JP2022051456A - 車両用複層ガラス - Google Patents

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Abstract

【課題】振動が加わっても断熱性能が低下することを抑制できる車両用複層ガラスを提供する。【解決手段】本発明にかかる車両用複層ガラスは、対向して配置された、一対のガラス板と、前記一対のガラス板の周縁部を封止するシール材と、前記一対のガラス板の間に配置されたスペーサと、を備え、前記一対のガラス板のうち、少なくとも一つの前記ガラス板が、CoOを50ppm~500ppm含む。【選択図】図2

Description

本発明は、車両用複層ガラスに関する。
建築分野や産業分野等に使用される断熱ガラスあるいは防音ガラスには、複数のガラス板同士の間に真空層(減圧層)を保ったまま、ガラス板の周辺端部を封着してなる複層ガラスが知られている。このような複層ガラスは、複数のガラス板同士の間に真空層を有しているため、ガラス板同士の間に空気や不活性ガスを封入されている場合よりも高い断熱性能を有する。
このような複層ガラスとして、例えば、真空層によって隔置されたガラス板の周辺端部を封着用ガラスバルクによって封着し、真空層内に複数個のスペーサを配置した排気複層ガラスが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2008-201662号公報
特許文献1の排気複層ガラスは建築分野での使用が例示されているが、車両用ガラスとして使用する場合、車両に生じる振動が複層ガラスに加わることで、ガラス板と封着材の密着性を低下させる問題があった。一般にガラス板はその表面で、炭酸ナトリウム等の炭酸塩が析出する現象(ガラスの「やけ」として知られる)が、ガラス板と封着材の間でも生じているため、複層ガラスに振動が加わった場合該析出の影響が大きくなると考えられる。そのため排気複層ガラスは、ガラス板と封止剤等の密着性が低下すると、外部雰囲気中の気体や液体が真空層内に侵入して真空層の真空度を低下させ、断熱性を低下させてしまう。
本発明の一態様は、振動が加わっても断熱性能の低下を抑制できる車両用複層ガラスを提供することを目的とする。
本発明にかかる車両用複層ガラスの一態様は、対向して配置された、一対のガラス板と、前記一対のガラス板の周縁部を封止するシール材と、前記一対のガラス板の間に配置されたスペーサと、を備え、前記一対のガラス板のうち、少なくとも一つの前記ガラス板が、CoOを50ppm~500ppm含む。
本発明にかかる車両用複層ガラスは、振動が加わっても断熱性能の低下を抑制できる。
本発明の実施形態にかかる車両用複層ガラスの平面図である。 図1のI-I断面図である。 車両用複層ガラスの製造方法の工程の一部を示す説明図である。 車両用複層ガラスの製造方法の工程の他の一部を示す説明図である。 車両用複層ガラスの製造方法の工程の他の一部を示す説明図である。 車両用複層ガラスの製造方法の工程の他の一部を示す説明図である。 車両用複層ガラスの製造方法の工程の他の一部を示す説明図である。 車両用複層ガラスの製造方法の工程の他の一部を示す説明図である。 車両用複層ガラスの製造方法の工程の他の一部を示す説明図である。 車両用複層ガラスの製造方法の工程の他の一部を示す説明図である。 車両用複層ガラスの構成の他の一例を示す断面図である。
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。本明細書において数値範囲を示すチルダ「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
<車両用複層ガラス>
本発明の実施形態にかかる車両用複層ガラスについて説明する。本実施形態にかかる車両用複層ガラスは、対向して配置された、一対のガラス板と、一対のガラス板の周縁部を封止する封着材であるシール材と、一対のガラス板の間に配置されたスペーサとを備える複層ガラスである。本実施形態にかかる車両用複層ガラスは、フロントガラス、リアガラス、サイドガラス、ルーフガラス、クォーターガラス等の自動車用窓ガラス、電車、機関車等の交通用の車両用窓ガラス、ブルドーザ等の建設用の車両用窓ガラス、飛行機等の飛行体用窓ガラス、その他の特殊車両用窓ガラス等に用いられる。
図1は、本実施形態にかかる車両用複層ガラスの平面図であり、図2は、図1のI-I断面図である。なお、図1及び図2において、車両用複層ガラス1の主面の一方を車外側とし、他方を車内側とする。図1では、手前側を車外側、奥側を車内側とする。図1において、車両用複層ガラス1の長手方向は、例えば車両の前後方向に対応するが、車両の車幅方向に対応してもよい。図2では、上側を車外側、下側を車内側とする。
図1に示すように、車両用複層ガラス1は、平面視において略矩形状に形成され、角に丸みを有している。また、図2に示すように、車両用複層ガラス1は、主面が車外側に向かって凸状に湾曲した曲面を有している。
図2に示すように、車両用複層ガラス1は、一対のガラス板10A及び10B、シール材20、スペーサ30、ガス吸着剤40、熱反射膜50、並びに遮蔽部60A及び60Bを備えている。一対のガラス板10A及び10Bの間には、シール材20、スペーサ30、ガス吸着剤40及び熱反射膜50が配置されている。車両用複層ガラス1では、一対のガラス板10A及び10Bの間に配置されているスペーサ30は、ガラス板10A及び10Bを介して外部から視認できる。ガス吸着剤40は、車両用複層ガラス1の平面視において、遮蔽部60A及び60Bの少なくとも一方と重なることにより遮蔽され、ガラス板10A及び10Bの少なくとも一方を介して外部から視認できないことが好ましく、両方により遮蔽されることがより好ましい。熱反射膜50は、外部から視認できない程度に可視光線透過率が小さいことが好ましい。
車両用複層ガラス1は、一対のガラス板10A及び10Bとシール材20との間に真空空間Sを有する。真空空間Sの真空度は、所定値以下が好ましく、例えば、0.01Pa以下が好ましい。真空空間Sは、ガラス板10Aとガラス板10Bとの間の空気を排気し、ガラス板10A及び10Bと、シール材20とを密封して形成できる。真空空間Sの間隔(すき間)は、適宜設定可能であり、例えば、10μm~1000μmである。
車両用複層ガラス1は、JIS D 1601に準拠した振動試験後における車両用複層ガラス1の熱貫流率(U値)と、振動試験前における車両用複層ガラス1の熱貫流率との差(以下、単に、「車両用複層ガラス1の熱貫流率の差」という。)が、1.0W/(mK)以下が好ましく、0.5W/(mK)以下がより好ましく、0.1W/(mK)以下がさらに好ましい。車両用複層ガラス1の熱貫流率の差が、1.0W/(mK)以下であれば、振動が加わる環境下での使用においても、車内の気温を保つ性能を長期間持続できる。
なお、熱貫流率は、車両用複層ガラス1における熱の伝わりやすさを表す値であり、値が小さいほど断熱性が高いことを表わす。熱貫流率は、以下のように表される。
熱貫流率(W/(mK))=1/熱抵抗値((mK)/W) ・・・(1)
熱抵抗値((mK)/W)=全体の厚さ(m)/全体の熱伝導率(W/(mK)) ・・・(2)
熱貫流率は、JIS R 3107:1998「板ガラス類の熱抵抗及び建築における熱貫流率の算定方法」(ISO 10292:1994)及びJIS R 3209:1998「複層ガラス」に準拠して測定される値である。
振動試験は、JIS D 1601:1995「自動車部品振動試験方法」に準拠して行われる。
