JP2022053017A - 操舵制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】運転者の意図しない車両挙動の変化を抑えることができる操舵制御装置を提供する。【解決手段】車両の制御装置は、ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離された転舵輪を転舵させるための転舵力を発生する転舵モータを制御する。制御装置は、補正処理部70Aおよび角度演算部70Bを有している。角度演算部70Bは、ステアリングシャフトの操舵角θsに基づき転舵輪の転舵動作に連動して回転するピニオンシャフトの目標回転角である目標ピニオン角θp*を車速Vに応じて演算する。補正処理部70Aは、ステアリングホイールが一定の操舵角θsに保舵されている場合、目標ピニオン角θp*の演算に使用される最終的な車速である補正車速Vcをステアリングホイールの保舵状態が判定される直前の車速に固定する。【選択図】図4

Description

本発明は、操舵制御装置に関する。
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が知られている。この操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータ、および転舵輪を転舵させる転舵力の発生源である転舵モータを有している。車両の走行時、操舵装置の制御装置は、反力モータを通じて操舵反力を発生させるとともに、転舵モータを通じて転舵輪を転舵させる。操舵装置には、操舵性をより向上させることが要求される。
たとえば特許文献1の制御装置は、操舵性をより向上させる観点に基づき、舵角比を車速に応じて変更する。舵角比とは、ステアリングホイールの操舵角に対する転舵輪の転舵角の比をいう。舵角比は、車速が速くなるほど、より大きい値に設定される。舵角比が小さいほど、ステアリングホイールを操作したときの転舵輪の転舵角がより大きく機敏(クイック)になる。舵角比が大きいほど、ステアリングホイールを操作したときの転舵輪の転舵角がより小さく緩慢(スロー)になる。
したがって、低速域で車庫入れなどを行う際には、ステアリングホイールの操舵量に対してより大きい車両旋回量が得られるため、車両の取り回し性が確保される。また、高速走行時に車線変更などを行う際には、ステアリングホイールの操舵量に対して車両旋回量がより小さく抑制されるため、車両の操縦安定性が確保される。
特開2013-209026号公報
ところが、特許文献1の制御装置を含め、車速に応じて舵角比を変更する機能を有する従来一般の制御装置においては、つぎのようなことが懸念される。たとえば車両が旋回している状態で減速あるいは加速される場合、車速の変化に伴い舵角比が変化するため、転舵輪の転舵角も変化する。このため、運転者が意図しない車両挙動が発生するおそれがある。
たとえば、車両が旋回している状態で減速された場合、転舵角は車速の減少に応じてより大きい角度に変化する。このため、車両の走行軌跡は運転者の意図する旋回ラインに対してより内側へ巻き込むように変化する。また、車両が旋回している状態で加速された場合、転舵角は車速の増加に応じてより小さい角度に変化する。このため、車両の走行軌跡は運転者の意図する旋回ラインに対してより外側へ膨らむように変化する。
特に、ステアリングホイールが一定の操舵角に保舵された状態で車両が旋回しているときに車速が変化する場合、ステアリングホイールが一定の操舵角に保舵されている状態であるにもかかわらず車速の変化に応じて転舵輪の転舵角が変化する。このため、運転者は意図した走行ラインが維持されないことに対して、より違和感を覚えやすい。
本発明の目的は、運転者の意図しない車両挙動の変化を抑えることができる操舵制御装置を提供することにある。
上記目的を達成し得る操舵制御装置は、ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離された転舵輪を転舵させるための転舵力を発生する転舵モータを制御するものである。前記転舵モータの制御を通じて前記ステアリングホイールの操舵角に対する前記転舵輪の転舵角の比である舵角比を車速に応じて変更する第1の処理部と、操舵状態あるいは車両状態に応じて車速の変化に対する前記舵角比の変化の度合いを変化させる第2の処理部と、を有している。
この構成によれば、操舵状態あるいは車両状態により適した舵角比が得られる。このため、運転者の意図しない車両挙動の変化を抑えることができる。
上記の操舵制御装置において、前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールがその中立位置を基準とする一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、車速の変化に対する前記舵角比の変化を零としてもよい。
この構成によれば、ステアリングホイールが一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、車速の変化に対して舵角比が変化しないため、転舵輪の転舵角も車速の変化によっては変化しない。このため、ステアリングホイールが一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、車速が変化するとき、運転者の意図しない車両挙動が抑えられる。
上記の操舵制御装置において、前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールがその中立位置を基準とする一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、車速の変化に対する前記舵角比の変化の度合いを鈍化させるようにしてもよい。
この構成によれば、ステアリングホイールが一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、車速の変化に対して舵角比が変化しにくくなる。このため、転舵輪の転舵角も車速の変化によっては変化しにくくなる。したがって、ステアリングホイールが一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、車速が変化するとき、運転者の意図しない車両挙動が抑えられる。
上記の操舵制御装置において、前記第1の処理部は、前記ステアリングホイールの操舵角に基づき前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標回転角を車速に応じて演算するとともに、前記シャフトの回転角を前記目標回転角に一致させるように前記転舵モータを制御するようにしてもよい。前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールがその中立位置を基準とする一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、前記目標回転角の演算に使用される車速の値を固定するようにしてもよい。
この構成によれば、ステアリングホイールが一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、目標回転角の演算に使用される車速の値が固定される。これにより、実際の車速の変化に対して舵角比を変化させないようにすることができる。
上記の操舵制御装置において、前記第1の処理部は、前記ステアリングホイールの操舵角に基づき前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標回転角を車速に応じて演算するとともに、前記シャフトの回転角を前記目標回転角に一致させるように前記転舵モータを制御するようにしてもよい。前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールがその中立位置を基準とする一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、前記目標回転角の演算に使用される車速の単位時間当たりの変化量を制限するようにしてもよい。
この構成によれば、ステアリングホイールが一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、目標回転角の演算に使用される車速の単位時間当たりの変化量が制限される。これにより、実際の車速の変化に対する舵角比の変化の度合いを鈍化させることができる。
上記の操舵制御装置において、前記第1の処理部は、車速に応じて演算される前記ステアリングホイールと前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトとの間の増速比を前記ステアリングホイールの操舵角に乗算することにより前記シャフトの目標回転角を演算するとともに、前記シャフトの回転角を前記目標回転角に一致させるように前記転舵モータを制御するようにしてもよい。前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールがその中立位置を基準とする一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、前記目標回転角の演算に使用される増速比の単位時間当たりの変化量を制限するようにしてもよい。
この構成によれば、ステアリングホイールが一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、目標回転角の演算に使用される増速比の単位時間当たりの変化量が制限される。これにより、実際の車速の変化に対する舵角比の変化の度合いを鈍化させることができる。
上記の操舵制御装置によれば、前記第1の処理部は、前記ステアリングホイールの操舵角に基づき前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標回転角を車速に応じて演算するとともに、前記シャフトの回転角を前記目標回転角に一致させるように前記転舵モータを制御するようにしてもよい。前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールがその中立位置を基準とする一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、前記転舵モータの制御に使用される目標回転角の値を固定するようにしてもよい。
この構成によれば、ステアリングホイールが一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、転舵モータの制御に使用される目標回転角の値が固定される。これにより、実際の車速の変化に対して舵角比を変化させないようにすることができる。
上記の操舵制御装置において、前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールの保舵状態が解除された場合または車両の旋回状態が解除された場合、前記目標回転角の演算に使用される車速の値を、車速センサを通じて検出される現在の車速の値へ向けて徐々に変化させるようにしてもよい。
この構成によれば、舵角比を現在の車速に応じた本来の舵角比に復帰させる際、舵角比が急激に変化することが抑えられる。このため、運転者の意図しない車両挙動が抑えられる。
上記の操舵制御装置において、前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールの保舵状態が解除された場合または車両の旋回状態が解除された場合、前記目標回転角の演算に使用される増速比の値を、前記第1の処理部により演算される現在の増速比の値へ向けて徐々に変化させるようにしてもよい。
この構成によれば、舵角比を現在の車速に応じた本来の舵角比に復帰させる際、舵角比が急激に変化することが抑えられる。このため、運転者の意図しない車両挙動が抑えられる。
上記の操舵制御装置において、前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールの保舵状態が解除された場合または車両の旋回状態が解除された場合、前記転舵モータの制御に使用される目標回転角の値を、前記第1の処理部により演算される現在の目標回転角の値へ向けて徐々に変化させるようにしてもよい。
この構成によれば、舵角比を現在の車速に応じた本来の舵角比に復帰させる際、舵角比が急激に変化することが抑えられる。このため、運転者の意図しない車両挙動が抑えられる。
上記の操舵制御装置は、ステアリングホイールに付与される操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生する反力モータを前記ステアリングホイールの操舵角と目標操舵角との差に基づき制御するものでもあってもよい。この場合、前記ステアリングホイールの操舵角に対する前記転舵輪の転舵角の比である舵角比に基づき前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの回転角を車速に応じて前記ステアリングホイールの目標操舵角に換算する第3の処理部と、前記第2の処理部と同様の処理を実行することにより前記目標操舵角の演算に使用される車速の変化に対する前記舵角比の変化の度合いを変化させる第4の処理部と、を有していてもよい。
この構成によれば、ステアリングホイールの操舵角と転舵輪の転舵角とを同期させることが可能となる。
上記の操舵制御装置において、前記第3の処理部において前記目標操舵角の演算に使用される前記シャフトの回転角は、a.車両の転舵輪が障害物に当たっている旨判定されるときの前記シャフトの回転角、b.車両の電源がオンされたときの前記シャフトの回転角、またはc.車載される上位制御装置が操舵制御に介入する際に生成する前記シャフトの目標回転角であってもよい。
本発明の操舵制御装置によれば、運転者の意図しない車両挙動の変化を抑えることができる。
操舵制御装置の第1の実施の形態が搭載されるステアバイワイヤ方式の操舵装置の構成図。 第1の実施の形態における制御装置のブロック図。 第1の実施の形態における操舵角と目標ピニオン角との関係を車速に応じて規定するマップを示すグラフ。 第1の実施の形態における目標ピニオン角演算部のブロック図。 第1の実施の形態における保舵判定部のブロック図。 第1の実施の形態における補正車速演算部のブロック図。 第1の実施の形態における上限値演算部および下限値演算部のブロック図。 (a),(b)は、第1の実施の形態の操舵制御装置を搭載した車両の挙動を示す模式図。 第2の実施の形態における制御装置の要部を示すブロック図。 第3の実施の形態における目標ピニオン角演算部のブロック図。 第4の実施の形態における補正処理部のブロック図。 第4の実施の形態における旋回判定部のブロック図。 第4の実施の形態における減速判定部のブロック図。 第4の実施の形態における加速判定部のブロック図。 第5の実施の形態における旋回判定部のブロック図。 第6の実施の形態における旋回判定部のブロック図。 第6の実施の形態における減速判定部のブロック図。 第6の実施の形態における加速判定部のブロック図。 第6の実施の形態におけるタイヤ力の各軸成分を示す車輪の斜視図。 第7の実施の形態における目標ピニオン角演算部のブロック図。 第8の実施の形態における操舵反力指令値演算部のブロック図。 第8の実施の形態における縁石軸力演算部のブロック図。 第8の実施の形態における縁石当て時に使用されるピニオン角と目標操舵角との関係を車速に応じて規定するマップを示すグラフ。 第8の実施の形態における縁石軸力演算部のブロック図。 第9の実施の形態における操舵反力指令値演算部のブロック図。 第9の実施の形態におけるピニオン角と目標操舵角との関係を車速に応じて規定するマップを示すグラフ。 第10の実施の形態における制御装置のブロック図。 第10の実施の形態における自動運転機能の実行時に使用される目標ピニオン角(加算角)と目標操舵角(加算角)との関係を車速に応じて規定するマップを示すグラフ。 第10の実施の形態における操舵反力指令値演算部のブロック図。
<第1の実施の形態>
以下、操舵制御装置をステアバイワイヤ方式の操舵装置に適用した第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。また、操舵装置10は、車幅方向(図1中の左右方向)に沿って延びる転舵シャフト14を有している。転舵シャフト14の両端には、それぞれタイロッド15,15を介して左右の転舵輪16,16が連結されている。転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16,16の転舵角θが変更される。ステアリングシャフト12および転舵シャフト14は車両の操舵機構を構成する。
また、操舵装置10は、操舵反力を生成するための構成として、反力モータ31、減速機構32、回転角センサ33、およびトルクセンサ34を有している。ちなみに、操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用する力をいう。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
反力モータ31は、操舵反力の発生源である。反力モータ31としてはたとえば三相のブラシレスモータが採用される。反力モータ31(正確には、その回転軸)は、減速機構32を介して、ステアリングシャフト12に連結されている。反力モータ31のトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト12に付与される。
回転角センサ33は反力モータ31に設けられている。回転角センサ33は、反力モータ31の回転角θを検出する。反力モータ31の回転角θは、操舵角θの演算に使用される。反力モータ31とステアリングシャフト12とは減速機構32を介して連動する。このため、反力モータ31の回転角θとステアリングシャフト12の回転角、ひいてはステアリングホイール11の回転角である操舵角θとの間には相関がある。したがって、反力モータ31の回転角θに基づき操舵角θを求めることができる。
トルクセンサ34は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト12に加わるトルクである操舵トルクTを検出する。トルクセンサ34は、ステアリングシャフト12の途中に設けられるトーションバーの捻じれ量に基づきステアリングシャフト12に印加される操舵トルクTを検出する。トルクセンサ34は、ステアリングシャフト12における減速機構32よりもステアリングホイール11側の部分に設けられている。
また、操舵装置10は、転舵輪16,16を転舵させるための動力である転舵力を生成するための構成として、転舵モータ41、減速機構42、および回転角センサ43を有している。
転舵モータ41は転舵力の発生源である。転舵モータ41としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。転舵モータ41の回転軸は、減速機構42を介してピニオンシャフト44に連結されている。ピニオンシャフト44のピニオン歯44aは、転舵シャフト14のラック歯14bに噛み合わされている。転舵モータ41のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト44を介して転舵シャフト14に付与される。転舵モータ41の回転に応じて、転舵シャフト14は図1中の左右方向である車幅方向に沿って移動する。
回転角センサ43は転舵モータ41に設けられている。回転角センサ43は転舵モータ41の回転角θを検出する。
ちなみに、操舵装置10は、ピニオンシャフト13を有している。ピニオンシャフト13は、転舵シャフト14に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト13のピニオン歯13aは、転舵シャフト14のラック歯14aに噛み合わされている。ピニオンシャフト13を設ける理由は、ピニオンシャフト44と共に転舵シャフト14を図示しないハウジングの内部に支持するためである。すなわち、操舵装置10に設けられる図示しない支持機構によって、転舵シャフト14は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオンシャフト13,44へ向けて押圧される。これにより、転舵シャフト14はハウジングの内部に支持される。ただし、ピニオンシャフト13を使用せずに転舵シャフト14をハウジングに支持する他の支持機構を設けてもよい。
また、操舵装置10は、制御装置50を有している。制御装置50は、車載される各種のセンサの検出結果に基づき反力モータ31、および転舵モータ41を制御する。センサとしては、前述した回転角センサ33、トルクセンサ34および回転角センサ43に加えて、車速センサ501がある。車速センサ501は、車両の走行速度である車速Vを検出する。
制御装置50は、反力モータ31の駆動制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力を発生させる反力制御を実行する。制御装置50は操舵トルクTおよび車速Vに基づき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力に基づき操舵反力指令値を演算する。制御装置50は、操舵反力指令値に応じた操舵反力を発生させるために必要とされる電流を反力モータ31へ供給する。
