かつ、前記0~10度の前記区分の度数分布の和が、前記傾斜角度分布の度数全体の和の45%以上を占めること。
さらに、前記実施形態に係る表面被覆切削工具は、以下の(1)~(7)の各事項の1または2以上を満足してもよい。ただし、(4)と(5)を同時に満足しない。
(1)前記結晶粒は、平均結晶粒子幅が0.1~2.0μm、平均アスペクト比が2.0~10.0の柱状晶であり、<001>で表される等価な結晶方位のいずれか一つの方位に沿って、その粒内にAlの含有割合が極大値と極小値をとる繰返し変化を有し、前記xの前記極大値の平均値と前記極小値と平均値との差Δxが0.03~0.10であるものを含む。
(2)前記結晶粒は、平均結晶粒子幅が0.1~2.0μm、平均アスペクト比が2.0~10.0の柱状晶であり、<001>で表される等価な結晶方位のいずれか一つの方位に沿って、その粒内にAlの含有割合が極大値と極小値をとる繰返し変化を有し、前記繰返し変化の平均間隔が3~100nmであって、前記方位に対して直交する面内での前記xの変化幅x0が0.01以下であること。
(3)前記結晶粒の格子定数aは、立方晶VNの格子定数aVNと立方晶AlNの格子定数aAlNに対して、0.05aVN+0.95aAlN≦a≦0.24aVN+0.76aAlNの関係を満たすこと。
(4)前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、前記結晶粒のみからなること。
(5)前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、六方晶構造を有する微結晶粒が存在し、該微結晶粒の占める面積割合が30%以下であって、かつ、その平均粒径が0.01~0.30μmであること。
(6)前記工具基体と前記VとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層の間に、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなり、0.1~20.0μmの合計平均層厚を有する下部層が存在すること。
(7)前記複合窒化物層または複合炭窒化物層の上部に、少なくとも酸化アルミニウム層を含む上部層が1.0~25.0μmの合計平均層厚で存在すること。
前記によれば、耐欠損性の向上した表面被覆切削工具を得ることができる。
本発明の実施形態に係る表面被覆切削工具の被覆層の縦断面を模式的に示した図である。 Alの含有割合の繰返し変化を有するNaCl型面心立方構造の結晶粒において、含有割合の変化を模式的に示す図である。 Alの含有割合の繰返し変化を示す模式図である。 本実施形態に係る表面被覆切削工具を製造するための装置の一例のガス供給管の一部分の斜視模式図である。 図4のガス供給管の断面模式図である。 図4のガス供給管のガス噴出口を示す断面模式図である。 実施例8における工具基体の表面の法線方向に対して、NaCl型面心立方構造の結晶粒の{110}面の法線方向のなす傾斜角の度数分布を示す図である。
本発明者は、VとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層(以下、(VAl)(CN)層ということがある)を被覆した被覆工具について、検討を行ったところ、VとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層を単に被覆しただけでは耐欠損性が十分ではないことを知見した。
そこで、検討を重ねた結果、(VAl)(CN)層の{110}面の法線方向を工具基体の表面に垂直な方向(工具基体の表面の法線方向)に特定の態様で配向するようにすると、耐欠損性が向上することを見出した。
以下では、本発明の実施形態に係る表面被覆切削工具について説明する。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、数値範囲を「L~M」(L、Mは共に数値)で表現するときは、その範囲は上限値(M)および下限値(L)を含んでおり、上限値(M)と下限値(L)の単位は同じである。
I.被覆層
本実施形態の被覆層(2)は、図1に示すように、工具基体(1)の表面上に存在し、(VAl)(CN)層(3)を含む。工具基体(1)と(VAl)(CN)層(3)との間には、下部層(4)を有してもよく、(VAl)(CN)層の表面には上部層(5)を有してもよい。
以下、(VAl)(CN)層を中心に説明する。
1.(VAl)(CN)層
(1)平均層厚
(VAl)(CN)層の平均層厚は、1.0~20.0μmであることが好ましい。その理由は、平均層厚が1.0μm未満では、平均層厚が薄いため長期の使用にわたって耐摩耗性を十分確保することができず、一方、平均層厚が20.0μmを超えると、(VAl)(CN)層の結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなるためである。
