JP2022083535A - インドール臭抑制剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】インドール臭を抑制する物質の提供。【解決手段】α-テルピネン、リモネンオキシド、1,4-シネオール、2-メチルブチルブチレート、トリメチルヘキシルアルデヒド、ジペンテン及びcis-4-ヘプテナールからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、インドール臭抑制剤。【選択図】なし

Description

本発明は、インドール臭抑制剤に関する。
ヒト等の哺乳動物においては、匂いは、鼻腔上部の嗅上皮に存在する嗅神経細胞上の嗅覚受容体に匂い分子が結合し、それに対する受容体の応答が中枢神経系へと伝達されることにより認識されている。ヒトの場合、嗅覚受容体は約400個存在することが報告されており、これらをコードする遺伝子はヒトの全遺伝子の約2%にあたる。一般的に、嗅覚受容体と匂い分子は複数対複数の組み合わせで対応付けられている。すなわち、個々の嗅覚受容体は構造の類似した複数の匂い分子を異なる親和性で受容し、一方で、個々の匂い分子は複数の嗅覚受容体によって受容される。さらに、ある嗅覚受容体を活性化する匂い分子が、別の嗅覚受容体の活性化を阻害するアンタゴニストとして働くことも報告されている。これら複数の嗅覚受容体の応答の組み合わせが、個々の匂いの認識をもたらしている。
したがって、同じ匂い分子が存在する場合でも、同時に他の匂い分子が存在すると、当該他の匂い分子によって受容体応答が阻害され、最終的に認識される匂いが全く異なることがある。このような仕組みを嗅覚受容体アンタゴニズムと呼ぶ。この受容体アンタゴニズムによる匂いの抑制は、香水や芳香剤等の別の匂いを付加することによる消臭と異なり、特定の悪臭の認識を特異的に失くしてしまうことができ、また芳香剤の匂いによる不快感が生じることもないという利点を有している。嗅覚受容体アンタゴニズムの考え方に基づき、嗅覚受容体の活性を指標として悪臭抑制物質を同定する方法がこれまでにいくつか開示されている。例えば、特許文献1には、スルフィド化合物に特異的に応答する嗅覚受容体の活性を指標として、スルフィド化合物臭を抑制する物質を探索することが開示されている。
インドールは、糞便から生じる不快な匂いの原因物質の1つである。さらにインドールは、口臭の原因物質としても知られている。特許文献2には、フェノール系化合物及びインドールが尿臭への寄与の高い成分であること、これらの成分は菌体由来のβ-グルクロニダーゼが尿に作用することによって尿中に増加することが記載されている。このように、インドール臭は概して悪臭として知覚される匂いであり、インドール臭を抑制できる技術が望まれている。
インドールに応答する嗅覚受容体として、特許文献3には、OR52N2、OR11G2、OR5AC2、OR4C15、OR8S1、OR11H6、及びOR11H4が開示されている。特許文献4には、OR5P3、OR2W1、OR5K1及びOR8H1がインドール受容体であることが開示されている。また特許文献2及び4には、これらインドール嗅覚受容体を抑えるアンタゴニストを特定して利用すれば、インドールを原因とする悪臭を抑えられる可能性が記述されている。
一方、特許文献5には、OR4S2等の4つの嗅覚受容体が尿臭原因物質の1つであるp-クレゾールに対して応答し、またOR1A1等の7つの嗅覚受容体が別の尿臭原因物質2-メトキシ-4-ビニルフェノールに対して応答したことが開示されている。しかしこれらのうち、OR4S2等の半数のクレゾール受容体は、2-メトキシ-4-ビニルフェノールには応答性を示さず、逆にOR1A1等の半数以上の2-メトキシ-4-ビニルフェノール受容体は、p-クレゾールには応答性を示さなかった。これら受容体の他の尿臭原因物質や他の匂い物質への応答性は予測できない。
