[第1の実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ制御装置を備えたモータ駆動システムの全体構成図である。図1において、モータ駆動システム100は、モータ制御装置1、モータ2、インバータ3、高圧バッテリ5、電流検出部7、回転位置検出器8を有している。
モータ制御装置1には、回転位置検出器8からモータ2の回転位置θが入力される。また、電流検出部7から、モータ2に流れる三相の交流電流をそれぞれ表すIu、Iv、Iwが入力され、図示省略した上位制御装置よりトルク指令T*が入力される。モータ制御装置1は、これらの入力情報を基に、モータ2の駆動を制御するためのゲート信号を生成し、インバータ3に出力する。これにより、インバータ3の動作を制御し、モータ2の駆動を制御する。なお、モータ制御装置1の詳細については後で説明する。
インバータ3は、インバータ回路31、PWM信号駆動回路32および平滑キャパシタ33を有する。PWM信号駆動回路32は、モータ制御装置1から入力されるゲート信号に基づいて、インバータ回路31が有する各スイッチング素子を制御するためのPWM信号を生成し、インバータ回路31に出力する。インバータ回路31は、U相、V相、W相の上アームおよび下アームにそれぞれ対応するスイッチング素子を有している。PWM信号駆動回路32から入力されたPWM信号に従ってこれらのスイッチング素子がそれぞれ制御されることで、高圧バッテリ5から供給される直流電力が交流電力に変換され、モータ2に出力される。平滑キャパシタ33は、高圧バッテリ5からインバータ回路31に供給される直流電力を平滑化する。
高圧バッテリ5は、モータ駆動システム100の直流電圧源であり、インバータ3へ電源電圧Hvdcを出力する。高圧バッテリ5の電源電圧Hvdcは、インバータ3のインバータ回路31とPWM信号駆動回路32によって可変電圧、可変周波数のパルス状の三相交流電圧に変換され、線間電圧としてモータ2に印加される。これにより、高圧バッテリ5の直流電力を基に、インバータ3からモータ2へ交流電力が供給される。なお、高圧バッテリ5の電源電圧Hvdcは、その充電状態に応じて変動する。
モータ2は、インバータ3から供給される交流電力により回転駆動される三相電動機であり、固定子(ステータ)および回転子(ロータ)を有する。本実施形態では、モータ2として永久磁石同期モータを用いる例を説明するが、例えば誘導モータやシンクロナスリラクタンスモータなど、他の方式のモータ2を用いても構わない。インバータ3から入力された交流電力が固定子に設けられた三相のコイルLu、Lv、Lwに印加されると、モータ2において三相交流電流Iu、Iv、Iwが導通し、各コイルに磁束が発生する。この各コイルの磁束と、回転子に配置された永久磁石の磁石磁束との間で吸引力・反発力が発生することで、回転子にトルクが発生し、モータ2が回転駆動される。
モータ2には、回転子の回転位置θを検出するための回転位置センサ4が取り付けられている。回転位置検出器8は、回転位置センサ4の入力信号から回転位置θを演算する。回転位置検出器8による回転位置θの演算結果はモータ制御装置1に入力され、モータ制御装置1がモータ2の誘起電圧の位相に合わせてパルス状のゲート信号を生成することで行われる交流電力の位相制御において利用される。
ここで、回転位置センサ4には、鉄心と巻線とから構成されるレゾルバがより好適であるが、GMRセンサなどの磁気抵抗素子や、ホール素子を用いたセンサであっても問題ない。回転子の磁極位置を測定することができれば、任意のセンサを回転位置センサ4として用いることができる。また、回転位置検出器8は、回転位置センサ4からの入力信号を用いず、モータ2に流れる三相交流電流Iu、Iv、Iwや、インバータ3からモータ2に印加される三相交流電圧Vu、Vv、Vwを用いて回転位置θを推定してもよい。
インバータ3とモータ2の間の電流経路には、電流検出部7が配置されている。電流検出部7は、モータ2を通電する三相交流電流Iu、Iv、Iw(U相交流電流Iu、V相交流電流IvおよびW相交流電流Iw)を検出する。電流検出部7は、例えばホール電流センサ等を用いて構成される。電流検出部7による三相交流電流Iu、Iv、Iwの検出結果はモータ制御装置1に入力され、モータ制御装置1が行うゲート信号の生成に利用される。なお、図1では電流検出部7が3つの電流検出器により構成される例を示しているが、電流検出器を2つとし、残る1相の交流電流は、三相交流電流Iu、Iv、Iwの和が零であることから算出してもよい。また、高圧バッテリ5からインバータ3に流入するパルス状の直流電流を、平滑キャパシタ33とインバータ3の間に挿入されたシャント抵抗等により検出し、この直流電流とインバータ3からモータ2に印加される三相交流電圧Vu、Vv、Vwに基づいて三相交流電流Iu、Iv、Iwを求めてもよい。
次に、モータ制御装置1の詳細について説明する。図2は、本発明の第1の実施形態に係るモータ制御装置1の機能構成を示すブロック図である。
図2に示されるように、モータ制御装置1は、電流指令生成部11、速度算出部12、三相/dq変換部13、電流制御部14、dq/三相電圧変換部15、搬送波周波数調整部16、三角波生成部17、ゲート信号生成部18の各機能ブロックを有する。モータ制御装置1は、例えばマイクロコンピュータにより構成され、マイクロコンピュータにおいて所定のプログラムを実行することにより、これらの機能ブロックを実現することができる。あるいは、これらの機能ブロックの一部または全部をロジックICやFPGA等のハードウェア回路を用いて実現してもよい。
電流指令生成部11は、入力されたトルク指令T*と電源電圧Hvdcに基づき、d軸電流指令Id*およびq軸電流指令Iq*を演算する。ここでは、例えば予め設定された電流指令マップや、d軸電流Id,q軸電流Iqとモータトルクの関係を表す数式等を用いて、トルク指令T*に応じたd軸電流指令Id*、q軸電流指令Iq*を求める。
速度算出部12は、回転位置θの時間変化から、モータ2の回転速度(回転数)を表すモータ回転速度ωrを演算する。なお、モータ回転速度ωrは、角速度(rad/s)または回転数(rpm)のいずれで表される値であってもよい。また、これらの値を相互に変換して用いてもよい。
三相/dq変換部13は、電流検出部7が検出した三相交流電流Iu、Iv、Iwに対して、回転位置検出器8が求めた回転位置θに基づくdq変換を行い、d軸電流値Idおよびq軸電流値Iqを演算する。
電流制御部14は、電流指令生成部11から出力されるd軸電流指令Id*およびq軸電流指令Iq*と、三相/dq変換部13から出力されるd軸電流値Idおよびq軸電流値Iqとの偏差に基づき、これらの値がそれぞれ一致するように、トルク指令T*に応じたd軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*を演算する。ここでは、例えばPI制御等の制御方式により、d軸電流指令Id*とd軸電流値Idの偏差に応じたd軸電圧指令Vd*と、q軸電流指令Iq*とq軸電流値Iqの偏差に応じたq軸電圧指令Vq*とを求める。
dq/三相電圧変換部15は、電流制御部14が演算したd軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*に対して、回転位置検出器8が求めた回転位置θに基づく三相変換を行い、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*(U相電圧指令値Vu*、V相電圧指令値Vv*およびW相電圧指令値Vw*)を演算する。これにより、トルク指令T*に応じた三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を生成する。
搬送波周波数調整部16は、電流指令生成部11が生成したd軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*、回転位置検出器8が求めた回転位置θ、速度算出部12が求めた回転速度ωrに基づき、ゲート信号の生成に用いられる搬送波の周波数を表す搬送波周波数fcを演算する。なお、搬送波周波数調整部16による搬送波周波数fcの演算方法の詳細については後述する。
