JP2022110924A - 潤滑油組成物、及び該潤滑油組成物を用いた動力伝達装置 - Google Patents

潤滑油組成物、及び該潤滑油組成物を用いた動力伝達装置 Download PDF

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Takeshi Iwasaki
賢一 緒方
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Abstract

【課題】高トラクション係数と優れた低温流動性とをより高い次元で両立するとともに、高引火点を有する潤滑油組成物、及びこれを用いた動力伝達装置を提供する。【解決手段】基油として少なくとも2種のエステル化合物を含み、前記エステル化合物の基油全量基準の含有量が80質量%以上であり、140℃におけるトラクション係数が0.045以上であり、かつ-40℃におけるブルックフィールド粘度α(mPa・s)と引火点β(℃)とが特定の関係を満足する潤滑油組成物、及びこれを用いた動力伝達装置である。【選択図】なし

Description

本発明は、潤滑油組成物、及び該潤滑油組成物を用いた動力伝達装置に関する。
近年、動力伝達装置として、無段変速機が着目され、汎用されるようになっている。無段変速機は、入力回転数と出力回転数との比を連続的に変化させることができる動力伝達装置であり、例えば金属ベルト等の各種要素を用いて動力を伝達するフリクションドライブ方式の無段変速機、各種要素を用いないトラクションドライブ方式の無段変速機等の種々のタイプの無段変速機が知られている。これら二種の無段変速機を対比すると、一般にトラクションドライブ方式の無段変速機は高い回転数に適用可能、小型であるにもかかわらず大容量の動力伝達が可能であるという特長があり、自動車用変速機や航空機用ジェネレータとして実用化されてきた。
また、無段変速だけでなく、例えば遊星ローラにトラクションドライブの原理を応用した動力伝達装置(増/減速機)が産業用機械用として実用に供されており、最近では自動車分野での実用化が検討されている。
トラクションドライブ方式の変速機に用いられる潤滑油組成物には、大きいトルク伝達容量を確保する観点から高温条件下(例えば、140℃程度)における高トラクション係数が求められる。一方、例えば寒冷地、また低温条件時(例えば、-40℃程度)における低温流動性を確保するために、低温条件下でも粘度が低いという低温流動性が求められる。しかし、これらの性能は相反する性能であるため、その両立は難しい。これらの性能を有する潤滑油組成物として、橋かけ二環及びシクロヘキサン環を有するエステル化合物を含有するトラクションドライブ用流体組成物等が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。
特開2004-10502号公報 特開2009-203385号公報
ところで近年、特に自動車分野、航空機分野では、トラクション係数、低温流動性への要求に加えて、万が一にも火災が生じることはあってはならないことを考慮し、取扱安全性の観点から、高い引火点も求められるようになっており、上記の特許文献に記載される潤滑油組成物では対応できない場合が増加している。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高トラクション係数と優れた低温流動性とをより高い次元で両立するとともに、高引火点を有する潤滑油組成物、及びこれを用いた動力伝達装置を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討の結果、下記の発明により上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は、下記の構成を有する潤滑油組成物、及びこれを用いた動力伝達装置を提供するものである。
1.基油として少なくとも2種のエステル化合物を含み、前記エステル化合物の基油全量基準の含有量が80質量%以上であり、140℃におけるトラクション係数が0.045以上であり、かつ-40℃におけるブルックフィールド粘度α(mPa・s)と引火点β(℃)とが下記数式(1)を満足する潤滑油組成物。
β≧0.0002×α+160 (1)
2.上記1に記載の潤滑油組成物を用いた動力伝達装置。
本発明によれば、高トラクション係数と優れた低温流動性とをより高い次元で両立するとともに、高引火点を有する潤滑油組成物、及びこれを用いた動力伝達装置を提供することができる。
以下、本発明の実施形態(以後、単に「本実施形態」と称する場合がある。)について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されることはなく、発明の効果を阻害しない範囲において任意に変更して実施し得るものである。
また、本明細書中において、数値範囲の記載に関する「以上」、「以下」及び「~」に係る数値は任意に組み合わせできる数値である。例えば、とある数値範囲について「A~B」及び「C~D」と記載されている場合、「A~D」、「C~B」といった数値範囲も含まれる。
[潤滑油組成物]
本実施形態の潤滑油組成物は、基油として少なくとも2種のエステル化合物を含み、前記エステル化合物の基油全量基準の含有量が80質量%以上であり、140℃におけるトラクション係数(以下、単に「トラクション係数」と称することがある。)が0.045以上であり、かつ-40℃におけるブルックフィールド粘度α(mPa・s)と引火点β(℃)とが下記数式(1)を満足することを特徴とするものである。
β≧0.0002×α+160 (1)
基油として少なくとも2種のエステル化合物を基油全量基準で80質量%以上の含有量で含むものを採用しないと、高トラクション係数と優れた低温流動性と高引火点とを同時に満足することはできず、とりわけ高引火点を達成することができなくなる。上記数式(1)で用いられる-40℃におけるブルックフィールド粘度(以下、単に「ブルックフィールド」と称することがある。)は低温流動性の指標となる粘度であり、ブルックフィールド粘度が小さいほど低温流動性に富むことを示す。よって、高トラクション係数と優れた低温流動性と高引火点とを同時に満足するということは、高いトラクション係数と、低いブルックフィールド粘度と高い引火点とを同時に満足することを意味する。
基油として1種のエステル化合物を採用した場合、トラクション係数、ブルックフィールド粘度及び引火点は、当該1種のエステル化合物の性状そのものに近い性状を有するものとなる。そのため、これらの性状を満足する1種のエステル化合物があれば、当該エステル化合物を採用すれば足りるともいえる。しかし、そのようなエステル化合物はほとんど存在せず、また存在したとしても限られており、潤滑油組成物の安定的な供給を行いにくく、また汎用性に欠ける場合があり、現実的とはいえない。本実施形態の潤滑油組成物では、基油として少なくとも2種のエステル化合物を所定の含有量で採用することにより、トラクション係数、ブルックフィールド粘度及び引火点を同時に満足するものとなり、加えて安定的な供給が行いやすく、かつ汎用性に富むものとしやすくなる。
(数式(1)及び性状)
本実施形態の潤滑油組成物は、-40℃におけるブルックフィールド粘度α(mPa・s)と引火点β(℃)とによる以下の数式(1)を満足するものである。
β≧0.0002×α+160 (1)
