JP2022112940A - 透湿シート、これを用いた全熱交換素子及び全熱交換器、並びに空調システム - Google Patents

透湿シート、これを用いた全熱交換素子及び全熱交換器、並びに空調システム Download PDF

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有希 岡田
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Abstract

【課題】耐水性及び撥水性が高く、透湿性に優れ、複雑な構成を有しない透湿シートを提供する。
【解決手段】本発明の透湿シートは、二つの気流間で顕熱及び/又は潜熱を交換する全熱交換素子に用いられる透湿シートであり、金属及び有機配位子を有する多孔性金属錯体と撥水剤とを含有し、前記多孔性金属錯体は、25℃、相対圧0.6と25℃、相対圧0.3との飽和水分吸着率差が20質量%以上である。
【選択図】なし

Description

本発明は、主として空調分野に使用される気流間の熱交換を行う全熱交換素子及び全熱交換器、並びにそれらに用いられる透湿シートに関するものである。
近年、冷暖房等の空気調和装置を具備した居住区域の拡大、住宅の気密性、断熱性の向上から、換気の重要性が高まっている。この換気において温度と湿度を回収できる全熱交換器は、屋内の空気質と省エネルギー性を両立する空調機器としてその重要性が高まっている。こうした全熱交換器は、伝熱性と透湿性とを有する仕切板により二種流体間の温度と湿度を交換するものであり、これを1層として間隔板を挟み込み、所定の間隔をおいて複数層重ね合わせた構成となっている。
全熱交換器の仕切板に要求される性能としては、通気性が低く(空気遮断性が高く)、伝熱性および透湿性が高いことである。これは、使用時に屋外から屋内へ吸い込まれる新鮮な外気と、屋内から屋外へ排気される二酸化炭素を多く含む汚染された内気とが混合することなく、顕熱と潜熱とを同時に効率よく熱交換できるようにするためである。
一方、既存の全熱交換素子では、撥水性や耐水性が十分でないため、例えば、寒冷地での使用においては、冬季に凍結した全熱交換器内部が春先に結露することによって、全熱交換素子が結露水により変形等の劣化、あるいは、黴などにより耐用年数が大幅に短縮される、といった問題がある。また、地域によっては、熱交換素子を水洗することがあり、水洗に耐えうる仕様の全熱交換素子は非常に限られるため、普及が遅れている、といった問題もある。
そこで、結露を繰り返すような環境においても変化を伴わず、長期の安定性を維持させるために、例えば、特許文献1には、全熱交換器用仕切板として、多孔質シートの片面に水蒸気を透過させ得る非水溶性の親水性高分子薄膜を形成した複合透湿膜が開示されている。また、特許文献2には、全熱交換器用仕切板として、多孔質材に気体遮蔽性を備えた薄膜を重合させた構成の気体遮蔽膜が開示されている。
また、特許文献3には、全熱交換器用仕切板として、有機繊維を含む多孔質部材と、多孔質部材の一方の面に設けられ平均繊維径1nm以上50nm以下の無機繊維を含む膜とを備えたシートが開示されており、高い透湿性能と撥水性とを両立させている。
特許第2639303号 特許第2738284号 特開2020-038024号公報
しかしながら、特許文献1、2のように多孔質基材の片面に、透湿性のある非水溶性親水性薄膜を形成させる構造とする場合、撥水性、耐水性付与のために透湿性を犠牲にしており、満足のいくような湿度交換効率を得られることは難しい。また、特許文献1~3のような透湿シートは、多層構造であり、複雑な構成であるために、コスト、成形加工性、易組立性に課題がある。
本発明は、上記の従来技術の課題を解決するためになされ、その目的は、高い耐水性及び撥水性と高い透湿性とを両立し、かつ、複雑な構成を有しない透湿シート、該シートを用いた全熱交換素子および全熱交換器、並びに空調システムを提供することである。
本発明者等は、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、低湿度側(30~40%RH)と高湿度側(60~70%RH)とにおける飽和水分吸着率差が高い多孔性金属錯体と撥水剤とを含有することにより、単純な構成で、高い透湿性能を担保しながらも耐水性、撥水性を付与できる、という事実を見出し、本発明の完成に至った。
すなわち本発明は、以下の構成からなる。
本発明の透湿シートは、二つの気流間で顕熱及び/又は潜熱を交換する全熱交換素子に用いられる透湿シートであり、金属および有機配位子を有する多孔性金属錯体と撥水剤とを含有し、前記多孔性金属錯体は、25℃、相対圧0.6と25℃、相対圧0.3との飽和水分吸着率差が20質量%以上であることを特徴とする。
ここで、一定圧力下で吸着の進行が止まったように見える状態(吸着分子数=脱着分子数)のときの圧力を吸着平衡圧と言い、吸着平衡圧と飽和蒸気圧の比を相対圧と言う。
上記本発明の透湿シートは、フィブリル化していない繊維及びフィブリル化した繊維を含むのが好ましい。また、上記本発明の透湿シートは、水中溶解温度が65℃~100℃の有機バインダーを含むのが好ましい。
また、上記本発明の透湿シートは、前記多孔性金属錯体の中心金属は、Pb、Hg、As、Cd、Cr、Ni以外の金属イオンであることが好ましい。さらに、上記本発明の透湿シートは、前多孔性金属錯体は、鉄イオンとトリメシン酸、チタンイオンとテレフタル酸、またはジルコニウムイオンとテレフタル酸、を含むことが好ましい。
また、上記本発明の透湿シートは、前記多孔性金属錯体を40質量%以上含有するのが好ましい。
また、上記本発明の透湿シートは、前記撥水剤が、スチレンとアクリルに由来する構造体を含むのが好ましい。
さらに、上記本発明の透湿シートは、前記撥水剤が、次の化学式に示されるアルキル鎖を有するのが好ましい。
Figure 2022112940000001
上記本発明の透湿シートは、前記撥水剤を2質量%以上10質量%以下含有するように構成するのが好ましい。
また、本発明の全熱交換素子は、上記いずれかの本発明の透湿シートを仕切板として備え、当該仕切板を隔てて温度及び/又は湿度の異なる二つの気流を流通させ、当該仕切板を介して当該二つの気流の顕熱及び/又は潜熱を交換させることを特徴とする。また、本発明の全熱交換器は、上記本発明の全熱交換素子を備えたことを特徴とする。また、本発明の空調システムは、上記本発明の全熱交換器とヒートポンプとを備えたことを特徴とする。あるいは、本発明の空調システムは、上記本発明の全熱交換器とデシカント空調機とを備えたことを特徴とする。
本発明によれば、単純な構成で、従来よりも高い水準で透湿性能と、耐水性及び撥水性とを両立し、かつ、複雑な構成を有しない透湿シートを提供できる。よって、高湿度環境下、あるいは結露環境下での湿度交換能と安全性及び安定性が高く、水洗いが容易な全熱交換素子及び全熱交換器並びに空調システムを提供することができる。
本発明の一実施形態の全熱交換器の概略構成図である。 (A)は全熱交換素子の斜視図であり、(B)は全熱交換素子1層分の正面図である。 (A)は仕切板の斜視図であり、(B)は間隔板の斜視図であり、(C)は仕切板と間隔板とを積層させた1層分の斜視図である。 本発明の変形例の全熱交換器の構成概略図である。 本発明の他の変形例の全熱交換器の構成概略図である。 本発明の全熱交換器とヒートポンプとを備えた空調システムの一例を示す図である。 本発明の全熱交換器とデシカント空調機とを備えた空調システムの一例を示す図である。 本発明の全熱交換器とデシカント空調及びヒートポンプとを備えた空調システムの一例を示す図である。
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。図中、同じ構成部材については同じ番号を付し説明は繰り返さない。
図1は、本実施形態の全熱交換器1の概略構成を示している。全熱交換器1は、二つの気流(本実施形態では空気流)間において、顕熱及び/又は潜熱(本実施形態では顕熱及び潜熱)を交換する全熱交換素子2を備えた装置である。全熱交換器1は、住宅、ビルディング、マンション、病院、工場、店舗等の各種施設内の空間、自動車、電車、飛行機等の人や貨物を運搬する各種車両の空間等に、調温調湿する空調機器によって快適空気を供給する際に、その空調機器の消費電力負荷を下げ、省エネルギーに供する。
図1において、OAは屋外から全熱交換器1に吸い込まれる空気(外気)を指し、SAは全熱交換器1から屋内や室内に送り込まれる空気を指し、RAは屋内や室内から全熱交換器1に吸い込まれる空気(内気)を指し、EAは全熱交換器1から屋外へ送り出される空気(排気)を指す。なお、本実施形態では、全熱交換される処理対象空気は外気であるが、処理対象空気は外気に限定されない。また、空気清浄あるいは、全熱交換素子2の保護を目的として、吸気口などに粗粒子あるいは菌、ウィルス除去性能を有したプレフィルターを設置することが好ましい。