(2)組成
(VAl)(CN)層の組成は、組成を組成式:(V1-xAl)(C1-y)で表したとき、xの平均含有割合xavgが0.76~0.95、yの平均含有割合yavgが0.000~0.015であることが好ましい。
その理由は、以下のとおりである。xavgが0.76未満では、(VAl)(CN)層の耐摩耗性が十分ではなく、一方、0.95を超えると、(VAl)(CN)層の脆化が生じやすく耐欠損性が低下するためである。また、yavgは前記範囲にあるとき、(VAl)(CN)層と工具基体または後述する下部層との密着性が向上し、切削加工時の衝撃を緩和して、被覆層の耐欠損性が確実に向上するためである。
なお、(V1-xAl)と(C1-y)との比は特に限定されるものではないが、(V1-xAl)を1とするとき、(C1-y)との比は0.8~1.2とすることが好ましい。その理由は、(V1-xAl)に対する(C1-y)の比が前記範囲内であれば、より確実に本発明の目的が達成できるためである。
(3)NaCl型面心立方構造
(VAl)(CN)層には、NaCl型面心立方構造を有する結晶粒が含まれていることが好ましい。すなわち、縦断面(工具基体の表面の微小な凹凸を無視して、平らな面として扱ったとき、工具基体の表面に垂直な断面)において、NaCl型の面心立方構造の結晶粒の占める面積割合が60%以上、より好ましくは80%以上、全ての結晶粒(面積割合が100%)がNaCl型の面心立方構造であってもよい。
(4){110}面の法線方向の傾斜分布
(VAl)(CN)層に対して、電子線後方散乱解析法(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)を用いて、NaCl型面心立方構造を有する結晶粒に対して、
[1]工具基体の表面の法線方向に対して、この結晶粒の{110}面の法線方向(図2で7で表される方向)がなす傾斜角を測定し、
[2]その傾斜角のうち0~45度の範囲内にある傾斜角を0.25度毎に区分し、
[3」各区分に存在する度数を集計して傾斜角度度数分布を求めたとき、
この求めた傾斜角度度数分布において、0~10度の範囲にある区分のいずれかに最高ピーク(度数の最大値)があり、かつ、この0~10度の範囲にある度数の和が、0~45度の範囲に存在する度数の和に対して45%以上の割合で存在することが好ましい。
この割合は、50%以上がより好ましく、55%以上がより一層好ましい。
このような傾斜角度数分布を有することにより、耐摩耗性を維持しつつ靭性が向上するため、被覆層の耐欠損性が確実に向上する。
なお、傾斜角度数分布を求めるに当たり、理想的なランダム配向の場合、傾斜角度数は工具基体の表面の法線方向に対するある結晶面の法線方向がなす傾斜角によらず一定の値になるように規格化を行う。
ここで、工具基体の表面とは、縦断面の観察像における、工具基体と被覆層の界面粗さの平均線とする。すなわち、工具基体がインサートのような平面の表面を有するときは、前記縦断面においてエネルギー分散型X線分析法(EDS:Energy dispersive X-ray spectroscopy)を用いた元素マッピングを実施し、得られた元素マップに対して公知の画像処理を行うことで被覆層(後述する下部層が存在すれば、被覆層の代わりに下部層を用いる)と工具基体の界面を定め、こうして得られた被覆層と工具基体との界面の粗さ曲線について、平均線を算術的に求め、これを工具基体の表面とする。そして、この平均線に対して、垂直な方向を工具基体に垂直な方向(層厚方向)とする。
また、工具基体がドリルのように曲面の表面を有する場合であっても、被覆層の層厚に対して工具径が十分に大きければ、測定領域における被覆層と工具基体との間の界面は略平面となることから、同様の手法により工具基体の表面を決定することができる。すなわち、例えばドリルであれば、軸方向に垂直な断面の被覆層の縦断面においてEDSを用いた元素マッピングを実施し、得られた元素マップに対して公知の画像処理を行うことで被覆層と工具基体の界面を定め、こうして得られた被覆層と工具基体との界面の粗さ曲線について、平均線を算術的に求め、これを工具基体の表面とする。そして、この平均線に対して、垂直な方向を工具基体に垂直な方向(層厚方向)とする。
(5)平均粒子幅とアスペクト比
(VAl)(CN)層のNaCl型面心立方構造を有する結晶粒は、平均結晶粒子幅が0.1~2.0μm、平均アスペクト比が2.0~10.0の柱状晶であることがより好ましい。
