JP2022125745A - 機械式時計 - Google Patents

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祐 田京
Hiroshi Takyo
洋輔 阿部
Yosuke Abe
優作 仁井田
Yusaku Niida
琢矢 白井
Takuya Shirai
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【課題】歩度精度を維持すると共に、耐久性の高い機械式時計1を提供する。【解決手段】機械式時計1は、動力ゼンマイ11と、動力ゼンマイ11の動力を伝達する輪列と、輪列により伝達された動力により駆動するテン輪31と、テン輪31を正逆回転運動させるように弾性変形するヒゲゼンマイ32と、を含む調速機構30と、テン輪31の正逆回転運動に基づいて検出される検出信号と、基準信号源の基準振動数とに基づいて歩度調整を行う歩度調整手段40と、テン輪31の回転軸に対して所定方向に設けられると共に、テン輪31の正逆回転運動における正方向運動及び逆方向運動のそれぞれにおける途中期間においてテン輪31に作用して、テン輪31を減速させる空気抵抗部材15と、を有し、テン輪31は、周方向の一部に形成されると共に空気抵抗部材15により作用される被作用部313を含む。【選択図】図2

Description

本発明は、機械式時計に関する。
従来の機械式時計においては、テンプの往復運動に基づいて1秒を作り出しており、1秒あたりの往復運動の回数が増えると、1秒あたりの誤差、すなわち歩度精度の影響は小さくなる。例えば、特許文献1には、脱進機の慣性を低減してテンプを高速振動化し、歩度精度を向上させる技術が開示されている。
特開2011-185932号公報
テンプの動きが高速であるほど、動力を伝達する各機構が摩耗しやすく、耐久性が低下してしまう。一方、テンプの動きを低速にすると、歩度精度を担保することが困難となる。
本発明は上記課題に鑑みてされたものであって、その目的は、歩度精度を維持すると共に耐久性の高い機械式時計を提供することにある。
(1)動力源と、前記動力源の動力を伝達する輪列と、前記輪列により伝達された動力により駆動するテン輪と、前記テン輪を正逆回転運動させるように弾性変形するヒゲゼンマイと、を含む調速機構と、前記テン輪の正逆回転運動に基づいて検出される検出信号と、基準信号源の基準振動数とに基づいて歩度調整を行う歩度調整手段と、前記テン輪の回転軸に対して所定方向に設けられると共に、前記テン輪の正逆回転運動における正方向運動及び逆方向運動のそれぞれにおける途中期間において前記テン輪に作用して、前記テン輪を減速させる減速手段と、を有し、前記テン輪は、周方向の一部に形成されると共に前記減速手段により作用される被作用部を含む、機械式時計。
(2)(1)において、前記歩度調整手段は、前記テン輪の正逆回転運動に伴い正逆回転運動する永久磁石と、ステータと、コイルと、制御回路とを含み、前記制御回路は、前記テン輪の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動において、前記被作用部が前記減速手段の位置に達する前に前記永久磁石の運動により前記コイルに生じる検出電圧と、前記基準振動数と、に基づいて歩度調整を行う、機械式時計。
(3)(1)又は(2)において、前記制御回路は、前記テン輪の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動において、前記被作用部が前記減速手段の位置に達した後の期間において歩度調整を行う、機械式時計。
(4)(1)~(3)のいずれかにおいて、前記制御回路は、前記テン輪の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動において、前記被作用部が前記減速手段の位置に達する前に前記永久磁石の運動により前記コイルに生じる逆起電力が供給されることにより駆動する、機械式時計。
(5)(1)~(4)のいずれかにおいて、前記減速手段は、空気抵抗領域を形成する壁を含み、前記被作用部は、前記空気抵抗領域を通過するように設けられている、機械式時計。
(6)(5)において、前記壁は、前記テン輪の周方向に交差する方向に延びる抵抗溝を有している、機械式時計。
(7)(1)~(6)のいずれかにおいて、前記被作用部は、前記テン輪のうち径方向における長さが最も長い部分である、機械式時計。
(8)(1)~(7)のいずれかにおいて、前記テン輪は、その重心位置をその回転中心に一致させる又は近づけるように形成される開口を有する、機械式時計。
(9)(1)~(8)のいずれかにおいて、前記被作用部は、前記テン輪の周方向と交差する第1抵抗壁を形成する第1凹部を有している、機械式時計。
(10)(1)~(9)のいずれかにおいて、前記減速部材は、前記テン輪の周方向と交差する第2抵抗壁を形成する第2凹部を有している、機械式時計。
(11)(1)~(10)のいずれかにおいて、前記減速手段は、前記被作用部に摩擦抵抗を与える摩擦抵抗部を含む、機械式時計。
(12)(1)~(11)のいずれかにおいて、前記テン輪は、前記ヒゲゼンマイが前記中立位置にある状態において、前記動力源からの動力が供給される動力供給位置にあり、前記被作用部は、前記テン輪が前記動力供給位置にある状態において、前記回転軸を介して前記空気抵抗部材と反対側の位置にある、機械式時計。
(13)(1)~(12)のいずれかにおいて、前記ヒゲゼンマイは樹脂製である、機械式時計。
(14)(1)~(13)のいずれかにおいて、前記ヒゲゼンマイは、前記テン輪を2秒間で1往復させるように設けられている、機械式時計。
(15)(1)~(14)のいずれかにおいて、前記ヒゲゼンマイは、内端部と外端部とを有し、前記内端部は、前記テン輪の回転軸に対して固定される固定部と、前記ヒゲゼンマイのうち前記内端部と径方向において隣り合う部分とのピッチを拡げるピッチ拡大部と、を含む、機械式時計。
上記本発明の(1)~(15)の側面によれば、電磁的な手段を用いて歩度調整を行う機械式時計において、電力を効率良く取り出すことができる。
本実施形態の地板及びそれに組み込まれる各部材を示す斜視図である。 本実施形態における動力を伝達する機構及びその周辺を示す斜視図である。 本実施形態における調速機構及びその周辺の部材を地板から分解した様子を示す分解斜視図である。 本実施形態の支持部材と軟磁性コアの断面、及びその周辺を示す図である。 本実施形態の軟磁性コアとその周辺を示す平面図、及びその一部を拡大して示す拡大平面図である。 本実施形態の調速機構とその周辺を示す平面図である。 本実施形態における永久磁石の保持トルクを説明するグラフである。 本実施形態に係る機械式時計の全体構成を示すブロック図である。 空気抵抗部材を地板から分解した様子を示す分解斜視図である。 本実施形態のテン輪の動作を示す斜視図である。 本実施形態の変形例におけるテン輪及び空気抵抗部材を示す斜視図である。 本実施形態の変形例におけるテン輪及び空気抵抗部材を示す斜視図である。 本実施形態の変形例におけるテン輪及び空気抵抗部材を示す斜視図である。 本実施形態の変形例におけるテン輪及び空気抵抗部材を示す斜視図である。 本実施形態の変形例におけるテン輪及び空気抵抗部材を示す斜視図である。 本実施形態の変形例におけるテン輪及び空気抵抗部材を示す斜視図である。 本実施形態の変形例におけるテン輪及び空気抵抗部材を示す斜視図である。 本実施形態の変形例におけるテン輪及び空気抵抗部材を示す斜視図である。 本実施形態の変形例におけるテン輪及び空気抵抗部材を示す斜視図である。 本実施形態の変形例におけるテン輪及び弾性部材を示す斜視図である。 他の例のテン輪をヒゲゼンマイが設けられる側から見た様子を示す斜視図である。 図11Kに示すテン輪を、ヒゲゼンマイが設けられる側の反対側から見た様子を示す斜視図である。 ヒゲゼンマイがその弾性変形の中立位置にある状態を示す平面図である。 ヒゲゼンマイが中立位置から拡大方向に弾性変形した状態を示す平面図である。 ヒゲゼンマイが中立位置から縮小方向に弾性変形した状態を示す平面図である。 本実施形態におけるテン輪の動作と、コイルに生じる逆起電圧との関係を説明する図である。 実施例1の永久磁石の配置においてコイルで検出される逆起電圧を示す図である。 実施例2の永久磁石の配置においてコイルで検出される逆起電圧を示す図である。 実施例3の永久磁石の配置においてコイルで検出される逆起電圧を示す図である。 本実施形態における回路の一例を示す回路図である。 本実施形態における回路の他の例を示す回路図である。 本実施形態における調速パルスによる永久磁石の動きの制御について説明する図である。 本実施形態における調速パルスによる永久磁石の動きの制御について説明する図である。 本実施形態の歩度調整制御の一例を示すフローチャートである。 検出信号が基準信号の出力期間内に検出された場合の例を示すタイミングチャートである。 検出信号の検出タイミングが基準信号の出力期間よりも早い場合の例を示すタイミングチャートである。 検出信号が検出されたタイミングが基準信号の出力期間よりも遅い場合の例を示すタイミングチャートである。 歩度調整制御の第1変形例を示すフローチャートである。 歩度調整制御の第1変形例における検出信号及び基準信号を示すタイミングチャートである。 歩度調整制御の第2変形例を示すフローチャートである。 歩度調整制御の第2変形例における検出信号及び基準信号を示すタイミングチャートである。 調速パルスの一例を示す図である。 電源回路が停止状態から起動を開始する際の歩度調整制御の一例を示すタイミングチャートである。 外乱の影響を考慮した歩度調整制御の一例を示すタイミングチャートである。 外乱の影響を考慮した歩度調整制御の一例を示すフローチャートである。 図20で示した歩度調整制御の第1変形例において外乱の影響を考慮した歩度調整制御を示すフローチャートである。 検出信号の検出の失敗が連続した場合の歩度調整制御の一例を示すタイミングチャートである。 検出信号の検出の失敗が連続した場合の歩度調整制御の一例を示すタイミングチャートである。 検出信号の検出の失敗が連続することを想定した歩度調整制御の一例を示すフローチャートである。 基準信号の出力タイミングの一例を示すタイミングチャートである。
以下、本発明の実施形態(以下、本実施形態という)について図面に基づき詳細に説明する。
[全体構成の概要]
まず、図1~図8を参照して、本実施形態に係る機械式時計1の全体構成の概要について説明する。図1は、本実施形態の地板及びそれに組み込まれる各部材を示す斜視図である。図2は、本実施形態における動力を伝達する機構及びその周辺を示す斜視図である。図3は、本実施形態における調速機構及びその周辺の部材を地板から分解した様子を示す分解斜視図である。なお、図1~図3は、機械式時計1の裏側から見た様子を示している。なお、裏側とは、機械式時計1の厚み方向のうち外装ケースの裏蓋が配置される側である。
図4は、本実施形態の支持部材と軟磁性コアの断面、及びその周辺を示す図である。図5は、本実施形態の軟磁性コアとその周辺を示す平面図、及びその一部を拡大して示す拡大平面図である。図6は、本実施形態の調速機構とその周辺を示す平面図である。図7は、本実施形態における永久磁石の保持トルクを説明するグラフである。図8は、本実施形態に係る機械式時計の全体構成を示すブロック図である。なお、図5は機械式時計1の裏側から見た様子を示しており、図6は機械式時計1の表側から見た様子を示している。なお、表側とは、機械式時計1の厚み方向のうちユーザが指針及び文字板を視認する側である。
本実施形態においては、図6を除く各図におけるテン輪31及び永久磁石41の反時計回り方向を正方向とし、時計回り方向を逆方向と定義する。
機械式時計1は、動力ゼンマイ11を動力源とし、脱進機構20及び調速機構30によって動力ゼンマイ11の動きを制御すると共に、指針を駆動させる時計である。機械式時計1は、指針を駆動する各機構が組み込まれる地板10を外装ケースに収容して成る。なお、本実施形態においては外装ケースの図示は省略する。また、外装ケースの側面に配置される竜頭の図示も省略する。竜頭は、図1に示す巻き真2の端部に取り付けられている。
[全体構成の概要:駆動機構の構成]
機械式時計1が備える駆動機構の概要について説明する。本実施形態において、動力源である動力ゼンマイ11、輪列12、指針軸13を含む機構を「駆動機構」と称する。なお、図2においては、指針のうち秒針131のみを図示している。図2に示す駆動機構は一例であり、これに限られるものではなく、図示する歯車以外の歯車等を備えていてもよい。
動力ゼンマイ11は、金属製の帯状体からなり、外周に複数の歯が形成される香箱110に収容されている。香箱110は、円盤形状であって、動力ゼンマイ11を収容する空洞が内部に形成されている。動力ゼンマイ11は、その内端が香箱110の中心に設けられる回転軸である香箱真(不図示)に固定されており、その外端が香箱110の内側面に固定されている。ユーザの操作により竜頭が回転させられると、巻き真2が回転する。巻き真2の回転に伴って、動力ゼンマイ11が巻き上げられる。巻き上げられた動力ゼンマイ11は、その弾性力によりほどかれる。この際の動力ゼンマイ11の動作に伴って香箱110が回転することとなる。
輪列12は、少なくとも、二番車122、三番車123、四番車124を含む。二番車122は、一番車として機能する香箱110に形成される複数の歯に噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯とを含み、香箱110の回転を三番車123に伝達する。二番車122の回転軸は、分針(不図示)の指針軸である。三番車123は、二番車122の複数の歯と噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯とを含み、二番車122の回転を四番車124に伝達する。四番車124は、三番車123の複数の歯に噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯とを含み、三番車123の回転を脱進機構20に伝達する。図2に示すように、四番車124の回転軸は、秒針131の指針軸13である。