制御装置50は、転舵モータ41の駆動制御を通じて転舵輪16,16を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。制御装置50は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θを演算する。このピニオン角θは、転舵輪16,16の転舵角θを反映する値である。また、制御装置50は、回転角センサ33を通じて検出される反力モータ31の回転角θに基づき操舵角θを演算し、この演算される操舵角θに基づきピニオン角θの目標値である目標ピニオン角を演算する。そして制御装置50は、目標ピニオン角と実際のピニオン角θとの偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する。
つぎに、制御装置50について詳細に説明する。
図2に示すように、制御装置50は、反力制御を実行する反力制御部50a、および転舵制御を実行する転舵制御部50bを有している。
反力制御部50aは、操舵角演算部51、操舵反力指令値演算部52、および通電制御部53を有している。
操舵角演算部51は、回転角センサ33を通じて検出される反力モータ31の回転角θに基づきステアリングホイール11の操舵角θを演算する。
操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクTおよび車速Vに基づき操舵反力指令値Tを演算する。操舵反力指令値演算部52は、操舵トルクTの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値の操舵反力指令値Tを演算する。
通電制御部53は、操舵反力指令値Tに応じた電力を反力モータ31へ供給する。具体的には、通電制御部53は、操舵反力指令値Tに基づき反力モータ31に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部53は、反力モータ31に対する給電経路に設けられた電流センサ54を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流Iの値を検出する。この電流Iの値は、反力モータ31に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部53は、電流指令値と実際の電流Iの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ31に対する給電を制御する。これにより、反力モータ31は操舵反力指令値Tに応じたトルクを発生する。運転者に対して路面反力に応じた適度な手応え感を与えることが可能である。
転舵制御部50bは、ピニオン角演算部61、目標ピニオン角演算部62、ピニオン角フィードバック制御部63、および通電制御部64を有している。
ピニオン角演算部61は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θを演算する。転舵モータ41とピニオンシャフト44とは減速機構42を介して連動する。このため、転舵モータ41の回転角θとピニオン角θとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して転舵モータ41の回転角θからピニオン角θを求めることができる。また、ピニオンシャフト44は、転舵シャフト14に噛合されている。このため、ピニオン角θと転舵シャフト14の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θは、転舵輪16,16の転舵角θを反映する値である。
目標ピニオン角演算部62は、操舵角演算部51により演算される操舵角θおよび車速センサ501を通じて検出される車速Vに基づき目標ピニオン角θ を演算する。目標ピニオン角演算部62は、たとえば車速Vに応じて操舵角θに対する転舵角θの比である舵角比を設定し、この設定される舵角比に応じて目標ピニオン角θ を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車速Vが遅くなるほど操舵角θに対する転舵角θがより大きくなるように、また車速Vが速くなるほど操舵角θに対する転舵角θがより小さくなるように、目標ピニオン角θ を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車速Vに応じて設定される舵角比を実現するために、操舵角θに対する補正角度を演算し、この演算される補正角度を操舵角θに加算することにより舵角比に応じた目標ピニオン角θ を演算する。
本実施の形態において、目標ピニオン角演算部62は、マップM1を使用して目標ピニオン角θ を演算する。マップM1は制御装置50の記憶装置に格納されている。
図3のグラフに示すように、マップM1は操舵角θと目標ピニオン角θ の関係を車速Vに応じて規定する三次元マップである。マップM1は、つぎのような特性を有している。すなわち、操舵角θの絶対値が増加するほど、また、車速Vが遅くなるほど目標ピニオン角θ の絶対値はより大きな値となる。
図2に示すように、ピニオン角フィードバック制御部63は、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θ 、およびピニオン角演算部61により演算される実際のピニオン角θを取り込む。ピニオン角フィードバック制御部63は、実際のピニオン角θを目標ピニオン角θ に追従させるべくピニオン角θのフィードバック制御を通じてピニオン角指令値T を演算する。
通電制御部64は、ピニオン角指令値T に応じた電力を転舵モータ41へ供給する。具体的には、通電制御部64は、ピニオン角指令値T に基づき転舵モータ41に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部64は、転舵モータ41に対する給電経路に設けられた電流センサ65を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流Iの値を検出する。この電流Iの値は、転舵モータ41に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部64は、電流指令値と実際の電流Iの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する。これにより、転舵モータ41はピニオン角指令値T に応じた角度だけ回転する。
さて、先の図3のグラフに示されるマップM1に基づき操舵角θに対する目標ピニオン角θ が車速Vに応じて変更されることにより、操舵角θの絶対値が増加するほど、また、車速Vがより遅くなるほど、目標ピニオン角θ の絶対値はより大きな値となる。すなわち、操舵角θに対する転舵角θの比である舵角比の値は、車速Vが速くなるほどより大きい値となる一方、車速Vが遅くなるほどより小さい値となる。
舵角比の値がより小さい値となるほど、ステアリングホイール11を操作したときの転舵輪16,16の転舵角θ,θがより大きく機敏(クイック)になる。したがって、たとえば低速域で車庫入れなどを行う際において、より少ない操舵量でより大きい車両旋回量が得られるため、車両の取り回し性が確保される。また、舵角比の値がより大きい値となるほど、ステアリングホイール11を操作したときの転舵輪16,16の転舵角θ,θがより小さく緩慢(スロー)になる。したがって、たとえば高速走行時に車線変更などを行う際において、車両の操縦安定性が確保される。
ただし、車速Vに応じて舵角比が変更されることによって、つぎのようなことが懸念される。すなわち、たとえば車両が旋回している状態で減速または加速されることが考えられる。この場合、車速Vの変化に伴い舵角比が変化するため、転舵輪16,16の転舵角θ,θも車速Vの変化に応じて変化する。このため、運転者の意図しない車両挙動の変化が発生するおそれがある。
たとえば、車両が旋回している状態で減速された場合、転舵角θ,θは車速Vの減少に応じてより大きい角度に変化する。このため、車両の走行軌跡は運転者の意図する旋回ラインに対してより内側へ巻き込むように変化する。また、車両が旋回している状態で加速された場合、転舵角θ,θは車速Vの増加に応じてより小さい角度に変化する。このため、車両の走行軌跡は運転者の意図する旋回ラインに対してより外側へ膨らむように変化する。
特に、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が旋回しているときに車速Vが変化する場合、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵されている状態であるにもかかわらず車速Vの変化に応じて転舵輪16,16の転舵角θ,θが変化する。このため、運転者は意図した走行ラインが維持されないことに対して、より違和感を覚えやすい。
そこで、本実施の形態では、運転者の意図しない車両挙動の変化の発生を抑制するべく、目標ピニオン角演算部62として、つぎの構成を採用している。
図4に示すように、目標ピニオン角演算部62は、補正処理部70Aおよび角度演算部70Bを有している。
補正処理部70Aは、車速センサ501を通じて検出される車速Vをステアリングホイール11の操舵状態に応じて補正する。補正処理部70Aは、微分器71、保舵判定部72および補正車速演算部73を有している。
微分器71は、操舵角演算部51により演算される操舵角θを微分することにより操舵角速度ωを演算する。
保舵判定部72は、車速センサ501を通じて検出される車速V、操舵角演算部51により演算される操舵角θ、および微分器71により演算される操舵角速度ωを取り込み、これら取り込まれる車速V、操舵角θおよび操舵角速度ωに基づきステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態であるかどうかを判定する。ただし、ここでの保舵とは、ステアリングホイール11が車両の直進状態に対応する中立位置を基準として左右に操舵された位置で保持された状態をいう。保舵判定部72は、ステアリングホイール11の操舵状態が保舵された状態であるかどうかを示す保舵判定結果としてフラグF0の値をセットする。保舵判定部72については、後に詳述する。
補正車速演算部73は、車速センサ501を通じて検出される車速V、操舵角演算部51により演算される操舵角θ、微分器71により演算される操舵角速度ω、および保舵判定部72によりセットされるフラグF0の値を取り込む。補正車速演算部73は、車速V、操舵角θおよび操舵角速度ωおよびフラグF0の値に基づき、車速センサ501を通じて検出される車速Vの値を補正することにより補正車速Vを演算する。補正車速演算部73については、後に詳述する。
角度演算部70Bは、操舵角演算部51により演算される操舵角θ、および補正処理部70Aにより補正された車速Vである補正車速Vを取り込む。角度演算部70Bは、先の図3のグラフに示されるマップM1を使用して目標ピニオン角θ を演算する。
つぎに、保舵判定部72の構成を詳細に説明する。
図5に示すように、保舵判定部72は、2つのしきい値演算部72A,72B、および3つの判定部72C,72D,72Eを有している。
しきい値演算部72Aは、車速Vに応じて操舵角速度しきい値ωthを演算する。しきい値演算部72Aは、制御装置50の記憶装置に格納されたマップM2を使用して操舵角速度しきい値ωthを演算する。マップM2は、横軸を車速V、縦軸を操舵角速度しきい値ωthとする二次元マップであって、車速Vと操舵角速度しきい値ωthとの関係を規定する。マップM2は、たとえばつぎのような特性を有する。すなわち、操舵角速度しきい値ωthは、車速Vが速くなるほど、より小さい値に設定される。
しきい値演算部72Bは、車速Vに応じて操舵角しきい値θsthを演算する。しきい値演算部72Bは、制御装置50の記憶装置に格納されたマップM3を使用して操舵角しきい値θsthを演算する。マップM3は、横軸を車速V、縦軸を操舵角しきい値θsthとする二次元マップであって、車速Vと操舵角しきい値θsthとの関係を規定する。マップM3は、たとえばつぎのような特性を有する。すなわち、操舵角しきい値θsthは、車速Vが速くなるほど、より小さい値に設定される。
判定部72Cは、操舵角速度ωの絶対値と操舵角速度しきい値ωthとの比較を通じて、ステアリングホイール11の操舵状態が保舵された状態であるかどうかを判定する。判定部72Cは、操舵角速度ωの絶対値が操舵角速度しきい値ωthよりも小さい値であるとき、ステアリングホイール11の操舵状態が保舵された状態である旨判定する。判定部72Cは、ステアリングホイール11の操舵状態が保舵された状態であるかどうかの判定結果に応じてフラグF1の値をセットする。判定部72Cは、ステアリングホイール11の操舵状態が保舵された状態である旨判定されるとき、フラグF1の値を「1」にセットする。また、判定部72Cは、ステアリングホイール11の操舵状態が保舵された状態ではない旨判定されるとき、フラグF1の値を「0」にセットする。
判定部72Dは、操舵角θの絶対値と操舵角しきい値θsthとの比較を通じて、ステアリングホイール11が車両の直進状態に対応する中立位置から外れた位置に保舵された状態であるかどうかを判定する。判定部72Dは、操舵角θの絶対値が操舵角しきい値θsthよりも大きい値であるとき、ステアリングホイール11が中立位置から外れた位置に保舵された状態である旨判定する。判定部72Dは、ステアリングホイール11が中立位置から外れた位置に保舵された状態であるかどうかの判定結果に応じてフラグF2の値をセットする。判定部72Dは、ステアリングホイール11が中立位置から外れた位置に保舵された状態である旨判定されるとき、フラグF2の値を「1」にセットする。また、判定部72Dは、ステアリングホイール11が中立位置から外れた位置に保舵された状態ではない旨判定されるとき、フラグF2の値を「0」にセットする。
判定部72Eは、判定部72CによりセットされるフラグF1の値、および判定部72DによりセットされるフラグF2の値に基づき、保舵判定結果としてフラグF0をセットする。判定部72Eは、2つのフラグF1,F2の値が共に「1」であるとき、ステアリングホイール11が中立位置から外れた位置に保舵された状態である旨示す保舵判定結果としてフラグF0の値を「1」にセットする。判定部72Eは、2つのフラグF1,F2のうち少なくとも一方の値が「0」であるとき、ステアリングホイール11が中立位置から外れた位置に保舵された状態ではない旨示す保舵判定結果としてフラグF0の値を「0」にセットする。
つぎに、補正車速演算部73の構成を詳細に説明する。
図6に示すように、補正車速演算部73は、判定部73A、前回値保持部73B、スイッチ73C、上限値演算部73D、下限値演算部73E、前回値保持部73F、判定部73Gおよびガード処理部73Hを有している。
判定部73Aは、保舵判定部72によりセットされるフラグF0の値を取り込み、この取り込まれるフラグF0の値に応じて、目標ピニオン角θ の演算に使用される車速Vの値を固定すべき状況であるかどうかを示すフラグF3の値をセットする。判定部73Aは、フラグF0の値が「1」であるとき、すなわちステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態であるとき、目標ピニオン角θ の演算に使用される車速Vの値を固定すべき状況であるとしてフラグF3の値を「1」にセットする。判定部73Aは、フラグF0の値が「0」であるとき、すなわちステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態ではないとき、目標ピニオン角θ の演算に使用される車速Vの値を固定すべき状況ではないとしてフラグF3の値を「0」にセットする。
前回値保持部73Bは、後述するガード処理部73Hにより演算される補正車速Vを取り込み、この取り込まれる補正車速Vを保持する。ガード処理部73Hは、定められた演算周期で補正車速Vを演算するところ、前回値保持部73Bに保持される補正車速Vはガード処理部73Hにより補正車速Vが演算される度に更新される。すなわち、前回値保持部73Bに保持されている補正車速Vは、ガード処理部73Hにより演算される補正車速Vの今回値に対する前回値(一演算周期前の補正車速V)である。
スイッチ73Cは、データ入力として、車速センサ501を通じて検出される車速V、および前回値保持部73Bに保持されている補正車速Vの前回値Vcn-1を取り込む。また、スイッチ73Cは、制御入力として、判定部73AによりセットされるフラグF3の値を取り込む。スイッチ73Cは、フラグF3の値に基づき、車速センサ501を通じて検出される車速V、および前回値保持部73Bに保持されている補正車速Vの前回値Vcn-1のいずれか一方を車速一時値Vtempとして選択する。スイッチ73Cは、フラグF3の値が「0」であるとき、車速センサ501を通じて検出される車速Vを車速一時値Vtempとして選択する。スイッチ73Cは、フラグF3の値が「1」であるとき(より正確には、フラグF3の値が「0」ではないとき)、補正車速Vcの前回値Vcn-1を車速一時値Vtempとして選択する。
ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態が継続するとき、フラグF3の値が「1」にセットされた状態に維持される。このフラグF3の値が「1」にセットされている期間、前回値保持部73Bに保持されている補正車速Vcの前回値Vcn-1が車速一時値Vtempとして常に選択される。
ちなみに、スイッチ73Cは、制御入力として、保舵判定部72によりセットされるフラグF0の値を取り込むようにしてもよい。この構成を採用する場合、補正車速演算部73として判定部73Aを割愛した構成を採用してもよい。
上限値演算部73Dは、車速センサ501を通じて検出される車速V、操舵角演算部51により演算される操舵角θ、および微分器71により演算される操舵角速度ωを取り込み、これら取り込まれる車速V、操舵角θおよび操舵角速度ωに応じて、車速一時値Vtempの演算周期当たりの変化量に対する上限値VULを演算する。上限値演算部73Dについては後に詳述する。
下限値演算部73Eは、車速センサ501を通じて検出される車速V、操舵角演算部51により演算される操舵角θ、および微分器71により演算される操舵角速度ωを取り込み、これら取り込まれる車速V、操舵角θおよび操舵角速度ωに応じて、車速一時値Vtempの演算周期当たりの変化量に対する下限値VLLを演算する。下限値演算部73Eについては後に詳述する。
前回値保持部73Fは、後述する判定部73GによりセットされるフラグF4の値を取り込み、この取り込まれるフラグF4の値を保持する。判定部73Gは、定められた演算周期でフラグF4の値をセットするところ、前回値保持部73Fに保持されるフラグF4の値は判定部73GによりフラグF4の値がセットされる度に更新される。すなわち、前回値保持部73Fに保持されているフラグF4の値は、判定部73Gによりセットされる今回値としてのフラグF4の値に対する前回値(一演算周期前のフラグF4の値)である。
判定部73Gは、補正車速Vの演算周期当たりの変化量を制限すべき状況であるかどうかを判定し、その判定結果を示すフラグF4の値をセットする。判定部73Gは、判定部73AによりセットされるフラグF3の値、前回値保持部73Bに保持されている補正車速Vの前回値Vcn-1、スイッチ73Cにより選択される車速一時値Vtemp、および前回値保持部73Fに保持されているフラグF4の前回値F4n-1を取り込む。判定部73Gは、フラグF3の値、補正車速Vの前回値Vcn-1、車速一時値Vtemp、およびフラグF4の前回値F4n-1に基づき、フラグF4の値をセットする。具体的には、つぎの通りである。
判定部73Gは、判定部73AによりセットされるフラグF3の値が「1」から「0」へ変化したとき、すなわちステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態から保舵されていない状態へ変化したとき、フラグF4の値を「1」にセットする。
この後、判定部73Gは、次式(A1)が成立するとき、フラグF4の値を「0」にセットする。判定部73Gは、次式(A1)が成立しないとき、フラグF4の値を「1」にセットした状態を維持する。
│Vtemp-V│≦Vth …(A1)
ただし、「Vtemp」はスイッチ73Cにより選択される車速一時値、「V」はガード処理部73Hにより演算される補正車速である。「Vth」は車速しきい値であって、車速センサを通じて検出される車速Vと補正車速Vとの差が十分に小さい値であるかどうかを判定する際の基準となる値である。車速しきい値Vthは、ステアリングホイール11の操舵状態が保舵状態から非保舵状態へ遷移したとき、固定された車速と実際の車速との差に基づく目標ピニオン角θ の急変を抑える観点に基づき設定される。
ちなみに、判定部73Gは、フラグF3の値が「1」から「0」へ変化したとき以外、すなわちフラグF3の値が「0」であるとき、およびフラグF3の値が「0」から「1」へ変化したとき、フラグF4の値を「0」にセットする。
ガード処理部73Hは、判定部73GによりセットされるフラグF4の値に応じて、スイッチ73Cにより選択される車速一時値Vtempに対する制限処理機能を有効と無効との間で切り替える。ガード処理部73Hは、フラグF4の値が「1」にセットされているとき、すなわちステアリングホイール11の保舵状態が解除されたとき、車速一時値Vtempに対する制限処理機能を有効とする。ガード処理部73Hは、上限値VULおよび下限値VLLを使用して、車速一時値Vtempの演算周期当たりの変化量を制限する。具体的には、つぎの通りである。