特許文献6には、α-テルピネン、リモネンオキシド、1,4-シネオール、2-メチルブチルブチレート(2-MBB)、トリメチルヘキシルアルデヒド(THA)、ジペンテン及びcis-4-ヘプテナールが嗅覚受容体OR4S2の応答を阻害するアンタゴニストであることが開示されている。しかしながら、OR4S2のインドールに対する応答性、及びこれらアンタゴニストのインドール臭に対する効果は知られていない。
国際公開公報第2016/204211号 国際公開公報第2009/037861号 特表2016-523546号公報 特開2012-249614号公報 特開2015-211667号公報 特開2017-006653号公報
本発明は、インドール臭を抑制する物質を提供することに関する。
本発明者らは、嗅覚受容体OR4S2がインドール受容体であることを新たに見出した。また本発明者らは、該嗅覚受容体OR4S2の応答を抑制するα-テルピネン、リモネンオキシド、1,4-シネオール、2-メチルブチルブチレート、トリメチルヘキシルアルデヒド、ジペンテン及びcis-4-ヘプテナールが、嗅覚受容体アンタゴニズムにより、インドールの臭いを抑制することができることを見出した。
したがって、本発明は、α-テルピネン、リモネンオキシド、1,4-シネオール、2-メチルブチルブチレート、トリメチルヘキシルアルデヒド、ジペンテン及びcis-4-ヘプテナールからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、インドール臭抑制剤を提供する。
本発明によれば、嗅覚受容体アンタゴニズムによりインドール臭を選択的に消臭することができる。
種々の濃度のインドールに対する嗅覚受容体OR4S2の応答。n=3、エラーバー=±SE。 OR4S2アンタゴニストによるインドール臭抑制効果。データは官能評価によるインドール臭強度を表す。Indole:インドールのみ、Solvent:溶媒のみ、その他はインドール+試験物質。n=3、エラーバー=±SE。
本明細書において、「嗅覚受容体アンタゴニズムによる匂いの抑制」とは、目的の匂い分子と他の分子をともに適用することにより、当該他の分子によって目的の匂い分子に対する受容体応答を阻害し、結果的に個体に認識される匂いを抑制する手段である。嗅覚受容体アンタゴニズムによる匂いの抑制は、同様に他の分子を用いる手段であっても、芳香剤による消臭のように、目的の匂いを香料の香気によって隠蔽する手段とは区別される。嗅覚受容体アンタゴニズムによる匂いの抑制の一例は、アンタゴニスト(拮抗剤)等の嗅覚受容体の応答を阻害する物質を使用するケースである。特定の匂いをもたらす匂い分子の受容体にその応答を阻害する物質を適用すれば、当該受容体の当該匂い分子に対する応答が抑制されるため、最終的に個体に知覚される匂いを抑制することができる。
本発明により抑制される「インドール臭」とは、インドールにより生じる臭いであり、例えば、糞便臭、尿臭、口臭、おなら臭、頭皮臭、畜産廃棄物臭、畜産臭気などに含まれる。一実施形態において、「インドール臭」は、頭皮臭、畜産臭気であり得る。
後述の実施例に示されるとおり、OR4S2がインドールに応答性を有する嗅覚受容体であることが明らかにされた。OR4S2は、ヒト嗅細胞で発現している嗅覚受容体であり、GenBankにGI:116517324として登録されている。OR4S2としては、配列番号1のヌクレオチド配列を有する遺伝子にコードされる、配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。OR4S2がインドールに応答すること又はその可能性があることはこれまで認識されていなかった。
嗅覚受容体OR4S2がインドールに応答性を有する嗅覚受容体であることから、OR4S2の応答を抑制する物質は、嗅覚受容体アンタゴニズムにより、インドール臭を選択的に抑制することができると考えられた。本発明者らは、この考えに基づいて、OR4S2の応答を抑制する物質について検討した結果、下記表1に示す物質が、実際にインドールの臭いを抑制する作用を有することを見出した。