本実施形態において、全熱交換器1は、静置型全熱交換器であり、各給気口50、51及び各排気口60、61が設けられた筐体4と、筐体4内に配置された全熱交換素子2とを備える。全熱交換素子2は、温湿度の異なる二つの空気流間で顕熱及び/又は潜熱を熱交換させる素子である。筐体4内には、全熱交換素子2を固定するフレーム40と、各空気流が筐体4内で交じり合わないようにするための隔壁41と、を備える。
図2は、(A)は全熱交換素子2の斜視図、(B)全熱交換素子2の一部の断面図であり、図3(A)~(C)は全熱交換素子2を構成する仕切板3Aと間隔板3Bとを示す図である。図2及び図3に示すように、全熱交換素子2は、後述するが、透湿シート3で形成された仕切板3Aと間隔板3Bとにより構成された1層の片段シート3Cが複数積層された積層体構造を有し、積層方向に対して垂直方向に空気流が流れるように、筐体4に設置される。本実施形態では、全熱交換素子2を形成する仕切板3Aと間隔板3Bとが透湿シート3で形成されているが、少なくとも一方が透湿シート3で形成されていればよい。
図1,2に示すように、全熱交換素子2の内部は2種の空気流が直交流で通過することが可能であり、第1の空気流は、全熱交換素子2の一方側の端面から他方側の端面に向かって積層方向に垂直な方向に全熱交換素子2の開口部21のみからその内部を通過し、第2の空気流は、第1の空気流に対して全熱交換素子2の隣り合わせの左右の面に対して一方側の端部から他方側の端部に向かって積層方向に垂直な方向に全熱交換素子2の開口部23のみからその内部を通過する。全熱交換素子2を構成する透湿シート3は、全熱交換素子2内部を通過する空気流中の水分(水蒸気)を吸着可能な吸湿剤を担持している。
ここで、透湿シート3に担持される吸湿剤は、従来の全熱交換素子や全熱交換器に一般的に用いられるシリカゲル、ゼオライト、活性炭等の無機系の多孔質材料ではなく、種々の配位形態を取り得る金属イオンと2座以上の配位座を有する有機配位子とを組み合わせて自己集合させた多孔質材料、すなわち、多孔性金属錯体(MOF)あるいは多孔性配位高分子(PCP)と呼ばれる多孔質材料が用いられる。結節点となる金属イオンを有機配位子が架橋することによって、フレームワーク構造が構築され、このフレームワーク内の空隙が水分を取り込む空間として働く。多孔性金属錯体(あるいは多孔性配位高分子)は、通常、溶液中の反応によって合成される。すなわち、金属イオン源と有機配位子を有する化合物を水や有機溶媒等の溶媒中に溶解させて加熱することによって、結晶性の化合物が得られる。合成直後は、フレームワークの格子内部に溶媒分子を包接しているが、この溶媒分子を除去することで、多孔質材料となる。
多孔性金属錯体は、シリカゲル、ゼオライト、活性炭等の無機系の多孔質材料と比べて、高い比表面積を有するため、空気中の水分の吸着容量が多く、かつ透湿シートとした場合に水分子との有効接触面積を大きくできるという特徴がある。また、シャープな細孔分布を有するため、ある相対圧(閾相対圧力)で急激に吸着媒の吸着量が立ち上がる等温線形状となるために、閾相対圧力前後における飽和吸着量差が大きくなり、透湿シートとした場合の透湿量が多くなるという特徴がある。
多孔性金属錯体を構成する金属としては、周期表第2族、第4族、第7~第14族に分類される金属の使用が好ましい。中でも、Mg、Ca、Baの第2族元素;Ti、Zrの第4族元素;Reの第7族元素;Fe、の第8族元素;Rh、Irの第9族元素;Pd、Ptの第10族元素;Cu、Ag、Auの第11族元素;Znの第12族元素;Alの第13族元素;B、Siの第14族元素が好ましく、さらに好ましくは第4族、第7族~第14族の元素であり、中でも本発明にはTi、Zr、Fe、Cu、Zn、Al、Siの使用が最適である。例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ビフェニルジカルボン酸、フマル酸、マロン酸、アジピン酸等のジカルボン酸及びその誘導体;ビフェニル-3,4’,5-トリカルボン酸、1,3,5-トリス(4’-カルボキシ[1,1’-ビフェニル]-4-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸等のトリカルボン酸及びその誘導体;p-テルフェニル-3,3’,5,5’-テトラカルボン酸〔別名称:5,5’-(1,4-フェニレン)ビスイソフタル酸〕、1,2,4,5-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン等のテトラカルボン酸及びその誘導体;イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類及びその誘導体;4,4’-ビピラゾレート、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ビピラゾレート、1,3,5-トリス(1H-1,2-ピラゾール-4-イル)ベンゼン等のピラゾール類及びその誘導体;1,3,5-トリス(1H-1,2,3-トリアゾール-5-イル)ベンゼン等のトリアゾール類及びその誘導体;5,5’-ビステトラゾール、5,5’-アゾビス-1H-テトラゾール、1,3,5-トリス(2H-テトラゾール-5-イル)ベンゼン等のテトラゾール類及びその誘導体;1,2-ビス(4-ピリジル)エタン、4,4’-ビピリジン等のピリジン類及びその誘導体;トリエチレンジアミン、ピラジン、ピペラジン等が挙げられる。中でも本発明には、テレフタル酸、トリメシン酸の使用が好ましい。
具体的な多孔性金属錯体としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウムイオンとテレフタル酸から構成される多孔性金属錯体(例えばBASF社製のBasolite A100)、鉄イオンとトリメシン酸から構成される多孔性金属錯体(例えばBASF社製のBasolite F300)、チタンイオンとテレフタル酸から構成される多孔性金属錯体、ジルコニウムイオンとテレフタル酸から構成される多孔性金属錯体、を挙げることができる。これらの多孔性金属錯体は、同じ多孔性金属錯体であっても合成法や純度によりBET比表面積は様々である。これらの多孔性金属錯体の中でも、環境汚染配慮のために毒性の低い金属を用いる点、水と適度に結合できるサイトを兼ね備えている点から鉄イオンとトリメシン酸、チタンイオンとテレフタル酸、ジルコニウムイオンとテレフタル酸から構成される多孔性金属錯体を用いることが好ましい。
本実施形態では、多孔性金属錯体として、25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率の差(以下、単に「飽和水分吸着率差」ということもある。)が20質量%以上であるものを用いることを特徴とする。低湿度(相対圧0.3)と高湿度(相対圧0.6)における飽和水分吸着率差が大きいと、透湿シートとした場合の水分移動の駆動力が高く、素子化した後の湿度交換率が高くなる傾向にある。多孔性金属錯体の25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率差が20質量%以上であることで、透湿シート3とした場合に優れた透湿性能を有し、高効率な湿度交換が可能となる。多孔性金属錯体の上述の飽和水分吸着率差は、20質量%以上であれば特に限定されないが、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。
加えて、多孔性金属錯体は、25℃及び相対圧0.6での飽和水分吸着率が30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。多孔性金属錯体の25℃及び相対圧0.6での飽和水分吸着率が30質量%以上であることにより、上述の飽和水分吸着率差が大きくなるうえ、多孔性金属錯体を担持した後述の透湿シート3自体に水分を多く保持させることができるので、透湿シート3に柔軟性を付与することができる。これにより、透湿シート3に柔軟性を付与するのに関与する後述の有機バインダーの含有量を少なくできる。よって、有機バインダーの側鎖等が多孔性金属錯体の細孔に吸着して細孔が閉塞することにより生じる多孔性金属錯体の吸着性能の低下を抑制することができる。なお、透湿シート3が良好な柔軟性を有することで、透湿シート3は後述のコルゲート加工を施した間隔板3Bのような段加工を容易に行うことができる。また、透湿シート3により形成される全熱交換素子2も柔軟性を有するので、長期使用に対する安定性、耐久性が向上する。