すなわち、車速一時値Vtempの演算周期当たりの変化量が上限値VULを超えるとき、車速一時値Vtempの演算周期当たりの変化量は上限値VULに制限される。この上限値ULに制限された変化量の分だけ変化した車速一時値Vtempが補正車速Vとして演算される。また、車速一時値Vtempの演算周期当たりの変化量が下限値VLLを下回るとき、車速一時値Vtempの演算周期あたりの変化量は下限値VLLに制限される。この下限値VLLに制限された変化量の分だけ変化した車速一時値Vtempが補正車速Vとして演算される。このように、上限値VULおよび下限値VLLによって、車速一時値Vtempの最大変化量および最小変化量が決まる。
ガード処理部73Hは、フラグF4の値が「0」にセットされているとき、車速一時値Vtempに対する制限処理機能を無効とする。すなわち、スイッチ73Cにより選択される車速一時値Vtempがそのまま補正車速Vとして演算される。
つぎに、上限値演算部73Dについて詳細に説明する。
図7に示すように、上限値演算部73Dは、2つの制限値演算部81A,81B、2つのゲイン演算部82A,82B、および2つの乗算器83A,83B、および選択処理部84を有している。
制限値演算部81Aは、微分器71により演算される操舵角速度ωに基づき制限値Vを演算する。制限値演算部81Aは、制御装置50の記憶装置に格納されたマップM4を使用して制限値Vを演算する。マップM4は操舵角速度ωの絶対値と制限値Vとの関係を規定する二次元マップであって、つぎのような特性を有している。すなわち、操舵角速度ωの絶対値がより大きい値になるほど、制限値Vの値はより大きな値となる。ちなみに、マップM4は、操舵角速度ωの絶対値が大きいときほど目標ピニオン角θ の演算に使用される車速、ひいては舵角比の値を車速の補正処理が施されない場合の真の値により迅速に復帰させる観点に基づき設定される。
ゲイン演算部82Aは、車速センサ501を通じて検出される車速Vに応じてゲインGを演算する。ゲイン演算部82Aは、制御装置50の記憶装置に格納されたマップM5を使用してゲインGを演算する。マップM5は車速VとゲインGとの関係を規定する二次元マップであって、つぎのような特性を有している。すなわち、車速Vが「0」近傍の極低速域の値である場合、車速Vの増加に対してゲインGの値は急激に増加する。車速Vが極低速域を超える値である場合、車速Vの増加に対してゲインGの値は徐々に増加する。
乗算器83Aは、制限値演算部81Aにより演算される制限値Vとゲイン演算部82Aにより演算されるゲインGとを乗算することによりプレ制限値Vを演算する。
制限値演算部81Bは、操舵角演算部51により演算される操舵角θに基づき制限値Vを演算する。制限値演算部81Bは、制御装置50の記憶装置に格納されたマップM6を使用して制限値Vを演算する。マップM5は操舵角θの絶対値と制限値Vとの関係を規定する二次元マップであって、つぎのような特性を有している。すなわち、操舵角θの絶対値が増加するにつれて、制限値Vの値は徐々に減少する。
ゲイン演算部82BAは、車速センサ501を通じて検出される車速Vに応じてゲインGを演算する。ゲイン演算部82Bは、制御装置50の記憶装置に格納されたマップM7を使用してゲインGを演算する。マップM7は車速VとゲインGとの関係を規定する二次元マップであって、つぎのような特性を有している。すなわち、車速Vが「0」を基準として増加するにつれて、ゲインGの値は徐々に増加する。ちなみに、マップM7は、車速Vの値が大きいときほど目標ピニオン角θ の演算に使用される車速、ひいては舵角比の値を車速の補正処理が施されない場合の真の値により迅速に復帰させる観点に基づき設定される。
乗算器83Bは、制限値演算部81Bにより演算される制限値Vとゲイン演算部82Bにより演算されるゲインGとを乗算することによりプレ制限値Vを演算する。
選択処理部84は、乗算器83Aにより演算されるプレ制限値Vと乗算器83Bにより演算されるプレ制限値Vとの比較を通じて上限値VULを演算する。
選択処理部84は、次式(A2)で表されるように、プレ制限値Vがプレ制限値V以下の値であるとき、プレ制限値Vを上限値VULとして選択する。この場合、目標ピニオン角θ の演算に使用される車速、ひいては舵角比は、車速Vの値が「0」であるときを除き、車速の補正処理が施されない場合の真の値に向けて経時的に徐々に復帰する。
≦V → VUL=V …(A2)
選択処理部84は、次式(A3)で表されるように、プレ制限値Vがプレ制限値Vよりも大きい値であるとき、プレ制限値Vを上限値VULとして選択する。この場合、目標ピニオン角θ の演算に使用される車速、ひいては舵角比は、車速Vの値が「0」であるときを除き、車速の補正処理が施されない場合の真の値に向けて操舵角速度ωに応じて経時的に徐々に復帰する。
>V → VUL=V …(A3)
つぎに、下限値演算部73Eについて詳細に説明する。
下限値演算部73Eは、上限値演算部73Dと同一の構成を有している。すなわち、図7に括弧書きの符号を付して示すように、下限値演算部73Eは、2つの制限値演算部91A,91B、2つのゲイン演算部92A,92B、および2つの乗算器93A,93B、および選択処理部94を有している。
制限値演算部91Aは、微分器71により演算される操舵角速度ωに基づき制限値Vを演算する。ゲイン演算部92Aは、車速センサ501を通じて検出される車速Vに応じてゲインGを演算する。乗算器93Aは、制限値演算部91Aにより演算される制限値Vとゲイン演算部92Aにより演算されるゲインGとを乗算することによりプレ制限値Vを演算する。
制限値演算部91Bは、操舵角演算部51により演算される操舵角θに基づき制限値Vを演算する。ゲイン演算部92Bは、車速センサ501を通じて検出される車速Vに応じてゲインGを演算する。乗算器93Bは、制限値演算部91Bにより演算される制限値Vとゲイン演算部92Bにより演算されるゲインGとを乗算することによりプレ制限値Vを演算する。
選択処理部94は、次式(A4)で表されるように、プレ制限値Vがプレ制限値V以下の値であるとき、プレ制限値Vを下限値VLLとして選択する。選択処理部94は、次式(A5)で表されるように、プレ制限値Vがプレ制限値Vよりも大きい値であるとき、プレ制限値Vを下限値VLLとして選択する。
≦V → VLL=V …(A4)
>V → VUL=V …(A5)
つぎに、第1の実施の形態の作用を説明する。
まず、ステアリングホイール11が中立位置に保持された状態で車両が直進している場合、判定部73A(図6参照)によってフラグF3の値が「0」にセットされる。このため、車両が直進している期間、スイッチ73Cによって、車速センサ501を通じて検出される車速Vが車速一時値Vtempとして常に選択される。また、フラグF3の値が「0」である場合、判定部73GによってフラグF4の値が「0」にセットされる。このため、ガード処理部73Hによる、車速一時値Vtempに対する制限処理機能は無効化される。したがって、車速センサ501を通じて検出される車速Vが補正車速Vとして常に演算される。すなわち、車両が直進している場合、車速センサ501を通じて検出される車速Vが目標ピニオン角θ の演算に使用される。ただし、ステアリングホイール11が中立位置(操舵角θ=0°)に保持されている場合、車速Vの値にかかわらず、目標ピニオン角θ は転舵シャフト14の中立位置(転舵角θ=0°)に対応する「0°」に設定される。このため、車両の減速または加速に伴い車速Vが変化したとしても、運転者が違和感を覚えることはない。
つぎに、ステアリングホイール11が操舵されながら車両が旋回している場合、判定部73AによってフラグF3の値が「0」にセットされる。このため、ステアリングホイール11が操舵されている期間、スイッチ73Cによって、車速センサ501を通じて検出される車速Vが車速一時値Vtempとして選択される。また、フラグF3の値が「0」である場合、判定部73GによってフラグF4の値が「0」にセットされる。このため、ガード処理部73Hによる、車速一時値Vtempに対する制限処理機能は無効化される。したがって、車速センサ501を通じて検出される車速Vが補正車速Vとして常に演算される。すなわち、車速センサ501を通じて検出される車速Vが目標ピニオン角θ の演算に使用されるため、車両の減速または加速に伴う車速Vの変化に応じて目標ピニオン角θ の値、ひいては舵角比が変化する。ただし、ステアリングホイール11が操舵されている場合、操舵角θの変化に伴い車両の走行ラインも刻々と変化する。このため、ステアリングホイール11が操舵されている場合、車速Vの変化に応じて舵角比が多少変化したとしても、運転者はそのことに気づきにくく、また違和感も覚えにくい。
つぎに、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が旋回している場合、フラグF3の値は「1」にセットされる。このため、ステアリングホイール11が保舵された状態で車両が旋回している期間、前回値保持部73Bに保持されている補正車速Vの前回値Vcn-1が車速一時値Vtempとして常に選択される。また、ステアリングホイール11が保舵された状態で車両が旋回している場合、判定部73GによってフラグF4の値が「1」にセットされる。ただし、ガード処理部73Hの制限処理機能は無効化された状態に維持される。
このため、前回値保持部73Bに保持されている補正車速Vの前回値Vcn-1が補正車速Vとして常に演算される。すなわち、車速センサ501を通じて検出される実際の車速Vの値にかかわらず、目標ピニオン角θ の演算に使用される最終的な車速である補正車速Vの値は変化しない。したがって、ステアリングホイール11が保舵された状態で車両が旋回している場合、車両が減速または加速を開始したとしても目標ピニオン角θ の値、ひいては舵角比が変化することはない。
すなわち、図8(a)に示すように、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が旋回(ここでは左旋回)している場合、車両が減速を開始したときであれ、車両は運転者の意図する旋回ラインL1に沿って走行する。このため、運転者が違和感を覚えることはない。
ちなみに、目標ピニオン角θ の演算に使用される車速の値が固定されない場合、目標ピニオン角θ が車速の減少に応じてより大きい値に変化するため、車両の実際の走行軌跡L2は運転者の意図する旋回ラインL1に対してより内側へ巻き込むように変化する。この点、本実施の形態によれば、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が旋回する場合、目標ピニオン角θ の演算に使用される車速の値がステアリングホイール11の操舵状態が保舵された状態である旨判定されたときの車速の値に固定されることにより、車両の巻き込みが抑制される。
また、図8(b)に示すように、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が旋回(ここでは左旋回)している場合、車両が加速を開始したときであれ、車両は運転者の意図する旋回ラインL1に沿って走行する。このため、運転者が違和感を覚えることはない。
ちなみに、目標ピニオン角θ の演算に使用される車速の値が固定されない場合、目標ピニオン角θ が車速の増加に応じてより小さい値に変化するため、車両の実際の走行軌跡L2は運転者の意図する旋回ラインL1に対してより外側へ膨らむように変化する。この点、本実施の形態によれば、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が旋回する場合、目標ピニオン角θ の演算に使用される車速の値がステアリングホイール11の操舵状態が保舵された状態である旨判定されたときの車速の値に固定されることにより、車両の膨らみが抑制される。
つぎに、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が旋回している場合、ステアリングホイール11の操舵が再開されたとき、判定部73AによってフラグF3の値が「0」にセットされる。このため、ステアリングホイール11の操舵が再開された以降、スイッチ73Cによって、車速センサ501を通じて検出される車速Vが車速一時値Vtempとして選択される。また、フラグF3の値が「1」から「0」へ変化することに伴い、判定部73GによってフラグF4の値が「1」にセットされる。このため、ガード処理部73Hによる、車速一時値Vtempに対する制限処理機能が有効化される。したがって、車速一時値Vtemp、ひいては目標ピニオン角θ の演算に使用される補正車速Vの演算周期当たりの変化量が上限値VULまたは下限値VLLにより制限される。
ここで、ステアリングホイール11の操舵が再開される直前に車速一時値Vtempとして使用されていた車速(すなわち、ステアリングホイール11が保舵された状態である旨判定されたとき、前回値保持部73Bに保持されていた補正車速V)と、ステアリングホイール11の操舵が再開された直後の車速Vとが乖離していることが考えられる。この場合、ステアリングホイール11の操舵が再開される直前の車速に応じた目標ピニオン角θ と、ステアリングホイール11の操舵が再開された直後の車速に応じた目標ピニオン角θ とについても乖離する。このため、ステアリングホイール11の操舵が再開された直後の車速Vを即時に使用する場合、目標ピニオン角θ 、ひいては転舵輪16の転舵角θが急激に変化するおそれがある。
この点、本実施の形態では、ステアリングホイール11の操舵が再開された場合、車速一時値Vtempの演算周期当たりの変化量(最大変化量および最小変化量)が上限値VULまたは下限値VLLに制限される。このため、目標ピニオン角θ の演算に使用される最終的な車速である補正車速Vの値が急激に変化することが抑制される。補正車速Vの値は、車速センサ501を通じて検出される車速Vの値へ向けて、操舵状態(ここでは、操舵角速度ωおよび操舵角θ)あるいは車両の走行状態(ここでは、車速V)に応じて経時的に徐々に変化する。したがって、目標ピニオン角θ 、ひいては転舵角θの急激な変化が抑制される。
やがて、車速一時値Vtemp(ここでは、車速センサ501を通じて検出される車速V)と目標ピニオン角θ の演算に使用される最終的な車速である補正車速Vとの差の絶対値が車速しきい値Vth以下の値になったとき、判定部73GによってフラグF4の値が「0」にセットされる。これにより、ガード処理部73Hにおける車速一時値Vtempに対する制限処理機能が無効化される。このため、車速センサ501を通じて検出される車速Vがそのまま補正車速Vとして目標ピニオン角θ の演算に使用される。すなわち、操舵角θに基づき実際の車速Vに応じたより適切な目標ピニオン角θ が演算される。
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ステアリングホイール11が一定の操舵角θ(ただし、│θ│>0)に保舵された状態で車両が旋回する場合、目標ピニオン角θ の演算に使用される最終的な車速である補正車速Vがステアリングホイール11の操舵状態が旋回保舵状態である旨判定される直前の車速に固定される。すなわち、実際の車速Vの値に関わらず、目標ピニオン角θ はステアリングホイール11の操舵状態が旋回保舵状態である旨判定されたときの操舵角θに応じた値に維持される。このため、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が旋回する場合に車速Vが変化しても、この車速Vの変化によっては転舵輪16,16の転舵角θ,θ、ひいては舵角比は変化しない。
このため、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が旋回している場合、車両が減速したとき、車両の実際の走行軌跡L2が運転者の意図する旋回ラインL1に対してより内側へ巻き込むように変化することが抑制される。また、ステアリングホイール11が保舵された状態で車両が旋回している場合、車両が加速したとき、車両の実際の走行軌跡L2が運転者の意図する旋回ラインL1に対してより外側へ膨らむように変化することが抑制される。したがって、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が旋回している場合、車速が変化したとき、運転者の意図しない車両挙動の変化を抑えることができる。
(2)ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が旋回している場合、ステアリングホイール11の操舵が再開されたとき、車速の値が固定された状態が解除されて、車速センサ501を通じて検出される実際の車速Vが目標ピニオン角θ の演算に使用される。このとき、ガード処理部73Hによって、目標ピニオン角θ の演算に使用される最終的な車速である補正車速Vの演算周期当たりの変化量が上限値VULおよび下限値VLLによって制限される。
このため、ステアリングホイール11の操舵が再開される直前に固定されていた車速(前回値保持部73Bに保持されている補正車速V)の値と、ステアリングホイール11の操舵が再開された直後の車速Vの値とが乖離している場合であれ、補正車速Vの値は、車速センサ501を通じて検出される車速Vの値へ向けて徐々に変化する。すなわち、補正車速Vの値の急激な変化が抑制されることにより、目標ピニオン角θ 、ひいては転舵輪16,16の転舵角θ,θの急激な変化も抑えられる。
なお、本実施の形態では、ステアリングホイール11の操舵が再開されたとき、補正車速Vの演算周期当たりの変化量を上限値VULと下限値VLLとの間の値に制限する、いわゆる時間に対する変化量ガード処理を実行したが、この変化量ガード処理に代えてオフセット処理を採用してもよい。たとえば、ステアリングホイール11の操舵が再開されたとき、補正車速Vの今回値と前回値との差を補正車速V対するオフセット値として設定し、このオフセット値を「0」へ向けて時間的に徐々に変化させる。
<第2の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1~図7に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、制御装置50における操舵角の演算方法の点で第1の実施の形態と異なる。
図9に示すように、制御装置50は、除算器101、加算器102、および微分器103を有している。
除算器101は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTを取り込む。除算器101は、操舵トルクTをトルクセンサ34の構成要素であるトーションバーのねじり剛性係数で除することによりトーションバーのねじり角θtbを演算する。
加算器102は、除算器101により演算されるトーションバーのねじり角θtbと操舵角演算部51により演算される操舵角θとを加算することにより推定操舵角θesを演算する。
微分器103は、加算器102により演算される推定操舵角θesを微分することにより推定操舵角速度ωesを演算する。
たとえば、目標ピニオン角演算部62は、操舵角演算部51により演算される操舵角θに代えて推定操舵角θesを、また微分器71により演算される操舵角速度ωに代えて推定操舵角速度ωesを使用して、車速Vに対する補正処理および目標ピニオン角θ の演算を行う。
したがって、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態の(1),(2)と同様の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(3)前述したように、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が旋回している場合、ステアリングホイール11の操舵が再開されたとき、車速の値が固定された状態が解除される。このとき、目標ピニオン角θ の演算に使用される最終的な車速である補正車速Vの値は、操舵状態に応じて経時的に徐々に車速センサ501を通じて検出される車速Vの値へ向けて変化する。ここで、第1の実施の形態では操舵状態を示す状態変数として操舵角θおよび操舵角速度ωを使用するのに対し、本実施の形態では操舵トルクTに基づき演算される推定操舵角θesおよび推定操舵角速度ωesを使用する。このため、目標ピニオン角θ の演算に使用される最終的な車速である補正車速Vの値を、車速センサ501を通じて検出される車速Vの値に復帰させる際の応答性を向上させることが可能となる。これは、つぎの理由による。すなわち、ステアリングホイール11の操舵量がたとえわずかなものであっても、ステアリングホイール11の操舵は操舵トルクTの変化として即時に検出される。これに対し、操舵角θは反力モータ31の回転角θに基づき演算されるところ、ステアリングホイール11が操舵された時点とステアリングホイール11の操舵が反力モータ31の回転角θに反映されて操舵角θとして演算される時点との間にわずかながらもタイムラグが生じる。したがって、ステアリングホイール11の操舵に対する操舵トルクTの応答性は、ステアリングホイール11の操舵に対する操舵角θの応答性よりも高いと考えられる。
<第3の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第3の実施の形態を説明する。本実施の形態は、目標ピニオン角θ の演算方法の点で第1の実施の形態と異なる。なお、本実施の形態は、先の第2の実施の形態に適用してもよい。
図10に示すように、目標ピニオン角演算部62は、増速比演算部111、および乗算器112を有している。
