JP2022042152A - アワビ又はウニの食欲増進剤、アワビ又はウニにおけるニューロペプチドyの合成促進剤、及びこれらの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】バイオマスに由来する、アワビ及びウニを対象とした新規な食欲増進剤を提供する。【解決手段】バガス由来の抽出物を有効成分として含有する、アワビ又はウニの食欲増進剤。【選択図】なし
Description
本発明は、アワビ又はウニの食欲増進剤、アワビ又はウニにおけるニューロペプチドYの合成促進剤、及びこれらの製造方法に関する。
環境負荷を軽減する観点から、バイオマスの有効活用が注目されている。バイオマスの活用方法として、バイオエタノールといった燃料としての活用、バイオプラスチックといった機能性素材への活用の他、動物への飼料としての活用が検討されている。例えば、特許文献1には、クラフトパルプを配合することにより、反芻動物の反芻を促進し得る飼料原料を得られることが記載されている。
特許文献1に開示されるように、家畜動物に対する飼料としてのバイオマスの活用は検討されているものの、水産生物への飼料としてのバイオマスの活用については、未だ十分な検討がなされていない。加えて、水産生物に与える飼料では、水産生物の食欲を促すことが水産生物の養殖等の観点から非常に重要である。
本発明の一側面は、バイオマスに由来する成分を使用した、アワビ及びウニを対象とした新規な食欲増進剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、バガス由来の抽出物が、アワビ又はウニにおいて摂食行動を促進する役割を有するニューロペプチドYの合成を促進させる作用を有しており、食欲を増進させる用途として用いられ得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明の一側面は、バガス由来の抽出物を有効成分として含有する、アワビ又はウニの食欲増進剤を提供する。
本発明の他の一側面は、バガス由来の抽出物を有効成分として含有する、アワビ又はウニにおけるニューロペプチドYの合成促進剤を提供する。
バガス由来の抽出物は、好ましくは、バガスを、アルカリ処理、水熱処理、酸処理及び亜臨界水処理からなる群より選ばれる少なくとも一種の処理により分解して分解処理液を得た後、該分解処理液において、pHを酸性に調整してからろ過した後に得られる固形物である。
ろ過の前に、分解処理液に珪藻土が添加されてもよい。
本発明の更なる他の一側面は、バガスを、アルカリ処理、水熱処理、酸処理及び亜臨界水処理からなる群より選ばれる少なくとも一種の処理により分解して分解処理液を得た後、該分解処理液のpHを酸性に調整してからろ過した後の固形物を得る工程を備える、アワビ又はウニの食欲増進剤の製造方法を提供する。
本発明の更なる他の一側面は、バガスを、アルカリ処理、水熱処理、酸処理及び亜臨界水処理からなる群より選ばれる少なくとも一種の処理により分解して分解処理液を得た後、該分解処理液のpHを酸性に調整してからろ過した後の固形物を得る工程を備える、アワビ又はウニにおけるニューロペプチドYの合成促進剤の製造方法を提供する。
本発明の一側面によれば、バイオマスに由来する成分を使用した、アワビ及びウニを対象とした新規な食欲増進剤を提供することができる。
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本発明におけるアワビ又はウニの食欲増進剤は、アワビ又はウニ(稚貝又は稚ウニを含む)において、これらの食欲を増進させる作用を有する。食欲増進作用は、主に、脳神経節に存在し、摂食行動を促進する役割を有するニューロペプチドYを合成するためのmRNAの発現レベルを増加させる作用に基づいている。すなわち、本発明の他の一側面は、バガス由来の抽出物を有効成分として含有する、アワビ又はウニにおけるニューロペプチドYの合成促進剤を提供するということができる。あるいは、アワビ又はウニにおけるニューロペプチドYのmRNAの発現レベル亢進剤を提供するということもできる。