Figure 2022083535000001
したがって、嗅覚受容体OR4S2の応答を抑制する上記表1に記載のOR4S2アンタゴニスト(拮抗剤)を、インドールの臭いの抑制のために使用することができる。OR4S2アンタゴニストは、嗅覚受容体アンタゴニズムにより、中枢におけるインドール臭の認識に変化を生じさせ、結果として、インドール臭を選択的に抑制することができる。該OR4S2アンタゴニストによれば、従来の消臭剤または芳香剤を用いる消臭方法において生じていた芳香剤の強いにおいに基づく不快感等や、他のにおいをも抑えてしまうという問題を生じることがなく、インドール臭を消臭することができる。
本発明において、OR4S2アンタゴニストとは、α-テルピネン、リモネンオキシド、1,4-シネオール、2-メチルブチルブチレート、トリメチルヘキシルアルデヒド、ジペンテン及びcis-4-ヘプテナールからなる群より選択される少なくとも1種を意味する。例えば、本発明において、OR4S2アンタゴニストとは、α-テルピネン、リモネンオキシド、1,4-シネオール、2-メチルブチルブチレート、トリメチルヘキシルアルデヒド、ジペンテン及びcis-4-ヘプテナールのいずれか単独又はいずれか2つ以上の組み合わせを意味する。
α-テルピネン、リモネンオキシド、1,4-シネオール、2-メチルブチルブチレート、トリメチルヘキシルアルデヒド、ジペンテン及びcis-4-ヘプテナールは、いずれも市販のものを購入することができる。例えば、東京化成工業株式会社、Sigma-Aldrichなどから入手することが可能である。
一実施形態において、本発明は、OR4S2アンタゴニストを有効成分とする、インドール臭抑制剤を提供する。別の一実施形態において、該OR4S2アンタゴニストは、インドール臭抑制剤の製造のために使用され得る。一実施形態において、該インドール臭抑制剤は組成物であり、該OR4S2アンタゴニストは、該組成物に、インドール臭を抑制するための有効成分として含有される。該組成物は、該OR4S2アンタゴニストによるインドール臭抑制作用が損なわれない限り、該OR4S2アンタゴニストとともに、さらに他の消臭成分、防臭成分又は芳香成分、あるいは消臭剤又は防臭剤に一般的に添加される任意の成分を、その目的に応じて適宜含有していてもよい。あるいは、該インドール臭の抑制剤は、該OR4S2アンタゴニストから本質的に構成されていてもよい。
さらなる実施形態において、本発明は、インドールと、OR4S2アンタゴニストとを共存させる工程を含む、インドールの臭いの抑制方法を提供する。
一実施形態において、上記本発明の方法における上記共存させる工程は、インドールの存在下で、インドールの臭いの抑制を必要とする対象(個体)、好ましくは嗅覚受容体アンタゴニズムによるインドールの臭いの抑制を必要とする対象に、上記OR4S2アンタゴニストを適用することを含む。適用された該アンタゴニストは、該対象のOR4S2に作用し、インドールに対する該OR4S2の応答を抑制する。結果、嗅覚受容体アンタゴニズムによって、インドールの臭いが抑制される。
別の実施形態において、上記本発明の方法における上記共存させる工程は、インドールの臭いの抑制を必要とする対象、好ましくは嗅覚受容体アンタゴニズムによるインドールの臭いの抑制を必要とする対象に対し、上記OR4S2アンタゴニストを適用することと、該OR4S2アンタゴニストを適用した対象をインドールに曝すこととを含む。予め適用された該アンタゴニストは、該対象のOR4S2に作用し、後から曝露されるインドールに対する該OR4S2の応答を抑制する。結果、嗅覚受容体アンタゴニズムによって、インドールの臭いが抑制される。
上記本発明の方法のより詳細な一実施形態においては、上記OR4S2アンタゴニストは、インドールの臭いの抑制を必要とする対象に携行される。これによって、該対象に該OR4S2アンタゴニストが適用される。該OR4S2アンタゴニストが適用された対象がインドールに曝されても、OR4S2は該インドールに対して低い応答を示し、結果として該インドールの臭いは抑制される。