車両用複層ガラス1は、JIS D 1601に準拠した振動試験後における車両用複層ガラス1の熱貫流率の、振動試験前における車両用複層ガラス1の熱貫流率に対する比(以下、単に、「車両用複層ガラス1の熱貫流率の比」という。)は、0.5~4.0が好ましく、0.6~3.0がより好ましく、0.7~2.5がさらに好ましい。車両用複層ガラス1の熱貫流率の比が、上記の好ましい範囲内であれば、振動が加わる環境下での使用においても、車内の気温を保つ性能を長期間持続できる。
以下、車両用複層ガラス1を構成する各部材について説明する。
図1に示すように、ガラス板10A及び10Bは、平面視において略矩形状に形成され、角に丸みを有している。図2に示すように、一対のガラス板10A及び10Bは、シール材20、スペーサ30、ガス吸着剤40及び熱反射膜50を介して対向して配置されている。なお、ガラス板10A及び10Bの平面視における形状は、車両の設置箇所に応じて適宜任意の形状にできる。例えば、ガラス板10A及び10Bの平面視における形状は、略台形状、略平行四辺形状又は略三角形状でもよい。
図2に示すように、ガラス板10Aは、スペーサ30と接する第1主面101Aと、第1主面101Aとは反対の外側に位置する第2主面102Aとを有する。ガラス板10Aの車内側に位置する内面が第1主面101Aであり、車外側に位置する外面が第2主面102Aとなる。
ガラス板10Bは、スペーサ30と接する第1主面101Bと、第1主面101Bとは反対の外側に位置する第2主面102Bとを有する。ガラス板10Bの車内側に位置する内面が第1主面101Bであり、車外側に位置する外面が第2主面102Bとなる。ガラス板10Aの第1主面101Aと、ガラス板10Bの第1主面101Bとが、対向している。
ガラス板10Aは、第1主面101A及び第2主面102Aが二方向に湾曲した曲面を有する。すなわち、ガラス板10Aは、ガラス板10Aの長手方向及び短手方向に湾曲している。ガラス板10Bも、ガラス板10Aに対応するように、第1主面101B及び第2主面102Bが二方向に湾曲した曲面を有する。なお、ガラス板10A及びガラス板10Bは、一方向に湾曲した曲面を有してもよい。すなわち、ガラス板10A及びガラス板10Bは、任意の一方向に湾曲してよく、湾曲方向は、例えばガラス板10A及びガラス板10Bの長手方向又は短手方向でもよい。本実施形態では、図2に示すように、ガラス板10Aは、第1主面101A及び第2主面102Aが車外側に凸状に湾曲した曲面を有する。ガラス板10Bも、ガラス板10Aに対応するように、第1主面101B及び第2主面102Bが車外側に凸状に湾曲した曲面を有する。第1主面101A及び第2主面102Aの曲率と、第1主面101B及び第2主面102Bの曲率とは、略同じとしているが、異なってもよい。
ガラス板10A及び10Bの厚さは、適宜選択可能であり、例えば、1mm~10mmでよい。ガラス板10A及び10Bの厚さは、耐飛び石耐性に優れることから、1.1mm以上が好ましく、1.6mm以上がより好ましい。また、ガラス板10A及び10Bの厚さは、質量を抑制できることから、3.0mm未満が好ましく、2.9mm未満がより好ましい。ガラス板10Aの厚さは、ガラス板10Bの厚さと同じでも、異なってもよい。ガラス板10Aとガラス板10Bとの厚さが同じであれば、同じサイズのガラス板を使用できる。
ガラス板10A及び10Bの曲率半径の最小値は、500mm~100000mmが好ましく、1000mm~80000mmがより好ましく、3000mm~50000mmがさらに好ましい。曲率半径は、ガラス板10A及び10Bに接している仮想上の円の半径をいう。曲率半径の逆数が曲率であり、ガラス板10A及び10Bの曲がり具合を表わす。すなわち、曲率半径が小さいほど、ガラス板10A及び10Bの曲率は大きくなり、ガラス板10A及び10Bの主面がより湾曲していることを意味する。曲率半径が大きいほど、ガラス板10A及び10Bの曲率は小さくなり、ガラス板10A及び10Bの主面がより平坦であることを意味する。ガラス板10A及び10Bの曲率半径の最小値が、上記の好ましい範囲内であれば、ガラス板10A及び10Bは、車両の窓ガラスの形状に沿って湾曲した形状を有する。
なお、ガラス板10A及び10Bの厚さは、例えば、ガラス板10A及び10Bの断面において、任意の場所を測定した時の厚さである。ガラス板10A及び10Bの断面において、場所により厚さが異なる場合、ガラス板10A及び10Bの厚さは、それぞれのガラス板において、最も薄い部分の厚さとしてもよい。
ガラス板10A及び10Bは、無機ガラス及び有機ガラスのいずれでもよい。無機ガラスとしては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス等が特に制限なく用いられる。これらの中でも、成形性の観点から、ソーダライムガラスが好ましい。ガラス板10A及び10Bは、着色されていてもよいが、透明であることが好ましい。透明とは、可視光線透過率が実質的に0ではないことを意味する。
ガラス板10A及び10Bは、ケイ素、ナトリウム、カルシウム及びマグネシウムを含む。
ガラス板10A及び10Bは、酸化物基準の質量百分率で、SiOを65%~80%、NaOを5%~18%、CaOを5%~12%、MgOを0%超~10%、Alを0%~6%、KOを0%~5%、Feを0%~3%含有することが好ましい。
SiOは、ガラスの骨格を形成する成分である。SiOの含有量が65%以上であれば、HCl、HF等の酸性溶液及びNaOH等のアルカリ性溶液に対する化学的耐久性が高くなると共に、耐熱性及び耐候性が良好となり、好ましい。SiOの含有量は、66%以上がより好ましく、67%以上がさらに好ましく、68%以上が特に好ましい。SiOの含有量が80%以下であれば、失透し難くなり、好ましい。SiOの含有量は、78%以下がより好ましく、76%以下がさらに好ましく、74%以下が特に好ましい。
NaOは、ガラス原料の溶解を促進する成分である。NaOの含有量が5%以上であれば、溶解性が良好となり、好ましい。NaOの含有量は、8%以上がより好ましく、11%以上がさらに好ましく、12%以上が特に好ましい。NaOの含有量が18%以下であれば、耐候性が良好となり、好ましい。NaOの含有量は、17%以下がより好ましく、16%以下がさらに好ましく、15%以下が特に好ましい。
CaOは、ガラス原料の溶解を促進し、耐候性を向上させる成分である。CaOの含有量が5%以上であれば、溶解性及び耐候性が良好となり、好ましい。CaOの含有量は、6%以上がより好ましく、7%以上がさらに好ましく、8%以上が特に好ましい。CaOの含有量が12%以下であれば、失透しにくくなり、好ましい。CaOの含有量は、11%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
MgOは、ガラス原料の溶解を促進し、耐候性を向上させる成分である。MgOの含有量は0%以上である。MgOを含有すると、溶解性、耐候性が良好となり、好ましい。MgOの含有量は、0.1%以上が好ましく、0.3%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましい。MgOの含有量が10%以下であれば、失透し難くなり、好ましい。MgOの含有量は、8%以下がより好ましく、6%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。
