JP2022014684A - 受精卵凍結用容器および受精卵凍結保存方法 - Google Patents

受精卵凍結用容器および受精卵凍結保存方法 Download PDF

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Abstract

Figure 2022014684000001
【課題】受精卵凍結装置を用いることなく、より低コストで、実施場所が限定されることなく、かつ簡単に牛受精卵の凍結処理・保存を行える受精卵凍結用容器を提供する。
【解決手段】受精卵凍結用容器10は受精卵と凍結液を封入した受精卵ストロー20を収容して凍結処理に供するための容器であり、容器本体1と、容器本体1に収容された状態で供用されるストロー挿入管5とを備えて構成される。ストロー挿入管5は受精卵ストロー20が挿入されるためのものであり、容器本体1は冷却緩衝作用を有する媒体30を入れるためのものでもある。
【選択図】図1

Description

本発明は受精卵凍結用容器および受精卵凍結保存方法に係り、特に牛の受精卵を低コストかつ簡単に凍結保存処理することのできる、受精卵凍結用容器等に関するものである。
能力の優れた雌牛から生産された受精卵を借り腹牛へ移植することで、能力の優れた牛を数多く生産することができる。かかる優良畜の増産・改良が期待される牛受精卵移植技術の普及には受精卵の凍結保存技術が必須であり、そして凍結保存技術には専用の受精卵凍結装置が必要である。受精卵凍結装置は室温から-30℃までコンピュータ制御により徐々に冷却させる装置であるが、この機械は非常に高価であり、また、持ち運びに適さないため、作業場所は限定される。なお、受精卵移植技術による子牛生産の相当数は、専門技術を備えた開業獣医師によって行われている。
牛受精卵の凍結保存技術については従来、特許出願等もなされている。たとえば後掲特許文献1には、牛受精卵の凍結保護効果向上を目的として、脂質含量の高い牛血清アルブミンを高濃度に含む耐凍剤(エチレングリコール・プロパンダイオール・グリセリン)と受精卵を混合し、ついで常法にしたがって混合物を凍結・保存する方法、および、保存された受精卵を融解後そのまま直接受卵牛に移植する繁殖方法が開示されている。
特開平6-292484号公報「牛受精卵の凍結保存方法」
上述の通り、牛受精卵移植技術を普及する上で不可欠である凍結保存に用いる受精卵凍結装置は、非常に高価であり、しかも作業場所が限定される。したがって、受精卵移植技術に着手できない専門家(獣医師)が多い。また、出先での受精卵の凍結作業が困難であり、これらのことが受精卵移植技術普及の妨げとなっている。より低コストで、しかも実施場所が限定されることなく牛受精卵の凍結処理・保存が行えるようになれば、受精卵移植技術に着手できる獣医師が増え、また、出先での受精卵の凍結作業が容易になり、それによって牛受精卵移植技術の普及が進むものと期待される。
そこで本発明が解決しようとする課題は、受精卵凍結装置を使用するしかない従来技術の問題点を解消し、受精卵凍結装置を用いることなく、より低コストで、しかも実施場所が限定されることなく、かつ簡単に、牛受精卵の凍結処理・保存を行える技術を提供することである。
本願発明者は上記課題について検討した結果、民生品として広く普及している家庭用冷蔵庫を用い、その冷凍室内で徐々に冷却されるように構成した受精卵凍結器具を開発し、これを用いて牛受精卵の凍結保存が可能であることを見出した。そして、これに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
〔1〕 受精卵と凍結液を封入したストロー(以下「受精卵ストロー」という)を収容して凍結処理に供するための受精卵凍結用容器であって、容器本体と、該容器本体に収容された状態で供用されるストロー挿入管とを備えており、該ストロー挿入管は該受精卵ストローが挿入されるためのものであり、該容器本体は冷却緩衝作用を有する媒体を入れるためのものでもあることを特徴とする、受精卵凍結用容器。
〔2〕 前記ストロー挿入管は前記容器本体の上面部から該容器本体内に一または複数本が挿入されている形態であることを特徴とする、〔1〕に記載の受精卵凍結用容器。
