JP2022094461A - 圧粉磁心及びその製造方法 - Google Patents

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宏明 近藤
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Abstract

【課題】低鉄損であり、寸法精度に優れる圧粉磁心を提供する。【解決手段】軟磁性粉末が圧縮成形された圧粉体であり、圧粉体の摺接面は、5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域が摺接面全面に対し20面積%以上80面積%以下であり、1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域が摺接面全面に対し20面積%以上80面積%以下である、圧粉磁心である。【選択図】図1

Description

本発明の一実施形態は、圧粉磁心及びその製造方法に関する。
軟質磁性粉末を樹脂等のバインダで結着した圧粉磁心は、珪素鋼板等を用いて作製される積層磁心に比べて、作製時の材料歩留まりが良く、材料コストを低減することができるという利点を有している。また、形状自由度が高く、磁心形状の最適設計を行うことによって磁気特性を向上することが可能であるという利点も有している。このような圧粉磁心においては、有機バインダや無機粉末などの絶縁性物質と軟磁性粉末を混合したり、軟磁性粉末の表面に電気絶縁被膜を被覆したりして金属粉末間の電気絶縁性を向上させることにより、磁心の渦電流損を大幅に低減することができる。
このような利点から、圧粉磁心は、変圧器、リアクトル、サイリスタバルブ、ノイズフィルタ、チョークコイル等に使用され、また、モーター用鉄心、一般家電及び産業機器用モーターのロータやヨーク、更には、ディーゼルエンジン及びガソリンエンジンの電子制御式燃料噴射装置に組み込まれる電磁弁用のソレノイドコア(固定鉄心)等にも使用され、各種軟質磁気部品への適用が進んでいる。圧粉磁心は、珪素綱板に比べて、高周波領域での渦電流損の低減が可能であり、リアクトル等の高周波数の用途における圧粉磁心の適用が増えつつある。また、使用周波数帯域の高周波化は、磁心自体の小型化、コイルの巻き線数や銅使用量の低減を可能にし、それらを利用する電子機器の省スペース及びコスト削減を達成できる。そのため、近年では、多くの電子機器における高周波化が進んでおり、高周波対応材の開発が急速に進んでいる。
圧粉磁心の成形方法は、製品形状を規定する成形型内に軟磁性粉末を可塑性の原料とともに射出して成形する射出成形法と、成形型のキャビティに軟磁性粉末及びバインダを含む原料粉末を充填して、上下パンチで圧縮成形する圧縮成形法に大別される。圧粉磁心の製品形状は成形工程において付与され、製品の用途に応じて採用する成形方法は使い分けられる。
上述の家庭用及び産業用の各種機器に対する近年の小型化・軽量化の要求の下、圧粉磁心については、磁束密度等の磁気特性向上の要求が大きくなってきている。圧粉磁心は、軟磁性粉末の占積率が磁束密度に比例するため、高い磁束密度の圧粉磁心を得るためには密度を高める方法がある。このため、多量のバインダを必要とする射出成形法に比べて、バインダ量を低減して軟磁性粉末の量を増加でき、高密度に成形できる圧縮成形法が、広く用いられている。
圧粉磁心を圧縮成形する方法では、成形型の型孔から圧粉体を押し出す際に成形型の内周面に圧粉体の側面が摺接しながら押圧されることで、圧粉体の摺接面に塑性流動が発生することがある。塑性流動が発生した圧粉体の摺接面では、軟磁性粉末の粒子が変形又は破壊され、軟磁性粉末の粒子間の導通、又は軟磁性粉末の粒子内部の導電性部分の露出等によって、絶縁性の低下につながることがある。
特許文献1には、成形型の型孔の内周面に潤滑被膜を形成し、型孔から圧粉体を押し出す際に、型孔の内周面と圧粉体の摺接面との間の摩擦抵抗を低減し、圧粉体の摺接面での塑性流動の発生を抑制し、得られる圧粉磁心の絶縁状態を維持することが提案されている。絶縁状態が維持された圧粉磁心は、渦電流損の増大を抑制することができ、高周波用途にも好ましく用いることができる。
特許文献2には、圧粉成形体の加圧面に直交する軸を中心とする周方向に流れる渦電流を遮断して渦電流損を低減するために、圧粉成形体の摺接面の一部に高抵抗領域を形成し、圧粉成形体の加圧面を高抵抗とすることが提案されている。
特許文献2では、粗大な鉄基粒子の割合を制限することで、圧粉成形体がパンチ部材によって加圧される際に鉄基粒子の絶縁被膜の損傷を防ぐようにし、圧粉成形体のパンチ面を高抵抗としている。また、特許文献2では、圧粉成形体の摺接面と成形型との摺接によって導通部が形成され摺接面が低抵抗になる場合は、導通部にレーザ処理、酸処理等を施して高抵抗領域を形成している。
国際公開第2015/046282号 特開2013-131676号公報
特許文献1では、圧粉磁心の絶縁状態を維持するために、成形型の型孔内で圧粉体の側面の全面に潤滑被膜を接触させ、得られる圧粉磁心の摺接面の全面にわたって塑性流動の発生を抑制しようとしている。
特許文献2では、塑性流動が発生して摺接面が低抵抗となる場合は摺接面の小領域にレーザ処理を施して部分的に高抵抗領域を形成しているが、塑性流動が発生して絶縁性が低下した領域が摺接面の大部分を占める。また、特許文献2では、摺接面に塑性流動が発生した圧粉成形体を酸処理して表面の導通部を全体的に除去しているが、酸処理によって表面性状の変化、寸法の誤差、工程の複雑化等が引き起こされる。また、特許文献2では、成形型の内周面に潤滑剤を塗布して加圧成形することで、圧粉成形体の摺接面との摩擦抵抗を低減し、摺接面が全体的に高抵抗である圧粉成形体を得ている。
圧粉磁心の圧縮成形において成形型の型孔内で圧粉体の側面全面に潤滑被膜を接触させることで、得られる圧粉磁心の側面全面にわたって塑性流動の発生を抑制して絶縁状態を維持し、低鉄損の圧粉磁心を提供することができる。一方で、圧粉磁心を高密度に圧縮成形する際には寸法精度も重要になるが、上記した圧粉磁心の側面の表面性状では寸法精度が十分に改善されていない。
本開示の一目的としては、低鉄損であり、寸法精度に優れる圧粉磁心を提供することである。
本開示の一実施形態は、以下を要旨とする。
[1]軟磁性粉末が圧縮成形された圧粉体であり、前記圧粉体の摺接面は、5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域が摺接面全面に対し20面積%以上80面積%以下であり、1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域が摺接面全面に対し20面積%以上80面積%以下である、圧粉磁心。
[2]前記5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域が摺接面全面に対し40面積%以上である、[1]に記載の圧粉磁心。
[3]前記5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域は、軟磁性粉末の粒子間に絶縁性粒子が介在する構造の表層部を有する、[1]に記載の圧粉磁心。
[4]前記5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域は、電子プローブ微小分析による成分マップにおいて、絶縁性粒子の面積率が30%以上である、[1]に記載の圧粉磁心。
[5]前記絶縁性粒子は、二硫化モリブデン粒子及び絶縁性セラミックス粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[3]又は[4]に記載の圧粉磁心。
[6]前記軟磁性粉末は、表面を被覆する絶縁被膜を有する軟磁性粉末である、[1]から[5]のいずれかに記載の圧粉磁心。
[7]成形型の型孔の内周面に絶縁性潤滑被膜を形成すること、前記成形型の型孔に軟磁性粉末を含む原料粉末を充填すること、前記原料粉末を圧縮して圧粉体を成形すること、及び前記圧粉体を前記型孔から押し出すことを含み、前記成形型の型孔の内周面に形成される絶縁性潤滑被膜は、前記成形型の押出方向を軸とする周方向にそって、内周全長に対して20%以上80%以下の領域に形成される、磁心用圧粉体の製造方法。
[8]前記絶縁性潤滑被膜は、潤滑油と絶縁性粒子とを含む、[7]に記載の磁心用圧粉体の製造方法。
[9]前記絶縁性粒子は、二硫化モリブデン粒子及び絶縁性セラミックス粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[8]に記載の磁心用圧粉体の製造方法。
[10]前記絶縁性潤滑被膜は、前記成形型の押出方向全長に対して50%以上100%以下の領域に形成される、[7]から[9]のいずれかに記載の磁心用圧粉体の製造方法。
[11]前記絶縁性潤滑被膜の厚さは、1μm~20μmである、[7]から[10]のいずれかに記載の磁心用圧粉体の製造方法。
本開示の一実施形態によれば、低鉄損であり、寸法精度に優れる圧粉磁心を提供することができる。
圧縮成形法における成形プロセスを説明する模式図である。
以下、本発明の一実施形態について説明するが、以下の例示によって本発明は限定されない。
圧粉磁心の鉄損Wは、渦電流損Wとヒステリシス損Wの和であり、渦電流損W及びヒステリシス損Wは、各々、下記式1及び下記式2で示されるから、鉄損Wは、下記式3のように示される。式中、fは周波数、Bは励磁磁束密度、ρは固有抵抗値、tは材料の厚み、k,kは係数である。
(式1) W=(k /ρ)f
(式2) W=k 1.6
(式3) W=W+W=(k /ρ)f+k 1.6
式1~式3から明らかなように、渦電流損Wは、周波数fの二乗に比例して大きくなることから、高周波領域において使用されるリアクトル等に圧粉磁心を適用するには、渦電流損Wの抑制が不可欠である。渦電流損Wを抑制するためには、渦電流を小領域に閉じこめる必要がある。このため、圧粉磁心においては、個々の軟磁性粉末粒子が絶縁されるように構成することで、渦電流損Wの抑制を図る。したがって、軟磁性粉末の粒子同士が連通すると、連通した箇所を通して導通し、大きな渦電流が発生するので、個々の軟磁性粉末粒子の絶縁の確保が重要となる。