MgOとCaOとの合計含有量(MgO+CaO)は、上記のCaO及びMgOと同様の理由から、5%以上が好ましく、6%以上がより好ましく、7%以上がさらに好ましく、8%以上が特に好ましい。また、合計含有量(MgO+CaO)は、20%以下が好ましく、19%以下がより好ましく、18%以下がさらに好ましく、17%以下がよりさらに好ましく、16%以下が特に好ましい。
また、後述するSrOやBaOを含有する場合でも、同様に、MgOとCaOとSrOとBaOの合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO)は、5%以上が好ましく、6%以上がより好ましく、7%以上がさらに好ましく、8%以上が特に好ましい。また、合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO)は、20%以下が好ましく、19%以下がより好ましく、18%以下がさらに好ましく、17%以下がさらに好ましく、16%以下が特に好ましい。
Alは、耐候性を向上させる成分である。Alの含有量は0%以上である。Alを含有すると耐候性が良好となる。Alの含有量は、0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましく、0.3%以上がさらに好ましい。Alの含有量が6%以下であれば、溶解融性が良好となる。Alの含有量は、5%以下がより好ましく、4%以下がさらに好ましい。
Oは、ガラス原料の溶解を促進する成分である。KOの含有量は0%以上である。KOを含有すると溶解性が良好となる。KOの含有量が5%以下であれば、耐候性が良好となる。KOの含有量は、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、2%以下が特に好ましい。
NaOとKOとの合計含有量(NaO+KO)は、上記NaO及びKOと同様の理由から、10%以上が好ましく、11%以上がより好ましく、12%以上がさらに好ましい。また、合計含有量(NaO+KO)は、20%以下が好ましく、19%以下がより好ましく、18%以下がさらに好ましい。
ガラス板10A及び10Bのうち、少なくとも一方が、CoOを50ppm~500ppm含み、好適には200ppm~300ppm含む。CoOは、ガラス板10A及び10Bにガラス成分として含まれるNaの移動度を小さくできるので、NaCO等の炭酸塩の析出を抑制できる。
また、一対のガラス板10A及び10Bは、本質的に上記組成からなることが好ましいが、ガラス板10A及び10Bの効果を損なわない範囲で、上記したガラス母組成に対し、他の成分を含有してもよい。他の成分として、例えば、SrO、BaO、ZrO、B、SnO、SO、Cl、F、ZnO、Y、La、TiO、V25、P5、CeO、WO、Nb、Bi3、Fe、Cr、Se、Sc、MnO、CuO及びMoOからなる群から選択される一種以上を含有できる。
SrOは、ガラス原料の溶解を促進する成分である。酸化物基準の質量百分率表示で、SrOの含有量は、0%~5%が好ましい。SrOの含有量が5%以下であれば、ガラス原料の溶解を充分に促進できる。SrOの含有量は、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。
BaOは、ガラス原料の溶解を促進する成分である。酸化物基準の質量百分率表示で、BaOの含有量は、0%~5%が好ましい。BaOの含有量が5%以下であれば、ガラス原料の溶解を充分に促進できる。BaOの含有量は、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。
ZrOは、ガラスの弾性率を向上させる成分である。酸化物基準の質量百分率表示で、ZrOの含有量は、0.1%以下が好ましく、0.05%以下がより好ましく、0.02%以下がさらに好ましい。
は、ガラス溶融時のガラスの粘性を下げ、溶融を促進させると共に、熱膨張係数を下げる成分である。Bを含有することで、ガラス溶融時のガラスの粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となる。また、失透温度を低くでき、安定して成形できる。Bの含有量は、5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
なお、「実質的に含有しない」とは、原料等から混入する不可避的不純物以外には含有しないことであり、意図的に含有させないことを意味する。以下同様である。
SnO、SO、Cl及びFは、溶融を促進させると共に、ガラス板10A及び10Bの製造時に、ガラス板10A及び10B内に泡が発生することを抑制できる。そのため、SnO、SO、Cl及びFから選ばれる一種以上を含有することで、ガラス溶融時のガラスの粘性が高くなり過ぎるのを抑制でき、溶融性を良好にできると共に、ガラス板10A及び10Bに泡が含まれるのを抑制できる。
ZnOは、粘性や熱膨張係数を調整する成分である。ZnOを含有することで、ガラス板10A及び10Bの粘性や熱膨張係数を調整できる。ZnOの含有量は、2%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましい。
及びLaは、ガラス板10A及び10Bの化学的耐久性やヤング率を向上させる成分である。Y及びLaから選ばれる一種以上を含有することで、ガラス板10A及び10Bの化学的耐久性やヤング率を向上できる。Y及びLaから選ばれる一種以上の合計含有量は、2%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましい。
ガラス板10A及び10Bは、ガラス素板からフロート成形により安定して製造することを考慮すると、ZnOを実質的に含有しないことが好ましい。
ガラス板10A及び10Bは、脈理や着色等を考慮すると、Y、La、P及びCeOを実質的に含有しないことが好ましい。
ガラス板10A及び10Bは、環境負荷を考慮すると、As及びSbを実質的に含有しないことが好ましい。
ガラス板10A及び10Bは、未強化ガラス及び強化ガラスの何れでもよいが、機械的強度を高められる点で強化ガラスが好ましい。未強化ガラスは、溶融ガラスを板状に成形後、徐冷して得られるガラスである。強化ガラスは、未強化ガラスに強化処理を施し、未強化ガラスの表面から所定の深さの領域に圧縮応力層を形成したガラスであり、ガラス板10A及び10Bの安全性を高められる。強化処理としては、ガラス板10A及び10Bを高温化に晒した後に風冷する物理強化(風冷強化)、ガラス板10A及び10B、アルカリ金属を含む溶融塩中に浸漬させ、ガラス板10A及び10Bの最表面に存在する原子径の小さなアルカリ金属イオンを、溶融塩中に存在する原子系の大きなアルカリ金属イオンと置換する化学強化が挙げられる。ガラス板10A及び10Bが強化ガラスの場合、破損時に破片の大きさを小さくしやすいことから、物理強化ガラス(風冷強化ガラス)が好ましい。
シール材20は、図2に示すように、ガラス板10Aの第1主面101Aと、ガラス板10Bの第1主面101Bとの周縁部に形成されている。そして、シール材20は、ガラス板10Aの第1主面101Aと、ガラス板10Bの第1主面101Bとの周縁部に沿って、図1に示すように、枠状に形成される。シール材20は、図2に示すように、ガラス板10Aとガラス板10Bとの両周縁部を接着する。シール材20は、ガラス板10Aとガラス板10Bとの間にスペースを形成できる。ガラス板10Aの周縁部とガラス板10Bの周縁部とにシール材20を接着することで、真空空間Sが形成される。シール材20の高さは、ガラス板10Aとガラス板10Bとの間の距離、即ち、真空空間Sのすき間を規定する。
