JP2022037372A - 無機微粒子の分散液、その製造方法、及びそれを用いた加飾品 - Google Patents

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Abstract

【課題】構造色特有の高輝度発色及び角度依存性のある発色を広い面積にわたり連続して発現でき、光沢があり接合強度の高い無機物質からなる耐熱性等に優れた加飾層を形成することができる分散液を提供する。また、原料と設備の両面で低コストであり安全で環境負荷の低いその製造方法、及びその分散液を用いて作製した美観に優れる構造色を任意の領域に連続して発現した加飾品を提供する。【解決手段】略球状の無機微粒子と、この無機微粒子のアルコキシド原料の未反応成分とを含む分散液とすることにより、溶媒の蒸発に伴い無機微粒子の周期配列構造を乱すことなく粒子同士が互いに接合した集合体が形成され構造色を発現する。また、アルコキシド原料を用いた液相合成により無機微粒子を析出させ、無機微粒子とアルコキシド原料の未反応成分とを含む分散液を調製する。【選択図】図5

Description

特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和元年10月4日に神奈川県立産業技術総合研究所のウェブサイトに掲載のKISTEC Innovation Hub 2019 in EBINA ナノ・微粒子フォーラム予稿にて公開、及び令和元年10月31日に同フォーラムにて発表 (2)令和元年11月13日~11月15日に東京都等が主催の産業交流展2019にて展示 (3)令和元年12月24日に神奈川県立産業技術総合研究所が発行のKISTEC NEWS Vol.3 2019にて公開 (4)令和2年2月5日~2月7日に神奈川産業振興センターなどが主催のテクニカルショウヨコハマ2020にて展示 (5)令和2年3月2日に日本セラミックス協会のウェブサイトに掲載の2020年年会予稿にて公開、及び令和2年3月2日に発行の同予稿集にて公開 (6)令和2年5月31日にTaylor & Francisのウェブサイトに掲載のJournal of Asian Ceramic Society Vol.8,2020にて公開 (7)令和2年6月2日に科学技術振興機構のウェブサイトに掲載のものづくり技術新技術説明会発表資料にて公開 (8)令和2年6月8日に神奈川県立産業技術総合研究所のウェブサイに掲載の記者発表資料にて公開、及び令和2年6月8日に神奈川県政記者クラブにて発表 (9)令和2年7月15日に加工技術研究協会が発行のコンバーテック2020 Vol.568 No.48にて公開
本発明は、構造発色加飾に用いる無機微粒子の分散液とその製造方法、及びその分散液を用いた構造色を呈する加飾品に関する。より詳しくは、無機微粒子が未反応アルコキシド成分を含む液相に分散した分散液であり、これを任意の基材に塗布することにより無機微粒子が規則的に配列した周期構造を形成して、構造色特有の高輝度発色及び角度依存性のある発色を任意の広い面積にわたって均質に発現することができる分散液に関する。
また、室温で汎用原料を撹拌するだけで得ることができる、設備投資が不要で原料コストが低く環境負荷の少ないその製造方法に関する。さらに、その分散液を用いて作製した美観に優れる構造色を任意の領域に連続して発現した加飾品に関する。
光は電磁波の一種であり、光の波長のうちヒトの可視域はおよそ380~780nmと言われている。可視光の波長と同程度のスケールである数百ナノメートルオーダーの周期構造を形成した場合に、周期構造による光の反射や屈折等の作用によって可視域の特定の波長の光の位相が重なり合い強め合うように反射され、有彩色を発現することが知られている。このような微構造に由来して発現した色は構造色や遊色と呼ばれ、オパールのような天然の宝石や、モルフォチョウやクジャクのような生物にもみられる。
構造色を発現する物質を人工的に得ることも可能である。例えば、直径が数百ナノメートルに揃った球状粒子を作製し、これを密充填し規則的に配列させると、粒子集合体は周期構造を形成して構造色を呈する。このような粒子集合体は、天然宝石のオパールと似た構造と発色であることから、オパールの主成分である酸化ケイ素とは異なる材質で作製されたものも含めて、人工オパールと呼ばれている。光の多重反射による高輝度発色や見る角度によって色が変わる角度依存性のある発色となり、宝石のような美しい色彩を発現することができる。
人工オパールの研究開発では、粒径を揃え周期構造を形成しやすいラテックスなどのポリマー粒子が作製され用いられることが多いが、有機物であるポリマー粒子は、耐熱性が低い、機械的強度が弱い、摩耗しやすい、経年劣化するなどの欠点がある。これらの欠点が悪影響を及ぼす陶磁器、セラミックスや金属等の無機材料を基材とする製品の用途においては、耐熱性、機械的強度、耐摩耗性、耐光性、耐候性、化学的安定性等に優れる酸化ケイ素などの無機粒子で作製された人工オパールの利用が適切である。
例えば、予め作製した酸化ケイ素微粒子からなる人工オパール粒(バルク体)を、釉薬層すなわちガラス層に分散させて素地に装着したボーンチャイナが知られている(特許文献1)。この技術を用いれば、表面ガラス層を透明とすることで、宝石様の人工オパールを素地に固定して、人工オパール特有の構造色を示す美観に優れた陶磁器を得ることができる。
また、従来の一般的な顔料や染料と人工オパールなど構造色の発色のメカニズムを比較すると、顔料や染料は特定の波長の可視光を吸収し、その他の光を反射することに由来し色を呈する。一方、人工オパールなどの構造色は、光吸収ではなく、特定の波長の可視光を、光の位相が重なり強め合うように反射することに由来し発現する。構造色を発現する周期面を積層していくと、積層しただけ位相が重なる光の数が増し、その結果、輝度の高い輝かしい色になる。
一方で、積層数が過剰であると、拡散反射の寄与が大きくなり、白っぽい外観になってしまう。そのため、層数が過剰にならないようコーティング厚の調整が必要であるが、紙や陶磁器等に多い明度の高い基材であると、基材まで到達した光が基材に強く反射され、構造色による反射光と重なってしまう。すなわち、構造色の問題点として、明度の高い基材を用いた場合に基材の背景色と構造色とのコントラストがつきにくく構造色を視認しにくくなってしまう点が挙げられる。
上記問題点を解消する手段として、球状の人工オパール無機微粒子に黒色粒子を混合することにより、鮮やかな構造色を発現したことが報告されている(非特許文献1)。この文献においては、平均粒径280nmと360nmの2種の酸化ケイ素粒子にカーボンブラック粒子を0.2~1.7 wt%添加し混合した結果、それぞれ緑色、赤色の発色が鮮明になったことが示されている。
特開2011-73948号公報
コスメトロジー研究報告, 公益財団法人コーセーコスメトロジー研究財団, 2015, vol.23, p48-54.