[全体構成の概要:脱進機構20及び調速機構30の構成、並びにそれらの動作の概要]
次に、脱進機構20及び調速機構30について説明する。動力ゼンマイ11からの動力は、輪列12を通じて、脱進機構20及び調速機構30に伝達される。脱進機構20は、ガンギ車21と、アンクル22とを含んで構成される。調速機構30は、テン輪31と、ヒゲゼンマイ32とを含んで構成される。なお、調速機構30はテンプと呼ばれることもある。
ガンギ車21は、アンクル22と噛み合うことでアンクル22から調速機構30の刻むリズムを受け取り、規則正しい往復運動に変換する部品である。ガンギ車21は、四番車124の複数の歯と噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯を含む。図2に示すように、ガンギ車21の複数の歯は、輪列12の各歯車の歯よりも周方向に間隔を広く空けて形成されている。
アンクル22は、図5に示すアンクル真221を回転軸として正逆回転運動を行う。アンクル22は、アンクル真221からテン輪31の中心(テン真311)に向けて延びており、テン真311と共に回転する振り石315(図6参照)に衝突する竿部222を有する。なお、振り石315は、テン真311のうち径方向に所定の幅を有する円板状の部分に固定されている。図6においては、テン輪31が回転角度0°の位置からθ回転した様子、及びその状態における振り石315の位置を示している。
また、アンクル22は、ガンギ車21の複数の歯に衝突する入爪223aが取り付けられる第1腕部223と、第1腕部223の反対方向に延びると共にガンギ車21の複数の歯に衝突する出爪224aが取り付けられる第2腕部224とを有する。なお、入爪223aと出爪224aは、例えば、サファイア等の石であるとよい。
テン輪31は、テン真311を回転中心として、輪列12により伝達された動力により正逆回転運動をする。なお、以下の説明において、正逆回転運動のうち正方向運動を「正方向の回転」と呼び、逆方向運動を「逆方向の回転」と呼ぶこともある。なお、テン輪31の構成の詳細については後述する。テン真311は、図3、図4に示す支持部材33により支持されている。
ヒゲゼンマイ32は、テン輪31を正逆回転運動させるように伸縮運動(弾性変形)をする。ヒゲゼンマイ32は、渦巻き状であり、その内端はテン真311に対して固定されており、その外端はヒゲ持受34に対して固定されている。なお、ヒゲ持受34は、支持部材33と共に地板10に対して固定されている。また、ヒゲ持受34は、図3に示すように、支持部材33とワク部材35とに挟まれて設けられている。
ガンギ車21は、四番車124の回転に伴って回転する。ガンギ車21が回転すると、アンクル22の入爪223aに衝突し、アンクル22はアンクル真221を中心に回転する。回転したアンクル22の竿部222はテン真311に固定される振り石315に衝突し、それにより、テン輪31が回転する。テン輪31が回転すると、アンクル22の出爪224aがガンギ車21に衝突して、ガンギ車21を停止させる。テン輪31がヒゲゼンマイ32の復元力により逆方向に回転すると、アンクル22の入爪223aが解除され、ガンギ車21が再び回転する。なお、後述のように、テン輪31は2秒間で1周期の動作をするよう設計されていることより、ガンギ車21は、1秒に1ステップの動作を行うこととなる。
以上説明したように、調速機構30は、ヒゲゼンマイ32の伸縮運動によって、一定の周期でテン輪31を繰り返し正逆回転運動(往復運動)させる。脱進機構20は、テン輪31に対して往復運動するための力を与え続ける。このような構成及び動作により、秒針131等の指針が駆動することとなる。
[全体構成の概要:歩度調整手段40の構成]
次に、歩度調整手段40の構成について説明する。本実施形態に係る機械式時計1は、駆動機構、脱進機構20、調速機構30に加えて、歩度調整手段40を含んでいる。
歩度調整手段40は、永久磁石41と、軟磁性コア42(ステータと呼ばれることもある)と、コイル43と、各種回路(図8参照)とを含んで構成される。歩度調整手段40は、永久磁石41の正逆回転運動に基づいて検出される検出信号と、基準信号源である水晶振動子70(図8参照)の基準振動数とに基づいて歩度調整を行うものである。なお、本実施形態においては、高い周波数精度を実現するために基準信号源として水晶振動子70を用いたが、これに限らず、例えば、コンデンサと抵抗とで構成されるCR発振器を用いてもよい。
なお、図示は省略するが、コイル43は、外装ケースの内側に設けられる中枠と平面視において重なるように配置されているとよい。または、中枠の周方向の一部に切り欠きが形成されており、コイル43はその切り欠き内に配置されているとよい。
永久磁石41は、二極磁化された円盤状の回転体であり、径方向にN極、S極に着磁されている。すなわち、永久磁石41は、N極部411と、S極部412とを含む磁石である。
永久磁石41は、テン輪31の回転軸であるテン真311に取り付けられており(後述の図10参照)、テン輪31(テン真311)の正逆回転運動に伴い正逆回転運動を行うように設けられている。すなわち、永久磁石41は、その回転角度がテン輪31の回転角度と同じとなるように、テン輪31と共に正逆回転運動する。なお、永久磁石41は、テン真311に対して圧入または接着等により固定されているとよい。
永久磁石41は、磁化容易軸がランダムな方向に向いている等方性磁石であるとよい。なお、永久磁石41は、テン真311に取り付けられた状態で、ヘルムホルツコイル等により磁界が与えられることにより着磁されるとよい。このような着磁方法を採用することにより、永久磁石41の着磁方向を正確に合わせ込むことができる。
軟磁性コア42は、軟磁性材から成り、図5に示すように、永久磁石41の外周に沿うように設けられる第1端部421aを含む第1磁性部421と、永久磁石41の外周に沿うように設けられる第2端部422aを含む第2磁性部422とを有しており、コイル43と共に磁気回路を構成する。第1端部421aと第2端部422aは、共に半円弧状の内周面を有する形状であり、永久磁石41を介して互いに対向して配置されている。
本実施形態においては、永久磁石41は、ヒゲゼンマイ32が弾性変形の中立位置にある状態において、N極部411が第2磁性部422側に配置されており、S極部412が第1磁性部421側に配置されている(図5の拡大図参照)。なお、N極部411とS極部412の配置は逆であってもよいが、その場合、コイル43の巻き方向を本実施形態と反対にする必要がある。
また、軟磁性コア42は、図3、図4に示すように、固定具であるパイプ33a及びネジ33bにより、支持部材33に対して固定されている。このような構成により、軟磁性コア42は、支持部材33と共に地板10に組付けられている。また、支持部材33及び軟磁性コア42は、地板10に設けられる位置決めピン10aと、ワク部材35とにより位置決めされている。
また、図4に示すように、ワク部材35は環状の凸部35aを有している。凸部35aは、軟磁性コア42の第1端部421aと第2端部422aの内周面に嵌められている。また、軟磁性コア42は、ワク部材35と位置決めピン10aとの2箇所で、その位置決めがなされている。このような構成により、軟磁性コア42を位置精度良く地板10に組付けることができる。その結果、永久磁石41に対する軟磁性コア42の位置精度を良くすることができる。ここで、軟磁性コア42は、磁性材料からなり、強い応力がかかると磁気特性が劣化する可能性がある。例えば、軟磁性コア42を地板10に対してネジ等により直接締結すると、磁気特性が劣化する可能性がある。そこで、本実施形態においては、位置決めピン10aとワク部材35の嵌め合いをすきまばめとして位置決めし、パイプ33aとネジ33bとにより、軟磁性コア42を支持部材33に対して固定することで、軟磁性コア42の位置決めと固定を両立した。このような構成を採用することにより、軟磁性コア42の磁気特性を劣化させることなく、軟磁性コア42の位置精度をよくすることができる。また、本実施形態においては、軟磁性コア42を支持部材33に対して固定する配置としたが、軟磁性コア42と対応する永久磁石41をテン輪31と地板10との間に配置し、軟磁性コア42を地板10に対してネジ等により直接締結するような構成をとってもよい。
なお、地板10に組付けられる構成部品のうち、軟磁性コア42を除く永久磁石41に近い位置にある支持部材33やヒゲ持受34、ワク部材35、ヒゲゼンマイ32、テン輪31といった構成部品は、調速機構30の正逆回転運動や後述するコイル43によって生じる逆起電圧に影響しないよう非磁性材であることが望ましい。
また、軟磁性コア42は、図5に示すように、第1端部421aと第2端部422aとの磁気的な結合を分離する第1分離部である第1溶接部423と、第1端部421aと第2端部422aとの磁気的な結合を分離すると共に永久磁石41を介して第1溶接部423と対向して配置される第2分離部である第2溶接部424とを含んでいる。なお、第1溶接部423及び第2溶接部424は、第1端部421aと第2端部422aとを物理的に分離する間隙内に形成されるものであるとよい。
永久磁石41は、着磁方向が第1溶接部423と第2溶接部424との対向方向と直交する位置する状態において磁気的な釣り合いの位置となっている。本実施形態において、永久磁石41の磁気的な釣り合いの位置を、回転角度0°とする。この位置において永久磁石41の保持トルクはほぼ0となる。なお、第1溶接部423と第2溶接部424との対向方向とは、図5に示すように、第1溶接部423と第2溶接部424とを結ぶ直線が延びる方向である。
永久磁石41は、その回転角度が0°から正方向に90°ずれた位置において、着磁方向が第1溶接部423と第2溶接部424との対向方向と同方向となる。この位置において永久磁石41の保持トルクはほぼ0となる。図7の破線状の太線グラフは、第1溶接部423及び第2溶接部424が形成されることによる永久磁石41の保持トルクを示している。
図5に示すように、本実施形態においては、軟磁性コア42の第1端部421a及び第2端部422aの内周面にノッチを形成した。具体的には、第1端部421aにノッチn11とノッチn12を形成した。また、第2端部422aに、永久磁石41を介してノッチn11と対向してノッチn21を形成し、永久磁石41を介してノッチn12と対向してノッチn22を形成した。このようにノッチが形成されることにより、永久磁石41が軟磁性コア42に受ける磁気的影響が低減される。そのため、永久磁石41の保持トルクを低減することができる。
図7の一方の破線グラフは、互いに対向して配置されるノッチn11、n21が形成されることによる永久磁石41の保持トルクを示しており、他方の破線グラフは、互いに対向して配置されるノッチn12、n22が形成されることによる永久磁石41の保持トルクを示している。
また、図7の実線グラフは、上述の3つの破線グラフを合成して成る合成保持トルクを示している。すなわち、図7の実線グラフは、軟磁性コア42に第1溶接部423、第2溶接部424、ノッチn11、n12、n21、n22が形成されることによる永久磁石41の保持トルクを示している。図7に示すように、本実施形態の構成において、各破線グラフで示す保持トルクは各回転角度において互いに打ち消し合うこととなり、永久磁石41の合成保持トルクはいずれの回転角度においても0に近い値となっている。このため、後述のようにヤング率の低い材料からなるヒゲゼンマイ32を用いた場合であっても永久磁石41を円滑に回転させることが可能となる。なお、図5に示すノッチの数や配置や形状は一例であって、これに限られるものではない。第1端部421a及び第2端部422aには、永久磁石41の保持トルクを低減する、互いに対向する少なくとも一対のノッチが形成されているとよい。
[全体構成の概要:歩度調整の概要]
図8に示すように、機械式時計1は、上述した動力ゼンマイ11、輪列12、脱進機構20、調速機構30、歩度調整手段40に加えて、整流回路50と、電源回路60と、水晶振動子70とを含んでいる。また、図8に示すように、歩度調整手段40は、上述した永久磁石41、軟磁性コア42、コイル43に加えて、制御回路44、回転検出回路45、調速パルス出力回路46、分周回路47、発振回路48を含んでいる。なお、図8に示す歩度調整手段40の構成は一例である。歩度調整手段40は、図8に示す各回路を独立して備えている必要はなく、以下で説明する各機能を実現可能なものであればよい。
制御回路44は、歩度調整手段40に含まれる各回路の動作を制御する回路である。
発振回路48は、水晶振動子70の振動数に基づいて所定の発振信号を出力する。なお、水晶振動子70の振動数は32768[Hz]である。分周回路47は、発振回路48から出力された発振信号を分周する。分周回路47は、水晶振動子70に基づく発振信号を分周することで約1000[ms]毎に出力される基準信号OSを生成する。ただし、これに限られず、基準信号OSは、2000[ms]毎や3000[ms]毎に出力されるものであってもよい。すなわち、基準信号OSは、正秒毎に出力されるものであればよい。また、これに限られず、基準信号OSは調速機構30の周期に対応するものであればよい。