本発明において食欲増進の対象となるアワビ又はウニの種類は限定されない。例えば、アワビは、エゾアワビ、クロアワビ、マダカアワビ、メガイアワビ等のミミガイ科に属する貝であってよい。ウニは、バフンウニ、エゾバフンウニ、キタムラサキウニ、アカウニ、ムラサキウニ、シラヒゲウニ等、ウニ綱に属する棘皮動物であってよい。
一実施形態に係るアワビ又はウニの食欲増進剤は、バガス由来の抽出物を有効成分として含有する。
「バガス」とは、甘蔗搾汁後の残渣であり、典型的には、原料糖製造工程における製糖過程で排出される残渣をいう。好適なバガスは、原料糖工場において圧搾工程により糖汁を圧搾した後に排出されるバガスである。原料糖工場における製糖過程で排出されるバガスには、最終圧搾機を出た最終バガスだけではなく、第1圧搾機以降の圧搾機に食い込まれた細裂甘蔗をも含む。甘蔗の種類、収穫時期等により、バガスに含まれる水分、糖分及びそれらの組成比は異なるが、本発明においては、これらのバガスを任意に用いることができる。さらに、本発明では、原料のバガスとして、原料糖工場と同様に、例えば黒糖製造工場において排出される甘蔗圧搾後に残るバガス、又は実験室レベルの小規模な実施により甘蔗から糖液を圧搾した後のバガスも用いることができる。
バガス由来の抽出物(以下、「バガス抽出物」ともいう)は、一実施形態において、バガスを、アルカリ処理、水熱処理、酸処理及び亜臨界水処理からなる群より選ばれる少なくとも一種の処理により分解して分解処理液を得た後、該分解処理液のpHを酸性に調整してから、珪藻土を添加してろ過した後の固形物である。
すなわち、バガス抽出物を得るためには、まず、バガスを、アルカリ処理、水熱処理、酸処理及び亜臨界水処理からなる群より選ばれる少なくとも一種の処理(分解処理)により分解して分解処理液を得る。
本明細書におけるバガスの分解処理は、リグニン、セルロース、及び/又はヘミセルロースの化学構造の一部又は全部が壊れることが必要である。分解処理は、バガスの分解処理液を得やすくする観点から、好ましくはアルカリ処理又は水熱処理である。
アルカリ処理は、例えば、バガスにアルカリ性溶液を接触させる処理であってよい。アルカリ性溶液を接触させる方法としては、例えば、アルカリ性溶液をバガスに振りかける方法、バガスをアルカリ性溶液に浸漬させる方法等が挙げられる。バガスをアルカリ性溶液に浸漬させる方法においては、バガス及びアルカリ性溶液の混合物を撹拌しながら浸漬させてもよい。
アルカリ性溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液等が挙げられる。アルカリ性溶液は、これらの溶液を1種単独で又は2種以上を混合して用いられてよい。アルカリ性溶液は、安価であり、食品製造工程で容易に用いられる観点から、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液である。
アルカリ溶液の濃度は、使用するアルカリ溶液の種類によって適宜設定してよいが、分解処理の処理時間を短縮する観点から、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上であり、更に好ましくは0.3質量%以上である。アルカリ溶液の濃度は、抽出効率を向上させる観点から、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは1.0質量%以下である。
アルカリ性溶液は、加熱されていることが好ましい。アルカリ処理時におけるアルカリ性溶液の温度(液温)は、分解処理の処理時間を短縮する観点から、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは60℃以上であり、更に好ましくは80℃以上である。アルカリ溶液の温度は、分解処理液に多糖類を残存させないようにする観点から、好ましくは110℃以下であり、より好ましくは105℃以下であり、更に好ましくは100℃以下である。