その理由は、平均粒子幅が0.1μmよりも小さい微粒になると粒界の増加による耐塑性変形性の低下、耐酸化性の低下により異常損傷に至りやすくなり、一方、平均粒子幅Wが3.00μmよりも大きくなると粗大に成長した粒子の存在により、靱性が低下しやすくなるためである。
また、平均アスペクト比が2.0よりも小さい粒状結晶になると切削時に被覆層表面に生じるせん断応力に対してその界面(結晶粒界)が破壊起点となりやすくなってしまいチッピングの原因となり、一方、平均アスペクト比が10.0を超えると、切削時に刃先に微小なチッピングが生じ、隣り合う柱状組織に欠けが生じた場合に、被覆層の表面に生じるせん断応力に対しての抗力が小さくなりやすく、柱状組織が破断することによって一気に損傷が進行し、大きなチッピングを生じるためである。
ここで、平均均粒子幅と平均アスペクト比の算出方法について説明する。
まず、被覆層の工具基体に平行な方向の50μmの観察視野(縦断面)において結晶粒界を判定する。結晶粒界の判定方法としては、電子線後方散乱回折装置を用いてこの観察視野面内を二次元的に0.01μm間隔で解析し、観察視野面内のNaCl型面心立方構造の結晶格子を有する測定点を求める。このNaCl型面心立方構造の結晶格子を有する測定点の中で、隣接する測定点(以下、ピクセルという)の間で5度以上の方位差がある場合、または隣接するピクセルがNaCl型面心立方構造の結晶格子を有しない場合、そのピクセル同士の境界を粒界と定義する。
そして、粒界で囲まれた領域を1つの結晶粒と定義する。ただし、隣接するピクセル全てと5度以上の方位差がある単独に存在するピクセルは結晶粒とせず、2ピクセル以上が連結しているものを結晶粒として取り扱う。このようにして、粒界判定を行い、結晶粒を特定する。
次に、ある結晶粒iに対して工具基体の表面と垂直方向(層厚方向)の最大長さH、工具基体の表面と平行方向の最大長さである粒子幅W、および面積Sを求める。結晶粒iのアスペクト比AはA=H/Wとして算出する。このようにして、観察視野内の少なくとも20以上(i=1~20以上)の結晶粒の粒子幅W~W(n≧20)を[数1]により面積加重平均し、前記結晶粒の平均粒子幅Wとする。また、同様にして前記結晶粒のアスペクト比A~A(n≧20)を求め、[数2]により面積加重平均して、前記結晶粒の平均アスペクト比Aとする。
Figure 2022147772000002
Figure 2022147772000003
(6)Alの含有割合の繰返し変化
[1]極大値と極小値
図2に模式的に示すように、(VAl)(CN)層のNaCl型面心立方構造を有する結晶粒(6)は、<001>で表される等価な結晶方位のうちの一つの方位(10)に沿って、Alの含有割合(すなわち、Vの含有割合でもある)について、Al含有量が相対的に多い領域(8)に極大値と、Al含有量が相対的に少ない領域(9)に極小値を繰り返す、繰返し変化を有することがより好ましい。
ここで、Alの含有割合(すなわち、Vの含有割合でもある)とは、例えば、図3に模式的に示す変化をいう。図3では、極大値、極小値のそれぞれが同じ値であり、隣接する極大値と極小値の間隔も同じであるが、本明細書および特許請求の範囲でいうAl含有割合の繰返し変化とは、Al含有割合が極大値と極小値を交互にとるように変化すればよく、極大値および極小値が、それぞれ、同じ値であっても同じ値でなくてもよく、隣接する極大値と極小値の間隔も同じであっても、同じでなくてもよい。
Alの含有割合における極大値の平均値と極小値の平均値との差は、前述の組成式:(V1-xAl)(C1-y)におけるxの差(Δx)が、0.03~0.10であることがより好ましい。これにより、NaCl型面心立方構造を有する結晶粒内に適正な歪が生じ、被覆層の硬さが確実に向上する。
すなわち、Δxが0.03未満であると、前述の歪が小さく、被覆層が十分な硬さを有しないことがあり、一方、0.10を超えるとこの歪が大きくなりすぎて、格子欠陥が増え、被覆層の硬さが低下してしまうことがある。
[2]繰返し変化の間隔
極大値と極小値の繰返しの間隔の平均値は、3~100nmであることがより好ましい。その理由は、3nm未満であると、被覆層の靭性が低下することがあり、一方、100nmを超えると、被覆層の硬さの向上が期待できないことがあるためである。
極大値と極小値の繰返しの間隔は、結晶粒の<001>で表される等価の結晶方位のうちの一つの方位に沿って、ライン分析を行い、Alの含有割合を測定し、グラフ化することにより求められる。なお、グラフ化して解析するに当たり公知のノイズ除去方法(例えば、移動平均法)を用いる。
すなわち、図3に示すようにAl含有割合の繰返し変化を示す曲線に対して、この曲線を横切る直線mを引く。この直線mは、前記曲線に囲まれた領域の面積が直線mの上側と下側とで等しくなるように引いたものである。そして、この直線mがAlの含有割合の繰返し変化を示す曲線を横切る領域毎に、Alの含有割合の極大値または極小値を求めるとともに、両者の間隔を測定し、複数箇所におけるこの測定値を平均することによって、(VAl)(CN)におけるAlの含有割合の繰返し変化の平均間隔を求める。