しかしながら、天然宝石のオパールと同様の美しい構造色を呈し、耐熱性、機械的強度、耐摩耗性等の特性に優れているにもかかわらず、無機材料の人工オパールが宝飾品以外の分野において積極的に利用されてきたとは必ずしも言えない。その理由として、無機微粒子の粒径や微構造のコントロールが困難であることが挙げられる。構造色を発現するためには、数百ナノメートルオーダーの微細な粒子を、粒径を揃えて作製し、これを高度に規則的に配列させ周期構造を形成する必要がある。
乳化重合により生成するラテックスなどのポリマー粒子については、核生成と粒成長それぞれをコントロールしやすく、微粒子であっても粒径を揃える技術が確立している。一方、無機材料については、粒径をコントロールする技術が比較的確立している酸化ケイ素微粒子であっても容易ではない。無機微粒子の合成に一般的に利用されている液相法でも、数百ナノメートルオーダーのサイズ域で粒径の揃った無機微粒子の分散液を作製することは容易ではない。特に粒径が大きいものを作製しようと原料濃度を濃くすると、ゲル化しやすくなり分散液が得られなくなるため、350nm~400nmやそれ以上の大きさで粒径の揃った無機微粒子の分散液を作製し、これを用いて構造色を発現させることは、さらに困難である。
また、構造色を発現し得る粒径の揃った無機微粒子の分散液を加飾に利用するためには、これを塗布し溶媒蒸発に伴う粒子の規則的な配列により周期構造を形成して構造色を発現すること、及び粒子が擦過等により剥がれないように塗布面に粒子を固定することが必要である。
特許文献1のボーンチャイナは、人工オパール粒(バルク体)を用いており、人工オパールが点在するため広い面積にわたり連続する発色領域を形成できなかった。同文献にはバルク体の好ましい径は0.5mmまでと記され、点在する各面積は最大でも0.2mm未満であった。また、構造色のグラデーションを表現できず、同一領域に異なる構造色を重ねて表現できないなど、構造色による表現技法が極めて限定されることに課題があった。さらに、厚みのあるバルク体を釉薬層に分散させて保持するために多量の釉薬と高温焼成を要し、製造コストと環境負荷が高いことにも課題があった。
本発明者は、従来より、略球状の無機微粒子とそれを接合するためのガラス相となる成分を含む分散液を調製し、これを無機基材に直接塗布することにより、数十秒の乾燥時間で広い面積にわたり無機微粒子が規則的に配列する周期構造を連続して形成する技術の研究を重ねてきた。この技術を用いれば、数百ナノメートルオーダーの無機微粒子を素地に固定して多層の周期構造を形成し、人工オパール特有の美観に優れる構造色を広い面積にわたって連続して発現でき、構造色のグラデーションの表現や重ね塗りもできるため、既存の公知技術にはない美観に優れた無機製品を得ることができる。
また、明度の高い基材を用いた場合に構造色を視認し難くなってしまう課題に対して、人工オパール無機微粒子に黒色粒子のような他の物質を添加し混合すると、構造色特有の高輝度発色や角度依存性のある発色が損なわれてしまう。その理由として、添加した物質が無機微粒子の規則配列を乱すことや、ファンデルワールス力のような弱い力でしか互いにくっついていない粒子が物理的な外力等で再配列することにより、高度な規則的配列とその維持が実現されていないことが挙げられる。この課題は、背景色を暗色化するために添加する黒色粒子に限らず、他の物質を添加した場合にも生じる。
このような添加物が粒子の配列を乱した場合には、部分的にしか規則配列が形成されていない。すると、球の最密充填構造において最も形成されやすい周期面の周期間距離√6R/3(Rは球の直径)に対応する発色のみの単一色が視認されることになる。非特許文献1において、このような部分的な規則配列構造は「アモルファス集合体」と表現されており、角度依存性のない発色となることが明記されている。添加物を加えた場合においても構造色特有の高輝度発色や角度依存性のある発色を可能とするためには、数百ナノメートルオーダーの微粒子を、粒径を揃えて作製し、これを高度に規則的に配列させ周期構造を形成し、粒子同士を接合する等の手段により粒子を固定し、粒子が再配列しないよう、その周期構造を維持する必要がある。
また、粒径の大きな無機微粒子を作製し、これを最密充填すると、周期間距離が光の波長の整数倍に相当する周期構造を形成するため、小さい粒径からなる周期構造と比較して多彩な発色が可能となるが、粒径の大きな無機微粒子を作製しようとすると合成時において粒子が凝集しゲル化しやすくなる。粒径が大きい範囲で、構造色を発現するほどに粒径の揃った分散液を得ることは困難であり、よりシビアな製造条件が求められる。
本発明は、以上の背景技術とその課題を鑑みてなされたものであり、耐熱性、機械的強度、耐摩耗性、耐光性、耐候性、化学的安定性等の特性に優れる無機微粒子において、高度な規則配列構造と粒子間接合による規則配列構造の維持を実現し、構造色特有の高輝度発色及び角度依存性のある発色を広い面積にわたり連続的に発現できる分散液を提供することを目的とする。
また、粒径の大きい粒子の規則配列構造からなる多彩な発色を可能とし、明度の高い基材に塗布した場合であっても、構造色特有の高輝度発色及び角度依存性のある発色を可能とする分散液を提供することを目的とする。さらに、これらの分散液を、汎用原料と少額設備のみを用いて得ることができる、低コストで安全かつ環境負荷の低い製造方法を提供することを目的とする。また、これらの分散液を用いて作製した、美観に優れる構造色を任意の広い領域にわたり連続して発現した加飾品を提供することを目的とする。
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意研究した結果、略球状の無機微粒子を、その原料であるアルコキシドの一部が未反応かつ液体の状態で存在する成分で接合することが最適であることを究明した。また、その合成条件を最適化することにより、個数平均径375~550nmの大粒径の範囲においてもゲル化することなく単分散の分散液を得ることができ、これにより僅かな光の角度によって色が変わる多彩な発色を実現できることを究明した。
さらに濃色粒子を添加し明度の高い基材を用いた場合であっても、構造色特有の高輝度発色及び角度依存性のある発色を実現することができ、板状の濃色粒子を用いた場合にはより顕著な構造発色の特徴の発現が可能であることを究明した。そして、その構造や製法についてさらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、略球状の無機微粒子と、該無機微粒子の原料であるアルコキシドの一部が未反応かつ液体の状態で存在する未反応成分とを含有する分散液であって、前記無機微粒子の1次粒子の個数平均径、粒度分布及び無機微粒子の含有比に由来して、前記無機微粒子が略規則的に配列して形成された集合体が構造色を発現する分散液である。
本発明の分散液は、略球状の無機微粒子及びアルコキシド成分から構成され、これを基材に塗布することにより、耐熱性、機械的強度、硬度、耐摩耗性、化学的安定性、耐食性、耐光性、耐候性に優れ、多層にわたる粒子の規則配列からなる周期構造に由来した、構造色特有の高輝度発色及び角度依存性のある発色が可能となる。アルコキシド成分が無機微粒子の間に介在し粒子を接合することにより、粒子の規則配列構造を維持することが可能となり、さらに基材との密着性が向上し剥がれにくくなる。
塗膜を200℃以上の温度で加熱した場合には、アルコキシド成分が、金属-酸素結合を形成し、特に無機基材に塗布した場合には基材と塗膜の界面においても強固な化学結合を形成することができる。また、アルコキシド成分の含有量を調整して塗膜の表面が平滑となるまで無機微粒子の隙間を十分に埋めることによって、光沢すなわち艶のある発色とすることも可能である。
本発明における構造色は、基材の上に積み重なって規則配列する無機微粒子が形成する周期構造に由来して発現する。配列する粒子の周期間距離は基材の僅かな凹凸や塗布厚さの影響を受けない。そのため、従来から利用されている薄膜の干渉色とは異なり、広い面積にわたって意図する色を均質に発現することができる。また、構造発色であるため、光吸収元素として従来の無機顔料に用いられている重金属を含む必要がなく、化学組成に縛られることなく素材を選択することができる。例えば、地殻に最も豊富に存在する固体材料である酸化ケイ素を用いて色を発現することができ、資源豊富であり材料コストが低く、人体有害性が低く、環境負荷も低い素材を選択することが可能である。
また、本発明は、無機微粒子の1次粒子の個数平均径が375~550nmである前記分散液である。粒径の大きい無機微粒子の規則配列からなる周期構造においては、可視光波長の整数倍に相当する周期面が形成されるため、粒径が小さい無機微粒子からなる周期構造と比較して、より多くの周期面が形成されることになり、多彩な発色が可能となる。