アルカリ性溶液の添加量は、バガス100質量部に対して、50質量部以上、100質量部以上、又は1000質量部以上であってよい。アルカリ処理における処理時間は、アルカリ性溶液の種類、温度及び添加量によって適宜調整してよく、例えば、1~5時間であってよい。
アルカリ処理は、常圧下で行われてよく、加圧して行われてもよい。加圧する場合、圧力は、0.1MPa以上、又は0.2MPa以上であってよく、4.0MPa以下、1.6MPa以下、又は0.5MPa以下であってよい。
アルカリ処理後の分解処理液のpHは、8以上、又は9以上であってよく、13以下、又は12以下であってよい。
水熱処理は、バガスに高温の水又は水蒸気を高圧下で接触させる処理であってよい。水熱処理は、より具体的には、例えば、バガスの固形物濃度が0.1~50%となるように水を加え、高温・高圧条件下で分解処理を行う方法であってもよい。水又は水蒸気の温度は130~250℃であることが好ましく、加える圧力は、各温度の水の飽和水蒸気圧よりも、更に0.1~0.5MPa高い圧力であることが好ましい。
酸処理は、バガスに酸性溶液を接触させる処理であってよい。酸性溶液としては、希硫酸、希塩酸等が挙げられる。酸処理の方法は、上述したアルカリ処理における、アルカリ性溶液を酸性溶液に読み替えた方法であってよい。すなわち、バガスに酸性溶液を接触させる方法、酸処理における酸溶液の温度、酸処理における圧力条件等は、上述したアルカリ処理における方法又は条件と同様であってよい。
亜臨界水処理は、バガスに亜臨界水を接触させる処理であってよい。バガスに亜臨界水を接触させる方法は、上述したアルカリ処理における方法において、アルカリ性溶液を亜臨界水に読み替えた方法であってよい。亜臨界水処理の条件は特に制限されないが、亜臨界水の温度を160~240℃とし、処理時間を1~90分間とすることが好ましい。
爆砕処理は、上述した水熱処理により、バガスに含まれる不溶性キシランをある程度分解させた後、耐圧反応容器に設けられたバルブを一気に開放すること等によって、瞬間的に大気圧に放出することによりバガスを粉砕する処理であってよい。
上述した分解処理によりバガスの分解処理液を得た後、分解処理液においては、繊維分等の不溶性成分を除去するために、固液分離が行われてもよい。この場合、分離操作後に得られる液分を、バガスの分解処理液とすることができる。固液分離は、ストレーナー又はフィルターによるろ過、遠心分離、デカンテーション等による方法で行われてよい。
分解処理液においては、膜分離により多糖類等の高分子成分が除去されてもよい。この場合、膜分離後の液分を分解処理液とすることができる。分離膜は、限外濾過膜(UF膜)であれば特に限定されない。限外濾過膜の分画分子量は、好ましくは2500~50000であり、より好ましくは2500~5000である。
限外濾過膜の素材としては、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PS)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)、再生セルロース、セルロース、セルロースエステル、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリ四フッ化エチレン等を使用することができる。
限外濾過膜による濾過方式は、デッドエンド濾過、又はクロスフロー濾過であってよいが、膜ファウリング抑制の観点から、クロスフロー濾過であることが好ましい。
限外濾過膜の膜形態としては、平膜型、スパイラル型、チューブラー型、中空糸型等、適宜の形態のものが使用できる。より具体的には、SUEZ社のGEシリーズ、GHシリーズ、GKシリーズ、PWタイプ、HWSUFタイプ、KOCH社のHFM-180、HFM-183、HFM-251、HFM-300、HFK-131、HFK-328、MPT-U20、MPS-U20P、MPS-U20S、Synder社のSPE1、SPE3、SPE5、SPE10、SPE30、SPV5、SPV50、SOW30、旭化成株式会社製のマイクローザ(登録商標)UFシリーズの分画分子量3000から10000に相当するもの、日東電工株式会社製のNTR7410、NTR7450等が挙げられる。
