次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
まず、本実施形態に係るレンズ装置1の要部の具体的構成を含む全体の構成について、図1-図4を参照して説明する。
実施形態は、光学機器Mの例として図3のプロジェクタPを示す。このプロジェクタPは、光学機器本体Mmを構成するプロジェクタ本体Pmと、このプロジェクタ本体Pmに対して装着して使用する図1に示すレンズ装置1を備える。したがって、このレンズ装置1は、光学機器本体Mmに対して着脱する交換レンズとして構成される。また、プロジェクタ本体Pmには、図3に示すように、映像信号を映像に変換する液晶パネル等の表示素子Dsを内蔵する。
これにより、プロジェクタPは、レンズ装置1の前方に設置されたスクリーン(投射面)Eに映像を拡大投射することができる。このように、光学機器本体Mmとして、プロジェクタ本体Pmに適用すれば、本発明の課題として無視できないプロジェクタPに適用できるため、最適な形態として実施できるなど、本発明の効果を得る観点から最も大きなパフォーマンスを得ることができる。
レンズ装置1は、レンズ鏡筒4を備える。レンズ鏡筒4は、最外郭に位置する固定筒41備え、この固定筒41の内部には、複数のレンズ支持筒42,43を備える。そして、レンズ鏡筒4の前部(スクリーン側)から中間部には、固定筒41の内周面に支持される複数のレンズL11,12を備えるとともに、各レンズ支持筒42,43の内周面に支持されるレンズL21,L22,L31,L32を備える。また、機構的な図示を省略したが、レンズ鏡筒4には、少なくとも投射面Eに拡大投射された映像に対するフォーカスを調整する主フォーカス調整機能部3を付設して構成するとともに、ズーム調整を行うズーム調整機能部45を付設して構成する。なお、例示するレンズL11,12,L21,L22,L31,L32は、それぞれイメージとして表示したものであり実際のレンズとは異なる。したがって、主フォーカス調整機能部3及びズーム調整機能部45は、特定の構成及び方式に限定されるものではなく、公知の各種構成及び方式により実施可能であるとともに、各レンズL11…によるレンズ構成及び枚数も、特定のレンズ構成及び枚数に限定されるものではない。その他、図1中、符号47,47は、プロジェクタ本体Pmに対する装着用フランジを示す。
他方、レンズ鏡筒4の中間部から後部(プロジェクタ本体Pm側)には、本実施形態に係るバックフォーカス調整機能部2を付設する。
このバックフォーカス調整機能部2は、図1及び図2に示すように、レンズ鏡筒4に付設した特定レンズ変位機構部5及び変位操作機能部6により構成する。特定レンズ変位機構部5は、レンズ鏡筒4内部の後部に配した調整内筒21を備える。この調整内筒21は、この外周面に取付けた係合部22を備え、この係合部22の係合輪22rは、固定筒41の光軸方向Fsにリニア形成したガイドスリット23(図9仮想線参照)に係合させる。これにより、調整内筒21は、固定筒41に対して、周方向Ffへの相対変位が規制され、光軸方向Fsへの変位のみが許容される。なお、係合部22とガイドスリット23は、一カ所のみを図示するが、設けるケ所の数は任意であり、通常、周方向Ffにおける3ケ所の等間隔位置に設けている。
そして、調整内筒21の内部には、この調整内筒21の内周面により支持される一又は二以上のレンズ、例示の場合、レンズL1,L2,L3,L4,L5を配設する。通常、これらの各レンズL1,L2…は、固定筒41後部の内周面に固定支持されることにより固定レンズ群として構成されるが、本実施形態における各レンズL1,L2…L5は、バックフォーカス調整機能部2を構成するため、光軸方向Fsへ変位可能に支持される特定レンズ群Gsとして機能する。なお、例示するレンズL1,L2…L5は、それぞれイメージとして表示したものであり実際のレンズとは異なる。したがって、特定レンズ群Gsは、特定のレンズ構成及び枚数に限定されるものではなく、本来、固定レンズ群として設定される各種レンズ構成及び枚数により構成可能である。
これにより、少なくとも、調整内筒21,係合部22及びガイドスリット23は、特定レンズ群Gsを光軸方向Fsへ変位可能に支持する特定レンズ変位機構部5として構成される。また、調整内筒21の前部は、レンズ鏡筒4内部の中間部に位置し、内周面は、レンズ支持筒43の外周面に対面してオーバラップするとともに、外周面には、螺合機構15を構成するヘリコイド雄ねじ部15mを形成する。
