JP2022143286A - 転がり疲れ試験用の試験片、およびこの試験片を用いた転がり疲れ試験方法及び試験片の製造方法 - Google Patents

転がり疲れ試験用の試験片、およびこの試験片を用いた転がり疲れ試験方法及び試験片の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】球形とは異なる介在物の性状及び配置等を考慮した転がり試験方法を提供することを目的とする。【解決手段】転がり疲れ試験に用いられる試験片であって、試験片本体部と、前記試験片本体部の表面から所定の深さに埋め込まれた、鋼の製造過程に由来して生成した介在物と、を有する試験片。介在物とは、JIS規格に分類されるA系介在物、B系介在物、C系介在物、D系介在物を含みうる。介在物と試験片本体部の母相との間には隙間が形成されている。【選択図】図1

Description

本発明は、転がり疲れ試験に用いられる試験片等に関する。
適正な潤滑条件下で使用されているにも関わらず、軸受が想定よりも早期に破損する短寿命はく離が報告されており、軸受の小型・軽量化設計の実現の妨げとなっている。このようなはく離は、鋼に含まれる非金属介在物によって引き起こされることが知られている。非金属介在物は鋼の精錬工程・鋳造工程・凝固工程で不可避的に生成され、これらの工程で除去しきれないものが鋼の中に含有される。そして、更に下工程の圧延や鍛造等を経た軸受素材の中にも非金属介在物が残存して、含有されることになる。この非金属介在物を起点としたはく離は通常、部品の表面ではなくやや内部を起点として発生する。これは軸受の軌道輪と転動体(球、ころ等)が転がり接触する際に軌道輪のやや内部に高いせん断応力が生じることによるものである。
疲労によるはく離に至るまでは、部品内部で疲労が進行するため、転がり疲れの直接的な観察は困難である。また、はく離後にはく離の起点となった介在物が破面上に見つかることも稀である。そのため、介在物が軸受寿命を左右すること自体には疑いがないにも関わらず、介在物の大きさ、形状、分散状態、化学組成など(以下、「介在物の性状」ともいう)と寿命との直接的な関係は未だ明らかにされていない。
なお、転がり軸受の寿命指標としてはL10寿命が重用されている。L10寿命とは、同じ条件で複数個のサンプルの寿命試験をした場合に、サンプルの総数に対してその90%の試験片がはく離しない場合の寿命を指す。このように、軸受の寿命は確率論的に評価されることが通例となっている。確率論ではなく、介在物の性状と寿命や転がり疲れとの関係を直接的に検証し、両者の定量的な関係を明らかにすることが、短寿命はく離を起こさない鋼を実現するために必要である。
他方で、非特許文献1には、鋼中に多数の空洞を残存・分散させたSUJ2鋼を人工的に作製し、これらの空洞に対する転がり疲れき裂挙動を観察し、その挙動と空洞あるいは一般介在物に対する応力シミュレーションとを対比させた結果から、介在物と母相間に隙間(空隙)がある場合に有害性が助長されることが開示されている。
これに関連して、非特許文献2には介在物-母相間の隙間を閉塞させるための熱間等方圧加圧(HIP:Hot Isostatic Pressing)加工を鋼材に施すことによって、転がり疲れ寿命を大幅に向上する技術が開示されている。
非特許文献2によれば、介在物-母相界面の状態が寿命の変化要因になることは明らかである。ただし、はく離が発生した後に、事前の介在物周囲の隙間の有無を検証することは事実上難しく、寿命の長短に対する隙間の寄与を推測することはできなかった。
したがって、介在物の性状と寿命や転がり疲れとの関係を把握するためには、転がり疲れ試験に先立って、寿命に強く関与する介在物-母相界面の状態を一定の状態に揃えておく、すなわち界面の条件を固定しておくことが必須である。また、軸受の短寿命はく離をもたらすのは比較的大きな介在物と推定され、そのような介在物が限られた評価数量の転がり疲れ試験片内のごく小さい応力負荷体積中に存在する可能性が低いことも考慮する必要がある。
近年の軸受鋼に対するニーズとして長寿命化を追求するだけではなく、突発的に発生する短寿命はく離を抑制して部品の信頼性を向上させることが望まれている。したがって、そのような軸受製品の実現にあたり、介在物の性状と寿命の関係を明確にし、短寿命はく離の起点となる介在物の性状を知ることが課題になる。
ただし、それには転がり疲れに影響を及ぼす因子である介在物の性状、母相と介在物との界面状態、鋼中での存在位置を事前に把握し、その介在物を対象として転がり疲れ試験を行い、介在物の性状と寿命、あるいは未はく離の場合であれば介在物の性状とその周囲の疲労の状況とを、一対一に対照させた検証を行うことが必要である。
なぜなら、先に挙げた各種因子が寿命に対して影響を及ぼす可能性が高いにも関わらず、試験後にはその影響を分離して検証することが困難なためである。これまでに対象介在物の性状が予め判明した状態で転がり疲れ試験を行い、寿命や転がり疲れに及ぼす影響を一対一に対照させて検証する技術として、特許文献1が知られている。
この特許では、人工介在物を人工的な手段により試験片内に包含した試験片を作製し、介在物と周囲母相との間に隙間が付与されている状態にした後、その介在物の位置を調整し、転がり疲れ試験を行っている。実施形態では、球形のAlを用いた試験片の作製方法と転がり疲れ試験方法を示しており、これは実鋼材中の介在物のなかでも球形の介在物を想定している(JIS規格JIS G 0555での分類におけるD系介在物のうち、球形の介在物)。
特開2020-63922号公報
