JP2022097004A - 方向性電磁鋼板及びその製造方法 - Google Patents

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Takashi Kataoka
一郎 田中
Ichiro Tanaka
春彦 渥美
Haruhiko Atsumi
和年 竹田
Kazutoshi Takeda
龍太郎 山縣
Ryutaro Yamagata
宣郷 森重
Norisato Morishige
まゆ子 菊月
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Abstract

【課題】Ce、La、Pr、Nd、Ba、Ca、Sr、Zr等の元素を含有する焼鈍分離剤中を用いて仕上げ焼鈍を行って製造される場合であっても、鉄損特性及び被膜密着性に優れる方向性電磁鋼板及びその製造方法を提供すること。【解決手段】母材鋼板と、前記母材鋼板の表面上に形成されたグラス被膜と、前記グラス被膜の表面上に形成された張力付与性絶縁被膜とを備え、前記母材鋼板が、所定の化学組成を有し、前記母材鋼板の板厚が、0.18~0.22mmであって、前記グラス被膜及び前記グラス被膜と前記母材鋼板との境界領域において、Cubicタイプの硫化物が0.001~10.00個/μm2含まれる、方向性電磁鋼板。【選択図】図1

Description

本発明は、方向性電磁鋼板及びその製造方法に関する。
方向性電磁鋼板は、主として、変圧器に代表される静止誘導器に使用される。方向性電磁鋼板の満たすべき特性としては、(1)交流で励磁したときのエネルギー損失、すなわち鉄損が小さいこと、(2)機器の使用励磁域での透磁率が高く、容易に励磁できること、(3)騒音の原因となる磁歪が小さいこと、等があげられる。
特に鉄損に関しては、変圧器は、据え付けられてから廃棄されるまでの長期間にわたって連続的に励磁されエネルギー損失を発生し続けることから、鉄損は、変圧器の価値を表わす指標であるT.O.C.(Total Owning Cost)を決定する主要なパラメータとなる。
方向性電磁鋼板の鉄損を低減するために、今までに多くの開発がなされてきた。すなわち、ゴス方位と呼ばれる{110}<001>方位への集積を高めること、電気抵抗を高めるSi等固溶元素の含有量を高めること、鋼板の板厚を薄くすること、鋼板に面張力を与えるセラミック被膜や絶縁被膜を付与すること、結晶粒の大きさを小さくすること、線状に歪や溝を導入することにより磁区を細分化すること、等が検討されてきた。
一方、透磁率と磁歪とに関しては、ゴス方位への結晶粒の方位集積度を高めることが有効であり、励磁力800A/mにおける磁束密度であるBがその指標として用いられる。
磁束密度向上のための典型的な技術の一つに、例えば特許文献1に開示されている製造方法が挙げられる。これは、AlNとMnSとを結晶粒成長を抑制するインヒビターとして機能させ、最終冷延工程における圧下率を、80%を超える強圧下とする製造方法である。特許文献1には、この方法により、{110}<001>方位への結晶粒の方位集積度が高まり、Bが1.870T以上の高磁束密度を有する方向性電磁鋼板が得られると開示されている。
しかしながら、これらのAl系インヒビターを用いて磁束密度を高める方法を用いた場合、鋼板自体としては優れた磁気特性を示すものが得られるようになってきたが、フォルステライトを主成分とする一次被膜(以下、グラス被膜ともいう)の密着性が劣化し、特に板厚の薄い方向性電磁鋼板において被膜密着性の改善が求められていた。
このような課題に対し、例えば特許文献2には、MgOを主体とする焼鈍分離剤中にCe、La、Pr、Nd、Sc、Yの内の1種または2種以上を含む化合物を添加することによって得られた、一次被膜中に平均粒径が0.1~25μmのCe、La、Pr、Nd、Sc、Yの酸化物、水酸化物、硫酸塩または炭酸塩の1種または2種以上を、金属換算の目付量総量で片面あたり0.001~1000mg/m含有し、3倍周波数鉄損特性W17/150が5.56W/kg以下であり、且つ額縁剥離性が0.8mm以下である、被膜密着性に優れた方向性電磁鋼板およびその製造方法が開示されている。
また、特許文献3には、MgOを主体とする焼鈍分離剤中にCe、La、Pr、Nd、Sc、Yの内の1種または2種以上を含む化合物を添加することによって得られた、一次被膜中にCe、La、Pr、Nd、Sc、Yの酸化物、水酸化物、硫酸塩または炭酸塩の1種または2種以上を、金属換算の目付量総量で片面あたり0.1~10mg/m含有し、且つTiを目付量で片面あたり1~800mg/m含有し、3倍周波数鉄損特性W17/150が5.41W/kg以下であり、且つ額縁剥離性が0.2mm以下である、方向性電磁鋼板が開示されている。
また、特許文献4には、MgOを主成分とした焼鈍分離剤の中に、希土類金属の酸化物、硫化物、硫酸塩、ケイ化物、リン酸塩、水酸化物、炭酸塩、硼素化物、塩化物、フッ化物の1種または2種以上を希土類金属換算で0.1~10質量%、Ca、Sr又はBaの中から選ばれる1種以上のアルカリ土類金属の酸化物、硫化物、硫酸塩、ケイ化物、リン酸塩、水酸化物、炭酸塩、硼素化物、塩化物、フッ化物の1種または2種以上をアルカリ土類金属換算で0.1~10質量%、硫黄化合物をS換算で0.01~5質量%含有させることによって得られる、一次被膜中に、Ca、Sr又はBaの中から選ばれる1種以上の元素と、希土類金属元素と、硫黄とを含む硫化化合物を含有することを特徴とする、被膜密着性に優れた一方向性電磁鋼板が開示されている。特許文献4では、Ca、Sr、Baの中から選ばれる1種以上の元素と、希土類金属元素及び硫黄元素からなる化合物(A)が、被膜と鋼板との界面および界面より鋼板内側に形成されるスピネルに隣接して存在すると、前述のスピネルによる破壊や剥離の起点作用を抑制でき、強曲げ加工時の密着性がさらに向上すると開示されている。
しかしながら、本発明者らが検討した結果、板厚の薄い、特に母材鋼板の板厚が0.22mm以下の方向性電磁鋼板に対して、特許文献2~4に開示されるように焼鈍分離剤中に希土類元素を含有させ、一次被膜中にこれらの化合物を存在させた場合、鉄損等の磁気特性が劣化するという問題があることが分かった。
特公昭40-15644号公報 特許第5739840号公報 特許第5230194号公報 特許第5419459号公報
本発明は上記の課題に鑑みてなされた。本発明は、Ce、La、Pr、Nd、Ba、Ca、Sr、Zr等の元素を含有する焼鈍分離剤を用いて仕上げ焼鈍を行って製造される場合であっても、鉄損特性及び被膜密着性に優れる方向性電磁鋼板及びその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、焼鈍分離剤中にCe、La、Pr、Nd、Ba、Ca、Sr、Zr等の元素を添加した場合、最終製品である方向性電磁鋼板において、これらの元素の硫化物が一次被膜中に残留し、鉄損特性が劣化することを見出した。
また、本発明者らがさらに検討を行った結果、これらの硫化物の構造と存在頻度とを制御することで、鉄損特性の劣化を抑制できることを見出した。
本発明は上記の知見に基づいてなされた。本発明は、下記の方向性電磁鋼板およびその製造方法を要旨とする。
(1)母材鋼板と、前記母材鋼板の表面上に形成されたグラス被膜と、前記グラス被膜の表面上に形成された張力付与性絶縁被膜とを備え、前記母材鋼板が、化学組成として、質量%で、C:0.010%以下、Si:3.00~3.80%、Mn:0.01~0.50%、N:0.020%以下、Sol-Al:0.020%以下、S:0.020%以下、Ce、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La、Zrの合計:0.0100%以下、Cu:0~0.50%、Cr:0~0.50%、Sn:0~0.50%、Se:0~0.020%、Sb:0~0.50%、Bi:0~0.020%、Mo:0~0.50%、残部:Fe及び不純物を含有し、前記母材鋼板の板厚が、0.18~0.22mmであって、前記グラス被膜及び前記グラス被膜と前記母材鋼板との境界領域において、Cubicタイプの硫化物が0.001~10.00個/μm含まれる、方向性電磁鋼板。
(2)前記方向性電磁鋼板のCe、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La、Zrの合計含有量が、前記母材鋼板のCe、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La、Zrの合計含有量の1.5倍以上10.0倍以下である(1)に記載の方向性電磁鋼板。
(3)前記化学組成として、Sn:0.01~0.50%を含有する、(1)または(2)に記載の方向性電磁鋼板。
(4)前記化学組成として、Cr:0.01~0.50%を含有する、(1)~(3)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板。
(5)前記化学組成として、Cu:0.01~0.50%を含有する、(1)~(4)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板。
(6)前記化学組成として、Se:0.001~0.020%を含有する、(1)~(5)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板。
(7)前記化学組成として、Sb:0.005~0.50%を含有する、(1)~(6)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板。
(8)前記化学組成として、Bi:0.0001~0.020%を含有する、(1)~(7)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板。
(9)化学組成が、質量%で、C:0.010~0.200%、Si:3.00~3.80%、Sol-Al:0.010~0.050%、Mn:0.01~0.50%、N:0.020%以下、S:0.005~0.050%、Cu:0~0.50%、Cr:0~0.50%、Sn:0~0.50%、Se:0~0.020%、Sb:0~0.50%、Bi:0~0.020%、Mo:0~0.50%、残部:Fe及び不純物を含有する鋼片を加熱する加熱工程と、前記鋼片を熱間圧延して熱延鋼板を得る熱間圧延工程と、前記前記熱延鋼板を焼鈍して、熱延焼鈍鋼板を得る熱延板焼鈍工程と、前記熱延焼鈍鋼板に対し、複数のパスを含む冷間圧延を施して、板厚が0.18~0.22mmの冷延鋼板を得る冷間圧延工程と、前記冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を施して、脱炭焼鈍鋼板を得る脱炭焼鈍工程と、前記脱炭焼鈍鋼板に対して焼鈍分離剤を塗布した後に、仕上げ焼鈍を行って仕上げ焼鈍鋼板を得る仕上げ焼鈍工程と、前記仕上げ焼鈍鋼板の表面に絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程とを含み、前記焼鈍分離剤は90質量%以上のMgOと、Ce、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La及びZrから選択される1種以上の、酸化物、水酸化物、硫酸塩及び炭酸塩の1種以上を含み、前記焼鈍分離剤中の、質量%での、前記酸化物、前記水酸化物、前記硫酸塩及び前記炭酸塩の合計含有量が、0.5~10.0質量%であり、前記仕上げ焼鈍工程において、700~900℃の温度範囲を13℃/hr~30℃/hrの平均加熱速度で昇温し、かつ1000~1300℃の温度範囲に40時間以上保持する、方向性電磁鋼板の製造方法。