一方、レンズ鏡筒4の中間部には、変位操作機能部6の機構部を設ける。この変位操作機能部6は、固定筒41の内部に配した回動内筒24を備える。この回動内筒24は、固定筒41と調整内筒21間に位置し、回動内筒24の後部の内周面には、上述したヘリコイド雄ねじ部15mに螺合することにより螺合機構15を構成するヘリコイド雌ねじ部15wを形成する。また、回動内筒24の前部は、レンズ支持筒42の外周面にオーバラップするとともに、外周面には、周方向Ffに沿った被動ギア部25を形成する。この場合、回動内筒24は、この外周面に取付けた係合部26を備え、この係合部26の係合輪26rを、固定筒41の周方向Ffに沿って形成したガイドスリット27に係合させる。これにより、回動内筒24は、固定筒41に対して、光軸方向Fsへの相対変位が規制され、周方向Ffへの回動変位のみが許容される。なお、係合部26とガイドスリット27は、一カ所のみを図示するが、設けるケ所の数は任意であり、通常、周方向Ffにおける3ケ所の等間隔位置に設けている。
さらに、固定筒41の外周面には、駆動モータを用いた回転駆動部11を配設し、この回転駆動部11の回転出力軸に取付けた駆動ギア部28を前述した被動ギア部25に噛合させる。これにより、回転駆動部11の回転出力により、被動ギア部25及び回動内筒24が回動変位するとともに、回動内筒24の回動変位は、螺合機構15を介して調整内筒21の光軸方向Fsの変位に変換され、この変位が特定レンズ変位機構部5に付与される運動変換機構部12が構成される。運動変換機構部12を構成するに際し、入力する回転変位を直進変位として出力する螺合機構15を備えて構成すれば、レンズ鏡筒4における内筒及びレンズ支持筒の周面に形成したヘリコイドねじによる螺合機構15を構成できるため、最小限の部品点数により、高精度かつ安定した運動変換機構部12を構築することができる。
したがって、駆動モータを用いた回転駆動部11,及びこの回転駆動部11の回転出力を光軸方向Fsの変位に変換し、この変位を特定レンズ変位機構部5に付与する運動変換機構部12により、電動操作機能部6pが構成される。このように、電動操作機能部6pを構成するに際し、駆動モータを用いた回転駆動部11,及びこの回転駆動部11の回転出力を光軸方向Fsの変位に変換し、この変位を特定レンズ変位機構部5に付与する運動変換機構部12を備えて構成すれば、レンズ鏡筒4における構成及び形状の直接的な利用により運動変換機構部12を構成できるため、大型化を招くことなく電動操作機能部6pを容易かつ低コストに構築することができる。
また、回転駆動部11(駆動モータ)は、プロジェクタ本体Pmに装着した際に、図示を省略したコネクタを介して、プロジェクタ本体Pmに内蔵する図1に示すプロジェクタコントローラ30に接続されることにより駆動制御される。プロジェクタコントローラ30は、コントローラ本体(制御部)31,給電部32及び通信部33を内蔵する。さらに、プロジェクタPには、プロジェクタリモコン34が付属し、プロジェクタリモコン34と通信部33は相互に無線通信することができる。
以上の構成が変位操作機能部6の基本的な構成となる。したがって、変位操作機能部6は、前述した特定レンズ変位機構部5を操作することにより特定レンズ群Gsを所定の位置へ変位させて固定する基本的な機能を備える。
なお、実施形態では、変位操作機能部6として電動操作機能部6pを例示したが、例えば、回転駆動部11を除去し、前述した被動ギア部25を手動操作部として形成したり、或いは、別途設けた手動操作部(操作リング等)を被動ギア部25に伝達されるように構成することにより、変位操作機能部6を、手動操作機能部により構成することも可能である。このように、変位操作機能部6は、電動操作機能部6p又は手動操作機能部により構成できる。これにより、各種グレード等に対応して選択した電動操作機能部6p又は手動操作機能部によるバックフォーカス調整機能部2を搭載できるため、レンズ装置1の多様性(バリエーション)を高めることができる。
次に、本実施形態に係るレンズ装置1の要部の機能を含むレンズ装置1の使用方法について、図1-図3及び図5-図8を参照しつつ、図4に示すフローチャートに従って説明する。
まず、レンズ装置1は、図3に示すようにプロジェクタ本体Pmに装着する(ステップS1)。これにより、プロジェクタ本体Pmに対してレンズ装置1が一体化されるため、レンズ装置1の最後部(プロジェクタ本体Pm側)の位置に配したレンズL5の最後面からプロジェクタ本体Pmに内蔵する表示素子Dsの前面に至る距離BFは、バックフォーカスとして設定される。