シール材20は、少なくとも2種類のシール材を含み、シール材20A及び20Bを含むことができる。図1に示すように、シール材20Aは、ガラス板10Aの第1主面101Aの一対の長辺の周縁部と、一方の短辺(ガス吸着剤40が配置されている側の短辺)の周縁部とに形成され、シール材20Bは、ガラス板10Aの他方の短辺の周縁部に形成される。
ガラス板10A及び10Bの周縁部を封止するシール材20A及び20Bは、ガラス接着剤を用いて形成できる。即ち、シール材20A及び20Bは、ガラス接着剤の硬化物で構成できる。
ガラス接着剤は、熱溶融性ガラスを含む。熱溶融性ガラスは、低融点ガラスとも呼ばれる。ガラス接着剤は、例えば、熱溶融性ガラスを含むガラスフリットである。ガラスフリットとしては、例えば、ビスマス系ガラスフリット(ビスマスを含むガラスフリット)、鉛系ガラスフリット(鉛を含むガラスフリット)、バナジウム系ガラスフリット(バナジウムを含むガラスフリット)等を使用できる。ビスマス系ガラス、鉛系ガラス、バナジウム系ガラス等は、低融点ガラスであり、これらをガラス接着剤として用いることで、車両用複層ガラス1の製造時にスペーサ30に与える熱的なダメージを少なくできる。
スペーサ30は、車両用複層ガラス1の機械的強度を高める。図2に示すように、スペーサ30は、ガラス板10Aとガラス板10Bとの間の真空空間S内に複数配置される。スペーサ30は、図1に示すように、平面視でシール材20A及び20Bの内側に設けられる。複数のスペーサ30により、ガラス板10Aとガラス板10Bとの間の距離を確実に確保でき、真空空間Sが容易に形成される。
スペーサ30は、その一端がガラス板10Aの第1主面101Aに接し、他端がガラス板10Bの第1主面101Bに設けた熱反射膜50に接する。即ち、スペーサ30は、平面視において、熱反射膜50が形成される範囲内に設けられ、ガラス板10Aの第1主面101A及びガラス板10Bの第1主面101Bに設けられた熱反射膜50と接するように設けられる。
スペーサ30は、例えば円柱状に形成される。スペーサ30の直径は、一対のガラス板10A及び10Bの主面の面積に応じて適宜選択可能であり、例えば、0.1mm~10mmである。スペーサ30の直径が小さいほど目立ちにくくなる。一方、スペーサ30の直径が大きいほど強固になる。また、スペーサ30は、筒状に形成されてもよい。
スペーサ30の高さは、車両用複層ガラス1の大きさ、ガラス板10A及び10Bの主面の厚さ及び面積に応じて適宜選択可能であり、例えば、10μm~1000μmである。
複数のスペーサ30は、平面視において略格子状に配置されている(図1参照)。スペーサ30は、10mmの~100mmの間隔で配置されることが好ましく、具体的には、20mmの間隔で配置できる。スペーサ30の形状、大きさ、数、間隔、配置パターンは、特に限定されず、適宜選択できる。また、スペーサ30は、角柱状や球状でもよい。
スペーサ30は、アルミニウム又はステンレス等の金属又は合金、樹脂等を用いて形成でき、樹脂としては、ポリイミド樹脂を用いることが好ましい。
スペーサ30は、ポリイミド樹脂を含むことにより、耐熱性を高く、強固にできるため、真空空間Sをより安定して形成できる。即ち、ポリイミド樹脂は、耐熱性が高いため、車両用複層ガラス1の製造時に高温になった場合でも、スペーサ30は、形状を維持できる。また、ポリイミド樹脂は、強固なポリマーであるため、スペーサ30は、一対のガラス板10A及び10Bから押圧力が加えられても、押圧力を受け止めて、これらの間のスペースを確保できる。
また、スペーサ30は、ポリイミド樹脂を含むことにより、目立ち難くできる。樹脂製のスペーサ30は、車両用複層ガラス1の状態でガラス板10A及び10Bから押圧力が加えられるため、車両用複層ガラス1を得る前の大きさと比べて半径方向に少し大きくなる傾向にある。しかし、ポリイミド樹脂は強固なポリマーであるため、他の樹脂を用いてスペーサ30を形成する場合よりも、半径方向に大きくなる割合が小さく、潰れを生じ難くできるため、スペーサ30を目立ち難くできる。また、ポリイミド樹脂は光吸収性が小さいため、スペーサ30の透明性を向上させることができる。そのため、スペーサ30が押されて半径方向に大きくなっても、スペーサ30を目立ち難くできる。
さらに、スペーサ30は、ポリイミド樹脂を含むことにより、耐衝撃性を向上できる。ポリイミド樹脂は、金属よりも高い弾力性を有するため、ガラス板10A及び10Bにかかる押圧力を吸収することができ、車両用複層ガラス1の耐衝撃性を高められる。
またさらに、スペーサ30は、ポリイミド樹脂を含むことにより、金属製のスペーサよりも熱伝導性が低いため、車両用複層ガラス1の断熱性を高められる。
また、スペーサ30は、ポリイミド樹脂を含むことにより、光透過性が高く、車両用複層ガラス1の外観を良好にする。即ち、ポリイミド樹脂は、紫外線から可視光線までの光吸収スペクトルにおいて、吸収率が低下する吸収端を有している。ポリイミド樹脂の吸収端は400nm以下である。光吸収スペクトルは、波長が横軸となり、吸収率が縦軸となったグラフにおいて、波長の変化に対する吸収率の変化の推移によって表される。ここで、吸収端とは、光吸収スペクトルにおいて、波長が大きくなる時に(即ち、短波長から長波長に推移する時に)、吸収率が急激に低下する波長のことを意味する。吸収端とは、いわば、光吸収スペクトルにおいて吸収性を有する部分の端部である。ここで、紫外線から可視光線までとは、波長250nm~800nmの範囲であってよい。ポリイミド樹脂の光吸収スペクトルの吸収端が400nm以下であると、可視光領域の光(例えば、波長400nm~800nm)を透過できるため、スペーサ30の色が透明になって、外部から視認し難くなり、スペーサ30が目立つのを抑制できる。ポリイミド樹脂は、比較的色が付きやすいポリマー(例えば、茶色に着色し得る)であるが、可視光領域の光吸収が少なくなると、色が目立ち難くなる。スペーサ30が目立ち難くなることで、車両用複層ガラス1は、それ自身の見栄えが良くなるだけでなく、ガラス板10A及び10Bを通して一方側から他方側の物体を見るときに、物体を見易くできる。そのため、車両用複層ガラス1を車両の窓ガラスに適用すれば、車内から車外を見易くできる。
スペーサ30は、公知の製造方法を用いて製造でき、例えば、少なくとも一つの樹脂フィルムを用いて形成できる。樹脂フィルムは、樹脂シートでもよい。スペーサ30は、樹脂フィルムを車両用複層ガラス1に適した形状に切り取ることで得られる。例えば、スペーサ30は、樹脂フィルムをパンチング等によって所定のサイズに打ち抜いて得られる。このようにして切り取られた樹脂フィルムは、スペーサ30として用いられる。スペーサ30が積層体である場合、スペーサ30は、2以上の樹脂フィルムの積層体で構成できる。
スペーサ30は、ポリイミドフィルムを少なくとも1つ含むことが好ましい。また、スペーサ30は、複数のポリイミドフィルムを含む積層体を有してもよい。スペーサ30が少なくとも1つのポリイミドフィルムを含む場合、スペーサ30の形成が容易になる。スペーサ30が積層体である場合、スペーサ30は、ポリイミドフィルムと他の樹脂フィルムとの積層体で構成できる。
ガス吸着剤40は、ガラス板10Aの第1主面101A、ガラス板10Bの第1主面101B、シール材20A及び20Bの内周面及びスペーサ30の内部の何れか一つ以上に設けてもよい。本実施形態では、ガス吸着剤40は、図2に示すように、ガラス板10Aの第1主面101Aのシール材20Aの近傍に設けられる。