(10)前記酸化物、前記水酸化物、前記硫酸塩、前記炭酸塩の平均粒径が20μm以下である、(9)に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(11)前記焼鈍分離剤が、Ti化合物として、Tiの酸化物、炭化物、または窒化物のうちの何れか1種または2種以上を含み、前記焼鈍分離剤中の、質量%での、Ti化合物の合計含有量が、0.5~10.0%であり、前記Ti化合物の平均粒径が20μm以下である、(9)または(10)に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(12)前記脱炭焼鈍の昇温過程において、550~750℃の温度範囲における平均昇温速度を500~1000℃/sに制御する、(9)~(11)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(13)前記脱炭焼鈍の昇温過程において、750~800℃の温度範囲における平均昇温速度を1000~2000℃/sに制御する、(9)~(12)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(14)前記脱炭焼鈍の昇温過程において、550~800℃の温度範囲における焼鈍雰囲気露点を0℃以下に制御する、(9)~(13)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(15)前記脱炭焼鈍工程と前記仕上げ焼鈍工程との間に窒化処理を含む、(9)~(14)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(16)前記冷間圧延工程において、前記複数のパスの間に、中間焼鈍を実施し、前記中間焼鈍以降のパスの累積圧下率を80~95%とする、(9)~(15)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(17)前記鋼片の前記化学組成が、Sn:0.01~0.50%を含有する、(9)~(16)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(18)前記鋼片の前記化学組成が、Cr:0.01~0.50%を含有する、(9)~(17)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(19)前記鋼片の前記化学組成が、Cu:0.01~0.50%を含有する、(9)~(18)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(20) 前記鋼片の前記化学組成が、Se:0.001~0.020%を含有する、(9)~(19)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(21)前記鋼片の前記化学組成が、Sb:0.005~0.50%を含有する、(9)~(20)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
(22)前記鋼片の前記化学組成が、Bi:0.0005~0.020%含有する、(9)~(21)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
本発明によれば、Ce、La、Pr、Nd、Ba、Ca、Sr、Zr等の元素を含有する焼鈍分離剤を用いて仕上げ焼鈍を行って製造される場合であっても、鉄損特性及び被膜密着性に優れる方向性電磁鋼板及びその製造方法を提供することができる。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の断面の観察イメージ(倍率3000倍)の例を示す模式図である。
以下、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板(本実施形態に係る方向性電磁鋼板)について説明する。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、母材鋼板と、前記母材鋼板の表面上に形成されたグラス被膜と、前記グラス被膜の表面上に形成された張力付与性絶縁被膜とを備える方向性電磁鋼板である。グラス被膜及び張力付与性絶縁被膜は、母材鋼板の少なくとも一方の面に形成されていればよいが、通常、母材鋼板の両面に形成される。
本実施形態に係る電磁鋼板では、母材鋼板が、化学組成として、質量%で、C:0.010%以下、Si:3.00~3.80%、Mn:0.01~0.50%、N:0.020%以下、Sol-Al:0.020%以下、S:0.020%以下、Ce、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La、Zrの合計:0.0100%以下、Cu:0~0.50%、Cr:0~0.50%、Sn:0~0.50%、Se:0~0.020%、Sb:0~0.50%、Bi:0~0.020%、Mo:0~0.50%、残部Fe及び不純物を含有し、母材鋼板の板厚が0.18~0.22mmである。
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、前記グラス被膜及び前記グラス被膜と前記母材鋼板との境界領域において、Cubicタイプの硫化物が0.001~10.00個/μm含まれる。
<母材鋼板の化学組成>
C:0.010%以下
C(炭素)は、製造工程における脱炭焼鈍工程の完了までの工程での鋼板の組織制御に有効な元素である。しかしながら、C含有量が0.010%を超えると、製品板である方向性電磁鋼板の磁気特性が低下する。従って、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の母材鋼板において、C含有量は、0.010%以下とする。C含有量は、好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.003%以下である。母材鋼板においては、C含有量は、低ければ低い方が好ましいが、C含有量を0.0001%未満に低減しても、効果は飽和し、製造コストが嵩むだけとなる。従って、C含有量は、0.0001%以上としてもよい。
Si:3.00~3.80%
Si(珪素)は、方向性電磁鋼板の電気抵抗を高めて、鉄損特性を改善する元素である。Si含有量が3.00%未満では、仕上げ焼鈍時(二次再結晶焼鈍時)に組織のγ変態が生じ、鋼板の好ましい結晶方位への集積が損なわれる。そのため、Si含有量は3.00%以上とする。Si含有量は、好ましくは3.10%以上、より好ましくは3.20%以上である。
一方、Si含有量が3.80%を超えると、方向性電磁鋼板が脆化し、通板性が顕著に劣化する。また、方向性電磁鋼板の加工性が低下し、圧延時に鋼板が破断しうる。このため、Si含有量は3.80%以下とする。Si含有量は好ましくは3.60%以下、より好ましくは3.50%以下である。
Mn:0.01~0.50%
Mn(マンガン)は、製造工程中にSと結合して、MnSを形成する元素である。この析出物は、インヒビター(正常結晶粒成長の抑制剤)として機能し、鋼において、二次再結晶を発現させる。Mnは、更に、鋼の熱間加工性も高める元素である。Mn含有量が0.01%未満である場合には、上記のような効果を十分に得ることができない。そのため、Mn含有量は、0.01%以上とする。Mn含有量は、好ましくは0.03%以上である。より好ましくは0.06%以上である。
一方、Mn含有量が0.50%を超えると、二次再結晶が発現せずに、鋼の磁気特性が低下する。従って、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の母材鋼板において、Mn含有量は、0.50%以下とする。Mn含有量は、好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.30%以下である。
N:0.020%以下
N(窒素)は、製造工程においてAlと結合して、インヒビターとして機能するAlNを形成する元素である。しかしながら、N含有量が0.020%を超えると、方向性電磁鋼板中にインヒビターが過剰に残存して、磁気特性が低下する。従って、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の母材鋼板において、N含有量は、0.020%以下とする。N含有量は、好ましくは0.015%以下である。より好ましくは0.010%以下である。
AlNをインヒビターとして活用しないのであれば、N含有量の下限値は0%でもよい。しかしながら、化学分析の検出限界値が0.0001%であるため、実用鋼板において、実質的なN含有量の下限値は、0.0001%である。
Sol-Al:0.020%以下
Sol-Al(酸可溶性アルミニウム、sol.Alと記載する場合もある)は、方向性電磁鋼板の製造工程中において、Nと結合して、インヒビターとして機能するAlNを形成する元素である。しかしながら、母材鋼板のSol-Al含有量が0.020%を超えると、母材鋼板中にインヒビターが過剰に残存して、磁気特性が低下する。従って、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の母材鋼板において、Sol-Al含有量は、0.020%以下とする。Sol-Al含有量は、好ましくは0.015%以下、より好ましくは0.010%以下である。Sol-Al含有量の下限値は、特に規定するものではないが、0.0001%未満に低減しても、製造コストが嵩むだけとなる。従って、Sol-Al含有量は、0.0001%以上としてもよい。
S:0.020%以下
S(硫黄)は、方向性電磁鋼板の製造工程においてMnと結合して、インヒビターとして機能するMnSを形成する元素である。しかしながら、二次再結晶後にS含有量が0.020%を超えて残留する場合には、MnSやMgS等の不純物が形成され、磁気特性が低下する。従って、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の母材鋼板において、S含有量は、0.020%以下とする。好ましくは0.015%以下、より好ましくは0.010%以下とする。
母材鋼板におけるS含有量は、なるべく低い方が好ましく、0%でもよい。しかしながら、母材鋼板のS含有量を0.0001%未満に低減しても、製造コストが嵩むだけとなる。従って、S含有量は、0.0001%以上であることが好ましい。