三角波生成部17は、搬送波周波数調整部16が演算した搬送波周波数fcと、回転位置検出器8が求めた回転位置θとに基づき、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*のそれぞれについて三角波信号(搬送波信号)Trを生成する。このとき三角波生成部17は、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と三角波信号Trとの位相差が所定の関係で逐次変更されるように、各相の三角波信号Trの位相をそれぞれ制御する。これにより、インバータ3のインバータ回路31において各スイッチング素子が行うスイッチング動作時の電力損失を増大させることなく、モータ2の高調波電圧を抑制できるようにしている。なお、三角波生成部17による三角波信号Trの演算方法の詳細については後述する。
ゲート信号生成部18は、三角波生成部17から出力される三角波信号Trを用いて、dq/三相電圧変換部15から出力される三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*をそれぞれパルス幅変調し、インバータ3の動作を制御するためのゲート信号を生成する。具体的には、dq/三相電圧変換部15から出力される三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と、三角波生成部17から出力される三角波信号Trとの比較結果に基づき、U相、V相、W相の各相に対してパルス状の電圧を生成する。そして、生成したパルス状の電圧に基づき、インバータ3の各相のスイッチング素子に対するパルス状のゲート信号を生成する。このとき、各相の上アームのゲート信号Gup、Gvp、Gwpをそれぞれ論理反転させ、下アームのゲート信号Gun、Gvn、Gwnを生成する。ゲート信号生成部18が生成したゲート信号は、モータ制御装置1からインバータ3のPWM信号駆動回路32に出力され、PWM信号駆動回路32によってPWM信号に変換される。これにより、インバータ回路31の各スイッチング素子がオン/オフ制御され、インバータ3の出力電圧が調整される。
次に、モータ制御装置1における搬送波周波数調整部16の動作について説明する。搬送波周波数調整部16は前述のように、d軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*と、回転位置θと、回転速度ωrとに基づき、搬送波周波数fcを演算する。この搬送波周波数fcに従って三角波生成部17が生成する三角波信号Trの周波数を逐次的に制御することで、トルク指令T*に応じた三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の電圧波形に対して、搬送波である三角波信号Trの周期と位相がそれぞれ所望の関係となるように調整する。なお、ここでの所望の関係とは、例えば、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*のそれぞれに対する三角波信号Trの位相差が、インバータ3の出力電圧における高調波電圧が抑制されるような関係のことを指す。
図3は、本発明の第1の実施形態に係る搬送波周波数調整部16のブロック図である。搬送波周波数調整部16は、同期PWM搬送波数選択部161、電圧位相演算部162、電圧位相誤差演算部163、同期搬送波周波数演算部164、搬送波周波数設定部165を有する。
同期PWM搬送波数選択部161は、回転速度ωrに基づき、同期PWM制御における電圧波形の1周期に対する搬送波の数を表す同期PWM搬送波数Ncを選択する。同期PWM搬送波数選択部161は、例えば3の倍数のうちNc=3×(2×n-1)の条件式を満たす数を、同期PWM搬送波数Ncとして選択する。この条件式において、nは任意の自然数を表しており、例えばn=1(Nc=3)、n=2(Nc=9)、n=3(Nc=15)などが選ばれることが多い。また、特殊な搬送波を用いることで、例えばNc=6やNc=12など、3の倍数であっても上記の条件式を満たさない数を同期PWM搬送波数Ncとして選定することも可能である。なお、同期PWM搬送波数選択部161は、回転速度ωrだけでなく、トルク指令T*に基づいて、同期PWM搬送波数Ncの選択を行ってもよい。また、例えばヒステリシスを設定するなど、回転速度ωrが上昇するときと下降するときとで、同期PWM搬送波数Ncの選択基準を変化させてもよい。
電圧位相演算部162は、d軸電圧指令Vd*およびq軸電圧指令Vq*と、回転位置θと、回転速度ωrと、搬送波周波数fcに基づいて、以下の式(1)~(4)により電圧位相θvを演算する。
θv=θ+φv+φdqv+0.5π ・・・(1)
φv=ωr・1.5Tc ・・・(2)
Tc=1/fc ・・・(3)
φdqv=atan(Vq/Vd) ・・・(4)
ここで、φvは電圧位相の演算遅れ補償値を、Tcは搬送波周期を、φdqvはd軸からの電圧位相をそれぞれ表すものとする。演算遅れ補償値φvは、回転位置検出器8が回転位置θを取得してからモータ制御装置1がインバータ3にゲート信号を出力するまでの間に、1.5制御周期分の演算遅れが発生することを補償する値である。なお、本実施形態では、式(1)右辺の第4項で0.5πを加算している。これは、式(1)右辺の第1項~第3項で演算される電圧位相がcos波であるため、これをsin波に視点変換するための演算である。
電圧位相誤差演算部163は、同期PWM搬送波数選択部161により選択された同期PWM搬送波数Ncと、電圧位相演算部162により演算された電圧位相θvとに基づき、電圧位相誤差Δθvを演算する。電圧位相誤差Δθvは、インバータ3に対する電圧指令である三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と、パルス幅変調に用いる搬送波である三角波信号Trとの位相差を表している。電圧位相誤差演算部163が所定の演算周期ごとに電圧位相誤差Δθvを演算することで、搬送波周波数調整部16において、インバータ3に対する電圧指令とパルス幅変調に用いる搬送波との位相差を変化させるように、三角波信号Trの周波数調整を行うことができる。
同期搬送波周波数演算部164は、以下の式(5)に従い、電圧位相誤差演算部163により演算された電圧位相誤差Δθvと、回転速度ωrと、同期PWM搬送波数選択部161により選択された同期PWM搬送波数Ncに基づき、同期搬送波周波数fcsを演算する。
fcs=ωr・Nc・(1+Δθv・K)/(2π)・・・(5)
同期搬送波周波数演算部164は、例えばPLL(Phase Locked Loop)制御により、式(5)に基づく同期搬送波周波数fcsを演算することができる。なお、式(5)においてゲインKは一定値としてもよいし、条件により可変としてもよい。
搬送波周波数設定部165は、回転速度ωrに基づいて、同期搬送波周波数演算部164により演算された同期搬送波周波数fcsと、非同期搬送波周波数fcnsとのいずれかを選択し、搬送波周波数fcとして出力する。非同期搬送波周波数fcnsは、搬送波周波数設定部165において予め設定された一定値である。なお、予め非同期搬送波周波数fcnsを複数用意しておき、その中でいずれかを回転速度ωrに応じて選択してもよい。例えば、回転速度ωrの値が大きいほど非同期搬送波周波数fcnsの値が大きくなるように、搬送波周波数設定部165において非同期搬送波周波数fcnsを選択し、搬送波周波数fcとして出力することができる。
次に、搬送波周波数調整部16のうち、電圧位相誤差演算部163における電圧位相誤差Δθvの演算方法の詳細について説明する。
図4は、本発明の第1の実施形態に係る電圧位相誤差演算部163のブロック図である。電圧位相誤差演算部163は、基準電圧位相演算部1631と、減算部1632を有する。
基準電圧位相演算部1631は、同期PWM搬送波数Ncと電圧位相θvに基づき、同期PWM制御における搬送波の位相を固定するための基準電圧位相θvbを演算する。
図5は、基準電圧位相演算部1631が実施する基準電圧位相演算の概念図である。基準電圧位相演算部1631は、例えば図5に示すように、0から2πの間で同期PWM搬送波数Ncに応じた段数で階段状に変化する基準電圧位相θvbを演算する。なお、図5では説明を分かりやすくするため、同期PWM搬送波数Ncが3であるときの例を示しているが、実際には同期PWM搬送波数Ncは、前述のようにNc=3、9または15とすることが好ましい。あるいは、Nc=6または12としてもよい。