多孔性金属錯体の25℃及び相対圧0.5での飽和水分吸着率[%]は、詳細は実施例にて後述するが、相対圧0.5における多孔性金属錯体1gあたりの水分吸着量[g]から下記式1にて求めることができる。
飽和水分吸着率[%]=吸湿剤1gあたりの水分吸着量[g]×100・・・(式1)
同様に、多孔性金属錯体の25℃及び相対圧0.3での飽和水分吸着率を上記式1にて求め、飽和水分吸着率差は、多孔性金属錯体の25℃及び相対圧0.6での飽和水分吸着率から、多孔性金属錯体の25℃及び相対圧0.3での飽和水分吸着率を減算して求めることができる。
多孔性金属錯体の形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、粉体状や粒体状とすることができる。多孔性金属錯体の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、0.1μm~200μmが好ましく、1μm~100μmがより好ましく、1μ~80μmがさらに好ましい。多孔性金属錯体の平均粒子径が0.1μm以上であることにより、多孔性金属錯体を担持させた透湿シート3を製造する際の歩留まりの低下を抑えることができ、一方で、200μm以下であることにより、透湿シート3に多孔性金属錯体を良好に担持させることができるので、透湿シート3からの多孔性金属錯体の脱落を抑制することができる。なお、多孔性金属錯体の平均粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡を用いて測定することができる。
多孔性金属錯体の77K窒素吸着法によるBET比表面積は、特に限定されるものではないが、900m/g以上であることが好ましく、1500m/g以上であることがより好ましく、1800m/g以上であることがさらに好ましい。多孔性金属錯体のBET比表面積が900m/g以上であることにより、無機系の多孔質材料よりも優れた多孔性金属錯体の吸着性能を効果的に発揮させることができる。なお、多孔性金属錯体のBET比表面積の上限は、特に限定されないが、6000m/g以下であることが好ましい。BET比表面積が6000m/g以下であることにより、多孔性金属錯体を容易に製造することができる。
ここで、多孔性金属錯体のBET比表面積は、多孔性金属錯体(水または有機溶媒処理前)約100mgを採取し、120℃で12時間真空乾燥して秤量した後、自動比表面積測定装置(ジェミニ2375、マイクロメリティックス社製)を使用し、液体窒素の沸点(-195.8℃)における窒素ガスの吸着量を、相対圧を0.02~0.95の範囲で徐々に高めながら40点測定し、吸着等温線を作成する。そして、自動比表面積測定装置に付属の解析ソフト(GEMINI-PCW version1.01)にて、BET条件で、表面積解析範囲を0.01~0.15に設定することで、BET比表面積(m2/g)を求めることができる。
吸湿剤は、多孔性金属錯体を1種又は2種以上含んでいてもよい。さらに吸湿剤は、多孔性金属錯体を主成分として含んでいれば、多孔性金属錯体以外の多孔質材料、例えば、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナ、アルミノリン酸塩、シリコアルミノリン酸、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体等の有機高分子多孔質体を含んでいてもよい。なお、主成分とは、吸湿剤全体に対する割合が20質量%以上、好ましくは40質量%以上,より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であることを意味する。
全熱交換素子2は、図2(A)に示すように、空気流が通過可能な開口層21,23と空気流が通過不可能な閉口層22,24とが交互に積層されており、二つの空気流がそれぞれ積層方向に対して垂直に通過するよう構成されている。開口層21,23及び閉口層22,24は、後述の片段シート3Cから形成されている。一方の空気流が通過する開口層21は、他方の空気流側では閉口層24となっており、同様に、他方の空気流が通過する開口層23は、一方の空気流側では閉口層22となっている。この構成により、二種類の空気流は混じり合うことなく、全熱交換素子2を通過できる。
全熱交換素子2は、図2(B)に示すように、平面に沿って互いに区画された複数の空間20が並ぶハニカム構造を有している。複数の空間20は、平面内で縦、横、斜め等の方向に規則正しく又は不規則に並び連ねられてており、空気流が通過するよう貫通している。つまり、空間20は空気流の流路である。空間20は、全熱交換素子2において後述の片段シート3Cが成す層毎に、積層方向に対して垂直方向に交互に貫通している。空間20の空気流通過面における断面形状は、特に限定されず、図示した本実施形態では断面が三角形状であるが、その他に、例えば四角形状、菱形形状、六角形状、円形状等であってもよい。
全熱交換素子2は、少なくとも多孔性金属錯体を含む吸湿剤を担持した透湿シート3により形成されている。透湿シート3には、図3(A)に示す平坦状の仕切板3Aと、図3(B)に示す凸状の山部30及び凹状の谷部31が交互に連なることで波状とされた間隔板3Bとがあり、間隔板3Bは、仕切板3Aに折り曲げ等の段加工を施すことで形成される。図3(C)に示すように、間隔板3Bの谷部31の底を仕切板3Aの表面に例えば接着剤等により接合した片段シート3Cを形成する。そして、片段シート3Cの間隔板3Bの山部30と別の片段シート3Cの仕切板3A面とを、2つの片段シート3Cの山部30の延伸方向(稜線)同士が直交するように、交互に複数積層させることで、図2(A)に示すブロック型ハニカム構造の全熱交換素子2が形成される。図2(B)に示す空間20は、仕切板3A及び間隔板3Bにより区画された空間である。
なお、間隔板3Bは、透湿シート3を波状に段加工したものに限定されない。例えば、とくに図示しないが、間隔リブとして、樹脂を任意の形状に成形させて安定な通風路を構成することもできる。この場合の間隔リブに用いる樹脂は、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、その他一般的な樹脂で容易に希望の形状に成形可能で、かつ、湿度による変形を抑制できるものであればよい。
また、透湿シート3は、間隔板3Bのような加工以外にも、種々の形状の折り曲げ加工を施すことができる。また、全熱交換素子2の形成方法は、上述した透湿シート3を直交積層する方法には限定されず、複数の空間20を密に並べた構造を有するのであれば、種々の公知の方法で形成することができる。
透湿シート3の基材としては、特に限定されず、例えば、紙、不織布、プラスチックフィルムを用いることができるが、多孔性金属錯体を担持しやすいとの観点から繊維基材を用いることが好ましい。繊維基材を構成する繊維は、特に限定されないが、フィブリル化していない繊維及びフィブリル化した繊維を含むことが好ましい。フィブリル化していない繊維を含むことにより、透湿シート3は、間隔板3Bのような段加工を施した後に容易に自力で段形状を保持することが可能となり、加工性に優れる。また、高相対湿度下、又は結露雰囲気下における形状安定性、寸法安定性を担保することが可能となる。一方、フィブリル化した繊維を含むことにより、透湿シート3は多孔性金属錯体を効率よく担持することが可能であり、多孔性金属錯体の担持性に優れる。これにより、高相対湿度下、又は結露雰囲気下における多孔性金属錯体の脱落を抑制する働きがある。そのうえ、本来、多孔性金属錯体の担持のために使用される有機バインダーの使用量を削減することが可能であり、有機バインダーによる多孔性金属錯体の細孔閉塞を減らすことができ、多孔性金属錯体の吸着性能を効果的に発揮させることができる。
フィブリル化していない繊維としては、ガラス繊維、セラミック繊維、ロックウール繊維等の無機繊維;アラミド繊維、メタアラミド繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、ポリエーテルケトン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ナイロン繊維等の合成繊維;アセテート繊維、トリアセテート繊維等の半合成繊維;、レーヨン繊維;キュプラ繊維等の再生繊維;綿、麻、及び木材を主成分とした繊維等の植物繊維を挙げることができ、これらの中の1種又は2種以上を用いることができる。一方、フィブリル化した繊維としては、上述した繊維をフィブリル化した繊維に加え、パルプ等を挙げることができ、これらの中の1種又は2種以上を用いることができる。