近年、磁気特性の更なる向上が求められており、磁束密度を向上させるために、より高圧力で圧粉体の圧縮成形を行って軟磁性粉末の占積率を高めることが行われている。しかし、高圧力で原料粉末を圧縮成形すると、圧粉体が側面方向に向けて膨張する圧力(スプリングバック)も大きくなる。このようにスプリングバックが作用する圧粉体を型孔から抜き出すと、圧粉体が型孔を摺接する際に圧粉体の側面が強く型孔の内周面に押圧される。このため、型孔から抜き出した後の圧粉体の側面は、表層部で塑性流動が生じて、軟磁性粉末粒子の表面に形成した絶縁被膜が破壊され、あるいは、軟磁性粉末粒子同士が導通した状態となり、渦電流が大きくなる。閉磁路内で磁束を発生させた場合、渦電流は、磁束を中心として磁束の方向と垂直な環状に周回する。本来は、軟磁性粉末の個々の粒子に絶縁を施すことで渦電流の増加は抑制できるが、圧粉体の摺接面において絶縁が破壊されて圧粉体の外周面が導通状態になると、渦電流の著しい増加を引き起こすことがある。特にリアクトルの場合は、磁心同士を組み合わせて磁路を構成しているため、組み合わせ面から磁束の漏れ(フリンジング)が少なからず発生する。漏れた磁束が、導通した摺接面に対して直角方向に再度侵入すると、渦電流がさらに大きくなることがある。したがって、圧粉体の摺接面の絶縁性維持は、高周波用途の圧粉磁心にとって非常に重要な技術要件の一つである。圧粉磁心材料の中でも、純鉄をはじめとする低合金材は、基地が柔らかいので特に塑性流動を引き起こしやすく、しかも、基地の比抵抗が低い材料系となるため、塑性流動による導通を抑制することが重要である。
圧粉磁心に生じる誘導電流は、周波数が高くなるほど、表面に集中して流れる。このため、上記のような表層部に塑性流動が生じて軟磁性粉末粒子の絶縁被膜が破壊された圧粉磁心をリアクトル等の高周波用途に用いると、絶縁被膜が破壊されて軟磁性粉末の粒子同士が導通した表層部に集中して誘導電流が流れ、渦電流損Wがいよいよ大きくなって鉄損Wの増大を引き起こすことがある。
「圧粉磁心」
一実施形態による圧粉磁心としては、軟磁性粉末が圧縮成形された圧粉体であり、圧粉体の摺接面は、5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域が摺接面全面に対し20面積%以上80面積%以下であり、1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域が摺接面全面に対し20面積%以上80面積%以下である、ことを特徴とする。
これによれば、低鉄損であり、寸法精度に優れる圧粉磁心を提供することができる。
圧粉磁心の摺接面において、5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域と1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域とが形成されることで、圧粉磁心の表面に誘導電流が集中して流れる高周波用の圧粉磁心として用いる場合に、高比抵抗の領域を備えることで、渦電流損Weの低減を図ることができる。5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域と1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域との面積率が特定されることで、圧粉磁心全体の絶縁性を維持して鉄損の増大を防止することができ、寸法精度の低下を防止することができる。
圧粉磁心は、軟磁性粉末が圧縮成形された圧粉体である。圧縮成形は、軟磁性粉末を含む原料粉末を成形型の型孔に充填し、圧縮することによって行われる。成形型内で原料粉末が圧縮される間に、又は圧縮された圧粉体を成形型から押し出す間に、圧粉体と成形型が摺動する面が摺接面となる。
典型的に、圧縮成形による圧粉磁心は、成形型の型孔に原料粉末が充填され、型孔の開口部からパンチ部材によって原料粉末が圧縮されることで、圧粉体として成形される。一方法では、貫通孔状の型孔を有する成形型を用いて、型孔に原料粉末を充填し、型孔の両端部からそれぞれパンチ部材を挿入して、原料粉末を圧縮成形することができる。その後、いずれか一方のパンチ部材を圧粉体を押し出す方向に移動させることで、圧粉体が成形型の内周面と摺動しながら、型孔の開口部から押し出されるようになる。圧縮成形において、圧粉体がパンチ部材と接する面をパンチ面ともいう。
圧縮成形による圧粉磁心は、型孔内でパンチ部材によって均一に加圧されること、パンチ部材によって型孔内から押し出されること等を考慮すると、押出方向に平行な側面を有することが好ましい。この押出方向に平行な側面が摺接面となる。また、押出方向と交差する一対の面を有することが好ましい。この一対の面がパンチ面となる。押出方向に平行な側面は、平面でも曲面であってよく、平面と曲面を備える面であってもよい。押出方向に直交する断面形状は、三角形、四角形、五角形等多角形、これらの多角形の角がR構造である形状、楕円形状、円形状等、これらに凹部及び/又は凸部が形成された形状等であってよい。押出方向に交差する両端面であるパンチ面が、これらの断面形状になることが好ましい。
圧粉磁心を製造するための圧縮成形方法の一例を図1を用いて説明する。図1は、圧縮成形方法を説明するための模式図である。
図1において、1は成形型であり、2は下パンチ部材であり、3は上パンチ部材であり、4はフィーダである。成形型1は、貫通孔状の型孔1aを有し、下パンチ部材2及び上パンチ部材3は、型孔1aの内周面に嵌り合う断面形状を有する。図1(a)では、成形型1の型孔1aの下側の開口部から下パンチ部材2を挿入し、型孔1aの上側の開口部からフィーダ4を用いて原料粉末Mを型孔1aに充填する。図1(b)では、型孔1aに原料粉末を充填した状態で、型孔1aの上側の開口部から上パンチ部材3を挿入し、上パンチ部材3及び下パンチ部材2をそれぞれ型孔1aの奥行方向に押し込んで原料粉末Mを加圧して圧縮成形する。これによって、型孔1a内に圧粉体Cが成形される。図1(c)では、上パンチ部材3を型孔1aから取り出し、下パンチ部材2を型孔1aの奥行方向、すなわち押出方向に押し込み、圧粉体Cを型孔1aから抜き出す。このようにして、圧粉磁心を得ることができる。
圧粉磁心は、高密度に軟磁性粉末が圧縮成形されることで磁束密度が高まるため、高密度の圧粉磁心であることが好ましい。
圧粉磁心の密度比は、90%以上が好ましく、90.5%以上がより好ましく、91%以上がさらに好ましい。
圧粉磁心の密度比は、特に限定されないが、典型的な圧縮成形装置を用いる場合では、98%以下であってよく、さらに95%以下であってよい。
圧粉磁心の密度比の測定方法は、圧粉磁心と同一組成の材料の気孔のない状態における密度を基準とした値である。密度は、JIS K 0061:2001に従い測定することができる。
高密度の圧粉磁心は高圧で圧縮成形されるため、型孔の内周面と圧粉体の摺接面との間の摩擦抵抗によって、得られる圧粉磁心の摺接面に塑性流動が発生することがある。圧粉磁心の摺接面に塑性流動が発生した領域は、軟磁性粉末の粒子同士が結合して導電性が現れること、軟磁性粉末の個々の粒子が破壊されて粒子内部の導電性部分が露出すること等に起因して、比抵抗が低下することがある。圧粉体の摺接面において塑性流動の発生を抑制するために、型孔の内周面に潤滑成分を付与し、型孔の内周面と圧粉体の摺接面との間の摩擦抵抗を低減する方法がある。この方法によって得られる圧粉磁心の摺接面は、塑性流動の発生が抑制され絶縁性が維持された状態を提供することができる。さらに、潤滑成分自体が絶縁性を備えることから、潤滑成分によって絶縁性の被膜が圧粉磁心の摺接面に形成されると、圧粉体の絶縁性がより高められた状態を提供することができる。
高密度の圧粉磁心を得ようとする場合では、圧縮成形において、成形型の型孔の内周面に潤滑成分を付与しないと、型孔の内周面と圧粉体の摺接面との間に摩擦抵抗が発生し、圧粉体の摺接面に塑性流動が発生し、比抵抗の低下につながることがある。圧粉磁心において摺接面の比抵抗が低下すると、渦電流損が発生して鉄損の増大につながる。型孔の内周面に潤滑成分を付与することで、圧粉体の摺接面の塑性流動の発生が抑制されて、圧粉体の摺接面の絶縁性を維持又は改善することが可能となるが、圧粉体の摺接面に過剰な潤滑成分が付与されると、得られる圧粉磁心の寸法精度が低下することがある。
一実施形態において、圧粉磁心は、5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域が摺接面全面に対し20面積%以上であることが好ましい。
5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域は、高比抵抗を示す領域であって、圧粉磁心の比抵抗を高め、鉄損の増大を防止することができる。
圧粉磁心の摺接面全面が高比抵抗であることで、圧粉磁心の鉄損の増大を防止することができるが、一実施形態によれば、圧粉磁心の摺接面が部分的に高比抵抗であれば、圧粉磁心の摺接面の一部に低比抵抗の領域が含まれても、圧粉磁心の鉄損の増大を防止することができる。
5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域は、高比抵抗を示す領域であり、摺接面において塑性流動が観察されない領域であることが好ましい。5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域は、摺接面において摩擦抵抗が低減され塑性流動の発生が抑制されていることが好ましい。例えば、5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域は、型孔の内周面と圧粉体の摺接面との間に潤滑成分が介在された状態で、圧粉体が押し出された領域であることが好ましい。この領域では、摩擦抵抗が低減され、塑性流動の発生が抑制されるため、軟磁性粉末の粒子間の結合等が防止されて、比抵抗の低下を防止することができる。また、圧粉体の摺接面に潤滑成分による被膜を形成することで、潤滑成分自体の絶縁性によって、比抵抗を低下させることができる。また、軟磁性粉末の隣り合う粒子間に、絶縁性粒子が介在することによっても、比抵抗を低下させることができる。
5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域は、摺接面全面に対し20面積%以上であることが好ましく、40面積%以上であってもよく、さらに60面積%以上であってもよい。これによって、圧粉磁心全体の鉄損の増大を防止することができる。
5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域は、摺接面全面に対し80面積%以下であることが好ましく、より好ましくは70面積%以下であり、さらに好ましくは50面積%以下であり、30面積%以下であってもよい。これによって、圧粉磁心の寸法精度の低下を防止することができる。
圧粉磁心の摺接面において、5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域は1つの領域であってもよいし、2つ以上の領域であってもよい。圧粉磁心の摺接面において、5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域が2つ以上ある場合は、2つ以上の領域の合計が上記範囲であることが好ましい。
