[ココア調製用顆粒状組成物]
後述する本実施形態の製造方法により製造されるココア調製用顆粒状組成物は、例えば、水、湯、牛乳等の液体と混合して喫飲用のココア飲料を調製するために用いることができる。また、本実施形態のココア調製用顆粒状組成物は、飲用のみならず、製菓製パン、調理材料等の食品材料としても用いることができる。
本実施形態のココア調製用顆粒状組成物は、ココアパウダーと、1,3-ジベヘノイル-2-オレオイル-sn-グリセロールと、を含む。
以下、それぞれの原料について説明する。
(ココアパウダー)
ココアパウダー(ココア粉末)は、通常、以下のようにつくられる。収穫され、発酵処理されたカカオ豆をアルカリ処理し、焙炒して、破砕する。そして、破砕物から外皮や胚芽を取り除き、カカオニブのみを回収する。カカオニブを摩砕したものがカカオマスであり、カカオマスを構成する半分以上が脂肪分であるココアバターである。そのカカオマスを、ココアバターの含有量が8~30質量%程度になるまで圧搾して塊となるココアケーキを、細かく破砕したものがココアパウダーとなる。
本実施形態におけるココアパウダーとしては、上記のように製造されたココアパウダーを用いることができ、例えば、8質量%~30質量%の脂肪分(ココアバター)を含有する微細な粉末を用いることができる。すなわち、脂肪分が10質量%~12質量%のローファット(Low Fat)のココアパウダーや、脂肪分が20質量%~24質量%のハイファット(High Fat)のココアパウダーを用いることができる。
また、ココア調製用顆粒状組成物において、飲料としてココアの風味がより豊かになるように、または、飲用のみならず製菓材料等の食品材料としてココアパウダーをより使い易くした改良品とする場合には、ココアパウダーを多く含有するように処方を設計する。その場合、概ね5質量%~20質量%とすることができる。
ココアバターの含有量が5質量%~20質量%であるココア調製用顆粒状組成物は、ココアパウダーの含有量が高くなり、ココアの風味がより豊かなココア飲料を調製することができる。また、顆粒化することで微粉が減り、液体への分散性が増すため、粉舞いが抑制され、かつ、液体や生地に溶かしたり練り混んだりし易い、より使い勝手の良いココアパウダーとして、製菓や料理など、多様な用途に用いることが出来る。
一方で、冷たい水や牛乳での飲用を前提とする場合、疎水性のココアバターを含むココアパウダーを少なくするように処方を設計することが好ましい。その場合、ココアバターの含有量は概ね1質量%~4質量%とすることができる。
ココアバターを1質量%~4質量%含むココア調製用顆粒状組成物は、疎水性のココアバターの含有量が低くなり、ココアバターの含有量が高い場合よりも、温度が低い液体(例えば、冷水や冷たい牛乳)への分散性を高めることができ、アイスココア飲料を調製するためのココア調製用顆粒状組成物とすることができる。
(1,3-ジベヘノイル-2-オレオイル-sn-グリセロール)
1,3-ジベヘノイル-2-オレオイル-sn-グリセロール(以下、「BOB」と記載することがある。)は、トリアシルグリセロール(トリグリセリド)において、sn-1,3位のアシル基がベヘノイル基(炭素数22、C22:0)であり、かつ、sn-2位の不飽和アシル基がオレオイル基(炭素数18、C18:1)である。
また、本実施形態におけるココア調製用顆粒状組成物において、ココアパウダーに含まれるココアバターと、1,3-ジベヘノイル-2-オレオイル-sn-グリセロールとの質量比は、100:1~8とすることができる。この範囲とすることにより、固結の発生を十分に抑制することができる。
(その他の原料)
本実施形態のココア調製用顆粒状組成物には、前述した原料の他、調整ココアに用いる一般的な原料を用いることができる。例えば、甘味料、塩、デキストリン、でんぷん、粉乳類、クリーミングパウダー、食物繊維、乳化剤、着色料、香料、増粘剤、油脂粉末、その他の添加物等を用いることができる。
本実施形態のココア調製用顆粒状組成物には、嗜好性を高めるために、甘味料を用いてもよい。本実施形態のココア調製用顆粒状組成物に用いる甘味料としては、一般的に食品に用いられる甘味料を用いることができる。例えば、甘味料としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖、多糖類、糖アルコール、高甘味度甘味料等を用いることができ、また、具体的には、甘味料としては、グルコース、果糖、スクロース、マルトース、乳糖、エリスリトール、トレハロース、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、ステビア等を用いることができる。なお、本実施形態のココア調製用顆粒状組成物は、甘味料を含んでいなくてもよい。