〔3〕 前記ストロー挿入管は複数本挿入されている形態であり、それらの挿入箇所は前記容器本体上面部の中央を中心とする同心円上にあることを特徴とする、〔1〕、〔2〕のいずれかに記載の受精卵凍結用容器。
〔4〕 前記ストロー挿入管は複数本挿入されている形態であり、前記容器本体内においてそれらの下端部が近接するように形成されていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕のいずれかに記載の受精卵凍結用容器。
〔5〕 前記容器本体は円筒状であることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載の受精卵凍結用容器。
〔6〕 前記容器本体は、上方に開口を有する筒状容器部と該筒状容器部の開口に脱着される蓋部とからなることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載の受精卵凍結用容器。
〔7〕 家庭用冷蔵庫の冷凍庫にて使用可能であることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕のいずれかに記載の受精卵凍結用容器。
〔8〕 内部温度測定用の温度計、または該温度計を取り付けるための温度計設置部が設けられていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕のいずれかに記載の受精卵凍結用容器。
〔9〕 〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕、〔6〕、〔7〕、〔8〕のいずれかに記載の受精卵凍結用容器を用いて行う受精卵凍結保存方法であって、前記容器本体に、前記受精卵ストローが挿入された前記ストロー挿入管が収容されていて、かつ前記冷却緩衝作用を有する媒体が入れられている状態を形成する準備過程と、該準備過程を経た該受精卵凍結用容器が凍結処理に供される凍結処理過程と、からなることを特徴とする、受精卵凍結保存方法。
〔10〕 前記準備過程において、前記受精卵ストローに用いる凍結液には耐凍剤添加の血清添加緩衝液が用いられることを特徴とする、〔9〕に記載の受精卵凍結保存方法。
〔11〕 前記準備過程において、前記受精卵ストロー内に封入された受精卵含有凍結液の上に該凍結液よりも氷点の高い耐凍剤無添加の血清添加緩衝液を充填することを特徴とする、〔9〕、〔10〕のいずれかに記載の受精卵凍結保存方法。
〔12〕 前記凍結処理過程は家庭用冷蔵庫の冷凍庫を用いてなされることを特徴とする、〔9〕、〔10〕、〔11〕のいずれかに記載の受精卵凍結保存方法。
またさらに、
〔13〕 前記準備過程において、前記受精卵ストローに用いる凍結液には糖類無添加の血清添加緩衝液が用いられることを特徴とする、〔9〕、〔10〕、〔11〕、〔12〕のいずれかに記載の受精卵凍結保存方法。
本発明の受精卵凍結用容器および受精卵凍結保存方法は上述のように構成されるため、これらによれば、従来のような極めて高価かつ可搬性の低い受精卵凍結装置を用いることなく、おそらくはその500分の1~1000分の1程度の極低コストで、しかも実施場所を限定することなく、かつ簡単な操作によって、牛受精卵の凍結処理および保存を行うことができる。それにより、受精卵移植技術に着手できる獣医師を増やすことができ、また、出先での受精卵の凍結作業が容易になり、ひいては牛受精卵移植技術の普及推進に繋がることが相当程度期待できる。
本発明の受精卵凍結用容器は電源を必要とせず、しかも、民生品として広く普及している家庭用冷蔵庫の冷凍室内というコンパクトな場所に収容可能なサイズの、携帯式の受精卵凍結器具である。そして、受精卵を含む凍結液が封入されたストローを本発明容器に所定の方法でセットし、後は冷蔵庫の冷凍室内に収容するだけという極めて簡単な操作により、受精卵凍結保存処理を行うことができる。したがって、これまでは普及の進まなかった受精卵凍結技術が、本発明によって格段に導入しやすくなるため、産業上極めて有効である。