圧粉磁心は、摺接面全面に対し、20面積%以上の領域で、比抵抗が5Ω・cm以上であることが好ましく、より好ましくは20Ω・cm以上であり、さらに好ましくは50Ω・cm以上である。圧粉磁心の摺接面が部分的により高比抵抗であることで、圧粉磁心全体の鉄損の増大を防止することができる。
一実施形態において、圧粉磁心の摺接面は、1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域が摺接面全面に対し20面積%以上であることが好ましい。
1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域は、低比抵抗を示す領域である。
圧粉磁心の摺接面の全面が高比抵抗であることで、圧粉磁心の鉄損の増大を防止することができるが、圧粉磁心の寸法精度が低下することがある。これに対し、圧粉磁心の摺接面の一部に所定面積の範囲内で低比抵抗の領域が含まれることで、鉄損の増大を防止しながら、圧粉磁心の寸法精度を向上させることができる。
1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域は、低比抵抗を示す領域であり、摺接面において塑性流動が観察される領域であることが好ましい。例えば、1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域は、型孔の内周面と圧粉体の摺接面との間に二硫化モリブデンのような固体潤滑成分が介在しない状態で、圧粉体が圧縮成形された領域であることが好ましい。この領域では、摩擦抵抗が増加し、塑性流動が発生しやすくなり、比抵抗の低下が発生する傾向がある。また、絶縁性の潤滑成分による影響が排除され、比抵抗の上昇が現れにくい。また、低比抵抗とするために、軟磁性粉末の粒子間に絶縁性粒子が介在する割合が少ないことが好ましい。
1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域は、摺接面全面に対し20面積%以上であることが好ましく、より好ましくは30面積%以上であり、さらに好ましくは30面積%以上であり、50面積%以上であってよい。これによって、圧粉磁心の寸法精度の低下を防止することができる。
1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域は、摺接面全面に対し80面積%以下であることが好ましく、60面積%以下であってもよく、40面積%以下であってもよい。これによって、圧粉磁心の鉄損の増大を防止することができる。
圧粉磁心の摺接面において、1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域は1つの領域であってもよいし、2つ以上の領域であってもよい。圧粉磁心の摺接面において、1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域が2つ以上ある場合は、2つ以上の領域の合計が上記範囲であることが好ましい。
圧粉磁心は、摺接面全面に対し、20面積%以上の領域で、比抵抗が1Ω・cm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5Ω・cm以下である。圧粉磁心の摺接面が部分的により低比抵抗であることで、圧粉磁心の寸法精度の低下を防止することができる。
圧粉磁心の比抵抗は、四探針法により測定することができる。端子列が圧粉磁心の摺動方向と平行になるように摺動面に配置して測定するとよい。圧粉磁心の比抵抗の測定点は、摺動面のサイズに応じて適宜設定すればよいが、摺動面の外周方向に等間隔で4~100箇所、より具体的には10~50箇所となる位置がよい。圧粉磁心の比抵抗の押出方向の測定点は、後述する圧粉磁心の製造方法によれば圧粉磁心の押出方向全長に渡ってほぼ一定であり、圧粉磁心の押出方向の比抵抗の測定点は、1~3箇所であってよく、1箇所であってもよい。押出方向の比抵抗が変化する圧粉磁心の場合は、摺動面のサイズに応じて適宜設定すればよいが、圧粉磁心の比抵抗の測定点は、摺動面の押出方向に等間隔で2~50箇所となる位置がよい。
圧粉磁心の比抵抗の面積率は、圧粉磁心の摺動面一周に対し等間隔に比抵抗を測定し、以下の算出方法によって求めることができる。比抵抗は、上記した四深針法にしたがって測定するとよい。
比抵抗が5Ωcm以上の面積率は、((表面比抵抗が5Ωcm以上の測定点)/(全測定点))×100(%)から求めることができる。
表面比抵抗が1Ωcm以下の面積率は、((表面比抵抗が1Ωcm以下の測定点)/(全測定点))×100(%)から求めることができる。
以下、軟磁性粉末について説明する。
軟磁性粉末としては、軟磁性鉄粉末、軟磁性鉄合金粉末等が好ましい。例えば、純鉄、Fe-Si合金、Fe-Al合金、パーマロイ、センダスト、パーメンジュール、ソフトフェライト、アモルファス磁性合金、ナノクリスタル磁性合金等の鉄又は鉄合金を含む鉄系金属の粉末等が挙げられる。これらは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。磁束密度の高さ、成形性等の点から、純鉄粉末を好ましく用いることができる。
軟磁性粉末は、軟質な粉末及び硬質な粉末のいずれであってもよい。圧粉磁心の摺接面において5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域では塑性流動の発生を抑制し、1Ω・m以下の比抵抗を有する領域では塑性流動を促進させて、圧粉磁心の摺接面に比抵抗が異なる領域を形成させるために、軟質な軟磁性粉末を用いることが好ましい。
軟質な軟磁性粉末は、圧縮成形において塑性流動が発生しやすいが、塑性流動の発生を抑制する処理を部分的に行うことで、圧粉磁心の摺接面において部分的に塑性流動の発生を抑制し、比抵抗が異なる領域を形成することができる。軟質な軟磁性粉末としては、純鉄粉末、Si、Al等の合金元素の添加量が3質量%以下の鉄系低合金粉末等が挙げられる。
塑性流動が発生しにくいが破砕するほど硬くもない軟磁性粉末を用いる場合は、圧粉体の摺接面において塑性流動が発生しない状態で1Ω・m以下の比抵抗の領域が形成可能な場合に、圧粉磁心の摺接面に部分的に後述する絶縁性粒子を付着させ5Ω・m以上の比抵抗の領域を形成することができる。
軟磁性粉末の平均粒子径は、1~300μmが好ましい。これによって、高周波に適した高密度圧粉磁心を得ることができる。
軟磁性粉末の平均粒子径は、1μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましい。
軟磁性粉末の平均粒子径は、300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。
軟磁性粉末の平均粒子径は、例えば、レーザ回折法により測定することができる。測定には、レーザ回折式の粒子径分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製「MT3300EX II」)を用いることができる。ここで、平均粒子径は、体積基準の粒度分布におけるメジアン径(D50)を示す。
軟磁性粉末は、表面を被覆する絶縁被膜を有する軟磁性粉末であってよい。これによって、軟磁性粉末の個々の粒子の絶縁性を確保することができる。軟磁性粉末の個々の粒子は、表面の全面又は部分的に絶縁被膜が被覆されていてよいが、絶縁性の観点から表面の全面に絶縁被膜が被覆されていることが好ましい。
絶縁被膜としては、例えば、リン酸系化成被膜等の無機絶縁被膜、シリコーン樹脂被膜等が挙げられる。軟磁性粉末の個々の粒子に絶縁被膜を被覆する方法は、通常の方法にしたがって化成処理や接触被覆によって形成すればよく、例えば、日本国特許第4044591号公報及び日本国特許第4927983号公報等の記載を参照することができる。また、絶縁被覆を有する軟磁性粉末は、市販の粉末製品から適宜選択してもよく、例えば、ヘガネスAB社製のSomaloy110i(5P)、神戸製鋼所製MH20D等が挙げられる。
圧粉磁心は、軟磁性粉末に、任意的な添加剤を配合した原料粉末を用いて圧縮成形されたものであってもよい。添加剤としては、樹脂等のバインダ、成形潤滑剤、絶縁性セラミックス粒子等が挙げられる。
樹脂等のバインダは、圧粉体の成形性を改善することができ、さらに、軟磁性粉末の個々の粒子の絶縁性を確保することにも役立つ。バインダは、絶縁被膜を有する軟磁性粉末及び絶縁被膜が形成されない軟磁性粉末のいずれとも組み合わせて用いることができる。例えば、絶縁被膜が形成されない軟磁性粉末を用いる場合であっても、バインダ等によって、軟磁性粉末の個々の粒子の絶縁性を確保することも可能である。
バインダとして配合される樹脂は、圧粉磁心全量に対し2質量%以下が好ましい。これによって、磁束密度の低下を防止するために、圧粉磁心の軟磁性粉末の占積率を高めることができる。
圧粉磁心の摺接面において、5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域は、軟磁性粉末の粒子間に、絶縁性粒子が介在する表層部を有することが好ましい。
本開示において、圧粉磁心の表層部は、圧粉磁心の表面から100μmまでの深さの部分を意味する。以下同じである。
圧粉磁心の摺接面の表層部において、絶縁性粒子は、軟磁性粉末の粒子間に介在することで、軟磁性粉末粒子を支持し、軟磁性粉末粒子の変形及び塑性流動を抑制することができる。これによって、軟磁性粉末の粒子間の導通による絶縁破壊、軟磁性粉末の個々の粒子の破壊による粒子内部の導電性部分の露出等を防止し、比抵抗の高い領域を形成することができる。絶縁性粒子自体の絶縁性によっても、圧粉磁心の摺接面の比抵抗を高めることができる。
圧粉磁心の摺接面において、5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域は、軟磁性粉末の隣接する粒子同士が、絶縁性粒子の介在によって不連続の状態であることが好ましい。これによって、軟磁性粉末の粒子間の導通を防いで、比抵抗のより高い領域を形成することができる。
絶縁性粒子としては、二硫化モリブデン粒子及び絶縁性セラミックス粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、絶縁性とともに潤滑作用を備えることから、二硫化モリブデン粒子を含むことが好ましい。
例えば、圧粉磁心の表層部において、5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域は、軟磁性粉末の粒子間に、二硫化モリブデン粒子を単独で含むこと、又は二硫化モリブデン粒子と絶縁性セラミックス粒子とを組み合わせて含むことが好ましい。