続いて、得られた分解処理液のpHを酸性に調整する。分解処理液のpHを酸性に調整することにより、本発明における食欲増進剤の有効成分の一部又は全部が固形分として析出する。
分解処理液のpHを酸性に調整する方法は、例えば、分解処理液に酸性溶液を添加する方法である。食品工業分野において利用できる観点から、酸性溶液としては、好ましくは塩酸を使用する。塩酸の濃度は、pHが調整できる範囲において適宜設定されてよく、例えば、0.1~35質量%である。
pH調整後の分解処理液(以下、「酸性処理液」ともいう)におけるpHは、アワビ又はウニの食欲を増進させる成分を得やすくする観点から、好ましくは4.5以下であり、より好ましくは4.0以下であり、更に好ましくは3.5以下である。酸性処理液のpHは、同様の観点から、好ましくは1.5以上であり、より好ましくは2.0以上であり、更に好ましくは2.5以上である。
続いて、酸性処理液のろ過を行う。ろ過により、酸性処理液において析出した固形分と、固形分以外の液分とを分離でき、固形分(残渣)を得ることができる。この固形分を、バガス由来の抽出物とすることができ、これはアワビ又はウニの食欲を増進する作用を有する。
酸性処理液のろ過は、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過等により行われてよく、好ましくは加圧ろ過により行われる。加圧ろ過は、加圧ろ過機(フィルタープレス)により行われてもよい。ろ過の条件は、酸性処理液に析出した固形分を捕捉できる範囲で、適宜調整することができる。
ろ過の前に、酸性処理液に珪藻土が添加されてもよい。珪藻土を添加することにより、アワビ又はウニの食欲を増進する作用を有する成分(固形分)が、多孔質である珪藻土の細孔に捕捉されるため、バガス由来の抽出物をより容易に得ることができる。この場合において、バガス由来の抽出物は、ろ過後の固形物自体であってよい。すなわち、バガス由来の抽出物は、上記の処理によるバガス由来の成分と珪藻土とを含有していてよい。
使用可能な珪藻土の種類又は産地は特に限定されず、各地で産出される珪藻土を適宜用いることができる。珪藻土としては、焼成品を用いることもできる。珪藻土の形状としては、粉末状又は顆粒状であることが好ましい。
珪藻土の物性又はグレードは適宜選択することができる。例えば、50%平均粒子径(D50、レーザー法により測定)が10~80μm、Darcyの式に基づく透過率が0.01~10darcy、かさ比重(ケークかさ密度)が0.15~0.3g/cm3の範囲のものから適宜選択して使用することができる。珪藻土には市販品を用いてもよい。
珪藻土の添加量は、酸性処理液と珪藻土の合計量に対して、0.2質量%以上、0.5質量%以上、又は0.8質量%以上となる量であってよく、2質量%以下、1.6質量%以下、又は1.3質量%以下となる量であってよい。
以上の方法により得られるバガス抽出物は、必要に応じて自然乾燥、熱風乾燥等による乾燥処理が施されてもよい。
食欲増進剤は、有効成分であるバガス由来の抽出物のみからなっていてよく、アワビ又はウニの飼料として利用可能な他の成分を含有してもよい。他の成分としては、小麦粉等の炭水化物;アオサ、ワカメ、コンブ、アオノリ等の海藻類;魚粉、魚油等の魚由来の成分;各種ビタミン類;カルシウム、リン等のミネラル;アルギン酸ナトリウム等の増粘剤などが挙げられる。
食欲増進剤が他の成分を含有する場合、バガス抽出物の含有量は、食欲増進剤全量を基準として、0.005質量%以上、0.007質量%以上、又は0.01質量%以上であってよく、0.5質量%以下、0.1質量%以下、又は0.05質量%以下であってよい。