油脂としては、例えば、動物性油脂及び植物性油脂、並びにそれらの硬化油、エステル交換油、分別油等が挙げられる。タンパク質としては、例えば、乳タンパク質、植物性タンパク質等が挙げられる。乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、サポニン、レシチン等を使用することができる。乳化剤を用いることにより、ココア調製用顆粒状組成物の冷水への分散性を向上させることができる。粉乳類としては全粉乳、脱脂粉乳、クリーミングパウダーが挙げられる。クリーミングパウダーは、油脂、タンパク質、乳化剤、デキストリン等を乳化・粉末化したものである。食物繊維としては、不溶性食物繊維、水溶性食物繊維が挙げられる。不溶性食物繊維は、例えば粉末セルロースが挙げられる。水溶性食物繊維としては、例えばイヌリン、難消化性デキストリン、ポリデキストロースが挙げられる。油脂粉末としては、デキストリン等を賦形剤として油脂を粉末化したもの、油脂に水素添加して粉末化したものが挙げられる。 それら原料は、嗜好性の改善・栄養強化等の目的にあわせて、適宜、選択して使用することができる。
(ココア調製用顆粒状組成物の物性)
本実施形態のココア調製用顆粒状組成物は、顆粒状の組成物である。本明細書において、顆粒とは、粉末が結着して、粉末よりも大きな粒(顆粒)が形成されたものを指す。本実施形態のココア調製用顆粒状組成物を構成する顆粒は、前述したココア調製用顆粒状組成物の原料を結着させたものである。前記顆粒は、結着した粉末同士や顆粒の間に空気を含んでいる隙間があることから、液体と接触したときに、その隙間に液体が浸潤しやすい構造となっている。そのため顆粒は、粉末状の原料混合物よりも、その構造によって液体への分散性を向上させることができる。
また、本実施形態のココア調製用顆粒状組成物の粒度分布において、篩下60%粒子径/篩下10%粒子径が2.5~5.7である。本明細書において、篩下60%粒子径、篩下10%粒子径とは、体積基準の粒度分布において、積算体積百分率が60%、10%における粒子径、すなわち、それぞれ、D60、D10を指す。
篩下60%粒子径と篩下10%粒子径の比(篩下60%粒子径/篩下10%粒子径、すなわち、D60/D10)は均一度と言われ、Carrの流動性指数における評価項目の一つとして一般的に用いられている。均一度が大きいほど、顆粒の粒径の均一性が低く、粒径の大きい顆粒と粒径の小さい顆粒との差が大きいことを示す。逆に、均一度が小さいほど、顆粒の粒径の均一性が高く、粒径の大きい顆粒と粒径の小さい顆粒との差が小さいことを示す。均一度が5以下であればCarrの流動性指数では「最も良好」という評価となり、6~8であれば「良好」という評価となる。本実施形態のココア調製用顆粒状組成物においては、均一度が2.5~5.7の範囲であることにより、顆粒の粒径が均一であると共に、固結の発生が軽微なココア調製用顆粒状組成物とすることができる。
後述するように、本発明者の検証により、ココア調製用顆粒状組成物における固結の発生には、ココアパウダーに含まれるココアバターの析出が関係していることが分かった。
ココア調製用顆粒状組成物では、ココアバターが析出すると、ココア調製用顆粒状組成物の色調が白くなる傾向がある。特に、原料においてココアパウダーの含有量が高い場合には、ココアパウダーに含まれるココアバターの状態変化の影響が顆粒状組成物の物性に大きく影響することから、ココア調製用組成物の白化がL*値の変化として観察される。よって、固結の発生傾向が高いココア調製用顆粒状組成物の指標として、L*値の変動を用いることができる。
加えて、油脂結晶の発生と均一度の相関を本発明者は発見したが、その因果関係について考えられる理由として、ココアバターが析出した場合、それは針状の油脂結晶であるため、ココア調製用顆粒状組成物を振るなどして動かすと、その油脂結晶が剥がれ、顆粒に比べてかなり小さな微粉が増加する。その場合、微粉が増加することでD10の値はより小さくなり、D10が小さくなれば均一度の値は増加する。以上の理由で、油脂結晶の発生と均一度に相関があると考えられる。
