JP2022026597A - 異物環境下において優れた転動疲労特性を発揮する鋼部品用浸炭鋼 - Google Patents
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Abstract
【課題】表面硬さおよび残留オーステナイト量の適正化に加え、焼き戻し軟化抵抗性を備えることで、金属すべりの発生に際し組織の軟化を抑制し、異物環境下において優れた転動疲労特性を発揮する鋼部品用浸炭鋼の提供。【解決手段】化学成分が質量%で、C:0.13~0.35%、Si:0.30~0.85%、Mn:0.15~0.35%、P:≦0.030%、S:≦0.030%、Cr:1.60~2.00%、Al:0.010~0.050%、N:50~200ppm、B:≦50ppmを主成分とし、選択元素としてMo:0.10~0.40%、Nb:0.02~0.10%のどちらか一方もしくは両方を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、5.8<6.4Si+2.4Cr+Mo<8.2の式を満足し、さらに浸炭後の表面の硬さが700Hv以上かつ表面残留オーステナイト量が10%~20%の鋼部品用浸炭鋼である。【選択図】なし
Description
この発明は、転動鋼部品用浸炭鋼に関する。とりわけ、異物が混入した汚れ油中などの異物環境下においても優れた転動疲労特性を発揮する鋼部品用浸炭鋼に関する。
従来、機械構造用転動部品には、JIS鋼ではSUJ2やSCM420等が使用されてきた。これらの鋼種をクリーンな環境下において長寿命化させるには、剥離起点となり得る鋼中非金属介在物を低減させることが有効であることはよく知られている。
一方、これらの鋼種を、潤滑油中にギアの擦り合わせで生じる摩耗粉などの異物が混入する環境下で用いると、表面起点型の剥離が生じて、著しく寿命が低下してしまう問題が起こる。まず、転動部品の間に異物が噛み込むことで部品の表面に圧痕が生じ、さらに部品が転動することで圧痕盛り上がり部に応力が集中するなどしていくと、やがて表面を起点とした剥離が生じるからである。
一方、これらの鋼種を、潤滑油中にギアの擦り合わせで生じる摩耗粉などの異物が混入する環境下で用いると、表面起点型の剥離が生じて、著しく寿命が低下してしまう問題が起こる。まず、転動部品の間に異物が噛み込むことで部品の表面に圧痕が生じ、さらに部品が転動することで圧痕盛り上がり部に応力が集中するなどしていくと、やがて表面を起点とした剥離が生じるからである。
そこで、このような異物が混入しやすい環境下では、例えば自動車に使用される自動変速機(AT)中では、摩耗粉の発生は避け難いため、転動疲労特性を改善するには、鋼材側での対策が重要となる。
そこで、寿命の改善のために、圧痕の生成抑制や、圧痕盛り上がり部の応力集中の低減が効果的であろうと考えられてきた。それには、転動部品の表面が異物よりも硬いことや、残留オーステナイト量を適正化することが有効な手段となりうることから、これまでにも、これら2つの要素に着目した提案がなされている。
例えば、異物が混入した汚れ油中で使用される浸炭窒化軸受鋼を重量%でC:0.1~0.4%、Si:≦1.0%、Mn:1.5超~3%、P:≦0.03%、S:≦0.03%、Cr:0.3~2.5%、Al:0.005~0.050%、Ti:≦0.003%、O:≦0.0015%、N:≦0.025%、残部不可避的不純物及びFeからなる組成を有するものとなし且つ浸炭窒化処理若しくはその後の2次焼入れ焼戻し処理後の表面硬さが58HRC以上で、且つ表面残留オーステナイト量が20~50%とする異物混入環境下での転動疲労寿命に優れた浸炭窒化軸受鋼が提案されている(特許文献1参照)。