食欲増進剤の形状は、アワビ又はウニが摂取できる形状であれば制限されない。食欲増進剤の形状は、固体状(粉末、顆粒等)、液体状(溶液、懸濁液等)、ペースト状、ゲル状などであってよい。あるいは、液体状又はペースト状のものをゲル化させることにより、ビーズ状のゲル餌として形成されてもよい。
食欲増進剤は、アワビ又はウニに対して餌として摂取させることができる(経口投与)。摂取量としては、1日あたり、バガス抽出物が0.1μg/g(体重)以上、0.5μg/g(体重)以上、又は1μg/g(体重)以上となる量であってよく、50μg/g(体重)以下、10μg/g(体重)以下、又は5μg/g(体重)以下となる量であってよい。この量を摂取させることにより、アワビ又はウニにおける食欲を十分に促進することができる。
本実施形態に係る、アワビ又はウニ用の食欲増進剤はアワビ又はウニの食欲を増進させることができるため、これらの成長を促進させる用途、これらの体内に蓄積する毒素の排出を促す用途、体内の有価物を増加させ高栄養価する用途、肉質又は味質又は風味を向上させる用途、外観を鮮やかにする用途、活動を活発化させる用途、繁殖を促す用途、殻又は棘の構造又は強度を人が取り扱いやすいように導く用途、再生の促進により食害等で受けたダメージから回復する用途等に用いることができる。なお、成長促進の用途に関して、アワビ及びウニ以外の水産生物(魚類、甲殻類等)においては、肝臓に存在するインスリン様成長因子I(IGF-I)の合成量が増加することにより、水産生物の成長が促進されるが、これは本発明における食欲の増進作用とは無関係である。
一実施形態に係る、バガス由来の抽出物を有効成分とするアワビ又はウニの食欲増進剤は、上述した製造方法によって得ることができる。すなわち、一実施形態に係るアワビ又はウニの食欲増進剤の製造方法は、バガスを、アルカリ処理、水熱処理、酸処理及び亜臨界水処理からなる群より選ばれる少なくとも一種の処理により分解して分解処理液を得た後、該分解処理液のpHを酸性に調整してからろ過した後の固形物を得る工程を備える。各工程の具体的な態様は上述したとおりである。
次に、一実施形態に係る、アワビ又はウニにおけるニューロペプチドYの合成促進剤について説明する。アワビ又はウニにおけるニューロペプチドYの合成促進剤の具体的な態様は、上述したアワビ又はウニ用の食欲増進剤と同様の態様であってよい。すなわち、一実施形態に係る、アワビ又はウニにおけるニューロペプチドYの合成促進剤は、上述した説明において、「アワビ又はウニの食欲増進剤」を、「アワビ又はウニにおけるニューロペプチドYの合成促進剤」と読み替えたものであってよい。アワビ又はウニにおけるニューロペプチドYの合成促進剤の製造方法に関しても同様である。
アワビ又はウニにおけるニューロペプチドYの合成促進剤は、アワビ及びウニの脳神経節に存在する、ニューロペプチドYを合成するためのmRNAの発現レベルを増加させることができる。結果として、アワビ又はウニにおいてニューロペプチドYの合成が促進される。ニューロペプチドYは、主に、食欲の調節に関与するペプチド神経伝達物質である。ニューロペプチドYが増加することにより、アワビ又はウニにおいて食欲が増進される。
ニューロペプチドYは、食欲を増進させる作用以外に、消化管の機能調節、消費エネルギー調節、性成熟、再生等の作用を有する。したがって、一実施形態に係る、アワビ又はウニにおけるニューロペプチドYの合成促進剤は、食欲を増進させる用途、消化管の機能を調節する用途、消費エネルギーを調節する用途、繁殖活動を活発化させる用途、食害等で受けたダメージを回復させる用途等に用いることができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
<バガス由来の抽出物の製造>
ステンレス製寸胴鍋に、サトウキビの搾りかすであるバガス3.2kg(含水率50質量%)及び90℃の0.5%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液20Lを添加し、これらを2時間混合することによって、分解処理を行った。分解処理後の混合液を、不溶性成分(繊維分等)と液分に分離して、液分を約20L得た。この分離操作を2回繰り返し、40Lの液分(分解処理液)を得た。