(従来品と本実施形態のココア調製用顆粒状組成物との比較)
発明者の検証により、従来のココア調製用組成物においては、保管中にココアパウダーに含まれるココアバターの形が針状の油脂結晶に変化して、その結果、隣り合う粉末同士が析出した針状の油脂結晶を介して架橋し、結合することにより、固結が発生する頻度やその固結度合いが高い事がわかった。図1は、白色の針状結晶が析出したココアパウダーの顕微鏡写真(拡大率700倍)であり、矢印で指し示す箇所に、白色の針状結晶が析出している。ブルームしたチョコレートでも図1と同様のココアバター由来の針状結晶が発生することから、この針状結晶は、ココアバター由来の脂質の結晶であることが強く示唆された。
ココア調製用組成物は包材に充填した形状で流通することが多い。ココア調製用組成物に固結が発生した場合には、包材に充填する前に十分に解砕してから充填工程に供する必要があり、製造を困難にしていた。また、ココア調製用組成物の製造後、固結の発生前に包材に充填できたとしても、その後の流通過程における時間経過で、包材内において顆粒状組成物が固結することがあった。
ココアパウダーを含む顆粒状組成物を製造した場合には、ココアバターが不安定型となっていることが多く、不安定型のココアバターは、経時変化により安定型の構造に徐々に変化することが知られている。このように、保管中に不安定型のココアバターが変化する過程で、結晶成長することにより、ココアバターの形状が変化して、顆粒の表面に針状の油脂結晶が生成すると考えられた。
さらに、発明者が鋭意検証を重ねたところ、本実施形態のココア調製用顆粒状組成物の製造方法により、固結の発生が抑制されることが示され、本発明の完成に至った。
[ココア調製用顆粒状組成物の製造方法]
本実施形態のココア調製用顆粒状組成物の製造方法は、流動層造粒装置の造粒室において、ココアパウダーおよび1,3-ジベヘノイル-2-オレオイル-sn-グリセロールを含む混合物に、バインダーの全使用量のうち5質量%~30質量%を予め添加して混合する、混合工程と、混合工程の後に、造粒室において、混合工程よりも高い温度で流動層造粒により、混合物を流動させながら、バインダーの全使用量のうち70質量%~95質量%を噴霧して顆粒を形成することにより、粒度分布における、篩下60%粒子径/篩下10%粒子径が2.5~5.7のココア調製用顆粒状組成物を得る、造粒工程と、を含むものである。なお、本実施形態のココア調製用顆粒状組成物の製造方法における各材料は、前述のココア調製用顆粒状組成物において説明したものと同様のものを用いることができる。
また、混合工程における造粒室からの排気温度が40℃未満であり、造粒工程における排気温度が40℃以上とすることができる。
また、造粒工程において、造粒室への吸気温度を100℃~120℃として、造粒室からの排気温度を45℃~50℃に維持してもよい。
本実施形態の製造方法の造粒工程において、粉末状の原料を加湿しながら流動させることにより、粉末同士が結着することにより顆粒が生成される。ここで、粉末状の原料を加湿するための液体としてバインダーが用いられる。
バインダーは、噴霧可能な液体状の原料、または、原料のうち溶解性の高い粉末状原料の一部(例えば、甘味料の一部等)や液体状の原料を水等の液体に混合したものを用いることができる。水等の液体に混合する原料としては、粉末状の原料同士が凝集しやするなるように、液体の粘性を高くすることができるものが好ましい。具体的には、甘味料、デキストリン、水溶性の食物繊維、増粘剤等を用いることができる。また、乳化剤を用いる場合はバインダーに溶解させ、噴霧することで顆粒全体に行き渡らせることができる。加えて、バインダーは加温しておいてもよい。
次に、混合工程、造粒工程の各工程について説明する。
(混合工程)
混合工程は、造粒工程の前に、ココアパウダーおよび1,3-ジベヘノイル-2-オレオイル-sn-グリセロールを含む混合物に、バインダーの5質量%~30質量%を添加して混合する工程である。ここで、バインダーに、原料の一部を用いた場合には、残りの原料を混合したものを前記混合物として用いる。すなわち、バインダーとして甘味料などを用いた場合には、甘味料などの一部をバインダーとして用いて、残りを前記混合物として用いてもよい。