さらに、本発明は、濃色粒子を含有する前記分散液である。分散液を明度の高い基材に塗布した場合であっても、添加した粒子の濃色が背景色としての役割を果たし色のコントラストがつくため、鮮やかな構造発色が可能となる。適切な合成条件による無機微粒子のシャープな粒度分布、アルコキシド成分による粒子間接合及びそれに伴う規則配列構造の維持の実現により、濃色を添加した混合系においても、構造色特有の高輝度発色及び角度依存性のある発色が可能となる。
また、本発明は、濃色粒子が板状である前記分散液である。前述の通り、本発明の分散液を塗布し利用した構造発色においては、広い面積にわたって色を均質に発色することができる。特に板状の濃色粒子に塗布した場合には、化粧品等に用いられているラメのような外観の粒子が得られる。無機微粒子の粒径を調整することにより、紫、青、緑、黄緑、黄、橙、赤等の意図した色を、基材の凹凸や塗布厚さの影響を受けることなく、均質に発色することができる。当然、構造色特有の高輝度発色及び角度依存性のある発色も可能である。
さらに、本発明は、水を含有する液に予めアルコキシド原料を溶解させ、これに反応促進剤を添加することにより無機微粒子を析出させて、該無機微粒子及び前記アルコキシド原料の一部が未反応かつ液体の状態で存在する未反応成分を含有する分散液を調製する工程を含む、前記分散液の製造方法である。この製造方法では、無機微粒子の高度な規則配列とその配列構造の維持、及び基材への接合を両立する、構造色特有の高輝度発色及び角度依存性のある発色を実現する無機微粒子の分散液を、安定して得ることができる。これにより、従来にない新たな加飾技法として、美術工芸品や装飾品等の他にも、高い装飾性やデザイン性が求められる用途への活用が期待できる。
上記本発明の製造方法は、汎用の液体原料、具体的には金属アルコキシド、アルコール、水、塩基性水溶液を室温で撹拌のみとすることも可能であり、少額の設備投資で、本発明の分散液を製造することができる。撹拌のみのシンプルな工程であり室温での反応であることから、製造工程の危険性が低く、工程管理が容易である。
また、本発明は、さらに、母粒子表面に前記分散液を塗布して被覆粒子を調製する工程と、前記被覆粒子を液中に分散させる工程とを含む、前記分散液の製造方法である。未反応状態の原料成分が無機微粒子同士及び無機微粒子と母粒子の接合の役割を果たし、母粒子表面において構造色特有の高輝度発色及び角度依存性のある発色を実現することができる。特に板状の母粒子を用いた場合は、顕著にこれら構造色特有の発色を発現することができる。
さらに、本発明は、前記何れかの分散液から形成された無機微粒子が略規則的に配列した集合体及び未反応成分からなる接合相と、基体となる基材とを含み、前記無機微粒子が前記基材表面に略規則的に配列して集合体が形成されており、該集合体を形成する前記無機微粒子の一部又は全部が前記接合相により接合されており、前記無機微粒子の粒径及び規則的配列に由来する構造色が発現している領域を有する加飾品である。
本発明の加飾品は、本発明の分散液を用いて周期構造を形成しているため、構造色特有の高輝度発色及び角度依存性のある発色を、任意の領域に広い面積にわたり連続して発現することができ、その加飾層は接合強度の高い無機物質からなり耐熱性等に優れている。また、光沢すなわち艶のある発色とすることも可能であり、明度の高い基材を用いた場合であっても鮮やかな構造発色が可能である。
本発明の分散液は、無機微粒子が溶媒蒸発に伴い最密充填するように規則的に配列し周期構造を形成することにより、構造色を呈する。無機微粒子は、耐熱性、機械的強度、耐摩耗性、耐光性、耐候性、化学的安定性等の特性に優れ、光の多重反射に由来する高輝度発色及び高度な規則配列に由来する角度依存性のある発色、並びに粗大粒径に由来する多彩な発色を、広い面積にわたって連続して均質に発現することができる。濃色粒子を混合した場合にも、無機微粒子の高度な規則配列とその配列構造の維持を実現し、構造色特有の高輝度発色及び角度依存性のある発色、並びに多彩な発色を発現することができる。
また、本発明の分散液の製造方法は、汎用の液体原料を室温で撹拌するのみにより製造することもでき、低コスト原料と少額の設備のみを用いて安全に製造することができる。さらに、本発明の分散液を用いた加飾物は、構造色特有の高輝度発色及び角度依存性のある発色を、任意の領域に連続して発現することができ、従来にはない優れた美観を備えている。
(a)実施例1において作製した試料1の外観像、(b)その表面を走査型電子顕微鏡により倍率5万倍で観察した拡大観察像である。 (a)実施例1において作製した試料2の外観像、(b)その表面を走査型電子顕微鏡により倍率5万倍で観察した拡大観察像である。 (a)比較例1において作製した試料の外観像、(b)その表面を走査型電子顕微鏡により倍率5万倍で観察した拡大観察像である。 実施例2において作製した12種の分散液を黒色の陶磁器に塗布して得た陶磁器の外観像である。 実施例2において作製した12種の分散液を塗布した試験片表面を走査型電子顕微鏡により倍率5万倍で観察した拡大観察像である。 実施例2において観察された色と粒径の関係を表す説明図である。
実施例3において作製した分散液を白色の陶磁器に塗布して得た陶磁器の外観像である。 実施例4において分散液を塗布した陶磁器の外観像である。 実施例5において分散液を塗布した陶磁器の外観像である。 実施例5において用いた分散液を走査型電子顕微鏡により(a)倍率2千倍、(b)倍率2万倍で観察した拡大観察像である。 実施例6において分散液を塗布した紙の外観像である。 実施例7において分散液を塗布した紙の外観像である。
以下、本発明の分散液、その製造方法及びそれを用いた加飾品について詳細に説明する。なお、説明が省略されている構造、特性、組成、製法等については、当該技術分野の当業者に知られているものと同一又は実質的に同一のものとすることができる。
また、本発明において「略」とは、厳密に同一である場合に限られず、同一性を失わない程度の誤差や変形を含む概念である。例えば、略球状とは厳密に球状の場合に限られず、球状と同一視できる場合を含むものとする。
本発明の無機微粒子の化学組成としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化銅、酸化亜鉛、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化パラジウム、酸化銀、及びこれらの複合酸化物、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化ケイ素、サイアロンセラミックス、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、アパタイト化合物、カーボン、アルカリ長石や斜長石等の長石、カオリナイト、モンモリロナイト、スメクタイト、アロフェン、ゼオライト、層状複水酸化物等の粘土、プラチナ、金、銀、銅、鉄、チタン、鉄鋼、各種合金等の金属が挙げられる。
これらの中でも、大気中の安定性から酸化物または表面が酸化物で覆われた金属が好ましく、コストや環境調和の観点から酸化ケイ素、酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、又はこれらに少量のアルカリやアルカリ土類金属を含む化学組成のものがより好ましい。粒径のコントロール性及び屈折率の均質性の観点から、単一組成の酸化物である酸化ケイ素、酸化アルミニウムがさらに好ましい。オパールと同じ材質である酸化ケイ素を用いることは天然宝石と同じ材質であることを特長として表記でき、また資源が豊富であることから最も好ましい。
本発明の無機微粒子の原料として用いるアルコキシドとして、ケイ素、チタン、アルミニウム、マグネシウムやジルコニウムなどの元素を含む金属アルコキシドが挙げられる。これらの中でも、反応速度の制御が容易であることと、原料が安価であることから、オルトケイ酸テトラメチルとオルトケイ酸テトラエチルが好ましい。
これらのアルコキシドを、一部未反応かつ液体の状態のまま含有することによって、無機微粒子間及び無機微粒子と基材間の接合強化や塗膜(加飾層)の光沢付与の効果を発揮することができる。無機微粒子が互いに接合されることによって、擦過等の外力によって無機微粒子が動いて再配列することを抑制することができる。これにより、無機微粒子が最も規則的に配列しやすい、塗膜の溶媒蒸発の際の最密充填構造を維持し、この高度な規則配列によって構造色特有の光の多重反射による高輝度発色や、角度依存性のある発色を発現することができる。