表面を被覆する絶縁被膜を有する軟磁性粉末を含む原料粉末を圧縮成形して得た圧粉磁心では、塑性流動が発生しないことで、軟磁性粉末の粒子表面の絶縁被膜の破壊が防止され、軟磁性粉末の粒子が絶縁被膜に被覆された状態を良好に維持した圧粉磁心を得ることができる。軟磁性粉末が絶縁被膜に被覆され、軟磁性粉末の粒子間に絶縁性粒子が介在することで、より高い絶縁性を得ることができる。
軟磁性粉末が絶縁被膜を有しない場合でも、軟磁性粉末と樹脂等のバインダとを含む原料粉末を圧縮成形して得た圧粉磁心では、塑性流動が発生しないことで、圧粉磁心の摺接面の軟磁性粉末の粒子間に絶縁性粒子が押し込まれた状態の圧粉磁心を得ることができる。軟磁性粉末の粒子間にバインダと絶縁性粒子とが介在することで、より高い絶縁性を得ることができる。
このような圧粉磁心の摺接面について、例えば、電子プローブ微小分析(EPMA)による表面観察を行うと、成分マップにおいて、軟磁性粉末の粒子間の間隙に絶縁性粒子が介在する状態を観察することができる。SEM-EDXによる表面観察によっても観察することができる。
絶縁性粒子は、最大粒子径が10nm~1000nmが好ましい
二硫化モリブデン粒子は、最大粒子径が1000nm以下が好ましい。二硫化モリブデン粒子は、最大粒子径が10nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。
絶縁性セラミックス粒子としては、酸化物系、窒化物系、炭化物系等のセラミックス粒子を用いることができる。絶縁性セラミックス粒子は表面改質されたものであってもよい。詳細については後述する通りである。
絶縁性セラミックス粒子は、最大粒子径が1000nm以下が好ましい。絶縁性セラミックス粒子は、最大粒子径が10nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましい。
絶縁性粒子の最大粒子径は、電子プローブ微小分析による成分マップにおいて、粒子の長径を測定して求めることができる。測定領域は、少なくとも10個の絶縁性粒子が含まれる領域となるように設定するとよい。
圧粉磁心の摺接面において、1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域は、塑性流動の発生が観察されることが好ましい。
圧粉磁心の摺接面において、1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域は、5Ω・cm以下の比抵抗を有する領域よりも表層部に絶縁性粒子の単位面積当たりの個数が少ないことが好ましい。
圧粉磁心の摺接面において、1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域に塑性流動が発生していることで、絶縁性が低下し、低比抵抗の領域が形成され得る。また、圧粉磁心の摺接面において、1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域は、絶縁性が低下した領域であることから、絶縁性粒子が存在しないか、又は絶縁性粒子の割合が少ないことが好ましい。
圧粉磁心の摺接面において、5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域は、電子プローブ微小分析による成分マップにおいて、絶縁性粒子の面積率が30%以上であることが好ましい。
圧粉磁心の摺接面において、5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域は、電子プローブ微小分析(EPMA)による成分マップにおいて、絶縁性粒子の面積率が30%以上であることが好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。これによって、軟磁性粉末の粒子間に絶縁性粒子が十分な量で介在し、この領域の塑性流動の発生がより抑制されており、高比抵抗の領域を形成することができる。塑性流動が発生すると、軟磁性粉末の粒子間の導通、軟磁性粉末の個々の粒子の破壊による導電性部分の露出等が発生し、比抵抗が低下する可能性がある。
なお、圧粉磁心の摺接面における絶縁性粒子の面積率が大きくなるにしたがって、摺接面における軟磁性粉末の占積率が低下するが、これはあくまで圧粉磁心の摺接面の表層部の状態であり、表層部より深い圧粉磁心の内部においては、軟磁性粉末の占積率は原料粉末の組成、圧縮度等に応じて所望の占積率まで高められている。したがって、圧粉磁心の摺接面の表層部における絶縁性粒子の面積率に関して、特に上限はなく、圧粉磁心の摺接面が完全に絶縁性粒子で覆われていてもよい。圧粉磁心の摺接面が絶縁性粒子の薄層で被覆されている場合、この薄層を除去して表層部の表面観察を行うと、軟磁性粉末の粒子間に介在する絶縁性粒子の面積率は、概して65%程度以下の範囲となる。
絶縁性粒子としては、二硫化モリブデン粒子、絶縁性セラミックス粒子等が挙げられる。5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域に2種以上の絶縁性粒子が含まれる場合は、2種以上の絶縁性粒子の合計量が上記面積率を満たすことが好ましい。
電子プローブ微小分析による成分マップは、波長分散型分光器(WDS)方式で、測定条件は、例えば、加速電圧は15kV、試料電流は100nA、メジャーリングタイムは5m・sec、エリアサイズは604×454μmとすることができる。成分マップは、例えば倍率500倍の画像とできる。
成分マップから、絶縁性粒子とそれ以外の部分とに分けて特定できるように二値化し、二値化画像を用いて絶縁性粒子の面積率(%)を求めることができる。二値化に用いる画像分析ソフトウエアとしては、市販のソフトウエアを使用できる。例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF」を使用できる。
圧粉磁心の摺接面において、二硫化モリブデン粒子と絶縁性セラミックス粒子を含む絶縁性粒子が観察される状態で、電子プローブ微小分析によって絶縁性粒子の面積率を測定する場合では、二硫化モリブデン粒子及び絶縁性セラミックス粒子の軟磁性粉末に対する親和性に配慮することが重要である。
二硫化モリブデン粒子及び絶縁性セラミックス粒子の軟磁性粉末に対する親和性に差がないか、差がほとんどない場合では、二硫化モリブデン粒子及び絶縁性セラミックス粒子は、それぞれ圧縮成形において軟磁性粉末の粒子間に同等に浸入し、成分マップにおいても、軟磁性粉末の粒子間の間隙に混在するため、二硫化モリブデン粒子及び絶縁性セラミックス粒子の合計量の面積率によって、表面層の状態を評価することができる。
これに対して、軟磁性粉末に対する親和性が、絶縁性セラミックス粒子と二硫化モリブデン粒子とで異なる場合では、親和性の高い粒子が軟磁性粉末の粒子を被覆し、その周囲に親和性の低い粒子が存在することにより、成分マップにおいては、親和性の低い粒子が軟磁性粉末の粒子間の間隙に相当する領域に偏在し、親和性の高い粒子は、軟磁性粉末の領域及びそれを囲む近傍域に偏在する。したがって、圧粉磁心の摺接面の表層部における軟磁性粉末の粒子間に介在する粒子を評価するには、軟磁性粉末に対する親和性が低い粒子の面積率に基づいて評価する方が適正と考えられる。このような親和性の相違は、軟磁性粉末の粒子表面に形成される絶縁被膜の種類、及び、絶縁性セラミックス粒子に施される表面改質の有無及び種類に起因するものが大きい。
圧粉磁心において、摺接面は、上記した通りの比抵抗を有する領域を備えることが好ましいが、押出方向に交差する両端面(パンチ面)の比抵抗は特に限定されない。
圧粉磁心のパンチ面は、成形型又はパンチ部材と摺動しないことから、パンチ面の表面は塑性流動の発生がほとんど観察されない状態であってよく、絶縁性を維持し、比抵抗が高い領域であってよい。
圧粉磁心のパンチ面は、成形型又はパンチ部材と摺動しないことから、外添の潤滑成分を付着する必要性がないため、パンチ面表面には潤滑油、絶縁性粒子等は観察されなくてもよい。
「磁心用圧粉体の製造方法」
一実施形態による磁心用圧粉体の製造方法としては、成形型の型孔の内周面に絶縁性潤滑被膜を形成すること、成形型の型孔に軟磁性粉末を含む原料粉末を充填すること、原料粉末を圧縮して圧粉体を成形すること、及び圧粉体を型孔から押し出すことを含み、成形型の型孔の内周面に形成される絶縁性潤滑被膜は、成形型の押出方向を軸とする周方向にそって、内周全長に対して20%以上80%以下の領域に形成される、ことを特徴とする。
これによれば、低鉄損であり、寸法精度に優れる圧粉磁心を提供することができる。一実施形態による磁心用圧粉体の製造方法に従うことで、上記した一実施形態による圧粉磁心を製造することができるが、上記した一実施形態による圧粉磁心は以下の製造方法によって製造されるものに限定されない。
以下、成形型の型孔の内周面に絶縁性潤滑被膜を形成する方法について説明する。
成形型としては、特に限定されずに、圧粉磁心の形状及び寸法等に合わせて適宜用意することができ、金属製であることが好ましい。成形型は、貫通孔部を有しており、貫通孔部の両端部からパンチ部材が挿入される構造であってよい。例えば、上記した図1に示す構造であってよい。
成形型の型孔の内周面に形成される絶縁性潤滑被膜は、成形型の押出方向を軸とする周方向にそって、内周全長に対して20%以上80%以下の領域に形成されることが好ましい。
この領域が20%以上80%以下であることで、成形型の型孔内に充填された原料粉末は、型孔の少なくとも20%以上の領域で絶縁性潤滑被膜と接触した状態となり、少なくとも20%以上の領域で絶縁性潤滑被膜と接触しない状態となる。あるいは、成形型の型孔に充填された原料粉末を圧縮し、圧粉体を型孔から押し出す間に、絶縁性潤滑被膜と圧粉体とは、少なくとも20%以上の領域で接触する状態であり、少なくとも20%以上の領域で接触しない状態である。
成形型の型孔の内周面に形成される絶縁性潤滑被膜は、成形型の押出方向を軸とする周方向にそって、内周全長に対して20%以上が好ましく、40%以上であってもよく、60%以上であってもよく、さらに80%であってもよい。これによって、得られる圧粉体において、摺接面の20%以上の領域に高比抵抗の領域を形成することができる。圧粉体を圧縮成形する際に、型孔の内周面と圧粉体の摺接面との間に絶縁性潤滑被膜が介在することで、絶縁性潤滑被膜が潤滑剤として働き、当該領域の摺接面の塑性流動の発生を抑制し、絶縁性の低下を防止することができる。また、型孔の内周面から圧粉体の摺接面に絶縁性潤滑被膜の絶縁性成分が付与されることで、圧粉体の摺接面の絶縁性をより高めることができる。