本数式は、本実施形態の潤滑油組成物は160℃以上の引火点を有するものであることを示すものであり、上記数式を満足しないことは潤滑油組成物の引火点が160℃未満となることを意味するため、高引火点の潤滑油組成物は得られなくなる。よって、取扱安全性の観点から引火点βは高ければ高いほど好ましい。
エステル化合物等の基油は、一般的な性状として、引火点とブルックフィールド粘度とは相関関係を有しており、ブルックフィールド粘度が大きくなるほど引火点が高くなる傾向にある。上記数式(1)は、ブルックフィールド粘度αが大きくなると、引火点βは高いものを採用する必要があることも意味しているといえ、当該一般的な性状に即した事象を規定したものといえる。他方、上記数式(1)は、ブルックフィールド粘度の向上により一般的に高まる傾向を有する引火点の下限が一定以上となるように制限をかけており、本実施形態の潤滑油組成物を、ブルックフィールド粘度により指標される低温流動性に対して相対的に高い引火点にしようとするものである。その結果、本実施形態の潤滑油組成物は、高トラクション係数と優れた低温流動性と高引火点とを高いレベルで達成するものとなっている。
本実施形態の潤滑油組成物の引火点は、上記数式(1)を満足すれば特に制限はなく、すなわちブルックスフィールド粘度αに応じた下限値以上の引火点となっていれば、特に制限はない。ブルックスフィールド粘度に対し、相対的に高引火点とし、高トラクション係数と優れた低温流動性と高引火点とをより高いレベルで達成する観点から、潤滑油組成物の引火点は、上記数式(1)の右辺の計算値に対して、好ましくは0.5℃以上、より好ましくは1.5℃以上、更に好ましは2.5℃以上、より更に好ましくは3.0℃以上、特に好ましくは3.5℃以上である。また、上限としては当該計算値に対して高ければ高いほど好ましく、特に制限はないが、通常30.0℃以下程度である。
また、本実施形態の潤滑油組成物のより具体的な引火点としては、上記数式(1)を満足する、すなわち160℃以上であれば高引火点であるといえ、取扱安全性の向上の観点から、好ましくは160.5℃以上、より好ましくは161.0℃以上、更に好ましくは162.5℃以上、より更に好ましくは165.0℃以上である。本明細書において、引火点は、JIS K2265-4:2007に準拠し、クリーブランド開放法により測定されるものである。
本実施形態の潤滑油組成物のブルックフィールド粘度は、低温流動性の観点から、より小さいことが好ましく、好ましくは250,000(mPa・s)以下、より好ましくは225,000(mPa・s)以下、更に好ましくは200,000(mPa・s)以下、より更に好ましくは175,000(mPa・s)以下、特に好ましくは155,000(mPa・s)以下である。また、下限については特に制限はないが、引火点を向上させ、また潤滑性能の確保の観点から、好ましくは2,500(mPa・s)以上、より好ましくは6,000(mPa・s)以上、更に好ましくは8,000(mPa・s)以上、より更に好ましくは9,500(mPa・s)以上、特に好ましくは11,000(mPa・s)以上である。既述の通り、具体例を挙げるまでもなく、本実施形態においては、これらの数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。本明細書において、-40℃のブルックフィールド粘度(BF粘度)は、ASTM D2983-09に準拠して測定されるものである。
本実施形態の潤滑油組成物の140℃におけるトラクション係数は、0.045以上である。トラクション係数が0.045以上でないと、大きいトルク伝達容量を確保することができず、動力伝達装置に使用しても十分な性能が得られない。同様の観点から、本実施形態の潤滑油組成物のトラクション係数は大きいほど優れた潤滑油組成物であるといえ、好ましく0.046以上、より好ましくは0.047以上、更に好ましくは0.048以上、より更に好ましくは0.049以上、特に好ましくは0.050以上である。本明細書において、140℃におけるトラクション係数は、トラクション係数計測器(製品名:MTM2(Mini Traction Machine2、PCS Instruments社製)を用いて測定した値である。ここで、140℃におけるトラクション係数の測定条件は以下の通りである。まず、油タンクをヒーターで加熱することにより、油温を140℃とし、荷重70N、平均転がり速度3.8m/s、すべり率5%におけるトラクション係数を測定した。
(基油)
本実施形態の潤滑油組成物に含まれる基油は、少なくとも2種のエステル化合物を含み、前記エステル化合物の基油全量基準の含有量が80質量%以上である、というものである。既述のように、少なくとも2種のエステル化合物を含むことで、高トラクション係数と優れた低温流動性と高引火点とを同時に満足することが可能となる。
また、高トラクション係数と優れた低温流動性と高引火点とをより高いレベルで達成する観点から、エステル化合物の基油全量基準の含有量は、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、より更に好ましくは98質量%以上、特に好ましくは100質量%、すなわち基油がエステル化合物のみからなることが好ましい。
(エステル化合物)
本実施形態において基油として用いられるエステル化合物としては、環状構造を有する環状エステル化合物が好ましく挙げられる。環状構造を有する環状エステル化合物を用いることで、高トラクション係数と優れた低温流動性と高引火点とを、より高いレベルで達成しやすくなる。
環状エステル化合物としては、高トラクション係数と優れた低温流動性と高引火点とを、より高いレベルで達成しやすくする観点から、環状モノエステル化合物、環状ジエステル化合物が好ましく挙げられ、エステル化合物は、環状モノエステル化合物と、環状ジエステル化合物とを含むことが好ましい。これらの環状エステル化合物は、入手しやすく、安定的な供給が行いやすく、かつ汎用性に富むという副次的な効果も得られる。
環状モノエステル化合物と環状ジエステル化合物とを併用する場合、これらの合計量に対する環状モノエステル化合物の含有量は、所望の性状に応じて適宜調整すればよく特に制限はないが、高トラクション係数と優れた低温流動性と高引火点とを、より高いレベルで達成しやすくする観点から、目安として、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、上限として好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である。既述の通り、具体例を挙げるまでもなく、本実施形態においては、これらの数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
(環状モノエステル化合物)
環状モノエステル化合物は、環状構造を有し、かつエステル結合を1つ有する化合物であり、このような構造を有するものであれば特に制限なく採用することが可能である。
環状モノエステル化合物が有する性状としては、高トラクション係数と優れた低温流動性と高引火点とを、より高いレベルで達成しやすくする観点から、以下の性状を有するものが好ましい。
環状モノエステル化合物のトラクション係数は、好ましくは0.040以上、より好ましくは0.045以上、更に好ましくは0.050以上であり、上限としては特に制限はないが、入手のしやすさ等を考慮すると、好ましくは0.065以下、より好ましくは0.060以下、更に好ましくは0.055以下である。既述の通り、具体例を挙げるまでもなく、本実施形態においては、これらの数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