本発明受精卵凍結用容器の基本構成を概念的に示す説明図である。 図1の受精卵凍結用容器の使用状態を示す説明図である。 本発明受精卵凍結用容器のストロー挿入管配設構成例を示す上面視の説明図である。 本発明受精卵凍結用容器における受精卵ストロー冷却具合の均一性を高める別構成例を示す側断面視の説明図である。 本発明受精卵凍結用容器の構造例を示す説明図である。 実施例に係る受精卵凍結用容器の外観を示す写真図である。 本発明の受精卵凍結保存方法の構成を示すフロー図である。 本発明受精卵凍結保存方法において用いる受精卵ストローの構成を示す説明図である。 冷凍室内における携帯型受精卵凍結器の冷却速度を示すグラフである。
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明受精卵凍結用容器の基本構成を概念的に示す説明図である。また図1-2は、図1の受精卵凍結用容器の使用状態を示す説明図である。これらに図示するように本受精卵凍結用容器10は、受精卵と凍結液を封入したストロー(受精卵ストロー)20を収容して凍結処理に供するための容器であって、容器本体1と、容器本体1に収容された状態で供用されるストロー挿入管5とを備えており、ストロー挿入管5は受精卵ストロー20が挿入されるためのものであり、容器本体1は冷却緩衝作用を有する媒体30を入れるためのものでもあることを、主たる構成とする。
かかる構成により本受精卵凍結用容器10は、容器本体1内に冷却緩衝作用を有する媒体30が入れられた状態で、容器本体1に収容されている形態のストロー挿入管5内に受精卵ストロー20が挿入され、容器本体1内の冷却緩衝作用を有する媒体30(以下「冷却緩衝媒体」ともいう)による徐々の冷却作用を受精卵ストロー20が受けられる状態が形成されることによって、受精卵ストロー20を凍結処理に供するための準備が完了する。
本発明受精卵凍結用容器10を構成するストロー挿入管5は、容器本体1に固設されて一体となった形態とすることができる。一方、必要な時には容器本体1に収容された状態を形成し、不要な時には容器本体1から取り外せるよう、容器本体1に着脱可能な仕様とすることもできる。この場合は、容器本体1の上面部4にストロー挿入管5着脱用の孔を設けておけばよい。
また本発明受精卵凍結用容器10は、容器本体1内に冷却緩衝作用を有する媒体30が入れられていない状態の、容器そのものを基本的な構成とする。しかしながら、容器本体1内に冷却緩衝媒体30が入れられている状態のもの、つまり当該冷却緩衝媒体30をも構成要素とする構成であっても、本発明の範囲内である。冷却緩衝媒体30をも構成要素とする態様の本受精卵凍結用容器10では、内部の冷却緩衝媒体30の揮発や漏出を防止するための構造、たとえば不使用時におけるストロー挿入管5の受精卵ストロー20挿入端部用キャップなどを付属した構成とすることができる。なおまた、ストロー挿入管5の下端部(底部)は開放端とせずに塞がった形態とすることを標準的な仕様とすることができる。
また、冷却緩衝媒体30を構成要素とするか否かに関わらず、容器本体1はその内部に冷却緩衝媒体30を入れたり補充したりすることのできる形態とする。図4等により後述するように容器本体は、蓋部と筒状容器部とからなる構成とするのが簡易であり、また機能上も十分なものが得られる。ただし、冷却緩衝媒体30を構成要素とするか否かに関わらず、蓋部と筒状容器部の間の接合部位は、冷却緩衝媒体30の揮発や漏洩を極力無くすため、できる限り密閉可能なように形成することが望ましい。
また、冷却緩衝媒体30を構成要素とするか否かに関わらず、容器本体1はその内部に冷却緩衝媒体30を入れたり補充したりする際には、内部に気泡が残らないように行うのがよい。冷却緩衝媒体30としては、-20℃でも凍らず(凝固点が―20℃より低い)、受精卵ストロー20の凍結処理時における冷却速度を接触での熱伝導により緩やかにできるものであれば、適宜の媒体を用いることができるが、特にアルコールを好適に用いることができる。アルコールの種類は特に限定されないが、毒性がないことなどからエタノールを好適に用いることができる。
ストロー挿入管5への挿入完了によって受精卵ストロー20を凍結処理に供するための準備が完了した本受精卵凍結用容器10、すなわち凍結準備完了体50Dは、その後凍結処理に供される。凍結処理の際、受精卵ストロー20は冷却緩衝媒体30中にあるため、徐々に進む冷却作用を受け、最終的には予定の温度、つまり―20℃程度まで冷却され、冷却処理が完了する。冷却処理の完了した受精卵ストロー20は、液体窒素(-196℃)中で凍結が完了し、保存される。