別の詳細な一実施形態においては、上記OR4S2アンタゴニストは、インドールが存在しているか又はその可能性のある環境に配置される。これによって、当該環境にいるインドールの臭いの抑制を必要とする対象に、該OR4S2アンタゴニストが適用される。該OR4S2アンタゴニストが適用された対象がインドールに曝されても、OR4S2は該インドールに対して低い応答を示し、結果として該インドールの臭いは抑制される。
また別の詳細な一実施形態においては、上記OR4S2アンタゴニストは、インドールを含有するか又は含有する可能性のある物質に添加される。好ましくは、インドールを含有するか又は含有する可能性のある物質と、該OR4S2アンタゴニストとの組成物が調製され、該組成物がインドールの臭いの抑制を必要とする対象に適用される。該組成物がインドールの臭いを発した場合でも、該OR4S2アンタゴニストがOR4S2の応答を抑制するため、結果としてインドールの臭いは抑制される。
本発明におけるインドール臭抑制のための該OR4S2アンタゴニストの適用例としては、トイレの前又は中への該アンタゴニストの載置や噴霧;病棟又は介護施設などで排泄の処置に関わる者に、該アンタゴニストを携行させたり、該処置の前に該アンタゴニストに曝露したりする方法;該アンタゴニストを含んだ紙おむつ又は生理用品;該アンタゴニストを含んだ肌着、下着、リネン類、マスク等の服飾類、布製品、又は織物;該アンタゴニストを含んだ洗濯用洗剤又は柔軟剤;該アンタゴニストを含んだ香粧品、洗浄剤、デオドラント等の外用剤、医薬品、食品、等;家畜飼育施設などへの該アンタゴニストの載置や噴霧;畜産業に従事する者に、該アンタゴニストを携行させたり、飼育施設での作業の前に該アンタゴニストを暴露したりする方法;インドール臭を有する製品の製造ラインもしくはインドール臭を発生する環境への該アンタゴニストの適用、などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明において、インドール臭の抑制を必要とする対象(個体)の例としては、特に限定されないが、トイレでの糞便臭の知覚を低減したい者、家庭、病棟、介護施設などで排泄の処置に関わる者、排泄物の処理や清掃に関わる者、排水管や汚水処理施設の点検、清掃又は工事に従事する者、家畜飼育施設などでの作業に従事する者、などが挙げられる。該対象は、哺乳動物であれば特に限定されないが、好ましくはヒトである。
本発明の例示的実施形態として、さらに以下の組成物、製造方法、用途あるいは方法を本明細書に開示する。ただし、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
〔1〕α-テルピネン、リモネンオキシド、1,4-シネオール、2-メチルブチルブチレート、トリメチルヘキシルアルデヒド、ジペンテン及びcis-4-ヘプテナールからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、インドール臭抑制剤。
〔2〕インドール臭に曝される前の対象者に適用される、〔1〕記載のインドール臭抑制剤。
〔3〕前記インドール臭に曝される前の対象者に携行される、〔2〕記載のインドール臭抑制剤。
〔4〕インドール臭を発生する可能性のある環境に適用されるか、又はインドール臭を発生する可能性のある物質に添加される、〔1〕記載のインドール臭抑制剤。
〔5〕インドール臭抑制剤の製造のための、α-テルピネン、リモネンオキシド、1,4-シネオール、2-メチルブチルブチレート、トリメチルヘキシルアルデヒド、ジペンテン及びcis-4-ヘプテナールからなる群より選択される少なくとも1種の使用。
〔6〕前記インドール臭抑制剤が、インドール臭に曝される前の対象者に適用される、〔5〕記載の使用。
〔7〕前記インドール臭抑制剤が、前記インドール臭に曝される前の対象者に携行される、〔6〕記載の使用。