本実施形態で制御すべき硫化物は母材鋼板内の硫化物ではなく、後述するようにグラス被膜内またはグラス被膜と母材鋼板との境界領域に存在する硫化物である。母材鋼板を各元素の含有量の測定のための分析に供する準備段階、いわゆる酸洗によって一次被膜を除去する過程で、界面に存在している硫化物は除去されてしまう。そのため、母材鋼板のS含有量が0%であるということは、グラス被膜や、グラス被膜と母材鋼板との境界に硫化物が存在しないことを意味するものではない。
Ce、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La、Zrの合計:0.0100%以下
Ce、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La、Zrは不純物として、鋼中に混入する場合がある。上記元素は鋼中のSと結びつき、二次再結晶発現に重要なインヒビターであるMnSの生成を抑制し、二次再結晶発現の障害となる。合計含有量が0.0100%以下であれば問題にならないため、上記元素の合計含有量を0.0100%以下とする。
上記元素の合計含有量の下限は特に設けないが、意図せずとも合計で0.0004%程度混入する場合がある。従い、上記元素の合計含有量の下限値は0.0004%としてもよい。
残部:Fe及び不純物
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の母材鋼板の化学組成は、上述の元素を含有し、残部は、Fe及び不純物であることを基本とする。しかしながら、磁気特性を高めることを目的として、さらにCu、Cr、Sn、Se、Sb、Bi、Moを以下に示す範囲で含有してもよい。ただし、これらの元素は必須元素ではなく、下限は0%である。
ここで、不純物とは、母材鋼板を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は、製造環境などから混入するものであり、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の作用に悪影響を及ぼさない含有量で含有することを許容される元素を意味する。
Cu:0~0.50%
Cu(銅)は、二次再結晶組織におけるGoss方位占有率の増加に寄与する元素である。そのため、含有させてもよい。上記効果を得るためには、Cu含有量を0.01%以上とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上である。
一方、Cu含有量が0.50%を超える場合には、熱間圧延中に鋼板が脆化する。そのため、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の母材鋼板では、Cu含有量を0.50%以下とする。Cu含有量は、好ましくは0.30%以下、より好ましくは0.10%以下である。
Cr:0~0.50%
Cr(クロム)は、二次再結晶組織におけるGoss方位占有率の増加に寄与して磁気特性を向上させる元素である。そのため、含有させてもよい。上記効果を得るためには、Cr含有量を、0.01%以上とすることが好ましく、0.02%以上であることがより好ましく、0.03%以上とすることがさらに好ましい。
一方、Cr含有量が0.50%を超える場合には、Cr酸化物が形成され、磁気特性が低下する。そのため、Cr含有量は、0.50%以下とする。Cr含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
Sn:0~0.50%
Sn(スズ)は、結晶組織制御を通じ、磁気特性改善に寄与する元素である。そのため、含有させてもよい。磁気特性改善効果を得るためには、Sn含有量を0.01%以上とすることが好ましい。磁気特性と被膜密着性との両立を考慮すると、Sn含有量は、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上である。
一方、Sn含有量が0.50%を超える場合には、グラス被膜が劣化し、かつ磁区細分化に十分な張力が得られず、鉄損特性が劣化する。そのため、Sn含有量は0.50%以下とする。Sn含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
Se:0~0.020%
Se(セレン)は、磁気特性改善効果を有する元素である。そのため、含有させてもよい。含有させる場合は、磁気特性改善効果を良好に発揮するべく、Se含有量を0.001%以上とすることが好ましい。磁気特性と被膜密着性との両立を考慮すると、Se含有量は、より好ましくは0.003%以上であり、さらに好ましくは0.006%以上である。
一方、Se含有量が0.020%を越えると、グラス被膜の密着性が劣化する。従って、Se含有量を0.020%以下とする。Se含有量は、好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.010%以下である。
Sb:0~0.50%
Sb(アンチモン)は、磁気特性改善効果を有する元素である。そのため、含有させてもよい。Sbを含有させる場合は、磁気特性改善効果を良好に発揮するべく、Sb含有量を0.005%以上とすることが好ましい。Sb含有量は、より好ましくは0.01%以上であり、さらに好ましくは0.02%以上である。
一方、Sb含有量が0.50%を越えると、グラス被膜の密着性が顕著に劣化する。従って、Sb含有量を0.50%以下とする。Sb含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
Bi:0~0.020%
Bi(ビスマス)は、方向性電磁鋼板の磁束密度を、より一層高めることができる元素である。そのため、含有させてもよい。効果を得る場合、Bi含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
一方、母材鋼板においてBi含有量が0.020%を超えると、磁気特性が劣化する。そのため、母材鋼板におけるBi含有量は、0.020%以下とする。Bi含有量は、好ましくは0.010%以下であり、より好ましくは0.005%以下であり、さらに好ましくは0.002%以下であり、一層好ましくは0.001%未満である。
Mo:0~0.50%
Mo(モリブデン)は、磁気特性改善効果を有する元素である。そのため、含有させてもよい。Moを含有させる場合は、磁気特性改善効果を良好に発揮するべく、Mo含有量を0.01%以上とすることが好ましい。Mo含有量は、より好ましくは0.02%以上であり、さらに好ましくは0.03%以上である。
一方、Mo含有量が0.50%を越えると、冷間圧延性が劣化し、破断に至る可能性がある。従って、Mo含有量を0.50%以下とする。Mo含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
上述の通り、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の母材鋼板の化学組成は、上述の必須の元素を含有し、残部がFe及び不純物である、もしくは、上述の必須の元素を含有し、さらに任意元素の1種または2種以上を含有し、残部がFe及び不純物である。
母材鋼板の化学組成を、母材鋼板上にグラス被膜と張力付与性絶縁被膜とを有する方向性電磁鋼板から得るには、方向性電磁鋼板にアルカリ溶液による洗浄処理を実施し、張力付与性絶縁被膜を除去したうえで、更に、酸洗によるグラス被膜の除去処理を実施して母材鋼板を得る。得られた母材鋼板に対し、ドリルを用いて、母材鋼板から切粉を生成させ、その切粉を採取する。採取された切粉を酸に溶解させた溶解液を得る。溶解液に対して、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。
その際、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用い、Oは不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法を用いて測定すればよい。
張力付与性絶縁被膜の除去方法として、具体的には、被膜を有する方向性電磁鋼板を、NaOH:30~50質量%+HO:50~70質量%の80~90℃の水酸化ナトリウム水溶液に、5~10分間浸漬した後に、水洗して乾燥させる。これにより、方向性電磁鋼板から張力付与性絶縁被膜を除去できる。張力付与性絶縁被膜の厚さに応じて、上記の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する時間を変えればよい。
また、張力付与性絶縁被膜を除去後、濃度30~40%の塩酸に、80~90℃で1~10分、浸漬した後に、水洗して乾燥させることで、グラス被膜が除去できる。
上述のように絶縁被膜の除去はアルカリ溶液、グラス被膜の除去は塩酸を用いる、といったように使い分けて除去する。絶縁被膜およびグラス被膜を除去することで、鋼板が現出して母材鋼板の化学組成が測定可能となる。
<グラス被膜>
本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、母材鋼板の表面上にグラス被膜が形成されている。
グラス被膜は、ケイ酸マグネシウムを主成分とする無機質の被膜である。グラス被膜は、仕上げ焼鈍において、母材鋼板の表面に塗布されたマグネシア(MgO)を含む焼鈍分離剤と母材鋼板の表面の成分とが反応することにより形成され、焼鈍分離剤及び母材鋼板の成分に由来する組成(より詳細には、MgSiOを主成分とする組成)を有する。
<張力付与性絶縁被膜>
本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、グラス被膜の表面上に張力付与性絶縁被膜が形成されている。
張力付与性絶縁被膜は、方向性電磁鋼板に電気絶縁性を付与することで渦電流損を低減して、方向性電磁鋼板の鉄損特性を向上させる。また、張力付与性絶縁被膜によれば、上記のような電気絶縁性以外にも、耐蝕性、耐熱性、すべり性といった種々の特性が得られる。
更に、張力付与性絶縁被膜は、方向性電磁鋼板に張力を付与するという機能を有する。方向性電磁鋼板に張力を付与して、方向性電磁鋼板における磁壁移動を容易にすることで、方向性電磁鋼板の鉄損特性を向上させることができる。
張力付与性絶縁被膜は、例えば、金属リン酸塩とシリカとを主成分とするコーティング液をグラス被膜の表面に塗布し、焼付けることによって形成される。
<母材鋼板の板厚:0.18~0.22mm>
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、前述したように、従来は良好な被膜密着性及び低い鉄損(良好な鉄損特性)を両立することが困難であった、母材鋼板の板厚が0.18~0.22mmの方向性電磁鋼板において、良好な被膜密着性及び低い鉄損を両立することが可能な方向性電磁鋼板である。
<グラス被膜及びグラス被膜と母材鋼板との境界領域において、Cubicタイプの硫化物が0.001~10.00個/μm含まれる>