本実施形態では処理負荷低減のため、例えば図5に示すように、三角搬送波が最小値(谷)から最大値(山)まで上昇する区間である谷割り区間でのみ、搬送波周波数調整部16が搬送波の周波数を調整可能とする。この場合、同期搬送波周波数演算部164では後述するように、搬送波の谷割り区間において、電圧位相誤差Δθvから同期搬送波周波数fcsを逐次的に演算することで、同期PWM制御を実施する。基準電圧位相演算部1631は、この電圧位相誤差Δθvの演算に用いられる基準電圧位相θvbを、図5に示すようにπ/3間隔で変化する離散値として算出する。なお、この基準電圧位相θvbの間隔は、同期PWM搬送波数Ncに応じて変化する。同期PWM搬送波数Ncが大きくなるほど、基準電圧位相θvbの間隔が小さくなる。
具体的には、基準電圧位相演算部1631は、以下の式(6)~(7)に従い、電圧位相θv、同期PWM搬送波数Ncに基づいて基準電圧位相θvbを演算する。
θvb=int(θv/θs)・θs+0.5θs ・・・(6)
θs=2π/Nc ・・・(7)
ここで、θsは搬送波1つあたりの電圧位相θvの変化幅を表し、intは小数点以下の切り捨て演算を表すものとする。
なお、本実施形態では、三角搬送波が最大値(山)から最小値(谷)まで下降する区間である山割り区間で基準電圧位相θvbが0radとなるように、基準電圧位相演算部1631において式(6)~(7)に従い基準電圧位相θvbを演算している。しかしながら、基準電圧位相θvbが0radとなる期間は山割り区間に限らない。電圧位相θvを用いて、0から2πの間で同期PWM搬送波数Ncに応じた段数で階段状に変化する基準電圧位相θvbを演算できれば、式(6)~(7)以外の演算方法により、基準電圧位相演算部1631が基準電圧位相θvbの演算を行ってもよい。
減算部1632は、電圧位相θvから基準電圧位相θvbを減算し、電圧位相誤差Δθvを演算する。
続いて、本実施形態の特徴である三角波生成部17の詳細について説明する。
まず、三角波生成部17の説明をする前に、従来のモータ制御の課題について説明する。図6は、モータ2の駆動時における振動や騒音の発生とその伝達経路を説明する図である。
図6(a)に示すように、モータ2は、モータ取付部によりたとえば車両ボディ等の構造物に設置される。モータ2の駆動時には、出力軸であるシャフトに接続された減速ギアの噛み合い力の変化やシャフトのねじれなどにより、シャフトに対して周方向(軸周り方向)に軸振動(トルク脈動)が発生する。また、モータ2の周方向および径方向には、それぞれの電磁力に応じた加振力(電磁加振力)により、電磁騒音となる振動がそれぞれ発生する。これらの振動の大きさは、モータ2を含む構造系の固有モードと固有周波数によって異なり、モータ2の動作点に応じて変化する。
このように、モータ2の駆動時における振動や騒音は複数の発生要因が考えられる。本発明では、このうちモータ2の周方向と径方向の電磁力による振動・騒音に着目し、これを抑制するようにしている。
モータ2の駆動時に発生した周方向と径方向の電磁力による振動・騒音は、図6(b)に示すように、モータ取付部等の構造伝達系を経由して車両側に入力され、振動や騒音を発生させる。
インバータ3は、モータ制御装置1から入力されるゲート信号に基づいてPWM信号を生成し、そのPWM信号に応じてインバータ回路31の各スイッチング素子をスイッチング動作させることにより、任意の周波数で交流電圧を発生してモータ2に印加する。この交流電圧により、モータ2において周方向と径方向に電磁力がそれぞれ発生する。
ここで、インバータ回路31が有する各スイッチング素子のスイッチング動作の周波数(スイッチング周波数)には、スイッチング損失等の制約による上限値が存在する。そのため、交流電圧の周波数が高くなってスイッチング周波数に近づくと、スイッチング周波数の上限値に応じて交流電圧の1正弦波あたりのスイッチングパルス数が制限される。一方、近年ではモータ2への小型化要求の高まりに応じてモータ2を高周波駆動させるため、モータ2に印加される交流電圧が高周波数化される傾向にある。そこで、本実施形態のモータ制御装置1では、三角波信号(搬送波信号)Trと三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*との位相を一定とする同期PWM制御を採用して、インバータ3の各スイッチング素子に対するゲート信号を生成するようにしている。
スイッチング周波数をfcとし、モータ2に印加される交流電圧の基本波周波数、すなわち正弦波である三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の周波数をf1とすると、これらの比fc/f1は、交流電圧の1正弦波あたりのスイッチングパルス数を表している。同期PWM制御では、このスイッチングパルス数fc/f1に起因した時間高調波が交流電圧において発生することが知られている。例えば、fc/f1=9の場合を代表例として説明すると、この場合には相電圧ベースで、時間5次(fc-4f1)、時間7次(fc-2f1)、時間11次(fc+2f1)、時間13次(fc+4f1)、時間17次(2fc-f1)、時間19次(2fc+f1)などの時間高調波電圧が発生する。また、これらを回転座標変換したdq軸電圧ベースでは、時間6次(fc-3f1)、時間12次(fc+3f1)、時間18次(2fc)などの時間高調波電圧が発生する。これらの時間高調波電圧がモータ2に印可されると、トルク脈動や加振力の脈動となり、大きな振動や騒音が発生してしまうことがある。すなわち、インバータ3が行う同期PWM制御により、モータ2では、時間6次(fc-3f1)、時間12次(fc+3f1)、時間18次(2fc)などのトルク脈動が発生することになる。
図7は、1正弦波あたりのスイッチングパルス数と時間高調波電圧の関係を説明する図である。図7では上から順に、同期21パルス(fc/f1=21)、同期9パルス(fc/f1=9)、同期3パルス(fc/f1=3)のそれぞれについて、電圧指令Vu*と搬送波信号Trとの関係、および生成される交流電圧の周波数解析結果を示している。これらの図から、1正弦波あたりのスイッチングパルス数が減少すると、特に低次数側において、交流電圧に含まれる時間高調波成分が増大することが分かる。
以上説明したような交流電圧の時間高調波に起因したモータ2のトルク脈動や加振力脈動は、スイッチングパルス数の制約上、従来ではあまり対処されていなかった。そのため従来のモータ制御では、同期PWM制御によるモータ駆動中に、モータ回転数に比例した振動・騒音が発生するという課題があった。
そこで本発明では、以下の着眼点に注目し、モータ2の交流電圧に含まれる時間高調波を抑制し、同期PWM制御によるモータ駆動中の振動・騒音を低減するようにしている。
まず、本実施形態における時間高調波の抑制方法の基本的な考え方について、図8、図9を参照して以下に説明する。図8は、変調波であるU相電圧指令Vu*と搬送波である三角波信号Trとの間の位相差(以下、「変調波/搬送波位相差」と称する)を変化させた場合の、これらの電圧波形の関係を示した図である。図8(a)は、変調波/搬送波位相差を-90degとした場合の搬送波と変調波の電圧波形を、図8(b)は、変調波/搬送波位相差を0degとした場合の搬送波と変調波の電圧波形を、図8(c)は、変調波/搬送波位相差を90degとした場合の搬送波と変調波の電圧波形をそれぞれ示している。図8(a)の場合、変調波のゼロクロス立ち上がり時に搬送波である三角波は谷となり、図8(b)の場合、変調波のゼロクロス立ち上がり時に三角波はゼロクロス立ち下がりとなり、図8(c)の場合、変調波のゼロクロス立ち上がり時に三角波は山となっている。このように、変調波/搬送波位相差を変化させることで、以下で説明するように、PWM制御によって得られるU相交流電圧Vuの振幅を一定としたままで、基本波成分以外の高調波成分の位相を自在に変化させることができる。
なお、図8(a)~図8(c)では、説明の都合上、変調波と搬送波の周波数比を15としているが、本発明はこれに限定されない。また、図8(a)~図8(c)では、変調波の例としてU相電圧指令Vu*を示しているが、他相の電圧指令、すなわちV相電圧指令Vv*やW相電圧指令Vw*についても、図8と同様に変調波/搬送波位相差を設定することで、基本波成分以外の高調波成分の位相を自在に変化させることが可能である。