藤松威史、平岡和彦、山本厚之、「高炭素クロム軸受鋼の転がり疲れにおける内部欠陥からのき裂発生挙動」、鉄と鋼、一般社団法人日本鉄鋼協会、Vol1.94、No.1(2008年)、p.13-20 橋本(K. Hashimoto)、藤松(T. Fujimatsu)、常陰(N. Tsunekage)、平岡(K. Hiraoka)、木田(K. Kida)、サントス(E. C. Santos)、「内部破壊タイプ転がり疲労寿命における介在物/母相境界空洞の影響(Effect of inclusion/matrix interface cavities on internal-fracture-type rolling contact fatigue life)」、マテリアルズ アンド デザイン(Materials & Design)、エルゼビア・ベーフェー(Elsevier B.V.)、(オランダ)、Vol. 32, Issue 10, 2011年12月、p. 4980-4985
しかしながら、特許文献1は、単純形状である球状介在物を含有した試験片に関する知見を開示しており、球形とは異なる介在物の性状及び配置等を考慮した転がり疲労試験方法については具体的に検討されていない。
本発明は、球形とは異なる介在物の性状及び配置等を考慮した転がり試験方法を提供することを目的とする。
(1)本発明に係る転がり疲れ試験に用いられる試験片は、(1)試験片本体部と、前記試験片本体部の表面から所定の深さに埋め込まれた、JIS G 0555に規定するA系介在物、B系介在物、C系介在物及びD系介在物のうち少なくとも一つの介在物であって、かつ、球形とは異なる形状の介在物と、を有し、介在物と前記試験片本体部の母相との間に隙間を有する試験片。
(2)前記試験片本体部における前記介在物とは異なる位置に、前記試験片本体部の母相との識別が可能な目印部材が埋め込まれていることを特徴とする上記(1)に記載の試験片。
(3)前記目印部材は、円柱状に形成され、前記試験片本体部の母相とは組成が異なることを特徴とする上記(2)に記載の試験片。
(4)前記試験片の硬さが55HRC以上であることを特徴とする上記(1)から(3)のうちいずれか一つに記載の試験片。
(5)上記(1)から(4)のうちいずれか一つに記載の試験片を用いてスラスト型転がり疲れ試験を行うことを特徴とする転がり疲れ試験方法。
(6)上記(2)又は(3)に記載の試験片を用いてスラスト型転がり疲れ試験を行う転がり疲れ試験方法であって、前記目印部材の位置から前記介在物の直上における前記試験片本体部の表面位置を特定し、この特定した表面位置を転動体が通るように軌道を設定することにより前記のスラスト型転がり疲れ試験を行うことを特徴とする転がり疲れ試験方法。
(7)前記の特定した表面位置を、超音波探傷試験の試験結果に基づき補正することを特徴とする上記(6)に記載の転がり疲れ試験方法。
(8)上記(1)に記載の試験片の製造方法であって、前記介在物の抽出工程として、鋼材を圧延または鍛造する工程と、前記圧延する工程で圧延された圧延材または前記鍛造する工程で鍛造された鍛造材から、軸疲労のための介在物抽出用試験片を採取し、その介在物抽出用試験片の軸方向の超音波振動による疲労試験を行うことにより、介在物抽出用試験片を破断させる破断工程と、前記介在物抽出用試験片の破断面に発現した介在物の性状に関する情報を取得するとともに、前記介在物抽出用試験片の破断面ごと介在物を取り出す介在物取り出し工程と、を有することを特徴とする試験片の製造方法。
(9)前記の超音波振動による疲労試験を行う前に、前記介在物抽出用試験片に対して水素をチャージすることによる鋼の脆化工程を実施することを特徴とする上記(8)に記載の試験片の製造方法。
(10)転がり疲れ試験に用いられる試験片の製造方法であって、所定の外形を有する第1中間材を作製する工程と、前記第1中間材の表面に所定径で所定深さの穴を形成する工程と、前記の穴にJIS G 0555に規定するA系介在物、B系介在物、C系介在物及びD系介在物のうち少なくとも一つの介在物であって、かつ、球形とは異なる形状の介在物を埋め込む工程と、この介在物が埋め込まれたれた前記第1中間材に対して熱間等方圧加圧加工を行う工程と、前記第1中間材を引張加工に適した第2中間材に加工する工程と、前記第2中間材を、所定の方向に前記引張加工して、該第2中間材の母相と前記介在物との間に隙間を形成する工程と、を加工工程に含む試験片の製造方法。
(11)前記引張加工は、前記第2中間材の所定の位置に、前記引張加工時点での前記第2中間材の引張強さを1とした場合に、前記第2中間材の引張強さの0.85倍以上0.95倍以下の応力を負荷するものである、上記(10)に記載の試験片の製造方法。
本発明によれば、鋼の製造過程で生成し、その後の圧延や鍛造などを経た鋼の中にも残存して分布している非球形状の介在物(非金属介在物)を抽出し、その性状を特定した後、この抽出した介在物を介在物と周囲母相との間に隙間が付与されている状態で、転がり疲れ試験片内のごく小さい応力負荷体積中に配置し、転がり疲れ試験を行うことができる。
実施形態の試験片の構造図である。 実施形態の試験片の製造工程を示すフローチャートである。 中間材Aの構成を示す図である。 介在物抽出用試験片の形状の一例を示す図である。 超音波疲労試験後に破断した試験片破面を示す、光学顕微鏡像である。 図5の一部拡大し、破壊起点として現出した介在物部分をSEMで撮像した二次電子像である。 引張加工を付与する中間材Bの構成を示す図である。
以下、本発明の実施形態である試験片および転がり疲れ試験方法等について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の試験片の構造図である。図1(a)は、正面図であり、図1(b)は、図1(a)の試験片をX-X断面に沿って切断したX矢視図である。また図1(c)は、図1(a)の試験片をY-Y断面に沿って切断したY矢視図である。なお、説明を容易にするため、図1は寸法関係を一部誇張して図示する。また、図1(b)及び(c)には、円柱状試料の拡大図も図示している。
本実施形態の試験片100は、中心部に内径穴部101を有する中空円盤状の試験片本体部100Aを含み、図1(a)の正面図から看取されるように、X-X方向に短軸、Y-Y方向に長軸を有する楕円状に形成されている。試験片本体部100Aにおける鏡面研磨面上の後述のスラスト型転がり疲れ試験における軌道相当位置の下に、介在物105が埋設されている。