本発明者らは、被膜密着性の向上を目的として焼鈍分離剤中にCe、La、Pr、Nd、Ba、Ca、Sr、Zr等の元素を含有させた場合に、鉄損特性が劣化する原因について検討した。その結果、最終製品である方向性電磁鋼板において、SrS、BaS、CaS、NdS、CeS、LaS、PrS、ZrS等の硫化物がグラス被膜中、またはグラス被膜と母材鋼板との境界領域に存在すると、その硫化物が磁壁をピン止めすることで、鉄損特性が劣化することを見出した。また、このような悪影響は、母材鋼板の板厚が薄い、すなわち方向性電磁鋼板において、グラス被膜やグラス被膜と母材鋼板との境界領域の占める割合が大きい場合に特に顕著になることが分かった。
本発明者らがさらに検討を行った結果、硫化物の結晶構造及び存在頻度によっては、鉄損への悪影響が小さくなることを見出した。すなわち、硫化物の結晶構造及び存在頻度を制御することで、鉄損特性の劣化を抑制できることを見出した。
具体的には、グラス被膜及びグラス被膜と母材鋼板との境界領域において、Cubicタイプの硫化物が0.001~10.00個/μmの個数密度で含まれる場合には、鉄損特性の劣化が抑制され、良好な被膜密着性と低い鉄損とを両立できることを見出した。
Cubicタイプの硫化物とは、金属元素(M)と硫黄(S)とが3次元的に周期性をもって配列しており、かつMとSとの結合周期の最小単位(単位胞)が立方体(Cubic)の硫化物を指す。Cubicタイプの硫化物が鉄損への悪影響が小さい理由は、地鉄との整合性が良い結晶構造であるからと考えられる。
グラス被膜及びグラス被膜と母材鋼板との境界領域において、Cubicタイプの硫化物の個数密度が0.001個/μm未満では、本実施形態の成分系ではCubicタイプではない硫化物が存在することになり、鉄損特性が劣化する。一方、Cubicタイプの硫化物の個数密度が10.00個/μmを超えても鉄損特性は劣化する。本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、析出物の結晶構造を制御することで、析出物の悪影響を最小化するが、Cubicタイプの硫化物の個数密度が10.00個/μmを超えた場合、結晶構造制御の如何に依らず磁気特性は劣化してしまう。好ましい範囲は0.003~5.00個/μm、より好ましい範囲は0.005~1.00個/μmである。
Cubicタイプの硫化物は、後述するように仕上げ焼鈍のヒートサイクルを制御して硫化物の結晶構造を変化させることによって生成する。
Cubicタイプの硫化物の個数密度は、グラス被膜及びグラス被膜と母材鋼板との境界領域に対し、透過型電子顕微鏡(TEM)の電子線回折でCubicタイプの硫化物の有無を調査した後、TEMにより観察した画像に含まれるCubicタイプの硫化物の個数密度をカウントすればよい。個数密度の算出方法を以下に述べる。
観察倍率は指定しないが、例えば3000倍で硫化物の個数をカウントする。測定範囲は図1に示すように、板厚方向の断面で、サンプル表面からグラス被膜2と母材鋼板(地鉄)1との境界領域Bを含む。「境界領域」Bとは、グラス被膜2と母材鋼板1との界面を含む領域であり、母材鋼板1への嵌入構造を有したグラス被膜2の母材鋼板1側の最端部21と張力付与性絶縁被膜3側の最端部22とに挟まれる領域である。具体的には上記倍率にて、ランダムで10視野以上を観察し、各視野で観察された硫化物4の個数密度の平均値として算出する。観察視野は10視野以上であれば何視野でも良く、視野数が多いほど、評価精度が上がるが、20視野超観察をしても、評価精度の顕著な改善は望めない。従って、Cubicタイプの硫化物4の個数密度は10~20視野観察結果の平均値として評価する。個数密度とは単位面積当たりの硫化物個数である。したがって硫化物個数を面積で割る必要がある。ただし、ここでいう面積は視野全体ではなく、以下に示す被膜/地鉄界面面積である。被膜/地鉄界面の面積の導出について述べる。観察視野において、もっとも深い位置(母材鋼板側)に存在するグラス被膜の最端部を21特定する。図1に示すように、前記最端部21の底部からサンプル表面側(張力付与性絶縁被膜側)に亘る4μmを界面位置として定義する。次いで、観察視野の左右端部の長さを計測する。例えば図1では左右端部の長さは40μmである。そのため、この例では、界面面積は160μmとなる。この視野において、Cubicタイプの硫化物が5個観察された場合は、個数密度は0.03個/μmとなる。視野数10の測定結果であれば、この計算を異なる視野で10回繰り返し、得られた個数密度の平均値を求める。
グラス被膜かどうかの判断は、電子顕微鏡観察によれば、地鉄と色調が異なるため、目視判断も可能だが、電子線回折によって判断可能である。グラス被膜はMgSiO、MgAlを含むため、例えば、JCPDSカード番号の074-1678、034-189、または021-1152等で解析可能な電子線回折が得られれば、その部位がグラス被膜であると判断できる。電子線回折は物質同定を目的として実施するため、電子線回折の際の観察倍率は限定しない。
<方向性電磁鋼板のCe、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La、Zrの合計含有量が、母材鋼板のCe、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La、Zrの合計含有量の1.5倍以上10.0倍以下>
本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、方向性電磁鋼板のCe、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La、Zrの合計含有量が、母材鋼板のCe、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、Laの合計含有量の1.5倍以上であることは、母材鋼板ではなく、一次被膜に含まれるCe、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La、Zrが多いことを意味する。すなわち、この場合、被膜密着性がより向上するので好ましい。
一方で、10.0倍超であると、磁束密度の低下が懸念される。この原因は不明であるが、これらの元素はインヒビターであるMnSやAlNの熱的安定性を低下させる効果があり、二次再結晶を不安定にさせるためと考えられる。そのため、方向性電磁鋼板のCe、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La、Zrの合計含有量が、母材鋼板のCe、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、Laの合計含有量の10.0倍以下であることが好ましい。
母材鋼板および方向性電磁鋼板のCe、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La、Zrの合計含有量は、以下の方法で求めることができる。
母材鋼板における上記元素の合計含有量は、上述したように、先ず張力付与性絶縁被膜を除去し、次いでグラス被膜を除去した方向性電磁鋼板(母材鋼板)に対して、ICP-AESを実施して、化学組成の元素分析を実施することで、得られる。
一方、方向性電磁鋼板(地鉄(母材鋼板)、一次被膜(グラス被膜)及び二次被膜(張力付与性絶縁被膜)を備える)におけるCe、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La、Zrの合計含有量については上述したような被膜除去処理を実施せず、ドリルを用いて、方向性電磁鋼板の全厚から切粉を生成し、その切粉を採取する。採取された切粉を酸に溶解させた溶解液を得る。溶解液に対して、ICP-AESを実施して、化学組成の元素分析を実施することで得られる。
<製造方法>
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、以下の工程を含む製造方法によって製造できる。
(i)質量%で、C:0.010~0.200%、Si:3.00~3.80%、Sol-Al:0.010~0.050%、Mn:0.01~0.50%、N:0.020%以下、S:0.005~0.050%、Cu:0~0.50%、Cr:0~0.50%、Sn:0~0.50%、Se:0~0.020%、Sb:0~0.50%、Bi:0~0.020%、Mo:0~0.50%、残部:Fe及び不純物を含有する鋼片を加熱する加熱工程
(ii)前記鋼片を熱間圧延して熱延鋼板を得る熱間圧延工程
(iii)前記前記熱延鋼板を焼鈍して、熱延焼鈍鋼板を得る熱延板焼鈍工程
(iv)前記熱延焼鈍鋼板に対し、一回の冷間圧延、又は、中間焼鈍をはさむ複数回の冷間圧延を施して、板厚が0.18~0.22mmの冷延鋼板を得る冷間圧延工程
(v)前記冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を施して、脱炭焼鈍鋼板を得る脱炭焼鈍工程
(vi)前記脱炭焼鈍鋼板に対して焼鈍分離剤を塗布した後に、仕上げ焼鈍を行って仕上げ焼鈍鋼板を得る仕上げ焼鈍工程
(vii)前記仕上げ焼鈍鋼板の表面に絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程
以下、これら工程について、詳細に説明する。以下の説明において、各工程における何らかの条件が記載されていない場合には、公知の条件を適宜適用して各工程を行うことが可能である。
<加熱工程>
加熱工程では、続く熱間圧延工程に先立って所定の化学組成を有する鋼片(スラブ等)を加熱する。加熱温度は、1100~1450℃の範囲内とすることが好ましい。加熱温度が1100℃を下回ると、続く熱間圧延が困難になり、生産に悪影響を及ぼす。一方、1450℃超で加熱すると、スラブ等が溶融してしまい、熱間圧延が困難になる。良好な磁束密度を得るためのより好ましい加熱温度は、1300℃以上1400℃以下である。この温度範囲に制御することでインヒビターが鋼中に均一に分散できるようになる。
<鋼片の化学組成について>
加熱工程に供される鋼片の化学組成について、以下で簡単に説明する。以下の説明において、特に断りのない限り、「%」の表記は「質量%」を表わすものとする。
C:0.010~0.200%
C(炭素)は、磁束密度の改善効果を示す元素であるが、鋼片のC含有量が0.200%を超える場合には、二次再結晶焼鈍(すなわち、仕上げ焼鈍)において鋼が相変態し、二次再結晶が十分に進行せず、良好な磁束密度と低い鉄損とが得られない。そのため、鋼片のC含有量を0.200%以下とする。C含有量が少ないほど鉄損低減にとって好ましい。鉄損低減の観点から、C含有量は、好ましくは0.150%以下であり、より好ましくは0.100%以下である。
一方、鋼片のC含有量が0.010%未満である場合には、磁束密度の改善効果を得ることができない。従って、鋼片のC含有量は、0.010%以上とする。C含有量は、好ましくは0.040%以上であり、より好ましくは0.060%以上である。
Si:3.00~3.80%
Si(ケイ素)は、鋼の電気抵抗(比抵抗)を高めて鉄損の一部を構成する渦電流損を低減するのに、極めて有効な元素である。鋼片のSi含有量が3.00%未満である場合には、二次再結晶焼鈍において鋼が相変態して、二次再結晶が十分に進行せず、良好な磁束密度と低い鉄損とが得られない。そのため、鋼片のSi含有量は3.00%以上とする。鋼片のSi含有量は、好ましくは3.10%以上であり、より好ましくは3.20%以上である。