環状モノエステル化合物の-40℃におけるブルックフィールド粘度は、低温流動性の観点から、より小さいことが好ましく、好ましくは100,000(mPa・s)以下、より好ましくは75,000(mPa・s)以下、更に好ましくは50,000(mPa・s)以下、より更に好ましくは20,000(mPa・s)以下、特に好ましくは10,000(mPa・s)以下であり、下限としては特に制限はないが、入手のしやすさ等を考慮すると、好ましくは1,000(mPa・s)以上、より好ましくは3,000(mPa・s)以上、更に好ましくは5,000(mPa・s)以上である。既述の通り、具体例を挙げるまでもなく、本実施形態においては、これらの数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
また、環状モノエステルの引火点は、好ましくは140℃以上、より好ましくは145℃以上、更に好ましくは150℃以上であり、上限としては特に制限はないが、入手のしやすさ等を考慮すると、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下、更に好ましくは160℃以下である。既述の通り、具体例を挙げるまでもなく、本実施形態においては、これらの数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
環状モノエステルは、上記性状のうち少なくとも1以上の性状を有するものであることが好ましく、特に上記の全ての性状、すなわちトラクション係数、ブルックフィールド粘度及び引火点を有するものであることが好ましい。
上記の性状を有する環状モノエステル化合物としては、高トラクション係数と優れた低温流動性と高引火点とを、より高いレベルで達成しやすくする観点から、例えば、少なくとも以下(i)及び(ii)を有するモノエステル化合物が好ましく挙げられる。
(i)二つの環が3つ以上の炭素原子を共有して結合する橋かけ二環、及び
(ii)炭素数4以上の主鎖を有する分岐状炭化水素基を含むアシルオキシ基又はヒドロカルビルオキシカルボニル基
上記(i)及び(ii)を有するモノエステル化合物としては、具体的には以下一般式(1)又は(2)で表されるものが好ましく挙げられる。以下一般式(1)で表される環状モノエステル化合物が上記アシルオキシ基を有するものであり、一般式(2)で表される環状モノエステル化合物が上記ヒドロカルビルオキシカルボニル基を有するものである。
Figure 2022110924000001
一般式(1)及び(2)中、R11及びR21はそれぞれ独立に二つの環が3つ以上の炭素原子を共有して結合する橋かけ二環を示し、A11及びA21はそれぞれ独立に単結合又は炭化水素基を示し、R12及びR22はそれぞれ独立に炭素数4以上の主鎖を有する分岐状炭化水素基を示し、X11及びX21はそれぞれ独立に炭化水素基を示し、p11及びp21はそれぞれ独立に0以上8以下の整数を示す。
11及びR21の二つの環が3つ以上の炭素原子を共有して結合する橋かけ二環としては、ビシクロヘプタン環、ビシクロオクタン環が好ましく挙げられ、ビシクロヘプタン環としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン環が好ましく挙げられ、ビシクロオクタン環としては、例えば、ビシクロ[3.2.1]オクタン環、ビシクロ[2.2.2]オクタン環が好ましく挙げられる。中でも、特に高いトラクション係数を得る観点から、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン環が好ましい。
12及びR22の炭素数4以上の主鎖を有する分岐状炭化水素基としては、特に低温流動性を向上させる観点から、例えばアルキル基、アルケニル基等の1価の炭化水素基が好ましく挙げられる。これらの1価の炭化水素基の中でも、特に低温流動性を向上させる観点から、アルキル基が好ましい。これらの1価の炭化水素基は、分岐状であり、ハロゲン原子、水酸基等の置換基を有していてもよい。
12及びR22の分岐状炭化水素基の主鎖の炭素数は、特に引火点を向上させる観点から、好ましくは5以上であり、上限として好ましくは14以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは8以下、特に好ましくは6以下である。
12及びR22の分岐状炭化水素基の全体の炭素数は5以上であり、特に引火点を向上させる観点から、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、更に好ましくは8以上であり、上限として好ましくは16以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは9以下である。
なお、既述の通り、具体例を挙げるまでもなく、本実施形態においては、これらの炭素数の数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
12及びR22の分岐状炭化水素基は、特にトラクション係数を向上させる観点から、少なくとも二つの分岐鎖を有するものであることが好ましい。R12及びR22の分岐状炭化水素基の有する分岐鎖の数としては、好ましくは2以上、より好ましくは3以上である。上限としては、優れた低温流動性とをより高い次元で両立させることを考慮すると、好ましくは6以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは4以下である。高トラクション係数と優れた低温流動性とをより高い次元で両立させ、かつ引火点を向上させる観点から、R12及びR22の分岐状炭化水素基の有する分岐鎖の数は、特に3であることが好ましい。
また、R12及びR22の分岐状炭化水素基は、特にトラクション係数を向上させる観点から、その末端にtert-ブチル基を有することが好ましい。
上記のようなR12及びR22の分岐状炭化水素基の典型的な例としては、3,3-ジメチルブチル基、4,4-ジメチルペンチル基、5,5-ジメチルヘキシル基、2,4,4-トリメチルペンチル基、3,5,5-トリメチルへキシル基、2,2,4,4,6-ペンタメチルヘプチル基、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプチル基、3,5,5,7,7-ペンタメチルオクチル基等が好ましく挙げられ、中でも2,4,4-トリメチルペンチル基、3,5,5-トリメチルへキシル基が好ましく、2,4,4-トリメチルペンチル基がより好ましい。なお、これらの分岐状炭化水素基はあくまで典型的なものを例示するものであり、環状モノエステル化合物が、上記例示の炭化水素基の異性体をR12及びR22として有するものであってもよいことは、いうまでもない。
11及びX21はそれぞれ独立に炭化水素基を示し、上記R11及びR21の橋かけ二環の置換基ともいえる。X11及びX21の炭化水素基としては、例えばアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基等の1価の炭化水素基が挙げられる。特にトラクション係数及び引火点を向上させる観点から、これらの1価の炭化水素基の中でも、アルキル基、アルケニル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。また、これらの1価の炭化水素基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、ハロゲン原子、水酸基、1価の炭化水素基がシクロアルキル基、アリール基の場合は更にアルキル基等の置換基を有していてもよい。