ガス吸着剤40は、通常使用されるガス吸着剤を使用できる。通常使用されるガス吸着剤としては、水分を吸着する材料を含むものが好ましく、酸化カルシウム、ゼオライト等を含むものが好ましい。ガス吸着剤40をガラス板10Aの第1主面101Aに設置することにより、真空空間Sのガスを吸着できるため、真空空間Sの真空度が維持され、断熱性を向上できる。
熱反射膜50は、真空空間Sを挟んで対向する一対のガラス板10A及び10Bのうち、ガラス板10Bの第1主面101Bに形成される。ガラス板10Aの第1主面101Aのシール材20A及び20Bとその近傍以外の全体に設けられる。熱反射膜50は、車両用複層ガラス1の厚み方向に熱を伝わり難くし、遮熱性及び断熱性を向上させる機能を有する。
また、熱反射膜50は、ガラス板10Bの第1主面101Bに形成され、真空空間S内にあるため、大気と隔離されている。そのため、熱反射膜50が、大気中の水分と接触することを抑制できるため、劣化を低減できる。
熱反射膜50としては、Low-E(Low Emissivity)膜等を使用できる。Low-E膜は、放射伝熱を抑制することで、熱の通過を制限し、遮熱性及び断熱性を向上させる。また、Low-E膜は、一般的なものであってよく、例えば、赤外線反射膜を一対の透明誘電体膜の間に含み、透明誘電体膜、赤外線反射膜及び透明誘電体膜の順に積層した積層膜を使用できる。なお、赤外線反射膜は、透明誘電体膜同士の間に1層以上形成されていればよい。また、透明誘電体膜は複数層から形成されてもよい。Low-E膜の厚さは、要求される性能、膜の構成等に応じて適宜設定すればよい。
遮熱性を有する透明誘電体膜は、金属酸化物、金属窒化物等の材料を使用できる。金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、酸化ケイ素等を使用できる。なお、透明誘電体膜は、光を透過させるために厚みを薄くして、車両用複層ガラス1の透明性に殆ど影響を及ぼさないように形成されるとよい。
赤外線反射膜は、真空空間S側へ入射する赤外線を遮断できるため、車両用複層ガラス1の断熱性を向上させる。赤外線反射膜としては、金属膜又は半導体膜を使用できる。金属膜を形成する材料としては、Ag等が挙げられる。半導体膜としては、フッ素がドープされた酸化スズを使用できる。
Low-E膜の成膜方法としては、ドライコーティング法が挙げられる。ドライコーティング法としては、PVD法、CVD法が挙げられる。PVD法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法が挙げられ、密着性及び平坦性に優れた膜を成膜できる点から、スパッタリング法が好ましい。
なお、熱反射膜50は、ガラス板10Aの第1主面101Aに形成してもよいし、ガラス板10Aの第1主面101A及びガラス板10Bの第1主面101Bの両方に形成してもよい。
遮蔽部60A及び60Bは、ガラス板10A及び10Bの外側に位置する主面に設けられる。具体的には、ガラス板10Aの第1主面101Aとは反対側の、第2主面102Aの周縁部に、遮蔽部60Aが設けられる。また、ガラス板10Bの第1主面101Bとは反対側の、第2主面102Bの周縁部に、遮蔽部60Bが設けられる。遮蔽部60Bを、ガラス板10Bの第2主面102Bの周縁部に形成することで、シール材20に太陽光が当たることを防止できるため、シール材20が紫外線による劣化を抑制できる。また、遮蔽部60Aを、ガラス板10Bの第2主面102Bの周縁部に形成することで、車内側からシール材20を視認しにくくできる。なお、遮蔽部60A及び60Bは、遮蔽部60A及び60Bの一方だけ設けられてもよく、両方とも設けなくてもよい。
遮蔽部60A及び60Bとしては、例えば「黒色セラミックス」と称される暗色不透明層を使用できる。遮蔽部60A及び60Bは、公知の工法で形成でき、例えば、黒色セラミックス印刷用インクを、ガラス板10Aの第2主面102A及びガラス板10Bの第2主面102Bの少なくとも一方に塗布して塗布膜を形成し、塗布膜を焼き付けて形成できる。
遮蔽部60A及び60Bは、焼き付けを必要としない公知の非セラミックス層も使用できる。この場合は、ガラス板10Aの第1主面101A及びガラス板10Bの第1主面101Bにも遮蔽部を設けてもよい。非セラミックス層は、例えば、車両のボディに利用される塗布膜であれば、耐候性や審美性に優れた複層ガラスにできる。遮蔽部60A及び60Bに非セラミックス層を用いる場合、遮蔽部60A及び60Bのどちらを非セラミックス層としても良いが、耐候性や審美性の観点から、少なくとも、遮蔽部60Bは非セラミックス層が好ましい。また、遮蔽部60A及び60Bが非セラミックス層であれば、ガラス板10A及び10Bを同様の形状に曲げ成形しやすく好ましい。
(車両用複層ガラスの製造方法)
次に、本実施形態にかかる車両用複層ガラス1の製造方法について説明する。車両用複層ガラス1の製造方法は、ガラス板の準備工程と、遮蔽部の形成工程と、接着剤の塗布工程と、スペーサの配置工程と、ガス吸着剤の設置工程と、ガラス板の対向配置工程と、接着工程と、加工工程とを含む。
以下、各工程について、図3~図10に基づいて説明する。図3~図10は、本実施形態にかかる車両用複層ガラス1の製造方法の工程の一部を示す説明図である。
(ガラス板の準備工程)
まず、所望の形状及び大きさに成形したガラス板10A及びガラス板10Bを準備する。ガラス板10Aとガラス板10Bは、矩形状に形成され、平面視において同一の形状及び大きさとする。なお、同一とは、略同一を含む。
(遮蔽部の形成工程)
次に、ガラス板10A及び10Bの第2主面102A及び102Bの少なくとも一方の周縁部の全周に、黒色セラミックス印刷用インクを塗布して塗布膜を形成し、塗布膜を焼き付けることにより、遮蔽部60A及び60B(図2参照)を形成する。なお、ガラス板10Aの第2主面102Aに遮蔽部60Aを形成する際、黒色セラミックス印刷用インクはガラス板10Aの貫通孔11Aとその周辺を避けて塗布し、貫通孔11Aとその周辺以外の領域に遮蔽部60Aを形成してよい。
なお、塗布膜はこの段階で完全に焼き付ける必要はなく、ガラス板を凸状に湾曲される過程で完全に焼き付けられてもよい。
また、ガラス板10Aの第2主面102Aの周縁部の全周に黒色セラミックス印刷用インクを塗布し、遮蔽部60Bを形成してもよい。この場合、遮蔽部60Aは、後述する(加工工程)の後に、非セラミックス層により形成されてもよい。
その後、ガラス板10Aとガラス板10Bを第1主面101A及び101B側に凸状に湾曲させ、曲面を形成する。そして、ガラス板10Aとガラス板10Bに強化処理を施す。遮蔽部60A及び60Bとして黒色セラミックスを用いる場合、焼き付け処理は、ガラス板を湾曲させる前に行っても、湾曲させると同時に行ってもよい。
その後、ガラス板10Aの第1主面101Aには、例えばラミネート法やドライコーティング法等により熱反射膜50を形成する。なお、ガラス板10Bには、ガラス板10Aと同様に熱反射膜をさらに備えてもよい。
ガラス板10Aは、その厚さ方向に貫通する貫通孔11Aを有する。ガラス板10Aの第2主面102Aには、排気管12Aが設けられる。この場合、貫通孔11Aを排気管12Aの流路と接続させて排気孔13を形成する。
なお、ガラス板10A及び10Bに強化処理を施す前に、熱反射膜50をガラス板10Aに形成してもよい。
(接着剤の塗布工程)
次に、図3に示すように、ガラス板10Bの第1主面101Bの上にガラス接着剤200を塗布する。ガラス接着剤200は、少なくとも2種類のガラス接着剤を含み、第1ガラス接着剤200A及び第2ガラス接着剤200Bを含む。