増速比演算部111は、車速センサ501を通じて演算される車速Vに基づき増速比νを演算する。増速比演算部111は、制御装置50の記憶装置に格納されたマップM8を使用して増速比νを演算する。マップM8は、車速Vと増速比νとの関係を規定する二次元マップであって、つぎのような特性を有している。すなわち、車速Vの値が増加するにつれて、増速比νの値は徐々に減少する。
乗算器112は、増速比演算部111により演算される増速比νと操舵角演算部51により演算される操舵角θとを乗算することにより、目標ピニオン角θ を演算する。
したがって、車速Vが遅いほど増速比がより大きい値となるため、ステアリングホイール11を操作したときの転舵輪16,16の転舵角θ,θがより大きく機敏(クイック)になる。また、車速Vが速いほど増速比がより小さい値となるため、ステアリングホイール11を操作したときの転舵輪16,16の転舵角θ,θがより小さく緩慢(スロー)になる。
ただし、車速Vに応じて増速比が変更される場合、先の第1の実施の形態と同様に、つぎのようなことが懸念される。すなわち、たとえば車両が旋回している状態で減速または加速されることが考えられる。この場合、車速Vの変化に伴い増速比が変化するため、転舵輪16,16の転舵角θ,θも変化する。このため、先の第1の実施の形態と同様に、運転者の意図しない車両挙動の変化が発生するおそれがある。
そこで、本実施の形態では、目標ピニオン角演算部62として、つぎの構成を採用している。
図10に示すように、目標ピニオン角演算部62は、補正処理部120を有している。補正処理部120は、増速比演算部111を通じて検出される増速比νをステアリングホイール11の操舵状態に応じて補正する。
補正処理部120は、微分器121、保舵判定部122、判定部123、2つの前回値保持部124,125、上限値演算部126、下限値演算部127、判定部128およびガード処理部129を有している。
微分器121は、操舵角演算部51により演算される操舵角θを微分することにより操舵角速度ωを演算する。
保舵判定部122は、先の図5に示される第1の実施の形態の保舵判定部72と同様の機能を有している。保舵判定部122は、車速センサ501を通じて検出される車速V、操舵角演算部51により演算される操舵角θ、および微分器71により演算される操舵角速度ωに基づきステアリングホイール11の操舵状態が保舵された状態であるかどうかを判定する。保舵判定部122は、ステアリングホイール11が保舵された状態である旨判定されるとき、フラグF0の値を「1」にセットする。また、保舵判定部122は、ステアリングホイール11の操舵状態が保舵された状態ではない旨判定されるとき、フラグF0の値を「0」にセットする。
判定部123は、先の図6に示される第1の実施の形態の判定部73Aと同様の機能を有している。ただし、判定部123は、保舵判定部122によりセットされるフラグF0の値を取り込み、この取り込まれるフラグF0の値に応じて、増速比νの車速Vに応じた変化を制限すべき状況であるかどうかを示すフラグF5の値をセットする。判定部123は、フラグF0の値が「1」であるとき、すなわちステアリングホイール11が保舵された状態であるとき、増速比νの車速Vに応じた変化を制限すべき状況であるとしてフラグF5の値を「1」にセットする。判定部123は、フラグF0の値が「0」であるとき、すなわちステアリングホイール11が保舵された状態ではないとき、増速比νの車速Vに応じた変化を制限すべき状況ではないとしてフラグF5の値を「0」にセットする。
前回値保持部124は、判定部128によりセットされるフラグF6の値を取り込み、この取り込まれるフラグF6の値を保持する。前回値保持部124に保持されているフラグF6の値は、判定部128によりセットされるフラグF6の今回値に対する前回値である。
前回値保持部125は、後述するガード処理部129により演算される補正増速比νを取り込み、この取り込まれる補正増速比νを保持する。前回値保持部125に保持されている補正増速比νは、ガード処理部129により演算される補正増速比νの今回値に対する前回値である。
上限値演算部126は、先の図6に示される第1の実施の形態の上限値演算部73Dと同様の機能を有している。ただし、上限値演算部126は、車速センサ501を通じて検出される車速V、操舵角演算部51により演算される操舵角θ、および微分器71により演算される操舵角速度ωを取り込み、これら取り込まれる車速V、操舵角θおよび操舵角速度ωに応じて、増速比νの演算周期当たりの変化量に対する上限値νULを演算する。
下限値演算部127は、先の図6に示される第1の実施の形態の下限値演算部73Eと同様の機能を有している。ただし、下限値演算部127は、車速センサ501を通じて検出される車速V、操舵角演算部51により演算される操舵角θ、および微分器71により演算される操舵角速度ωを取り込み、これら取り込まれる車速V、操舵角θおよび操舵角速度ωに応じて、増速比νの演算周期当たりの変化量に対する下限値νLLを演算する。
判定部128は、先の図6に示される第1の実施の形態の判定部73Gと同様の機能を有している。ただし、判定部128は、増速比νの演算周期当たりの変化量を制限すべき状況であるかどうかを判定し、その判定結果を示すフラグF6の値をセットする。判定部128は、判定部123によりセットされるフラグF5の値、前回値保持部125に保持されている補正増速比νの前回値νcn-1、増速比演算部111により演算される増速比ν、および前回値保持部124に保持されているフラグF6の前回値F6n-1を取り込む。判定部128は、フラグF5の値、補正増速比νの前回値νcn-1、増速比ν、およびフラグF6の前回値F6n-1に基づき、フラグF6の値をセットする。具体的には、つぎの通りである。
判定部128は、フラグF5の値が「0」にセットされた状態に維持されているとき、すなわちステアリングホイール11の操舵状態が一定の操舵角θに保舵された状態ではないとき、フラグF6の値を「0」にセットする。判定部128は、フラグF5の値が「0」から「1」へ変化したとき、すなわちステアリングホイール11の操舵状態が一定の操舵角θに保舵されていない状態から一定の操舵角θに保舵された状態へ変化したとき、フラグF6の値を「1」にセットする。また、判定部128は、フラグF5の値が「1」から「0」へ変化したとき、すなわちステアリングホイール11の操舵状態が一定の操舵角θに保舵された状態から一定の操舵角θに保舵されていない状態へ変化したときにも、フラグF6の値を「1」にセットする。
判定部128は、フラグF5の値が「1」から「0」へ変化した後、次式(A5)が成立するとき、フラグF6の値を「0」にセットする。判定部128は、次式(A5)が成立しないとき、フラグF6の値を「1」にセットした状態を維持する。
│ν-ν│≦νth …(A5)
ただし、「ν」は増速比演算部111により演算される増速比、「ν」はガード処理部129により演算される補正増速比である。「νth」は増速比しきい値であって、増速比演算部111により演算される増速比νと補正増速比νとの差が十分に小さいかどうかを判定する際の基準となる値である。増速比しきい値νthは、ステアリングホイール11の操舵状態が保舵状態から非保舵状態へ遷移したとき、ガード処理部129により演算される補正増速比νと、増速比演算部111により演算される実際の増速比νとの差に基づく目標ピニオン角θ の急変を抑える観点に基づき設定される。
ガード処理部129は、先の図6に示される第1の実施の形態のガード処理部73Hと同様の機能を有している。ただし、ガード処理部129は、判定部128によりセットされるフラグF6の値に応じて、増速比演算部111により演算される増速比νに対する制限処理機能を有効と無効との間で切り替える。ガード処理部129は、フラグF6の値が「1」にセットされているとき、増速比νに対する制限処理機能を有効とする。ガード処理部129は、上限値演算部126により演算される上限値νUL、および下限値演算部127により演算される下限値νLLを使用して、増速比νの演算周期当たりの変化量を制限する。具体的には、つぎの通りである。
すなわち、増速比νの演算周期当たりの変化量が上限値νULを超えるとき、増速比νの演算周期当たりの変化量は上限値νULに制限される。この上限値νULに制限された変化量の分だけ変化した増速比νが補正増速比νとして演算される。また、増速比νの演算周期当たりの変化量が下限値νLLを下回るとき、増速比νの演算周期当たりの変化量は下限値νLLに制限される。この下限値νLLに制限された変化量の分だけ変化した増速比νが補正増速比νとして演算される。このように、上限値νULおよび下限値νLLによって、増速比νの最大変化量および最小変化量が決まる。
ガード処理部129は、フラグF6の値が「0」にセットされているとき、増速比νに対する制限処理機能を無効とする。すなわち、増速比演算部111により演算される増速比νがそのまま補正増速比νとして演算される。
つぎに、第3の実施の形態の作用を説明する。
まず、ステアリングホイール11が中立位置に保持された状態で車両が直進している場合、判定部123によってフラグF5の値が「0」にセットされる。また、フラグF5の値が「0」である場合、判定部128によってフラグF6の値が「0」にセットされる。このため、ガード処理部129による増速比νに対する制限処理機能は無効化される。したがって、増速比演算部111により演算される増速比νが補正増速比νとして使用される。すなわち、車両が直進している場合、増速比演算部111により演算される増速比νが目標ピニオン角θ の演算に使用される。ただし、ステアリングホイール11が中立位置(操舵角θ=0°)に保持されている場合、車速Vの値および増速比νの値にかかわらず、目標ピニオン角θ は転舵シャフト14の中立位置(転舵角θ=0°)に対応する「0°」に設定される。このため、車両の減速または加速に伴い車速Vが変化したとしても、運転者が違和感を覚えることはない。
つぎに、ステアリングホイール11が操舵されながら車両が旋回している場合、判定部123によってフラグF5の値が「0」にセットされる。また、フラグF5の値が「0」である場合、判定部128によってフラグF6の値が「0」にセットされる。このため、ガード処理部129による、増速比νに対する制限処理機能は無効化される。したがって、増速比演算部111により演算される増速比νが補正増速比νとして演算される。すなわち、増速比演算部111により演算される増速比νが補正増速比νとして目標ピニオン角θ の演算に使用されるため、車両の減速または加速に伴う車速Vの変化に応じて増速比ν、ひいては目標ピニオン角θ の値が変化する。ただし、ステアリングホイール11が操舵されている場合、操舵角θの変化に伴い車両の走行ラインも刻々と変化する。このため、ステアリングホイール11が操舵されている場合、車速Vの変化に応じて増速比が多少変化したとしても、運転者はそのことに気づきにくく、また違和感も覚えにくい。
つぎに、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が旋回している場合、判定部123によってフラグF5の値が「1」にセットされる。また、フラグF5の値が「0」から「1」へ変化することに伴い、判定部128によってフラグF6の値が「1」にセットされる。このため、ガード処理部129による、増速比νに対する制限処理機能が有効化される。したがって、増速比νの演算周期当たりの変化量は、上限値演算部126により演算される上限値νULまたは下限値演算部127により演算される下限値νLLにより制限される。ここで、たとえば車両の減速または加速に伴う車速Vの変化に応じて増速比演算部111により演算される増速比νの値が急激に変化することが考えられるところ、増速比νの演算周期当たりの変化量が上限値νULを超える場合、この増速比νの演算周期当たりの変化量は上限値νULまたは下限値νLLに制限される。すなわち、目標ピニオン角θ の演算に使用される最終的な増速比である補正増速比νの演算周期当たりの変化量が上限値νULを超えることがない。このため、車速Vの変化に伴い、補正増速比νの値、ひいては目標ピニオン角θ の値が急激に変化することを抑制することが可能である。
したがって、先の図8(a)に示すように、ステアリングホイール11が保舵された状態で車両が旋回している場合、車両が減速を開始したときであれ、車両の実際の走行軌跡L2が運転者の意図する旋回ラインL1に対してより内側へ巻き込むように変化することが抑制される。すなわち、車両は運転者の意図する旋回ラインL1から大きく外れることなく走行することが可能となる。また、先の図8(b)に示すように、ステアリングホイール11が保舵された状態で車両が旋回している場合、車両が加速を開始したときであれ、車両の実際の走行軌跡L2が運転者の意図する旋回ラインL1に対してより外側へ膨らむように変化することが抑制される。すなわち、車両は運転者の意図する旋回ラインL1から大きく外れることなく走行することが可能となる。
つぎに、ステアリングホイール11が保舵された状態で車両が旋回している場合、ステアリングホイール11の操舵が再開されたとき、判定部123によってフラグF5の値が「0」にセットされる。また、フラグF5の値が「1」から「0」へ変化するとき、判定部128はフラグF6の値を「1」にセットした状態を維持する。このため、ガード処理部129による増速比νに対する制限処理機能が有効化された状態に維持される。したがって、目標ピニオン角θ の演算に使用される最終的な増速比である補正増速比νの演算周期当たりの変化量が上限値νULまたは下限値νLLに制限される。
ここで、ステアリングホイール11の操舵が再開される直前の車速Vに応じた増速比νと、ステアリングホイール11の操舵が再開された直後の車速Vに応じた増速比νとが乖離していることが考えられる。この場合、ステアリングホイール11の操舵が再開される直前の増速比νに基づく目標ピニオン角θ と、ステアリングホイール11の操舵が再開された直後の増速比νに基づく目標ピニオン角θ とについても乖離する。このため、ステアリングホイール11の操舵が再開された直後の車速Vに基づく増速比νを即時に使用して目標ピニオン角θ を演算する場合、目標ピニオン角θ 、ひいては転舵輪16の転舵角θが急激に変化するおそれがある。
この点、本実施の形態では、ステアリングホイール11の操舵が再開された場合、増速比νの演算周期当たりの変化量が上限値νULまたは下限値νLLに制限される。このため、目標ピニオン角θ の演算に使用される最終的な補正増速比νの値が急激に変化することが抑制される。補正増速比νの値は、増速比演算部111により演算される増速比νへ向けて、操舵状態(ここでは、操舵角速度ωおよび操舵角θ)あるいは車両の走行状態(ここでは、車速V)に応じて経時的に徐々に変化する。したがって、目標ピニオン角θ 、ひいては転舵角θの急激な変化が抑制される。
やがて、増速比演算部111により演算される増速比νとガード処理部129によって制限された補正車速Vとの差の絶対値が増速比しきい値νth以下の値になったとき、判定部128によってフラグF6の値が「0」にセットされる。これにより、ガード処理部129における増速比νに対する制限処理機能が無効化される。このため、増速比演算部111により演算される増速比νがそのまま最終的な増速比である補正増速比νとして目標ピニオン角θ の演算に使用される。すなわち、車速Vに応じた増速比νに応じたより適切な目標ピニオン角θ が演算される。
したがって、第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態の(1),(2)と同様の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(4)操舵角演算部51により演算される操舵角θと、車速Vに応じて演算される増速比νとを使用して目標ピニオン角θ を演算することができる。製品仕様などによっては、操舵角θと目標ピニオン角θ との関係を車速Vに応じて規定するマップM1を使用することなく目標ピニオン角θ を演算することが要求されることが考えられるところ、このような要求に応えることができる。
<第4の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第4の実施の形態を説明する。本実施の形態は、車速Vを補正する補正処理部の構成の点で先の第1の実施の形態と異なる。なお、本実施の形態は、先の第2または第3の実施の形態に適用してもよい。
図11に示すように、目標ピニオン角演算部62の補正処理部70Aは、先の保舵判定部72に代えて、旋回判定部131、減速判定部132、および加速判定部133を有している。
旋回判定部131は、車載される横加速度センサ502を通じて検出される横加速度G、および操舵角演算部51により演算される操舵角θを取り込み、これら取り込まれる横加速度Gおよび操舵角θに基づき車両が旋回しているかどうかを判定する。横加速度Gとは、車両が旋回するとき、車両の進行方向に対する左右方向の加速度をいう。旋回判定部131は、車両が旋回しているかどうかを示す旋回判定結果としてフラグF7の値をセットする。旋回判定部131は、車両が旋回している旨判定されるとき、フラグF7の値を「1」にセットする。旋回判定部131は、車両が旋回している旨判定されないとき、フラグF7の値を「0」にセットする。旋回判定部131については、後に詳述する。
減速判定部132は、車載される前後加速度センサ503を通じて検出される前後加速度G、制御装置50に設けられる車速変化量演算部504により演算される単位時間当たりの車速変化量ΔV、および車載されるストップランプスイッチ505により生成されるストップランプ信号Sstpを取り込む。前後加速度Gとは、車両の進行方向に対する前後方向の加速度をいう。ストップランプ信号Sstpは、車両の後部に設けられるストップランプが点灯しているのかどうか、すなわち運転者の減速する意思を示す電気信号である。減速判定部132は、前後加速度G、車速変化量ΔVおよびストップランプ信号Sstpに基づき車両が減速しているかどうかを判定する。減速判定部132は、車両が減速しているかどうかを示す減速判定結果としてフラグF8の値をセットする。減速判定部132は、車両が減速している旨判定されるとき、フラグF8の値を「1」にセットする。減速判定部132は、車両が減速している旨判定されないとき、フラグF8の値を「0」にセットする。減速判定部132については、後に詳述する。
加速判定部133は、前後加速度センサ503を通じて検出される前後加速度G、車速変化量演算部504により演算される単位時間当たりの車速変化量ΔV、および車載されるアクセルポジションセンサ506を通じて検出されるアクセル開度θapを取り込む。加速判定部133は、前後加速度G、車速変化量ΔV、およびアクセル開度θapに基づき車両が加速しているかどうかを判定する。アクセル開度θapは、アクセルペダルの操作量であって、運転者の加速する意思を示す。加速判定部133は、車両が加速しているかどうかを示す加速判定結果としてフラグF9の値をセットする。加速判定部133は、車両が加速している旨判定されるとき、フラグF9の値を「1」にセットする。加速判定部133は、車両が加速している旨判定されないとき、フラグF9の値を「0」にセットする。加速判定部133については、後に詳述する。
補正車速演算部73は、旋回判定結果であるフラグF7の値、減速判定結果であるフラグF8の値、および加速判定結果であるフラグF9の値を取り込む。先の図6に括弧書きの符号を付して示すように、補正車速演算部73の判定部73Aは、フラグF7の値、フラグF8の値、およびフラグF9の値に基づき、目標ピニオン角θ の演算に使用される車速Vの値を固定すべき状況であるかどうかを示すフラグF3の値をセットする。
判定部73Aは、フラグF7の値が「0」であるとき、すなわち車両が旋回していないとき、車速Vの値を固定すべき状況ではないとして、フラグF8,F9の値にかかわらず、フラグF3の値を「0」にセットする。これにより、目標ピニオン角θ の演算に使用される最終的な車速として、車速センサ501を通じて検出される車速Vが使用される。
また、判定部73Aは、フラグF7の値が「1」かつフラグF8の値が「1」であるとき、すなわち車両が旋回しながら減速するとき、車速Vの値を固定すべき状況であるとしてフラグF3の値を「1」にセットする。これにより、目標ピニオン角θ の演算に使用される最終的な車速である補正車速Vの値が前回値保持部73Bに保持されている補正車速Vの前回値Vcn-1に固定される。
また、判定部73Aは、フラグF7の値が「1」かつフラグF9の値が「1」であるとき、すなわち車両が旋回しながら加速するとき、車速Vの値を固定すべき状況であるとしてフラグF3の値を「1」にセットする。これにより、目標ピニオン角θ の演算に使用される最終的な車速である補正車速Vの値が前回値保持部73Bに保持されている補正車速Vの前回値Vcn-1に固定される。
つぎに、旋回判定部131について詳細に説明する。
図12に示すように、旋回判定部131は、2つの絶対値演算部131A,131B、および3つの判定部131C,131D,131Eを有している。
絶対値演算部131Aは、横加速度センサ502を通じて演算される横加速度Gの絶対値を演算する。
絶対値演算部131Bは、操舵角演算部51により演算される操舵角θの絶対値を演算する。
判定部131Cは、絶対値演算部131Aにより演算される横加速度Gの絶対値、および制御装置50の記憶装置に格納された横加速度しきい値Gythを取り込む。横加速度しきい値Gythは、車両が旋回しているかどうかを判定する観点に基づき設定される。判定部131Cは、横加速度Gの絶対値と横加速度しきい値Gythとを比較し、その比較結果に応じてフラグF10の値をセットする。判定部131Cは、横加速度Gの絶対値が横加速度しきい値Gythよりも小さい値であるとき、フラグF10の値を「0」にセットする。判定部131Cは、横加速度Gの絶対値が横加速度しきい値Gythよりも大きい値であるとき、フラグF10の値を「1」にセットする。