回転検出回路45は、永久磁石41の運動によりコイル43に生じる電圧波形に基づいて検出信号を検出する。調速パルス出力回路46は、分周回路47により生成された基準信号と、回転検出回路45が検出した検出信号とに基づいて、調速パルスを出力する。具体的には、回転検出回路45が検出した検出信号の検出タイミングと、約1000[Hz]の基準信号の出力タイミングとを比較し、それらのタイミングにズレが生じている場合、調速パルス出力回路46は、検出信号が検出される周期を1000[ms](=1秒)に近づけるように調速パルスを出力する。
調速パルスの出力は、コイル43を通電することにより行われる。そのため、調速パルス出力回路46は、検出信号が検出される周期が基準信号よりも早い場合、永久磁石41の動きを遅らせる方向にトルクが働くようにコイル43を通電し、検出信号が検出される周期が基準信号よりも遅い場合、永久磁石41の動きを早める方向にトルクが働くようにコイル43を通電するとよい。なお、調速パルスの出力タイミングを含む歩度調整制御の詳細については後述する。
[全体構成の概要:発電機としての調速機構30]
また、機械式時計1は、電磁誘導の原理を用いた発電機能を有する。本実施形態においては、調速機構30が発電機の一部として機能する。具体的には、テン輪31の正逆回転運動に伴い永久磁石41が正逆回転運動をし、永久磁石41の運動による磁界の変化に基づいてコイル43に生じる電流により発電を行う。このような動作原理により取り出した電力を用いて電源回路60を起動させる。電源回路60が起動することで、歩度調整手段40に含まれる制御回路44が駆動可能となる。このような構成を採用するため、本実施形態においては、電池等の電源を別途設けることなく、制御回路44を駆動させることができる。
整流回路50は、調速機構30のテン輪の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動に伴う永久磁石41の運動によりコイル43に生じる電流を整流する。電源回路60は、例えばコンデンサを含む回路であり、整流回路50により整流された電流に基づいて制御回路44を駆動させるための電力を蓄電する。
[テン輪31の低速化について]
ここで、機械式時計1においては、テン輪31の動きが高速であるほど、すなわちテン輪31の動作周期が速いほど、動力を伝達する各機構(例えば、ガンギ車21やアンクル22)が摩耗しやすくなり、耐久性が低下してしまう。一方で、コイル43に生じる電流量は永久磁石41の角速度に比例することより、テン輪31の動きが低速である場合、制御回路44を駆動するために必要な発電量を得られなくなってしまう。
そこで、本実施形態においては、テン輪31の動きを低速にすると共に、発電量を確保することが可能な構成を採用した。
図10は、本実施形態のテン輪の動作を示す斜視図である。なお、図10においては、テン輪31と、アンクル22と、永久磁石41と、後述の空気抵抗部材15を示している。図10においては、回転角度0°の様子を示す図を除いて符号を省略している。図12は、本実施形態におけるテン輪の動作と、コイルに生じる逆起電圧との関係を説明する図である。図12の上段のグラフにおいて、縦軸はテン輪31の角速度[rad/s]であり、横軸は測定時間[s]である。図12の中段のグラフにおいて、縦軸はテン輪31の回転角度[deg]であり、横軸は測定時間[s]である。図12の下段のグラフにおいて、縦軸はコイル43に生じる逆起電圧[V]であり、横軸は測定時間[s]である。また、図12に示す各グラフにおいては、テン輪31(永久磁石41)の動きを4秒間測定した例を示している。
本実施形態においては、テン輪31を2秒で1往復の動作をするよう設計した。そのために、ヒゲゼンマイ32の材料としてヤング率の低い樹脂材料を採用した。これにより、金属材料で構成した場合と比較して、テン輪31の低速振動化を実現することができる。仮に金属ヒゲゼンマイで低速振動化を実現しようとすると、加工困難なレベルまでヒゲゼンマイ32の断面積を小さくするか、扱いが困難なレベルまでヒゲゼンマイ長を長くしなければならない。
本実施形態においては、ヒゲゼンマイ32の材料としてヤング率が約5[GPa]の樹脂を用いた。具体的には、ヒゲゼンマイ32の材料としてポリエステルを用いた。なお、樹脂材料からなるヒゲゼンマイ32は、例えば、レーザ加工により製作されるものであるとよい。なお、一般的な金属製のヒゲゼンマイのヤング率は200[GPa]程度である。ここで示したヤング率は一例であり、ヒゲゼンマイ32のヤング率は20[GPa]以下であるとよい。すなわち、ヒゲゼンマイ32のヤング率は、金属製のヒゲゼンマイのヤング率の10分の1以下であるとよい。さらに好ましくは、ヒゲゼンマイ32のヤング率は10[GPa]以下であるとよい。すなわち、ヒゲゼンマイ32のヤング率は、金属製のヒゲゼンマイのヤング率の20分の1以下であるとよい。また、ヤング率は20[GPa]以下であればよく、ヒゲゼンマイ3は紙や木材といった材料でも構わない。なお、ヒゲゼンマイ32の形状の詳細については、図11M~図11Oを参照して後述することとする。
また、本実施形態においては、ヒゲゼンマイ32の弾性変形の中立位置にある状態におけるテン輪31及び永久磁石41の回転角度[deg]を0°とした。なお、ヒゲゼンマイ32の弾性変形の中立位置とは、言い換えると、ヒゲゼンマイ32が自然長である位置である。また、ヒゲゼンマイ32の弾性変形の中立位置にある状態におけるテン輪31に、動力ゼンマイ11からの動力が供給されることとした。すなわち、テン輪31及び永久磁石41は、回転角度が0°の位置において動力ゼンマイ11からの動力が供給される動力供給位置にある。また、上述のように、本実施形態において、永久磁石41は、回転角度0°の位置において、磁気的な釣り合いの位置にある。
また、本実施形態においては、テン輪31が回転角度340°から-340°の範囲で駆動するよう設計した。このため、永久磁石41も回転角度340°から-340°の範囲で駆動する。ただし、これは一例であり、テン輪31の移動範囲は、回転角度270°から-270°の範囲以上であるとよい。このようにテン輪31の移動範囲をある程度大きくすることにより、テン輪31の低速振動化を実現できる。
なお、図10においては、テン輪31が回転角度0°の位置から正方向に回転する様子を45°又は90°毎に示している。なお、図10おいては、テン輪31が正の角度(0°~340°)にある様子のみを示しており、負の角度にある様子についての図示は省略している。
[テン輪31の低速化について:空気抵抗部材15]
さらに、本実施形態においては、減速手段である空気抵抗部材15を地板10に組付けると共に、テン輪31の周方向の一部に、空気抵抗部材15から空気抵抗を受ける被作用部313を形成する構成を採用した。図9は、空気抵抗部材を地板から分解した様子を示す分解斜視図である。
テン輪31は、テン真311を中心として正逆回転運動する円状部312と、円状部312の周方向の一部において径方向に突出する被作用部313とを含む。本実施形態において、被作用部313は、テン輪31のうち径方向における長さが最も長い部分である。また、本実施形態においては、図10に示すように、被作用部313の形状を扇状とした。
空気抵抗部材15は、空気抵抗を生じさせる空気抵抗領域ARを形成する抵抗壁を有している。具体的には、空気抵抗部材15は、テン輪31の被作用部313の一の面に対向する第1壁部151と、テン輪31の被作用部313の他の面に対向する第2壁部152と、第1壁部151と第2壁部152とを接続する第3壁部153と、を含んでおり、これら各壁部によって空気抵抗領域ARを形成している。また、空気抵抗部材15は、第1壁部151、第2壁部152、及び第3壁部153と一体であって、地板10に対して固定される基部154を有している。
空気抵抗部材15は、地板10に対して固定されている。本実施形態においては、図9に示すように、地板10の一部に開口10bを形成し、開口10bに空気抵抗部材15を嵌め込むと共に、ボルト等の固定具により基部154を地板10に対して固定している。空気抵抗部材15は、地板10のうち駆動機構、脱進機構20、調速機構30等が組み込まれる側の反対側から、開口10bに嵌め込まれているとよい。すなわち、基部154は、地板10のうち駆動機構、脱進機構20、調速機構30等が組み込まれる側の反対側の面に対して固定されているとよい。なお、図9においては、地板10の一部に開口10bが形成される例を示すが、これに限らず、地板10の一方の側から他方の側に貫通する孔を有するものであればよい。例えば、地板10には、開口10bの代わりに、空気抵抗部材15が嵌め込まれる切り欠きが形成されていてもよい。
本実施形態においては、空気抵抗部材15を、テン真311に対して所定方向に設けられると共に、テン輪31の回転角度が135°~225°の間(正方向運動及び逆方向運動における途中期間)にある際に、被作用部313が空気抵抗領域AR内に位置するよう配置した。すなわち、テン輪31の被作用部313は、テン輪31の回転角度が135°~225°にある際に空気抵抗を受け、角速度が低下することなる。また、図示は省略するが、同様に、テン輪31の被作用部313は、テン輪31の回転角度が-135°~-225°の間(正方向運動及び逆方向運動における途中期間)にある際に空気抵抗を受け、角速度が低下することとなる。
空気抵抗領域ARを通過するテン輪31の回転速度が低下するのは、空気の逃げ道が第1壁部151、第2壁部152、及び第3壁部153により塞がれ、空気抵抗領域AR中に空気が滞留し、滞留した空気がテン輪31の移動を妨げるためである。
図12の上段及び中段のグラフにおいて測定時間2.0秒になる前のタイミングに示すように、テン輪31が回転角度0°の位置からテン輪31の角速度は急激に上昇し、測定時間2.0秒のタイミングでピークに達している。これは、テン輪31が回転角度0°において、テン輪31が動力ゼンマイ11からの動力を受けるためである。
テン輪31は回転角度0°から正方向に回転し、徐々にその角速度が低下し、正逆回転運動の折り返し地点である回転角度340°の位置において角速度は0となる。その後、テン輪31は、回転角度340°の位置からヒゲゼンマイ32の弾性変形に伴って逆方向に回転する。
テン輪31は、上述のように回転角度135°~225°にある際に空気抵抗部材15による空気抵抗を受けるため、その間の角速度が低下する。そのため、図12の中段のグラフに示すように、回転角度340°から逆回転することで回転角度0°になる間におけるテン輪31の回転角度の変位が緩やかになっている。
そして、テン輪31は再び回転角度0°の位置に戻ってきて、動力ゼンマイ11からの動力を受けて、逆方向の角速度が急激に上昇し、ピークに達する。テン輪31の逆方向の回転における角速度は徐々に低下し、回転角度-340°の位置(測定時間3.0秒)において角速度は0となる。その後、テン輪31は、回転角度-340°の位置からヒゲゼンマイ32の弾性変形に伴って正方向に回転する。
ここで、テン輪31は径方向に突出する被作用部313を含むことより、テン輪31の重心位置が、テン真311(回転中心)よりも被作用部313側に寄ってしまうこととなる。重心位置が、テン輪31の中心位置にあるテン真311からズレた構成においては、テン輪31の回転運動が不安定になってしまう。そこで、本実施形態においては、テン輪31の重心位置をテン真311(中心位置)に一致させる又は近づけるように、円状部312の一部に開口312hを形成した。図10に示すように、開口312hは、周方向において被作用部313に隣接するように形成されている。このような構成を採用することにより、テン輪31の回転運動が不安定になり難くなる。特に、機械式時計1の姿勢が変位した場合であっても、テン輪31を安定して回転運動させることが可能となる。
本実施形態においては、空気抵抗部材15を、テン輪31の回転角度が135°~225°の間にある際に、被作用部313が空気抵抗領域AR内に位置するよう配置した。また、空気抵抗領域ARが、周方向におけるその中心位置15C(図6参照)がテン輪31の回転方向におけるテン輪31の180°及び-180°の位置と重なるように配置した。これにより、被作用部313が受ける空気抵抗が、テン輪31が正方向に回転する際と逆方向に回転する際とで対称となる。そのため、後述の図12の中段のグラフに示すように、正方向に回転する際と逆方向に回転する際とで、テン輪31の角速度が対称となる。
[テン輪31の角速度を低下させる構造の変形例]
ここで、図11A~図11Jを参照して、テン輪31の角速度を低下させる構造の変形例を説明する。図11A~図11Iは、本実施形態の変形例におけるテン輪及び空気抵抗部材を示す斜視図である。図11Jは、本実施形態の変形例におけるテン輪及び弾性部材を示す斜視図である。
図11Aに示すテン輪31は、図10に示したテン輪31の被作用部313に、周方向に交差する抵抗壁が形成されるように3つの切り欠き313Aを設けたものである。切り欠き313Aは、テン輪31の回転に伴って空気抵抗領域ARを通過するように形成されている。
図11Bに示すテン輪31は、図10に示したテン輪31の被作用部313に、周方向に交差する抵抗壁が形成されるように径方向に延びる3つの溝313Bを設けたものである。溝313Bは、テン輪31の回転に伴って空気抵抗領域ARを通過するように形成されている。
図11Cに示すテン輪31は、図10に示したテン輪31の被作用部313に、周方向に交差する抵抗壁が形成されるように3つの貫通孔313Cを設けたものである。貫通孔313Cは、テン輪31の回転に伴って空気抵抗領域ARを通過するように形成されている。
図11A~図11Cに示す被作用部313を採用することにより、被作用部313が空気抵抗領域ARを通過する際に、空気抵抗領域AR内の空気の整流が乱れ、被作用部313が受ける空気抵抗が増加する。それにより、空気抵抗領域ARを通過する被作用部313の速度をより低速にできる。