第1ガラス接着剤200Aは、図4に示すように、ガラス板10Bの第1主面101Bの縁に沿った周縁部に沿って枠状に塗布する。第1ガラス接着剤200Aは、ガラス板10Bの第1主面101Bの縁に沿って連続的に1周して塗布される。
第2ガラス接着剤200Bは、図4に示すように、平面視における、第1ガラス接着剤200Aで囲まれた内側であって、ガラス板10Bの第1主面101Bの短辺寄りに短辺と平行に、直線状に塗布する。第2ガラス接着剤200Bは、第1主面101Bの長辺側に塗布される第1ガラス接着剤200Aに接続されるように塗布される。
第1ガラス接着剤200A及び第2ガラス接着剤200Bは、熱溶融性ガラスを含む接着剤である。第2ガラス接着剤200Bは、第1ガラス接着剤200Aと異なるガラス接着剤である。この場合、第2ガラス接着剤200Bは、後述のガラス複合物2を加熱する際に第1ガラス接着剤200Aと一体化する性質を有することができる。
接着剤の塗布工程では、ガラス接着剤200の塗布後、仮焼成を行ってもよい。仮焼成を行うことで、ガラス接着剤200をガラス板10Bの第1主面101Bの上に固着してもよい。これにより、ガラス接着剤200の接着力が高められ、ガラス接着剤200が第1主面101Bに付着した状態を維持できるため、後述する排気工程の際の排気によって、ガラス接着剤200の飛散を抑制できる。仮焼成は、ガラス接着剤200の溶融温度よりも低い温度で加熱することが好ましい。
(スペーサの配置工程)
次に、図5に示すように、複数のスペーサ30をガラス板10Bの第1主面101Bに設けた熱反射膜50の上に配置する。複数のスペーサ30は、ガラス板10Aの第1主面101A上に配置してもよい。また、スペーサ30は、等間隔に配置されてよく、不規則に配置されてもよく、本実施形態では、図6に示すように、格子状に略等間隔で配置されてもよい。スペーサ30は、公知の薄膜形成方法により形成でき、スペーサ30がフィルムで構成される場合、予めフィルムが所定のサイズに打ち抜いて、スペーサ30を形成できる。スペーサ30の配置は、例えばチップマウンタ等の公知の手段を用いて実施できる。
なお、スペーサの配置工程は、接着剤の塗布工程と同時に行ってもよいが、スペーサの配置工程は、接着剤の塗布工程の後に行うとよい。ガラス接着剤200をガラス板10Bの第1主面101Bに先に塗布しておいた方が、スペーサ30を第1主面101Bに容易に配置できるからである。
スペーサ30は、少なくとも1つの樹脂フィルムを用いて形成でき、少なくとも1つのポリイミドフィルムを含むことが好ましい。スペーサ30が複数の樹脂フィルムを含む積層体で形成される場合、予め複数の樹脂フィルムを積層して接着されていることが好ましい。積層体に含まれる樹脂フィルムは、接着剤で接着されてもよく、樹脂フィルム自体の粘着性で接着されてもよく、樹脂フィルムを静電気的な力で接着させてもよい。
(ガス吸着剤の設置工程)
次に、図7に示すように、ガス吸着剤40を第1主面101Aの上に配置する。ガス吸着剤40は、ガラス板10Aの第1主面101Aのシール材20A及び20Bと接する位置の近傍に設ける。ガス吸着剤40の設置方法は、特に限定されず、ガス吸着剤40をガラス板10Aの第1主面101Aに固着させてもよく、流動性のあるガス吸着体材料をガラス板10Aの第1主面101Aに設置して乾燥させてガラス板10Aの第1主面101Aに設置してもよい。
(ガラス板の対向配置工程)
次に、図8に示すように、ガラス板10Aの第1主面101Aを、ガラス板10Bの第1主面101Bに対向させて、ガラス板10Aをガラス板10Bの第1主面101Bの上に塗布したガラス接着剤200の上に配置する。これにより、ガラス板10Bは、スペーサ30により支持され、かつガラス板10Aの上方で配置され、ガラス板10A、ガラス板10B、ガラス接着剤200、スペーサ30及びガス吸着剤40を含むガラス複合物2が形成される。ガラス複合物2は、ガラス板10Aとガラス板10Bとの間に、内部空間S1を有する。なお、ガラス複合物2では、ガラス接着剤200は硬化されていない。
(接着工程)
その後、図9に示すように、第1ガラス接着剤200A及び第2ガラス接着剤200Bを硬化させて、第1ガラス接着剤200Aの硬化物からなるシール材20Aと第2ガラス接着剤200Bからなるシール材20Bを形成し、ガラス板10Aとガラス板10Bとをシール材20A及び20Bで接着する(接着工程)。
シール材20Aは、ガラス板10Aの周縁部とガラス板10Bの周縁部とを接着し、シール材20Bは、ガラス板10A及び10Bの一方の短辺寄りに位置する主面同士を短辺に沿って平行に接着し、ガラス板10Aと、ガラス板10Bと、シール材20A及び20Bとにより密閉された真空空間Sが形成される。これにより、複合基板3が形成される。
接着工程は、加熱工程と、排気工程とを含む。接着工程は、加熱工程と排気工程とを同時に行ってもよく、排気工程の後に加熱工程を行ってもよい。本実施形態では、接着工程は、加熱工程と排気工程とを同時に行う。
((加熱工程))
加熱工程では、ガラス複合物2を加熱炉内等に入れて加熱する。ガラス複合物2の加熱により、ガラス接着剤200を加熱できる。これにより、ガラス接着剤200中のガラスが溶融して、ガラス接着剤200に接着性を発現できる。ガラス接着剤200に含まれるガラスの溶融温度は、例えば、300℃を超える。このようなガラスの溶融温度は、400℃を超えてもよい。但し、ガラス接着剤200に含まれるガラスの溶融温度が低い方が加熱工程においてガラス接着剤200中のガラスを溶融させ易い。そのため、ガラスの溶融温度は、400℃以下が好ましく、360℃以下がより好ましく、330℃以下がさらに好ましく、300℃以下が特に好ましい。
加熱工程は、2つ以上の段階を含むことが好ましい。例えば、加熱工程は、炉内を加熱して第1ガラス接着剤200Aに含まれるガラスを溶融させる第1加熱工程と、炉内を更に加熱して第2ガラス接着剤200Bに含まれるガラスを溶融させる第2加熱工程とを含むことができる。
第1加熱工程では、第1ガラス接着剤200A中のガラスは、第2ガラス接着剤200B中のガラスよりも低い温度で溶融する。即ち、第1ガラス接着剤200A中のガラスは、第2ガラス接着剤200B中のガラスよりも先に溶融する。第1加熱工程では、第1ガラス接着剤200A中のガラスが溶融し、第2ガラス接着剤200B中のガラスは溶融しない。第1ガラス接着剤200A中のガラスが溶融すると、第1ガラス接着剤200Aがガラス板10Aとガラス板10Bとに接着する。
なお、第1ガラス接着剤200A中のガラスが溶融し、第2ガラス接着剤200B中のガラスが溶融しない温度を第1溶融温度とする。第1溶融温度では、第2ガラス接着剤200B中のガラスは溶融しないため、第2ガラス接着剤200Bの形状は維持される。
第2加熱工程では、ガラス複合物2を更に加熱して第2ガラス接着剤200B中のガラスを溶融させる。第2加熱工程の温度は、第1溶融温度よりも高い第2溶融温度にされる。第2溶融温度は、例えば、第1溶融温度よりも10℃~100℃高い温度である。
第2溶融温度では、第2ガラス接着剤200B中のガラスが溶融する。第2溶融温度で加熱された第2ガラス接着剤200Bは変形して、第2ガラス接着剤200Bとガラス板10Aとの間に設けられた隙間(通気路)を塞ぐことで、ガラス板10Aとガラス板10Bとを接着できる。
((排気工程))
次に、図10に示すように、ガラス板10Aとガラス板10Bとの間の気体を排気して、スペーサ30が内部に設けられている真空空間Sを形成する。