一方、Si含有量が3.80%を超える場合には、鋼板が脆化し、製造工程での通板性が顕著に劣化する。そのため、鋼片のSi含有量は3.80%以下とする。鋼片のSi含有量は、好ましくは3.60%以下であり、より好ましくは3.50%以下である。
Sol-Al:0.010~0.050%
酸可溶性アルミニウム(Sol-Al)は、方向性電磁鋼板において二次再結晶を左右するインヒビターと呼ばれる化合物のうち、主要なインヒビターの構成元素であり、本実施形態に係る母材鋼板において、二次再結晶発現の観点から必須の元素である。鋼片のSol-Al含有量が0.010%未満である場合には、インヒビターとして機能するAlNが十分に生成せず、二次再結晶が不十分となって、鉄損特性が向上しない。そのため、鋼片において、Sol-Al含有量は、0.010%以上とする。Sol-Al含有量は、好ましくは、0.015%以上であり、より好ましくは0.020%である。
一方、Sol-Al含有量が0.050%を超える場合には、鋼板の脆化が顕著となる。そのため、鋼片のSol-Al含有量は、0.050%以下とする。Sol-Al含有量は、好ましくは0.040%以下であり、より好ましくは0.030%以下である。
Mn:0.01~0.50%
Mn(マンガン)は、主要なインヒビターの一つであるMnSを形成する、重要な元素である。鋼片のMn含有量が0.01%未満である場合には、二次再結晶を生じさせるのに必要なMnSの絶対量が不足する。そのため、鋼片のMn含有量は、0.01%以上とする。Mn含有量は、好ましくは0.03%以上であり、より好ましくは0.06%以上である。
一方、鋼片のMn含有量が0.50%を超える場合には、二次再結晶焼鈍において鋼が相変態し、二次再結晶が十分に進行せず、良好な磁束密度と低い鉄損とが得られない。そのため、鋼片のMn含有量は、0.50%以下とする。Mn含有量は、好ましくは0.40%以下であり、より好ましくは0.30%以下である。
N:0.020%以下
N(窒素)は、上記の酸可溶性Alと反応して、インヒビターとして機能するAlNを形成する元素である。鋼片のN含有量が0.020%を超える場合には、冷間圧延時、鋼板中にブリスター(空孔)が生じるうえに、鋼板の強度が上昇し、製造時の通板性が悪化する。そのため、鋼片のN含有量を0.020%以下とする。N含有量は、好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.010%以下である。AlNをインヒビターとして活用しないのであれば、N含有量の下限値は0%を含みうる。しかしながら、化学分析の検出限界値が0.0001%であるため、実用鋼板において、実質的なN含有量の下限値は、0.0001%である。一方、Alと結合して、インヒビターとして機能するAlNを形成するためには、鋼片のN含有量は0.001%以上であることが好ましく、0.005%以上であることがより好ましい。
S:0.005~0.050%
S(硫黄)は、上記Mnと反応することで、インヒビターであるMnSを形成する重要な元素である。鋼片のS含有量が0.005%未満である場合には、十分なインヒビター効果を得ることができない。そのため、鋼片のS含有量を0.005%以上とする。S含有量は、好ましくは0.010%以上であり、より好ましくは0.020%以上である。
一方、鋼片のS含有量が0.050%を超える場合には、熱間脆性の原因となり、熱間圧延が著しく困難となる。そのため、鋼片のS含有量は0.050%以下とする。S含有量は、好ましくは0.040%以下であり、より好ましくは0.030%以下である。
残部:Fe及び不純物
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造に用いる鋼片の化学組成は、上述の元素を含有し、残部は、Fe及び不純物であることを基本とする。しかしながら、磁気特性を高めることを目的として、さらにCu、Cr、Sn、Se、Sb、Bi、Moを以下に示す範囲で含有してもよい。
ここで、不純物とは、原料としての鉱石、スクラップ、又は、製造環境などから混入するものであり、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の作用に悪影響を及ぼさない含有量で含有することを許容される元素を意味する。
Cu:0~0.50%
Cu(銅)は、二次再結晶の組織におけるGoss方位占有率の増加に寄与するとともに、グラス被膜の密着性の向上に寄与する元素である。そのため、含有させてもよい。上記効果を得る場合、Cu含有量を0.01%以上とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上である。
一方、Cu含有量が0.50%を超える場合には、熱間圧延中に鋼板が脆化する。そのため、鋼片のCu含有量を0.50%以下とする。Cu含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
Cr:0~0.50%
Cr(クロム)は、後述するSn及びCuと同様に、二次再結晶組織におけるGoss方位占有率の増加に寄与して磁気特性を向上させるとともに、グラス被膜の密着性の向上に寄与する元素である。そのため、含有させてもよい。上記効果を得るためには、Cr含有量を、0.01%以上とすることが好ましく、0.02%以上とすることがより好ましく、0.03%以上とすることがさらに好ましい。
一方、Cr含有量が0.50%を超える場合には、Cr酸化物が形成され、磁気特性が低下する。そのため、Cr含有量は、0.50%以下とする。Cr含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
Sn:0~0.50%
Sn(スズ)は、磁気特性改善効果を有する元素である。そのため、含有させてもよい。Snを含有させる場合は、磁気特性改善効果を良好に発揮するべく、Sn含有量を0.01%以上とすることが好ましい。磁気特性と被膜密着性との両立を考慮すると、Sn含有量は、好ましくは0.02%以上であり、より好ましくは0.03%以上である。
一方、Sn含有量が0.50%を越えると、グラス被膜が顕著に劣化し、かつ磁区細分化に十分な張力が得られないので、鉄損特性が劣化する。従って、Sn含有量を0.50%以下とする。Sn含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
Se:0~0.020%
Se(セレン)は、磁気特性改善効果を有する元素である。そのため、含有させてもよい。Seを含有させる場合は、磁気特性改善効果を良好に発揮するべく、Se含有量を0.001%以上とすることが好ましい。磁気特性と被膜密着性との両立を考慮すると、Se含有量は、より好ましくは0.003%以上であり、さらに好ましくは0.006%以上である。
一方、Se含有量が0.020%を越えると、グラス被膜が著しく劣化する。従って、Se含有量を0.020%以下とする。Se含有量は、好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.010%以下である。
Sb:0~0.50%
Sb(アンチモン)は、磁気特性改善効果を有する元素である。そのため、含有させてもよい。Sbを含有させる場合は、磁気特性改善効果を良好に発揮するべく、Sb含有量を0.005%以上とすることが好ましい。磁気特性と被膜密着性との両立を考慮すると、Sb含有量は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.01%以上である。
一方、Sb含有量が0.50%を越えると、グラス被膜が顕著に劣化する。従って、Sb含有量を0.50%以下とする。Sb含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
Bi:0~0.020%
Bi(ビスマス)は、磁気特性を向上させる効果を有する元素である。そのため含有させてもよい。Biは任意元素である。Biを含有させる場合は、磁気特性向上効果を良好に発揮するべく、Bi含有量を、0.0005%以上とすることが好ましく、0.001%以上とすることがより好ましい。
一方、Biの含有量が0.020%を超えると、冷延時の通板性が劣化することがある。そのため、Bi含有量は0.020%以下とする。また、仕上げ焼鈍時の純化が不十分で最終製品にBiが不純物として過剰に残留すると、磁気特性に悪影響を及ぼすことがある。そのため、Bi含有量は、好ましくは0.015%以下、より好ましくは0.010%以下である。
Mo:0~0.50%
Mo(モリブデン)は、磁気特性改善効果を有する元素である。そのため、含有させてもよい。Moを含有させる場合は、磁気特性改善効果を良好に発揮するべく、Mo含有量を0.01%以上とすることが好ましい。Mo含有量は、より好ましくは0.02%以上であり、さらに好ましくは0.03%以上である。
一方、Mo含有量が0.50%を越えると、冷間圧延性が劣化し破断に至る可能性がある。従って、Mo含有量を0.50%以下とする。Mo含有量は、好ましくは0.30%以下であり、より好ましくは0.10%以下である。
以上のような化学成分を有する鋼片は、以下で詳述するような工程を経て方向性電磁鋼板となった場合、炭素(C)、酸可溶性アルミニウム(Sol-Al)、窒素(N)、及び、硫黄(S)、Bi(ビスマス)以外の成分については、概ね鋼片の際と同様の含有量が保持される。一方、炭素(C)、酸可溶性アルミニウム(Sol-Al)、窒素(N)、及び、硫黄(S)、Bi(ビスマス)については、以下で詳述するような工程を経ることで、含有量が変化し得る。
<熱間圧延工程>
熱間圧延工程は、加熱された鋼片を熱間圧延して熱延鋼板とする工程である。熱間圧延条件については、特に限定されず、求められる特性に基づいて適宜設定すればよい。熱延鋼板の板厚は、例えば、2.0mm以上3.0mm以下の範囲内であることが好ましい。
<熱延板焼鈍工程>
熱延板焼鈍工程は、熱間圧延工程を経て製造された熱延鋼板を焼鈍して、熱延焼鈍鋼板とする工程である。このような焼鈍処理を施すことで、鋼板組織に再結晶が生じ、良好な磁気特性を実現することが可能となる。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法における熱延板焼鈍工程では、公知の方法に従い、熱間圧延工程を経て製造された熱延鋼板を焼鈍して、熱延焼鈍鋼板とすればよい。焼鈍に際して熱延鋼板を加熱する手段については、特に限定されるものではなく、公知の加熱方式を採用することが可能である。また、焼鈍条件についても、特に限定されるものではないが、例えば、熱延鋼板に対して、900~1200℃の温度域で10秒~5分間の焼鈍を行うことができる。
<冷間圧延工程>
冷間圧延工程は、熱延板焼鈍後の熱延焼鈍鋼板に対して、複数のパスを含む冷間圧延を実施し、板厚が0.18~0.22mmの冷延鋼板を得る工程である。上記のような熱延板焼鈍を施した場合、鋼板形状が良好になるため、1回目の圧延における鋼板破断の可能性を軽減することができる。また、冷間圧延工程では、複数のパスの間で、例えば最終パスの前に、冷延を中断し、1回または2回以上の中間焼鈍を実施しても良い。