介在物105は、非金属介在物であり、 JIS規格に示される鋼、あるいはJIS規格から逸脱する様々な鋼種において、それらの中に鋼の製造過程に由来して生成した介在物のことである。JIS規格(JIS G 0555:鋼の非金属介在物の顕微鏡試験方法)には、棒鋼から採取された試料に対し、鋼材圧延方向と平行な断面を鏡面研磨して、その研磨面に現れる非金属介在物を光学顕微鏡で観察し、その分布状態を評価する方法が提示されている。これらは、鋼材の品質確認の手段として利用されている。非金属介在物は、その形状や種類により、A系(硫化物系)、B系(アルミナ系、鋼材の変形方向に整列した単体粒子からなる粒子群)、C系(シリケート系、アスペクト比(長さ/厚さ)が一般に3を超える延伸した個別の粒子)、D系(粒状酸化物系、変形しない角状ないし円形で3未満の低アスペクト比をとる単独粒子)に大別されている。これらのうち、本発明では、球形を除いたいずれの種別の非金属介在物も利用が可能である。また、A~D系介在物のうち一種類の介在物だけを埋設してもよいし、複数の種類の介在物が複合した介在物(例えば、D系介在物及びA系介在物の複合介在物)を埋設してもよい。
X-X線は試験片100の短径方向に延びており、X-X線上で底面が平坦に加工された穴103の中心から所定距離離れた位置に円柱状に形成された一対の目印部材107が埋設されている。目印部材107は、試験片本体部100Aの母相に対する穴103の位置を明確に特定するために配設されている。具体的には、目印部材107と試験片本体部100Aの母相とを異なる組成の材料によって構成することにより、界面を明確に判別することができる。詳細については後述するが、試験片本体部100AをSUJ2鋼(JIS G 4805参照)、目印部材107をステンレス鋼で構成することによって、試験片本体部100Aの母相と目印部材107との界面を明確に判別することができる。
目印部材107は、例えば直径0.5mm×高さ3mmの円柱形状に形成することができる。なお、図1では、説明の便宜上、介在物105が底面上に現出した円柱状試料104(作製方法は後述)と底面が平坦に加工された穴103および目印部材107と小ドリル穴106を実線で示しているが、後述する熱間等方圧加圧加工を実施することにより、介在物105、円柱状試料104と底面が平坦に加工された穴103の界面は互いに密着し、目印部材107と小ドリル穴106の界面も互いに密着する。そしてその後、後述する引張加工の実施により、引張加工方向Y-Yにおいて、試験片100の研磨面以下に存在する介在物105と試験片本体部100Aの母相との間に、隙間108が形成される(図1(c)参照)。一方、引張加工方向Y-Yに対して直交するX-X方向において、介在物105と試験片本体部100Aの母相との間には、隙間108は形成されない(図1(b)参照)。
図2は、本実施形態の試験片の製造工程を示すフローチャートである。実施例としての試験片100を製造したときの具体的条件に言及しながら、前記の製造工程について詳細に説明する。中間材100A1及び中間材100A2は試験片本体部100Aの中間材であり、中間材100A1が製造された後に、中間材100A2が製造される。
(ステップS1)
ステップS1において、図3に示す中間材100A1を作製する。中間材100A1の所定位置には、円柱状試料104、介在物105及び目印部材107が埋設されている。中間材100A1、円柱状試料104(後述する疲労試験により底面上に介在物105を現出させている)の素材には、例えば、軸受鋼の素材として広く知られたSUJ2鋼(JIS G 4805参照)を用いることができる。ただし、これに限らず、疲労特性を取得しようとする鋼種を適宜選定することができる。中間材100A1を作製する工程は、SUJ2鋼を圧延する圧延工程と、その圧延材に対して焼ならし処理を行う焼ならし工程と、焼ならし処理した圧延材に対して球状化焼なまし処理を行う球状化焼なまし工程と、試験片形状(つまり、両面が互いに平行な中空円盤状)に加工する形状加工工程とを含む。SUJ2のような過共析鋼を用いる場合には、後述の焼入工程で適切な焼入組織を得るための前処理として球状化焼なまし工程が実施される。一方、亜共析鋼を用いる場合には、焼入れに代わって浸炭焼入れ処理が行われるため、球状化焼なまし工程を実施する必要はない。形状加工工程において、片面102を平滑に研磨しておくことが望ましい。後述するように、片面102に対して穴開け加工(穴103等の加工)を行うためである。ただし、バフ研磨仕上げ加工を行うことは要しない。
実施例における圧延工程では、SUJ2鋼をφ65mmに圧延する処理を実施した。実施例における焼ならし工程では、圧延材を865℃の加熱温度で1h保持した後空冷する焼ならし処理を実施した。実施例における球状化焼なまし工程では、最高点加熱温度を800℃とする加熱処理を実施し、その温度にて所定時間保持した後徐冷する球状化焼なまし処理を実施した。
本実施形態では一例としてSUJ2鋼を使用したが、本発明はこれに限るものではなく他の鋼を用いることもできる。この場合、ステップS1の焼ならし処理及び球状化焼なまし処理、後述する試験片再加工時の焼ならし処理及び球状化焼なまし処理は、選定した鋼種に適合した条件を選択するか、或いは鋼種によっては省略することができる。
続いて、実施例における形状加工工程では、外径60mm(図3中の寸法Aに相当する)、内径20mm(図3中の寸法Bに相当する)、厚さ8mm(図3中の寸法Cに相当する)の中空円盤状の中間材100A1を作製した。中間材100A1の両面は平行に加工した。片面102は平滑に研磨した。言うまでもないが、中間材100A1の外径、内径、および、厚さについては、上記数値に限定するものではなく、試験条件に応じて適宜変更することができる。
(ステップS2)