排気工程では、内部空間S1の空気が通気路を通って排気される。排気工程は、排気孔13に接続された真空ポンプ等で実施できる。この場合、真空ポンプは排気管12Aから延びる管に接続される。排気工程により、内部空間S1は、減圧され、真空空間Sが形成される。なお、排気方法は、真空ポンプを用いる方法以外の方法でもよく、例えば、ガラス複合物2をチャンバに設置して、チャンバ内を減圧して排気してもよい。
図10では、内部空間S1内の気体が排気孔13を通って外側へ下向きに排気される。なお、図10中の矢印は、内部空間S1内の気体の流れを示す。第2ガラス接着剤200Bは、ガラス板10Aの第1主面101Aと接触しないように設けられ、第2ガラス接着剤200Bと第1主面101Aとの隙間が通気路を形成するため、内部空間S1内の気体は通気路を通って排気孔13から排出される。これにより、内部空間S1が真空空間S(図9参照)となる。
なお、ガラス接着剤200中のガラスが溶融すること、即ち、熱により熱溶融性ガラスが軟化することにより、変形や接着が可能になるような性質をガラス接着剤200は有してもよい。この場合、ガラス接着剤200(特に第1ガラス接着剤200A)は、加熱工程の際にガラス複合物2から流れ出るような流動性を有しないことが好ましい。
真空空間Sの形成後、複合基板3を冷却し、排気工程を停止する。真空空間Sは、ガラス接着剤200の硬化物により密閉されているため、排気工程がなくなっても、真空空間Sが維持される。ただし、安全のために、複合基板3の冷却の後に、排気工程を停止することが好ましい。
接着工程は、加熱工程と排気工程とを同時に行う場合、加熱工程の途中から排気工程を行ってもよい。例えば、第1段階における温度が第1溶融温度に達した後、排気工程を開始し、内部空間S1(図10参照)の気体を排出する。そして、排気工程を行いながら第2加熱工程を行う。第2加熱工程で第2ガラス接着剤200Bが変形してシール材20Bとなりながら、第2ガラス接着剤200Bと第1主面101Aとの隙間を塞ぎ、内部空間S1は、シール材20Bを介して2つの空間に完全に分断される。2つの空間のうち、貫通孔11Aがない空間が、ガラス板10Aと、ガラス板10Bと、シール材20A及び20Bとにより密閉された真空空間Sとなる。これにより、図9に示すように、真空空間Sを有する複合基板3とすることができる。
なお、加熱工程の途中から排気工程を行う場合、排気工程は、第1溶融温度よりも低い温度(排気開始温度)に温度を低下させた後に行われてもよい。また、ガラス複合物2(特に第1ガラス接着剤200A)の形状が乱れないのであれば、第1溶融温度に達する前から排気を開始してもよい。
加熱工程の途中から排気工程を行う場合、第2加熱工程は、内部空間500の真空度が所定値になり、真空空間Sが維持された後に行うことが好ましい。
加熱工程の途中から排気工程を行う場合、排気工程は、第2加熱工程に適した温度までガラス複合物2の温度を上昇させる際、継続して行われてもよい。
複合基板3の形成後、排気工程は停止して、複合基板3を冷却する。真空空間Sは、シール材20A及びシール材20Bにより密閉されているため、真空空間Sの真空度は維持される。なお、複合基板3の冷却の後に、排気工程を停止してもよい。
(加工工程)
最後に、必要に応じて、複合基板3を所定の形状に加工し、複合基板3の切断線CL(図9参照)に沿って切断等することで、上記構成を有する車両用複層ガラス1(図2参照)が得られる。なお、複合基板3は加工、切断等せず、車両用複層ガラス1として用いてもよい。
なお、本実施形態にかかる車両用複層ガラス1の製造方法では、ガラス接着剤200は、ガラス板10Bの上に直接塗布しているが、ガラス板10Aの上に直接塗布してもよい。また、ガラス板10Aとガラス板10Bとを対向配置させた後に、ガラス板10Aとガラス板10Bとの隙間にガラス接着剤200を注入してもよい。この場合、ガラス接着剤200は、注入と同時にガラス板10Aとガラス板10Bとの両方に接触した状態で配置できる。
本実施形態では、接着剤の塗布工程は、スペーサの配置工程又はガス吸着剤の設置工程の後に行ってもよい。
このように、本実施形態にかかる車両用複層ガラス1は、一対のガラス板10A及び10Bと、シール材20と、スペーサ30とを備え、一対のガラス板10A及び10Bのうち、少なくとも一方のガラス板が、CoOを50ppm~500ppm含んでいる。CoOは、ガラス板10A及び10Bにガラス成分として含まれるNaの移動度を小さくできるので、NaCO等の炭酸塩のガラス表面への析出を抑制できる。そのため、車両の使用中に生じる振動が車両用複層ガラス1に加わっても、ガラス板10A及び10Bと、これらの間に設けた、シール材20との密着性を維持できる。そのため、ガラス板10A及び10Bとシール材20との界面から真空空間S内に気体や液体が侵入することを抑制できるので、真空空間S内の真空度を維持できる。よって、車両用複層ガラス1は、振動が加わっても、断熱性能の低下を抑制できる。
車両用複層ガラス1は、JIS D 1601に準拠した振動試験後における車両用複層ガラス1の熱貫流率と、振動試験前における車両用複層ガラス1の熱貫流率との差を、1.0W/(mK)以下にできる。この場合、真空空間S内の真空度の低下が抑えられているため、車両用複層ガラス1は、振動が加わっても、断熱性能の低下をより確実に抑制できる。
車両用複層ガラス1は、JIS D 1601に準拠した振動試験後における前記車両用複層ガラスの熱貫流率の、振動試験前における前記車両用複層ガラスの熱貫流率に対する比を、0.5~4.0にできる。この場合も、真空空間S内の真空度の低下が抑えられているため、車両用複層ガラス1は、振動が加わっても、断熱性能が低下することをより確実に抑えることができる。上記比率は、0.6~3.5であれば断熱性能の低下をより確実に抑えることができ、0.7~2.5であれば更に好適である。
車両用複層ガラス1は、一対のガラス板10A及び10Bのうち、少なくとも一つを強化ガラスにできる。ガラス板10A及び10Bは強化処理されることで、表面から所定の深さまでの領域に圧縮応力層を有する。これにより、ガラス板10A及び10Bは、表面の機械的強度を高められ、割れても、細かく粉砕され、車両内に飛散することを低減できるため、安全性を高められる。よって、車両用複層ガラス1は、安全性が高い車両用ガラスにできる。
車両用複層ガラス1は、ガラス板10Bの第1主面101Bに熱反射膜50を有することができる。これにより、車両用複層ガラス1は、遮熱性及び断熱性を向上できるため、ガラス板10A及び10Bの間に設けられる、シール材20、スペーサ30、ガス吸着剤40及び熱反射膜50の熱による劣化を抑制できる。
車両用複層ガラス1は、第2主面102A及び102Bの周縁部に遮蔽部60A及び60Bを有することができる。これにより、車両用複層ガラス1は、紫外線による劣化を抑制できると共に、良好な外観を有することができる。
車両用複層ガラス1は、遮蔽部60A及び60Bに非セラミックス層を含むことができる。これにより、車両用複層ガラス1は、より優れた耐候性及び審美性を有することができる。
車両用複層ガラス1は、上述の通り、振動しても、優れた断熱性能を発揮できるため、断熱性が高いガラスが要求される、電気自動車、燃料電池自動車等に好適に用いることができる。
(変形例)