分散液を基材(被加飾物)の表面に塗布すると、溶媒の蒸発に伴い無機微粒子は互いに接近し最密充填構造を形成するように基材表面に略規則的に配列して、周期構造を有する無機微粒子の集合体が形成される。この際、蒸気圧の低いアルコキシド成分は集合体に残留して無機微粒子間に介在する。アルコキシド成分の無機微粒子に対する体積比率(アルコキシド成分/無機微粒子)が、1~5%であると無機微粒子同士を概ね点で接合し、26%以上であると無機微粒子の隙間のほとんどを埋め、6~25%であると塗布領域によって両者どちらの形態もとり得る。
比率が高いほど塗布後の無機微粒子間及び無機微粒子と基材間の接合は強化され、塗膜の光沢は増す。一方、比率が低いほど塗膜の構造発色が明瞭となる。そのため、分散液に含まれるアルコキシド成分の無機微粒子に対する体積比率は、用途によって使い分けることができ、構造発色を重視すると1~25%が好ましく、2~20%がより好ましい。接合強度を重視すると10~30%が好ましく、15~28%がより好ましい。
ここで、無機微粒子が規則的に配列して形成する周期構造によって発現する構造色の光の波長は、次のBragg-Snellの式を用いて予想することができる。
λ=2(d/m)(n-sinθ)0.5
上記Bragg-Snellの式を本発明の分散液に当てはめると、λは無機微粒子が形成する周期構造が光との相互作用によって強め合って反射する光の波長(nm)、dは無機微粒子の直径Rにより決まる周期構造の周期間距離(nm)、mは整数、nは無機微粒子を含む塗布表面層の屈折率、θは塗布表面層の法線からの角度である。すなわち、分散液を塗布して観察される構造色は、無機微粒子の粒径、塗布表面層の屈折率及び観察角度に依存する。
なお、本明細書において「粒径」の用語は、1次粒子を球状に近似した時の直径を意味するものとする。球状の粒子は、粒子が密に充填し周期間距離の短さに特徴のある周期構造を形成するため、上記Bragg-Snellの式を満たす可視域の光の波長が複数存在する可能性が高くなる。換言すると、球状粒子が密充填して形成された周期構造においては、観察角度θの違いによって、異なる色が観察されうる。観察角度によって異なる色が観察される特徴は、光吸収を原理とする一般的な顔料や染料にはみられない構造色に特有のユニークな特徴であり、この理由から球状粒子を用いることが好ましい。
粒子表面に超微細な凹凸がある場合であっても、電子顕微鏡による拡大観察像での外観が球状と近似できるものであれば略球状とみなし、本発明の対象とする。一方、長球状の粒子は、規則的な配列ひいては周期構造に由来する構造色の発現が困難であるため、本発明の対象外とする。本発明における球と長球の境は長径÷短径の値が1.3とし、この値が1.3以下のものを略球状とする。
無機微粒子は中実、中空、多孔質のいずれであっても、その屈折率に応じて構造色を発現することが可能であるため、いずれでもよい。塗膜が他物質で覆われておらず表面に露出した状態であるとき、無機微粒子が中実または中空であると、水等の液体が無機微粒子の配列の隙間に浸透することにより光の屈折、反射、回折、散乱等の作用が変化し、無機微粒子と液体の屈折率の差に応じて、構造色の色が変化したり色が消失したりするユニークな特徴を示すことができる。また、無機微粒子が多孔質である場合は、液体が無機微粒子の配列の隙間に浸透すると同時に、無機微粒子の孔の内部まで浸透することにより、どのような屈折率の液体を用いても構造色の色が消失する特徴を示すことができる。液体浸透による色の変化は、蒸発等により液体が除去されると元の色に戻る。この特徴は、光吸収を原理とする一般的な顔料や染料にはみられない特徴であり、構造色に特有のものである。
略球状の無機微粒子の分散液を塗布し溶媒が蒸発する際、溶媒の蒸発につれて粒子が互いに近づき、密に充填された構造を形成する。粒径の揃った球状粒子のみが存在する分散液においては、通常、最密充填構造を形成しようとする。直径Rの球からなる最密充填構造では計算上、粒子の積層方向に周期間距離√6R/3の周期面が、その垂直方法に周期間距離R/2の周期面が形成される。前述したBragg-Snellの式において、これらの周期間距離を当てはめて計算される光の波長は、実際に観察される色の波長と良く一致する。周期面は斜め方向にも形成され、すなわち、見る角度・光の角度によって見える色が変わる特徴を発現する。
無機微粒子が形成する周期構造によって発現する構造色は、直径約150nmの酸化ケイ素微粒子の場合、√6R/3の周期面で紫色であり、粒径が大きくなるにつれ、長波長側の青紫色、青色、青緑色、緑色、黄緑色、黄色、橙色、赤色にシフトする。屈折率が同一の物質であれば、Bragg-Snellの式からわかるように、強め合うように反射される光の波長と最密充填構造を形成する粒子の径は正比例の関係にある。これより粒径が大きくなると、m=1の条件下で強め合う色と、m=2の条件下で強め合う色とが混ざり赤紫色、さらには青紫色を呈する。さらに粒径が大きくなると、m=1の条件下で強め合う色は近赤外領域に入り、ヒトの視細胞では検知できず、m=2の条件下で強め合う紫色や青色を呈し、これに続いて青緑色、緑色と繰り返す。
m=2の条件下で強め合う色は、Bragg-Snellの式からわかるように、屈折の影響等を長さに換算した光路差が、光の波長の2倍と一致して強め合う波長の色である。同様にm=3、m=4と続くが、塗膜の厚さが等しい場合、mの値が大きいほど位相が重なる反射光が少なくなるため、輝度の低いぼやけた色になる。この理由から、無機微粒子の直径は600nm以下であることが好ましい。また、粒径が大きい場合には白っぽい外観となりやすく、これを避けるためには直径550nm以下であることがより好ましい。
垂直方向の周期間距離R/2の周期面では、直径約240nmの酸化ケイ素微粒子で紫色であり、√6R/3周期面の場合と同様に、粒径が大きくなるにつれて長波長側の色を発現する。R/2周期面の場合においても、m=2、m=3、m=4と、mが整数となる条件下でも光は強め合う。すなわち、無機微粒子の粒径が大きい程、様々な角度で周期面が形成されやすく、また、波長の整数倍m=2、3、4・・に相当する光の多重反射が生じやすいため、角度によって色が変わる構造色特有の発色を発現する。特に、√6R/3周期面により強め合って反射される光の波長と、R/2周期面により強め合って反射される光の波長とが近い場合には、僅かな光の角度の違いによって色が変わり、多彩に見える。この理由から無機微粒子の直径は375nm以上であることが好ましい。
本発明の分散液を用いて所望の構造色を発現させるためには、粒度分布がシャープであり粒径の揃った無機微粒子を調製するのが好ましい。無機微粒子の粒径を揃えて粒度分布をシャープにすることにより、溶媒の蒸発に伴う自己組織化の作用に基づき無機微粒子が規則的に配列して多層の周期構造が形成される。粒径のばらつきを標準偏差で表したときに、標準偏差をその平均粒径で割った相対標準偏差の値が、10%以内であることが好ましい。なお、意図的に異なる水準の粒度分布を示す複数の無機微粒子を用いることも可能である。
本研究の濃色粒子として、無機顔料、有機顔料の両者とも用いることができるが、耐熱性、機械的強度、硬度、耐摩耗性、化学的安定性、耐食性、耐光性、耐候性が要求される用途、具体的には屋外又は液体に暴露される用途、洗浄等を目的として表面を擦過する又は水以外の洗浄液を使用する用途、あるいは塗布後に加熱工程を伴う用途においては、無機顔料を用いることが好ましい。ここでいう「濃色」とはJIS規格Z8721-1993に定められる明度の表示方法に従って、理想的な黒を0、理想的な白を10とし、その間を明度知覚の差がほぼ等歩度になるように分割された数値において、0~4に分類される色であり、無彩色であっても有彩色であってもよい。
濃色粒子の形状は、球状、楕円体状、針状、ワイヤー状、チューブ状、板状、多面体状、無定形のいずれでも良いが、無機微粒子が積層して規則配列からなる周期面を形成しやすい板状の粒子を用いることが好ましい。気相合成や液相合成により化学的に得られる板状粒子でも良いが、コスト面を考慮すると、天然資源である板状の粘土鉱物等を用いることが好ましい。具体的には、雲母、黒雲母、炭、バーミキュライト、モンモリロナイト、カオリナイト、ベントナイト、スメクタイトが例示される。ここでいう「板状」とは、扁平状、平板状、薄片状、鱗片状等を含み、平面視における長辺及び短辺と比較して深さ方向の厚みが充分に薄いものをいう。具体的には、粒子の長辺と厚みとの比(長辺/厚み)が5以上であるものを板状とする。
濃色粒子の大きさは、無機微粒子が積層するよう無機微粒子よりも大きな濃色粒子を用いてもよいし、無機微粒子の隙間に入り背景色として光を吸収するよう無機微粒子よりも小さな濃色粒子を用いてもよいため、目的に応じて適切な大きさの範囲は異なる。先に挙げた板状の粒子を用いる場合は、長辺の長さが1μm以上の粒子を用いるのが良い。濃色粒子の表面電荷等に応じて、濃色粒子が大きくなるほど分散液に沈降しやすくなるが、塗布可能な限りは問題ない。長辺の長さ1mm以上の濃色粒子に予め本発明の分散液を塗布し、これを砕いて液に分散させることにより、構造色特有の高輝度発色及び角度依存性のある発色を顕著に発現する複合体粒子が分散する分散液を得ることができる。