判定部131Dは、絶対値演算部131Bにより演算される操舵角θの絶対値、および制御装置50の記憶装置に格納された操舵角しきい値θsth2を取り込む。操舵角しきい値θsth2は、車両が旋回しているかどうかを判定する観点に基づき設定される。判定部131Dは、操舵角θの絶対値と操舵角しきい値θsth2とを比較し、その比較結果に応じてフラグF11の値をセットする。判定部131Dは、操舵角θの絶対値が操舵角しきい値θsth2よりも小さい値であるとき、フラグF11の値を「1」にセットする。判定部131Dは、操舵角θの絶対値が操舵角しきい値θsth2よりも大きい値であるとき、フラグF11の値を「1」にセットする。
判定部131Eは、判定部131CによりセットされるフラグF10の値、および判定部131DによりセットされるフラグF11の値を取り込む。判定部131Eは、フラグF10およびフラグF11の値に基づき、車両が旋回しているかどうかの判定結果としてフラグF7の値をセットする。判定部131Eは、フラグF10およびフラグF11の少なくとも一方の値が「0」であるとき、車両は旋回していない状態であるとして、フラグF7の値を「0」にセットする。判定部131Eは、フラグF10およびフラグF11の値の双方が「1」であるとき、車両は旋回している状態であるとして、フラグF7の値を「1」にセットする。
なお、横加速度しきい値Gythおよび操舵角しきい値θsth2は、車速Vに応じて変化させてもよい。
つぎに、減速判定部132について詳細に説明する。
図13に示すように、減速判定部132は、4つの判定部132A,132B,132C,132Dを有している。
判定部132Aは、前後加速度センサ503を通じて検出される前後加速度G、および制御装置50の記憶装置に格納された前後加速度しきい値Gyth1を取り込む。前後加速度しきい値Gyth1は、車両が減速しているかどうかを判定する観点に基づき設定される。判定部132Aは、前後加速度Gと前後加速度しきい値Gyth1とを比較し、その比較結果に応じてフラグF12の値をセットする。判定部132Aは、前後加速度Gの値が前後加速度しきい値Gyth1よりも小さい値であるとき、フラグF12の値を「0」にセットする。判定部132Aは、前後加速度Gの値が前後加速度しきい値Gyth1よりも大きい値であるとき、フラグF12の値を「1」にセットする。
判定部132Bは、車速変化量演算部504により演算される単位時間当たりの車速変化量ΔV、および制御装置50の記憶装置に格納された車速変化量しきい値ΔVth1を取り込む。車速変化量しきい値ΔVth1は、車両が減速しているかどうかを判定する観点に基づき設定される。判定部132Bは、単位時間当たりの車速変化量ΔVと車速変化量しきい値ΔVth1とを比較し、その比較結果に応じてフラグF13の値をセットする。判定部132Bは、単位時間当たりの車速変化量ΔVの値が車速変化量しきい値ΔVth1よりも小さい値であるとき、フラグF13の値を「0」にセットする。単位時間当たりの車速変化量ΔVの値が車速変化量しきい値ΔVth1よりも大きい値であるとき、フラグF13の値を「1」にセットする。
判定部132Cは、ストップランプスイッチ505により生成されるストップランプ信号Sstpを取り込む。判定部132Cは、ストップランプ信号Sstpがストップランプの消灯を示すものである場合、フラグF14の値を「0」にセットする。判定部132Cは、ストップランプ信号Sstpがストップランプの点灯を示すものである場合、フラグF14の値を「1」にセットする。
判定部132Dは、判定部132AによりセットされるフラグF12の値、判定部132BによりセットされるフラグF13の値、および判定部132CによりセットされるフラグF14の値を取り込む。判定部132Dは、フラグF12、フラグF13およびフラグF14の値に基づき、車両が減速しているかどうかの判定結果としてフラグF8の値をセットする。判定部132Dは、フラグF12、フラグF13およびフラグF14のうち少なくとも一つの値が「0」であるとき、車両は減速している状態ではないとして、フラグF8の値を「0」にセットする。判定部132Dは、フラグF12、フラグF13およびフラグF14のすべての値が「1」であるとき、車両は減速している状態であるとして、フラグF8の値を「1」にセットする。
なお、前後加速度しきい値Gyth1および車速変化量しきい値ΔVth1は、車速Vに応じて変化させてもよい。また、減速判定部132として判定部132Cを割愛した構成を採用してもよい。この場合、判定部132Dは、フラグF12およびフラグF13の少なくとも一方の値が「0」であるとき、フラグF8の値を「0」にセットする。判定部132Dは、フラグF12およびフラグF13の双方の値が「1」であるとき、フラグF8の値を「1」にセットする。
つぎに、加速判定部133について詳細に説明する。
図14に示すように、加速判定部133は、4つの判定部133A,133B,133C,133Dを有している。
判定部133Aは、前後加速度センサ503を通じて検出される前後加速度G、および制御装置50の記憶装置に格納された前後加速度しきい値Gyth2を取り込む。前後加速度しきい値Gyth2は、車両が加速しているかどうかを判定する観点に基づき設定される。判定部133Aは、前後加速度Gと前後加速度しきい値Gyth2とを比較し、その比較結果に応じてフラグF15の値をセットする。判定部133Aは、前後加速度Gの値が前後加速度しきい値Gyth2よりも小さい値であるとき、フラグF15の値を「0」にセットする。判定部132Aは、前後加速度Gの値が前後加速度しきい値Gyth2よりも大きい値であるとき、フラグF15の値を「1」にセットする。
判定部133Bは、車速変化量演算部504により演算される単位時間当たりの車速変化量ΔV、および制御装置50の記憶装置に格納された車速変化量しきい値ΔVth2を取り込む。車速変化量しきい値ΔVth2は、車両が加速しているかどうかを判定する観点に基づき設定される。判定部132Bは、単位時間当たりの車速変化量ΔVと車速変化量しきい値ΔVth2とを比較し、その比較結果に応じてフラグF16の値をセットする。判定部133Bは、単位時間当たりの車速変化量ΔVの値が車速変化量しきい値ΔVth2よりも小さい値であるとき、フラグF16の値を「0」にセットする。判定部133Bは、単位時間当たりの車速変化量ΔVの値が車速変化量しきい値ΔVth2よりも大きい値であるとき、フラグF16の値を「1」にセットする。
判定部133Cは、アクセルポジションセンサ506を通じて検出されるアクセル開度θap、および制御装置50の記憶装置に格納されたアクセル開度しきい値θapthを取り込む。アクセル開度しきい値θapthは、車両が加速しているかどうかを判定する観点に基づき設定される。判定部133Cは、アクセル開度θapとアクセル開度しきい値θapthとを比較し、その比較結果に応じてフラグF17の値をセットする。判定部133Cは、アクセル開度θapの値がアクセル開度しきい値θapthよりも小さい値であるとき、フラグF17の値を「0」にセットする。判定部133Cは、アクセル開度θapの値がアクセル開度しきい値θapthよりも大きい値であるとき、フラグF17の値を「1」にセットする。
判定部133Dは、判定部133AによりセットされるフラグF15の値、判定部133BによりセットされるフラグF16の値、および判定部133CによりセットされるフラグF17の値を取り込む。判定部133Dは、フラグF15、フラグF16およびフラグF17の値に基づき、車両が加速しているかどうかを示す判定結果としてフラグF9の値をセットする。判定部133Dは、フラグF15、フラグF16およびフラグF17のうち少なくとも一つの値が「0」であるとき、車両は加速している状態ではないとして、フラグF9の値を「0」にセットする。判定部132Dは、フラグF15、フラグF16およびフラグF17のすべての値が「1」であるとき、車両は加速している状態であるとして、フラグF9の値を「1」にセットする。
なお、前後加速度しきい値Gyth2および車速変化量しきい値ΔVth2は、車速Vに応じて変化させてもよい。また、加速判定部133として、判定部133Cを割愛した構成を採用してもよい。この場合、判定部133Dは、フラグF15およびフラグF16の少なくとも一方の値が「0」であるとき、フラグF9の値を「0」にセットする。判定部133Dは、フラグF15およびフラグF16の双方の値が「1」であるとき、フラグF9の値を「1」にセットする。
したがって、第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態の(1),(2)と同様の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(5)ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態であるかどうかにかかわらず、車両が旋回しながら減速または加速する場合には、目標ピニオン角θ の演算に使用される最終的な車速である補正車速Vが旋回かつ減速している旨判定される直前、または旋回かつ加速している旨判定される直前の車速に固定される。このため、先の図8(a)に示されるように、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態であるかどうかにかかわらず、車両が旋回しながら減速するとき、車両の実際の走行軌跡L2が運転者の意図する旋回ラインL1に対してより内側へ巻き込むように変化することが抑制される。また、先の図8(b)に示されるように、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態であるかどうかにかかわらず、車両が旋回しながら加速するとき、車両の実際の走行軌跡L2が運転者の意図する旋回ラインL1に対してより外側へ膨らむように変化することが抑制される。したがって、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態であるかどうかにかかわらず、車両が旋回しながら減速または加速するとき、運転者の意図しない車両挙動の変化を抑えることができる。
(6)ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵されているかどうかを判定することなく、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵されているときにも目標ピニオン角θ の演算に使用される車速の値が固定される。このため、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が減速または加速されるときにも、運転者の意図しない車両挙動の変化を抑えることができる。
(7)ステアリングホイール11が操舵されながら車両が旋回している場合、操舵角θの変化に伴い車両の走行ラインも刻々と変化するため、車速Vの変化に応じて舵角比が多少変化したとしても、運転者はそのことに気づきにくく、また違和感も覚えにくい。ただし、製品仕様などによっては、操舵性をより向上させる観点に基づき、ステアリングホイール11が保舵されているかどうかにかかわらず、車両が旋回している場合に減速または加速するときには舵角比を変化させないことが要求されることも考えられるところ、このような要求に応えることができる。
(8)減速判定部132として、前後加速度Gおよび単位時間当たりの車速変化量ΔVのみならず、ストップランプ信号Sstpに基づき車両の減速を判定する構成を採用した場合、車両の減速をより適切に判定することができる。たとえば、車両が上り坂を走行している場合、運転者の減速する意思がないにもかかわらず、車速Vが低下することが考えられる。この点、ストップランプ信号Sstpを考慮することにより、運転者の意思に基づく上り坂での減速をより適切に判定することができる。
(9)加速判定部133として、前後加速度Gおよび単位時間当たりの車速変化量ΔVのみならず、アクセル開度θapに基づき車両の加速を判定する構成を採用した場合、車両の加速をより適切に判定することができる。たとえば、車両が下り坂を走行している場合、運転者の加速する意思がないにもかかわらず、車速Vが増加することが考えられる。この点、アクセル開度θapを考慮することにより、運転者の意思に基づく下り坂での加速をより適切に判定することができる。
<第5の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第5の実施の形態を説明する。本実施の形態は、旋回判定部の構成の点で先の第4の実施の形態と異なる。
図15に示すように、旋回判定部131は、スリップ角演算部141Aおよび判定部141Bを有している。
スリップ角演算部141Aは、操舵角演算部51により演算される操舵角θ、および車速センサ501を通じて検出される車速Vを取り込み、これら取り込まれる操舵角θおよび車速Vに基づきスリップ角θsaを演算する。スリップ角θsaとは、転舵輪16の向きと車両の進行方向とがなす角度をいう。スリップ角演算部141Aは、制御装置50の記憶装置に格納されたマップM9を使用してスリップ角θsaを演算する。マップM9は操舵角θとスリップ角θsaとの関係を車速Vに応じて規定する三次元マップであって、つぎのような特性を有している。すなわち、操舵角θの絶対値が増加するほど、また、車速Vがより速くなるほど、スリップ角θasの絶対値はより大きな値となる。
判定部141Bは、スリップ角演算部141Aにより演算されるスリップ角θsaの絶対値、および制御装置50の記憶装置に格納されたスリップ角しきい値θsathを取り込む。スリップ角しきい値θsathは、車両が旋回しているかどうかを判定する観点に基づき設定される。判定部141Bは、スリップ角θsaの絶対値とスリップ角しきい値θsathとを比較し、その比較結果に応じてフラグF7の値をセットする。判定部141Bは、スリップ角θsaの絶対値がスリップ角しきい値θsathよりも小さい値であるとき、車両は旋回している状態ではないとして、フラグF7の値を「0」にセットする。判定部141Bは、スリップ角θsaの絶対値がスリップ角しきい値θsathよりも大きい値であるとき、車両は旋回している状態であるとして、フラグF7の値を「1」にセットする。
したがって、第5の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(10)操舵角θおよび車速Vに基づき、車両が旋回している状態であるかどうかを判定することができる。
<第6の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第6の実施の形態を説明する。本実施の形態は、旋回判定部、減速判定部および加速判定部の構成の点で先の第4の実施の形態と異なる。
車両の各車輪はハブユニット軸受を介して車体に対して回転可能に支持されるところ、各ハブユニット軸受にはタイヤ力を検出するタイヤ力センサが設けられることがある。タイヤ力とは、路面と各車輪との間に作用する荷重をいう。
図19に示すように、路面と各車輪との間に作用する荷重は、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の3方向に沿って作用する3つの力、ならびにX軸、Y軸、Z軸の3つの軸回りに作用する3つのモーメントの合計6種類の力で代表することができる。ここで、X軸方向とは車輪の前後水平方向をいう。Y軸方向とは車輪の左右水平方向をいう。Z軸方向とは車輪の上下方向をいう。また、車輪のX軸方向に沿って作用する力を前後荷重(前後力)F、車輪のY軸方向に沿って作用する力を横荷重(横力)F、車輪のZ軸方向に沿って作用する力を上下荷重(上下力)Fという。さらに、車輪のX軸回りに作用するモーメントをロールモーメントM、車輪のY軸回りに作用するモーメントをピッチングモーメントM、車輪のZ軸回りに作用するモーメントをヨーイングモーメントMという。
このようなタイヤ力センサが設けられる場合、旋回判定部131、減速判定部132および加速判定部133として、つぎの構成を採用してもよい。
図16に示すように、旋回判定部131は、3つの絶対値演算部151A,151B,151C、および4つの判定部151D,151E,151F,151Gを有している。
絶対値演算部151Aは、タイヤ力センサを通じて検出される横荷重Fの絶対値を演算する。
絶対値演算部151Bは、タイヤ力センサを通じて検出されるヨーイングモーメントMの絶対値を演算する。
絶対値演算部151Cは、タイヤ力センサを通じて検出されるロールモーメントMの絶対値を演算する。
判定部151Dは、絶対値演算部151Aにより演算される横荷重Fの絶対値、および制御装置50の記憶装置に格納された横荷重しきい値Fythを取り込む。横荷重しきい値Fythは、車両が旋回しているかどうかを判定する観点に基づき設定される。判定部151Dは、横荷重Fの絶対値と横荷重しきい値Fythとを比較し、その比較結果に応じてフラグF18の値をセットする。判定部151Dは、横荷重Fの絶対値が横荷重しきい値Fythよりも小さい値であるとき、フラグF18の値を「0」にセットする。判定部151Dは、横荷重Fの絶対値が横荷重しきい値Fythよりも大きい値であるとき、フラグF18の値を「1」にセットする。
判定部151Eは、絶対値演算部151Bにより演算されるヨーイングモーメントMの絶対値、および制御装置50の記憶装置に格納されたヨーイングモーメントしきい値Mzthを取り込む。ヨーイングモーメントしきい値Mzthは、車両が旋回しているかどうかを判定する観点に基づき設定される。判定部151Eは、ヨーイングモーメントMの絶対値とヨーイングモーメントしきい値Mzthとを比較し、その比較結果に応じてフラグF19の値をセットする。判定部151Eは、ヨーイングモーメントMの絶対値がヨーイングモーメントしきい値Mzthよりも小さい値であるとき、フラグF19の値を「0」にセットする。判定部151Eは、ヨーイングモーメントMの絶対値がヨーイングモーメントしきい値Mzthよりも大きい値であるとき、フラグF19の値を「1」にセットする。
判定部151Fは、絶対値演算部151Cにより演算されるロールモーメントMの絶対値、および制御装置50の記憶装置に格納されたロールモーメントしきい値Mxthを取り込む。ロールモーメントしきい値Mxthは、車両が旋回しているかどうかを判定する観点に基づき設定される。判定部151Fは、ロールモーメントMの絶対値とロールモーメントしきい値Mxthとを比較し、その比較結果に応じてフラグF20の値をセットする。判定部151Fは、ロールモーメントMの絶対値がロールモーメントしきい値Mxthよりも小さい値であるとき、フラグF20の値を「0」にセットする。判定部151Fは、ロールモーメントMの絶対値がロールモーメントしきい値Mxthよりも大きい値であるとき、フラグF20の値を「1」にセットする。
判定部151Gは、判定部151DによりセットされるフラグF18の値、判定部151EによりセットされるフラグF19の値、および判定部151FによりセットされるフラグF20の値を取り込む。判定部151Gは、フラグF18、フラグF19およびフラグF20の値に基づき、車両が旋回しているかどうかの判定結果としてフラグF7の値をセットする。判定部151Gは、フラグF18、フラグF19およびフラグF20のうち少なくとも一つの値が「0」であるとき、車両は旋回している状態ではないとして、フラグF7の値を「0」にセットする。判定部151Gは、フラグF18、フラグF19およびフラグF20のすべての値が「1」であるとき、車両は旋回している状態であるとして、フラグF7の値を「1」にセットする。
図17に示すように、減速判定部132は、4つの判定部161A,161B,161C,161Dを有している。
判定部161Aは、タイヤ力センサを通じて検出される前後荷重F、および制御装置50の記憶装置に格納された前後荷重しきい値Fxth1を取り込む。前後荷重しきい値Fxth1は、車両が減速しているかどうかを判定する観点に基づき設定される。判定部161Aは、前後荷重Fと前後荷重しきい値Fxth1とを比較し、その比較結果に応じてフラグF21の値をセットする。判定部161Aは、前後荷重Fの値が前後荷重しきい値Fxth1よりも小さい値であるとき、フラグF21の値を「0」にセットする。判定部161Aは、前後荷重Fの値が前後荷重しきい値Fxth1よりも大きい値であるとき、フラグF21の値を「1」にセットする。
判定部161Bは、タイヤ力センサを通じて検出される上下荷重F、および制御装置50の記憶装置に格納された上下荷重しきい値Fzth1を取り込む。上下荷重しきい値Fzth1は、車両が減速しているかどうかを判定する観点に基づき設定される。判定部161Bは、上下荷重Fと上下荷重しきい値Fzth1とを比較し、その比較結果に応じてフラグF22の値をセットする。判定部161Bは、上下荷重Fの値が上下荷重しきい値Fzth1よりも小さい値であるとき、フラグF22の値を「0」にセットする。判定部161Bは、上下荷重Fの値が上下荷重しきい値Fzth1よりも大きい値であるとき、フラグF22の値を「1」にセットする。