ステンレス製寸胴鍋に、サトウキビの搾りかすであるバガス3.2kg(含水率50質量%)及び90℃の0.5%(w/w)水酸化ナトリウム水溶液20Lを添加し、これらを2時間混合することによって、分解処理を行った。分解処理後の混合液を、不溶性成分(繊維分等)と液分に分離して、液分を約20L得た。この分離操作を2回繰り返し、40Lの液分(分解処理液)を得た。
この分解処理液全量に対して、35%(w/w)塩酸を475mL添加し、pHを3.0に調整した。これを酸性処理液とした。酸性処理液に、珪藻土を395g(酸性処理液と珪藻土の合計量を基準として1質量%となる量)添加し、フィルタープレスを用いて加圧ろ過を行った。ろ過後、フィルターを通過しなかった、珪藻土を含む固形物を採取した。これをバガス由来の抽出物(バガス抽出物)とした。
<摂餌方法>
北里大学海洋生命科学部附属臨海教育研究センターで飼育しているエゾアワビ稚貝(体重約5.4g)を使用した。屋内に設置された1トン水槽に、4個のプラスチック製カゴ(30×40×25cm)を入れ、各カゴにアワビ稚貝を50個ずつ収容した。
飼料として、上記のバガス抽出物を含むゲル餌を調製した。すなわち、ゲル餌における最終添加量が0.01質量%又は0.05質量%となる量の、上述したバガス抽出物を、小麦粉(55質量%)、海藻粉末(30質量%)、及び茎ワカメから調製したアルギン酸ナトリウム粗抽出物(5質量%)と混合した。混合物を塩化カルシウム溶液中に滴下して、ゲル化させた。このゲル餌を、2日毎に、体重g当たり2質量%の量にて、アワビ稚貝に6ヶ月間与えた。コントロール群として、バガス抽出物のみを添加せず調製したゲル餌を同様の量与えた群(コントロール群1)、及び市販のアワビ稚貝用配合飼料(4N、日本農産工業株式会社)を同様の量与えた群(コントロール群2)を用意した。
上記の試験を、体重が約3.2gのエゾアワビ稚貝においても実施した。ただし、摂餌期間は5ヶ月間とし、コントロール群2の試験群は設けなかった。表1に、試験群の概要をまとめて示す。
北里大学海洋生命科学部附属臨海教育研究センターで飼育しているエゾアワビ稚貝(体重約5.4g)を使用した。屋内に設置された1トン水槽に、4個のプラスチック製カゴ(30×40×25cm)を入れ、各カゴにアワビ稚貝を50個ずつ収容した。
飼料として、上記のバガス抽出物を含むゲル餌を調製した。すなわち、ゲル餌における最終添加量が0.01質量%又は0.05質量%となる量の、上述したバガス抽出物を、小麦粉(55質量%)、海藻粉末(30質量%)、及び茎ワカメから調製したアルギン酸ナトリウム粗抽出物(5質量%)と混合した。混合物を塩化カルシウム溶液中に滴下して、ゲル化させた。このゲル餌を、2日毎に、体重g当たり2質量%の量にて、アワビ稚貝に6ヶ月間与えた。コントロール群として、バガス抽出物のみを添加せず調製したゲル餌を同様の量与えた群(コントロール群1)、及び市販のアワビ稚貝用配合飼料(4N、日本農産工業株式会社)を同様の量与えた群(コントロール群2)を用意した。
上記の試験を、体重が約3.2gのエゾアワビ稚貝においても実施した。ただし、摂餌期間は5ヶ月間とし、コントロール群2の試験群は設けなかった。表1に、試験群の概要をまとめて示す。
<ニューロペプチドYの発現レベル評価>
摂餌期間終了後に、アワビの脳神経節を採取し(n=10)、使用まで4℃のRNA later溶液で保存した。脳神経節から、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社)を用いてRNAを抽出した。約10mgの脳神経節を入れた1.5mL容チューブに、Buffer RLT(500μL)を加え、ジルコニアビーズ(Φ3mm)を1つ入れた。細胞破砕機(Micro Smash MS-100、株式会社トミー精工)により、3000rpmで10秒間処理し、固形物がなくなるまでチューブ内の内容物を破砕した。