添加する濃色粒子の配合比率により、明度の高い基材に塗布した場合の塗膜の色を調整することができる。例えば白色の基材に、濃色粒子を添加せずに本発明の分散液を塗布すると、キラキラした宝石のような外観の色になる。無機微粒子の粒径や屈折率に応じた特定の色のみを発色させることも、角度依存性のある発色とすることも可能である。明度の高い基材では、基材から反射される光が強いために、分散液塗布層の多重反射光のコントラストが低く、塗膜の構造色は視認しにくくなる。濃色粒子の配合比率を増やすにつれ、添加した濃色粒子が光を吸収し基材による光反射を抑制することができるため、塗膜の多重反射光による構造色が視認されやすくなる。
すなわち、キラキラした宝石のような発色も、明瞭に視認できる構造発色も、濃色粒子の配合比率を調整することにより発現することができ、意図するデザインに応じて使いわけることができる。構造色の視認性を向上させるための濃色粒子の含有量としては、基材や濃色粒子の明度や色彩によって異なるが、0.5~15wt%の範囲が好ましく、1.5~5wt%の範囲がより好ましい。
分散液には、濃色粒子の他に、塗布時や塗布後の接合強化や、液の粘度、濡れ性、蒸発速度の調整、塗膜の色、厚さの調整を目的として、無機微粒子の分散性を著しく損なう場合を除いて、適量の添加剤を加えてもよい。
接合強化や粘度調整のために用いる添加剤として、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースやこれらの塩、ラテックス、天然ゴム、にかわ、デキストリンなどが挙げられる。これらを組み合わせて用いてもよい。
濡れ性や蒸発速度の調整のために用いる添加剤として、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン、ベンゼン、フェノール、n-ヘキサン、ギ酸、酢酸、酢酸メチル、酢酸エチル、ジブチルフタレート、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドが挙げられ、これらを組み合わせて加えてもよい。無機微粒子の分散安定性向上を兼ねて、界面活性剤を添加してもよい。用いる界面活性剤は、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤のいずれであってもよい。複数のイオン性界面活性剤を組み合わせてもよく、イオン性界面活性剤とノニオン界面活性剤を組み合わせてもよい。
前述の通り、本発明の分散液を基体となる基材に塗布すると、溶媒の蒸発に伴い無機微粒子が略規則的に配列して、周期構造を有する無機微粒子の集合体が形成される。この無機微粒子集合体は、複数の無機微粒子が略規則的に配列して一定の形状を保っている集合体であればよく、無機微粒子が物理化学的な力で集合した集合体である。本発明では、拡大観察により無機微粒子集合体に部分的な亀裂、欠陥、微粒子の脱落等が認められる場合であっても、目視観察により所望の構造色を連続して発現できる集合体であれば、略規則的に配列しているものとみなして、正確に規則的に配列している集合体と同一視できるものとする。
構造色を発現する無機微粒子集合体は、分散液を塗布する形状や面積を調整することにより、基材の任意の領域に形成することができる。本発明において「任意の領域」とは、基材の一部又は全部の範囲にあり、製作者の自由な意思により分散液をコーティングして形成することができる、平面視方向の全ての形態を含むものとする。無機微粒集合体が形成される領域は1箇所でも複数箇所でもよい。構造色を広い面積にわたって連続して発現させるために、無機微粒集合体が形成される各領域の面積は、好ましくは0.2mm以上である。
無機微粒子集合体の厚みは、同様にコーティングの方法、液量、回数を調整することにより、任意の厚みに形成することができる。多層にわたる周期構造を構成し、目視で明らかに認識できる構造色を発現するためには、焼成後の厚みで700nm以上が好ましく、1000nm以上がより好ましい。層数では2~3層以上が好ましく、4~5層以上がより好ましい。厚いほど構造色が鮮明になり、薄いと重ね塗りやコスト面で有利となる。一方、色を薄っすらと発現させ、かすかな色合いを表現したい場合には、1~2層とするのが好ましい。加飾により表現したいデザインに加え、基材の明度、耐摩耗性、耐剥離性等も考慮して設定される。
無機微粒子集合体は、その隙間に介在するアルコキシド原料の未反応成分が加水分解と脱水縮合して形成された接合相により、一部又は全部の粒子同士が接合されると共に、基材表面の任意の領域に固定又は接合されている。また、分散液を塗布して乾燥させ更に200℃以上の温度で加熱した場合には、アルコキシド成分が金属-酸素結合を形成し強固な化学結合が形成される。特に無機基材に塗布した場合には無機微粒子集合体と無機基材の界面においても強固な化学結合が形成される。さらに、陶磁器などの無機基材に塗布して乾燥させ更に900℃以上の高温で焼成した場合には、無機微粒子及びアルコキシド成分が部分的に融けてさらに強固に接合することができる。
なお、無機微粒子と未反応成分から形成される接合相とは、同一の出発原料から形成される。加熱・焼成によりアルコキシド成分が金属-酸素結合を形成した場合には、無機微粒子と接合相は同一の化学組成を有することになる。同一の化学組成を有するとは、無機微粒子と接合相とを形成する無機化合物の構成元素の種類が一致していることを意味する。
本発明の分散液は、任意の色の基材に、任意の領域に絵具のように塗布し自然乾燥されることで、その基材表面において構造色を発現することができる。よって、本発明の分散液が適用される基材は、加熱等の製造工程で限定されることが少なく、有機基材、無機基材、天然素材など用途に応じて広く選択され得る。また、基体となる基材の形態は、所望の構造色が発現できる形態あれば特に限定されない。有機又は無機材料からなる成形品、繊維からなる紙や織布、天然素材を加工した部材等いずれの形態であっても構わない。
有機基材としては水系の分散液の基材表面への濡れ性を考慮して親水性の高い樹脂が好ましく、アクリル系、メタクリル系、ウレタン系、アミド系、ポリエステル系樹脂、これらの共重合体、セルロース系樹脂等が挙げられる。必要に応じて表面にオゾン処理等の化学的又は物理的な親水処理を施してもよく、親水層をコーティングしてもよい。または、アルコキシドの未反応成分の量を調節したり、溶媒や界面活性剤を添加したりする等の方法により、分散液の濡れ性を向上してもよい。これらの表面処理や成分調整により、親水性が低い樹脂にも分散液の塗布が可能となり得る。
無機基材としては、陶磁器、各種タイル、ガラス、カーボン、シリコンなどのセラミックス、大理石、大谷石、御影石等の天然石材、鉄、鋼、アルミ、チタン、金、銀、銅、プラチナ、各種合金等の金属が挙げられる。これらの無機材料を複数組み合わせた複合材料でもよい。塗布後に乾燥させ焼成する場合、大気中焼成で消失してしまうカーボン、酸化してしまうシリコンや金属等は、不活性雰囲気、真空雰囲気又は還元雰囲気で焼成を行う。無機基材の表面が多孔性で塗布した分散液が内部に浸透してしまう場合には、基材表面に下地層を設けてもよい。例えば、釉薬をコーティングして焼成することにより、ガラス質の下地層を設けてもよい。また、下地層を暗色にして背景色とすることで構造色を強調してもよい。
天然素材とその加工品としては、和紙や洋紙等の紙、無垢材、集成材や合板等の木材、綿や麻等の繊維、牛や豚等の皮革等が挙げられる。同様に基材の表面が多孔性で分散液が内部に浸透してしまう場合には下地層を設けてもよい。
本発明の分散液の基材への適用手段は、成形品や完成品の表面に塗布することに限定されない。例えば、接着剤としてのバインダー成分を分散液に添加し乾燥させることにより、または、分散液を乾燥させた粉末にバインダーを混ぜることにより、粉末状態に加工し、これを用いて基材表面又は表面近傍に周期構造を有する無機微粒子の集合体を形成させ構造色を発現させることも可能である。
本発明の分散液は、光の多重反射による高輝度発色や、見る角度によって色が変わる角度依存性のある発色が可能であり、美観に優れる。鑑賞の対象となる美術工芸品や装飾品等の製品に用いることができるだけでなく、新しい発色による新しいデザインが可能な分散液として、日用品や部材、構造材、工業製品の他、絵画、版画、染色や陶芸等の美術品の創作に用いることもできる。