[3]繰返し変化のある方向と直交する面
さらに、Al含有割合の極大値と極小値の繰返し変化のある方向に直交する面(繰返し変化のある方向を法線とする面。図2では、番号(10)の方向を法線とする面)内では、前記組成式:(V1-xAl)(C1-y)におけるxの変化幅(すなわち、最大値と最小値の差)x0は、0.01以下であることがより好ましい。
このx0がこの範囲にあるとき、より確実に、被覆層の硬度と耐欠損性の向上がなされる。
(7)NaCl型面心立方構造を有する結晶粒の格子定数
(VAl)(CN)層について、X線回折装置を用い、Cu-Kα線を線源としてX線回折試験を実施し、NaCl型の面心立方構造の結晶粒の格子定数aを求めたとき、格子定数aが、立方晶VN(JCPDS00-035-0768)の格子定数aVN:4.1392Åと立方晶AlN(JCPDS00-046-1200)の格子定数aAlN:4.0450Åに対して、0.05aVN+0.95aAlN=4.050≦a≦0.24aVN+0.76aAlN=4.068の関係を満たすことがより好ましい。この関係を満たすとき、より高い硬さを示すことにより、(VAl)(CN)層はより優れた耐摩耗性に加えて、より優れた耐衝撃性を備える。
(8)六方晶構造を有する微結晶粒
(VAl)(CN)層を縦断面で観察したとき、NaCl型面心立方構造を有する結晶粒のそれぞれは、柱状晶であって、その粒界部に六方晶構造の微結晶粒が30%以下の面積割合で存在してもよい。
この30%以下の面積割合で、六方晶構造を有する微結晶粒が存在すると、NaCl型面心立方構造を有する結晶粒の粒界での滑りが抑制され、被覆層の靭性が確実に向上する。しかし、面積割合が30%を超えると、NaCl型面心立方構造を有する結晶粒が少なくなって、被覆層硬さが低下してしまうことがある。
また、六方晶構造を有する微結晶粒の平均粒径は、0.01~0.30μmであることがより好ましい。その理由は平均粒径が0.01μm未満であると、前述の粒界すべりの抑制が不十分であることがあり、一方、0.30μmを超えると、被覆層内と歪が大きくなってしまい被覆層の硬さが低下することがあるためである。
ここで、平均粒径は、微結晶粒の面積を求め、それに相当する円の径とする。
2.下部層
本実施形態の(VAl)(CN)層を含む被覆層は、それだけでも十分に前記目的を達成するが、Tiの炭化物層、窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなり、0.1~20.0μmの合計平均層厚を有する下部層を設けた場合には、この層が奏する効果と相俟って、被覆工具としてより優れた特性が発揮される。ただし、Tiの炭化物層、窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなる下部層を設ける場合、下部層の合計平均層厚が0.1μm未満では、下部層の働きが十分に発揮されず、一方、20.0μmを超えると結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなる。
3.上部層
また、本実施形態の(VAl)(CN)層を含む被覆層に、酸化アルミニウム層を含む合計の平均層厚が1.0~25.0μmとなる上部層を設けると、被覆工具として優れた特性がより一層発揮されて好ましい。ここで、合計平均層厚が1.0μm未満であると、上部層の働きが十分に発揮されず、一方、25.0μmを超えると、チッピングが発生しやすくなる。
II.工具基体
(1)材質
材質は、従来公知の工具基体の材質であれば、本発明の目的を達成することを阻害するものでない限り、いずれのものも使用可能である。一例をあげるならば、超硬合金(WC基超硬合金、WCの他、Coを含み、さらに、Ti、Ta、Nb等の炭窒化物を添加したものも含むもの等)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの等)、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)、cBN焼結体のいずれかであることが好ましい。
(2)形状
工具基体の形状は、切削工具として用いられる形状であれば特段の制約はなく、インサートの形状、ドリルの形状が例示できる。
III.製造方法
本実施形態の(VAl)(CN)層の製造方法は、例えば、NHガスとHガスからなるガス群Aと、VCl、AlCl、N、Hからなるガス群Bを用いて、CVD法により行うことができる。