このバックフォーカスBFの最適値は、プロジェクタ本体Pmとレンズ装置1の組合わせに基づく固有値となるが、プロジェクタ本体Pm及びレンズ装置1に含まれる製造上の機差等によるバラツキにより、初期状態では必ずしも最適値に設定されない。
このため、本実施形態に係わるレンズ装置1は、レンズ鏡筒4の内部における特定レンズ群Gsを光軸方向Fsへ変位(調整)可能にし、この特定レンズ群Gsを所定の位置へ変位させて固定可能に構成したものであり、この調整のためのバックフォーカス調整機能部2を備えている。これにより、バックフォーカスBFの長さを最適値に調整(設定)することができる。なお、レンズ装置1の工場出荷時における特定レンズ群Gsの位置は、標準位置に設定されている。
次に、具体的な調整方法の一例について説明する。まず、レンズ装置1を装着したプロジェクタPは、図3に示す所定の投射位置に設置する(ステップS2)。設置が終了したなら、スクリーン(投射面)Eにテストパターン映像を投影する(ステップS3)。そして、ズーム調整機能部45を用いてズーム調整を行う(ステップS4)。次いで、主フォーカス調整機能部3を用いて主フォーカス調整、主に中心部のフォーカス調整を行う(ステップS5)。
これにより、今、主フォーカス調整が終了した状態を想定する(ステップS6)。この状態では、バックフォーカスが未調整のため、図5に、符号Kpで示すピント位置のように、スクリーンEの中心部ではピントが合っていても、周辺部ではピントが合わない状態となる。なお、例示は、バックフォーカスの最適値に対して、0.1〔mm〕ズレた場合を示している。これにより、この場合の非点収差特性は、図7に示す収差図のように、乱れの大きい特性となる。
このため、本実施形態に係るレンズ装置1に備えるバックフォーカス調整機能部2を用いてバックフォーカス調整を行う(ステップS7)。これにより、バックフォーカスBFの長さを最適化して非点収差特性の乱れを最少化する。例示の場合、プロジェクタリモコン34を利用してバックフォーカス調整を行うことができる。即ち、プロジェクタリモコン34に設けたバックフォーカス調整キーを操作し、図1に示す特定レンズ群Gsを光軸方向Fsの前後に変位させてバックフォーカスBFの長さを調整することができる。
この場合、バックフォーカス調整キーの操作に伴う操作指令は、通信部33及びコントローラ本体31を介して給電部32に付与され、回転駆動部11が駆動制御される。この結果、回転駆動部11の回転出力は、駆動ギア部28を介して被動ギア部25に伝達され、回動内筒24が周方向Ffにおける正方向又は逆方向に回動変位する。回動内筒24は光軸方向Fsの変位が規制されているとともに、調整内筒21は周方向Ffの変位が規制されているため、回動内筒24の回動変位は、螺合機構15を介して、調整内筒21の光軸方向Fsの変位に変換される。これにより、調整内筒21に支持された特定レンズ群Gsの光軸方向Fsの位置が変位して調整される。
ユーザが調整を行う際には、スクリーンEに投影されたテストパターン映像の周辺部のピントが合うように調整操作し、最適位置に調整したなら操作を停止させればよい。この停止位置では、螺合機構15による光軸方向Fsへのストッパ機能により調整内筒21の最適調整位置(停止位置)が保持される。
図2において、実線で示す調整内筒21は調整後の位置を示すとともに、仮想線で示す調整内筒21は調整前の位置を示している。即ち、仮想線で示す位置Xoが図1に示した調整内筒21の前端位置を示すとともに、この位置Xoから前方(矢印方向Fm)へ距離Lmだけ変位させた位置が、実線で示す調整内筒21の位置となる。また、調整後の状態は、図6に、符号Kiで示すピント位置のように、スクリーンEの全エリア、即ち、中心部から周辺部までの全エリアにおいてピントを合わせることができる。したがって、この場合の非点収差特性は、図8に示す収差図のようになり、収差の乱れを大きく低減することができる。
そして、バックフォーカス調整が終了したなら全体の映像画質を確認する(ステップS8,S9)。確認により画質が良好であれば、調整作業を終了させるとともに、さらに、微調整を行う必要がある場合には、微調整を行うことにより調整作業を終了させる(ステップS9,S10)。この場合の微調整には、バックフォーカス調整のみならず、主フォーカス調整やズーム調整も含まれる。