最終的に受精卵を-196℃の液体窒素中で凍結保存し、生存させるためには、通常、毎分0.3~0.5℃の緩やかな速度で-30℃付近まで冷却する必要がある。従来の高価な凍結装置には、液体窒素を冷却源として制御し冷却するタイプ、アルコール層を冷却器で冷やしながら冷却していくタイプ等の方式がある。一方、本発明は、高価で携行使用の困難な装置を用いる従来方式に替え、携行可能な器具と簡易な凍結手段による方式を完成したものであり、かかる簡易な凍結手段が、家庭用冷蔵庫の冷凍室である。
すなわち本発明の受精卵凍結用容器10は、―20℃での凍結処理が可能な家庭用冷蔵庫の冷凍庫にて使用することができる。つまり、家庭用冷蔵庫の冷却機能を牛受精卵凍結保存技術に利用することができる。家庭用冷蔵庫は常時運転されているのが通常であり、したがってその冷凍室は既に-20℃程度に冷えきった状態である。ここに、容量0.25ml程度の細いプラスチック製ストロー中に受精卵が封入されている受精卵ストロー20を直接入れてしまうと、庫内温度である-20℃まで急速に冷却され、受精卵の生存性は失われてしまう。
しかし本発明容器10を用いることにより、受精卵ストロー20はその周囲を冷却緩衝媒体30によって包まれるため、急激な温度低下が防止され、緩やかに、徐々に冷却されることができ、受精卵の生存性を維持することができる。実施例に後述する通り本発明受精卵凍結用容器によれば、受精卵は冷凍庫内で徐々に冷却され、液体窒素中での凍結保存後も生存させることができる。なお、家庭用冷蔵庫はメーカーや年式によって性能が異なり、したがって冷却具合も一様ではないので、使用前に冷凍室内の温度を確認しておくことが望ましい。
図では、本受精卵凍結用容器10のストロー挿入管5は3本設けられた構成を示すが、これは概念的かつ例示的であり、容器本体1の上面部4から容器本体1内に一または複数本が挿入されている形態である。すなわち、設けられる/挿入できるストロー挿入管5の数は限定されない。しかしながら、適宜の複数本を設ける/使用できる構造とすることが望ましい。一度に凍結処理できる受精卵ストロー20の数がある程度多い方が便利だからである。
図2は、本発明受精卵凍結用容器のストロー挿入管配設構成例を示す上面視の説明図である。なお、図中右の受精卵ストロー220および左の温度計27は上面視ではない。また、後者についての説明は後述する。図示するように本受精卵凍結用容器210は、ストロー挿入管25が複数本挿入されている形態であり、それらの挿入箇所が容器本体上面部24の中央を中心とする同心円上にあることを特徴的な構成とする。また、容器本体上面部24は図示するように円形であること、すなわち容器本体の全体としては円筒状、円錐状、もしくは円錐台状とすることが望ましい。
複数の受精卵ストロー220の凍結処理に本容器210を使用する場合、それらの凍結処理は同時になされるが、それぞれの冷却具合にできるだけ差が生じないようにすることが望ましい。図示するように容器本体上面部24を円形とし、各ストロー挿入管25、25、・・・を同心円上に配設することにより、冷却具合の均一性を高めることができる。同心円の径はより小さい方が、冷却具合の均一性を高める上で望ましい。なお、図では6本のストロー挿入管25が設けられているが、この数には限定されない(以下においても同様である)。
図3は、本発明受精卵凍結用容器における受精卵ストロー冷却具合の均一性を高める別構成例を示す側断面視の説明図である。図示するように本受精卵凍結用容器310は、ストロー挿入管35は複数本挿入されている形態であって、容器本体31内においてそれらの下端部が近接するように形成されていることを、特徴的な構成とする。かかる構成とするために、容器本体上部34におけるストロー挿入管35の貫通孔を、傾斜をもって形成したり、それに加えて容器本体34内の底部に略円錐状の形状を設けたりする構造とすることができる。