具体的には、化粧品、食器類、花瓶、調理器具、筆記具、工具、紙、木工品、プラスチック製品、ゴム製品、服、バッグ、靴、帽子、袋、家電等の日用品とその部品、ジュエリー、アクセサリー、時計等の装飾品とその部品、携帯電話、スマートフォンなどの携帯型情報通信機器、及び電化製品のディスプレイパネル、筐体や部品、テーブル、机、棚等の家具の部材、屋根、壁、床、窓、ドアなどの建具や建材、風呂、便器、キッチン、洗面台等の住宅設備の部材、自転車、二輪車、自動車、電車、飛行機等の輸送機器のフレーム、ボディや内外装部品、記念碑、灯籠、墓石等の石材加工品、陶芸品や工芸品等が挙げられる。
また、濃色粒子を混ぜずに明度の高い基材に塗布した場合には、特定の観察角度で角度依存性のある発色を示す特徴を有すること、及び従来にはない特殊な分散液であることから、紙幣、金券、有価証券、身分証明書、保険証、チケット、証明書、契約書等の偽造防止の用途に用いることができる。
次に、本発明の製造方法は、無機微粒子の原料として用いるアルコキシドの一部を意図的に未反応のまま残すように反応を調整して、無機微粒子と、未反応かつ液体の状態のアルコキシド未反応成分とを含有する分散液を製造する。アルコキシドが加水分解され、その後の脱水縮合反応により無機微粒子の幼核、核が生成し、核が成長することによって無機微粒子が作製される。粒子の個数を決める幼核、核の生成と、幼核、核から粒子へと成長し粒子の大きさを決める粒成長の反応のバランス、及び反応に使用されるアルコキシドと未反応のままのアルコキシドの比率のバランスにより、色や光沢等の発色を調整することができる。
本発明では、アルコキシド原料から液相合成により、無機微粒子を作製し分散液を製造する。例えば、気相合成によっても粒度の揃った粒子を得ることはできるが、気相合成で回収される粒子はいくらか凝集しており、液中でこの凝集を完全に解いて単分散とすることや、凝集の程度を制御することが困難であることから、本発明においては液相合成を採用する。液相合成の中でも、アルコキシド法は、その反応速度のバランスを調整することにより、粒径を制御しながら無機微粒子を作製することができ、またアルコキシドの反応残を塗布層の接合強化、粒子の規則配列の維持、塗膜の光沢付与に利用することができることから、本発明においてアルコキシド法を採用する。
粒径の揃った無機微粒子の分散液を得るためには、無機微粒子の幼核、核をすばやく均質に生成させる必要がある。そのため、液相合成時の攪拌速度及び触媒添加速度は速いほど好ましい。液相合成の核生成や粒成長の工程において、超音波や加振機により外部からエネルギーを加えて合成反応を促してもよく、粒子を析出させる液の加熱あるいは冷却により核生成速度及び粒成長速度をコントロールしてもよい。
加水分解速度の低いアルコキシドを原料に用いる場合は、反応促進剤を添加して無機微粒子を作製する。無機微粒子の核を均質に生成させるためには、予めアルコキシド原料を水に溶解し反応させ、幼核を生成させた状態で反応促進剤を添加することが好ましい。これにより、無機微粒子の核が一斉に生成し、無機微粒子の粒径が揃う効果が得られる。
無機微粒子を成長させるための反応時間は、所望の粒径の無機微粒子を得られるように数分~数日の範囲で適宜調整される。用いるアルコキシド原料の種類、アルコキシド原料の配合比、反応促進剤の配合比、反応温度等の条件により異なるが、例えば、汎用の液体アルコキシド原料、アルコール、水、塩基性水溶液を用いて、室温にて撹拌のみで反応させる穏やかな条件下では、数時間~3日間の範囲で適宜調整される。
本発明の製造方法では、アルコキシド原料を完全に反応させず意図的に一部未反応状態の原料成分を残すように反応を調整して、分散液を調製する。合成における反応率のコントロールは、例えば、アルコキシド原料の配合比、反応促進剤の配合比、加水分解反応のために添加する水の配合比、温度、圧力、撹拌速度、溶解度パラメータ、反応時間の調節により、無機微粒子の核生成と粒子成長の速度を調節して行う。
分散液の塗布方法として、基材を分散液につけるディップコート、刷毛や筆による塗布、噴霧によるスプレーコーティングの他、基材の形状が平滑である場合は、バーコートやスピンコートが挙げられる。本発明では分散液を基材に直接塗布して周期構造を形成することができるため、任意の広い面積にわたって連続的に構造色を発現させることができる。また、無機基材が曲面を含んでいても均一に塗布することができ、基材の全面に塗布することも、噴霧による塗布で構造色の発色領域を点在させることも可能である。意図する発色表現に適した塗布方法を上記方法から任意に選ぶことができ、複数の塗布方法を組み合わせてもよい。
分散液は、アルコキシド原料から無機微粒子の核を生成し粒成長させた単分散の状態のまま、基材に塗布して用いるのが好ましい。一度、分散液の溶媒が蒸発し無機微粒子が凝集してしまうと、これを再度分散させ単分散の状態にすることは難しい。ただし、分散液を粒径の大きな母粒子に塗布して母粒子表面にて無機微粒子の規則配列構造を形成し、無機微粒子が被覆された被覆粒子を液に分散させる製造方法は、規則配列構造による構造発色を十分に活かすことができるため、好ましい。板状の母粒子を用いた場合には、ラメのような美観に優れる被覆粒子が分散する分散液が得られることから、特に好ましい。あるいは、かすかな発色を意図してデザインする場合においては、分散液の溶媒を蒸発させ凝集させた状態で用いてもよい。
母粒子の形状は前述の無機微粒子よりも大きな濃色粒子の形状と同様である。具体的には、雲母、黒雲母、カーボン、バーミキュライト、モンモリロナイト、カオリナイト、ベントナイト、スメクタイト、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化鉛、クロム酸鉛、金属粉、硫酸バリウム、硫酸鉄、モリブデン酸塩、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、レーキ顔料、蛍光顔料が例示される。また、濃色粒子を母粒子として被覆粒子を作製してもよい。
従来、化粧品等で用いられてきたラメは、板状粒子に薄膜を形成して干渉色を発現させて用いていたが、膜厚の僅かな違いにより意図しない色を発現してしまい色のコントロールが困難であった。一方、本発明の製造方法において得られる被覆粒子を含有する分散液においては、板状粒子の上に積み重なる無機微粒子が作る周期構造の周期間距離によって色が決まるため、膜厚の影響を受けることなく、意図した特定の色を均質に発現することができる。
以下、本発明の分散液及びその製造方法について、実施例及び比較例を参照して具体的に説明する。また、色彩や発色の説明を補足するために、図1(a)、2(a)、3(a)、4、6、7、8、9、11及び12に相当するカラー写真を、本出願と同日付の物件提出書に添付して提出する。なお、本発明はこれらの実施例等によって限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
[実施例1]
エタノール20g、水5g、及びオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)7.0gを混ぜ、スターラーで攪拌しながら1mol/Lアンモニア水を加えて室温で攪拌して酸化ケイ素微粒子を析出させた。アンモニア水の添加量は、6.0mL、7.0mLの2条件とし、24時間撹拌しつづけた。作製した2種の分散液それぞれを、約20mm×30mm角の大きさの黒雲母(東京サイエンス販売、実験用鉱物 黒雲母 商品No.MD011)に筆で塗布した。厚みを調整するために部分的に複数回コーティングした。
黒雲母に分散液を塗布して得られた2種の試料1及び2のデジタルカメラによる外観像を図1(a)及び2(a)に示す。数cmオーダーの広い面積にわたる色の発現が確認された。その色は、アンモニア水の添加量によって異なり、6mL試料(試料1)は緑色、7mL試料(試料2)は赤色を呈した。特に6mL試料においては、光沢のある輝度の高い発色が確認できた。
得られた2種の試料1及び2の走査型電子顕微鏡による倍率5万倍の拡大観察像を図1(b)及び2(b)に示す。両者とも、数百ナノメートルの大きさの揃った球状粒子が確認された。6mL試料では、粒子と粒子の間が埋まっている、いわゆる海島構造となっていることが分かった。一方、7mL試料では、粒子と粒子が、部分的に面あるいは点でつながり接合されている構造であることが分かった。6mL試料では、粒子の隙間が埋まることにより塗膜の最表面が平滑となったために光が正反射されやすくなり、光沢が増したと考えられる。
[比較例1]
アンモニア水の添加量を8mLとし、TEOS原料を完全に反応させたこと以外は、実施例1と同一の条件で、分散液及びこれを黒雲母に塗布した試料を得た。外観像を図3(a)に示す。青色が観察されたが、実施例1の試料と比較すると光沢に乏しく、また、塗膜は弱い力でも容易に剥離してしまった。