判定部161Cは、タイヤ力センサを通じて検出されるピッチングモーメントM、および制御装置50の記憶装置に格納されたピッチングモーメントしきい値Myth1を取り込む。ピッチングモーメントしきい値Myth1は、車両が減速しているかどうかを判定する観点に基づき設定される。判定部161Cは、ピッチングモーメントMとピッチングモーメントしきい値Myth1とを比較し、その比較結果に応じてフラグF23の値をセットする。判定部161Cは、ピッチングモーメントMの値がピッチングモーメントしきい値Myth1よりも小さい値であるとき、フラグF23の値を「0」にセットする。判定部161Cは、ピッチングモーメントMの値がピッチングモーメントしきい値Myth1よりも大きい値であるとき、フラグF23の値を「1」にセットする。
判定部161Dは、判定部161AによりセットされるフラグF21の値、判定部161BによりセットされるフラグF22の値、および判定部161CによりセットされるフラグF23の値を取り込む。判定部161Dは、フラグF21、フラグF22およびフラグF23の値に基づき、車両が減速しているかどうかの判定結果としてフラグF8の値をセットする。判定部161Dは、フラグF21、フラグF22およびフラグF23のうち少なくとも一つの値が「0」であるとき、車両は減速している状態ではないとして、フラグF8の値を「0」にセットする。判定部161Dは、フラグF21、フラグF22およびフラグF23のすべての値が「1」であるとき、車両は減速している状態であるとして、フラグF8の値を「1」にセットする。
図18に示すように、加速判定部133は、4つの判定部171A,171B,171C,171Dを有している。
判定部171Aは、タイヤ力センサを通じて検出される前後荷重F、および制御装置50の記憶装置に格納された前後荷重しきい値Fxth2を取り込む。前後荷重しきい値Fxth2は、車両が加速しているかどうかを判定する観点に基づき設定される。判定部171Aは、前後荷重Fと前後荷重しきい値Fxth2とを比較し、その比較結果に応じてフラグF24の値をセットする。判定部171Aは、前後荷重Fの値が前後荷重しきい値Fxth2よりも小さい値であるとき、フラグF24の値を「0」にセットする。判定部171Aは、前後荷重Fの値が前後荷重しきい値Fxth2よりも大きい値であるとき、フラグF24の値を「1」にセットする。
判定部171Bは、タイヤ力センサを通じて検出される上下荷重F、および制御装置50の記憶装置に格納された上下荷重しきい値Fzth2を取り込む。上下荷重しきい値Fzth2は、車両が加速しているかどうかを判定する観点に基づき設定される。判定部171Bは、上下荷重Fと上下荷重しきい値Fzth2とを比較し、その比較結果に応じてフラグF25の値をセットする。判定部171Bは、上下荷重Fの値が上下荷重しきい値Fzth2よりも小さい値であるとき、フラグF25の値を「0」にセットする。判定部171Bは、上下荷重Fの値が上下荷重しきい値Fzth2よりも大きい値であるとき、フラグF25の値を「1」にセットする。
判定部171Cは、タイヤ力センサを通じて検出されるピッチングモーメントM、および制御装置50の記憶装置に格納されたピッチングモーメントしきい値Myth2を取り込む。ピッチングモーメントしきい値Myth2車両が加速しているかどうかを判定する観点に基づき設定される。判定部171Cは、ピッチングモーメントMとピッチングモーメントしきい値Myth2とを比較し、その比較結果に応じてフラグF26の値をセットする。判定部171Cは、ピッチングモーメントMの値がピッチングモーメントしきい値Myth2よりも小さい値であるとき、フラグF26の値を「0」にセットする。判定部171Cは、ピッチングモーメントMの値がピッチングモーメントしきい値Myth2よりも大きい値であるとき、フラグF26の値を「1」にセットする。
判定部171Dは、判定部171AによりセットされるフラグF24の値、判定部171BによりセットされるフラグF25の値、および判定部171CによりセットされるフラグF26の値を取り込む。判定部171Dは、フラグF24、フラグF25およびフラグF26の値に基づき、車両が加速しているかどうかの判定結果としてフラグF9の値をセットする。判定部171Dは、フラグF24、フラグF25およびフラグF26のうち少なくとも一つの値が「0」であるとき、車両は加速している状態ではないとして、フラグF9の値を「0」にセットする。判定部171Dは、フラグF24、フラグF25およびフラグF26のすべての値が「1」であるとき、車両は加速している状態であるとして、フラグF9の値を「1」にセットする。
したがって、第6の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(11)車両の車輪にタイヤ力センサが設けられる場合、このタイヤ力センサを通じて検出されるタイヤ力に基づき、車両が旋回しているかどうか、車両が減速しているかどうか、および車両が加速しているかどうかを判定することができる。
<第7の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第7の実施の形態を説明する。本実施の形態は、目標ピニオン角演算部62の構成の点で先の第1の実施の形態と異なる。
図20に示すように、目標ピニオン角演算部62は、角度演算部180Aおよび補正処理部180Bを有している。
角度演算部180Aは、先の図4に示される第1の実施の形態の角度演算部70Bと同様の機能を有している。角度演算部180Aは、操舵角演算部51により演算される操舵角θおよび車速センサ501を通じて検出される車速Vを取り込み、これら取り込まれる操舵角θおよび車速Vに基づき先のマップM1を使用して目標ピニオン角θ を演算する。
補正処理部180Bは、微分器181、ゲイン演算部182、およびガード処理部183を有している。
微分器181は、操舵角演算部51により演算される操舵角θを微分することにより操舵角速度ωを演算する。
ゲイン演算部182は、微分器181により演算される操舵角速度ωに応じてゲインGを演算する。ゲイン演算部182は、制御装置50の記憶装置に格納されたマップM10を使用してゲインGを演算する。マップM10は操舵角速度ωとゲインGとの関係を規定する二次元マップであって、つぎのような特性を有している。すなわち、操舵角速度ωの絶対値がしきい値ωth2以下の値である場合、ゲインGの値は「0」に維持される。操舵角速度ωの絶対値がしきい値ωth2を超える場合、操舵角速度ωの絶対値の増加に対してゲインGの値は急激に増加し、やがて「1」に達する。ゲインGの値が「1」に達した以降、操舵角速度ωの絶対値の増加にかかわらずゲインGの値は「1」に維持される。ちなみに、しきい値ωth2は、ステアリングホイール11が保舵されているとき、あるいはゆったりと操舵されているときの操舵角速度ωを基準として設定される。
ガード処理部183は、角度演算部180Aにより演算される目標ピニオン角θ 、およびゲイン演算部182により演算されるゲインGを取り込む。ガード処理部183は、目標ピニオン角θ の演算周期当たりの変化量を制限値Δθに制限する。この制限値Δθは、目標ピニオン角θ の急激な変化を抑制する観点に基づき設定される。制限値Δθは、固定値であってもよいし、操舵角速度ω、操舵角θまたは車速Vに応じて変更される変数であってもよい。ガード処理部183は、制限値ΔθにゲインGを乗算することにより最終的な制限値Δθを演算する。
ゲインGの値が「0」である場合、最終的な制限値Δθは「0」になるため、目標ピニオン角θ の演算周期当たりの変化量は「0」に制限される。したがって、操舵角速度ωの値がしきい値ωth2以下である場合、目標ピニオン角θ は操舵角速度ωの値がしきい値ωth2以下の値に至ったときの値に固定される。また、ゲインGの値が「1」である場合、目標ピニオン角θ の演算周期当たりの変化量は、制限値Δθに制限される。
つぎに、第7の実施の形態の作用を説明する。
たとえば、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が旋回している場合、操舵角速度ωの値は「0」である。このとき、ゲインGの値が「0」になるため、目標ピニオン角θ の演算周期当たりの変化量が「0」に制限される。このため、転舵モータ41の制御に使用される最終的な目標ピニオン角である補正目標ピニオン角θpc は、車速Vの変化にかかわらず、ステアリングホイール11が保舵されたとき(より正確には操舵角速度ωがしきい値ωth2以下の値に至ったとき)の操舵角θおよび車速Vに応じた目標ピニオン角θ と同じ値に固定される。すなわち、車速Vの変化に応じて補正目標ピニオン角θpc の値、ひいては舵角比が変化することがない。
したがって、先の図8(a)に示すように、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が旋回する場合、車両が減速したときであれ、車両の実際の走行軌跡L2が運転者の意図する旋回ラインL1に対してより内側へ巻き込むように変化することが抑制される。また、先の図8(b)に示すように、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が旋回する場合、車両が加速したときであれ、車両の実際の走行軌跡L2が運転者の意図する旋回ラインL1に対してより外側へ膨らむように変化することが抑制される。運転者の意図しない車両挙動の変化を抑えることができるため、運転者は違和感を覚えにくい。
なお、ステアリングホイール11がしきい値以下の操舵角速度ωでゆるやかに操舵されている場合においても、ステアリングホイール11が保舵されている場合と同様に補正目標ピニオン角θpc の値、ひいては舵角比が固定される。
つぎに、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態で車両が旋回している場合、ステアリングホイール11の操舵が再開されるとき、つぎのようなことが懸念される。すなわち、ステアリングホイール11の操舵が再開される直前に固定されていた補正目標ピニオン角θpc の値と、ステアリングホイール11の操舵が再開された直後に角度演算部180Aによって演算される目標ピニオン角θ の値とが乖離していることが考えられる。
この点、ステアリングホイール11の操舵が再開されることによって操舵角速度ωがしきい値ωth2を超えたとき、ゲインGの値がたとえば「1」に設定される。このため、ステアリングホイール11の操舵が再開された直後に演算される目標ピニオン角θ の値がステアリングホイール11の操舵が再開される直前に固定されていた補正目標ピニオン角θpc の値と乖離する場合であれ、目標ピニオン角θ の演算周期当たりの変化量はガード処理部183によって制限値Δθに制限される。したがって、転舵モータ41の制御に使用される最終的な目標ピニオン角である補正目標ピニオン角θpc は、角度演算部180Aにより演算される目標ピニオン角θ へ向けて、経時的に徐々に変化する。すなわち、補正目標ピニオン角θpc の値が急激に変化することが抑制されるため、舵角比の急変が抑えられる。
したがって、第7の実施の形態によれば、先の第1の実施の形態の(1),(2)と同様の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(12)ステアリングホイール11の保舵、車両の旋回あるいは加減速などの判定処理を行うことなく、それらの判定に使用される状態変数としての電気信号(ここでは、操舵角速度ω)を使用して目標ピニオン角θ 、ひいては舵角比を補正することができる。また、ステアリングホイール11の保舵、車両の旋回あるいは加減速などの判定処理が不要となる分だけ、制御装置50の演算負荷を抑えることも可能である。
ちなみに、補正処理部180Bとして、先の図6に示される第1の実施の形態の補正車速演算部73と同様の構成を採用してもよい。ただし、この場合、判定部73Aに代えて、図20に示されるゲイン演算部182を設ける。スイッチ73Cは、フラグF3に代えてゲインGを取り込む。また、車速Vを目標ピニオン角θ と読み替え、補正車速Vを補正目標ピニオン角θpc と読み替える。また、上限値演算部73Dは、車速一時値Vtempの演算周期当たりの変化量に対する上限値VULに代えて、目標ピニオン角θ の演算周期あたりの変化量に対する上限値を演算する。下限値演算部73Eは、車速一時値Vtempの演算周期当たりの変化量に対する下限値VLLに代えて、目標ピニオン角θ の演算周期あたりの変化量に対する下限値を演算する。判定部73Gは、目標ピニオン角θ との演算周期当たりの変化量を制限すべき状況であるかどうかを判定し、その判定結果を示すフラグF4の値をセットする。ガード処理部73Hは、車速一時値Vtempに代えて、目標ピニオン角θ の演算周期あたりの変化量を上限値または下限値に制限する。このようにしても、先の第1の実施の形態の(1),(2)および第7の実施の形態の(12)と同様の効果を得ることができる。
また、補正処理部180Bとして、先の図10に示される第3の実施の形態の補正処理部120と同様の構成を採用してもよい。ただし、この場合、保舵判定部122および判定部123に代えて、図20に示されるゲイン演算部182を設ける。また、増速比νを目標ピニオン角θ と読み替え、補正増速比νを補正目標ピニオン角θpc と読み替える。また、上限値演算部126は、増速比νの演算周期当たりの変化量に対する上限値νULに代えて、目標ピニオン角θ の演算周期あたりの変化量に対する上限値を演算する。下限値演算部73Eは、増速比νの演算周期当たりの変化量に対する下限値νLLに代えて、目標ピニオン角θ の演算周期あたりの変化量に対する下限値を演算する。ガード処理部129は、増速比νに代えて、目標ピニオン角θ の演算周期あたりの変化量を上限値または下限値に制限する。このようにしても、先の第1の実施の形態の(1),(2)および第7の実施の形態の(12)と同様の効果を得ることができる。
<第8の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第8の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1~図7に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。
製品仕様によっては、車両の状況を、操舵反力を通じて運転者に伝えることが要求されることがある。運転者への伝達が要求される車両の状況としては、たとえば車両が停車状態から発進する場合などにおいて、転舵輪16,16が縁石などの障害物に当たっている状況が考えられる。
そこで、本実施の形態では、操舵反力を通じて車両の状況を運転者に伝えるために、反力制御部50aの操舵反力指令値演算部52として、つぎの構成を採用している。
図21に示すように、操舵反力指令値演算部52は、目標操舵反力演算部191、軸力演算部192、および減算器193を有している。
目標操舵反力演算部191は、操舵トルクTおよび車速Vに基づき目標操舵反力T1を演算する。目標操舵反力T1は、反力モータ31を通じて発生させるべきステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用するトルクの目標値である。目標操舵反力演算部191は、操舵トルクTの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値の目標操舵反力T1を演算する。
軸力演算部192は、ピニオン角θ、転舵モータ41の電流Iの値、操舵角θおよび車速Vに基づき転舵シャフト14に作用する軸力を演算し、この演算される軸力をトルクに換算したトルク換算値(軸力に応じた操舵反力)T2を演算する。
減算器193は、目標操舵反力演算部191により演算される目標操舵反力T1から軸力演算部192により演算されるトルク換算値T2を減算することにより、操舵反力指令値Tを演算する。
つぎに、軸力演算部192について詳細に説明する。
図21に示すように、軸力演算部192は、混合軸力演算部201、縁石軸力演算部202、最大値選択部203、および換算器204を有している。混合軸力演算部201は、角度軸力演算部201A、電流軸力演算部201B、および軸力配分演算部201Cを有している。
角度軸力演算部201Aは、ピニオン角θに基づき、転舵シャフト14に作用する軸力の理想値である角度軸力AF1を演算する。角度軸力演算部201Aは、制御装置50の記憶装置に格納された角度軸力マップを使用して角度軸力AF1を演算する。角度軸力マップは、横軸をピニオン角θ、縦軸を角度軸力AF1とする二次元マップであって、ピニオン角θと角度軸力AF1との関係を車速Vに応じて規定する。角度軸力マップは、つぎの特性を有する。すなわち、角度軸力AF1は、ピニオン角θの絶対値が増大するほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値に設定される。ピニオン角θの絶対値の増加に対して、角度軸力AF1の絶対値は線形的に増加する。角度軸力AF1は、ピニオン角θの符号と同符号に設定される。角度軸力AF1は、路面状態あるいは転舵シャフト14に作用する力が反映されない軸力である。
電流軸力演算部201Bは、転舵モータ41の電流Iの値に基づき、転舵シャフト14に作用する電流軸力AF2を演算する。ここで、転舵モータ41の電流Iの値は、路面摩擦抵抗などの路面状態に応じた外乱が転舵輪16,16に作用することに起因して目標ピニオン角θ と実際のピニオン角θとの間に発生する差によって変化する。すなわち、転舵モータ41の電流Iの値には、転舵輪16,16に作用する実際の路面状態が反映される。このため、転舵モータ41の電流Iの値に基づき路面状態の影響を反映した軸力を演算することが可能である。電流軸力AF2は、車速Vに応じた係数であるゲインを転舵モータ41の電流Iの値に乗算することにより求められる。電流軸力AF2は、路面状態あるいは転舵輪16,16を介して転舵シャフト14に作用する力が反映される軸力である。
軸力配分演算部201Cは、車両挙動、操舵状態、あるいは路面状態が反映される各種の状態変数に応じて、角度軸力AF1および電流軸力AF2に対する分配比率を個別に設定する。軸力配分演算部201Cは、角度軸力AF1および電流軸力AF2に対してそれぞれ個別に設定される分配比率を乗算した値を合算することにより、混合軸力AF3を演算する。
ちなみに、分配比率は、車両の状態変数の一つである車速Vのみに基づき設定してもよい。この場合、たとえば車速Vが速いときほど、角度軸力AF1の分配比率をより大きな値に設定する一方、電流軸力AF2の分配比率をより小さな値に設定する。また、車速Vが遅いときほど、角度軸力AF1の分配比率をより小さな値に設定する一方、電流軸力AF2の分配比率をより大きな値に設定する。
縁石軸力演算部202は、ピニオン角θ、車速Vおよび操舵角θに基づき、転舵輪16,16が縁石などの障害物に当たっている状況下において、さらなる切り込み操舵あるいは切り返し操舵を制限するための縁石軸力AF4を演算する。縁石軸力AF4は、車両が停車状態から発進する場合などにおいて、転舵輪16,16が縁石などの障害物に当たっている状況であることを運転者に操舵反力を通じて伝える観点に基づき演算される。縁石軸力演算部202については、後に詳述する。
最大値選択部203は、混合軸力演算部201により演算される混合軸力AF3、および縁石軸力演算部202により演算される縁石軸力AF4を取り込む。最大値選択部203は、これら取り込まれる混合軸力AF3および縁石軸力AF4のうち絶対値の大きい方の軸力を選択し、この選択される混合軸力AF3または縁石軸力AF4を、操舵反力指令値Tの演算に使用する最終軸力AF5として設定する。
換算器204は、最大値選択部203により設定される最終軸力AF5をトルクに換算することによりトルク換算値T2を演算する。
つぎに、縁石軸力演算部202について詳細に説明する。
図22に示すように、縁石軸力演算部202は、微分器202A、判定部202B、目標操舵角演算部202C、減算器202Dおよび軸力演算部202Eを有している。
微分器202Aは、ピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θを取り込み、この取り込まれるピニオン角θを微分することによりピニオン角速度ωを演算する。
判定部202Bは、転舵モータ41の電流Iの値、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θ 、ピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θ、および車速センサ501を通じて検出される車速Vを取り込む。判定部202Bは、これら取り込まれる目標ピニオン角θ 、ピニオン角θおよび車速Vに基づき、転舵輪16,16が縁石などの障害物に当たっているかどうかを判定する。判定部202Bは、つぎの4つの判定条件B1~B4のすべてが成立するとき、転舵輪16,16が縁石などの障害物に当たっている旨判定する。
B1.│Δθ(=│θ -θ│)│>θpth
B2.│I│>Ith
B3.│ω│<ωth
B4.│V│<Vth