1価の炭化水素基の炭素数としては、特に引火点を向上させる観点から、1価の炭化水素基がアルキル基の場合、好ましくは1以上であり、上限として好ましくは12以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは4以下であり、特に好ましくは2以下であり、1価の炭化水素がアルケニル基の場合、2以上であり、好ましくは3以上、上限として好ましくは12以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは4以下である。また、上記の中でも、高トラクション係数と優れた低温流動性とをより高い次元で両立させ、かつ引火点を向上させる観点から、1価の炭化水素基としては、炭素数1以上12以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上8以下のアルキル基がより好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基が更に好ましく、炭素数1以上2以下のアルキル基がより更に好ましく、特に炭素数1のアルキル基、すなわちメチル基が好ましい。
11及びp21はそれぞれ独立に0以上8以下の整数である。環状モノエステル化合物が一般式(1)で表されるものである場合、特にトラクション係数及び引火点を向上させる観点から、橋かけ二環は少なくとも一つの置換基を有することが好ましい、すなわち、p11は1以上であることが好ましい。また、これと同様の観点から、p11は、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上であり、上限として好ましくは6以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは4以下である。高トラクション係数と優れた低温流動性とをより高い次元で両立させ、かつ引火点を向上させる観点から、p11は3であることが特に好ましい。
また、環状モノエステル化合物が一般式(2)で表されるものである場合、特にトラクション係数及び引火点を向上させる観点から、橋かけ二環は少なくとも一つの置換基を有することが好ましい、すなわち、p21は、1以上であることが好ましい。また、これと同様の観点から、p21の上限として好ましくは6以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは2以下である。高トラクション係数と優れた低温流動性とをより高い次元で両立させ、かつ引火点を向上させる観点から、p21は特に1であることが好ましい。
11及びA21はそれぞれ独立に単結合又は炭化水素基を示し、高トラクション係数と優れた低温流動性とをより高い次元で両立させる観点から、単結合であることが好ましい。
また、A11、A21が炭化水素基である場合、A11、A21の炭化水素基としては、上記X11及びX21の1価の炭化水素基より一つの水素原子を除去して2価となった、2価の炭化水素基が挙げられ、高トラクション係数と優れた低温流動性とをより高い次元で両立させる観点から、好ましくはアルキレン基、アルケニレン基、より好ましくはアルキレン基である。また、これと同様の観点から、A11、A21の2価の炭化水素基の炭素数は、1以上であり、上限として好ましくは12以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは4以下である。
一般式(1)で表される環状モノエステル化合物の中でも、R11がビシクロ[2.2.1]ヘプタン環であり、R12が炭素数4以上の主鎖を有し、全炭素数が6以上12以下であり、かつ末端にtert-ブチル基を有する分岐状アルキル基であり、A11が単結合である環状モノエステル化合物が好ましく、更にX11がメチル基又はエチル基であり、p11が1以上3以下の整数である含環化合物がより好ましい。
また、一般式(2)で表される環状モノエステル化合物の中でも、R21がビシクロ[2.2.1]ヘプタン環であり、R22が炭素数4以上の主鎖を有し、全炭素数が6以上12以下であり、かつ末端にtert-ブチル基を有する分岐状アルキル基であり、A21が単結合又は炭素数1以上4以下のアルキレン基である環状モノエステル化合物が好ましく、更にX21がメチル基又はエチル基であり、p11が0以上1以下の整数である環状モノエステル化合物がより好ましい。
上記環状モノエステル化合物は、その構造の特性上、立体異性体を有しうるものであり、本実施形態においては互いに立体異性体である複数の環状モノエステル化合物を含んでいてもよい。一般式(1)で表される環状モノエステル化合物の立体異性体を例にとって説明する。一般式(1)で表される環状モノエステル化合物には、主に以下の一般式(1-1)及び(1-2)で表されるような、橋かけ二環における共有結合鎖を含まない環(該一般式におけるシクロヘキサン環部分)に対する、二つの環が共有する炭素原子による橋(共有結合鎖)及びアシルオキシ基の三次元的配置が同じであるもの(下記一般式(1-1)参照、いずれもβ-配置であり、またexo付加体ともいえる。)、二つの環が共有する炭素原子による橋(共有結合鎖)及びアシルオキシ基の三次元的配置が異なるもの(下記一般式(1-2)参照、共有結合鎖がα-配置、アシルオキシ基がβ-配置であり、またendo付加体ともいえる。)の、二種の立体異性体が存在する。これら二種の立体異性体の性能、すなわちトラクション係数、低温流動性及び引火点は同等であることから、本実施形態においては、基油としていずれの環状モノエステル化合物を用いてもよく、またこれらの混合物、すなわち複数種の環状モノエステル化合物の混合物を用いてもよい。
Figure 2022110924000002
本実施形態の基油で用いられる上記環状モノエステル化合物の製造方法は特に限定されず、従来の方法により製造することができる。例えば、上記環状モノエステル化合物をα-OC(=O)-βとした場合、α及びβに相当する部分に誘導される化合物である、αに対応する原料とβに対応する原料との、脱水縮合法、酸塩化物法によるエステル化反応により製造することができる。
脱水縮合法は、原料化合物としてαに対応するアルコールと、βに対応するカルボン酸とを、必要に応じて溶媒を加え、p-トルエンスルホン酸、塩酸、硫酸、オルトチタン酸テトラアルキル、三フッ化ホウ素(エーテル付加体等も含む)等の酸触媒の存在下、80~150℃程度に加熱し撹拌して、エステル化反応を進行させる。反応終了後、反応生成物を中和、水洗等の処理を行い、溶媒を除去し、蒸留等により精製することにより、環状モノエステル化合物が得られる。
酸塩化物法は、原料化合物としてαに対応するアルコールと、βに対応するカルボン酸とを、必要に応じて溶媒を加え、トリエチルアミン、ピリジン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、カリウムtert-ブトキシド等の塩基の存在下、0℃以下の温度条件でβに対応する酸塩化物を滴下して反応を行う。反応終了後、反応生成物をろ過、中和、水洗等の処理を行い、溶媒を除去し、蒸留等により精製することにより、環状モノエステル化合物が得られる。