かかる構成により、各ストロー挿入管35、35、・・・は容器本体31内においてより近接した配置となり、これらに挿入される各受精卵ストローの冷却具合の均一性を高めることができる。なお、図1等に示すようなストロー挿入管5等が平行配置されている場合であっても、各ストロー挿入管間の間隔をできるだけ狭くすることによって、挿入される各受精卵ストローの冷却具合の均一性を高めることが可能である。
図4は、本発明受精卵凍結用容器の構造例を示す説明図である。図示するように本例受精卵凍結用容器410は、その容器本体41が、上方に開口を有する筒状容器部42と、その開口に脱着される蓋部43とからなる構成である。筒状容器部42と蓋部43の脱着方式は適宜の方式とすることができるが、ねじ込み式が簡易であり、また使用しやすい。かかる構造により、冷却緩衝媒体(430)を内部に入れたり補充したり、あるいは洗浄にも便利である。
図5は、後述する実施例に係る受精卵凍結用容器の外観を示す写真図である。図示するように本実施例容器510は、図4に示した構造例に基づき製作されたものである。ここに示されるように本発明受精卵凍結用容器510は、温度計を取り付けるための温度計設置部58を備えた構成とすること、または内部温度測定用の温度計(図示せず)を当初から備えた構成とすることができる。前者の場合は、温度計設置部58に温度計を設置して用いる。なお、図示する例では、本容器510に受精卵ストロー520が1本挿入されていて、凍結準備完了体550Dが形成されている。
かかる構成の本発明容器510によれば、凍結処理中の受精卵ストロー520の温度をリアルタイムで測定できるため、凍結処理による目標温度に到達したか否かを容易にかつ確実に把握することができる。なお、前出図2にも、上面部24の中央に設けられた温度計設置部28に、温度計27を設置できる構成を示している。
図6は、本発明の受精卵凍結保存方法の構成を示すフロー図である。図示するように本受精卵凍結保存方法は、以上説明したいずれかの受精卵凍結用容器10等を用いて行う方法であり、容器10に、受精卵ストロー20が挿入されたストロー挿入管が収容されていて、かつ冷却緩衝作用を有する冷却緩衝媒体30が入れられている状態の凍結準備完了体50Dを形成する準備過程P1と、準備過程P1を経た受精卵凍結用容器が凍結処理に供される凍結処理過程P2とからなる。
かかる構成の本受精卵凍結保存方法によれば、まず準備過程P1において、冷却緩衝媒体30が入れられた状態の受精卵凍結用容器10に受精卵ストロー20が挿入されて凍結準備完了体50Dが形成され、ついで凍結準備完了体50Dが凍結処理過程P2に供され、最終的に冷却完了体50Zが得られる。なお、凍結処理過程P2は家庭用冷蔵庫の冷凍室を利用して行うことができ、したがって冷却完了体50Zは―20℃程度に冷却された状態となる。本発明容器10を使用することによって―20℃までの冷却過程が緩やかになされ、受精卵の生存性が良好に保持されることは上述の通りである。また、冷却完了体50Zはこの後、液体窒素を用いた凍結保存処理に供される。
図7は、本発明受精卵凍結保存方法において用いる受精卵ストローの構成を示す説明図である。準備過程P1において受精卵凍結用容器10に挿入される受精卵ストロー20では、凍結液として、耐凍剤添加の血清添加緩衝液Bを用いるものとすることができる。耐凍剤添加凍結液Bとすることで、受精卵Vの急激な氷晶形成を防止できる。
凍結液Bとしては、たとえば実施例に後述するように、10%エチレングリコール添加20%子牛血清加リン酸緩衝液(10%EG in 20%CS加PBS)を好適に用いることができる。なお、受精卵Vは当該凍結液B中に封入されるが、受精卵Vと凍結液B自体の安定的な封入のため、図に例示するように空気層Aを形成するのがよい。また、図示するように受精卵ストロー20の両端は、閉封部20iおよび綿栓部20eによって封止される。
本受精卵凍結保存方法の準備過程P1において受精卵ストロー20は、その中に封入された受精卵V含有の耐凍剤添加凍結液Bの上に、これよりも氷点の高い耐凍剤無添加の血清添加緩衝液(高氷点耐凍剤無添加緩衝液)Cを充填するものとすることができる。高氷点耐凍剤無添加緩衝液Cを設けることにより、受精卵ストロー20が凍結処理過程P2に供された際、過冷却前に氷晶が形成され、植氷作業を行うことなく受精卵Vの損傷防止効果を得ることができ、受精卵の生存性を保持することができる。