ここで、ガス群Aとガス群Bとは、熱CVD装置の反応容器内の空間で被成膜物の直前までガスを分離して供給し、被成膜物の直前でガス群Aとガス群Bが混合し、反応させるようにする。これは、互いに反応活性の高いガス種を成膜領域にわたって均一に供給して、皮膜を均一に成膜するために有効である。詳細な技術内容は、例えば、特許6511798号公報に開示されている。
同公報に記載されている成膜装置は、図4~6に示すガス供給管を有しており、その構造を説明する。
図4、5に示すように、その中心(13)を中心に所定の回転速度で回転する円筒管であるガス供給管(11)は、その軸心方向に沿って延びる仕切部材(12)により、内部をほぼ二等分され、ガス群A流通部(14)とガス群B流通部(15)を有している。
ガス供給管(11)には、図4に示すようにほぼ同じ高さの位置にある噴出口対(20)を構成するガス群A噴出口(16)とガス群B噴出口(17)が高さ方向に沿って複数設けられている。
図5に示すガス群A噴出口(16)とガス群B噴出口(17)は、同じ噴出口対(20)に属しており、ガス群A噴出口(16)の外周側開口端の中心(18)とガス群B噴出口(17)の外周側開口端の中心(19)のなす角度がαである。
また、図6に示すように、高さ方向(軸方向)に隣り合う2つの噴出口対(20)における原料ガス群A噴出口16同士の軸周りの相対角度がβ1、高さ方向(軸方向)に隣り合う2つの噴出口対(20)における原料ガス群B噴出口17同士の軸周りの相対角度のβ2である。そして、高さ方向(軸方向)に隣り合うガス群A噴出口(16)とガス群B噴出口(17)の軸周りの相対角度は、それぞれ、γ1、γ2である。
IV.測定方法
(1)平均層厚
前述のとおり工具基体の表面を決定した後、工具基体の表面に対して垂直な方向に沿って複数の分析ライン(例えば5本)で測定を行う。(VAl)(CN)層の平均層厚は、Al原子が出現し、その含有割合が1原子%となったところを隣接層との境界と定め、分析ライン毎の層厚を求め、平均をとって平均層厚とする。
(2)組成
(VAl)(CN)層の組成は、以下のようにして求める。
Alの平均含有割合xavgについては、電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyser)を用い、表面を研磨した試料において、電子線を試料表面側から照射し、得られた特性X線の解析結果の10点平均からAlの平均含有割合xavgを求める。
Cの平均含有割合yavgについては、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectroscopy)により求めた。イオンビームを試料表面側から70μm×70μmの範囲に照射し、スパッタリング作用によって放出された成分について深さ方向の濃度測定を行う。
(3)NaCl型面心立方構造を有する結晶粒
透過型電子顕微鏡(TEM)による電子線回折により、(VAl)(CN)層の結晶構造を同定し、NaCl型面心立方構造であることを確認し、その面積割合を求める。
(4)傾斜角度数分布
(VAl)(CN)層の傾斜角度数分布については、縦断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM:Field-Emission Scanning Electron Microscope)の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在するNaCl型面心立方構造を有する結晶粒の個々に照射する。
EBSD法を用いて、工具基体の表面と水平方向に長さ50μm、工具基体の表面と垂直な方向の断面に沿って層厚の距離までの測定範囲内の被覆層について0.01μm/stepの間隔で、工具基体の表面の法線(前記研磨面における工具基体の表面と垂直な方向)に対して、(VAl)(CN)層の結晶面である{110}面の法線がなす傾斜角を測定する。
そして、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角のうち、0~45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計することにより、0~10度の範囲内に存在する度数のピークの存在(最高度数)を確認し、かつ0~10度の範囲内に存在する度数の割合を求める。
以下、実施例をあげて本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。すなわち、工具基体としてWC基超硬合金を用いたインサート切削工具をあげるが、工具基体の材質は前述のものであればよく、その形状は前述のとおりドリル等の形状であってもよい。
1.工具基体の製造
原料粉末として、いずれも1~3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形した。