なお、図11A~図11Cに示すテン輪31の構成は一例であり、空気抵抗を増加させる抵抗壁が形成される凹部を有する形状であれば、これらに限られない。すなわち、切り欠き等が形成される位置やその数は図示のものに限られない。
図11Dにおいては、図10に示した空気抵抗部材15の第3壁部153を除くと共に、第1壁部151及び第2壁部152が被作用部313の軌道より径方向の内側に設けられる例を示している。すなわち、空気抵抗部材15は、互いに対向する第1壁部151と第2壁部152のみで空気抵抗領域ARを形成している。なお、第1壁部151と第2壁部152とは、互いに独立して地板10等にそれぞれ組付けられているとよい。
また、図11Dにおいては、被作用部313が径方向の内側に向けて突出している。このため、被作用部313は、テン輪31の回転運動に伴って空気抵抗領域ARを通過することとなる。図11Dに示す構成によると、テン輪31及び空気抵抗部材15が径方向に大型化することを抑制できる。
図11Eにおいては、被作用部313が、テン真311の軸方向において円状部312と異なる位置に設けられる例を示している。また、空気抵抗部材15は、テン真311の軸方向において被作用部313が空気抵抗領域ARを通過可能な位置に設けられている。
図11Fにおいても、図11Eに示す変形例と同様に、被作用部313が、テン真311の軸方向において円状部312と異なる位置に設けられている。また、空気抵抗部材15は、テン真311の軸方向において被作用部313が空気抵抗領域ARを通過可能な位置に設けられている。さらに、テン輪31の円状部312が半円形状となっている。このため、テン輪31が軽量化されている。
図11Eと図11Fに示す例においては、被作用部313を、円状部312と軸方向において異なる位置に設けることで、テン輪31の重心位置を調整することができる。
図11Gにおいては、図10に示したテン輪31よりも円状部312の径を小さくすると共に、テン真311を介して被作用部313と対向する位置の厚みを厚くした例を示している。すなわち、テン真311を介して被作用部313と対向する位置における円状部312の重量を大きくしている。このような構成により、テン輪31の重心位置を、テン真311(テン輪31の中心位置)に合わせることができる。また、テン輪31の径を小さくした図11Gの構成においては、ヒゲゼンマイ32の外端を固定するヒゲ持受34のレイアウトの自由度が向上するという利点も得られる。
図11Hにおいては、空気抵抗部材15が、第1壁部151と第2壁部152を有しておらず、第3壁部153に相当する構成のみを含む例を示している。すなわち、図11Hの空気抵抗部材15は、基部154と、基部154から起立すると共にテン輪31の回転軌跡に沿う形状である第3壁部153とからなる。
図11Iにおいては、図11Hに示す空気抵抗部材15において、テン輪31の周方向と交差する抵抗壁を形成する凹部である溝153Iを形成した例を示している。溝153Iは、テン真311の軸方向に沿うように複数形成されている。このような構成とすることで、図11Hと比較して、空気抵抗領域ARを通過する被作用部313に作用する空気抵抗を大きくすることができる。
図11Jは、空気抵抗ではなく、接触抵抗(摩擦抵抗)により、テン輪31の速度を低下させる構成を採用した例である。具体的には、テン輪31は、被作用部として、円状部312上に形成される突起316を有している。また、摩擦抵抗部として弾性部材を採用した。
具体的には、テン輪31が回転角度135°に位置する際に突起316が接触する第1弾性部材151Jと、テン輪31が回転角度225°に位置する際に突起316が接触する第2弾性部材152Jとを設けた。第1弾性部材151J及び第2弾性部材152Jは、その末端が地板10に固定されているとよい。
第1弾性部材151J及び第2弾性部材152Jは、テン輪31の突起316が接触することにより、突起316との間で摩擦抵抗を生じさせながら弾性変形する。テン輪31は、突起316に接触している間、摩擦抵抗により速度が減速される。図11Jに示す例においては、突起316が第1弾性部材151J及び第2弾性部材151Jに接触しながら通過する領域が抵抗領域R1となる。
なお、図10、図11A~図11Jで示した構成は一例であって、正方向運動及び逆方向運動のそれぞれにおける途中期間においてテン輪31に作用して、テン輪31を減速させる構成であればよく、図示の例に限られるものではない。
さらに、図11K、図11Lを参照して、テン輪31の他の例について説明する。図11Kは、他の例のテン輪をヒゲゼンマイが設けられる側から見た様子を示す斜視図である。図11Lは、図11Kに示すテン輪を、ヒゲゼンマイが設けられる側の反対側から見た様子を示す斜視図である。
図11K、図11Lに示すテン輪31は、図10等で示したものと同様に、円状部312と、被作用部313とを有している。また、円状部312には、周方向における被作用部313と重なる位置に開口312hが形成されている。
さらに、図11K、図11Lに示すテン輪31は、円状部312の縁部312aがテン真311の軸方向に突出している。すなわち、縁部312aは、円状部312のうち縁部312aの内側の部分よりも厚みが厚くなっている。また、被作用部313は、縁部312aと面一に形成されている。すなわち、被作用部313の厚みは、縁部312aと同じであって、円状部312のうち縁部312aの内側の部分よりも厚くなっている。
図11K、図11Lに示すテン輪31においては、被作用部313の厚みが比較的厚くなっていることより、被作用部313のうち空気抵抗を受ける面が比較的広い。そのため、図10に示す空気抵抗領域AR内において被作用部313により押しのけられる空気の量を増やすことができ、テン輪31の移動を妨げやすく、より低速化をしやすくなる。なお、テン輪31のうち縁部312a及び被作用部313以外の厚みが比較的薄い部分上にヒゲゼンマイ32が配置されることより、テン真311の軸方向におけるヒゲゼンマイ32とテン輪31との合計の厚みを薄くすることが可能となる。
さらに、図11Lに示すように、テン輪31の円状部312のうち、ヒゲゼンマイ32が設けられる側の反対側の面の厚みを一部厚くした。被作用部313の厚みを厚くすると被作用部313の重量が重くなることより、テン輪31の重心が被作用部313側に寄ることとなるが、円状部312の厚みを一部厚くすることにより、テン輪31の重心位置を、テン真311(テン輪31の中心位置)に合わせることができる。
さらに、図11M~図11Oを参照して、ヒゲゼンマイ32の詳細を説明する。図11Mは、ヒゲゼンマイがその弾性変形の中立位置にある状態を示す平面図である。図11Nは、ヒゲゼンマイが中立位置から拡大方向に弾性変形した状態を示す平面図である。図11Oは、ヒゲゼンマイが中立位置から縮小方向に弾性変形した状態を示す平面図である。
ヒゲゼンマイ32は、ヒゲ持受34に接続される外端部321と、テン真311に接続される内端部322とを有している。内端部322は、テン真311の周面に沿う環状である。外端部321と内端部322は、ヒゲゼンマイ32の他の部分(弾性変形する部分)よりも太くなっている。このため、ヒゲ持受34及びテン真311への接続強度が保たれる。
ヒゲゼンマイ32の全長を長くすることにより、ヒゲゼンマイ32のバネ力を低くすることで、低振動化を実現できる。ヒゲゼンマイ32の全長を長くすると、ヒゲゼンマイ32の径が大型化してしまう。ヒゲゼンマイ32を小型化しつつ全長を長くするためには、ヒゲゼンマイ32のうち内側の部分と外側の部分との距離を短くするとよい。すなわち、ヒゲゼンマイ32のピッチを狭くするとよい。
ヒゲゼンマイ32においては、対数螺旋を用いた形状を採用した。上述のように、レーザ加工を行うことで、対数螺旋のヒゲゼンマイを容易に作製することが可能である。対数螺旋を用いた形状を採用することにより、一般的なヒゲゼンマイの形状として使われている均等ピッチのアルキメデスの螺旋と比較して、内端部322側のヒゲゼンマイ32のピッチ間の距離を小さくすることができ、ヒゲゼンマイの全長を長くすると共に小径化が可能となる。その結果、ヒゲゼンマイ32の小径化とともにバネ力を低下することができ、低振動化も実現できる。しかしながら、ヒゲゼンマイ32を、上述のようにレーザ加工により作製する場合、ピッチを狭くすることが難しい。レーザ光の熱により、ヒゲゼンマイ32の形状が変形してしまう可能性があるためである。
そこで、ピッチを狭くしつつ、ヒゲゼンマイ32の寸法精度を維持するため、図11M~図11Oに示すように、内端部322が、固定部322aと、ピッチ拡大部322bとを含む構成を採用した。固定部322aはテン真311に対して固定される部分である。ピッチ拡大部322bは、固定部322aよりも幅が狭い部分であって、ヒゲゼンマイ32のうち内端部322と径方向において隣り合う部分323とのピッチを拡げる部分である。ヒゲゼンマイ32のうち内端部322と径方向において隣り合う部分323は、内端部322以外の部分であって、最も内側に配置される部分である。図11M~図11Oに示すWは、内端部322と、内端部322と径方向において隣り合う部分323との距離を示している。
なお、図11M~図11Oにおいては、内端部322が環状である例、すなわち、固定部322aとピッチ拡大部322bとが繋がっている例について示したが、これに限られない。例えば、内端部322は周方向で一部が離間しており、離間している部分がピッチ拡大部322bとして機能するものであってもよい。ただし、内端部322が環状である方が、テン真311に対する固定の強度を確保しやすい。なお、図11M~図11Oにおいては、ヒゲゼンマイ32が対数螺旋を用いた形状である例について示したが、これに限らず、ピッチ拡大部322bを形成する構成は、径の外側よりも径の内側の方がピッチが狭い形状のヒゲゼンマイにおいて特に有効である。
[発電のタイミングについて]
永久磁石41の運動によりコイル43に生じる電流量は、永久磁石41の角速度に比例して大きくなる。そのため、発電を効率良く行うためには、永久磁石41の角速度が速い時にコイル43に生じる電流を用いることが好ましい。
そこで、本実施形態においては、永久磁石41(テン輪31)が0°の位置にあるタイミング又はその直後のタイミングにおいて、永久磁石41の運動によりコイル43で検出される逆起電圧(検出電圧)に対応する電流に基づいて発電を行うこととした。すなわち、図12の下段のグラフに示すように、コイル43で検出される逆起電圧がピークのタイミングで発電を行うこととした。
なお、発電を行うタイミングは、テン輪31が回転角度0°の位置にあるタイミング又はその直後のタイミングに限らず、テン輪31の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動のいずれかにおいて、被作用部313(テン輪31)が空気抵抗部材15の位置に達する前であればよい。すなわち、被作用部313が空気抵抗部材15により空気抵抗を受けることでテン輪31の角速度が低下する前の期間に、コイル43で検出される逆起電圧に対応する電流に基づいて発電を行ってもよい。
なお、図12の下段のグラフに示すように、本実施形態においては、テン輪31の正方向運動と逆方向運動とで検出される電圧波形は同じとなっている。そのため、機械式時計1においては、発電のタイミングを合わせる上で、テン輪31が正方向運動又は逆方向運動のいずれの方向に運動をしているかを把握する必要がない。
[永久磁石41の着磁方向と発電効率との関係]
ここで、図5、図12、図13A~図13Cを参照して、永久磁石41の着磁方向と発電効率との関係について説明する。
本実施形態に係る機械式時計1においては、コイル43に生じた逆起電圧に対応する電流を、整流回路50により整流して得られた電力に基づいて発電を行っている。ここで、整流回路50による整流として、複数のダイオードを含むブリッジ回路を用いた全波整流、又は1つのダイオードを含む回路を用いた半波整流を行うことが考えられる。複数のダイオードを用いた場合、ダイオードの数に応じて電圧降下が生じるため、その分得られる電力に損失が生じてしまう。そのため、本実施形態においては、整流回路50により半波整流を行う構成を採用した。また、半波整流においては、正の逆起電圧と負の逆起電圧との形状に差異を設け、絶対値が大きい方の逆起電圧に基づいて発電を行うことで、効率の良い発電を行うことができる。そこで、本実施形態においては、半波整流に適した逆起電圧が検出されるように永久磁石41を配置した。
図13Aにおいては、実施例1の永久磁石41の配置においてコイル43で検出される逆起電圧を示している。図13Bにおいては、実施例2の永久磁石41の配置においてコイル43で検出される逆起電圧を示している。図13Cにおいては、実施例3の永久磁石41の配置においてコイル43で検出される逆起電圧を示している。
[永久磁石41の着磁方向と発電効率との関係:実施例1]
実施例1においては、永久磁石41は、ヒゲゼンマイ32がその弾性変形の中立位置にある状態において、着磁方向が第1溶接部423と第2溶接部424との対向方向に直交するように配置されている。
ここでは、永久磁石41の回転角度が0°の位置から正方向に回転運動を行い、ヒゲゼンマイ32の弾性力により逆方向に回転運動を行い、さらにヒゲゼンマイ32の弾性力により正方向に回転運動を行うまでにおいて、コイル43で検出される逆起電圧について説明する。
また、永久磁石41のN極部411が軟磁性コア42の第1端部421aに近づく方向に移動する際の磁界の変化によりコイル43に生じる逆起電圧を「正」の逆起電圧とする。一方、N極部411が軟磁性コア42の第1端部421aから遠ざかる方向に移動する際の磁界変化によりコイル43に生じる逆起電圧を「負」の逆起電圧とする。