〔8〕前記インドール臭抑制剤が、インドール臭を発生する可能性のある環境に適用されるか、又はインドール臭を発生する可能性のある物質に添加される、〔5〕記載の使用。
〔9〕インドール臭抑制のための、α-テルピネン、リモネンオキシド、1,4-シネオール、2-メチルブチルブチレート、トリメチルヘキシルアルデヒド、ジペンテン及びcis-4-ヘプテナールからなる群より選択される少なくとも1種の使用。
〔10〕前記物質が、インドール臭に曝される前の対象者に適用される、〔9〕記載の使用。
〔11〕前記物質が、前記インドール臭に曝される前の対象者に携行される、〔10〕記載の使用。
〔12〕前記物質が、インドール臭を発生する可能性のある環境に適用されるか、又はインドール臭を発生する可能性のある物質に添加される、〔9〕記載の使用。
〔13〕インドール臭抑制方法であって、それを必要とする対象に、α-テルピネン、リモネンオキシド、1,4-シネオール、2-メチルブチルブチレート、トリメチルヘキシルアルデヒド、ジペンテン及びcis-4-ヘプテナールからなる群より選択される少なくとも1種を適用することを含む、方法。
〔14〕前記物質が、インドール臭に曝される前の前記対象に適用される、〔13〕記載の方法。
〔15〕前記物質が、インドール臭を発生する可能性のある環境に適用されるか、又はインドール臭を発生する可能性のある物質に添加される、〔13〕記載の方法。
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
実施例1 インドール臭原因物質に応答する嗅覚受容体の同定
1)ヒト嗅覚受容体遺伝子のクローニング
ヒト嗅覚受容体はGenBankに登録されている配列情報を基に、human genomic DNA female(G1521:Promega)を鋳型としたPCRによりクローニングした。PCRにより増幅した各遺伝子をpENTRベクター(Invitrogen)にマニュアルに従って組み込み、pENTRベクター上に存在するNotI/AscIサイトを利用して、pME18Sベクター上のFlag-Rhoタグ配列の下流に作製したNotI/AscIサイトへと組換えた。
2)pME18S-ヒトRTP1Sベクターの作製
RTP1SをコードするRTP1S遺伝子(配列番号3)を、pME18SベクターのEcoRI/XhoIサイトへ組み込んだ。
3)嗅覚受容体発現細胞の作製
ヒト嗅覚受容体のいずれか1種を発現させたHEK293細胞を作製した。表2に示す組成の反応液を調製しクリーンベンチ内で15分静置した後、96ウェルプレート(BD)の各ウェルに添加した。次いで、HEK293細胞(3×105細胞/cm2)を90μLずつ各ウェルに播種し、37℃、5%CO2を保持したインキュベータ内で24時間培養した。対照として、嗅覚受容体を発現していない細胞(Mock)を用意し、同様に培養した。
Figure 2022083535000002
4)ルシフェラーゼアッセイ
HEK293細胞に発現させた嗅覚受容体は、細胞内在性のGαsと共役しアデニル酸シクラーゼを活性化することで、細胞内cAMP量を増加させる。本研究での受容体応答測定には、細胞内cAMP量の増加をホタルルシフェラーゼ遺伝子(fluc2P-CRE-hygro)由来の発光値としてモニターするルシフェラーゼレポータージーンアッセイを用いた。また、CMVプロモータ下流にウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を融合させたもの(hRluc-CMV)を同時に遺伝子導入し、遺伝子導入効率や細胞数の誤差を補正する内部標準として用いた。