その後、この圧粉体を5Paの真空中、1370~1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、三菱マテリアル社製LOGU1207040PNER-Mのインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A~Cをそれぞれ製造した。
2.成膜
工具基体A~Cの表面に、CVD装置を用いて、(VAl)(CN)層を成膜し、表5、6に示す実施例1~10を得た。成膜条件は、表2に示すとおりであったが、概ね、次のとおりであった。
反応ガス組成(ガス成分の含有割合は、ガス群Aとガス群Bの合計を100容量%とする容量%である):
ガス群A NH:2.0~3.0%、H:55~60%
ガス群B:AlCl:0.6~0.9%、VCl:0.2~0.3%、
Al(CH:0.0~0.5%、N:0.0~12.0%、
:残
反応雰囲気圧力:4.5~5.0kPa
反応雰囲気温度:700~850℃
ここで、ガス群Aとガス群Bは、それぞれ、前記特許6511798号公報に記載されたCVD装置の、原料ガスA、原料ガスBとして供給された。ガス供給管の回転速度、ガス供給管の噴出孔角度は以下のとおりであった。
ガス供給管の回転速度:5~20rpm
ガス供給管の噴出孔角度:
α:180°
β1およびβ2:155°
γ1およびγ2:25°
なお、実施例4~10については、表3に示す条件により表4に示す下部層および/または上部層を成膜した。
比較のために、工具基体A~Cの表面に表2に示す成膜条件によって、(VAl)(CN)層を成膜し、表5、6に示す比較例1~10を得た。
比較例工程については原料ガスを2系統に分離せずに1本のガス供給管から熱CVD装置の反応容器内に供給した。そのため、ガス群A噴出口(16)とガス群B噴出口(17)の区別はなく噴出口対(20)は存在しないガス供給管を用いた。
なお、比較例4~10については、表3に示す条件により表4に示す下部層および/または上部層を成膜した。
前記実施例1~10、比較例1~10について、前述した方法を用いて、平均Al含有割合xavgと平均C含有割合yavgを算出した。また、工具基体の表面の法線方向に対して{110}面の法線がなすそれぞれの傾斜角度数分布において、傾斜角度数の最高度数が0~10度内の区分に存在するかを確認すると共に、傾斜角が0~10度の範囲内に存在する度数の割合を求めた。さらに、Alの組成変化の<001>で表される等価の方位に沿ったAl含有割合の繰返し変化の有無とAl含有割合の極大値の平均と極小値の平均との差、その平均の繰返し間隔、さらには、その方位に直交する面内のAl含有割合の変化についても測定した。
加えて、NaCl型の面心立方構造を有する結晶粒の割合、NaCl型の面心立方構造を有するTiNおよびAlNの格子定数、NaCl型の面心立方構造を有する柱状晶の粒界部に存在する微粒径の結晶粒の面積割合を測定した。
また、平均層厚は、各構成層の縦断面に対して、走査型電子顕微鏡(倍率5000倍)を用いて観察し、観察視野内の5点の層厚を測定して平均して求めた。
これらの結果を表5、6にまとめた。また、図7に実施例8における工具基体の表面の法線方向に対して、NaCl型面心立方構造の結晶粒の{110}面の法線方向のなす傾斜角の度数分布を示した。
Figure 2022147772000004
Figure 2022147772000005
Figure 2022147772000006
Figure 2022147772000007
Figure 2022147772000008
Figure 2022147772000009
続いて、実施例1~10および比較例1~10について、いずれもカッタ径32mmの工具鋼製カッタ先端部に固定治具にてクランプした状態で、合金鋼SCM440の湿式正面フライス加工試験を実施し、切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
切削試験:湿式正面フライス切削加工
被削材:JIS・SCM440幅
切削速度:190m/min
切り込みap:6.0mm
切り込みae:20mm
一刃送り量:0.12mm/刃
切削時間:80分
表7に、切削試験の結果を示す。なお、比較例1~10については、刃先欠損が原因で寿命に至ったため、寿命に至るまでの時間を示す。
Figure 2022147772000010
表7に示す結果から明らかなように、実施例はいずれも刃先欠損の発生がなく、耐欠損生が向上しており、長期にわたって優れた切削性能を発揮する。
これに対して、比較被例1~10は、いずれも刃先欠損が発生し、短時間で使用寿命に至っている。
1 工具基体
2 被覆層
3 (VAl)(CN)層
4 下部層