実施例1においては、永久磁石41は、回転角度が0°において、磁気的な釣り合いの位置にある。そのため、回転角度0°においては、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。永久磁石41は、回転角度0°において、動力ゼンマイ11からの動力が供給される。すなわち、回転角度0°の直後のタイミングで永久磁石41の角速度は最大となる。また、永久磁石41が回転角度0°から180°に正方向に回転する間に、N極部411は第1端部421aに近づく方向に移動する。このように、実施例1において、永久磁石41は、動力供給位置から正方向に180°回転するまで間にコイル43に検出される逆起電圧が同極性となるように配置されている。
そのため、永久磁石41が回転角度0°から180°に回転する間に、永久磁石41の角速度は最大となり、コイル43に生じる正の逆起電圧はピークとなる。
永久磁石41が磁気的な釣り合いの位置である回転角度180°において、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。
永久磁石41が回転角度180°から正方向に回転する際に、N極部411が第1端部421aから遠ざかる方向に移動する。そのため、永久磁石41が回転角度180°から340°に回転する間に、コイル43には負の逆起電圧が生じる。この際の永久磁石41の角速度は、回転角度0°から180°に移動するまでの角速度よりも小さい。そのため、負の逆起電圧のピークの絶対値は、正の逆起電圧のピークの絶対値よりも小さく出ることとなる。
また、永久磁石41の角速度は、往復運動の折り返し位置である回転角度340°において0となる。そのため、回転角度340°において、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。
回転角度340°に達した永久磁石41は、ヒゲゼンマイ32の弾性力により、逆方向の回転を始める。永久磁石41が回転角度340°から180°に回転する際に、N極部411が第1端部421aに近づく方向に移動する。そのため、永久磁石41が回転角度340°から180°に回転する間に、コイル43には正の逆起電圧が生じる。
また、永久磁石41が磁気的な釣り合いの位置である回転角度180°において、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。
さらに、永久磁石41は、回転角度180°から0°に回転する。永久磁石41が回転角度180°から0°に回転する際に、N極部411が第1端部421aから遠ざかる方向に移動する。そのため、永久磁石41が回転角度180°から0°に回転する際に、コイル43には負の逆起電圧が生じる。
また、永久磁石41が磁気的な釣り合いの位置である回転角度0°において、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。
回転角度0°に達した永久磁石41には、動力ゼンマイ11からの動力が供給される。すなわち、回転角度0°の直後に永久磁石41の角速度は最大となる。また、永久磁石41が回転角度0°から-180に回転する間に、N極部411が第1端部421aに近づく方向に移動する。このように、実施例1において、永久磁石41は、動力供給位置から逆方向に-180°回転するまで間にコイル43に検出される逆起電圧が同極性となるように配置されている。
そのため、永久磁石41が回転角度0°から-180°に回転する間に、永久磁石41の角速度は最大となり、コイル43に生じる正の逆起電圧はピークとなる。
永久磁石41が磁気的な釣り合いの位置である回転角度-180°において、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。
永久磁石41が回転角度-180°から逆方向に回転する際に、N極部411が第1端部421aから遠ざかる方向に移動する。そのため、永久磁石41が回転角度-180°から-340°に回転する間に、コイル43には負の逆起電圧が生じる。この際の永久磁石41の角速度は、回転角度0°から-180°に移動するまでの角速度よりも低い。そのため、負の逆起電圧のピークの絶対値は、正の逆起電圧のピークの絶対値よりも小さく出ることとなる。
また、永久磁石の角速度は、往復運動の折り返し位置である回転角度-340°において0となる。そのため、回転角度-340°において、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。
回転角度-340°に達した永久磁石41は、ヒゲゼンマイ32の弾性力により、正方向の回転を始める。永久磁石41が回転角度-340°から-180°に回転する際に、N極部411が第1端部421aに近づく方向に移動する。そのため、永久磁石41が回転角度-340°から-180°に回転する間に、コイル43には正の逆起電圧が生じる。
また、永久磁石41が磁気的な釣り合いの位置である回転角度-180°において、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。
さらに、永久磁石41は、回転角度-180°から0°に回転する。永久磁石41が回転角度-180°から0°に回転する際に、N極部411が第1端部421aから遠ざかる方向に移動する。そのため、永久磁石41が回転角度-180°から0°に回転する際に、コイル43には負の逆起電圧が生じる。
以上のような動作を繰り返し、実施例1の永久磁石41の配置においては、図13Aに示す波形の逆起電圧がコイル43に生じることとなる。図13Aに示すように、逆起電圧のピークは、正の逆起電圧と負の逆起電圧とで異なっている。すなわち、正の逆起電圧の絶対値の最大値は、負の逆起電圧の絶対値の最大値よりも大きい。また、永久磁石41の正方向の運動と、逆方向の運動とで、検出される逆起電圧の波形は同じとなっている。
[永久磁石41の着磁方向と発電効率との関係:実施例2]
次に、図13Bを参照して、実施例2について説明する。実施例2においては、永久磁石41は、ヒゲゼンマイ32がその弾性変形の中立位置にある状態において、着磁方向が第1溶接部423と第2溶接部424との対向方向に45°傾くように配置されている。すなわち、実施例2においては、回転角度0°の位置が、実施例2よりも-45°傾いて配置されている。
実施例2においては、永久磁石41が回転角度0°から正方向に回転する際に、まず、N極部411が第1端部421aから遠ざかる方向に移動する。そして、永久磁石41が回転角度45°を通過したところで、N極部411が第1端部421aから近づく方向に移動する。そのため、永久磁石41が回転角度0°から225°まで正方向に回転する間に、回転直後にコイル43には負の逆起電圧が生じ、その後、回転角度45°を通過した後、コイル43には正の逆起電圧が生じることとなる。
実施例2においては、永久磁石41が回転角度0°から340°まで正方向に回転し、ヒゲゼンマイ32の弾性力により逆方向に回転して、再び回転角度0°に戻ってきて、回転角度0°から逆方向に回転する際に、N極部411は、第1端部421aに近づく方向に移動する。すなわち、永久磁石41が回転角度0°から逆方向に回転する際に、コイル43には正の逆起電圧が生じる。
このように、実施例2においては、正方向と逆方向の回転において、少なくとも回転角度0°前後における正の逆起電圧と負の逆起電圧の波形が異なることとなる。そのため、正方向の回転と逆方向の回転において、逆起電圧のピークの大きさが異なることとなる。また、逆起電圧のピーク位置が正方向の回転と逆方向の回転とで異なるので、テン輪31の正逆回転運動の周期が乱れていると判断されてしまい、誤って歩度調整がされてしまう可能性がある。そのため、実施例2の構成においては、歩度調整手段40が、テン輪31が正方向運動及び逆方向運動のいずれの方向に運動しているのかを予め把握する手段を有している必要が生じてしまう。
[永久磁石41の着磁方向と発電効率との関係:実施例3]
次に、図13Cを参照して、実施例3について説明する。実施例3においては、永久磁石41は、ヒゲゼンマイ32がその弾性変形の中立位置にある状態において、着磁方向が第1溶接部423と第2溶接部424との対向方向と同方向となるように配置されている。すなわち、実施例3においては、回転角度0°の位置が、本実施形態よりも-90°傾いて配置されている。
実施例3においては、永久磁石41が回転角度0°から正方向に回転する際に、まず、N極部411が第1端部421aから遠ざかる方向に移動する。そして、永久磁石41が回転角度90°を通過したところで、N極部411が第1端部421aから近づく方向に移動する。そのため、永久磁石41が回転角度0°から180°に正方向に回転する間に、回転直後にコイル43には負の逆起電圧が生じ、その後、回転角度90°を通過した後、コイル43には正の逆起電圧が生じることとなる。
実施例3においては、永久磁石41が回転角度0°から340°まで正方向に回転し、ヒゲゼンマイ32の弾性力により逆方向に回転して、再び回転角度0°に戻ってきて、回転角度0°から逆方向に回転する際に、N極部411は、第1端部421aに近づく方向に移動する。すなわち、永久磁石41が回転角度0°から逆方向に回転する際に、コイル43には正の逆起電圧が生じる。
このように、実施例3においては、正方向の回転と逆方向の回転において、少なくとも回転角度0°前後における正の逆起電圧と負の逆起電圧の波形が異なることとなる。そのため、正方向の回転と逆方向の回転において、逆起電圧のピークの大きさが異なることとなる。実施例3の構成では、実施例1に比べて正方向の回転あるいは逆方向の回転で逆起電圧のピークが小さく、半波整流に適した逆起電圧であるとは言えない、また、正方向の回転と逆方向の回転とで逆起電圧のピークが異なるため場合によっては閾値Vthも異ならせる必要がある、これにより実施例2と同様に、歩度調整手段40が、テン輪31が正方向運動及び逆方向運動のいずれの方向に運動しているのかを予め把握する手段を有している必要が生じてしまう。
[永久磁石41の着磁方向と発電効率との関係:まとめ]
以上説明したように、実施例1においては、永久磁石41の回転方向が正方向か逆方向かに関わらず、同じ形状の波形の逆起電圧が検出されることなる。そのため、実施例1においては、正の逆起電圧のピークが、同じ大きさかつ一定の周期で検出される。また、実施例1においては、正の逆起電圧と負の逆起電圧との形状が非対称となる。具体的には、正の逆起電圧のピークが、負の逆起電圧のピークよりも大きく出ている。このため、実施例1における永久磁石41の配置においては、実施例2、3と比較して、歩度調整及び半波整流に適した波形の逆起電圧であるといえる。
なお、図5に示す永久磁石41の配置は一例であり、永久磁石41は、ヒゲゼンマイ32がその弾性変形の中立位置にある状態において、その着磁方向が第1端部421aと第2端部422aとの対向方向と同方向となるように配置されているとよい。なお、第1端部421aと第2端部422aとの対向方向とは、図5に示す第1溶接部423と第2溶接部424との対向方向と直交する方向である。ただし、これに限られず、永久磁石41は、少なくとも、ヒゲゼンマイ32がその弾性変形の中立位置にある状態において、その着磁方向が第1端部421a又は第2端部422aの側を向いているとよい。
また、永久磁石41は、ヒゲゼンマイ32がその弾性変形の中立位置にある状態において、N極部411とS極部412との境界Bが第1溶接部423と第2溶接部424とを結ぶ仮想的な帯状領域(図5に示すS)に重なるように配置されているとよい。なお、帯状領域Sは、永久磁石41の配置を示すために便宜上定義した仮想的な領域であり、機械式時計1の構成として物理的に存在するものではない。
[回路図]
ここで、図14Aを参照して、本実施形態における整流回路の概要について説明する。図14Aは、本実施形態における回路の一例を示す回路図である。
本実施形態においては、ダイオードDを1つ含む整流回路50を用いて、永久磁石41の運動によりコイル43に生じた逆起電圧に応じた電流を半波整流する構成を採用している。整流回路50は、コイル43に生じた逆起電圧の負の電圧部分を消去し、直流に変換する回路である。
コイル43の第1端子O1及び第2端子O2に対しては、トランジスタTP1及びTP2がそれぞれ接続されている。トランジスタTP1及びTP2に対してはコイル43に生じた逆起電圧が入力されて、それに基づいて回転検出回路45が検出信号を検出する。すなわち、所定のタイミングでトランジスタTP1及びTP2をONとすることで、それらトランジスタに対応する第1端子O1及び第2端子O1で発生する誘起電圧を電圧信号である検出信号として取り出すことができる。
また、トランジスタP11、P12がコイル43の第1端子O1に接続されており、トランジスタP21、P22がコイル43の第2端子O2に接続されている。トランジスタP11、P12、P21、P22は調速パルス出力回路46からの調速パルスによりON/OFF制御がされる。発電時において、トランジスタP11、P12、P21、P22のゲート端子をOFFとする。その状態において、トランジスタTP1、TP2と、ダイオードDにより整流回路50が構成される。永久磁石41が正逆回転運動を行うことにより、コイル43に電流が流れ、コンデンサCが蓄電される。コンデンサCにある程度の蓄電がなされると、電源回路60が起動する。そして、電源回路60が起動することにより、制御回路44が起動し、制御回路44による歩度調整手段40に含まれる各回路の制御が行われることとなる。