ココアパウダーには脂肪分であるココアバターが含まれており、また、原料として脂質を含むものを用いることがある。特に、原料におけるココアパウダーの含有量が高い場合(例えば、ココアバターの含有量が10質量%~20質量%程度)には、造粒工程の流動層造粒において原料に熱風が当たると、ココアバター等の脂肪分が溶解して原料の流動を阻害し、原料が固まってしまう、いわゆるケーキングが起こることがある。あるいは、装置の内壁面にくっついて歩留まりが悪くなったり、装置に設けられているフィルターが目詰まりしたりし得る。混合工程により、造粒工程の前に、予めココアパウダーおよび1,3-ジベヘノイル-2-オレオイル-sn-グリセロールを含む混合物に、バインダーの一部を添加して混合しておくことにより、ケーキングを抑制して、生産性を向上させることができる。
なお、混合工程の前に、粉末状原料を攪拌等により混合しておいてもよい。粉末状原料の混合は、粉末の混合に用いられる一般的な攪拌装置等を用いることができる。
混合工程は、ケーキング等の不具合を抑制するために、造粒工程よりも低い温度で行うことが好ましい。本実施形態のココア調製用顆粒状組成物の製造方法においては、例えば、混合工程において造粒室からの排気温度を40℃未満で行い、かつ、造粒工程において造粒室からの排気温度を40℃以上で行うことができる。
また、混合工程は、後述する造粒工程と同様に、流動層造粒装置を用いて、流動層造粒装置の造粒室において行われる。すなわち、風を当てて混合物を流動状態として、造粒室からの排気温度が40℃未満の温度において、バインダーを噴霧することにより、粉末状原料にバインダー液を添加して混合することができる。
ここで、流動層造粒装置の造粒室から排気される空気は、造粒室内へ流入した空気が、投入したココア調製用顆粒状組成物などの粉末原料を巻き上げ、流動させた後に造粒室外へ排気されるものである。すなわち、粉末状の原料が熱風により巻き上げられ、かつ、粉末状の原料にバインダーが噴霧されることで、造粒室内は、熱風による加熱と、主にバインダーに含まれる水分の気化による冷却が連続で発生している状態であり、造粒室からの排気温度は、これらの加熱と冷却の平衡の結果として表れる。このことから、排気温度は製造工程における粉体の温度(品温)に近しいと考えられ、排気温度は品温に近しいモニタリングの指標とすることができる。故に、排気温度を調整することにより、品温をある程度調整することができる。
流動層造粒装置において、排気温度は流動室内の温度と近しい値になることから、流動層造粒装置を用いる場合に流動室からの排気温度を40℃未満とすることにより、品温は概ね40℃未満で混合工程を行うことができる。
流動層造粒装置による混合工程において、原料混合物への水分の添加が不十分である場合には、装置内への粉末の付着やケーキングが発生するリスクが高くなりうる。バインダーの5質量%~30質量%を添加して混合することにより、装置内への粉末の付着やケーキングが発生するリスクを低くすることができる。特に、排気温度がおよそ40℃を超えて、原料混合物の品温が40℃を超えた場合に、上記リスクが高くなりやすい。このことから、流動層造粒装置を用いた混合工程において、排気温度が40℃未満になるように調整することにより、装置内への粉末の付着やケーキングが発生するリスクをより低減することができる。
(造粒工程)
造粒工程は、混合工程の後に、造粒室において、混合工程よりも高い温度で流動層造粒により、混合工程により得られた混合物を流動させながら、バインダーの全使用量のうち70質量%~95質量%を噴霧して顆粒を形成することによりココア調製用顆粒状組成物を得る工程である。
ここで、流動層造粒とは、流動層造粒装置の造粒室に入れた粉末状原料に、下方から熱風を当てて装置内で流動させ、かつ、バインダーを粉末に対して噴霧することにより、粉末を濡らし、乾かすという変化を連続して引き起こすことで、粉体同士を結着させ、粉体の凝集体である顆粒を形成する方法である。熱風の温度は、装置に流入する際の温度として吸気温度を、装置から流出する際の温度として排気温度の管理を行う。バインダーを噴霧する工程では、排気温度がある程度一定の温度を保つように調整する。排気温度の低下が見られる場合には、吸気温度を上げることに加え、バインダーの噴霧を排気温度が上昇するまで止める場合がある(中間乾燥)。一定量のバインダーを噴霧した後、そのまましばらく熱風を当て続け、粉体の乾燥を行う。乾燥では、排気温度から一定の温度まで上昇することを目安として行うことが一般的である。