また、異物が混入した汚れ油中で使用される転がり部品について、C:0.15~0.45重量%、Cr:1.2~1.6重量%、Si:0.35~0.55重量%およびMn:0.35~0.65重量%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼よりなり、浸炭処理を含む熱処理が施されて転動面の表面部のCが0.9~2.0重量%となされるとともに、表面硬さがロックウェルC硬さで63以上となされ、浸炭層に微細球状炭化物が析出させられ、球状炭化物の平均粒径が5μm以下でかつその量が面積率で40%以下となされているとともに、球状炭化物の70%以上の粒径が5μm以下となされており、さらに浸炭層の残留オーステナイト量が20~40%となされている転がり部品の発明も提案されている(特許文献2参照)。
上述の先行特許に係る発明では、表面の炭素濃度を多めに規定することや浸炭窒化を施すことで必要な表面硬さを得ており、加えて残留オーステナイト量を20~40%もしくは20~50%必要としている。
しかしながら、より安定的な寿命を得るためには、単に転動部品の表面を硬くしたり、残留オーステナイト量の適正化を図るだけでは不十分である。なぜなら、圧痕盛り上がり部において金属すべりが発生し、その摩擦熱により組織が軟化してしまうと応力に耐えられなくなり、亀裂が生じてしまうからである。
しかしながら、より安定的な寿命を得るためには、単に転動部品の表面を硬くしたり、残留オーステナイト量の適正化を図るだけでは不十分である。なぜなら、圧痕盛り上がり部において金属すべりが発生し、その摩擦熱により組織が軟化してしまうと応力に耐えられなくなり、亀裂が生じてしまうからである。
そこで、本発明が解決する課題は、転動部品の表面が硬いこと、残留オーステナイト量の適正化に加えて、焼き戻し軟化抵抗性に好影響を与える元素量を規定することで、金属すべり発生時の軟化を抑制した、異物混入環境下においても優れた転動疲労特性を発揮しうる鋼部品用浸炭鋼を提供することである。
上記の課題を解決するための本発明の手段は、鋼部品用浸炭鋼の浸炭後の表面硬さと残留オーステナイト量を規定し、さらに焼き戻し軟化抵抗性を高めるためにCr、SiおよびMoの量のバランスを限定するものである。そこで、式(1)の値X=6.4Si+2.4Cr+Moが所定の範囲(5.8~8.2)を満足することを規定することとした。
また、浸炭後において表面の硬さが700Hv以上、表面残留オーステナイト量を10%~20%となる鋼が得られるものとした。このように、本発明は、表面硬さと適切な残留オーステナイト量を得られることに加えて、Cr、SiおよびMoの量のバランスを調整することによって、軟化抵抗性が高い鋼が得られることを見出したものである。
また、浸炭後において表面の硬さが700Hv以上、表面残留オーステナイト量を10%~20%となる鋼が得られるものとした。このように、本発明は、表面硬さと適切な残留オーステナイト量を得られることに加えて、Cr、SiおよびMoの量のバランスを調整することによって、軟化抵抗性が高い鋼が得られることを見出したものである。
すなわち、本発明の課題を解決するための第1の手段は、化学成分が質量%で、C:0.13~0.35%、Si:0.30~0.85%、Mn:0.15~0.35%、P:≦0.030%、S:≦0.030%、Cr:1.60~2.00%、Al:0.010~0.050%、N:50~200ppm、B:≦50ppm、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
5.8<6.4Si+2.4Cr+Mo<8.2・・・式(1)を満足し、
浸炭後の表面の硬さが700Hv以上であって、かつ、表面残留オーステナイト量が10%~20%であることを特徴とする鋼部品用浸炭鋼である。
ただし、式(1)中の各元素記号には当該化学成分の含有質量%の値を代入する。
5.8<6.4Si+2.4Cr+Mo<8.2・・・式(1)を満足し、
浸炭後の表面の硬さが700Hv以上であって、かつ、表面残留オーステナイト量が10%~20%であることを特徴とする鋼部品用浸炭鋼である。
ただし、式(1)中の各元素記号には当該化学成分の含有質量%の値を代入する。