本実施形態においては、図14Aに示すように、ダイオードDを1つ含む整流回路50を用いて半波整流を行う構成を採用するため、回路構成を簡易にすると共に、電圧降下を生じにくくすることができる。なお、図14Aに示す回路は一例であり、図14Bに示すように整流回路50として、逆方向の逆起電圧も整流できる倍電圧整流回路を採用してもよい。図14Bにおいては、2つのダイオードD1、D2と、2つのコンデンサC1、C2を含む倍電圧整流回路の例を示している。倍電圧整流回路においては、全波整流回路と比較してダイオードの個数を少なくできる。すなわち、電圧降下を生じにくくすることができる。
[歩度調整制御の詳細について]
以下、図12、図15A~図19を参照して、本実施形態における歩度調整制御の詳細について説明する。図15A、図15Bは、本実施形態における調速パルスによる永久磁石の動きの制御について説明する図である。
本実施形態においては、調速パルス出力回路46が調速パルスを出力することにより、永久磁石41の動きを制御することで、テン輪31の動きを制御して歩度調整を行う。
本実施形態においては、図15Aに示すように、コイル43の第1端子O1に調速パルスが出力された場合、第1端部421aがS極、第2端部422aがN極の極性を持つこととなると定義する。一方、図15Bに示すように、コイル43の端子O2に調速パルスが出力された場合、第1端部421aがN極、第2端部422aがS極の極性を持つこととなると定義する。なお、コイル43の巻き方向が反対の場合、第1端部421aと第2端部422aの極性は反転する。
[歩度調整制御の詳細について:調速パルスの出力タイミング]
ここで、永久磁石41の角速度が速い状態においては、所望のタイミングで歩度調整を行うことが難しい。永久磁石41の角速度が速い状態においては、調速パルスの出力タイミングがズレる可能性が高いためである。
そこで、本実施形態においては、永久磁石41の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動において、永久磁石41が回転角度180°から0°に逆方向に回転する間、及び回転角度-180°から0°に正方向に回転する間に、調速パルスを出力することとした。すなわち、テン輪31が動力ゼンマイ11から動力を供給される前の期間に調速パルスを出力することとした。これにより、永久磁石41の角速度が比較的遅い状態において、調速パルスを出力することができる。また、本実施形態においては、テン輪31が回転角度225°から135°の間に空気抵抗部材15による空気抵抗を受けるため、回転角度180°から0°の期間において永久磁石41の角速度は特に遅くなっている。回転角度-225°から-135°の間においても同様である。このように、テン輪31の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動において、被作用部313が空気抵抗部材15の位置に達した後の期間において歩度調整を行うとよい。
このような構成を採用することにより、調速パルスの出力タイミングがズレてしまうことを抑制できる。その結果、歩度精度を維持することができる。なお、図12においては、歩度調整を行うタイミングを帯状の領域で示している。図12の上段のグラフに示すように、歩度調整は、永久磁石41の角速度が遅い期間において行われている。
[歩度調整制御の詳細について:調速パルスが出力されるコイル端子]
図15Aにおいては、正方向に回転する永久磁石41が回転角度-90°の位置にあるタイミング、及び逆方向に回転する永久磁石41が回転角度90°の位置にあるタイミングで調速パルスをコイル43に出力する例を示している。
図15Aに示すように、永久磁石41が回転角度-90°から正方向に回転する際に、コイル43の第1端子O1に調速パルスを出力した場合、永久磁石41は軟磁性コア42から斥力を受けることなる。すなわち、永久磁石41の正方向の回転にブレーキがかかる。一方、永久磁石41が回転角度90°から逆方向に回転する際、コイル43の第1端子O1に調速パルスを出力した場合、永久磁石41は軟磁性コア42から斥力を受けることとなる。すなわち、永久磁石41の逆方向の回転にブレーキがかかることとなる。
また、図15Bに示すように、永久磁石41が回転角度-90°から正方向に回転する際に、コイル43の第2端子O2に調速パルスを出力した場合、永久磁石41は軟磁性コア42から引力を受けることなる。すなわち、永久磁石41の正方向の回転にアクセルがかかる。一方、永久磁石41が回転角度90°から逆方向に回転する際、コイル43の第2端子O2に調速パルスを出力した場合、永久磁石41は軟磁性コア42から引力を受けることとなる。すなわち、永久磁石41の逆方向の回転にアクセルがかかることとなる。
このように、本実施形態においては、永久磁石41の正逆回転運動のうち正方向の回転か逆方向の回転かに関わらず、第1端子O1に調速パルスを出力することで永久磁石41の回転を弱めることができ、一方、第2端子O2に調速パルスを出力することで永久磁石41の回転を強めることができる。
すなわち、永久磁石41の正逆回転運動のうち正方向の回転か逆方向の回転かに関わらず、歩度を遅れる方向に調整する場合、第1端子O1を通電すればよく、歩度を進める方向に調整する場合、第2端子O2を通電すればよい。
[歩度調整制御の詳細について:歩度調整制御の動作フロー]
図16は、本実施形態の歩度調整制御の一例を示すフローチャートである。なお、以下の説明において、所定の閾値Vth以上の逆起電圧が発生することで回転検出回路45により検出される信号を検出信号DEと定義する。制御回路44は、回転検出回路45により検出された検出信号DEと、分周回路47により生成された基準信号OSとに基づいて、調速パルス出力回路46を制御している。
検出信号DEが検出されるタイミングは、コイル43に逆起電圧が大きく生じている時である。すなわち、永久磁石41の角速度が速い時である。そのため、制御回路44は、テン輪31の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動において、被作用部313が空気抵抗部材15の位置に達する前に永久磁石41の運動によりコイル43に生じる検出電圧と、基準信号OSと、に基づいて歩度調整を行うとよい。
本実施形態においては、永久磁石41の運動により発電が行われることにより電源回路60が起動した後(ST1のY)、歩度調整手段40による歩度調整制御が行われる。
検出信号DEが、基準信号OSの出力期間内に検出された場合(ST2のY)、すなわち、歩度ズレが生じていない場合、歩度調整制御を終了する。なお、図17は、検出信号が基準信号の出力期間内に検出された場合の例を示すタイミングチャートである。図17に示すように、本実施形態においては、基準信号OSの出力期間を、所定の幅を有する出力期間tsとする。
検出信号DEが、基準信号OSの出力期間内に検出されなかった場合(ST2のN)、すなわち、歩度ズレが生じている場合、制御回路44が、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力期間よりも早いか否かを判定する(ST3)。
検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力期間よりも早い場合(ST3のY)、制御回路44は、端子O1に調速パルスを出力するよう調速パルス出力回路46を制御する(ST4)。
図18は、検出信号の検出タイミングが基準信号の出力期間よりも早い場合の例を示すタイミングチャートである。図18においては、検出信号DEの検出タイミングから時間tp1が経過したタイミングで、調速パルスp1がコイル43の第1端子O1に出力された例を示している。図18に示すように、調速パルスp1の出力の前後において、検出信号DEが検出される周期が異なっている。すなわち、調速パルスp1が出力された後に検出される検出信号DEの検出の周期は、調速パルスp1が出力される前に検出された検出信号DEの検出の周期よりも長くなっている。これにより、調速パルスp1が出力された後において、検出信号DEは、基準信号OSの出力期間ts内に検出されることとなっている。
検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSよりも遅い場合(ST3のN)、制御回路44は、端子O2に調速パルスを出力するよう調速パルス出力回路46を制御する(ST5)。
図19は、検出信号が検出されたタイミングが基準信号の出力期間よりも遅い場合の例を示すタイミングチャートである。図19においては、検出信号DEの検出タイミングから時間tp2が経過したタイミングで、調速パルスp2がコイル43の第2端子O2に出力された例を示している。図19に示すように、調速パルスp2の出力前後において、検出信号DEが検出される周期が異なっている。すなわち、調速パルスp2が出力された後に検出される検出信号DEの検出の周期は、調速パルスp2が出力される前に検出された検出信号DEの検出の周期よりも短くなっている。これにより、調速パルスp2が出力された後において、検出信号DEは、基準信号OSの出力期間ts内に検出されることとなっている。
なお、第1端子O1に出力される調速パルスp1と、第2端子O2に出力される調速パルスp2は、その出力タイミングや出力期間が異なっていてもよい。これは、永久磁石41を進める方向と、遅れる方向とでは、調速パルスが出力されることによる修正量が異なる場合があるためである。
[歩度調整制御の詳細について:歩度調整制御の第1変形例の動作フロー]
次に、図20、図21を参照して、歩度調整制御の第1変形例について説明する。図20は、歩度調整制御の第1変形例を示すフローチャートである。
この例においては、歩度調整手段40は、検出信号DEの検出回数をカウントする第1カウンタと、検出信号DEと基準信号OSとの期間差(基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングのズレ量)を蓄積する蓄積部である第2カウンタとを有しているとよい。
歩度調整制御の第1変形例においては、永久磁石41の運動により発電が行われることにより電源回路60が起動した後(ST1のY)、歩度調整手段40による歩度調整制御が行われる。
制御回路44は、テン輪31(永久磁石41)の正逆回転運動が8回目であるか否かを判定する。具体的には、制御回路44は、第1カウンタのカウント数が8であるか否かを判定する(ST21)。
第1カウンタのカウント数が8ではない場合(ST21のN)、検出信号DEと基準信号OSとの期間差を算出し、期間差を蓄積する(ST22)。その後、第1カウンタのカウント数を1加算する(ST23)。
一方、第1カウンタのカウント数が8である場合(ST21のY)、第1カウンタをリセットし、カウント数0にする(ST24)。
そして、制御回路44は、検出信号DEと基準信号OSの期間差の蓄積量が0又は所定の範囲内であるか否かを判定する(ST25)。検出信号DEと基準信号OSの期間差の蓄積量が0又は所定の範囲内である場合、歩度調整を行うことなく、第1カウンタのカウント数を1加算する(ST23)。
検出信号DEと基準信号OSの期間差の蓄積量がプラスである場合(ST25のN、ST26のY)、制御回路44は、第1端子O1に調速パルスを出力するよう調速パルス出力回路46を制御する(ST4)。
一方、検出信号DEと基準信号OSの期間差の蓄積量がマイナスである場合(ST25のN、ST26のN)、制御回路44は、第2端子O2に調速パルスを出力するよう調速パルス出力回路46を制御する(ST5)。
図21の上段においては、第1カウンタが2の場合において、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力期間よりt早く、第1カウンタが3の場合において、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力期間より2t早く、第1カウンタが6の場合において、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力期間よりt遅れている例を示している。この例においては、第1カウンタが8になるまでに期間差の蓄積量は+2tとなる。すなわち、検出信号DEが検出されるタイミングが、基準信号OSより合計で2t早くなっている。そのため、制御回路44は、歩度が遅れるよう、第1端子O1に調速パルスを出力している。
図21の下段においては、第1カウンタが2の場合において、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力期間より3t早く、第1カウンタが3の場合において、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力期間より2t早く、第1カウンタが6の場合において、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力期間よりt遅れている例を示している。この例においては、第1カウンタが8になるまでに期間差の蓄積量は+4tとなる。すなわち、検出信号DEが検出されるタイミングが、基準信号OSより合計で4t早くなっている。そのため、歩度が遅れるよう、第1端子O1に調速パルスを出力している。
また、図21の下段の例においては、図21の上段の例よりも期間差の蓄積量が大きいため、調速パルスの出力期間を長くした。具体的には、図22の下段に示す調速パルスの出力期間p112を、図22の上段に示す調速パルスの出力期間p111よりも長くした。なお、図22の上段及び下段のいずれの例においても、第1カウンタが8の際に出力される基準信号OSが出力されてからtp111が経過したタイミングで調速パルスを出力している。すなわち、調速パルスの出力期間に関わらず、調速パルスの出力タイミングを同じとした。
以上説明した歩度調整制御の第1変形例においては、歩度調整を毎秒行わないことより、調速パルスを出力する回数を少なくできる。その結果、消費電力を低減することができる。