他方、図9には本実施形態の変更例、特に、レンズ装置1に備える電動操作機能部6pの変更例を示す。前述した図1に示したレンズ装置1は、電動操作機能部6pを構成するに際し、駆動モータを用いた回転駆動部11,及びこの回転駆動部11の回転出力を光軸方向Fsの変位に変換し、この変位を特定レンズ変位機構部5に付与する運動変換機構部12を備えるとともに、この運動変換機構部12を、入力する回転変位を直進変位として出力する螺合機構15により構成した例を示したが、図9に示す変更例に係る電動操作機能部6pは、運動変換機構部12を構成するに際し、入力する回転変位を直進変位として出力するカム機構16を備えて構成したものである。
変更例の場合、図1の実施例と異なり、螺合機構15を構成するヘリコイド雄ねじ部15m及びヘリコイド雌ねじ部15wは設けない代わりに、図9に示すように、回動内筒24に、周方向Ffに対して所定の角度で傾斜したガイドスリット16sを形成し、このガイドスリット16sに、調整内筒21に取付けた係合部16の係合輪16rを係合させて構成したものである。したがって、この係合部16は、前述した図1の係合部22に対して、配設位置や基本的構成は同じとなるが、係合輪22rを含む係合部22を構成するに際し、図9に示すように、軸方向(回動内筒24の径方向)長さを、より長く構成することにより、ガイドスリット23とガイドスリット16sの双方に対して同時に係合するように構成した点が異なる。
これにより、回動内筒24が回動変位すれば、ガイドスリット16sも周方向Ffへ回動変位し、傾斜したガイドスリット16sに係合する係合部16が光軸方向Fsへ変位するため、図1の電動操作機能部6pと同様に機能させることができる。図9中、符号Lmcは、係合部16の光軸方向Fsの変位範囲、即ち、特定レンズ群Gsの変位範囲を示している。なお、図9中、図1と同一部分には同一符号を付すことによりその構成を明確にするとともに、その詳細な説明は省略した。
このように、運動変換機構部12を構成するに際し、入力する回転変位を直進変位として出力するカム機構16を備えて構成すれば、レンズ鏡筒4における内筒及びレンズ支持筒の筒部に形成したガイドスリット及びこのガイドスリットにガイドされる係合部により構成できるため、比較的少ない部品点数による運動変換機構部12を容易かつ低コストに構築することができる。
よって、このような本実施形態に係るレンズ装置1によれば、基本的構成として、少なくとも投射面Eに拡大投射された映像に対するフォーカスを調整する主フォーカス調整機能部3を備えるとともに、レンズ鏡筒4の内部における表示素子Ds側に配した一又は二以上のレンズL1,L2…を含む固定レンズ群として設定した特定レンズ群Gsと、この特定レンズ群Gsを光軸方向Fsへ変位可能に構成した特定レンズ変位機構部5と、当該特定レンズ変位機構部5を操作することにより特定レンズ群Gsを所定の位置へ変位させて固定可能な変位操作機能部6とを有してなるバックフォーカス調整機能部2を備えるため、レンズ装置1を各種光学機器本体Mmに装着した場合であっても、機差等により生じるバックフォーカスのズレ(誤差)を有効に解消し、収差を良好に改善することができる。特に、通常の主フォーカスレンズ群による調整に比べ、光学特性への悪影響を少なくできるため、精度の高い的確な調整を行うことができる。
また、メーカ等の異なる各種光学機器Mに対して適用できるなど、汎用性及び発展性に優れる。しかも、光学機器Mの設置後、使用環境や設置状態等によりバックフォーカスのズレ(誤差)が発生した場合であっても、ユーザサイドにおいて容易に調整することができるなど、メンテナンス性の向上、更には光学機器としての信頼性及び商品性を高めることができるとともに、ユーザサイドの利便性を高めることができる。
以上、変更例を含む好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,手法等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
例えば、レンズ装置1は、光学機器本体Mm(プロシェクタ本体Pm)に着脱する交換レンズを例示したが非交換式の専用レンズであってもよい。また、光学機器Mとして、撮像機器の場合には、表示素子Dsを撮像素子に代えることにより、撮像機器にも利用(応用)可能である。なお、映像には、動画や静止映像等の各種映像が含まれる。一方、変位操作機能部6は、電動操作機能部6pを例示したが、操作リング等により操作可能な手動操作機能部により構成してもよい。さらに、電動操作機能部6pとして、駆動モータを用いた回転駆動部11,及びこの回転駆動部11の回転出力を光軸方向Fsの変位に変換し、この変位を特定レンズ変位機構部5に付与する運動変換機構部12により構成した場合を例示したが、リニア型駆動部などを利用することにより同様の機能を持たせるなど、他の構成により実施する場合を排除するものではない。