なお、本実施形態では、車両用複層ガラス1は、一対のガラス板10A及び10Bを、一対の合せガラス板で形成してもよい。図11は、車両用複層ガラス1の構成の他の一例を示す断面図である。図11に示すように、車両用複層ガラス1は、ガラス板10Aを、ガラス板10A-1及び10A-2と、接着層(中間膜)70とを含み、ガラス板10A-1とガラス板10A-2との間に中間膜70を配置した合わせガラスとする。ガラス板10Bを、ガラス板10B-1及び10B-2と、中間膜70とを含み、ガラス板10B-1とガラス板10B-2との間に中間膜70を配置した合わせガラスとする。これにより、車両用複層ガラス1は、より高い強度が得られる。
ガラス板10Aは、ガラス板10A-1とガラス板10A-2との間に中間膜70を配置し、加圧及び/又は加熱して成形できる。ガラス板10Bは、ガラス板10B-1とガラス板10B-2との間に中間膜70を配置し、加圧及び/又は加熱して成形できる。
中間膜70しては、ガラス板10A-1とガラス板10A-2との主面同士、ガラス板10B-1とガラス板10B-2との主面同士を接合できる材料であればよく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、または光硬化性組成物で構成されてもよい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂(EVA)、シクロオレフィンポリマー(COP)及びエチレン-エチルアクリレート共重合体系樹脂等が使用できる。また、特許第6065221号に記載されている変性ブロック共重合体水素化物を含有する樹脂組成物を使用してもよい。これらの中では、ポリビニルアセタール系樹脂及びEVAが好ましい。可塑化ポリビニルアセタール系樹脂及びEVAは、透明性、耐候性、強度、接着力、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性及び遮音性等の諸性能のバランスに優れるためである。
ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)等が挙げられる。特に、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好ましい。
なお、上記樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
本実施形態では、車両用複層ガラス1は、一対のガラス板10A及び10Bを備えているが、3枚以上のガラス板を主面がスペーサ30等を介して対向するように備えてもよい。
以下、例を示して実施形態を更に具体的に説明するが、実施形態はこれらの例により限定されない。例1~例3は実施例であり、例4及び例5は比較例である。
<例1>
[複層ガラスの作製]
厚さ3mmで同一サイズ(300mm×300mm)のガラス板(ソーダライムガラス)を2枚用意する。そのうち1枚のガラス板には、黒色セラミックス層を形成する。黒色セラミックス層が形成されたガラス板の周縁から、面方向に10mm以上内側に排気用の貫通孔を形成する。また、他の1枚のガラス板は、一方の主面の周縁部にガラス粒子ペーストを塗布すると共に、ガラス板のガラス粒子ペーストを塗布した面の一方の短辺から50mm付近にガラス粒子ペーストを塗布する。酸化物基準の質量百分率におけるガラス板の組成は、以下の通りである。
(ガラス板)
・ガラス組成:SiOは69.8wt%、Alは1.8wt%、NaOは13.2wt%、CaOは8.5wt%、MgOは4.5wt%、KOは0.8wt%、CoOは247ppm、Seは30ppm、Crは61ppmである。
ガラス板の上に配置されたガラス粒子ペーストで囲まれた領域に、製柱状スペーサを等間隔で配列した後、このガラス板の上に他のガラス板を載置して、積層体を形成する。
この積層体の排気用の貫通孔に真空ポンプを接続した排気管に接続して、積層体を200℃~250℃で加熱しながら積層体内部の空気を排出する。その後、更に、積層体を210℃~280℃で加熱しながら積層体内部の空気を排出する。その後、真空ポンプを停止して、積層体を冷却させた後、シール材20Bの外周側の、排気用の貫通孔を含む部分を切断して、切り面を加工し、積層ガラスを得る。
得られた積層ガラスの、熱貫流率を初期値として測定する。測定結果を、表1に示す。次に、積層ガラスを自動車部品振動試験方法(JIS D1601)に基づいて振動試験を行った後の積層ガラスの、熱貫流率を試験値として測定する。測定結果を表1に示す。
<例2~例5>
例1において、CoOの含有量を変更すること以外は、例1と同様にして行う。
Figure 2022051456000002
表1に示すように、例1~例3は、熱貫流率の変動幅が0.4W/(mK)以下であるが、例4及び例5では、熱貫流率の変動幅が1.4W/(mK)以上である。よって、例1~例3は、例4及び例5と異なり、ガラス板にCoOを70ppm~270ppm含むことで、ガラス板の振動後における熱貫流率の変動を抑えることができ、振動が加わっても断熱性能の低下を抑制できるので、使用時に振動が加わり易い車両用ガラスとして有効に用いることができるといえる。
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更等を行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
1 車両用複層ガラス
10A、10B ガラス板
20、20A、20B シール材
30 スペーサ
40 ガス吸着剤
50 熱反射膜
60A及び60B 遮蔽部

Claims (11)

  1. 対向して配置された、一対のガラス板と、
    前記一対のガラス板の周縁部を封止するシール材と、
    前記一対のガラス板の間に配置されたスペーサと、
    を備え、
    前記一対のガラス板のうち、少なくとも一つの前記ガラス板が、CoOを50ppm~500ppm含む車両用複層ガラス。
  2. 前記一対のガラス板のうち、少なくとも一つの前記ガラス板が、CoOを200ppm~300ppm含む請求項1に記載の車両用複層ガラス。
  3. JIS D 1601に準拠した振動試験後における前記車両用複層ガラスの熱貫流率と、振動試験前における前記車両用複層ガラスの熱貫流率との差が、1.0W/(mK)以下である請求項1又は2に記載の車両用複層ガラス。
  4. JIS D 1601に準拠した振動試験後における前記車両用複層ガラスの熱貫流率の、振動試験前における前記車両用複層ガラスの熱貫流率に対する比が、0.5~4.0である請求項1~3の何れか一項に記載の車両用複層ガラス。
  5. 前記一対のガラス板は、主面が一方向に凸状に湾曲した曲面を有する請求項1~4の何れか一項に記載の車両用複層ガラス。
  6. 前記一対のガラス板は、主面が二方向に凸状に湾曲した曲面を有する請求項5に記載の車両用複層ガラス。
  7. 前記一対のガラス板のうち、少なくとも一つの前記ガラス板は、強化ガラスである請求項1~6の何れか一項に記載の車両用複層ガラス。
  8. 前記一対のガラス板のうち、少なくとも一つの前記ガラス板は、合わせガラスである請求項1~7の何れか一項に記載の車両用複層ガラス。
  9. 前記一対のガラス板の対向する面側の主面の少なくとも一方に熱反射膜を有する請求項1~8の何れか一項に記載の車両用複層ガラス。
  10. 前記一対のガラス板は、前記一対のガラス板が対向する面とは反対側の2つの主面のうち少なくとも一方の周縁部に前記シール材を隠蔽する遮蔽部を有する請求項1~9の何れか一項に記載の車両用複層ガラス。
  11. 前記遮蔽部は、非セラミックス層を含む、請求項10に記載の車両用複層ガラス。
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