判定条件B1において、「Δθ」は角度差であって、目標ピニオン角θ から実際のピニオン角θを減算することにより得られる。また、「θpth」は角度差しきい値である。角度差しきい値θpthは、つぎの観点に基づき設定される。すなわち、転舵輪16,16が障害物に当たっている場合、転舵輪16,16は切り増し側あるいは切り戻し側へ向けて転舵することが困難となる。この状態でステアリングホイール11が切り増し側あるいは切り戻し側へ向けて操舵されるとき、その操舵に応じて目標ピニオン角θ が増大するのに対して、転舵角θ、ひいてはピニオン角θは一定の値に維持される。このため、転舵輪16,16が障害物に当たっている状況で、さらに転舵輪16,16を転舵しようとするほど、目標ピニオン角θ とピニオン角θとの差の値が増大する。このため、角度差Δθの絶対値が大きいときほど、転舵輪16,16が障害物に当たっている蓋然性が高いといえる。したがって、角度差Δθは、転舵輪16,16が障害物に当たっている状況の確からしさの度合いを示す値である。この観点に基づき、角度差しきい値θpthは、回転角センサ43のノイズなどによる公差を考慮しつつ、実験あるいはシミュレーションにより設定される。
判定条件B2において、「Ith」は電流しきい値である。電流しきい値Ithは、つぎの観点に基づき設定される。すなわち、転舵輪16,16が障害物に当たっている状況で、さらに転舵輪16,16を転舵しようとするほど、転舵モータ41の電流Iの絶対値が増大する。このため、転舵モータ41の電流Iの絶対値が大きいときほど、転舵輪16,16が障害物に当たっている蓋然性が高いといえる。したがって、転舵モータ41の電流Iの値も、転舵輪16,16が障害物に当たっている状況の確からしさの度合いを示す値である。この観点に基づき、電流しきい値Ithは、実験あるいはシミュレーションにより設定される。
判定条件B3において、「ω」はピニオン角速度であって、ピニオン角θを微分することにより得られる。また、「ωth」は、角速度しきい値である。角速度しきい値ωthは、つぎの観点に基づき設定される。すなわち、転舵輪16,16が障害物に当たっている状況下においては、転舵輪16,16を転舵させることが困難である。このため、転舵輪16,16の転舵速度、ひいてはピニオン角速度ωの絶対値が小さいときほど、転舵輪16,16が障害物に当たっている蓋然性が高いといえる。したがって、ピニオン角速度ωも、転舵輪16,16が障害物に当たっている状況の確からしさの度合いを示す値である。この観点に基づき、角速度しきい値ωthは、回転角センサ43のノイズなどによる公差を考慮しつつ、実験あるいはシミュレーションにより設定される。
判定条件B4において、「Vth」は、車両が低速で走行しているかどうかを判定する際の基準となる車速しきい値である。車速しきい値Vthは、いわゆる低速域(0km/h~40km/h未満)の車速Vを基準として設定されるものであって、たとえば「40km/h」に設定される。車速しきい値Vthは、転舵輪16,16が障害物に当たっているかどうかの判定を行うこと、ひいては転舵輪16,16が障害物に当たっていることを後述するように操舵反力を急激に変化させることによって運転者に伝えることが妥当な走行状態であるかどうかという観点に基づき設定される。
たとえば車両が中速域(40km/h~60km/h未満)、あるいは高速域(60km/h以上)の車速Vで走行している場合、転舵輪16,16が障害物に当たっていることを運転者に伝えたところで、運転者の気持ちに余裕がなく、運転者による障害物回避操作などの対応が間に合わなかったり困難であったりする状況が想定される。こうした状況を鑑みると、車両が中速域あるいは高速域の車速Vで走行している場合、転舵輪16,16が障害物に当たっていることを運転者に伝える必要性が乏しく、そもそも転舵輪16,16が障害物に当たっているかどうかの判定をすることが無駄になるおそれがある。このため、本実施の形態では、転舵輪16,16が障害物に当たっているかどうかの判定条件の一つとして、車両が低車速域の車速Vで走行していることを設定している。
判定部202Bは、転舵輪16,16が障害物に当たっているかどうかの判定結果としてフラグF27の値をセットする。判定部202Bは、転舵輪16,16が障害物に当たっていない旨判定されるとき、すなわち4つの判定条件B1~B4のうち少なくとも一つの条件が成立しないとき、フラグF27の値を「0」にセットする。また、判定部202Bは、転舵輪16,16が障害物に当たっている旨判定されるとき、すなわち4つの判定条件B1~B4がすべて成立するとき、フラグF27の値を「1」にセットする。
目標操舵角演算部202Cは、判定部202Bにより転舵輪16,16が障害物に当たっている旨判定されるとき、すなわち判定部202BによりセットされるフラグF27の値が「1」であるとき、ピニオン角θに基づき目標操舵角θ を演算する。目標操舵角演算部202Cは、ピニオン角θを舵角比に基づき車速Vに応じて操舵角θに換算することにより目標操舵角θ を演算する。
本実施の形態において、目標操舵角演算部202Cは、マップM11を使用して目標操舵角θ を演算する。マップM11は制御装置50の記憶装置に格納されている。
図23のグラフに示すように、マップM11はピニオン角θと目標操舵角θ との関係を車速Vに応じて規定する三次元マップであって、つぎのような特性を有している。すなわち、ピニオン角θの絶対値が増加するほど、また、車速Vがより速くなるほど、目標操舵角θ の絶対値はより大きな値となる。
なお、目標操舵角演算部202Cは、判定部202Bにより転舵輪16,16が障害物に当たっている旨判定されないとき、すなわち判定部202BによりセットされるフラグF27の値が「0」であるとき、目標操舵角θ の演算を実行しない。
図22に示すように、減算器202Dは、判定部202Bにより転舵輪16,16が障害物に当たっている旨判定されるとき、すなわち判定部202BによりセットされるフラグF27の値が「1」であるとき、角度差Δθを演算する。角度差Δθは、目標操舵角演算部202Cにより演算される目標操舵角θ から操舵角演算部51により演算される操舵角θを減算することにより得られる目標操舵角θ と操舵角θとの差分である。
なお、減算器202Dは、判定部202Bにより転舵輪16,16が障害物に当たっている旨判定されないとき、すなわち判定部202BによりセットされるフラグF27の値が「0」であるとき、角度差Δθの演算を実行しない。
軸力演算部202Eは、減算器202Dにより演算される角度差Δθに応じて縁石軸力AF4を演算する。軸力演算部202Eは、制御装置50の記憶装置に格納されたマップM12を使用して縁石軸力AF4を演算する。マップM12は、角度差Δθの絶対値、縦軸を縁石軸力AF4とする二次元マップであって、角度差Δθの絶対値と縁石軸力AF4との関係を規定する。マップM12は、たとえばつぎのような特性を有する。すなわち、縁石軸力AF4は、角度差Δθの絶対値が「0」を基準として増加するほど、より大きい値に設定される。縁石軸力AF4は、運転者による障害物に当たっている側への操舵が困難となる程度の操舵反力を発生させる観点に基づき設定される。
したがって、たとえば転舵輪16,16が縁石などの障害物に当たっている状態でステアリングホイール11が操舵されるとき、縁石軸力演算部202により縁石軸力AF4が演算される。この縁石軸力AF4は、混合軸力演算部201により演算される混合軸力AF3よりも大きい値に至ったとき、最終軸力AF5として設定される。この最終軸力AF5をトルクに換算したトルク換算値T2が操舵反力指令値Tに反映されることによって操舵反力が急激に増大する。このため、運転者は操舵角θの絶対値が大きくなる方向へ向けてステアリングホイール11を操作することが難しくなる。したがって、運転者は操舵反力として突き当り感を感じることによって、転舵輪16,16が縁石などの障害物に当たっている状況であることを認識することが可能となる。
ただし、製品仕様によっては、転舵制御部50bが車速Vの変化に対する舵角比の変化の度合い(すなわち、変化率)を操舵状態に応じて変更する構成を有していることがある。たとえば、先の第1の実施の形態における転舵制御部50bは、旋回保舵状態での減速に伴う車両の巻き込み、あるいは旋回保舵状態での加速に伴う車両の膨らみを抑制するために、旋回保舵時には車速Vの値を固定することによって、実際の車速Vの変化に対する舵角比の変化率を0%に維持する。このような場合、操舵角θを転舵角θ,θに同期させるためには、転舵制御部50bで使用される舵角比を反力制御部50aにおいても考慮する必要がある。
そこで、本実施の形態を第1の実施の形態に適用する場合、縁石軸力演算部202として、つぎの構成を採用する。
図24に示すように、縁石軸力演算部202は、先の微分器202A、判定部202B、目標操舵角演算部202C、減算器202Dおよび軸力演算部202Eに加えて、補正処理部202Fを有している。補正処理部202Fは、先の図4に示される第1の実施の形態の補正処理部70Aと同様に、微分器211、保舵判定部212および補正車速演算部213を有している。
微分器211は、操舵角演算部51により演算される操舵角θを微分することにより操舵角速度ωを演算する。
保舵判定部212は、先の図5に示される第1の実施の形態の保舵判定部72と同様の機能を有している。保舵判定部212は、車速V、操舵角θおよび操舵角速度ωに基づきステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態であるかどうかを判定し、その判定結果としてフラグF0の値をセットする。
補正車速演算部213は、先の図6に示される第1の実施の形態の補正車速演算部73と同様の機能を有している。補正車速演算部213は、車速V、操舵角θ、操舵角速度ωおよびフラグF0の値に基づき、車速Vの値を補正することにより補正車速Vを演算する。
したがって、第8の実施の形態によれば、先の第1の実施の形態の(1),(2)と同様の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(12)転舵輪16,16が縁石などの障害物に当たることによってステアリングホイール11が一定の操舵角θで保舵された状態に至った場合、目標ピニオン角θ および目標操舵角θ の演算に使用される最終的な車速である補正車速Vは、ステアリングホイール11の保舵状態が判定されたときの車速に固定される。このため、車速センサ501を通じて検出される実際の車速Vの値にかかわらず、目標ピニオン角θ および目標操舵角θ の値は変化しない。すなわち、ステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態において、反力制御部50aにおけるピニオン角θと目標操舵角θ との関係が、転舵制御部50bにおける操舵角θと目標ピニオン角θ との関係と同期する。したがって、転舵輪16,16が縁石などの障害物に当たることによってステアリングホイール11が一定の操舵角θに保舵された状態に至ったとき、操舵角θと転舵角θとを同期させることができる。
<第9の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第9の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1~図7に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、反力制御部50aにおける操舵反力指令値演算部52の構成の点で第1の実施の形態と異なる。
ステアバイワイヤ方式の操舵装置10においては、ステアリングホイール11が転舵輪16,16からの制約を受けない。このため、車両の電源がオフされている状態でステアリングホイール11に何らかの外力が加わった際、ステアリングホイール11が回転するおそれがある。このとき、転舵シャフト14は動作しないため、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との位置関係が所定の舵角比に応じた本来の位置関係と異なる状況が生じることが懸念される。このため、制御装置50は、車両の電源が再びオンされたとき、初期動作としてステアリングホイール11の位置を自動調節する機能を有している。
図25に示すように、操舵反力指令値演算部52は、第1の制御部52A、第2の制御部52B、判定部52C、およびスイッチ52Dを有している。
第1の制御部52Aは、反力モータ31の駆動制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力を発生させる通常の反力制御を実行する部分である。第1の制御部52Aは、目標操舵反力演算部301、軸力演算部302および減算器303を有している。
目標操舵反力演算部301は、操舵トルクTおよび車速Vに基づき目標操舵反力T1を演算する。目標操舵反力T1は、反力モータ31を通じて発生させるべき操舵反力の目標値である。目標操舵反力演算部301は、操舵トルクTの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値の目標操舵反力T1を演算する。
軸力演算部302は、たとえばピニオン角θおよび転舵モータ41の電流Iの値に基づき転舵シャフト14に作用する軸力を演算し、この演算される軸力をトルクに換算したトルク換算値(すなわち、軸力に応じた操舵反力)T2を演算する。
減算器303は、目標操舵反力演算部301により演算される目標操舵反力T1から軸力演算部302により演算されるトルク換算値T2を減算することにより、操舵反力指令値T3を演算する。
第2の制御部52Bは、ステアリングホイール11の回転位置を自動調節する調節処理を実行する。調節処理とは、車両の電源がオフからオンへ切り替えられた場合、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との位置関係を所定の舵角比に応じた本来の位置関係に同期させるための処理をいう。
第2の制御部52Bは、目標操舵角演算部311、および操舵角フィードバック制御部312を有している。
目標操舵角演算部311は、ピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θに基づき目標操舵角θ を演算する。目標操舵角演算部311は、操舵角θに対する転舵角θの比である舵角比に基づき、ピニオン角θを車速Vに応じて操舵角θに換算することにより目標操舵角θ を演算する。本実施の形態において、目標操舵角演算部311は、制御装置50の記憶装置に格納されたマップM13を使用して目標操舵角θ を演算する。
図26のグラフに示すように、マップM13はピニオン角θと目標操舵角θ との関係を車速Vに応じて規定する三次元マップであって、つぎのような特性を有している。すなわち、ピニオン角θの絶対値が増加するほど、また車速Vがより速くなるほど、目標操舵角θ の絶対値はより大きい値となる。
操舵角フィードバック制御部312は、目標操舵角演算部311により演算される目標操舵角θ 、および操舵角演算部51により演算される操舵角θを取り込む。操舵角フィードバック制御部312は、操舵角θを目標操舵角θ に追従させるべく操舵角θのフィードバック制御の実行を通じて操舵反力指令値T4を演算する。
判定部52Cは、車両の電源がオンされた際、ステアリングホイール11の位置調節が必要である場合であってその位置調節が完了していないとき、フラグF28の値を「0」にセットする。判定部52Cは、車両の電源がオンされた際、ステアリングホイール11の位置調節が必要である場合であってその位置調節が完了したとき、あるいはステアリングホイール11の位置調節が不要であるとき、フラグF28の値を「1」にセットする。
判定部52Cは、車両の電源がオンからオフへ切り替えられる際、その直前に演算される操舵角θを基準操舵角θとして車両の記憶装置に格納する。この基準操舵角θは、車両の電源がオフされている期間におけるステアリングホイール11の回転の有無を判定する際の基準となる。判定部52Cは、車両の電源がオフからオンへ切り替えられた場合、車両の記憶装置に格納された基準操舵角θと、車両の電源がオンされた直後に演算される操舵角θとの比較を通じて、ステアリングホイール11の位置調節の要否を判定する。
判定部52Cは、車両の電源がオフされる直前の操舵角θである基準操舵角θと車両の電源が再びオンされた直後の操舵角θとが互いに一致するとき、ステアリングホイール11の位置調節は不要である旨判定する。また、判定部52Cは、車両の電源がオフされる直前の操舵角θである基準操舵角θと車両の電源が再びオンされた直後の操舵角θとが互いに一致しないとき、ステアリングホイール11の位置調節を行う必要がある旨判定する。
スイッチ52Dは、データ入力として、第1の制御部52Aにより演算される操舵反力指令値T3、および第2の制御部52Bにより演算される操舵反力指令値T4を取り込む。また、スイッチ52Dは、制御入力として、判定部52Cにより設定されるフラグF28の値を取り込む。
スイッチ52Dは、フラグF28の値に基づき、第1の制御部52Aにより演算される操舵反力指令値T3、および第2の制御部52Bにより演算される操舵反力指令値T4のうちいずれか一方を操舵反力指令値Tとして選択する。スイッチ52Dは、フラグF28の値が「0」であるとき、第2の制御部52Bにより演算される操舵反力指令値T4を最終的な操舵反力指令値T5として選択する。スイッチ52Dは、フラグF28の値が「1」であるとき、第1の制御部52Aにより演算される操舵反力指令値T3を最終的な操舵反力指令値Tとして選択する。
この構成によれば、ステアリングホイール11の回転位置の調節処理が必要であるかどうかに基づき、第1の制御部52Aによる通常の反力制御と、第2の制御部52Bによるステアリングホイール11の回転位置を調節するための制御とが切り替えられる。たとえば、車両の電源がオフされてから車両の電源が再びオンされるまでの期間に操舵角θが変化していない場合、車両の電源がオンされたとき、操舵トルクTに応じて操舵反力を発生させる通常の反力制御が実行開始される。また、たとえば車両の電源がオフされている期間にステアリングホイール11が反時計方向へ向けて所定の角度だけ回転した場合、車両の電源がオンされたとき、ステアリングホイール11の回転位置の調節処理が実行される。すなわち、反力モータ31の駆動制御を通じてステアリングホイール11を時計方向へ向けて所定の角度だけ回転させる。これにより、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との位置関係が所定の舵角比に応じた本来の位置関係に戻る。
ただし、製品仕様によっては、転舵制御部50bが車速Vの変化に対する舵角比の変化の度合い(すなわち、変化率)を操舵状態に応じて変更する構成を有していることがある。たとえば、先の第1の実施の形態における転舵制御部50bは、旋回保舵状態での減速に伴う車両の巻き込み、あるいは旋回保舵状態での加速に伴う車両の膨らみを抑制するために、旋回保舵時には車速Vの値を固定することによって、実際の車速Vの変化に対する舵角比の変化率を0%に維持する。このような場合、たとえばステアリングホイール11の回転位置の調節処理の実行を通じて、操舵角θを転舵角θ,θに同期させるためには、転舵制御部50bで使用される舵角比を反力制御部50aにおいても考慮する必要がある。
そこで、本実施の形態を第1の実施の形態に適用する場合、第2の制御部52Bとして、つぎの構成を採用している。
すなわち、先の図25に二点鎖線で示すように、第2の制御部52Bは、車速Vに対する補正処理を実行する補正処理部313を有している。補正処理部313は、先の図4に示される第1の実施の形態の補正処理部70Aと同様の構成を有している。補正処理部313は、ステアリングホイール11の操舵状態、ここではステアリングホイール11が一定の操舵角θで保舵された状態であるかどうかに基づき補正車速Vを演算する。
したがって、第9の実施の形態によれば、先の第1の実施の形態の(1),(2)と同様の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(14)車両の電源がオンされた場合の初期動作としてステアリングホイール11の回転位置の調節処理が実行される場合にステアリングホイール11が保舵されたときであれ、反力制御部50aにおけるピニオン角θと目標操舵角θ との関係が、転舵制御部50bにおける操舵角θと目標ピニオン角θ との関係と同期する。したがって、操舵角θと転舵角θとを同期させることができる。
<第10の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第10の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1~図7に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、自動運転機能を有する点で第1の実施の形態と異なる。
車両には、車両の安全性あるいは利便性をより向上させるための様々な運転支援機能あるいはシステムが運転を代替する自動運転機能を実現する自動運転システムが搭載されることがある。この場合、車両においては、制御装置50と他の車載システムの制御装置との協調制御が行われる。協調制御とは、複数種の車載システムの制御装置が互いに連携して車両の動きを制御する技術をいう。車両には、たとえば各種の車載システムの制御装置を統括制御する上位制御装置500が搭載される。上位制御装置500は、その時々の車両の状態に基づき最適な制御方法を求め、その求められる制御方法に応じて各種の車載制御装置に対して個別の制御を指令する。
上位制御装置500は、制御装置50による操舵制御に介入する。上位制御装置500は、運転席などに設けられる図示しないスイッチの操作を通じて、自己の自動運転制御機能をオン(有効)とオフ(無効)との間で切り替える。ただし、自動運転制御機能には、車両の安全性あるいは利便性をより向上させるための運転支援制御機能も含まれる。