その第2の手段は、化学成分が質量%で、C:0.13~0.35%、Si:0.30~0.85%、Mn:0.15~0.35%、P:≦0.030%、S:≦0.030%、Cr:1.60~2.00%、Al:0.010~0.050%、N:50~200ppm、B:≦50ppmを主成分とし、さらに選択元素としてMo:0.10~0.40%、Nb:0.02~0.10%のいずれか一方もしくは両方を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
5.8<6.4Si+2.4Cr+Mo<8.2・・・式(1)を満足し、
浸炭後の表面の硬さが700Hv以上であって、かつ、表面残留オーステナイト量が10%~20%であることを特徴とする鋼部品用浸炭鋼である。
ただし、式(1)中の各元素記号には当該化学成分の含有質量%の値を代入する。
5.8<6.4Si+2.4Cr+Mo<8.2・・・式(1)を満足し、
浸炭後の表面の硬さが700Hv以上であって、かつ、表面残留オーステナイト量が10%~20%であることを特徴とする鋼部品用浸炭鋼である。
ただし、式(1)中の各元素記号には当該化学成分の含有質量%の値を代入する。
本発明の手段によると、浸炭された鋼は、異物が混入する環境下において金属すべりが生じたとしても軟化が抑制される鋼部品用浸炭鋼となるので、この鋼を用いることで長寿命な転動部品を好適に得ることができる。
すなわち、本発明の浸炭鋼は浸炭後の高い表面硬さ、適正な残留オーステナイト量に加え、高い焼き戻し軟化抵抗性を同時に有することで、異物環境下における転動部品の長寿命化が達成できる。
本発明の実施の形態の説明に先立ち、まず、本発明における浸炭鋼の各化学組成を規定する理由を述べる。以下に示す%は、質量%のことである。
C:0.13~0.35%
Cは、機械構造用部品として好適な浸炭処理後の浸炭層ならびに芯部強度を確保するために必要な元素である。Cが0.13%未満ではその効果が十分に得られず、反対に0.35%を超えると芯部の靭性を低下させる。そのためCは0.13~0.35%とする。望ましくはCは0.15~0.30%とする。
Cは、機械構造用部品として好適な浸炭処理後の浸炭層ならびに芯部強度を確保するために必要な元素である。Cが0.13%未満ではその効果が十分に得られず、反対に0.35%を超えると芯部の靭性を低下させる。そのためCは0.13~0.35%とする。望ましくはCは0.15~0.30%とする。
Si:0.30~0.80%
Siは、鋼の溶製時の脱酸に必要な元素であり、焼き入れ性および焼き戻し軟化抵抗を向上させ、金属すべり等による発熱で高温となる環境において強度低下を抑える効果を持つ元素である。もっとも、Siが0.25%未満では脱酸効果が十分でなく、Siが0.8%を超えると加工性を低下させる。そこで、Siは0.25~0.8%とする。望ましくはSiは0.35~0.65%とする。
Siは、鋼の溶製時の脱酸に必要な元素であり、焼き入れ性および焼き戻し軟化抵抗を向上させ、金属すべり等による発熱で高温となる環境において強度低下を抑える効果を持つ元素である。もっとも、Siが0.25%未満では脱酸効果が十分でなく、Siが0.8%を超えると加工性を低下させる。そこで、Siは0.25~0.8%とする。望ましくはSiは0.35~0.65%とする。
Mn:0.15~0.35%
Mnは、鋼の溶製時の脱酸に必要な元素であるとともに、焼入性を向上させ、また浸炭後の残留オーステナイト量を増加させる元素である。Mnが0.15%未満では脱酸効果が十分ではない。Mnが0.35%を超えると残留オーステナイトが過多となるため、強度が低下する。そこで、Mnは0.15~0.35%とする。より好ましくはMnは0.20~0.30%とする。
Mnは、鋼の溶製時の脱酸に必要な元素であるとともに、焼入性を向上させ、また浸炭後の残留オーステナイト量を増加させる元素である。Mnが0.15%未満では脱酸効果が十分ではない。Mnが0.35%を超えると残留オーステナイトが過多となるため、強度が低下する。そこで、Mnは0.15~0.35%とする。より好ましくはMnは0.20~0.30%とする。