フィブリル化の方法としては特に制限はなく、通常の叩解方法を採用することができる。代表的な例としては、ビーターやリファイナーなどの叩解機を用いてフィブリル化する方法が挙げられれる。また、フィブリル化した繊維は、JIS P 8121-2に準ずるカナダ標準濾水度(CSF)を測定した場合、50ml以上800ml未満であることが好ましい。
フィブリル化していない繊維の繊維径は、特に限定されないが、5μm以上であることが好ましく、5μm~30μmであることがより好ましい。また、フィブリル化していない繊維の繊維長は1mm~10mmであることが好ましく、2mm~8mmであることがより好ましい。フィブリル化していない繊維の繊維径が5μm以上かつ繊維長が1mm以上であることにより、透湿シート3の強度を十分に確保できるので、間隔板3Bのような段加工後に容易に自力で段形状を保持することができるうえ、透湿シート3をブロック状の全熱交換素子2に容易に加工することができる。また、フィブリル化していない繊維の繊維径が30μm以下かつ繊維長が10mm以下であることにより、透湿シート3は良好な柔軟性を有し、間隔板3Bのような加工を容易に行うことができるうえ、透湿シート3により形成される全熱交換素子2も柔軟性を有する。なお、繊維径が異なる繊維を混合してもよい。
吸湿剤としての多孔性金属錯体を透湿シート3に担持させる方法は、特に限定されず、透湿シート3の表面や内部にバインダー等を用いて多孔性金属錯体を接着させてもよいし、多孔性金属錯体を含む含浸液を透湿シート3に塗布してもよいし、透湿シート3を含浸液に含浸させてもよい。本実施形態では、有機バインダーを用いて多孔性金属錯体を透湿シート3に担持させている。これにより、透湿シート3の柔軟性や強度を向上させることができる上、高相対湿度下、又は結露雰囲気下の多孔性金属錯体の脱落及び流出を抑制できる。
有機バインダーは、多孔性金属錯体を透湿シート3に接着できるものであれば特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール系ポリマー、ポリアクリロニトリル系ポリマー、ポリエチレン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリフェニレンエーテル系ポリマー等を用いることができる。これらの中でも、取り扱い性の観点から、ポリビニルアルコール系ポリマーを用いることが好ましい。有機バインダーの形態は特に限定されないが、繊維状のものを使用すると、後述するように透湿シート3を簡便に作製できるため好ましい。
有機バインダーは、特に限定されないが、その水中溶解温度が65℃~100℃と高融点であることが好ましく、70℃~100℃であることがより好ましい。水中溶解温度が65℃以上であることにより、有機バインダーにより多孔性金属錯体の細孔が閉塞するのを抑制できるので、多孔性金属錯体の吸着性能を効果的に発揮させることができ、一方で、100℃以下であることにより、良好な接着力で多孔性金属錯体を透湿シート3に担持させることができる。
有機バインダーの水中溶解温度は、公知の方法で測定できる。例えば、純水100mlをビーカーに入れて撹拌しながら水温が50℃になるまでオイルバスにて加熱し、そこに有機バインダーを0.5g添加して、昇温速度2℃/minにて水温を上昇させ、目視でバインダーが溶解始め半透明な状態になった時の温度を測定することで、水中溶解温度を測定することができる。
撥水剤は、透湿シート3の透湿性能を保持しつつ、撥水性を付与できるものであれば特に限定されないが、例えば、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。これらの中でも、安全性、ハンドリング性の観点から、ポリアクリル系樹脂を用いることが好ましい。特に、撥水剤は、スチレンに由来する構造体を含むものが好ましく、スチレン以外にアクリルを有する構造体を含むことがさらに好ましく、スチレン-アクリル共重合体であってもよい。環境負荷、吸湿・透湿性と撥水性とのバランスが良好であると推測されるからである。スチレン(芳香環)や、以下の化学式に記載されるアルキル鎖、あるいは、分岐して嵩高くなったアルキル鎖は、多孔質金属錯体の細孔に侵入しづらいと考えられ、細孔への侵入を極力阻害することにより、多孔質シート3の吸湿、あるいは透湿性能を担保できるからである。
Figure 2022112940000002
スチレンは、官能基を有していなくてもよく、または、o位、m位、p位の位置にメチル基などのアルキル鎖を有していてもよい。アクリルは、アクリル酸系の他に、α位がメチル基置換されたメタクリル酸等でもよい。スチレンとアクリルは、共重合体でもよく、界面活性剤などを用いて混合物としてもよい。
上記化学式で示されるのアルキル鎖を含む撥水剤であって、R1+R2が炭素原子を5以上含むものとしては、例えば、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸イソペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、2-エチルアクリル酸ブチル、2-エチルアクリル酸イソブチル、2-エチルアクリル酸tert-ブチル、2-エチルアクリル酸ペンチル、2-エチルアクリル酸イソペンチル、2-エチルアクリル酸ヘキシル、2-エチルアクリル酸2-エチルヘキシル、等が挙げられる。また、R1が炭素原子を6以上含むものとしては、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸イソヘキシル、アクリル酸2-エチルブチル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸イソへプチル、アクリル酸2エチルーペンチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、等が挙げられる。これらには限定されない。
撥水剤の形態は特に限定されないが、水系エマルジョンタイプのものを用いると、安全かつ簡便に透湿シート3に塗工できるので好ましい。
透湿シート3(つまりは全熱交換素子2)における多孔性金属錯体の含有量は、特に限定されないが、50質量%~80質量%であることが好ましく、55重量%~75質量%であることがより好ましい。多孔性金属錯体の含有量が50質量%以上であることにより、透湿シート3は多量の多孔性金属錯体により優れた湿度交換性能を奏することができ、一方で、80質量%以下であることにより、吸着シート3に多孔性金属錯体を問題なく担持させることができるので、透湿シート3からの多孔性金属錯体の脱落を抑制することができるうえ、透湿シート3の強度低下も抑制することができる。
また透湿シート3(つまりは全熱交換素子2)におけるフィブリル化していない繊維及びフィブリル化した繊維の合計の含有量は、特に限定されないが、5質量%~25質量%であることが好ましく、10重量%~25質量%であることがより好ましい。該繊維の含有量が5質量%以上であることにより、透湿シート3に多孔性金属錯体を良好に担持させることができるので、透湿シート3からの多孔性金属錯体の脱落を抑制することができるうえ、透湿シート3の強度低下も抑制することができ、一方で、25質量%以下であることにより、透湿シート3は多孔性金属錯体をより多く含ませることができるので、多量の多孔性金属錯体により優れた湿度交換性能を奏することができる。
また透湿シート3(つまりは全熱交換素素2)における有機バインダーの含有量は、3質量%~15質量%であることが好ましく、4質量%~12質量%であることがより好ましい。有機バインダーの含有量が3質量%以上であることにより、透湿シート3による多孔性金属錯体の担持性や透湿シート3の柔軟性を良好にでき、一方で、15質量%以下であることで、有機バインダーにより多孔性金属錯体の細孔が閉塞されて多孔性金属錯体の吸着性能が低下することを抑制できるので、透湿シート3は優れた湿度交換性能を奏することができる。
このように透湿シート3(つまりは全熱交換素子2)は、有機バインダーの含有量が少なくても、フィブリル化した繊維により多孔性金属錯体の担持性を十分に発揮し、多孔性金属錯体の高い水分吸着率により透湿シート3に十分な柔軟性を付与する。その結果、多孔性金属錯体は有機バインダーによりその高い吸着性能が阻害されないので、透湿シート3は多孔性金属錯体が有する高い吸着性能により、優れた湿度交換性能を奏することができる。また、高相対湿度雰囲気下において、十分な形状安定性、寸法安定性を与え、多孔性金属錯体の脱落、流出を防止できる。