比較例1の試料の走査型電子顕微鏡による倍率5万倍の拡大観察像を図3(b)に示す。実施例1と同様に大きさの揃った球状粒子が確認されたが、実施例1の両試料とは異なり各々の粒子が互いにくっついておらず単独で存在する微構造であることが分かった。粒子同士が接合していない構造であるために、実施例1と比較して塗膜が容易に剥離したと考えられる。
[実施例2]
原料試薬の配合量を変えたこと以外は実施例1と同一の条件で12種の分散液を作製し、黒色のお椀型の陶磁器(東急ハンズ販売、茶碗 黒マット φ11cm 商品No.2401026303928)に室温で塗布した。陶磁器の外観像を図4に、走査型電子顕微鏡像を図5に、それぞれ示す。原料試薬の配合量及び得られた分散液に含まれる無機微粒子の個数平均径を表1に、陶磁器を上からみた時に観察された色を表2にまとめた。
試料のナンバリングは、TEOS原料の配合量を第1基準値、アンモニア水の配合量を第2基準値とし、配合量が少ない方から小さい番号を付した。無機微粒子の個数平均径は、5万倍で観察した走査型電子顕微鏡像において比較的境界が鮮明な10個の粒子の観察像から平均値を算出した。微構造観察において2水準の粒径から成る無機微粒子が確認された、No.2、8、9については、2水準とも個数平均径を計った。表2に示す観察された色は、肉眼によるものである。図5の走査型電子顕微鏡像から、全12種について、粒子が部分的に面または点で接合されていることを確認することができた。
Figure 2022037372000002
Figure 2022037372000003
概して、表1の原料配合量の範囲では、TEOSとアンモニア水の配合量が多いほど析出する無機微粒子の個数平均径が大きい傾向がみられたが、No.12のように両原料の配合量がある境界値を超えると一転して析出する粒子の径は小さくなり、極大値をもつことが分かった。Si源となるTEOSが境界値を超えて高濃度で存在すると、アンモニア水を添加した瞬間に粒子の核が多く生成するために、粒成長に使われるTEOS原料が少なくなった結果、No.12の無機微粒子の径が小さかったと考えられる。TEOS原料濃度が過剰である場合に作製される無機微粒子の粒径が小さくなる傾向は、水の添加量により水溶液濃度を変えたNo.8、9、10の比較においても、確認された。
水溶液濃度を変えた場合においては、図5の電子顕微鏡像から、水の添加量を少なくしたNo.8とNo.9で粒度が2水準となることが分かった。アンモニア水を添加する前に水を加えておくことで幼核が生成すると考えられ、水の配合量が少ない条件では幼核の生成が不十分な状態で反応を急激に促進するアンモニア水が添加されることになる。その結果、No.8とNo.9では、アンモニア水添加直後に成長した核と、遅れて成長した核の2つに分かれてしまい、粒度が2水準になったと考えられる。
陶磁器を真上からみた時に陶磁器の底部では、正反射光による高輝度発色が確認された。真上からの観察では、球状粒子が作る最密充填構造の積層面に垂直な方向からみていることを意味する。無機微粒子の積層により複数の周期面が存在するため、光がこれらの面で多重に反射され複数の光の位相が重なり合い、輝度の高い発色になったと考えられる。その色は、粒径357nmのNo.1試料で白青色であり、粒径が大きくなるにつれ、緑、黄緑、黄と長波長側の色になり、466nm(No.7)で赤色であった。それより大きい481nm(No.6)、508nm(No.11)で赤紫色、561nm(No.10)で緑色だった。
粒径が大きくなるほど、粒子の最密充填構造が作る周期の周期間距離が長くなり、それにより位相が揃い強め合って反射される光の波長も長くなった結果、観察された色が粒径とともに長波長側の色にシフトしたと考えられる。これらの正反射光による高輝度の色は、見る角度(光の角度)によって色が変わる角度依存性のある発色であり、例えば真上からの観察で見える赤色は、斜めから見ると橙色、黄緑色に変化した。
陶磁器はお椀状の形態であり曲面であるため、真上からの観察においては、陶磁器の内側面のカーブに応じて光の照射角度が異なる構造色を同時に検知している。粒径357nm(No.1)では内側面は青色のみしか見られなかったが、粒径378nm(No.2)では青色に加えて緑色が見られた。さらに大きい粒径398nm(No.3)では青、緑、橙、赤が見られ、まさに虹色と表現できる色彩を発現した。粒径が十分に大きいと、最密充填構造の周期間距離が光の波長の整数倍に相当して構造発色の条件を満たしうるため、多彩な発色が確認できたと考えられる。
従来、薄膜コーティングの干渉色を利用した虹色の発色が知られていたが、薄膜の場合は基材のわずかな凹凸や膜厚のわずかな違いにより、色が変わってしまい色のコントロールが難しい、逆に意図しない場合にも虹色になってしまうという課題があった。一方、本発明の構造色は、陶磁器基材の上に積み重なる無機微粒子が作る最密充填構造が、特定の色の光を強め合うように反射するメカニズムに由来しており、粒子が作る最密充填構造の周期間距離は、基材の凹凸や膜厚の影響を受けず、一定である。
そのため、意図した色を容易にコントロールして発現することができる。具体的には、図4に示す陶磁器の虹色発色は、色が陶磁器のカーブに応じた光の角度の違いのみに依存し、基材凹凸や膜厚の影響を受けないため、真上からの観察で同心円状となる虹色デザインが可能となる。この虹色デザインの発色は構造色特有の角度依存性があり、他の角度から観察すると、虹色が見える部位が変化する。
陶磁器の内側面では、虹色以外にも紫、青、緑色が観られた。波長が短い光ほど散乱されやすいため、これら低波長側の色が観られたと考えられる。拡散反射光によって発現する色は、角度依存性がなく、どの角度から見ても同じ色に見えた。
以上の粒径と色の関係を、実験結果をもとに、図6にまとめた。図6内に挿入した6本の直線は、最密充填構造の積層方向及びその垂直方向の周期面により強め合うように反射される光の波長と粒径の関係を表す直線であり、最密充填構造の積層面の面間隔の計算値を使用して傾きを決定した。例えば、No.1試料は粒径357nmであるので、図6の357nmを見ると、底面2周期と側面1周期の2つの直線と交わることが分かる。すなわち、図6から、底面で青色、それと垂直の側面で青緑色が見られると予想される。実際に図4の観察で青色のみが確認されたのは、青が緑に比べ波長が短く散乱されやすく発現しやすいためと考えられる。
同様に、図6においてNo.2試料の粒径378nmを見ると、底面2周期が緑の領域に十分に入っており、このことから、図4のように青~緑色のグラデーションが見られたと考えられる。さらに大きい粒径398nm(No.3)では、図6において側面1周期の直線が赤の波長域、底面2周期の直線が緑の波長域に入っていることが分かる。このことから、散乱されやすい低波長光の青色に加えて、お椀の下部から上部にかけて緑、黄、橙、赤と色が変化すると考えられ、図4で確認された虹色デザイン発現の現象を説明することができる。
さらに粒径が大きい粒径501nmのNo.8試料の内側面では、虹といえる多彩な色ではなく、青と紫のみが観られた。特筆すべきこととして、底に近い下部で青、上部が紫となっていることから、下部から上部にかけて低波長側の色にシフトすることが分かった。この色の順序は、前記虹色デザインの下部から上部にかけて長波長側の色にシフトする方向と逆である。図6の粒径501nm域では、側面1周期と底面2周期の直線が両者とも赤色の領域に入り赤色系の虹色が消失したこと、及び底面3周期が青、側面2周期が紫の波長域に入ったことにより、これまでと逆の色順のグラデーション発色を発現したことが説明できる。
さらに粒径が大きく550nm超となるNo.9、10試料では、虹色発色が確認されたが、部分的に白っぽく見え、色にムラがあった。分散液の無機微粒子が部分的に凝集していることが原因と考えられる。
球状粒子の最密充填構造を利用した構造発色技術に関し、従来技術においては、粒径の小さい粒子が好んで作製されてきた。特に、無機微粒子の場合は、粒径を大きくしようとアルコキシド原料の濃度を濃くすると、粒子が凝集してゲル化してしまい分散液が得られなかった。また、垂直方向の観察で、周期間距離が光の波長1周期分に相当する条件が、もっとも色を評価しやすく鮮明な発色になりやすいという理由も粒径の小さい粒子が使われてきた背景として考えられる。これら従来技術で対象としていた構造発色は、図6の「底面1周期」の直線に相当する。
従来から研究を続けてきた本発明者が当初対象とした範囲も、この域である。しかし、無機微粒子の粒径が大きい場合であっても粒径を高度に揃え、その最密充填構造が外力によって再配列しないよう図5に示したように粒子を互いに接合し微構造を固定することによって、波長の2周期に相当する光反射に由来する構造色であっても、斜め方向から観察した色であっても、鮮明に発現できることが分かった。このことにより、図4に示したNo.2~No.11試料のグラデーションのあるデザインひいては虹色デザインを発現することができたと言える。