P:≦0.030%
Pは不可避的不純物である。Pが0.030%を超えると、粒界偏析によって靱性が低下することとなる。そこで、Pは0.030%以下とする。
Pは不可避的不純物である。Pが0.030%を超えると、粒界偏析によって靱性が低下することとなる。そこで、Pは0.030%以下とする。
S:≦0.030%
Sは不可避的不純物である。Sが0.030%を超えると、MnSの形成によって靱性が低下し、疲労強度も低下する。そこで、Sは0.030%以下とする。
Sは不可避的不純物である。Sが0.030%を超えると、MnSの形成によって靱性が低下し、疲労強度も低下する。そこで、Sは0.030%以下とする。
Cr:1.60~2.00%
Crは焼き入れ性向上により強度を向上させ、焼き戻し軟化抵抗性を向上させることにより高温時の強度低下を抑制し、耐摩耗性を向上させる効果を有する。また、残留オーステナイトを安定化させることで残留オーステナイトの減少を妨げる効果がある。しかし、Crが2.00%を超えると素材硬さが上昇することで加工性の低下、粗大な炭化物形成により疲労強度の低下につながる。また、Cr量が多すぎると浸炭時において鋼材表面にCr系主体の酸化被膜が形成し、浸炭を阻害する。そこで、Crは1.60~2.00%とする。好ましくはCrは1.70~1.90%とする。
Crは焼き入れ性向上により強度を向上させ、焼き戻し軟化抵抗性を向上させることにより高温時の強度低下を抑制し、耐摩耗性を向上させる効果を有する。また、残留オーステナイトを安定化させることで残留オーステナイトの減少を妨げる効果がある。しかし、Crが2.00%を超えると素材硬さが上昇することで加工性の低下、粗大な炭化物形成により疲労強度の低下につながる。また、Cr量が多すぎると浸炭時において鋼材表面にCr系主体の酸化被膜が形成し、浸炭を阻害する。そこで、Crは1.60~2.00%とする。好ましくはCrは1.70~1.90%とする。
Al:0.010~0.050%
Alは、脱酸のために必要な元素である。しかし、0.010%未満ではその効果が十分得られない。他方、Alの添加量を0.050%を超えて増やすと、鋼中に生成されるアルミナ系介在物が増加することにより、疲労強度が低下する。
そこでAlは0.010~0.050%とする。より好ましくはAlは0.010~0.030%とする。
Alは、脱酸のために必要な元素である。しかし、0.010%未満ではその効果が十分得られない。他方、Alの添加量を0.050%を超えて増やすと、鋼中に生成されるアルミナ系介在物が増加することにより、疲労強度が低下する。
そこでAlは0.010~0.050%とする。より好ましくはAlは0.010~0.030%とする。
N:50~200ppm
Nはオーステナイトを安定化させる効果を有する。Nが50ppm以下ではその効果が十分に得られない。他方、Nが200ppmを超えて含有すると窒化物が多くなってしまい疲労強度が低下する。そこで、Nの含有量を50~200ppmとする。より好ましくはNは50~150ppmとする。
Nはオーステナイトを安定化させる効果を有する。Nが50ppm以下ではその効果が十分に得られない。他方、Nが200ppmを超えて含有すると窒化物が多くなってしまい疲労強度が低下する。そこで、Nの含有量を50~200ppmとする。より好ましくはNは50~150ppmとする。
B:≦50ppm
Bは焼き入れ性を向上させるとともにPの粒界析出を阻害することで靭性を向上させる働きを有する元素である。もっとも、50ppmを超えるとその効果は飽和する。そこでBは50ppm以下とする。
Bは焼き入れ性を向上させるとともにPの粒界析出を阻害することで靭性を向上させる働きを有する元素である。もっとも、50ppmを超えるとその効果は飽和する。そこでBは50ppm以下とする。
MoとNbは選択的な付加的元素であり、本発明において、いずれか1種あるいは双方を含有させることができる。