図9は、変調波であるU相電圧指令Vu*と搬送波である三角波信号Trとの位相差を変化させた場合に、インバータ3からモータ2へ出力されるU相交流電圧Vuの高調波成分を示す図である。図9(a)では、図8(a)~図8(c)に示した変調波/搬送波位相差、すなわち-90deg、0deg、90degの各位相差でのU相交流電圧Vuの高調波成分ごとの振幅を示し、図9(b)では、これらの各位相差でのU相交流電圧Vuの高調波成分ごとの位相を示している。なお、図9(a)、図9(b)では、U相交流電圧Vuの1次成分として、基本波成分の振幅と位相をそれぞれ示している。また、図9(b)では、図9(a)において振幅が比較的大きい11次、13次、17次、19次、29次、31次の各高調波成分について、基本波成分の位相を-135degとしたときの位相をそれぞれ示している。
図9(a)より、変調波/搬送波位相差を変更しても、インバータ3から出力されるU相交流電圧Vuにおいて、1次(基本波)を含む各次数成分の振幅は変化しないことが確認される。つまり、変調波/搬送波位相差を変化させても、モータ2のトルク出力値は変わらないことが分かる。一方、図9(b)より、U相交流電圧Vuの1次(基本波)成分以外の各高調波成分の位相は、変調波/搬送波位相差に応じて変化することが分かる。つまり、変調波/搬送波位相差を変化させることは、U相交流電圧Vuの基本波成分以外の高調波成分の位相を変化させることと等価と言える。
なお、図9(a)、図9(b)では、インバータ3から出力される三相交流電圧のうち、U相交流電圧Vuの周波数解析結果を示しているが、他相の交流電圧、すなわちV相交流電圧VvやW相交流電圧Vwについても、図9(a)、図9(b)と同様の周波数解析結果が得られる。したがって、変調波/搬送波位相差を変化させることにより、インバータ3から出力される三相交流電圧の基本波成分以外の高調波成分の位相を任意に変化させることが可能となる。
以上説明したように、変調波/搬送波位相差を変更することで、モータ2のトルク出力値を維持しつつ、インバータ3から出力される三相交流電圧の各高調波成分の位相を変化させることが可能となる。したがって、変調波/搬送波位相差を所定のタイミングでランダムに切り替えて、これによりモータ2の交流電圧に含まれる時間高調波の位相を拡散させることで、モータ2において時間高調波に起因して発生する振動・騒音を低減できることが分かる。
本実施形態では、上記の考え方に基づき、三角波生成部17において、変調波/搬送波位相差を所定のタイミングでランダムに切り替えるように、三角波信号Trの位相を決定する。その具体的な手法を以下に説明する。
図10は、本発明の第1の実施形態に係る三角波生成部17のブロック図である。三角波生成部17は、乱数発生部171、変移確率選択部172、変移判定部173、位相選択指示部174、位相選択部175、および搬送波出力部176を有する。
乱数発生部171は、乱数を発生して変移判定部173に出力する。乱数発生部171は、例えば所定の数式を用いて疑似乱数を演算したり、予め記憶された乱数テーブルを参照したりすることで、所定周期でランダムに値が変化する乱数を発生し、変移判定部173に出力することができる。
変移確率選択部172は、位相選択指示部174から出力される位相選択信号に基づいて、予め設定された複数の変移確率のいずれかを選択する。具体的には、例えば位相選択信号の入力に応じて2つの変移確率Phl、Plhを相互に切り替えることで、これらの変移確率のいずれか一方を位相選択信号に基づいて排他的に選択する。そして、選択した変移確率の値を変移判定部173に出力する。
変移判定部173は、乱数発生部171から出力される乱数と、変移確率選択部172から出力される変移確率とに基づいて、三角波生成部17が生成する三角波信号(搬送波信号)Trの位相を変更するか否かを判定する。その結果、三角波信号Trの位相を変更すると判定した場合に、所定の変移指令を位相選択指示部174に出力する。具体的には、例えば乱数発生部171が0~1の範囲でランダムな値を乱数として発生する場合に、変移確率選択部172において変移確率Phl(例えばPhl=0.45)が選択されているときには、乱数が変移確率Phl以下であれば、変移判定部173から位相選択指示部174へ変移指令を出力する。同様に、変移確率選択部172において変移確率Plh(例えばPlh=0.55)が選択されているときには、乱数が変移確率Plh以下であれば、変移判定部173から位相選択指示部174へ変移指令を出力する。これにより、変移確率選択部172における変移確率の選択結果に応じて乱数を用いた位相変更判定を行い、その判定結果に従って変移指令を出力することができる。
ここで、上記の変移確率Phl、Plhの値は一例であり、インバータ3が生成する交流電圧に含まれる高調波成分の位相を適切に分散させ、それによってモータ駆動中の振動・騒音を低減させることができれば、変移確率選択部172が選択する変移確率を任意の値で設定することが可能である。なお、変移確率Phl、Plhの設定値とモータ駆動中の振動・騒音の低減効果との関係については、後で図14~図17を参照して説明する。また、上記では変移確率Phlと変移確率Plhを互いに異なる値としたが、これらを同一の値としてもよい。その場合には、変移判定部173において変移確率を予め設定しておくことで、変移確率選択部172を省略することも可能である。
位相選択指示部174は、変移判定部173から出力される変移指令と、回転位置検出器8から出力される回転位置θとに基づいて、変移確率選択部172と位相選択部175に対して位相選択信号をそれぞれ出力する。このとき、インバータ3が生成する交流電圧において6次成分の高調波が発生するのを抑制するために、電気角で120度ごとに、すなわち回転位置θが120度の整数倍となったときに、位相選択指示部174から位相選択信号が出力されるようにする。具体的には、例えば位相選択指示部174は、回転位置θが120度の整数倍となるタイミングで変移指令の入力の有無を検知する。その結果、変移指令の入力を検知した場合は位相選択信号を出力し、検知しなかった場合は位相選択信号を出力しないようにする。これにより、電気角で120度の整数倍の切替タイミングにおいて、位相選択信号の出力を行うことができる。
位相選択部175は、位相選択指示部174から出力される位相選択信号に基づいて、各相の三角波信号Trの位相を切り替える。具体的には、例えば位相選択指示部174から位相選択信号が出力される度に、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*を基準とした各三角波信号Trの位相、すなわちU相電圧指令Vu*、V相電圧指令Vv*、W相電圧指令Vw*のそれぞれに対する三角波信号Trの位相差を、0度から180度へ、または180度から0度へと交互に切り替える。これにより、変移判定部173の判定結果に基づき、三角波生成部17から出力される各相の三角波信号Trの位相値として、0度または180度のいずれか一方の値を、電気角で120度の整数倍のタイミングで排他的に選択することができる。こうして決定された三角波信号Trの位相値は、位相選択部175から搬送波出力部176へ出力される。
搬送波出力部176は、位相選択部175により選択された位相値に基づいて各相の三角波信号Trを生成し出力する。このとき搬送波出力部176は、位相選択部175が選択した位相値、すなわち0度または180度のいずれかを位相の初期値として、搬送波周波数fcに応じた三角波信号Trを出力する。搬送波出力部176が生成した三角波信号Trは、三角波生成部17の出力として、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*をパルス幅変調してゲート信号を生成する際に利用される。
図11は、位相選択部175から出力されるU相の位相差の値と、この位相差に基づいて搬送波出力部176により生成されるU相の三角波信号Trの例を示す図である。位相選択部175は、位相選択指示部174からの位相選択信号の出力に基づき、例えば図11に示すように、U相電圧指令Vu*の周期に応じた電気角0~120度、120度~240度、240度~360度の各期間において、0度または180度の位相差を交互に選択する。搬送波出力部176は、この位相差の選択結果に従って、三角波信号Trの位相を電気角120度の整数倍のタイミングで切り替える。図11の例では、0~120度の電気角範囲と240度~360度の電気角範囲では位相差の値が0度にそれぞれ選択され、120度~240度の電気角範囲では位相差の値が180度に選択されている。そのため、電気角120度、240度の各タイミングにおいて三角波信号Trの位相が切り替わっている。