これを遠心分離(16700×g、3分間、24℃)した後、上清を新しい1.5mL容チューブに移した。上清と同量(500μL)の70%エタノールを加え、ピペッティングにより混合した。混合液をRNeasy Spin Column(カラム)に添加し、遠心分離(7900×g、15秒間、24℃)した。その後、カラムにBuffer RW1(700μL)を添加し、遠心分離した後、カラムにBuffer RPE(500μL)を添加し、再度遠心分離した。再び同量のBuffer RPEを添加し、遠心分離(7900×g、2分間、24℃)してカラムを洗浄した。カラムを新しい1.5mL容チューブにセットし、カラムの中央にRNeasy Free Water(20μL)を添加した。1分間静置した後、遠心分離(7900×g、1分間、24℃)により全RNAを溶出した。得られた全RNAの濃度は、吸光度計(NanoVue Plus、GEヘルスケア社)を用いて、260nm及び280nmの吸光度を測定して算出し、使用するまで-80℃で保存した。
摂餌期間終了後に、アワビの脳神経節を採取し(n=10)、使用まで4℃のRNA later溶液で保存した。脳神経節から、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社)を用いてRNAを抽出した。約10mgの脳神経節を入れた1.5mL容チューブに、Buffer RLT(500μL)を加え、ジルコニアビーズ(Φ3mm)を1つ入れた。細胞破砕機(Micro Smash MS-100、株式会社トミー精工)により、3000rpmで10秒間処理し、固形物がなくなるまでチューブ内の内容物を破砕した。これを遠心分離(16700×g、3分間、24℃)した後、上清を新しい1.5mL容チューブに移した。上清と同量(500μL)の70%エタノールを加え、ピペッティングにより混合した。混合液をRNeasy Spin Column(カラム)に添加し、遠心分離(7900×g、15秒間、24℃)した。その後、カラムにBuffer RW1(700μL)を添加し、遠心分離した後、カラムにBuffer RPE(500μL)を添加し、再度遠心分離した。再び同量のBuffer RPEを添加し、遠心分離(7900×g、2分間、24℃)してカラムを洗浄した。カラムを新しい1.5mL容チューブにセットし、カラムの中央にRNeasy Free Water(20μL)を添加した。1分間静置した後、遠心分離(7900×g、1分間、24℃)により全RNAを溶出した。得られた全RNAの濃度は、吸光度計(NanoVue Plus、GEヘルスケア社)を用いて、260nm及び280nmの吸光度を測定して算出し、使用するまで-80℃で保存した。
内部標準物質としては、βアクチン(βAN)を用いた。アワビのニューロペプチドY(NPY)、及びβANのプライマーは、これらcDNAの塩基配列に基づいて、Primer3 web version0.4.0(http://bioinfo.ut.ee/primer3-0.4.0/)ソフトを用いて設計した。NPYの半定量PCRには、KAPA SYBER FAST One Step qRT-PCR Kitを使用した。
標準試料として脳神経節(n=4)から調製した全RNAを、0.0098、0.0391、0.1563、0.625、2.5及び10ngに段階希釈した。段階希釈した全RNA(2μL)を、プレート(96well Hi-Plate for Real Time、タカラバイオ株式会社)のウェルに添加した後、5.0μLのKAPA SYBER FAST qPCR Master Mix、0.2μLのdUTP、0.2μLのKAPA RT Mix、2.2μLの滅菌水、0.2μLのフォワードプライマー及びリバースプライマーを加えた。なお、NPYとβANのプライマーの濃度は、それぞれ5.0及び10μMとした。PCR反応として、逆転写反応を42℃で5分間、次いで95℃で10分間の酵素の活性化反応を行った後、熱変性(95℃、5秒間)、アニーリング/伸長反応(60℃、30秒間)を1サイクルとして40サイクル行った。サーマルリアルタイムPCR装置には、Thermal Cycler Dice Real Time System(タカラバイオ株式会社)を使用した。