植氷とは、細胞外の氷晶形成を誘起することであり、細胞外氷晶が形成されることによって、氷晶が形成されていない液体部分の浸透圧が高まり、細胞は内部の自由水が浸出するために脱水される。浸出後の自由水はさらに氷晶を形成することになる。このような状態で緩慢な冷却を進めると、ガラス化(結晶形成を伴わない固化状態)しやすくなり、細胞の損傷が防止される。なお具体的には、液体窒素に漬けたピンセットで所望の箇所を挟む操作が、従来、植氷作業としてなされている。本発明に係る上記構成の受精卵ストロー20では、かかる植氷作業が不要である。
なお、高氷点耐凍剤無添加緩衝液Cとしては、たとえば実施例に後述するように、20%子牛血清加リン酸緩衝液(20%CS加PBS)を好適に用いることができる。
また、本発明受精卵凍結保存方法の準備過程P1において、受精卵ストロー20に用いる凍結液は糖類無添加の血清添加緩衝液とすることができる。これについては実施例で後述する。
本発明の実施例を説明するが、器具の寸法や溶液の濃度等詳細仕様を初めとして、本発明が下記実施例に限定されるものではない。なお、本発明に至った研究経過の概要説明をもって実施例とする。また、受精卵凍結用容器は「受精卵凍結器」という。
研究テーマ:家庭用冷蔵庫を用いた牛受精卵凍結保存技術の開発
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1.目的
低コストで、かつ場所を限定せずに牛受精卵を凍結するため、家庭用冷蔵庫の冷凍室を用いた牛受精卵の凍結方法を開発する。
2.試験の概要
(1)供試卵 過剰排卵処理によって得られた牛体内受精卵。
(2)携帯型受精卵凍結器の目標仕様
家庭用冷蔵庫の冷凍室内で-20℃まで冷却する際に、毎分-0.3~-0.5℃の冷却速度を実現できる素材および形状の器具を作製する。
(3)受精卵凍結液の組成
・耐凍剤(エチレングリコール;EG)濃度:6%、8.34%(1.5M)、10%(1.8M)、15%、18%
・ショ糖(suc.)濃度:0.1M
・トレハロース(Tre.)濃度:0.1M
上記濃度の試薬を用い、凍結融解後に高い生存性が得られる組み合わせを調べる。
(4)その他の準備
・エタノール:受精卵凍結器の冷却緩衝媒体。
・温度計:(おんどとり(登録商標)、(株)ティアンドデイ)、および専用の極細高感度センサ。
・受精卵ストロー用の凍結液:10%エチレングリコール添加20%子牛血清加リン酸緩衝液(10%EG in 20%CS加PBS)、20%子牛血清加PBS(20%CS加PBS)。
・0.25ml受精卵凍結用ストロー:受精卵ストロー。以下単に「ストロー」ともいう。
・家庭用冷蔵庫:2種類を試験(冷蔵庫A、冷蔵庫B)。
(5)凍結処理方法
1)受精卵凍結器は、受精卵の凍結前に冷蔵庫内で5℃程度に冷やしておく。
2)前出図7に示したように、ストロー20に受精卵Vを含む凍結液B、および20%CS加PBSを配置させて封入し、室温で15分間、受精卵と凍結液を平衡させる(20%CS加PBSの配置箇所は、図7では「C」の部位)。
3)平衡後、受精卵の入ったストローを受精卵凍結器の上面部に設けてあるストロー挿入管にセットする。
4)温度計を受精卵凍結器上面部中央に設置した温度計設置部にセットし、ストローの温度測定を準備する。
5)受精卵凍結器を冷凍庫内に設置し、凍結処理を開始する。
6)温度計が-20℃を表示したら、冷凍庫からストローを取り出し、すばやく液体窒素へ投入する。
以上により、凍結処理は終了する。
(6)評価方法
・作製した受精卵凍結器の性能。特に、内部に挿入したストローの冷却速度。
・凍結処理後、これを融解した後における、受精卵の生存率および脱出胚盤胞発生率。なお、脱出胚盤胞発生率は、透明体を脱出した胚の比率を示す。
3.結果
(1)携帯型受精卵凍結器
直径27mm、全長110mmの円柱型の蓋付きプラスチック製容器の蓋に、受精卵と凍結液を封入したストローを挿入するためのアルミニウム製管を差し込んだ形態で固定し、ストロー挿入管とした。また、内部には冷却緩衝作用を持たせるためエタノールを満たした。ストロー挿入管にアルミニウム製管を用いた理由は、熱伝導が良いこと、および金属の中で柔らかく加工しやすいことである。また、容器をプラスチック製としたのは、ストロー挿入管を蓋に通す際の穴開け等の加工が容易だからである。なお前出図5は、本実施例受精卵凍結器の外観写真である。