なお、図11ではU相における位相差と三角波信号Trの例を説明したが、V相およびW相についても同様に、位相選択部175から出力される位相差の値に応じて、三角波信号Trが生成される。このとき位相選択部175は、各相の三角波信号Trの間で三相対称性が確保されるように、各相の三角波信号Trの位相を選択する。
図12は、位相選択部175から出力される各相の位相差の値と、これらの位相差に基づいて搬送波出力部176により生成される各相の三角波信号Trの例を示す図である。図12において、(a)はU相に対する位相差の選択結果と三角波信号Trを示し、(b)はV相に対する位相差の選択結果と三角波信号Trを示し、(c)はW相に対する位相差の選択結果と三角波信号Trを示している。なお、(a)の図は、図11で示したものと同じである。
位相選択部175は、位相選択指示部174からの位相選択信号の出力に基づき、例えば図12に示すように、電気角0~120度、120度~240度、240度~360度の各期間において、各相について0度または180度の位相差を選択する。ここで、U相電圧指令Vu*、V相電圧指令Vv*、W相電圧指令Vw*は、三相対称性により、120度の位相差で互いに相似形状を有している。位相選択部175では、こうした各相の電圧指令の相似関係に従って、各相の位相差を選択するようにしている。
搬送波出力部176は、位相選択部175における各相の位相差の選択結果に従って、三角波信号Trの位相を電気角120度の整数倍のタイミングで切り替える。図12の例では、U相については前述のように、0~120度の電気角範囲と240度~360度の電気角範囲では位相差の値が0度にそれぞれ選択され、120度~240度の電気角範囲では位相差の値が180度に選択されている。また、V相については、0~240度の電気角範囲では位相差の値が0度に選択され、240度~360度の電気角範囲では位相差の値が180度に選択されている。W相については、0~120度の電気角範囲では位相差の値が180度に選択され、120度~360度の電気角範囲では位相差の値が0度に選択されている。これらの位相差の選択結果に応じて、各相の三角波信号Trの位相が切り替わっている。
三角波生成部17は、以上説明した各ブロックの動作により、各相の三角波信号Trを生成して出力する。これにより、モータ2の電気角で120度の整数倍の切替タイミングにおいて、前述の変調波/搬送波位相差、すなわち各相の変調波(三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*)と三角波信号Trとの間の位相差を、乱数に基づいて切り替えることができる。
図13は、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と三角波信号Trとの比較結果に基づく線間電圧波形の例を示している。図13では、図12に示した三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と三角波信号Trとの比較によって生成される各相の線間電圧波形を示している。図13において、(a)はU相-V相線間電圧Vuvの波形、(b)はV相-W相線間電圧Vvwの波形、(c)はW相-U相線間電圧Vwuの波形をそれぞれ示している。図13に示すように、これらの線間電圧波形は、三相対称性による相似関係を互いに有している。
ゲート信号生成部18は、三角波生成部17から出力される三角波信号Trを用いて、例えば図13に示すような各相の線間電圧波形に応じたパルス状の電圧を生成することで、インバータ3の各相のスイッチング素子に対するパルス状のゲート信号を生成する。ここで、三角波生成部17から出力される三角波信号Trの位相は、前述のように、モータ2の電気角で120度の整数倍の切替タイミングにおいて、乱数発生部171が発生する乱数に基づき、0度と180度の間で切り替えられたものである。したがって、モータ2の電気角で120度の整数倍の切替タイミングにおいて、ゲート信号生成部18が生成するゲート信号のパルスパターンを乱数に基づいて切り替えることができる。
以上説明したように、三角波生成部17から出力される三角波信号Trの位相が乱数に基づいて切り替えられ、これに応じてゲート信号生成部18から出力されるゲート信号のパルスパターンが切り替えられると、図9で説明したように、インバータ3が出力する交流電力に含まれる高調波の位相が変化する。すなわち、ゲート信号生成部18では、三角波生成部17から出力される三角波信号Trを用いることで、インバータ3が出力する交流電力における高調波の位相が互いに異なる複数のパルスパターンのいずれかに従って、ゲート信号を生成することができる。このとき、ゲート信号のパルスパターンの切り替え前後では前述の同期PWM搬送波数Ncが変化しないため、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と三角波信号Trの周波数の比は一定である。したがって、制御周期を変更せずにゲート信号のパルスパターンを切り替えることができるため、モータ制御装置1において安定した制御応答を実現できる。
なお、ゲート信号のパルスパターンの切り替えを行う際に、搬送波周波数調整部16では前述のように、同期PWM搬送波数選択部161において、Nc=3×(2×n-1)の条件式を満たす数を同期PWM搬送波数Ncとして選択することが好ましい。このようにすれば、ゲート信号生成部18が生成するゲート信号において、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の1周期当たりのゲート信号のパルス数がそれぞれ3の倍数となるように、ゲート信号のパルスパターンの切り替えを行うことができる。その結果、各相のゲート信号において三相対称性を確保しつつ、正負のパルスの対称性を確保できるため、これらが非対称となることで発生するトルク脈動成分、例えば時間6次成分や時間2次成分などの偶数次数成分を、モータ2の出力トルクから低減することが可能となる。
次に、変移確率選択部172における変移確率Phl,Plhの設定値とモータ駆動中の振動・騒音の低減効果との関係について、以下に図14~図17を参照して説明する。図14~図17は、変移確率Phl,Plhを変化させたときのd軸電流、q軸電流、反転フラグ、三角波信号TrおよびU相上アーム信号の各波形例と、U相電流およびモータ出力トルクにおける基本波と高調波の次数成分ごとの大きさの例を示している。図14ではPhl=Plh=0、図15ではPhl=Plh=0.2、図16ではPhl=Plh=0.5、図17ではPhl=Plh=0.8の場合の例をそれぞれ示している。
なお、反転フラグとは、位相選択部175における三角波信号Trの位相値の選択状態に応じて変化するフラグ値である。具体的には、例えば三角波信号Trの位相値が0度の場合は、反転フラグの値が0となり、三角波信号Trの位相値が180度の場合は、反転フラグの値が1となる。したがって、反転フラグの値が0から1へ、または1から0へ変化するタイミングは、位相選択指示部174が位相選択信号を出力し、これに応じて位相選択部175が三角波信号Trの位相を切り替えるタイミングに相当する。
図14の場合、Phl=Plh=0であるため、反転フラグの値は0のままで変化しない。一方、図15では、矢印1721に示すタイミングで反転フラグの値が0から1に変化し、これに応じて三角波信号Trの位相が切り替わることで、d軸電流およびq軸電流の位相がそれぞれ反転している。また、図16では、矢印1722に示すタイミングで反転フラグの値が0から1に、矢印1723に示すタイミングで反転フラグの値が1から0にそれぞれ変化し、これらに応じて三角波信号Trの位相が切り替わることで、d軸電流およびq軸電流の位相がそれぞれ反転している。同様に、図17では、矢印1724に示すタイミングで反転フラグの値が0から1に、矢印1725に示すタイミングで反転フラグの値が1から0に、矢印1726に示すタイミングで反転フラグの値が0から1にそれぞれ変化し、これらに応じて三角波信号Trの位相が切り替わることで、d軸電流およびq軸電流の位相がそれぞれ反転している。