標準試料として脳神経節(n=4)から調製した全RNAを、0.0098、0.0391、0.1563、0.625、2.5及び10ngに段階希釈した。段階希釈した全RNA(2μL)を、プレート(96well Hi-Plate for Real Time、タカラバイオ株式会社)のウェルに添加した後、5.0μLのKAPA SYBER FAST qPCR Master Mix、0.2μLのdUTP、0.2μLのKAPA RT Mix、2.2μLの滅菌水、0.2μLのフォワードプライマー及びリバースプライマーを加えた。なお、NPYとβANのプライマーの濃度は、それぞれ5.0及び10μMとした。PCR反応として、逆転写反応を42℃で5分間、次いで95℃で10分間の酵素の活性化反応を行った後、熱変性(95℃、5秒間)、アニーリング/伸長反応(60℃、30秒間)を1サイクルとして40サイクル行った。サーマルリアルタイムPCR装置には、Thermal Cycler Dice Real Time System(タカラバイオ株式会社)を使用した。
図1(a)に、体重5.4gのエゾアワビ稚貝に対し、試験開始から6ヶ月目に採取した各試験群の脳神経節のNPY mRNAの発現レベルを示す。また、図1(b)に、体重3.2gのエゾアワビ稚貝に対し、試験開始から6ヶ月目に採取した各試験群の脳神経節のNPYmRNAの発現レベルを示す。いずれにおいても、バガス抽出物が含まれるゲル餌を摂取した投与群1及び投与群2の脳神経節におけるNPY mRNAの発現レベルは、コントロール群1に対して有意に高い値を示した(投与群1:p<0.05、投与群2:p<0.01)。したがって、バガス抽出物がアワビの食欲を調節するNPYの発現レベルを亢進させることが分かった。
Claims (10)
- バガス由来の抽出物を有効成分として含有する、アワビ又はウニの食欲増進剤。
- 前記バガス由来の抽出物は、バガスを、アルカリ処理、水熱処理、酸処理及び亜臨界水処理からなる群より選ばれる少なくとも一種の処理により分解して分解処理液を得た後、該分解処理液において、pHを酸性に調整してからろ過した後に得られる固形物である、請求項1に記載の食欲増進剤。
- 前記ろ過の前に、前記分解処理液に珪藻土が添加される、請求項2に記載の食欲増進剤。
- バガス由来の抽出物を有効成分として含有する、アワビ又はウニにおけるニューロペプチドYの合成促進剤。
- 前記バガス由来の抽出物は、バガスを、アルカリ処理、水熱処理、酸処理及び亜臨界水処理からなる群より選ばれる少なくとも一種の処理により分解して分解処理液を得た後、該分解処理液において、pHを酸性に調整してからろ過した後に得られる固形物である、請求項4に記載のニューロペプチドYの合成促進剤。
- 前記ろ過の前に、前記分解処理液に珪藻土が添加される、請求項5に記載のニューロペプチドYの合成促進剤。
- バガスを、アルカリ処理、水熱処理、酸処理及び亜臨界水処理からなる群より選ばれる少なくとも一種の処理により分解して分解処理液を得た後、該分解処理液のpHを酸性に調整してからろ過した後の固形物を得る工程を備える、アワビ又はウニの食欲増進剤の製造方法。
- 前記ろ過の前に、前記分解処理液に珪藻土が添加される、請求項7に記載の製造方法。
- バガスを、アルカリ処理、水熱処理、酸処理及び亜臨界水処理からなる群より選ばれる少なくとも一種の処理により分解して分解処理液を得た後、該分解処理液のpHを酸性に調整してからろ過した後の固形物を得る工程を備える、アワビ又はウニにおけるニューロペプチドYの合成促進剤の製造方法。
- 前記ろ過の前に、前記分解処理液に珪藻土が添加される、請求項9に記載の製造方法。
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