[歩度調整制御の詳細について:歩度調整制御の第2変形例の動作フロー]
次に、図22、図23を参照して、歩度調整制御の第2変形例について説明する。図22は、歩度調整制御の第2変形例を示すフローチャートである。
この例においては、歩度調整手段40は、検出信号DEの検出回数をカウントする第1カウンタと、検出信号DEと基準信号OSとの期間差(基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングのズレ量)を蓄積する蓄積部である第2カウンタとを有しているとよい。なお、歩度調整制御の第2変形例においては、第2カウンタはリセットされるとカウント数7になるとする。
歩度調整制御の第2変形例においては、永久磁石41の運動により発電が行われることにより電源回路60が起動した後(ST1のY)、歩度調整手段40による歩度調整制御が行われる。
制御回路44は、テン輪31(永久磁石41)の正逆回転運動が8回目であるか否かを判定する。具体的には、制御回路44は、第1カウンタのカウント数が8であるか否かを判定する(ST21)。
第1カウンタのカウント数が8ではない場合(ST21のN)、制御回路44は、検出信号DEと基準信号OSとの期間差を算出する(ST31)。
そして、制御回路44は、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力期間内である場合(ST32のY)、歩度調整を行うことなく、第1カウンタのカウント数を1加算する(ST23)。
制御回路44は、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力期間内でない場合(ST32のN)、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力期間よりも早いか否かを判定する(ST33)。
検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力期間よりも早い場合(ST33のY)、その期間差に応じて第2カウントを減算する(ST34)。検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力期間よりも遅い場合(ST33のN)、その期間差に応じて第2カウントを加算する(ST35)。その後、第1カウンタのカウント数を1加算する(ST23)。
第1カウンタのカウント数が8である場合(ST21のY)、第1カウンタをリセットし、カウント数0にする(ST24)。
そして、制御回路44は、第2カウンタのカウント数が7であるか否かを判定する(ST36)。第2カウンタのカウント数が7である場合(ST36のY)、歩度調整を行うことなく、第1カウンタのカウント数を1加算する(ST23)。
制御回路44は、第2カウンタのカウント数が7でない場合(ST36のN)、第2カウンタのカウント数が7より小さいか否かを判定する(ST37)。第2カウンタのカウント数が7より小さい場合(ST37のY)、制御回路44は、第1端子O1に調速パルスを出力するよう調速パルス出力回路46を制御する(ST4)。第2カウンタのカウント数が7より大きい場合(ST37のN)、制御回路44は、第2端子O2に調速パルスを出力するよう調速パルス出力回路46を制御する(ST5)。その後、第2カウンタのカウント数をリセットし、カウント数を7にする(ST38)。
以上説明した歩度調整制御の第2変形例においては、歩度調整を毎秒行わないことより、調速パルスを出力する回数を少なくできる。その結果、消費電力を低減することができる。
図23においては、第1カウンタが2の場合において、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力期間よりt早く、第1カウンタが3の場合において、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力期間より2t早く、第1カウンタが6の場合において、検出信号DEの検出タイミングが基準信号OSの出力期間よりt遅れている例を示している。この例においては、第1カウンタが8になるまでに、第2カウンタが5となっている。すなわち、検出信号DEが検出されるタイミングが、基準信号OSより合計で2t早くなっている。そのため、制御回路44は、歩度が遅れるよう、第1端子O1に調速パルスを出力している。
なお、調速パルスは、単パルスに限らず、図24に示すように複数の単パルスを含むパルス群からなるものであってもよい。調速パルスをパルス群からなるものにすることで調速機構30の製造ばらつきや駆動ばらつきを吸収することができる。この場合、図21に示すように調速パルスの出力期間を変更するのではなく、調速パルスのデューティ比を変更することにより、永久磁石41に働く引力又は斥力を制御してもよい。なお、デューティ比とは、所定の期間内でパルスが出力される割合を示すものである。図24においては、デューティ比が3/5の調速パルスの例を示している。
[歩度調整制御の詳細について:電源回路が停止状態から起動を開始する際の歩度調整制御]
図25は、電源回路が停止状態から起動を開始する際の歩度調整制御の一例を示すタイミングチャートである。
上述のように、永久磁石41の運動により発電が行われることにより電源回路60が起動した後、歩度調整手段40による歩度調整制御が行われる。そのため、歩度調整制御に用いられる基準信号OSの出力は、電源回路60が起動した後に開始されるとよい。例えば、図25に示すように、検出信号DEが最初に検出されたタイミングを起点として、基準信号OSの出力が開始されるとよい。図25においては、逆起電圧のピークが次第に大きくなっており、最初に閾値Vthを超えたタイミングを起点として、基準信号OSの出力が開始されている様子を示している。すなわち、最初に閾値Vthを超えたタイミングの次のタイミング(1秒後)から基準信号OSの出力が開始されている様子を示している。ただし、これに限られず、電源回路60の起動直後における不安定な回転状態を考慮して、検出信号DEが複数回数(所定回数)検出された時点を起点として、基準信号OSの出力を開始してもよい。
[歩度調整制御の詳細について:外乱の影響を考慮した歩度調整制御]
図26は、外乱の影響を考慮した歩度調整制御の一例を示すタイミングチャートである。図27は、外乱の影響を考慮した歩度調整制御の一例を示すフローチャートである。図28は、図20で示した歩度調整制御の第1変形例において外乱の影響を考慮した歩度調整制御を示すフローチャートである。
機械式時計1に対して外部の磁石が近づいたり衝撃が加わったりすると、瞬間的に外乱が作用することにより逆起電圧が乱れて、検出信号DEを検出できない場合がある。この場合、制御回路44は、大幅に歩度が遅れたとの誤判定をすることとなる。
そのため、図26に示すように、基準信号OSの出力期間の前後を含む所定の期間において検出信号DEが検出されなかった場合、歩度調整を行わないこととしてもよい。図26の上段においては、外乱が作用することにより、測定時間2.0[s]付近において検出信号DEが検出されなかった様子を示している。具体的には、基準信号OSの出力期間ts、出力期間tsの直前の期間dt1、及び出力期間tsの直後の期間dt2において、検出信号が検出されなかった様子を示している。なお、図26においては、期間dt1と期間dt2が同じ長さである例を示しているが、これらは異なる長さであってもよい。また、調速パルスは、期間dt1と期間dt2を避けて出力されるとよい。調速パルスを出力するとコイル波形(逆起電圧の波形)が乱れてしまい、検出信号DEの検出精度が低下してしまう可能性があるためである。
図27に示すフローチャートにおいては、永久磁石41の運動により発電が行われることにより電源回路60が起動した後(ST1のY)、所定の検出期間(dt1~ts~dt2)の間に検出信号DEが出力(検出)された場合(ステップST11のY)、歩度調整を行う例を示している。一方、所定の検出期間(dt1~ts~dt2)の間に検出信号DEが出力(検出)されなかった場合(ステップST11のN)、歩度調整を行わない例を示している。なお、図27に示す各ステップは、ST11を除いて図16で示したものと同じであるため、その説明の詳細については省略する。
図28に示すフローチャートにおいては、永久磁石41の運動により発電が行われることにより電源回路60が起動した後(ST1のY)、所定の検出期間(dt1~ts~dt2)の間に検出信号DEが出力(検出)された場合(ステップST11のY)、歩度調整を行う例を示している。一方、所定の検出期間(dt1~ts~dt2)の間に検出信号DEが出力(検出)されなかった場合(ステップST11のN)、歩度調整を行わず、第1カウンタをリセットする例を示している(ST12)。このように、外乱等の影響を受けた場合、第1カウンタをリセットすることにより、検出信号DEの検出回数のカウントを改めて開始している。
なお、図28に示す各ステップは、ST11、ST12を除いて図20で示したものと同じであり、また第1カウンタの機能も同じであるため、その説明の詳細については省略する。
図26~図28に示す構成を採用することにより、外乱が加わっても精度の高い歩度調整が可能である。また、不必要に調速パルスが出力されることを抑制できるため消費電力を削減できる。
[歩度調整制御の詳細について:検出信号の検出の失敗が連続した場合の歩度調整制御]
図29、図30は、検出信号の検出の失敗が連続した場合の歩度調整制御の一例を示すタイミングチャートである。図31は、検出信号の検出の失敗が連続することを想定した歩度調整制御の一例を示すフローチャートである。
動力ゼンマイ11の巻き上げが解かれてくると、ロータ41の回転力が弱まり、逆起電圧が閾値Vthを超えなくなる場合がある。この場合、発電量が小さくなり、コンデンサCの蓄電量も少なくなる。すなわち、機械式時計1が止まりやすい状態であると共に、電源回路60が止まりやすい状態である。このような場合においては、省電のため、調速パルスを出力しないことが好ましい。すなわち、歩度調整を行わないことが好ましい。
そこで、図29、図30に示す例においては、検出信号DEの検出に連続して失敗した回数をカウントする第3カウンタと、検出信号DEの検出に連続して成功した回数をカウントする第4カウンタを用いて、調速パルスを出力する「調速パルス出力設定」と、調速パルスの出力を停止する「調速パルス停止設定」とを切り替える構成を採用した。
具体的には、第3カウンタが10に達した場合、すなわち、検出信号DEの検出に連続して10回失敗した場合、調速パルス停止設定に切り替える構成を採用した。また、第4カウンタが20に達した場合、すなわち、検出信号DEの検出に連続して20回成功した場合、調速パルス出力設定に切り替える構成を採用した。なお、設定切り替えのトリガとなるカウント数は一例であり、ここで示したものに限られない。
図29においては、逆起電圧のピークが小さく、検出信号DEの検出に連続して10回失敗することにより調速パルス停止設定に切り替えられた例を示している。
図30においては、検出信号DEの検出に連続して10回失敗することにより調速パルス停止設定に切り替えられ、その後、検出信号DEの検出に連続して20回成功することにより調速パルス出力設定に切り替えられることにより、調速パルスp1が出力されている例を示している。なお、検出信号DEの検出に成功したか否かは、図26~図28で示した例と同様に、所定の検出期間(dt1~ts~dt2)の間に検出信号DEが出力(検出)されたか否かにより判定している。
図31に示すフローチャートにおいては、永久磁石41の運動により発電が行われることにより電源回路60が起動した後(ST1のY)、調速パルス停止設定中であるか否かを判定している(ST41)。なお、調速パルス停止設定中であるか否かについては、例えば、調速パルス停止フラグが立っているか否かに基づいて判定されるとよい。
調速パルス停止設定中でない場合(ST41のN)、制御回路44が、第3カウンタが10であるか否かを判定する(ST42)。すなわち、制御回路44が、検出信号DEの検出を連続して10回失敗しているか否かを判定する。第3カウンタが10でない場合(ST42のN)、制御回路44が、第1カウンタが8であるか否かを判定する(ST21)。すなわち、制御回路44が、検出信号DEの検出回数が8であるか否かを判定する。
第1カウンタが8である場合(ST21のY)、図20で示したST24以降の処理を行う。一方、第1カウンタが8でない場合(ST21のN)、制御回路44が、所定の検出期間(dt1~ts~dt2)の間に検出信号DEが出力(検出)されたか否かを判定する(ST43)。所定の検出期間(dt1~ts~dt2)の間に検出信号DEが出力(検出)されなかった場合(ST43のN)、第3カウンタのカウント数を1加算すると共に(ST44)、第1カウンタのカウント数を1加算する(ST23)。一方、所定の検出期間(dt1~ts~dt2)の間に検出信号DEが出力(検出)された場合(ST43のY)、第3カウンタをリセットすると共に(ST45)、検出信号DEと基準信号OSとの期間差を算出し、期間差を蓄積する(ST22)。
また、ST41において調速パルス停止設定中である場合(ST41のY)、制御回路44が、第4カウンタのカウント数が20であるか否かを判定する(ST51)。すなわち、制御回路44が、検出信号DEの検出を連続して20回成功しているか否かを判定する。第4カウンタが20でない場合(ST51のN)、制御回路44が、所定の検出期間(dt1~ts~dt2)の間に検出信号DEが出力(検出)されたか否かを判定する(ST52)。所定の検出期間(dt1~ts~dt2)の間に検出信号DEが出力(検出)されなかった場合(ST52のN)、第4カウンタをリセットする(ST53)。所定の検出期間(dt1~ts~dt2)の間に検出信号DEが出力(検出)された場合(ST52のY)、第4カウンタのカウント数を1加算する(ST54)。