ステップS2では、中間材100A1に対して底面が平坦(つまり、有底筒状)な穴103(その加工手段には例えばエンドミルを用いることができる)及び一対の小ドリル穴106を形成する。穴103は、中間材100A1の研磨面102における軌道相当位置に加工することができる。実施例では、穴103の寸法を、直径2.6mm、深さ2mmとした。
小ドリル穴106は、中間材100A1の径方向において穴103を挟む位置に、有底筒状に形成される。実施例では、小ドリル穴106の寸法は、直径0.6mm、深さ3mmとした。
言うまでもないが、穴103,106の直径、および、深さについては、試験条件および後述する円柱状試料104の形状や目印部材107の大きさに応じて、適宜変更することができる。穴103については、図1に例示した本実施形態の試験片の構造図において、上面側に形成されているが、下面側を上述の片面102と同様の要領で平滑に研磨してから形成しても良い。この場合も、一対の小ドリル穴106は上面側に加工する。このときの介在物105を含む円柱状試料104の長さや穴103の深さは、片面102の表面からの目印部材107の深さ範囲内に収まるようにする。円柱状試料104の外径部から目印部材107までの距離(上述の所定距離)は、例えば1mm以上に設定することで、円柱状試料104と成分の異なる材料から構成される目印部材107を後述する熱間等方圧加圧加工で密着させた際に、目印部材107の化学成分が円柱状試料104の疲労特性に影響を及ぼさない。
(ステップS3)
ステップS3では、試験片本体部100Aに導入される介在物105を得るための介在物抽出用試験片を作製する。この介在物105は、試験片本体部100Aに導入する欠陥として利用する。そのために、評価対象とする鋼材から介在物抽出用試験片を作製し、疲労試験を行い、試験後の破面の起点部に現出した介在物(抽出された介在物)を試験片本体部100Aに導入する介在物105として用いることができる。この場合の介在物は、任意に採取した鋼製の試験片中に偶発的に含まれていた介在物である。なお、疲労試験の方法は特に限定しないが、試験時間を短縮したい場合には、超音波疲労試験を選択するとよい。また、評価対象とする鋼材について、超音波探傷試験などの方法により、介在物であることが期待される欠陥を検出し、その欠陥を含むように試験片を作製して、疲労試験により破断させ、その試験後の破面の起点部に介在物が現出していた場合に、その介在物を用いる場合があっても良い。
図4は、介在物抽出用試験片をその長手方向に沿って切断した断面図である。ここでは、実施の一例として介在物抽出用試験片の寸法情報についても併せて示している。ただし、寸法はこの限りではなく、適宜調整できる。介在物抽出用試験片は、介在物抽出試験に供される試験片の母材となる母材試験片をまず準備し(母材試験片の作製工程)、続いて母材試験片に対して形状加工処理を施す(形状加工工程)ことにより製造することができる。以下、ステップS3に含まれる各工程について詳細に説明する。
(ステップS3の母材試験片の作製工程について)
母材試験片の作製工程を、SUJ2鋼を例に取り、説明する。この工程は、SUJ2鋼を圧延する圧延工程と、その圧延材に対して焼ならし処理を行う焼ならし工程と、焼ならし処理した圧延材に対して球状化焼なまし処理を行う球状化焼なまし工程とを含む。なお、圧延工程に代えて鍛造工程を実施してもよい。実施例における圧延工程では、SUJ2鋼を熱間圧延によりφ65mmに加工した。実施例における焼きならし工程では、865℃の加熱温度で1h保持した後空冷する焼ならし処理を実施した。実施例における球状化焼なまし工程では、最高点加熱温度を800℃とする加熱処理を実施し、その温度にて所定時間保持後に徐冷する球状化焼なまし処理を実施した。SUJ2鋼以外の鋼を用いる場合は、本ステップ以降の加工方法を踏まえてそれぞれの鋼種に適合した方法で、母材試験片を作製すればよい。
(ステップS3の形状加工工程について)
前述した介在物の区分をもとに、以下説明を行う。D系介在物を疲労試験により抽出して利用する場合、例えば評価体積が300mm以上となる軸疲労試験(試験片への繰り返し応力負荷方向が軸方向であり、この場合の破断面は軸方向と直交する)を行うことが望ましい。さらに、このときの介在物抽出用試験片は、その長軸方向が圧延材の圧延方向と概ね平行となるように取るのが良い。A系、B系、C系介在物のように圧延方向に延伸もしくは圧延方向に整列した介在物を抽出して利用したい場合、介在物の断面積が最大となる方向、すなわち圧延方向に対して直交する方向を介在物抽出用試験片の長軸方向とするように採取するのが良い。なお、鍛造材の場合は鍛伸方向を基準として、圧延材における上記記載の方法に準じて介在物抽出用試験片を採取すればよい。このとき複数本の試験を行ったにもかかわらず、抽出された介在物がD系となるような母材については、介在物抽出用試験片の評価体積を小さくすることで、A系、B系、C系が検出されやすくなる場合がある。なお、本発明はあくまでも鋼材に含まれている介在物を抽出して、それを利用するものであるため、その介在物の種類や大きさは評価しようとする鋼材の履歴(鋼材の製造過程)に由来することとなる。
実施例では、一例として圧延方向に伸長した介在物(上記分類のD系介在物以外)を抽出することを狙いとして、その手段として超音波疲労試験を利用することとし、母材試験片を図3に示す介在物抽出用試験片の形状に加工する際に、超音波疲労試験片の長手方向が圧延材の圧延方向に対して直交する方向になるように荒加工(言い換えると、粗加工)を施し、この荒加工された介在物抽出用試験片に対して焼入焼戻し処理を行った後、仕上げ加工を施した。
(ステップS4)
ステップS4において、介在物抽出用試験片に対して疲労試験を行うことにより、介在物を取得する。ここでは超音波疲労試験を例にとり、説明する。