また、透湿シート3(つまりは全熱交換素子2)における撥水剤の含有量は、特に限定されないが、2質量%~10質量%であることが好ましく、4~8質量%であることがより好ましい。撥水剤の含有量が2質量%以上であることにより、透湿シート3は十分な撥水性を発現可能であり、一方で、10質量%以下であることにより、透湿シート3は十分か透湿性を保持可能である。
上述した透湿シート3の厚みは、特に限定されないが、0.1mm~0.9mmであることが好ましく、0.1mm~0.7mmであることがより好ましい。透湿シート3の厚みが0.1mm以上であることにより、透湿シート3の強度を十分に確保することができるので、透湿シート3をブロック状の全熱交換素子2に容易に加工することができ、一方で、厚みが0.9mm以下であることにより、ブロック状に加工した全熱交換素子2の内部を空気が通過する際の圧力損失を抑制することができる。
透湿シート3の坪量は、特に限定されないが、25g/m~200g/mであることが好ましく、40g/m~150g/mであることがより好ましい。透湿シート3の坪量が25g/m以上であることにより、透湿シート3の強度を十分に確保することができるので、透湿シート3をブロック状の全熱交換素子2に容易に加工することができ、一方で、坪量が200g/m以下であることにより、ブロック状に加工した全熱交換素子2の内部を空気が通過する際の圧力損失を抑制することができる。
透湿シート3の柔軟性の指標である比引張伸度は、特に限定されないが、5%・m/g以上であることが好ましい。透湿シート3の比引張強伸度が5%・m/g以上であることにより、間隔板3Bのような加工を行う等、透湿シート3を加工して全熱交換素子2を形成する際に透湿シート3に割れ等が生じることを抑制できる。
なお、透湿シート3の比引張伸度は、例えば、次のように求めることができる。透湿シートサンプルから切り出した15mm×100mmの試験片を120℃、1時間乾燥し、その重量を測定する。そして、乾燥したサンプルを22℃、40%RH雰囲気下で1時間静置し、引張・圧縮試験機(TENSILON RTG-1310、A&D社製)にて最大点伸度[%]を測定する。なお、チャック間距離は50mm、引張速度は15mm/minとする。得られたデータから下記式2にて比引張伸度を求めることができる。
比引張伸度[%・m/g]=最大点伸度[%]/サンプル幅[m]/透湿シートの坪量[g/m2]・・・(式2)
透湿シート3を製造する方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。その中でも好ましくは、上述した多孔性金属錯体、繊維及び有機バインダーを、水や有機溶媒(あるいはこれらの混合物)中に分散させた後、成形、脱水、乾燥することによりシート化する、湿式シート化法を挙げることができる。なお、シート化工程後に、透湿シート3内に含まれる溶媒を除去する脱溶媒処理工程を実施することが好ましい。また、シート化工程においては、多孔性金属錯体は、その細孔内に溶媒分子を吸着した状態で、上述した有機バインダー等と混合されることが好ましい。多孔性金属錯体が細孔内に溶媒分子を有していると、シート化工程において有機バインダーが当該細孔を閉塞するおそれがなく、シート化工程後、脱溶媒処理により当該細孔内から溶媒分子を除去することにより、多孔性金属錯体の高い吸着性能を確保することができる。通常、多孔性金属錯体は合成する段階で細孔内に溶媒分子が吸着しているが、当該細孔内に溶媒分子を吸着していない場合や溶媒分子の吸着量が不十分である場合には、当該細孔内に有機溶媒を吸着させることが好ましい。ここで、溶媒とは、水や一般的な有機溶媒を指す。
透湿シート3に撥水剤を含有させる方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、撥水剤として撥水性バインダーを用いて、撥水加工前の透湿シート3を撥水性バインダーの水系エマルジョンに含侵塗工する方法、あるいは、撥水性バインダーの水系エマルジョンを噴射塗工する方法を挙げることができる。なお、撥水性バインダー塗工後に、透湿シート3内に含まれる溶媒を除去する脱溶媒処理工程を実施することが好ましい。また、撥水性バインダー塗工においては、透湿シート3における多孔性金属錯体は、その細孔内に溶媒分子を吸着した状態で、上述した撥水性バインダーと混合されることが好ましい。多孔性金属錯体が細孔内に溶媒分子を有していると、撥水性バインダー塗工において、撥水性バインダーが当該細孔を閉塞するおそれがなく、撥水性バインダー塗工後、脱溶媒処理により当該細孔内から溶媒分子を除去することにより、多孔性金属錯体の高い吸着性能を確保することができる。通常、多孔性金属錯体は合成する段階で細孔内に溶媒分子が吸着しているが、当該細孔内に溶媒分子を吸着していない場合や溶媒分子の吸着量が不十分である場合には、当該細孔内に有機溶媒を吸着させることが好ましい。ここで、溶媒とは、水や一般的な有機溶媒を指す。
また、透湿シート3に撥水剤を含有させる方法として、例えば、透湿シート3の基材を、必要被応じて表面処理して、撥水加工してもよい。記載した以外の方法で透湿シート3に撥水剤を含有させてもよい。
脱溶媒処理の条件として、温度は特に限定されないが、50℃~300℃であることが好ましく、80℃~200℃であることがより好ましい。温度が50℃以上であることにより、溶媒の除去を問題なく行うことができ、多孔性金属錯体の高い吸着性能を確保することができる。一方で、温度が300℃以下であることにより、多孔性金属錯体の細孔構造が壊れることを抑制でき、多孔性金属錯体の高い吸着性能を確保することができる。また、脱溶媒処理は、減圧下で実施することで一層効率よく溶媒を除去することができる。圧力は特に限定されず、多孔性金属錯体の物性や配合量に応じて適宜調整すればよいが、例えば、10-3Pa~10-5Paを例示でき、より好ましくは10-1Pa~10-5Paを例示することができる。脱溶媒処理時間も特に限定されないが、例えば1時間~100時間を例示することができ、より好ましくは3時間~48時間、さらに好ましくは3時間~24時間を例示することができる。以上、最も好ましい脱溶媒処理の条件は、例えば真空条件下で温度が80℃~200℃、処理時間が3時間~24時間である。
図1に戻って、全熱交換素子2は、積層方向が通風方向と垂直になるように、筐体4の所定の位置に格納され、フレーム40で支持、固定されている。外気(OA)、還気(RA)、給気(SA)、排気(EA)の温度及び/又は湿度の異なる空気流が交じり合わないように、隔壁41で各空気流の通過空間が仕切られている。各空気流は、室内外の圧力差を駆動とする自然換気によるものでもよく、図示しない換気ファン等により空気流通の駆動力を与える強制換気によるものでもよい。
全熱交換素子2は、上述したように、空気流が通過可能な開口層21,23と空気流が通過不可能な閉口層22,24とが交互に積層されており、二つの空気流がそれぞれ積層方向に対して垂直に混じり合うことなく通過するよう構成されている。第1の給気口50に第1の空気流である外気(OA)が流入し、開口層21を流通し、第2の給気口51に第2の空気流である還気(RA)が流入し、開口層23を流通することによって、第1の空気流と第2の空気流は仕切板3Aによって交じり合うことなく、顕熱と潜熱を交換後、第1の空気流である給気(SA)は、第1の排気口60より排出され、第2の空気流である排気(EA)は、第2の排気口61により排出される。そして、全熱交換素子2は、駆動源を要することなく、上記熱交換を連続的に行うことができる。また、前述の透湿シート3は、その耐水性、撥水性によって、高相対湿度環境下、あるいは、結露雰囲気下でも十分に使用することができる。
次に、図1を参照して、本実施形態の全熱交換器1の熱交換運転について説明する。処理対象空気の外気(OA)は、室内外の圧力差、あるいは図示しないファン等により第1の給気口50に取り込まれて、全熱交換素子2の開口部21に供給される。一方、もう一つの処理対象空気の還気(RA)は、室内外の圧力差、あるいは図示しないファン等により第2の給気口51に取り込まれて、全熱交換素子2の開口部23に供給される。上記温度及び/又は湿度の異なる2つの空気(OA、RA)は、仕切板3Aにより直接接触することなく、顕熱と潜熱を交換し、還気(RA)の温湿度を外気(OA)が回収して給気(SA)となり、一方、温湿度を回収された還気(RA)は排気(EA)となって系外に排出される。室内からの還気(RA)の温湿度条件に、室外からの外気(OA)を近づけることによって、空調の省エネルギーを図ることが目的である。