以上説明したように、変移確率Phl,Plhの値を増加させると、これに応じて、任意の期間内で反転フラグの値が変化する回数が増加する。その結果、図14~図17に示すように、U相電流において5次、7次、11次、13次等の各高調波成分のピーク値が低減し、その結果、6次と12次の位置にそれぞれ現れているトルク脈動のピーク値も減少することが分かる。したがって、変移確率Phl,Plhの値が大きくなるほど、これらの次数におけるトルク脈動を低減できることが分かる。
しかしその一方で、6次未満の領域では、変移確率Phl,Plhの値が増加するにつれてトルク脈動が増加している。そのため、本実施形態のモータ制御装置1を用いてモータ2の駆動制御を行う際には、モータ2が発生する振動・騒音において6次未満の成分を無視できるかどうかにより、変移確率Phl,Plhの設定値を定めればよい。
また、図14~図17から、6次成分と12次成分については変移確率Phl,Plhを適切に設定することでトルク脈動を低減できるが、18次以上の成分ではトルク脈動を低減できていないことが分かる。これは、位相選択部175における三角波信号Trの位相値の切り替えが、0度と180度の2種類で行われているためである。すなわち、本実施形態のモータ制御装置1では、三角波信号Trの位相値を2種類で切り替えることにより、18次未満のトルク脈動を低減できるようにしている。
以上説明した実施形態によれば、スイッチングパルス数の減少に伴って顕在化する時間高調波に起因したモータ2の振動や騒音を、インバータ3のスイッチング損失の悪化を避けつつ実現できる。そのため、モータ駆動システムの低振動化・低騒音化に寄与できる。これにより、従来のモータ駆動システムでは必要であった制振材や吸音材などの振動・騒音対策用の部材を本実施形態では削減できるため、低コスト化や軽量化にも寄与できる。
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
(1)モータ制御装置1は、直流電力から交流電力への電力変換を行うインバータ3と接続され、その交流電力を用いて駆動するモータ2の駆動を制御するものであって、搬送波である三角波信号Trを生成する三角波生成部17と、三角波信号Trの周波数を表す搬送波周波数fcを調整する搬送波周波数調整部16と、三角波信号Trを用いてトルク指令T*に応じた三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*をパルス幅変調し、インバータ3の動作を制御するためのゲート信号を生成するゲート信号生成部18とを備える。ゲート信号生成部18は、インバータ3から出力される交流電力に含まれる高調波の位相が互いに異なる複数のパルスパターンのいずれかに従ってゲート信号を生成可能であり、モータ2の電気角で120度の整数倍の切替タイミングにおいて、ゲート信号生成部18が生成するゲート信号のパルスパターンを乱数に基づいて切り替える。このようにしたので、インバータ3のスイッチング動作時の電力損失を増大させることなく、モータ2の高調波電圧を抑制することができる。その結果、モータ2を搭載したシステムにおいて、低振動化や低騒音化を図ることができる。
(2)モータ制御装置1は、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と三角波信号Trの位相差を変更することで、ゲート信号生成部18が生成するゲート信号のパルスパターンを切り替える。具体的には、三角波生成部17が生成する三角波信号Trの位相を変更することで、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と三角波信号Trの位相差を変更する。このようにしたので、任意のタイミングでゲート信号のパルスパターンを容易かつ確実に切り替えることができる。
(3)三角波生成部17は、乱数を発生する乱数発生部171と、乱数発生部171が発生した乱数に基づいて、三角波信号Trの位相を変更するか否かを判定する変移判定部173と、変移判定部173の判定結果に基づいて、予め設定された複数の値のいずれかを三角波信号Trの位相として選択する位相選択部175と、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に対して位相選択部175が選択した値だけ位相をずらして三角波信号Trをそれぞれ出力する搬送波出力部176とを有する。位相選択部175は、電気角で120度の整数倍のタイミングで三角波信号Trの位相の選択を行う。このようにしたので、乱数に基づくゲート信号のパルスパターンの切り替えを確実に実現することができる。
(4)モータ制御装置1は、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と三角波信号Trの位相差を0度または180度のいずれかに切り替えることで、これらの位相差を変更する。このようにしたので、6次と12次のトルク脈動を十分に低減し、低振動化や低騒音化を図ることができる。
(5)モータ制御装置1は、ゲート信号のパルスパターンの切り替え前後で三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*と三角波信号Trの周波数の比を一定とする。このようにしたので、ゲート信号のパルスパターンを切り替えた際にも安定した制御応答を実現できる。
(6)モータ制御装置1は、三相電圧指令Vu*、Vv*、Vw*の1周期当たりのゲート信号のパルス数がそれぞれ3の倍数となるように、ゲート信号のパルスパターンの切り替えを行うことが好ましい。このようにすれば、各相のゲート信号の非対称性や正負のパルスの非対称性によって発生するトルク脈動成分をモータ2の出力トルクから低減し、さらなる振動や騒音の抑制を図ることができる。
なお、以上説明した実施形態では、三角波信号Trの位相を0度または180度とすることで、変調波/搬送波位相差を0度と180度の間で切り替える例を説明したが、こうした変調波/搬送波位相差の切り替えを他の電気角で行ってもよい。例えば、乱数に基づいて0度、90度、180度または270度のいずれかを三角波信号Trの位相として選択することで、これらの電気角の間で変調波/搬送波位相差の切り替えを行うことができる。ここで、選択可能な三角波信号Trの位相が0度と180度の場合は、スイッチング周波数fcとモータ2の基本波周波数f1に対して、fc/f1および3fc/f1の側波帯成分の位相をd軸電流およびq軸電流において反転させ、これらの次数のトルク脈動を低減することができる。一方、選択可能な三角波信号Trの位相が0度、90度、180度および270度の場合は、スイッチング周波数fcとモータ2の基本波周波数f1に対して、さらに2fc/f1の側波帯成分の位相をd軸電流およびq軸電流において反転させ、これらの次数のトルク脈動をも低減することができる。また、さらに選択可能な三角波信号Trの位相の数を増やすこともできる。その場合、変調波/搬送波位相差を、互いの差分が180÷N(Nは任意の自然数)の条件を満たす複数の値のいずれかに切り替えることで、任意の次数のトルク脈動を低減することが可能である。その結果、モータ2においてさらなる振動や騒音の抑制を図ることができる。
また、以上説明した実施形態では、三角波信号Trの位相を切り替えることにより、ゲート信号生成部18が生成するゲート信号のパルスパターンを切り替えるようにしたが、他の方法でゲート信号のパルスパターンを切り替えてもよい。例えば、変調率ごとに予め設定され、インバータ3が出力する交流電力に含まれる高調波の振幅や位相が互いに異なる複数のゲート信号のパルスパターンを表す情報を、マップ情報等によりゲート信号生成部18において予め記憶しておき、この情報を用いてゲート信号のパルスパターンを切り替えてもよい。
図18は、U相電圧指令Vu*の振幅が同じで、インバータ3が出力する交流電力に含まれる高調波の電圧や位相が互いに異なるU相のゲート信号のパルスパターンの例を示している。図18において、パターンAのゲート信号とパターンBのゲート信号とは、振幅が同一のU相電圧指令Vu*にそれぞれ対応している。一方、これらのゲート信号に応じてインバータ3がそれぞれ出力する交流電力に含まれる高調波の電圧や位相は、同一ではない。このようなパターンAおよびパターンBのゲート信号をゲート信号生成部18において予め記憶しておき、これらを乱数に基づいてモータ2の電気角で120度の整数倍の切替タイミングで切り替えても、本実施形態で説明したのと同様の効果を得ることができる。