介在物抽出用の超音波疲労試験片は、所定の共振周波数を満足する必要がある。したがって、超音波疲労試験を実施する前に、加工された介在物抽出用試験片の共振周波数を確認しておく。なお、今回用いた超音波疲労試験機の共振周波数は20,000Hz±500Hzであるが、試験片の共振周波数は、好ましくは20000Hz±200Hz以内であり、より好ましくは20,000Hz±30Hz以内である。介在物抽出用試験片の共振周波数がこれらの好ましい範囲を満足しない場合には、介在物抽出用試験片の長さを調節することによって、当該範囲に共振周波数を調整することができる。実施例で使用した介在物抽出用試験片の共振周波数は19,980Hzであり、前述の条件内を満たしている。
ところで、超音波疲労試験機の出力可能範囲に対して、介在物抽出用試験片のサイズを大きくして危険体積を増大させると、介在物抽出用試験片に負荷できる最大応力は危険体積の大きさに伴って低下する。そこで、次に示す水素チャージを利用して鋼材を脆化させることで破断を促進することもできる。
共振周波数を確認した後、超音波疲労試験の実施に先立ち、介在物抽出用試験片をより迅速に破断させるために、介在物抽出用試験片に対して水素チャージを行うことができる。これにより、鋼材の水素脆化が起こり、介在物抽出用試験片の破断応力を低下させることができる。また、介在物抽出用試験片が脆化破壊することにより、破面が平坦になりやすく、底面が平坦に加工されたドリル穴103に投入する際、破面とドリル穴103の底面との界面の整合性がよくなる。水素チャージの方法は、特に限定しないが、例えば、種々の電解液に浸漬させる方法、高圧の水素ガス中に曝露する方法、電解液中にて試験片を陰極とする電気分解を行う方法等を用いることができる。
実施例では、電解液中にて介在物抽出用試験片を陰極とする電気分解を行う陰極チャージ法により水素チャージを実施した。電解液には、純水に塩化ナトリウム及びチオシアン酸アンモニウムを添加した電解液を使用した。電解液を100質量%としたとき、塩化ナトリウムの濃度は3質量%、チオシアン酸アンモニウムの濃度は0.3質量%とした。また、水素チャージの時間は、6時間連続とした。介在物用試験片に流れる平均電流密度は1.0mA/cm、試験温度は50℃とした。
鋼中への水素拡散係数は温度依存性を示すことから、電解液温度を高くすることで水素チャージを効率化することができる。そこで、電解液を例えば室温よりも高い温度に温度調整することにより、水素チャージを効率的に行ってもよい。
なお、介在物抽出用試験片にチャージされた水素は、介在物抽出用試験片を大気中に取り出した後、徐々に放出されるため、水素チャージ後に速やかに超音波疲労試験に供することが望ましい。
超音波疲労試験は、試験片に対して超音波振動により引張・圧縮の繰り返し軸加重を負荷する試験である。超音波により試験片を連続的に加振すると、引張と圧縮とを高速で繰り返すことによる内部摩擦によって試験片が発熱することが知られている。この発熱は、試験片の延性を向上させ、それにより介在物からの破断が阻害される。そこで、適切な試験を実施するためには、必要に応じて例えばチラーで冷却した圧縮エアーを介在物抽出用試験片に吹き付けたり、超音波の発振と停止を繰り返す間欠運転を実施したりすることによって、介在物抽出用試験片の発熱を抑制する必要がある。実施例では、介在物抽出用試験片の発熱を抑制する手段として、圧縮エアーの吹きつけ、ならびに0.11secの超音波加振と0.40secの停止を繰返す間欠運転のいずれも実施した。
さらに、硬度が低い材料は、硬度が高い鋼材に比べて同一負荷応力下における試験片内の内部摩擦が大きくなり、発熱しやすくなる。すなわち、試験の迅速化のため単純に超音波疲労試験機の出力を大きくすると、硬度が低い材料は発熱が顕著になり、適切な疲労試験が行えなくなる。したがって、超音波疲労試験機の出力は、介在物抽出用試験片の焼入焼戻状態もしくは浸炭焼入焼戻状態の硬さ(これらは鋼材の種類により変化)に応じて、適切に選定するのが望ましい。実施例においては、900MPaの試験応力にて超音波疲労試験を行い、破断寿命は5×10サイクルであり、合理的な時間内に試験片を破断しうることが確認されている。
(ステップS5)
ステップS5では、介在物抽出用試験片の破面に現出する介在物の性状に関する情報を取得する。介在物の性状には、上述の通り、介在物の大きさ、形状、分散状態、化学組成が含まれる。これらの情報は、例えばEDS搭載型走査型電子顕微鏡(SEM―EDS)を用いた観察と分析により取得することができる。
例えば、EDS搭載型走査型電子顕微鏡によって介在物用試験片の破面を撮像したSEM画像を取得し、この取得したSEM画像を解析することによって、介在物の投影面積の平方根(√area)として介在物の大きさを求めることができる。また、同様に画像解析により、介在物の大きさを円相当径として求めても良い。さらに、電子線で励起された介在物の特性X線を検出することによって介在物の化学組成を把握することができる。形状や分散状態についても同様に走査型電子顕微鏡による観察によって情報を得ることができる。本ステップS5を実施することにより、抽出した介在物の区分(A系、B系、C系、D系の区別、あるいはそれらのものが複合しているかどうかの区別)を判別することができる。
図5は、超音波疲労試験実施後に、介在物抽出用試験片の破面を撮影することによって取得した光学顕微鏡画像の一例である。その破面の起点付近は、図中の破線領域で示されるようなフィッシュアイ模様を呈し、その中心付近には破断の起点となった介在物(非金属介在物)が抽出されている。
図6は、図5で示した介在物を拡大したSEM画像であり、本例ではこのSEM画像からB系介在物であることが確認される。必要な介在物が得られなかった場合は、必要な介在物が得られるまで以上の介在物の抽出ステップを繰り返せばよい。
(ステップS6)