また、上記環状モノエステル化合物のように、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン環等の橋かけ二環を有するエステル化合物は、上記の脱水縮合法、酸塩化物法による合成が可能であるが、αに対応するカンフェンを出発材料とし、酸触媒の存在下で生じる転移反応を利用して合成する転移反応法が簡便であり有効である。転移反応法は、αに対応するカンフェン、及びβに対応するカルボン酸を、上記酸触媒の存在下、0~160℃程度の温度条件下で撹拌して反応を進行させる。反応終了後、反応生成物をろ過、中和、水洗等の処理を行い、溶媒を除去し、蒸留等により精製することにより、含環化合物が得られる。なお、酸触媒の使用量は、カンフェンに対して0.1~10質量%程度である。
(環状ジエステル化合物)
環状ジエステル化合物は、環状構造を有し、かつエステル結合を2つ有する化合物であり、このような構造を有するものであれば特に制限なく採用することが可能である。
環状ジエステル化合物が有する性状としては、高トラクション係数と優れた低温流動性と高引火点とを、より高いレベルで達成しやすくする観点から、以下の性状を有するものが好ましい。
環状ジエステル化合物のトラクション係数は、好ましくは0.040以上、より好ましくは0.045以上、更に好ましくは0.050以上であり、上限としては特に制限はないが、入手のしやすさ等を考慮すると、好ましくは0.065以下、より好ましくは0.060以下、更に好ましくは0.055以下である。既述の通り、具体例を挙げるまでもなく、本実施形態においては、これらの数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
環状ジエステル化合物の-40℃におけるブルックフィールド粘度は、低温流動性の観点から、より小さいことが好ましく、好ましくは500,000(mPa・s)以下、より好ましくは450,000(mPa・s)以下、更に好ましくは425,000(mPa・s)以下、より更に好ましくは400,000(mPa・s)以下、特に好ましくは390,000(mPa・s)以下であり、下限としては特に制限はないが、入手のしやすさ等を考慮すると、好ましくは100,000(mPa・s)超、より好ましくは110,000(mPa・s)以上、更に好ましくは200,000(mPa・s)以上である。既述の通り、具体例を挙げるまでもなく、本実施形態においては、これらの数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
また、環状ジエステルの引火点は、好ましくは180℃超、より好ましくは181℃以上、更に好ましくは185℃以上、より更に好ましくは190℃以上であり、上限としては特に制限はないが、入手のしやすさ等を考慮すると、好ましくは240℃以下、より好ましくは230℃以下である。既述の通り、具体例を挙げるまでもなく、本実施形態においては、これらの数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
環状ジエステルは、上記性状のうち少なくとも1以上の性状を有するものであることが好ましく、特に上記の全ての性状、すなわちトラクション係数、ブルックフィールド粘度及び引火点を有するものであることが好ましい。
上記の性状を有する環状ジエステル化合物としては、高トラクション係数と優れた低温流動性と高引火点とを、より高いレベルで達成しやすくする観点から、例えば、以下一般式(3)で表されるものが好ましく挙げられる。
Figure 2022110924000003
一般式(3)中、R31及びR32はそれぞれ独立に炭素数3~20の炭化水素基を示し、A31及びA32はそれぞれ独立に単結合又は炭化水素基を示し、Z31は炭素数3~12のシクロアルキレン基を示し、p31及びp32はそれぞれ独立に0又は1の整数である。
31及びR32の炭化水素基としては、上記X11及びX21の炭化水素基として例示したもの、すなわち例えばアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基等の1価の炭化水素基が挙げられる。特にトラクション係数及び引火点を向上させる観点から、これらの1価の炭化水素基の中でも、アルキル基、アルケニル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。また、これらの1価の炭化水素基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよいが、トラクション係数及び引火点を向上させる観点から、分岐状の炭化水素基が好ましい。分岐状炭化水素基としては、少なくとも二つの分岐鎖を有する分岐状炭化水素基が好ましく、少なくとも二つの分岐鎖を有する分岐状アルキル基がより好ましい。
また、R31及びR32は、少なくとも一方が分岐状炭化水素基であることが好ましく、いずれもが分岐状炭化水素基であることが好ましい。
1価の炭化水素基の炭素数としては、炭化水素基がアルキル基の場合、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上、より更に好ましくは5以上であり、上限として好ましくは16以下、より好ましくは14以下、更に好ましくは12以下、より更に好ましくは10以下であり、また1価の炭化水素がアルケニル基の場合、2以上であり、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは6以上であり、上限として好ましくは16以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは10以下である。
1価の炭化水素基は、特にトラクション係数を向上させる観点から、少なくとも2つの分岐鎖を有する炭化水素基であることが好ましく、その末端にtert-ブチル基を有する分岐状炭化水素基であることがより好ましい。中でも、少なくとも2つの分岐鎖を有する分岐状アルキル基であることが好ましく、その末端にtert-ブチル基を有する分岐状アルキル基であることがより好ましい。これらの中でも、より具体的には、末端にtert-ブチル基を有する炭素数3~16の分岐状のアルキル基が好ましく、末端にtert-ブチル基を有する炭素数5~12の分岐状のアルキル基がより好ましく、末端にtert-ブチル基を有する炭素数6~10の分岐状のアルキル基が更に好ましい。なお、炭素数の範囲の「3~16」等については、あくまで一例を示すものであり、既述のように上記炭素数の下限値及び上限値から任意に選択して設定し得るものである。
また、これと同様の観点から、1価の炭化水素基としては、その末端にtert-ブチル基を有し、かつ他に少なくとも1箇所に分岐を有する炭化水素基が好ましく、その末端にtert-ブチル基を有し、かつ他に少なくとも1箇所に分岐を有するアルキル基がより好ましい。このような炭化水素基としては、例えばR12及びR22の分岐状炭化水素基の典型的な例として挙げたもの、例えば2,4,4-トリメチルペンチル基、3,5,5-トリメチルへキシル基、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプチル基、3,3,5,7,7-ペンタメチルオクチル等が挙げられる。
上記1価の炭化水素基は、ハロゲン原子、水酸基、1価の炭化水素基がシクロアルキル基、アリール基の場合は更にアルキル基等の置換基を有していてもよい。
また、R31及びR32は同じであっても異なっていてもよいが、入手の容易性を考慮すると、同じであることが好ましい。
31及びA32はそれぞれ独立に単結合又は炭化水素基を示す。A31及びA32としては、単結合であることが好ましい。