Mo:0.10~0.40%
Moは選択的付加元素の1つである。焼き入れ性向上および靭性向上に有効な元素であり、さらに焼き戻し軟化抵抗性の向上にも有効である。しかし、Moが過多になると加工性の低下および素材コストの上昇につながってしまう。そのため含有量を0.010~0.040%とする。
Moは選択的付加元素の1つである。焼き入れ性向上および靭性向上に有効な元素であり、さらに焼き戻し軟化抵抗性の向上にも有効である。しかし、Moが過多になると加工性の低下および素材コストの上昇につながってしまう。そのため含有量を0.010~0.040%とする。
Nb:0.02~0.10%
Nbは選択元素の1つである。C、Nと炭窒化物を形成し、ピンニング効果により結晶粒が微細化することで疲労強度が向上する。しかしながら、Nb含有量が高すぎれば、鋼の靭性が低下する。そのため含有量を0.02~0.10%とする。
Nbは選択元素の1つである。C、Nと炭窒化物を形成し、ピンニング効果により結晶粒が微細化することで疲労強度が向上する。しかしながら、Nb含有量が高すぎれば、鋼の靭性が低下する。そのため含有量を0.02~0.10%とする。
次に、浸炭後の表面の硬さを限定した理由を述べる。
(浸炭後の表面硬さが700Hv以上であること)
表面硬さが700Hv未満であると、転動部品、例えば軸受などを異物が混入した潤滑油中で使用した場合に部品の表面に剥離起点となる圧痕が形成しやすくなるとともに耐摩耗性が低下して部品の寿命が短くなるからである。そこで、表面硬さは700Hv以上とする。
(浸炭後の表面硬さが700Hv以上であること)
表面硬さが700Hv未満であると、転動部品、例えば軸受などを異物が混入した潤滑油中で使用した場合に部品の表面に剥離起点となる圧痕が形成しやすくなるとともに耐摩耗性が低下して部品の寿命が短くなるからである。そこで、表面硬さは700Hv以上とする。
浸炭後の表面の残留オーステナイト量を限定した理由を述べる。
(浸炭後の表面残留オーステナイト量は10%~20%)
浸炭後の表面の残留オーステナイト量が10%未満であると、靭性が低下するとともに亀裂進展速度が速くなることで、部品の摺動部などでの異物噛み込み時の応力が緩和できなくなる。浸炭後の表面残留オーステナイト量が20%を超えると、必要な表面硬さが確保できなく、転動部品の寿命が短くなる。そこで、浸炭後の表面残留オーステナイト量は10%~20%とする。
(浸炭後の表面残留オーステナイト量は10%~20%)
浸炭後の表面の残留オーステナイト量が10%未満であると、靭性が低下するとともに亀裂進展速度が速くなることで、部品の摺動部などでの異物噛み込み時の応力が緩和できなくなる。浸炭後の表面残留オーステナイト量が20%を超えると、必要な表面硬さが確保できなく、転動部品の寿命が短くなる。そこで、浸炭後の表面残留オーステナイト量は10%~20%とする。
5.8<6.4Si+2.4Cr+Mo<8.2・・・式(1)
Cr、SiおよびMoの量を規定の範囲になるようバランスさせることによって、軟化抵抗性が高い鋼が得られる。そこで、式(1)として、5.8<6.4Si+2.4Cr+Mo<8.2を規定した。なお、式(1)中の各元素記号には、当該化学成分の含有質量%を代入する。
すなわち、鋼の成分に基づく6.4Si+2.4Cr+Moの値が、本発明の手段に規定の5.8超~8.2未満の範囲を満足する場合には、焼き戻し軟化抵抗が向上し、圧痕盛り上がり部において金属発生したとしても亀裂の発生を抑制することができる。
Cr、SiおよびMoの量を規定の範囲になるようバランスさせることによって、軟化抵抗性が高い鋼が得られる。そこで、式(1)として、5.8<6.4Si+2.4Cr+Mo<8.2を規定した。なお、式(1)中の各元素記号には、当該化学成分の含有質量%を代入する。
すなわち、鋼の成分に基づく6.4Si+2.4Cr+Moの値が、本発明の手段に規定の5.8超~8.2未満の範囲を満足する場合には、焼き戻し軟化抵抗が向上し、圧痕盛り上がり部において金属発生したとしても亀裂の発生を抑制することができる。