さらに、以上説明した実施形態において、モータ2の回転数の変化率が予め定められた所定値以下のときには、ゲート信号のパルスパターンの切り替えを行い、回転数の変化率が所定値を超えた場合は、ゲート信号のパルスパターンの切り替えを停止してもよい。このようにすれば、モータ2の回転数の変化率が高いときには、ゲート信号のパルスパターンの切り替えを行わずに、特定次数の周波数成分で発生する電流リプルを補償することができる。したがって、制御の安定性を確保しつつ、必要に応じて本発明による振動や騒音の抑制を適用することができる。
また、以上説明した実施形態において、三角波信号Trの位相を切り替えて変調波/搬送波位相差を変化させる際に、変調波/搬送波位相差の値を連続的に変化させてもよい。このようにすれば、モータ2の高調波電圧において位相拡散量を増大させることができるため、より一層の振動・騒音の低減を達成できる。
また、搬送波周波数調整部16は、位相変更前の三角波信号Trと位相変更後の三角波信号Trとで搬送波周波数fcが異なるように、搬送波周波数fcを調整するようにしてもよい。このようにすれば、ゲート信号生成部18が生成するゲート信号の周波数が拡散されるため、モータ2の交流電圧に含まれる時間高調波について、周波数と位相の2つの次元量を拡散させることができる。その結果、モータ2においてさらなる振動や騒音の抑制を図ることができる。
以上説明した実施形態では、同期PWM制御を対象に本発明の適用例を説明したが、搬送波(三角波信号Tr)と変調波が同期しない非同期PWM制御についても、本実施形態を適用することで、モータ2における振動・騒音の低減効果を得られる。また、非同期PWM制御において時間高調波に起因した振動や騒音を低減する手法の一つとして周知である、ランダムキャリア制御との併用も可能である。これは、ランダムキャリア制御では搬送波を周波数ドメインで拡散させるのに対して、本実施の形態では搬送波を位相ドメインで拡散させるためである。すなわち、非同期PWM制御において搬送波の周波数と位相をそれぞれ拡散させることにより、本実施形態で説明したのと同様の効果を得ることが可能である。
なお、上記実施形態や各変形例で説明した電圧利用率を変化させるための各種手法は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について図面を用いて説明する。
図19は、第2の実施形態における機電一体ユニット71の外観斜視図である。
機電一体ユニット71は、第1の実施形態で説明したモータ駆動システム100(モータ制御装置1、モータ2およびインバータ3)を含んで構成される。モータ2とインバータ3はバスバー712を介して結合部713で接続される。モータ2の出力がギア711を介し、図示省略したディファレンシャルギアへと伝達され、車軸へと伝達される。なお、図19ではモータ制御装置1の図示を省略しているが、モータ制御装置1は任意の位置に配置することができる。
この機電一体ユニット71の特徴は、モータ2とインバータ3とギア711とが一体となった構造である。機電一体ユニット71では、このような一体構造により、モータ2で発生した時間高調波に起因した振動・騒音がインバータ3やギア711を揺らしたときに共振が生じる場合があり、その場合には振動・騒音が悪化する。しかしながら、第1の実施形態で説明したモータ制御装置1を用いてモータ2の駆動を制御することで、モータ2において発生する振動・騒音の発生周波数を拡散させ、そのピーク値を低減できるため、低振動・低騒音な機電一体ユニットを実現できる。
[第3の実施形態]
次に、本発明の第3の実施形態について図面を用いて説明する。
図20は、第3の実施形態におけるハイブリッドシステム72の構成図である。
図20に示すように、ハイブリッドシステム72は、第1の実施形態で説明したモータ駆動システム100(モータ制御装置1、モータ2、インバータ3、高圧バッテリ5、電流検出部7、回転位置検出器8)と、これと同様のモータ駆動システム101(モータ制御装置1、モータ2a、インバータ3a、高圧バッテリ5、電流検出部7a、回転位置検出器8a)とを含んで構成される。モータ駆動システム100,101は、モータ制御装置1と高圧バッテリ5を共有している。
モータ2aには、回転子の回転位置θaを検出するための回転位置センサ4aが取り付けられている。回転位置検出器8aは、回転位置センサ4aの入力信号から回転位置θaを演算し、モータ制御装置1に出力する。インバータ3aとモータ2aの間には、電流検出部7aが配置されている。
インバータ3aは、インバータ回路31a、PWM信号駆動回路32aおよび平滑キャパシタ33aを有する。PWM信号駆動回路32aは、インバータ3のPWM信号駆動回路32と共通のモータ制御装置1に接続されており、モータ制御装置1から入力されるゲート信号に基づいて、インバータ回路31aが有する各スイッチング素子を制御するためのPWM信号を生成し、インバータ回路31aに出力する。インバータ回路31aおよび平滑キャパシタ33aは、インバータ回路31および平滑キャパシタ33と共通の高圧バッテリ5に接続されている。
モータ制御装置1には、モータ2に対するトルク指令T*と、モータ2aに対するトルク指令Ta*とが入力される。モータ制御装置1は、これらのトルク指令に基づき、第1の実施形態で説明したような方法でモータ2,2aの駆動を制御するためのゲート信号をそれぞれ生成し、インバータ3,3aにそれぞれ出力する。すなわち、モータ2,2aの電気角でそれぞれ120度の整数倍の切替タイミングにおいて、ゲート信号生成部18が生成するゲート信号のパルスパターンを乱数に基づいて切り替える。
モータ2には、エンジンシステム721とエンジン制御部722が接続されている。エンジンシステム721は、エンジン制御部722の制御により駆動し、モータ2を回転駆動させる。モータ2は、エンジンシステム721により回転駆動されることで発電機として動作し、交流電力を発生する。モータ2が発生した交流電力は、インバータ3により直流電力に変換され、高圧バッテリ5に充電される。これにより、ハイブリッドシステム72をシリーズハイブリッドシステムとして機能させることができる。なお、エンジンシステム721とエンジン制御部722は、モータ2aに接続可能としてもよい。
本実施形態によれば、インバータ3,3aのスイッチング動作時の電力損失を増大させることなく、スイッチングパルス数の減少によって顕在化する時間高調波に起因したモータ2の振動・騒音の低減という効果が得られる。そのため、従来のハイブリッドシステムでは振動・騒音対策のために必要であった制振材や吸音材などを削減できる。
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態について図面を用いて説明する。
図21は、第4の実施形態における昇圧コンバータシステム73の構成図である。
図21に示すように、昇圧コンバータシステム73は、第1の実施形態で説明したモータ制御装置1、モータ2、インバータ3、高圧バッテリ5、電流検出部7および回転位置検出器8を含み、昇圧コンバータ74によって高圧バッテリ5の直流電圧を所望の電圧に昇圧してインバータ3に供給する。
昇圧コンバータ74は、スイッチング素子743,744を直列に接続し、直列に接続されたスイッチング素子743,744の中間接続点にリアクトル742を介して高圧バッテリ5が接続される。また、高圧バッテリ5と並列にコンデンサ741が接続される。各スイッチング素子743,744はダイオード接続されている。
昇圧コンバータ74はモータ制御装置1によって指令が与えられ、昇圧コンバータシステム73の最も効率が良い直流電圧まで昇圧される。スイッチング素子743,744がそれぞれスイッチング動作することで、高圧バッテリ5から供給される直流電圧を、昇圧コンバータシステム73の最も効率が良い直流電圧まで昇圧する。これにより、高圧バッテリ5の直流電力から昇圧した直流電力を生成し、インバータ3に供給する。インバータ3は、モータ制御装置1から出力されるゲート信号に基づいて動作し、昇圧コンバータ74によって昇圧された直流電力から交流電力への電力変換を行う。