上述した構成の本実施形態の全熱交換器1によれば、吸湿剤に、25℃、相対圧0.6と25℃、相対圧0.3との飽和水分吸着率差が20質量%以上の多孔性金属錯体と撥水剤とを用いており、該多孔性金属錯体を50質量%以上含有する透湿シート3の透湿性能が高いため、高い湿度交換率(潜熱の回収)を達成することができ、該撥水剤を2質量%以上含有する透湿シート3の耐水性、撥水性が高いため、高相対湿度雰囲気下、あるいは、結露雰囲気下においても安定的に運転することができ、水洗いも容易に行うことができる。よって、本実施形態の全熱交換器1は、省エネルギーかつ耐久性、メンテナンス性の高い空調システムを提供することができる。
加えて、無機塩を担持した全熱交換素子は、高相対湿度雰囲気下での使用では無機塩の潮解によるキャリーオーバーという課題がある。無機系吸着剤を含有した全熱交換素子は、柔軟性に乏しく、クラックあるいは粉末化により長期間の使用耐久性に難がある。有機高分子系吸着剤を含有した全熱交換素子は、高湿度雰囲気下における寸法変化が大きく、素子としての安定性に乏しいという課題がある。しかしながら、多孔性金属錯体は潮解性が無く、透湿シート3は柔軟性と強度を兼ね備え、高相対湿度雰囲気下における形状安定性、寸法安定性に優れることから、全熱交換器1を継続して使用しても、上記の課題は抑制することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述の実施形態は、例示であって制限的なものではないため、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものであり、よって、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
例えば、図1を用いて説明した上述の実施形態では、全熱交換素子2の汚染を防止するためのフィルターが設置しておらず、筐体4の内部に図示しない送風ファンが収納されていないが、図4に示す本実施形態の変形例の全熱交換器1Aのように、全熱交換素子2の汚染を防止するためのフィルター7が設置され、筐体4の内部に送風ファン8が収納されるようにしてもよい。
また、上述の実施形態では、全熱交換器1,1Aは、仕切板3Aと間隔板とから成る片段シート3Cを交互積層させてブロック状にした全熱交換素子2を備えた駆動部を持たない静置型の装置であり、片段シート3Cには、金属イオン及び有機配位子で構成される多孔性金属錯体であって、25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率差が20質量%以上である多孔性金属錯体を含有した透湿シート3を用いている。
しかし、本発明の全熱交換器は、上記に限られず、例えば、図5に示す別の実施形態のように、上述の多孔性金属錯体を含有する透湿シート3を回転型の全熱交換素子2Bとして加工し、周方向に回転して外気(OA)と内気(RA)との全熱を連続的に熱交換する回転型の全熱交換器1Bにすることが可能である。回転型の全熱交換素子2Bは、図5に示す筐体4Bにより回転軸が水平となる向きで支持され、外気(OA)流通ゾーンと内気(RA)流通ゾーンとが区分けされており、かつ駆動用モーター90及び駆動用ベルト91により回転軸を中心に周方向に回転するように駆動される。工場や商業施設などの大型建築物では、処理量の観点から回転型全熱交換器を好適に用いることも多い。
また、上述の実施形態の全熱交換器1(または1A)と、別の空調システムと組み合わせて更なる機能付与あるいは省エネを図った空調システムを提供することができる。例えば、図6に示す実施形態のように、上述の全熱交換器1(または1A)をヒートポンプと組み合わせることも可能である。外気(OA)が内気(RA)により全熱交換された後、ヒートポンプの蒸発器を給気用冷却器100として利用する空調システムである。
図7に示す実施形態のように、上述の実施形態の全熱交換器1(または1A)をデシカント空調機140と組み合わせることも可能である。このシステムによれば、外気(OA)を前段の全熱交換器1(または1A)によって全熱交換させておき、冷却器100を通過して後段のデシカント空調機140で除湿後に供給空気(SA)となる。内気(RA)は、加熱器110で加熱された後、デシカント空調機140で加湿後に、全熱交換器1(または1A)によって全熱交換されてから排気(EA)となる。
図8に示す実施形態のように、上述の実施形態の全熱交換器1(または1A)をデシカント空調機140およびヒートポンプと組み合わせることも可能である。このシステムによれば、前記図7の実施形態において、ヒートポンプの蒸発器、凝縮器を各々冷却器100、加熱器110として用いる。ヒートポンプの排熱を利用できる点から、本システムは更なる省エネ運転が可能となる。
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
Fe(NO・9HO16.2g(40mmоl)とトリメシン酸7.5g(36mmоl)とを水32mlに溶解させ、95℃で15時間加熱し多孔性金属錯体を合成した。得られた多孔性金属錯体について、窒素吸着測定及び水蒸気吸着測定により物性評価を行った結果、BET比表面積は1,575m/g、25℃、相対圧0.6と25℃、相対圧0.3との飽和水分吸着率差は28質量%であった。
その後、上記合成した多孔性金属錯体を水中に24時間浸漬させた後に、ろ過し、細孔内に溶媒分子が吸着された多孔性金属錯体サンプルを得た。この多孔性金属錯体サンプルを66質量%(溶媒分子を除く)、フィブリル化していない繊維としてアラミド繊維を13.6質量%、フィブリル化した繊維としてアラミド繊維を8.5質量%、有機バインダーとして水中溶解温度が70℃(カタログ値)のポリビニルアルコール(PVA)繊維を11.9質量%、の比率で混合し、坪量60g/mとなる質量にて湿式抄紙装置(東洋紡エンジニアリング株式会社製、以下同様)を使い透湿シートサンプルを得た。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、透湿シートを得た。
その後、上述作製した透湿シートを20℃、相対圧0.95の水蒸気雰囲気下、24時間で調湿処理を行い、撥水剤として固形分濃度5質量%に調整したアクリルスチレン系の撥水性バインダーAを噴射塗工し、透湿シートサンプルを得た。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、透湿シートを得た。得られた透湿シートについて、吸湿率、透湿度、耐水性、撥水性を測定/評価した。
<実施例2>
実施例1と同様にして得られた撥水性バインダー塗工前の透湿シートを20℃、相対圧0.95の水蒸気雰囲気下、24時間で調湿処理を行い、撥水剤として固形分濃度5質量%に調整したアクリルスチレン系の撥水性バインダーAを含侵塗工し、透湿シートサンプルを得た。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、透湿シートを得た。得られた透湿シートについて、吸湿率、透湿度、耐水性、撥水性を測定/評価した。
<実施例3>
実施例1と同様にして得られた撥水性バインダー塗工前の透湿シートを20℃、相対圧0.95の水蒸気雰囲気下、24時間で調湿処理を行い、撥水剤として固形分濃度5質量%に調整したアクリルスチレン系の撥水性バインダーBを噴射塗工し、透湿シートサンプルを得た。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、透湿シートを得た。得られた透湿シートについて、吸湿率、透湿度、耐水性、撥水性を測定/評価した。
<実施例4>
実施例1と同様にして得られた撥水性バインダー塗工前の透湿シートを20℃、相対圧0.95の水蒸気雰囲気下、24時間で調湿処理を行い、撥水剤として固形分濃度5質量%に調整したアクリルスチレン系の撥水性バインダーBを含侵塗工し、透湿シートサンプルを得た。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、透湿シートを得た。得られた透湿シートについて、吸湿率、透湿度、耐水性、撥水性を測定/評価した。
<実施例5>
実施例1と同様にして得られた撥水性バインダー塗工前の透湿シートを20℃、相対圧0.95の水蒸気雰囲気下、24時間で調湿処理を行い、撥水剤として固形分濃度5質量%に調整したアクリルスチレン系の撥水性バインダーCを噴射塗工し、透湿シートサンプルを得た。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、透湿シートを得た。得られた透湿シートについて、吸湿率、透湿度、耐水性、撥水性を測定/評価した。
<実施例6>