成形型の型孔の内周面に形成される絶縁性潤滑被膜は、成形型の押出方向を軸とする周方向にそって、内周全長に対して80%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、40%以下がさらに好ましく、20%であってもよい。これによって、得られる圧粉体において、摺接面の20%以上の領域に低比抵抗の領域を形成することができる。圧粉体を圧縮成形する際に、型孔の内周面と圧粉体の摺接面との間に絶縁性潤滑被膜が介在しないことで、当該領域の摺接面において型孔の内周面との摩擦抵抗によって塑性流動が起こり、軟磁性粉末の粒子間の導通が発生し、比抵抗の低下につながる。あるいは、当該領域の摺接面において型孔の内周面との摩擦抵抗によって軟磁性粉末の個々の粒子の絶縁性が破壊されて、軟磁性粉末の粒子間の導通が発生し、比抵抗の低下につながる。
絶縁性潤滑被膜は、成形型の押出方向を軸とする周方向にそって、内周全長に対して20%以上80%以下の領域に形成されるとよいが、周方向にそって1つの領域に形成されてもよく、2つ以上の領域に形成されてもよい。2つ以上の領域に形成される場合は、2つ以上の領域の周方向の合計長さが、内周全長に対して20%以上80%以下の領域になるとよい。
絶縁性潤滑被膜は、成形型の型孔の内周面において、成形型の押出方向全長に対して50%以上100%以下の領域に形成されることが好ましい。
成形型の型孔に対して、圧粉体は押出方向に摺動しながら押し出されることから、成形型の型孔の内周面に押出方向に部分的に絶縁性潤滑被膜が形成されていれば、圧粉体の押出方向に沿って絶縁性潤滑被膜が接触するようになる。
絶縁性潤滑被膜が成形型の押出方向全長に対して形成される領域は、50%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、100%であってもよい。これによって、圧粉体の摺接面への絶縁性潤滑被膜の接触をより促進することができる。
絶縁性潤滑被膜が成形型の押出方向全長に対して形成される領域は、成形型から圧粉体を押し出す方向に対して下流側に形成されることが好ましい。例えば、絶縁性潤滑被膜が成形型の押出方向全長に対して形成される領域は、成形型から圧粉体を押し出す方向に対して下流側の端部を含む領域であることが好ましく、当該端部を開始点として押出方向全長に対して50%以上の領域であることが好ましい。これによって、成形型から圧粉体が押し出される間に、成形型の型孔の内周面と圧粉体とが相対的に移動して、圧粉体の押出方向の全長に渡って、絶縁性潤滑被膜が接触するようになる。そして、押出方向の全長に渡って、絶縁性潤滑被膜が付着した状態の圧粉体を得ることができる。
絶縁性潤滑被膜は、成形型の押出方向全長に対して50%以上100%以下の領域に形成されるとよいが、押出方向にそって1つの領域に形成されてもよく、2つ以上の領域に形成されてもよい。2つ以上の領域に形成される場合は、2つ以上の領域の押出方向の合計長さが、成形型の押出方向全長に対して50%以上100%以下の領域になるとよい。
絶縁性潤滑被膜は、潤滑油と絶縁性粒子とを含むことが好ましい。
絶縁性潤滑被膜に配合される絶縁性粒子は、絶縁性を示すことで、圧粉体の摺接面に付着した状態で、圧粉体の摺接面において軟磁性粉末の電気絶縁性を維持するように作用することができる。絶縁性粒子がさらに硬質粒子であることで、圧粉体の摺接面に絶縁性粒子が付着した状態で、型孔の内周面と圧粉体とが摺動する場合において、圧粉体の摺接面において軟磁性粉末の粒子間に絶縁性粒子が入り込んで介在し、軟磁性粉末の個々の粒子を支持することで塑性流動の発生を抑制することができる。絶縁性粒子としては、潤滑作用を備える絶縁性粒子であることが好ましい。潤滑作用を備える絶縁性粒子は、それ自体が固体潤滑剤として機能するため、型孔の内周面と圧粉体との摩擦抵抗の低減に役立つ。
絶縁性粒子としては、例えば、二硫化モリブデン粒子及び絶縁性セラミックス粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。絶縁性潤滑被膜は、潤滑油と二硫化モリブデン粒子とを含むこと、又は、潤滑油と二硫化モリブデン粒子と絶縁性セラミックス粒子とを含むことが好ましい。潤滑作用に優れる観点から、二硫化モリブデン粒子が含まれることが好ましい。
二硫化モリブデン粒子を含む絶縁性潤滑被膜が型孔の内周面に形成される場合において、圧粉体が型孔内で圧縮成形された状態で、圧粉体の摺接面において軟磁性粉末の粒子間に二硫化モリブデン粒子が入り込み介在する。この状態で圧粉体を型孔から押し出すと、二硫化モリブデン粒子は、押出による摩擦抵抗に抗って軟磁性粉末の個々の粒子を支持し、その変形及び塑性流動を抑制するように作用する。また、二硫化モリブデン粒子は、それ自体の劈開性及び潤滑性によって、軟磁性粉末粒子へ加わる摩擦抵抗による応力を緩和することができる。
二硫化モリブデン粒子と絶縁性セラミックス粒子とを含む絶縁性潤滑被膜が型孔の内周面に形成される場合において、圧粉体を型孔から押し出す際に、二硫化モリブデン粒子の劈開で緩和するレベルを超える応力に対しては、二硫化モリブデン粒子より硬い絶縁性セラミックス粒子が軟磁性粉末の個々の粒子を支持して応力に抗って、過度の応力に対しては絶縁性セラミックス粒子が脆性破壊することによって、軟磁性粉末粒子への応力を緩和することができる。
型孔の内周面と圧粉体の摺接面との間に潤滑油と二硫化モリブデン粒子とが存在することで、これらの潤滑性によって、型孔の内周面と圧粉体の摺接面との間の摩擦抵抗が低減されて、型孔から圧粉体を抜き出しやすくなり、圧粉体の摺接面において塑性流動の発生が抑制されて軟磁性粉末の絶縁性が維持され、高比抵抗の領域を有する圧粉磁心を得ることができる。
二硫化モリブデン粒子は、適度な硬さであって、絶縁性に優れることから、圧粉体を型孔から押し出す際に圧粉体の摺接面の軟磁性粉末の粒子間に入り込んで介在することで、圧粉体の摺接面において軟磁性粉末粒子を支持し塑性流動の発生を抑制することができ、軟磁性粉末粒子の電気絶縁性を維持することができる。さらに、二硫化モリブデン粒子は、固体潤滑剤として機能し、応力緩和能が高い潤滑性材料である。二硫化モリブデンの硬度(ビッカース硬度:500~900HV程度)は、比較的硬度の低いセラミックスと同程度であり、摩擦抵抗による応力に抗して軟磁性粉末の粒子間に介在することで軟磁性粉末粒子を支持し塑性流動の発生を抑制することができる。二硫化モリブデン粒子は、破断歪みがゼロであるので、過大な応力に対しては、自ら劈開して軟磁性粉末粒子への応力を緩和することができる。二硫化モリブデン粒子と絶縁性セラミックス粒子とを併用する場合は、応力を受けた際に、概して、二硫化モリブデン粒子が絶縁性セラミックス粒子に先んじて劈開する。
二硫化モリブデン粒子は、最大粒子径が1000nm以下であることが好ましい。これによって、粗大な粒子を排除して、軟磁性粉末の粒子間に二硫化モリブデン粒子が分散して介在するようになって、圧粉体の絶縁性をより維持することができる。また、個々の二硫化モリブデン粒子が粗大になると質量が増加することから、粗大な粒子を排除することで、型孔の内周面に形成した絶縁性潤滑被膜からの二硫化モリブデン粒子の脱落を防止することができる。
二硫化モリブデン粒子は、最大粒子径が10nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。これによって、過度に微細な粒子を排除して、絶縁性潤滑被膜の形成、原料の取り扱い等をより簡便にすることができる。
絶縁性セラミックス粒子としては、酸化物系、窒化物系、炭化物系等のセラミックス粒子を用いることができる。酸化物系セラミックス粒子としては、酸化アルミニウム(Al)、二酸化チタン(TiO)、二酸化珪素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)、二酸化ジルコニウム(ZrO)、ステアタイト(MgO・SiO)、ジルコン(ZrSiO)、フェライト(M+O・Fe)、ムライト(3Al・2SiO)、フォルステライト(2MgO・SiO)、イットリア(Y)等が挙げられる。窒化物系セラミックス粒子としては、窒化アルミニウム(AlN)、窒化チタン(TiN)、窒化珪素(Si)等が挙げられる。炭化物系セラミックス粒子としては、炭化チタン(TiC)、炭化タングステン(WC)等が挙げられる。その他に、サイアロン(Si-Al-O-N系化合物)等の酸窒化物セラミックス粒子、炭窒化チタン(TiCN)等の炭窒化物セラミックス粒子、コーディエライト粒子、マシナブルセラミックス(SiO・Al、AlN・BN)粒子等も用いることができる。上記した絶縁性セラミックス粒子は、1種単独で、又は2種以上を混合して用いてもよく、同種であってもサイズが異なる粒子を組み合わせて用いてもよい。
このようなセラミックスは、降伏応力が2000~10000MPa程度の値を示し、200~2000MPa程度の低合金鋼等より大きいので、摩擦抵抗による応力に抗して軟磁性粉末粒子を支持し、塑性流動の発生を抑制することができる。さらに、このようなセラミックスは、200~1800程度の適度な硬さ(ビッカース硬度)を有し、破断歪みがゼロであるので、過大な応力に対しては、脆性破壊により自ら破断して軟磁性粉末粒子への応力を分散し緩和することができる。なお、絶縁性セラミックス粒子は、後述するように微細なものが適しているが、微細な粉末は、粉塵爆発の可能性があるため、この点に関しては、十分に酸化された状態であって粉塵爆発の可能性が低い酸化物系の絶縁性セラミックス粒子を用いることが好ましい。
絶縁性セラミックス粒子は、最大粒子径が1000nm以下であることが好ましい。これによって、粗大な粒子を排除して、軟磁性粉末の粒子間に絶縁性セラミックス粒子が分散して介在するようになって、圧粉体の絶縁性をより維持することができる。また、個々の絶縁性セラミックス粒子が粗大になると質量が増加することから、粗大な粒子を排除することで、型孔の内周面に形成した絶縁性潤滑被膜からの絶縁性セラミックス粒子の脱落を防止することができる。また、粗大な粒子を排除することで、型孔から圧粉体を押し出す際に、絶縁性セラミックス粒子の自己破断による応力緩和がより有効に作用して、軟磁性粉末粒子の変形をより抑制することができ、さらに粗大な粒子によって型孔の内周面が摩耗されることを防止することができる。また、粗大な粒子を排除することで、型孔から圧粉体を押し出す際に、軟磁性粉末の粒子表面に形成される絶縁被膜が破壊されることを防止することができる。さらに、粗大な粒子によって型孔又は圧粉体の摩滅により摩耗紛が発生することがあり、この摩耗紛の発生を抑制することができる。この摩耗紛は、圧粉体表面に凝着し、軟磁性粉末の粒子同士を接合させることで、軟磁性粉末の粒子間の絶縁破壊を引き起こすことがある。
絶縁性セラミックス粒子は、最大粒子径が10nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましい。これによって、過度に微細な粒子を排除して、絶縁性潤滑被膜の形成、原料の取り扱い等をより簡便にすることができる。
絶縁性セラミックス粒子は表面改質されたものであってもよい。表面改質されて親油性の絶縁性セラミックスは、後述する通り好ましく用いることができる。