本実施形態の製造方法における流動層造粒には、流動層造粒装置(例えば、フローコーター(大川原製作所製))を用いることができる。
具体的には、流動層造粒装置に原料を投入して、熱風を送り込むと同時に、バインダーを噴霧する。これにより、粉末状の原料同士の結着が進行し、顆粒化が進む。このとき、吸気温度は90℃~140℃程度、例えば100℃~120℃とすることができ、排気温度は40℃以上、例えば40℃~60℃程度、さらには45℃~50℃とすることができる。吸気温度や排気温度が低い場合には、装置内の水分の流入と乾燥のバランスが崩れ、水分過多となり、粉体がケーキングを引き起こすこと、または、装置のフィルターに濡れた粒子が目詰まりすることで、流動が滞る不具合が発生することがある。一方で、吸気温度や排気温度が高い場合には、原料に対して熱がかかりすぎるため、風味が損なわれる不具合が発生することがある。
原料仕込み量を3kgとした場合、バインダーの噴霧流速は30mL~50mL/分とすることが出来る。仕込み量が増える場合には用いる装置のスケールに合わせ、バインダーの噴霧流速は適切に調整することができる。噴霧するバインダー量は用いる原料によって異なるが、仕込み量の20質量%~40質量%で行うことが望ましい。少ないと顆粒化が不十分となり、多すぎると造粒にかかる時間が増えてしまう。バインダーの噴霧終了後は、そのまま熱風を当て続けることで、顆粒を乾燥させる。顆粒の乾燥は、バインダーの噴霧終了時の排気温度から10℃~15℃上昇したタイミングで熱風を終了することで管理できる。例えば、仕込み量が3kgの場合、用いる原料にもよるが、排気温度が45℃でバインダー噴霧が終了した後、排気温度が60℃になるまで乾燥すれば、顆粒の水分値はおよそ2~6質量%とすることができる。ココアパウダーを含む粉末状原料の顆粒化が十分であれば、排気温度が40℃以上の流動状態で、かつ、原料混合物中の水分含有量が低下しても、前述の混合工程における装置内への粉末の付着やケーキングの原因となるココアパウダーが顆粒化しているため、製造上のトラブルは発生しない。顆粒の水分値は、造粒工程を行う前の、混合工程における水分添加前の混合原料以下となることが望ましく、ココアパウダーにおける水分値は、6.5質量%を超えると劣化の原因となると言われているため、できるだけ小さく抑えることが望ましい。乾燥後の粉体はかなり熱い状態となるため、乾燥後に雰囲気温度の空気を顆粒に吹き当てることで、粉体をある程度冷却することができる。以上により、ココア調製用顆粒状組成物が得られる。
なお、上記の条件における1回あたり(1バッチ)の生産量は、装置のスケールによって、例えば、3kg~300kg程度とすることができる。装置のスケールによって最適な仕込み量があるため、装置によって仕込み量は異なる。
本実施形態のココア調製用顆粒状組成物の製造方法は、ココアパウダーおよび1,3-ジベヘノイル-2-オレオイル-sn-グリセロールを含む混合物に、バインダーの全使用量のうち5質量%~30質量%を予め添加して混合する、混合工程と、前記混合工程の後に、前記造粒室において、前記混合工程よりも高い温度での流動層造粒により、前記混合物を流動させながら、前記バインダーの全使用量のうち70質量%~95質量%を噴霧して顆粒を形成する造粒工程と、を含む。このことから、保管しておいたとしても、顆粒状組成物における油脂結晶の析出が抑制され、油脂結晶を介した顆粒同士の結合が抑制されて、固結の発生を抑制することができる、顆粒状組成物を製造することができる。
また、特に、油脂分を含み、極めて微細な粉体であるココアパウダーを多く含む粉体の場合には、ココアパウダーの性質上その粉体の流動性は悪くなることが多く、工業的に扱いづらいことが多い。特に、ココアパウダーの含有量が高く、ココアバターの含有量が5質量%~20質量%程度の高い割合で顆粒化する場合には、取扱性が困難である。このような場合においても、本実施形態により製造されるココア調製用顆粒状組成物は、流動性の良好な、工業的に扱いやすい顆粒とすることができる。
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質等を限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質等の限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