(2)携帯型受精卵凍結器の冷却速度
図8に、冷凍室内における携帯型受精卵凍結器の冷却速度を示すグラフを示す。作製した凍結器が-7℃から-20℃に達するまでの冷却速度は、-0.23~-0.52℃/分、平均-0.36℃/分であり、本凍結器は目標とした冷却速度-0.3~-0.5℃/分を達成できる仕様であることが確認できた。すなわち、従来の専用凍結器における冷却速度と同等の、緩慢な冷却が可能であった。なお、グラフには、試験した2種類の家庭用冷蔵庫(冷蔵庫A、冷蔵庫B)の庫内温度、および従来型の専用凍結器における冷却速度を併せて示した。
(3)凍結融解後の胚生存率
表1に、EG濃度15%以上とし、濃度0.1Mのsuc.またはTre.いずれかを添加した凍結液を受精卵ストローに用いた場合における、受精卵凍結融解後の胚生存率等を示す。その結果、これらの凍結液では溶液の氷点が低くなり、氷晶形成から-20℃までの時間が短くなった。そのため、受精卵からの脱水が進まず、凍害による損傷が確認された。その結果、胚生存率は0%であった。また、氷晶が順調に形成されず、-20℃に達しても凍結液が凍らない過冷却現象が確認された。
Figure 2022014684000002
そこで、耐凍剤無添加により氷点を高くした溶液(20%CS加PBS)をストロー上部に充填し、さらに、糖類無添加かつEG濃度を加減した凍結液により再試験を行い、凍結融解後の胚生存率等を調べた。表2に、再試験した凍結液を受精卵ストローに用いた場合における、受精卵凍結融解後の胚生存率等を示す。その結果、凍結融解後の牛受精卵の生存率および脱出胚盤胞率は、15%EGで43.8%、10%EGで51.4%、8.34%EGで57.1%、6%EGで0%であった。同様に脱出胚盤胞率は、15%EGで43.8%、10%EGで45.9%、8.34%EGで28.6%、6%EGで0%であった。また、ストロー上部に基本液層を設けることにより、冷却開始時、最初に基本液部分が凍り、過冷却を起こすことなく冷却速度に合わせてゆっくりとした氷晶形成のなされることが確認できた。
Figure 2022014684000003
従来の専用凍結器を用いた場合の胚生存率および脱出胚盤胞発生率は80~90%である。本発明受精卵凍結器を用いた場合の胚発生率等は、これと比較すれば低いとはいえ、それでも凍結液組成によっては50%近い生存率・脱出胚盤胞発生率であった。本携帯型受精卵凍結器のコストが従来の専用凍結器の500分の1~1000分の1程度という極めて低コストであり、かつ場所を選ばない携帯型であること、さらにこれら胚生存率等の若干の低さは凍結処理数量を増やすことでカバーできるため、本携帯型受精卵凍結器は十分な有用性、実用性を備えていると結論した。
4.まとめ
(1)家庭用冷蔵庫を利用して牛受精卵を凍結するため、それに適した携帯型凍結器を試作した。
(2)試作凍結器に牛受精卵をセットし、家庭用冷蔵庫の冷凍室内で凍結したところ、―20℃となるまでの冷却速度は平均-0.36℃/分であり、従来の専用の凍結器と同等の冷却速度を得られることが確認できた。
(3)受精卵ストローでは、20%CS加PBSを基本液層としてストロー上部に設け、凍結液を10%EG in 20%CS加PBSとしたところ、牛受精卵は凍害から良好に保護された。また、凍結融解後の牛受精卵の胚生存率は51.4%、脱出胚盤胞発生率は45.9%でという相当程度の高さであった。
(4)以上より、従来の専用の凍結器ではなく作製した携帯型受精卵凍結器を用い、家庭用冷蔵庫を冷却手段として、牛受精卵を凍結保存可能であり、しかも実用性を十分に備えていることが確認できた。
本発明の受精卵凍結用容器および受精卵凍結保存方法によれば、高価な受精卵凍結装置の代わりに家庭用冷蔵庫を利用し、低コストで、しかも携帯式であることにより実施場所を限定されず、かつ簡単な準備と操作によって牛受精卵の凍結処理および保存を行うことができ、牛受精卵移植技術の普及推進に繋げることができる。したがって、牛の繁殖技術分野および関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。