上位制御装置500は、たとえば車両に目標車線上を走行させるための指令値として付加目標ピニオン角θpa を演算する。付加目標ピニオン角θpa は、その時々の車両の走行状態あるいは操舵状態に応じて、車両を車線に沿って走行させるために必要とされるピニオン角の目標値(現在のピニオン角に付加すべき角度)をいう。制御装置50は、上位制御装置500により演算される付加目標ピニオン角θpa を使用して反力モータ31および転舵モータ41を制御する。
図27に示すように、反力制御部50aは、操舵角演算部51、操舵反力指令値演算部52、および通電制御部53に加え、目標操舵角演算部55を有している。
目標操舵角演算部55は、上位制御装置500により演算される付加目標ピニオン角θpa 、および車速センサ501を通じて検出される車速Vを取り込み、これら取り込まれる付加目標ピニオン角θpa および車速Vに基づき付加目標操舵角θsa を演算する。目標操舵角演算部55は、操舵角θに対する転舵角θの比である舵角比に基づき、付加目標ピニオン角θpa を車速Vに応じて操舵角に換算することにより付加目標操舵角θsa を演算する。本実施の形態において、目標操舵角演算部55は、制御装置50の記憶装置に格納されたマップM14を使用して付加目標操舵角θsa を演算する。
図28のグラフに示すように、マップM14は付加目標ピニオン角θpa と付加目標操舵角θsa との関係を車速Vに応じて規定する三次元マップであって、つぎのような特性を有している。すなわち、付加目標ピニオン角θpa の絶対値が増加するほど、また車速Vがより速くなるほど、付加目標操舵角θsa の絶対値はより大きい値となる。
図27に示すように、操舵反力指令値演算部52は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、操舵角演算部51により演算される操舵角θ、および目標操舵角演算部55により演算される付加目標操舵角θsa を使用して、操舵反力指令値Tを演算する。この操舵反力指令値Tに応じた電力が反力モータ31へ供給されることにより、反力モータ31は操舵反力指令値Tに応じた角度だけ回転する。操舵反力指令値演算部52については、後に詳述する。
転舵制御部50bは、ピニオン角演算部61、目標ピニオン角演算部62、ピニオン角フィードバック制御部63、および通電制御部64に加え、加算器66を有している。加算器66は、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θ と、上位制御装置500により演算される付加目標ピニオン角θpa とを加算することにより、ピニオン角指令値T の演算に使用される最終的な目標ピニオン角である最終目標ピニオン角θpfin を演算する。加算器66は、演算される最終目標ピニオン角θpfin をピニオン角フィードバック制御部63へ供給する。ピニオン角フィードバック制御部63は、ピニオン角演算部611により演算される実際のピニオン角θを最終目標ピニオン角θpfin に追従させるべくピニオン角θのフィードバック制御の実行を通じてピニオン角指令値T を演算する。このピニオン角指令値T に応じた電力が転舵モータ41へ供給されることにより、転舵モータ41はピニオン角指令値T に応じた角度だけ回転する。
つぎに、操舵反力指令値演算部52の一例について詳細に説明する。
図29に示すように、操舵反力指令値演算部52は、加算器401、目標操舵トルク演算部402、トルクフィードバック制御部403、軸力演算部404、目標操舵角演算部405、操舵角フィードバック制御部406、および加算器407を有している。
加算器401は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTとトルクフィードバック制御部403により演算される第1の操舵反力指令値T11 とを加算することにより、ステアリングシャフト12に印加されるトルクとしての入力トルクTin を演算する。
目標操舵トルク演算部402は、加算器401により演算される入力トルクTin に基づき目標操舵トルクT を演算する。目標操舵トルクT とは、ステアリングホイール11に印加すべき操舵トルクTの目標値をいう。目標操舵トルク演算部402は、入力トルクTin の絶対値が大きいほど、より大きな絶対値の目標操舵トルクT を演算する。
トルクフィードバック制御部403は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、および目標操舵トルク演算部402により演算される目標操舵トルクT を取り込む。トルクフィードバック制御部403は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTを目標操舵トルクT に追従させるべく操舵トルクTのフィードバック制御を通じて第1の操舵反力指令値T11 を演算する。
軸力演算部404は、たとえばピニオン角θ、転舵モータ41の電流Iの値、および車速Vに基づき転舵シャフト14に作用する軸力を演算し、この演算される軸力をトルクに換算したトルク換算値(すなわち、軸力に応じた操舵反力)Tafを演算する。
目標操舵角演算部405は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、トルクフィードバック制御部403により演算される第1の操舵反力指令値T11 、軸力演算部404により演算されるトルク換算値Taf、および車速センサ501を通じて検出される車速Vを取り込む。目標操舵角演算部405は、これら取り込まれる操舵トルクT、第1の操舵反力指令値T11 、トルク換算値Tafおよび車速Vに基づき、ステアリングホイール11の目標操舵角θ を演算する。
目標操舵角演算部405は、第1の操舵反力指令値T11 および操舵トルクTの総和である入力トルクTin からトルク換算値Taf(軸力に応じた操舵反力)を減算することにより、ステアリングホイール11に対する最終的な入力トルクTin を求める。目標操舵角演算部405は、最終的な入力トルクTin から次式(A6)で表される理想モデルに基づいて目標操舵角θ を演算する。この理想モデルは、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間が機械的に連結されている操舵装置を前提として、入力トルクTin に応じた理想的な転舵角に対応するステアリングホイール11の操舵角を予め実験などによりモデル化したものである。
in =Jθ′′+Cθ′+Kθ …(A6)
ただし、「J」はステアリングホイール11およびステアリングシャフト12の慣性モーメントに対応する慣性係数、「C」は転舵シャフト14のハウジングに対する摩擦などに対応する粘性係数(摩擦係数)、「K」はステアリングホイール11およびステアリングシャフト12をそれぞればねとみなしたときのばね係数である。粘性係数Cおよび慣性係数Jは、車速Vに応じた値となる。また、「θ′′」は操舵角θの二階時間微分値、「θ′」は操舵角θの一階時間微分値である。
ちなみに、自動運転制御機能がオンされている場合、上位制御装置500により付加目標ピニオン角θpa が演算されるとき、目標操舵角演算部55により演算される付加目標操舵角θsa は目標操舵角演算部405により演算される目標操舵角θ に加算される。
操舵角フィードバック制御部406は、操舵角演算部51により演算される操舵角θ、および目標操舵角演算部405により演算される目標操舵角θ を取り込む。操舵角フィードバック制御部406は、操舵角演算部51により演算される実際の操舵角θを目標操舵角θ に追従させるべく操舵角θのフィードバック制御を通じて第2の操舵反力指令値T12 を演算する。
加算器407は、トルクフィードバック制御部403により演算される第1の操舵反力指令値T11 、および操舵角フィードバック制御部406により演算される第2の操舵反力指令値T12 を加算することにより操舵反力指令値Tを演算する。
この構成によれば、自動運転制御機能がオンされている場合、上位制御装置500により付加目標ピニオン角θpa が演算されるとき、付加目標ピニオン角θpa を舵角比に基づき車速Vに応じて操舵角に換算することにより付加目標操舵角θsa が演算される。これにより、運転者による手動運転時と上位制御装置500による自動運転制御の実行時とで、操舵角θの変化、すなわちステアリングホイール11の動きを同一にすることができる。
ただし、製品仕様によっては、転舵制御部50bが車速Vの変化に対する舵角比の変化の度合い(すなわち、変化率)を操舵状態に応じて変更する構成を有していることがある。たとえば、先の第1の実施の形態における転舵制御部50bは、旋回保舵状態での減速に伴う車両の巻き込み、あるいは旋回保舵状態での加速に伴う車両の膨らみを抑制するために、旋回保舵時には車速Vの値を固定することによって、実際の車速Vの変化に対する舵角比の変化率を0%に維持する。このような場合、操舵角θを転舵角θ,θに同期させるためには、転舵制御部50bで使用される舵角比を反力制御部50aにおいても考慮する必要がある。
そこで、本実施の形態を第1の実施の形態に適用する場合、反力制御部50aとして、つぎの構成を採用している。
すなわち、先の図27に二点鎖線で示すように、反力制御部50aは、車速Vに対する補正処理を実行する補正処理部57を有している。補正処理部57は、先の図4に示される第1の実施の形態の補正処理部70Aと同様の構成を有している。補正処理部57は、ステアリングホイール11の操舵状態、ここではステアリングホイール11が一定の操舵角θで保舵された状態であるかどうかに基づき補正車速Vを演算する。
なお、上位制御装置500は、現在のピニオン角θに付加すべき角度である付加目標ピニオン角θpa を演算したが、たとえば車両を車線に沿って走行させるために必要とされる理想的なピニオン角θの目標値として目標ピニオン角θ を演算するようにしてもよい。
したがって、第10の実施の形態によれば、先の第1の実施の形態の(1),(2)と同様の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(15)上位制御装置500による自動運転制御の実行時にステアリングホイール11が保舵される場合であれ、反力制御部50aにおける付加目標ピニオン角θpa と付加目標操舵角θsa との関係が、転舵制御部50bにおける操舵角θと目標ピニオン角θ との関係と同期する。したがって、操舵角θと転舵角θとを同期させることができる。
<他の実施の形態>
なお、各実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第8の実施の形態は、先の第2の実施の形態に適用してもよい。すなわち、縁石軸力演算部202は、操舵角θおよび操舵角速度ωに代えて、操舵トルクTに基づき演算される推定操舵角θes、および推定操舵角θesを微分することにより得られる推定操舵角速度ωesを使用する。なお、第8の実施の形態と同様にして、第9および第10の実施の形態も、第2の実施の形態に適用してもよい。
・また、第8の実施の形態は、先の第3の実施の形態に適用してもよい。この場合、縁石軸力演算部202は、つぎのように構成する。すなわち、先の図10に括弧書きの符号を付して示すように、縁石軸力演算部202は、増速比演算部221、補正処理部222、および除算器223を有している。増速比演算部221は、先の図10に示される第3の実施の形態の増速比演算部111と同様の演算機能を有している。補正処理部222は、先の図10に示される第3の実施の形態の補正処理部120と同様の演算機能を有している。補正処理部120は増速比演算部221により演算される増速比νに対する補正処理の実行を通じて補正増速比νを演算する。除算器223は、ピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θを補正処理部222により演算される補正増速比νで除することにより、目標操舵角θ を演算する。なお、第8の実施の形態と同様にして、第9および第10の実施の形態を、第3の実施の形態に適用してもよい。
・また、第8の実施の形態は、第4の実施の形態に適用してもよい。この場合、縁石軸力演算部202には、先の図24に示される補正処理部202Fに代えて、先の図11~図14に示される第4の実施の形態の補正処理部70Aと同様の構成を有する補正処理部を設ける。また、補正処理部70Aの旋回判定部131として、先の図15に示される第5の実施の形態の構成が採用される場合、縁石軸力演算部202における補正処理部の旋回判定部として、先の図15に示される第5の実施の形態の旋回判定部131と同様の構成を採用する。また、補正処理部70Aの旋回判定部131、減速判定部132および加速判定部133として、先の図16~図18に示される第6の実施の形態の構成が採用される場合、縁石軸力演算部202における補正処理部の旋回判定部、減速判定部および加速判定部として、先の図15に示される第5の実施の形態の構成と同様の構成を採用する。なお、第8の実施の形態と同様にして、第9および第10の実施の形態を、第4~第6の実施の形態に適用してもよい。
・また、第8の実施の形態は、第7の実施の形態に適用してもよい。この場合、縁石軸力演算部202には、先の図24に示される補正処理部202Fに代えて、先の図20に示される第7の実施の形態の補正処理部180Bと同様の構成を有する補正処理部を設ける。なお、第8の実施の形態と同様にして、第9および第10の実施の形態を、第7の実施の形態に適用してもよい。
・各実施の形態において、操舵装置10にクラッチを設けてもよい。この場合、図1に二点鎖線で示すように、ステアリングシャフト12とピニオンシャフト13とをクラッチ21を介して連結する。クラッチ21としては、励磁コイルに対する通電の断続を通じて動力の断続を行う電磁クラッチが採用される。制御装置50は、クラッチ21の断続を切り替える断続制御を実行する。クラッチ21が切断されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達が機械的に切断される。クラッチ21が接続されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達が機械的に連結される。
・各実施の形態において、操舵装置10は、車両の進行方向に対する左右2つの転舵輪をそれぞれ独立して転舵させる左右独立型の操舵装置であってもよい。また、四輪自動車において、4つの車輪をそれぞれ独立して転舵させる四輪独立型の操舵装置として構成してもよい。
11…ステアリングホイール
16…転舵輪
31…反力モータ
41…転舵モータ
44…ピニオンシャフト(シャフト)
50…制御装置(操舵制御装置)
70A,120,222,180B…補正処理部(第2の処理部)
70B,180A…角度演算部(第1の処理部)
111,221…増速比演算部(第1の処理部)
202C…目標操舵角演算部(第3の処理部)
202F…補正処理部(第4の処理部)
500…上位制御装置
501…車速センサ

Claims (12)

  1. ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離された転舵輪を転舵させるための転舵力を発生する転舵モータを制御する操舵制御装置であって、
    前記転舵モータの制御を通じて前記ステアリングホイールの操舵角に対する前記転舵輪の転舵角の比である舵角比を車速に応じて変更する第1の処理部と、
    操舵状態あるいは車両状態に応じて車速の変化に対する前記舵角比の変化の度合いを変化させる第2の処理部と、を有している操舵制御装置。
  2. 前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールがその中立位置を基準とする一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、車速の変化に対する前記舵角比の変化を零とする請求項1に記載の操舵制御装置。
  3. 前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールがその中立位置を基準とする一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、車速の変化に対する前記舵角比の変化の度合いを鈍化させる請求項1に記載の操舵制御装置。
  4. 前記第1の処理部は、前記ステアリングホイールの操舵角に基づき前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標回転角を車速に応じて演算するとともに、前記シャフトの回転角を前記目標回転角に一致させるように前記転舵モータを制御し、
    前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールがその中立位置を基準とする一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、前記目標回転角の演算に使用される車速の値を固定する請求項2に記載の操舵制御装置。
  5. 前記第1の処理部は、前記ステアリングホイールの操舵角に基づき前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標回転角を車速に応じて演算するとともに、前記シャフトの回転角を前記目標回転角に一致させるように前記転舵モータを制御し、
    前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールがその中立位置を基準とする一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、前記目標回転角の演算に使用される車速の単位時間当たりの変化量を制限する請求項3に記載の操舵制御装置。
  6. 前記第1の処理部は、車速に応じて演算される前記ステアリングホイールと前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトとの間の増速比を前記ステアリングホイールの操舵角に乗算することにより前記シャフトの目標回転角を演算するとともに、前記シャフトの回転角を前記目標回転角に一致させるように前記転舵モータを制御し、
    前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールがその中立位置を基準とする一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、前記目標回転角の演算に使用される増速比の単位時間当たりの変化量を制限する請求項3に記載の操舵制御装置。
  7. 前記第1の処理部は、前記ステアリングホイールの操舵角に基づき前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの目標回転角を車速に応じて演算するとともに、前記シャフトの回転角を前記目標回転角に一致させるように前記転舵モータを制御し、
    前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールがその中立位置を基準とする一定の操舵角に保舵されている場合または車両が旋回している場合、前記転舵モータの制御に使用される目標回転角の値を固定する請求項2に記載の操舵制御装置。
  8. 前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールの保舵状態が解除された場合または車両の旋回状態が解除された場合、前記目標回転角の演算に使用される車速の値を、車速センサを通じて検出される現在の車速の値へ向けて徐々に変化させる請求項4または請求項5に記載の操舵制御装置。
  9. 前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールの保舵状態が解除された場合または車両の旋回状態が解除された場合、前記目標回転角の演算に使用される増速比の値を、前記第1の処理部により演算される現在の増速比の値へ向けて徐々に変化させる請求項6に記載の操舵制御装置。
  10. 前記第2の処理部は、前記ステアリングホイールの保舵状態が解除された場合または車両の旋回状態が解除された場合、前記転舵モータの制御に使用される目標回転角の値を、前記第1の処理部により演算される現在の目標回転角の値へ向けて徐々に変化させる請求項7に記載の操舵制御装置。
  11. 前記の操舵制御装置は、ステアリングホイールに付与される操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生する反力モータを前記ステアリングホイールの操舵角と目標操舵角との差に基づき制御するものでもあって、
    前記ステアリングホイールの操舵角に対する前記転舵輪の転舵角の比である舵角比に基づき前記転舵輪の転舵動作に連動して回転するシャフトの回転角を車速に応じて前記ステアリングホイールの目標操舵角に換算する第3の処理部と、
    前記第2の処理部と同様の処理を実行することにより前記目標操舵角の演算に使用される車速の変化に対する前記舵角比の変化の度合いを変化させる第4の処理部と、を有している請求項1~請求項10のうちいずれか一項に記載の操舵制御装置。
  12. 前記第3の処理部において前記目標操舵角の演算に使用される前記シャフトの回転角は、
    a.車両の転舵輪が障害物に当たっている旨判定されるときの前記シャフトの回転角、
    b.車両の電源がオンされたときの前記シャフトの回転角、または
    c.車載される上位制御装置が操舵制御に介入する際に生成する前記シャフトの目標回転角である請求項11に記載の操舵制御装置。
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