31及びA32が炭化水素基である場合、炭化水素基としては2価の炭化水素基を制限なく採用することが可能であり、具体的には、上記A11及びA21の炭化水素基として例示したもの、すなわち上記X11及びX21の1価の炭化水素基より一つの水素原子を除去して2価となった、2価の炭化水素基が好ましく挙げられ、より好ましくはアルキレン基、アルケニレン基であり、更に好ましくはアルキレン基である。
31、A32の2価の炭化水素基の炭素数は、1以上であり、上限として好ましくは12以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは4以下である。
31は炭素数3~12のシクロアルキレン基を示し、炭素数は好ましくは4以上、より好ましくは5以上であり、上限として好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは7以下である。シクロアルキレン基は、ハロゲン原子、水酸基、アルキル基等で置換されていてもよい。これらの中でも、より具体的には、炭素数4~10のシクロアルキレン基が好ましく、炭素数4~8のシクロアルキレン基がより好ましい。なお、炭素数の範囲の「3~12」、「4~10」等については、あくまで一例を示すものであり、既述のように上記炭素数の下限値及び上限値から任意に選択して設定し得るものである。
31の炭素数3~12のシクロアルキレン基は、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロウンデシレン基、シクロドデシレン基であり、これらのシクロアルキレン基においてA11及びA21の連結する炭素原子はいずれであってもよく、好ましくはオルト位置、メタ位置、より好ましくはオルト位置に連結していることが好ましい。例えば、Z31のシクロアルキレン基がシクロへキシレン基である場合、1,2-シクロへキシレン基、1,3-シクロへキシレン基、1,4-シクロへキシレン基があるが、中でも1,2-シクロへキシレン基、1,3-シクロへキシレン基が好ましく、1,2-シクロへキシレン基がより好ましい。
環状ジエステル化合物は、市販品を用いることも可能であるし、また調製して用いることも可能である。調製して用いる場合、環状ジエステル化合物の製造方法は特に限定されず、従来の方法により製造することができる。例えば、上記環状モノエステル化合物と同様に、脱水縮合法、酸塩化物法によるエステル化反応により製造すればよい。
また、本実施形態の潤滑油組成物において、基油としては、上記のエステル化合物の他、ナフテン系合成油、上記エステル化合物以外のエステル系合成油(環状構造を有しないエステル化合物等)、潤滑油基油に汎用される、鉱油、合成油を、発明の効果が阻害されない範囲内で含有してもよい。
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、又はナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる鉱油;等が挙げられ、合成油としては、ポリブテン、エチレン-α-オレフィン共重合体、α-オレフィン単独重合体又は共重合体等のポリα-オレフィン;ポリフェニルエーテル等の各種エーテル;上記以外の脂肪酸モノエステル、脂肪酸ジエステル、更に脂肪酸トリエステル、環式トリエステル等の各種エステル;ポリグリコール;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(ガストゥリキッド(GTL)ワックス)を異性化することで得られるGTL基油等が挙げられる。
これらの鉱油、合成油は、単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態の潤滑油組成物に含まれる基油の含有量は、高トラクション係数と優れた低温流動性と高引火点とを、より高いレベルで達成しやすくする観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは85質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上である。また、上限として100質量%、すなわち本実施形態の潤滑油組成物は基油のみからなるものであってもよいし、所望の性状に応じて添加剤を用いてもよく、その場合は、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。
(添加剤)
本実施形態の潤滑油組成物は、既述のように基油のみからなるものであってもよいし、また所望に応じて、粘度指数向上剤、分散剤、酸化防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、金属不活性化剤及び消泡剤から選ばれる少なくとも一種の添加剤と、を含むものとしてもよい。また、本実施形態の潤滑油組成物は、上記添加剤以外の添加剤を所望に応じて含むものであってもよい。これらの添加剤は、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。よって、本実施形態の潤滑油組成物は、上記の基油と、粘度指数向上剤、分散剤、酸化防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、金属不活性化剤及び消泡剤から選ばれる少なくとも一種の添加剤と、からなるものであってもよい。
本実施形態の潤滑油組成物が添加剤を含む場合、これらの添加剤の合計含有量は、所望に応じて適宜決定すればよく、特に制限はないが、その他添加剤を添加する効果を考慮すると、組成物全量基準で、0.1~20質量%が好ましく、1~15質量%がより好ましく、5~13質量%が更に好ましい。
粘度指数向上剤としては、例えば、質量平均分子量(Mw)が好ましくは500~1,000,000、より好ましくは5,000~800,000の非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート等のポリメタクリレート;質量平均分子量(Mw)が好ましくは800~300,000、好ましくは10,000~200,000のオレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体等)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体等)等の重合体;などが挙げられる。
分散剤としては、例えば、ホウ素非含有コハク酸イミド類、ホウ素含有コハク酸イミド類、ベンジルアミン類、ホウ素含有ベンジルアミン類、コハク酸エステル類、脂肪酸あるいはコハク酸で代表される一価又は二価カルボン酸アミド類等の無灰系分散剤が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、ジフェニルアミン系酸化防止剤、ナフチルアミン系酸化防止剤等のアミン系酸化防止剤;モノフェノール系酸化防止剤、ジフェノール系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等のフェノール系酸化防止剤;三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸とアミン化合物とを反応させてなるモリブデンアミン錯体等のモリブデン系酸化防止剤;などが挙げられる。
極圧剤としては、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、アルキルチオカルバモイル化合物、チオカーバメート化合物等の硫黄系極圧剤;ジアルキルチオカルバミン酸亜鉛(Zn-DTC)、ジアルキルチオカルバミン酸モリブデン(Mo-DTC)等の硫黄-窒素系極圧剤;ジアルキルジチオリン酸モリブデン(Mo-DTP)等の硫黄-リン系極圧剤;などが挙げられる。