本実施形態では,昇圧コンバータ74で直流電圧を昇圧する際に、昇圧コンバータ74に備えられたリアクトル742で振動・騒音が発生する。そこで、モータ制御装置1から昇圧コンバータ74のスイッチング素子743,744へ印可されるゲート信号のパルスパターンを、第1の実施形態で説明したような方法で切り替える。すなわち、モータ2の電気角でそれぞれ120度の整数倍の切替タイミングにおいて、ゲート信号生成部18が生成してスイッチング素子743,744に出力されるゲート信号のパルスパターンを乱数に基づいて切り替える。このようにすることで、昇圧コンバータ74における時間平均のピーク電流を低減し、振動・騒音の低減化を図ることができる。さらに、この昇圧コンバータ74によって昇圧された直流電圧をインバータ3へ供給し、第1の実施形態で説明したように、モータ制御装置1からインバータ3へ出力するゲート信号のパルスパターンを乱数に基づいて切り替えることで、モータ2の振動・騒音についても低減できる。
[第5の実施形態]
次に、本発明の第5の実施形態について図面を用いて説明する。
図22は、本発明の第5の実施形態におけるハイブリッド車両システムの構成図である。ハイブリッド車両システムは、図22に示すように、モータ2をモータ/ジェネレータとして適用したパワートレインを有し、モータ2の回転駆動力を用いて走行する。なお、ハイブリッド車両システムに限らず、電動車両システムであってもよい。モータ2、インバータ3、高圧バッテリ5などは、第1の実施形態におけるモータ駆動システム100と同様のものである。
図22に示すハイブリッド車両システムにおいて、車体800のフロント部には、前輪車軸801が回転可能に軸支されており、前輪車軸801の両端には、前輪802、803が設けられている。車体800のリア部には、後輪車軸804が回転可能に軸支されており、後輪車軸804の両端には後輪805、806が設けられている。
前輪車軸801の中央部には、動力分配機構であるディファレンシャルギア811が設けられており、エンジン810から変速機812を介して伝達された回転駆動力を左右の前輪車軸801に分配するようになっている。
エンジン810のクランクシャフトに設けられたプーリーとモータ2の回転軸に設けられたプーリーとがベルトを介して機械的に連結されている。これにより、モータ2の回転駆動力がエンジン810に、エンジン810の回転駆動力がモータ2にそれぞれ伝達できるようになっている。モータ2は、モータ制御装置1の制御に応じてインバータ3から出力された三相交流電力がステータのコイルに供給されることによって、ロータが回転し、三相交流電力に応じた回転駆動力を発生する。
すなわち、モータ2は、モータ制御装置1の制御に応じてインバータ3によって制御されて電動機として動作する一方、エンジン810の回転駆動力を受けてロータが回転することによって、ステータのステータコイルに起電力が誘起され、三相交流電力を発生する発電機として動作する。
インバータ3は、高電圧(42Vあるいは300V)系電源である高圧バッテリ5から供給された直流電力を三相交流電力に変換する電力変換装置であり、運転指令値とロータの磁極位置に従って、モータ2のステータコイルに流れる三相交流電流を制御する。
モータ2によって発電された三相交流電力は、インバータ3によって直流電力に変換されて高圧バッテリ5を充電する。高圧バッテリ5にはDC-DCコンバータ824を介して低圧バッテリ823に電気的に接続されている。低圧バッテリ823は、自動車の低電圧(14V)系電源を構成するものであり、エンジン810を初期始動(コールド始動)させるスタータ825、ラジオ、ライトなどの電源に用いられている。
車両が信号待ちなどの停車時(アイドルストップモード)にあるとき、エンジン810を停止させ、再発車時にエンジン810を再始動(ホット始動)させる時には、インバータ3でモータ2を駆動し、エンジン810を再始動させる。尚、アイドルストップモードにおいて、高圧バッテリ5の充電量が不足している場合や、エンジン810が十分に温まっていない場合などにおいては、エンジン810を停止せず駆動を継続する。また、アイドルストップモード中においては、エアコンのコンプレッサなど、エンジン810を駆動源としている補機類の駆動源を確保する必要がある。この場合、モータ2を駆動させて補機類を駆動する。
加速モード時や高負荷運転モードにある時にも、モータ2を駆動させてエンジン810の駆動をアシストする。逆に、高圧バッテリ5の充電が必要な充電モードにある時には、エンジン810によってモータ2を発電させて高圧バッテリ5を充電する。すなわち、車両の制動時や減速時などに回生を行う。
本実施形態によれば、第1の実施形態で説明したモータ駆動システム100を用いて、図22のハイブリッド車両システムが実現される。このハイブリッド車両システムにおいて、モータ制御装置1は、第1の実施形態で説明したような方法でモータ2の駆動を制御するためのゲート信号をそれぞれ生成し、インバータ3に出力する。すなわち、モータ2の電気角で120度の整数倍の切替タイミングにおいて、ゲート信号生成部18が生成するゲート信号のパルスパターンを乱数に基づいて切り替える。
本実施形態によれば、インバータ3のスイッチング動作時の電力損失を増大させることなく、スイッチングパルス数の減少によって顕在化する時間高調波に起因したモータ2の振動・騒音の低減という効果が得られる。そのため、従来のハイブリッド車両システムでは振動・騒音対策のために必要であった制振材や吸音材などを削減できる。
[第6の実施形態]
次に、本発明の第6の実施形態について図面を用いて説明する。
図23は、本発明の第6の実施形態における電気鉄道車両の構成図である。図23に示すように、電気鉄道車両400は、両端に車輪420がそれぞれ取り付けられた2つの車軸430を有しており、これらの車軸430が台車440に軸支されている。各車軸430には、ギア410を介してモータ2およびインバータ3が接続されている。各モータ2は、モータ制御装置1の制御に応じてインバータ3から出力された三相交流電力がステータのコイルに供給されることによって、ロータが回転し、三相交流電力に応じた回転駆動力を発生して車軸430に伝達する。これにより、車輪420が駆動されて電気鉄道車両400が走行する。なお本実施形態では、1つのモータ制御装置1に対してモータ2とインバータ3が2つずつ接続されている例を示しているが、モータ制御装置1、モータ2およびインバータ3の数の組み合わせはこれに限らない。例えば、台車440にモータ2やインバータ3を1つまたは3つ以上搭載してもよいし、複数のモータ2を別々のモータ制御装置1でそれぞれ制御してもよい。
電気鉄道車両400に備えられるインバータ3は、省メンテナンスの観点から自然空冷もしくは強制風冷方式が多く採用されている。その場合、インバータ3のスイッチング周波数は、一般的に数百Hzから2kHz程度に制約される。そのため、モータ制御装置1が同期PWM制御で生成したゲート信号を用いてインバータ3を動作させると、前述のように、モータ2の回転数の上昇に応じて時間高調波に起因した振動や騒音が発生する。そこで、第1の実施形態で説明したように、モータ制御装置1においてゲート信号のパルスパターンを乱数に基づいて切り替えることで、インバータ3のスイッチング動作時の電力損失を増大させることなく、モータ2の振動や騒音を低減させることができる。
なお、以上説明した各実施形態において、モータ制御装置1内の各構成(図2~図4、図10など)は、ハードウェアによる構成によらず、CPUとプログラムによって各構成の機能を実現するようにしてもよい。モータ制御装置1内の各構成をCPUとプログラムによって実現する場合、ハードウェアの個数が減るため低コスト化できるという利点がある。また、このプログラムは、予めモータ制御装置の記憶媒体に格納して提供することができる。あるいは、独立した記憶媒体にプログラムを格納して提供したり、ネットワーク回線によりプログラムをモータ制御装置の記憶媒体に記録して格納することもできる。データ信号(搬送波)などの種々の形態のコンピュータ読み込み可能なコンピュータプログラム製品として供給してもよい。
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の特徴を損なわない限り、本発明の技術思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、上述の複数の実施形態を組み合わせた構成としてもよい。