以下に本発明の実施の形態について、適宜表を参照しつつ説明する。
まず、表1に記載の成分A~Pの化学組成の100kg鋼塊をそれぞれ真空溶解炉にて溶製した。その後、これらの鋼を1250℃で熱間鍛伸して直径64mmの棒鋼とし、900℃で4時間保持する焼きならし処理を行うことで各供試材を得た。
まず、表1に記載の成分A~Pの化学組成の100kg鋼塊をそれぞれ真空溶解炉にて溶製した。その後、これらの鋼を1250℃で熱間鍛伸して直径64mmの棒鋼とし、900℃で4時間保持する焼きならし処理を行うことで各供試材を得た。
<特性の評価について>
各供試材の特性については、(1)浸炭後の表面硬さ(Hv硬さ試験機を用いて測定する。)、(2)浸炭後の表面残留オーステナイト量(浸炭後に試験片を切り出し、X線回折装置を用いて測定する。)、(3)焼き戻し軟化抵抗性(HRC硬さ試験機を用いて測定する。)、(4)耐剥離特性(スラスト型摩擦摩耗試験機を用いて測定する。)によって評価した。
各供試材の特性については、(1)浸炭後の表面硬さ(Hv硬さ試験機を用いて測定する。)、(2)浸炭後の表面残留オーステナイト量(浸炭後に試験片を切り出し、X線回折装置を用いて測定する。)、(3)焼き戻し軟化抵抗性(HRC硬さ試験機を用いて測定する。)、(4)耐剥離特性(スラスト型摩擦摩耗試験機を用いて測定する。)によって評価した。
(1)浸炭後の表面硬さ
上記の各供試材を用いて、図1に示すスラスト型試験片を作製した。その後、図2に示す条件にて一般的なガス浸炭を行い、最後に表面研磨を行うことで規定寸法の試験片を作製した。
なお、本発明鋼の浸炭面に対してEPMA分析を行ったところ、表面のC濃度は0.6%以上であり、十分に浸炭できていることが確かめられた。
Hv硬さ試験機を用いて試験片の試験面の任意の箇所を5回、荷重300kgfで測定し、その平均値をビッカース硬さとした。
上記の各供試材を用いて、図1に示すスラスト型試験片を作製した。その後、図2に示す条件にて一般的なガス浸炭を行い、最後に表面研磨を行うことで規定寸法の試験片を作製した。
なお、本発明鋼の浸炭面に対してEPMA分析を行ったところ、表面のC濃度は0.6%以上であり、十分に浸炭できていることが確かめられた。
Hv硬さ試験機を用いて試験片の試験面の任意の箇所を5回、荷重300kgfで測定し、その平均値をビッカース硬さとした。
(2)浸炭後の表面残留オーステナイト量
浸炭後スラスト型試験片の試験面に対して、X線回折測定行った。その後、マルテンサイト相とオーステナイト相の回折X線強度分布の積分強度を用いて残留オーステナイト量の体積分率を算出した。
浸炭後スラスト型試験片の試験面に対して、X線回折測定行った。その後、マルテンサイト相とオーステナイト相の回折X線強度分布の積分強度を用いて残留オーステナイト量の体積分率を算出した。
(3)焼き戻し軟化抵抗性
軟化抵抗性は、浸炭後の試験片から15mmのブロック材を切り出したものを試験に供した。これらのブロック材を300℃に保持したカンタル炉に装入し、10時間加熱保持し、空冷後の硬さをHv硬さ試験機を用いて試験片の試験面の任意の箇所を5回、荷重300kgfで測定し、その平均値と熱処理前の元の硬さとの変化量を軟化抵抗性の評価とした。
軟化抵抗性は、浸炭後の試験片から15mmのブロック材を切り出したものを試験に供した。これらのブロック材を300℃に保持したカンタル炉に装入し、10時間加熱保持し、空冷後の硬さをHv硬さ試験機を用いて試験片の試験面の任意の箇所を5回、荷重300kgfで測定し、その平均値と熱処理前の元の硬さとの変化量を軟化抵抗性の評価とした。
(4)耐剥離特性
耐剥離特性はスラスト型摩擦摩耗試験機を用いて、表2に示す条件にて試験を行い、剥離までのサイクル数を評価した。表3の耐剥離特性には比較鋼Iに挙げたJIS鋼SCM420との寿命比を示す。