[実施例1、および、比較例1]
本実施例においては、前述したココア調製用顆粒状組成物の製造方法において、混合工程ののち造粒工程を行う方法により製造したココア調製用顆粒状組成物を例示する。
<ココア調製用顆粒状組成物の製造>
原料は、表1に記載したものを用いた。ココアパウダーとして、バンホーテンピュアココア(片岡物産製)を用いた。本実施例において用いたココアパウダーは、ココアバターを22質量%~24質量%含んでいる、いわゆるハイファットのココアパウダーであった。また、イヌリンとして、Fuji FF(フジ日本精糖製)を用いた。また、本実施例における1,3-ジベヘノイル-2-オレオイル-sn-グリセロール(BOB)として、粉糖を50質量%、BOBを50質量%含むチョコシードB(不二精油製)を用いた。また、各原料の質量比と、ココアバターに対するBOBの含有量(質量%)を合わせて表1に示した。
次に、バインダーを調製した。バインダーは、熱湯にイヌリン140gを溶解して、全量を1200gとしたものを用いた。なお、混合工程、造粒工程における室温は25℃とした。
次に、流動層造粒装置フローコーターFLO-5(大川原製作所製)の装置内に粉末原料(ココアパウダー、イヌリンの残量、実施例1はチョコシードB)を投入して、粉末が均一になるように混合した。さらに、混合工程を行なった。粉末原料に吸気温度が120℃となるように設定した熱風を当て、同時にバインダーの噴霧を開始し、流動状態としながら、排気温度が40℃未満の条件下で、粉末原料を流動状態としながら、調製したバインダー200gを流動層に40g/分で5分間添加して混合した。ここで用いたバインダーはバインダー全量の約17%であった。
次に、造粒工程を行なった。造粒工程は、混合工程と同様に、流動層造粒装置を用いて行なった。流動層造粒の条件は以下の通りとした。
吸気温度:100℃~120℃
排気温度:45℃~50℃を維持
バインダー噴霧流速:40mL/分
熱風を吹き当ることで流動層装置内の粉体を流動させて、同時にバインダーを噴霧することで粉体原料を顆粒化させた。バインダー噴霧が終了後、排気温度をさらに15℃上げて顆粒の乾燥を行い、その後雰囲気温度(室温)の空気を流動させる工程を5分行い顆粒の冷却を促した。
以上により、実施例1、比較例1のココア調製用顆粒状組成物を得た。なお、実施例1、比較例1ともに、流動層造粒装置内において、原料のケーキングは発生しておらず、粉体の付着も軽微であった。また、実施例1、比較例1において製造された顆粒状組成物には、製造直後の時点では固結は発生していなかった。
<評価および評価結果>
実施例1と比較例1のココア調製用顆粒状組成物の評価を行なった。評価は、製造3日後、製造1ヶ月後の顆粒状組成物をそれぞれ用いた。また、製造後の保管は、アルミ袋に密封して室温に静置して行なった。
評価項目は、顆粒状組成物の粒度分布から算出した均一度、顆粒状組成物のL*値、顆粒状組成物の目視観察、顕微鏡観察、および、DSCによるココアバターの状態確認とした。
粒度分布は、レーザー回折式粒度分布計LMS-2000e(セイシン企業製)を用いて測定し、体積基準の粒度分布における篩下10%、篩下50%、篩下60%の粒径を求めた。また、顆粒状組成物の粒径の均一度として、篩下60%粒子径と篩下10%粒子径の比(篩下60%粒子径/篩下10%粒子径、すなわち、D60/D10)を算出した。篩下60%粒子径/篩下10%粒子径が2.5~5.7である場合に、顆粒状組成物の粒径が均一であると判断した。
顆粒状組成物のL*値は、色彩色差計CR-400(コニカミノルタ製)を用いて、顆粒状組成物の色彩色差(L*a*b*表色系)測定を行うことにより求めた。製造3日後と製造1ヶ月後の顆粒状組成物とのL*値を比較して、△L*が±3.0以内である場合に、L*値の変動が少なく、白化が抑制されたと判断した。
また、製造1ヶ月後の顆粒状組成物を目視観察して、顆粒状組成物における変化の有無を確認した。実施例、比較例の顆粒状組成物の写真を図2に示した。
また、製造1ヶ月後の顆粒状組成物をデジタル顕微鏡VHX900(キーエンス製)を用いて700倍の拡大率で観察した。実施例、比較例の顆粒状組成物の顕微鏡写真を図3に示した。