中間焼鈍を行う場合、1000~1200℃の温度で5秒以上180秒以下の焼鈍とすることが好ましく、雰囲気は特には限定されない。中間焼鈍の回数は製造コストを考慮すると3回以内が好ましい。
中間焼鈍を挟まない冷間圧延方法を冷延1回法、1回の中間焼鈍を挟む冷間圧延方法を冷延2回法と呼ぶことがある。
また、冷間圧延工程の前に、熱延鋼板の表面に対して酸洗を施してもよい。
本実施形態における冷間圧延工程では、公知の方法に従い、熱延焼鈍鋼板を冷間圧延し、冷延鋼板とすればよい。例えば、累積圧下率は、80%以上95%以下の範囲内とすることが好ましい。累積圧下率が80%未満である場合には、{110}<001>方位が圧延方向に高い集積度をもつGoss核を得ることができない可能性が高くなり、好ましくない。一方、累積圧下率が95%を超える場合には、後段の仕上げ焼鈍工程において、二次再結晶が不安定となる可能性が高くなるため、好ましくない。累積圧下率を上記範囲内とすることにより、{110}<001>方位が圧延方向に高い集積度をもつGoss核を得るとともに、二次再結晶の不安定化を抑制することができる。
本実施形態において、累積圧下率は、中間焼鈍を含まない場合には、冷間圧延の累積圧下率であり、1回または2回以上の中間焼鈍を含む場合には、最終の中間焼鈍を実施した後のパスにおける累積圧下率である。
ここで、冷間圧延が施された冷延鋼板の板厚(冷延後の板厚)は、通常、最終的に製造される方向性電磁鋼板の板厚(張力付与性絶縁被膜の厚みを含めた製品板厚)と異なる。方向性電磁鋼板の製品板厚については、先だって言及した通りである。
上記のような冷間圧延工程に際して、磁気特性をより一層向上させるために、エージング処理を与えることも可能である。冷間圧延が複数のパスを含む場合、最終パスの前のいずれかの途中の段階において、鋼板に対し100℃以上の温度範囲で1分以上の時間保持する熱効果を与えることが好ましい。かかる熱効果により、後段の脱炭焼鈍工程において、より優れた一次再結晶集合組織を形成させることが可能となり、ひいては、後段の仕上げ焼鈍工程において、{110}<001>方位が圧延方向に揃った良好な二次再結晶組織を十分に発達させることが可能となる。
<脱炭焼鈍工程>
脱炭焼鈍工程は、得られた冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を行って、脱炭焼鈍鋼板とする工程である。脱炭焼鈍では、冷延鋼板を一次再結晶させるととともに、磁気特性に悪影響を及ぼすCを鋼板から除去する。
脱炭焼鈍条件は限定されないが、例えば、焼鈍雰囲気(炉内雰囲気)における酸化度(PHO/PH)を0.3~0.6として、焼鈍温度800~900℃で、10~600秒保持を行うことが例示される。
また、脱炭焼鈍における昇温過程では、550~750℃における平均昇温速度を500~1000℃/sに制御することが好ましい。この温度域の昇温速度を高めることで、磁気特性に有利なGoss方位が増加し、鉄損改善に繋がる。昇温速度が大きい方がGoss方位は増加する傾向にあるものの、他工程との組合せによって最適な昇温速度が存在するので、一定の昇温速度を超えても、顕著な磁気特性改善は期待できない場合がある。昇温速度は、より好ましくは700~1000℃/s、さらに好ましくは800~1000℃/sである。
また、脱炭焼鈍における昇温過程では、焼鈍温度が800℃以上の場合に、750~800℃における平均昇温速度を1000~2000℃/sに制御することが好ましい。
この温度範囲の昇温速度を制御することで脱炭阻害層であるSiO酸化膜の過剰な生成が抑制される。その結果、脱炭が促進され、良好な鉄損特性が得られる。SiO酸化膜の過剰生成の観点で昇温速度は大きいほど良い。平均昇温速度を1000℃/s以上とすれば改善効果は顕著である。一方で平均昇温速度が2000℃/sを超えてもSiO酸化膜の過剰生成回避の効果は飽和してしまうばかりか、オーバーシュートといって、一時的であっても鋼板温度が過剰に高温化した結果、鋼板内のインヒビターが一部飽和してしまう恐れがある。この場合、二次再結晶不安定化の原因となる。そのため、平均昇温速度は2000℃/s以下とする。平均昇温速度は、より好ましくは、1200~1800℃/s、さらに好ましくは1300~1600℃/sである。
また、脱炭焼鈍における昇温過程では、焼鈍温度が800℃以上の場合に、550~800℃における焼鈍雰囲気露点を0℃以下に制御することが好ましい。この温度範囲の焼鈍雰囲気露点を0℃以下に制御することで、SiO以外のFeSiOやFeO等の酸化膜の生成が抑制される。SiO以外のFe系酸化物は磁気特性に悪影響するので、550~800℃における焼鈍雰囲気露点は0℃以下とすることが好ましい。焼鈍雰囲気露点が0℃以下であれば、雰囲気は特に限定しないが、例えば、窒素または水素、あるいは窒素と水素との混合ガスが例示される。露点が低いほど、脱炭改善効果は得られるが、-50℃以下では脱炭改善効果が頭打ちになる可能性がある。したがって、雰囲気露点は、より好ましくは-30~0℃、さらに好ましくは-50~0℃である。
また、前記脱炭焼鈍の後、さらに、焼鈍雰囲気(炉内雰囲気)における酸化度(PHO/PH)を0.1以下に制御し、焼鈍温度900℃以上で、第2の脱炭焼鈍を実施しても良い。第2の脱炭焼鈍を実施することで、一次被膜形成の阻害因子となる、FeとSiとの化合物が還元され、被膜密着性の向上が期待できる。第2の脱炭焼鈍を行う場合、第1の脱炭焼鈍後、一度室温に冷却した後に第2の脱炭焼鈍を実施しても良いし、第1の脱炭焼鈍後、冷却を経ずして、第2の脱炭焼鈍を実施しても良い。
<窒化処理工程>
脱炭焼鈍工程と後述する仕上げ焼鈍工程との間に窒化処理を行ってもよい。窒化処理工程では、例えば脱炭焼鈍鋼板を窒化処理雰囲気(水素、窒素、及びアンモニア等の窒化能を有するガスを含有する雰囲気)内で700~850℃程度に維持する。ここで、脱炭焼鈍鋼板のN含有量が40ppm以上1000ppm以下となるように、鋼板に窒化処理を施すことが好ましい。窒化処理後の脱炭焼鈍鋼板のN含有量が40ppm未満では脱炭焼鈍鋼板内にAlNが十分に析出せず、AlNがインヒビターとして機能しない可能性がある。このため、AlNをインヒビターとして活用する場合、脱炭焼鈍鋼板のN含有量は40ppm以上とすることが好ましい。一方、脱炭焼鈍鋼板のN含有量が1000ppm超となった場合、仕上げ焼鈍において二次再結晶完了後も鋼板内に過剰にAlNが存在する。このようなAlNは鉄損特性劣化の原因となる。このため、N含有量は1000ppm以下とすることが好ましい。
窒化処理工程は、上述した第1の脱炭焼鈍工程の後と第2の脱炭焼鈍工程の間に行い、その後に仕上げ焼鈍工程を実施しても良い。また、第1の脱炭焼鈍工程の後、窒化処理工程を実施し、第2の脱炭焼鈍工程を経ずして仕上げ焼鈍を実施しても良い。また、第1の脱炭焼鈍工程に続く第2の脱炭焼鈍工程の後、窒化処理工程を実施し、仕上げ焼鈍工程を実施しても良い。
<仕上げ焼鈍工程>
仕上げ焼鈍工程は、脱炭焼鈍工程で得られた、またはさらに窒化処理が行われた、脱炭焼鈍鋼板に対して所定の焼鈍分離剤を塗布した後に、仕上げ焼鈍を施し、仕上げ焼鈍鋼板とする工程である。仕上げ焼鈍は、一般に、鋼板をコイル状に巻いた状態において、長時間行われる。従って、仕上げ焼鈍に先立ち、コイルの巻きの内と外との焼付きの防止を目的として、焼鈍分離剤を脱炭焼鈍鋼板に塗布し、乾燥させる。
塗布する焼鈍分離剤として、MgOを主成分とする(例えば重量分率で80%以上含む)焼鈍分離剤であって、質量%での、焼鈍分離剤中のCe、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La及び/またはZrの、酸化物、水酸化物、硫酸塩、または炭酸塩のうちの何れか1種または2種以上の合計含有量が、0.5~10.0質量%である焼鈍分離剤を用いる。
MgOを主成分とする(80%以上含む)焼鈍分離剤を用いることで、母材鋼板の表面にグラス被膜を形成することができる。MgOを主成分としない場合には、一次被膜(グラス被膜)は形成されない。なぜならば、グラス被膜はMgSiOまたはMgAl化合物であって、生成反応に必要なMgが欠乏するからである。
また、焼鈍分離剤中のCe、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La及び/またはZrの、酸化物、水酸化物、硫酸塩、または炭酸塩のうちの何れか1種または2種以上の合計含有量の比が、0.5質量%未満であると、被膜密着性の向上効果が得られない。一方、10.0質量%超であると、MnSのSをこれらの元素が奪ってしまい、MnSの溶解温度が下がってしまう。その結果、二次再結晶開始温度が低下し、磁気特性不良の一因となってしまう。被膜密着性改善の観点から、好ましい範囲は3.0~8.0%である。
上述した、焼鈍分離剤中のCe、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La及び/またはZrの、酸化物、水酸化物、硫酸塩及び/または炭酸塩の、平均粒径は20μm以下であることが好ましい。平均粒径が20μm超であると、粒子の表面積が少ないため、グラス被膜の形成のための反応性が充分でなく、Ce、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、Zr及び/またはZrの、酸化物、水酸化物、硫酸塩及び/または炭酸塩の、含有効果が得られないことが懸念される。
焼鈍分離剤は、さらに、Ti化合物として、Tiの酸化物、炭化物、または窒化物のうちの何れか1種または2種以上を含み、焼鈍分離剤中の、質量%での、Ti化合物の合計含有量が、0.5~10.0であり、Ti化合物の平均粒径が20μm以下であることが好ましい。
上記の平均粒径のTi化合物を上記の範囲で含有する焼鈍分離剤を用いることで、グラス被膜形成反応が促進され、良好な被膜密着性が確保できる。
焼鈍分離剤が塗布された脱炭焼鈍鋼板は、仕上げ焼鈍に供される。仕上げ焼鈍では、脱炭焼鈍鋼板を、昇温中の700~900℃の温度範囲の平均加熱速度が13~30℃/hrとなるように昇温し、かつ1000~1300℃の温度で40時間以上保持する。仕上げ焼鈍において、1300℃超に加熱してしまうと、鋼板コイル自重で形状不良が発生してしまう。一方、保持温度が1000℃未満であると、熱的に安定な結晶構造であるCubic構造への結晶構造変化に必要な熱エネルギーが足りず、構造制御が充分でないばかりか、本来は系外に排出されるべきNが鋼中に残留し、磁気特性が劣化する。ここで1000~1300℃の温度で40時間以上保持するとは、必ずしも等温保持を意味するものではなく、温度変化があったとしても鋼板が1000~1300℃の温度範囲に40時間以上滞留すればよい。好ましくは100時間以下である。