絶縁性潤滑被膜に含まれる絶縁性粒子の粒子径は、絶縁性潤滑被膜に添加される前の絶縁性粒子の原料の粒子径と実質的に同じである。絶縁性粒子の原料の最大粒子径は、μm単位の粉末についてはレーザ回折法によって測定可能であり、nm単位の粉末についてはSEM観察又はTEM観察によって測定可能である。SEM観察又はTEM観察では、少なくとも10個の粒子が観察される測定領域において、粒子の長径を基準にして、最大粒子径を求めることができる。
絶縁性潤滑被膜を内周面に形成した型孔を用いて圧縮成形された圧粉体は、摺接面の表層部において軟磁性粉末の粒子間に絶縁性粒子が介在する構造を有することが好ましい。
このように圧縮成形された圧粉体の摺接面において軟磁性粉末の粒子間の間隙に絶縁性粒子が介在するか否かは、例えば、電子プローブ微小分析(EPMA)による表面観察、SEM-EDXによる表面観察等で確認することができる。
成形型の型孔の内周面に形成される絶縁性潤滑被膜に含まれる絶縁性粒子の量が多くなると、圧粉体の摺接面の軟磁性粉末の粒子間に押し込みきれない余剰の絶縁性粒子が圧粉体の摺接面の表面に付着し、さらに余剰の絶縁性粒子によって圧粉体の摺接面が被覆されることもある。例えば、圧粉体の摺接面の表面が、二硫化モリブデン粒子、絶縁性セラミックス粒子、又はこれらの組み合わせによって被覆されていてもよい。この被覆領域は、上記した5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域の範囲内であることが好ましい。
成形型の型孔の内周面に形成される絶縁性潤滑被膜に絶縁性セラミックス粒子が含まれて、圧粉体の摺接面において軟磁性粉末の粒子間に絶縁性セラミックス粒子が介在する状態では、絶縁性セラミックス粒子自体の絶縁性に起因して、圧粉体の表層部において比抵抗が高く、圧粉体の内部は表層部に対して比抵抗が低くなることがある。この表層部の比抵抗の高さは、高周波環境下で誘導電流が圧粉磁心の表面に集中して流れる状態において、特に効果的に渦電流損Weの増大を抑制することができる。
成形型の型孔の内周面において絶縁性潤滑被膜が形成されない領域では、型孔から圧粉体を押し出す際に、摩擦抵抗によって圧粉体の摺接面に塑性流動が発生しやすい。この塑性流動は、圧粉体の摺接面の最表面において強く発生し、摩擦抵抗の影響は、概して、最表面からの深さが20μm程度までの領域に及ぶことがある。この塑性流動が発生した領域では、圧粉体の摺接面において軟磁性粉末の粒子間の絶縁性が低下することから、上記した1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域を形成し得る。
成形型の型孔の内周面において絶縁性潤滑被膜が形成される領域では、型孔から圧粉体を押し出す際に、圧粉体の摺接面において軟磁性粉末の粒子間に絶縁性粒子が介在して軟磁性粉末粒子を支持することによって、塑性流動の発生を抑制することができる。この作用を得るためには、圧粉体の摺接面の最表面から1mm以内までの深さの領域、好ましくは1μm~100μmの深さの領域まで絶縁性粒子が入り込んで分散しているとよい。この塑性流動の発生が抑制された領域では、圧粉体の摺接面において軟磁性粉末の粒子間の絶縁性が維持されることから、上記した5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域を形成し得る。この5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域が圧粉体の摺接面の全面ではなく部分的に形成されることでも、絶縁性を維持して鉄損の増大を抑制することができる。
また、高周波環境下での圧粉磁心において誘導電流が集中する表面領域の深さは周波数に依存するが、少なくとも1kHz~50kHz程度の周波数においては、上記した圧粉体のお摺接面の最表面からの深さの領域において絶縁性粒子によって比抵抗値が高まることで、十分対応可能である。
圧粉体の摺接面の表層部において、軟磁性粉末の粒子間に絶縁性粒子が介在し、さらに、軟磁性粉末の個々の粒子の周囲を絶縁性粒子が取り囲んで拘束し、軟磁性粉末の隣接する粒子同士が不連続の状態になると、軟磁性粉末の粒子間の導通の発生をより抑制することができる。すなわち、圧粉体の摺接面において上記した5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域では、この不連続性が高いほど比抵抗が上昇するため、好ましい状態となる。また、この不連続な状態は、絶縁性粒子によって軟磁性粉末の個々の粒子の拘束が強固になるため、塑性流動の発生をより抑制することができる。
絶縁性潤滑被膜は、絶縁性粒子の割合が、潤滑油と絶縁性粒子との合計量に対し、20~90質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましく、40~80質量%がさらに好ましい。
絶縁性潤滑被膜が二硫化モリブデン粒子を含む場合、成形型の型孔の内周面に形成される絶縁性潤滑被膜は、二硫化モリブデン粒子の割合が、潤滑油と絶縁性粒子との合計量に対し、30~80質量%が好ましく、40~80質量%がより好ましく、50~70質量%であってもよい。
この二硫化モリブデン粒子の割合が30質量%以上であることで、型孔の内周面と圧粉体の摺接面との間で二硫化モリブデン粒子による潤滑性を付与し、摩擦抵抗を低減することで、摺接面の塑性流動の発生をより抑制することができる。また、圧粉体の摺接面において、軟磁性粉末の粒子間に二硫化モリブデン粒子が介在することでも、摺接面の塑性流動の発生をより抑制することができる。
この二硫化モリブデン粒子の割合が80質量%以下であることで、十分な潤滑油の量によって、被膜形成を促し、絶縁性粒子を型孔の内周面に定着させることができる。また、圧粉体の摺接面において軟磁性粉末の粒子間へ絶縁性粒子を導入するために、キャリアとしての潤滑油の十分な量を確保することができる。また、十分な量の潤滑油は、型孔の内周面と圧粉体の摺接面との間の潤滑性、特に動摩擦に対する潤滑性を確保し、圧粉体の摺接面の塑性流動をより防止することができる。
絶縁性潤滑被膜が絶縁性セラミックス粒子を含む場合、成形型の型孔の内周面に形成される絶縁性潤滑被膜は、絶縁性セラミックス粒子の割合が、潤滑油と絶縁性粒子との合計量に対し、1~10質量%が好ましい。
この絶縁性セラミックス粒子の割合が1質量%以上であることで、絶縁性セラミックス粒子を軟磁性粉末の粒子間により効果的に介在させることができ、圧粉磁心の摺接面の比抵抗をより高めることができる。
この絶縁性セラミックス粒子の割合が10質量%以下であることで、硬質な絶縁性セラミックス粒子の割合を低減させて、型孔の内周面と圧粉体の摺接面との間に存在する絶縁性セラミックス粒子を適量として、型孔の内周面又は圧粉体の摺接面が過剰な絶縁性セラミックス粒子によって摩滅することを防止することができる。また、軟磁性粉末が絶縁被膜を有する場合は、軟磁性粉末の絶縁被膜が過剰な絶縁性セラミックス粒子によって破壊されることを防止することができる。
絶縁性潤滑被膜が二硫化モリブデン粒子と絶縁性セラミックス粒子とを含む場合では、それぞれが上記の配合割合を満たすことが好ましい。
絶縁性潤滑被膜には、粘度調整剤、分散剤、高分子ポリマー等の任意的な添加剤が含まれてもよい。
絶縁性潤滑被膜は、成形型の型孔の内周面に潤滑組成物を塗布して形成することができる。
潤滑組成物は、潤滑油と絶縁性粒子とを含むことができる。絶縁性粒子としては、二硫化モリブデン粒子及び絶縁性セラミックス粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含むことができ、好ましくは少なくとも二硫化モリブデン粒子を含む。潤滑組成物は、潤滑油と二硫化モリブデン粒子とを含むこと、又は、潤滑油と二硫化モリブデン粒子と絶縁性セラミックス粒子とを含むことが好ましい。
潤滑油は、絶縁性粒子の分散媒体として潤滑組成物に添加される。この潤滑組成物は、被膜を形成可能な半固体状または高粘性液体状であることが好ましい。
潤滑組成物を成形型の型孔の内周面に塗布することで、流動可能な絶縁性潤滑被膜を形成することができる。この絶縁性潤滑被膜が成形型の型孔の内周面に形成されることで、潤滑性によって、成形型から圧粉体を抜き出す場合に、成形型の型孔の内周面と圧粉体の摺接面との間の摩擦を低減することができる。
潤滑組成物に二硫化モリブデン粒子が含まれる場合は、二硫化モリブデン粒子は、固体潤滑剤として機能し静止摩擦の低減に特に有効である。潤滑組成物に二硫化モリブデン粒子と潤滑油とが含まれる場合は、潤滑油は、動摩擦の低減により有効に機能することが好ましい観点から、低粘度の液状の潤滑油であることが好ましい。二硫化モリブデン粒子と低粘度の液状の潤滑油との組み合わせによって、成形型から圧粉体を押し出す間の摩擦抵抗をより低減することができる。
液状の潤滑油は、圧粉体の摺接面において軟磁性粉末の粒子間の間隙に毛細管力によって吸収されやすく、圧粉体の摺接面において軟磁性粉末の粒子間の間隙に絶縁性粒子を供給するキャリアとして機能することもできる。
潤滑油は、原油を精製した鉱油系と、化学プロセスにより製造される合成油系の二種類に大別され、いずれであってもかまわないが、安価で広く使用される鉱油系の潤滑油が好ましい。
潤滑油の粘度は、25℃において、1000mm/s~100000mm/sが好ましい。
潤滑油の粘度が100000mm/s以下であることで、圧粉体の摺接面において軟磁性粉末の粒子間の間隙に絶縁性粒子を供給する際にキャリアとして適する流動性を備えることができる。また、成形型の型孔の内周面への塗工性をより改善することができる。
潤滑油の粘度が1000mm/s以上であることで、成形型の型孔の内周面に塗工した際に液だれ等を防止し、被膜形成性をより改善することができる。
潤滑油は、増粘剤等の粘度調整剤を配合することによって粘度を調節できるので、上記のような動粘度を示すように潤滑油に適宜粘度調整剤を添加しもよい。
潤滑組成物は、型孔の内周面に塗布された絶縁性潤滑被膜の組成と等しくなるように潤滑油と絶縁性粒子とが配合されていることが好ましい。絶縁性潤滑被膜の好ましい組成については、上記した通りである。
例えば、潤滑組成物は、潤滑油と絶縁性粒子の合計量に対して、二硫化モリブデン粒子の割合が30~80質量%であることが好ましい。潤滑組成物は、潤滑油と絶縁性粒子との合計量に対して、絶縁性粒子の割合が20~70質量%であることが好ましい。
潤滑組成物には、増粘剤等の粘度調整剤、分散剤、高分子ポリマー等の任意的な添加剤が配合されていてもよい。このような添加剤は、一般的に利用されるものから適宜選択すればよい。