[実施例3]
表3に示す原料配合量の条件で作製した4種の分散液A~Dを、白色の陶磁器(東急ハンズ販売、茶碗 白マット φ11cm 商品No.2401026303911)に筆で塗布した。分散液Aを陶磁器の底部に円を描くように塗布し、分散液B~Dをそれぞれ同心円状のラインを描くように陶磁器の内側面に塗布した。陶磁器の外観像を図7(a)及び(b)に示す。陶磁器の底部に分散液Aの塗膜による赤紫色と分散液Bの塗膜による緑色が確認されたが、他の色は目視で分からない程、かすかな色合いであった。例えるなら白色をベースとする宝石のような煌びやかな印象を受けるデザインが可能であることが分かった。基材として用いた白色の陶磁器が、下地において可視波長域の光を強く乱反射した結果、キラキラした外観になったと考えられる。
Figure 2022037372000004
[実施例4]
実施例3で使用した4種の分散液2gそれぞれに、黒色の絵具(サクラクレパス製、サクラマット水彩マルチBlack #49)0.05g及び水0.17gを添加し分散液A’~D’を作製した。分散液A’~D’を、それぞれ実施例3と同様に白色の陶磁器に塗布した。陶磁器の外観像を図8に示す。分散液A’、B’を塗布した領域では、実施例3よりも鮮明な色が視認された。実施例3のような煌びやかな発色とは異なった外観であるが、輝度の高い発色であり、光吸収を発色原理とする従来顔料とは異なる発色であった。
分散液に添加した黒色粒子が背景色として可視光を広い波長域にわたって吸収し、その結果、無機微粒子が作る周期構造による構造色と下地の色のコントラストが強調されたことにより、構造色を鮮明に視認できたと考えられる。分散液D’では構造色が弱く黒っぽい色となったが、分散液C’についても分散液A’、B’と同様のメカニズムにより、鮮明な青色の発色を確認することができた。また、分散液C’の青色は、正反射光の領域において赤紫色に見えることが分かった。
[実施例5]
実施例4で作製した分散液A’のみを、白色の陶磁器の底部に広い面積の円を描くように塗布した。陶磁器の外観像を図9に示す。陶器に対し真上からみた場合に赤紫色の高輝度発色が、斜め方向からみた場合に橙色や黄緑色の高輝度発色が確認され、構造色特有の角度依存性のある発色であることを確認できた。分散液A’の溶媒を蒸発させて得られた粉を走査型電子顕微鏡で2千倍及び2万倍で観察した拡大観察像を図10(a)及び(b)に示す。
数百ナノメートルの無機微粒子が、点または面で互いに接合した状態で、凝集体を形成している微構造であることが分かった。粒径が高度に揃った無機微粒子同士が互いに接合することによって、外力によって粒子が再配列することなく周期構造を維持することにより、高度な規則配列構造とその維持が可能となり、構造色特有の光の多重反射による高輝度発色、及び斜め方向の周期構造の形成による角度依存性のある発色が可能となったと考えられる。
[実施例6]
表4に示す原料配合量の条件で作製した4種の分散液E~Hを、白色の紙にそれぞれ直線を描くように筆で塗布した。塗布後の外観像を図11に示す。色は微かであったが、実施例3の白色の陶磁器に塗布した時と同様に、光の強め合いの条件を満たす特定の観察角度においては、キラキラとした発色が観られた。その色は、塗布面の垂直方向となる真上から観察した場合は、分散液Eが青、Fが青緑、Gが緑、Hが黄緑であった。分散液Eの塗膜を斜めから観察すると赤に見え、さらに低い角度からの観察では黄色に見えた。分散液Fも同様に青緑から紫、低角では赤に変わり、分散液Gでは緑から青、低角では紫に変わった。このように、角度依存性のある発色が確認された。
Figure 2022037372000005
実施例6で使用した4種の分散液2gそれぞれに、黒色の絵具(サクラクレパス製、サクラマット水彩マルチBlack #49)0.3gを添加し分散液E’~H’を作製した。分散液E’~F’を、それぞれ実施例6と同様に白色の紙に塗布した。塗布後の外観像を図12に示す。正反射光の領域では宝石のような輝度の高い発色であり、光吸収を発色原理とする従来顔料とは異なる発色であった。垂直方向からの観察で、分散液Eが青、Fが青緑、Gが緑、Hが黄緑であり、斜めから観察すると、実施例6の時と同様に色が変わった。
分散液H’についても低角度からの観察において紫色の高輝度発色が確認された。陶磁器に塗布した実施例4の場合と同様に、分散液に添加した黒色粒子が背景色として可視光を広い波長域にわたって吸収し、その結果、無機微粒子が作る周期構造による構造色と下地の色のコントラストが強調されたことにより、実施例6と比較して構造発色が鮮明になったと考えられる。
本発明の分散液は、無機微粒子と未反応のアルコキシド成分から構成され、耐熱性、機械的強度、硬度、耐摩耗性、化学的安定性、耐食性、耐候性に優れる構造色を呈する塗膜を形成することができる。その発色は、構造色特有の高輝度発色、角度依存性のある発色を、黒色粒子のような添加物を加えた場合であっても実現することができる。特に、粒径375nm以上の無機微粒子を用いることで、わずかな光の角度に違いによって色が変わる多彩な発色を可能とすることができ、同心円状の虹色デザインを施すことも可能となる。
黒色粒子のような、背景色として濃色の粒子を添加することにより、明度の高い基材に塗布した場合であっても鮮明に構造色を発現することができる。特に板状の粒子に無機微粒子を塗布した場合には、構造色特有の発色を顕著に発現することができる。濃色粒子を添加せずに明度の高い基材に塗布した場合には、キラキラとした宝石のような外観となる。これらの効果を、レアメタルフリーで、価格、人体有害性、環境負荷が低い、酸化ケイ素や酸化アルミニウムなどの無機微粒子を用いて発現することも可能である。
また、本発明の分散液は、汎用な液体原料を室温で混合するのみによって製造することができ、製造設備の初期投資がごくわずかであり、原料を含めた製造コストが低く安全で環境負荷が少ない。さらに、本発明の加飾品は、構造色特有の高輝度発色及び角度依存性のある発色を、任意の領域に連続して発現することができ、従来にはない優れた美観を備えている。
すなわち、本発明の分散液、その製造方法及びそれを用いた加飾品は、化粧品、食器類、花瓶、調理器具、筆記具、工具、紙、木工品、プラスチック製品、ゴム製品、服、バッグ、靴、帽子、袋、家電等の日用品とその部品、ジュエリー、アクセサリー、時計等の装飾品とその部品、携帯電話、スマートフォンなどの携帯型情報通信機器、及び電化製品のディスプレイパネル、筐体や部品、テーブル、机、棚等の家具の部材、屋根、壁、床、窓、ドアなどの建具や建材、風呂、便器、キッチン、洗面台等の住宅設備の部材、自転車、二輪車、自動車、電車、飛行機等の輸送機器のフレーム、ボディや内外装部品、記念碑、灯籠、墓石等の石材加工品、陶芸品や工芸品等に用いることができ、様々な産業分野において産業の発展に寄与することが期待される。

Claims (7)

  1. 略球状の無機微粒子と、該無機微粒子の原料であるアルコキシドの一部が未反応かつ液体の状態で存在する未反応成分とを含有する分散液であって、前記無機微粒子の1次粒子の個数平均径、粒度分布及び無機微粒子の含有比に由来して、前記無機微粒子が略規則的に配列して形成された集合体が構造色を発現する、分散液。
  2. 無機微粒子の1次粒子の個数平均径が375~550nmである、請求項1に記載の分散液。
  3. さらに、濃色粒子を含有する、請求項1又は2に記載の分散液。
  4. 濃色粒子が板状である、請求項3に記載の分散液。
  5. 水を含有する液に予めアルコキシド原料を溶解させ、これに反応促進剤を添加することにより無機微粒子を析出させて、該無機微粒子及び前記アルコキシド原料の一部が未反応かつ液体の状態で存在する未反応成分を含有する分散液を調製する工程を含む、請求項1乃至4の何れかに記載の分散液の製造方法。
  6. さらに、母粒子表面に無機微粒子及び未反応成分を含有する分散液を塗布して被覆粒子を調製する工程と、前記被覆粒子を液中に分散させる工程とを含む、請求項5に記載の分散液の製造方法。
  7. 請求項1乃至4の何れかに記載の分散液から形成された無機微粒子が略規則的に配列した集合体及び未反応成分からなる接合相と、基体となる基材とを含み、
    前記無機微粒子が前記基材表面に略規則的に配列して集合体が形成されており、該集合体を形成する前記無機微粒子の一部又は全部が前記接合相により接合されており、前記無機微粒子の粒径及び規則的配列に由来する構造色を発現している領域を有する、加飾品。

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