ST51において第4カウンタのカウント数が20である場合(ST51のY)、第4カウンタをリセットすると共に(ST55)、調速パルス出力設定に切り替える(ST56)。
また、ST42において第3カウンタのカウント数が10である場合(ST42のY)、第3カウントをリセットすると共に(ST61)、調速パルス停止設定に切り替える(ST62)。なお、電源回路60が停止した後その動作が開始した場合、コンデンサCの蓄電量は少ないことより、電源回路60は再び停止しやすい状態といえる。そのため、電源回路60が停止した後その動作が開始した場合、歩度調整を開始するまでに必要な検出信号DEの連続成功回数を多くするとよい。例えば、図31のST51において、第4カウンタのカウント数が60の場合、すなわち、60回連続して検出信号DEの検出に成功した場合に調速パルス出力設定に切り替えることとするとよい。
以上説明した図29~図31の例においては、歩度調整が行われることを規制することで、消費電力を低減することができ、さらに動力ゼンマイ11が巻き上げられた時に歩度調整に即移行しやすい。
なお、図29~図31の例において、閾値Vthを超える逆起電圧が所定秒連続して検出されなかった場合、機械式時計1が止まりやすい状態であることをユーザに報知する機能を有していてもよい。報知の手段としては、例えば、指針が指し示す位置等を用いるとよい。これにより、ユーザに対して動力ゼンマイ11を巻き上げる操作を行うことを促すことができる。
また、図29~図31の例において、閾値Vthを超える逆起電圧が所定秒連続して検出されなかった場合、閾値電圧を下げてもよい。具体的には、例えば、閾値Vthが0.5Vである場合において、10回連続して検出信号DEの検出に失敗した場合、閾値電圧を0.25Vに設定するとよい。これにより、電源回路60が止まりやすくはなるものの歩度の精度を維持することができる。そして、閾値Vthを下げた後、下げられた閾値を超える逆起電圧が所定秒連続して検出された場合、元の閾値Vthに戻すとよい。また、閾値Vthを超える逆起電圧が所定秒連続して検出されなかった場合、段階的に閾値を下げることとしてもよい。
[歩度調整制御の詳細について:テン輪の回転方向を考慮した歩度調整制御]
図32は、基準信号の出力タイミングの一例を示すタイミングチャートである。機械式時計1の組み立て時における製造ばらつきや、出荷検査時における支持部材33によるテン輪31の位置調整等によって、テン輪31の回転角度が正方向と逆方向とで異なってしまう場合がある。回転角度が異なると、正方向と逆方向とで検出信号DEが検出されるタイミングが異なることとなる。それにより、全体としては歩度ズレが無いにも関わらず、不必要に調速パルスが出力されてしまう可能性がある。
そこで、図32に示す例においては、2ステップ(2秒)基準で基準信号OSを設定する構成を採用した。図32の上段は、正方向と逆方向とで検出される検出信号DEが異なる場合の逆起電圧の波形の一例を示している。図32の下段は、2ステップ(2秒)基準で基準信号OSを設定した場合におけるタイミングチャートの一例を示している。図32の下段に示すように、左から奇数番目の基準信号OSの出力間隔をtr1とし、左から偶数番目の基準信号OSの出力間隔をtr2(=tr1)とした。この例は、制御回路44が2ステップ単位(2秒単位)の2系統制御を行うことで実現されるとよい。そして、各制御系統のいずれかにおいて歩度異常が検出された場合、歩度調整を行うとよい。なお、回路構成の簡略化のために、出力間隔がtr1又はtr2のいずれかである1系統のみの制御系統としてもよい。
図32に示す例によると、基準信号OSを2ステップ基準(tr1及びtr2)で設け、それぞれに応じた歩度調整を行うことで、テン輪31の往と復の回転角度の差があっても、外乱に対して回路が止まりづらく精度の高い歩度調整が可能となる。
なお、図32の中段は、1ステップ(1秒)基準で基準信号OSを設定した場合、すなわち、上述の図17等で示した例におけるタイミングチャートを示している。図32の中段に示す例においては、正方向と逆方向で逆起電圧のピーク位置が異なっていることより、全体としては歩度ズレが無いにも関わらず、左から偶数番目の検出信号DEの出力タイミングが常にズレている。このような場合、不要に調速パルスが出力されてしまうこととなる。
[まとめ]
本実施形態においては、テン輪31の角速度を低速にする構成を採用したため、動力を伝達する各機構(例えば、ガンギ車21やアンクル22)が摩耗することを抑制できる。その結果、機械式時計1の耐久性が向上する。また、空気抵抗部材15を用いることにより、テン輪31の正方向運動及び逆方向運動における途中期間においてテン輪31の角速度を低下させる構成を採用した。これにより、テン輪31の回転の周期を遅くしつつも、テン輪31が空気抵抗部材15による空気抵抗を受けていない期間に発電を行うことで、十分な発電量を確保することができる。また、テン輪31が空気抵抗部材15による空気抵抗を受けている期間又は受けた後の期間に歩度調整を行うことにより、歩度調整の精度を維持することができる。また、永久磁石41を半波整流に適した逆起電圧が得られるよう配置する構成を採用するため、半波整流を用いて効率良く電力を取り出すことができる。
[その他]
歩度調整手段40は、2極磁化された永久磁石41の動作に基づいて検出信号を得るものであり、永久磁石41の周辺に磁気的な影響を及ぼす部材が存在する場合、検出精度が低下してしまう可能性がある。そのため、永久磁石41の周辺の部材の材料として、磁気的な影響が少ないものを採用するとよい。
例えば、支持部材33及びヒゲ持受34の材料として樹脂材料を用いるとよい。また、支持部材33を地板10に対して固定するための固定具33aの材料としてリン青銅を用いるとよい。また、テン輪31の材料として、樹脂材料又はアルミニウムを用いるとよい。また、空気抵抗部材15として、アクリル樹脂を用いるとよい。なお、ここで挙げた材料は一例であって、これらに限定されるわけではない。
また、上述のように、ヤング率を低減するためにヒゲゼンマイ32を樹脂製としたことより、金属製の場合と比較して、永久磁石41に与える磁気的な影響を低減することができる。また、ヒゲゼンマイ32が磁性を有する金属製である場合、永久磁石41から磁気的な影響を受け、ヒゲゼンマイ32の形状や姿勢が変位してしまう可能性がある。本実施形態においては、ヒゲゼンマイ32を樹脂製としたことより、ヒゲゼンマイ32自身の形状や姿勢を安定させることができる。また、別途磁性材料からなる耐磁板を機械式時計1に設けてもよい。これにより、機械式時計1に外部の磁石が近づいた場合であっても、永久磁石41(テン輪31)の正逆回転運動が乱れることが抑制され、安定した歩度調整を行うことができる。
また、本実施形態においては、図5に示すように、軟磁性コア42の第1端部421aと第2端部422aが第1溶接部423及び第2溶接部424を介して一体となっている例を示したが、これに限られない。例えば、第1溶接部423及び第2溶接部424を有しておらず、第1端部421aと第2端部422aとは間隙を介して磁気的な結合が分離されるものであってもよい。また、磁気的な結合を完全に分離するものに限られない。例えば、第1端部421aと第2端部422aとは、分離部である狭窄部を介して物理的に繋がっていてもよい。
また、図示は省略するが、機械式時計1は、文字板又は裏蓋に、テン輪31を外部から視認させる開口又は透明部を有しているとよい。
また、本実施形態で説明した永久磁石41の配置角度は一例であり、本実施形態で説明したものに限られるものではない。
本実施形態のように、空気抵抗部材15を用いてテン輪31に空気抵抗を作用させる構成を採用すると、空気抵抗によるエネルギー消費が生じる分、動力ゼンマイ11の持続時間が短くなってしまう。その一方で、本実施形態においては、ヒゲゼンマイ32の材料としてヤング率の低い樹脂材料を採用することでテン輪31の動作を低速化しており、従来の6~8振動の機械式時計と比較して持続時間は長くなる。すなわち、テン輪31の動作の低速化により、空気抵抗による持続時間の低下を補うことができる。そのため、機械式時計として十分な持続時間を実現することができる。
1 機械式時計、2 巻き真、10 地板、10a 位置決めピン、10b 開口、11 動力ゼンマイ、12 輪列、122 二番車、123 三番車、124 四番車、13 指針軸、131 秒針、15 空気抵抗部材、151 第1壁部、152 第2壁部、153 第3壁部、154 基部、20 脱進機構、21 ガンギ車、22 アンクル、221 アンクル真、222 竿部、223 第1腕部、224 第2腕部、30 調速機構、31 テン輪、311 テン真、312 円状部、313 被作用部、315 振り石、32 ヒゲゼンマイ、321 外端部、322 内端部、322a 固定部、322b ピッチ拡大部、33 支持部材、33a パイプ、33b ネジ、34 ヒゲ持受、35 ワク部材、35a 凸部、40 歩度調整手段、41 永久磁石、42 軟磁性コア、421 第1磁性部、421a 第1端部、422 第2磁性部、422a 第2端部、43 コイル、44 制御回路、45 回転検出回路、46 調速パルス出力回路、47 分周回路、48 発振回路、50 整流回路、60 電源回路、70 水晶振動子、n11,n12,n21,n22 ノッチ。

Claims (15)

  1. 動力源と、
    前記動力源の動力を伝達する輪列と、
    前記輪列により伝達された動力により駆動するテン輪と、前記テン輪を正逆回転運動させるように弾性変形するヒゲゼンマイと、を含む調速機構と、
    前記テン輪の正逆回転運動に基づいて検出される検出信号と、基準信号源の基準振動数とに基づいて歩度調整を行う歩度調整手段と、
    前記テン輪の回転軸に対して所定方向に設けられると共に、前記テン輪の正逆回転運動における正方向運動及び逆方向運動のそれぞれにおける途中期間において前記テン輪に作用して、前記テン輪を減速させる減速手段と、
    を有し、
    前記テン輪は、周方向の一部に形成されると共に前記減速手段により作用される被作用部を含む、
    機械式時計。
  2. 前記歩度調整手段は、前記テン輪の正逆回転運動に伴い正逆回転運動する永久磁石と、ステータと、コイルと、制御回路とを含み、
    前記制御回路は、前記テン輪の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動において、前記被作用部が前記減速手段の位置に達する前に前記永久磁石の運動により前記コイルに生じる検出電圧と、前記基準振動数と、に基づいて歩度調整を行う、
    請求項1に記載の機械式時計。
  3. 前記制御回路は、前記テン輪の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動において、前記被作用部が前記減速手段の位置に達した後の期間において歩度調整を行う、
    請求項1又は2に記載の機械式時計。
  4. 前記制御回路は、前記テン輪の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動において、前記被作用部が前記減速手段の位置に達する前に前記永久磁石の運動により前記コイルに生じる逆起電力が供給されることにより駆動する、
    請求項1~3のいずれか1項に記載の機械式時計。
  5. 前記減速手段は、空気抵抗領域を形成する壁を含み、
    前記被作用部は、前記空気抵抗領域を通過するように設けられている、
    請求項1~4のいずれか1項に記載の機械式時計。
  6. 前記壁は、前記テン輪の周方向に交差する方向に延びる抵抗溝を有している、
    請求項5に記載の機械式時計。
  7. 前記被作用部は、前記テン輪のうち径方向における長さが最も長い部分である、
    請求項1~6のいずれか1項に記載の機械式時計。
  8. 前記テン輪は、その重心位置をその回転中心に一致させる又は近づけるように形成される開口を有する、
    請求項1~7のいずれか1項に記載の機械式時計。
  9. 前記被作用部は、前記テン輪の周方向と交差する第1抵抗壁を形成する第1凹部を有している、
    請求項1~8のいずれか1項に記載の機械式時計。
  10. 前記減速部材は、前記テン輪の周方向と交差する第2抵抗壁を形成する第2凹部を有している、
    請求項1~9のいずれか1項に記載の機械式時計。
  11. 前記減速手段は、前記被作用部に摩擦抵抗を与える摩擦抵抗部を含む、
    請求項1~10のいずれか1項に記載の機械式時計。
  12. 前記テン輪は、前記ヒゲゼンマイが前記中立位置にある状態において、前記動力源からの動力が供給される動力供給位置にあり、
    前記被作用部は、前記テン輪が前記動力供給位置にある状態において、前記回転軸を介して前記空気抵抗部材と反対側の位置にある、
    請求項1~11のいずれか1項に記載の機械式時計。
  13. 前記ヒゲゼンマイは樹脂製である、
    請求項1~12のいずれか1項に記載の機械式時計。
  14. 前記ヒゲゼンマイは、前記テン輪を2秒間で1往復させるように設けられている、
    請求項1~13のいずれか1項に記載の機械式時計。
  15. 前記ヒゲゼンマイは、内端部と外端部とを有し、
    前記内端部は、前記テン輪の回転軸に対して固定される固定部と、前記ヒゲゼンマイのうち前記内端部と径方向において隣り合う部分とのピッチを拡げるピッチ拡大部と、を含む、
    請求項1~14に記載の機械式時計。

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