また、700~900℃の温度範囲の平均加熱速度が13℃/hr未満であると、MgAl生成反応とMgSiO生成反応とが競合してしまう。この両者が競合した結果、MgSiO生成量は少なくなり、地鉄に対するMgSiOの嵌入構造は未発達となり、被膜密着性が劣化する。被膜密着性が劣化した場合、鋼板に十分な被膜張力が存在しないので、磁気特性が劣化する。昇温速度が大きいと、900℃以上でのインヒビターの熱分解が阻害されるため、二次再結晶不良である細粒現象を引き起こす。細粒現象が発生した場合は、Goss方位の優先成長が得られないため、磁束密度、鉄損特性共に劣化する。このため平均加熱速度の上限は30℃/hrとする。
<絶縁被膜形成工程>
絶縁被膜形成工程は、仕上げ焼鈍後の仕上げ焼鈍鋼板の片面又は両面に対し、張力付与性絶縁被膜を形成する工程である。絶縁被膜形成工程については、特に限定されるものではなく、下記のような公知の絶縁被膜処理液を用いて、公知の方法により処理液の塗布及び乾燥を行えばよい。鋼板表面に張力付与性絶縁被膜を形成することで、方向性電磁鋼板の磁気特性を更に向上させることが可能となる。
絶縁被膜が形成される鋼板の表面は、処理液を塗布する前に、アルカリなどによる脱脂処理や、塩酸、硫酸、リン酸などによる酸洗処理など、任意の前処理を施された表面であってもよいし、これら前処理が施されない仕上げ焼鈍後のままの表面であってもよい。
鋼板の表面に形成される絶縁被膜は、方向性電磁鋼板の絶縁被膜として用いられるものであれば、特に限定されるものではなく、公知の絶縁被膜を用いることが可能である。このような絶縁被膜として、例えば、無機物を主体とし、更に有機物を含んだ複合絶縁被膜を挙げることができる。ここで、複合絶縁被膜とは、例えば、クロム酸金属塩、リン酸金属塩又はコロイダルシリカ、Zr化合物、Ti化合物等の無機物の少なくとも何れかを主体とし、微細な有機樹脂の粒子が分散している絶縁被膜である。特に、近年ニーズの高まっている製造時の環境負荷低減の観点からは、リン酸金属塩やZrあるいはTiのカップリング剤、又は、これらの炭酸塩やアンモニウム塩を出発物質として用いた絶縁被膜が好ましく用いられる。
また、上記のような絶縁被膜形成工程に続いて、形状矯正のための平坦化焼鈍を施しても良い。鋼板に対して平坦化焼鈍を行うことで、更に鉄損を低減させることが可能となる。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法では、仕上げ焼鈍工程、又は、絶縁被膜形成工程後に、磁区細分化処理を行ってもよい。磁区細分化処理は、方向性電磁鋼板の表面に、磁区細分化効果のあるレーザー光を照射したり、表面に溝を形成したりする処理である。かかる磁区細分化処理により、より一層磁気特性に優れる方向性電磁鋼板を製造することができる。
以上説明したような工程を経ることで、本実施形態に係る方向性電磁鋼板を製造することができる。
つぎに、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
表1の鋼番号(A1~A33)毎に化学組成が異なる鋼片を準備した。
次いで、各鋼片を用いて、方向性電磁鋼板(試験番号B1~B42、b1~b23)を製造した。
具体的には、各鋼片を1350±100℃の範囲内の温度に加熱した後、鋼片を熱間圧延し、これにより、板厚2.3±0.3mmの熱延鋼板を作製した。この際、試験番号b11では、熱間圧延時に鋼片が破断した。このため、試験番号b11では以後の工程及び試験は行わず、磁気特性評価をNGとした。
次いで、b11以外の得られた熱延鋼板に対して熱延板焼鈍を実施した。具体的には、熱延鋼板を焼鈍温度1100±100℃、保持時間10~200秒で焼鈍した。これにより、熱延焼鈍鋼板を作製した。
次いで、熱延焼鈍鋼板に対して冷間圧延工程を実施することで、母材板厚0.18~0.22mmの冷延鋼板を作製した。ここで、B1~B29、B37~B42およびb1~b23については、中間焼鈍を含まない冷間圧延を行い(冷延1回法)、B30~B33については熱延焼鈍鋼板を1.5mmに冷間圧延後、1100±100℃で30秒の中間焼鈍を挟み、中間焼鈍後にさらに冷間圧延を行って最終板厚を得た。B34、B35については熱延焼鈍鋼板を2.0mmに冷間圧延後、1100±100℃で30秒の中間焼鈍を挟み、2回目の冷間圧延を経て最終板厚を得た。B36、B37については熱延焼鈍鋼板を1.0mmに冷間圧延後、1200±100℃で20秒の中間焼鈍を挟み、2回目の冷間圧延を経て最終板厚を得た。比較例b4、b7、b9では、冷間圧延時に熱延焼鈍鋼板が破断した。このため、比較例b4、b7、b9では以後の工程及び試験は行わず、磁気特性評価をNGとした。
次いで、冷延鋼板に対して脱炭焼鈍工程を実施して脱炭焼鈍鋼板を得た。本脱炭焼鈍工程の加熱工程における昇温速度および焼鈍雰囲気露点は表3-1~表3-6の条件に制御した。また、脱炭焼鈍の均熱工程では820±20℃の温度で120±20秒実施した。その際の酸化度(PHO/PH)=0.4±0.1に制御した。
次いで、脱炭焼鈍鋼板に対して仕上げ焼鈍工程を実施した。具体的には、脱炭焼鈍鋼板の表面に酸化マグネシウム(MgO)を主成分(重量分率で80%以上)とする焼鈍分離剤を塗布した。焼鈍分離剤には表3-1~表3-6に記載の添加剤を含有させた。
次いで、焼鈍分離剤が塗布された脱炭焼鈍鋼板を1000~1300℃の温度範囲の滞留時間が表3-1~表3-6に記載の条件となるよう制御し、仕上げ焼鈍鋼板を作製した。
次いで、仕上げ焼鈍鋼板に対して絶縁被膜形成工程を実施した。具体的には、仕上げ焼鈍鋼板の表面(より詳細には、一次被膜であるグラス被膜の表面)に、コロイダルシリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁被膜形成液を塗布して熱処理(焼付)した。
以上の工程により、各試験番号の方向性電磁鋼板を作製した。それぞれの化学組成は、表2-1~表2-3に示す通りであった。(b4、b7、b9、b11は化学組成の分析を行っていない。)
得られた方向性電磁鋼板について、各試験番号の方向性電磁鋼板の磁気特性を評価した。具体的には、まず、各試験番号の方向性電磁鋼板から、当該方向性電磁鋼板の板幅中央位置を含む、幅60mm×長さ300mmのサンプルを採取した。サンプルの長さ方向は、圧延方向に平行とした。採取されたサンプルを露点0℃以下の窒素雰囲気で800℃、2時間保持した。これにより、サンプル採取時に導入された歪を除去した。
次いで、歪除去後のサンプルを用いて、JIS C2556:2011に準拠して、単板磁気特性試験(SST試験)により、磁束密度(T)を求めた。具体的には、サンプルに800A/mの磁場を付与して、磁束密度B(T)を求めた。測定結果を表3-1~表3-6に示す。
800A/mの磁場印加時の磁束密度が1.88T以上となるサンプルには二次再結晶が発現した(より詳細にはゴス方位粒が高度に揃った二次再結晶組織が形成された)と判断した。そして、二次再結晶が発現したサンプルの鉄損を以下の方法で評価した。磁束密度が1.88T未満となったサンプルに関しては、W17/50もNGと評価した。
さらに、上記サンプルを用いて、JIS C2556:2011に準拠して、周波数を50Hz、最大磁束密度を1.7Tとしたときの鉄損W17/50(W/kg)を測定し、次の様に評価した。
VG(優れる) :0.85未満
G(やや優れる) :0.85~0.90未満
F(効果がある) :0.90~0.95
NG(効果がない):0.95超え
測定結果を表3-1~表3-6に示す。
さらに、被膜密着性の評価試験を以下の方法で行った。各試験番号の方向性電磁鋼板の板幅中央位置から、圧延方向に80mm×板幅方向に30mmのサンプルを採取した。採取したサンプルを、直径10mmの円筒に巻き付けて180°曲げた。その後、曲げたサンプルを元の平坦な状態に戻した後、剥離せずに残っているグラス被膜の総面積を求めた。求めたグラス被膜の総面積を用いて、以下の式により、グラス被膜残存率(%)を求めた。
グラス被膜残存率(%)=剥離せずに残ったグラス被膜の総面積/サンプルの総面積(80mm×30mm)×100
得られたグラス被膜残存率に応じて、グラス被膜の密着性を、次のとおり評価した。評価結果を表3-1~表3-6に示す。
VG(優れる) :被膜残存面積率が90%以上
G(やや優れる) :被膜残存面積率が85%以上90%未満
F(効果がある) :被膜残存面積率が80%以上85%未満
NG(効果がない):被膜残存面積率が80%未満
測定結果を表3-1~表3-6に示す。
表1~表3-6から分かるように、本発明例であるB1~B42では、優れたグラス被膜の密着性、高い磁束密度、低い鉄損が得られた。一方、比較例であるb1~b23については、方向性電磁鋼板が製造できなかった、もしくは、グラス被膜の密着性及び/または鉄損特性が劣位であった。
本発明例であるB1~B42のうち、B13~B16、B23は、鋼片の化学成分が好ましい範囲内だった。その結果、磁気特性評価は「G」であった。
B17~B22、B24~B29、B31~B36は鋼片の化学成分が好ましい範囲内だったことに加え、磁気特性の向上に寄与する選択元素を1種または2種以上含有していた。その結果、磁気特性評価は「VG」であった。
B30は、選択元素は含有されていないものの、冷延工程において中間焼鈍を実施した例であり、磁気特性評価は「VG」であった。
B13、B14は、焼鈍分離剤中にCe、La、Pr、Nd、Ba、Ca、Sr、Zrの酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩のいずれか1種または2種以上に加え、Ti化合物が含有されていた。その結果、被膜密着性は「G」評価であった。
B15~B36は、焼鈍分離剤中にTi化合物が含有されたいたことに加え、焼鈍分離剤中へCe、La、Pr、Nd、Ba、Ca、Sr、Zrの酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩の合計量が好ましい範囲に制御されていた。その結果、被膜密着性は「VG」評価であった。
Figure 2022097004000002
Figure 2022097004000003
Figure 2022097004000004
Figure 2022097004000005
Figure 2022097004000006
Figure 2022097004000007
Figure 2022097004000008
Figure 2022097004000009
Figure 2022097004000010
Figure 2022097004000011
(実施例2)
実施例1で用いた鋼片のうち、鋼番号A13~A16の鋼片を用いて方向性電磁鋼板(C1~C16)を製造した。具体的には、各鋼片を1100±100℃の範囲内の温度に加熱した後、鋼片を熱間圧延し、これにより、板厚2.3±0.3mmの熱延鋼板を作製した。次いで、得られた熱延鋼板に対して熱延鋼板を焼鈍温度1100±100℃、保持時間10~200秒で焼鈍した。これにより、熱延焼鈍鋼板を作製した。
次いで、熱延焼鈍鋼板に対して中間焼鈍を含まない複数パスの冷間圧延を実施することで、母材板厚が0.19mmまたは0.20mmの冷延鋼板を作製した。
次いで、冷延鋼板に対して脱炭焼鈍工程を実施して脱炭焼鈍鋼板を得た。本脱炭焼鈍工程の加熱工程における昇温速度および焼鈍雰囲気は、表4-1~表4-3記載の条件にて実施した。また、脱炭焼鈍の均熱工程では830±20℃の温度で140±20秒実施した。その際の酸化度(PHO/PH)=0.5±0.1に制御した。