また、金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられ、消泡剤としては、シリコーン油、フルオロシリコーン油等のシリコーン系消泡剤、フルオロアルキルエーテル等のエーテル系消泡剤が挙げられる。
(潤滑油組成物の各種物性)
本実施形態の潤滑油組成物の40℃における動粘度は、高温時の焼付き防止、潤滑性能の確保、及び低温流動性の確保の観点から、好ましくは3mm/s以上50mm/s以下、より好ましくは5mm/s以上30mm/s以下、更に好ましくは10mm/s以上20mm/s以下である。これと同様の観点から、本実施形態の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは0.5mm/s以上15mm/s以下、より好ましくは1mm/s以上10mm/s以下、更に好ましくは1.5mm/s以上5mm/s以下である。また、本実施形態の潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは75以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは85以上である。
本明細書において、動粘度、及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準じ、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定した値である。
(潤滑油組成物の用途)
本実施形態の潤滑油組成物は、トラクションドライブ方式の動力伝達装置に幅広く用いることができ、例えば無段変速機、遊星ローラ型変速機に好適に用いることができる。
また、本実施形態の潤滑油組成物は、トラクション係数、特に高温におけるトラクション係数と低温流動性とに優れるため、例えば、自動車及び航空エンジン発電機におけるトラクションドライブ方式の変速機用流体として好適に用いることができる。上記の他、工作機械、建設機械及び農業機械の駆動部、風力発電の増速器等の産業用途における動力伝達装置、例えば無段変速機にも好適に用いることができる。
[潤滑油組成物の製造方法]
本実施形態の潤滑油組成物は、上記の本実施形態の基油と、粘度指数向上剤、分散剤、酸化防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、金属不活性化剤及び消泡剤から選ばれる少なくとも一種の添加剤と、を配合することで製造することができる。また、基油に含まれるエステル化合物の製造方法は既述の通りである。
潤滑油組成物を製造するに際し、基油と、添加剤との配合において、配合する順序は特に制限はなく、基油に、添加剤を逐次配合してもよいし、該添加剤を予め配合してから、配合してもよい。また、基油が二種以上を組み合わせたものである場合、その配合する順序は特に制限はない。
[動力伝達装置]
本実施形態の動力伝達装置は、上記の本実施形態の潤滑油組成物を用いることを特徴とするトラクションドライブ方式の動力伝達装置である。
トラクションドライブ方式の動力伝達装置としては、例えば無段変速機、遊星ローラ型変速機が挙げられる。
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
潤滑油基油の性状及び性能の測定は以下の方法で行った。
(1)140℃におけるトラクション係数
トラクション係数計測器(製品名:MTM2(Mini Traction Machine2、PCS Instruments社製)を用い、下記測定条件において測定した値である。0.020以上であれば合格である。
油温の加熱条件:140℃
荷重:70N
平均転がり速度:3.8m/s
すべり率:5%
(2)-40℃におけるブルックフィールド粘度
-40℃のブルックフィールド粘度(BF粘度)は、ASTM D2983-09に準拠して測定した。70,000mPa・s以下であれば合格である。
(3)引火点
JIS K2265-4:2007(引火点の求め方-第4部:クリーブランド開放法)に準拠し、クリーブランド開放法により測定した。150℃以上であれば合格である。
(製造例1:環状モノエステル化合物Aの合成)
5L四つ口フラスコにカンフェン(20質量%のトリシクレンを含む)900g、イソノナン酸1170g、リンモリブデン酸20gを入れ、80℃で6時間撹拌した。室温(23℃)まで冷却し、5質量%水酸化ナトリウム水溶液で中和、洗浄し、更に水で3回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで脱水した後、ろ過し、ろ液中の溶媒を減圧下で除去し、減圧下で110~120℃に加熱し、未反応のカンフェンを除去した。残った液体について減圧蒸留を行い、下記化学式(A)で表される環状モノエステル化合物Aを1500g得た。
Figure 2022110924000004
(製造例2:環状ジエステル化合物Bの合成)
攪拌器、温度計及び冷却管付き水分分留受器を備えた1リットルの四ツ口フラスコに、1,2-シクロヘキサンジオール174g(1.5モル)、3,5,5-トリメチルヘキサン酸568.8g(3.6モル:(B)成分に対して、1.2当量)、キシレンを原料の総重量に対し5質量%及び触媒としてテトライソプロピルチタネートを原料の総質量に対し0.5質量%を仕込み、窒素雰囲気下、徐々に180℃まで昇温した。理論生成水量(54g)を目安にして留出してくる生成水を水分分留受器で除去しながら減圧下でエステル化反応を約10時間行った。反応終了後、過剰の酸及びキシレンを蒸留で除去した。
次いで、エステル化反応生成物の全酸価に対して、過剰の苛性ソーダ水溶液で中和後、中性になるまで水洗してエステル化反応粗物576gを得た。このエステル化反応物におけるジエステル含有量は96.8質量%であった。
次に、得られたエステル化反応物を、667Paの条件下、180℃まで加熱して、モノエステル及びエステル化副生物等を蒸留留去した。
蒸留工程終了後、80℃にて活性アルミナ及び活性炭(本エステルの理論収量に対して各0.1質量%)を加えて、1時間攪拌して処理をした。処理後、濾過をして環状ジエステル化合物B(1,2-シクロヘキサンジオールジ(3,5,5-トリメチルヘキサノエート))500gを得た。
(実施例1~5、比較例1及び2)
上記製造例1及び2で得られた環状モノエステル化合物A、環状ジエステル化合物Bを、下記表1に示す配合処方に従い配合して、基油を調製した。また、得られた基油に、添加剤を加えて、潤滑油組成物を調製した。得られた潤滑油組成物について、上記方法により測定した各性状の評価結果を表1に示す。
Figure 2022110924000005
表1の結果から、本実施形態の潤滑油基油は、数式(1)の計算値β1(0.0002×α+160)よりも引火点β(実測値)の方が少なくとも3.7℃以上(実施例1)高くなっており、数式(1)を満足するものとなった。他方、比較例においては、計算値β1よりも引火点β(実測値)の方が低く、数式(1)を満足するものとはならなかった。