ステップS6において、上記のように抽出された介在物抽出用試験片の破面上の介在物について、それを含むように切断して、介在物105を含んだ円柱状試料104を作製する。このとき、介在物抽出用試験片の破面上の介在物105の位置は、円柱状試料104の中心に位置するとは限らないので、その位置情報も取得しておき、この後の介在物配置の際にその情報を利用するとよい。なお、介在物の長径及び短径が明確に異なる場合には、介在物の向きに関する情報も取得しておくとよい。そして、この円柱状試料104において介在物105が存在する破面側が、底面が平坦に加工された穴103の底面と向き合うように、円柱状試料104を穴103の内部に収納する。ここで、底面が平坦に加工された穴103の底面における介在物105の配置方向は、疲労試験の目的に応じて変更することができる。実施例では、介在物105の伸長方向と図3のX-X方向(一対の目印部材107を通過する中間材100A1の径方向)とが一致するように介在物105を配設した。このとき、これ以降に行う熱間等方圧加圧加工までに円柱状試料104の収納位置がずれることがないように、円柱状試料104と穴103の界面の一部をスポット溶接しておくこともできる。
また小ドリル穴106に対して、ステンレス鋼製の目印部材107を埋設する。埋設後の熱間等方圧加圧加工により中間材100A1の母相と目印部材107とを接合するが、母相と目印部材107の界面が識別できる状態であることを利用して、介在物105の埋設位置を特定するために用いることができる。すなわち、試験片100の研磨面102側に沿った平面を、互いに直交するX軸及びY軸からなる座標平面で定義したときに、目印部材107の識別された座標位置をもとに、介在物105が存在する位置を特定することができる。これにより、後述のスラスト型転がり疲れ試験時の転動体の軌道下に介在物105を配置することができるようになる。
(ステップS7)
ステップS7では、中間材100A1に対して熱間等方圧加圧加工(HIP:Hot Isostatic Pressing)を実施する。熱間等方圧加圧加工を行うための前処理として、中間材100A1を別途用意した低炭素鋼製のケース(不図示)に収め、中間材100A1の内径穴部101に芯金(不図示)を挿通した後、該ケースを密閉する。ケース密閉後に、ケース内部を真空脱気して熱間等方圧加圧加工を実施し、その後ケースごと冷却する。熱間等方圧加圧加工における加熱温度は、1150℃以上、好ましくは1160℃以上である。熱間等方圧加圧加工における圧力は、好ましくは110MPa以上、より好ましくは140MPa以上である。実施例では、圧力を147MPa、加熱温度を1170℃に設定し、当該加熱温度における保持時間を5hとした。
熱間等方圧加圧加工を施すことにより、円柱状試料104及び介在物105を穴103に対して密着させるとともに、目印部材107を小ドリル穴106に密着させることができる。
(ステップS8)
ステップS8において、中間材100A1に対して焼ならし工程と球状化焼なまし工程を実施し、SUJ2からなる部分を中間材100A2に加工する再加工工程を実施する。
図7に示すように、実施形態の中間材100A2は、介在物105の周囲の一部に人工的に隙間を形成するための引張加工(後述するステップS9)に適した形状となっている。中間材100A2は、中心部に内径穴部109を有する中空円盤状の部材である。内径穴部109は、その後の引張方向Y-Yに平行な方向において、内径穴部109を中心とした対象位置に円弧状凹部109aと円弧状凹部109bを有する。これらの円弧状凹部109a及び109bは、内径穴部109よりも曲率半径が小さい弧形状に形成されており、内径穴部109の中心から離間する方向に向かって突出している。また、内径穴部109は、引張加工の引張方向Y-Yの垂直な方向X-Xにおいて、内径穴部109を中心とした対象位置に円弧状凹部109cと円弧状凹部109dを有する。これらの円弧状凹部109c及び109dは、内径穴部109よりも曲率半径が小さい弧形状に形成されており、内径穴部109の中心から離間する方向に向かって突出している。
中間材100A2内に周囲の母相と密着状態で埋設された介在物105は、図7に示すように、中心線付近を通り、なおかつ引張加工を付与する方向Y-Yとは直交する方向X-Xの中周付近に配置されるように位置調整されている。
この位置調整は、目印部材107を利用することにより行うことができる。
実施例における焼ならし工程では、865℃の加熱温度で1h保持した後空冷する焼ならし処理を実施した。実施例における球状化焼なまし工程では、最高点加熱温度を800℃とする加熱処理を実施し、その温度にて所定時間保持後に徐冷する球状化焼なまし処理を実施した。実施例における再加工工程では、中間材100A2の外径(図3の寸法Aに相当する)を54mm、中間材100A2の厚み(図3の寸法Cに相当する)を6.2mm、内径穴部109の半径を10mm、円弧状凹部109a及び109bの曲率半径を6.5mm、円弧状凹部109c及び109dの曲率半径を7mmとした。なお、中間材100A2の厚みは、後述するステップS9の引張加工において、ピンが塑性変形しない適宜のサイズに設定されていればよい。
(ステップS9)
ステップS9では、介在物105の周囲の一部に隙間を形成するために、中間材100A2に対して引張加工を施す。引張加工は、円弧状凹部109a及び109bにそれぞれ高硬度鋼製のピンを配設し、これらのピンをサーボ試験機に取り付けた引張加工用の冷間ダイス鋼製冶具(冶具にはピンの断面形状に合わせた孔加工を付与)に固定した後、ダイスに固定したピンを介して中間材100A2をY-Y方向に引っ張ることにより実施することができる。また、引張加工は、冷間状態で行うことができる。実施例では、直径12mmのSUJ2の丸棒の一部を長手方向に研削したのち、焼入焼戻しにより60HRC程度に調整することによりピンを製造した。