実施例1と同様にして得られた撥水性バインダー塗工前の透湿シートを20℃、相対圧0.95の水蒸気雰囲気下、24時間で調湿処理を行い、撥水剤として固形分濃度5質量%に調整したアクリルスチレン系の撥水性バインダーCを含侵塗工し、透湿シートサンプルを得た。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、透湿シートを得た。得られた透湿シートについて、吸湿率、透湿度、耐水性、撥水性を測定/評価した。
<実施例7>
塩化ジルコニウム5.3g(22.7mmol)と2,5-ジヒドロキシ-テレフタル酸4.5g(22.8mmol)とをN,N-ジメチルホルムアルデヒド500mlに溶解させ、120℃で24時間加熱し多孔性金属錯体を合成した。得られた多孔性金属錯体について、窒素吸着測定及び水蒸気吸着測定により物性評価を行った結果、BET比表面積は1,145m/g、25℃、相対圧0.6と25℃、相対圧0.3との飽和水分吸着率差は27質量%であった。
その後、上記合成した多孔性金属錯体を水中に24時間浸漬させた後に、ろ過し、細孔内に溶媒分子が吸着された多孔性金属錯体サンプルを得た。この多孔性金属錯体サンプルを70質量%(溶媒分子を除く)、フィブリル化していない繊維としてアラミド繊維を12質量%、フィブリル化した繊維としてアラミド繊維を7.5質量%、有機バインダーとして水中溶解温度が70℃(カタログ値)のポリビニルアルコール(PVA)繊維を10.5質量%、の比率で混合し、坪量60g/m2となる質量にて湿式抄紙装置を使い透湿シートサンプルを作製した。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、透湿シートを得た。
その後、上述作製した透湿シートを20℃、相対圧0.95の水蒸気雰囲気下、24時間で調湿処理を行い、撥水剤として固形分濃度5質量%に調整したアクリルスチレン系の撥水性バインダーAを含侵塗工し、透湿シートサンプルを得た。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、透湿シートを得た。得られた透湿シートについて、吸湿率、透湿度、耐水性、撥水性を測定/評価した。
<実施例8>
塩化ジルコニウム5.3g(22.7mmol)とテレフタル酸3.78g(22.8mmol)とをN,N-ジメチルホルムアルデヒド500mlに溶解させ、120℃で24時間加熱し多孔性金属錯体を合成した。得られた多孔性金属錯体について、窒素吸着測定及び水蒸気吸着測定により物性評価を行った結果、BET比表面積は1,283m/g、25℃、相対圧0.6と25℃、相対圧0.3との飽和水分吸着率差は33質量%であった。
その後、上記合成した多孔性金属錯体を水中に24時間浸漬させた後に、ろ過し、細孔内に溶媒分子が吸着された多孔性金属錯体サンプルを得た。この多孔性金属錯体サンプルを60質量%(溶媒分子を除く)、フィブリル化していない繊維としてアラミド繊維を16質量%、フィブリル化した繊維としてアラミド繊維を10質量%、有機バインダーとして水中溶解温度が70℃(カタログ値)のポリビニルアルコール(PVA)繊維を14質量%、の比率で混合し、坪量60g/m2となる質量にて湿式抄紙装置を使い透湿シートサンプルを作製した。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、透湿シートを得た。
その後、上述作製した透湿シートを20℃、相対圧0.95の水蒸気雰囲気下、24時間で調湿処理を行い、撥水剤として固形分濃度5質量%に調整したアクリルスチレン系の撥水性バインダーAを含侵塗工し、透湿シートサンプルを得た。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、透湿シートを得た。得られた透湿シートについて、吸湿率、透湿度、耐水性、撥水性を測定/評価した。
<比較例1>
実施例1と同様にして得られた撥水性バインダー塗工前の透湿シートをそのまま用い、吸湿率、透湿度、耐水性、撥水性を測定/評価した。
<比較例2>
実施例1と同様にして得られた撥水性バインダー塗工前の透湿シートを20℃、相対圧0.95の水蒸気雰囲気下、24時間で調湿処理を行い、撥水剤として固形分濃度5質量%に調整したポリウレタン系の撥水性バインダーDを噴射塗工し、透湿シートサンプルを得た。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、透湿シートを得た。得られた透湿シートについて、吸湿率、透湿度、耐水性、撥水性を測定/評価した。
<比較例3>
実施例1と同様にして得られた撥水性バインダー塗工前の透湿シートを20℃、相対圧0.95の水蒸気雰囲気下、24時間で調湿処理を行い、撥水剤として固形分濃度5質量%に調整したポリウレタン系の撥水性バインダーDを含侵塗工し、透湿シートサンプルを得た。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、透湿シートを得た。得られた透湿シートについて、吸湿率、透湿度、耐水性、撥水性を測定/評価した。
<比較例4>
ZrOCl・8HO200g(0.62mol)とフマル酸72g(0.62mol)とをN,N-ジメチルホルムアルデヒド2L及びギ酸700mLに溶解させ、130℃で6時間加熱し多孔性金属錯体を合成した。得られた多孔性金属錯体について、窒素吸着測定及び水蒸気吸着測定により物性評価を行った結果、BET比表面積は884m/g、25℃、相対圧0.6と25℃、相対圧0.3との飽和水分吸着率差は7質量%であった。
その後、上記合成した多孔性金属錯体を水中に24時間浸漬させた後に、ろ過し、細孔内に溶媒分子が吸着された多孔性金属錯体サンプルを得た。この多孔性金属錯体サンプルを75質量%(溶媒分子を除く)、フィブリル化していない繊維としてアラミド繊維を10質量%、フィブリル化した繊維としてアラミド繊維を6.25質量%、有機バインダーとして水中溶解温度が70℃(カタログ値)のポリビニルアルコール(PVA)繊維を8.75質量%、の比率で混合し、坪量60g/m2となる質量にて湿式抄紙装置を使い透湿シートサンプルを作製した。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、透湿シートを得た。
その後、上述作製した透湿シートを20℃、相対圧0.95の水蒸気雰囲気下、24時間で調湿処理を行い、撥水剤として固形分濃度5質量%に調整したアクリルスチレン系の撥水性バインダーAを含侵塗工し、透湿シートサンプルを得た。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、透湿シートを得た。得られた透湿シートについて、吸湿率、透湿度、耐水性、撥水性を測定/評価した。
<比較例5>
実施例1と同様に得られた多孔性金属錯体サンプルを90質量%(溶媒分子を除く)、フィブリル化していない繊維としてアラミド繊維を4質量%、フィブリル化していない繊維としてアラミド繊維を2.5質量%、有機バインダーとして水中溶解温度が70℃(カタログ値)のポリビニルアルコール(PVA)繊維を3.5質量%、の比率で混合し、坪量60g/mとなる質量にて湿式抄紙装置を使い透湿シートサンプルを作製した。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、透湿シート3を得た。得られた透湿シート3は、非常に脆く、形状安定性に乏しかったため、各種測定が不可能であった。
<参考例1>
坪量25g/mのガラス繊維紙をポリアクリル酸塩を基体とした高分子吸湿材を20質量%含んだ水分散体にディップコーティングし、130℃、真空条件下、24時間で乾燥させ、透湿シートを得た。得られた透湿シートの坪量は60g/mであった。得られた透湿シートについて、吸湿率、透湿度、耐水性、撥水性を測定した。
〔測定及び評価〕
上記実施例及び比較例で作成した各透湿シートに対して、それぞれ以下の項目につき測定し、評価を行った。
[透湿度]
透湿度は、JIS Z 0208において、20℃、65%RH条件下で、透湿面積28.3cmとして測定を実施し、24時間あたりの透湿度(g/(m・24hr))を求める。透湿シートを全熱交換器の仕切板に用いる場合、20℃×65%RH条件下における透湿度が800(g/(m・24hr))以上、好ましくは1,200(g/(m・24hr))以上、更に好ましくは1,500(g/(m・24hr))以上であることが望ましい。
[飽和水分吸着率差]