1、31、41…容器本体
4、24、34…上面部
5、25、35、45、55…ストロー挿入管
10、210、310、410、510…受精卵凍結用容器
20、220、420、520…受精卵ストロー
20i…閉封部
20e…綿栓部
27…温度計
28、58…温度計設置部
30、430、530…冷却緩衝作用を有する媒体(冷却緩衝媒体)
42、52…筒状容器部
43、53…蓋部
50D、450D、550D…凍結準備完了体
50Z…冷却完了体
A…空気層
B…耐凍剤添加凍結液(例.10%EG in 20%CS加PBS)
C…高氷点耐凍剤無添加緩衝液(例.20%CS加PBS)
P1…準備過程
P2…凍結処理過程
V…受精卵

Claims (12)

  1. 受精卵と凍結液を封入したストロー(以下「受精卵ストロー」という)を収容して凍結処理に供するための受精卵凍結用容器であって、
    容器本体と、
    該容器本体に収容された状態で供用されるストロー挿入管とを備えており、
    該ストロー挿入管は該受精卵ストローが挿入されるためのものであり、
    該容器本体は冷却緩衝作用を有する媒体を入れるためのものでもあることを特徴とする、受精卵凍結用容器。
  2. 前記ストロー挿入管は前記容器本体の上面部から該容器本体内に一または複数本が挿入されている形態であることを特徴とする、請求項1に記載の受精卵凍結用容器。
  3. 前記ストロー挿入管は複数本挿入されている形態であり、それらの挿入箇所は前記容器本体上面部の中央を中心とする同心円上にあることを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載の受精卵凍結用容器。
  4. 前記ストロー挿入管は複数本挿入されている形態であり、前記容器本体内においてそれらの下端部が近接するように形成されていることを特徴とする、請求項1、2、3のいずれかに記載の受精卵凍結用容器。
  5. 前記容器本体は円筒状であることを特徴とする、請求項1、2、3、4のいずれかに記載の受精卵凍結用容器。
  6. 前記容器本体は、上方に開口を有する筒状容器部と該筒状容器部の開口に脱着される蓋部とからなることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5のいずれかに記載の受精卵凍結用容器。
  7. 家庭用冷蔵庫の冷凍庫にて使用可能であることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6のいずれかに記載の受精卵凍結用容器。
  8. 内部温度測定用の温度計、または該温度計を取り付けるための温度計設置部が設けられていることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6、7のいずれかに記載の受精卵凍結用容器。
  9. 請求項1、2、3、4、5、6、7、8のいずれかに記載の受精卵凍結用容器を用いて行う受精卵凍結保存方法であって、
    前記容器本体に、前記受精卵ストローが挿入された前記ストロー挿入管が収容されていて、かつ前記冷却緩衝作用を有する媒体が入れられている状態を形成する準備過程と、
    該準備過程を経た該受精卵凍結用容器が凍結処理に供される凍結処理過程と、
    からなることを特徴とする、受精卵凍結保存方法。
  10. 前記準備過程において、前記受精卵ストローに用いる凍結液には耐凍剤添加の血清添加緩衝液が用いられることを特徴とする、請求項9に記載の受精卵凍結保存方法。
  11. 前記準備過程において、前記受精卵ストロー内に封入された受精卵含有凍結液の上に該凍結液よりも氷点の高い耐凍剤無添加の血清添加緩衝液を充填することを特徴とする、請求項9、10のいずれかに記載の受精卵凍結保存方法。
  12. 前記凍結処理過程は家庭用冷蔵庫の冷凍庫を用いてなされることを特徴とする、請求項9、10、11のいずれかに記載の受精卵凍結保存方法。

























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