本実施形態のようにSUJ2によって構成された球状化焼なまし状態の中間材100A2に対して引張加工を加えて、介在物105と母相との間の一部に隙間を形成するためには、球状化焼なまし材である中間材100A2の引張強さを1とした場合に、介在物105を埋設した箇所の近傍に少なくとも、その0.85倍程度以上の応力が負荷されるように引張加工を行うことが望ましい。これを実現するためには、例えば図7の中間材100A2の形状を用いる場合には、引張加工のストローク量を少なくとも5.3mmとすればよい。なお、中間材100A2の引張強さを1とした場合に、その0.85倍程度以上の応力が必要としているが、この応力の大きさに対して介在物105の存在によってもたらされる応力集中作用は考慮していない。ただし、実際上は、介在物105の応力集中作用のアシストによって、介在物105の周囲には引張強さを超える応力が作用するため、介在物105の周囲にのみ隙間108を形成させることが可能となる。
隙間108のサイズを大きくしたい場合には、上記のストローク量を更に増大すればよい。その場合に介在物105の近傍に負荷される応力は高くとも0.95倍以下とすることが好ましく、より好ましくは0.93倍以下である。引張加工で付与される応力に上限を設けるのは、埋設した介在物105の周囲以外の箇所にもボイドが形成され、それらが転がり疲れ挙動や寿命に及ぼす影響を避けるためである。
実施例では、引張加工のストローク量を7mmに設定した。引張加工後に、内径穴部101を再び円形状に加工することができる。これにより、後述のスラスト試験における位置調整が容易になる。ただし、内径穴部101を再び円形状に加工する工程は、省略することもできる。
なお、中間材100A2は、図7に例示した形状に限るものではなく、介在物105の周囲の隙間108の形成に必要な応力を付与することができる適宜の形状に変更することもできる。また、上述した通り、中間材100A2の厚みは、引張加工においてピンが塑性変形しない適宜のサイズに設定されていればよい。
(ステップS10)
ステップS10において、中間材100A2を焼入焼戻しして、中間材100A2の硬さを調整する。焼入焼戻し後の、中間材100A2の硬さ(ロックウェル硬さ)は好ましくは55HRC以上であり、より好ましくは58HRC以上である。硬さがこれより低くなると、欠陥やその周辺のみならず、母相自体の転がり疲れが進行するため、欠陥そのものの有害性を区別して検証することが難しくなる。実施例では、焼入れの加熱温度を835℃、加熱時間を0.5hとし、焼き入れのための急冷手段として油焼入れを用いた。また、焼戻し温度を180℃、焼戻し時間を1.5hとし、焼戻し温度到達後の冷却手段として空冷を利用した。焼入焼戻し後の中間材100A2の硬さは、62HRC程度であった。
(ステップS11)
熱処理によって発生した中間材100A2の酸化スケールを平面研削で除去してから、周波数50MHzの超音波探傷試験により中間材100A2中の介在物105の存在深さを特定し、この深さ情報をもとに中間材100A2のバフ研磨仕上げを行い、後述のスラスト型転がり疲れ試験条件における高せん断応力深さ域に介在物105が配置されるように調整する。超音波探傷試験の際に、介在物105の存在深さに加えて、介在物105の埋設箇所直上の座標位置も特定することができる。バフ研磨仕上げ工程では、表面に研磨材を塗布したバフを回転させながら当接させることによって表面研磨を行う。バフには、綿、フェルトなどを用いることができる。50MHzの超音波探傷試験では位置を特定できなかった場合は、さらに高周波の超音波探傷試験を利用して介在物105の存在深さを特定しても良い。
以上のステップS1~S11で説明した工程によって、スラスト型転がり疲れ試験に用いられる試験片100が完成する。そして、球形とは異なる性状の介在物を踏まえたスラスト型転がり疲れ試験を実施することができる。これにより、介在物の有害性(寿命や転がり疲れへの影響)を精緻に検証することができる。
スラスト型転がり疲れ試験について、実施例を示して詳細に説明する。スラスト型転がり疲れ試験を行う前の準備として、小ドリル穴106に埋めた精密な目印となる目印部材107の位置をバフ研磨面上を目視することによって特定した。続いて、一対の目印部材107の間を転動体が通るように軌道を配置した。試験片100と組み合わされる上板としてはSUJ2製の単式スラスト軸受のレース(型番51305)を使用した。試験片100と上板との間には転動体を配置した。転動体には、直径3/8インチのSUJ2製鋼球を使用した。これらの転動体を120°間隔で等分に3つ配置した。上述した通り、目印部材107の座標位置を活用することで介在物105の埋設箇所直上の位置を特定することができる。このとき、介在物105の超音波探傷試験における座標位置の情報も活用すれば、より精密な軌道位置の決定ができる。すなわち、目印部材107の座標位置を活用することによって特定した介在物105の埋設箇所直上の位置を、超音波探傷試験の試験結果に基づき補正することができる。軌道の配置については、軌道幅内での介在物の配置によって転がり疲れの挙動に変化が生じ得ることを考慮し、埋設箇所直上を軌道幅の中心が通るように設定してもよいし、また、敢えて軌道幅の中心から適宜ずらしてもよく、試験の目的に応じて適宜設定することができる。
続いて転動体と試験片100の接触部に4.5GPaの最大ヘルツ接触応力が加わるように荷重を付与する。このときの負荷サイクル速度を例えば1800サイクル/min、潤滑はISO VG68油浴への浸漬方式とし、常温でスラスト型転がり疲れ試験を実施することで、介在物105を対象とする転がり疲れ挙動を評価することができる。これらのスラスト型転がり疲れ試験の条件は、評価したい環境に合わせて調整して良い。
以上の通り、本実施形態の欠陥導入による転がり疲れ試験方法を用いることにより、予め性状の判明した介在物105を試験片本体部100Aの狙いの位置に導入し、介在物105と周囲母相との間に隙間が付与されている状態にした後、それを対象として転がり疲れ試験を行い、事前に把握していた位置情報をもとに試験後に介在物埋設箇所周辺のき裂等の転がり疲れ挙動を確実に観察することが可能になる。介在物105については、その形態が伸長したものでなく、粒状のものについても本発明の方法により試験が可能である。