ココアバターの状態の確認は、示差走査熱量計DSC-60plus(島津製作所製)を用いて行った。試料は各20mg程度をアルミ製の測定容器(セル)に量り取り、封をしたのち、分析を行った。対照として、測定温度範囲で変化のないアルミナ35mgを封入したセルを用いた。測定は室温から4℃まで冷却した後、1℃/分の昇温速度にて45℃になるまで行った。製造3日後の実施例1、比較例1の顆粒状組成物における結果を図4(A)に示し、1ヶ月後の実施例1、比較例1の顆粒状組成物における結果を図4(B)に示した。グラフの横軸は温度(℃)、縦軸は熱流(mW)のDSC信号でプロットし、実施例1は実線で、比較例1は破線にて示した。
また、DSCでは固体が融解する際の吸熱反応を補足することができ、吸熱の場合は下方向に熱流(mW)が発生し、徐々に元の状態へ収束する傾向を示す。そうして出来上がったピークの頂点を一般的に融点と呼ぶことが多い。ココアパウダーはココアバターを内包しており、ココアパウダーを含む顆粒をDSCにて測定することで内包するココアバター結晶の融点を測定することができる。ココアバターの融点はその結晶形の違いによって6種(I型~VI型)あると言われている。未処理でブルーム等の瑕疵の無いココアパウダーをDSCにて分析を行うと、30℃~31℃の融点ピークを示すことを本発明者は見出しており、それが通常の瑕疵のないココアバターに含まれる準安定形と言われるV型結晶であると言える。
本実施例においては、顆粒状組成物におけるココアバターの融点の変化の有無から、ココアバターの結晶構造の変化を確認した。
製造1ヶ月後の顆粒状組成物を目視観察したところ、実施例1の顆粒状組成物は固結等の異常の発生は認められなかった。一方、比較例1の顆粒状組成物は全体に固結が発生しており、また、色調もやや白くなっていた。製造1ヶ月後の比較例1の顆粒状組成物は、包材への充填が困難な状態であった。製造1ヶ月後の比較例1の顆粒状組成物においては、顆粒を粉砕しない程度に固結をある程度砕いてから、目視観察以外の評価を行なった。
上記の評価により、実施例1の顆粒状組成物においては、製造3日後、製造1ヶ月後の均一度がそれぞれ4.28、2.96であり、製造1ヶ月後においても均一な顆粒状組成物であることがわかった。一方、比較例1の顆粒組成物においては、製造3日後、製造1ヶ月後の均一度がそれぞれ4.64、5.75であり、製造3日後は実施例1と近しい値であるものの、製造1ヶ月後は均一度の値が高くなり、実施例1と比較して均一性が失われていることがわかった。
また、製造3日後と製造1ヶ月後の顆粒状組成物とのL*値を比較すると、実施例1においては、24.71から25.17(△L* 0.46)、比較例においては、32.14から37.82(△L* 5.68)となった。このことから、実施例1においては、L*値の変動が少なく、白化が抑制されており、比較例1においては、L*値の変動が大きく、白化が進行していることがわかった。
また、製造1ヶ月後の顆粒状組成物について顕微鏡により観察を行ったところ、実施例1の顆粒状組成物ではココアパウダーの特徴的な褐色の色調が色濃く残っており、また、油脂結晶の析出は確認されなかった。また、比較例1の顆粒状組成物では、白い構造物が顆粒の表面を覆っている様子が確認された。この白い構造物は油脂結晶の析出が経時によって進行した状態と考えられた。
ココアバターの状態をDSCにて確認したところ、製造3日後の実施例1では融点が30.15℃、比較例1では29.92℃であった。また、実施例1に対して、比較例1はややブロードなピークを示す傾向があった。
それに対し、製造1ヶ月後では実施例1の融点が30.93℃、比較例1の融点が32.47℃となり、どちらもシャープなピークを示した。この結果は、比較例1が製造から1ヶ月において、顆粒状組成物に含まれるココアバターがより安定な型に変化した結果と考えられる。一方で、実施例1においてはやや融点が上がったものの、比較例1と比べて変化は少なく、安定した結晶を維持しているものと思われる。
これらの結果から、ココアパウダーとBOBとを含む原料を100℃~120℃の熱風を吹き当てる流動状態にした場合においても、また、造粒工程の乾燥時においては排気温度が60~65℃まで上昇しても、融点が約50℃と言われるBOB結晶がそのココアバターの準安定形であるV型結晶の種晶としての効力を失うことなく作用していることが示された。また、その作用によって、ココアパウダーを含む顆粒を流動層造粒にて製造した後、油脂結晶の構造変化に由来すると考えられる、経時での固結の発生を抑制することが出来たことが示された。