次いで、C5~C16については脱炭焼鈍鋼板に対して窒化処理を実施した。また、C9~C12については第1の脱炭焼鈍工程に引き続き、冷却を経ずして第2の脱炭焼鈍工程を実施し、窒化処理を行った。C13~C16は第1の脱炭焼鈍工程後、一度室温に冷却した後、窒化処理を行い、第2の脱炭焼鈍工程を実施した。窒化処理としては、脱炭焼鈍後の鋼板をアンモニアガス雰囲気中、700~800℃の温度で30秒保持した。窒化処理後の母材鋼板におけるN含有量は200~400ppmだった。N含有量については、鋼板を切粉にし、周知の不活性ガス溶融-熱伝導度法を用いて求めた。
次いで、脱炭焼鈍後または窒化処理後の脱炭焼鈍鋼板に仕上げ焼鈍を実施した。具体的には、脱炭焼鈍鋼板の表面に酸化マグネシウム(MgO)を主成分(重量分率で80%以上)とする焼鈍分離剤を塗布した。焼鈍分離剤には表4-1~表4-3に記載の添加剤を含有させた。
次いで、焼鈍分離剤が塗布された脱炭焼鈍鋼板を1000~1300℃の温度範囲の滞留時間が表4-1~表4-3に記載の条件となるよう制御し、仕上げ焼鈍鋼板を作製した。
次いで、仕上げ焼鈍鋼板に対して絶縁被膜形成工程を実施した。具体的には、仕上げ焼鈍鋼板の表面(より詳細には、一次被膜であるグラス被膜の表面)に、コロイダルシリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁被膜形成液を塗布して熱処理(焼付)した。
以上の工程により、各試験番号の方向性電磁鋼板を作製した。
得られたサンプルについては実施例1と同様の方法で磁気特性及び被膜密着性を評価した。
結果を表4-1~表4-3に示す。
Figure 2022097004000012
Figure 2022097004000013
Figure 2022097004000014
表1、表2-1~表2-3及び表4-1~表4-3から分かるように、いずれの方向性電磁鋼板においても、磁気特性及び被膜密着性に優れていた。
1 母材鋼板(地鉄)
2 グラス被膜
3 張力付与性絶縁被膜
4 硫化物
21 グラス被膜の最端部(母材鋼板側)
22 グラス被膜の最端部(張力付与性絶縁被膜側)
B 境界領域

Claims (22)

  1. 母材鋼板と、
    前記母材鋼板の表面上に形成されたグラス被膜と、
    前記グラス被膜の表面上に形成された張力付与性絶縁被膜と
    を備え、
    前記母材鋼板が、化学組成として、質量%で、
    C:0.010%以下、
    Si:3.00~3.80%、
    Mn:0.01~0.50%、
    N:0.020%以下、
    Sol-Al:0.020%以下、
    S:0.020%以下、
    Ce、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La、Zrの合計:0.0100%以下、
    Cu:0~0.50%、
    Cr:0~0.50%、
    Sn:0~0.50%、
    Se:0~0.020%、
    Sb:0~0.50%、
    Bi:0~0.020%、
    Mo:0~0.50%、
    残部:Fe及び不純物
    を含有し、
    前記母材鋼板の板厚が、0.18~0.22mmであって、
    前記グラス被膜及び前記グラス被膜と前記母材鋼板との境界領域において、Cubicタイプの硫化物が0.001~10.00個/μm含まれる、
    方向性電磁鋼板。
  2. 前記方向性電磁鋼板のCe、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La、Zrの合計含有量が、前記母材鋼板のCe、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La、Zrの合計含有量の1.5倍以上10.0倍以下である
    請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
  3. 前記化学組成として、
    Sn:0.01~0.50%を含有する、
    請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板。
  4. 前記化学組成として、
    Cr:0.01~0.50%を含有する、
    請求項1~3のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
  5. 前記化学組成として、
    Cu:0.01~0.50%を含有する、
    請求項1~4のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
  6. 前記化学組成として、
    Se:0.001~0.020%を含有する、
    請求項1~5のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
  7. 前記化学組成として、
    Sb:0.005~0.50%を含有する、
    請求項1~6のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
  8. 前記化学組成として、
    Bi:0.0001~0.020%を含有する、
    請求項1~7のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
  9. 化学組成が、質量%で、C:0.010~0.200%、Si:3.00~3.80%、Sol-Al:0.010~0.050%、Mn:0.01~0.50%、N:0.020%以下、S:0.005~0.050%、Cu:0~0.50%、Cr:0~0.50%、Sn:0~0.50%、Se:0~0.020%、Sb:0~0.50%、Bi:0~0.020%、Mo:0~0.50%、残部:Fe及び不純物を含有する鋼片を加熱する加熱工程と、
    前記鋼片を熱間圧延して熱延鋼板を得る熱間圧延工程と、
    前記前記熱延鋼板を焼鈍して、熱延焼鈍鋼板を得る熱延板焼鈍工程と、
    前記熱延焼鈍鋼板に対し、複数のパスを含む冷間圧延を施して、板厚が0.18~0.22mmの冷延鋼板を得る冷間圧延工程と、
    前記冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を施して、脱炭焼鈍鋼板を得る脱炭焼鈍工程と、
    前記脱炭焼鈍鋼板に対して焼鈍分離剤を塗布した後に、仕上げ焼鈍を行って仕上げ焼鈍鋼板を得る仕上げ焼鈍工程と、
    前記仕上げ焼鈍鋼板の表面に絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程と
    を含み、
    前記焼鈍分離剤は90質量%以上のMgOと、Ce、Ca、Nd、Sr、Pr、Ba、La及びZrから選択される1種以上の、酸化物、水酸化物、硫酸塩及び炭酸塩の1種以上を含み、
    前記焼鈍分離剤中の、質量%での、前記酸化物、前記水酸化物、前記硫酸塩及び前記炭酸塩の合計含有量が、0.5~10.0質量%であり、
    前記仕上げ焼鈍工程において、
    700~900℃の温度範囲を13℃/hr~30℃/hrの平均加熱速度で昇温し、かつ1000~1300℃の温度範囲に40時間以上保持する、
    方向性電磁鋼板の製造方法。
  10. 前記酸化物、前記水酸化物、前記硫酸塩、前記炭酸塩の平均粒径が20μm以下である、請求項9に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  11. 前記焼鈍分離剤が、Ti化合物として、Tiの酸化物、炭化物、または窒化物のうちの何れか1種または2種以上を含み、前記焼鈍分離剤中の、質量%での、Ti化合物の合計含有量が、0.5~10.0%であり、前記Ti化合物の平均粒径が20μm以下である、
    請求項9または10に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  12. 前記脱炭焼鈍の昇温過程において、550~750℃の温度範囲における平均昇温速度を500~1000℃/sに制御する、
    請求項9~11のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  13. 前記脱炭焼鈍の昇温過程において、750~800℃の温度範囲における平均昇温速度を1000~2000℃/sに制御する、
    請求項9~12のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  14. 前記脱炭焼鈍の昇温過程において、550~800℃の温度範囲における焼鈍雰囲気露点を0℃以下に制御する、
    請求項9~13のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  15. 前記脱炭焼鈍工程と前記仕上げ焼鈍工程との間に窒化処理を含む、
    請求項9~14のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  16. 前記冷間圧延工程において、前記複数のパスの間に、中間焼鈍を実施し、前記中間焼鈍以降のパスの累積圧下率を80~95%とする、
    請求項9~15のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  17. 前記鋼片の前記化学組成が、
    Sn:0.01~0.50%を含有する、
    請求項9~16のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  18. 前記鋼片の前記化学組成が、
    Cr:0.01~0.50%を含有する、
    請求項9~17のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  19. 前記鋼片の前記化学組成が、
    Cu:0.01~0.50%を含有する、
    請求項9~18のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  20. 前記鋼片の前記化学組成が、
    Se:0.001~0.020%を含有する、
    請求項9~19のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  21. 前記鋼片の前記化学組成が、
    Sb:0.005~0.50%を含有する、
    請求項9~20のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
  22. 前記鋼片の前記化学組成が、
    Bi:0.0005~0.020%含有する、
    請求項9~21のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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