また、介在物105からはく離を生じさせることができれば、介在物105の大きさと寿命の関係についても検証することができる。また、本方法は、予め転がり疲れを付与する介在物105の組成・形状および介在物―母相界面の状態を定めた状態で試験を行うことから、それらの条件を有限要素法による解析に反映させることも容易であり、この観点からも従来以上に高度な検証が可能になる。
以上説明したように、本実施形態は、鋼中にその製造過程に由来して生成し、包含されていた非金属介在物について、それを抽出する過程を通じて、予め大きさ、組成、形状が確定したものを軸受用鋼製の転がり疲れ試験片中に導入し、さらに介在物と母相をお互いに密着させた後、介在物と周囲母相との間に隙間が付与されている状態にし、その介在物を対象として転がり疲れ試験を行い、転がり疲れに対する有害性(寿命や疲労への影響)を精緻に検証するという方法である。
また、この方法では、はく離に至る前段階で試験を中断した場合であっても、鋼中の介在物の存在位置が予め精密に特定されているため、その周囲の疲労状況の断面観察を遂行することができる。
本実施形態の性状が判明した介在物導入による転がり疲れ試験方法は、寿命に関与する介在物の大きさ、形状、組成、母相との隙間の状況、鋼中の存在位置といった諸情報について予め判明した状態から試験を行うため、介在物の有害性(寿命や転がり疲れへの影響)を精緻に検証することが可能となる。
本試験方法を用いた場合、介在物の精密な位置情報が予め判明しているために、介在物周囲の疲労状況の観察を容易に行うことができる。その観察手法としては従来から良く用いられてきた断面観察による手法を利用したり、あるいは非破壊での観察手法を利用したりすることで、介在物周囲の疲労挙動について従来以上に精緻な検証の実現が期待できる。
以上、実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
100 試験片
100A 試験片本体部
100A1 100A2 中間材
101 内径穴部
102 研磨面
103 底面が平坦に加工された穴
104 円柱状試料
105 介在物
106 小ドリル穴


Claims (11)

  1. 転がり疲れ試験に用いられる試験片であって、
    試験片本体部と、
    前記試験片本体部の表面から所定の深さに埋め込まれた、JIS G 0555に規定するA系介在物、B系介在物、C系介在物及びD系介在物のうち少なくとも一つの介在物であって、かつ、球形とは異なる形状の介在物と、を有し、
    介在物と前記試験片本体部の母相との間に隙間を有する試験片。
  2. 前記試験片本体部における前記介在物とは異なる位置に、前記試験片本体部の母相との識別が可能な目印部材が埋め込まれていることを特徴とする請求項1に記載の試験片。
  3. 前記目印部材は、円柱状に形成され、前記試験片本体部の母相とは組成が異なることを特徴とする請求項2に記載の試験片。
  4. 前記試験片の硬さが55HRC以上であることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一つに記載の試験片。
  5. 請求項1から4のうちいずれか一つに記載の試験片を用いてスラスト型転がり疲れ試験を行うことを特徴とする転がり疲れ試験方法。
  6. 請求項2又は3に記載の試験片を用いてスラスト型転がり疲れ試験を行う転がり疲れ試験方法であって、
    前記目印部材の位置から前記介在物の直上における前記試験片本体部の表面位置を特定し、この特定した表面位置を転動体が通るように軌道を設定することにより前記のスラスト型転がり疲れ試験を行うことを特徴とする転がり疲れ試験方法。
  7. 前記の特定した表面位置を、超音波探傷試験の試験結果に基づき補正することを特徴と
    する請求項6に記載の転がり疲れ試験方法。
  8. 請求項1に記載の試験片の製造方法であって、
    前記介在物の抽出工程として、
    鋼材を圧延または鍛造する工程と、
    前記圧延する工程で圧延された圧延材または前記鍛造する工程で鍛造された鍛造材から、軸疲労のための介在物抽出用試験片を採取し、その介在物抽出用試験片の軸方向の超音波振動による疲労試験を行うことにより、介在物抽出用試験片を破断させる破断工程と、
    前記介在物抽出用試験片の破断面に発現した介在物の性状に関する情報を取得するとともに、前記介在物抽出用試験片の破断面ごと介在物を取り出す介在物取り出し工程と、
    を有することを特徴とする試験片の製造方法。
  9. 前記の超音波振動による疲労試験を行う前に、前記介在物抽出用試験片に対して水素をチャージすることによる鋼の脆化工程を実施することを特徴とする請求項8に記載の試験片の製造方法。
  10. 転がり疲れ試験に用いられる試験片の製造方法であって、
    所定の外形を有する第1中間材を作製する工程と、
    前記第1中間材の表面に所定径で所定深さの穴を形成する工程と、
    前記の穴にJIS G 0555に規定するA系介在物、B系介在物、C系介在物及びD系介在物のうち少なくとも一つの介在物であって、かつ、球形とは異なる形状の介在物を埋め込む工程と、
    この介在物が埋め込まれた前記第1中間材に対して熱間等方圧加圧加工を行う工程と、
    前記第1中間材の形状を引張加工に適した形状である第2中間材に加工する工程と、
    前記第2中間材を、所定の方向に前記引張加工して、該第2中間材の母相と前記介在物との間に隙間を形成する工程と、を含む試験片の製造方法。
  11. 前記引張加工は、前記第2中間材の所定の位置に、前記引張加工時点での前記第2中間
    材の引張強さを1とした場合に、前記第2中間材の引張強さの0.85倍以上0.95倍以下の応力を負荷するものである、請求項10に記載の試験片の製造方法。
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