5 上部層
6 (VAl)(CN)層のNaCl型面心立方構造を有する結晶粒
7 (VAl)(CN)層のNaCl型面心立方構造を有する結晶粒の{110}面の法線方向
8 Alの含有量が相対的に多い領域
9 Alの含有量が相対的に少ない領域
10 <001>で表される等価な結晶方位
11 ガス供給管
12 仕切り部材
13 ガス供給管の中心
14 ガス群A流通部
15 ガス群B流通部
16 ガス群A噴出口
17 ガス群B噴出口
18 ガス群A噴出口の外周側開口端の中心
19 ガス群B噴出口の外周側開口端の中心
20 噴出口対
α 角度
β1 角度
β2 角度
γ1 角度
γ2 角度

Claims (8)

  1. 工具基体と該工具基体の表面に被覆層を有する表面被覆切削工具であって、
    1)前記被覆層は、その平均層厚が1.0~20.0μmであって、その組成を組成式:(V1-xAl)(C1-y)で表したとき、xの平均含有割合xavgが0.76~0.95、yの平均含有割合yavgが0.000~0.015であるVとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層を有し、
    2)前記複合窒化物層または複合炭窒化物層は、NaCl型面心立方構造を有する複合窒化物または複合炭窒化物の結晶粒を有し、
    3)前記工具基体の表面の法線方向に対する前記結晶粒のそれぞれの{110}面の法線方向のなす傾斜角のうち、0~45度の範囲内にある傾斜角を0.25度毎に区分した傾斜角度分布の各区分における度数分布において、0~10度の前記区分のいずれかに最高度数が存在し、かつ、前記0~10度の前記区分の度数分布の和が、前記傾斜角度分布の度数全体の和の45%以上を占めること、
    を特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 前記結晶粒は、平均結晶粒子幅が0.1~2.0μm、平均アスペクト比が2.0~10.0の柱状晶であり、<001>で表される等価な結晶方位のいずれか一つの方位に沿って、その粒内にAlの含有割合が極大値と極小値をとる繰返し変化を有し、前記xの前記極大値の平均値と前記極小値と平均値との差Δxが0.03~0.10であるものを含むことを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 前記結晶粒は、平均結晶粒子幅が0.1~2.0μm、平均アスペクト比が2.0~10.0の柱状晶であり、<001>で表される等価な結晶方位のいずれか一つの方位に沿って、その粒内にAlの含有割合が極大値と極小値をとる繰返し変化を有し、前記繰返し変化の平均間隔が3~100nmであって、前記方位に対して直交する面内での前記xの変化幅x0が0.01以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
  4. 前記結晶粒の格子定数aは、、立方晶VNの格子定数aVNと立方晶AlNの格子定数aAlNに対して、0.05aVN+0.95aAlN≦a≦0.24aVN+0.76aAlNの関係を満たすことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  5. 前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、前記結晶粒のみからなることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  6. 前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、六方晶構造を有する微結晶粒が存在し、該微結晶粒の占める面積割合が30%以下であって、かつ、その平均粒径が0.01~0.30μmであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  7. 前記工具基体と前記VとAlの複合窒化物層または複合炭窒化物層の間に、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなり、0.1~20.0μmの合計平均層厚を有する下部層が存在することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  8. 前記複合窒化物層または複合炭窒化物層の上部に、少なくとも酸化アルミニウム層を含む上部層が1.0~25.0μmの合計平均層厚で存在することを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
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