上記3)で作製した培養物から、培地を取り除き、塩化銅300μMを含むDMEM(Nacalai)で調製したインドール(東京化成工業)の溶液75μLを添加した。培養物中のインドールの最終濃度は10~1000μMであった。細胞をCO2インキュベータ内で4時間培養し、ルシフェラーゼ遺伝子を細胞内で十分に発現させた。ルシフェラーゼの活性は、Dual-Glo(商標)luciferase assay system(Promega)を用い、製品の操作マニュアルに従って測定した。ホタルルシフェラーゼ由来の発光値をウミシイタケルシフェラーゼ由来の発光値で除した値fLuc/hRlucを算出した。インドール刺激を与えた細胞で誘導されたfLuc/hRlucを、インドール刺激を与えなかった細胞でのfLuc/hRlucで割った値をfold increaseとして算出し、応答強度の指標とした。
5)結果
400種類以上のヒト嗅覚受容体のスクリーニングの結果、これまでインドールに対する応答が報告されていなかった受容体の中から、OR4S2がインドールに応答性を有する受容体として見出された。OR4S2のインドールに対する応答は、いずれも濃度依存的であった(図1)。OR4S2は、これまでインドールに応答することが見出されていない、新規のインドール受容体である。
実施例2 受容体アンタゴニストのインドール臭抑制効果
OR4S2アンタゴニストのインドール臭抑制効果を官能試験により評価した。OR4S2アンタゴニストには、WO2016/204212に開示されるOR4S2アンタゴニスト化合物を用いた。本実施例で用いた物質を表3に示す。
Figure 2022083535000003
インドール溶液として100mMインドールのミネラルオイル溶液を調製した。試験物質溶液として各OR4S2アンタゴニスト(1v/v%)のミネラルオイル溶液を調製した。20mL容のガラス瓶(マルエム、No.6)に2つの綿球を入れ、1つの綿球にはインドール溶液10μLを、もう1つの綿球には試験物質溶液10μLを染み込ませた(試験サンプル)。基準サンプルとしてインドール溶液を含む綿球のみを入れたガラス瓶を、対照サンプルとしてミネラルオイル(Solvent)を含む綿球のみを入れたガラス瓶を準備した。綿球を入れたガラス瓶は、蓋をして室温で0.5時間静置した後、サンプルとして官能試験に用いた。
官能試験は3名の評価者により行った。試験は10時30分から順次開始した。次の5段階のインドール臭強度基準「インドール臭が、1:わからない、2:感知できる、3:楽にわかる、4:強く感じる、5:耐えられないほど強く感じる」を設定した。被験者はまずインドール単独の基準サンプルを数秒間嗅ぎ、その強度を3とした。その後直ちに被験者は試験サンプルを数秒間嗅ぎ、基準サンプルと比較したインドール臭の強度を1.0から0.5刻みで5.0までの9段階で評価した。インドール臭への順応の影響を排除するため、各試験サンプルを一つ嗅いだあとには、基準サンプルの認知強度を確認し、必要であれば休憩をとった。各サンプルについて、評価者による評価結果の平均値を求めた。
官能試験の結果を図2に示す。OR4S2アンタゴニストであるα-テルピネン、リモネンオキシド、1,4-シネオール、2-メチルブチルブチレート(2-MBB)、トリメチルヘキシルアルデヒド(THA)、ジペンテン及びcis-4-ヘプテナールは、いずれもインドール臭の強度を低下させた。以上の結果から、これらの物質により、インドール臭が抑制されることが明らかになった。

Claims (3)

  1. α-テルピネン、リモネンオキシド、1,4-シネオール、2-メチルブチルブチレート、トリメチルヘキシルアルデヒド、ジペンテン及びcis-4-ヘプテナールからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする、インドール臭抑制剤。
  2. インドール臭に曝される前の対象者に適用される、請求項1記載のインドール臭抑制剤。
  3. インドール臭を発生する可能性のある環境に適用されるか、又はインドール臭を発生する可能性のある物質に添加される、請求項1記載のインドール臭抑制剤。
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