耐剥離特性はスラスト型摩擦摩耗試験機を用いて、表2に示す条件にて試験を行い、剥離までのサイクル数を評価した。表3の耐剥離特性には比較鋼Iに挙げたJIS鋼SCM420との寿命比を示す。
以上のとおり、成分A~Pの鋼を用いて上記(1)~(4)の評価を行った。本発明鋼A~H、比較鋼I~Pの評価結果を表3に示す。
本発明鋼A~Hは本発明の規定する化学組成、表面硬さと残留オーステナイト量およびその組成が式(1)の値が規定の範囲を満たす本発明鋼である。これら発明鋼は、いずれも、必要な表面硬さおよび残留オーステナイト量が得られており、焼き戻し軟化抵抗性が十分得られているため、良好な転動疲労寿命が得られた。
比較鋼IはJIS鋼SCM420と同様の化学組成である。本発明の規定する化学組成よりもSiとCrが少なく、加えて式(1)の値が規定の範囲を満たしていない。Siが少ないため脱酸効果が十分ではなく、粗大な酸化物が見られた。また、Crも少ないため、焼き戻し軟化抵抗性は低い。
比較鋼JはCが下限よりも少なく、本発明の規定を満たさない比較鋼である。芯部硬さが十分ではなかったため、良好な耐剥離性能を発揮できなかった。
比較鋼KはSiが上限よりも多く、本発明の規定を満たさない比較鋼である。式(1)の値が規定の範囲を満足していないため、焼き戻し軟化抵抗性が低く、耐剥離特性が低い。
比較鋼LはMnが上限よりも多く、本発明の規定を満たさない比較鋼である。Mnが多いため浸炭後の残留オーステナイト量が多く、表面硬さも低い。
比較鋼MはCrが上限よりも多く、本発明の規定を満たさない比較鋼である。Cr量が多いため粗大な炭化物が多く形成していることを確認した。また、浸炭時の浸炭を阻害しているため表面硬さも低い。
比較鋼NはMoが上限よりも多く、本発明の規定を満たさない比較鋼である。式(1)の値が規定の範囲を満足していないため、焼き戻し軟化抵抗性が低く、耐剥離特性が低い。
比較鋼OはNbが上限よりも多く、本発明の規定を満たさない比較鋼である。Nbの含有量が高すぎるため、炭窒化物が多く形成しすぎていることを確認した。
比較鋼PはSiとCrが下限よりも少なく、本発明の規定を満たさない比較鋼である。SiとCrが少なく、加えて式(1)の値が本発明の規定の範囲を満たしていない。Siが少ないため脱酸効果が十分ではなく、粗大な酸化物が見られた。また、Crも少ないため、焼き戻し軟化抵抗性は低い。
以上から、鋼が高い表面硬さと適正な残留オーステナイト量を有しているだけでは耐剥離特性が向上するとは限らず、これらに加え、本発明の規定する化学組成であって、さらに式(1)の値が規定の範囲を満足するときに、異物環境下において優れた転動疲労寿命を発揮させることができることがわかる。
Claims (2)
- 化学成分が質量%で、C:0.13~0.35%、Si:0.30~0.85%、Mn:0.15~0.35%、P:≦0.030%、S:≦0.030%、Cr:1.60~2.00%、Al:0.010~0.050%、N:50~200ppm、B:≦50ppm、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
5.8<6.4Si+2.4Cr+Mo<8.2・・・式(1)を満足し、
浸炭後の表面の硬さが700Hv以上であって、かつ、表面残留オーステナイト量が10%~20%であることを特徴とする鋼部品用浸炭鋼。
ただし、式(1)中の各元素記号には当該化学成分の含有質量%の値を代入する。 - 請求項1に記載の化学成分に加え、
選択元素としてMo:0.10~0.40%、Nb:0.02~0.10%の1種もしくは2種を含有し、
残部がFeおよび不可避不純物からなり、
5.8<6.4Si+2.4Cr+Mo<8.2・・・式(1)を満足し、
浸炭後の表面の硬さが700Hv以上であって、かつ、表面残留オーステナイト量が10%~20%であることを特徴とする鋼部品用浸炭鋼。
ただし、式(1)中の各元素記号には当該化学成分の含有質量%の値を代入する。
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