潤滑組成物に粘度調整剤が添加される場合は、潤滑油の配合量の一部を増粘剤に置き換えて、配合割合を決定するとよい。分散剤は、潤滑油中に絶縁性粒子を均一に分散するために添加してもよい。潤滑組成物に分散剤が添加される場合は、絶縁性粒子100質量部に対して1~10質量部の割合で分散剤を添加するとよい。潤滑組成物に高分子ポリマー等のその他の添加剤が添加される場合は、絶縁性粒子100質量部に対して1~10質量部の割合で添加剤を添加するとよい。
潤滑組成物の作製方法としては、例えば、潤滑油に、任意的に添加剤を添加して均一に混合すること、これに二硫化モリブデン粒子、絶縁性セラミックス粒子等の絶縁性粒子を添加して均一に混合及び分散させることを含むことができる。
潤滑組成物の型孔の内周面への塗布方法としては、通常の方法にしたがって行えばよく、例えば、刷毛等で塗工する方法、非塗工領域にマスキングテープを貼りその後に刷毛等で塗工するか、又は潤滑組成物を型孔部分に流し込み余剰の潤滑組成物を除去する方法等がある。
絶縁性潤滑被膜の厚さは、成形型の型孔の内周面に、厚さ0.1μm~20μmで形成されることが好ましい。
絶縁性潤滑被膜の厚さは、0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。これによって、型孔の内周面と圧粉体の摺接面との間に十分な量の潤滑油及び絶縁性粒子を付与することができる。また、型孔と圧粉体との摩擦抵抗を低減させて、圧粉体の摺接面において塑性流動の発生をより抑制することができる。
絶縁性潤滑被膜の厚さは、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。これによって、型孔に原料粉末が充填し圧縮成形される際に、絶縁性潤滑被膜の厚さに起因する寸法精度の低下を防止することができる。また、絶縁性潤滑被膜の厚さが20μm以下であることで、型孔の内周面の中で絶縁性潤滑被膜が形成されない領域と、圧粉体の摺接面とが接触することをより確実にし、この部分で圧粉体の摺接面がある程度の塑性流動を起こし、低比抵抗の領域を形成することが可能となる。また、型孔の内周面の中で、絶縁性潤滑被膜が形成された領域から、絶縁性潤滑被膜が形成されない領域に、余剰の絶縁性潤滑被膜の成分が流れ出すことを防止し、絶縁性潤滑被膜が形成されない領域の確保をより確実にすることができる。
次に、成形型の型孔に軟磁性粉末を含む原料粉末を充填し、原料粉末を圧縮して圧粉体を成形し、圧粉体を型孔から押し出す方法について説明する。
充填方法、圧縮方法、及び押出方法は、それぞれ特に限定されず通常の方法にしたがって行えばよい。
原料粉末の圧縮は、圧粉体の密度比が91%以上になるように行うことが好ましい。
成形圧力は、上記密度比を得るために適宜調節可能であり、例えば、600~1500MPaであってよい。成形圧力は、押出方向の一軸方向に加圧されることが好ましい。
成形温度は、室温で行ってもよいが、加熱成形してもよい。
押出方法としては、例えば、成形型の一方端のパンチ部材を他方端側に移動させることで、圧粉体が他方端側に押し出されるようにして行うことができる。
原料粉末としては、軟磁性粉末を含むことができる。軟磁性粉末の詳細については、上記した通りである。原料粉末は、樹脂等のバインダ、成形潤滑剤、絶縁性セラミックス粒子等の添加剤をさらに含むことができる。
原料粉末に樹脂等のバインダが含まれることで、軟磁性粉末の充填性をより高めて、圧縮成形性をより高めることができる。原料粉末全量に対しバインダは2質量%以下が好ましい。バインダとしては、例えば、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
上記のように、成形型の型孔の内周面に絶縁性潤滑被膜が形成され、絶縁性潤滑被膜には潤滑油と絶縁性粒子とが含まれることで、型孔から圧粉体を押し出す際に摩擦抵抗が低減され、圧粉体の摺接面において塑性流動の発生を抑制することができる。そのため、原料粉末への潤滑剤の内添を不要とすることができる。原料粉末に潤滑剤が含まれないか、又は潤滑剤の含有量が少ないことで、原料粉末の流動性の低下を防止することができ、型孔への原料粉末の充填性をより高めることができ、得られる圧粉体において軟磁性粉末の占積率をより高めることができる。
原料粉末に潤滑剤が内添される場合は、原料粉末全量に対し潤滑剤は0.1~2.0質量%が好ましく、0.2~1.0質量%がより好ましい。潤滑剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。これによって、圧粉体の外表面全体の潤滑性を高めることができる。固体潤滑剤として二硫化モリブデン粒子を原料粉末に内添してもよい。
原料粉末に絶縁性粒子を内添してもよいが、絶縁性粒子を内添しなくてもよい。例えば、絶縁性セラミックス粒子は低透磁率を有するため、原料粉末に絶縁性セラミックス粒子を内添することができる。これによって、絶縁性セラミックス粒子が気孔中に分散した圧粉体を得ることができ、磁気ギャップが分散された恒透磁率の圧粉磁心を提供することができる。
原料粉末に絶縁性セラミックス粒子を内添する場合は、絶縁性セラミックス粒子は、原料粉末全体に対して1.5体積%以下で配合することが好ましい。これによって、圧粉体の気孔に過剰な絶縁性セラミックス粒子が入り込むことを防止し、圧縮成形の際に、型孔の内周面に形成される絶縁性潤滑被膜から、圧粉体の摺接面の軟磁性粉末の粒子間の間隙に、絶縁性粒子が入り込む余地を与えることができる。また、原料粉末の流動性の低下及び成形性の低下を防止し、圧縮成形性をより高めることができる。
絶縁性セラミックス粒子として親油性の絶縁性セラミックス粒子を用いることができる。これによって、潤滑組成物を作製する際に、潤滑油中に絶縁性セラミックス粒子をより均一に分散させることができ、型孔の内周面に形成される絶縁性潤滑被膜において、絶縁性セラミックス粒子をより均一に分布させることができる。親油性の絶縁性セラミックス粒子としては、カップリング剤によって表面改質された絶縁性セラミックス粒子を好ましく用いることができる。
カップリング剤としては、例えば、シラン系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等が挙げられる。これらのカップリング剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
シラン系カップリング剤を用いる場合は、絶縁性セラミックス粒子の表面にSiを含有する化合物で表面処理層が形成される。アルミネート系カップリング剤を用いる場合は、絶縁性セラミックス粒子の表面にAlを含有する化合物で表面処理層が形成される。チタネート系カップリング剤を用いる場合、絶縁性セラミックス粒子の表面にTiを含有する化合物で表面処理層が形成される。このような有機性の表面処理層は、絶縁被膜でもある。
カップリング剤による絶縁性セラミックス粒子の表面改質は、通常の方法にしたがって行えばよい。例えば、シラン系カップリング剤による表面改質としては、直接処理法(乾式、湿式)、インテグラルブレンド法、プライマー型の処理法等がある。また、市販される粉末製品の中から表面改質された絶縁性セラミックス粒子を適宜選択して用いてもよい。
軟磁性粉末として、絶縁被膜を有する軟磁性被膜を用いる場合、特に無機系のリン酸被膜、有機系のシリコーン被膜等を有する軟磁性被膜を用いる場合では、カップリング剤等によって表面改質された絶縁性セラミックス粒子を用いることで、圧縮成形の際に絶縁性粉末粒子と絶縁性セラミックス粒子との親和性が向上して、圧縮成形性をより改善することができる。特に、シリコーン系の絶縁被膜を有する軟磁性粉末と、シラン系カップリング剤によって表面改質した絶縁性セラミックス粒子とを組み合わせる場合では、互いに親和性が高いことから、圧縮成形の際に軟磁性粉末の粒子表面に絶縁性セラミックス粒子が吸着又は被覆されて、軟磁性粉末の粒子の絶縁性をより高めることができる。また、絶縁性セラミックス粒子を介することで、軟磁性粉末粒子と型孔の内周面とが直接接触することを防止し、軟磁性粉末粒子の破壊及び型孔の内周面の摩耗を防ぐことができる。
軟磁性粉末の粒子表面に絶縁性セラミックス粒子が吸着することによって、圧粉体の摺接面の表層部で絶縁状態を維持又は向上することができ、圧粉体の摺接面の絶縁性劣化に起因する圧粉磁心の渦電流損の増大を抑制することができる。
潤滑組成物が親油性の絶縁性セラミックス粒子を含む場合、二硫化モリブデン粒子は、絶縁性セラミックス粒子よりも軟磁性粉末に対する親和性が低いことから、軟磁性粉末の粒子間の間隙に集中して存在しやすくなる。軟磁性粉末の粒子間の間隙において、二硫化モリブデン粒子は劈開して応力緩和しながら潤滑作用も奏するようになる。
圧縮成型後の圧粉体は、そのまま圧粉磁心として用いてもよいが、必要に応じて、熱処理を施してもよい。
例えば、圧粉磁心として使用する際にヒステリシス損の影響を改善するために、圧粉体に蓄積された圧縮歪みを開放する焼鈍熱処理を行ってもよい。また、圧粉体がバインダとして熱硬化性樹脂を含む場合に、熱硬化性樹脂の硬化温度まで加熱する熱処理を行ってもよい。あるいは、圧粉体がバインダとして熱可塑性樹脂を含む場合に、熱可塑性樹脂の軟化温度まで加熱する熱処理を行ってもよい。これらの熱処理は、通常の方法にしたがって行うことができる。
これらの熱処理では、圧粉体の摺接面に付与された潤滑油及び絶縁性粒子等は、圧粉体に一般的に施される熱処理の温度領域において、圧粉体の内部へ拡散することはないか、又はほとんど影響しない程度であるため、得られる圧粉磁心の磁気特性に与える影響は少ない。なお、圧粉体に熱処理を施すことで、潤滑油は分解し消失することはある。
圧縮成型後の圧粉体を熱処理しないで、そのまま圧粉磁心として用いる場合は、圧粉体表面の潤滑油は消失せずに残留する。圧粉体表面の潤滑油を除去するために、例えば、溶媒を用いて圧粉体を洗浄してもよい。
圧粉磁心用圧粉体の製造方法において、成形型の型孔の内周面の所定の領域に絶縁性潤滑被膜を形成して、摺接面において比抵抗が異なる領域を有する圧粉体を得ることが好ましいが、押出方向に交差する両端面(パンチ面)の比抵抗は特に限定されない。そのため、圧粉体と接触するパンチ部材の表面には、絶縁性潤滑被膜を形成してもよいが、形成しなくてもよい。
一実施形態によれば、圧粉磁心製造用成形型は、原料粉末を圧縮して圧粉体を成形するための型孔と、前記型孔の内周面に、前記型孔の押出方向を軸とする周方向にそって、内周全長に対して20%以上80%以下の領域に形成される絶縁性潤滑被膜とを有する圧粉磁心製造用成形型が提供される。絶縁性潤滑被膜は、潤滑油と絶縁性粒子とを含むことが好ましい。絶縁性粒子は、二硫化モリブデン粒子及び絶縁性セラミックス粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、少なくとも二硫化モリブデン粒子を含むことがより好ましい。
他の実施形態によれば、上記した圧粉磁心製造用成形型と、前記型孔内で原料粉末を圧縮するための上下パンチ部材とを有する圧粉磁心製造用成形型装置が提供される。