以上の評価結果から、実施例1の顆粒状組成物においては、固結の発生が抑制されることが示された。このことは、顕微鏡観察により観察される白い構造物である油脂結晶の析出が抑制される結果、油脂結晶を介した顆粒同士の凝集が抑制されて、顆粒状組成物全体の固結が抑制されるものと考えられた。
また、比較例1のように、油脂結晶が析出することにより、顆粒状組成物の白化が観察され、顆粒状組成物の白化は色彩色差測定におけるL*値の上昇として確認されることが示された。また、顆粒状組成物における固結の発生は、均一度と相関が確認された。これらのことから、L*値や均一度の変動をモニタリングすることにより、顆粒状組成物における固結発生の傾向を確認することができるものと考えられた。
[実施例2~実施例4、および、比較例2]
次に、顆粒状組成物におけるBOBの含有量を種々変更して製造した顆粒状組成物について評価した。
原料は、表3に示したものを用いた。マルトースとして、サンマルミドリ(林原製)を用いた。他の原料は、実施例1と同様のものを用いた。
原料が異なること以外は実施例1と同様にしてココア調製用顆粒状組成物を得た。実施例2~実施例4、比較例2ともに、流動層造粒装置内において、原料のケーキングは発生しておらず、粉体の付着も軽微であった。また、実施例2~実施例4、比較例2において製造された顆粒状組成物には、製造直後の時点では固結は発生していなかった。
<評価および評価結果>
実施例2~実施例4、比較例2のココア調製用顆粒状組成物の評価を行なった。評価は、製造2日後、製造5ヶ月後の顆粒状組成物をそれぞれ用いた。評価項目は、顆粒状組成物の粒度分布から算出した均一度、顆粒状組成物のL*値、顆粒状組成物の目視観察、および、製造2日後、製造5ヶ月後の顆粒状組成物の顕微鏡観察(拡大率700倍)とした。評価方法は、実施例1と同様にして行った。評価結果を表4および図5~図8に示した。
製造5ヶ月後の顆粒状組成物を目視観察したところ、実施例2~実施例4の顆粒状組成物は固結等の異常の発生は認められなかった。一方、比較例2の顆粒状組成物は全体に固結が発生しており、また、色調もやや白くなっていた。製造5ヶ月後の比較例2の顆粒状組成物は、包材への充填が困難な状態であった。製造5ヶ月後の比較例2の顆粒状組成物においては、顆粒を粉砕しない程度に固結をある程度砕いてから、目視観察以外の評価を行なった。
上記の評価により、実施例2~実施例4の顆粒状組成物においては、製造5ヶ月後の均一度が3.68~5.64であり、製造5ヶ月後においても均一な顆粒状組成物であることがわかった。一方、比較例2の顆粒組成物においては、製造2日後、製造5ヶ月後の均一度がそれぞれ5.02、7.20であり、製造5ヶ月後は均一度の値が高くなり、実施例2~実施例4と比較して均一性が失われていることがわかった。
また、製造2日後と製造5ヶ月後の顆粒状組成物とのL*値を比較すると、実施例2~実施例4においては、ΔL*が0.90~2.56、比較例2においては、ΔL*が8.08となった。このことから、実施例2~実施例4においては、L*値の変動が少なく、白化が抑制されており、比較例2においては、L*値の変動が大きく、白化が進行していることがわかった。
製造2日後と製造5ヶ月後の顆粒状組成物を顕微鏡観察したところ、図5~図7に示したように、実施例2~実施例4の顆粒状組成物においては、製造2日後(図5~図7(A))、製造5ヶ月後(図5~図7(B))において白色結晶の析出は観察されなかった。一方、図8に示したように、比較例2の顆粒状組成物においては、製造2日後(図8(A))においては白色結晶の析出は観察されなかったものの、製造5ヶ月後(図8(B))の顆粒状組成物においては、矢印で示すように顆粒全体に白色結晶の析出が観察された。
以上の評価結果から、BOBの含有量を種々変更して製造した実施例2~実施例4の顆粒状組成物において、実施例1と同様に白色の油脂結晶の析出が抑制されており、また、固結の発生が抑制されることが示された。
[まとめ]
本発明の例示的態様である実施例1~4の製造方法により得られたココア調製用顆粒状組成物においては、ココアパウダーに含まれるココアバターが溶解して油脂結晶の析出を抑制することにより、顆粒状組成物における固結の発生を抑制することができることが示された。