多孔性金属錯体(吸湿材)の25℃及び相対圧0.6での飽和水分吸着率は、多孔性金属錯体(水又は有機溶媒処理前)約100mgを採取し、120℃で12時間真空乾燥して秤量した後、高精度ガス・蒸気吸着量測定装置(BELSORP-max、日本ベル社製)を使用し、25℃における水蒸気の吸着量を、相対圧を0.02~0.95の範囲で徐々に高めながら40点測定し、吸着等温線を作成する。このとき、目標相対圧を0.001,0.01,0.05,0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9に設定し、さらに吸着量増減許容量を相対圧0~0.3では30cm/g、相対圧0.3~0.5では50cm/g、相対圧0.5~では30cm/gに設定し、吸着等温線を作成する。そして、相対圧0.6における多孔性金属錯体1gあたりの水分吸着量[g]から下記式1にて飽和水分吸着率[%]を求める。
飽和水分吸着率[%]=多孔性金属錯体1gあたりの水分吸着量[g]×100・・・(式1)
同様に、多孔性金属錯体の25℃及び相対圧0.3での飽和水分吸着率は、上述の吸着等温線を作成後、相対圧0.3における多孔性金属錯体1gあたりの水分吸着量[g]から上記式1にて求める。
そして、飽和水分吸着率差は、多孔性金属錯体の25℃及び相対圧0.6での飽和水分吸着率から、多孔性金属錯体の25℃及び相対圧0.3での飽和水分吸着率を減算して求める。
[飽和水分吸着率]
各透湿シートの飽和水分吸着率は、試料を約0.2g秤量し、真空乾燥機で130℃、終夜乾燥し乾燥重量を測定する(Wd(g))。次に資料を温度20℃で相対湿度65%RHに調整された恒温恒湿器に24時環放置し、吸湿した試料の重量を測定する(Ww(g))。以上の値をもとに、次式3により算出して求める。
飽和水分吸湿率(重量%)={(Ww-Wd)/Wd}×100・・・(式3)
[耐水性]
各透湿シートの耐水性は、試料を約0.2g秤量し、水に5秒間浸漬させた後に130℃、終夜真空乾燥させた後の吸湿率が、予め測定しておいた水浸漬前の試料の吸湿率に対してどの程度であるかを、百分率で表す。評価は、99%以上を〇(良)、99%未満を×(不可)とする。ここでは、水に浸水後も耐水性が低下しないことを示す試験を行う。
[撥水性]
各透湿シートの撥水性は、試料を3cm×3cmの大きさに切り出し、自動接触角計(DM-501、協和界面科学株式会社製)を使用し、0.5秒間隔で接触角の経時変化を記録し、単位時間当たりの接触角の変化率を線形近似により求めた値を用いて評価する。評価は0.5[°/秒]未満を〇(良)、0.5[°/秒]以上を×(不可)とする。
[水中溶解温度]
実施例、比較例で用いた有機バインダーについて、以下の測定方法で、水中溶解温度を実測する。
純水4mL、有機バインダー0.02gを6mlガラス瓶にいれる。50℃から5℃刻みで加熱したウォーターバスに前記ガラス瓶を10分入れる。瓶内の有機バインダーは2分毎にスパチュラを用いて撹拌し、目視でバインダーが溶解初め半透明な状態になった時の温度を測定する。
実測の結果、カタログ値と同じであった。
〔全熱交換素子〕
上記実施例及び比較例で作成した各透湿シートを用いて、それぞれ全熱交換素子を以下の要領で作製した。
片段加工は、シングルフェイサーにより行った。透湿シートを、間隔板(中芯)と仕切板(ライナー)とに分け、段ロールにより段付けした中芯の段頂に接着剤を塗布し、次いで、ライナーにプレスロールにより熱圧着することで片段加工を行い、段高さ1.2mm、段ピッチ2.4mm、表面積4,000m/mの片段シートを得た。実施例1の透湿シートを用いて実施例1の片段シートを得た。同様に、実施例2~8及び比較例1~4の透湿シートを用いてそれぞれ、実施例2~8及び比較例1~4の片段シートを得た。
上記片段シートを、段目方向が一段ずつ交差するように積層し、縦700mm、横700mm、高さ1,260mmの全熱交換素子を作製した。実施例1の片段シートから実施例1の全熱交換素子を得た。同様に、実施例2~8及び比較例1~4の片段シートから、それぞれ実施例2~8及び比較例1~4の全熱交換素子を得た。
上記得られた各実施例及び各比較例の全熱交換素子を、それぞれ、図1に示す全熱交換器1に設置した。冬場想定の処理空気として、温度0℃、絶対湿度1.9g/kg〔DA〕の空気(OA)を40m/hの送風量で開口部21に導入した。開口部21を通過した全熱交換後の給気(SA)を室内に供給した。また、室内還気として、温度20℃、絶対湿度7.3g/kg〔DA〕の空気(RA)を41m/hの送風量で開口部23に導入した。得られた各絶対湿度のデータから、下記の式4を用いて算出することができる湿度交換効率により評価した。湿度交換効率が70%未満を×(不可)、70%以上を〇(良)で表記した。
湿度交換効率(%)={給気(SA)の絶対湿度[g/kg〔DA〕]-外気(OA)の絶対湿度[g/kg〔DA〕]}/{還気(RA)の絶対湿度[g/kg〔DA〕]-外気(OA)の絶対湿度[g/kg〔DA〕]}×100・・・(式4)
表1に上記測定及び評価の結果を示す。
Figure 2022112940000003
表1に示す通り、実施例1~8では、耐水性、撥水性、および湿度交換効率の全ての評価が〇であったが、比較例1~4、及び参考例1の場合、耐水性、撥水性、および湿度交換効率のいずれかが×であった。
本発明の透湿シートは、透湿性能が高く、耐水性、撥水性に優れるものであり、それを用いた本発明の全熱交換素子及び全熱交換器は、透湿性能に優れ、高相対湿度域あるいは結露環境下でも安定した運転が可能となり、簡単に水洗が可能となる。よって、産業界に大きく寄与することが期待できる。
1,1A,1B・・・全熱交換器
2、2B・・・全熱交換素子
3・・・透湿シート
3A・・仕切板
3B・・間隔板
3C・・片段シート
4・・・筐体
7・・・フィルター
8・・・送風ファン
20・・空間
21・・開口部
22・・非開口部
23・・開口部
24・・非開口部
30・・山部
31・・谷部
40・・フレーム
41・・隔壁
50・・第1の給気口
51・・第2の給気口
60・・第1の排気口
61・・第2の排気口
90・・駆動用モーター
91・・駆動用ベルト
100・・冷却器(ヒートポンプの場合は蒸発器)
110・・加熱器(ヒートポンプの場合は凝縮器)
120・・圧縮機
130・・膨張弁
140・・デシカント空調機

Claims (13)

  1. 二つの気流間で顕熱及び/又は潜熱を交換する全熱交換素子に用いられる透湿シートであり、金属および有機配位子を有する多孔性金属錯体と撥水剤とを含有し、前記多孔性金属錯体は、25℃、相対圧0.6と25℃、相対圧0.3との飽和水分吸着率差が20質量%以上であることを特徴とする透湿シート。
  2. フィブリル化していない繊維およびフィブリル化した繊維を含むことを特徴とする請求項1に記載の透湿シート。
  3. 水中溶解温度が65℃~100℃の有機バインダーを含むこと特徴とする請求項1または2に記載の透湿シート。
  4. 前記多孔性金属錯体の中心金属は、Pb、Hg、As、Cd、Cr、Ni以外の金属イオンであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の透湿シート。
  5. 前記多孔性金属錯体は、チタンイオンとテレフタル酸、鉄イオンとトリメシン酸、またはジルコニウムイオンとテレフタル酸、を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の透湿シート。
  6. 前記多孔性金属錯体を40質量%以上含有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の透湿シート。
  7. 前記撥水剤が、スチレンとアクリルに由来する構造体を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の透湿シート。
  8. 前記撥水剤は、次の化学式に示されるアルキル鎖を有することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の透湿シート。
    Figure 2022112940000004
  9. 前記撥水剤を2質量%以上10重量%以下含有することを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の透湿シート。
  10. 請求項1~9のいずれか1項に記載の透湿シートを仕切板として備え、当該仕切板を隔てて温度及び/又は湿度の異なる二つの気流を流通させ、当該仕切板を介して当該二つの気流の顕熱及び/又は潜熱を交換させる全熱交換素子。
  11. 請求項10に記載の全熱交換素子と当該全熱交換素子を格納するする筐体とを備えたことを特徴とする全熱交換器。
  12. 請求項11に記載の全熱交換器とヒートポンプとを備えたことを特徴とする空調システム。
  13. 請求項11に記載の全熱交換器とデシカント空調機とを備えたことを特徴とする空調システム。
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