さらに他の実施形態によれば、潤滑油と絶縁性粒子を含む圧粉磁心製造用成形型の潤滑組成物が提供される。絶縁性粒子は、二硫化モリブデン粒子及び絶縁性セラミックス粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、少なくとも二硫化モリブデン粒子を含むことがより好ましい。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
(潤滑組成物の調製)
絶縁性セラミックス粒子として、酸化チタン粉末(粒子径:100nm)を用意した。この絶縁性セラミックス粒子は、シランカップリング剤(n-ブチルトリメトキシシラン)での表面改質による有機質被覆を有するものであった。また、潤滑油として、増粘剤(成和化成社製SOLGAM SH 210)を用いて25℃での動粘度を10000mm/sに調整した鉱油(エクソンモービル社製ヌトーH32)を用意した。
潤滑油、絶縁性セラミックス粒子及び二硫化モリブデン粒子(粒子径:0.5μm)の合計量に対する絶縁性セラミックス粒子及び二硫化モリブデン粒子の割合が、各々、5質量%及び50質量%になるようにこれらを配合して均一に分散させた。
(圧粉体の成形)
内径が20mmの円筒形型孔を有する成形型に下パンチを嵌合して成形用キャビティを構成し、型孔の内周面に、上述で調製した潤滑組成物を塗布して乾燥することによって、型孔の内周面に、厚さが20μm程度の潤滑被膜を形成した。
試料番号1用の型孔では、型孔の内周面に潤滑組成物を塗布しなかった。
試料番号2~4用の型孔では、型孔の内周面に周方向に沿って内周全長に対してそれぞれ2%、10%、25%の幅に潤滑組成物を塗布し、これ以外の領域には潤滑組成物を塗布しなかった。
試料番号5用の型孔では、型孔の内周の全面に潤滑組成物を塗布した。
試料番号2~5用の型孔では、それぞれ型孔の押出方向全長にわたり潤滑組成物を塗布した。
原料粉末として、表面を絶縁被覆された鉄基軟磁性粉末(ヘガネスAB社製Somaloy110i(5P)、粒度分布における主たる粒分:45~75μm)を用意し、上述の試料番号1~5用の型孔にそれぞれ60gを投入して、上パンチを用いて1200MPaの成形圧で原料粉末を圧縮成形し、押し出すことによって、試料番号1~5の円柱状の圧粉体を得た。アルキメデス法にて圧粉体の密度を測定して、圧粉体の密度比を計算した。結果を表1に示す。
(表面比抵抗の評価方法)
表面比抵抗は、得られた円柱状の圧粉体について、日東精工アナリテック株式会社製の抵抗率計「ロレスターGP」(PSPプローブ)を用いて、四探針法により測定した。PSPプローブの端子列が摺動方向と平行になるように摺動面に押し当て測定した。比抵抗を摺動面一周に対し等間隔に50箇所で測定し、表面比抵抗の面積を以下の通り求めた。
表面比抵抗が5Ωcm以上の面積:((表面比抵抗が5Ωcm以上の測定点)/(全測定点))×100(%)。
表面比抵抗が1Ωcm以下の面積:((表面比抵抗が1Ωcm以下の測定点)/(全測定点))×100(%)。
表面比抵抗が5Ωcm以上の測定点について、平均値を求め、高比抵抗部の表面比抵抗を求めた。同様に、表面比抵抗が1Ωcm以下の測定点について、平均値を求め、低比抵抗部の表面比抵抗を求めた。結果を表1に示す。
(圧粉体側面の表面観察)
得られた圧粉体の側面をEPMA装置を用いて観察し、側面の成分マップにおける二硫化モリブデン粒子の面積率(%)を調べた。面積率は、倍率が100倍の撮影画像を画像解析ソフト(Quick grain standard)を用いて解析(閾値:RGB:160)することによって測定した。更に、圧粉体側面における軟磁性粉末粒子の状態を評価するために、側面のSEM像において軟磁性粉末粒子の塑性流動の有無を調べた。塑性流動の有無は、SEM像における摺動痕の有無により判定すると共に、EPMAによる成分マップにおいて、Fe元素の流動の有無、つまり、軟磁性粉末の粒子間にFe元素が検出されるか否かにより判定した。また、明確な摺動痕が確認されない場合であっても、軟磁性粉末の粒子間においてFe元素が検出される場合は、軟磁性粉末の塑性流動が生じる。塑性流動が発生すると、軟磁性粉末の粒子間の導通によって接合が生じると考えられる。このようして調べた軟磁性粉末の塑性流動の有無の判断結果を表1に示す。
(鉄損の評価方法)
得られた円柱状の圧粉体のパンチ面が磁極面となるようリアクトルを組み立て、脚部に励磁用コイルとサーチ用コイルとを巻線し、岩崎通信機株式会社製のB-Hアナライザ「SY-8258」を用いて磁束密度20mTの際の5kHzと20kHzでの鉄損を測定した。結果を表1に示す。
(寸法精度の評価方法)
得られた円柱状の圧粉体について、マイクロメータを用いて押出方向に直交する断面形状の長さ、すなわち直径を測定した。圧粉体5個の長さの最大最小値から、寸法精度を評価した。
同じ成形型を用いて5個の圧粉体を作製し、5個の圧粉体の寸法を測定した。5個の圧粉体の寸法の中で最大値と最小値との差が小さい場合は寸法精度が良好であるとし、寸法精度を評価した。上記評価結果を表1に示す。表1においてA:良好、B:不良を示す。
Figure 2022094461000002
表1に示す通り、試料番号2~4では、高比抵抗領域と低比抵抗割合とが区別される圧粉磁心が得られた。また、表面比抵抗の測定から求めた高比抵抗割合と、型孔の内周面に塗布した潤滑組成物の領域とはほぼ対応することがわかる。高比抵抗部では塑性流動が観察されていないことから、潤滑組成物を塗布した領域では塑性流動の発生が抑制され、高比抵抗領域が形成されることがわかる。また、潤滑組成物を塗布しなかった領域では塑性流動が発生して、低比抵抗領域が形成されたことがわかる。
高比抵抗割合が26%である試料番号4では、低鉄損であり、寸法精度が高い圧粉磁心が得られた。試料番号1は、型孔の内周面に潤滑組成物を塗布しなかったものであり、圧粉磁心の全周に渡って塑性流動が発生し表面比抵抗が低下した。試料番号2及び3は、型孔の内周面に潤滑組成物を塗布する領域の割合が小さかったものであり、圧粉磁心に発生した塑性流動の割合が大きくなり、高比抵抗割合が低下した。結果として試料番号1~3は鉄損が増大した。試料番号5は、型孔の内周面の全体に潤滑組成物を塗布したものであり、圧粉磁心の全周に渡って塑性流動の発生が抑制され、圧粉磁心の全周において表面比抵抗が高かった。しかし、試料番号5は寸法精度が悪化した。
試料番号2~5について高比抵抗部の二硫化モリブデンの面積率は高く、型孔の内周面に塗布した潤滑組成物が圧粉磁心の外周面に付着していることがわかる。また、試料番号1~4について低比抵抗部の二硫化モリブデンはほとんど確認されなかった。このことから、圧粉磁心の外周面に二硫化モリブデン等の絶縁性粒子がある程度の割合で付着している領域と、この絶縁性粒子がほとんど確認されない領域との割合を確認することで、高比抵抗割合と低比抵抗割合とを特定することが可能であることがわかる。また、高比抵抗部を形成するために圧粉磁心の外周面に絶縁性粒子を付与する方法が有効であることがわかる。
(渦電流損及びヒステリシス損の評価)
試料番号2及び4の圧粉磁心をコアとして、同一の巻数でコイルを巻回して、周波数:50kHz、磁束密度:0.01Tの同一条件下での渦電流損及びヒステリシス損を測定した。結果を表2に示す。試料番号2の圧粉磁心に比べて、試料番号4の圧粉磁心における渦電流損は明らかに少なかった。試料番号4では、高比抵抗割合が大きいことから、圧粉磁心の外周面において渦電流の発生が抑制されるためと考えられる。
Figure 2022094461000003
本発明の圧粉磁心は、変圧器、リアクトル、サイリスタバルブ、ノイズフィルタ、チョークコイル等に適用することができ、また、モーター用鉄心、一般家電及び産業機器用のモーターのロータやヨーク、ディーゼルエンジン及びガソリンエンジンの電子制御式燃料噴射装置に組み込まれる電磁弁用のソレノイドコア(固定鉄心)等にも適用することができる。特に、高周波領域で使用されるリアクトル等への適用において有効性が高い。

Claims (11)

  1. 軟磁性粉末が圧縮成形された圧粉体であり、前記圧粉体の摺接面は、5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域が摺接面全面に対し20面積%以上80面積%以下であり、1Ω・cm以下の比抵抗を有する領域が摺接面全面に対し20面積%以上80面積%以下である、圧粉磁心。
  2. 前記5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域が摺接面全面に対し40面積%以上である、請求項1に記載の圧粉磁心。
  3. 前記5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域は、軟磁性粉末の粒子間に絶縁性粒子が介在する構造の表層部を有する、請求項1に記載の圧粉磁心。
  4. 前記5Ω・cm以上の比抵抗を有する領域は、電子プローブ微小分析による成分マップにおいて、絶縁性粒子の面積率が30%以上である、請求項1に記載の圧粉磁心。
  5. 前記絶縁性粒子は、二硫化モリブデン粒子及び絶縁性セラミックス粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項3又は4に記載の圧粉磁心。
  6. 前記軟磁性粉末は、表面を被覆する絶縁被膜を有する軟磁性粉末である、請求項1から5のいずれか1項に記載の圧粉磁心。
  7. 成形型の型孔の内周面に絶縁性潤滑被膜を形成すること、
    前記成形型の型孔に軟磁性粉末を含む原料粉末を充填すること、
    前記原料粉末を圧縮して圧粉体を成形すること、及び
    前記圧粉体を前記型孔から押し出すことを含み、
    前記成形型の型孔の内周面に形成される絶縁性潤滑被膜は、前記成形型の押出方向を軸とする周方向にそって、内周全長に対して20%以上80%以下の領域に形成される、磁心用圧粉体の製造方法。
  8. 前記絶縁性潤滑被膜は、潤滑油と絶縁性粒子とを含む、請求項7に記載の磁心用圧粉体の製造方法。
  9. 前記絶縁性粒子は、二硫化モリブデン粒子及び絶縁性セラミックス粒子からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項8に記載の磁心用圧粉体の製造方法。
  10. 前記絶縁性潤滑被膜は、前記成形型の押出方向全長に対して50%以上100%以下の領域に形成される、請求項7から9のいずれか1項に記載の磁心用圧粉体の製造方法。
  11. 前記絶縁性潤滑被膜の厚さは、1μm~20μmである、請求項7から10のいずれか1項に記載の磁心用圧粉体の製造方法。
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