実施例の潤滑油組成物は、トラクション係数が0.045以上であり、-40℃におけるブルックフィールド粘度は11600~153000以下と優れた低温流動性を有するものであり、また引火点はいずれも166℃以上と高いものとなった。他方、比較例1の潤滑油組成物では引火点は154℃と低く、比較例2の潤滑油組成物の-40℃におけるブルックフィールド粘度は388000と高く、低温流動性に優れるものとはいえないものであった。このように、数式(1)を満足する場合、ブルックフィールド粘度、引火点は所定の範囲内となることで、優れた低温流動性と高引火点とをバランスよく高いレベルで達成することができ、かつトラクション係数も高いものであることが確認された。
また、実施例1~5の結果から、環状モノエステルAと環状ジエステルBとの配合比率を調整することで、ブルックフィールド粘度、引火点を調整することができるので、所望の性状に応じた潤滑油組成物を提供しやすいものであることも確認された。

Claims (25)

  1. 基油として少なくとも2種のエステル化合物を含み、前記エステル化合物の基油全量基準の含有量が80質量%以上であり、140℃におけるトラクション係数が0.045以上であり、かつ-40℃におけるブルックフィールド粘度α(mPa・s)と引火点β(℃)とが下記数式(1)を満足する潤滑油組成物。
    β≧0.0002×α+160 (1)
  2. ブルックフィールド粘度α(mPa・s)が、2,500以上250,000以下である請求項1に記載の潤滑油組成物。
  3. 引火点βが、160.5℃以上である請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
  4. 前記エステル化合物が、環状構造を有する環状エステル化合物である請求項1~3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
  5. 前記エステル化合物が、環状モノエステル化合物と環状ジエステル化合物とを含む請求項1~4のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
  6. 前記環状モノエステル化合物が、トラクション係数が0.040以上0.060以下、-40℃におけるブルックフィールド粘度α(mPa・s)が1,000以上100,000以下、引火点βが140℃以上180℃以下の化合物であり、前記環状ジエステル化合物が、トラクション係数が0.040以上0.060以下、-40℃におけるブルックフィールド粘度α(mPa・s)が100,000超500,000以下、引火点βが180℃超240℃以下の化合物である請求項5に記載の潤滑油組成物。
  7. 前記環状モノエステル化合物が、少なくとも下記(i)及び(ii)を有するモノエステル化合物である請求項5又は6に記載の潤滑油組成物。
    (i)二つの環が3つ以上の炭素原子を共有して結合する橋かけ二環
    (ii)炭素数4以上の主鎖を有する分岐状炭化水素基を含むアシルオキシ基又はヒドロカルビルオキシカルボニル基
  8. 前記環状モノエステル化合物が、下記一般式(1)又は(2)で表されるものである請求項5~7のいずれか1項に記載の潤潤滑油組成物。
    Figure 2022110924000006

    (R11及びR21はそれぞれ独立に二つの環が3つ以上の炭素原子を共有して結合する橋かけ二環を示し、A11及びA21はそれぞれ独立に単結合又は炭化水素基を示し、R12及びR22はそれぞれ独立に炭素数4以上の主鎖を有する分岐状炭化水素基を示し、X11及びX21はそれぞれ独立に炭化水素基を示し、p11及びp21はそれぞれ独立に0以上8以下の整数を示す。)
  9. 前記橋かけ二環が、ビシクロヘプタン環又はビシクロオクタン環である請求項7又は8に記載の潤滑油組成物。
  10. 前記橋かけ二環が、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン環、ビシクロ[3.2.1]オクタン環又はビシクロ[2.2.2]オクタン環である請求項7~9のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
  11. 前記橋かけ二環が、少なくとも一つの置換基を有する請求項7~10のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
  12. 前記分岐状炭化水素基が、炭素数5以上16以下の分岐状アルキル基である請求項7~11のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
  13. 前記分岐状炭化水素基が、少なくとも二つの分岐鎖を有する分岐状アルキル基である請求項7~12のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
  14. 前記分岐状炭化水素基が、末端にtert-ブチル基を有する分岐状アルキル基である請求項7~13のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
  15. 前記A11及びA21が、それぞれ独立に単結合又は炭素数1以上12以下のアルキレン基である請求項8~14のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
  16. 前記X11及びX21の炭化水素基が、それぞれ独立に炭素数1以上12以下のアルキル基である請求項8~15のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
  17. 前記p11及びp21が、それぞれ独立に1以上4以下である請求項8~16のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
  18. 前記環状ジエステル化合物が、下記一般式(3)で表されるものである請求項5~17のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
    Figure 2022110924000007

    (R31及びR32はそれぞれ独立に炭素数3~20の炭化水素基を示し、A31及びA32はそれぞれ独立に単結合又は炭化水素基を示し、Z31は炭素数3~12のシクロアルキレン基を示し、p31及びp32はそれぞれ独立に0又は1の整数である。)
  19. 前記R31及びR32の少なくとも一方が、分岐状炭化水素基である請求項18に記載の潤滑油組成物。
  20. 前記分岐状炭化水素基が、少なくとも二つの分岐鎖を有する分岐状アルキル基である請求項19に記載の潤滑油組成物。
  21. 前記分岐状炭化水素基が、末端にtert-ブチル基を有する炭素数5~12の分岐状アルキル基である請求項19又は20に記載の潤滑油組成物。
  22. 前記Z31が、炭素数4~8のシクロアルキレン基である請求項18~21のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
  23. 前記環状モノエステル化合物及び前記環状ジエステル化合物の合計量に対する前記環状モノエステル化合物の含有量が、5質量%以上97質量%である請求項5~22のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
  24. 動力伝達装置に用いられる請求項1~23のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
  25. 請求項1~24のいずれか1項に記載の潤滑油組成物を用いた動力伝達装置。
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